説明

経皮投与製剤

【課題】エチゾラム系成分を有効成分として含有する、肝臓での分解、嚥下障害の患者の投与困難性、服薬コンプライアンスが守られないこと等の問題を解決し得る経皮投与製剤を提供すること。
【解決手段】5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物もしくはその医薬上許容しうる酸付加塩の少なくとも一種を有効成分として含有し、さらにアクリル系粘着剤を含む経皮投与製剤を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物を有効成分として含有する製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物の一種であるエチゾラムを有効成分として含有する製剤は市販され、神経症、心身症、睡眠障害、骨粗鬆症、又は血小板活性化因子由来の疾患等への治療や予防用途が広く知られている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭48−13394号公報
【特許文献2】特開昭62−22718号公報
【特許文献3】WO93/07129国際公開パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エチゾラムを有効成分として含有する製剤は、経口剤として販売されている。しかし、経口剤は、いわゆる肝臓での初回通過効果によって有効成分が一部分解されるという問題があり、また嚥下障害の患者では経口投与し難い問題があった。さらに、経口剤は投与回数が多い(1日3回投与等)ことから服薬コンプライアンスが守られない事があり、特に高齢者の多種類服薬患者で守られていない事があった。とりわけ、介護者による服薬コンプライアンスの確認が必要なうつ病患者の場合、このような問題はさらに表面化することになる。そこで、これらの問題を解決し得る経皮投与型製剤が望まれるが、医薬化合物の多くは経皮吸収が十分ではなく、また皮膚刺激性が問題となる場合があった。
【0005】
本発明は、エチゾラム系成分を有効成分として含有する、肝臓での分解、嚥下障害の患者の投与困難性、服薬コンプライアンスが守られないこと等の問題を解決し得る経皮投与製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、エチゾラム系成分は皮膚刺激性が低く、十分に経皮吸収されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、(1)下記一般式(1)で表される5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物もしくはその医薬上許容しうる酸付加塩の少なくとも一種を有効成分として含有する経皮投与製剤である。
【化1】

[式中、Rは、ハロゲン、低級アルキル基又は低級アルコキシ基で置換されていてもよい、フェニル基又はピリジル基を示し、Rは、水素、低級アルキル基、シクロアルキル基又はフェニル基を示し、Rは、水素又は低級アルキル基を示し、Rは、水素、ハロゲン、低級アルキル基、低級アルカノイル基又は1−ヒドロキシエチル基を示す。ただし、RとRは、互いに連結してトリメチレンもしくはテトラメチレンを形成することもできる。Aは=C(R)−(ここで、Rは水素又は低級アルキル基を示す。)又は窒素原子を示す。]
【0008】
また本発明は、(2)前記経皮投与製剤が、経皮吸収型製剤又は貼付剤である(1)項記載の経皮投与製剤である。
【0009】
また本発明は、(3)さらにアクリル系粘着剤を含む(2)項記載の経皮投与製剤である。
【0010】
また本発明は、(4)前記アクリル系粘着剤が、実質的にカルボキシル基を含まないアクリル系共重合体を含有する(3)項記載の経皮投与製剤である。
【0011】
また本発明は、(5)前記実質的にカルボキシル基を含まないアクリル系共重合体が、1種又は2種以上架橋して網目構造を形成している(4)項記載の経皮投与製剤である。
【0012】
また本発明は、(6)前記実質的にカルボキシル基を含まないアクリル系共重合体として、下記アクリル系共重合体(A)を100質量部と、下記アクリル系共重合体(B)を0.1〜30質量部とを含む(4)項又は(5)項記載の経皮投与製剤である。
アクリル系共重合体(A); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、ジアセトンアクリルアミド3〜45質量%を必須モノマー成分として含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
アクリル系共重合体(B); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、側鎖に第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基を含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
【0013】
また本発明は、(7)前記実質的にカルボキシル基を含まないアクリル系共重合体として、アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと、前記アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な1種又は2種以上のビニルモノマーとの共重合体であって、遊離カルボキシル基を含まない共重合体を含む(4)項から(6)項のいずれか1項記載の経皮投与製剤である。
【0014】
また本発明は、(8)前記実質的にカルボキシル基を含まないアクリル系重合体として、ビニルピロリドンと、前記ビニルピロリドンと共重合可能な1種又は2種以上のビニルモノマーの共重合体であって、遊離カルボキシル基を含まない共重合体を含む(4)項から(7)項のいずれか1項記載の経皮投与製剤である。
【0015】
また本発明は、(9)前記実質的にカルボキシル基を含まないアクリル系共重合体として、下記アクリル系樹脂Acr−A、Acr−B若しくはAcr−Cを単独で、又はこれらを任意に組み合わせて含む(4)項又は(5)項記載の経皮投与製剤である。
(Acr−A)
下記アクリル系共重合体(A)を100質量部と、下記アクリル系共重合体(B)を0.1〜30質量部とを含む樹脂混合物。
アクリル系共重合体(A); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、ジアセトンアクリルアミド3〜45質量%を必須モノマー成分として含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
アクリル系共重合体(B); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、側鎖に第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基を含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
(Acr−B)
アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと、前記アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な1種又は2種以上のビニルモノマーとの共重合体であって、遊離カルボキシル基を含まない共重合体。
(Acr−C)
ビニルピロリドンと、前記ビニルピロリドンと共重合可能な1種又は2種以上のビニルモノマーの共重合体であって、遊離カルボキシル基を含まない共重合体。
【0016】
また本発明は、(10)さらにゴム系粘着剤を含む(2)項から(9)項のいずれか1項記載の経皮投与製剤である。
【0017】
また本発明は、(11)前記ゴム系粘着剤が、ポリイソブチレン及び/又はスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含む(10)項記載の経皮投与製剤である。
【0018】
また本発明は、(12)さらに溶解剤及び/又は可塑剤を含有する(2)項から(11)項のいずれか1項記載の経皮投与製剤である。
【0019】
また本発明は、(13)前記溶解剤が、N−メチル−2−ピロリドン、乳酸、モノカプリル酸プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、モノラウリン酸ソルビタン及びポリエチレングリコール400からなる群より選択される少なくとも1つを含有する(12)項記載の経皮投与製剤である。
