説明

経口投与用医薬組成物

【課題】 効率的に製造可能であり、安定でかつ付着性を軽減したリマプロスト アルファデクスを含有する経口投与用医薬組成物を提供する。
【解決手段】 リマプロスト アルファデクスとグルカン類を凍結乾燥し、さらにグルカン類(例えば、デキストリン、デキストランまたはプルラン等)および/または賦形剤(例えば、乳糖、トレハロース等)を添加することで、安定なリマプロスト アルファデクス錠を効率的に製造することができる。さらに、医薬組成物に含有される水分の中でも、特に自由水を低減させることで、医薬組成物に含有される水分によって有効成分が分解するのを回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リマプロスト アルファデクスとグルカン類を含有してなる安定性を有し、かつ付着性を軽減した経口投与用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リマプロスト アルファデクスは末梢循環障害の予防および/または治療剤として有用であり、特に慢性疾患である閉塞性血栓血管炎や腰部脊柱管狭窄症等の症状改善に大変有用な薬剤である。リマプロスト アルファデクスは錠剤(リマプロスト アルファデクス錠)として販売されている。しかし、リマプロスト アルファデクス錠は吸湿性を有しており、水分を吸収して有効成分(リマプロスト)が分解しやすいため、現行のリマプロスト アルファデクス錠はPTP包装のうえアルミ袋に装填されており、湿度の影響を回避する密封包装形態である。
【0003】
一方、医療現場では、誤飲、誤用防止等患者の利便性を高めるため種々の製剤を一回の服用ごとにポリエチレンラミネートグラシン紙等で一包化等を行うことが多く、PTP包装から取り出した無包装状態でも、少なくとも数日から30日間程度安定な製剤が望まれている。これまでに、プロスタグランジンEまたはその誘導体のシクロデキストリン包接化合物と多糖類とを凍結乾燥することで安定な注射用プロスタグランジン製剤が製造できることが報告されている(特許文献1および特許文献2参照)。製剤では凍結乾燥による製造法およびその製剤は注射用製剤を製造するのによく用いられる手法であるが、経口用製剤を製造する方法としては、凍結乾燥法は一般的ではなく、薬物を含む基剤などを全て凍結乾燥して経口用製剤を製造するのは非効率で経済的に不利であり、現実的ではない。
【0004】
また、湿度に対して不安定な有効成分を含む医薬組成物は、水分透過性の低い包装において保存した場合でも、安定性が損なわれる場合がある。これは、水分透過性の低い包装は、外部の水分が包装内に透過されにくい一方で、医薬組成物の原料に含まれる水分や医薬組成物を製造する過程において混入する水分が包装外に放出されず、この医薬組成物内在性の水分によって有効成分が分解されてしまうことが一因であると考えられる。このような現象は、予測や予防が極めて困難であり、品質管理上大きな問題となる。
【0005】
例えば、芳香剤として用いられる炭酸ガス発泡製剤は、製剤中のわずかな水分により炭酸ガスと水を出しながら分解し、発生した炭酸ガスにより、包材が膨らんだり、さらには破裂するなどの現象が起こる危険性がある。このような不具合をさけるために、炭酸ガス発泡製剤の水分中の自由水の量を規定すればよいことが開示されている(特許文献3参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開平7−157431号公報。
【0007】
【特許文献2】特開平7−109254号公報。
【0008】
【特許文献3】特開2001−170153号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
リマプロスト アルファデクスの安定かつ製剤作業効率に優れた医薬組成物が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、必要最小限のリマプロスト アルファデクスとグルカン類を凍結乾燥し、さらにグルカン類を添加した化合物が、経済的かつ効率的に製剤化することが可能であり、さらに、安定性を担保した医薬組成物であることを見いだした。しかし、該医薬組成物はグルカン類を多量に含むため、付着性を有することが問題となった。そこで、リマプロスト アルファデクスとグルカン類を凍結乾燥し、さらにグルカン類および任意の割合の賦形剤(例えば、乳糖、トレハロースまたはトウモロコシデンプン等)を加えることによって得られたものが、安定かつ製剤作業効率に優れ、かつ付着性を軽減した優れた医薬組成物であることを見いだした。しかし同時に、該医薬組成物を水分透過性の低い包装において保存した場合、医薬組成物の原料に含まれる水分や医薬組成物を製造する過程において混入する水分が包装外に放出されず、この医薬組成物内在性の水分によって有効成分が分解されてしまうことが判明した。そこで、本発明者らは、該経口用医薬組成物中の水分、とりわけ温度や湿度の影響で容易に移動や蒸発が起こる自由水の量を低減させた医薬品は、内在性の水分によって有効成分が分解されにくくなることを初めて見いだした。すなわち、リマプロスト アルファデクスとグルカン類を凍結乾燥し、さらにグルカン類および/または任意の割合の賦形剤を含有した医薬組成物であり、その水分活性値を0.2以下に制限したものは、PTP包装のような水分を通しにくい密封包装を施し長期保存しても有効成分が水分によって分解されず、かつ無包装状態でも安定性を担保することを見いだし本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
1 (1)リマプロスト アルファデクスおよびグルカン類を含有する凍結乾燥品、ならびに(2)グルカン類および賦形剤から選択される一種以上を含有し、水分活性値が25℃において0.2以下である、安定であり、かつ付着性を軽減した経口投与用医薬組成物、
2 医薬組成物を100質量%として、グルカン類を1乃至15質量%含有する前記1記載の経口投与用医薬組成物、
3 (1)リマプロスト アルファデクスおよびグルカン類を含有する凍結乾燥品、ならびに(2)グルカン類および賦形剤を含有し、下記1乃至5から選択される1以上の特性を有する前記1記載の経口投与用医薬組成物;
1.水分活性値が25℃において0.2以下である。
2.医薬組成物を100質量%として、グルカン類を1乃至15質量%含有する。
3.医薬組成物を100質量%として、賦形剤を80乃至98.5質量%含有する。
4.密封包装で、常温、常湿で3年間保存後、リマプロストの分解生成物である17S,20−ジメチル−トランス−△−PGAの生成量が検出限界以上5%以下である。
5.素錠で、温度25℃、相対湿度75%の条件下において30日間保存後、リマプロストの分解生成物である17S,20−ジメチル−トランス−△−PGAの生成量が検出限界以上10%以下である。
4 密封包装である前記1記載の経口投与用医薬組成物、
5 錠剤である前記1記載の経口投与用医薬組成物、
