説明

経口投与用吸着剤の投与治療対象の検出方法、及び治療効果の判定方法

【課題】本発明の目的は、4−エチルフェニル硫酸の血液中の濃度が上昇している経口投与用吸着剤の投与を必要としている患者と、必要としていない患者とを判別する方法、すなわち経口投与用吸着剤による治療対象を検出する方法、並びに投与用吸着剤の投与によって、4−エチルフェニル硫酸の血液中の濃度が低下したか否かを判定する方法、すなわち経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果を判定する方法を提供することにある。
【解決手段】前記課題は、ヒト由来の液体試料中の4−エチルフェニル硫酸濃度を分析することを特徴とする、経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法、並びにト由来の液体試料中の4−エチルフェニル硫酸濃度を分析することを特徴とする、経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定方法によって解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法、及び経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定方法に関する。本発明によれば、血液中において、4−エチルフェニル硫酸の上昇した経口投与用吸着剤の投与対象を判定、及び経口投与用吸着剤の投与の治療効果を判定することが可能である。
【背景技術】
【0002】
腎機能や肝機能の欠損患者らは、それらの臓器機能障害に伴って、血液中等の体内に有害な毒性物質が蓄積したり生成したりするので、慢性腎臓病による尿毒症や意識障害等の脳症をひきおこす。これらの患者数は年々増加する傾向を示しているため、これら欠損臓器に代わって毒性物質を体外へ除去する機能をもつ臓器代用機器あるいは治療薬の開発が重要な課題となっている。現在、人工腎臓としては、血液透析による有毒物質の除去方式が最も普及している。
【0003】
一方、血液透析以外の治療法として、経口的な服用が可能で、腎臓や肝臓の機能障害を治療することができる経口投与用吸着剤が注目されている。例えば、特公昭62−11611号公報に記載の吸着剤は、特定の官能基を有する多孔性の球状活性炭からなり、生体に対する安全性や安定性が高く、同時に腸内での胆汁酸の存在下でも有毒物質の吸着性に優れ、しかも、消化酵素等の腸内有益成分の吸着が少ないという有益な選択吸着性を有し、また、便秘等の副作用の少ない経口投与用吸着剤として、例えば、肝腎機能障害患者に対して広く臨床的に利用されている。
【0004】
前記慢性腎臓病における尿毒症毒素としては、インドキシル硫酸、p−クレゾール硫酸、馬尿酸、フェニル硫酸、又はインドール酢酸が知られていた(非特許文献1)。これらの尿毒症物質を体内から取り除くために、前記血液透析又は経口投与用吸着剤の投与などが行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・クロマトグラフィーB(Journal of Chromatography B)」(米国)2010年、第878巻、p.2997〜3002
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・マススペクトロメトリー(Journal of Mass Spectrometry)」(英国)2004年、第39巻、p.655〜664
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記非特許文献1には、4−エチルフェニル硫酸が、腎摘出の腎不全モデルラットの血液中で上昇することが記載されている(非特許文献1)。また、カドミウム由来の腎不全モデルラットの血液中においても、4−エチルフェニル硫酸が上昇することが報告されている(非特許文献2)。しかしながら、4−エチルフェニル硫酸が、ヒトの細胞に対して毒性を示すことは報告されていなかった。本発明者らは、尿毒症の原因物質として、4−エチルフェニル硫酸に着目し、その細胞に対する毒性について検討した。その結果、4−エチルフェニル硫酸が、腎細胞に毒性を示すことを見出した。更に、4−エチルフェニル硫酸のヒトの血液中の濃度について検討したところ、個体によってバラツキが大きく、例えば腎臓病の患者でも、4−エチルフェニル硫酸の濃度が高い患者と、健常人と同程度の患者がいることを見出した。また、透析患者においては、血液中の4−エチルフェニル硫酸が、透析により除去されず、4−エチルフェニル硫酸の濃度を低下させることはできなかった。なお、4−エチルフェニル硫酸のヒトの血液中の濃度は、球状活性炭を含む経口投与用吸着剤によって、減少させることができる。
従って、本発明の目的は、4−エチルフェニル硫酸の血液中の濃度が上昇している経口投与用吸着剤の投与を必要としている患者と、必要としていない患者とを判別する方法、すなわち経口投与用吸着剤による治療対象を検出する方法を提供することである。