【0020】
また本発明は、(14)前記溶解剤が、N−メチル−2−ピロリドン、乳酸及びジプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1つを含む(13)項記載の経皮投与製剤である。
【0021】
また本発明は、(15)前記可塑剤が、ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、ラウリン酸ヘキシル、イソステアリン酸、モノラウリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ラウリルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、オレイルアルコール及び流動パラフィンからなる群より選択される少なくとも1つを含有する(12)項から(14)項のいずれか1項記載の経皮投与製剤である。
【0022】
また本発明は、(16)下記(イ)〜(ハ)の少なくとも一つの条件を満たしている、(1)項から(15)項のいずれか1項記載の経皮投与製剤である。
(イ)少なくとも1時間以上の効果を持続することができ、製剤適用経過時間における当該薬物の投与速度が14〜125μg/hである。
(ロ)製剤大きさ又は経皮吸収適応面積が2.5〜100cmである。
(ハ)有効成分の皮膚透過速度が、0.14〜50μg/cm/hである。
【0023】
また本発明は、(17)不安、緊張、抑うつ、神経衰弱症状、睡眠障害、筋緊張頸椎症、腰痛症、筋収縮性頭痛、骨粗鬆症、及び血小板活性化因子由来の疾患からなる群より選ばれる1種以上の疾患の予防及び/又は治療剤である(1)項から(16)項のいずれか1項記載の経皮投与製剤である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、エチゾラム系成分を有効成分として含有する経皮投与製剤が提供される。この経皮投与製剤は、使用時の苦痛が少なく、皮膚刺激性が少ないという特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態の一例について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0026】
本発明の経皮投与製剤は、5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物を有効成分として含有する製剤である。製剤の形態は、経皮的に上記有効成分を吸収させることができるものであれば特に限定されない。例えば、軟膏剤、クリーム剤、液剤、ローション剤、リニメント剤、ゲル剤、経皮吸収型製剤、貼付剤等の一般的な外用製剤の形態として調製することができ、中でも、経皮吸収型製剤又は貼付剤が好ましく、経皮吸収型製剤が最も好ましい。これらのうち、経皮吸収型製剤及び貼付剤は、薬剤成分を含有する粘着剤層が支持体上に形成された製剤であり、当該粘着剤層の露出部分が薬剤面となるものである。
【0027】
「経皮吸収型製剤」とは、支持体上に薬剤面を有し、かつ皮膚に薬剤面を接触させて適用したときに、有効成分が皮膚を通して全身循環血流に送達されるべく設計された製剤を意味し、主として皮膚に貼付して使用されるものである。このようなものとしては、マトリックスタイプや、リザーバーを有したタイプ等の経皮吸収型製剤が例示される。
【0028】
「貼付剤」とは、支持体上に薬剤面を有し、かつ皮膚に薬剤面を接触させて適用したときに、有効成分が皮膚を通じて局所に送達されるべく設計された製剤を意味し、上記経皮吸収製剤と同様、主として皮膚に貼付して使用されるものである。このような貼付剤としては、プラスター剤が例示されるが、日本薬局方で貼付剤とは別の分類とされているパップ剤等も含まれる。
【0029】
以下、本発明の経皮投与製剤の一例として、経皮吸収型製剤や貼付剤のように、皮膚に貼付して適用する経皮投与製剤について詳細に説明する。なお、以下の説明では、経皮吸収型製剤と貼付剤とを併せて、経皮投与製剤と表現する。
【0030】
本発明の経皮投与製剤には、5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物及びアクリル系の粘着剤が含まれ、必要に応じて、ゴム系の粘着剤、粘着付与剤、溶解剤、可塑剤等の成分を含有させることができる。以下、これらの成分について説明する。
【0031】
[5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物]
まず、本発明の経皮投与製剤で使用される5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物は、下記一般式(1)で表される5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物もしくはその医薬上許容しうる酸付加塩の少なくとも一種である。
【化1】

[式中、Rは、ハロゲン、低級アルキル基又は低級アルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基又はピリジル基を示し、Rは、水素、低級アルキル基、シクロアルキル基又はフェニル基を示し、Rは、水素又は低級アルキル基を示し、Rは、水素、ハロゲン、低級アルキル基、低級アルカノイル基又は1−ヒドロキシエチル基を示す。ただし、RとRは、互いに連結してトリメチレンもしくはテトラメチレンを形成することもできる。Aは=C(R)−(ここで、Rは水素又は低級アルキル基を示す。)又は窒素原子を示す。]
【0032】
上記各記号の定義中、ハロゲンとは塩素、臭素、フッ素又はヨウ素を、低級アルキル基とは炭素数1〜4個のアルキル基であって、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基又はtert−ブチル基等を、低級アルコキシ基とは炭素数1〜4個のアルコキシ基であって、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基又はtert−ブトキシ基等を、低級アルカノイル基とは炭素数2〜5個のアルカノイル基であって、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ピバロイル基等を、シクロアルキル基とは炭素数3〜7個のシクロアルキル基であって、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基を、ピリジル基とは2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジルを意味する。
【0033】
一般式(1)の化合物の医薬上許容しうる酸付加塩としては、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、硝酸等の無機酸との塩;マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、酢酸、乳酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、パモ酸等の有機酸;との塩が挙げられる。
【0034】
これらの化合物は、例えば、特開昭48−13394号公報記載の方法により合成される。これらの中でも、一般名エチゾラムで表される、4−(2−クロロフェニル)−2−エチル−9−メチル−6H−チエノ[3,2−f][1,2,4]トリアゾロ[4,3−a][1,4]ジアゼピンが好ましく使用される。
【0035】
5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物の配合量は、経皮投与製剤の粘着剤層中、0.1〜30質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがより好ましく、3〜10質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
[アクリル系粘着剤]