6 グルカン類がデキストリン、デキストランおよびプルランから選択される1種以上である前記1記載の経口投与用医薬組成物、
7 賦形剤が、乳糖およびトウモロコシデンプンから選択される1種以上である前記1記載の経口投与用医薬組成物、
8 原薬および製剤基剤を混和した後の全体の水分活性値が25℃において0.4以下である原料を用いて製造することを特徴とする前記1記載の経口投与用医薬組成物、
9 素錠を乾燥させることで25℃における水分活性値を0.2以下にすることを特徴とする前記1記載の経口投与用医薬組成物、
10 リマプロストを約5乃至10μgを含有する医薬組成物を100質量%として、デキストランを約0.5乃至14質量%およびデキストリンを約1乃至14.5質量%を含有する前記1乃至3記載の経口用医薬組成物、
11 乳糖を約75乃至90質量%およびトウモロコシデンプンを約0.5乃至10質量%を含有する前記10記載の経口用医薬組成物に関する。
【0012】
本明細書中、リマプロストとは、下記式、
【0013】
【化1】

【0014】
で示される化合物であり、化学名は(E)−7−[(1R,2R,3R)−3−ヒドロキシ−2−[(3S,5S)−(E)−3−ヒドロキシ−5−メチル−1−ノネニル]−5−オキソシクロペンチル]−2−ヘプタン酸である。
【0015】
本明細書中、リマプロスト アルファデクスとは、下記式、
【0016】
【化2】

【0017】
で示される化合物であり、化学名は(E)−7−[(1R,2R,3R)−3−ヒドロキシ−2−[(3S,5S)−(E)−3−ヒドロキシ−5−メチル−1−ノネニル]−5−オキソシクロペンチル]−2−ヘプタン酸 α−シクロデキストリン包接化合物(Registry No.74397−12−9)である。この化合物は公知であり、公知の方法、例えば特開昭55−100360に記載された方法等によって製造することができる。
【0018】
本発明の医薬組成物中のリマプロストが分解すると、分解生成物として、下記式
【0019】
【化3】

【0020】
で示される、17S,20−ジメチル−トランス−Δ−PGA(以下、11−デオキシ体と略す。)、または、下記式
【0021】
【化4】

【0022】
で示される、17S,20−ジメチル−トランス−Δ−8−イソ−PGE(以下、8−イソ体と略す。)等が生成される。分解生成物として生成するのは主に11−デオキシ体であることが知られている。本発明の医薬組成物は大変安定であるため、加湿条件下においても、長期間、11−デオキシ体の生成量を検出限界以上約10%以下、好ましくは検出限界以上約8%以下、さらに好ましくは、検出限界以上約5%以下に抑えることができる。具体的には、例えば温度25℃、相対湿度75℃の加湿試験において、30日間の保存後の11−デオキシ体の生成量を検出限界以上約10%以下、好ましくは検出限界以上約8%以下、さらに好ましくは、検出限界以上約5%以下に抑えることができる。また、温度25℃、相対湿度60%の加湿試験においては、90日間の保存後の11−デオキシ体の生成量を検出限界以上約10%以下、好ましくは検出限界以上約8%以下、さらに好ましくは、検出限界以上約5%以下に抑えることができる。
【0023】
11−デオキシ体の生成率は、例えば、組成物中の11−デオキシ体の量をリマプロストと11−デオキシ体、8−イソ体の総量に対する割合(質量比)で示すことができる。
【0024】
11−デオキシ体の生成率は、リマプロスト並びにリマプロストの分解生成物(8−イソ体、11−デオキシ体)の定量を行い、リマプロストと分解生成物の和を100として算出することができる。
【0025】
リマプロストおよび11−デオキシ体、8−イソ体の量は、公知の分析方法(例えば、高速液体クロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ法、薄層クロマトグラフ法等)を用いて測定することができるが、特に、高速液体クロマトグラフ法を用いて測定することが好ましい。高速液体クロマトグラフ法を用いることで、リマプロストおよび11−デオキシ体、8−イソ体の量を、同一の条件で、かつ同一のサンプルを用いて高感度で測定することができる。高速液体クロマトグラフ法は、公知の方法によって行われる。
【0026】
具体的には、以下の高速液体クロマトグラフィ−(HPLC)の試験条件によって行われる。本法を用いることによって、リマプロストおよび分解生成物の量を測定し、リマプロストおよび分解生成物の比率を算出することが可能である。また、本法を用いることによって、11−デオキシ体の量が、検出限界以上約10%以下、好ましくは検出限界以上約8%以下、さらに好ましくは検出限界以上約5%以下であるか否かを判断することができる。
HPLCの試験条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:215nm);
カラム:内径約5mm、長さ10から20cmのステンレス管に3から5μmの液体クロマトグラフ用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填する;
移動相:0.02Mリン酸二水素カリウム(pH4.3)/アセトニトリル/イソプロパノール混液(9:5:2);
流量:リマプロストの保持時間が約12分になるように調整する;
内部標準溶液:テストステロンのアセトニトリル溶液(13→20000)。
【0027】
前記したように、分解生成物の量は、高速液体クロマトグラフ法以外の公知の方法によっても測定することができ、また、高速液体クロマトグラフ法であっても、別の測定条件、別の算出法(例えば、外部標準法等)を用いて評価することができる。上記の高速液体クロマトグラフ法以外の方法を用いて、11−デオキシ体の生成量が10%を超える量であっても、上記の方法を用いて、11−デオキシ体の生成量が検出限界以上約10%以下であれば、その医薬組成物は本発明に包含される。さらに、11−デオキシ体が実質測定できないものも本発明に包含される。
【0028】
本明細書中、水分活性値とは医薬組成物中に含まれる全水分中の自由水(水分は結合水と自由水に分類される。医薬組成物の構成成分と強固に結合している結合水に対し、自由水は温度や湿度の影響で容易に移動や蒸発が起こる。)の割合を意味し、医薬組成物を入れた密閉容器内の水蒸気圧とその温度における純水の蒸気圧の比で定義される。25℃における水分活性値は公知の方法を用いて容易に測定することができ、例えばアクアラブ(AQUA LAB;デカゴン社製;Cat.No.CX-3TE)等を用いて測定することができる。
【0029】
本発明の医薬組成物は、25℃における水分活性値を約0.2以下、好ましくは約0.15以下、さらに好ましくは約0.12以下に調整したものである。医薬組成物の水分活性値を約0.2以下に調整するには、(1)水分含量の低い原料を用いるか、乾燥させた原料を用いて医薬組成物を製造するか、(2)素錠を25℃において水分活性値を約0.2以下になるまで乾燥させればよい。
【0030】
