説明

経口組成物

【課題】血管弛緩作用を有する経口組成物を提供する。より詳細には、血管弛緩作用を有し、専ら血管の弛緩を目的として用いられる、高血圧症や動脈硬化症の発生予防に有効な経口組成物を提供する。
【解決手段】プロシアニジン1重量部に対して還元型コエンザイムQ10を2〜20重量部の割合で配合して経口組成物として調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口組成物に関する。より詳細には、本発明は血管弛緩作用を有し、専ら血管の弛緩、言い換えると血管をしなやかにすることを目的として用いられる経口組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会を迎え、成人病がますます重要な社会問題となっている。成人病に起因する症状、特に血液関連の疾病、例えば高血圧症、動脈硬化症、肺高血圧症、心筋梗塞、脳梗塞、肺梗塞、クモ膜下出血後の血管攣縮などのように、血管が細くしかも硬くなることによって起こる疾病の発生を予防することは、セルフメディケーションの必要性が唱えられている今日、特に高年齢層の社会では重要な課題である。これらの疾病は、血管の弾力性を改善して血管をしなやかにする作用を有する血管弛緩用組成物によって予防することができる。
【0003】
従来から、ソバ茶に含まれる酸性の水溶性画分(非特許文献1)、セリ科植物であるボタンボウフウ(非特許文献2)、プロアントシアニジン(特許文献1)、杜仲葉水抽出物(特許文献2)、ホップ(特許文献3)、ムラサキサツマイモの水溶性溶媒抽出物(特許文献4)に血管平滑筋を柔軟にすることでその収縮を緩め、血管を拡張する作用があることが知られている。かかる物質はいずれも食経験のあるものであるため、経口摂取において安全性に優れ、経口医薬品や食品の有効成分として有効に使用することができる。
【0004】
しかし、実用化にあたっては、その効果の実効性をより高めるための更なる検討が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−123707号公報
【特許文献2】特開2006−137715号公報
【特許文献3】特開2005−104951号公報
【特許文献4】特開2001−145471号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】伊藤園ニュースリリース「2006年5月10日ソバ茶に含まれる成分に、血管拡張作用があることを初めて確認:第60回日本・栄養食糧学会(5月20〜21日)にて発表」(平成21年9月20日検索)、インターネット<http://www.itoen.co.jp/news/2006/051001.html>
【非特許文献2】タカラバイオ株式会社ニュースリリース「セリ科植物ボタンボウフウに血管拡張作用があることを確認、2009.8.26」(平成21年9月20日検索)<hhttp://www.takara-bio.co.jp/news/2009/08/26.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、血管弛緩作用を有する経口組成物、特に専ら血管弛緩を目的として使用される経口組成物を提供することを目的とする。より詳細には、本発明は、高血圧症や動脈硬化症等の血管、特に動脈血管の弾力性に関係する疾患の発症を有意に抑制すべく、血管弛緩作用に優れた経口組成物、特に血管弛緩用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題の解決を目指して検討を重ねていたところ、上記従来から血管弛緩作用が知られているプロシアニジンに還元型コエンザイムQ10を特定の割合で組み合わせることで、プロシアニジンが有する血管弛緩作用が格段に増強することを見出し、かかる組成物が血管弛緩用組成物として実効性に優れた経口医薬品または健康食品として有用であることを確認した。
【0009】
本発明はかかる知見に基づいて完成されたものであり、下記の態様を包含するものである。
【0010】
(I)経口組成物
(I-1).プロシアニジン1重量部に対して還元型コエンザイムQ10を2〜20重量部の割合で含有する経口組成物。
(I-2).血管弛緩用組成物である、(I-1)に記載する経口組成物。
(I-3).経口医薬組成物である、(I-1)または(I-2)に記載する経口組成物。
(I-4).健康食品組成物である、(I-1)または(I-2)に記載する経口組成物。
【0011】
(II)プロシアニジンの血管弛緩作用が増強された経口組成物を製造する方法