本発明で使用されるアクリル系粘着剤は、実質的にカルボキシル基を含まないアクリル系共重合体を、1種又は2種以上架橋して得られたものが好ましく使用される。実質的にカルボキシル基を含まないアクリル共重合体は、皮膚への刺激性が小さいほか、本発明の経皮投与製剤の有効成分である5員環縮合チエノジアゼピン化合物への相互作用が小さいので、有効成分の安定性が損なわれたり、経皮吸収性が低下したりすることを防止することができる点で好ましい。また、アクリル系共重合体を1種又は2種以上架橋して得られた粘着剤は、樹脂の柔軟な網目構造を粘着剤全体に亘るように含むため、有効成分又は可塑剤や溶解剤を多く保持することができる点で好ましい。なお、「実質的にカルボキシル基を含まない」とは、設計上、全てのカルボキシル基がエステル結合等の置換基に変換されていることを意味し、その中には、例えば、ごく一部のエステル結合等が加水分解によりカルボキシル基に変換されている場合や、不純物としてカルボキシル基を含む場合も含まれる。
【0037】
本発明の経皮投与製剤に好ましく使用されるアクリル系粘着剤の第1の例(Acr−A)としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分、ジアセトンアクリルアミド3〜45質量%を必須モノマー成分としてそれぞれ含有し、遊離カルボキシル基を含有しないアクリル系共重合体(A)100質量部と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、側鎖に第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基を含有し、遊離カルボキシル基を含有しないアクリル系共重合体(B)0.1〜30質量部とを含有するものが挙げられる。このような粘着剤は、共重合体(A)に含まれるジアセトンアクリルアミド由来のカルボニル基と、共重合体(B)に含まれる第1級アミノ基やカルボキシヒドラジド基との架橋反応に基づく微細な網目構造を粘着剤全体に形成し、当該網目構造中に有効成分又は可塑剤や溶解剤を保持することができる点で、経皮投与製剤に好ましく使用することができる。
【0038】
共重合体(A)を製造するには、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、ジアセトンアクリルアミドをモノマー全体に対して3〜45質量%添加してラジカル重合させる方法が例示される。これらのモノマー成分は、過酸化化合物又はアゾ系化合物のような重合開始剤を用いて、常法により重合させることができる。これらのモノマーを重合させるにあたり、反応溶液の粘度を調整するために適宜溶媒を添加することが好ましい。
【0039】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく使用される。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種又は2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0040】
共重合体(B)を製造するには、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、第1級アミノ基を導入するためのモノマー成分及び/又はカルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分をモノマー全体に対して1〜30質量%添加してラジカル重合させ、その後、カルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分由来の側鎖をカルボキシヒドラジド基に転換する方法が例示される。モノマー成分をラジカル重合させる際は、過酸化化合物又はアゾ系化合物のような重合開始剤を用いて、定法により重合させればよい。モノマー成分をラジカル重合させるにあたり、反応溶液の粘度を調整するために適宜溶媒を添加することが好ましい。なお、共重合体(B)を製造する際に使用される(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、上記共重合体(A)で例示したものと同様のものを使用することができる。
また、共重合体(B)中の第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基は、共重合体Aとの適度の架橋性を発揮するために共重合体Bの1分子鎖中、2個以上存在することが好ましく、3個以上存在するがことがより好ましい。
さらに、第1級アミノ基を導入するためのモノマー成分及び/又はカルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとを、これらのモル比が1:5〜1:100となるように混合して共重合させることが好ましい。
【0041】
共重合体(B)に対して、第1級アミノ基を導入するためのモノマー成分としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと重合可能なビニル基を有し、第1級アミノ基を有する化合物が挙げられる。このような化合物としては、ビニルアミン等が例示される。
【0042】
共重合体(B)に対して、カルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと重合可能なビニル基を有し、ヒドラジド化合物と反応可能なケト基を有する化合物が挙げられる。このような化合物としては、ジアセトンアクリルアミド、アクロレイン、アセトアセトキシエチルメタクリレート等が例示される。
【0043】
カルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分由来の側鎖を、カルボキシヒドラジド基に転換させるには、上記ラジカル重合で得られた重合体を極性溶媒に溶解させ、酸触媒の存在下、ジカルボン酸のジヒドラジドを反応させればよい。ジカルボン酸のジヒドラジドとしては、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド等が例示される。
【0044】
なお、本明細書で言う主たるモノマー成分とは、共重合体に対して50質量%以上含まれているモノマー成分、又は複数のモノマー成分の中で最も高い割合で含まれているモノマー成分を指す。
【0045】
本発明の経皮投与製剤に好ましく使用されるアクリル系粘着剤の第2の例(Acr−B)としては、アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと、当該アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な1種又は2種以上のビニルモノマーとの共重合体であって、遊離カルボキシル基を含有しない共重合体を含むものが挙げられる。このような粘着剤は、共重合体に含まれるアセトアセトキシアルキル基同士の架橋反応に基づく微細な網目構造を粘着剤全体に形成し、当該網目構造中に有効成分又は可塑剤や溶解剤を保持することができる点で、経皮投与製剤に好ましく使用することができる。
【0046】
アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキレングリコール類の一つの水酸基がアセトアセチル基でアシル化され、他の一つの水酸基がアクリル酸又はメタクリル酸でアシル化されたものが挙げられる。このような化合物としては、例えば、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート、2−アセトアセトキシエチルアクリレート等が好ましく使用され、2−アセトアセトキシエチルメタクリレートがより好ましく使用される。また、アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートの含量としては、共重合体総質量を100としたときに、5〜50質量%程度であることが好ましく、10〜45質量%程度であることがより好ましい。
【0047】
アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能なビニルモノマーとしては、ビニル基を分子内に有する化合物が挙げられる。このような化合物としては、アルキル基の炭素数が1〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、分子内にヒドロキシル基、アミド基、アルコキシルアルキル基等の官能基を有する官能性モノマー類、及びポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類等を例示することができる。これらの化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0048】
アルキル基の炭素数が1〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、具体
