説明

経口投与製剤

【課題】塩酸チクロピジンまたは硫酸クロピドグレルが有する不快な味を改善した経口投与製剤を提供する。
【解決手段】塩酸チクロピジンまたは硫酸クロピドグレルに、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールおよびpH調節剤を併用添加することにより上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬物の不快な味、とりわけ苦味を改善した経口投与製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、不快な味(苦味、辛味、渋味など)を有する薬物の経口投与製剤を服用すると、そもそもの味が不快なため、飲みにくい等の問題があった。このため、服用時の薬物の不快な味を隠蔽するために、カプセル剤、糖衣錠、フイルムコーティング錠、三層錠、シロップ剤などの剤形として製剤化されている。
【0003】
また、不快な味を有する薬物の顆粒剤、散剤、細粒剤については、薬物の不快な味を隠蔽する工夫として、1)フイルムコーティングを施す方法、2)溶融したワックス類に薬物を分散、固化し、破砕する方法などが採用されている。
【0004】
しかしながら、1)の方法で製した製剤は口腔内で崩壊しないため、ザラツキ感があり、また義歯間に入って疼痛を起こしたりする問題がある。また、2)の方法で製した製剤は消化管における薬物の溶出性に劣り、バイオアベイラビリティーが低下するという問題があった。
【0005】
上記の方法のほかに、添加剤による薬物の不快な味、とりわけ苦味の改善方法についてもいくつか知られている。
例えば、特開平2−76826号公報には、苦味を有する酸性の薬物(塩基性薬物の酸付加塩)にメントールおよびアルカリ性物質を添加すると苦味が感じられないと記載され、特開平4−327529号公報には、塩基性薬物の酸付加塩を含有する核が弱アルカリ性化合物にて覆われてなる苦味の改善された経口剤が記載されている。
【0006】
また、特開平6−206824号公報には、苦味のある薬剤にアルカリ土類酸化物およびアルカリ土類水酸化物を添加した苦味の減少した薬剤組成物が記載され、特開平6−157312号公報には、キシリットを添加してなる苦味改善テルフェナジンドライシロップ顆粒剤が記載されている。
【0007】
さらに、特開平8−99904号公報には、溶解熱が−60KJ/kg以下の糖アルコールを添加してなる苦味改善易服用性Hブロッカー固形製剤が記載されている。
【0008】
添加剤によって苦味を改善する場合、砂糖、ブドウ糖、果糖などの糖類、エリスリトール、D−マンニトール、D−ソルビトール、キシリトール、マルチトール、マルトース、ラクチトール、還元麦芽糖水飴などの糖アルコール類、サッカリン、アスパルテーム、グリチルリチン酸、ステビア、ソーマチンなどの甘味料が用いられている。
【0009】
しかしながら、上記の糖類や糖アルコール類などの添加によって苦味を改善する場合、糖類や糖アルコール類を多量に配合しなければならないという問題点があった。
すなわち、苦味を有する薬物1重量部に対し、糖類や糖アルコール類を少なくとも25重量部以上は配合する必要があり、また、より苦味を改善するには50重量部以上あるいは100重量部以上配合する必要があった。
この場合の剤形としては、シロップ剤、トローチ剤、ドロップ剤(飴)などであり、比較的大きな製剤にせざるを得ないという欠点があった。特に、投与量が1回100mg以上の薬物では、糖類や糖アルコール類の添加による方法では、苦味を低減させる効果はあるものの、苦味を全く感じない程度に改善することは、服用できる製剤の大きさや量に制限があることから、錠剤、顆粒剤、散剤、細粒剤などに製剤化するには、実際上困難であった。
【0010】
また、アルカリ性物質の添加は、苦味を低減させる効果があるものの、多量にアルカリ性物質を配合しても苦味の低減効果には限度があり、アルカリ性物質単独では苦味を全く感じない程度に改善するのは困難であった。
【0011】
近年、水なしでも服用でき、小児や老人でも服用し易い剤形として、口腔内で速やかに溶解または崩壊する錠剤や顆粒剤などの開発が試みられている。しかしながら、多くの薬物は苦味を有することから、この苦味の改善がこれら製剤の開発において大きな課題となっており、十分満足の行く製剤は未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2−76826号公報
【特許文献2】特開平4−327529号公報
【特許文献3】特開平6−206824号公報
【特許文献4】特開平6−157312号公報
