説明

経皮吸収促進用組成物および貼付製剤

【課題】十分に高い薬物の経皮吸収促進効果を示す組成物、および該組成物を含む貼付製剤の提供。
【解決手段】炭素数14〜20の高級アルコールと、炭素数3〜8の多価アルコールとを含む組成物、および該組成物を含む貼付製剤。該高級アルコールとしては、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ヘキシルデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、アラキルアルコールおよびオクチルドデカノールからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。該多価アルコールとしては、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコールおよびオクタンジオールからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は十分に高い薬物の経皮吸収促進効果を示す経皮吸収促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
経皮吸収製剤は、肝臓もしくは消化管での初回通過効果を回避できること、薬物が長時間にわたって皮膚から吸収されるため、貼付している間は安定した血中濃度を維持できること、副作用発現時等において容易に投与を中止できることなどの多くの利点を持っている。しかし、多くの薬物は皮膚透過性が低いため、実際に経皮吸収製剤化されている薬物は少なく、薬物の経皮吸収性を向上させる技術が望まれている。
【0003】
これまでに、薬物の経皮吸収性を向上させるために、さまざまな方法が考えられてきた。その一つとして、薬物を溶解させる溶液を工夫し、薬物の経皮吸収性を向上させる試みが行われてきた。例えば、特許文献1では、脂肪酸系イオン液体を有効成分とする外用剤組成物が、薬物の経皮吸収性を向上させることが示されている。具体的に述べると、特許文献1では、炭素数5〜20の脂肪酸、炭素数4〜12の有機アミン、低級アルコールであるエタノールおよびイソプロパノール、および多価アルコールであるプロピレングリコールが、外用剤組成物に使用されている。
【0004】
また、特許文献2では、炭素数8〜12の高級アルコールと多価アルコールからなる組成物が薬物の経皮吸収性を向上させることが示されている。
【0005】
しかし、本発明者らの検討では、かかる従来の薬物の経皮吸収性を向上させるとする組成物は、溶媒の揮散により組成が変わるために、安定した経皮吸収性が得られないものであったり、薬物の皮膚透過量を十分に向上させることができないために期待する薬理効果を発現する経皮吸収製剤を得ることができないものであったり、特定の薬物に対してしか経皮吸収促進効果を示さないものであったりすることから、優れた吸収促進効果を示し、且つ、汎用性が高いものは少なかった。このため、薬物の経皮吸収性を大幅に向上させるためには、この種の組成物のより抜本的な組成の改良が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/066457号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2000/53226号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、十分に高い薬物の経皮吸収促進効果を示す組成物、特に貼付製剤において十分に高い薬物の経皮吸収促進効果を示す組成物を提供することである。
また、十分に高い薬物の経皮吸収性を示す貼付製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、炭素数が14〜20の高級アルコールと炭素数が3〜8の多価アルコールとの組み合わせが、薬物の経皮吸収性向上に極めて有利に作用することを知見し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることにより、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 炭素数14〜20の高級アルコールと、炭素数3〜8の多価アルコールとを含む、経皮吸収促進用組成物。
[2] 炭素数14〜20の高級アルコールが、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ヘキシルデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、アラキルアルコールおよびオクチルドデカノールからなる群から選択される1種または2種以上である、上記[1]に記載の経皮吸収促進用組成物。
[3] 炭素数3〜8の多価アルコールが、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコールおよびオクタンジオールからなる群から選択される1種または2種以上である、上記[1]に記載の経皮吸収促進用組成物。