的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。また、分子内に官能基を有する官能性モノマー類としては、具体的には、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。また、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、具体的には、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0049】
アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと、他のビニルモノマーとの共重合体は、過酸化化合物又はアゾ系化合物のような重合開始剤を用いて常法により製造することができる。
【0050】
本発明の経皮投与製剤に好ましく使用されるアクリル系粘着剤の第3の例(Acr−C)としては、ビニルピロリドンと、当該ビニルピロリドンと共重合可能な1種又は2種以上のビニルモノマーとの共重合体であって、遊離カルボキシル基を含有しない共重合体を含むものが挙げられる。このような粘着剤を上記アクリル系粘着剤の第1の例(Acr−A)及び/又は第2の例(Acr−B)と組み合わせて使用することにより、アクリル系粘着剤全体の粘着力を増加させることができる。好ましい組合せとしては、Acr−AとAcr−Cとの混合物が挙げられ、これらの組み合わせの比としては、9:1〜1:1が挙げられ、好ましくは5:1〜1.5:1が挙げられる。
【0051】
ビニルピロリドンと共重合可能なビニルモノマーとしては、ビニル基を分子内に1個又は複数個有する化合物が挙げられる。ビニル基を分子内に1個有する化合物としては、アルキル基の炭素数が1〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、分子内にヒドロキシル基、アミド基、アルコキシルアルキル基等の官能基を有する官能性モノマー類が例示される。また、ビニル基を分子内に複数個有する化合物としては、アルキレン基の炭素数が1〜12であるアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート類、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類等を例示することができる。これらの化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0052】
アルキル基の炭素数が1〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類としては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。また、分子内に官能基を有する官能性モノマー類としては、具体的には、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。また、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、具体的には、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0053】
アルキレン基の炭素数が1〜12であるアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート類としては、具体的には、ジ(メタ)アクリル酸−1,2−エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸−1,2−プロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸−1,3−プロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸−1,4−ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸−1,6−ヘキサングリコール、ジ(メタ)アクリル酸−1,8−オクタングリコール、ジ(メタ)アクリル酸−1,10−デカングリコール等が挙げられる。また、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、具体的には、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0054】
ビニルピロリドンと、他のビニルモノマーとの共重合体は、過酸化化合物又はアゾ化合物のような重合開始剤を用いて常法により製造することができる。
【0055】
アクリル系粘着剤の配合量は、経皮投与製剤の粘着剤層全体に対して10〜90質量%である。より好ましくは、30〜85質量%であり、最も好ましいのは、50〜80質量%である。なお、本発明で好ましく使用されるアクリル系粘着剤として上記3種類(Acr−A、Acr−B及びAcr−C)を例示したが、本発明で使用されるアクリル系粘着剤はこれらのアクリル系粘着剤に限定されるものではない。また、上記例示したAcr−A、Acr−B及びAcr−Cは、それぞれを単独でアクリル系粘着剤として使用してもよいし、これらを任意に組み合わせた混合物をアクリル系粘着剤として使用してもよい。
【0056】
[ゴム系粘着剤]
本発明の経皮投与製剤には、ゴム系の粘着剤を含有させてもよい。ここで使用されるゴム系の粘着剤は、ゴム系の高分子化合物であり、経皮投与製剤に粘着性を付与するための成分である。ゴム系粘着剤としては、特に限定されないが、天然ゴムラテックス、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下SIS共重合体ともいう。)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体等、各種使用することができる。これらの中でも、SIS共重合体やポリイソブチレンが好ましく利用される。
【0057】
SIS共重合体は、A−B−A型重合体に属するもので、末端ブロックのAがポリスチレン、ゴム中間ブロックのBがポリイソプレンからなる分子構造モデルを有するスチレン系熱可塑性のエラストマーである。本発明に用いられるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体としては、特に限定されず、従来用いられているものが使用できるが、イソプレンに対するスチレンの質量比(スチレン/イソプレン)が10/90〜30/70、好ましくは20/80〜25/75であり、溶液粘度(mPa・s、25℃)が約100〜3000のものが、一般的に使用できる。
【0058】
具体的には、特に限定されないが、イソプレンに対するスチレンの質量比(スチレン/イソプレン)が15/85で溶液粘度(mPa・s、25℃)が1,500のもの(商品名:クレイトンD−1107)、スチレン/イソプレンが15/85で溶液粘度(mPa・s、25℃)が900のもの(商品名:クレイトンD−1112)、スチレン/イソプレンが17/83で溶液粘度(mPa・s、25℃)が500のもの(商品名:クレイトンD−1117P)、スチレン/イソプレンが22/78のもの(商品名:クレイトンD−KX401)、スチレン/イソプレンが16/84のもの(商品名:クレイトンD−KX406)、スチレン/イソプレンが30/70で溶液粘度(mPa・s、25℃)が300のもの(商品名:クレイトンD−1125x)、スチレン/イソプレンが10/90で溶液粘度(mPa・s、25℃)が2,500のもの(商品名:クレイトンD−1320x)等の市販品が挙げられ(いずれもクレイトンポリマージャパン株式会社)、これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0059】
本発明においては、特に限定されないが、スチレン質量比率の高いものが好ましく用いられ、具体的にはスチレン/ゴム比(質量%)が22/78のもの(商品名:クレイトンD−KX401)が挙げられる。本発明に用いられるSIS共重合体の含有量は、特に限定されないが、粘着剤層全体に対し10〜50質量%であることが好ましい。
【0060】
ポリイソブチレンは、1種単独でポリイソブチレンを使用することもできるし、分子量の異なる2種以上のポリイソブチレンを使用することもできる。ポリイソブチレンの含有量は、粘着剤層の全質量に対して、15〜60質量%であることが好ましく、15〜55質量%であることがより好ましい。ポリイソブチレンの含有量が15質量%以上であれば、粘着剤層に必要な内部凝集力を適度に付与することができ、60質量%以下であれば、適切な粘着剤層の皮膚接着性やタックが得られる。
