説明

経口投与用リポソーム製剤およびその製造方法

【課題】本発明は、所望のpH感受性および生体に対する安全性を有する経口投与用リポソーム製剤を提供すること、および当該経口投与用リポソーム製剤の簡便かつ安価な製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】脂質で形成された小胞と該小胞内に存在する内水相とを備えたリポソームを含み、当該リポソームの内水相のpHが3以下であり、かつ当該リポソームが酸性で安定な薬物を担持している、経口投与用リポソーム製剤、ならびに、pH3以下である酸性溶液下で、脂質と酸性で安定な薬物とを懸濁することを含む、経口投与用リポソーム製剤の製造方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソームの内水相のpHが3以下であり、かつ当該リポソームが酸性で安定な薬物を担持している、経口投与用リポソーム製剤、および、当該経口投与用リポソーム製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の投与経路には、経口投与、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、直腸内投与、吸入など様々な経路がある。薬物を投与される患者にとって、乳児から高齢者に至るまで最も受け入れやすい投与経路は、経口投与である。経口投与は、侵襲が極めて小さく、比較的容易に投与することができ、自己管理あるいは家族が管理できることから、入院の必要もなく、医療経済上および医療安全上、最も有用な薬物投与経路であるといえる。
【0003】
経口投与用製剤の開発において、薬物の吸収、効果、持続時間などの薬物動態の向上を検討したものが多数なされている。経口投与の際、患者が最初に行うのは薬物を飲む行為であり、これが患者にとっての最初の障壁になりうる。薬物を飲む際の障壁としては、剤形や味が挙げられるが、特に低年齢の子供などにとっては、薬物に苦味や酸味などの不快な味は、当該薬物の経口摂取の非常に高いハードルになり、臨床的には決して無視できるものではない。
【0004】
不快な味を回避する方法(マスキング法)として、一般的には糖衣錠剤やカプセルなどの固形剤形を適用したり、糖類、合成甘味料、アミノ酸、酸味剤、香料などを添加することが行われてきた。最近では高分子ポリマー、リポソーム、リピッドスフェアなどの微小なキャリアーで薬物を包み込むことによって、様々な飲食物に混合して経口投与し、苦味や酸味などの不快な味によるデメリットを解消する試みがなされている(田畑泰彦編:遺伝子医学MOOK別冊:絵で見てわかるナノDDS−マテリアルから見た治療・診断・予後・予防、ヘルスケア技術の最先端−、株式会社メディカルドゥ、大阪市、2007)。
【0005】
微小なキャリアーとしてポリマーにより薬物をコーティングする方法が開発されている(特許文献1)。ポリマーは、多彩な機能を付与することができることから有用である。しかしながら、体内への吸収性があったとしても、あるいは非吸収性であったとしても、合成化合物としての生体の健康への影響を無視することができない。生体に対する有害性については、一般的な致死的毒性を研究するだけでなく、発癌性、生殖発生毒性、神経毒性、免疫毒性、遺伝毒性などの、遅発性の毒性については長期間の暴露研究が必要である。生体への安全性が確保されている薬物キャリアーとして、リポソームが近年研究されている。
【0006】
リポソームは生体膜の構成成分であることから、安全性が十分担保されており、臨床応用のハードルが低いことが特徴である。経口投与を目的としたリポソームの応用として、胃酸や消化管内の種々の酵素によって分解あるいは不活化されてしまう生理活性物質を封入し、消化管内での安定性を高め、バイオアベイラビリティーを増加させる、リポソーム含有経口摂取用組成物が開示されている(特許文献2)。
【0007】
またpH感受性が付与されたリポソームが開示されている(非特許文献1、特許文献3)。pH感受性が付与されたリポソームは、標的に到達した後に、環境に応じてリポソームから薬物が速やかに放出される、標的指向性を有する。かかるpH感受性リポソームは、リポソームの脂質二重膜の構成成分にpH感受性ポリマー、pH感受性脂質、膜融合性蛋白などが加えられたものである。しかし、脂質二重膜の修飾には複雑な製造過程が必要な場合が多い。また、脂質膜の構成にポリマーなどの合成化合物やタンパク質を組み込んだ場合、有害な作用を惹起する可能性がありリポソームの安全性を損なう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2007-518670号公報
【特許文献2】特開2004-359647号公報
