説明

経糸シートを処理するための装置および方法

【課題】 経糸シートを安価に製造できる経糸シートを処理するための装置を提供する。
【解決手段】 経糸シート処理装置1は、少なくとも1本のワープビーム3が配置された繰出スタンド2と、繰出スタンド2の下流側に配置される処理機構4、第1乾燥機構8、第2乾燥機構9、整経ビーム10及び缶列11とを備える。繰出スタンド2は、第1出口22と第2出口26とを有し、第1出口22には、ワープビーム3から引き出された複数の糸がその送り方向に直交するように並べて配置されており、第2出口26には、ワープビーム3から引き出された複数の糸が纏められて糸ロープ15の形態になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのワープビームが配置された繰出スタンドと、繰出スタンドの下流側に配置される処理機構と、経糸受容機構とを有する経糸シートを処理するための装置に関する。
【0002】
本発明は、前述のような経糸シートを処理するための装置に備わる繰出スタンドに関する。
【0003】
本発明はさらに、繰出スタンド内に少なくとも1つのワープビームが配置され、ワープビームから経糸シートを引き出し、且つ処理装置で経糸シートを処理するための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
繊維布ウェブを製造する際、一般的に、経糸が使用される。経糸は、多くの場合、繊維布ウェブを製造する前に、前処理、例えば染色される。以下では、染色する場合を例に挙げて説明するが、本発明が使用される形態を、染色の場合に限定するものではない。
【0005】
経糸の染色には、2種類の処理方式がある。1つ目の処理方式は、糸シートの形態で並置される経糸を染浴槽に通す方法である。この方法では、すべての糸に対して略同様かつ一様に染料が塗布される。染浴槽に通した後、経糸は、乾燥され、再び巻取られる。このような処理方式は、拡布染色法、スラッシャ染色、又はシート染色と呼ばれている。
【0006】
別の処理方式としては、ロープ染色と称されるものがある。ロープ染色では、糸をロープ状に束ねた糸ロープの形態で染浴槽に通される。染浴槽に通す際、約300〜700本の糸で1つの経糸ロープを形成するように纏められる。纏められた12〜42本の糸ロープは、染色設備内へと案内され、引き続いて缶の内へと下ろされる。その後、糸ロープを解き、糸ロープを構成していた複数の糸は、横に並べてワープビームに巻かれる。
【0007】
このようなシート染色及びロープ染色の両方の処理方式は、例えば、非特許文献1に述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ビーエーエスエフ(BASF) 技術情報 「インディゴによる連続染色(Continuous dyeing with indigo)」、(独国)、1995年9月、p.4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
シート染色及びロープ染色のいずれの方法を選択するかは、希望する製品、即ち製造される繊維布ウェブの外観次第である。そのため、市場に供給したい製造業者は、シート染色装置もロープ染色装置も備えておかなければならない。しかし、これら2つの装置を備えておくためには、比較的大きなスペースが必要であり、さらにはコストが高くなってしまう。
【0010】
そこで本発明は、経糸シートを安価に製造できる経糸シートを処理するための装置及び方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の経糸シートを処理するための装置は、少なくとも1本のワープビームが配置された繰出スタンドと、繰出スタンドの下流側に配置される処理機構と、経糸受容機構とを備える経糸シートを処理するための装置において、前記繰出スタンドは、第1出口と第2出口とを有し、前記第1出口には、前記ワープビームから引き出された複数の糸がその送り方向に直交するように並べて配置されており、前記第2出口には、前記ワープビームから引き出された複数の糸が纏められて糸ロープの形態になっているものである。
【0012】
