説明

経口用組成物

【課題】難水溶性薬剤のバイオアベイラビリティーが改善された経口用組成物と、当該経口用組成物を外的ストレスや加熱を必要とせずに製造する製造方法を提供する。
【解決手段】難水溶性薬剤を含有し、油相として水相中に分散する薬剤含有分散粒子と、ステロール骨格を有する界面活性剤と、を含み、且つ、前記薬剤含有分散粒子の水相分散時の粒子径が130nm以下である経口用組成物と、難水溶性薬剤、ステロール骨格を有する界面活性剤及び水混和性溶剤を含む溶剤混合溶液と、水と、を混合すること、及び、前記混合後に得られた溶剤含有混合溶液から、前記水混和性溶剤を実質的に除去することを含む経口用組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、創薬現場で合成される多くの候補化合物が難水溶性である。一方で難水溶性薬物は血中や腸管内での溶解性の低さから、腸管吸収効率やバイオアベイラビリティーの低さが課題となる。特に、抗腫瘍薬、免疫抑制剤、抗真菌薬、抗高脂血症薬などの新薬候補は難水溶性のものが多く、十分な生理活性を有するものの、上記課題を解決できないために開発の遅延や中止を招く大きな原因となっている。
【0003】
上記課題の改善を実現する手法の一つが薬物のナノ粒子化である。腸管吸収においては、薬物のナノ粒子化に伴う比表面積の増加により、薬物の溶解度・溶解速度の改善が期待できるほか、上皮細胞表面の刷子縁内に50nm以下のナノ粒子が入り込み、吸収改善に寄与することが示唆されている。
薬物のナノ粒子化を達成する手段としては、粉砕機による原薬の微細化や乳化法が広く検討されている。
【0004】
しかしながら、破砕機を用いた原薬の微細化は、粉砕時の強力な外的ストレスやそれにより発生する熱により原薬の活性が低下してしまう可能性がある。また一度ナノサイズまで微細化しても、界面の安定化が十分でないために直ちに粒子が凝集してしまう場合も多く、安定性・品証性に課題がある。
【0005】
一方、乳化法は粒子径を小さくするために高圧乳化機を使用する場合が多く、薬物によっては高圧乳化時の外的ストレスや熱で活性が低下する恐れがある。また乳化法では難油溶性の薬物を製剤化することができないため、適用可能な薬物の範囲は限定される。他にも乳化物は粉末化工程にて多量の賦形剤を必要とするため、粉末化、錠剤化した場合に服用量が多くなるというコンプライアンス面での問題がある。
【0006】
さらに乳化法で薬物をナノ粒子化した場合、腸管での吸収挙動は脂質分解が支配的となる。油中に含有される薬物が腸管に放出されるには、まず脂質が胆汁酸塩に乳化され、膵リパーゼにより加水分解を受けることが必要である。これら胆汁酸塩の分泌や膵リパーゼの産生は食事の影響や各種疾患の影響を強く受けるため、患者の健康状態によっては投与が限定されうる。
【0007】
このような観点から、種々の技術が開発されている。
例えば、特許文献1では、オレイン酸とトリグリセリド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、多価アルコール、酸性リン脂質からなる可溶化物に薬物を溶解し、水を添加することで自ら乳化する自己乳化製剤を調製している。具体例として、オレイン酸エチル、ポリソルベート80、プロピレングリコール、グリセリン、ジミリストイルフォスファチジルコリンを用いてプロブコールを溶解し、水を添加することで粒子径26.1nmのナノ粒子を調製している。
【0008】
特許文献2ではメロキシカムまたはそれらの塩粒子と、少なくとも一つの界面活性剤を含む粒子径2000nm以下のナノ粒子を調製しており、この界面活性剤にはステロール骨格を有するポリエチレングリコール−コレステロールなどが含まれる。具体的として、メロキシカムとポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールのブロックポリマーを水中に添加し、媒体攪拌ミルにて160分間破砕することで粒子径111nmの粒子を調製している。
【0009】
特許文献3では難水溶性薬物とHLB>10の界面活性剤、HLB<10の界面活性剤混合物中に加熱・攪拌して溶解し、水を加えることで薬物を可溶化・分散しており、この界面活性剤にはステロール骨格を有するポリエチレングリコール−植物ステロールなどが含まれる。
【0010】