(II-1).プロシアニジン1重量部に対して還元型コエンザイムQ10を2〜20重量部の割合で配合することを特徴とする、プロシアニジンの血管弛緩作用が増強された経口組成物を製造する方法。
【0012】
(III)プロシアニジンが有する血管弛緩作用を増強する方法
(III-1).プロシアニジン1重量部に対して還元型コエンザイムQ10を2〜20重量部の割合で配合することを特徴とする、プロシアニジンの血管弛緩作用を増強する方法。
当該方法は「プロシアニジン1重量部に対して還元型コエンザイムQ10を2〜20重量部の割合で配合して経口組成物を調製することを特徴とする、プロシアニジンの血管弛緩作用を増強する方法。」とも言い換えることができる。かかる方法は、プロシアニジンそのものが有する作用(血管弛緩作用)を、特定量の還元型コエンザイムQ10と組み合わせることによって、さらに増強する方法に関するものであり、ヒトを対象とする治療方法を意図するものではない。
【発明の効果】
【0013】
プロシアニジン1重量部に対して還元型コエンザイムQ10を2〜20重量部の割合で含有する本発明の経口組成物によれば、これを経口的に摂取することで、それぞれプロシアニジン単独または還元型コエンザイムQ10単独では得られない優れた血管弛緩効果を得ることができる。このため、本発明の経口組成物は高血圧症や動脈硬化症などの血管、特に動脈血管の弾力性に関係する疾患の予防またはその改善に有効に使用することができる。また本発明の経口組成物によれば、血管壁の弾力性を改善し、血管をしなやかにすることができるため、血管の老化予防や血管の若返り効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】還元型コエンザイムQ10単独(―●―)、松樹皮抽出物単独(―■―)、および還元型コエンザイムQ10と松樹皮抽出物を含有する組成物(―▲―)の血管弛緩作用を示す(実験例1)。縦軸は血管弛緩率(%)を、横軸は各成分(還元型コエンザイムQ10単独、松樹皮抽出物単独、および還元型コエンザイムQ10と松樹皮抽出物の併用)の灌流液中の濃度(μg/ml)を意味する。
【図2】還元型コエンザイムQ10及び松樹皮抽出物を含有するカプセルを被験者(n=25)に一定期間経口投与して、血管老化偏差値を測定した結果を示す(実験例2)。摂取から2週間目及び4週間目で、血管老化偏差値の低下(血管弾力性/弛緩性の向上)が認められ、摂取を中止すると元に戻ることがわかる。
【図3】還元型コエンザイムQ10及び松樹皮抽出物を含有するカプセルを被験者(n=25)に一定期間経口投与して、血管年齢を測定した結果を示す(実験例2)。摂取から2週間目及び4週間目で、血管年齢の低下(血管弾力性/弛緩性の向上)が認められ、摂取を中止すると元に戻ることがわかる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(I)経口組成物
本発明の経口組成物は、プロシアニジン1重量部に対して還元型コエンザイムQ10を2重量部以上、好ましくは2〜20重量部の割合で含有するものである。本発明の経口組成物は、血管弛緩作用を有することを特徴とする。なお、本発明において「血管弛緩作用」とは、血管壁をしなやかにすることで、血管の柔軟性を上げ、血流の圧力によって血管壁が広がりやすくする作用をいう。この作用を発揮することにより、血圧の上昇を抑え、また血管壁の破損や破裂の危険性を有意に低下することができる。
【0016】
(1)プロシアニジン
プロシアニジンとは、カテキンの重合体で、ほとんどの植物が有している二次代謝産物の1つである。プロシアニジンは重合することによって、その有用生理活性が高くなり、さらに単量体であるカテキンにはない有用生理活性が生じる。
【0017】
プロシアニジンは、植物の葉、樹皮、果物の皮もしくは種の部分に集中的に含まれている。具体的には、プロシアニジンは、松、樫、山桃などの植物の樹皮;ブドウ、ブルーベリー、ラズベリー、クランベリー、イチゴ、アボガド、ニセアカシア、コケモモなどの植物の果実もしくは種子;大麦;小麦;大豆;黒大豆;カカオ;小豆;トチの実の殻;ピーナッツの薄皮;イチョウ葉;西アフリカのコーラナッツ;ペルーのラタニアの根;および日本の緑茶などの含まれていることが知られている。
【0018】
本発明の経口組成物は、プロシアニジンを精製した状態で含むものであってもよいが、それに限らず、プロシアニジンとしてプロシアニジンを含有する上記の植物に由来する素材またはその加工物を含むものであってもよい。プロシアニジンを豊富に含むという点から、好ましくは松樹皮またはその加工物、具体的には松樹皮抽出物である。
【0019】
