説明

経皮吸収製剤

【課題】チアジド系利尿薬を含有するマトリックス型経皮吸収製剤を提供する。
【解決手段】次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)チアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬、
(B)アルキルグリコシド又はアルキルチオグリコシド、
(C)モノマー構成単位中の側鎖にカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含む共重合体を含有するアクリル系粘着基剤
を含有するマトリックス型経皮吸収製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利尿薬を含有するマトリックス型経皮吸収製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
利尿薬は、その化学構造と作用機序により、チアジド系利尿薬、チアジド系類似薬、ループ利尿薬、カリウム保持性利尿薬及び炭酸脱水酵素阻害薬に分類される。利尿薬の治療対象は浮腫と高血圧であるが、チアジド系利尿薬、チアジド系類似薬は降圧利尿薬として特に頻用されている。これらチアジド系利尿薬及びチアジド系類似薬は遠位尿細管の起始部で管腔側膜に存在するNa+/Cl-(ナトリウムイオン/塩化物イオン)共輸送系を阻害し、Na+の再吸収を抑制するため、利尿作用と降圧作用を示すことが知られている。
現在、チアジド系利尿薬としては、トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアジド等が本態性高血圧症の治療に使用されており、中でもトリクロルメチアジドは最も頻用される薬物の一つである。降圧利尿薬は食塩摂取量の多い日本では、降圧薬の併用療法において有用と考えられ、薬価が比較的低いことから医療経済面においてもメリットが大きいと考えられている。
【0003】
近年の大規模臨床試験の結果から、チアジド系利尿薬及びチアジド系類似薬は比較的低用量で降圧作用を示すことが判明してきた。一方で、代謝系への副作用(低カリウム血症、高尿酸血症、高脂血症、耐糖能低下など)は用量依存的に増加することが明らかになってきた。このため、既に欧米ではチアジド系利尿薬を低用量で使用することがガイドラインにおいて推奨されている。
【0004】
さらに、一般的に経口投与は投与後に急激な血漿中濃度の立ち上がりが見られるが、高齢者における急激な利尿は循環動態に悪影響を及ぼし、血漿量の減少、脱水、低血圧などによる立ちくらみ、めまいなどを引き起こすことがある。特に、心疾患などを有する高齢者に急激な利尿作用があらわれた場合、急激な血漿量の減少による血液濃縮を来たし、血栓塞栓症を誘発する恐れがある(非特許文献1参照)。このようなことから、利尿薬は、一過性の急激な血漿中濃度の上昇を抑えつつ、有効成分を一定の血漿中濃度に持続させることで、緩徐な利尿を目指すことが望ましいと考えられる。
【0005】
一般に、経皮吸収製剤、中でも特に、プラスチックフィルムなどの支持体の一面に薬物を含有する粘着性マトリックス層を設けた貼付剤は、肝臓の初回通過効果による薬物代謝や薬物投与後の一過性の血漿中濃度上昇などによる各種副作用を回避でき、薬物を長時間にわたって持続的に投与可能であることが知られている。さらに、投与回数の減少や、コンプライアンスの向上、投与及びその中止の容易さ等の利点も期待され、特に高齢者や小児の患者で有用であることが知られている。従って、チアジド系利尿薬、チアジド系類似薬の貼付剤を提供すれば、前記の問題を解決できると考えられる。
【0006】
しかしながら、一般的に薬物の皮膚透過性は著しく低く、これまで全身作用を目的に実用化された薬物は硝酸イソソルビド、ニトログリセリン、スコポラミン、エストラジオール等の限られた薬物のみである。現在までに、利尿薬を含有した経皮吸収製剤に関する技術がいくつか提案されている。
【0007】
ロポットらはループ利尿薬の経皮治療系用組成物及びその製法の中で、脂肪酸アルカノールアミドとカルボン酸エステルの混合比により、浸透系からのループ利尿薬の放出遅延の度合いが決定されることを開示している(特許文献1参照)。しかしながら、この技術は、実施例として懸濁液組成物を用いた例が挙げられているように、液剤やクリーム剤を意図したものと考えられる。液剤やクリーム剤は、利尿薬のような投与量の正確なコントロールが求められる全身性の薬物を投与し、長時間にわたって有効成分を一定の血漿中濃度に保ちつつ持続的に投与するには実用的ではない。また、リザーバー型経皮投与製剤で使用できることが述べられているが具体的な検討はなされておらず、貼付剤のようなマトリックス型経皮吸収製剤については記載も示唆もされていない。
【0008】
レンらは、チアジド系類似薬であるインダパミドを含有した経皮吸収型の貼付剤(非特許文献2参照)を開示している。しかしながら、この貼付剤は、投与後、経口剤と同様の一過性の急激な血漿中濃度の上昇が見られており、急激な利尿作用による循環動態への悪影響を回避するため、一定の血漿中濃度に保ちつつ持続的に投与することができるかということについては検討されていない。また、この貼付剤はインダパミドの経皮吸収性を高めるためにN−ドデシルアゼパン−2−オン(エイゾン)が使用されているが、エイゾンはそれ自身が生体内に経皮吸収されることや、抗ウィルス効果を有する可能性があることもあり、米国食品医薬品局(FDA)において添加剤として承認されなかったという事実があることから、安全性の面において実用化には大きな障害があると考えられる(非特許文献3及び4参照)。
【0009】