更に、本発明の目的は、投与用吸着剤の投与によって、4−エチルフェニル硫酸の血液中の濃度が低下したか否かを判定する方法、すなわち経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果を判定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、4−エチルフェニル硫酸の細胞毒性について、鋭意研究した結果、腎細胞に毒性を示すことを見出した。前記のように、4−エチルフェニル硫酸のヒトの血液中の濃度は、個人によってバラツキがある。また、血液透析によって、4−エチルフェニル硫酸が除去されないことから、4−エチルフェニル硫酸の血液中の濃度が高い患者には、球状活性炭を含む経口投与用吸着剤を投与する必要があることを見出した。
更に、本発明者らは、4−エチルフェニル硫酸が、血管内皮細胞にも、毒性を示すことを見出した。従って、4−エチルフェニル硫酸の血液中の濃度が高い患者は、血管内皮細胞への障害を介して、心血管疾患を発症する可能性があり、それを予防するために、経口投与用吸着剤の投与が有効である。そして、投与対象を判別するために、ヒトの血液中の4−エチルフェニル硫酸の濃度を測定することは有用である。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]ヒト由来の液体試料中の4−エチルフェニル硫酸濃度を分析することを特徴とする、経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法、
[2]前記投与対象が慢性腎臓病患者である、[1]に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法、
[3]前記慢性腎臓病患者が透析治療患者である、[2]に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法、
[4]前記投与対象が心血管疾患患者である、[1]に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法、
[5]ヒト由来の液体試料中の4−エチルフェニル硫酸濃度を分析することを特徴とする、経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定方法、
[6]投与対象が慢性腎臓病患者である、[5]に記載の治療効果の判定方法、
[7]前記慢性腎臓病患者が透析治療患者である、[6]に記載の治療効果の判定方法、
[8]前記投与対象が心血管疾患患者である、[5]に記載の治療効果の判定方法、
[9]4−エチルフェニル硫酸を含むことを特徴とする、経口投与用吸着剤の投与対象の検出キット、
[10]前記投与対象が慢性腎臓病患者である、[9]に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出キット、
[11]前記慢性腎臓病患者が透析治療患者である、[10]に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出キット、
[12]前記投与対象が心血管疾患患者である、[9]に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出キット、
[13]4−エチルフェニル硫酸を含むことを特徴とする、経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定キット、
[14]前記投与対象が慢性腎臓病患者である、[13]に記載の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定キット、
[15]前記慢性腎臓病患者が透析治療患者である、[14]に記載の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定キット、
[16]前記投与対象が心血管疾患患者である、[13]に記載の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定キット、
[17]4−エチルフェニル硫酸を含む、経口投与用吸着剤の投与対象の検出マーカー、
[18]前記投与対象が慢性腎臓病患者である、[17]に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出マーカー、
[19]前記慢性腎臓病患者が透析治療患者である、[18]に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出マーカー、
[20]前記投与対象が心血管疾患患者である、[17]に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出マーカー、
[21]4−エチルフェニル硫酸を含む、経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定マーカー、
[22]前記投与対象が慢性腎臓病患者である、[21]に記載の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定マーカー、
[23]前記慢性腎臓病患者が透析治療患者である、[22]に記載の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定マーカー、及び
