説明

経皮吸収用医薬組成物、その製造方法、及び、医薬組成物の経皮吸収促進方法

【課題】ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬を経皮吸収可能にした医薬組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、塩酸ロメリジンと1,8−シネオールとをプロピレングリコールに懸濁させてなる経皮吸収用医薬組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経皮吸収用医薬組成物に係り、詳しくは、ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬を含有する経皮吸収用医薬組成物、その製造方法、及び、医薬組成物の経皮吸収促進方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Ca拮抗薬は主に降圧薬として広く使用されている薬剤群であるが、Ca2+チャネル遮断作用に基づく脳血管収縮抑制作用等を示すことから片頭痛予防薬としても以前より使用されてきた。その中で、ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬である、塩酸ロメリジンは副作用が少ないため片頭痛予防剤として知られている(例えば、特開2006−131521号公報)。
【0003】
なお、本発明に関連するものとして、特開2001−064166号公報、特表平10−500415号公報、及び、特表平09−512278号公報には、経皮吸収を促進する化合物が開示されている。
【特許文献1】特開2006−131521号公報
【特許文献2】特開2001−064166号公報
【特許文献3】特表平10−500415号公報
【特許文献4】特表平09−512278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、塩酸ロメリジンは、通常、1回5mgを1日2回朝・夕(または就寝前)約2〜3ヵ月をめどに服用することが必要な、長期に渡って経口服用を要する薬物であった。
【0005】
このことは患者の負担になり、コンプライアンスの低下、それに伴ってQuality of Life (QOL)を低下させることが懸念されていた。
【0006】
そこで、本発明は、ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬を経皮吸収可能にした医薬組成物を提供することを目的とするものである。さらに、本発明は、ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬を経皮吸収可能にするための、最適な経皮吸収促進剤との組み合わせを見出し、これをジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬に適用してなる経皮吸収用医薬組成物を提供することを目的とするものである。さらに、本発明は、経皮吸収用医薬組成物の製造方法、及び、ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬の経皮吸収を促進する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明者が鋭意検討したところ、ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬の経皮吸収性を促進する成分として、テルペン、好ましくは単環モノテルペン、さらに好ましくは、次の1,8−シネオールが効果的であるとの知見を本発明者は得た。


1,8-シネオール
【0008】
本発明はこの知見によってなされたものであり、ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬と、単環モノテルペンと、を基剤に含有させてなる経皮吸収用医薬組成物であることを特徴とするものである。
【0009】
前記ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬の形態は、ロメリジン又はその薬学的に許容される塩、特に、次の塩酸ロメリジンである。