このように、チアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬を含有した経皮吸収製剤において、有効成分の経皮吸収性に優れるとともに、有効成分を一定の血漿中濃度に保ちつつ持続的に投与することができ、かつ、経口投与後に見られる一過性の急激な血漿中濃度の上昇を抑えることが可能なマトリックス型経皮吸収製剤は、未だに完成されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62−283936号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】内科 循環器プロトコール、75巻、5号、pp.747−761、1995
【非特許文献2】International journal of pharmaceutics、USA、ELSEVIER、in press(Available online 7 December 2008)
【非特許文献3】Advanced Drug Delivery Reviews、56(5)、pp.603−618、2004
【非特許文献4】Drug Development And Industrial Pharmacy、32(3)、pp.267−286、2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、有効成分としてチアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬を含有し、有効成分の経皮吸収性に優れるとともに、有効成分を一定の血漿中濃度に保ちつつ持続的に投与することができ、かつ、経口投与後に見られる一過性の急激な血漿中濃度の上昇を抑えることが可能な経皮吸収型の貼付剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、チアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬を含有する貼付剤の開発において、モノマー構成単位中の側鎖にカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含む共重合体を含有するアクリル系粘着基剤中に、有効成分としてチアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬、経皮吸収促進剤としてアルキルグリコシド又はアルキルチオグリコシドを含有させることにより、前記のような問題を生じることなく、薬物の優れた経皮吸収性を発揮させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)チアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬、
(B)アルキルグリコシド又はアルキルチオグリコシド、
(C)モノマー構成単位中の側鎖にカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含む共重合体を含有するアクリル系粘着基剤
を含有するマトリックス型経皮吸収製剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、有効成分の経皮吸収性に優れるとともに、有効成分を一定の血漿中濃度に保ちつつ持続的に投与することができ、かつ、経口投与後に見られる一過性の急激な血漿中濃度の上昇を抑えることができるため、高血圧症の治療において安定した治療効果が得られるマトリックス型経皮吸収製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のマトリックス型経皮吸収製剤を貼付したラットの血漿中トリクロルメチアジド濃度−時間推移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のマトリックス型経皮吸収製剤(以下、貼付剤ともいう)は、通常、支持体層、粘着剤層及び粘着剤層の表面を保護するための剥離ライナー層が順に積層されている貼付剤である。前記粘着剤層は、(A)有効成分としてチアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬、(B)経皮吸収促進剤としてアルキルグリコシド又はアルキルチオグリコシド、(C)粘着基剤としてモノマー構成単位中の側鎖にカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含む共重合体を含有するアクリル系粘着基剤を含有する。
【0018】
本発明の貼付剤に配合されるチアジド系利尿薬としては、エチアジド、シクロペンチアジド、トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、ベンチルヒドロクロロチアジド、ペンフルチジド、ポリチアジド、メチクロチアジドなどが挙げられる。また、チアジド系類似薬としては、インダパミド、クロルタリドン、トリパミド、メチクラン、メトラゾン及びメフルシドなどが挙げられる。これらのうち、経皮吸収性に優れ、一定の血漿中濃度が長時間持続する点で、チアジド系利尿薬がより好ましく、トリクロルメチアジドが特に好ましい。
【0019】
本発明の貼付剤に配合されるチアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬の含有量は、薬理効果が得られれば特に限定されるものではないが、少なすぎると薬効を確保できず、多すぎると薬物が粘着剤層に析出し、粘着物性を低下させるので、粘着剤層全体を100重量部としたとき0.1〜30重量部含有するのが好ましい。さらに好ましくは0.1〜10重量部であり、特に好ましくは0.1〜5重量部である。
【0020】
本発明の貼付剤に配合される(B)アルキルグリコシド又はアルキルチオグリコシドは、有効成分(A)の経皮吸収促進作用を有する。後記実施例及び比較例に示すように、アルキルチオグリコシド又はアルキルグリコシドを配合した場合、他の経皮吸収促進剤を配合した場合に比べて顕著に優れたチアジド系利尿薬及びチアジド系類似薬の吸収促進作用が得られる。
【0021】
