説明

経口更年期症状改善剤

【課題】更年期等にみられる卵巣機能不全に関連する女性ホルモンの減少に伴って生じる様々な皮膚状態の悪化を抑制、緩和、改善するとともに、更年期症状の一つである、ほてり・ホットフラッシュを改善する。
【解決手段】経口更年期症状改善剤をマメ科シカクマメ(Psophocarpus)属に属する植物の中から選ばれる1種または2種以上の植物またはその抽出物からなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は女性ホルモンの減少に伴って生じる様々な皮膚状態の悪化を抑制、緩和、改善することが可能であるとともに、更年期症状の一つである、ほてり・ホットフラッシュを改善することが可能な経口更年期症状改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
更年期には女性ホルモンの減少に伴って不定愁訴の症状、例えば、全身倦怠、疲労感、微熱感、頭重、頭痛、のぼせ、耳鳴り、しびれ感、動悸、四肢冷感等の不快な症状をもたらし、日常生活にまで影響を及ぼすことが知られている。このような更年期の不定愁訴の症状、いわゆる更年期障害は、女性ホルモン(エストロゲン等)の分泌低下によるものと考えられており、若年層の女性においても、社会進出に伴う過度のストレスやダイエット等のためにホルモンバランスが崩れ、更年期障害に類似した症状を呈することが知られている。
【0003】
女性ホルモンは、骨の成分が溶け出すのを抑えて骨粗しょう症を予防したり、動脈硬化や高血圧の予防、あるいは細胞の潤いと柔軟性を守り皮膚や粘膜を健康に保ったり、自律神経のバランスを整えるなどの働きをしており、女性ホルモンの減少に伴う症状は肉体的にも精神的にも多岐にわたる障害が現われるが、皮膚状態、例えば皮膚弾力性、皮膚厚、皮脂量、皮膚色等のような皮膚生理パラメータにも女性ホルモンの減少が影響していることが知られている(非特許文献1)。
【0004】
更年期の不定愁訴の改善のために行われる女性ホルモン補充療法(HRT)は、不足している女性ホルモンを人為的に補うという考えに基づいている。このHRTは更年期障害や骨粗しょう症だけでなく、女性ホルモンの分泌低下に伴う皮膚状態の改善にも効果が認められる反面、乳がんや子宮体がんの発症率が高くなるといった危険性が指摘されている。このため、更年期障害に対するHRTに代わる療法として、大豆に含まれるイソフラボンを摂取することが知られている(例えば特許文献1)。また、更年期の皮膚状態の改善のためにイソフラボンを含有した組成物も提案されている(特許文献2および3)。
【0005】
イソフラボンは植物エストロゲンの一つといわれ、その化学構造が女性ホルモンであるエストロゲンと類似し、エストロゲン受容体に結合して促進的あるいは競合的に種々の生体作用を発揮することが知られている。イソフラボンは効き目が穏やかであることから、日常的に摂取しても副作用はないと言われているものの、一方で、乳ガン、子宮ガンなどの発生、増殖リスクを高める可能性があるとも考えられており、厚生労働省ではサプリメントなどを通じてのイソフラボン摂取には注意を促している。このような事情に鑑みれば、女性ホルモンの減少に伴って生じる様々な皮膚状態の悪化の改善、抑制、緩和等のために、HRT療法や女性ホルモンと類似する物質を摂取するといったこと以外の、副作用のリスクを考慮する必要のない薬剤やサプリメントが切望される。
【0006】
ところで、出願人は表皮細胞におけるラミニン5の産生能を高め、抗老化、シワ形成抑制作用を有するシカクマメ(学名:Psophocarpus tetragonolobus)の抽出物からなる皮膚外用剤を提案している(特許文献4)。また、シカクマメの抽出物には細胞増殖促進、TGF−β産生促進、コラーゲンゲル収縮促進、インテグリン産生促進、コラーゲン産生促進、ヒアルロン酸産生促進、タンパク質糖化抑制といった効果があることを見出し、シカクマメの抽出物を含んだ各種促進剤、抑制剤を提案している(特許文献5、6および7)。一方で、特許文献8には、シカクマメはイソフラボンを含有していることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本更年期医学会雑誌 Vol.8,No1,pp.30-40,2000
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−2831号公報