本発明によれば、シート染色もロープ染色も実行することができる。但し、一般的に、シート染色とロープ染色とを同時にすることはない。最初に指摘した方法、つまりシート染色法(拡布染色法)を実施しなければならない場合、ワープビームから引き出される複数の糸は、送り方向に直交する方向に(即ち、幅方向)に並べられて第1出口まで案内され、このように拡幅した形態で染色等の処理が施される。それに対して、ロープ染色法が望ましい場合、ワープビームから引き出される複数の糸は、1つに纏められて糸ロープの形態で第2出口まで案内される。糸ロープは、シート染色法の時の経糸と同じワープビームから引出すことができる。それ故、両方の処理方式に対して、ただ1つの繰出スタンドを用意すればよい。これにより、繰出スタンドが1つ置けるような設置面積があればよいので、設置スペースを抑えることができる。また、2つ目の繰出スタンドを設ける必要がないので、コストもおさえることができる。さらに、一方の染色法から他方の染色法への切替えは、比較的迅速に行うことができる。それ故、より多くの時間を生産の方に費やすことができる。これにより、やはり生産費を低く抑えることに寄与する。
【0013】
本発明において、前記ワープビームを受けるための前記ワープビーム用受容部と、前記第2出口との間に配置されるロープ形成機構を備えることが好ましい。
【0014】
前記構成によれば、ロープ染色法において経済的な処理方式を実現することができる。つまり、糸ロープは、繰出スタンドではじめて製造される。それ故、従来のワープビームは、後に糸ロープを構成する経糸を供給する供給源として利用することができる。従来の糸ロープは、いわゆるボールワーパー(ball warper)において、300〜500m/分の速度オーダーでいわゆるボール(Ball)に巻取ることができる。その際、経糸は、かなりの機械的負荷を受ける。これに対して、ワープビームは、1000〜1500m/分の速度オーダーで製造することができる。その際、糸が受ける負荷は、ボールワーパーの場合に比べて、はるかに小さい。
【0015】
また、糸ロープが繰出スタンドではじめて製造されることによって生産時間が長くなってしまうことはない。というのは、繰出スタンドの下流側に設けられる処理機構の作動速度は、元々一般的に、糸ロープをボールに巻取る機械、又は整経機の作動速度よりもかなり遅い。このように遅い速度では、糸にかかる張力がはるかに弱く、糸が切れる虞は少ない。これにより、装置の生産性が向上し、こうして製造コストを低く抑えることができる。
【0016】
本発明において、前記ワープビームと前記ロープ形成機構との間において、糸シートを拘束することなく案内し、該糸シートを単に方向転換せるようになっていることが好ましい。
【0017】
前記構成によれば、糸に対して横方向の張力が実質的にかからない。これにより、糸切れの虞を抑え、生産性を高いまま維持することができる。
【0018】
本発明において、前記ロープ形成機構と前記第2出口との間において前記糸ロープを拘束することなく案内し、該糸ロープを単に方向転換させるようになっていることが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、糸ロープを巻取る前に通常どおり糸ロープをボールへと導いて圧縮するいわゆる「トランペット」を設ける必要がない。これにより、経糸にかかる張力を小さく抑えられる。
【0020】
本発明において、前記ワープビーム用受容部は、前記ワープビームの回転を制動するワープビームブレーキを有することが好ましい。
【0021】
前記構成によれば、経糸にかかる張力が規定された張力になるように、ワープビームブレーキでもってワープビームを減速することができる。これを適用することができるのは、幅方向に拡幅された糸シートの形態で複数の経糸が並べられているとき、また複数の経糸が纏められて糸ロープになっているときである。経糸にかかる張力は、ワープビームブレーキによって比較的正確に調節することができる。これにより、経糸に過度な張力がかかることを避けることができる。
【0022】
本発明において、第1糸シート軌道は、少なくとも部分的にワープビームの下方を通って前記第1出口に向かっており、第2糸シート軌道は、少なくとも部分的にワープビームの上方を通って前記第2出口へと向かっていることが好ましい。
【0023】
前記構成によれば、第1及び第2糸シート軌道を互いに空間的に離すことができるので、大きな機械的なコストをかけることなく、糸シートを全く異なる位置で案内することができる。それ故、一方で糸シートを拡幅しながら案内し、他方で糸シートを糸ロープに纏めながら案内するという特徴を実現することができる。
【0024】
本発明において、前記ロープ形成機構は、前記ワープビームの上方に配置されていることが好ましい。
【0025】
前記構成によれば、ワープビームの上方では、十分なスペースが空いており、その十分なスペースを利用することができる。特に、ロープ形成機構は、ワープビームから引き出される糸シートを幅方向で纏めるためにワープビームから十分な距離を置いて配置する必要がある。ワープビームの上方に十分なスペースが空いているため、ワープビームから前述のような十分な距離をおいて配置することができる。