【特許文献5】特開平8−99904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、少量の添加剤によって薬物の不快な味をまったく感じない程度に改善した服用性に優れた経口投与製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
鋭意研究の結果、本発明者らは、不快な味を有する薬物に、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールおよびpH調節剤を併用添加することによって、不快な味、とりわけ苦味をまったく感じない程度に改善できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、不快な味を有する薬物、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールおよびpH調節剤を含有する経口投与製剤に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、pH調節剤を併用することにより、薬物の不快な味を改善するために添加する糖アルコールの添加量を低減し、服用し易い小型の経口投与製剤を提供するものである。
本発明によれば、具体的には、pH調節剤を併用することにより、糖アルコールを単独で使用した場合と比較して、添加量を少なくとも1/5、より好ましくは1/10、さらに好ましくは1/20に低減した、製剤としての服用量がより少ない経口投与製剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明にかかる不快な味を有する薬物は、特に限定されるものではないが、不快な味、特に苦味を有する薬物としては、その構造中に少なくとも1つの塩基性基を有する化合物、該化合物の酸付加塩、該化合物の溶媒和物、該化合物の酸付加塩の溶媒和物などを挙げることができる。
なお、塩基性基とは1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アミノ基などの基を意味し、具体的にはアミノ基、アミジノ基、メチルアミノ基等を挙げることができる。
【0017】
本発明における薬物の不快な味の低減方法は、薬物の種類によって3通り[a)〜c)]考えることができる。
すなわち、a)薬物がその構造中に塩基性基を有する化合物の場合、pH調節剤により、口腔内のpHを薬物のpKa値以上に高めて、塩基の解離を抑制し、非解離(分子型)にして口腔内での溶解度を低下させる。また、薬物の脂溶性を高めて呈味を変化させ(油脂の味に)、ひいては薬物が有する不快な味を低減させる。
【0018】
b)薬物がその構造中に塩基性基と酸性基を有する両性化合物の場合は、pH調節剤により、構造中の酸性基(例えば、カルボキシル基)のpKa値以上に口腔内のpHを高めて、解離させ、分子内塩やpH調節剤との塩を形成せしめて、呈味を変化させる。また、塩基性基のpKa値以上に口腔内のpHを高めて解離を抑制し、ひいては薬物が有する不快な味を低減させる。
【0019】
c)薬物が塩基性基を有する化合物の酸付加塩および両性化合物の酸付加塩の場合は、これらの薬物の水に対する溶解度を高めるために化合物の酸付加塩とすることが多いことから、pH調節剤によって、この酸付加塩をはずして遊離体にし、口腔内での溶解度を低下させ、ひいては薬物が有する不快な味を低減させる。
【0020】
本発明にかかる不快な味、とりわけ苦味を有する薬物としては、次のものを例として挙げることができる。
構造中に塩基性基を有する化合物としては、例えば、シメチジン、ファモチジン、ニザチジン、アセトアミノフェン、エピリゾール、ピラジナミド、カフェイン、エチオナミド、カルベジロール、アミノフィリン、スルピリン、テオフィリン、ジフェンヒドラミン、メトクロプラミド、フェニルブタゾン、フェノバルビタールおよびクロラムフェニコールなどを挙げることができる。
【0021】
構造中に塩基性基と酸性基を有する両性化合物とは、前述した塩基性基とカルボキシル基、スルホン基、ホスホン基などの酸性基を構造中に有するもので、例えば、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、ガンマアミノ酪酸、ナリジクス酸、レボフロキサシン、オフロキサシン、L−トリプトファン、L−ロイシン、L−イソロイシン、アンピシリンおよびエノキサシンなどを挙げることができる。
【0022】