【特許文献2】特開2005−229855号公報
【特許文献3】特開2004−517801号公報
【特許文献4】特許3687747号公報
【特許文献5】特開2010−24211号公報
【特許文献6】特開2010−24222号公報
【特許文献7】特開2010−132632号公報
【特許文献8】特開平11−292898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献4ではシカクマメの抽出物が外用剤として抗老化、シワ形成抑制作用を有することが記載されているものの、シカクマメの抽出物を経口摂取した場合の効果は明らかではない。また、特許文献5、6および7に記載の細胞増殖促進、コラーゲン産生促進、タンパク質糖化抑制等の効果はin vitroにおける細胞レベルの評価であり、シカクマメの抽出物を経口で摂取した場合の効果としては薬物動態学上、同視することはできない。
【0010】
発明者らが検討したところ、シカクマメの種子および莢の抽出物には更年期等の女性ホルモンの減少に伴って生じる皮膚症状の悪化を抑制したり、緩和、改善する等の効果、また更年期症状の一つであるほてり・ホットフラッシュに改善効果があることを見出し本発明に至った。すなわち、本発明は、更年期等の女性ホルモンの減少に伴って生じる様々な皮膚症状の悪化を抑制、緩和、改善することが可能であるとともに、ほてり・ホットフラッシュを改善することが可能な経口更年期症状改善剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の経口更年期症状改善剤は女性ホルモンの減少に伴う更年期症状を抑制するためのものであって、マメ科シカクマメ(Psophocarpus)属に属する植物の中から選ばれる1種または2種以上の植物またはその抽出物からなるものである。
【0012】
前記植物またはその抽出物はマメ科シカクマメ(Psophocarpus)属に属する植物の種子または莢であることが好ましく、前記シカクマメ(Psophocarpus)属に属する植物はシカクマメ(Psophocarpus tetragonolobus)であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の経口更年期症状改善剤はマメ科シカクマメ(Psophocarpus)属に属する植物の中から選ばれる1種または2種以上の植物またはその抽出物からなるものであり、女性ホルモンの減少に伴う皮膚症状の悪化を抑制、緩和、改善することが可能であるとともに、更年期症状の一つである、ほてり・ホットフラッシュを改善することができる。
【0014】
マメ科シカクマメ(Psophocarpus)属に属する植物の抽出物の中でもとりわけシカクマメ(Psophocarpus tetragonolobus)の種子および莢には、特許文献8の記述に反してイソフラボンは含有されていないため、エストロゲン様による副作用を起こす懸念がなく、女性ホルモンの減少に伴う皮膚症状の悪化を抑制、緩和、改善し、ほてり・ホットフラッシュを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】シカクマメ抽出物摂取による水分量の変化を示すグラフである。
【図2】シカクマメ抽出物摂取による皮膚粘弾性の変化を示すグラフである。
【図3】シカクマメ抽出物摂取による皮膚色の変化を示すグラフである。
【図4】シカクマメ抽出物摂取によるゼラチナーゼ量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の経口更年期症状改善剤について詳細に説明する。本発明の経口更年期症状改善剤は女性ホルモンの減少、とりわけ卵巣機能不全に伴う更年期症状、具体的には皮膚症状の悪化を抑制、緩和、改善し、ほてり・ホットフラッシュを改善するものである。女性ホルモンの減少を伴う卵巣機能不全には、更年期障害、卵巣欠落症状など、女性ホルモンを産出する卵巣機能の低下を伴う様々な卵巣機能不全症が挙げられる。また、女性ホルモンには、エストロゲン(卵胞ホルモン)、例えばエストラジオール、エストリン、エストリオールや、プロゲステロン(黄体ホルモン)等が挙げられる。
【0017】