ここで原料とは、医薬組成物の構成成分を指し、原薬および製剤基剤等が含まれる。原薬とは医薬組成物中の有効成分を意味し、当然のことであるが、有効成分を含有する凍結乾燥品も含まれる。本明細書中、原薬とは、例えばリマプロスト、そのα−シクロデキストリン包接化合物またはそれらを含んでなる凍結乾燥品(例えば、リマプロスト アルファデクスおよびグルカン類を含有する凍結乾燥品等)を意味する。製剤基剤とは、製剤を成型するのに必要な医薬組成物中の原薬以外の成分を意味する。本明細書中、製剤基剤としては、一般的に使用されるものであればなんでもよく、例えばグルカン類、賦形剤または添加剤等が挙げられる。25℃における水分活性値約0.2以下の医薬組成物を製造するには、原薬および製剤基剤を混和した後の水分活性値が25℃で約0.4以下であればよい。
【0031】
素錠とは、原料を打錠したものを指す。
【0032】
原料および素錠を乾燥する方法としては、例えば気体送風乾燥、減圧乾燥または加熱減圧乾燥等が挙げられる。気体送風乾燥で使用される気体としては、例えば熱風、温風、不活性ガス(例えば、酸素、窒素、アルゴン等)等が挙げられる。
【0033】
原料を乾燥する方法として好ましくは熱風乾燥、減圧乾燥または加熱減圧乾燥である。
【0034】
素錠を乾燥する方法として好ましくは減圧乾燥または加熱減圧乾燥である。
【0035】
本発明の医薬組成物は、水分透過性の低い密封包装を施すことで、高湿度条件下でも長期間保存することができる。さらに、医薬組成物の水分活性値を約0.2以下にすることで、医薬組成物中の水分による有効成分の分解を回避することができる。例えば、本発明の医薬組成物を、PTP包装で常温、常湿において3年間保存後の11−デオキシ体の生成率は、検出限界以上約5%以下である。もしくは、温度40℃、湿度75%の条件下で6ヶ月保存後(常温、常湿において3年間保存した場合に相当する。)の11−デオキシ体の生成率は、検出限界以上約5%以下である。
【0036】
水分透過性の低い密封包装は、水分を透過しにくい包装であれば何でもよく、水分の侵入を防ぐ気密包装または気体や微生物の侵入を防ぐ密封包装が含まれる。密封包装とは、例えばガラス、プラスチック、アルミ、防湿紙等の水分の侵入を防ぐ資材で構成される包装であり、例えば、瓶(ガラス瓶、プラスチック瓶等)、PTP包装またはストリップ包装等が挙げられ、好ましくは瓶またはPTP包装が挙げられる。さらに防湿性を高めるために密封包装と乾燥剤を組み合わせるか、または上記PTP包装した医薬組成物をさらにアルミピローに充填してもよい。
【0037】
PTP包装は錠剤またはカプセル剤の包装形態の一つであり、医薬品の種類に合わせてシート成形した後、そのくぼみに医薬品を充填しアルミ箔でシールする。一般には、シート用にポリ塩化ビニルが使用されているが、防湿性を高めたタイプとしてポリ塩化ビニルとポリ塩化ビニリデンを併せて用いる場合もある。防湿性に優れた資材ならいかなる資材を用いてもよく、防湿性を高めるために資材の厚さを厚くしてもよい。
【0038】
本明細書中、グルカン類とは、グルカンまたはグルカンを化学的、あるいは酵素的方法で処理したものをいう。グルカンとは、D−グルコースから構成される多糖の総称であり、α−グルカン、β−グルカンに分かれる。α−グルカンとしては、α1→4グルコシド結合を有するもの(例えばデンプン、グリコーゲン等)、α1→6グルコシド結合を有するもの(デキストラン等)、またはα1→4とα1→6グルコシド結合を有するもの(例えば、プルラン等)等が挙げられる。β−グルカンとして代表的なものとしては、例えば、β1→4グルコシド結合のセルロース等が挙げられる。グルカンを化学的、あるいは酵素的方法で処理したものとしては、例えば、デンプンを化学的、あるいは酵素的方法で処理したものであり、例えばデキストリンまたはアルファー化デンプン等が挙げられる。リマプロスト アルファデクスおよびグルカン類を含有する凍結乾燥品を製造するのに用いられるグルカン類と、例えば錠剤を製造するために添加するグルカン類は、同一または異なっていてもよい。本発明において、好ましいグルカン類としては、α−グルカンが挙げられる。さらに好ましくは、デキストラン(例えば、デキストラン、デキストラン40、デキストラン70等)、デキストリン、プルラン等が挙げられる。リマプロスト アルファデクスおよびグルカン類を含有する凍結乾燥品を製造するのに用いられるグルカン類として好ましくはデキストランが挙げられ、錠剤を製造するために添加するグルカン類として好ましくはデキストリンが挙げられる。
【0039】
本明細書中、賦形剤としては、例えば、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖、異性化乳糖、還元乳糖、ショ糖、D−マンニトール、エリスリトール、マルチトール、キシリトール、パラチノース、トレハロース、ソルビトール、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、結晶セルロース、タルク、無水ケイ酸、無水リン酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム等が挙げられる。本発明の医薬組成物は、前記の賦形剤から選択される1種以上を含有する。好ましくは、乳糖、トレハロースまたはトウモロコシデンプン等が挙げられる。さらに好ましい賦形剤は、乳糖またはトウモロコシデンプンである。
【0040】
本発明の医薬組成物は、例えばリマプロスト アルファデクスとグルカン類を溶媒(例えば水、有機溶媒(例えば、エタノール、アセトン等)等)に溶解し、常法に従って凍結乾燥し、凍結乾燥品を粉砕した後、さらにグルカン類を添加し、必要に応じて滑沢剤等の添加剤を添加することによって安定な製剤を製造することができる。しかし、グルカン類が多量に含まれた製剤は安定性に優れているものの、付着性を有するという問題が生じる。そこで、リマプロスト アルファデクスおよびグルカン類を含有する凍結乾燥品に、グルカン類および/または安定性を損なわない程度の割合で、任意の賦形剤(例えば、乳糖、トレハロースまたはトウモロコシデンプン等)を加え、必要に応じて滑沢剤等の添加剤を添加することによって、安定かつ付着性を軽減した製剤を製造することができる。経済的かつ効率的に錠剤を製造するためには、1錠剤中の凍結乾燥品の含量はできるだけ低い方が好ましく、具体的には、約5質量%以下程度が好ましい。
【0041】
本発明の医薬組成物中には、例えばリマプロストを約5乃至10μgを含有する。グルカン類の配合量は、最終製剤の質量を100%とした場合、グルカン類の配合含有率は質量%で、好ましくは約0.1%乃至99%、より好ましくは約0.5%乃至30%、さらに好ましくは、約1%乃至15%である。ここで、グルカン類の配合量とは、リマプロスト アルファデクスおよびグルカン類を含有する凍結乾燥品を製造するのに用いられるグルカン類と、錠剤を製造するために添加するグルカン類の合計量をいう。具体的には、リマプロスト アルファデクスおよびグルカン類を含有する凍結乾燥品を製造するのに用いられるグルカン類を約0.5乃至14%、好ましくは約0.5乃至5%、錠剤を製造するために添加するグルカン類を約1乃至14.5%、好ましくは約5乃至10%含有するものが好ましい。また、賦形剤の配合含有率は好ましくは約1乃至99.5%、より好ましくは約70乃至99%、さらに好ましくは約80乃至98.5%である。具体的には、トウモロコシデンプンを約0.5乃至10%、好ましくは約2.5乃至7.5%、その他の賦形剤を約75乃至90%含有するものが好ましい。