前記アルキルグリコシド又はアルキルチオグリコシドとしては、C6−C22アルキルグリコシド又はC6−C22アルキルチオグリコシドが挙げられ、このうちC6−C22アルキルチオグリコシドがより好ましい。このグリコシド部分の構造としては、グルコピラノシド(グルコシド)及びマルトピラノシド(マルトシド)のいずれでもよい。当該アルキルグリコシド又はアルキルチオグリコシドとしては、例えば、n−デシル−β−D−マルトピラノシド、n−ドデシル−β−D−グルコピラノシド、n−ドデシル−β−D−マルトピラノシド、n−ヘプチル−β−D−チオグルコピラノシド、n−ノニル−β−D−チオマルトピラノシド、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、n−オクチル−β−D−マルトピラノシド、n−オクチル−β−D−チオグルコピラノシド、n−ヘプチル−β−D−グルコピラノシド、n−オクチル−α−D−グルコピラノシド、n−ノニル−β−D−チオグルコピラノシド、n−デシル−β−D−チオマルトピラノシド、n−ドデシル−α−D−マルトピラノシド、n−ドデシル−β−D−チオマルトピラノシド等を挙げることができる。特に好ましくはn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドが挙げられる。
【0022】
前記(B)アルキルグリコシド又はアルキルチオグリコシドの含有量は特に限定されるものではないが、少なすぎると薬物の経皮吸収促進効果を得ることができず、多すぎると基剤との相溶性が低下し粘着物性を低下させるので、粘着剤層全体を100重量部としたとき、0.1〜30重量部含有するのが好ましい。さらに好ましくは0.1〜10重量部であり、特に好ましくは0.1〜5重量部である。また、成分(A)と成分(B)の含有割合(A/B)は、経皮吸収促進効果、皮膚刺激性の点から、0.1〜10、さらに0.5〜5、特に0.5〜3が好ましい。
【0023】
本発明で用いるアクリル系粘着基剤としては、モノマー構成単位中の側鎖にカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含む共重合体であれば、特に限定されるものではなく、例えば(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸アルキル共重合体、(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、具体的にはアクリル酸・アクリル酸−2−エチルヘキシル共重合体、アクリル酸・アクリル酸ブチル共重合体、アクリル酸・アクリル酸オクチル共重合体、アクリル酸・アクリル酸−2−エチルヘキシル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸メチル・メタクリル酸共重合体、メタクリル酸・アクリル酸n−ブチル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。商業的に入手可能な市販製品としてはDURO−TAK(登録商標)87−2979、87−2074、87−235A、87−2100、87−200A、87−2852、87−2051、87−2052、87−2054、87−2825、87−2677、87−2194、87−2196(National Starch & Chemical Company)、GMS(商標)1430、1753(Cytec Industries Inc.)等が利用可能である。また、必要に応じて架橋剤を加えてもよい。架橋剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、アミノ化合物、フェノール化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、有機過酸化物、金属アルコラート及び金属キレート等が挙げられる。
【0024】
前記のように、粘着剤層に(A)チアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬、(B)アルキルグリコシド又はアルキルチオグリコシド及び(C)モノマー構成単位中の側鎖にカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含む共重合体を含有するアクリル系粘着基剤を含有させることにより、有効成分の経皮吸収性に優れるとともに、有効成分を一定の血漿中濃度に保ちつつ持続的に投与することができ、かつ、経口投与後に見られる一過性の急激な血漿中濃度の上昇を抑えることができる。
【0025】
本発明の貼付剤の粘着剤層中には、前記成分(A)、(B)及び(C)の他、前記の効果を損なわない範囲内において、必要に応じて可塑剤、酸化防止剤、充填剤、薬物溶解補助剤、抗菌剤、皮膚刺激低減化剤等も適宜配合することができる。
【0026】
前記可塑剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;オリーブ油、ヒマシ油、スクワレン、ラノリンなどの油脂類;流動パラフィンなどの炭化水素類;アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、安息香酸ベンジル、2−エチルヘキサン酸セチル、オレイン酸オレイル、オレイン酸デシル、酢酸ベンジル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、トリオレイン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、パルミチン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸イソプロピルなどの脂肪酸エステル類などが挙げられ、これらを1種又は2種以上粘着剤層に配合することができる。当該可塑剤の含有量は、粘着剤層全体を100重量部としたとき、20〜80重量部、さらに30〜70重量部であるのが好ましい。前記酸化防止剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、エデト酸ナトリウムのようなキレート剤、亜硫酸ナトリウム、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、テトライソパルミチン酸アスコルビルのようなアスコルビン酸誘導体、酢酸トコフェロールのようなトコフェロール誘導体、硫酸オキシキノリンのようなキノリン誘導体などが挙げられる。