一方、ステロール骨格を有する界面活性剤と難溶性薬剤を用いた乳化組成物も知られている(例えば特許文献4及び5)。これらの乳化組成物はいずれも外用剤とするものであり、また、各成分の溶解を70℃以上の温度で行っている。
【0011】
従って、できる限り小サイズ化され、バイオアベイラビリティーが改善された経口用組成物に対する要請は依然として高い。
さらに外的ストレスや加熱を必要とせず、脂質を用いない条件下において、上記のような経口用組成物を提供することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−247875号公報
【特許文献2】特開2007−505154号公報
【特許文献3】特表2002−537317号公報
【特許文献4】特開2008−137966号公報
【特許文献5】特開2009−051810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、難水溶性薬剤のバイオアベイラビリティーが改善された経口用組成物を提供することである。
また、本発明の目的は、バイオアベイラビリティーが改善された経口用組成物を、外的ストレスや加熱を必要とせずに製造する製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下のとおりである。
[1] 難水溶性薬剤を含有し、油相として水相中に分散する薬剤含有分散粒子と、ステロール骨格を有する界面活性剤と、を含み、且つ、前記薬剤含有分散粒子の水相分散時の粒子径が130nm以下である経口用組成物。
[2] 前記界面活性剤のステロール骨格がフィトステロール骨格である[1]記載の経口用組成物
[3] 前記ステロール骨格を有する界面活性剤がポリオキシアルキレンフィトステロール及びポリオキシアルキレンフィトスタノールからなる群より選択された少なくとも1つである[1]又は[2]記載の経口用組成物。
[4] 前記ステロール骨格を有する界面活性剤の含有量が、前記難溶性薬剤の全質量の0.1〜10倍量である[1]〜[3]のいずれかに記載の経口用組成物。
[5] 前記難水溶性薬剤を含む分散粒子の粒径が5nm〜100nmである[1]〜[4]のいずれかに記載の経口用組成物。
[6] 前記難水溶性薬剤及び前記界面活性剤を、水混和性溶剤と混合して溶剤含有混合溶液を得た後に水と混合し、次いで、該溶剤含有混合溶液から該水混和性溶剤を実質的に除去することにより得られる[1]〜[5]のいずれかに記載の経口用組成物。
[7] 前記溶剤含有混合溶液を水中に添加混合することにより得られる[1]〜[6]のいずれかに記載の経口用組成物
[8] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載の経口用組成物の製造方法であって、難水溶性薬剤、ステロール骨格を有する界面活性剤及び水混和性溶剤を含む溶剤混合溶液と、水と、を混合すること、及び、前記混合後に得られた溶剤含有混合溶液から、前記水混和性溶剤を実質的に除去すること、を含む経口用組成物の製造方法。
[9] 前記難水溶性薬剤と、ステロール骨格を有する界面活性剤と、水とを、10℃〜50℃で混合して、前記溶剤含有混合溶液を得ること更に含む[8]に記載の経口用組成物。
[10] 前記溶剤含有混合溶液と水との混合を10℃〜50℃で行う[8]又は[9]に記載の経口用組成物。
[11] 前記溶剤含有混合溶液を水中に添加することにより前記混合を行う[8]〜[10]のいずれかに記載の経口用組成物。
[12] 前記ステロール骨格を有する界面活性剤が、前記溶剤含有混合溶液の全質量の0.01質量%〜5質量%である[8]〜[11]のいずれかに記載の経口用組成物の製造方法
[13] 溶剤含有混合溶液と混合する水の容量が、溶剤含有混合溶液の全容量の2倍〜50倍である[8]〜[12]のいずれかに記載の経口用組成物の製造方法
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、難水溶性薬剤のバイオアベイラビリティーが改善された経口用組成物と、このような経口組成物を、外的ストレスや加熱を必要とせずに製造する製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例にかかる各種分散液の血中濃度時間曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の経口用組成物は、難水溶性薬剤を含有し、油相として水相中に分散する薬剤含有分散粒子と、ステロール骨格を有する界面活性剤と、を含み、且つ、前記薬剤含有分散粒子の水相分散時の粒子径が130nm以下である経口用組成物である。