【0026】
本発明において、前記経糸受容機構は、整経ビームと缶列とを有することが好ましい。
【0027】
前記構成によれば、拡幅された糸シートの形態で経糸が処理機構に通される場合、経糸を経糸受容機構内において整経ビームに巻取ることができる。繰出スタンド内に複数のワープビームが設けられている場合、各ワープビームから繰り出され、又は引き出される経糸を整経ビーム上で纏めることができる。経糸を1つの糸ロープに纏める場合、処理機構を通過後に経糸を缶列内に下ろすことができる。缶列に関して、糸ロープ毎に1つの缶が設けられることが望ましい。
【0028】
本発明の繰出スタンドは、前述するような装置に備わるものである。
【0029】
本発明の経糸シートを処理するための方法は、繰出スタンド内に少なくとも1つのワープビームが配置され、該ワープビームから経糸シートを引き出し、且つ処理装置で経糸シートを処理するための方法において、前記ワープビームから引き出された経糸は、その送り方向に直交するように並置されると、処理後に整経ビームに巻取られ、糸ロープの形態にされると、処理後に缶列内に下ろされる方法である。
【0030】
本発明によれば、2つの処理法、つまり拡幅した糸シートの処理及び糸ロープに纏められた糸シートの処理に同じ装置を使用することができる。これにより、より少ない設置スペース及びより小さい装置構造体で実現することが可能となり、コストを抑えることができる。また、このようにコストを抑えることができるにもかかわらず、2つの処理方式を実現することができる。
【0031】
本発明において、前記ワープビームから引き出した複数の経糸は、前記糸ロープに纏められることが好ましい。
【0032】
前記構成によれば、並置された経糸が巻取られる、即ち糸シートの形態で巻取られる通常のワープビームを使用することができる。このようなワープビームは、1000〜1500m/分という範囲内の比較的高い生産速度で製造することができる。ワープビームを製造する時に経糸にかかる張力は、普通、糸ロープが巻取られるボール(Ball)を製造する時に経糸にかかる張力よりもかなり小さい。ボールは、交差巻の方式で巻かれており、そこでは少なくともボールの軸線方向両端にある反転点において、経糸に対して比較的大きな張力がかかり、この張力が、他の処理において悪影響を及ぼす。このような大きな張力は、ワープビームから引き出した後まで経糸を糸ロープにまとめなければ、当てはまらない。つまり、その場合、横方向に引張られることはもはや必要でない。
【0033】
本発明において、前記糸ロープの形態にする速度は、前記処理装置の処理速度に合わせることが好ましい。
【0034】
前記構成によれば、処理装置では、経糸は、元々比較的ゆっくりと、例えば30〜60m/分という範囲内の速度で移動するようになっている。経糸がこのようなゆっくりとした速度で糸ロープにまとめられることで、経糸にかかる張力が低く抑えられる。さらに、経糸を糸ロープへとまとめることで生産時間が長くなってしまうことはない。というのも。ワープビームの形成は、糸ロープが巻取られるボールの形成よりもはるかに迅速に行うことができるので、むしろ生産時間を低減することができる。このような生産時間の低減も、本発明の方法がより高い経済性を有していることに寄与している。
【0035】
本発明において、ワープビームから繰り出した後に経糸を糸ロープへとまとめる代わりに、前記糸ロープが前記ワープビームから繰り出されるようにしてもよい。
【0036】
前記構成によれば、側板(エンドプレート)を備えたワープビームが糸ロープの巻取りに利用される。この処理方式も、高い生産速度でワープビームを生成することを可能とする。経糸に対して横方向にかかる負荷は、ボールを製造する時よりも小さく抑えられる。というのも、ワープビームの端面から糸ロープが落下するのを防止するために、糸ロープを交差巻の方式で巻き付けなくともよいからである。ちなみに、このようにしてワープビームから繰り出される糸ロープも、繰出スタンド内で製造される糸ロープと同じ仕方で処理することができる。
【0037】
本発明において、前記糸ロープ又は前記糸シートに対して、予め規定された張力を与えるために前記ワープビームの回転が制動されることが好ましい。
【0038】
前記構成によれば、ワープビームに作用する制動トルクは、比較的正確に調整し調節することができる。これにより、一方で、経糸に過度な張力がかかることを防止できる。また他方で、糸ロープの経糸を一定の密度にすることができ、一定の密度にすることで希望する処理結果、例えば所望の染色結果を達成することができる。