【0042】
例えば、90mg錠にリマプロストを約5乃至10μg含有する錠剤の場合、グルカン類は約0.9乃至13.5mg程度、賦形剤は約76.5乃至88.7mg程度配合される。
【0043】
例えば、100mg錠にリマプロストを約5乃至10μg含有する錠剤の場合、グルカン類は約1乃至15mg程度、賦形剤は約84乃至98.5mg程度配合される。
【0044】
例えば、200mg錠にリマプロストを約5乃至10μg含有する錠剤の場合、グルカン類は約2乃至30mg程度、賦形剤は約168乃至197mg程度配合される。
【0045】
本発明の医薬組成物としては、例えば、リマプロストを約5乃至10μgを含有する医薬組成物中、医薬組成物の質量を100%とした場合、デキストランを約0.5乃至14質量%、デキストリンを約1乃至14.5質量%、乳糖を約75乃至90質量%、トウモロコシデンプンを約0.5乃至10質量%を含有するものが好ましい。
【0046】
本発明の医薬組成物は固体製剤(例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等)であることが好ましい。さらに好ましくは錠剤(例えば、素錠、有核錠、コーティング錠、三層錠等)である。
【0047】
本発明の医薬組成物は、リマプロスト アルファデクスと、グルカン類および/または賦形剤の他に、さらに添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、固形製剤を製造する際に一般的に使用されるものであればよく、例えば、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、矯味剤、矯臭剤、界面活性剤、香料、着色剤、抗酸化剤、隠蔽剤、静電気防止剤、流動化剤、湿潤剤等を1種または2種以上適宜配合して用いることができる。
【0048】
結合剤としては、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドン、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、部分アルファー化デンプン、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、プルラン、アラビアゴム末、ゼラチン、デキストリン等が挙げられ、これらの1種あるいは2種以上適宜配合して用いてもよい。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、タルク、ポリエチレングリコール等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ヒドロキシプロピルスターチ、トウモロコシデンプン等が挙げられる。矯味剤としては、例えば白糖、D−ソルビトール、キシリトール、クエン酸、アスコルビン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、グルタミン酸ナトリウム、5’−イノシン酸ナトリウム、5’−グアニル酸ナトリウム等が挙げられる。矯臭剤としては、例えばトレハロース、リンゴ酸、マルトース、グルコン酸カリウム、アニス精油、バニラ精油、カルダモン精油等が挙げられる。界面活性剤としては、例えばポリソルベート(ポリソルベート80など)、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合物、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。香料としては、例えばレモン油、オレンジ油、メントール、はっか油等が挙げられる。着色剤としては、例えば酸化チタン、食用黄色5号、食用青色2号、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄等が挙げられる。抗酸化剤としては、例えばアスコルビン酸ナトリウム、L−システイン、亜硫酸ナトリウム、ビタミンE等が挙げられる。隠蔽剤としては、例えば酸化チタン等が挙げられる。静電気防止剤としては、例えばタルク、酸化チタン等が挙げられる。流動化剤としては、例えば軽質無水ケイ酸、タルク、含水二酸化ケイ素等が挙げられる。湿潤剤としては、例えばポリソルベート80、ラウリル酸硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、マクロゴール、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等が挙げられる。
【0049】
本発明の医薬組成物に含有される添加剤として好ましくは、例えば、軽質無水ケイ酸またはステアリン酸等が挙げられる。
【0050】
本発明製剤は公知の方法で製造することができ、例えば、転動造粒機、撹拌造粒機、流動造粒機、遠心転動造粒機、乾式造粒機等を用いて、造粒することにより顆粒を製造することができる。
【0051】
本発明製剤の固形製剤は、例えば上記方法で得られる顆粒をそのまま顆粒剤として用いることができる。また、本発明固形製剤には、上記顆粒を含有するカプセル剤も含まれる。カプセル剤は公知の方法で製造することができ、例えば前記顆粒、さらに必要に応じて添加剤を添加したものを硬カプセル(例えば、ゼラチンカプセル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセル、プルランカプセル、ポリビニルアルコール(PVA)カプセル等)にカプセル充填機を用いて充填することにより、行なうことができる。また、本発明製剤には、上記顆粒を含有する錠剤も含まれる。錠剤は公知の方法で製造することができる。例えば上記顆粒および必要に応じて添加剤を均等に混合し、回転式打錠機等によって圧縮成型して素錠を得、該素錠をそのまま錠剤にして使用してもよく、必要に応じてさらにコーティング基剤を用いて被覆してもかまわない。また、造粒を行わずに薬物等を含有する混合末を調製し、それを回転式打錠機等によって錠剤化することもできる。
【0052】
本発明の医薬組成物は、末梢循環障害、例えば閉塞性血栓血管炎または腰部脊柱管狭窄症等の治療に有用である。
【発明の効果】
【0053】
本発明によって、無包装状態、加湿下において、錠剤同士が付着することなく、かつリマプロストの分解物の生成を抑えることが可能であるため、リマプロスト アルファデクスを含有する医薬組成物を、一包化した状態で臨床に提供することが可能である。さらに、本発明のリマプロスト アルファデクスを含有する医薬組成物の水分活性値を約0.2以下にすることで、水分透過性の低い包装においても医薬組成物中の水分の影響による有効成分の分解を回避することができ、長期間保存することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下に、実施例として、製剤例および実験例を示すが、これらは本発明の理解を深めるためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1(付着実験用のグルカン類10%サンプルの製造)
