説明

経口発毛促進剤

【課題】
本発明は、食生活に簡便に組み込むことが可能であり、発毛促進、育毛及び/又は養毛効果のある素材を開発するとともにこれを産業上有効活用できる態様の組成物を提供することを課題とした。
【解決手段】
ノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物、より望ましくは該両抽出物のシクロデキストリン包接物と、血流改善作用のある物質、より望ましくはツバキ種子抽出物及び/又は緑茶葉抽出物とを有効成分として含有してなる経口用発毛促進剤が提供され、該剤は飲食品、医薬品、医薬部外品、動物用飼料等として有効利用される。ここで、ツバキ種子抽出物はツバキ種子の脱脂物を水又は低級アルコールで抽出して得られるサポニン含有水溶性成分を含むものが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の植物を原料とする発毛促進剤に係る。より詳しくは、ノコギリヤシ、カボチャ、ツバキ及び緑茶等を原料としてなる経口用発毛促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日常診療で遭遇する脱毛症として、男性型脱毛症(禿頭症)、円形脱毛症、抜毛症があり、また、薬剤による脱毛、感染症による脱毛、腫瘍性脱毛、機械性脱毛症の他、栄養・代謝障害による脱毛、脂漏性脱毛、ホルモン等の内分泌異常による脱毛、分娩後脱毛、粃糠性脱毛症等がある。
【0003】
このうち男性型脱毛症は思春期以降に額の生え際や頭頂部の髪のどちらか一方又は双方から薄くなり、進行していく。この原因は一般的に遺伝や男性ホルモン等が関与すると考えられており、抜け毛が進行し、薄毛が目立つようになる。この男性型脱毛症状のある者の数は我国だけでも1,000万人を超えるともいわれ、その多くが薄毛に悩み、ストレスを感じている。近年、日常生活の精神的ストレスやホルモンバランス障害等から女性でも男性型脱毛症状を呈することが多くなっている。
【0004】
男性型脱毛症の主要な原因物質はジヒドロテストステロン(DHT)と呼ばれる物質であるとされ、男性型脱毛症では、脱毛部分の頭皮に多量のDHTが確認されている。DHTはテストステロン5α−還元酵素(以下、単に5α−リダクターゼという)によって男性ホルモンの一種であるテストステロンから作られる。このDHTが毛乳頭細胞に存在する男性ホルモン受容体と結合すると、脱毛シグナルが出され、毛髪の成長期が終了してしまい、毛髪が長く太い毛に成長する前に抜けてしまう。こうして、十分に育たない細く短い毛髪が多くなることで、全体として薄毛が目立つようになる。
【0005】
このため、男性型脱毛症に対する発毛剤として、5α−リダクターゼ活性を阻害してDHTの産生を抑制する物質の利用が進められている。すなわち、5α−リダクターゼ活性を阻害し、体内でのDHTの産生を低下させて男性型脱毛症を改善する医薬用素材としてフィナステリドを有効成分として含むプロペシア(登録商標)錠が市販され、エストラジオール等の女性ホルモン作用を有する物質やオキセンドロン等の抗男性ホルモン作用を有する物質が頭皮頭髪用外用剤として利用されている。また、植物を原料とする5α−リダクターゼ阻害作用のあるものとしては多種多様の抽出物が提案されており、ノコギリヤシ抽出物(非特許文献1)、ハマナス、ユキノシタ、マンゴスチン等の抽出物(特許文献1)、ガラナ種子エキス(特許文献2)、セージ、ホップ、オトギリソウ、カミツレ、ローズマリー等のハーブ抽出物(特許文献3)、クロレラ、スピルリナ、ユーグレナ等の微細藻類の抽出物(特許文献4)、ツユクサ抽出物(特許文献5)等を例示することができる。
【0006】
しかしながら、医薬素材やホルモン作用物質は副作用や安全性、使用面で制限があり、従来のさまざまな植物抽出物も実験レベルでの効果は認められても、これを飲食品用途に利用する場合は、胃腸内で変質や分解を受けるリスクがあり、個人によって効果が必ずしも明確でない場合もあり、実用面で有効性を発現し得るものは数少ないのが実情であった。また、植物抽出物の場合、十分な効果を得るためには多量の摂取を必要とすることが多く、長期間の服用が困難であることが多かった。さらに、5α−リダクターゼ阻害物質を頭皮や頭髪に局所適用する化粧料等の外用剤への利用の提案は従来多く見られるが、衛生面から繰り返し使用しなければならず、効率性の点で満足できるものではなかった。また、5α−リダクターゼ阻害物質は発毛促進に寄与する要因であるが、これを単独で適用しても現実的な発毛効果は小さいことも当業者の認識であった。したがって、前記の発毛促進作用を増強し得る実効性のあるものが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−17365号公報
【特許文献2】特開平7−33673号公報
【特許文献3】特開平9−221413号公報
【特許文献4】特開2002−68943号公報
【特許文献5】特開2007−145739号公報
【非特許文献1】Palin MFら、Endocrine、第9巻、第1号、第65頁〜第69頁、1998年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる現状に鑑み、本発明者らは、より安全で長期間の服用が可能であり、且つ食生活に簡便に組み込むことが可能な、実効性の高い発毛促進剤を開発するとともにこれを産業上有効活用できる態様の組成物を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明者らは、毛髪の発育を効果的に促進する諸条件とそれを満たす素材について鋭意検討した結果、ノコギリヤシ果実の抽出物とカボチャ種子の抽出物とを組み合わせて経口服用すること、さらには、これらと血流改善作用を有する物質とりわけツバキ種子の抽出物及び/又は緑茶葉の抽出物とを併用することが極めて有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、ノコギリヤシ果実の抽出物及びカボチャ種子の抽出物を有効成分として含有してなる経口発毛促進剤である。