経口投与用糖尿病薬製剤
【課題】1製剤で食後血糖値および空腹時血糖値の両方を直接下げて正常値に近づける製剤を提供すること。
【解決手段】糖尿病患者の血糖値を低下させる単独の活性成分として、速効型食後血糖降下剤を含有し、かつ該活性成分の放出を速放化した形態及び遅放化した形態の両方を含有し、それにより、該活性成分の放出が糖尿病患者の食後血糖値および空腹時血糖値の両方を正常値に近づけるようになっており、遅放化した形態がコーティング基剤により該活性成分がコーティング、エマルション基剤により該活性成分がエマルション化又はマイクロカプセル基剤により該活性成分がマイクロカプセル化されている経口投与用糖尿病薬製剤。
【解決手段】糖尿病患者の血糖値を低下させる単独の活性成分として、速効型食後血糖降下剤を含有し、かつ該活性成分の放出を速放化した形態及び遅放化した形態の両方を含有し、それにより、該活性成分の放出が糖尿病患者の食後血糖値および空腹時血糖値の両方を正常値に近づけるようになっており、遅放化した形態がコーティング基剤により該活性成分がコーティング、エマルション基剤により該活性成分がエマルション化又はマイクロカプセル基剤により該活性成分がマイクロカプセル化されている経口投与用糖尿病薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病薬、特に糖尿病患者の食後血糖値および空腹時血糖値の両方を1製剤で直接コントロール、つまり、下げて正常値に近づけるための製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の糖尿病治療薬は、食後血糖値または空腹時血糖値のいずれかを下げて正常値に近づける治療薬である。このうち、食後血糖値を下げて正常値に近づける治療薬としては、ナテグリニドが開発され、例えば、特許文献1や2に記載されている。又、空腹時血糖値を下げて正常値に近づける治療薬としては、例えば、非特許文献1などに記載されている。近年、糖尿病の治療には食後血糖値および空腹時血糖値の両方を下げて正常値に近づけることが重要と考えられてきているが、これまでその両方を下げて正常値に近づける製剤はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献2】特公平4―15221号公報
【特許文献3】特開平10−194969号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】近藤信雄、日本臨牀、第55巻1997年増刊号、p159
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は1製剤で食後血糖値および空腹時血糖値の両方を直接下げて正常値に近づける製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、1製剤で食後血糖値および空腹時血糖値の両方を下げて正常値に近づけることが可能となることを見いだし本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、糖尿病患者の血糖値を低下させる活性成分を含有し、糖尿病患者の食後血糖値および空腹時血糖値の両方を正常値に近づける形態となっていることを特徴とする経口投与用糖尿病薬製剤を提供する。
本発明は、又、ナテグリニドを含有し、1時間の溶出試験において、pH1.2、4.0及び6.8のいずれにおいても該活性成分の溶出率が1%以上70%未満であることを特徴とする経口投与用糖尿病薬製剤を提供する。
本発明は、又、ナテグリニドを含有し、ナテグリニドの溶出率がpHに依存し、1時間の溶出試験において、pH1.2でのナテグリニドの溶出率が、pH6.8での溶出率よりも20%以上低い経口投与用糖尿病薬製剤を提供する。
本発明は、又、ナテグリニドを含有し、1時間の溶出試験において、pH4.0での該活性成分の溶出率が20%未満で、pH6.0での該活性成分の溶出率が20%以上である経口投与用糖尿病薬製剤を提供する。
本発明は、又、ナテグリニド、及び多糖誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリオキシエチレン誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の基剤を含有し、ナテグリニドが該基剤中に分散、該基剤によりエマルション化又はマイクロカプセル化されている経口投与用糖尿病薬製剤を提供する。
本発明は、又、ナテグリニド、及び多糖誘導体(但し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを除く)、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の基剤を含有し、ナテグリニドが該基剤でコーティングされている経口投与用糖尿病薬製剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の速放性顆粒のJP2液中におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出プロファイル(n=3)を示す図である。
【図2】実施例2の硬化油マトリクス顆粒のJP2液中におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出プロファイル(n=3)を示す図である。
【図3】実施例3のエチルセルロースマトリクス顆粒のJP2液中におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出プロファイル(n=3)を示す図である。
【図4】実施例4の速放性顆粒と硬化油マトリクス顆粒を混合(2:8 ナテグリニド重量比)したときのJP2液中におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出プロファイル(n=3)を示す図である。
【図5】実施例4の速放性顆粒と硬化油マトリクス顆粒を混合(2:8 ナテグリニド重量比)したときのJP2液中におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)によるナテグリニドの放出量(n=3)を示す図である。
【図6】実施例8の腸溶性顆粒A及びB及びCの中性pH域におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出性(n=3)を示す図である。
【図7】実施例9の速放性顆粒と腸溶性顆粒Aを混合(5:5 ナテグリニド重量比)したときのパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出率60分値のpH依存性(n=3)を示す図である。
【図8】実施例14の腸溶性顆粒A、B、Cをビーグル犬に食直前投与(ナテグリニド:9mg/kg)したときの血糖値推移を示す図である(対照:n=6、腸溶性顆粒:n=3)。
【図9】実施例15のナテグリニド製剤をビーグル犬に食直前投与したときの血糖値推移を示す図である(対照、速放性錠剤:n=6、速放部+腸溶性顆粒A、腸溶性顆粒A:n=3)。
【図10】実施例19のナテグリニド製剤をビーグル犬に食直前投与した時のナテグリニド血漿中濃度推移を示す図である(平均±SE(標準誤差)、n=6、ただし速放部(ナテグリニド:60mg)+腸溶性顆粒A(ナテグリニド:90mg)のナテグリニド製剤は3,8,9,12,24時間値のみn=3)。
【図11】実施例19のナテグリニド製剤をビーグル犬に食直前投与した時の血糖値推移を示す図である。(平均、投与直前血糖値を100%としたときの血糖値推移、n=6、ただし速放部(ナテグリニド:60mg)+腸溶性顆粒A(ナテグリニド:90mg)のナテグリニド製剤は3,8,9,12,24時間値のみn=3)。
【図12】実施例20の侵食性マトリクス錠剤、侵食性マトリクスコーティング錠剤のJP2液中におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出プロファイル(n=3)を示す図である。
【図13】実施例22の有核錠のJP2液中におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出プロファイル(n=3)を示す図である。
【図14】実施例22の有核錠をビーグル犬に食直前投与した時のナテグリニド血漿中濃度推移を示す図である。(平均±SE、n=3、ただし速放性製剤(ナテグリニド:60mg)はn=6)。
【図15】実施例22の有核錠をビーグル犬に食直前投与した時の血糖値推移を示す図である。(平均、投与直前血糖値を100%としたときの血糖値推移、n=3、ただし対照及び速放性製剤(ナテグリニド:60mg)はn=6)。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における「糖尿病患者の食後血糖値および空腹時血糖値の両方を正常値に近づける」とは、糖尿病患者の食後血糖値および空腹時血糖値を下げて、それぞれ正常人の食後血糖値及び空腹時血糖値に近づけることである。
糖尿病患者の血糖値を低下させる活性成分としては、食後血糖値を低下させる第1の活性成分と空腹時血糖値を低下させる第2の活性成分とからなっていてもよい。
この場合、食後血糖値を低下させる第1の活性成分としては、糖尿病患者の食後血糖値を正常人の血糖値に近づける薬物であり、例えば、ナテグリニド等の速効型食後血糖降下剤、アカルボース等のα−グリコシダーゼ阻害剤等の薬物が挙げられる。とくに、ナテグリニドが好ましい。
又、空腹時血糖値を低下させる第2の活性成分としては、糖尿病患者の空腹時血糖値を正常人の空腹時血糖値に近づける薬物であり、例えば、トルブタミド等のスルホニル尿素系薬物(SU剤)、塩酸メトホルミン等のビグアナイド系薬物、トログリタゾン等のインスリン抵抗性改善剤等の薬物が挙げられる。
本発明では、又、血糖値を低下させる活性成分が、該活性成分の放出を速放化した形態及び遅放化した形態の両方を含有する場合、あるいは遅放化のうち、徐放化された単独の形態の場合も含有する。この場合、血糖値を低下させる活性成分が、上記第1の活性成分単独使用、第1の活性成分と第2の活性成分の併用のいずれでもよく、これらの場合、第1の活性成分と第2の活性成分は、それぞれ単一でも複数でもよい。本発明では、上記第1の活性成分単独使用が好ましく、ナテグリニドと他の活性成分との併用又はナテグリニドの単独使用がより好ましく、特にナテグリニドの単独使用が好ましい。
【0009】
ここで、「活性成分の放出を速放化した形態」とは、特開平10―194969号公報に記載されているような速放性錠剤や、それに類する放出挙動を示す各種剤形である。投与後、胃の中で速やかに薬物を溶出させるものをいう。一方、「活性成分の放出を遅放化した形態」とは、(i)継続的に薬物を放出する単独の形態、つまり徐放化した単独の形態、と(ii)一定時間経過後、薬物を放出する単独の形態が含まれる。このようなものとしては、pH依存型、時間依存型、時限放出型、消化管部位特異的放出型等があげられる。これらのうち、pH依存型と時間依存型と時限放出型が好ましい。
本発明では、特に、血糖値を低下させる単一の活性成分を含有し、経口投与した時に食後から空腹時にわたり、該活性成分が継続的に放出される形態となっているのが好ましく、ここで血糖値を低下させる単一の活性成分として、ナテグリニドを用いるのが好ましい。ここで、継続的に放出される形態としては、本発明では、速放性の形態と遅放性の形態とが組み合わさって、活性成分が継続的に放出される場合と、該活性成分が、遅放化のうち徐放化単独の形態となっている場合の両方を含む。
血糖値を低下させる活性成分の放出を速放化した形態及び遅放化した形態若しくは徐放化される形態は、血糖値を低下させる活性成分を、マトリクス基剤中に分散、コーティング基剤によりコーティング、エマルション基剤によりエマルション化又はマイクロカプセル基剤によりマイクロカプセル化することにより、容易に得られる。このような方法は、マトリクス法、錠剤コーティング法、顆粒コーティング法またはエマルション法・マイクロカプセル化法等として知られている。また他の方法を用いても良い。