本発明によれば、ステロール骨格を有する界面活性剤を用いることによって、他の界面活性剤を使用した場合と比較して、難水溶性薬剤の生体吸収、特に腸管上皮細胞への吸収性を高めて、バイオアベイラビリティーを大幅に改善させることができる。
【0018】
また本発明の経口用組成物の製造方法は、難水溶性薬剤、ステロール骨格を有する界面活性剤及び水混和性溶剤を含む溶剤含有混合溶液と、水と、を混合すること、及び、前記混合後に得られた溶剤含有混合溶液から、前記水混和性溶剤を除去すること、を含む経口用組成物の製造方法である。
本発明によれば、ステロール骨格を有する界面活性剤、難水溶性薬剤及び水混和性溶剤から得られた溶剤含有混合溶液と、水とを混合するので、加熱処理や外的ストレスを必要とせずに、上記バイオアベイラビリティーを大幅に改善された経口用組成物を製造できる。
【0019】
本発明において「水相」とは、溶媒の種類にかかわらず「油相」に対する語として使用する。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本発明において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
以下、本発明について説明する。
【0020】
本発明において、難水溶性薬物とは、25℃での水への溶解度が10mg/ml以下の化合物をいう。本発明の組成物は、好ましくは25℃での水への溶解度が100μg/ml以下、さらに好ましくは1μg/ml以下の化合物について適応されうる。
具体的には、難水溶性薬物として、例えば、インドメタシン、アセメタシン、スリンダク、マレイン酸プログルメタシン、ピンドロール等のインドール誘導体;アスピリン、ジフルニサル等のサリチル酸誘導体;イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、プラノプロフェン等のフェニルプロピオン酸誘導体;メフェナム酸、フルフェナム酸アルミニウム等のアントラニル酸誘導体;ピロキシカム、アンピロキシカム等のベンゾチアジン誘導体;チアプロフェン酸等のチオフェン酢酸誘導体;酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸クロルマジノン、ダナゾール、フルオロメトロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン等のステロイド誘導体;葉酸、メトトレキサート等の葉酸誘導体;パクリタキセル、ドセタキセル水和物等のタキサン誘導体;メルカプトプリン等のプリン誘導体;フルオロウラシル、テガフール等のピリミジン誘導体;シクロスポリンA等のペプチド系薬剤;エノキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、塩酸シプロフロキサシン、トシル酸トスフロキサシン、スパルフロキサシン、塩酸ロメフロキサシン、フレロキサシン等のピリドンカルボン酸誘導体(ニューキノロン系抗生物質);イトラコナゾール、フルコナゾール等のトリアゾール誘導体;クロフィブラート、クリノフィブラート、ベザフィブラート等のフィブラート系薬剤;ニフェジピン等のジヒドロピリジン誘導体;トリアゾラム、ジアゼパム、ニトラゼパム、塩酸フルラゼパム、ミダゾラム、エスタゾラム等のベンゾジアゼピン誘導体;ハロペリドール、ドロペリドール等のブチロフェノン誘導体;テオフィリン等のキサンチン誘導体;ジギトキシン、ジゴキシン等のジギタリス誘導体;フェノバルビタール等のバルビツール酸誘導体;フェニトイン等のヒダントイン誘導体;シメチジン等のイミダゾール誘導体;オメプラゾール、ランソプラゾール等のベンズイミダゾール誘導体;ファモチジン等のチアゾール誘導体;シンバスタチン等のスタチン系薬剤のほか、プロブコール、マイトマイシンC、クエン酸タモキシフェン、シスプラチン、タクロリムス水和物、グリセオフルビン、アシクロビル、ジピリダモール、塩酸プラゾシン、レセルピン、塩酸ベラパミル、アテノロール、スルピリド、フマル酸クレマスチン、テルフェナジン、塩酸シプロヘプタジン、オキセサゼイン、スクラルファート、ゲファルナート、レバミピド、メトクロプラミド、パルミチン酸レチノール、酪酸リボフラビン、リン酸ピリドキサール、メコバラミン、酢酸トコフェロール、フィトナジオン、メナテトレノン、フロセミド、インダパミド、スピロノラクトン、トラニラスト、塩酸ブロムヘキシン、ベンズブロマロン、アロプリノール、トルブタミド、レボドパ、等の医薬品が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明に適用可能な難水溶性薬剤は、医薬品に限定されず、例えばカロテノイド類などの栄養成分やサプリメントの成分も含まれる。