説明

経皮治療システム中の医療用活性成分の破壊的処理

本発明は、経皮治療システム(=TTS)に含まれる医療用活性成分の破壊的処理のための手段に関する。本手段は多層設計を有しており、中に薬剤が組み込まれた少なくとも1つの層及び少なくとも1つの繊維層を含む。これは保護層をさらに含む。本発明の手段はTTSと別々に貯蔵される。別々に貯蔵された手段を、TTSの使用後にそのTTSと接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮的治療システム(TTS)(特定の場合は経皮パッチとも呼ばれる)に存在する医療用活性成分(本明細書以後で略して薬物形態とも呼ばれる)の破壊的処理のための手段に関する。本発明の手段を使用後のTTSと接触させて、それにより薬物形態が化学反応で分解又は破壊されることを引き起こすが、いずれの場合もその医療効果を奪う。TTS自体は通常薬物形態として活性治療成分、好ましくは鎮痛剤の群からのものを含み、これが拡散によりシステムから皮膚に運ばれ、その結果、治療目的のために経皮投与される。
【背景技術】
【0002】
医療用活性成分ブプレノルフィン及びフェンタニルを用いた経皮適用は、長期治療における慢性痛の処置のための一般に選択される薬物形態である。比較的長期にわたる皮膚を介したこのように高度に活性な鎮痛剤の持続的な送達は、疼痛患者への一定用量の鎮痛剤の持続的供給をもたらし、それにより血漿ピーク及び血漿トラフを防止する。これは、活性成分の低くても十分な血漿濃度のために、過剰投与に起因する副作用も供給不足に起因する疼痛の回避可能な状態も起こらないという利点を有する。当業者にはTranstec(登録商標)やDurogesic(登録商標)又はDurogesic(登録商標)Smatという製品が知られており、これらはかなりの時間の疼痛治療において有用であることがわかっている。
【0003】
しかし疼痛治療におけるTTSの不利な点は、いわゆる濃度勾配を維持し、そしてそれにより医療用活性成分の治療的に所望される血漿レベルをTTSの投与期間の間中維持するために、TTSに存在する活性成分の貯蔵量が患者に実際に送達される量より多いことが常に必要であるということである。この結果、使用されるか使用済み(worn)TTSが、例えば薬物の現場に関わった者による不正使用の可能性をもたらすということになる。これらの人物の一群は、使用済みTTSを完全に回収し、そしてまだ存在している残留医療用活性成分を抽出し、そしてそれを彼らの薬物嗜癖を静めるために不正に消費することができる。
【0004】
このような考察は、似たような傾向でホルモンのテストステロン又は交感神経様作用薬のメチルフェニデートにも当てはまる。血漿ピーク及び血漿トラフを回避するために両方の薬物は経皮的に有利に投与され、そして不正使用の一定の可能性を含んでおり、これが例えばメチルフェニデートが世界中で麻薬と見なされる理由である。米国ではテストステロンは麻薬として同様の法規定を受けている。
【0005】
従って過去には、患者に使用済みパッチを取り除いて次いでそれをトイレに入れて下水道システムに流すように勧めることによりこの制御されない悪用を防止する試みがなくなることはなかった。この方法の不利な点は、下水道システムを通した薬物の大量廃棄が少なく見積もるべきではない環境問題を意味しているということである。さらに、低い溶解性のTTS担体材料によって詰まったパイプの流出という危険性がある。
【0006】
その結果、活性成分としてアンタゴニストも含むTTSが開発された(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。目的は、それにより使用されたTTSから医療用活性成分を上記のように得ること又は不正に抽出することを防止するか、又は少なくとも有意に妨げることであった。しかし医療用活性成分自体は、理論的にかつ実際に比較的単純な手段で分別沈殿によりアンタゴニストと分離することができるということが事実であり続けるので、これらの保護的対策は薬物の悪用を防ぐには十分ではないことがわかった。
【0007】
特許文献4は、活性成分に加えて、活性成分とは分離され、そして活性成分を無用にする薬剤を溶液中にさらに含むTTSを記載する。さらに、TTSの使用後に薬剤を活性成分と接触させてそれを無用にすることを可能にする手段がこの目的のために存在する。しかし、他の点では理想的なこの溶液の不利な点は、溶液中の薬剤がその高い反応性のために貯蔵寿命を制限することであり、そして運搬の過程での液体の漏出による損害という危険性も存在する。
【0008】