【0010】
マトリクス基剤、コーティング基剤、エマルション基剤及びマイクロカプセル基剤が、独立して多糖誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリオキシエチレン誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれるのが好ましい。
ここで、マトリクス法とはマトリクス基剤中に薬物を分散させ、放出挙動を制御する方法である。マトリクス基剤としては、例えば、上述した多糖誘導体、油脂、ポリアクリル酸誘導体等が挙げられるが、水中で薬物、水などが拡散できるような多孔質構造を形成し薬学的に許容される化合物であれば良い。より好ましくは、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質から選ばれる1種又は2種以上の混合物である。ここで、セルロース誘導体としては、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース及びヒドロキシエチルセルロースから選ばれる1種又は2種以上の混合物が好ましい。又、メチルセルロース及び前記化合物との混合物も好ましい。
【0011】
マトリクスを作る方法としては、高速攪拌造粒法、流動層造粒法、溶融造粒法、溶媒除去法、スラッグ打錠法等が挙げられるが、薬物とマトリクス基剤と混合できる方法であれば本発明におけるマトリクス製造法として採用することができる。マトリクスの種類としては、薬物放出中にマトリクス骨格が崩れない非侵食性(非崩壊性)マトリクス、及び薬物放出とともにマトリクス骨格も崩壊していく侵食性(崩壊性)マトリクスがあげられる。水に溶解しない基剤を用いた場合非侵食性マトリクスが得られ、水に溶解する基剤を用いた場合侵食性マトリクスが得られる。
その際、マトリクス基剤の種類、マトリクス基剤と薬物との比率あるいは製造方法を変えることにより、さまざまな放出挙動を得ることができる。薬物放出挙動はpH依存型、時間依存型、時限放出型であるのが好ましいが、食後血糖値と空腹時血糖値を下げて正常値に近づけるように薬物を放出することができれば良く、他の放出挙動であっても本発明を完成することができる。マトリクス基剤と薬物の具体的な重量比率は1:99〜 99:1、好ましくは10:90 〜90:10である。
コーティング法には、顆粒コーティング法と錠剤コーティング方法が含まれる。顆粒コーティング法は薬物を含有する素顆粒にコーティングを施して放出挙動を制御する方法である。
【0012】
本発明においてコーティング法に用いるコーティング基剤としては、例えば、上述したポリアクリル酸誘導体、多糖誘導体、油脂等が挙げられるが、水中で薬物、水などが拡散できるような多孔質構造を形成し薬学的に許容される化合物、あるいは溶解度がpH依存的であり、薬学的に許容される化合物であれば良い。より好ましくは、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質から選ばれる1種又は2種以上の混合物である。ここで、セルロース誘導体としては、マトリクス基剤についてあげたのと同様のものが好ましい。
顆粒コーティング方法としては、流動層コーティング法、転動層コーティング法等が挙げられるが、素顆粒上にコーティング皮膜が形成できる方法であれば本発明におけるコーティング法として採用することができる。ここで、素顆粒とは、コーティングを施す元の顆粒をいい、薬物を含有しコーティングに適した形状の顆粒を得る方法、例えば押し出し造粒法、高速撹拌造粒法、スプレードライ法等で素顆粒を製造することができる。
錠剤コーティング法は薬物を含有する素錠剤にコーティングする方法であり、錠剤コーティング方法としては、湿式コーティング法等が挙げられるが、素錠剤上にコーティング皮膜が形成できる方法であれば本発明におけるコーティング法として採用することができる。ここで、素錠剤とは、コーティングを施す元の錠剤を指し、薬物を含有しコーティングに適した形状の錠剤を得る方法、例えば湿式顆粒圧縮法、直接打錠法等で素錠剤を製造することができる。
【0013】
コーティング基剤、コーティング皮膜組成、コーティング皮膜の厚み、素顆粒又は錠剤組成、素顆粒又は錠剤製造方法またはコーティング方法等を変えることにより、pH依存放出、時間依存放出等の様々な放出挙動を得ることができる。薬物放出挙動はpH依存型、時間依存型、時限放出型であるのが好ましいが、食後血糖値と空腹時血糖値を下げて正常値に近づけるように薬物を放出することができれば良く、他の放出挙動であっても本発明を完成することができる。尚、pH依存型放出性の例としては、腸溶性顆粒などがあげられる。
エマルション法やマイクロカプセル化法とは、エマルションやマイクロカプセルに薬物を含有させ放出挙動を制御する方法である。
エマルションやマイクロカプセルの基剤としては、例えば、多糖誘導体、ポリアクリル酸誘導体、油脂、界面活性剤等があげられるが、水中でエマルション、マイクロカプセル内部から外部への薬物などの透過を制御するような構造を形成し、薬学的に許容される化合物であれば良い。より好ましくは、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物を、本発明におけるエマルション、マイクロカプセル原料として用いることができる。ここで、セルロース誘導体としては、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース及びヒドロキシエチルセルロースから選ばれる1種又は2種以上の混合物が好ましい。又、メチルセルロース及び前記化合物との混合物も好ましい。
【0014】
エマルション法やマイクロカプセル化法としては、液中乾燥法、水溶液・有機溶媒などを用いた相分離法、融解分散冷却法、スプレードライ法、気中懸濁被覆法、流動層コーティング法、転動層コーティング法、界面重合法、液中硬化被覆法等が挙げられる。
薬物放出挙動については、原料、組成、粒子径、製造方法等を変えることにより、pH依存放出、時間依存放出、等の様々な放出パターンを得ることができる。pH依存型、時間依存型、時限放出型であるのが好ましいが、食後血糖値と空腹時血糖値の両方を下げて正常値に近づけるように薬物を放出することができれば良く、他の放出挙動であってもよい。
本発明の第2の態様として、ナテグリニドを含有した1製剤に対し、1時間の溶出試験において、pH1.2、4.0及び6.8のいずれにおいても該活性成分の溶出率が1%以上70%未満であることを特徴とする経口投与用糖尿病薬製剤があげられる(この態様には、マトリクスなどの時間依存型放出型が該当し、実施例2、3、20、22が該当する)。ここで、溶出試験方法としては、日本薬局方第13局(以下「日局」とする)パドル法(試験液900ml:毎分50回転)溶出試験方法において、試験液として0.6w/v%ポリソルベート80を添加した日局崩壊試験法第1液(JP1液)、0.5w/v%ポリソルベート80を添加した1/4希釈pH=4.0McIlvaine緩衝液、日局崩壊試験法第2液(JP2液)を使用する。第2の態様は、マトリクス、コーティング、エマルション又はマイクロカプセルで行うのがよい。
【0015】
本発明の第3の態様として、ナテグリニドを含有した1製剤に対し、ナテグリニドの溶出率がpHに依存し、1時間の溶出試験において、pH1.2でのナテグリニドの溶出率が、pH6.8での溶出率よりも20%以上低いことを特徴とする経口投与用糖尿病薬があげられる(この態様には、pH依存型放出型及び時間依存型放出型等が該当し、実施例9が該当する)。ここで、溶出試験方法としては、同様に、日局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)溶出試験方法において、試験液として0.6w/v%ポリソルベート80を添加した日局崩壊試験法第1液(pH1.2)、日局崩壊試験法第2液(pH6.8)を使用する。第3の態様は、マトリクス、コーティング、エマルション又はマイクロカプセルで行うのがよい。
本発明の第4の態様として、ナテグリニドを含有した1製剤に対し、1時間の溶出試験において、pH4.0での該活性成分の溶出率が20%未満で、pH6.0での該活性成分の溶出率が20%以上であることを特徴とする経口投与用糖尿病薬があげられる(この態様には、pH依存型放出型が該当し、実施例8の腸溶性顆粒Cが該当する)。ここで、溶出試験方法としては、同様に、日局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)溶出試験方法において、試験液として0.5w/v%ポリソルベート80を添加した1/4希釈pH=4.0 McIlvaine緩衝液、Clark-Lubs緩衝液(リン酸二水素カリウム-水酸化ナトリウム系:pH6.0又は6.5)を使用する。
本発明では、さらに、pH6.5での該活性成分の溶出率が60%以上であるのが好ましい。
上記のような溶出特性を有する製剤は、上述したように、血糖値を低下させる活性成分を、マトリクス基剤中に分散、コーティング基剤によりコーティング、エマルション基剤によりエマルション化又はマイクロカプセル基剤によりマイクロカプセル化することにより得ることができる。
本発明の第5の態様として、ナテグリニド、及び多糖誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリオキシエチレン誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の基剤を含有し、ナテグリニドが該基剤中に分散、該基剤によりエマルション化又はマイクロカプセル化されている経口投与用糖尿病薬製剤があげられる。
【0016】
また、本発明の第6の態様としてナテグリニド、及び多糖誘導体(但し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを除く)、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の基剤を含有し、ナテグリニドが該基剤でコーティングされている経口投与用糖尿病薬製剤があげられる。
第5の態様の場合、基剤が、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であるのが好ましい。又、メチルセルロース及び前記化合物との混合物も好ましい。
また、第6の態様の場合には、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であるのが好ましい。又、メチルセルロース及び前記化合物との混合物も好ましい。
【0017】
上記第5及び第6の態様における基剤としては、さらに、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート又はメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体が好ましい。ここで、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体として、メタクリル酸コポリマーLD又は乾燥メタクリル酸コポリマーLDであるのが好ましい。これらによれば、ナテグリニドを遅放化製剤とすることができる。
本発明の経口用の製剤としては、例えば顆粒、錠剤、散剤、カプセル剤等各種の形態が含まれる。
【0018】