この経口発毛促進剤においては、ノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物はシクロデキストリンで包接されたものであることが望ましく、さらには、これらと血流改善作用物質とを併用するものがより一層望ましい。そして、この血流改善作用物質はツバキ種子の抽出物及び/又は緑茶葉の抽出物であることが好適であり、とりわけツバキ種子抽出物を用いることがより好ましく、該ツバキ種子抽出物はツバキ種子の脱脂物を水及び/又は低級アルコールで抽出処理して得られる水溶性成分を含むものであり、サポニン類を含有するものであることが最も望ましい態様である。また、本発明では、前記の経口発毛促進剤は飲食品として用いることが望ましく、その好適な形態は粉末状、顆粒状、錠剤状、カプセル状又は液体状のものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物は、これを経口摂取することにより発毛促進、育毛及び/又は養毛の効果を奏する。かかる効果は、ノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物のシクロデキストリン包接物の場合に顕著に発現し、該シクロデキストリン包接物と血流改善作用のあるツバキ種子抽出物及び/又は緑茶葉抽出物とを併用することによってさらに増強される。とりわけ、ツバキ種子抽出物がツバキ種子の脱脂物を水及び/又は低級アルコールで抽出処理して得られる水溶性成分を含むものであり、サポニン類を含有するものであるときに格別顕著な発毛促進効果を奏する。この経口発毛促進剤は飲食品のみならず医薬品、医薬部外品、動物用飼料等の用途において、髪や毛の成長が抑制されたり、薄毛、抜け毛、脱毛等の毛髪トラブルを予防及び/又は改善するために有効利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。まず、本発明の経口発毛促進剤は、ノコギリヤシの果実の抽出物とカボチャの種子の抽出物とを有効成分として含有してなることを特徴とするものである。
【0013】
ノコギリヤシ(Serenoa repens又はSerenoa serrula)は別名ソウ・パルメット(Saw palmetto)とも呼ばれ、ヤシ科に属する植物であり、北米南部地域に分布しており、その果実に含まれる油性物質が5α−リダクターゼ阻害、前立腺肥大抑制、排尿障害緩和、利尿促進、抗炎症等の作用を有することが知られている。
【0014】
本発明で用いるノコギリヤシ果実抽出物は前記油性物質をいい、未熟あるいは完熟の果実をそのまま又は乾燥物を適宜に細断してノルマルヘキサン、アセトン、エーテル、エタノール等の親油性有機溶媒を用いて抽出するか、二酸化炭素、プロパン、窒素等を用いて超臨界状態下で抽出することにより製造することができる。抽出物の安全性や品質面から超臨界炭酸ガス抽出法が好適である。なお、この抽出物は必要に応じて常法により脱色処理や脱臭処理を施してもよい。前記抽出物として得られる油性物質はカプロン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等の炭素数6〜18の飽和及び不飽和脂肪酸類を主成分として、オクタコサノール、トリアコンタノール等の脂肪族長鎖アルコール類、β−シトステロール、カンペステロール等の植物ステロール類を含み、アルコール類に僅かに溶解するが、水にはほとんど溶けない。
【0015】
カボチャはウリ科カボチャ属(Cucurbita)に属し、カロテンやビタミン類を多く含む緑黄色野菜として古来より利用されてきた。カボチャの種類は、ナタワレカボチャや栗カボチャのような西洋カボチャ(C.maxima)、鹿ケ谷南瓜や黒皮南瓜等の東洋カボチャ(C.moschata)、及び、金糸うりやズッキーニ等のペポカボチャ(C.pepo)に大別される。通常は果肉を食するが、乾燥種子も食用ナッツ類のカテゴリーで、また、種子から油分を抽出してパンプキンシードオイルとして市販されている。カボチャ種子は、従来、駆虫、利尿、強壮の伝承薬として利用されてきた経緯があり、また、近年では、種子から採取した油脂が前立腺繊維芽細胞における5α−リダクターゼ活性の阻害作用を有し、それに基づき前立腺肥大による泌尿器系症状(排尿の量、時間、頻度等の排尿障害)の治療に有効であるといわれている。
【0016】
本発明に係るカボチャは、前記カボチャ属に属するものであればいずれの種類でも差し支えないが、ペポカボチャに分類されるものが望ましい。この具体例として、Cucurbita aurantia Willd.、Cucurbita melopepo L.、Pepo vulgaris Moench.等を挙げることができる。本発明のカボチャ種子抽出物は、前記カボチャの未熟又は完熟種子を採取し、生のままあるいは適宜に乾燥し、粗砕乃至は細断して、ノルマルヘキサン、アセトン、エーテル等の親油性有機溶媒を用いて抽出するか、超臨界状態の二酸化炭素、プロパン等を用いて抽出することにより製造することができる。抽出物の安全性や品質面から超臨界炭酸ガス抽出法が好ましい。なお、この抽出物は必要に応じて常法により脱色処理や脱臭処理を施してもよい。前記抽出物として得られる油性物質は、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の炭素数16〜18の飽和及び不飽和脂肪酸類を主要構成脂肪酸とするグリセリドを主成分として、スクアレン、トコフェロール類(β−トコフェロール、γ−トコフェロール等)、ステロール類(スチグマステロール、β−シトステロール、カンペステロール、スピナステロール、アベナステロール等)、脂肪族アルコール類、カロテノイド類(β−カロテン)等を含み、水にほとんど溶解しない。
【0017】