【特許文献3】国際公開WO2005/092388号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Karanth H, Murthy RSR: pH-sensitive liposomes- principle and application in cancer therapy, J Pharm Pharmacol, 59, 469-483, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、所望のpH感受性および生体に対する安全性を有する経口投与用リポソーム製剤を提供すること、および当該経口投与用リポソーム製剤の簡便かつ安価な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、内水相がpH3以下であるリポソームが、外膜に修飾を施すことなしに所望のpH感受性を有すること、および当該リポソームが簡便かつ安価に製造可能であることに着目し、かかるリポソームに薬物を担持させることにより経口投与用製剤として利用し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.脂質で形成された小胞と該小胞内に存在する内水相とを備えたリポソームを含み、当該リポソームの内水相のpHが3以下であり、かつ当該リポソームが酸性で安定な薬物を担持している、経口投与用リポソーム製剤。
2.内水相のpHが−1以上である、前項1に記載の経口投与用リポソーム製剤。
3.リポソームが、pH7以上8以下の環境下では薬物を担持し、pHが3以下の環境下では薬物を放出する機能を有する、前項1または2に記載の経口投与用リポソーム製剤。
4.酸性で安定な薬物が、向精神薬である、前項1〜3のいずれか1に記載の経口投与用リポソーム薬剤。
5.向精神薬が、催眠鎮静薬である、前項4に記載の経口投与用リポソーム製剤。
6.小胞の外膜表面が合成化合物による修飾を有するものでない、前項1〜5のいずれか1に記載の経口投与用リポソーム製剤。
7.pH3以下である酸性溶液下で、脂質と酸性で安定な薬物とを懸濁することを含む、経口投与用リポソーム製剤の製造方法。
8.酸性溶液のpHが−1以上である、前項7に記載の製造方法。
9.酸性溶液が塩酸を含む、前項7または8に記載の製造方法。
10.(1)脂質と薬物の溶解液を準備する工程、
(2)溶解液から溶媒を除去することにより脂質の薄膜を作製する工程、
(3)酸性溶液を添加して懸濁する工程
を含む、前項7〜9のいずれか1に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の経口投与用リポソーム製剤は、酸性の程度に依存して、薬物放出率が増加するようなpH感受性を有する。このため、本発明の経口投与用リポソーム製剤に担持された薬物は、口腔内で放出されず、消化管の中で放出されることが可能であると考えられる。かかる機能により、本発明の経口投与用リポソーム製剤は、薬物の不快な味を口腔内で感じることを防ぎつつ、薬物を所望の部位に到達させることができる(マスキング)という効果を奏する。また、本発明の経口投与用リポソーム製剤は、薬物の封入効率がよく、薬物の保存安定性が良好である。さらに、本発明の経口投与用リポソーム製剤が投与された生体では、薬物をそのまま投与した場合に比べて、血中の薬物濃度が高いため、薬物動態の改善への寄与も期待される。
本発明の経口投与用リポソーム製剤の製造方法によれば、上記の効果を有する経口投与用リポソーム製剤を、簡便かつ安価に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】異なるpH環境によるミダゾラム放出率の経時的変化を示す図である。(実験例3)
【図2】脂質に対するミダゾラム混合比率のミダゾラム封入率に対する影響を示す図である。(実施例2)
【図3】ホスファチジルコリンに対するコレステロール混合比率のミダゾラム封入率に対する影響を示す図である。(実施例3)
【図4】本発明の経口投与用リポソーム製剤投与時のミダゾラムの血中濃度の推移を示す図である。(実験例4)
【図5】本発明の経口投与用リポソーム製剤投与による鎮静効果(閉眼率)を示す図である。(実験例4)
【発明を実施するための形態】
【0015】
リポソームとは、脂質で形成された脂質二重膜の小胞と該小胞内に存在する内水相とを備えたものである。特に、脂質はリン脂質を主成分とするものであり、小胞はリン脂質二重膜からなる閉鎖小胞である。リポソーム製剤は一般的に、このリポソームを担体とし、これに薬物を担持させたものである。リン脂質は、極性基と疎水性基の両者を有していることから、リポソームは脂溶性薬物のみならず水溶性薬物の保持が可能である(野島庄七、砂本順三他:リポソーム、南山堂、東京、1988)。
【0016】
本発明において薬物を担持させるリポソームは、pH3以下の内水相を含む。内水相のpHはpH3以下、好ましくはpH2以下、より好ましくはpH1以下であり、かつpH−1以上、好ましくはpH0以上、より好ましくはpH0.1以上である。内水相のpHは、リポソーム製造時に、用いる酸性溶液により調整することができる。
【0017】