デキストリンを20g、乳糖を179g、ステアリン酸を1g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより、デキストリンを10%含有する錠剤1000錠を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
デキストリン 10.0 mg
乳糖 89.5 mg
ステアリン酸 0.5 mg
計 100.0 mg
実施例2(付着実験用のグルカン類20%サンプルの製造)
デキストリンを40g、乳糖を159g、ステアリン酸を1g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより、デキストリンを20%含有する錠剤1000錠を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
デキストリン 20.0 mg
乳糖 79.5 mg
ステアリン酸 0.5 mg
計 100.0 mg
実施例3(付着実験用のグルカン類30%サンプルの製造)
デキストリンを60g、乳糖を139g、ステアリン酸を1g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより、デキストリンを30%含有する錠剤1000錠を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
デキストリン 30.0 mg
乳糖 69.5 mg
ステアリン酸 0.5 mg
計 100.0 mg
実施例4(グルカン類11%、乳糖添加錠剤の製造)
1)デキストラン体粉末の製造
デキストラン40を7g秤量し、精製水37.5gに溶解した。これに1gのリマプロスト アルファデクスを溶解した後、この液を凍結乾燥用のトレーに移し、常法に従い凍結乾燥した。凍結乾燥後、乳鉢で粉砕し、篩(42号篩)で篩過し、デキストラン体粉末を得た。
2)錠剤の製造
上記のデキストラン体粉末2.67gにデキストリンを20g、乳糖を176g、軽質無水ケイ酸を0.4g、ステアリン酸を1g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより1錠当りリマプロストを5μg含有する錠剤1000錠を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167 mg
デキストラン40(凍結乾燥用) 1.167 mg
デキストリン(添加用) 10.0 mg
乳糖 87.966 mg
軽質無水ケイ酸 0.20 mg
ステアリン酸 0.50 mg
計 100 mg
実施例5(グルカン類3%、乳糖添加錠剤の製造)
1)デキストラン体粉末の製造
デキストラン40を21g秤量し、精製水37.5gに溶解した。これに1gのリマプロスト アルファデクスを溶解した後、この液を凍結乾燥用のトレーに移し、常法に従い凍結乾燥した。凍結乾燥後、乳鉢で粉砕し、篩(42号篩)で篩過し、デキストラン体粉末を得た。
2)錠剤の製造
上記のデキストラン体粉末7gに乳糖を191.6g、軽質無水ケイ酸を0.4g、ステアリン酸を1g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより1錠当りリマプロストを5μg含有する錠剤1000錠を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167 mg
デキストラン40(凍結乾燥用) 3.34 mg
乳糖 95.793 mg
軽質無水ケイ酸 0.20 mg
ステアリン酸 0.50 mg
計 100 mg
実施例6(グルカン類13%、乳糖添加錠剤の製造)
1)デキストラン体粉末の製造
デキストラン40を21g秤量し、精製水37.5gに溶解した。これに1gのリマプロスト アルファデクスを溶解した後、この液を凍結乾燥用のトレーに移し、常法に従い凍結乾燥した。凍結乾燥後、乳鉢で粉砕し、篩(42号篩)で篩過し、デキストラン体粉末を得た。
2)錠剤の製造
上記のデキストラン体粉末7gにデキストリンを20g、乳糖を172g、ステアリン酸を1g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより1錠当りリマプロストを5μg含有する錠剤1000錠を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167 mg
デキストラン40(凍結乾燥用) 3.34 mg
デキストリン(添加用) 10.0 mg
乳糖 85.993 mg
ステアリン酸 0.50 mg
計 100 mg
実施例7(グルカン類1%、乳糖添加錠剤の製造)
1)デキストラン体粉末の製造
デキストラン40を7g秤量し、精製水37.5gに溶解した。これに1gのリマプロスト アルファデクスを溶解した後、この液を凍結乾燥用のトレーに移し、常法に従い凍結乾燥した。凍結乾燥後、乳鉢で粉砕し、篩(42号篩)で篩過し、デキストラン体粉末を得た。
2)錠剤の製造
上記のデキストラン体粉末2.67gに乳糖を196.3g、ステアリン酸を1g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより1錠当りリマプロストを5μg含有する錠剤1000錠を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167 mg
デキストラン40(凍結乾燥用) 1.167 mg
乳糖 98.166 mg
ステアリン酸 0.50 mg
計 100 mg
実施例8(グルカン類1%、トレハロース添加錠剤の製造)
1)デキストラン体粉末の製造
デキストラン40を7g秤量し、精製水37.5gに溶解した。これに1gのリマプロスト アルファデクスを溶解した後、この液を凍結乾燥用のトレーに移し、常法に従い凍結乾燥した。凍結乾燥後、乳鉢で粉砕し、篩(42号篩)で篩過し、デキストラン体粉末を得た。
2)錠剤の製造
上記のデキストラン体粉末2.67gにトレハロースを196.3g、ステアリン酸を1g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより1錠当りリマプロストを5μg含有する錠剤1000錠を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167 mg
デキストラン40(凍結乾燥用) 1.167 mg
トレハロース 98.166 mg
ステアリン酸 0.50 mg
計 100 mg
実施例9(グルカン類1%、トウモロコシデンプン添加錠剤の製造)
1)デキストラン体粉末の製造