塩基性基を有する化合物の酸付加塩としては、塩酸、硝酸、硫酸などの鉱酸と塩基性基を有する化合物との塩、および酢酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸などの有機酸と塩基性基を有する化合物との塩を挙げることができ、例えば、塩酸チクロピジン、塩酸ラニチジン、塩酸ロキサチジンアセタート、塩酸イミプラミン、塩酸エフェドリン、塩酸クロルプロマジン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸テトラサイクリン、塩酸ドキシサイクリン、塩酸ナファゾリン、塩酸ノスカピン、塩酸パパベリン、塩酸ヒドララジン、臭化水素酸デキストロメトルファン、臭化チメピジウム、マレイン酸クロルフェニラミン、酒石酸アリメマジン、塩酸ピルジカイニド、N−メチルスコポラミンメチル硫酸塩、硫酸クロピドグレルおよびマレイン酸シネパジドなどを挙げることができる。
【0023】
両性化合物の酸付加塩としては、塩酸、硝酸、硫酸などの鉱酸と両性化合物との塩、および酢酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸などの有機酸と両性化合物との塩を挙げることができ、例えば、塩酸セトラキサート、塩酸アルギニン、塩酸ヒスチジン、塩酸リジンおよび酢酸リジンなどを挙げることができる。
【0024】
また、本発明においては、塩基性基を有する化合物または両性化合物を成分として含有する生薬および該生薬の抽出物(エキス、チンキなど)も、本発明の不快な味を有する薬物に含まれる。
生薬としては、例えばエンゴサク、オウバク、オウレン、ホミカ、マオウ、トコン、ロートコン、ベラドンナおよびクジンなどを挙げることができる。
【0025】
本発明においては、薬物が有する不快な味の改善をpH調節剤を添加することにより行うが、pH調節剤のpHの値が大きいと本発明の経口投与製剤を服用したときに、口腔内でpH調節剤自体の刺激を感じる。
そのため、本発明においては不快な味を有する薬物のpKa値または不快な味を有する薬物1%(w/v)水溶液あるいは1%(w/v)水懸濁液のpH値は、2〜11がよく、3〜10が好ましく、4〜9がさらに好ましい。
【0026】
本発明においては、不快な味、中でも苦味を有する薬物としてシメチジン、ファモチジン、ニザチジンおよび塩酸ラニチジンなどのHブロッカー、トラネキサム酸、塩酸チクロピジン、硫酸クロピドグレルおよび塩酸セトラキサートなどが本発明に適用するのに好ましい薬物として挙げることができる。
【0027】
本発明におけるpH調節剤とは、口腔内で不快な味を有する薬物である塩基性基を有する化合物の塩基性基の解離を抑制し、非解離(分子型)に成し得るもの、または、塩基性基を有する化合物の酸付加塩や両性化合物の酸付加塩を遊離体に成し得るものであれば特に制限はない。
【0028】
具体的には、pH調節剤の1%(w/v)水溶液または1%(w/v)懸濁液のpH値が、塩基性基を有する化合物もしくは塩基性基と酸性基を有する両性化合物である薬物のpKa値、または塩基性基を有する化合物の酸付加塩もしくは塩基性基と酸性基を有する両性化合物の酸付加塩である薬物の1%(w/v)水溶液あるいは1%(w/v)水懸濁液のpH値以上の値を示すものが好ましく、薬物の上記pKa値またはpH値より大きい値を示すものがさらに好ましい。
【0029】
中でも薬物の上記pKa値またはpH値に比べ、pH調節剤の上記pH値が0.5〜7大きい値を示すものが好ましく、1〜3大きい値を示すものが特に好ましい。
本発明のpH調節剤のpH値としては、3〜12が好ましく、より好ましくは4〜11,特に好ましくは5〜10である。
ここで、1%(w/v)水溶液とは、溶媒100ml中に溶質が1g溶解しているものを意味する。懸濁液の場合も水溶液と同様である。
【0030】
pH調節剤としては、例えば、有機酸のアルカリ金属塩、有機酸のアルカリ土類金属塩、アミノ酸、アミノ酸の金属塩、および弱酸性〜弱アルカリ性(具体的にはpH5〜10)の無機化合物を挙げることができる。
【0031】
具体的には、有機酸のアルカリ金属塩としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、酢酸、乳酸などの有機酸とナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩を挙げることができ、有機酸のアルカリ土類金属塩としては、上述の有機酸とマグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属との塩を挙げることができる。
【0032】
アミノ酸としては、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、リジン、アルギニンおよびヒスチジンなどを挙げることができ、アミノ酸のアルカリ金属塩としては、上述のアミノ酸とナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩を挙げることができる。
【0033】