また本発明のリポソームは、脂質二重膜の小胞の外膜表面が合成化合物による修飾を有するものでないことが好ましい。本発明のリポソームは、合成化合物による外膜表面の修飾がなくとも、経口投与に適したpH感受性を有し、かつ保存安定性をするものである。合成化合物とは、親水性高分子等を意味し、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリグリセリン(PG)、ポリプロピレングリコール(PPG)などが挙げられる。
【0018】
リポソームの小胞を形成する脂質は、少なくともリン脂質を主成分として含む。リン脂質は、一般的に、分子内に長鎖アルキル基より構成される疎水性基とリン酸基より構成される親水性基とを持つ両親媒性物質である。本発明で使用されるリン脂質としては、ホスファチジルコリン(PC)(=レシチン)、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、例えばジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトールなどのグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン(Sphingomyelin)などのスフィンゴリン脂質、カルジオリピン(ジホスファチジルグリセロール)、およびこれらの水素添加物等の誘導体を挙げることができ、本発明における脂質はこれらのうち少なくとも1種のリン脂質を含む。
【0019】
本発明の脂質は、本発明のリポソームを安定的に形成できるものであれば、リン脂質とともに膜成分である他の脂質またはその誘導体を含んでいてもよい。他の脂質またはその誘導体は、上記リン脂質とともに混合脂質による膜を形成することが好ましい。他の脂質またはその誘導体としては、リン酸を含まない脂質が挙げられ、例えばグリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、コレステロール(Chol)などのステロール等およびこれらの水素添加物などの誘導体を挙げることができる。リポソームは、主成分であるリン脂質とともに、他の脂質もしくはその誘導体を含む混合脂質による膜で形成されるのが好ましい。
【0020】
本発明のリポソームは、リン脂質としてホスファチジルコリン(PC)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)を含み、他の脂質としてコレステロール(Chol)を含むことが好ましい。これらの脂質の組成比は、ホスファチジルコリン100molに対して、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)が0.1mol以上、好ましくは1mol以上であり、かつ50mol以下、好ましくは20mol以下であり、より好ましくは約10molであり、コレステロール(Chol)が10mol以上、好ましくは50mol以上、より好ましくは100mol以上であり、かつ500mol以下、好ましくは200mol以下であり、より好ましくは150mol以下である。
【0021】
上記のようなリポソームには、酸性で安定な薬物を担持させることができる。好ましくはpH3以下で安定な薬物である。かかる薬物は、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子およびその類縁体、低分子化合物、ラジカルスカベンチャー、タンパク質、ペプチド、グリコサミノグリカンおよびその誘導体、オリゴ糖および多糖およびそれらの誘導体、その他の高分子化合物のいずれであってもよい。好ましくは、リポソームに封入される薬物は低分子化合物である。ここで低分子化合物とは、分子量がおよそ数百〜数千の化合物を意味し、好ましくは分子量が100〜1000の化合物を意味する。化合物には人工的に合成した合成化合物も、生物などに天然に存在する天然化合物も含まれる。
【0022】
また、薬物は薬理学的に許容される塩であってもよい。このような塩としては、例えば、無機酸(例、塩酸、硫酸、硝酸等)、有機酸(例、炭酸、重炭酸、コハク酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等)、無機塩基(例、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属等)および有機塩基化合物(例、トリエチルアミン等の有機アミン類、アルギニン等の塩基性アミノ酸類)との塩などが挙げられる。
【0023】
さらに薬物の種類としては、向精神薬、抗癌剤、抗生物質、抗炎症剤、免疫抑制剤、免疫賦活剤、抗ウイルス剤、X線造影剤、超音波診断剤などが挙げられる。向精神薬を封入することが好ましく、向精神薬には催眠鎮静薬、抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬、中枢神経刺激薬 、睡眠導入剤などが含まれる。ここで向精神薬とは、中枢神経に作用し精神機能(心の働き)に影響を及ぼす薬物の総称である。より好ましくは、鎮静催眠薬を封入することであり、催眠鎮静薬は、脳の中枢神経系を抑制し、精神神経系の働きを押さえ、不安・興奮・不眠を改善する薬剤を意味する。
【0024】