[24]前記投与対象が心血管疾患患者である、[21]に記載の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定マーカー、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の経口投与用吸着剤の投与治療対象の検出方法によれば、4−エチルフェニル硫酸の血液中の濃度を分析することによって、経口投与用吸着剤を投与すべき対象を判別することができる。更に、4−エチルフェニル硫酸の血液濃度の分析は、経口投与用吸着剤の治療効果の判定に用いることができる。4−エチルフェニル硫酸は、尿毒症毒素であり、また心血管疾患との関連性がある。従って、4−エチルフェニル硫酸の血液濃度の分析は、慢性腎臓病の治療マーカー、又は心血管疾患の治療マーカーとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】4−エチルフェニル硫酸による細胞増殖の抑制効果を示したグラフである。コントロールとして、4−エチルフェニル硫酸による細胞増殖の抑制効果を示す。
【図2】健常人、並びに血液透析患者の透析前及び透析後の血液中の4−エチルフェニル硫酸の濃度をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法
本発明の経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法は、ヒト由来の液体試料中の4−エチルフェニル硫酸濃度を分析することを特徴とする。
【0012】
(4−エチルフェニル硫酸)
4−エチルフェニル硫酸(以下、4EtPhSと称することがある)は、4−エチルフェノールが、体内(肝臓)において硫酸エステル化されたものであり、式(1)
【化1】

で表される化合物である。4−エチルフェニル硫酸は、腎臓細胞(LLC−PK1細胞)に対して、増殖阻害活性を示す。また、血管内皮細胞に対しても、障害活性を示す。
【0013】
(4−エチルフェニル硫酸の分析方法)
4−エチルフェニル硫酸の分析方法は、血液中の濃度を分析可能な方法であれば、特に限定されるものではないが、ガスクロマトグラフィーを用いる方法、高速液体クロマトグラフィーを用いる方法、及び質量分析法、又は免疫学的分析法などを用いることができ、特には、質量分析法が好ましい。
【0014】
質量分析法は、特に限定されるものではないが、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いる質量分析法、ガスクロマトクラフィー(GC)を用いる質量分析法、及びキャピラリー電気泳動(CE)を用いる質量分析法(以下、CE−MS法と称する)を挙げることができ、特には、LC/MS法の1つである液体クロマトグラフィー質量分析法(以下、LC−MS/MS法と称する)が好ましい。
【0015】
前記LC−MS/MS法における、高速液体クロマトグラフィー(LC)に用いることのできるカラムとしては、逆相クロマトグラフィーカラムが好ましい。逆相クロマトグラフィーカラムとしては、オクタデシルシリル化シリカゲル(ODS)系カラムが好ましく、例えばShim−Pack VP−ODS(島津製作所)、又はAtlantis dC18(日本ウォーターズ)を挙げることができる。
【0016】
高速液体クロマトグラフィー(LC)に用いる移動相は、質量分析に用いることができれば特に限定されるものではないが、揮発性緩衝系の移動相を用いることができ、例えば、酢酸緩衝液としては、酢酸アンモニウム水溶液、又はギ酸アンモニウムを挙げることができる。
【0017】
移動相の流速は特に限定されるものではないが、例えば、0.2mL/minで行うことができる。
【0018】
前記LC−MS/MS法における4−エチルフェニル硫酸のイオン化法としては、例えば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、サーモスプレーイオン化(TSP)、パーティクルビーム法(PB)、大気圧光イオン化法(APPI)及び連続フロー高速原子衝撃(CF−FAB)を挙げることができる。この中でもESIが好ましい。
【0019】
免疫学的分析法としては、4−エチルフェニル硫酸に結合する抗体を用いるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ラテックス凝集免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫沈降法、免疫組織染色法、又はウエスタンブロットによって行うことができるが、酵素免疫測定法、化学発光免疫測定法、又は放射免疫測定法の原理を用いたサンドイッチ法が好ましい。
【0020】
ヒト由来の液体試料は、4−エチルフェニル硫酸が含まれる可能性のある試料であれば特に限定されるものではなく、例えば、血液、血漿、血清、リンパ液、組織液、唾液、尿、涙、汗などを挙げることができるが、特には血清又は血漿が好ましい。ヒトの血漿を生体試料として用いる場合は、血液を血液凝固剤(例えば、EDTA)の入った採血管で採血し、遠心分離により血球成分を除いて、用いることができる。
なお、ネコ又はイヌの4−エチルフェニル硫酸による尿毒症の治療を目的として、経口投与用吸着剤を投与する場合は、ネコ又はイヌ由来の液体試料を用いることもできる。
【0021】
(投与対象)