血糖値を低下させる活性成分を徐放化した形態のみでも食後血糖値及び空腹時血糖値の両方を下げて正常値に近づけることが可能である。例えば、第4の態様を満たす形態の時に可能となる。具体的には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、メタクリル酸コポリマーLをこのような製剤の基剤として用いることが可能であるが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを用いた場合が特に好ましい。速放化した形態と、遅放化した形態を併用することにより、食後血糖値及び空腹時血糖値の両方を精度良く下げ、正常値に近づけることが可能である。食後血糖値を下げて正常値に近づける薬物を遅放化したものと食後血糖値を下げて正常値に近づける薬物を速放化したものとの混合比は食後血糖値を下げて正常値に近づける薬物の重量比として1:99〜99:1、好ましくは10:90〜90:10である。混合方法及び混合した形態は、本発明においては限定されない。又、徐放化したものを単独で用いることができる。混合した形態としては、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、液剤等があげられる。たとえば速放化顆粒と遅放化顆粒を混合した場合は顆粒剤である。これらの顆粒をカプセルに充填した場合カプセル剤となる。錠剤とするには、これらの混合顆粒を打錠する、あるいは各々の顆粒を層に分けて打錠する(多層錠)、あるいは遅放化顆粒を打錠して得た遅放部錠剤を内核とし、外殻に速放化顆粒を用いて打錠する(有核錠)。
また、本製剤を用いた場合、食後血糖値を下げて正常値に近づける成分と空腹時血糖値を下げて正常値に近づける成分の量比および活性成分の薬効の強さにもよるが、1日あたり活性成分として1 mg〜10gを投与すればよい。
【0019】
実施例
以下の実施例により本発明を具体的に説明する。これらは本発明の好ましい実施態様であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
速放部の設計
実施例1 速放性顆粒
ナテグリニド 375.0g、乳糖一水和物637.5g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース450.0gを高速撹拌造粒機で10分間混合し、その後ヒドロキシプロピルセルロース15 gを水に溶かした結合液 1035gを添加し造粒を2.5分間行った。得られた造粒物をニュースピードミルで全量整粒し、流動層乾燥機にて乾燥した。得られた造粒物を850μmの篩でふるい分けし、850μm上に残った造粒物は強制篩過し、両者を混合後速放性顆粒とした。
日局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて日本薬局方崩壊試験法第2液中における溶出性を評価したところ、20分でほぼ100%ナテグリニドを放出することを確認した(図1)。
【0020】
マトリクス顆粒による遅放性部の設計
実施例2 硬化油を用いたマトリクス顆粒(遅放性)
硬化油1.5gを乳鉢内で加熱により溶融させ、そこにナテグリニド 3gを加えて十分に練合した。室温に戻した後、粉砕し、180〜710μm分画を篩分してマトリクス顆粒を得た。
得られたマトリクス顆粒のJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。マトリクスとすることにより、速放性顆粒に比べナテグリニドの溶出速度は抑制された(図2)。主に空腹時血糖を下げて正常値に近づけるのに有効と考えられる遅放化が可能となった。
【0021】
実施例3 エチルセルロースを用いたマトリクス顆粒(遅放性)
エチルセルロース 1.5g、ナテグリニド3.0gをエタノールに溶解させ、エバポレーターを用いてエタノールを留去した。得られた固形分を更に60℃で3時間以上真空乾燥した。得られた固形分を粉砕し、180〜710μm分画を篩分してマトリクス顆粒を得た。
得られたマトリクス顆粒のJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。マトリクスとすることにより、速放性顆粒に比べナテグリニドの溶出速度は抑制された(図3)。主に空腹時血糖を下げて正常値に近づけるのに有効と考えられる遅放性が可能となった。
実施例4 速放性顆粒と遅放性硬化油マトリクス顆粒を混合したときの溶出プロファイル
実施例1記載の速放性顆粒と実施例2記載の遅放性硬化油マトリクス顆粒を混合(2:8ナテグリニド重量比)したときのJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。60分以内に65%程度薬物を放出し、その後6時間かけて徐々に薬物を放出した(図4)。食後血糖値および空腹時血糖値を下げて正常値に近づけるのに有効と推察される放出制御が可能となった(図5)。
コーティング顆粒による放出制御部の設計
【0022】
実施例5 コーティング用素顆粒1
ナテグリニド 250g、乳糖一水和物425g、ヒドロキシプロピルセルロース10 gを水815gにホモジナイザーを用いて懸濁、溶解させ、その後低置換度ヒドロキシプロピルセルロース300.0gに添加し練合した。押し出し造粒機を用いて押し出し造粒し、得られた造粒物をマルメライザー(不二パウダル、Q-230型)にて整粒、球形化した。その後流動層乾燥機で乾燥した。篩分により850μm〜1400μm分画を得て、コーティング用素顆粒1とした。
実施例6 コーティング用素顆粒2
ナテグリニド 250g、乳糖一水和物425g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース300.0gを高速撹拌造粒機で10分間混合し、その後ヒドロキシプロピルセルロース10 gを水に溶かした結合水690gを添加して5分間造粒を行った。その後流動層乾燥機で乾燥した。篩分により850μm〜1400μm分画を得て、コーティング用素顆粒2とした。
実施例7 コーティング用素顆粒3
ナテグリニド 250g、乳糖一水和物725gを高速撹拌造粒機で10分間混合し、その後ヒドロキシプロピルセルロース10 gを水に溶かした結合水690gを添加して5分間造粒を行った。その後流動層乾燥機で乾燥した。篩分により850μm〜1400μm分画を得て、コーティング用素顆粒3とした。
pH依存型放出制御部の設計
【0023】
実施例8 腸溶性顆粒(遅放性)
実施例5記載のコーティング用素顆粒1に流動層コーティング法による腸溶性コーティングを施した。コーティング液処方を表1と2(乾燥メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート220824)に示す。腸溶性基剤には乾燥メタクリル酸コポリマーLD(商品名:Eudragit L100-55、 Rohm社), メタクリル酸コポリマーS(商品名:Eudragit S100、Rohm社)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート220824(商品名:HP-50、 信越化学)を用いた。
乾燥メタクリル酸コポリマーLDを素顆粒に対して33w/w%、メタクリル酸コポリマーSを34w/w%、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート220824を24w/w%コーティングした腸溶性顆粒(それぞれ腸溶性顆粒A、B、C)の中性pH域溶出性(パドル法(試験液900ml:毎分50回転)、60分値溶出率、Clark-Lubs緩衝液)を評価した。腸溶性顆粒A、B、CはそれぞれpH=6.5、7.2、5.5で溶出し始めることを確認した(図6)。
【0024】
表-1
腸溶性基剤a又はb 7.0%
マクロゴール6000 0.7%
タルク 3.5%
エタノール 70.0%
水 18.8%
腸溶性基剤a:乾燥メタクリル酸コポリマーLD
腸溶性基剤b:メタクリル酸コポリマーS
【0025】
表-2
ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート220824 7.0%
マクロゴール6000 0.7%
タルク 1.0%
エタノール 73.0%
水 18.3%
【0026】
実施例9 速放部(速放性顆粒)と遅放部(腸溶性顆粒)を混合したときの溶出プロファイル
実施例1記載の速放部(速放性顆粒)と実施例8記載の遅放部(腸溶性顆粒A(乾燥メタクリル酸コポリマーLDを素顆粒に対して33w/w%コーティングした顆粒))を混合(5:5ナテグリニド重量比)したときの溶出率60分値(日局13局、パドル法(試験液900ml:毎分50回転)、酸性pH:0.6w/v%ポリソルベート80添加日局崩壊試験法第1液(JP1液)、中性pH:Clark-Lubs緩衝液)を評価した。pH=1.2 〜6.0の範囲では速放性顆粒のみ溶出し、pH =6.5以上では速放性顆粒、腸溶性顆粒両方からナテグリニドが溶出した(図7)。食後血糖値および空腹時血糖値を下げて正常値に近づけるのに有効と推察される放出制御が可能となった。
時間依存放出部の設計
実施例10 時間依存型徐放顆粒(遅放性)
実施例7記載のコーティング用素顆粒3に流動層コーティング法による水不溶性膜コーティングを施した。コーティング液処方を表3に示す。コーティング基剤にはアミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS(商品名:Eudragit RSPO、Rohm社)を用いた。
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRSを素顆粒に対して30w/w%コーティングした顆粒のJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。速放性顆粒に比べ、ナテグリニドの溶出速度は制御された。主に空腹時血糖を下げて正常値に近づけるのに有効と推察される放出制御が可能となった。
【0027】
表-3
アミノアルキルメタアクリレートコポリマー 7.0%
マクロゴール6000 0.7%
タルク 3.5%
エタノール 70.0%
水 18.8%
実施例11 速放性顆粒と時間依存的徐放顆粒を混合したときの溶出プロファイル
実施例1記載の速放性顆粒と実施例10記載の時間依存型徐放顆粒を混合(5:5ナテグリニド重量比)したときのJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。30分以内に50%程度薬物を放出し、その後6時間かけて徐々に薬物を放出した。食後血糖値および空腹時血糖値を下げて正常値に近づけるのに有効と推察される放出制御が可能となった。
【0028】
実施例12 時限放出型顆粒(遅放性)
実施例5記載のコーティング用素顆粒1に流動層コーティング法による水不溶性膜コーティングを施した。コーティング液処方を上記表3に示す。コーティング基剤にはアミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS(商品名:Eudragit RSPO、Rohm社)を用いた。アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRSを素顆粒に対して30.0w/w%コーティングした顆粒のJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。溶出試験開始後2時間まで顆粒からナテグリニドはほとんど放出されないが、その後急速に放出した。主に空腹時血糖を下げて正常値に近づけるのに有効と推察される放出制御が可能となった。
実施例13 速放性顆粒と時限放出型顆粒を混合したときの溶出プロファイル
実施例1記載の速放性顆粒と実施例12記載の時限放出型顆粒を混合(5:5ナテグリニド重量比)したときのJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。30分以内に50%程度薬物を放出し、その後2時間後に残りの薬物を急速に放出した。食後血糖値および空腹時血糖値を下げて正常値に近づけるのに有効と推察される放出制御が可能となった。
実施例14 遅放部(腸溶性顆粒)投与による血糖値推移評価
遅放部として腸溶性顆粒A,B,Cをビーグル犬に食直前投与し(ナテグリニドとして9mg/kg)、血糖値推移を評価したところ、対照(給餌のみ)に比べ、腸溶性顆粒A,Bでは主に空腹時血糖値を、腸溶性顆粒Cでは食後血糖値及び空腹時血糖値の両方を下げて正常値に近づけることがわかった(図8)。
実施例15 速放部と遅放部(腸溶性顆粒)同時投与による血糖値推移評価
速放部(ナテグリニド:60mg)と腸溶性顆粒A(ナテグリニド:90mg)をビーグル犬に食直前投与し、血糖値推移を評価したところ、対照(給餌のみ)に比べ、食後血糖値及び空腹時血糖値の両方を下げて正常値に近づけることがわかった(図9)。
【0029】