向精神薬として、バルビタール、ベンゾジアゼピン、エスタゾラム、酒石酸ゾルピデム、ラメルテオン(ロゾレム)、ミタゾラムなどの催眠鎮静薬、クロルプロマジン、ハロペリドール、リスペリドンなどの抗精神病薬、エチゾラム、ロラゼパム、クロキサゾラムなどの抗不安薬、アミトリプチリン、ミアンセリンなどの抗うつ薬、塩酸メタンフェタミン、アンフェタミン、塩酸ピプラドロールなどの中枢神経刺激薬 、ブロチゾラム、トリアゾラム、ロルメタゼパムなどの睡眠導入剤などが挙げられる。
【0025】
本発明のリポソーム製剤において担持される薬物は、苦味や酸味等の患者にとって不快な味を呈するものが好ましい。本発明におけるリポソームは、pHが14以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下であり、かつ6以上、好ましくは7以上の環境下では、薬物を実質的には放出せず、pHが3以下、好ましくは2以下、より好ましくは1以下であり、かつ−1以上、好ましくは0以上、より好ましくは0.1以上の環境下では薬物を放出し得るようなpH感受性を有するものであるからである。かかる特性により、本発明のリポソームは、口腔内では薬物を放出せず、消化管の中で薬物を放出する機能を発揮し、薬物の苦味や酸味などの不快な味をマスキングすることができる。
【0026】
薬物はその種類によっても所望担持量が異なるが、一般的には高担持率であることが望ましい。本発明のリポソーム製剤において、好ましい薬物担持量は、リポソーム膜の総脂質に対する濃度で、0.01mol薬物/mol脂質以上、好ましくは0.1mol薬物/mol脂質以上、かつ10mol薬物/mol脂質以下、好ましくは1mol薬物/mol脂質以下である。本発明において「担持」とは、本質的に、リポソームの閉鎖空間内に薬物が封入された状態を意味するが、薬物の一部を、膜内に含む状態で含んでいる状態をも包含する。
【0027】
また、本発明のリポソームは、薬物の封入率が約25%以上であり、好ましくは約50%以上、より好ましくは約80%以上である。ここで封入率とは、リポソームによる封入に供された薬物の全量に対して、リポソームに封入された薬物の量の割合を意味する。
【0028】
本発明のリポソーム製剤は、経口投与に適した、医薬的に許容される安定化剤、酸化防止剤、および/または医薬的に許容される添加物をさらに含む経口投与用組成物として提供されてもよい。経口投与用組成物は、シロップ、エリキシル、および懸濁液などの形態で提供されてもよい。
【0029】
安定化剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、またはシュクロースのような糖類が挙げられる。
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アスコルビン酸、尿酸、トコフェロール同族体(例えば、ビタミンE)が挙げられる。なお、トコフェロールには、α、β、γ、δの4個の異性体が存在するが本発明においてはいずれも使用できる。
添加物としては、水、生理食塩水、医薬的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、PBS、生体内分解性ポリマー、無血清培地、医薬添加物として許容される界面活性剤、前述した生体内で許容し得る生理的pHの緩衝液などが挙げられる。
安定化剤、酸化防止剤、および/または添加物は、上記の中から適宜選択され、あるいはそれらを組合せて使用されるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
上記経口投与用組成物の味や物性等は、患者に応じて調整することが好ましい。本発明の経口投与用リポソーム製剤は、それ自体で薬物の苦み等の不快な味をマスキングすることができるが、例えば乳児や小児など患者に対しては、さらに飲みやすくするために、当該経口投与用組成物に甘味料等を添加して提供することもできる。あるいは、嚥下障害のある患者に対しては、物性を調整して嚥下に適したとろみを当該経口投与用組成物に付与した上で、提供することができる。
【0031】
本発明のリポソーム製剤の大きさは、特に限定されないが、球状またはそれに近い形態をとる場合には、粒子外径の直径は、0.01μm以上、好ましくは0.2μm以上であり、5μm以下、好ましくは3μm以下である。
【0032】
本発明の経口投与用リポソーム製剤は、作製した後、緩衝液中、あるいは凍結乾燥した状態で保存することが好ましい。保存の温度は特に限定されないが、4℃以上40℃以下が好ましい。また保存期間は、1週間以上、好ましくは2週間以上であり、1年未満、好ましくは半年未満である。
【0033】
本発明のリポソームの製造方法は、pH3以下である酸性溶液下で、脂質と酸性で安定な薬物とを懸濁することを含むものである。酸性溶液のpHはpH3以下、好ましくはpH2以下、より好ましくはpH1以下であり、かつpH−1以上、好ましくはpH0以上、より好ましくはpH0.1以上である。pH3以下である酸性溶液の組成は、酸性であれば種類は特に限定されず、塩酸、硫酸などが例示されるが、好ましくは塩酸を含むものである。さらに好ましくは、当該酸性溶液は、0.001 M以上、好ましくは0.01 M以上、より好ましくは0.1 M以上であり、5 M以下、好ましくは1 M以下、より好ましくは1 M以下の塩酸溶液である。