デキストラン40を7g秤量し、精製水37.5gに溶解した。これに1gのリマプロスト アルファデクスを溶解した後、この液を凍結乾燥用のトレーに移し、常法に従い凍結乾燥した。凍結乾燥後、乳鉢で粉砕し、篩(42号篩)で篩過し、デキストラン体粉末を得た。
2)錠剤の製造
上記のデキストラン体粉末2.67gにトレハロースを156.3g、トウモロコシデンプンを40g、ステアリン酸を1g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより1錠当りリマプロストを5μg含有する錠剤1000錠を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167 mg
デキストラン40(凍結乾燥用) 1.167 mg
トレハロース 78.166 mg
トウモロコシデンプン 20 mg
ステアリン酸 0.50 mg
計 100 mg
実施例10(グルカン類98%錠の製造)
1)デキストラン体粉末の製造
デキストラン40を7g秤量し、精製水37.5gに溶解した。これに1gのリマプロスト アルファデクスを溶解した後、この液を凍結乾燥用のトレーに移し、常法に従い凍結乾燥した。凍結乾燥後、乳鉢で粉砕し、篩で篩過し、デキストラン体粉末を得た。
2)錠剤の製造
上記のデキストラン体粉末2gにデキストリンを145g、軽質無水ケイ酸を0.3g、ステアリン酸を2.25g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより1錠当りリマプロストを5μg含有する錠剤1000錠を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167mg
デキストラン40(凍結乾燥用) 1.167mg
デキストリン(添加用) 97.0 mg
軽質無水ケイ酸 0.20 mg
ステアリン酸 1.50 mg
計 100mg
実験例1:製剤の加湿下での付着性の比較
実施例1、2および3で製造した製剤を、ガラスビンに詰め、その詰めたガラスビンを開栓した状態で温度25℃、相対湿度60%、温度25℃、相対湿度75%、温度30℃、相対湿度65%、温度40℃、相対湿度75%の各条件の安定性試験装置に保存した。経時的に製剤を観察し、ガラスビンや錠剤同士の付着の有無について評価を行った。以下に付着の認められたものは「×」で、認められなかったものについては「○」で示した。
【0055】
【表1】

【0056】
以上の結果に示すように、デキストリン含量20%以上では明らかに付着が認められ、付着性を回避した製剤にするには、デキストリンの含量を20%未満にすることが好ましいことが確認された。
実験例2:製剤の加湿下での11−デオキシ体生成量の比較
実施例4、5、6、7、8、9および10で製造した製剤およびリマプロスト アルファデクス錠(オパルモン錠:比較例1)を、ガラスビンに詰め、その詰めたガラスビンを開栓した状態で温度25℃、相対湿度75%の安定性試験装置に保存した。経時的に製剤をサンプリングし、リマプロストの分解生成物(11−デオキシ体)の生成率を高速液体クロマトグラフィ(HPLC)で分析した。分解物の生成率は、リマプロストと分解物の和を100として算出した。分析結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
比較例1は、1ヵ月で20.7%の11−デオキシ体が生成したのに対し、錠剤中にグルカン類を含有した実施例4、5、6、7、8、9および10で製造した錠剤は、いずれも加湿下において大きな安定性改善効果が認められた。また、グルカン類を多量に含有する実施例10は付着性を有していたのに対し、比較的グルカン類含量の低い実施例4、5、6、7、8および9の製剤は、25℃75%1ヵ月保存しても付着性は認められなかった。これらの結果より、1錠剤中のグルカン類の量を約1〜15%の低量に抑えた製剤は、安定性を担保しかつ付着性を軽減することが示された。
実施例11
1)デキストラン体粉末の製造
デキストラン40を350g秤量し、精製水1875gに溶解した。これに50gのリマプロスト アルファデクスを溶解した後、この液を凍結乾燥用のトレーに移し、常法に従い凍結乾燥した。凍結乾燥後、篩(5号篩)で解砕したものを粉砕機で粉砕し、デキストラン体粉末を得た。
2)錠剤の製造
上記のデキストラン体粉末39.9gにデキストリンを260g、乳糖を2679g、軽質無水ケイ酸を6g、ステアリン酸を15g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより1錠当りリマプロストを5μg含有する錠剤20000錠を得た。
3)錠剤の乾燥
上記にて得られた錠剤を、60℃、0.1キロパスカル以下、2時間の条件にて乾燥し、水分活性値0.032の錠剤を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167 mg
デキストラン40(凍結乾燥用) 1.167 mg
デキストリン(添加用) 8.67 mg
乳糖 89.3 mg
軽質無水ケイ酸 0.20 mg
ステアリン酸 0.50 mg
計 100 mg
実施例12(トウモロコシデンプン2.5%製剤の製造)
1)デキストラン体粉末の製造
デキストラン40を350g秤量し、精製水1875gに溶解した。これに50gのリマプロスト アルファデクスを溶解した後、この液を凍結乾燥用のトレーに移し、常法に従い凍結乾燥した。凍結乾燥後、篩(5号篩)で解砕したものを粉砕機で粉砕し、デキストラン体粉末を得た。
2)錠剤の製造
上記のデキストラン体粉末4gにデキストリンを26g、乳糖を260.4g、トウモロコシデンプンを7.5g、軽質無水ケイ酸を0.6g、ステアリン酸を1.5g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより1錠当りリマプロストを5μg含有する錠剤2000錠を得た。
3)錠剤の乾燥
上記にて得られた錠剤を、60℃、0.1キロパスカル以下、2時間の条件にて乾燥し、水分活性値0.042の錠剤を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167 mg
デキストラン40(凍結乾燥用) 1.167 mg
デキストリン(添加用) 8.67 mg
乳糖 89.3 mg
トウモロコシデンプン 2.5 mg
軽質無水ケイ酸 0.20 mg
ステアリン酸 0.50 mg
計 100 mg
実施例13(トウモロコシデンプン5%製剤の製造)
1)デキストラン体粉末の製造
デキストラン40を350g秤量し、精製水1875gに溶解した。これに50gのリマプロスト アルファデクスを溶解した後、この液を凍結乾燥用のトレーに移し、常法に従い凍結乾燥した。凍結乾燥後、篩(5号篩)で解砕したものを粉砕機で粉砕し、デキストラン体粉末を得た。
2)錠剤の製造