本発明の経口更年期症状改善剤は卵巣機能不全に関連する女性ホルモンの減少を原因とするものに好適に用いられる。ここで、更年期とは、いわゆる更年期(生殖期(性成熟期)と非生殖期(老年期)の間の移行期をいい、卵巣機能が減退し始め、消失するまでの時期)の他、女性ホルモンの分泌低下による若年性更年期や、女性ホルモンの分泌低下に起因する男性更年期をも含む広い概念である。
【0018】
本発明でいう女性ホルモンの減少に伴う皮膚症状の悪化とは、卵巣機能不全に起因する女性ホルモンの減少に伴って生じる様々な皮膚の変化であり、例えばシワ、たるみ、潤いやつやの減少、くすみ等が挙げられる。女性ホルモンの減少は真皮コラーゲン量の減少を引き起こし、シワやたるみの原因となる。また、女性ホルモンの減少によって皮脂量が減少するために、皮膚の潤いやつやを消失させる。さらに、女性ホルモンの減少は角質層の重層化を引き起こすために、経表皮水分蒸散量が減少して皮膚血流の低下が引き起こされ、肌の透明感が低下してくすみを助長する。本発明の経口更年期症状改善剤は女性ホルモンの減少に伴うこのような様々な皮膚症状の悪化の抑制、緩和および改善に有効である。
【0019】
ほてり・ホットフラッシュとは女性ホルモンの減少に伴って、脳の視床下部がコントロールする自律神経が乱れ、体温調節機能が低下し、突然顔が熱くなったり、大量の汗がしたたり落ちたり、あるいは、下半身は冷えているのに顔がやけにほてる、冷えのぼせと言われる症状を示すものである。本発明の経口更年期症状改善剤は女性ホルモンの減少に伴うこのようなほてり・ホットフラッシュの緩和および改善にも有効である。
【0020】
本発明の経口更年期症状改善剤に用いられるシカクマメ(Psophocarpus)属に属する植物は、マメ科の熱帯産つる性の草本である。本発明ではシカクマメ属に属する植物であれば特に限定されるものでなく、任意に用いることができる。中でもシカクマメ(Psophocarpus tetragonolobus)が好ましく用いられる。シカクマメ(Psophocarpus tetragonolobus)は日本にも移入され、栽培されている。改良品種として「ウリズン」等が知られている。本発明ではこれら改良品種も含むことはもちろんである。市販品はサカタのタネなどで購入することができる。
【0021】
シカクマメは生のままでも乾燥したものでも使用することができるが、使用性、製剤化等の点から乾燥粉末あるいは溶媒抽出物として用いることが好ましい。シカクマメの使用部位としては、種子、莢、葉、花、根、全草等、任意に用いられ得る。中でも種子または莢が好ましく用いられる。シカクマメの抽出物の中でもシカクマメの種子および莢には特許文献8の記述に反してイソフラボンは含有されていない。このため、エストロゲン様による副作用を起こすことがないため好適である。
【0022】
シカクマメの抽出物は常法より得ることができ、例えば、シカクマメを必要により乾燥した後、抽出溶媒に一定期間浸漬するか、あるいは加熱還流している抽出溶媒と接触させ、次いで濾過し、濃縮して得ることができる。抽出溶媒としては、通常抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、クロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒を、それぞれ単独であるいは適宜組み合わせて用いることができる。上記溶媒で抽出して得た抽出液をそのまま、あるいは濃縮したエキスを用いるか、あるいはこれらエキスを吸着法、例えばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものや、ポーラスポリマー(例えばアンバーライトXAD−2)のカラムにて吸着させた後、メタノールまたはエタノールで溶出し、濃縮したものも使用することができる。また分配法、例えば水/酢酸エチルで抽出した抽出物等も用いることができる。
【0023】
このようにして得られたシカクマメ抽出物は、安全性が高く、経口により卵巣機能不全に関連する女性ホルモンの減少に伴う皮膚症状の悪化の抑制等の作用、ほてり・ホットフラッシュの改善等の作用を有する。シカクマメおよびその抽出物が経口により、女性ホルモンの減少に伴う上記のような更年期症状改善作用があることはこれまで全く知られておらず、本発明者らによってこれら作用をもつことが初めて確認されたものである。
【0024】