【0061】
粘着剤層の適度な凝集力と、適度な柔軟性及び皮膚刺激性とを容易に両立するためには、分子量の異なる2種以上のポリイソブチレンを含有することが好ましい。よって、上記「分子量が異なる2種以上のポリイソブチレン」には、例えば、粘度平均分子量が異なる2種以上のポリイソブチレンが含有される。ポリイソブチレンとしては、例えば、第1のポリイソブチレンと、第1のポリイソブチレンよりも相対的に分子量の低い第2のポリイソブチレンとから構成されることが好ましい。この場合、第1のポリイソブチレンは粘着剤層に適度な凝集力を付与し、また第2のポリイソブチレンは粘着剤層に適度な柔軟性及び皮膚接着性を付与する。
【0062】
具体的には、特に限定されないが、粘度平均分子量1,110,000のポリイソブチレン(オパノールB100,BASF社製)、粘度平均分子量40,000のポリイソブチレン(ハイモール4H,新日本石油化学社製)等が挙げられる。
【0063】
[粘着付与剤]
本発明の経皮投与製剤に、その他の粘着付与剤を添加することも可能である。これらの粘着付与剤としては、特に限定されないが、脂環族飽和炭化水素樹脂(合成石油樹脂)、脂肪族炭化水素樹脂、ロジンエステル誘導体、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂等が好適に用いられる。これらの粘着付与剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
脂環族飽和炭化水素樹脂としては、例えば、アルコンP−100(商品名:荒川化学工業株式会社製)や、エスコレッツ1202U(商品名:トーネックス株式会社製)等が挙げられる。ロジンエステル誘導体としては、例えば、エステルガムH(商品名:荒川化学工業株式会社製)、KE−311(商品名:荒川化学工業株式会社製)、KE−100(商品名:荒川化学工業株式会社製)が挙げられる。テルペン系樹脂としては、例えば、YSレジンPX1150(商品名:ヤスハラケミカル株式会社製)が挙げられる。
【0065】
粘着付与剤は、特に限定されないが、粘着剤層全体に対して5〜50質量%含有させることが好ましい。
【0066】
[溶解剤]
本発明で使用される溶解剤は、経皮投与製剤に5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物を添加する際にその溶解を助け、経皮投与製剤の長期保存時に5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物が析出するのを抑えるために添加される成分である。このような成分としては、特に限定されず、一般に用いられるものが使用できるが、特に、本発明の5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物を有効成分とする経皮投与製剤の場合には、N−メチル−2−ピロリドン、乳酸、モノカプリル酸プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、モノラウリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール等が好ましく使用され、それらの中でも、ジプロピレングリコール、N−メチル−2−ピロリドン、乳酸が特に好ましく使用される。これらの溶解剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。溶解剤は、特に限定されないが、一般的に粘着剤層全体に対して、0.05〜30質量%使用することが好ましい。
なお、ジプロピレングリコール、N−メチル−2−ピロリドンや乳酸は、溶解作用の他に薬物経皮吸収促進性、アクリル系粘着剤との相溶性の面でも好適である。薬物経皮吸収促進性の面では、N−メチル−2−ピロリドンが最も好ましい成分として挙げられ、薬物溶解性の面では、乳酸が最も好ましい成分として挙げられ、低皮膚刺激性と薬物吸収促進性と薬物溶解性とのバランスの観点からは、ジプロピレングリコールが最も好ましい成分として挙げられる。これらの好適な面を組み合わせるために、ジプロピレングリコール、N−メチル−2−ピロリドン及び乳酸を組み合わせることも好ましく、例えば、ジプロピレングリコール及び乳酸の組合せが特に好ましい。
N−メチル−2−ピロリドンの使用量としては、粘着剤層全体に対して、0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜20質量%がより好ましく、1〜10質量%が最も好ましい。乳酸の使用量としては、粘着剤層全体に対して、0.05〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましく、0.5〜5質量%が最も好ましい。ジプロピレングリコールの使用量としては、粘着剤層全体に対して、0.1〜30質量%が好ましく、1〜25質量%がより好ましく、5〜20質量%が最も好ましい。
【0067】
[可塑剤]
本発明で使用される可塑剤は、粘着剤層に柔軟性を与える成分であり、薬物の溶解性や放出性に影響を与える成分である。このような成分としては、特に限定されず、一般に用いられるものが使用できる。具体的には、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル等の脂肪酸エステル;イソステアリン酸等の高級脂肪酸;ラウリルアルコール、イソステアリルアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール、オレイルアルコール等の高級アルコール;中鎖脂肪酸トリグリセリド、スクワラン、スクワレン、ひまし油、液状ゴム(ポリブテン)、流動パラフィン等が挙げられ、これらのうち、ミリスチン酸イソプロピル、オクチルドデカノールが好ましく使用され、ミリスチン酸イソプロピルが特に好ましく使用される。可塑剤の使用量は、粘着剤層全体に対して、1〜40質量%が好ましく、5〜35質量%がより好ましく、10〜30質量%が最も好ましい。なお、可塑剤としてミリスチン酸イソプロピルを使用する場合も同様に、ミリスチン酸イソプロピルの使用量は、粘着剤層全体に対して、1〜40質量%が好ましく、5〜35質量%がより好ましく、10〜30質量%が最も好ましい。
【0068】
[経皮投与製剤]
本発明の経皮投与製剤は、5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物を有効成分として含み、皮膚に貼付することにより、有効成分が体内に経皮吸収されるタイプの製剤である。このような経皮投与製剤の形態としては、支持体上に有効成分と溶解剤及び/又は可塑剤とが添加された粘着剤層が形成されているものが例示される。また、支持体とは反対側の粘着剤層表面には、剥離シートを伴ってもよい。
【0069】
剥離シートとは、有効成分を含有する粘着剤層を保護するものであり、経皮投与製剤の使用者がこれを剥がして粘着剤層表面を露出させると、経皮投与製剤は使用可能な状態となる。剥離シートの素材は、有効成分を含有する粘着剤層から容易に取り除くことができ、有効成分非透過性であることが好ましい。このような素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等のプラスティックフィルム、金属フィルム等の素材から選ばれる単層フィルム、又は2種以上の素材を積層した積層フィルムが挙げられる。これらのフィルムの表面をシリコン処理したものを用いることもできる。
【0070】
経皮投与製剤に使用される支持体は、伸縮性のある素材が好ましいが、非伸縮性の素材であっても柔軟性があればよく、薬物非透過性の素材であれば用いることができる。また、このような支持体は、単層構造であっても、複数の素材が積層された積層構造であってもよい。単層構造の支持体の場合には、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリウレタン等のプラスティックフィルム、あるいは金属製のフィルム類が好ましく使用され、フィルムの表面はシリコン処理を施してもよい。支持体は、無色透明であっても、白色あるいは肌色等に着色したものであってもよく、白色あるいは肌色等に着色したものは、支持体の表面を色素でコーティングしたものであっても、支持体中に色素又は顔料等を均一に練り込んだものであってもよい。積層構造の支持体を用いる場合は、少なくとも1層が薬物非透過性のフィルムを用いればよく、単層構造の支持体フィルムに、ポリエチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリプロピレン等の不織布、織布、編布、紙、金属フィルム等から選ばれる1種又は2種以上の素材を積層することによって得られる積層フィルムを用いることができる。