本発明の発毛促進剤は、前述のノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物を有効成分として含むものであり、両抽出物の比率は任意であるが、ノコギリヤシ果実抽出物/カボチャ種子抽出物(質量基準)が90/10〜10/90の場合に本発明の所望効果が増強され、さらには60/40〜40/60の場合に一層顕著な所望効果が発現される。また、本発明の発毛促進剤は以下に述べるように適宜に種々の添加物質を含有させることができるが、該剤における前記両抽出物の含有量は0.1〜90質量%、より望ましくは0.5〜70質量%、最も望ましくは1〜50質量%である。0.1質量%を下回ると本発明の所望効果が小さくなり、90質量%を超えると実用的な製剤や製品を製造することが困難になる場合があり、さらなる所望効果も期待できない。両抽出物はいずれも常温では液体状であり、その混合物も液状を呈するが、本発明の発毛促進剤を製造するにあたって、公知の賦形剤、結合剤、流動化剤、被覆剤等の添加物質を適宜に用いて粉末状、顆粒状、錠剤状又はカプセル状の形態に加工することも可能である。
【0018】
前記添加物質は目的や用途に応じて常法に従って使用すればよく、賦形剤や結合剤の一例としてグルコース、デキストリン、マンニトール、乳糖、白糖、カゼイン、澱粉又はその加工物、結晶セルロース、セルロースの各種誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アラビアガム、アルギン酸等を挙げることができる。流動化剤としてシリカゲル、微粒二酸化ケイ素、アルミノケイ酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等、被覆剤としてゼラチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース等がある。
【0019】
本発明の発毛促進剤においては、ノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物をシクロデキストリンで包接させた形態のものとして用いることが望ましい態様である。両抽出物の各々をシクロデキストリンで包接したものを混合してもよい。この包接物を調製するには常法に準じて行えばよく、例えば、約40℃〜約80℃の加熱水にノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物を加えて懸濁させ、さらに両抽出物の総質量の約3〜約50倍、より好ましくは約4〜20倍、とりわけ約4〜10倍のシクロデキストリンを添加し、混合、冷却後に噴霧乾燥又は凍結乾燥することにより得ることができる。本発明では、ノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物のシクロデキストリン包接物を用いると、水に難溶の両抽出物の水溶化ないしは水分散化、呈味の改善等が可能となることに加えて、両抽出物をそのまま使用する場合に比べて発毛促進効果がより一層増強される点に大きなメリットがある。
【0020】
ここで、シクロデキストリンは、α型(シクロヘキサアミロース)、β型(シクロヘプタアミロース)又はγ型(シクロオクタアミロース)のほか、これらの誘導体、すなわち、2,6−ジメチル−β−シクロデキストリン、カルボキシメチル−γ−シクロデキストリン等のメチル化シクロデキストリン、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン等のヒドロキシアルキル化シクロデキストリン、グルコシル化−あるいはマルトシル化−シクロデキストリン、ジアルキルアミノエチル化シクロデキストリン、分枝鎖シクロデキストリン等を用いることも可能である。このうち、コストや汎用性の面からα−又はβ−シクロデキストリンが好ましく、飲料類やドリンク剤等の液体状製品を意図する場合には、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン又はメチル−γ−シクロデキストリンが好適である。
【0021】
次に、本発明の経口発毛促進剤のさらに望ましい態様は、前記のノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物と血流改善作用のある物質とを有効成分として含有してなることを特徴とするものである。
【0022】
ここで、血流改善作用のある物質とは、経口摂取あるいは投与が可能であり、それにより血流・血液循環の改善、血行の促進に有効なものをいう。このような血流改善作用物質としては、例えば、イチョウ葉エキス、紅花抽出物、プラセンタエキス、トウガラシ抽出物、カプサイシン、人参エキス、センブリエキス、フコイダン、ビタミンE及びその誘導体(酢酸トコフェロール等)、パントテン酸及びその塩(カルシウム塩、ナトリウム塩等)、グリチルリチン酸やグリチルレチン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、タヒボエキス、アルギニン及びその誘導体(アルギニングルタマート等)、ニコチン酸及びその誘導体(メチルエステル等)、ローズマリー抽出物、ショウガエキス、ショウガオール、ジンゲロール、ジンゲロン、イソフラボン、ビタミンB、ウコン抽出物、ブドウの種子・葉・茎等の抽出物、ルチン、米胚芽発酵エキス、トウキエキス、ニンニクエキス、サンショウエキス等が知られている。本発明の発毛促進剤では、これらの例示に限定されることなく血流改善作用物質の1種又は2種以上を用いることができる。
【0023】
これに関連して、本発明者らは、本発明の経口発毛促進剤と併用することによって、より一層強力な発毛促進効果を発揮し得る血流改善作用物質をさらに詳細に検討した結果、ツバキの種子の抽出物と緑茶の葉の抽出物が極めて有効であることを見出した。すなわち、本発明の望ましい経口発毛促進剤は、前述のノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物と、血流改善作用のあるツバキ種子抽出物及び/又は緑茶葉抽出物とを有効成分として含有してなることを特徴とするものである。
【0024】