[4] 炭素数14〜20の高級アルコールが、炭素数16〜20の高級アルコールである、上記[1]または[2]記載の経皮吸収促進用組成物。
[5] 貼付製剤用である、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の経皮吸収促進用組成物。
[6] 支持体の片面に、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の組成物と薬物とを含む薬物含有粘着層または薬物貯蔵層を有する、貼付製剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭素数14〜20の高級アルコールと、炭素数3〜8の多価アルコールとを組み合わせることで、十分に高い薬物の経皮吸収促進効果が得られる、経皮吸収促進用組成物を得ることができる。
また、本発明の経皮吸収促進用組成物を使用することで、優れた薬物の経皮吸収性を示すマトリクス型またはリザーバー型貼付製剤を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のマトリクス型貼付製剤の一例の模式断面図である。
【図2】本発明のリザーバー型貼付製剤の一例の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその実施形態に即して説明する。
本発明の経皮吸収促進用組成物(以下、単に「本発明の組成物」ともいう)は、炭素数14〜20の高級アルコールと、炭素数3〜8の多価アルコールとを含むことが主たる特徴である。
【0013】
炭素数14〜20の高級アルコール(以下、単に「高級アルコール」ともいう)には、通常、一価アルコールが使用される。その構造は特に限定されず、直鎖状または分岐鎖状のいずれでもよい。また、1個または2個以上の不飽和結合を含んでいてもよいが、好ましくは飽和アルコールである。具体的には、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ヘキシルデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノールなどが挙げられる。かかる炭素数14〜20の高級アルコールは1種または2種以上を用いることができる。
【0014】
炭素数3〜8の多価アルコール(以下、単に「多価アルコール」ともいう)には、2価または3価のアルコールを用いることができるが、その構造は特に限定されない。具体的には、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、オクタンジオール等が挙げられる。なかでも、炭素数が3〜4のものが好ましく、特に好ましくはプロピレングリコール、ブチレングリコールである。かかる炭素数3〜8の多価アルコールは1種または2種以上を用いることができる。
【0015】
本発明の組成物を適用する薬物は特に限定されない。すなわち、ヒトなどの哺乳動物の皮膚を通して投与し得る性質、すなわち経皮吸収性を有するものであれば特に限定されるものではない。具体的には、全身性麻酔薬、催眠・鎮静薬、抗癲癇薬、解熱鎮痛消炎薬、鎮暈薬、精神神経用薬、局所麻酔薬、骨格筋弛緩薬、自律神経用薬、鎮痙薬、抗パーキンソン薬、抗ヒスタミン薬、強心薬、不整脈用薬、利尿薬、血圧降下薬、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、動脈硬化用薬、循環器用薬、呼吸促進薬、鎮咳去痰薬、ホルモン薬、化膿性疾患用外用薬、鎮痛・鎮痒・収斂・消炎用薬、寄生性皮膚疾患用薬、止血用薬、痛風治療用薬、糖尿病用薬、抗悪性腫瘍用薬、抗生物質、化学療法薬、麻薬、抗統合失調症薬、抗うつ薬、禁煙補助薬などが例示できる。
【0016】
本発明の組成物における各成分の配合量は経皮吸収促進を図る薬物の種類や所望の経皮吸収速度などに応じて適宜選択することが可能である。一般的には、多価アルコールと高級アルコールとの合計量100重量部中、高級アルコールを0.01〜50重量部(好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.1〜10重量部)程度とし、残りを多価アルコールとする配合が好ましい。すなわち、高級アルコールと多価アルコールとの配合重量比(高級アルコール:多価アルコール)が0.01〜50:50〜99.99が好ましく、0.1〜20:80〜99.9がより好ましく、0.1〜10:90〜99.9がさらに一層好ましい。
【0017】
本発明の組成物は、薬物とともに経皮吸収製剤の調製に供される。経皮吸収製剤の剤型としては、軟膏剤、クリーム剤、液剤、ローション剤、リニメント剤、パップ剤、硬膏剤(プラスター剤)、貼付剤等が挙げられる。多くの場合、本発明の組成物は薬物をさらに含有させた薬物含有組成物に調製して使用される。経皮吸収促進効果の観点から、当該薬物含有組成物中の薬物の含有量は飽和濃度であるか、或いは、飽和濃度の80重量%以上であることが好ましい。典型的には、多価アルコールと高級アルコールとの合計量100重量部に対して、薬物は好ましくは0.1〜40重量部、より好ましくは0.5〜35重量部、特に好ましくは1.0〜30重量部配合される。