本発明の経口更年期症状改善剤を飲食品や飼料等に配合する場合、シカクマメ抽出物の配合量(乾燥質量)は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができ、例えば、飲食品全量中に0.0001〜50質量%程度とすることができる。特に、保健用飲食品等として利用する場合には、本発明の有効成分を所定の効果が十分発揮されるような量で含有させることが好ましい。
【0025】
飲食品や飼料の形態としては、例えば、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状、または、液体状に任意に成形することができる。これらには、飲食品等に含有することが認められている公知の各種物質、例えば、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調製剤などの賦形剤を適宜含有させることができる。
【0026】
本発明の経口更年期症状改善剤を医薬製剤として用いる場合、剤型は任意で、例えば錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤など、いずれの形態にも公知の方法により適宜調製することができる。これらの医薬製剤には、通常用いられる結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、安定化剤やpH調製剤などの賦形剤を適宜使用してもよい。
【0027】
本発明の経口更年期症状改善剤を、飲食品、飼料、医薬製剤等として用いる場合、女性ホルモンの減少に伴う更年期症状の治療、予防、改善等に役立つ。具体的適用例としては、例えば、シワ、たるみ、潤いやつやの減少、くすみ等の皮膚状態の悪化の抑制、緩和、改善、ほてり・ホットフラッシュの改善等に好適に用いられる。また上記症状の治療、予防、改善等の生理機能をコンセプトとして、その旨を表示した機能性飲食品、疾病者用食品、特定保健用食品等に応用することができる。
以下、本発明の経口更年期症状改善剤を実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0028】
(試料調製)
シカクマメ(Psophocarpus tetragonolobus)の種子部分50gを、室温で1週間90%エタノールに浸漬し、抽出液を濃縮し、90%エタノール抽出物(乾燥物)2.9gを得た。シカクマメ莢も同様にして処理し、エタノール抽出物(乾燥物)2.5gを得た。
【0029】
(シカクマメ種子および莢の抽出物の成分分析)
上記で得られたシカクマメ種子および莢の抽出物をそれぞれ粉砕後、大豆イソフラボン(ダイジン、グリシチン、ゲニスチン及びそれぞれのアグリコン、アセチル体およびマロニル体)の有無をHPLC法により測定したところ、シカクマメ種子および莢の抽出物にはこれらの成分が含まれていないことが明らかとなった。
【0030】
(マウスの準備と投与)
雌ヘアレスマウス(HR−1雌マウス)に両側卵巣摘出術を施し、これを更年期(卵巣機能不全)動物モデル(以下、OVXマウスという)とした。卵巣摘出手術の影響を相殺するために、卵巣摘出をしない偽手術を施したShamマウスを対照マウスとして準備した。上記で調製したシカクマメ種子抽出物およびシカクマメ莢抽出物をそれぞれ、0.3%カルボキシメチルセルラーゼ(CMC)溶液にて懸濁させ100mg/kg/dayとなるようOVXマウスに強制経口投与した。コントロール投与群のOVXマウスとShamマウスにはCMC溶液を投与した。
【0031】
(評価方法)
(水分量)
投与3ヶ月後に、角層水分量をCorneometer CM825C(Courage+Khazaka社製)を用いて測定した。
【0032】
(皮膚粘弾性)
投与3ヶ月後に、キュートメーター(Courage+Khazaka社製)を用いて背部皮膚の皮膚粘弾性を測定した。なお、キュートメーターにより測定されるR1値は、値が小さいほど皮膚の戻りがよいことを示すものである。
【0033】
(皮膚明度)
投与2ヶ月後に、分光測色計CM−2600d(コニカミノルタホールディング(株)製)を用いて皮膚色の指標となるL*値(明度)を測定した。
【0034】
(ゼラチナーゼ量)
投与3ヶ月後に背部皮膚をサンプリングし、その皮下組織を取り除き、60℃の湯せんで表皮と真皮とに分けた。真皮を0.05Mのトリス塩酸バッファーで抽出した後、遠心分離にかけ(8000g、日立社製)、遠心上清中のゼラチナーゼの量をIV型コラゲナーゼ活性測定キット(ライフ研究所製)で分析した。粗抽出液中のタンパク量はBCA Protein Assay Kit(PIERCE社製)で測定し、タンパクあたりのゼラチナーゼ量を算出して比較した。