前記充填剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、カオリン、ベントナイト、二酸化チタン等が挙げられる。前記薬物溶解補助剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等が挙げられる。前記抗菌剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、塩化ベンサルコニウム、安息香酸、メチルパラヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。前記皮膚刺激低減化剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、無水ケイ酸等が挙げられる。
【0027】
本発明の貼付剤は、支持体層、粘着剤層及び粘着剤層の表面を保護するための剥離ライナー層が順に積層されている。
【0028】
本発明の支持体としては、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体などからなる合成樹脂フィルム、天然繊維、合成樹脂繊維、又はこれらの複合繊維からなる布帛・織物、織布、不織布、紙、合成紙、金属箔などの単層体やこれらの積層体などが用いられる。支持体は、必要に応じてプライマー処理や撥水処理などの表面処理が施されたものであってもよい。
【0029】
本発明の剥離ライナーとしては、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂などの塗布によって剥離処理を施した紙、ポリエチレン樹脂などの合成樹脂をラミネートした紙、合成樹脂フィルムなどが用いられる。
【0030】
本発明の貼付剤は、通常の貼付剤を製造する方法によって製造することができる。例えば、薬物を含む基剤組成をアセトン、酢酸エチル等の適当な有機溶媒に溶解させ、得られた粘着剤溶液を支持体上に塗工し、有機溶媒を乾燥・除去して粘着剤層を形成し、その後、粘着剤層上に剥離ライナーを貼り合せることで、製造することができる。また、前記粘着剤溶液を剥離ライナー上に塗工し、有機溶媒を乾燥・除去して粘着剤層を形成し、その後、粘着剤層上に支持体を貼り合せることで、製造してもよい。なお、粘着剤層を形成する際に粘着剤溶液を一度に厚く塗工すると均一に乾燥することが困難な場合があるため、粘着剤層の厚みを充分なものにするために、2度以上に分けて塗工してもよい。
【実施例】
【0031】
さらに本発明の特徴について、実施例及び比較例により詳細に説明する。これらは本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0032】
実施例1
トリクロルメチアジド2.0重量部、n−オクチル−β−D−チオグルコピラノシド3.0重量部、ミリスチン酸イソプロピル40.0重量部、アルミニウムアセチルアセトナート0.4重量部及びアクリル系粘着基剤(National Starch & Chemical Company社製、商品名:DURO−TAK(登録商標)87−2852)54.6重量部を容器内で均一になるように混合・攪拌し、均一な塗工液を得た。
この塗工液を、支持体としてのポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ12μm)の片面に乾燥後の厚みが約90μmとなるように塗工し、これを60℃で約1時間乾燥して粘着基剤層を形成した。
次に、前記にて形成した粘着基剤層にセパレーターとしてのポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ75μm)のシリコンコート面を貼り合せて所定の大きさに裁断し、本発明の経皮吸収製剤を得た。
【0033】
比較例1
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドの代わりにN−ドデシルアゼパン−2−オン(エイゾン)を用い実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0034】
比較例2
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドの代わりに1−オクチル−2−ドデカノールを用い実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0035】
比較例3
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドの代わりにセバシン酸ジエチルを用い実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0036】
比較例4
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドの代わりにポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテルを用い実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0037】
比較例5
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドの代わりにカプリン酸を用い実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0038】
比較例6
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドの代わりにモノオレイン酸ソルビタンを用い実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0039】