【0018】
以下、本発明の組成物を使用した貼付製剤について説明する。
本発明の貼付製剤は、支持体の片面に薬物含有粘着層を備える、所謂、マトリクス型貼付製剤であっても、支持体の片面に粘着層と薬物貯蔵層とを備える、所謂、リザーバー型貼付製剤のいずれであってもよい。
【0019】
〈マトリクス型貼付製剤〉
図1はマトリクス型貼付製剤の典型例であり、支持体(5)の片面に薬物含有粘着層(2)、剥離ライナー(1)がこの順に積層されている。マトリクス型貼付製剤の場合、支持体の片面に、本発明の組成物を含む薬物含有粘着層を形成する。
【0020】
薬物含有粘着層は、上記の、本発明の組成物に薬物を配合して調製された薬物含有組成物に対して40〜1900重量%程度(好ましくは67〜900重量%程度)の粘着性ポリマーと適当量の溶剤を混合した粘着層形成用組成物を調製し、該粘着層形成用組成物を、支持体の片面又は剥離ライナーの剥離処理面に塗布し、乾燥することで形成される。なお、溶剤は特に限定はされないが、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン等が好適である。薬物含有粘着層には架橋を施すことができ、この場合、粘着層形成用組成物にさらに架橋剤を配合することができる。支持体の片面又は剥離ライナーへの粘着層形成用組成物の塗布は、例えば、キャスティング、プリンティング、その他の当業者に公知の技法により実施すればよい。薬物含有粘着層の形成後、保護、保存性等のために薬物含有粘着層には剥離ライナー又は支持体を貼り合わせるのが好ましい。
【0021】
上記粘着性ポリマーとしては、特に限定されず、(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーを含むアクリル系ポリマー;スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエンなどのゴム系ポリマー;シリコーンゴム、ジメチルシロキサンベース、ジフェニルシロキサンベースなどのシリコーン系ポリマー;ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテルなどのビニルエーテル系ポリマー;酢酸ビニル−エチレン共重合体などのビニルエステル系ポリマー;ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジメチルフタレートなどのカルボン酸成分とエチレングリコールなどの多価アルコール成分からなるエステル系ポリマーなどが挙げられる。なかでも、多価アルコールとの相溶性の観点からアクリル系ポリマーが好ましい。
【0022】
アクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これに官能性単量体を共重合して得られたものが好ましい。すなわち、(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる単量体成分を50〜99重量%(好ましくは60〜95重量%)含有し、残りの単量体成分が官能性単量体からなる共重合体が好ましい。ここにいう主成分とは、共重合体を構成する単量体成分の総重量に基づき、50重量%以上含まれる単量体成分を意味する。
【0023】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下、主成分単量体ともいう)は、通常、アルキル基が炭素数4〜13の直鎖または分岐鎖アルキル基(例えば、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシルなど)からなるものであり、これらは1種または2種以上が使用される。
【0024】
官能性単量体は、共重合反応に関与する不飽和二重結合を分子内に少なくとも一個有するとともに、官能基を側鎖に有するものであり、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸などのカルボキシル基含有単量体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステルなどのヒドロキシル基含有単量体;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパン酸などのスルホキシル基含有単量体;(メタ)アクリル酸アミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸tert−ブチルアミノエチルエステルなどのアミノ基含有単量体;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N−ビニルアセトアミドなどのアミド基含有単量体;(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシジエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリプレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリルエステルなどのアルコキシル基含有単量体が挙げられる。