実施例16 エマルション製剤(遅放性)
ナテグリニド1.0g、大豆レシチン3.0g、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 0.5gを、ジクロロメタン60mlに溶解し、エバポレーターにてジクロロメタンを留去した。得られた油状分を更に60℃で3時間以上真空乾燥した。得られた油状分を水200ml中にホモジナイザーを用いて激しく分散させ、その後0.5モル/リツトル水酸化ナトリウムにてpH=7.5に調整し、ナテグリニドエマルション製剤を得た。
実施例17 エマルション製剤(遅放性)
ナテグリニド1.0g、トウモロコシ油1.0g、ポリソルベート80 2.0gを均一に混合した。得られた油状分を水100ml中にホモジナイザーを用いて激しく分散させ、その後0.5モル/リツトル水酸化ナトリウム水溶液にてpH=5.9に調整し、ナテグリニドエマルション製剤を得た。
実施例18 マイクロカプセル製剤(遅放性)
ナテグリニド5g、ポリ乳酸15gをジクロロメタンに溶解した。激しく攪拌しながら0.5w/v%のポリビニルアルコール水溶液1000mlに、このジクロロメタン溶液をゆっくり添加し、分散液を得た。加温、減圧操作により得られた分散液からジクロロメタンを留去した。
この分散液を遠心分離機にかけてマイクロカプセル分画を沈殿させた。上澄を除去し、水を加えてマイクロカプセルを再分散させた。この洗浄操作を2回行った。
洗浄後のマイクロカプセル分散液を凍結乾燥し、ナテグリニドマイクロカプセル製剤を得た。
【0030】
実施例19 速放部と遅放部(腸溶性顆粒)同時投与による血糖値推移評価(遅放部用量依存性評価)
速放部(ナテグリニド:60mg)と腸溶性顆粒A(ナテグリニド:60又は90mg)をビーグル犬に食直前投与し、ナテグリニド血漿中濃度推移、血糖値推移を評価した。
ナテグリニド血漿中濃度推移では、腸溶性顆粒Aの投与量が増加するに従い、Cmax(最高血漿中濃度)はほとんど変化しないものの、投与後4-9時間のナテグリニド血漿中濃度上昇傾向が観察された(図10)。
血糖値では、腸溶性顆粒Aの投与量が増加するに従い、投与後4-9時間の血糖値抑制傾向が観察された。実施例15と同様、速放部+遅放部とすることにより、食後血糖値及び空腹時血糖値の両方を下げて正常値に近づけることがわかり、かつ遅放部の効果が傾向的に確認された(図11)。
実施例20 侵食性マトリクス錠剤及び侵食性マトリクスコーティング錠剤(遅放部)
ナテグリニド100.0g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース25.0g、結晶セルロース41.7gを高速攪拌造粒機に入れ混合後、水90.0gを添加して1.5分間造粒した。得られた造粒物を棚段で乾燥し、目開き850μmの篩を用いて篩過した。以上の操作を2回行い、混合して317gの造粒物を得た。
この得られた造粒物とステアリン酸マグネシウム6.47gを混合し、打錠して侵食性マトリクス錠剤を得た。
得られた侵食性マトリクス錠剤にヒドロキシプロピルメチルセルロース50.0g、マクロゴール6000 10.0gを水1440gに溶解させたコーティング液を用いてコーティングし(侵食性マトリクス錠剤重量に対してヒドロキシプロピルメチルセルロースを12.5%コーティング)、侵食性マトリクスコーティング錠剤を得た。
【0031】
実施例21 侵食性マトリクス錠剤及び侵食性マトリクスコーティング錠剤の溶出プロファイル
実施例20で得られた侵食性マトリクス錠剤及び侵食性マトリクスコーティング錠剤のJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。侵食性マトリクス錠剤とすることにより、速放性顆粒に比べナテグリニドの溶出速度は抑制された(図12)。侵食性マトリクスコーティング錠剤とすることにより、侵食性マトリクス錠剤に比べ、溶出に50分程度のラグタイムが観察された(図12)。
主に空腹時血糖を下げて正常値に近づけるのに有効と考えられる遅放性が可能となった。
実施例22 侵食性マトリクス錠剤を内核とした有核錠
実施例21で得られた侵食性マトリクス錠剤、及び実施例1で得られた速放性顆粒を用いて有核錠を製造した(侵食性マトリクス錠剤:153mg、速放性顆粒:236.4mg、ステアリン酸マグネシウム:3.6g、錠剤径:10mmφ)。
実施例23 有核錠の溶出プロファイル
実施例22記載の有核錠のJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。30分以内に44%薬物を放出し、その後徐々に薬物を放出し、3時間値は62%となった(図13)。食後血糖値および空腹時血糖値を下げて正常値に近づけるのに有効と推察される放出制御が可能となった。
【0032】
実施例24 有核錠のイヌにおけるナテグリニド血漿中濃度推移及び血糖値推移評価
実施例22で得られた有核錠をビーグル犬に食直前投与し、ナテグリニド血漿中濃度推移及び血糖値推移評価を評価した。
ナテグリニド血漿中濃度推移では、速放性製剤に比べてCmaxは上げないものの、投与後9時間程度までナテグリニド血漿中濃度が高く維持されることが明らかとなった(図14)。
血糖値では、食後血糖値及び空腹時血糖値の両方を下げることが明らかとなった(図15)。
本発明により食後血糖値および空腹時血糖値の両方を1製剤で直接下げて正常値に近づけることが可能となった。
又、本発明において、1製剤とすることにより、(1)他の製剤を服用している場合でも、のみまちがえる可能性が低くなる、(2)携帯時にかさばらない、(3)1製剤を食前、もう1製剤を食後に服用する場合があるが、服用のタイミングを間違えると、効果が出なかったり、重篤な副作用(低血糖状態)が生じる等の可能性が出るが、1製剤とすることによりこの可能性を回避できる、(4)患者が負担する費用が安くなる、といった利点が得られる。
【0033】
次に、本発明の態様を示す。
1.糖尿病患者の血糖値を低下させる活性成分を含有し、糖尿病患者の食後血糖値および空腹時血糖値の両方を正常値に近づける形態となっていることを特徴とする経口投与用糖尿病薬製剤。
2.食後血糖値を低下させる第1の活性成分と空腹時血糖値を低下させる第2の活性成分とを含有する上記1記載の製剤。
3.血糖値を低下させる活性成分を含有し、該活性成分の放出を速放化した形態及び遅放化した形態の両方を含有する上記1記載の製剤。
4.血糖値を低下させる活性成分が、単一である上記3記載の製剤。
5.血糖値を低下させる単一の活性成分を含有し、経口投与した時に食後から空腹時にわたり、該活性成分が継続的に放出される単独の形態となっている上記1記載の製剤。
【0034】
6.血糖値を低下させる活性成分が、マトリクス基剤中に分散、コーティング基剤によりコーティング、エマルション基剤によりエマルション化又はマイクロカプセル基剤によりマイクロカプセル化されている上記2〜5のいずれか1項記載の製剤。
7.マトリクス基剤、コーティング基剤、エマルション基剤及びマイクロカプセル基剤が、独立して多糖誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリオキシエチレン誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる上記6記載の製剤。
8.マトリクス基剤が、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる上記6記載の製剤。
9.コーティング基剤が、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる上記6記載の製剤。
10.エマルション基剤及びマイクロカプセル基剤が、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる上記6記載の製剤。
【0035】
11.血糖値を低下させる活性成分が、ナテグリニドである上記1〜10のいずれか1項記載の製剤。
12.ナテグリニドを含有し、1時間の溶出試験において、pH1.2、4.0及び6.8のいずれにおいても該活性成分の溶出率が1%以上70%未満であることを特徴とする経口投与用糖尿病薬製剤。
13.ナテグリニドを含有し、ナテグリニドの溶出率がpHに依存し、1時間の溶出試験において、pH1.2でのナテグリニドの溶出率が、pH6.8での溶出率よりも20%以上低い経口投与用糖尿病薬製剤。
14.ナテグリニドを含有し、1時間の溶出試験において、pH4.0での該活性成分の溶出率が20%未満で、pH6.0での該活性成分の溶出率が20%以上である経口投与用糖尿病薬製剤。
15.pH6.5での該活性成分の溶出率が60%以上である上記14記載の製剤。
【0036】
16.ナテグリニド、及び多糖誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリオキシエチレン誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の基剤を含有し、ナテグリニドが該基剤中に分散、該基剤によりエマルション化又はマイクロカプセル化されている経口投与用糖尿病薬製剤。
17.ナテグリニド、及び多糖誘導体(但し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを除く)、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の基剤を含有し、ナテグリニドが該基剤でコーティングされている経口投与用糖尿病薬製剤。
18.基剤が、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる上記16記載の製剤。
19.基剤が、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる上記16記載の製剤。
【0037】
20.基剤が、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる上記17記載の製剤。
21.基剤が、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる上記17記載の製剤。
22.基剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートである上記16又は17記載の製剤。
23.基剤が、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体である上記16又は17記載の製剤。
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病薬、特に糖尿病患者の食後血糖値および空腹時血糖値の両方を1製剤で直接コントロール、つまり、下げて正常値に近づけるための製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の糖尿病治療薬は、食後血糖値または空腹時血糖値のいずれかを下げて正常値に近づける治療薬である。このうち、食後血糖値を下げて正常値に近づける治療薬としては、ナテグリニドが開発され、例えば、特許文献1や2に記載されている。又、空腹時血糖値を下げて正常値に近づける治療薬としては、例えば、非特許文献1などに記載されている。近年、糖尿病の治療には食後血糖値および空腹時血糖値の両方を下げて正常値に近づけることが重要と考えられてきているが、これまでその両方を下げて正常値に近づける製剤はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献2】特公平4―15221号公報
【特許文献3】特開平10−194969号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】近藤信雄、日本臨牀、第55巻1997年増刊号、p159