具体的にはα−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、δ−カロテン、デカプレノ−β−カロテン、ドデカプレノ−β−カロテン、リコピン、ゼアキサンチン、アスタキサンチン、ビオラキサンチン、フコキサンチン、ルテイン、ビキシン、カンタキサンチン、クリプトキサンチン、アンテラキサンチンが挙げられるが、これらに限定されない。
なお、難水溶性薬剤としては、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明におけるステロール骨格を有する界面活性剤(以下、「ステロール骨格含有界面活性剤」ということがある)は、本発明において、難水溶性薬剤の生体吸収性を促進し得るものであり、疎水部にステロール骨格を有することを特徴とする。ステロール骨格を有する界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンコレステロール、ポリオキシアルキレンフィトステロール、ポリオキシアルキレンコレスタノール、ポリオキシアルキレンフィトスタノールなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのステロール骨格含有界面活性剤におけるアルキレンは、好ましくは炭素数1又は2、特にエチレンである。アルキレンの重合度は、5〜30が好ましく、8〜25がより好ましく、10〜20が更に好ましい。
【0023】
このようなステロール骨格含有界面活性剤としては、特にステロール骨格がフィトステロールであることが好ましく、ポリオキシエチレンフィトステロールであることがさらに好ましい。ポリオキシエチレンの重合度は、5〜30が好ましく、8〜25がより好ましく、10〜20が更に好ましい。
これらのステロール骨格含有界面活性剤は、単独で使用してもよく、これらを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0024】
ステロール骨格含有界面活性剤は、上記特性を有するものであればいずれのものを使用してもよく、市販品を利用してもよい。市販の製品としては、Nikkol BPS-5(Nikko),Nikkol BPS-10(Nikko), Nikkol BPS-20(Nikko), Nikkol BPS-30(Nikko),Nikkol BPSH-25(Nikko),Nikkol DHC-30(Nikko),Solulan C-24(Amerchol), GENEROL series(Henkel) などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明の組成物における難水溶性薬物とステロール骨格含有界面活性剤との配合比は、組成物調製が可能な範囲であれば特に限定はしないが、粒子径をより小さくする観点から、ステロール骨格含有界面活性剤の含有量を、薬物の全質量の0.1〜10倍量であることが好ましく、0.2〜7.5倍量であることがより好ましく、1〜5倍量であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明で得られる組成物は、難水溶性薬剤を含有する薬剤含有分散粒子が油相として水中に分散している、所謂、水中油型の分散物の形態を採るものである。ここで薬剤含有粒子の平均有効粒子径は、130nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましく、20nm以下であることが最も好ましい。下限値としては特に制限はなく、例えば5nm以上であればよい。なお、本発明における平均有効粒径は、ナノトラックUPA(日機装(株))にて得られたメディアン径(d50)を指す。特に経口投与製剤として調製する場合、粒子径が小さいほど薬剤の腸管吸収効率およびバイオアベイラビリティーの改善に有効である。
【0027】