【0025】
かかる官能性単量体は1種または2種以上を使用でき、これらの中でも、粘着層の感圧粘着性、凝集性、粘着層中に含有する薬物の放出性などの点から、カルボキシル基含有単量体が好ましく、特に好ましくは(メタ)アクリル酸である。
【0026】
アクリル系ポリマーとして、上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(主成分単量体)と官能性単量体との共重合体に、さらに他の単量体を共重合したものを使用することもできる。
【0027】
当該他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−ビニル−2−ピロリドン、メチルビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルカプロラクタム、ビニルオキサゾールなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を使用できる。
【0028】
また、当該他の単量体の使用量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(主成分単量体)と官能性単量体の合計重量に対して、通常、0〜40重量%程度が好ましく、より好ましくは10〜30重量%程度である。
【0029】
アクリル系ポリマーの好ましい具体例としては、ヒト皮膚への接着性がよく、接着および剥離の繰り返しが容易であるという観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしての2−エチルヘキシルアクリレートと、アクリル酸と、N−ビニル−2−ピロリドンとの三元共重合体が好ましく、2−エチルヘキシルアクリレートと、アクリル酸と、N−ビニル−2−ピロリドンとを、40〜99.8:0.1〜10:0.1〜50の重量比、好ましくは50〜89:1〜8:10〜40の重量比で共重合させた共重合体がより好ましい。
【0030】
ゴム系ポリマーは中でも、ポリイソブチレン、ポリイソプレンおよびスチレン−ジエン−スチレンブロック共重合体(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)等)から選ばれる少なくとも一種を主成分とするゴム系ポリマーが好ましい。薬物安定性が高く、必要な接着力および凝集力が両立できる観点から、粘度平均分子量500,000〜2,100,000の高分子量ポリイソブチレンと、粘度平均分子量10,000〜200,000の低分子量ポリイソブチレンとを、95:5〜5:95の重量比で配合された混合物が特に好ましい。
【0031】
ゴム系ポリマーを用いる場合、タッキファイヤーをさらに配合するのが好ましく、タッキファイヤーをさらに配合することで、常温での薬物含有粘着層の粘着性を向上させることができる。タッキファイヤーは特に限定されず、当技術分野で公知のものを適宜選択して用いればよい。例えば、石油系樹脂(例えば、芳香族系石油樹脂、脂肪族系石油樹脂など)、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン系樹脂(例えば、スチレン樹脂、ポリ(α−メチルスチレン)など)、水添石油樹脂(例えば、脂環族飽和炭化水素樹脂など)などが挙げられる。中でも、脂環族飽和炭化水素樹脂が薬物の安定性が良好になるため好適である。タッキファイヤーは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、タッキファイヤーの量は、ゴム系ポリマーの総重量に対して、通常33〜300重量%、好ましくは50〜200重量%である。
【0032】
本発明の貼付製剤において、薬物含有粘着層中の本発明の経皮吸収促進用組成物の含有量は、薬物含有粘着層100重量%中、5〜70重量%が好ましく、10〜60重量%がより好ましい。
【0033】
所望により、薬物含有粘着層には可塑剤を更に含有させることができる。可塑剤は粘着剤を可塑化させて粘着層にソフト感を付与し、貼付製剤を皮膚から剥離する時の皮膚接着力に起因する痛みや皮膚刺激性を低減させ得る作用を有するものであれば特に限定されない。なお、薬物含有粘着層に可塑剤を含有させる場合、可塑剤は粘着層形成用組成物の調製時に、本発明の組成物とともに粘着層形成用組成物中に配合される。可塑剤は、薬物含有粘着層100重量%中、好ましくは1〜70重量%、より好ましくは20〜60重量%含有させるのが好ましい。
【0034】