特許文献5(本明細書の優先日の時点で未公開)は、その使用後に、言い換えれば患者により患者の皮膚の表面からそれが脱離された後に、自己破壊を受けるTTSを既に提案している。この先行する開発という意味で自己破壊TTSは、TTSに存在する残留医療用活性成分が使用後に直接又は間接的に破壊され、化学的に分解され、かつ/又は無用にされるということを意味する。提案される実施態様の場合において、破壊過程はTTSの経皮投与の前又は間でさえ開始しないということも最大限の可能性で保証されている。しかしこの実施態様の不利な点は、技術的に複雑な製造手順であり、これが経済的な観点から問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2004/098576
【特許文献2】WO90/04965
【特許文献3】WO2004/037259
【特許文献4】WO 2007/137732
【特許文献5】DE 10 2008 016 804
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明が基にする目的は、TTSの適切な使用後に、確実にかつ完全に残留医療用活性成分の不正な取り出しを防止する手段を提供することである。これらの手段はさらに、製造しやすく、かつ比較的長期間の間問題なく貯蔵可能であるべきである。さらに、これらの手段は、TTSの使用者による扱いやすさとその効果の高い信頼性を兼ね備えているべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、その特徴が、中に薬剤が組み込まれている少なくとも1つの層を含み、そして少なくとも1つの繊維層を含む多層構造を有するという事実に見られる、上で特定された種類の手段により達成される。
【0012】
1つの好ましい実施態様において、本発明の手段は保護層をさらに含む。これは薬物形態とは別々に貯蔵される。薬物形態と別々に貯蔵された本発明の手段を、該薬物形態が使用された後に薬物形態と接触させる。
【0013】
本発明の手段の層中に組み込まれている薬剤は、1つの物質でも物質の混合物でもよく、これは本発明によれば固形又はペーストの形態で存在し得る。薬剤は好ましくは医療用活性成分(薬物形態)と化学的に反応して、それによりそれを破壊する物質である。この効果は、例えば、過マンガン酸塩(例えば過マンガン酸カリウム)、二酸化マンガン、二酸化鉛、四酢酸鉛、セリウム(IV)塩、クロム酸鉛、四酸化オスミウム、亜硝酸塩(例えば亜硝酸カリウム)、二酸化セレン、ペルオキソ化合物、ハイポハライド(hypohalides)、又は硫黄のような無機試薬のような化学的酸化剤により特に得られ;これらのうち、過マンガン酸カリウム及び亜硝酸カリウムが好ましい。ジメチルスルホキシ
ド、N-ブロモスクシンイミド、キノン類、超原子価ヨウ素化合物、過酸及びペルエステル(peresters)、並びに酵素のような有機酸化剤も同様に使用され得る。所定の医療用活性成分に対して、薬剤は好ましくは活性成分とのその化学的反応性に基づいて選択される。当業者は一般的に、本発明という意味でどの薬物形態にどの薬剤が最も適しているか分かる。
【0014】
医療用活性成分は、好ましくは例えば麻薬のような鎮痛剤の群からの活性成分である。好ましくは、モルヒネ誘導体、ヘロイン及びブプレノルフィン、又はフェンタニル及びその誘導体、スフェンタニル及びアルフェンタニルが挙げられ得る。原理上は、TTSを介する経皮投与が適切な投与形態である、活性成分及び薬剤の全ての他の組み合わせを使用することができ、例としてはテストステロン及びメチルフェニデートが挙げられる。
【0015】
多層構造を有する本発明の手段は、中に薬剤が組み込まれている少なくとも1つの層を含む。これはポリマー層でも感圧接着剤層でもよい。この目的のために使用することができるポリマーは、例えばポリアミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレート又はポリメタクリレート、ポリスチレン又はポリエステルのような標準的なポリマーである。薬剤がその意図された目的である薬物形態の破壊的処理を達成するためにポリマー層から再び容易に溶解することができるように、組み込みが達成される。
【0016】
本発明によれば、感圧接着剤層として、永久に粘着性であるか又は溶媒なしで室温にて粘着性のままであり、かつ穏やかに加えられた圧力下で実質的にいずれの基材にも接着する接着剤が使用される。適切な感圧接着剤の好ましいベースは、天然ゴム若しくは合成ゴム、ポリアクリレート類、ポリエステル、ポリクロロプレン類、ポリイソブテン類、ポリビニルエーテル又はポリウレタン類であり、これらはそれらの意図された目的のために、通常は天然樹脂又は合成樹脂、及び酸化安定剤と組み合わせて使用される。感圧接着剤層の場合、薬剤は散乱塗布(scatter application)により組み込まれる。従って、薬剤は感圧接着剤層から再び容易に溶解され得る。
【0017】