ここで松樹皮としては、フランス海岸松(Pinus Martima)、カラマツ、クロマツ、アカマツ、ヒメコマツ、ゴヨウマツ、チョウセンマツ、ハイマツ、リュウキュウマツ、ウツクシマツ、ダイオウマツ、シロマツ、カナダのケベック地方のアネダなどのマツ目に属する植物の樹皮を挙げることができる。好ましくは、南仏の大西洋沿岸の一部に生育している海洋性松であるフランス海岸松(Pinus Martima)の樹皮である。
【0020】
松樹皮抽出物は、松樹皮からプロシアニジンを多く含む画分を抽出する方法で調製され、特に限定されないが、例えば、溶媒抽出法、超臨界流体抽出法などが用いられる。
【0021】
溶媒抽出法は、上記の松樹皮を水または有機溶媒で抽出することで実施される。水を用いる場合には、温水または熱水を用いることが好ましい。抽出に用いる有機溶媒としては、食品あるいは薬剤の製造に許容される有機溶媒が用いられ、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、含水エタノール、含水プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、および1,1,2−トリクロロエテンが挙げられる。これらの水および有機溶媒は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好ましくは、水、熱水、エタノール、含水エタノール、および含水プロピレングリコールが好ましく用いられる。なお、抽出効率を向上させる点から、抽出液には塩化ナトリウムなどの塩を添加することが好ましい。
【0022】
超臨界流体抽出法は、物質の気液の臨界点(臨界温度、臨界圧力)を超えた状態の流体(超臨界流体)を用いて抽出することで実施される。超臨界流体としては、二酸化炭素、エチレン、プロパン、亜酸化窒素(笑気ガス)などを挙げることができるが、好ましくは二酸化炭素である。
【0023】
松樹皮からのプロシアニジン抽出は、上記の方法以外に、液体二酸化炭素回分法、液体二酸化炭素還流法、超臨界二酸化炭素還流法などを行うことで実施することもできる。
【0024】
斯くして調製される松樹皮抽出物は、プロシアニジンを35重量%以上含有していることが好ましく、より好ましくはプロシアニジンを60重量%以上含有する松樹皮抽出物である。なお、かかる松樹皮抽出物は商業的に入手することができ、例えば、東洋新薬株式会社等から販売されている市販品を使用することができる。
【0025】
本発明の経口組成物中のプロシアニジンの含有量は、制限されないが、0.01重量%以上含むことが好ましい。好ましくは0.1〜33重量%である。
【0026】
(2)還元型コエンザイムQ10
コエンザイムQ10には、酸化型と還元型の2種類の形態がある。そのうち、本発明では還元型コエンザイムQ10が好適に使用される。
【0027】
還元型コエンザイムQ10は商業的に入手することができ、例えば株式会社カネカから販売されている市販品を使用することができる。
【0028】
当該還元型コエンザイムQ10は、本発明の経口組成物に含まれる上記プロシアニジン1重量部に対して2重量部以上の割合で配合される。好ましくは2〜20重量部、より好ましくは4〜10重量部である。
【0029】
(3)その他の成分
本発明の経口組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記の成分に加えて、さらに必要に応じて、他の成分を含有することができる。例えば、ソバ茶に含まれる酸性水溶性画分(非特許文献1)、セリ科植物ボタンボウフウ等の植物抽出物(非特許文献2)、クロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体(特開2006-298802号公報)などの血管弛緩作用が知られている成分を挙げることができる。
【0030】
また、他の成分は、本発明の血管弛緩用組成物の適用用途および形態に応じて、適宜設定することができる。例えば、食品や経口医薬品として用いる場合は、例えば、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、滑沢剤、湿潤剤、懸濁剤、着色料、香料、および栄養成分などの成分を目的に応じて配合することができる。
【0031】
(4)経口組成物/血管弛緩用組成物
本発明の経口組成物は、血管弛緩用組成物として好適に用いられる。かかる本発明の経口組成物は、上記の各成分を当業者が通常用いる方法によって混合し、各種の経口投与若しくは経口摂取される形態にすることで調製することができる。
【0032】