本発明に係るツバキ種子抽出物について以下に詳述する。ツバキはツバキ科(Theaceae)、ツバキ属(Camellia)のツバキ節に属するツバキ(Camelliajaponica)をいい、この例としてヤブツバキ(C.japonica var.japonica)、ユキツバキ(C.japonica subsp.rusticana)、リンゴツバキ(C.japonica var.macrocarpa)、ホウザンツバキ(C.japonica subsp.hozanensis)、ホンコンツバキ(C.hongkongenesis)、トウツバキ(C.reticulata)、サルウィンツバキ(C.saluenensis)、ピタールツバキのピタルディー種(C.pitardii var.pitardii)及びユンナン種(C.pitardii var.yunnanica)、金花茶(C.nitidissima)、ヤマツバキ(ヤブツバキと同種)、山茶花(ヤブツバキと同種)、ヤクシマツバキ(リンゴツバキと同種)等を挙げることができる。これらのツバキは日本列島、朝鮮半島、中国山東半島等で自生し又は栽培されているものを適宜に利用すればよい。
【0025】
本発明に係るツバキ種子抽出物を製造するためには、前記のツバキの実及び/又は種子を圧搾処理、ヘキサンやヘプタン等の疎水性有機溶媒又は液化二酸化炭素、液化プロパン等の液化ガスを用いた超臨界抽出処理等に供して、常法により油分を抽出して分離した残渣である脱脂物を原料とすることが望ましい。ここで、ツバキの実及び/又は種子は早熟実及び成熟実のいずれでもよく、これらの種子を用いてもよいが、成熟実又はその種子を用いると脱脂物又は/及び有効成分の収量が多くなり望ましい。より好ましくは種子を用いる。好適な態様として、成熟実から得られる種子を1〜2週間程度、天日等で乾燥させたものを用いる。
【0026】
本発明に係るツバキ種子抽出物の活性成分は望ましくは水性成分である。この水性成分は前記脱脂粕を原料として任意の方法で製造することが可能であるが、水及び/又は低級アルコールを用いて抽出処理するのが好ましい。低級アルコールは、その炭素数が大きくなると脱脂粕中の油性物質が抽出される傾向が大きくなるため、炭素数が5程度までのものが望ましく、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール等を例示できる。炭素数が大きい低級アルコールを使用する場合は、脱脂粕中の油性成分の抽出を抑制するために含水率を高めるのがよい。例えば、プロパノールの場合の含水率は約20質量%〜約50質量%とし、ブタノールの場合の含水率は約40質量%〜約70質量%とする。望ましい抽出溶媒は水、メタノール及びエタノール、及び、これらの含水アルコール(含水率:0〜100質量%)であり、より好適には水又は含水率が50質量%以上の含水メタノールあるいは含水エタノールであり、さらに望ましくは水である。
【0027】
脱脂粕を抽出するには、脱脂粕1質量部に対して前記抽出溶媒を約1〜約30質量倍加え、常圧下又は約1〜約5気圧の加圧下、常温〜約120℃で、約10分〜約3時間、必要に応じて撹拌して混合後、常温に冷却して濾過し、濾液を減圧乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等の適当な手段により濃縮、乾燥する。この乾燥物は適宜に粉砕処理してもよい。このようにして本発明に係るツバキ種子に含まれる水溶性成分である淡黄色ないし黄赤色の固体を得ることができる。前記抽出方法は、一旦抽出処理した抽出残渣を同様に繰り返し抽出処理したり、約1〜約3気圧の加圧下、約100〜約130℃で行うことによって、本発明に係る水溶性成分の収量を増やすことも可能であり、また、前記抽出物をさらに溶剤分別、イオン交換樹脂、シリカゲル、活性アルミナ等の吸着剤を充填したカラムによる分画、液体クロマトグラフィーによる分取等の公知の手段に供して活性成分を濃縮、精製することもできる。この水溶性成分はサポニン、タンニン等を含む。
【0028】
前記水溶性成分に含まれるサポニンとして、3β−[2−O−β−D−ガラクトピラノシル−3−O−(2−O−β−D−グルコピラノシル−α−L−アラビノピラノシル)−β−D−グルコピラヌロノシルオキシ]オレアナ−12−エン−16α,22α,28−トリオール22−[(Z)−2−メチル−2−ブテノアート]であるカメリアサポニン(Camelliasaponin)A1、3β−[2−O−β−D−ガラクトピラノシル−3−O−(2−O−β−D−グルコピラノシル−α−L−アラビノピラノシル)−β−D−グルコピラヌロノシルオキシ)オレアナ−12−エン−16α,22α,28−トリオール22−[(E)−2−メチル−2−ブテノアート]であるカメリアサポニン(Camelliasaponin)A2、3β−[2−O−β−D−ガラクトピラノシル−3−O−(2−O−β−D−グルコピラノシル−α−L−アラビノピラノシル)−β−D−グルコピラヌロノシルオキシ)−16α,28−ジヒドロキシ−22α−[[(Z)−2−メチル−2−ブテノイル]オキシ]オレアナ−12−エン−23−アールであるカメリアサポニン(Camelliasaponin)B1、3β−[[2−O−β−D−ガラクトピラノシル−3−O−(2−O−β−D−グルコピラノシル−α−L−アラビノピラノシル)−β−D−グルコピラヌロノシル)オキシ]−16α,28−ジヒドロキシ−22α−[[(E)−2−メチル−2−ブテノイル]オキシ]オレアナ−12−エン−23−アールであるカメリアサポニン(Camelliasaponin)B2、3β−[2−O−β−D−ガラクトピラノシル−3−O−(2−O−β−D−グルコピラノシル−α−L−アラビノピラノシル)−β−D−グルコピラヌロノシルオキシ]オレアナ−12−エン−16α,22α,23,28−テトラオール22−[(Z)−2−メチル−2−ブテノアート]であるカメリアサポニン(Camelliasaponin)C1、及び、3β−[2−O−β−D−ガラクトピラノシル−3−O−(2−O−β−D−グルコピラノシル−α−L−アラビノピラノシル)−β−D−グルコピラヌロノシルオキシ]オレアナ−12−エン−16α,22α,23,28−テトラオール22−[(E)−2−メチル−2−ブテノアート]であるカメリアサポニン(Camelliasaponin)C2等を例示することができる。これらのサポニン類はツバキに特異的に含まれている。