多層構造を有する本発明の手段は、少なくとも1つの繊維層をさらに含む。これはガラス、ミネラルウール、バソールトのような鉱物繊維、絹若しくは羊毛のような動物繊維、綿のような植物繊維、又は天然ポリマー(例えばセルロース)及び/若しくは合成ポリマーで作られている化学繊維から構成される織物、編物又は不織布であり得る。ここでは合成プラスチックとして、ポリマー層に関しては標準的なポリマー、すなわちポリアミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレート類若しくはポリメタクリレート類、ポリスチレン若しくはポリエステルを使用することが可能である。
【0018】
1つの好ましい実施態様において、本発明の手段は保護層をさらに含む。この場合、保護層はポリマー層の空いている表面上、言い換えれば繊維層の反対側に配置される。より詳細には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン又はポリエステルのようなプラスチックのフィルムが本発明に従う保護層として使用される。
【0019】
本発明の手段は、保護層の取り付けのためにさらなる接着剤層をさらに含んでいてもよく、これは中に薬剤が組み込まれている層がそれ自体感圧接着剤層ではない場合に特に有用である。
【0020】
医療用活性成分の破壊的処理というその意図された用途のために、薬物形態と分離して貯蔵される、多層構造を有する本発明の手段を、薬物形態と接触させる。これを行う方法は、患者の皮膚から経皮パッチ/TTSを除いた後に、本発明の手段の繊維層を少量の液
体で湿らせることである。次いで使用済みとなったTTSを、多層構造を有する本発明の手段の湿らせた繊維層に付着させる。液体は繊維層を通過してポリマー層中に組み込まれている薬剤に達し、ここで薬剤を上記層から溶解させ、そうして薬剤が繊維層を通って拡散して戻り、その結果医療用活性成分と直接接触するようになるようにし、それによりそれに化学的破壊を受けさせる。
【0021】
TTSにおける医療用活性成分の破壊的処理のための、多層構造を有する本発明の手段は全ての公知のTTSに適しており;このようなTTSの製造については、当業者は原理上、従来技術から公知のTTS又は経皮パッチの材料、製造方法及び構成を使用する(これについては:Transdermale Pflaster;Spektrum der Wissenschaft 10/2003,42;Transdermal Controlled Systemic Medications,Y.W.Chien,Drugs and the Pharmaceutical Sciences,Vol.31;Polymers in Transdermal Drug Delivery Systems,S.Kandavilli et.al.,Pharmaceutical Technology,May 2002,62−80を参照)。
【0022】
本発明は、個々の実施態様及びそこに記載される材料の選択に限定されることなく、以下の実施例によりより詳細に説明される。それにもかかわらず、実施例に記載されるTTSにおける医療用活性成分の破壊的処理のための本発明の手段の特定の実施態様をそれ自体で、個別に又は互いに組み合わせて、本発明の好ましい特徴として一般化することは可能である。
【実施例】
【0023】
実施例1
酢酸エチル中で中性ポリメタクリレート(Plastoid B)を、40質量%の固形物含有量を有するポリマー溶液を生じるように少しずつ溶解した。ポリマーが完全に溶解した後、同じ質量割合の細粒過マンガン酸カリウムを室温で撹拌しながらその中に懸濁させた。生じたポリマー溶液を適切なコーティングバーを使用してシリコン処理ポリエステルフィルムに塗布した。続いて溶媒を60℃の温度で当業者に公知の実験用乾燥キャビネットにて除去した。溶媒を除去した後、単位面積あたりの質量は180g/m2であった。
【0024】
機械操作で個々の断片を乾燥したラミネートウェブからほぼ市販のTranstec(登録商標)TTSのサイズ(70×70mm)で打ち抜いた。最後に、過マンガン酸カリウムを組み込んだポリマー層をランダムレイド(random−laid)セルロース繊維の不織布で覆った。
【0025】
試験として、このようにして製造された多層構造を有する本発明の手段を3つ、医療用活性成分としてブプレノルフィンを含むTTSに対して様々な曝露時間で試した。この目的のために、不織布を水4.5mlで湿らせ、そしてTTSを湿らせた不織布に付着させた。以下の表に示された曝露時間の後、TTSを不織布から分離し、そして残留ブプレノルフィンをイソプロパノール及び0.1%アスコルビン酸を使用して溶出した。残留活性成分の量を高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて決定した。
結果を以下の表に並べる。
【0026】
【表1】

【0027】