本発明の経口組成物は、経口医薬組成物として調製することができる。かかる医薬組成物は、種々の剤形、例えば、経口投与形態として、錠剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル)、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁液、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤等とすることができる。かかる医薬組成物は、一般に用いられる各種成分を含むことができ、例えば、1種もしくはそれ以上の薬学的に許容され得る賦形剤、崩壊剤、希釈剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、懸濁化剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、補助剤、防腐剤、緩衝剤、結合剤、安定剤、コーティング剤等を挙げることができる。また本発明の医薬組成物は、持続性または徐放性剤形であってもよい。
【0033】
かかる医薬組成物の投与量は、投与経路、患者の体型、年齢、体調、疾患の度合い等により、適宜選択することができる。制限はされないが、一般にプロシアニジンの投与量に換算して0.01〜30mg/日/成人、好ましくは1〜20mg/日/成人の用量で使用されうる。また還元型コエンザイムQ10の投与量に換算して0.02〜600mg/日/成人、好ましくは2〜400mg/日/成人の用量で使用することができる。当該医薬組成物の投与は、1日あたり単回投与であってもよいし、また複数回投与であってもよい。
【0034】
本発明の経口組成物は、食品組成物として調製することができる。なお当該食品には飲料が含まれる。当該食品組成物は、そのまま機能性食品として使用できるほか、飲食物、医薬品、医薬部外品、飲食物等の成分、食品添加物等として使用することができる。
【0035】
本発明の食品組成物、特に食品または飲料の例としては、血管弛緩効果を有する機能性食品(特定保健用食品が含まれる)、健康食品、一般食品(ジュース、菓子、加工食品等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)等が含まれる。また本発明の食品組成物には、錠剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル)、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤などの経口投与製剤形態を有するサプリメント等が含まれる。
【0036】
かかる食品組成物の推奨される摂取量は、前述する医薬組成物の投与量に準じて設定することができる。また当該食品組成物は、1日あたり単回摂取してもよいし、また複数回摂取してもよい。
【0037】
本発明の食品組成物の使用により、血管弛緩作用を有する飲食物を日常的に且つ継続的に摂取することが可能となり、血管硬化や弾力性の低下に伴う各種の疾患、例えば高血圧症、動脈硬化症等の各種の疾患の発症を予防することが可能となる。
【0038】
(II)プロシアニジンが有する血管弛緩作用を増強する方法
本発明は、プロシアニジンが有する血管弛緩作用を増強する方法に関する。当該方法は、プロシアニジン1重量部に対して還元型コエンザイムQ10を2重量部以上配合することで実施することができる。好ましい還元型コエンザイムQ10の配合量は、プロシアニジン1重量部に対して2〜20重量部、より好ましくは4〜10重量部である。
【0039】
本発明の方法によればプロシアニジンそのものが有する血管弛緩作用を増強することができるため、優れた血管弛緩効果を発揮し、高血圧症や動脈硬化症などの血管、特に動脈血管の弾力性に関係する疾患の発症予防や進行を防止するための経口組成物、すなわち血管弛緩用組成物の調製に好適に使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実験例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは「重量部」を、「%」とは「重量%」を意味するものとする。
【0041】
実験例1 血管弛緩作用の評価(in vitro)
(1)経口組成物(血管弛緩用組成物)の調製
松樹皮抽出物(エキス末:プロシアニジン含量67%)10gと還元型コエンザイムQ10 60gを均一になるまで混合し、経口組成物70gを得た。
【0042】
(2)試験方法
上記経口組成物をKrebs液に溶解して、各種濃度(0.01〜1μg/ml)の経口組成物のKrebs液への溶解物を調製し、その血管弛緩作用を、灌流装置を用いて評価した。