【0039】
本発明において、前記糸ロープは、纏めた後又は繰り出し後に単に方向転換され、更に処理装置に至るまで拘束されることなく案内されることが好ましい。
【0040】
前記構成によれば、所定の位置まで糸ロープを搬送していくために、糸ロープを方向転換させる。しかし、この方向転換では、経糸に横方向の張力がかからない。というのも、経糸にとってかなりの機械的な負荷を生じさせるいわゆる「トランペット」による糸ロープの案内が省かれているからである。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、経糸シートを安価に製造できる
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】経糸処理装置の構成の概略を示す正面図である。
【図2】繰出スタンドを拡大して示す拡大図である。
【図3】ロープ形成機構の構成の概略を示す概略図である。
【図4】ロープ形成機構を側方から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下では、図面を参照しながら、好ましい実施形態に基づいて本発明を説明する。
【0044】
図1に略示されるように、経糸シート処理装置1は、繰出スタンド2を備えており、この繰出スタンド2内には、複数のワープビーム3が配置されている。本実施形態では、12本のワープビーム3が繰出スタンド2内に配置されている。しかし、繰出スタンド2内に配置されるワープビーム3は、12本より多く又は12本未満であってもよく、一般にワープビーム3を24本まで設けておくことができる。
【0045】
繰出スタンド2の下流側に処理機構4、例えば染色機構が設けられている。なお、下流側とは、即ちワープビーム3から繰出された経糸6が送り出される方向において下流側を意味している。染色機構4は、複数の浴槽5を有し、この複数の浴槽5中にワープビーム3から繰出された経糸6が通される。染色機構4の下流側には、滞留機構7が続いている。滞留機構7の下流側には、第1乾燥機構8と第2乾燥機構9とが設けられている。第2乾燥機構9の下流側には、整経ビーム10が配置されている。また、第2乾燥機構9の下流側には、複数の缶12、13を備えた缶列11が配置されている。
【0046】
このように構成される経糸シート処理装置1により、経糸6を染色することができる。この経糸シート処理装置1では、2つの処理が可能である。1つ目の処理は、経糸6を幅方向に並べて糸シート14(図2)にして処理機構4に通し、そして整経ビーム10に巻取る。他方、2つ目の処理は、処理機構4で糸ロープ15の形態で処理できるように、糸シート14を一本のロープ状に纏めて糸ロープ15の形態し、その後纏めた糸ロープ15を缶12、13内に下ろす。
【0047】
1つ目の処理では、経糸6は、すべて同一に処理され、糸シート14は、略均一な外観となる。2つ目の処理では、経糸6の処理が不均一になってしまう。例えば、糸ロープ15の内部にある経糸6は、糸ロープ15の周面領域にある経糸(即ち、糸ロープ15の外側にある経糸)よりも一般的に塗布される染料が少なくなってしまう。
【0048】
経糸シート処理装置1では、両方の処理方式、つまりシート染色法もロープ染色法も利用できるようにするために、図2に詳しく示した繰出スタンド2が設けられている。前述したように、繰出スタンド2内には、12本のワープビーム3が配置されている。ワープビーム3は、図示しないワープビーム用受容部により回転可能に支承されており、各ワープビーム用受容部は、制動機構16を備えている。図2では、1本のワープビーム3についてだけ制動機構16を図示しており、この制動機構16は、「ワープビームブレーキ」とも称される。図2では、1本のワープビーム3についてだけ制動機構16を図示しているが、各ワープビーム3に対して制動機構16が設けられている。
【0049】
ワープビーム3から引き出された経糸6は、糸シート14になっている。糸シート14内では、経糸6が幅方向で並べて配置されており、いわば平面的なものになっている。糸シート14が引出される際に糸シート14が通るための第1糸シート軌道17〜21がある。この第1糸シート軌道17〜21のうち3つの区間17、19、21は、ワープビーム3の下方にある。糸シート14は、この第1糸シート軌道17〜21を通って第1出口22まで導かれ、更に第1出口22を通って繰出スタンド2から出て行くようになっている。
【0050】