また、弱酸性〜弱アルカリ性の無機化合物としては、乾燥水酸化アルミニウムゲル、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム、水酸化アルミニウムゲル、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈生成物、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム混合乾燥ゲル、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム・炭酸カルシウム共沈生成物、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、烏賊骨、石決明、ボレイ、リン酸二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素ナトリウム、無水リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムおよびポリリン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0034】
本発明においては、pH調節剤として、有機酸のアルカリ金属塩および弱酸性〜弱アルカリ性の無機化合物が好ましく、その中でも乾燥水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、無水リン酸一水素ナトリウムおよび沈降炭酸カルシウムが好ましい。
中でも、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、無水リン酸一水素ナトリウムおよび沈降炭酸カルシウムがさらに好ましい。
【0035】
本発明におけるpH調節剤は、口腔内のpH値を薬物のpKa値または薬物の1%(w/v)水溶液あるいは1%(w/v)水懸濁液のpH値以上に調節するためにだけ添加するものであり、多量に添加する必要はない。
不快な味を有する薬物1重量部に対して、pH調節剤は0.1〜200重量部、好ましくは0.2〜50重量部、より好ましくは0.3〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜7重量部添加すればよい。
【0036】
多量にpH調節剤を添加しないため、口腔内のpH値が調節されて、不快な味を有する薬物の口腔内での溶解度は低下するが、該薬物の溶解度はpH値に依存する可逆的なものであることから、胃内に入ると胃酸により中和され、本来の溶解度にもどる。
したがって、薬物の吸収に対するpH調節剤の影響はほとんど生じない。
【0037】
本発明を適用するのに好ましい、不快な味(苦味)を有する薬物の1つであるシメチジンのpKa値は7.1である。水に対する溶解度は、pH6.5で30mg/ml(25℃)であるが、pH8.3では5.3mg/ml(25℃)に低下する。
【0038】
また、塩酸セトラキサートは両性化合物の酸付加塩であり、そのpKa値は4.5(カルボキシル基)と10.5(アミノ基)である。水に対する溶解度はpH2.8で27mg/ml(22℃)であるが、pH3.3で4.4mg/ml(22℃)、pH5.9で0.4mg/ml(22℃)に低下する。
【0039】
これらの知見に基づき、pH調節剤によって、口腔内での薬物の溶解をコントロールでき、ひいては薬物の不快な味(苦味)を低減させることができる。さらに、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールを添加することによって、薬物が有する不快な味を全く感じない程度に改善することができる。
【0040】
本発明において、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールとは、糖アルコールを水に溶解するとき、吸収する溶解熱が20cal/gもしくはそれより大きいものである。
このような糖アルコールとしては、例えば、エリスリトール(溶解熱:−42.9cal/g)、キシリトール(溶解熱:−35cal/g)、マンニトール(溶解熱:−28.9cal/g)およびソルビトール(溶解熱:−24.1cal/g)などを挙げることができ、吸収する溶解熱が大きい程、不快な味の改善効果が大きく、また添加量を少なくすることができるので、上述の糖アルコールのなかではエリスリトールが特に好ましい。
【0041】
溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールでないと不快な味の改善効果が小さいので、添加量をかなり多くしないと、良好な服用感を得ることができない。
例えば、溶解熱が−20cal/g以下でない糖アルコールであるマルチトール(溶解熱:−5.5cal/g)では、不快な味(苦味)を有する薬物1重量部に対し、20重量部添加しても、良好な不快な味(苦味)の改善効果は得られなかった(後記参考例5参照)。