経口投与用吸着剤の投与対象は、液体試料中の4−エチルフェニル硫酸の濃度が高い患者であれば、特に限定されるものではない。すなわち、4−エチルフェニル硫酸の液体試料中の濃度が高いすべての患者を、経口投与用吸着剤の投与対象とすることができる。具体的には、限定されるものではないが、経口投与用吸着剤の投与対象として、慢性腎臓病患者、又は心血管疾患患者を挙げることができる。
【0022】
(慢性腎臓病患者)
本発明の経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法は、慢性腎臓病患者において、特に有用である。
4−エチルフェニル硫酸は、実施例で示すように、腎臓細胞に対する細胞増殖抑制効果を有している。すなわち、慢性腎臓病患者における尿毒症毒素の1つである。しかしながら、慢性腎臓病患者における血液中の4−エチルフェニル硫酸の濃度は、0.000〜0.1552mg/dLの広い範囲に分布している。血液中の4−エチルフェニル硫酸の濃度の低い患者は、治療の必要がない可能性が高く、4−エチルフェニル硫酸の濃度を測定し、治療の必要な患者と、治療の必要のない患者を判定することは有用である。
【0023】
更に、4−エチルフェニル硫酸は、血液透析によって、ほとんど除去することができない。一方、経口投与用吸着剤の投与によって、血液中の4−エチルフェニル硫酸の濃度は、劇的に減少する。従って、血液透析を行っている患者において、血液中の4−エチルフェニル硫酸の濃度を測定し、濃度の高い患者において経口投与用吸着剤の投与の判定を行うことは、有用である。
【0024】
(心血管疾患患者)
本発明の経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法は、心血管疾患患者において、特に有効である。例えば、心血管疾患である動脈硬化症は、脂質異常症、肥満、糖尿病、高血圧、喫煙、インシュリン抵抗性、高ホモシステイン血症、運動不足、慢性腎不全、又はストレスなどの危険因子が単独で、又はそれらの組み合わせによって発症すると考えられる。具体的には、それぞれの危険因子において、血管内皮を障害する物質が存在すると考えられており、例えば、高血圧の場合はアンジオテンシンIIが、脂質異常症の場合は酸化LDLコレステロールが、肥満の場合はTNF−αが、そして糖尿病の場合はフリーラジカルが、血管内皮の傷害を引き起こす物質であると考えられている。
4−エチルフェニル硫酸は、血管内皮細胞に対して毒性を示すことから、心血管疾患患者における血管内皮の傷害を引き起こす物質であると考えられる。従って、ヒト由来の液体試料中の4−エチルフェニル硫酸濃度を分析し、4−エチルフェニル硫酸濃度の高い患者に対する、経口投与用吸着剤の投与の判定を行うことは有用である。
【0025】
(健常人)
一般的に、健常人は経口投与用吸着剤の投与対象には含まれない。但し、本願明細書において、健常人とは血液中の4−エチルフェニル硫酸の濃度が低いヒトを意味し、4−エチルフェニル硫酸の濃度が高く、障害を起こしている患者は含まれない。
【0026】
(経口投与用吸着剤投与の判定基準)
経口投与用吸着剤は、4−エチルフェニル硫酸の血液中の濃度が高い患者に対して、投与されるものであり、経口投与用吸着剤投与の判定基準は、医師の判断に従えばよく特に限定されるものではないが、例えば制御された臨床試験により決定されることが好ましい。
具体的な判定基準としては、例えば、健常者の平均値を超える血液濃度の患者に経口投与用吸着剤の投与の判断を行うことも可能であるし、健常者の90%が含まれる範囲の上限値を超える血液濃度の患者に経口投与用吸着剤の投与の判断を行うことも可能である。更に、平均値±SD、平均値±2SD、若しくは平均値±3SD、又は平均値±SE、平均値±2SE、若しくは平均値±3SEを目安として、経口投与用吸着剤の投与の判断を行うこともできる。
例えば、後述の実施例においては、健常者の8人のうち、0.0237mg/dLの高い値を示した1人を除く、7人の0.0000〜0.0042mg/dLを健常人の範囲と便宜的に仮定し、0.0042mg/dLを超える患者を、4−エチルフェニル硫酸の高い患者であると判断した。
【0027】
(経口投与用吸着剤)
本発明の経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法によって、対象と判定された患者に対して投与される経口投与用吸着剤は、4−エチルフェニル硫酸を吸着することができる限りにおいて、特に限定されるものではないが、医療用に使用することが可能な球状活性炭、すなわち、医療用に内服使用することが可能な経口投与用球状活性炭を含むものが好ましい。
【0028】
前記球状活性炭の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、0.02〜1mmが好ましく、0.03〜0.90mmがより好ましく、0.05〜0.80mmが更に好ましい。また、前記球状活性炭の粒径(直径)の範囲は、0.01〜2mmであることが好ましく、0.02〜1.5mmであることがより好ましく、0.03〜1mmであることが更に好ましい。「球状活性炭」とは、比表面積が100m/g以上であるものを意味するが、本発明に用いる球状活性炭の比表面積は500m/g以上が好ましく、700m/g以上がより好ましく、1300m/g以上が更に好ましく、1650m/g以上が特に好ましい。