このように第1及び第2糸シート軌道17〜21,23〜26を配置することで、第1及び第2糸シート軌道17〜21,23〜26を互いに空間的に離すことができるので、大きな機械的なコストをかけることなく、糸シート28を全く異なる位置で案内することができる。それ故、一方で糸シート28を拡幅しながら案内し、他方で糸シート28を糸ロープ15に纏めながら案内するという特徴を実現することができる。
【0051】
経糸6又は経糸6で形成された糸ロープ15が通るための第2糸シート軌道23〜25は、ワープビーム3の略上方にある。糸ロープ15は、この第2糸シート軌道23〜25を通って第2出口26まで導かれ、更に第2出口26を通って繰出スタンド2から出て行く。一般的に、複数の糸ロープ15は、各ワープビーム3から一本ずつ形成される。
【0052】
図2に示す実施形態では、第2糸シート軌道23〜25の途中に、図3及び図4で構成を詳しく示すロープ形成機構27が配置されており、このロープ形成機構27は、第2糸シート軌道23〜25の途中に形成されるためワープビーム3の上方に設けられる。このように配置されるロープ形成機構27は、ワープビーム3から引き出された複数の経糸6を1つの糸ロープ15へと纏めるようになっている。このように各々のロープ形成機構27で纏められた複数の糸ロープ15は、処理機構4内を互いに平行に並べて通されていき、缶列11の缶12、13内へと下ろされる。このようにロープ形成機構27は、ワープビーム3から引き出される糸シート28を幅方向で纏めるためにワープビーム3から十分な距離を置いて配置する必要がある。ワープビーム3の上方では、十分なスペースが空いており、その十分なスペースを利用することができる。ワープビーム3の上方に十分なスペースが空いているため、ワープビーム3から前述のような十分な距離をおいて配置することができる。
【0053】
ワープビーム3から糸シート28の形態でどのように引き出されて、ロープ形成機構27にどのようにして供給されるのかが図3及び図4に示してある。ロープ形成機構27は、両端に側板(いわゆる、エンドプレート)30,31を備えたガイドローラ29を有する。側板30,31の間の距離は、その後に形成される糸ロープ15の幅に影響を与える。糸シート28の経糸6を纏めるために、ガイドローラ29の上流側には、第1狭窄部32が設けられている。ガイドローラ29の下流側には、最終的に糸ロープ15を形成するために第2狭窄部33が設けられている。
【0054】
糸シート28は、ロープ形成機構27へと送られ、その後、複数の糸ロープ15を分離しながら案内するガイドローラ34と扇状に配置されるロッドとによって案内されるだけである。しかし、糸シート28は、ロープ形成機構27において横方向で纏められるだけである。横方向の張力を糸シート28に加え得るような別の機構(例えば、「トランペット」)を設ける必要がない。第2糸シート軌道の区間24、25でも、糸ロープ15は、せいぜいガイドローラ35、36を介して方向転換されるだけであり、もはや横方向に張力が加わることがない。それ故、糸シート28の経糸、及び糸ロープ15の経糸にかかる横方向の張力を低く抑えることできる。これにより、糸切れの虞を抑え、生産性を高いまま維持することができる。
【0055】
糸ロープ15の形成は、比較的遅い速度で行うことができる。この速度は、繰出スタンド2に後続する組立体4、8、9、つまり染色機構4、第1乾燥機構8及び第2乾燥機構9の速度に合わせており、例えば30〜60m/分のオーダーである。そのため、糸ロープ15を形成する時に、糸シート28に関与する糸にもかかる張力も僅かであり、糸シート28の経糸に過度な糸張力がかかるおそれがない。
【0056】
制動機構16によってワープビーム3に作用する制動トルクを調整することで、糸ロープ15における経糸6にかかる張力を制動機構16によって調節することができる。これにより、経糸に過度な張力がかかることを防止できる。また、制動トルクを調整することで糸ロープ15の密度を希望する密度にして染色結果に影響を及ぼし、所望の染色結果を達成することができる。
【0057】
図1に示す経糸シート処理装置1により、製造業者は、染色し又は別の仕方で処理された経糸を製造する際にきわめて柔軟に対応することができる。繰出スタンド2の第1及び第2出口22,26において、ワープビーム3の経糸6を拡幅された経糸を有する糸シート14、即ち複数の経糸を並置した糸シート14か、または纏められた経糸を有する糸ロープ15、即ち複数の経糸を纏めた糸ロープ15かのいずれかの形態にすることができる。繰出スタンド2では、糸シート28が案内される糸シート軌道を切換えるだけで処理方式を切換えることができ、これら2つの処理方式を変更する変更手段、つまり一方の処理方式から他方の処理方式へと切換えるための手段を省くことができる。