【0029】
また、本発明に係る緑茶葉抽出物について以下に説明する。茶は茶の木(チャノキ)、茶樹ともよばれ、ツバキ科(Theaceae)、ツバキ属(Camellia)のチャ節に属する常緑樹である(学名:Camellia sinensis)。日本や中国で栽培されている低木の中国種(C.sinensis var.sinensis)とインドやスリランカで栽培されている高木のアッサム種(C.sinensis var.assamica)がある。通常は、これらから摘み取った茶葉に蒸煮・釜炒り等の加熱処理を施して葉に含まれる酵素を失活させたものを不発酵茶(これを一般に緑茶という)として、また、前記加熱処理後に微生物発酵させたものを後発酵茶(黒茶)として、それぞれ飲食に利用している。
【0030】
本発明に係る緑茶葉抽出物を製造するには公知の溶剤抽出法、超臨界炭酸ガス溶媒抽出法等を利用することができ、例えば、前記茶葉の生葉若しくは乾燥葉を適宜に細断又は粉砕し、水及び/又は低級アルコールを抽出溶媒として、茶葉1質量部に対して抽出溶媒を約1〜約50質量部加えて、常温〜約90℃、常圧下又は約1〜約5気圧の加圧下で、約10分〜約10時間、必要に応じて攪拌して混合した後、常温まで冷却して濾過し、濾液を減圧乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等の適当な処理に供して濃縮、乾燥する。このようにして本発明に係る、黄色〜褐色で固体(粉末)状の緑茶葉抽出物を得ることができる。
【0031】
ここで、低級アルコールはメタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数が5程度までの1価アルコールが望ましく、さらには水、含水メタノール又は含水エタノールがより望ましく、水又は含水率が約50質量%以下の含水エタノールが最も好適である。また、前記抽出工程において、一旦抽出処理した抽出残渣を同様に繰り返し抽出したり、約1〜約3気圧程度の加圧下、約100〜約130℃で抽出処理することにより、本発明に係る緑茶葉抽出物の活性成分の増収が可能となる。なお、前記抽出物をさらに溶剤分別したり、イオン交換樹脂、シリカゲル、活性アルミナ、官能基架橋ポリマー等の吸着剤による分画、高速液体クロマトグラフィーによる分取等の公知手段で処理することにより活性成分を濃縮、高純度精製してもよい。
【0032】
本発明に係る緑茶葉抽出物はカテキン類を主成分として、テアニン、γ−アミノ酪酸、サポニン類、ビタミン類(ビタミンB、C、E、β−カロテン等)、ミネラル類(例えば、カリウム、カルシウム、リン、マンガン)等を含む。カテキン類はカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレート、カテキンガレート等である。
【0033】
本発明の経口発毛促進剤において、ノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物と併用する血流改善作用物質の含有量は該剤全体の0.01〜45質量%であり、望ましくは0.1〜40質量%であり、さらに望ましくは0.5〜30質量%である。0.01質量%を下回ると併用による効果が小さく、逆に45質量%を超える使用も更なる所望効果は期待できない。なお、本発明の経口発毛促進剤では、血流改善作用物質の含有量はノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物の合計量を超えないものが望ましい。また、血流改善作用物質は前述の公知の物質や抽出物を単独又は複数で任意に用いることができるが、望ましいものはツバキ種子抽出物及び/又は緑茶葉抽出物であり、さらに望ましいものはツバキ種子抽出物である。そして、このツバキ種子抽出物はツバキ種子の脱脂物から水及び又は低級アルコールで抽出される水溶性成分を含有するものであり、ツバキ特有のサポニン類を含むものであることが好適な態様である。ツバキ種子抽出物と緑茶葉抽出物とを併用する場合の比率(質量基準)は、ツバキ種子抽出物/緑茶葉抽出物が99/1〜40/60、より好ましくは90/10〜50/50である。
【0034】
前述の経口発毛促進剤は、ノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物、より望ましくは、これら両抽出物と血流改善作用物質とりわけツバキ種子抽出物及び/又は緑茶葉抽出物との併用物を有効成分として、これをそのまま、すなわち、前記有効成分のみからなる粉末状、固形状、ペースト状又は液体状の形態となし、これを飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等の用途に利用することが可能である。本発明の経口発毛促進剤は、また、これが利用され得る前記用途における公知の添加物を適宜に併用して、常法により含有せしめて経口用組成物として利用することもできる。ここで、公知の添加物は経口摂取するために通常利用されるものでよく、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、湿潤剤、流動化剤、保存剤、界面活性剤、安定剤、希釈剤、溶解剤、等張化剤、殺菌剤、防腐剤、矯味剤、矯臭剤、着色剤、香料等の添加物質を使用できる。さらには、前記の先行技術文献に記載のものに限定されることなく、発毛・育毛・養毛等の作用を有する既知成分やその含有素材を併用してもよい。本発明の経口発毛促進剤は、さらに、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料、その他の産業分野の各種製品の配合原料の一部として使用することもできる。とりわけ、発毛促進、育毛、養毛、脱毛あるいは薄毛の予防や改善等のための製品となすことが好ましい。