より具体的には、例えば、特開平11−292770号公報、特開2002−308785号公報(特許第3522708号公報)、WO2004/39381号公報、WO2004/39380号公報、特開2005−314415号公報、特開2005−314416号公報、特開2004−244414号公報、特開2007−197338号公報、及び特開2008−303193号公報に記載の球状活性炭を挙げることができる。
【0029】
2.経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定方法
本発明の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定方法は、ヒト由来の液体試料中の4−エチルフェニル硫酸濃度を分析することを特徴とする。ヒトの体液例えば血液中の4−エチルフェニル硫酸の濃度は、経口投与用吸着剤の投与により、減少する。しかしながら、4−エチルフェニル硫酸濃度の減少の程度は、ヒトにより異なるため、4−エチルフェニル硫酸の濃度を測定することにより、経口投与用吸着剤の投与の効果を判定することが可能である。
【0030】
本発明の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定方法においては、前記の経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法における「4−エチルフェニル硫酸の分析方法」を用いることができる。
【0031】
更に、治療対象は、体液試料中の4−エチルフェニル硫酸が高い患者であれば、特に限定されるものではないが、慢性腎臓病患者(特には、透析治療患者)、又は心血管疾患患者を挙げることができる。
【0032】
3.経口投与用吸着剤の投与対象の検出キット及び経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定キット
本発明の経口投与用吸着剤の投与対象の検出キットは、4−エチルフェニル硫酸を含むことを特徴とするものであり、前記経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法に用いることができる。
4−エチルフェニル硫酸は、特に限定されるものはないが、4−エチルフェニル硫酸の分析において、標準物質として含まれてもよい。すなわち、ガスクロマトグラフィーを用いる方法、高速液体クロマトグラフィーを用いる方法、及び質量分析法、又は免疫学的分析法において、検体中の分析される4−エチルフェニル硫酸の標準物質として使用されることができる。
【0033】
また、前記4−エチルフェニル硫酸の分析が免疫学的分析法の場合は、経口投与用吸着剤の投与対象の検出キットは、4−エチルフェニル硫酸に対する抗体(例えば、モノクローナル抗体、若しくはポリクローナル抗体、又はその抗原結合性断片)を含むことができる。抗体を含むことによって、ラテックス凝集免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫沈降法、免疫組織染色法、又はウエスタンブロットを行うことができる。
【0034】
また、本発明の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定キットは4−エチルフェニル硫酸を含むことを特徴とするものであり、前記経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定方法に用いることができる。
また、本発明の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定キットは、前記経口投与用吸着剤の投与対象の検出キットと同じ構成とすることができる。
【0035】
本発明の検出キット又は判定キットは、経口投与用吸着剤の投与対象の検出用である旨、又は経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定用である旨を明記した使用説明書を含むことができる。経口投与用吸着剤の投与対象の検出用又は経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定用である旨の記載は、分析キットの容器に付されていてもよい。
【0036】
4.経口投与用吸着剤の投与対象の検出マーカー及び経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定マーカー
本発明の経口投与用吸着剤の投与対象の検出マーカーは、4−エチルフェニル硫酸を含むか、又は4−エチルフェニル硫酸からなるものである。本発明の検出マーカーを用いることにより、経口投与用吸着剤の投与対象の検出を行うことができる。従って、経口投与用吸着剤の投与対象の検出マーカーは、前記経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法に用いることができる。
本発明の検出マーカーの濃度が生体内で上昇している場合、経口投与用吸着剤の投与を行うことが望ましい。
【0037】