本経口用組成物は、前記難水溶性薬剤及び前記界面活性剤を、水混和性溶剤と混合して溶剤含有混合溶液を得た後に水と混合し、次いで、該溶剤含有混合溶液から該水混和性溶剤を実質的に除去することにより得られるものであることが好ましい。これにより、経口用組成物に含まれる難水溶性薬剤は、外的ストレスや加熱などを用いて調製された経口用組成物と比較して、損傷が少なく、また、微細な薬剤含有粒子を構成することができる。これにより、バイオアベイラビリティーが改善された経口用医薬組成物とすることができる。
好ましくは、より微細な粒子径の薬剤含有粒子を得る観点から、前記溶剤含有混合溶液を水中に添加混合することにより得られる経口用組成物であってもよい。
【0028】
本発明の経口用組成物は、上記成分を含む経口用組成物を得ることができれば如何なる方法によって製造してよい。
加熱の適用を排除でき、外的ストレスを低減できる観点から好ましくは、上述したように、難水溶性薬剤、ステロール骨格を有する界面活性剤及び水混和性溶剤を含む溶剤含有混合溶液と、水と、を混合すること(以下、混合工程)、及び、前記混合後に得られた溶剤含有混合溶液から、前記水混和性溶剤を実質的に除去すること(以下、溶剤除去工程)を含む方法を適用する。
【0029】
本発明の混合工程に用いられる水混和性溶剤は、難水溶性薬物とステロール骨格含有界面活性剤とを共に溶解し、かつ水と混和しうる溶媒であればその種類を限定しない。具体的にはメタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランなどが挙げられる。水混和性溶剤は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
溶剤含有混合溶液における難水溶性薬剤の含有量は、溶剤含有混合溶液に含まれるステロール骨格含有界面活性剤及び難水溶性薬剤の種類によって異なるが、溶剤含有混合溶液の全質量の0.01質量%〜5質量%であることが好ましく、0.5質量%〜1質量%であることが更に好ましい。
【0031】
溶剤含有混合溶液は、難水溶性薬剤及びステロール骨格含有界面活性剤を含有したものとして準備してもよいが、難水溶性薬剤、ステロール骨格含有界面活性剤及び水混和性溶剤を混合して、溶剤含有混合溶液を得てもよい。この場合には、経口用組成物の製造方法は、難水溶性薬剤、ステロール骨格含有界面活性剤及び水混和性溶剤を混合して、溶剤含有混合溶液を得ることを更に含むものとしてもよい。
【0032】
難水溶性薬剤及びステロール骨格含有界面活性剤と水混和性溶剤との混合は、薬剤に対する安定性の観点から10℃〜50℃の範囲で行えばよく、20℃〜40℃であることがより好ましく、室温(25℃)で行ってもよい。
また、水混和性溶剤に難水溶性薬剤とステロール骨格含有界面活性剤とが含まれれば、混合の順序には特に制限はなく、水混和性溶剤に難水溶性薬剤を先に添加してもよく、ステロール骨格含有界面活性剤を先に添加してもよい。
【0033】
溶剤含有混合溶液と水との混合は、通常の条件で行えばよい。微細な薬剤含有粒子を得る観点から、溶剤含有混合溶液と水とを一気に混合することが好ましい。これにより、より微細な薬剤含有分散粒子が析出する。
溶剤含有混合溶液と水との混合時の温度としては、難水溶性薬剤の安定性の観点から10℃〜50℃の範囲で行えばよく、20℃〜40℃であることがより好ましく、室温(25℃)で行ってもよい。混合時には、通常の溶液混合と同様に攪拌しながら行うことが好ましい。
【0034】
溶剤含有混合溶液と水との混合は、溶剤含有混合溶液に対して多量の水と混合すればよい。溶剤含有混合溶液と混合する水の容量は、溶剤含有混合溶液の全容量の2倍〜50倍であることが好ましく、5倍〜10倍であることがより好ましい。
【0035】
溶剤含有溶液から水混和性溶剤の除去方法は、水混和性溶剤が実質的に除去されれば当分野で通常用いられる方法で行えばよく、例えば、エバポレーション法や限外ろ過法などが挙げられ、特に、限外ろ過法が好ましい。また除去に関して「実質的に除去」とは、最終的に得られる経口用組成物中に水混和性溶剤が極少量で含まれることを意味し、1容量%以下が好ましく、0.5容量%以下がより好ましく、0.1容量%以下がさらに好ましい。これらの残量となるように、選択された除去手段による除去条件が決定される。このような除去条件による除去方法は、当業者であれば容易に選択することができる。
【0036】