【0035】
本発明の経口発毛促進剤を公知の添加物と併用して経口用組成物とする場合の形態は、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤等のタイプの経口用製剤となすことが可能である。かかる経口用組成物における前記有効成分の含有量は、併用する原料の種類や含有量等により一律に規定し難いが、概ね0.01〜90質量%程度、より望ましくは約0.1〜約70質量%である。前記含有量が約0.01質量%を下回ると本発明の所望効果が認められなくなり、また、本発明の所望効果を発揮させるために多量摂取しなければならず、約90質量%を超えると実用的な製剤組成物を調製することが難しくなる。本発明の発毛促進剤は、これを経口的に摂取又は投与する方法で利用する。この場合の本発明の経口発毛促進剤の好適な摂取量又は投与量の目安は、該剤に含まれる前記有効成分ベースで、ヒト成人(体重50kg)1日あたり約10mg〜約1,000mg、望ましくは約30mg〜約500mg、更に望ましくは約50mg〜約300mgである。
【0036】
本発明の経口発毛促進剤は、これを飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等の公知の製品の配合原料の一部として利用することができる。実用的な製品の例を以下に述べるが、本発明はこの例示により何ら制限されるものではない。
【0037】
飲食品の具体例として、野菜ジュース、果汁飲料、清涼飲料、茶等の飲料類、即席麺、スープ、ゼリー、プリン、ヨーグルト、ケーキプレミックス製品、菓子類、ふりかけ、味噌、醤油、ソース、ドレッシング、マヨネーズ、植物性クリーム、焼肉用たれや麺つゆ等の調味料、麺類、うどん、蕎麦、スパゲッティ、ハムやソーセージ等の畜肉魚肉加工食品、ハンバーグ、コロッケ、ふりかけ、佃煮、ジャム、牛乳、クリーム、バター、スプレッドやチーズ等の粉末状、固形状又は液状の乳製品、マーガリン、パン、ケーキ、クッキー、チョコレート、キャンディー、グミ、ガム等の各種一般加工食品のほか、粉末状、顆粒状、丸剤状、錠剤状、ソフトカプセル状、ハードカプセル状、ペースト状又は液体状の栄養補助食品、特定保健用食品、機能性食品、健康食品、濃厚流動食や嚥下障害用食品の治療食等を挙げることができる。
【0038】
これらの飲食品を製造するには、本発明の発毛促進剤と公知の原材料を用い、あるいは公知の原材料の一部を本発明の発毛促進剤で置き換え、常法によって製造すればよい。例えば、本発明の発毛促進剤を、必要に応じてグルコース、ブドウ糖、デキストリン、乳糖、澱粉又はその加工物、セルロース粉末等の賦形剤、ビタミン類、ミネラル類、動植物や魚介類の油脂、たん白(動植物や酵母由来の蛋白質、その加水分解物等を含む)、糖質、色素、香料、酸化防止剤、界面活性剤、その他の食用添加物、各種栄養機能成分を含む粉末やエキス類等の食用素材とともに混合して粉末、顆粒、ペレット、錠剤等の形状に加工したり、常法により前記例の一般加工食品の形態に加工したり、混合した粉末や液状物をゼラチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース等の被覆剤で被覆してカプセルに成形したり、飲料(ドリンク類)の形態に加工して、栄養補助食品や健康食品として利用することは好適である。とくに錠剤、カプセル剤やドリンク剤の形態が望ましい。なお、これらの飲食品に含まれる本発明の発毛促進剤の含量や摂取量は、前述の経口用組成物の場合とほぼ同様である。
【0039】
本発明の発毛促進剤を用いる医薬品は、前記の経口発毛促進剤に本発明の趣旨に反しない範囲で薬学的に許容される公知の賦形剤や添加物を適宜に加え、常法により加工して錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等の製剤となすことができる。これを経口投与して、薄毛、抜け毛、円形脱毛症、男性型脱毛症(AGA)、びまん性脱毛症、分娩後脱毛症等の予防又は治療のために適用する。なお、これらの医薬品に含まれる本発明の発毛促進剤の含量や摂取量は、前述の経口用組成物の場合に準ずる。
【0040】
また、本発明の発毛促進剤をペットフードや家畜用飼料に適用するには、前記飲食品の場合と同様に、公知の各種飼料や飲用水に配合したり、公知の原材料、添加物とともに錠剤状、顆粒状、カプセル状等の製剤形態のものに加工することができる。これらの飼料における本発明の発毛促進剤の含量や摂取量は前述の経口用組成物の場合とほぼ同様である。
【実施例】
【0041】
以下の各例において、%、部及び比率はとくにことわらないかぎり質量基準である。
【0042】
製造例1(ノコギリヤシ果実抽出物)
ノコギリヤシの乾燥果実10kgを粗粉砕し、超臨界流体抽出法(二酸化炭素、40〜45℃、20±3MPa)により油状のノコギリヤシ果実抽出物(試料1とする)1.8kgを得た。この抽出物の組成(GLC分析)は脂肪酸類(ラウリン酸及びオレイン酸を主成分とする炭素数6〜18の飽和及び不飽和脂肪酸):94.8%、脂肪族アルコール類(ヘキサコサノール、オクタコサノール等):0.2%、ステロール類(β−シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール):0.3%等であった。
【0043】
製造例2(カボチャ種子抽出物)
ペポカボチャ(Cucurbita melopepo L.)の乾燥種子10kgを粗粉砕し、製造例1と同様に超臨界流体抽出法により処理して油状のカボチャ種子抽出物(試料2とする)1.9kgを得た。この抽出物の脂質組成はグリセリド類(リノール酸及びオレイン酸を主成分とする炭素数14〜18の飽和及び不飽和脂肪酸のグリセリド):87.5%、スクアレン:0.6%、脂肪族アルコール類:0.1%(ヘキサコサノール、オクタコサノール等)、ステロール類(β−シトステロール、スチグマステロール、アベナステロール等):0.4%、トコフェロール類(β−及びγ−トコフェロール等):0.1%、微量のβ−カロテン等であった。