好ましい可塑剤としては、オリーブ油、ヒマシ油、スクワレン、ラノリンのような油脂類、デシルメチルスルホキシド、メチルオクチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルピロリドン、ドデシルピロリドンのような有機溶剤類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルのような界面活性剤類、ジブチルフタレート、ジへプチルフタレート、ジオクチルフタレートなどのフタル酸エステル類、ジエチルセバケート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケートなどのセバシン酸エステル類、流動パラフィンのような炭化水素類、オレイン酸エチル、アジピン酸ジイソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル、ラウリン酸エチルなどの脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル、プロビレングリコール脂肪酸エステル、エトキシ化ステアリルアルコール、ピロリドンカルボン酸脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
薬物含有粘着層には架橋構造を導入することができる。この場合、薬物含有粘着層に紫外線照射や電子線照射などの放射線照射による物理的架橋処理を施すか、或いは、三官能性イソシアネートなどのイソシアネート系化合物や有機過酸化物、有機金属塩、金属アルコラート、金属キレート化合物、多官能性化合物(多官能性外部架橋剤やジアクリレートやジメタクリレートなどの多官能性内部架橋用モノマー)などの各種架橋剤を用いた化学的架橋処理を施すことができる。化学的架橋処理を行う場合、本発明の組成物とともに架橋剤を粘着層形成用組成物中に配合し、支持体の片面又は剥離ライナーの剥離処理面に粘着層形成用組成物を塗布し、乾燥して薬物含有粘着層を形成後、剥離ライナー又は支持体を薬物含有粘着層上に貼りあわせて、60〜90℃、好ましくは60〜70℃で24〜48時間放置して架橋反応を促進させて、架橋構造の薬物含有粘着層を形成する。
【0036】
本発明の貼付製剤において、薬物含有粘着層の厚みは特に限定されないが、20〜300μmが好ましく、30〜300μmがより好ましく、50〜300μmが最も好ましい。粘着層の厚みが20μm未満であると、十分な粘着力を得ること、有効量の薬物を含有させることが困難となるおそれがあり、粘着層の厚みが300μmを超えると粘着層形成に支障(塗工困難)をきたすおそれがある。
【0037】
支持体としては、特に限定はされないが、具体的には、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等)、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、アイオノマー樹脂などの単独フィルム、金属箔、又はこれらから選ばれる2種以上のフィルムを積層したラミネートフィルムなどが挙げられる。これらのうち、支持体として粘着層との接着性(投錨性)を向上させるために支持体を上記材質からなる無孔性フィルムと下記の多孔性フィルムとのラミネートフィルムとし、多孔性フィルム側に粘着層を形成することが好ましい。無孔性フィルムの厚みは2〜100μmが好ましく、2〜50μmがより好ましい。
【0038】
多孔性フィルムとしては、粘着層との投錨性が向上するものであれば特に限定されず、例えば紙、織布、不織布(例えば、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)など)不織布など)、上記のフィルム(例えば、ポリエステル、ナイロン、サラン(商品名)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、金属箔、ポリエチレンテレフタレートなどの単独フィルム、およびこれらの1種または2種以上のフィルムを積層したラミネートフィルムなど)に機械的に穿孔処理したフィルムなどが挙げられ、特に紙、織布、不織布(例えば、ポリエステル不織布、ポリエチレンテレフタレート不織布など)が支持体の柔軟性の点から好ましい。多孔性フィルム、例えば、織布や不織布の場合、これらの目付量を5〜30g/mとすることが投錨力の向上の点で好ましい。
【0039】
支持体におけるラミネートフィルムは、ドライラミネート法、ウェットラミネート法、エクストルージョン(押し出し)ラミネート法、ホットメルトラミネート、コ・エクストルージョン(共押し出し)ラミネート法等の公知のラミネートフィルムの製造方法によって製造される。
【0040】
支持体の厚みは、特に限定されないが、好ましくは2〜200μm、より好ましくは10〜50μmである。2μm未満であると、自己支持性等の取扱い性が低下する傾向となり、200μmを超えると、違和感(ごわごわ感)を生じ、追従性が低下する傾向となる。
【0041】
剥離ライナーとしては、剥離処理剤からなる剥離処理剤層が剥離ライナー用の基材の表面に形成された剥離ライナーや、それ自体が剥離性の高いプラスチックフィルム、剥離ライナー用の基材の表面に、前記剥離性の高いプラスチックフィルムの素材による剥離層を形成した構成の剥離ライナーなどが挙げられる。剥離ライナーの剥離面は、基材の片面のみであってもよく、両面であってもよい。
【0042】