【0058】
このようにシート染色及びロープ染色の両方の処理方式に対して、ただ1つの繰出スタンド2を用意すればよい。これにより、繰出スタンド2が1つ置けるような設置面積があればよいので、設置スペースを抑えることができる。また、2つ目の繰出スタンド2を設ける必要がないので、コストもおさえることができる。さらに、一方の染色法から他方の染色法への切替えは、比較的迅速に行うことができる。それ故、より多くの時間を生産の方に費やすことができる。これにより、やはり生産費を低く抑えることに寄与する。
【0059】
また、ロープ染色法において経済的な処理方式を実現することができる。つまり、糸ロープ15は、繰出スタンド2ではじめて製造される。それ故、従来のワープビーム3は、後に糸ロープ15を構成する経糸を供給する供給源として利用することができる。従来の糸ロープ15は、いわゆるボールワーパー(ball warper)において、300〜500m/分の速度オーダーでいわゆるボール(Ball)に巻取ることができる。その際、経糸は、かなりの機械的負荷を受ける。これに対して、ワープビーム3は、1000〜1500m/分の速度オーダーで製造することができる。その際、経糸が受ける負荷は、ボールワーパーの場合に比べて、はるかに小さい。
【0060】
このように糸ロープ15が繰出スタンド2ではじめて製造されることによって生産時間が長くなってしまうことはない。というのは、繰出スタンド2の下流側に設けられる処理機構4の作動速度は、元々一般的に、糸ロープ15をボールに巻取る機械、又は整経機の作動速度よりもかなり遅い。このように遅い速度では、経糸にかかる張力がはるかに弱く、経糸が切れる虞は少ない。これにより、糸シート処理装置1の生産性が向上し、こうして製造コストを低く抑えることができる。
【0061】
選択的な処理方式において、仕上がった糸ロープ15をワープビーム3に巻取り、次に経糸シート処理装置1を通過させる前に糸ロープ15をワープビーム3から繰り出すこともできる。糸ロープ15を巻付けたワープビーム3は、本来、糸ロープ15の納入する際に用いるボールワーピング(Ball warping)によって生成されるボール(Ball)とは著しく異なる。ボールの場合、糸ロープ15は、交差巻の方式で巻取られる。それ故、糸ロープ15の経糸には、ボールの軸線方向においてかなりの引張応力で負荷される。特に、ボールの軸線方向両端において方向変換させる領域、つまり反転点においてかなりの動的な力が経糸にかかり、これらの動的な力は、大抵、糸ロープ15の経糸に対して過度な機械的負荷を与えてしまう。このような過度な負荷は、側板30,31を備えたワープビーム3に糸ロープ15を巻取ることによって防止することができる。
【0062】
なお、本発明は、実施の形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、少なくとも1つのワープビームが配置された繰出スタンドと、繰出スタンドの下流側に配置される処理機構と、経糸受容機構とを有する経糸シートを処理するための装置に適用することができる。
【0064】
また本発明は、前述のような経糸シートを処理するための装置に備わる繰出スタンドにてきようすることができる。
【0065】
さらに、本発明は繰出スタンド内に少なくとも1つのワープビームが配置され、ワープビームから経糸シートを引き出し、且つ処理装置で経糸シートを処理するための方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 経糸シート処理装置
2 繰出スタンド
3 ワープビーム
4 処理機構
6 経糸
8 第1乾燥機構
9 第2乾燥機構
10 整経ビーム
11 缶列
12、13 缶
14 糸シート
15 糸ロープ
16 制動機構
17〜21 第1糸シート軌道
22 第1出口
23〜25 第2糸シート軌道
26 第2出口
27 ロープ形成機構
28 糸シート
35、36 ガイドローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本のワープビーム(3)が配置された繰出スタンド(2)と、繰出スタンド(2)の下流側に配置される処理機構(4、8、9)と、経糸受容機構(10、11)とを備える経糸シート(6)を処理するための装置において、
前記繰出スタンド(2)は、第1出口(22)と第2出口(26)とを有し、
前記第1出口(22)には、前記ワープビーム(3)から引き出された複数の糸がその送り方向に直交するように並べて配置されており、