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は1製剤で食後血糖値および空腹時血糖値の両方を直接下げて正常値に近づける製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、1製剤で食後血糖値および空腹時血糖値の両方を下げて正常値に近づけることが可能となることを見いだし本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、糖尿病患者の血糖値を低下させる活性成分を含有し、糖尿病患者の食後血糖値および空腹時血糖値の両方を正常値に近づける形態となっていることを特徴とする経口投与用糖尿病薬製剤を提供する。
本発明は、又、ナテグリニドを含有し、1時間の溶出試験において、pH1.2、4.0及び6.8のいずれにおいても該活性成分の溶出率が1%以上70%未満であることを特徴とする経口投与用糖尿病薬製剤を提供する。
本発明は、又、ナテグリニドを含有し、ナテグリニドの溶出率がpHに依存し、1時間の溶出試験において、pH1.2でのナテグリニドの溶出率が、pH6.8での溶出率よりも20%以上低い経口投与用糖尿病薬製剤を提供する。
本発明は、又、ナテグリニドを含有し、1時間の溶出試験において、pH4.0での該活性成分の溶出率が20%未満で、pH6.0での該活性成分の溶出率が20%以上である経口投与用糖尿病薬製剤を提供する。
本発明は、又、ナテグリニド、及び多糖誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリオキシエチレン誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の基剤を含有し、ナテグリニドが該基剤中に分散、該基剤によりエマルション化又はマイクロカプセル化されている経口投与用糖尿病薬製剤を提供する。
本発明は、又、ナテグリニド、及び多糖誘導体(但し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを除く)、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の基剤を含有し、ナテグリニドが該基剤でコーティングされている経口投与用糖尿病薬製剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の速放性顆粒のJP2液中におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出プロファイル(n=3)を示す図である。
【図2】実施例2の硬化油マトリクス顆粒のJP2液中におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出プロファイル(n=3)を示す図である。
【図3】実施例3のエチルセルロースマトリクス顆粒のJP2液中におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出プロファイル(n=3)を示す図である。
【図4】実施例4の速放性顆粒と硬化油マトリクス顆粒を混合(2:8 ナテグリニド重量比)したときのJP2液中におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出プロファイル(n=3)を示す図である。
【図5】実施例4の速放性顆粒と硬化油マトリクス顆粒を混合(2:8 ナテグリニド重量比)したときのJP2液中におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)によるナテグリニドの放出量(n=3)を示す図である。
【図6】実施例8の腸溶性顆粒A及びB及びCの中性pH域におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出性(n=3)を示す図である。
【図7】実施例9の速放性顆粒と腸溶性顆粒Aを混合(5:5 ナテグリニド重量比)したときのパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出率60分値のpH依存性(n=3)を示す図である。
【図8】実施例14の腸溶性顆粒A、B、Cをビーグル犬に食直前投与(ナテグリニド:9mg/kg)したときの血糖値推移を示す図である(対照:n=6、腸溶性顆粒:n=3)。
【図9】実施例15のナテグリニド製剤をビーグル犬に食直前投与したときの血糖値推移を示す図である(対照、速放性錠剤:n=6、速放部+腸溶性顆粒A、腸溶性顆粒A:n=3)。
【図10】実施例19のナテグリニド製剤をビーグル犬に食直前投与した時のナテグリニド血漿中濃度推移を示す図である(平均±SE(標準誤差)、n=6、ただし速放部(ナテグリニド:60mg)+腸溶性顆粒A(ナテグリニド:90mg)のナテグリニド製剤は3,8,9,12,24時間値のみn=3)。
【図11】実施例19のナテグリニド製剤をビーグル犬に食直前投与した時の血糖値推移を示す図である。(平均、投与直前血糖値を100%としたときの血糖値推移、n=6、ただし速放部(ナテグリニド:60mg)+腸溶性顆粒A(ナテグリニド:90mg)のナテグリニド製剤は3,8,9,12,24時間値のみn=3)。
【図12】実施例20の侵食性マトリクス錠剤、侵食性マトリクスコーティング錠剤のJP2液中におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出プロファイル(n=3)を示す図である。
【図13】実施例22の有核錠のJP2液中におけるパドル法(試験液900ml:毎分50回転)による溶出プロファイル(n=3)を示す図である。
【図14】実施例22の有核錠をビーグル犬に食直前投与した時のナテグリニド血漿中濃度推移を示す図である。(平均±SE、n=3、ただし速放性製剤(ナテグリニド:60mg)はn=6)。
【図15】実施例22の有核錠をビーグル犬に食直前投与した時の血糖値推移を示す図である。(平均、投与直前血糖値を100%としたときの血糖値推移、n=3、ただし対照及び速放性製剤(ナテグリニド:60mg)はn=6)。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における「糖尿病患者の食後血糖値および空腹時血糖値の両方を正常値に近づける」とは、糖尿病患者の食後血糖値および空腹時血糖値を下げて、それぞれ正常人の食後血糖値及び空腹時血糖値に近づけることである。
糖尿病患者の血糖値を低下させる活性成分としては、食後血糖値を低下させる第1の活性成分と空腹時血糖値を低下させる第2の活性成分とからなっていてもよい。
この場合、食後血糖値を低下させる第1の活性成分としては、糖尿病患者の食後血糖値を正常人の血糖値に近づける薬物であり、例えば、ナテグリニド等の速効型食後血糖降下剤、アカルボース等のα−グリコシダーゼ阻害剤等の薬物が挙げられる。とくに、ナテグリニドが好ましい。
又、空腹時血糖値を低下させる第2の活性成分としては、糖尿病患者の空腹時血糖値を正常人の空腹時血糖値に近づける薬物であり、例えば、トルブタミド等のスルホニル尿素系薬物(SU剤)、塩酸メトホルミン等のビグアナイド系薬物、トログリタゾン等のインスリン抵抗性改善剤等の薬物が挙げられる。
本発明では、又、血糖値を低下させる活性成分が、該活性成分の放出を速放化した形態及び遅放化した形態の両方を含有する場合、あるいは遅放化のうち、徐放化された単独の形態の場合も含有する。この場合、血糖値を低下させる活性成分が、上記第1の活性成分単独使用、第1の活性成分と第2の活性成分の併用のいずれでもよく、これらの場合、第1の活性成分と第2の活性成分は、それぞれ単一でも複数でもよい。本発明では、上記第1の活性成分単独使用が好ましく、ナテグリニドと他の活性成分との併用又はナテグリニドの単独使用がより好ましく、特にナテグリニドの単独使用が好ましい。
【0009】
ここで、「活性成分の放出を速放化した形態」とは、特開平10―194969号公報に記載されているような速放性錠剤や、それに類する放出挙動を示す各種剤形である。投与後、胃の中で速やかに薬物を溶出させるものをいう。一方、「活性成分の放出を遅放化した形態」とは、(i)継続的に薬物を放出する単独の形態、つまり徐放化した単独の形態、と(ii)一定時間経過後、薬物を放出する単独の形態が含まれる。このようなものとしては、pH依存型、時間依存型、時限放出型、消化管部位特異的放出型等があげられる。これらのうち、pH依存型と時間依存型と時限放出型が好ましい。
本発明では、特に、血糖値を低下させる単一の活性成分を含有し、経口投与した時に食後から空腹時にわたり、該活性成分が継続的に放出される形態となっているのが好ましく、ここで血糖値を低下させる単一の活性成分として、ナテグリニドを用いるのが好ましい。ここで、継続的に放出される形態としては、本発明では、速放性の形態と遅放性の形態とが組み合わさって、活性成分が継続的に放出される場合と、該活性成分が、遅放化のうち徐放化単独の形態となっている場合の両方を含む。
血糖値を低下させる活性成分の放出を速放化した形態及び遅放化した形態若しくは徐放化される形態は、血糖値を低下させる活性成分を、マトリクス基剤中に分散、コーティング基剤によりコーティング、エマルション基剤によりエマルション化又はマイクロカプセル基剤によりマイクロカプセル化することにより、容易に得られる。このような方法は、マトリクス法、錠剤コーティング法、顆粒コーティング法またはエマルション法・マイクロカプセル化法等として知られている。また他の方法を用いても良い。
【0010】
マトリクス基剤、コーティング基剤、エマルション基剤及びマイクロカプセル基剤が、独立して多糖誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリオキシエチレン誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれるのが好ましい。
ここで、マトリクス法とはマトリクス基剤中に薬物を分散させ、放出挙動を制御する方法である。マトリクス基剤としては、例えば、上述した多糖誘導体、油脂、ポリアクリル酸誘導体等が挙げられるが、水中で薬物、水などが拡散できるような多孔質構造を形成し薬学的に許容される化合物であれば良い。より好ましくは、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質から選ばれる1種又は2種以上の混合物である。ここで、セルロース誘導体としては、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース及びヒドロキシエチルセルロースから選ばれる1種又は2種以上の混合物が好ましい。又、メチルセルロース及び前記化合物との混合物も好ましい。
【0011】
マトリクスを作る方法としては、高速攪拌造粒法、流動層造粒法、溶融造粒法、溶媒除去法、スラッグ打錠法等が挙げられるが、薬物とマトリクス基剤と混合できる方法であれば本発明におけるマトリクス製造法として採用することができる。マトリクスの種類としては、薬物放出中にマトリクス骨格が崩れない非侵食性(非崩壊性)マトリクス、及び薬物放出とともにマトリクス骨格も崩壊していく侵食性(崩壊性)マトリクスがあげられる。水に溶解しない基剤を用いた場合非侵食性マトリクスが得られ、水に溶解する基剤を用いた場合侵食性マトリクスが得られる。
その際、マトリクス基剤の種類、マトリクス基剤と薬物との比率あるいは製造方法を変えることにより、さまざまな放出挙動を得ることができる。薬物放出挙動はpH依存型、時間依存型、時限放出型であるのが好ましいが、食後血糖値と空腹時血糖値を下げて正常値に近づけるように薬物を放出することができれば良く、他の放出挙動であっても本発明を完成することができる。マトリクス基剤と薬物の具体的な重量比率は1:99〜 99:1、好ましくは10:90 〜90:10である。
コーティング法には、顆粒コーティング法と錠剤コーティング方法が含まれる。顆粒コーティング法は薬物を含有する素顆粒にコーティングを施して放出挙動を制御する方法である。
【0012】