【0071】
[その他任意成分]
その他、本発明の経皮投与製剤には、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、医薬品や化粧品に用いられる各種成分、すなわち、経皮吸収促進剤、防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤、キレート剤、香料、色剤等を適宜含有させることができる。
【0072】
なお、本発明の経皮投与製剤は、有効成分の持続的効果を発揮するため、下記(イ)〜(ハ)の少なくとも一つの条件を満たすものが好ましい。
(イ)少なくとも1時間以上の効果を持続することができ、製剤適用経過時間における有効成分の投与速度が14〜125μg/hであること。投与速度が14μg/h以上であれば、有効成分の血中濃度を十分な薬効が得られる程度に維持することができるので好ましく、また、投与速度が125μg/h以下であれば、有効成分の血中濃度を副作用の発生が防止される程度に維持することができるので好ましい。
(ロ)製剤大きさ又は経皮吸収適応面積が2.5〜100cmであること。経皮吸収適応面積が2.5cm以上であれば、製剤が皮膚から剥がれ落ちることを防止することができるので好ましく、また、100cm以下であれば、製剤の四隅が剥がれて適応面積が変わるのを防止することができるので好ましい。
(ハ)有効成分の皮膚透過速度が、0.14〜50μg/cm/hであること。皮膚透過速度が0.14μg/cm/h以上であれば、有効成分の適度な血中濃度が維持されるので好ましく、また、50μg/cm/h以下であれば、有効成分の血中濃度を副作用が防止される程度に維持することができるので好ましい。
【0073】
また、本発明の経皮投与製剤の用途としては、例えば、不安、緊張、抑うつ、神経衰弱症状、睡眠障害、筋緊張頸椎症、腰痛症、筋収縮性頭痛、骨粗鬆症、及び血小板活性化因子由来の疾患からなる群より選ばれる1種以上の疾患の予防及び/又は治療が挙げられる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
[粘着剤]
本実施例で使用した粘着剤は、次の通りである。
<アクリル系粘着剤1(Acr1)>
2−エチルヘキシルアクリレート158質量部、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート35.1質量部、メチルメタクリレート76.2質量部、ジアセトンアクリルアミド80.3質量部、及びテトラエチレングリコールジメタクリレート1.0質量部を均一に溶解しモノマー液を調製した。このモノマー液100質量部をジムロー冷却器、温度計、窒素ガス吹き込み管、及び撹拌翼を備えた2リットルの4つ口フラスコに仕込み、溶剤として酢酸エチル350質量部を加えた。100mL/分の流量で窒素ガスを吹き込みながら75℃まで昇温し、75℃で30分間維持した後、開始剤として過酸化ベンゾイル0.35質量部を酢酸エチル5質量部に溶解して添加し、外温を85℃に設定した。溶剤の還流を確認した後、残りのモノマー液を3時間かけて連続して投入した。モノマー液を連続投入開始から、1時間後から酢酸エチル500質量部を3時間かけて投入した。酢酸エチル投入後12時間撹拌を続けた後、過酸化ベンゾイル0.5質量部を追加触媒として投入し、12時間熱処理しその後に冷却してアクリル系粘着剤(Acr1)を得た。
【0076】
<アクリル系粘着剤2(Acr2)>
以下に示す合成方法によって得られた共重合体(A)の溶液と、共重合体(B)の溶液とを、質量比100:5(共重合体(A):共重合体(B))の割合で混合し、アクリル系粘着剤2(Acr2)を得た。
<アクリル系粘着剤2(Acr2)の共重合体(A)>
アクリル酸2−エチルヘキシル200質量部、アクリル酸ブチル100質量部、ジアセトンアクリルアミド50質量部、及び酢酸エチル300質量部を加えて混合した。この混合物を、撹拌装置及び還流冷却装置を備えるセパラブルフラスコに供給し、撹拌及び窒素置換しながら、75℃に昇温した。過酸化ベンゾイル2質量部を酢酸エチル20質量部に溶解した溶液を5分割し、その1部をセパラブルフラスコに添加して、重合を開始した。残りの4部を、反応開始後2時間目から1時間間隔で1部ずつ添加し、添加を終了した後、さらに2時間反応させた。なお、粘度調節のため、反応開始後、2時間ごとに酢酸エチルを50質量部ずつ4回添加した。反応終了後、冷却し、次いで酢酸エチルを添加することで、固形分濃度30質量%のアクリル系粘着剤2(Acr2)に使用する共重合体(A)を得た。
<アクリル系粘着剤2(Acr2)の共重合体(B)>
アクリル酸エチル660質量部、ジアセトンアクリルアミド70質量部、分子量調節剤としてドデシルメルカプタン40質量部及び酢酸エチル400質量部を加えて混合した。この混合物を、撹拌装置及び還流冷却装置を備えるセパラブルフラスコに供給し、撹拌及び窒素置換しながら、70℃に昇温した。アゾビスイソブチロニトリル5質量部を酢酸エチル100質量部に溶解した溶液を5分割し、その1部をセパラブルフラスコに添加して、重合を開始した。残りの4部を、反応開始後2時間目から1時間間隔で1部ずつ添加し、添加を終了した後、さらに2時間反応させた。なお、粘度調節のため、反応開始後、2時間ごとに酢酸エチルを50質量部ずつ4回添加した。その後、アジピン酸ジヒドラジド40質量部を、精製水40質量部、メタノール1600質量部、酢酸エチル260質量部の混合液に溶解したものを添加し、さらに濃塩酸5質量部を加えた後、70℃に昇温した。反応終了後、冷却し、精製水で3回洗浄した後、生成物を酢酸エチル700質量部、アセトン1400質量部、メタノール400質量部の混合溶媒に溶解させることで、固形分濃度30質量%のアクリル系粘着剤2(Acr2)に使用する共重合体(B)を得た。
【0077】
<アクリル系粘着剤3(Acr3)>
市販のアクリル酸−2−エチルヘキシル・ビニルピロリドン共重合体溶液(医薬品添加物規格 No.109602)を入手し、これをアクリル系粘着剤3(Acr3)とした。
【0078】
[溶解性試験]
結晶の有無を目視で観察することにより、各添加剤(溶解剤)1gに対するエチゾラム(5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物の1種)の溶解度(23℃)を測定した。その結果を表1に示す。なお、表1において、乳酸及び乳酸ナトリウムは水溶液であり、91.5%乳酸は日本薬局方品を使用した。
【0079】
【表1】

【0080】
表1に示すように、エチゾラムの溶解度は、乳酸水溶液やN−メチル−2−ピロリドンを使用した場合に顕著に大きく、モノカプリル酸プロピレングリコールやジプロピレングリコールを使用した場合に大きく、モノラウリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール400、及びヤシ油脂肪酸ジエタノールアミドについても実用的な数値を示すことがわかる。
【0081】
[皮膚刺激性試験]
エチゾラムの皮膚刺激性を確認するため、以下の手順で皮膚刺激性試験を行った。
被検物質として0.85%エチゾラムのポリエチレングリコール400溶液と、対照物質としてポリエチレングリコール400とを、それぞれガーゼに浸潤させ、ウサギ(日本白色種、北山ラベス、雄性、10週齢)の健常皮膚及び損傷皮膚に接触させた。接触部位を不浸透性油紙及び不織布粘着性包帯で固定してからさらにガーゼで覆い、粘着性布伸縮包帯にて被覆した。接触24時間後にガーゼを除去し、接触部位を微温湯で湿らせた脱脂綿で軽く拭き取り、30分間放置した後、接触部位の紅斑、痂皮形成及び浮腫形成について観察した。同じ接触部位に7日間繰り返し接触させ、投与期間中の毎日の試験物質除去後30分並びに、最終試験物質除去後24時間及び48時間に接触部位を観察し、評価した。その結果、被検物質(エチゾラム0.85%+溶媒)と対照物質(溶媒のみ)との間で有意の差は確認されず、このことから、エチゾラム自身には皮膚刺激性が無く、経皮投与製剤として使用するのに適することを見出した。
【0082】
[経皮吸収性能試験]