【0034】
向精神薬を含む経口投与用リポソーム製剤、特に催眠鎮静薬を含む経口投与用リポソーム製剤は、例えば、局所麻酔の前に投薬して、局所麻酔と併用して用いることができる。また当該経口投与用リポソーム製剤は、例えば、全身麻酔の導入および維持のために用いることができる。例えば、不安を緩和することを目的に、画像検査、内視鏡検査などの検査や処置の前に用いることができる。本発明の経口投与用リポソーム製剤は、乳児や小児などの注射剤の適用が困難な患者に好適に投与することができる。
【0035】
本発明のリポソームの製造方法は、(1)脂質と薬物の溶解液を準備する工程(2)溶解液から溶媒を除去することにより脂質の薄膜を作製する工程(3)酸性溶液を添加して懸濁する工程を含むものであってもよいし、あるいは(1)脂質の溶解液を準備する工程(2)溶解液から溶媒を除去することにより脂質の薄膜を作製する工程(3)薬物を含む酸性溶液を添加して懸濁する工程を含むものであってもよい。
【0036】
(1)脂質と薬物の溶解液あるいは脂質の溶解液を準備する工程は、例えばフラスコなどの容器内で、リン脂質等の脂質と、所望により他の脂質を含む脂質と、リポソームに封入する薬物を、クロロホルムやメタノール等の有機溶媒により混合する工程である。有機溶媒としては、クロロホルムとメタノールの混合有機溶媒が例示される。
(2)溶解液から溶媒を除去することにより脂質の薄膜を作製する工程は、例えば有機溶媒を留去後に真空乾燥することにより、フラスコなどの容器の内壁に薄膜を形成させる工程である。
次に、(3)酸性溶液を添加して懸濁する工程は、当該フラスコ内に、pH3以下の酸性溶液を添加して懸濁することにより、リポソーム溶液を得る工程である。懸濁は、超音波洗浄機および/またはボルテックスミキサーを用いて行えばよい。リポソームの内水相のpHは、薬物に応じて適宜変更する必要があるため、酸性溶液をpH調整剤などで所望のpHに調整すればよい。
【0037】
あるいは、(1)脂質の溶解液を準備する工程は、例えばフラスコなどの容器内で、上記同様にリン脂質等の脂質をクロロホルム等の有機溶媒により混合する工程である。
(2)溶解液から溶媒を除去することにより、脂質の薄膜を作製する工程は、上記と同様である。
(3)薬物を含む酸性溶液を添加して懸濁する工程は、当該フラスコ内に、pH3以下の酸性溶液あるいは封入予定の薬物を溶解したpH3以下の酸性溶液を加えて懸濁することにより、リポソーム溶液を得る工程である。
【0038】
本発明の製造方法における脂質と薬物の比率は、総脂質に対する薬物のモル比率で、0.01mol薬物/mol脂質以上、好ましくは0.1mol薬物/mol脂質以上であり、かつ1.0mol薬物/mol脂質以下、好ましくは0.75mol薬物/mol脂質以下、より好ましくは0.25mol薬物/mol脂質以下である。
リン脂質としてホスファチジルコリンとジパルミトイルホスファチジン酸とを用い、さらに脂質としてコレステロールを用いた場合には、ホスファチジルコリンに対する薬物のモル比率は、0.1mol薬物/mol脂質以上、好ましくは0.25mol薬物/mol脂質以上であり、かつ1.5mol薬物/mol脂質以下、好ましくは1mol薬物/mol脂質以下、より好ましくは0.5mol薬物/mol脂質以下である。ホスファチジルコリンとコレステロールに対する薬物のモル比率は、0.05mol薬物/mol脂質以上、好ましくは0.125mol薬物/mol脂質以上であり、かつ0.75mol薬物/mol脂質以下、好ましくは0.5mol薬物/mol脂質以下である。
【0039】
また本発明の製造方法における、ホスファチジルコリン(PC)に対するコレステロール(Chol)の比率は、ホスファチジルコリン100molに対して、コレステロール(Chol)が10mol以上、好ましくは50mol以上、より好ましくは100mol以上であり、かつ500mol以下、好ましくは200mol以下であり、より好ましくは150mol以下である。
【0040】
得られたリポソーム溶液を遠心分離し、上清をデカンテーションして封入されていない薬物を除去して精製することにより、経口投与用リポソーム製剤を得ることができる。かかる経口投与用リポソーム製剤は、緩衝液を添加して浮遊させた状態で保存することが好ましい。緩衝液としてはいかなるものを用いてもよいが、pHが7以上8以下であることが好ましい。かかる緩衝液としては例えば、トリス−塩酸緩衝液(pH7.6)があげられる。
【0041】
経口投与用リポソーム製剤は、さらに安定化剤、酸化防止剤、添加物、甘味料等を適宜添加して、経口投与用リポソーム製剤を含む経口投与用組成物として使用してもよい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例の範囲に限定されることはない。
【0043】
(実施例1)薬物封入リポソームの作製
薬物としてミダゾラムを封入してpH感受性リポソームを作製した。