本発明における医薬用組成物は、経口投与製剤として適応される。経口投与を目的とした場合は、調製直後の薬物分散液としてのみならず、凍結乾燥処理などによって粉末化、錠剤化されうる。製剤の最終形態として、具体的には液剤、錠剤、顆粒剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤等が挙げられる。製剤化の際には、本分野で定常的に用いられる希釈剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤を含有してもよい。
注射剤としては、静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤などの剤形が挙げられる。注射剤の調製法としては、生理食塩水やブドウ糖溶液などの等張液を使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0038】
[実施例1]
プロブコール0.05g、ポリオキシエチレン(10)フィトステロール(Nikkol BPS-10;Nikko)0.25gを、室温(25℃)にて、エタノール中に溶解させ、1mlに調整した。これを、室温(25℃)にて、攪拌した超純水9ml中に一気に加えてナノ粒子を析出させ、プロブコールを5mg/mlの濃度で含有する分散液を得た。
その後、ウルトラフィルターP0200(ADVANTEC東洋(株)製、分画分子量20000)にて限外ろ過・濃縮を5回行い、加水調製・濃縮してプロブコールが10mg/mlの濃度で含まれる分散液1を得た。得られた分散液1中のナノ粒子をナノトラックUPA(日機装(株)製)にて粒径測定したところ、7.8nmであった。
【0039】
[実施例2〜4、比較例1〜2]
表1に記載の材料及び量に従い、実施例1と同様にして分散液2〜6を得た。なお、表1中に記載の数値は全てg単位である。得られた分散液2〜6中のナノ粒子の粒径を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
[比較例3〜5]
比較例3はプロブコール0.05gに0.25質量%ヒドロキシプロピルセルロース溶液5mlを添加し、超音波処理にて分散させることで分散液7を得た。
比較例4はロレルコ錠(大塚製薬(株))1錠(プロブコール250mgを含有)に超純水25mlを添加し、超音波処理にて分散させることで分散液8を得た。
比較例5は、ステロール骨格を有しない界面活性剤(商品名:Solubilizer−11、日油(株))0.572gにプロブコール0.05gを添加・攪拌し、超純水5mlを添加することで分散液9を得た。
得られた分散液7〜9中のナノ粒子の粒径を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示されるように、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンフィトスタノールのようなステロール骨格含有界面活性剤を用いた実施例1〜実施例4では、加熱等することなく100nm以下の微細な薬剤分散粒子を含む分散液を得ることができる。
【0042】
[評価1:薬剤取り込み量]
上記で作製したナノ分散液(分散液1、5、9)について、ヒト結腸癌細胞株であるCaco−2細胞株への取り込み量を評価した。
細胞は、12wellカルチャーインサートに6×10cells/wellの播種密度で播種し、3週間、常法に従って培養することで腸管上皮様に分化した細胞を使用した。上記分散液を、HBSS緩衝液(pH:6.5)を用いてプロブコール濃度500ug/mlとなるように希釈して、被験液として培養後の細胞に添加し、37℃で2時間インキュベートした。インキュベート後の細胞を常法にて回収・溶解し、得られた細胞内画分のプロブコール濃度をHPLCにて定量した。結果を表2に示す。
〔定量条件〕
カラム:CAPCELLPAK C8 UG120(150mm×3mm、資生堂(株))
移動相:0.1%トリフルオロ酢酸/アセトニトリル
流速 :0.5mL/min
波長 :235nm
【0043】
【表2】

【0044】
[評価2:動態試験]
実施例1、比較例1、比較例3〜5のナノ分散物について、ラットを用いた動態試験を行った。
・使用動物:雄性ラット(7週齢)
・投与方法:実施例1、および比較例1、3〜5について、投与用量100mg/kgにて経口投与を行った。
・採血:投与後30分、1,2,4,6,24時間経過時の血液を頚静脈より採血した。血液は直ちに遠心分離を行い、血清とした。