前記第2出口(26)には、前記ワープビーム(3)から引き出された複数の糸が纏められて糸ロープ(15)の形態になっていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記ワープビーム(3)を受けるための前記ワープビーム用受容部と、前記第2出口(26)との間に配置されるロープ形成機構(27)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ワープビーム(3)と前記ロープ形成機構(27)との間において糸シート(28)を拘束することなく案内し、該糸シート(28)を単に方向転換せるようになっていることを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記ロープ形成機構(27)と前記第2出口(26)との間において前記糸ロープ(15)を拘束することなく案内し、該糸ロープ(15)を単に方向転換させるようになっていることを特徴とする、請求項2又は3に記載の装置。
【請求項5】
前記ワープビーム用受容部は、ワープビームブレーキ(16)を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
第1糸シート軌道(17〜21)は、少なくとも部分的にワープビーム(3)の下方を通って前記第1出口(22)に向かっており、
第2糸シート軌道(23〜25)は、少なくとも部分的にワープビーム(3)の上方を通って前記第2出口(26)へと向かっていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記ロープ形成機構(27)は、前記ワープビーム(3)の上方に配置されていることを特徴とする、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記経糸受容機構(10、11)は、整経ビーム(10)と缶列(11)とを有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の装置(1)に備わる繰出スタンド(2)。
【請求項10】
繰出スタンド(2)内に少なくとも1つのワープビーム(3)が配置され、該ワープビーム(3)から経糸シートを引き出し、且つ処理装置で経糸シートを処理するための方法において、
前記ワープビーム(3)から引き出された経糸は、その送り方向に直交するように並置されると、処理後に整経ビーム(10)に巻取られ、糸ロープ(15)の形態にされると、処理後に缶列(11)内に下ろされることを特徴とする方法。
【請求項11】
前記ワープビーム(3)から引き出した複数の経糸は、前記糸ロープ(15)へと纏められることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記糸ロープ(15)の形態にする速度は、前記処理装置の処理速度に合わせることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記糸ロープ(15)は、前記ワープビーム(3)から繰り出されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記糸ロープ(15)又は前記糸シート(14)に対して、予め規定された張力を与えるために前記ワープビーム(3)の回転が制動されることを特徴とする、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記糸ロープ(15)は、纏めた後又は繰り出し後に単に方向転換され、更に処理装置に至るまで拘束されることなく案内されることを特徴とする、請求項10〜14のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−106427(P2010−106427A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246495(P2009−246495)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(591008465)カール マイヤー テクスティルマシーネンファブリーク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクター ハフツング (45)
【氏名又は名称原語表記】KARL MAYER TEXTILMASCHINENFABRIK GESELLSCHAFT MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
【Fターム(参考)】