3〜4時間の曝露時間の後に、有意な量の医療用活性成分がもはや検出不可能であるということが明確に明らかとなった。結果として、本発明の手段は、破壊的処理というその目的を完全に達成し、それにより隠された目的のための不正な再使用を効果的に防止した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮治療システム(TTS)に存在する医療用活性成分の破壊的処理のための手段であって、多層構造を備えること、中に薬品が組み込まれている少なくとも1つの層を含んでなること、及び少なくとも1つの繊維層を含んでなることを特徴とする、上記手段。
【請求項2】
保護層をさらに含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の手段。
【請求項3】
破壊的処理の対象とする医療用活性成分と分離して収納されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の手段。
【請求項4】
前記システムが使用された後、分離して収納される手段が経皮治療システムと接触させられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の手段。
【請求項5】
薬品を固形又はペースト状形態で含んでなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の手段。
【請求項6】
薬品が酸化剤であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の手段。
【請求項7】
薬品が過マンガン酸カリウム又は亜硝酸カリウムであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の手段。
【請求項8】
中に薬品が組み込まれている層は、中に薬品が組み込まれているポリマー層又は中に薬品が組み込まれている感圧接着剤層であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の手段。
【請求項9】
中に薬品が組み込まれているポリマー層が、ポリアミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレート類又はポリメタクリレート類、ポリスチレン、又はポリエステルのような標準的なポリマーを含んでなることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の手段。
【請求項10】
中に薬品が組み込まれた感圧接着剤層が、天然ゴム又は合成ゴム、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリクロロプレン、ポリイソブテン、ポリビニルエーテル、又はポリウレタンに基づく感圧接着剤を含んでなり、これは好ましくは天然樹脂又は合成樹脂、及び酸化安定剤と組み合わせて使用されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の手段。
【請求項11】
繊維層として、ガラス、ミネラルウール、バソールトのような鉱物繊維、絹若しくは羊毛のような動物繊維、綿のような植物繊維、又はポリアミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレート若しくはポリメタクリレート、ポリスチレン、又はポリエステルのような天然ポリマー若しくは合成ポリマーから構成される化学繊維から作られている織物、編物、又は不織布を含んでなることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の手段。
【請求項12】
中に薬品が組み込まれている層の、繊維層と反対側の自由表面上に配置される保護層を含んでなることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の手段。
【請求項13】
保護層として、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリエステルのようなプラスチックフィルムを含んでなることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の手段。

【公表番号】特表2013−501012(P2013−501012A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523229(P2012−523229)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004641
【国際公開番号】WO2011/015308
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(300005035)エルテーエス ローマン テラピー−ジステーメ アーゲー (128)
【Fターム(参考)】