【0044】
製造例3(シクロデキストリン包接物)
製造例1に記載のノコギリヤシ果実抽出物、製造例2に記載のカボチャ種子抽出物及びβ−シクロデキストリンの割合(質量比)を1:1:8として、常法により前記抽出物のシクロデキストリン包接物(試料3とする)を調製した。
【0045】
製造例4(ツバキ種子抽出物(1))
長崎県五島産ヤブツバキの乾燥種子を粗粉砕して蒸煮後、圧搾して圧搾油を分離した圧搾粕を得た。次いで圧搾粕にノルマルヘキサンを加えて常法により抽出処理し、抽出液を分離して抽出粕を採取した。この抽出粕をノルマルヘキサンで洗浄して油分を取り除き脱脂物を採取した。この脱脂物1kgに水3Lを加え、常圧下、85℃に加熱して1時間適宜に撹拌した後、室温まで冷却し、濾過して濾液を分離した。この濾過残渣に再度水200mLを加えて同様に加熱、攪拌、冷却後、濾過して濾液を採取した。両濾液を合わせて減圧下に濃縮し、凍結乾燥及び粉砕して、水溶性成分からなる粉末状のツバキ種子抽出物(試料4とする)185gを得た。この抽出物は、これを常法により加水分解してHPLC分析したところ、サポニンのアグリコンであるサポゲニンを17.8%、フラボノールの一種であるケンフェロールを2.7%含むものであった。
【0046】
製造例5(ツバキ種子抽出物(2))
製造例4に記載の方法で得た脱脂物1kgに含水エタノール(含水率35%)2Lを加え、80℃で1時間加熱還流した後、室温まで冷却し、濾過して濾液を分離した。この濾過残渣に再度含水エタノール(含水率35%)2Lを加えて同様に加熱し、冷却後、濾過して濾液を採取した。両濾液を合わせて減圧下に濃縮し、凍結乾燥及び粉砕して、水溶性成分を含む粉末(試料5とする)13.3gを得た。該粉末を製造例4と同様に加水分解してHPLC分析した結果、サポゲニン含量は13.1%であり、ケンフェロール含量は2.3%であった。
【0047】
製造例6(緑茶葉抽出物)
静岡県産の緑茶の乾燥葉1kgを粗細断し、水3Lを加えて、常圧下、85℃に加熱して20分間適宜に撹拌した後、室温まで冷却し、濾過して濾液を分離した。この濾過残渣に再度水2Lを加えて同様に加熱し、攪拌、冷却後、濾過して濾液を採取した。両濾液を合わせて減圧下に濃縮した。その濃縮溶液を、合成吸着剤のダイヤイオン(登録商標)HP−20(三菱化学(株)製)を充填したカラムクロマトグラフィーに供した。水5Lを通液して洗浄した後、含水エタノール(含水率30%)5Lを通液し、該含水エタノールに可溶の溶液を回収した。この溶液を減圧下に濃縮し、噴霧乾燥及び粉砕して、粉末状の緑茶葉抽出物(試料6とする)25gを得た。該粉末をHPLC分析した結果、カテキン類(エピガロカテキンガレートを主成分とし、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、カテキン、エピカテキン等)の含量は90.2%、カフェイン:0.1%等であった。
【0048】
試験例1(血流改善作用)
以下に述べる試験に参加することに同意が得られた被験者30名(24〜65歳、男性15名、女性15名)を1群5名に群分けして二重盲検法により血流測定試験を行った。まず、被験者を温度24±2℃、湿度50±10%に制御した恒温・恒湿の部屋に入室させ、10分間安静に待機させた。この後、試験試料を摂取する前の手の甲及び頭皮の血流量をレーザードップラー(Perimed社製、PeriScan PIM II)を用いて測定した。次に、対照群(プラセボ群)には、被験者が色で判別できないように着色したハードカプセル(ゼラチン製。以下同様)にデキストリンを充填したものを、その他の群には、前記同様に着色したハードカプセルに各試験試料を充填したものをそれぞれ水100mLとともに摂取してもらい、30分後、60分後に再び前記と同様に手の甲及び頭皮の血流量を測定した。なお、試験試料は、前記のツバキ種子抽出物(試料4、試料5)、緑茶葉抽出物(試料6)、市販のイチョウ葉抽出物(ビーエイチエヌ(株)製)、ドコサヘキサエン酸含有魚油(クローダジャパン(株)製、DHA含有油脂)とした。
【0049】
この結果を表1に示す。同表において、数値はプラセボ及び被験物質を摂取する前の値を100としたときの相対値として、平均値±標準偏差で表わした(n=5、ANOVA解析)。表1のデータから、プラセボを摂取した被験者の手の甲及び頭皮の血流量には有意な変化は認められなかったが、試料4や試料5(ツバキ種子抽出物)を摂取した場合は、血流促進作用が公知のイチョウ葉抽出物やドコサヘキサエン酸含有油脂を摂取した場合と同程度に、摂取30分後及び60分後の両時間ともに、手の甲及び頭皮の血流量の値が有意に高かった。又、試料6(緑茶葉抽出物)を摂取した場合は、摂取30分後は血流量に有意な差は認められなかったが、摂取60分後においてはプラセボ群と比べて手の甲及び頭皮の血流量の値が有意に高かった。
【0050】
【表1】

【0051】
試験例2(発毛作用)
以下の試験に参加することに同意が得られた40〜65歳の頭頂部の毛髪が薄い78名(男性:40名、女性:38名)を被験者として、1群6名に群分けして、二重盲検法により試験を行った。対照群には被験者が判別できないように着色したハードカプセルにデキストリンを充填したものを、その他の群には同様に着色したハードカプセルにそれぞれの試料を300mg充填したものを毎日1個、6ヵ月間経口摂取させ、毛髪本数、毛髪成長速度及び毛髪径に及ぼす影響を次の方法により評価した。すなわち、毛髪本数は、デジタルマイクロスコープ((株)ハイロックス製、KH−3000)を用いて頭頂部の所定部位の拡大写真を撮影した後、1cmあたりの毛髪数を測定した。毛髪成長速度は、まず、試験最終日より3日前に頭頂部の所定部位を毛刈りし、前記デジタルマイクロスコープにて拡大写真を撮影し、毛髪の長さを解析した。次に、毛刈りから72時間後の毛の長さを上記同様の方法で測定した。72時間で伸長した毛髪の長さを24時間あたりに換算し、これを毛髪成長速度(μm/24hr)とした。又、毛髪径は、所定部位の毛刈りを行った後、刈りとった毛髪を上記と同様に拡大写真を撮影し、毛髪の太さを解析した。尚、これらの測定はプラセボ及びそれぞれの試料を摂取させる前と、6ヵ月間摂取させた後に実施した。