【0042】
また、糖類の白糖(溶解熱:−4.5cal/g)やブドウ糖(溶解熱:−13.8cal/g)などでも、これらは甘味度が高いにもかかわらず、薬物が有する不快な味(苦味)の改善効果が小さく、良好な服用感が得られなかった(後記参考例5参照)。
しかしながら、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールを用いることにより、薬物が有する不快な味が改善され、清涼感があり、良好な服用感のある経口投与製剤を得ることができる。
【0043】
本発明において、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールの添加量は、不快な味を有する薬物1重量部に対して、0.1〜50重量部でよく、好ましくは、1〜25重量部であり、さらに好ましくは、5〜10重量部である。
また、製剤全重量に対しては、30重量%以上がよく、好ましくは、30〜90重量%であり、さらに好ましくは40〜70重量%である。
【0044】
本発明における、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールの粒子径については、特に制限はないが、経口固形製剤とする場合には、口中でのざらつきなどの点で、粒子径は500μm以下のものが好ましい。
【0045】
本発明における経口投与製剤の剤形は、特に限定されるものではないが、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、液剤およびシロップ剤などを挙げることができる。
なお、錠剤にはチュアブル錠、トローチ剤、ドロップ剤や口腔内で速やかに溶解、崩壊し、水なしでも服用できる成形物を含み、また用時溶解して用いる発泡錠も含む。
顆粒剤、散剤および細粒剤には、用時溶解して用いるドライシロップ剤を含み、また、口腔内で速やかに溶解、崩壊し、水なしでも服用できる粒状物を含む。
【0046】
本発明の経口投与製剤には、本発明の効果を妨げない程度に、一般に用いられる種々の製剤添加物を含んでいてもよい。
製剤添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、着香剤、甘味剤および矯味剤などを挙げることができる。
【0047】
賦形剤としては、乳糖、白糖、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸およびケイ酸カルシウムなどを挙げることができる。
崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、クロスポピドン、カルメロースカルシウムおよびクロスカルメロースナトリウムなどを挙げることができる。
【0048】
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルクおよびショ糖脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
着色剤としては、食用黄色5号色素、食用赤色2号色素、食用青色2号色素、食用レーキ色素、黄色三二酸化鉄および酸化チタンなどを挙げることができる。
着香剤としては、オレンジ、レモン、各種香料などを挙げることができる。
【0049】
甘味剤としては、アスパルテーム、ステビア、ソーマチン、サッカリンナトリウムおよびグリチルリチン酸二カリウムなどを挙げることができる。甘味剤の中でも、アスパルテームはpH調節剤としてナトリウム塩を添加した際、その添加によって生じる塩味を打ち消す効果があり、特に好ましい。
アスパルテームの添加量は、製剤全重量に対して、0.01〜2重量%、好ましくは0.05〜1重量%、更に好ましくは0.1〜0.5重量%である。
【0050】
矯味剤としては、L−メントール、カンフル、ハッカ、L−グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸二ナトリウムおよび塩化マグネシウムなどを挙げることができる。このうち、L−メントールは、清涼感があり、苦味改善効果をさらに向上することから、特に好ましい。
L−メントールの添加量は、製剤全重量に対して、0.01〜2重量%、好ましくは0.05〜1重量%、さらに好ましくは0.1〜0.5重量%である。
【0051】
これらの製剤添加物は、経口投与製剤の製造に際して、適宜、適当な工程で添加すればよい。
本発明の経口投与製剤は、公知の経口投与製剤の製造方法により製造することができる。例えば、固形製剤の造粒方法としては、流動層造粒法、攪拌造粒法、転動流動層造粒法、押し出し造粒法、噴霧造粒法および破砕造粒法などを用いることができる。以下に、流動層造粒法を用いた製造方法を詳細に説明する。