【0010】
前記ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬の薬理的に許容される塩には、塩酸塩の他に、臭化水素酸塩,ヨウ化水素酸塩,臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸との塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等の有機酸との塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属との塩、カルシウム塩、及び、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩がある。
【0011】
フェニルピペラジン系Ca拮抗薬は血管収縮抑制作用を有しており、特に、塩酸ロメリジンは脳血管収縮抑制作用に優れ、片頭痛に対する治療効果を有している。
【0012】
テルペンとして好ましくは単環モノテルペンであり、単環モノテルペンとして好ましくは、l−メントール、1,8−シネオール、dl−メントン,p−メンタン,d−リモネン,カルボン,カルベオール,及びテルピネオールの少なくとも一種であり、特に好ましくは、1,8−シネオールである。
【0013】
前記基剤は、例えば、低級アルコール及びグリコールの少なくとも一方であり、低級アルコールは、例えば、エタノールであり、グリコールは、例えば、エチレングリコール,プロピレングリコール,トリメチルグリコール,1,4-ブタンジオール,1,5-ペンタンジオール,1,6-ヘキサンジオール,1,7-へプタンジオール,1,8-オクタンジオール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコール,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコールであり、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等の高分子量のものについては、汎用されている200〜2000の重量平均分子量の異なるものであり、好ましくは、プロピレングリコールである。
【0014】
本発明に係る経皮吸収用医薬組成物の好適な態様は、塩酸ロメリジンと1,8−シネオールとをプロピレングリコールに溶解又は懸濁させたものである。
【0015】
本発明の経皮吸収医薬組成物は、貼付剤、テープ剤、クリーム剤、ローション剤、軟膏剤およびゲル剤からなる群から選択される剤形として処方される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る経皮吸収用医薬組成物によれば、ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬の皮膚吸収性が顕著に促進され、長時間にわたり十分な量のジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬を皮膚から透過させることができ、これによって高い血管収縮抑制作用を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に示す実施形態は、本発明の例示であり、本発明をこの実施形態に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な実施形態をとることができる。
【0018】
本発明に係る経皮吸収用医薬組成物に於けるジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬の配合量は、剤形などによっても異なるが、組成物の全重量に対して、0.1〜50重量%であり、好ましくは、0.5〜30重量%であり、より好ましくは1〜30重量%である。
【0019】
ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬の配合量が0.1重量%より少ないと、所望の片頭痛予防作用を達成することができず、50重量%を超えると皮膚を通して十分吸収しきれないおそれがある。
【0020】
本発明に係る経皮吸収用医薬組成物に於ける1,8−シネオールの配合量は、剤形などによっても異なるが、組成物の全重量に対して、0.1〜60重量%であり、好ましくは、1〜40重量%であり、より好ましくは1〜20重量%である。
【0021】
1,8−シネオールの配合量が0.1重量%より少ないと、ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬に皮膚透過性を十分与えることができず、60重量%を超えると皮膚刺激性が出現するおそれがある。
【0022】
本発明の経皮吸収用医薬組成物における低級アルコール又はグリコールは、基剤として、単環モノテルペン、特に、1,8−シネオールによるジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬の皮膚透過性を補助する化合物として機能するものであり、ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬と単環モノテルペンは、低級アルコール又はグリコールに溶解又は懸濁される。
【0023】
本発明に係る経皮吸収用医薬組成物の剤形は、特に限定されず、薬剤を皮膚から吸収させる種々の剤形とすることができる。かかる剤形の具体例としては、貼付剤、テープ剤、クリーム剤、ローション剤、軟膏剤およびゲル剤等が挙げられる。
【0024】
本発明に係る経皮吸収用医薬組成物は、常法により、前記医薬組成物を構成する各成分に、製造する剤形に必要な成分、すなわち、基剤、補助剤、添加剤などを必要に応じて組み合わせることにより製造することができる。なお、本発明に係る医薬組成物は、各構成成分を任意に添加し、混合して調製することができる。
【0025】
本発明に係る医薬組成物が適用される貼付剤は、支持体と、薬物を放出しうる感圧接着性を有する膏体層、膏体層を保護する剥離フィルムから構成される。膏体層には、本発明に係る経皮吸収用医薬組成物の各成分が配合され、さらに、貼付剤用基剤も配合される。貼付剤用基剤は粘着成分を含む、かかる成分として、天然または合成ゴム、高吸水性高分子、親水性高分子等が挙げられる。
【0026】
本発明に係る医薬組成物が適用されるテープ剤は、本発明に係る経皮吸収用医薬組成物の各成分を粘着剤に混合して得られる膏体を、柔軟な支持体上に塗布することにより製造することができる。本発明で用いる粘着剤の具体例としては、以下のものに限定されるわけではないが、アクリル酸エステル系、ゴム系、シリコン系の接着剤等が挙げられる。
【0027】
本発明に係る医薬組成物が適用されるクリーム剤は、本発明に係る経皮吸収用医薬組成物の各成分に、パルミチン酸エステル等の高級脂肪酸エステル、流動パラフィン等の炭化水素類、精製水、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類等の乳化剤等を含有せしめて製造することができる。なお、液剤の場合には、上記各成分に、液状高級脂肪酸、植物油等を含有させて製造することができる。
【0028】
本発明に係る前記ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬と前記1,8−シネオールとを、低級アルコール及びグリコールの少なくとも一方に溶解又は懸濁させることにより、ローション剤として動物にそのまま塗布できるが、さらに精製水など他の溶媒を用いてもよい。
【0029】
本発明に係る医薬組成物が適用される軟膏剤は、本発明に係る経皮吸収用医薬組成物の各成分のほか、ワセリン、マクロゴール等の軟膏基剤、パラフィン、軽質無水ケイ酸、界面活性剤等の補助剤、ジブチルヒドロキシトルエン等の安定化剤、および必要に応じてpH調製剤等を含有せしめて製造することができる。
【0030】