このような剥離ライナーにおいて、剥離処理剤としては、特に制限されず、例えば、長鎖アルキル基含有ポリマー、シリコーンポリマー(シリコーン系剥離剤)、フッ素系ポリマー(フッ素系剥離剤)などの剥離剤が挙げられる。剥離ライナー用の基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエステル(PETを除く)フィルムなどのプラスチックフィルムやこれらのフィルムに金属を蒸着した金属蒸着プラスチックフィルム;和紙、洋紙、クラフト紙、グラシン紙、上質紙などの紙類;不織布、布などの繊維質材料による基材;金属箔などが挙げられる。
【0043】
また、それ自体が剥離性の高いプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等)、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体(ブロック共重合体又はランダム共重合体)の他、これらの混合物からなるポリオレフィン系樹脂によるポリオレフィン系フィルム;テフロン(登録商標)製フィルムなどを用いることができる。
【0044】
なお、前記剥離ライナー用の基材の表面に形成される剥離層は、前記剥離性の高いプラスチックフィルムの素材を、前記剥離ライナー用の基材上に、ラミネート又はコーティングすることにより形成することができる。
【0045】
剥離ライナーの厚み(全体厚)としては、特に限定するものではないが、通常200μm以下、好ましくは25〜100μmである。
【0046】
〈リザーバー型貼付製剤〉
図2はリザーバー型貼付製剤の典型例であり、支持体(5)の片面に薬物貯蔵層(4)、薬物透過制御膜(3)、粘着層(2’)、剥離ライナー(1)の順に積層されている。
【0047】
リザーバー型貼付製剤の場合、通常、本発明の組成物は薬物貯蔵層に使用される。すなわち、本発明の組成物に薬物を配合した薬物含有組成物を調製し、これを薬物貯蔵層に適用する。薬物含有組成物には、さらに薬物安定化剤、ゲル化剤等を配合することができる。また、薬物含有組成物を不織布等に染み込ませることで薬物貯蔵層に適用することもできる。
【0048】
支持体(5)および剥離ライナー(1)に使用する材料、厚み等は、前述のマトリクス型貼付製剤のそれと基本的に同じである。薬物透過制御膜(3)には、平均孔径0.1〜1μmを有する微孔性膜を挙げることができる。微孔性膜の材質としてはポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン等が使用される。当該薬物透過制御膜の厚みは通常1μm〜200μmであるが、特に、製造の容易性や適度な剛軟性などの点から10μm〜100μmが望ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。後記において部、%とあるは、それぞれ重量部、重量%を意味する。
【0050】
<経皮吸収促進用組成物の調製>
実施例1〜7および比較例1〜4
表1に示す量の原料を配合し、さらに飽和濃度以上の量の薬物をさらに加えて、よく攪拌したのち、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の孔径0.45μmのディスポーザブルフィルターでろ過することで、薬物を飽和濃度で含有する、経皮吸収促進用組成物を調製した。薬物にはインドメタシンを用いた。表中の数字の単位は重量部である。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例1〜6および比較例1〜4の組成物のインドメタシンの皮膚透過性を評価するために以下の試験(試験例1)を行った。表2がその結果である。
【0053】
試験例1(皮膚透過性試験)
ヘアレスマウスの摘出皮膚を皮膚透過実験用セル(有効面積9mmφ)に角質層側がドナー相、真皮側がレセプター相になるように装着し、上部から薬物を含有する経皮吸収促進用組成物127μLを加えて、24時間皮膚透過実験を行なった。レセプター液として脱気したPBS(−)溶液(リン酸緩衝生理食塩水)を用いた。経時的にレセプター液のサンプリングを行い、透過した薬物の濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて定量した。
【0054】
【表2】

【0055】
表2において、実施例1、2および4と、比較例1とを比較すると、高級アルコールと多価アルコールを組み合わせた場合の相乗的な薬物の経皮吸収促進効果を確認できた。すなわち、多価アルコールであるプロピレングリコールのみを用いた比較例1では薬物の皮膚透過性は非常に低いが、プロピレングリコールと、高級アルコールであるミリスチルアルコール、セチルアルコールまたはステアリルアルコールとを組み合わせて用いることで薬物の皮膚透過性が著しく向上しており、相乗的な経皮吸収促進効果が認められる。
【0056】
実施例3と、比較例1および2とを比較すると、ヘキシルデカノールとプロピレングリコールを組み合わせた場合の相乗的な薬物の経皮吸収促進効果を確認できた。すなわち、多価アルコールであるプロピレングリコールのみを用いた比較例1および高級アルコールであるヘキシルデカノールのみを用いた比較例2では薬物の皮膚透過性は非常に低いが、実施例3ではヘキシルデカノールとプロピレングリコールを組み合わせて用いることで薬物の皮膚透過性が著しく向上しており、明らかに相乗的な経皮吸収促進効果が認められる。