(1)脂質−ミダゾラム溶解液の作製
まず、クロロホルムとメタノール(いずれもナカライテスク株式会社、京都市)の容積比が2:1となるように混合溶媒を作製し、下記表1に記載の割合で脂質とミダゾラム(MDZ)(和光純薬工業株式会社、大阪市)を混合溶媒で溶解した脂質溶解液を作製して、脂質−ミダゾラム溶解液とした。
【表1】

ホスファチジルコリン(PC)、コレステロール(Chol)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)は、Sigma社(St Louis, USA)のものである。
【0044】
(2) ミダゾラム封入リポソーム溶液の作製
作製した脂質−ミダゾラム溶解液を25 mlナシ型フラスコに3 ml取り出し、ローターエバポレーターを用いて、45℃下で、ナシ型フラスコ内面に脂質フィルムを作製した。その後、真空ポンプを用いて、1時間吸引し、溶媒を留去した。かかる脂質フィルムの存在するナシ型フラスコに、1 M塩酸溶液(pH1.0)(ナカライテスク株式会社、京都市)を2 ml入れ、超音波洗浄機およびボルテックスミキサーを用いて攪拌し、脂質フィルムを完全に剥がし、ミダゾラムを封入したリポソームを作製した。ミダゾラムが封入されたリポソームの懸濁液から500μlを取り出し、トリス−塩酸緩衝液(ナカライテスク株式会社、京都市)7.5 mlで希釈し、ミダゾラム封入リポソーム懸濁液とした。
【0045】
(比較例1)
1 M塩酸溶液の代わりにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Amresco Inc., Ohio, USA)を用いた以外は、実施例1と同様の手法にてミダゾラム封入リポソーム懸濁液を作製した。
【0046】
(実験例1)薬物のリポソームへの封入率
ミダゾラム封入リポソーム懸濁液から取り出した検体を検体Aとした。検体Aには、リポソームに封入されているミダゾラムと封入されずに溶媒中に残存したミダゾラムの両方を含む、ミダゾラム全量が含まれている。ミダゾラム封入リポソーム懸濁液を、4℃、15,000×g、20分間遠心分離し、上清液を除去し、沈殿したリポソームをトリス−塩酸緩衝液に浮遊させ、ミダゾラム封入リポソーム溶液とし、検体Bとした。検体Bにはリポソームに封入されたミダゾラムのみが含まれている。検体Aと検体Bから100μl取り出し、それぞれ50%メタノールと内部標準物質(ジアゼパム(和光純薬工業株式会社、大阪市):100μl/mlメタノール溶液)を加え、HPLC装置(株式会社島津製作所、京都市)に50μl注入し、ミダゾラム濃度を測定した。まずミダゾラムおよびジアゼパムを含有したスタンダード溶液をHPLC装置に注入し、保持時間を決定した。定量計算はジアゼパムのピーク面積に対するミダゾラムのピーク面積の比を算出する内部標準法にて行った。HPLCで定量された値より、検体Aに対する検体Bの割合を封入率(%)として算出した。なお、HPLCの条件等は以下の通りである。
<HPLC装置>
・システムコントローラー SCL−6B
・送液ユニット LC-6A
・オートインジェクター SIL−10ADvp
・カラムオーブンCTO−6A100v
・UV−VIS検出器 SPD−10Avp
・C-R7Aplus
<HPLC条件>
・移動層:0.01Mリン酸二水素カリウム(和光純薬工業株式会社、大阪市):アセトニトリル(ナカライテスク株式会社、京都市)=67:33
・流量:1.0ml/min
・測定波長:UV214nm (AUX RAMGE 1 ATTEN 1)
・カラム温度:40℃
・カラム:TSKgel ODS−80Ts(東ソー株式会社、東京)
・ガードカラム:TSK GUARDGEL ODS−80Ts(東ソー株式会社、東京)
【0047】
本発明の1 M塩酸溶液でサスペンドした(懸濁させた)リポソーム(実施例1)と、通常の方法によるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でサスペンドした(懸濁させた)リポソーム(比較例1)との、ミダゾラムの封入率を比較した。実施例1におけるミダゾラムの封入率は86.8±3.5%であった。一方、比較例1におけるミダゾラムの封入率は、21.15±20.73 %であった(表2)。向精神薬であるミダゾラムを封入したリポソームを作製する際、中性のPBSよりも酸性の塩酸を用いた方が封入率が高く、標準偏差も小さく、安定した結果が得られることがわかった。
【表2】

【0048】
(実験例2)薬物封入リポソームの安定性
実施例1のミダゾラム封入リポソームを、トリス−塩酸緩衝液(pH7.6)に浮遊させ、4℃冷蔵保存した。ミダゾラム封入リポソーム作製直後、1週間後、及び3週間後のリポソーム中のミダゾラム量を測定して封入率を算出し、作製直後の封入率と比較した。
【0049】
ミダゾラム封入リポソームは、トリス−塩酸緩衝液中では、作製後1週間は封入率に変化はなく安定していた(表3)。本発明のリポソームは、緩衝液中で1週間安定して保存できることが判明した。
【表3】

【0050】
(実験例3)リポソームの薬物放出の機能