【0035】
水分量、皮膚粘弾性、皮膚明度、ゼラチナーゼ量の測定結果をそれぞれ図1、図2、図3、図4に示す。図1に示すように、OVXマウスではShamマウスに対して水分量が有意に低下しているが、シカクマメ種子エキスを投与したOVXマウス(OVX+種子エキスマウス)およびシカクマメ莢エキスを投与したOVXマウス(OVX+莢エキスマウス)はOVXマウスに対して水分量が有意に改善していることが看取できる。なお、図1の*および***はt−testによりそれぞれ、危険率5%、0.1%で有意な差を表わしている。以下、他の図面においても同様である。皮膚の潤いや柔軟性は角層水分量により影響を受ける。従って、シカクマメ種子エキスあるいはシカクマメ莢エキスを摂取することによって、角層水分量を高めることが可能であり、皮膚の潤いや柔軟性を高めることができることがわかる。
【0036】
また、図2に示すように、OVXマウスではShamマウスに対して皮膚粘弾性が低下しているのに対し、シカクマメ種子エキスを投与したOVXマウス(OVX+種子エキスマウス)およびシカクマメ莢エキスを投与したOVXマウス(OVX+莢エキスマウス)はOVXマウスに対して皮膚粘弾性が有意に改善していることがわかる。また、その他の皮膚粘弾性を示すパラメーター(R6,F2)も、OVXマウスに対してOVX+シカクマメ種子/莢エキスを投与したOVXマウスでは有意に改善し、OVXによる皮膚粘弾性の低下にシカクマメ種子エキスあるいはシカクマメ莢エキスが有効であることが明らかとなった。シワやたるみはコラーゲン量に影響を受け、コラーゲン量の減少は皮膚粘弾性の低下となる。すなわち、シカクマメ種子エキスあるいはシカクマメ莢エキスを摂取することによって皮膚粘弾性が改善するため、シワやたるみを抑制することができることがわかる。
【0037】
また、図3に示すように、OVXマウスではShamマウスに対して皮膚明度:L*値が悪化するが、シカクマメ種子エキスを投与したOVXマウス(OVX+種子エキスマウス)およびシカクマメ莢エキスを投与したOVXマウス(OVX+莢エキスマウス)はOVXマウスに対して改善していることがわかる。女性ホルモンの減少は皮膚表面の毛細血管血流の低下、色素沈着の増加等を引き起こし、このためくすみが生じる。シカクマメ種子エキスあるいはシカクマメ莢エキスを摂取することによって、明度の低下が抑制されるため、くすみの発生を抑制することが可能である。
【0038】
さらに、図4に示すようにOVXマウスではShamマウスに対して有意に真皮ゼラチナーゼ量が増加しているが、シカクマメ種子エキスを投与したOVXマウス(OVX+種子エキスマウス)およびシカクマメ莢エキスを投与したOVXマウス(OVX+莢エキスマウス)はOVXマウスに対して有意に真皮ゼラチナーゼ量が減少していることがわかる。表皮で産生される酵素ゼラチナーゼは皮膚の構造を保つコラーゲンやエラスチンを壊し変化させるものであり、女性ホルモンの減少によってゼラチナーゼ量が増加してシワが発生する原因になっている。シカクマメ種子エキスあるいはシカクマメ莢エキスを摂取することによって、真皮ゼラチナーゼ量が減少するため、シワの発生を抑制することができることがわかる。
【0039】
(シカクマメ種子エキスおよび莢エキス配合試験品の調製)
下記表1の配合によりシカクマメ種子エキス配合試験品および莢エキス配合試験品(いすれも錠剤)を製造した。
【0040】
【表1】

【0041】
(試験品の摂取および評価)
40代女性30名ずつの被験者に、シカクマメ種子エキス、シカクマメ莢エキスを配合した上記調製の試験品を2ヶ月間摂取してもらった。連用前、連用後1,2ヶ月時に、ほてり・ホットフラッシュの度合いについてヒアリングによるアンケートを行った。評価は、ほてり・ホットフラッシュがとてもあるを0、ほてり・ホットフラッシュが全くないを100として被験者にVAS法(visual analogue scale法)により回答してもらい、改善度を(試験開始後のスコア−試験開始前のスコア)により求めた。結果を表2に示す。表2から明らかなように、連用期間を経るに従い、ほてりやホットフラッシュの度合いが低下しており、試験品にほてり・ホットフラッシュの改善作用があることがわかる。