上記のデキストラン体粉末4gにデキストリンを26g、乳糖を252.9g、トウモロコシデンプンを15g、軽質無水ケイ酸を0.6g、ステアリン酸を1.5g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより1錠当りリマプロストを5μg含有する錠剤2000錠を得た。
3)錠剤の乾燥
上記にて得られた錠剤を、60℃、0.1キロパスカル以下、2時間の条件にて乾燥し、水分活性値0.033の錠剤を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167 mg
デキストラン40(凍結乾燥用) 1.167 mg
デキストリン(添加用) 8.67 mg
乳糖 84.3 mg
トウモロコシデンプン 5.0 mg
軽質無水ケイ酸 0.20 mg
ステアリン酸 0.50 mg
計 100 mg
実施例14(トウモロコシデンプン7.5%製剤の製造)
1)デキストラン体粉末の製造
デキストラン40を350g秤量し、精製水1875gに溶解した。これに50gのリマプロスト アルファデクスを溶解した後、この液を凍結乾燥用のトレーに移し、常法に従い凍結乾燥した。凍結乾燥後、篩(5号篩)で解砕したものを粉砕機で粉砕し、デキストラン体粉末を得た。
2)錠剤の製造
上記のデキストラン体粉末4gにデキストリンを26g、乳糖を245.4g、トウモロコシデンプンを22.5g、軽質無水ケイ酸を0.6g、ステアリン酸を1.5g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより1錠当りリマプロストを5μg含有する錠剤2000錠を得た。
3)錠剤の乾燥
上記にて得られた錠剤を、60℃、0.1キロパスカル以下、2時間の条件にて乾燥し、水分活性値0.029の錠剤を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167 mg
デキストラン40(凍結乾燥用) 1.167 mg
デキストリン(添加用) 8.67 mg
乳糖 81.8 mg
トウモロコシデンプン 7.5 mg
軽質無水ケイ酸 0.20 mg
ステアリン酸 0.50 mg
計 100 mg
実施例15(トウモロコシデンプン10%製剤の製造)
1)デキストラン体粉末の製造
デキストラン40を350g秤量し、精製水1875gに溶解した。これに50gのリマプロスト アルファデクスを溶解した後、この液を凍結乾燥用のトレーに移し、常法に従い凍結乾燥した。凍結乾燥後、篩(5号篩)で解砕したものを粉砕機で粉砕し、デキストラン体粉末を得た。
2)錠剤の製造
上記のデキストラン体粉末13.3gにデキストリンを86.7g、乳糖を795g、トウモロコシデンプンを100g、ステアリン酸を5g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより1錠当りリマプロストを5μg含有する錠剤7000錠を得た。
3)錠剤の乾燥
上記にて得られた錠剤を、60℃、0.1キロパスカル以下、2時間の条件にて乾燥し、水分活性値0.034の錠剤を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167 mg
デキストラン40(凍結乾燥用) 1.167 mg
デキストリン(添加用) 8.67 mg
乳糖 79.5 mg
トウモロコシデンプン 10.0 mg
ステアリン酸 0.50 mg
計 100 mg
実施例16(原料乾燥による製剤の製造)
1)デキストラン体粉末の製造
デキストラン40を1050g秤量し、精製水5625gに溶解した。これに150gのリマプロスト アルファデクスを溶解した後、この液を凍結乾燥用のトレーに移し、常法に従い凍結乾燥した。凍結乾燥後、篩(5号篩)で解砕したものを粉砕機で粉砕し、デキストラン体粉末を得た。
2)原料の乾燥
乳糖、デキストリンおよびトウモロコシデンプンを、流動層乾燥装置(給気温度80℃、2時間)にて乾燥を行った。
3)錠剤の製造
上記1)のデキストラン体粉末798gに上記2)にて乾燥したデキストリンを5202g、上記2)にて乾燥した乳糖を52080g、上記2)にて乾燥したトウモロコシデンプンを1500g、軽質無水ケイ酸を120g、ステアリン酸を300g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより1錠当りリマプロストを5μg含有する、水分活性値0.105の錠剤600000錠を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167 mg
デキストラン40(凍結乾燥用) 1.167 mg
デキストリン(添加用) 8.67 mg
乳糖 89.3 mg
トウモロコシデンプン 2.5 mg
軽質無水ケイ酸 0.20 mg
ステアリン酸 0.50 mg
計 100 mg
実施例17(原料乾燥による製剤の製造)
1)デキストラン体粉末の製造
デキストラン40を1050g秤量し、精製水5625gに溶解した。これに150gのリマプロスト アルファデクスを溶解した後、この液を凍結乾燥用のトレーに移し、常法に従い凍結乾燥した。凍結乾燥後、篩(5号篩)で解砕したものを粉砕機で粉砕し、デキストラン体粉末を得た。
2)原料の乾燥
乳糖およびデキストリンを、流動層乾燥装置(給気温度80℃、2時間)にて乾燥を行った。
3)錠剤の製造
上記1)のデキストラン体粉末798gに上記2)にて乾燥したデキストリンを5202g、同じく上記2)にて乾燥した乳糖を50580g、トウモロコシデンプンを3000g、軽質無水ケイ酸を120g、ステアリン酸を300g混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、打錠圧800kg/cm2で打錠(1錠100mg、6.5mmφ)することにより、1錠当りリマプロストを5μg含有する、水分活性値0.071の錠剤600000錠を得た。
<錠剤(100mg)中の組成>
リマプロスト アルファデクス 0.167 mg
デキストラン40(凍結乾燥用) 1.167 mg
デキストリン(添加用) 8.67 mg
乳糖 84.3 mg
トウモロコシデンプン 5.0 mg
軽質無水ケイ酸 0.20 mg
ステアリン酸 0.50 mg
計 100 mg
実験例3:11−デオキシ体生成量に及ぼす水分活性値の影響
実施例11の錠剤を任意に加湿することにより水分活性値を変動させ、その錠剤を常法によりPTP包装し、それをアルミピローに充填し、気密包装化した。この包装製剤を温度60℃の安定性試験装置に保存した。経時的に製剤をサンプリングし、リマプロストの分解生成物(11−デオキシ体)の生成率を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。分解物の生成率は、リマプロストと分解物の和を100として算出した。なお、水分活性値(25℃)はアクアラブ(デカゴン社製;Cat.No.CX-3TE)で測定した。分析結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