【0057】
実施例5と、比較例1および3とを比較すると、イソステアリルアルコールとプロピレングリコールを組み合わせた場合の相乗的な薬物の経皮吸収促進効果を確認できた。すなわち、多価アルコールであるプロピレングリコールのみを用いた比較例1および高級アルコールであるイソステアリルアルコールのみを用いた比較例3では薬物の皮膚透過性は非常に低いが、実施例5ではイソステアリルアルコールとプロピレングリコールを組み合わせて用いることで薬物の皮膚透過性が著しく向上しており、明らかに相乗的な経皮吸収促進効果が認められる。
【0058】
実施例6と、比較例1および4とを比較すると、オクチルドデカノールとプロピレングリコールを組み合わせた場合の相乗的な薬物の経皮吸収促進効果を確認できた。すなわち、多価アルコールであるプロピレングリコールのみを用いた比較例1および高級アルコールであるオクチルドデカノールのみを用いた比較例4では薬物の皮膚透過性は非常に低いが、実施例6ではオクチルドデカノールとプロピレングリコールを組み合わせて用いることで薬物の皮膚透過性が著しく向上しており、明らかに相乗的な経皮吸収促進効果が認められる。
【0059】
<貼付製剤の調製>
(実施例7)
(1)アクリル系ポリマー溶液の調製
不活性ガス雰囲気下、アクリル酸2−エチルへキシル75部、N−ビニル−2−ピロリドン22部、アクリル酸3部およびアゾビスイソブチロニトリル0.2部を酢酸エチル中に加え、60℃にて溶液重合させてアクリル系ポリマー溶液(ポリマー固形分:28%)を得た。
【0060】
(2)アクリル系貼付製剤の調製
上記の本発明の組成物に薬物をさらに配合した薬物含有組成物30部にポリマー固形分49.7部となる量のアクリル系ポリマー溶液、ミリスチン酸イソプロピル20部、および0.3部の架橋剤を加えよく攪拌し、粘着層形成用組成物(塗工液)を得る。これを剥離ライナーとしてのPETフィルム(厚さ75μm)の片面に、乾燥後の厚さが200μmになるように塗布し、乾燥して薬物含有粘着層を形成する。
【0061】
その粘着層に、支持体としてのPETフィルム(2μm厚さ)−PET不織布(目付け量12g/m)積層体の不織布面を貼り合わせた後、70℃で48時間エージング処理(粘着層の架橋処理)を行い、積層シートを得る。積層シートを、貼付製剤の形状に切断加工後、酸素濃度3%以下の雰囲気で包装容器に包装し、貼付製剤を得る。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の組成物は、各種薬物の経皮吸収性を向上させることができるため、これまでに経皮吸収性が低く製剤化が困難であった薬物においても、本発明の組成物を適用することにより経皮吸収製剤化が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 剥離ライナー
2 薬物含有粘着層
2’粘着層
3 薬物透過制御膜
4 薬物貯蔵層
5 支持体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数14〜20の高級アルコールと、炭素数3〜8の多価アルコールとを含む、経皮吸収促進用組成物。
【請求項2】
炭素数14〜20の高級アルコールが、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ヘキシルデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、アラキルアルコールおよびオクチルドデカノールからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1に記載の経皮吸収促進用組成物。
【請求項3】
炭素数3〜8の多価アルコールが、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコールおよびオクタンジオールからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1に記載の経皮吸収促進用組成物。
【請求項4】
炭素数14〜20の高級アルコールが、炭素数16〜20の高級アルコールである、請求項1または2記載の経皮吸収促進用組成物。
【請求項5】
貼付製剤用である、請求項1〜4のいずれか1項記載の経皮吸収促進用組成物。
【請求項6】
支持体の片面に、請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物と薬物とを含む薬物含有粘着層または薬物貯蔵層を有する、貼付製剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−60393(P2013−60393A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200020(P2011−200020)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】