1 M塩酸溶液(pH1.0)、トリス−塩酸緩衝液(pH7.6)と1 M塩酸溶液を混合した溶液(pH4.0)、および、トリス−塩酸緩衝液(pH7.6)を準備した。実施例1のミダゾラム封入リポソームを、pH1.0、pH4.0もしくはpH7.6の溶液中に浮遊させ、37℃の条件下で、それぞれ浮遊直後、5分後、あるいは30分後のリポソーム中のミダゾラム量を測定し、作製時に封入されていたミダゾラムの封入量に対する放出量の割合(放出率)を算出した。
【0051】
実施例1のリポソームでは、酸性度が強くなるにつれて放出率の増加がみられ、pH1.0の溶液中では、5分後には封入されたミダゾラムの約50%が、30分後には約80%のミダゾラムが放出された(表4−6、図1)。本発明リポソームは酸性環境下で酸性の程度に依存して、薬物放出率が増加する、pH感受性機能を有していることがわかった。
【表4】

【0052】
(実施例2)
10 mMミダゾラムの混合量を、2 ml、1.5 ml、1 ml、500μl、250μlとした以外は、実施例1に記載の方法と同様にして、リポソームを作製した。
作製したリポソームについて実験例1と同様の方法でミダゾラムの封入率を確認した。
【0053】
その結果を表5、図2、表6に示す。ホスファチジルコリンに対するミダゾラムの混合モル比率が0.5、0.25のときに、80%以上と高い封入率が得られた。またホスファチジルコリンとコレステロールに対する、ミダゾラムの混合モル比率についても同様であった。
【表5】

【表6】

【0054】
(実施例3)
10 mM PCを500μl、2 mM DPAAを250μl、10 mM MDZを250μlとし、10 mM Cholを1 ml、750μl、500μl、250μlの各混合量とした以外は、実施例1に記載の方法と同様にして、リポソームを作製した。
作製したリポソームについて実験例1と同様の方法でミダゾラムの封入率を確認した。
【0055】
その結果を表7、図3に示す。ホスファチジルコリンに対するコレステロールの混合モル比率が、2、1.5、1、0.5のときに、70%以上と高い封入率が得られた。
【表7】

【0056】
(実施例4)
ミダゾラム封入リポソーム溶液を、哺乳動物への投与日の4日前に実施例1の方法で作製し、その封入率を算出した上で、ミダゾラム量として2 mg/kgを、生理食塩液を加えて全量で10 mlとなるように調整し、経口投与用リポソーム溶液を作製した。コントロールとして、リポソームに封入していないミダゾラム溶液(ミダゾラム 81.5 mgを、1 M HCl 10ml+滅菌した蒸留水 90 mlで溶解したもの)を、ミダゾラム量として2 mg/kgを、トリス−塩酸緩衝液および生理食塩液を加えて全量が10 mlとなるように調整し、経口投与用コントロール溶液を作製した。
【0057】
(実験例4)薬物封入リポソーム経口投与時の血中濃度の推移および効果(in vivo)
投与対象としてウサギを用い、実施例1で作製したミダゾラム封入リポソームを経口投与した際の、血中ミダゾラム濃度の推移および鎮静効果を、リポソームに封入しないミダゾラム溶液(コントロール)を経口投与したものとを比較検討した。
【0058】
(1)ニュージーランドホワイトウサギ(オス、10〜11週齢、2.0〜2.1kg)(日本エスエルシー株式会社、浜松市)の搬入日より10日後に、フォーレン(イソフルラン、アボットジャパン株式会社, 東京)の麻酔下にて、ウサギの鼠径部より動脈カテーテルを挿入した。カテーテル挿入後、フォーレンを中止し、鼻より6Frの胃管チューブを14cm挿入した。フォーレンを中止してから、70分以上経過してから、麻酔の作用が消失していることを確認の上、投与を開始した。経口投与用コントロール溶液10 mlもしくは経口投与用リポソーム溶液10 mlを、胃管チューブより1分かけてゆっくり投与し、生理食塩液2 mlで10秒かけて後押しした。
【0059】
(2)経口投与用リポソーム溶液投与前(フォーレン麻酔の作用消失確認後)、投与後5、10、20、30、60、90、120、180、240、300、360分後に留置した動脈カテーテルから採血をし、血漿を分離して、凍結保存した。
【0060】
血漿検体中のミダゾラム濃度の測定を以下の方法で行った。試験管に血漿500μl、生理食塩水500μl、0.1 Mリン酸二カリウム溶液1 ml、2μg/mlジアゼパム0.1 ml、ジエチルエーテル5 mlを加え、120回/分で10分間振盪後、1,400×gで10分間遠心した後、エーテル層を分取した。エーテル層に蒸留水4 mlを加え、120回/分で10分間振盪後、1,400×gで2度目の遠心を行い、エーテル層を分取した。エーテルを蒸発乾固させ、残渣にメタノール:アセトニトリル:0.01 Mリン酸二水素カリウム=2:9:9で混ぜた溶液を200μl加え、溶解した。溶解液50μlをHPLC装置に注入、実験例1で示した方法で測定した。
【0061】
(3)鎮静効果の評価
・鎮静効果の評価として、眼の開閉を観察した。採血時、つまり投与前、投与後5,10,20,30,60,90,120,180,240,300,360分後に閉眼を記録した。