本発明においてコーティング法に用いるコーティング基剤としては、例えば、上述したポリアクリル酸誘導体、多糖誘導体、油脂等が挙げられるが、水中で薬物、水などが拡散できるような多孔質構造を形成し薬学的に許容される化合物、あるいは溶解度がpH依存的であり、薬学的に許容される化合物であれば良い。より好ましくは、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質から選ばれる1種又は2種以上の混合物である。ここで、セルロース誘導体としては、マトリクス基剤についてあげたのと同様のものが好ましい。
顆粒コーティング方法としては、流動層コーティング法、転動層コーティング法等が挙げられるが、素顆粒上にコーティング皮膜が形成できる方法であれば本発明におけるコーティング法として採用することができる。ここで、素顆粒とは、コーティングを施す元の顆粒をいい、薬物を含有しコーティングに適した形状の顆粒を得る方法、例えば押し出し造粒法、高速撹拌造粒法、スプレードライ法等で素顆粒を製造することができる。
錠剤コーティング法は薬物を含有する素錠剤にコーティングする方法であり、錠剤コーティング方法としては、湿式コーティング法等が挙げられるが、素錠剤上にコーティング皮膜が形成できる方法であれば本発明におけるコーティング法として採用することができる。ここで、素錠剤とは、コーティングを施す元の錠剤を指し、薬物を含有しコーティングに適した形状の錠剤を得る方法、例えば湿式顆粒圧縮法、直接打錠法等で素錠剤を製造することができる。
【0013】
コーティング基剤、コーティング皮膜組成、コーティング皮膜の厚み、素顆粒又は錠剤組成、素顆粒又は錠剤製造方法またはコーティング方法等を変えることにより、pH依存放出、時間依存放出等の様々な放出挙動を得ることができる。薬物放出挙動はpH依存型、時間依存型、時限放出型であるのが好ましいが、食後血糖値と空腹時血糖値を下げて正常値に近づけるように薬物を放出することができれば良く、他の放出挙動であっても本発明を完成することができる。尚、pH依存型放出性の例としては、腸溶性顆粒などがあげられる。
エマルション法やマイクロカプセル化法とは、エマルションやマイクロカプセルに薬物を含有させ放出挙動を制御する方法である。
エマルションやマイクロカプセルの基剤としては、例えば、多糖誘導体、ポリアクリル酸誘導体、油脂、界面活性剤等があげられるが、水中でエマルション、マイクロカプセル内部から外部への薬物などの透過を制御するような構造を形成し、薬学的に許容される化合物であれば良い。より好ましくは、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物を、本発明におけるエマルション、マイクロカプセル原料として用いることができる。ここで、セルロース誘導体としては、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース及びヒドロキシエチルセルロースから選ばれる1種又は2種以上の混合物が好ましい。又、メチルセルロース及び前記化合物との混合物も好ましい。
【0014】
エマルション法やマイクロカプセル化法としては、液中乾燥法、水溶液・有機溶媒などを用いた相分離法、融解分散冷却法、スプレードライ法、気中懸濁被覆法、流動層コーティング法、転動層コーティング法、界面重合法、液中硬化被覆法等が挙げられる。
薬物放出挙動については、原料、組成、粒子径、製造方法等を変えることにより、pH依存放出、時間依存放出、等の様々な放出パターンを得ることができる。pH依存型、時間依存型、時限放出型であるのが好ましいが、食後血糖値と空腹時血糖値の両方を下げて正常値に近づけるように薬物を放出することができれば良く、他の放出挙動であってもよい。
本発明の第2の態様として、ナテグリニドを含有した1製剤に対し、1時間の溶出試験において、pH1.2、4.0及び6.8のいずれにおいても該活性成分の溶出率が1%以上70%未満であることを特徴とする経口投与用糖尿病薬製剤があげられる(この態様には、マトリクスなどの時間依存型放出型が該当し、実施例2、3、20、22が該当する)。ここで、溶出試験方法としては、日本薬局方第13局(以下「日局」とする)パドル法(試験液900ml:毎分50回転)溶出試験方法において、試験液として0.6w/v%ポリソルベート80を添加した日局崩壊試験法第1液(JP1液)、0.5w/v%ポリソルベート80を添加した1/4希釈pH=4.0McIlvaine緩衝液、日局崩壊試験法第2液(JP2液)を使用する。第2の態様は、マトリクス、コーティング、エマルション又はマイクロカプセルで行うのがよい。
【0015】
本発明の第3の態様として、ナテグリニドを含有した1製剤に対し、ナテグリニドの溶出率がpHに依存し、1時間の溶出試験において、pH1.2でのナテグリニドの溶出率が、pH6.8での溶出率よりも20%以上低いことを特徴とする経口投与用糖尿病薬があげられる(この態様には、pH依存型放出型及び時間依存型放出型等が該当し、実施例9が該当する)。ここで、溶出試験方法としては、同様に、日局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)溶出試験方法において、試験液として0.6w/v%ポリソルベート80を添加した日局崩壊試験法第1液(pH1.2)、日局崩壊試験法第2液(pH6.8)を使用する。第3の態様は、マトリクス、コーティング、エマルション又はマイクロカプセルで行うのがよい。
本発明の第4の態様として、ナテグリニドを含有した1製剤に対し、1時間の溶出試験において、pH4.0での該活性成分の溶出率が20%未満で、pH6.0での該活性成分の溶出率が20%以上であることを特徴とする経口投与用糖尿病薬があげられる(この態様には、pH依存型放出型が該当し、実施例8の腸溶性顆粒Cが該当する)。ここで、溶出試験方法としては、同様に、日局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)溶出試験方法において、試験液として0.5w/v%ポリソルベート80を添加した1/4希釈pH=4.0 McIlvaine緩衝液、Clark-Lubs緩衝液(リン酸二水素カリウム-水酸化ナトリウム系:pH6.0又は6.5)を使用する。
本発明では、さらに、pH6.5での該活性成分の溶出率が60%以上であるのが好ましい。
上記のような溶出特性を有する製剤は、上述したように、血糖値を低下させる活性成分を、マトリクス基剤中に分散、コーティング基剤によりコーティング、エマルション基剤によりエマルション化又はマイクロカプセル基剤によりマイクロカプセル化することにより得ることができる。
本発明の第5の態様として、ナテグリニド、及び多糖誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリオキシエチレン誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の基剤を含有し、ナテグリニドが該基剤中に分散、該基剤によりエマルション化又はマイクロカプセル化されている経口投与用糖尿病薬製剤があげられる。
【0016】
また、本発明の第6の態様としてナテグリニド、及び多糖誘導体(但し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを除く)、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の基剤を含有し、ナテグリニドが該基剤でコーティングされている経口投与用糖尿病薬製剤があげられる。
第5の態様の場合、基剤が、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であるのが好ましい。又、メチルセルロース及び前記化合物との混合物も好ましい。
また、第6の態様の場合には、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であるのが好ましい。又、メチルセルロース及び前記化合物との混合物も好ましい。
【0017】
上記第5及び第6の態様における基剤としては、さらに、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート又はメタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体が好ましい。ここで、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体として、メタクリル酸コポリマーLD又は乾燥メタクリル酸コポリマーLDであるのが好ましい。これらによれば、ナテグリニドを遅放化製剤とすることができる。
本発明の経口用の製剤としては、例えば顆粒、錠剤、散剤、カプセル剤等各種の形態が含まれる。
【0018】
血糖値を低下させる活性成分を徐放化した形態のみでも食後血糖値及び空腹時血糖値の両方を下げて正常値に近づけることが可能である。例えば、第4の態様を満たす形態の時に可能となる。具体的には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、メタクリル酸コポリマーLをこのような製剤の基剤として用いることが可能であるが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを用いた場合が特に好ましい。速放化した形態と、遅放化した形態を併用することにより、食後血糖値及び空腹時血糖値の両方を精度良く下げ、正常値に近づけることが可能である。食後血糖値を下げて正常値に近づける薬物を遅放化したものと食後血糖値を下げて正常値に近づける薬物を速放化したものとの混合比は食後血糖値を下げて正常値に近づける薬物の重量比として1:99〜99:1、好ましくは10:90〜90:10である。混合方法及び混合した形態は、本発明においては限定されない。又、徐放化したものを単独で用いることができる。混合した形態としては、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、液剤等があげられる。たとえば速放化顆粒と遅放化顆粒を混合した場合は顆粒剤である。これらの顆粒をカプセルに充填した場合カプセル剤となる。錠剤とするには、これらの混合顆粒を打錠する、あるいは各々の顆粒を層に分けて打錠する(多層錠)、あるいは遅放化顆粒を打錠して得た遅放部錠剤を内核とし、外殻に速放化顆粒を用いて打錠する(有核錠)。
また、本製剤を用いた場合、食後血糖値を下げて正常値に近づける成分と空腹時血糖値を下げて正常値に近づける成分の量比および活性成分の薬効の強さにもよるが、1日あたり活性成分として1 mg〜10gを投与すればよい。
【0019】
実施例
以下の実施例により本発明を具体的に説明する。これらは本発明の好ましい実施態様であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
速放部の設計
実施例1 速放性顆粒
ナテグリニド 375.0g、乳糖一水和物637.5g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース450.0gを高速撹拌造粒機で10分間混合し、その後ヒドロキシプロピルセルロース15 gを水に溶かした結合液 1035gを添加し造粒を2.5分間行った。得られた造粒物をニュースピードミルで全量整粒し、流動層乾燥機にて乾燥した。得られた造粒物を850μmの篩でふるい分けし、850μm上に残った造粒物は強制篩過し、両者を混合後速放性顆粒とした。
日局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて日本薬局方崩壊試験法第2液中における溶出性を評価したところ、20分でほぼ100%ナテグリニドを放出することを確認した(図1)。
【0020】
マトリクス顆粒による遅放性部の設計
実施例2 硬化油を用いたマトリクス顆粒(遅放性)
硬化油1.5gを乳鉢内で加熱により溶融させ、そこにナテグリニド 3gを加えて十分に練合した。室温に戻した後、粉砕し、180〜710μm分画を篩分してマトリクス顆粒を得た。
得られたマトリクス顆粒のJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。マトリクスとすることにより、速放性顆粒に比べナテグリニドの溶出速度は抑制された(図2)。主に空腹時血糖を下げて正常値に近づけるのに有効と考えられる遅放化が可能となった。