本発明の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定マーカーは、4−エチルフェニル硫酸を含むか、又は4−エチルフェニル硫酸からなるものである。本発明の判定マーカーを用いることにより、経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定を行うことができる。従って、経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定マーカーは、前記経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定方法に用いることができる。
本発明の判定マーカーの濃度が生体内で上昇している場合、経口投与用吸着剤の投与を継続することが望ましく、判定マーカーの濃度が生体内で低下している場合は、治療の継続の要否について、医師が判断する材料とすることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0039】
《参考例1:4−エチルフェニル硫酸の腎臓細胞に対する細胞増殖抑制》
本参考例では、腎臓細胞株LLC−PK1を用いて、4−エチルフェニル硫酸の細胞毒性を検討した。
LLC−PK1細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)添加Medium199(M199)を用いて、75mLフラスコを用いて培養した。トリプシン処理により、細胞を剥離した後、10%FBS添加M199を用いて洗浄した。細胞は血球計で計数した後、1.6×10/mLとなるように10%FBS添加M199に懸濁した。この細胞懸濁液を24ウェルプレートに0.5mL/ウェルで播種し、インキュベーターにて一晩培養した。試験物質(4−エチルフェノール硫酸もしくはインドキシル硫酸)を0,1,5,10mmol/Lで含有する2%FBS添加M199を調製し、これを試験液とした。前記の一晩培養した24ウェルプレートより上清を除去し、試験液を0.5mL/ウェル添加した。2日間培養した後、上清を除去し、新しく調整した試験液を0.5mL/ウェル添加し、1日培養した。試験液下で培養した細胞の数をCell counting kit−8(同仁化学)を用いて計数した。0mmol/L含有試験液の値を100%とし、抑制効果を算出した。結果を図1に示す(平均±標準誤差,n=3)。
コントロールと比較すると、4−エチルフェニル硫酸を添加することによって、LLC−PK1細胞の増殖は、3日後に、1mmol/Lで28%程度、5mmol/Lで65%程度、10mmol/Lで80%程度減少した。また、4−エチルフェニル硫酸による細胞増殖の抑制効果は、インドキシル硫酸と比較しても強かった。
【0040】
《実施例1:健常人及び透析患者(透析前)の4−エチルフェニル硫酸濃度の分析》
本実施例では、健常人8人及び血液透析患者45人について、血液中の4−エチルフェニル硫酸の濃度を測定した。
血液透析患者は、一般的ESRD(End stage renal disease)であり、性別は男性20人及び女性25名、年齢は62.3歳±5歳である。なお、健常人8人は、50歳以上のボランティアである。
血液透析患者及び健常人から採血を行い、血清を分離した。血清をアセトニトリルで除タンパクし、5mmol/L酢酸アンモニウム水溶液及びメタノールを用いてLC/MS/MSで測定した。血液透析患者の平均±SEは、0.025±0.004mg/dL、健常人の平均±SEは、0.005±0.003mg/dLであり、血液透析患者の方が高い平均値を示した。個別のデータを表1、表2及び図2に示す。
【0041】
個別のデータでは、健常人は、No.6が0.0237mg/dLと高い値を示したが、残りの7人は0.0000〜0.0042mg/dLの範囲であった。
一方、血液透析患者(透析前)は、0.000〜0.1552mg/dLの広い範囲に分布していた。ここで、0.0000〜0.0042mg/dLを健常人の範囲と仮定すると、No.4(0.0004mg/dL)、No.8(0.0041mg/dL)、No.13(0.0018mg/dL)、No.15(0.0018mg/dL)、No.18(0.0012mg/dL)、No.20(0.0028mg/dL)、No.22(0.0005mg/dL)、No.27(0.0028mg/dL)、No.31(0.0009mg/dL)、No.32(0.0000mg/dL)、No.36(0.0000mg/dL)、及びNo.39(0.0039mg/dL)の12人が健常人の範囲となる。この割合は、28.6%(12/42)であり、血液透析患者において、4−エチルフェニル硫酸の濃度の個人によるバラツキは大きかった。
【0042】
【表1】

【0043】
《実施例2:透析患者の透析前後の4−エチルフェニル硫酸濃度の分析》
本実施例では、血液透析による4−エチルフェニル硫酸の除去について検討した。
健常人及び血液透析患者の透析前の血清に代えて、血液透析患者の透析後の血漿を用いてことを除いては、実施例1の操作を繰り返した。実施例1の透析前のデータとともに、表2に透析後の血漿中の4−エチルフェニル硫酸の濃度を示す。血液透析患者の平均±SEは、0.022±0.0034mg/dLであり、透析前の値とほとんど変化がなかった。すなわち、血液透析では、4−エチルフェニル硫酸は除去することができなかった。