【0062】
経口投与用コントロール溶液(ミダゾラム量として2 mg/kg)を経口投与した際、血中ミダゾラム濃度は12.0±4.5分後にピークとなり、457.6±130.8 ng/mlまで上昇し、その後急速に低下した。一方、作製したミダゾラム封入リポソーム溶液(ミダゾラム量として2 mg/kg)を経口投与した際の血中ミダゾラム濃度のピークは22.0±4.5分後であり、664.9±80.2 ng/mlまで上昇し、緩やかに低下した(図4)。
【0063】
経口投与用リポソーム溶液の経口投与後の鎮静効果については、投与後10〜30分で閉眼していたウサギの割合が増加し、ミダゾラムの薬理効果である鎮静効果が認められた。また、この効果は、リポソームに封入されていないミダゾラム溶液(コントロール)を経口投与したウサギと同程度であった(図5)。
【0064】
これらの結果より、本発明の経口投与用リポソーム溶液は、実際に経口投与された際、リポソームに封入されていないミダゾラム溶液と同様に、またはそれ以上に、ミダゾラムの血中濃度を上昇させることがわかった。また、経口投与用リポソームを経口投与された場合、ミダゾラムの薬理効果も認められ、臨床応用が可能であることが証明された。
【0065】
(実験例5)薬物封入リポソームの味
実施例2で作製した経口投与用リポソーム溶液を、甘味飲料水の成分等に混入して、ウサギに摂取させた時の反応を観察した。観察は、以下の評価基準に基づいて行った。
<三段階評価(投与者および評価者は投与物に対してブラインドで評価)>
「なし」:特に拒否反応なく、スムーズに摂取した。
「小」:少し避けるような様子がみられたが摂取した。
「大」:摂取時にかなり嫌がり逃避行動がみられた。
【0066】
結果を表8に示す。ネガティブコントロールである水に対して、「なし」および「小」の反応がみられ、ポジティブコントロールである「ミダゾラム溶液」が「大」であった。よって、「なし」および「小」を不快でない味であると設定した。その結果、「ミダゾラム封入リポソーム溶液」、「ミダゾラム封入リポソーム溶液+バニラエッセンス」、「ミダゾラム封入リポソーム溶液+砂糖」、「ミダゾラム封入リポソーム溶液+とろみ」が不快でない味であった。
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0067】
上述のとおり、本発明の経口投与用リポソーム製剤は、経口投与に適したpH感受性を有し、かつ薬物の封入効率、保存安定性が良好である。また、かかる経口投与用リポソーム製剤は、簡便かつ安価に作製することができる。医療の現場では、麻酔薬などの薬物を乳幼児や小児、知的障害者に投与する際には、注射よりも経口投与が受け入れられやすく、特に苦みや酸味などの不快な味のある薬物を経口投与するには、薬物をマスキングする必要がある。本発明の経口投与用リポソーム製剤は、薬物をマスキングして経口投与するのに適したものであり、余分な合成化合物などによる修飾がないためリポソームの有する安全性を最大に発揮するものであり、有用である。また、本発明の経口投与用リポソーム製剤は、簡便かつ安価に作製することができ、利用価値の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質で形成された小胞と該小胞内に存在する内水相とを備えたリポソームを含み、当該リポソームの内水相のpHが3以下であり、かつ当該リポソームが酸性で安定な薬物を担持している、経口投与用リポソーム製剤。
【請求項2】
内水相のpHが−1以上である、請求項1に記載の経口投与用リポソーム製剤。
【請求項3】
リポソームが、pH7以上8以下の環境下では薬物を担持し、pHが3以下の環境下では薬物を放出する機能を有する、請求項1または2に記載の経口投与用リポソーム製剤。
【請求項4】
酸性で安定な薬物が、向精神薬である、請求項1〜3のいずれか1に記載の経口投与用リポソーム薬剤。
【請求項5】
向精神薬が、催眠鎮静薬である、請求項4に記載の経口投与用リポソーム製剤。
【請求項6】
小胞の外膜表面が合成化合物による修飾を有するものでない、請求項1〜5のいずれか1に記載の経口投与用リポソーム製剤。
【請求項7】
pH3以下である酸性溶液下で、脂質と酸性で安定な薬物とを懸濁することを含む、経口投与用リポソーム製剤の製造方法。
【請求項8】
酸性溶液のpHが−1以上である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
酸性溶液が塩酸を含む、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
(1)脂質と薬物の溶解液を準備する工程、
(2)溶解液から溶媒を除去することにより脂質の薄膜を作製する工程、
(3)酸性溶液を添加して懸濁する工程
を含む、請求項7〜9のいずれか1に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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