【0042】
【表2】

【0043】
以上の実施例から明らかなように、本発明の経口更年期症状改善剤は女性ホルモンの減少に伴う皮膚老化、シワ、たるみ、潤いやつやの減少、くすみ等を抑制、緩和、改善することができるとともに、更年期症状の一つである、ほてり・ホットフラッシュを改善することが可能である。また、本発明の経口更年期症状改善剤はイソフラボンを含有しないため、エストロゲン様による副作用を起こすことがないという利点も有する。
【0044】
(処方例)
以下に、本発明の経口更年期症状改善剤を含む製剤、サプリメント、食品、飲料等の処方例を示す。なお、配合量は質量部または質量%で表している。
【0045】
(錠剤)
(1,500mg/日)
(配合成分) (mg)
ショ糖エステル 70
結晶セルロース 74
メチルセルロース 36
グリセリン 25
本経口更年期症状改善剤:シカクマメ莢抽出物(乾燥残分) 475
N−アセチルグルコサミン 100
ヒアルロン酸 50
ビタミンE 30
ビタミンB6 20
ビタミンB2 10
α−リポ酸 20
コエンザイムQ10 40
セラミド(コンニャク抽出物) 50
L−プロリン 100
コラーゲン 400
【0046】
(ソフトカプセル)
(1,500mg/日)
(配合成分) (mg)
食用大豆油 530
トチュウエキス 50
ニンジンエキス 50
本経口更年期症状改善剤:シカクマメ種子抽出物(乾燥残分) 100
ローヤルゼリー 50
マカ 30
γ−アミノ酪酸(GABA) 30
ミツロウ 60
ゼラチン 375
グリセリン 120
グリセリン脂肪酸エステル 105
【0047】
(顆粒)
(配合成分) (mg)
本経口更年期症状改善剤:シカクマメ莢抽出物(乾燥残分) 400
ビタミンC 100
大豆イソフラボン 250
還元乳糖 300
大豆オリゴ糖 36
エリスリトール 36
デキストリン 30
香料 24
クエン酸 24
【0048】
(飲料)
(配合成分) (50ml中質量%)
トチュウエキス 1.6
ニンジンエキス 1.6
本経口更年期症状改善剤:シカクマメ莢抽出物(乾燥残分) 1.6
還元麦芽糖水飴 28
エリスリトール 8
クエン酸 2
香料 1.3
N−アセチルグルコサミン 1
ヒアルロン酸 0.5
ビタミンE 0.3
ビタミンB6 0.2
ビタミンB2 0.1
α−リポ酸 0.2
セラミド(コンニャク抽出物) 0.4
L−プロリン 2
コラーゲンペプチド 10
精製水 残余
【0049】
(クッキー)
(配合成分) (質量%)
薄力粉 45.0
バター 17.5
グラニュー糖 20.0
本経口更年期症状改善剤:シカクマメ種子粉砕物 4.0
ニンジンエキス 適量
卵 12.5
レモンフレーバー 1.0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マメ科シカクマメ(Psophocarpus)属に属する植物の中から選ばれる1種または2種以上の植物またはその抽出物からなる女性ホルモンの減少に伴う更年期症状を抑制するための経口更年期症状改善剤。
【請求項2】
前記植物またはその抽出物がマメ科シカクマメ(Psophocarpus)属に属する植物の種子または莢であることを特徴とする請求項1記載の経口更年期症状改善剤。
【請求項3】
前記シカクマメ(Psophocarpus)属に属する植物がシカクマメ(Psophocarpus tetragonolobus)であることを特徴とする請求項2記載の経口更年期症状改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−25717(P2012−25717A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168869(P2010−168869)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【特許番号】特許第4787908号(P4787908)
【特許公報発行日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【復代理人】
【識別番号】100111040
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 淑子
【Fターム(参考)】