【0044】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法は、4−エチルフェニル硫酸の血液濃度を測定することにより、経口投与用吸着剤の投与を行うか否かの判定を行うことができる。特には、4−エチルフェニル硫酸は血液透析によって除去することができないため、血液透析患者における経口投与用吸着剤の投与の判定に効果的に用いることができる。更に、4−エチルフェニル硫酸の血液濃度の分析は、慢性腎臓病の治療マーカー、又は心血管疾患の治療マーカーとして用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト由来の液体試料中の4−エチルフェニル硫酸濃度を分析することを特徴とする、経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法。
【請求項2】
前記投与対象が慢性腎臓病患者である、請求項1に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法。
【請求項3】
前記慢性腎臓病患者が透析治療患者である、請求項2に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法。
【請求項4】
前記投与対象が心血管疾患患者である、請求項1に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出方法。
【請求項5】
ヒト由来の液体試料中の4−エチルフェニル硫酸濃度を分析することを特徴とする、経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定方法。
【請求項6】
投与対象が慢性腎臓病患者である、請求項5に記載の治療効果の判定方法。
【請求項7】
前記慢性腎臓病患者が透析治療患者である、請求項6に記載の治療効果の判定方法。
【請求項8】
前記投与対象が心血管疾患患者である、請求項5に記載の治療効果の判定方法。
【請求項9】
4−エチルフェニル硫酸を含むことを特徴とする、経口投与用吸着剤の投与対象の検出キット。
【請求項10】
前記投与対象が慢性腎臓病患者である、請求項9に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出キット。
【請求項11】
前記慢性腎臓病患者が透析治療患者である、請求項10に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出キット。
【請求項12】
前記投与対象が心血管疾患患者である、請求項9に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出キット。
【請求項13】
4−エチルフェニル硫酸を含むことを特徴とする、経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定キット。
【請求項14】
前記投与対象が慢性腎臓病患者である、請求項13に記載の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定キット。
【請求項15】
前記慢性腎臓病患者が透析治療患者である、請求項14に記載の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定キット。
【請求項16】
前記投与対象が心血管疾患患者である、請求項13に記載の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定キット。
【請求項17】
4−エチルフェニル硫酸を含む、経口投与用吸着剤の投与対象の検出マーカー。
【請求項18】
前記投与対象が慢性腎臓病患者である、請求項17に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出マーカー。
【請求項19】
前記慢性腎臓病患者が透析治療患者である、請求項18に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出マーカー。
【請求項20】
前記投与対象が心血管疾患患者である、請求項17に記載の経口投与用吸着剤の投与対象の検出マーカー。
【請求項21】
4−エチルフェニル硫酸を含む、経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定マーカー。
【請求項22】
前記投与対象が慢性腎臓病患者である、請求項21に記載の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定マーカー。
【請求項23】
前記慢性腎臓病患者が透析治療患者である、請求項22に記載の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定マーカー。
【請求項24】
前記投与対象が心血管疾患患者である、請求項21に記載の経口投与用吸着剤の対象への投与による治療効果の判定マーカー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−237623(P2012−237623A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106115(P2011−106115)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】