【0052】
不快な味を有する薬物に、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコール、pH調節剤、所望により乳糖、トウモロコシデンプンなどの賦形剤を加え、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコールなどの結合剤の水溶液を用いて流動層造粒乾燥機で造粒し、所望によりアスパルテームを加えて、混合機で混合し、散剤、顆粒剤または細粒剤とすればよい。
【0053】
また、得られた造粒物にステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤を必要量添加して、混合した後、常法により打錠機で打錠し、錠剤やチュアブル錠とすることもできる。
また、必要に応じて、顆粒剤を調製する際に、不快な味を有する薬物とpH調節剤とを別々の顆粒剤に調製し、それらを混合してもよい(多顆粒法)。
【0054】
本発明の好ましい態様は次の通りである。
1.塩酸チクロピジンまたは硫酸クロピドグレル、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールおよびpH調節剤を含有する経口投与製剤。
【0055】
2. 溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールがエリスリトール、キシリトール、マンニトールおよびソルビトールからなる群より選ばれる1種または2種以上の混合物である態様1に記載の経口投与製剤。
3.塩酸チクロピジンまたは硫酸クロピドグレル1重量部に対し、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールが0.1〜50重量部である態様1または2に記載の経口投与製剤。
【0056】
4.塩酸チクロピジンまたは硫酸クロピドグレル1重量部に対し、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールが5〜10重量部である態様1〜3のいずれかに記載の経口投与製剤。
5.pH調節剤の1%(w/v)水溶液または1%(w/v)水懸濁液のpH値が、不快な味を有する薬物のpKa値以上または1%(w/v)水溶液あるいは1%(w/v)水懸濁液のpH値以上である態様1〜4のいずれかに記載の経口投与製剤。
6.pH調節剤が炭酸水素ナトリウム、無水リン酸水素二ナトリウムおよび沈降炭酸カルシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上の混合物である態様1〜5のいずれかに記載の経口投与製剤。
【0057】
7.塩酸チクロピジンまたは硫酸クロピドグレル1重量部に対し、pH調節剤が0.1〜200重量部である態様1〜6のいずれかに記載の経口投与製剤。
8.塩酸チクロピジンまたは硫酸クロピドグレル1重量部に対し、pH調節剤が0.5〜7重量部である態様1〜6のいずれかに記載の経口投与製剤。
9.甘味剤および/または矯味剤をさらに含有する態様1〜8のいずれかに記載の経口投与製剤。
【0058】
10.アスパルテームおよび/またはL−メントールをさらに含有する態様1〜8のいずれかに記載の経口投与製剤。
11.剤形が錠剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、液剤またはシロップ剤である態様1〜10のいずれかに記載の経口投与製剤。
12.溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールおよびpH調節剤を含有させることにより、塩酸チクロピジンまたは硫酸クロピドグレルを含む経口投与製剤の服用性を改善する方法。
13.甘味剤および/または矯味剤をさらに含有させる態様12に記載の経口投与製剤の服用性を改善する方法。
【実施例】
【0059】
以下に参考例および実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
[参考例1]
シメチジン(pKa:7.1)50g、エリスリトール(日研化学(株)製:目開き350μmの篩パス品)250g、沈降炭酸カルシウム225g、炭酸水素ナトリウム75g、トウモロコシデンプン33.5gおよびアスパルテーム6.5gを量り、流動層造粒乾燥機に入れ、3分間混合した後、ヒドロキシプロピルセルロースの5%(w/v)の水溶液200mlを用いてスプレー圧1.5kg/cm、スプレー液速度15ml/分で造粒を行った。乾燥後、得られた造粒物を目開き1000μmの篩で篩過し、散剤(散剤1.3g中にシメチジンを100mg含有する。)を得た。
【0061】
[参考例2]