・定量:血清を常法により徐タンパク、抽出を行い、HPLCにて定量を行った。
【0045】
各血中濃度時間曲線を図1に示す。図1におけるシンボルは次のとおりである。
黒菱形:実施例1、黒四角:比較例1、黒三角:比較例3、×:比較例4、*:比較例5。
さらに最大血中濃度(Cmax)および血中濃度下面積(Area Under Concentration;AUC)を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
表2及び表3、図1に示されるように、本発明の実施例に相当する分散液では、腸管上皮への吸収が高く、Cmax及びAUCの面においても高いバイオアベイラビリティーを示すものであった。
【0048】
従って本発明によれば、外的ストレス等を与えることなく調製でき、バイオアベイラビリティーが改善された難水溶性薬剤を含む経口用組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難水溶性薬剤を含有し、油相として水相中に分散する薬剤含有分散粒子と、
ステロール骨格を有する界面活性剤と、
を含み、且つ、前記薬剤含有分散粒子の水相分散時の粒子径が130nm以下である
経口用組成物。
【請求項2】
前記界面活性剤のステロール骨格がフィトステロール骨格である請求項1記載の経口用組成物。
【請求項3】
前記ステロール骨格を有する界面活性剤が、ポリオキシアルキレンフィトステロール及びポリオキシアルキレンフィトスタノールからなる群より選択された少なくとも1つである請求項1又は請求項2記載の経口用組成物。
【請求項4】
前記ステロール骨格を有する界面活性剤の含有量が、前記難溶性薬剤の全質量の0.1〜10倍量である請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の経口用組成物。
【請求項5】
前記薬剤含有分散粒子の粒径が5nm〜100nmである請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の経口用組成物。
【請求項6】
前記難水溶性薬剤及び前記界面活性剤を、水混和性溶剤と混合して溶剤含有混合溶液を得た後に水と混合し、次いで、該溶剤含有混合溶液から該水混和性溶剤を実質的に除去することにより得られる請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の経口用組成物。
【請求項7】
前記溶剤含有混合溶液を水中に添加混合することにより得られる請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の経口用組成物
【請求項8】
請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の経口用組成物の製造方法であって、
難水溶性薬剤、ステロール骨格を有する界面活性剤及び水混和性溶剤を含む溶剤含有混合溶液と、水と、を混合すること、及び、
前記混合後に得られた溶剤含有混合溶液から、前記水混和性溶剤を実質的に除去すること、
を含む経口用組成物の製造方法。
【請求項9】
前記難水溶性薬剤と、ステロール骨格を有する界面活性剤と、水とを、10℃〜50℃で混合して、前記溶剤含有混合溶液を得ること更に含む請求項8記載の経口用組成物の製造方法。
【請求項10】
前記溶剤含有混合溶液と水との混合を10℃〜50℃で行う請求項8又は請求項9記載の経口用組成物の製造方法。
【請求項11】
前記溶剤含有混合溶液を水中に添加することにより前記混合を行う請求項8〜請求項10のいずれか1項記載の経口用組成物の製造方法。
【請求項12】
前記難水溶性薬剤が、前記溶剤含有混合溶液の全質量の0.01質量%〜5質量%である請求項8〜請求項11のいずれか1項記載の経口用組成物の製造方法。
【請求項13】
前記溶剤含有混合溶液と混合する水の容量が、溶剤含有混合溶液の全容量の2倍〜50倍である請求項8〜請求項12のいずれか1項記載の経口用組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−195556(P2011−195556A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100344(P2010−100344)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】