【0043】
また比較試験として、上記経口組成物のKrebs液への溶解物に代えて還元型コエンザイムQ10のKrebs液への溶解物(0.01〜1μg/ml)、および松樹皮抽出物のKrebs液への溶解物(0.01〜1μg/ml)についても同様にその血管弛緩作用を評価した。なお、灌流装置は送液ポンプ(Peristaltic Pump AC-2120、ATTO社 )、圧トランスジューサ(TP-200T、日本光電社)、注入ポンプ(HARVARD975、USA)、血圧アンプ(AP-641G、日本光電社)からなるものを使用した。
【0044】
(3)実験手順
(1)8-10週齢のWistar系雄性ラットから摘出した腸管膜動脈から作製した灌流標本を、37℃に保温した灌流装置に設置する。
(2)その後、37℃のガラス管内に一定流量で灌流して加温したKrebs液を、灌流標本内に5mL/minの一定流量で灌流する。
(3)次いで、メトキサミン塩酸塩(日本新薬(株))(7μM)を用いて血管を収縮させて、灌流圧を一定レベルまで上昇させる。
(4)次に、メトキサミン塩酸塩を含むKrebs液に各濃度の血管弛緩組成物(0.01〜1μg/ml)を溶解して調製した灌流液を灌流標本内に灌流し、弛緩反応を確認する。なお、弛緩反応は、灌流装置の送液ポンプと標本の間に接続した圧トランスジューサTP-200T(日本光電社)により、灌流圧(mmHg)の変化を測定することで確認することができる。
(5)血管弛緩率(%)を、パパベリン(大日本住友製薬(株))(100μM)を灌流標本内に灌流した時に生じる灌流圧(mmHg)から、Krebs液のみを灌流した時に生じる灌流圧(mmHg)を差し引いたものを100%とし、これとの相対比から求める。
【0045】
なお、上記Krebs液は、次のように調製した。すなわち、EDTA・2Na(同仁化学研究所)を0.112g、リン酸2水素カリウム(KH2PO4 、和光純薬)を1.634g、硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O 、和光純薬)を2.958g、塩化ナトリウム(NaCl 、和光純薬)を69.544g、塩化カリウム(KCl、和光純薬)3.504g、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3、和光純薬)21.003gを秤量し、精製水(和光純薬)で溶解・希釈して10 L全量に調整したものを「Krebs1液」とした。また、塩化カルシウム二水和物(CaCl2・2H2O、和光純薬) 17.66gを秤量し、蒸留水で溶解・希釈して50mL全量に調整した物を「Krebs2液」とした。次に「Krebs2液」1mLとグルコース(和光純薬)2gを、95%の酸素ガス(日本窒素)に20分間通気した「Krebs1液」で溶解・希釈して1L全量に調整したものをKrebs液とした。
【0046】
(4)試験結果
結果を図1に示す。縦軸は血管弛緩率(%)を、横軸は還元型コエンザイムQ10単独(―●―)、松樹皮抽出物単独(―■―)、および還元型コエンザイムQ10と松樹皮抽出物の併用(―▲―)の灌流液中の濃度(μg/ml)を意味する。
【0047】
この結果から、還元型コエンザイムQ10と松樹皮抽出物(プロシアニジン含量67%)を組み合わせて含有する本発明の経口組成物は、還元型コエンザイムQ10または松樹皮抽出物(プロシアニジン含量67%)のそれぞれ単独の血管弛緩作用よりも、顕著に優れた血管弛緩作用を発揮することが判明した。
【0048】
実験例2 血管弛緩作用の評価(in vivo)
(1)経口組成物の調製
還元型コエンザイムQ10 60部、及び松樹皮抽出物20部を植物油197部に溶解し、これにグリセリン脂肪酸エステル13部、及びミツロウ10部を加え、これをカプセル内容物とした。調製した内容物が1個あたり300mgになるように、ソフトカプセル製剤の製法に関する定法に従ってゼラチン皮膜内に封入し、1個あたり475mgの経口組成物(ソフトカプセル)を作製した。
【0049】
(2)試験方法
被験者25名を対象として、上記(1)で調製したソフトカプセル(475mg/個:松樹皮抽出物約20mg、還元型コエンザイムQ10 60mg)を1日1カプセル、1ヶ月間摂取してもらい、血管状態に与える影響を確認した。
【0050】