シメチジン(pKa:7.1)50g、エリスリトール(日研化学(株)製:目開き350μmの篩パス品)350g、沈降炭酸カルシウム100g、炭酸水素ナトリウム75g、トウモロコシデンプン32.1g、結晶セルロース30gおよびアスパルテーム6.5gを量り、流動層造粒乾燥機に入れ、3分間混合した後、ヒドロキシプロピルセルロースの2.5%(w/v)水溶液100mlを用いてスプレー圧1.5kg/cm、スプレー液速度15ml/分で造粒を行った。乾燥後得られた造粒物を目開き1000μmの篩で篩過し、これに、ステアリン酸マグネシウムを0.6重量%添加して混合した。次に、単発打錠機を用いて、外径18mm、穴径6mmのリング状杵で、錠剤重量1300mgで打錠し、チュアブル錠(1錠中にシメチジンを100mg含有する。)を得た。
【0062】
[参考例3]苦味の官能試験(1)
参考例1および参考例2で得たシメチジンを含有する固形製剤につき、苦味の官能試験を行った。官能試験はパネラー5名で行い、口腔内に約20秒間含み、苦味の程度を下記評価基準で判定した。結果を表1に示す。
【0063】
A:苦味を感じない。
B:苦味をほとんど感じない。
C:苦味をわずかに感じる。
D:苦味を感じる。
E:苦味を強く感じる。
【0064】
【表1】

【0065】
表1の結果から明らかなように、参考例1の散剤および参考例2のチュアブル錠について、5名のパネラーいずれもが苦味を感じなかった。
【0066】
[参考例4]苦味の官能試験(2)
シメチジン、エリスリトール、炭酸水素ナトリウム、沈降炭酸カルシウム、アスパルテームの粉末を表2に示す重量比で量り、乳鉢で混合した後、得られた混合末について苦味の官能試験を行った。官能試験はパネラー2名で行い、口腔内に約20秒間含み、苦味の程度を下記評価基準で判定した。結果を表2に示す。
【0067】
A:苦味を感じない。
A*:苦味を感じないが塩味を感じる。
B:苦味をほとんど感じない。
C:苦味をわずかに感じる。
C*:苦味をわずかに感じ、塩味も感じる。
D:苦味を感じる。
E:苦味を強く感じる。
【0068】
【表2】

【0069】
表2の結果から明らかなように、シメチジンの苦味を糖アルコールのエリスリトールのみの添加にて改善するためには、シメチジン1重量部に対してエリスリトールは50重量部以上、より苦味を改善するには、100重量部必要である(組成cおよびd参照)。
一方、糖アルコールとpH調節剤を併用した場合には、シメチジン1重量部に対してエリスリトールを4重量部以上、より苦味を改善するには5重量部以上添加し、pH調節剤の炭酸水素ナトリウムを2重量部または炭酸水素ナトリウムを1.5重量部と沈降炭酸カルシウムを4.5重量部添加するとシメチジンの苦味を改善することができる(組成f〜i参照)。
【0070】
なお、炭酸水素ナトリウムを2重量部添加した場合、塩味が感じられるが、アスパルテームを0.01重量部添加すると、この塩味を打ち消す効果があり、特に好ましいことがわかった(組成jおよびk参照)。
【0071】
[参考例5]苦味の官能試験(3)
シメチジン、キシリトール、D−マンニトール、D−ソルビトール、マルチトール、ブドウ糖、白糖、炭酸水素ナトリウム、アスパルテームの粉末を表3に示す重量比で量り、乳鉢で混合した後、得られた混合末について苦味の官能試験を行った。官能試験はパネラー2名で行い、口腔内に約20秒間含み、苦味の程度を下記評価基準で判定した。結果を表3に示す。
【0072】
A:苦味を感じない。
B:苦味をほとんど感じない。
C:苦味をわずかに感じる。
D:苦味を感じる。
E:苦味を強く感じる。
【表3】

【0073】
表3の結果から明らかなように、pH調節剤として炭酸水素ナトリウムを用い、糖アルコールとして溶解熱が−20cal/g以下のキシリトール、D−マンニトール、D−ソルビトールを併用した場合には、シメチジンの苦味を感じない程度に改善することができた(組成l〜n参照)。
【0074】
しかし、溶解熱が−20cal/g以下でない糖アルコールのマルチトールではシメチジンの苦みを改善できなかった(組成o参照)。
また、糖類のブドウ糖や白糖では、シメチジンの苦みを改善できなかった(組成pおよびq参照)。
[実施例1]苦味の官能試験(4)
塩酸セトラキサート(pKa:4.5(カルボキシル基)、pKa:10.5(アミノ基))、塩酸チクロピジン(pKa:6.93)、トラネキサム酸(pKa:4.33(カルボキシル基)、pKa:10.65(アミノ基))、エリスリトール、無水リン酸水素二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アスパルテーム、L−メントールの各粉末を表4に示す重量比で量り、乳鉢で混合した後、得られた混合末について苦味の官能試験を行った。官能試験はパネラー2名で行い、口腔内に約20秒間含み、苦味の程度を下記評価基準で判定した。結果を表4に示す。