比較例7
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドの代わりにモノカプリル酸プロピレングリコールを用い実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0040】
比較例8
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドの代わりにスクワランを用い実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0041】
比較例9
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドの代わりにL(−)−メントールを用い実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0042】
比較例10
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドの代わりにDL−リンゴ酸を用い実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0043】
比較例11
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドの代わりに尿素を用い実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0044】
比較例12
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドの代わりにN−メチル−2−ピロリドンを用い実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0045】
比較例13
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドの代わりにオレイン酸ジエタノールアミドを用い実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0046】
比較例14
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドの代わりにラウリン酸ジエタノールアミドを用い実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0047】
比較例15
実施例1に使用されるn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドを添加せず、代わりに粘着基剤を増量し、その他は実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤を得た。
【0048】
試験例1(ヘアレスマウス皮膚を用いたin vitro皮膚透過試験)
前記実施例及び比較例にて得た経皮吸収製剤を直径13mmの円形に打ち抜いたものを試験に用いた。7週齢の雄性へアレスマウスをジエチルエーテルで麻酔致死させた後、直ちに全身の皮膚を剥離した。その後、皮下脂肪を除去し、外皮側にドーナツ状のポリエチレンテレフタレート製フィルムを貼り付けた。得られた皮膚片を37℃に加温したリン酸塩緩衝液7mLが充填されている拡散セルに装着し,1時間水和した後、直径13mmに打ち抜いた試作テープ製剤を外皮側に貼付した。試験開始後、レセプター液1mLをオートサンプラーで経時的にサンプリングし、同量の試験液を補充した。採取した試験液中の薬物量は高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)により定量し、定常状態透過速度を算出した。
【0049】
HPLC分析条件
検出器:紫外吸光光度計
検出波長:268nm
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのオクタデシルシリル化シリカゲルカラム(5μm)。
カラム温度:40℃
移動相:pH3.5に調整した80mM酢酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル/2−プロパノール=65/30/5
【0050】
トリクロルメチアジドの定常状態透過速度を表1に示す。実施例1は、アルキルグリコシドを含有しない比較例1〜15に比べて、いずれもトリクロルメチアジの皮膚透過性において優れていることが証明された。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例2
アクリル系粘着基剤をDURO−TAK(登録商標)87−2051に変更した以外は、実施例1と同じ条件及び方法で本発明の経皮吸収製剤を得た。
【0053】
実施例3
アクリル系粘着基剤をDURO−TAK(登録商標)87−2100に変更した以外は、実施例1と同じ条件及び方法で本発明の経皮吸収製剤を得た。
【0054】
実施例4
アクリル系粘着基剤をGMS(商標)1430に変更した以外は、実施例1と同じ条件及び方法で本発明の経皮吸収製剤を得た。
【0055】
実施例5
アクリル系粘着基剤をDURO−TAK(登録商標)87−2100に変更し、トリクロルメチアジド3.0重量部及びアクリル系粘着基剤53.6重量部とした以外は、実施例1と同じ条件及び方法で本発明の経皮吸収製剤を得た。
【0056】
実施例2〜5の製剤について試験例1と同様に試験したところ、定常状態透過速度はそれぞれ14.0、14.1、7.1及び12.0μg/cm2/hrを示し、優れた透過性を有することが確認できた。
【0057】
比較例16
アクリル系粘着基剤として、カルボキシル基やその他の官能基を実質的に有しないDURO−TAK(登録商標)87−9301に変更した以外は、実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤の製造を行ったが成形性を保てず、経皮吸収製剤を得ることができなかった。