血管状態に与える影響の確認には、加速度脈波測定システム「Artett((株)ユメディカ製)」を用いた。当該システムは、動脈壁の弾力性を年齢に応じて相対的に評価する方法(特許第3487829号、特許第4347338号)であり、指尖容積脈波と加速度脈波の波形タイプから、 (a)血管老化偏差値、及び(b)血管年齢を測定することができる。具体的には、被験者の加速度脈波の測定値から波形指数を求めて、測定した加速度脈波の波形が健常者の何歳の波形に相当するかを、健常者の波形指数の年齢と性別に応じた分布に基づいて算出し、これを被験者の血管年齢とし、血管老化度を評価する方法であり、これから血管の器質的・機能的弾力性及び緊張性を評価することができる(H TAKADA: Proposal of aging score method by acceleration plethysmography. Health Evaluation and Promotion, 29(5):855-861, 2002)。つまり当該システムによれば、血管弛緩性を評価することができる。
【0051】
測定は、摂取前、摂取2週間目、摂取4週間目、及び摂取終了2週間目(摂取を止めてから2週間後)の合計4回行った。
【0052】
(3)試験結果
(a)血管老化偏差値、及び(b)血管年齢の結果を、それぞれ図2及び3に示す。なお、(a)血管老化偏差値が高いほど、「血管老化」が進展していること、つまり血管の弾力性が低下し硬化が進んでいることを意味する。また(b)血管年齢は、被験者の実年齢の平均と血管年齢の測定値の平均との差で表しており、マイナスの値が大きいほど、実年齢よりも若い血管年齢の測定値が得られたことを示す。
【0053】
被験者全体(n=25)において、(1)で調製したソフトカプセルを摂取することで、(a)血管老化偏差値、及び(b)血管年齢の両項目で、格段の改善効果(血管弛緩効果)が見られた。一方、摂取終了2週間目の測定では、摂取中に比べて、(a)と(b)の両項目で悪化傾向(血管弛緩効果の消失)が見られた。このことから、本発明の経口組成物は、継続的に投与または摂取することで、血管状態を改善し(血管弛緩)、またその効果を持続できることが確認された。
【0054】
これらの結果より、本発明の経口組成物は、継続して経口摂取することで、血管の老化予防や血管の若返り効果を期待することができる。また血管壁の硬化(弾力性低下)を阻止することで動脈硬化の進行や発症を予防する効果を期待することができる。
【0055】
処方例1〜4
下記に記載する処方に従って、還元型コエンザイムQ10と松樹皮抽出液(プロシアニジン含量67%)を組み合わせて含有する本発明の経口組成物を調製した。
【0056】
(処方例1:カプセル剤)
1.還元型コエンザイムQ10 30部
2.松樹皮抽出物 10部
3.結晶セルロース 58部
4.グリセリン脂肪酸エステル 2部
成分1〜4を混合し、硬カプセルに200mg充填してカプセル剤を得た。
【0057】
(処方例2:錠剤)
1.還元型コエンザイムQ10 30部
2.松樹皮抽出物 5部
3.カルボキシメチルセルロースカルシウム 38部
4.コーンスターチ 25部
5.タルク 2部
成分1〜5を均一に混合して打錠し、1錠あたり200mgの錠剤を得た。
【0058】
(処方例3:錠菓)
1.還元型コエンザイムQ10 2.0部
2.松樹皮抽出物 0.2部
3.乳糖 50.0部
4.還元麦芽糖水飴 45.0部
5.ショ糖脂肪酸エステル 2.7部
6.香料 0.1部
成分1〜4を混合して、10%の水を結合剤として加え流動層造粒し、成形した顆粒に成分5及び6を加えて混合し、打錠して1錠あたり500mgの錠菓を得た。
【0059】
(処方例4:飲料)
1.還元型コエンザイムQ10 2.0部
2.松樹皮抽出物 0.2部
3.ショ糖 10.0部
4.クエン酸 1.0部
5.香料 0.5部
6.精製水 86.3部
成分6に成分1〜5を加えて攪拌溶解し、加熱殺菌してガラス瓶に充填し、1本あたり20mLの飲料を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロシアニジン1重量部に対して還元型コエンザイムQ10を2〜20重量部の割合で含有する経口組成物。
【請求項2】
血管弛緩用組成物である、請求項1に記載する経口組成物。
【請求項3】
プロシアニジン1重量部に対して還元型コエンザイムQ10を2〜20重量部の割合で配合することを特徴とする、プロシアニジンの血管弛緩作用を増強する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−93887(P2011−93887A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217231(P2010−217231)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】