次に、本発明の経皮投与製剤の経皮吸収性能について述べる。評価は、In vivo経皮試験(以下、In vivo試験という。)及びIn vitro皮膚透過試験(以下、In vitro試験という。)により行った。これらの試験は、以下の方法により行った。
【0083】
(In vivoブタ経皮吸収試験)
ブタ(系統:ランドレース&大ヨークシャー、日本農産工、雌性、4〜5月齢、体重20Kg前後)の背部の毛を刈り取り、試験用経皮投与製剤(直径1.8cm)を24時間貼付した。その後、ブタから剥がした経皮投与製剤中のエチゾラム含有量を測定し、当初添加したエチゾラムの量との差から経皮吸収量(40cm換算)及び経皮投与製剤中の残存率を算出した。これらのうち、経皮投与製剤中の残存率は、当初添加したエチゾラム成分の中で、体内に移行しなかった成分の割合(%)を表しており、この数値が低いほど、薬剤成分が有効活用されたことになる。
【0084】
(In vitroヒト皮膚透過試験)
ヒト凍結皮膚を自然解凍後、余分な皮下脂肪等を除き、適当な一定の大きさに打ち抜き、皮膚の片面に試験用の経皮投与製剤を貼付して試験に使用した。72時間経過後、レシーバー溶液に溶出してくるエチゾラム量、及び、皮膚に含まれるエチゾラム量をそれぞれ測定し、経皮投与製剤中に残存した成分の割合(%)をそれぞれ算出した。経皮投与製剤中の残存率は、当初添加したエチゾラム成分の中で、皮膚を透過しなかった成分の割合(%)を表しており、この数値が低いほど、薬剤成分が有効活用されたことになる。
【0085】
(経皮吸収性能試験1;可塑剤の評価)
各種可塑剤を使用した場合の経皮吸収性を評価するために、表2の配合により実施例1〜5の経皮投与製剤を作成し、これらについて前述のIn−vivoブタ経皮吸収試験を実施した。In−vivoブタ経皮吸収試験により得られた経皮吸収量及びエチゾラムの経皮投与製剤の製剤中残存率の結果を表2に示す。なお、表2中、各種添加剤の添加量は質量%であり、経皮吸収量の単位はmg/40cm/24hである。また、各試験用の経皮投与製剤は、支持体を除いた粘着剤層全体において各種添加剤が所定の配合割合(質量%)となるように、粘着剤に各種添加剤を添加して調製した。
また、経皮投与製剤を製造してから1ヵ月間室温で放置した後、経皮投与製剤の粘着剤層におけるエチゾラムの結晶の析出状態を目視により観察した。その結果も表2に併せて示す。
【0086】
【表2】

エチゾラムの結晶析出状態
◎:結晶析出が認められない。
○:僅かに結晶確認できる。
△:結晶あり。粘着剤層のほぼ全面で確認できる。
【0087】
表2に示されるように、可塑剤としてミリスチン酸イソプロピルやオクチルドデカノールを使用すると、経皮吸収量が大きくなることがわかった(実施例1及び2)。また、可塑剤(ミリスチン酸イソプロピル)に、溶解剤であるN−メチル−2−ピロリドンを併用すると、経皮吸収量、製剤中残存率ともに大きく改善することがわかった(実施例5)。このことから、エチゾラムの経皮吸収を高める手法として、可塑剤と溶解剤を併用することの有用性を見出した。また、可塑剤としては、ミリスチン酸イソプロピルが特に優れることを見出した。
【0088】
(経皮吸収性能試験2;経皮投与製剤の組成の評価)
次に、表3及び表4に示す組成で実施例6〜21の経皮投与製剤を作製し、これらについて前述のIn−vivoブタ経皮吸収試験及びIn−vitroヒト皮膚透過試験を実施した。その結果を表3及び表4に示す。表3及び表4中、エチゾラム、溶解剤及び可塑剤の添加量は、いずれも質量%である。なお、各試験用の経皮投与製剤は、支持体を除いた粘着剤層全体において各種成分が所定の配合割合(質量%)となるように、粘着剤に各種成分を添加して調製した。また、乳酸は91.5%の水溶液(日本薬局方品)を使用したが、表3及び表4で示した乳酸の濃度は、粘着剤層における乳酸自体の濃度を示すものである。また、実施例17〜21では、2種類のアクリル系粘着剤(Acr2及びAcr3)を表4に記載した混合比率で混合し、それを粘着剤として使用した。
さらに、経皮投与製剤を製造してから1ヵ月間室温で放置した後、経皮投与製剤の粘着剤層におけるエチゾラムの結晶の析出状態を目視により観察した。その結果も表3及び表4に併せて示す。
【0089】
【表3】

エチゾラムの結晶析出状態
◎:結晶析出が認められない。
○:僅かに結晶確認できる。
△:結晶あり。粘着剤層のほぼ全面で確認できる。
【0090】
【表4】

エチゾラムの結晶析出状態
◎:結晶析出が認められない。
○:僅かに結晶確認できる。
△:結晶あり。粘着剤層のほぼ全面で確認できる。
【0091】
表3によれば、アクリル系の粘着剤に、溶解剤としてN−メチル−2−ピロリドンを使用した実施例(実施例7以外の実施例)では、薬剤成分(エチゾラム)のブタ経皮吸収量が多くなる傾向があり、良好だった。特に、溶解剤としてN−メチル−2−ピロリドンと乳酸とを併用した実施例12は、ブタ経皮吸収量が2.5mg/40cm/24hと多い他、ヒト皮膚に対する皮膚透過速度の値が1.6μg/cm/hを超え、実用上好ましい数値を示すことがわかった。
【0092】
また表4の実施例17〜19を比較すると、溶解剤である乳酸の添加量が増加するのにつれて、ブタ経皮吸収量及びヒト皮膚に対する透過速度が向上することがわかった。このような傾向は、溶解剤としてジプロピレングリコールを使用した場合にも確認され、ジプロピレングリコールの添加量が増加するのにつれて、ブタ経皮吸収量及びヒト皮膚に対する透過速度が向上することがわかった。(実施例20及び21の比較)。特に、溶解剤として、ジプロピレングリコール及び乳酸を高用量で含有する実施例21では、ブタ経皮吸収量が最も高くなり、経皮投与製剤に含まれる薬剤成分の有効利用という点で好ましいことがわかった。
【0093】
また、溶解剤として乳酸を配合した実施例12〜16、及び18〜21の経皮投与製剤では、薬剤成分であるエチゾラムが経時で析出する傾向が小さく、エチゾラムの結晶析出抑制効果が認められた。このような傾向は、粘着剤層全体に対して乳酸を3質量%添加した実施例12、15、及び19〜21において特に顕著だった。このことから、溶解剤として乳酸を添加した経皮投与製剤は、エチゾラムの結晶析出が抑制され、保存時の粘着剤層中エチゾラム溶解量が減少し難いことがわかった。また、溶解剤としてジプロピレングリコールを配合した実施例6、9、11、及び17〜21を比較すると、ジプロピレングリコールの配合量が5質量%以下では、薬剤成分であるエチゾラムが経時で析出する傾向があった(実施例6)が、ジプロピレングリコールの配合量の大きな実施例17〜21では、エチゾラムが経時で析出する傾向が極めて小さくなり、粘着剤層中のエチゾラム溶解性が良好になることが理解される。実施例20によると、溶解剤として乳酸(3質量%)とジプロピレングリコールとを併用した場合には、ジプロピレングリコールの配合量が10質量%程度でも粘着剤層中のエチゾラム溶解性が良好であることが理解され、実施例17によると、溶解剤としてジプロピレングリコールを単独で使用した場合であっても、ジプロピレングリコールの配合量が19質量%程度になるとエチゾラムの溶解性が良好になることが理解される。
【0094】
なお、経皮投与製剤において薬物の結晶が多数析出した場合、結晶が薬剤面または粘着剤層中に現れることに伴う皮膚への貼着性の低下、薬物放出性の低下、薬物経皮吸収性の低下等の現象が生じることがある。このような観点からも、上記のように、乳酸を粘着剤層に添加することによってエチゾラムの結晶析出を抑制できることは好ましい。
【0095】
さらに、経皮投与製剤に溶解剤として乳酸を添加すると、薬剤成分であるエチゾラムの溶解性が顕著に向上し、経皮投与製剤の粘着剤層におけるエチゾラムの濃度を高くできることがわかった。経皮投与製剤の粘着剤層における薬剤濃度を高くすると、薬剤成分の皮膚透過速度を大きくしたり、薬剤成分の血中濃度を長時間にわたって有効濃度に維持したりすることができるので、この点でも、経皮投与製剤の溶解剤として乳酸を使用することが好ましいといえる。なお、溶解剤としてジプロピレングリコールを使用した場合であっても、十分な量のジプロピレングリコールを添加すると、薬剤成分であるエチゾラムの溶解性が顕著に向上し、溶解剤として乳酸を添加した場合と同様の効果を得られることがわかった。
【0096】
また、Acr1又はAcr2のアクリル系粘着剤を単独で使用した実施例6〜16の経皮投与製剤よりも、Acr2とAcr3とを併用した実施例17〜21の経皮投与製剤の方が皮膚に対する粘着性が大きい傾向があった。このことから、アクリル系粘着剤としてAcr2とAcr3とを併用した経皮投与製剤は、皮膚に貼付して使用している際に、自然に剥離することを抑制できる点で、好ましいことがわかった。