【0021】
実施例3 エチルセルロースを用いたマトリクス顆粒(遅放性)
エチルセルロース 1.5g、ナテグリニド3.0gをエタノールに溶解させ、エバポレーターを用いてエタノールを留去した。得られた固形分を更に60℃で3時間以上真空乾燥した。得られた固形分を粉砕し、180〜710μm分画を篩分してマトリクス顆粒を得た。
得られたマトリクス顆粒のJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。マトリクスとすることにより、速放性顆粒に比べナテグリニドの溶出速度は抑制された(図3)。主に空腹時血糖を下げて正常値に近づけるのに有効と考えられる遅放性が可能となった。
実施例4 速放性顆粒と遅放性硬化油マトリクス顆粒を混合したときの溶出プロファイル
実施例1記載の速放性顆粒と実施例2記載の遅放性硬化油マトリクス顆粒を混合(2:8ナテグリニド重量比)したときのJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。60分以内に65%程度薬物を放出し、その後6時間かけて徐々に薬物を放出した(図4)。食後血糖値および空腹時血糖値を下げて正常値に近づけるのに有効と推察される放出制御が可能となった(図5)。
コーティング顆粒による放出制御部の設計
【0022】
実施例5 コーティング用素顆粒1
ナテグリニド 250g、乳糖一水和物425g、ヒドロキシプロピルセルロース10 gを水815gにホモジナイザーを用いて懸濁、溶解させ、その後低置換度ヒドロキシプロピルセルロース300.0gに添加し練合した。押し出し造粒機を用いて押し出し造粒し、得られた造粒物をマルメライザー(不二パウダル、Q-230型)にて整粒、球形化した。その後流動層乾燥機で乾燥した。篩分により850μm〜1400μm分画を得て、コーティング用素顆粒1とした。
実施例6 コーティング用素顆粒2
ナテグリニド 250g、乳糖一水和物425g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース300.0gを高速撹拌造粒機で10分間混合し、その後ヒドロキシプロピルセルロース10 gを水に溶かした結合水690gを添加して5分間造粒を行った。その後流動層乾燥機で乾燥した。篩分により850μm〜1400μm分画を得て、コーティング用素顆粒2とした。
実施例7 コーティング用素顆粒3
ナテグリニド 250g、乳糖一水和物725gを高速撹拌造粒機で10分間混合し、その後ヒドロキシプロピルセルロース10 gを水に溶かした結合水690gを添加して5分間造粒を行った。その後流動層乾燥機で乾燥した。篩分により850μm〜1400μm分画を得て、コーティング用素顆粒3とした。
pH依存型放出制御部の設計
【0023】
実施例8 腸溶性顆粒(遅放性)
実施例5記載のコーティング用素顆粒1に流動層コーティング法による腸溶性コーティングを施した。コーティング液処方を表1と2(乾燥メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート220824)に示す。腸溶性基剤には乾燥メタクリル酸コポリマーLD(商品名:Eudragit L100-55、 Rohm社), メタクリル酸コポリマーS(商品名:Eudragit S100、Rohm社)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート220824(商品名:HP-50、 信越化学)を用いた。
乾燥メタクリル酸コポリマーLDを素顆粒に対して33w/w%、メタクリル酸コポリマーSを34w/w%、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート220824を24w/w%コーティングした腸溶性顆粒(それぞれ腸溶性顆粒A、B、C)の中性pH域溶出性(パドル法(試験液900ml:毎分50回転)、60分値溶出率、Clark-Lubs緩衝液)を評価した。腸溶性顆粒A、B、CはそれぞれpH=6.5、7.2、5.5で溶出し始めることを確認した(図6)。
【0024】
表-1
腸溶性基剤a又はb 7.0%
マクロゴール6000 0.7%
タルク 3.5%
エタノール 70.0%
水 18.8%
腸溶性基剤a:乾燥メタクリル酸コポリマーLD
腸溶性基剤b:メタクリル酸コポリマーS
【0025】
表-2
ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート220824 7.0%
マクロゴール6000 0.7%
タルク 1.0%
エタノール 73.0%
水 18.3%
【0026】
実施例9 速放部(速放性顆粒)と遅放部(腸溶性顆粒)を混合したときの溶出プロファイル
実施例1記載の速放部(速放性顆粒)と実施例8記載の遅放部(腸溶性顆粒A(乾燥メタクリル酸コポリマーLDを素顆粒に対して33w/w%コーティングした顆粒))を混合(5:5ナテグリニド重量比)したときの溶出率60分値(日局13局、パドル法(試験液900ml:毎分50回転)、酸性pH:0.6w/v%ポリソルベート80添加日局崩壊試験法第1液(JP1液)、中性pH:Clark-Lubs緩衝液)を評価した。pH=1.2 〜6.0の範囲では速放性顆粒のみ溶出し、pH =6.5以上では速放性顆粒、腸溶性顆粒両方からナテグリニドが溶出した(図7)。食後血糖値および空腹時血糖値を下げて正常値に近づけるのに有効と推察される放出制御が可能となった。
時間依存放出部の設計
実施例10 時間依存型徐放顆粒(遅放性)
実施例7記載のコーティング用素顆粒3に流動層コーティング法による水不溶性膜コーティングを施した。コーティング液処方を表3に示す。コーティング基剤にはアミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS(商品名:Eudragit RSPO、Rohm社)を用いた。
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRSを素顆粒に対して30w/w%コーティングした顆粒のJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。速放性顆粒に比べ、ナテグリニドの溶出速度は制御された。主に空腹時血糖を下げて正常値に近づけるのに有効と推察される放出制御が可能となった。
【0027】
表-3
アミノアルキルメタアクリレートコポリマー 7.0%
マクロゴール6000 0.7%
タルク 3.5%
エタノール 70.0%
水 18.8%
実施例11 速放性顆粒と時間依存的徐放顆粒を混合したときの溶出プロファイル
実施例1記載の速放性顆粒と実施例10記載の時間依存型徐放顆粒を混合(5:5ナテグリニド重量比)したときのJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。30分以内に50%程度薬物を放出し、その後6時間かけて徐々に薬物を放出した。食後血糖値および空腹時血糖値を下げて正常値に近づけるのに有効と推察される放出制御が可能となった。
【0028】
実施例12 時限放出型顆粒(遅放性)
実施例5記載のコーティング用素顆粒1に流動層コーティング法による水不溶性膜コーティングを施した。コーティング液処方を上記表3に示す。コーティング基剤にはアミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS(商品名:Eudragit RSPO、Rohm社)を用いた。アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRSを素顆粒に対して30.0w/w%コーティングした顆粒のJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。溶出試験開始後2時間まで顆粒からナテグリニドはほとんど放出されないが、その後急速に放出した。主に空腹時血糖を下げて正常値に近づけるのに有効と推察される放出制御が可能となった。
実施例13 速放性顆粒と時限放出型顆粒を混合したときの溶出プロファイル
実施例1記載の速放性顆粒と実施例12記載の時限放出型顆粒を混合(5:5ナテグリニド重量比)したときのJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。30分以内に50%程度薬物を放出し、その後2時間後に残りの薬物を急速に放出した。食後血糖値および空腹時血糖値を下げて正常値に近づけるのに有効と推察される放出制御が可能となった。
実施例14 遅放部(腸溶性顆粒)投与による血糖値推移評価
遅放部として腸溶性顆粒A,B,Cをビーグル犬に食直前投与し(ナテグリニドとして9mg/kg)、血糖値推移を評価したところ、対照(給餌のみ)に比べ、腸溶性顆粒A,Bでは主に空腹時血糖値を、腸溶性顆粒Cでは食後血糖値及び空腹時血糖値の両方を下げて正常値に近づけることがわかった(図8)。
実施例15 速放部と遅放部(腸溶性顆粒)同時投与による血糖値推移評価
速放部(ナテグリニド:60mg)と腸溶性顆粒A(ナテグリニド:90mg)をビーグル犬に食直前投与し、血糖値推移を評価したところ、対照(給餌のみ)に比べ、食後血糖値及び空腹時血糖値の両方を下げて正常値に近づけることがわかった(図9)。
【0029】
実施例16 エマルション製剤(遅放性)
ナテグリニド1.0g、大豆レシチン3.0g、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 0.5gを、ジクロロメタン60mlに溶解し、エバポレーターにてジクロロメタンを留去した。得られた油状分を更に60℃で3時間以上真空乾燥した。得られた油状分を水200ml中にホモジナイザーを用いて激しく分散させ、その後0.5モル/リツトル水酸化ナトリウムにてpH=7.5に調整し、ナテグリニドエマルション製剤を得た。
実施例17 エマルション製剤(遅放性)
ナテグリニド1.0g、トウモロコシ油1.0g、ポリソルベート80 2.0gを均一に混合した。得られた油状分を水100ml中にホモジナイザーを用いて激しく分散させ、その後0.5モル/リツトル水酸化ナトリウム水溶液にてpH=5.9に調整し、ナテグリニドエマルション製剤を得た。
実施例18 マイクロカプセル製剤(遅放性)
ナテグリニド5g、ポリ乳酸15gをジクロロメタンに溶解した。激しく攪拌しながら0.5w/v%のポリビニルアルコール水溶液1000mlに、このジクロロメタン溶液をゆっくり添加し、分散液を得た。加温、減圧操作により得られた分散液からジクロロメタンを留去した。
この分散液を遠心分離機にかけてマイクロカプセル分画を沈殿させた。上澄を除去し、水を加えてマイクロカプセルを再分散させた。この洗浄操作を2回行った。
洗浄後のマイクロカプセル分散液を凍結乾燥し、ナテグリニドマイクロカプセル製剤を得た。
【0030】
実施例19 速放部と遅放部(腸溶性顆粒)同時投与による血糖値推移評価(遅放部用量依存性評価)
速放部(ナテグリニド:60mg)と腸溶性顆粒A(ナテグリニド:60又は90mg)をビーグル犬に食直前投与し、ナテグリニド血漿中濃度推移、血糖値推移を評価した。
ナテグリニド血漿中濃度推移では、腸溶性顆粒Aの投与量が増加するに従い、Cmax(最高血漿中濃度)はほとんど変化しないものの、投与後4-9時間のナテグリニド血漿中濃度上昇傾向が観察された(図10)。
血糖値では、腸溶性顆粒Aの投与量が増加するに従い、投与後4-9時間の血糖値抑制傾向が観察された。実施例15と同様、速放部+遅放部とすることにより、食後血糖値及び空腹時血糖値の両方を下げて正常値に近づけることがわかり、かつ遅放部の効果が傾向的に確認された(図11)。
実施例20 侵食性マトリクス錠剤及び侵食性マトリクスコーティング錠剤(遅放部)
ナテグリニド100.0g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース25.0g、結晶セルロース41.7gを高速攪拌造粒機に入れ混合後、水90.0gを添加して1.5分間造粒した。得られた造粒物を棚段で乾燥し、目開き850μmの篩を用いて篩過した。以上の操作を2回行い、混合して317gの造粒物を得た。