水分活性値の上昇に伴い、60℃/1週目における11−デオキシ体の生成率も増加した。特に水分活性値0.384の場合には、11−デオキシ体の生成率が5.7%と大きな値となり、リマプロストを含む医薬品の規格限度値である5%を越える結果であった。このように水分活性値を低くすることにより、密封包装形態での安定性を改善出来ることが明らかとなった。
実験例4:60℃における11−デオキシ体生成率比較
実施例12、13、14、15、16および17の錠剤を常法によりPTP包装し、それをアルミピローに充填し、気密包装化した。この包装製剤を温度60℃の安定性試験装置に保存した。経時的に製剤をサンプリングし、リマプロストの分解生成物(11−デオキシ体)の生成率を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。分解物の生成率は、リマプロストと分解物の和を100として算出した。なお、水分活性値(25℃)はアクアラブ(デカゴン社製;Cat.No.CX-3TE)で測定した。分析結果を表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
成分および乾燥方法を変更した実施例12、13、14、15、16および17においても錠剤の水分活性値を低くすることにより、リマプロストの分解生成物(11−デオキシ体)の生成率を低く抑制することができ、密封包装形態での安定性を改善出来ることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の組成物は、湿度に大変安定であるため、どのような包装形態でも室内に保管することができ、かつ付着性もない。従って、他の製剤と一包化することが可能であり、品質劣化することなく臨床提供できるため医薬として大変有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)リマプロスト アルファデクスおよびグルカン類を含有する凍結乾燥品、ならびに(2)グルカン類および賦形剤から選択される一種以上を含有し、水分活性値が25℃において0.2以下である、安定であり、かつ付着性を軽減した経口投与用医薬組成物。
【請求項2】
医薬組成物を100質量%として、グルカン類を1乃至15質量%含有する請求項1記載の経口投与用医薬組成物。
【請求項3】
(1)リマプロスト アルファデクスおよびグルカン類を含有する凍結乾燥品、ならびに(2)グルカン類および賦形剤を含有し、下記1乃至5から選択される1以上の特性を有する請求項1記載の経口投与用医薬組成物;
1.水分活性値が25℃において0.2以下である。
2.医薬組成物を100質量%として、グルカン類を1乃至15質量%含有する。
3.医薬組成物を100質量%として、賦形剤を80乃至98.5質量%含有する。
4.密封包装で、常温、常湿で3年間保存後、リマプロストの分解生成物である17S,20−ジメチル−トランス−△−PGAの生成量が検出限界以上5%以下である。
5.素錠で、温度25℃、相対湿度75%の条件下において30日間保存後、リマプロストの分解生成物である17S,20−ジメチル−トランス−△−PGAの生成量が検出限界以上10%以下である。
【請求項4】
密封包装である請求項1記載の経口投与用医薬組成物。
【請求項5】
錠剤である請求項1記載の経口投与用医薬組成物。
【請求項6】
グルカン類がデキストリン、デキストランおよびプルランから選択される1種以上である請求項1記載の経口投与用医薬組成物。
【請求項7】
賦形剤が、乳糖およびトウモロコシデンプンから選択される1種以上である請求項1記載の経口投与用医薬組成物。
【請求項8】
原薬および製剤基剤を混和した後の全体の水分活性値が25℃において0.4以下である原料を用いて製造することを特徴とする請求項1記載の経口投与用医薬組成物。
【請求項9】
素錠を乾燥させることで25℃における水分活性値を0.2以下にすることを特徴とする請求項1記載の経口投与用医薬組成物。
【請求項10】
リマプロストを約5乃至10μgを含有する医薬組成物を100質量%として、デキストランを約0.5乃至14質量%およびデキストリンを約1乃至14.5質量%を含有する請求項1乃至3記載の経口用医薬組成物。
【請求項11】
乳糖を約75乃至90質量%およびトウモロコシデンプンを約0.5乃至10質量%を含有する請求項10記載の経口用医薬組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)リマプロスト アルファデクスおよびグルカン類を含有する凍結乾燥品、ならびに(2)賦形剤を含有し、さらにグルカン類を含有してもよく、医薬組成物を100質量%としてグルカン類の含有率が1乃至15質量%であり、25℃における水分活性値が0.2以下であり、安定で、かつ付着性の軽減された経口投与用医薬組成物。
【請求項2】
下記の1乃至3から選択される1以上の特性を有する請求項1記載の経口投与用医薬組成物:
1.医薬組成物を100質量%として、賦形剤を80乃至98.5質量%含有する。
2.密封包装で、常温、常湿で3年間保存後、リマプロストの分解生成物である17S,20−ジメチル−トランス−△2−PGA1の生成量が検出限界以上5%以下である。
3.素錠で、温度25℃、相対湿度75%の条件下において30日間保存後、リマプロストの分解生成物である17S,20−ジメチル−トランス−△2−PGA1の生成量が検出限界以上10%以下である。
【請求項3】
密封包装剤である請求項1記載の経口投与用医薬組成物。
【請求項4】
錠剤である請求項1記載の経口投与用医薬組成物。
【請求項5】
グルカン類が、デキストリン、デキストランおよびプルランから選択される1種以上である請求項1記載の経口投与用医薬組成物。
【請求項6】
賦形剤が、乳糖およびトウモロコシデンプンから選択される1種以上である請求項1記載の経口投与用医薬組成物。
【請求項7】
原薬および製剤基剤を混和した後の混和物全体の25℃における水分活性値が0.4以下である原料を用いて製造された請求項1記載の経口投与用医薬組成物。
【請求項8】
素錠を乾燥させることにより25℃における水分活性値を0.2以下とした請求項1記載の経口投与用医薬組成物。
【請求項9】
リマプロストを約5乃至10μg含有する医薬組成物を100質量%として、デキストランを約0.5乃至14質量%およびデキストリンを約1乃至14.5質量%含有する請求項1乃至3のいずれかに記載の経口投与用医薬組成物。
【請求項10】
乳糖を約75乃至90質量%およびトウモロコシデンプンを約0.5乃至10質量%含有する請求項9記載の経口投与用医薬組成物。

【公開番号】特開2006−52156(P2006−52156A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233785(P2004−233785)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【特許番号】特許第3646310号(P3646310)
【特許公報発行日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】