【0052】
この結果を表2に示す。同表において、摂取試料が併用の場合は等質量混合物を示し、各数値はそれぞれの被験物質を6ヵ月間摂取した後の数値から、摂取する前の数値を差し引き、その変化を平均値±標準偏差で表わした(n=6、ANOVA解析)。表2のデータから、プラセボを摂取した被験者の毛髪数、毛髪成長速度及び毛髪径に有意な変化はみられなかったが、試料1(ノコギリヤシ果実抽出物)や試料2(カボチャ種子抽出物)を摂取した場合にはいずれの測定項目でも有意な変化が認められ、これらの混合物を摂取する場合にはシクロデキストリン包接物の形態(試料3)のとき前記変化が相乗的に発現することが明らかになった。また、試料3と血流促進作用の認められたものとを併用すると、前記変化はより一層大きくなり、とりわけ、ツバキ種子抽出物との併用(試料3+試料4、試料3+試料5、試料3+試料4+試料6)の場合、試料3と緑茶葉抽出物との併用(試料3+試料6、試料3+試料4+試料6)の場合には、前記変化が意外にも極めて顕著なものとなることが確認された。したがって、これらの組み合わせは発毛、育毛、養毛において有用である。なお、血流促進作用が既知のイチョウ葉抽出物やDHA含有油脂と試料3とを併用した場合の前記変化は、試料3単独の場合よりも高値であるが、ツバキ種子抽出物や緑茶葉抽出物との併用の場合に比べて小さかった。
【0053】
【表2】

【0054】
試作例1(ソフトカプセル)
前記の試料1及び試料2(混合比:1/1)、試料3及び試料4(混合比:2/1)、試料3及び試料5(混合比:1/1)、試料3及び試料6(混合比:2/1)、試料3及び試料4及び試料6(混合比:1/1/1)のいずれか1種:200部に、ミツロウ:40部及び月見草油(英国エファモール社製):50部を加え、加熱混合して均質化後、カプセル充填機に供して、常法により1粒あたり内容量が250mgのゼラチン被覆ソフトカプセル製剤を試作した。このカプセル製剤は経口摂取可能な栄養補助食品、医薬品又は動物用飼料として利用することができる。
【0055】
試作例2(ハードカプセル)
前記の試料3、試料3及び試料4(混合比:1/1)、試料3及び試料5(混合比:3/1)、試料3及び試料6(混合比:1/1)、試料3及び試料4及び試料6(混合比:2/1/1)のいずれか1種をカプセル充填機に供して、常法により1粒あたり内容量が200mgのゼラチン被覆ハードカプセル製剤を試作した。このカプセル製剤は経口摂取可能な栄養補助食品、医薬品又は動物用飼料として利用することができる。
【0056】
試作例3(錠剤)
前記の試料3、試料3及び試料4(混合比:3/1)、試料3及び試料5(混合比:2/1)、試料3及び試料6(混合比:3/1)、試料3及び試料4及び試料6(混合比:3/2/1)のいずれか1種:30部、カルボキシメチルセルロース:70部、コーンスターチ:40部、マンニトール:20部、リン酸三カルシウム:30部、パントテン酸カルシウム:10部及びブドウ茎抽出物(BioseraeLab社製、Resveravine):10部を混合機に仕込み、10分間攪拌混合した。この混合物を直打式打錠機に供して直径7mm、高さ4mm、150mg/個の素錠を作成し、次いでコーティング機でシェラック被膜を形成させて錠剤を試作した。この錠剤は経口摂取可能な栄養補助食品、医薬品又はペット用飼料として利用することができる。
【0057】
試作例4(飲料)
市販の栄養ドリンク100mLに試料3及び試料4(混合比:2/1)、試料3及び試料5(混合比:3/1)、試料3及び試料6(混合比:1/1)のいずれか1種:250mgを加えて十分に混合し飲料を試作した。これは冷蔵庫で6ヵ月間保存しても外観及び風味に異状及び違和感は認められなかった。本品は発毛、育毛、養毛等のための飲料やドリンク剤として利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の、ノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物、該両抽出物とツバキ種子抽出物及び/又は緑茶葉抽出物との併用物を有効成分として含む発毛促進剤は、これを経口で摂取又は投与することにより発毛促進、育毛及び/又は養毛の作用を有するため、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等の分野において有効利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物を有効成分として含有してなる経口発毛促進剤。
【請求項2】
ノコギリヤシ果実抽出物及びカボチャ種子抽出物がシクロデキストリンで包接されたものである請求項1に記載の経口発毛促進剤。
【請求項3】
血流改善作用物質を併用するものである請求項1又は2に記載の経口発毛促進剤。
【請求項4】
血流改善作用物質がツバキ種子抽出物及び/又は緑茶葉抽出物である請求項3に記載の経口発毛促進剤。
【請求項5】
ツバキ種子抽出物がツバキ種子の脱脂物を水及び/又は低級アルコールで抽出処理して得られる水溶性成分を含むものである請求項4に記載の経口発毛促進剤。
【請求項6】
ツバキ種子抽出物がサポニン類を含有するものである請求項4又は請求項5に記載の経口発毛促進剤。
【請求項7】
飲食品として使用する請求項1〜6のいずれか1項に記載の経口発毛促進剤。
【請求項8】
形態が粉末、顆粒、錠剤、カプセル又は液体である請求項7に記載の経口発毛促進剤。

【公開番号】特開2011−105695(P2011−105695A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276977(P2009−276977)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(500081990)ビーエイチエヌ株式会社 (35)
【Fターム(参考)】