この得られた造粒物とステアリン酸マグネシウム6.47gを混合し、打錠して侵食性マトリクス錠剤を得た。
得られた侵食性マトリクス錠剤にヒドロキシプロピルメチルセルロース50.0g、マクロゴール6000 10.0gを水1440gに溶解させたコーティング液を用いてコーティングし(侵食性マトリクス錠剤重量に対してヒドロキシプロピルメチルセルロースを12.5%コーティング)、侵食性マトリクスコーティング錠剤を得た。
【0031】
実施例21 侵食性マトリクス錠剤及び侵食性マトリクスコーティング錠剤の溶出プロファイル
実施例20で得られた侵食性マトリクス錠剤及び侵食性マトリクスコーティング錠剤のJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。侵食性マトリクス錠剤とすることにより、速放性顆粒に比べナテグリニドの溶出速度は抑制された(図12)。侵食性マトリクスコーティング錠剤とすることにより、侵食性マトリクス錠剤に比べ、溶出に50分程度のラグタイムが観察された(図12)。
主に空腹時血糖を下げて正常値に近づけるのに有効と考えられる遅放性が可能となった。
実施例22 侵食性マトリクス錠剤を内核とした有核錠
実施例21で得られた侵食性マトリクス錠剤、及び実施例1で得られた速放性顆粒を用いて有核錠を製造した(侵食性マトリクス錠剤:153mg、速放性顆粒:236.4mg、ステアリン酸マグネシウム:3.6g、錠剤径:10mmφ)。
実施例23 有核錠の溶出プロファイル
実施例22記載の有核錠のJP2液中における溶出性を日局第13局パドル法(試験液900ml:毎分50回転)にて評価した。30分以内に44%薬物を放出し、その後徐々に薬物を放出し、3時間値は62%となった(図13)。食後血糖値および空腹時血糖値を下げて正常値に近づけるのに有効と推察される放出制御が可能となった。
【0032】
実施例24 有核錠のイヌにおけるナテグリニド血漿中濃度推移及び血糖値推移評価
実施例22で得られた有核錠をビーグル犬に食直前投与し、ナテグリニド血漿中濃度推移及び血糖値推移評価を評価した。
ナテグリニド血漿中濃度推移では、速放性製剤に比べてCmaxは上げないものの、投与後9時間程度までナテグリニド血漿中濃度が高く維持されることが明らかとなった(図14)。
血糖値では、食後血糖値及び空腹時血糖値の両方を下げることが明らかとなった(図15)。
本発明により食後血糖値および空腹時血糖値の両方を1製剤で直接下げて正常値に近づけることが可能となった。
又、本発明において、1製剤とすることにより、(1)他の製剤を服用している場合でも、のみまちがえる可能性が低くなる、(2)携帯時にかさばらない、(3)1製剤を食前、もう1製剤を食後に服用する場合があるが、服用のタイミングを間違えると、効果が出なかったり、重篤な副作用(低血糖状態)が生じる等の可能性が出るが、1製剤とすることによりこの可能性を回避できる、(4)患者が負担する費用が安くなる、といった利点が得られる。
【0033】
次に、本発明の態様を示す。
1.糖尿病患者の血糖値を低下させる活性成分を含有し、糖尿病患者の食後血糖値および空腹時血糖値の両方を正常値に近づける形態となっていることを特徴とする経口投与用糖尿病薬製剤。
2.食後血糖値を低下させる第1の活性成分と空腹時血糖値を低下させる第2の活性成分とを含有する上記1記載の製剤。
3.血糖値を低下させる活性成分を含有し、該活性成分の放出を速放化した形態及び遅放化した形態の両方を含有する上記1記載の製剤。
4.血糖値を低下させる活性成分が、単一である上記3記載の製剤。
5.血糖値を低下させる単一の活性成分を含有し、経口投与した時に食後から空腹時にわたり、該活性成分が継続的に放出される単独の形態となっている上記1記載の製剤。
【0034】
6.血糖値を低下させる活性成分が、マトリクス基剤中に分散、コーティング基剤によりコーティング、エマルション基剤によりエマルション化又はマイクロカプセル基剤によりマイクロカプセル化されている上記2〜5のいずれか1項記載の製剤。
7.マトリクス基剤、コーティング基剤、エマルション基剤及びマイクロカプセル基剤が、独立して多糖誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリオキシエチレン誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる上記6記載の製剤。
8.マトリクス基剤が、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる上記6記載の製剤。
9.コーティング基剤が、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる上記6記載の製剤。
10.エマルション基剤及びマイクロカプセル基剤が、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる上記6記載の製剤。
【0035】
11.血糖値を低下させる活性成分が、ナテグリニドである上記1〜10のいずれか1項記載の製剤。
12.ナテグリニドを含有し、1時間の溶出試験において、pH1.2、4.0及び6.8のいずれにおいても該活性成分の溶出率が1%以上70%未満であることを特徴とする経口投与用糖尿病薬製剤。
13.ナテグリニドを含有し、ナテグリニドの溶出率がpHに依存し、1時間の溶出試験において、pH1.2でのナテグリニドの溶出率が、pH6.8での溶出率よりも20%以上低い経口投与用糖尿病薬製剤。
14.ナテグリニドを含有し、1時間の溶出試験において、pH4.0での該活性成分の溶出率が20%未満で、pH6.0での該活性成分の溶出率が20%以上である経口投与用糖尿病薬製剤。
15.pH6.5での該活性成分の溶出率が60%以上である上記14記載の製剤。
【0036】
16.ナテグリニド、及び多糖誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリオキシエチレン誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の基剤を含有し、ナテグリニドが該基剤中に分散、該基剤によりエマルション化又はマイクロカプセル化されている経口投与用糖尿病薬製剤。
17.ナテグリニド、及び多糖誘導体(但し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを除く)、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の基剤を含有し、ナテグリニドが該基剤でコーティングされている経口投与用糖尿病薬製剤。
18.基剤が、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる上記16記載の製剤。
19.基剤が、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる上記16記載の製剤。
【0037】
20.基剤が、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる上記17記載の製剤。
21.基剤が、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる上記17記載の製剤。
22.基剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートである上記16又は17記載の製剤。
23.基剤が、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体である上記16又は17記載の製剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病患者の血糖値を低下させる単独の活性成分として、速効型食後血糖降下剤を含有し、かつ該活性成分の放出を速放化した形態及び遅放化した形態の両方を含有し、それにより、該活性成分の放出が糖尿病患者の食後血糖値および空腹時血糖値の両方を正常値に近づけるようになっており、遅放化した形態がコーティング基剤により該活性成分がコーティング、エマルション基剤により該活性成分がエマルション化又はマイクロカプセル基剤により該活性成分がマイクロカプセル化されていることを特徴とする経口投与用糖尿病薬製剤。
【請求項2】
コーティング基剤、エマルション基剤及びマイクロカプセル基剤が、独立して多糖誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリオキシエチレン誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる請求項1記載の製剤。
【請求項3】
コーティング基剤が、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる請求項2記載の製剤。
【請求項4】
エマルション基剤及びマイクロカプセル基剤が、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる請求項2記載の製剤。
【請求項5】
該活性成分が、ナテグリニドである請求項1〜4のいずれか1項記載の製剤。
【請求項1】
糖尿病患者の血糖値を低下させる単独の活性成分として、速効型食後血糖降下剤を含有し、かつ該活性成分の放出を速放化した形態及び遅放化した形態の両方を含有し、それにより、該活性成分の放出が糖尿病患者の食後血糖値および空腹時血糖値の両方を正常値に近づけるようになっており、遅放化した形態がコーティング基剤により該活性成分がコーティング、エマルション基剤により該活性成分がエマルション化又はマイクロカプセル基剤により該活性成分がマイクロカプセル化されていることを特徴とする経口投与用糖尿病薬製剤。
【請求項2】
コーティング基剤、エマルション基剤及びマイクロカプセル基剤が、独立して多糖誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ポリ乳酸誘導体、ポリオキシエチレン誘導体、ポリビニルピロリドン誘導体、ポリビニルアルコール誘導体、油脂及び界面活性剤からなる群から選ばれる請求項1記載の製剤。
【請求項3】
コーティング基剤が、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる請求項2記載の製剤。
【請求項4】
エマルション基剤及びマイクロカプセル基剤が、セルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸共重合体、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、グリセライド、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤及びリン脂質からなる群から選ばれる請求項2記載の製剤。
【請求項5】
該活性成分が、ナテグリニドである請求項1〜4のいずれか1項記載の製剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−153157(P2011−153157A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108428(P2011−108428)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【分割の表示】特願2001−548145(P2001−548145)の分割
【原出願日】平成12年12月27日(2000.12.27)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【分割の表示】特願2001−548145(P2001−548145)の分割
【原出願日】平成12年12月27日(2000.12.27)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】
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