本発明に係る医薬組成物が適用されるゲル剤は、本発明に係る経皮吸収用医薬組成物の各成分のほか、精製水、カルボキシビニル重合体、エチルセルロース等のゲル化剤、トリエタノールアミン等の中和剤等を含有せしめて製造することができる。
【実施例】
【0031】
以下に示す本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本発明は以下の具体例に制限されるものではない。当業者は、以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を実施することができ、かかる変更は本願特許請求の範囲に包含される。
【0032】
(試験方法)
ヘアレスマウス(5〜10週齢)を、エーテル麻酔後、直ちに背部皮膚を剥離し、皮下脂肪を除去して皮膚片を得た。得られた皮膚は、Franz型拡散セル(Hanson Research 社製Vertical Diffusion Cell)に装着した。
【0033】
ドナー相には、下記実施例1-4に示すように、塩酸ロメリジン(LOM)を10mg(薬物濃度1重量%)と、l−メントールもしくは1,8−シネオール100mg(10重量%)と、を40%エタノール(EtOH)又はプロピレングリコール(PG)にそれぞれ溶解又は懸濁し,この溶液液又は懸濁液200μLをFranz型拡散セルに添加したものを使用し(添加面積1.77cm2)、LOMの透過速度等の実験に供した。
【0034】
レセプター相には、あらかじめ、32℃に加温した0.9%生理食塩水/ポリエチレングリコール400(6:4)を充填した。
【0035】
レセプター相から26時間まで経時的に試料溶液を0.5mL採取し、それらを測定試料とした。また、それと同時にレセプター溶液を0.5mL補充した。試料溶液は,以下の条件にて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量を行い、試料溶液中のLOM濃度から薬物透過速度(Flux)および立ち上がり時間(Lag time)、累積透過度(Amount permeated)を求めた。
【0036】
(条件)
検出器:紫外吸光度計(測定波長:225nm)
移動相:50mM リン酸二水素カリウム溶液(pH2.5):アセトニトリル = 58 : 42
流量:毎分 1.0 mL
注入量: 10 μL
実施例1
LOMとl−メントールとを40%エタノールに懸濁させてドナー相を調製した。
実施例2
LOMとl−メントールとをプロピレングリコールに溶解させてドナー相を調製した。
実施例3
LOMとl,8−シネオールとを40%エタノールに懸濁させてドナー相を調製した。
実施例4
LOMとl,8−シネオールとをプロピレングリコールに溶解させてドナー相を調製した。
【0037】
図1は、各実施例に対する、透過速度、立ち上がり時間および累積透過量の結果を示すテーブルである。図2は、時間に対する、各実施例にて得られた累積透過量の値を示すグラフである。
【0038】
LOMに単環モノテルペン系の一種であり、l−メントールを、エタノールおよびプロピレングリコールとそれぞれ併用してLOMの皮膚透過性を確認したところ、l−メントール/EtOH系では透過性の指標である、薬物透過速度(Flux)は1.8 ± 1.2・g/cm2/hr,l―メントール/PG系では,4.4 ± 2.7 ・g/cm2/hrと僅かに皮膚透過性が確認されたものの、これらの値では臨床で使用するには低い血中濃度しか得られないおそれがある。
【0039】
そこで,l−メントールの代わりに同じく単環モノテルペンである1,8−シネオールを使用して,l−メントール同様にLOMの皮膚透過性試験を行った.その結果,LOMの薬物透過速度(Flux)は,1,8−シネオール/EtOH系で6.7 ± 3.8 ・g/cm2/hr,1,8−シネオール/PG系では15.6 ± 3.5 ・g/cm2/hrをそれぞれ示し、1,8−シネオール/PG系を用いたときに一番高い皮膚透過性を確認することができた。
【0040】
また、対照(コントロール)としてエタノール及びプロピレングリコールのみにLOMを溶解させた系では、LOMの皮膚透過性を認められなかった。したがって、LOMの皮膚透過性向上には1,8−シネオールおよびプロピレングリコールの併用が最も効果があることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、塩酸ロメリジンの経皮吸収を促進させる各実施例における、透過速度、立ち上がり時間および累積透過量の結果をテーブルである。
【図2】図2は、時間に対する、各実施例にて得られた累積透過量の値を示すグラフである。なお、各数値は、4回平均の値である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬と、テルペンと、を含有する経皮吸収用医薬組成物。
【請求項2】
前記ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬が、ロメリジン又はその薬理的に許容される塩である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記テルペンが単環モノテルペンである、請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記単環モノテルペンが、l−メントール、1,8−シネオール、dl−メントン,p−メンタン,d−リモネン,カルボン,カルベオール,及びテルピネオールの少なくとも一種である、請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬と、前記テルペンとが、基剤に含有されてなる、請求項1乃至4の何れか1項記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記基剤が低級アルコール又はグリコールの少なくとも一方からなり、前記ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬と前記単環モノテルペンとが、前記基剤に溶解又は懸濁されている、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記低級アルコールがエタノールであり、前記グリコールがプロピレングリコールである、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
以下に示す塩酸ロメリジンと、1,8−シネオールと、がプロプレングリコールに溶解又は懸濁されてなる、経皮吸収用医薬組成物。

【請求項9】
前記組成物は、貼付剤、テープ剤、クリーム剤、ローション剤、軟膏剤およびゲル剤からなる群から選択される剤形として適用される、請求項1乃至8のうちいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬にテルペンを添加する工程と、前記ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬と前記テルペンとを基剤に加える工程と、
を有する経皮吸収血管収縮抑制医薬組成物の製造方法。
【請求項11】
ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬とテルペンとを基剤を用いて併存させて動物に適用することにより、前記ジフェニルピペラジン系Ca拮抗薬の経皮吸収を促進する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−209046(P2009−209046A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50525(P2008−50525)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】