【0058】
比較例17
アクリル系粘着基剤として、カルボキシル基やその他の官能基を実質的に有しないDURO−TAK(登録商標)87−900Aに変更した以外は、実施例1と同じ条件及び方法で経皮吸収製剤の製造を行ったが成形性を保てず、経皮吸収製剤を得ることができなかった。
【0059】
実施例6
トリクロルメチアジド2.0重量部、n−オクチル−β−D−チオグルコピラノシド2.0重量部、ミリスチン酸イソプロピル50.0重量部、アルミニウムアセチルアセトナート0.1重量部及びアクリル系粘着基剤(National Starch & Chemical Company社製、商品名:DURO−TAK(登録商標)87−2852)45.9重量部を用い、実施例1と同様にして本発明の経皮吸収製剤を得た。
【0060】
実施例7
トリクロルメチアジド2.0重量部、n−オクチル−β−D−チオグルコピラノシド3.0重量部、ミリスチン酸イソプロピル50.0重量部、アルミニウムアセチルアセトナート0.1重量部及びアクリル系粘着基剤(National Starch & Chemical Company社製、商品名:DURO−TAK(登録商標)87−2852)44.9重量部を用い、実施例1と同様にして本発明の経皮吸収製剤を得た。
【0061】
実施例8
トリクロルメチアジド2.0重量部、n−オクチル−β−D−チオグルコピラノシド1.0重量部、ミリスチン酸イソプロピル60.0重量部、アルミニウムアセチルアセトナート0.1重量部及びアクリル系粘着基剤(National Starch & Chemical Company社製、商品名:DURO−TAK(登録商標)87−2852)36.9重量部を用い、実施例1と同様にして本発明の経皮吸収製剤を得た。
【0062】
実施例9
トリクロルメチアジド2.0重量部、n−オクチル−β−D−チオグルコピラノシド2.0重量部、ミリスチン酸イソプロピル60.0重量部、アルミニウムアセチルアセトナート0.1重量部及びアクリル系粘着基剤(National Starch & Chemical Company社製、商品名:DURO−TAK(登録商標)87−2852)35.9重量部を用い、実施例1と同様にして本発明の経皮吸収製剤を得た。
【0063】
実施例10
トリクロルメチアジド2.0重量部、n−オクチル−β−D−チオグルコピラノシド3.0重量部、ミリスチン酸イソプロピル60.0重量部、アルミニウムアセチルアセトナート0.1重量部及びアクリル系粘着基剤(National Starch & Chemical Company社製、商品名:DURO−TAK(登録商標)87−2852)34.9重量部を用い、実施例1と同様にして本発明の経皮吸収製剤を得た。
【0064】
実施例6〜10の製剤について試験例1と同様に試験したところ、定常状態透過速度はそれぞれ7.8、10.8、7.0、11.1、及び16.2μg/cm2/hrを示し、優れた透過性を有することが確認できた。
【0065】
試験例2(ヘアレスラット薬物動態試験)
7週齢HWY系雄性ヘアレスラットの背部に本発明で得られた実施例1の経皮吸収製剤(約12cm2)を貼付し、その上からガーゼ及びエラストポアで固定した。貼付後1、2、4、6、8、12及び24時間に左右いずれかの頚静脈から血液を採取し、血漿中トリクロルメチアジド濃度をLC/MS/MS法にて測定した。
別に、9週齢HWY系雄性ヘアレスラットにトリクロルメチアジド懸濁液(2%アラビアゴム溶液に懸濁)を胃ゾンデにより強制的に経口投与した。投与量は0.3mg/kgとした。投与後0.5、1、1.5、2、3、4、6、8、10時間に左右いずれかの頚静脈から血液を採取し、血漿中トリクロルメチアジド濃度をLC/MS/MS法にて測定した。
【0066】
結果を図1に示す(各群n=3、平均値±標準偏差)。図1から明らかなように、本発明の経皮吸収製剤を用いれば、有効成分であるチアジド系利尿薬の血漿中濃度が一定値で長時間維持され、一過性の急激な上昇がないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)チアジド系利尿薬又はチアジド系類似薬、
(B)アルキルグリコシド又はアルキルチオグリコシド、
(C)モノマー構成単位中の側鎖にカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含む共重合体を含有するアクリル系粘着基剤
を含有するマトリックス型経皮吸収製剤。
【請求項2】
成分(A)がチアジド系利尿薬である請求項1記載のマトリックス型経皮吸収製剤。
【請求項3】
成分(A)がトリクロルメチアジドである請求項1又は2記載のマトリックス型経皮吸収製剤。
【請求項4】
成分(B)がアルキルチオグリコシドである請求項1〜3のいずれか1項記載のマトリックス型経皮吸収製剤。
【請求項5】
成分(B)がC6−C22アルキルチオグルコピラノシドである請求項1〜4のいずれか1項記載のマトリックス型経皮吸収製剤。
【請求項6】
成分(B)がn−オクチル−β−D−チオグルコピラノシドである請求項1〜5のいずれか1項記載のマトリックス型経皮吸収製剤。
【請求項7】
成分(C)が(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸アルキル共重合体又は(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体を含むアクリル系粘着基剤である請求項1〜6のいずれか1項記載のマトリックス型経皮吸収製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−248187(P2010−248187A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71691(P2010−71691)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000109831)トーアエイヨー株式会社 (25)
【Fターム(参考)】