【0097】
以上の通り、本発明によれば、従来経口投与されることが一般的だったエチゾラムを経皮的に投与することが可能になる。本発明の経皮投与製剤は、皮膚に貼付するだけで薬剤成分が体内に吸収されるので、使用時の苦痛が少なく、かつ、上記皮膚刺激性試験の項でも述べたように、皮膚刺激性が小さいという特徴を有する。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明により、エチゾラムの経皮投与製剤が提供される。この経皮投与製剤を使用することにより、エチゾラムを経皮吸収させることができるので、経口や注射による投与の問題点を解消することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される5員環複素環縮合チエノジアゼピン化合物もしくはその医薬上許容しうる酸付加塩の少なくとも一種を有効成分として含有する経皮投与製剤。
【化1】

[式中、Rは、ハロゲン、低級アルキル基又は低級アルコキシ基で置換されていてもよい、フェニル基又はピリジル基を示し、Rは、水素、低級アルキル基、シクロアルキル基又はフェニル基を示し、Rは、水素又は低級アルキル基を示し、Rは、水素、ハロゲン、低級アルキル基、低級アルカノイル基又は1−ヒドロキシエチル基を示す。ただし、RとRは、互いに連結してトリメチレンもしくはテトラメチレンを形成することもできる。Aは=C(R)−(ここで、Rは水素又は低級アルキル基を示す。)又は窒素原子を示す。]
【請求項2】
前記経皮投与製剤が、経皮吸収型製剤又は貼付剤である請求項1記載の経皮投与製剤。
【請求項3】
さらにアクリル系粘着剤を含む請求項2記載の経皮投与製剤。
【請求項4】
前記アクリル系粘着剤が、実質的にカルボキシル基を含まないアクリル系共重合体を含有する請求項3記載の経皮投与製剤。
【請求項5】
前記実質的にカルボキシル基を含まないアクリル系共重合体が、1種又は2種以上架橋して網目構造を形成している請求項4記載の経皮投与製剤。
【請求項6】
前記実質的にカルボキシル基を含まないアクリル系共重合体として、下記アクリル系共重合体(A)を100質量部と、下記アクリル系共重合体(B)を0.1〜30質量部とを含む請求項4又は請求項5記載の経皮投与製剤。
アクリル系共重合体(A); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、ジアセトンアクリルアミド3〜45質量%を必須モノマー成分として含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
アクリル系共重合体(B); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、側鎖に第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基を含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
【請求項7】
前記実質的にカルボキシル基を含まないアクリル系共重合体として、アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと、前記アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な1種又は2種以上のビニルモノマーとの共重合体であって、遊離カルボキシル基を含まない共重合体を含む請求項4から請求項6のいずれか1項記載の経皮投与製剤。
【請求項8】
前記実質的にカルボキシル基を含まないアクリル系重合体として、ビニルピロリドンと、前記ビニルピロリドンと共重合可能な1種又は2種以上のビニルモノマーの共重合体であって、遊離カルボキシル基を含まない共重合体を含む請求項4から請求項7のいずれか1項記載の経皮投与製剤。
【請求項9】
前記実質的にカルボキシル基を含まないアクリル系共重合体として、下記アクリル系樹脂Acr−A、Acr−B若しくはAcr−Cを単独で、又はこれらを任意に組み合わせて含む請求項4又は請求項5記載の経皮投与製剤。
(Acr−A)
下記アクリル系共重合体(A)を100質量部と、下記アクリル系共重合体(B)を0.1〜30質量部とを含む樹脂混合物。
アクリル系共重合体(A); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、ジアセトンアクリルアミド3〜45質量%を必須モノマー成分として含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
アクリル系共重合体(B); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、側鎖に第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基を含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
(Acr−B)
アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと、前記アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な1種又は2種以上のビニルモノマーとの共重合体であって、遊離カルボキシル基を含まない共重合体。
(Acr−C)
ビニルピロリドンと、前記ビニルピロリドンと共重合可能な1種又は2種以上のビニルモノマーの共重合体であって、遊離カルボキシル基を含まない共重合体。
【請求項10】
さらにゴム系粘着剤を含む請求項2から請求項9のいずれか1項記載の経皮投与製剤。
【請求項11】
前記ゴム系粘着剤が、ポリイソブチレン及び/又はスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含む請求項10記載の経皮投与製剤。
【請求項12】
さらに溶解剤及び/又は可塑剤を含有する請求項2から請求項11のいずれか1項記載の経皮投与製剤。
【請求項13】
前記溶解剤が、N−メチル−2−ピロリドン、乳酸、モノカプリル酸プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、モノラウリン酸ソルビタン及びポリエチレングリコール400からなる群より選択される少なくとも1つを含有する請求項12記載の経皮投与製剤。
【請求項14】
前記溶解剤が、N−メチル−2−ピロリドン、乳酸及びジプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項13記載の経皮投与製剤。
【請求項15】
前記可塑剤が、ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、ラウリン酸ヘキシル、イソステアリン酸、モノラウリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ラウリルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、オレイルアルコール及び流動パラフィンからなる群より選択される少なくとも1つを含有する請求項12から請求項14のいずれか1項記載の経皮投与製剤。
【請求項16】
下記(イ)〜(ハ)の少なくとも一つの条件を満たしている、請求項1から請求項15のいずれか1項記載の経皮投与製剤。
(イ)少なくとも1時間以上の効果を持続することができ、製剤適用経過時間における当該薬物の投与速度が14〜125μg/hである。
(ロ)製剤大きさ又は経皮吸収適応面積が2.5〜100cmである。
(ハ)有効成分の皮膚透過速度が、0.14〜50μg/cm/hである。
【請求項17】
不安、緊張、抑うつ、神経衰弱症状、睡眠障害、筋緊張頸椎症、腰痛症、筋収縮性頭痛、骨粗鬆症、及び血小板活性化因子由来の疾患からなる群より選ばれる1種以上の疾患の予防及び/又は治療剤である請求項1から請求項16のいずれか1項記載の経皮投与製剤。

【公開番号】特開2010−241784(P2010−241784A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146626(P2009−146626)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【出願人】(000174622)ニプロパッチ株式会社 (31)
【Fターム(参考)】