【0075】
A:苦味を感じない。
A*:苦味は感じないが、強い刺激感を感じる。
B:苦味をほとんど感じない。
C:苦味をわずかに感じる。
D:苦味を感じる。
E:苦味を強く感じる。
E*:強い苦味と強い刺激感を感じる。
【表4】

【0076】
表4の結果から明らかなように、糖アルコールとpH調節剤を併用することにより、塩酸セトラキサート、塩酸チクロピジンおよびトラネキサム酸の苦味を改善することができた(組成s、uおよびw参照)。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、薬物が有する不快な味を、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールおよびpH調節剤を併用添加することにより、不快な味をまったく感じない程度に改善された経口投与製剤を得ることができる。
また、糖アルコールの添加量が低減できるため、製剤を小型化することができ、服用性に優れたものである。
さらに、本発明の経口投与製剤は、工程数が多いなどの複雑な製造法を必要とせず、一般的な製造法で製造することができるので、経済的で工業生産性の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸チクロピジンまたは硫酸クロピドグレル、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールおよびpH調節剤を含有する経口投与製剤。
【請求項2】
溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールがエリスリトール、キシリトール、マンニトールおよびソルビトールからなる群より選ばれる1種または2種以上の混合物である請求項1に記載の経口投与製剤。
【請求項3】
塩酸チクロピジンまたは硫酸クロピドグレル1重量部に対し、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールが0.1〜50重量部である請求項1または2に記載の経口投与製剤。
【請求項4】
塩酸チクロピジンまたは硫酸クロピドグレル1重量部に対し、溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールが5〜10重量部である請求項1または2に記載の経口投与製剤。
【請求項5】
pH調節剤の1%(w/v)水溶液または1%(w/v)水懸濁液のpH値が、不快な味を有する薬物のpKa値以上または1%(w/v)水溶液あるいは1%(w/v)水懸濁液のpH値以上である請求項1〜4のいずれかに記載の経口投与製剤。
【請求項6】
pH調節剤が炭酸水素ナトリウム、無水リン酸水素二ナトリウムおよび沈降炭酸カルシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上の混合物である請求項1〜5のいずれかに記載の経口投与製剤。
【請求項7】
塩酸チクロピジンまたは硫酸クロピドグレル1重量部に対し、pH調節剤が0.1〜200重量部である請求項1〜6のいずれかに記載の経口投与製剤。
【請求項8】
塩酸チクロピジンまたは硫酸クロピドグレル1重量部に対し、pH調節剤が0.5〜7重量部である請求項1〜6のいずれかに記載の経口投与製剤。
【請求項9】
甘味剤および/または矯味剤をさらに含有する請求項1〜8のいずれかに記載の経口投与製剤。
【請求項10】
アスパルテームおよび/またはL−メントールをさらに含有する請求項1〜8のいずれかに記載の経口投与製剤。
【請求項11】
剤形が錠剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、液剤またはシロップ剤である請求項1〜10のいずれかに記載の経口投与製剤。
【請求項12】
溶解熱が−20cal/g以下の糖アルコールおよびpH調節剤を含有させることにより、 塩酸チクロピジンまたは硫酸クロピドグレルを含む経口投与製剤の服用性を改善する方法。
【請求項13】
甘味剤および/または矯味剤をさらに含有させる請求項12に記載の経口投与製剤の服用性を改善する方法。

【公開番号】特開2009−185082(P2009−185082A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130118(P2009−130118)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【分割の表示】特願2000−513603(P2000−513603)の分割
【原出願日】平成10年9月29日(1998.9.29)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【Fターム(参考)】