説明

経編地

【課題】強い破断強力と高い引裂き強力を有し、刃物等による傷や、タバコの火等によって空いた穴部分において、切断された糸が圧縮等の外力により編始め方向に連続的に解れる現象(ラン)が発生し難く安全性の高い経編地であって、厚み方向にソフトなクッション性を有し人体とのフィット性に優れ、安定感のある良好な座り心地を有する解れ防止効果を有する経編地を提供すること。
【解決手段】地組織が少なくとも2枚筬以上で構成され、少なくとも1つの筬(第1筬)が鎖編または2針振り以下のトリコット編で構成され、他の少なくとも1つの筬(第2筬)が2針以上10針以下の挿入編または1針以上8針振り以下のトリコット編で構成され、低融点熱可塑性繊維が第1筬又は第2筬又は別の筬にて編成され、該地組織に配された該低融点熱可塑性繊維が該地組織と熱融着により一体化されてなることを特徴とする経編地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、鉄道車両、航空機、チャイルドシート、ベビーカー、車椅子、家具、事務用等の座席シート用クッション材として好適な布バネ性能を有する経編地に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系エラストマー繊維やポリトリメチレンテレフタレート繊維等の弾性繊維で構成された織編物は、これをフレームに張設することにより、弾性繊維の伸長回復率に基づいたクッション性を発現するため、金属ばねやウレタンクッション材に比べて薄型、軽量、高通気性等の特徴を有する座席を構成することができる。このような弾性繊維からなる織編物は布バネと称され、事務用椅子や家具等の多くの座席に使用されつつある。このような織編物として、特許文献1には、特定繊度の繊維を用い地組織が鎖編と多針振りのトリコット編で構成され、タテ方向および/またはヨコ方向に挿入糸が挿入された特定編密度の経編地とすることにより、高い引裂き抵抗力を有し、刃物等による傷が広がり難い安全性の高い布バネ材が提案されている。しかしながら、地組織が鎖編の為、切れ糸にラン(切断された糸が圧縮による負荷で編始め方向に連続的に解れる現象)が発生し、刃物等による傷に対する強度が不十分なものであった。
【0003】
表裏二層の編地と、該二層の編地を連結する連結糸によって構成される立体編地は、クッション性に優れ、布バネ材として好適に用いられる。特許文献2にはタテ・ヨコの伸度を規定した、高引裂き強力の立体構造座席用シート材が開示されている。このような立体構造布バネ材は、厚み方向のクッション性を向上させるため連結糸にモノフィラメントを使用することが好ましいが、刃物等による傷や、タバコの火等による地編地の傷よりランが発生しやすいという問題があった。
【0004】
特許文献3には、クッション性に優れた弾性織編物であって、融点の異なる2種以上のポリエーテルエステル系エラストマーからなる弾性糸が配され、織編物を熱処理して低融点ポリエーテルエステル系エラストマー樹脂を織編物の糸の交点部分で融着固化させた弾性織編物が開示されている。しかし、この織編物では交点部分が熱融着されて補強されているものの、引裂きに対する抵抗力が十分でなく、刃物等により傷が生じた場合に傷が広がりやすく強度等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−97170号公報
【特許文献2】WO2005/034684号パンフレット
【特許文献3】特開2001−159052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、強い破断強力と、切れ糸がランし難く高い引裂き強力を有し、刃物等による傷や、タバコの火等によって空いた穴部分において、ランの発生および広がりが抑止された、安全性の高い布バネ性能を有する経編地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成すべく、特定の地組織と特定の低融点熱可塑性繊維との組み合わせについて鋭意検討した結果、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)地組織が少なくとも2枚筬以上で構成され、少なくとも1つの筬(第1筬)が鎖編または2針振り以下のトリコット編で構成され、他の少なくとも1つの筬(第2筬)が2針以上10針以下の挿入編または1針以上8針振り以下のトリコット編で構成され、低融点熱可塑性繊維が第1筬又は第2筬又は別の筬にて編成され、該地組織に配された該低融点熱可塑性繊維が該地組織と熱融着により一体化されてなることを特徴とする経編地。
(2)第2筬が1針以上8針振り以下のトリコット編で構成され、該トリコット編に対して同方向または異方向に経糸が挿入されていることを特徴とする上記(1)に記載の経編地。
(3)タテ方向及びヨコ方向のいずれか小さい方の破断強力が600N以上であり、引裂き強力が100N以上であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の経編地。
(4)表裏二層の編地と該二層の編地を連結する連結糸を有する立体編地であって、表裏のどちらかの面の地組織が上記(1)〜(3)のいずれかに記載の経編地であることを特徴とする立体構造経編地。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の経編地が配されてなることを特徴とする座席。
【発明の効果】
【0009】
本発明の経編地は布バネ性能を有し、特に車両用座席に用いた場合、切れ糸がランし難く、強い破断強力と高い引裂き強力を示し、刃物等や、タバコの火等による損傷が少なく、安定感のある座り心地を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の経編地は、略4角形、多角形などの各種形状のフレームに縫製、樹脂成型、ボルト止め等の各種方法で張設することにより、面状のクッション材を形成することができ、本発明の経編地の伸長特性により人が座った際のクッション性を発現させる。クッション材はフレームと本発明の経編地のみで形成してもよいが、必要に応じて本発明の経編地の上に立体編物、硬綿、不織布等の他の繊維状クッション材やウレタン、表皮材等を積層した複合クッション材としてもよい。
【0011】
本発明の経編地は、少なくとも2枚筬以上からなる組織で構成される。そのうち少なくとも1枚筬以上は、ニットループ組織からなる地組織で構成される。ここでいうニットループ組織とは、トリコット編のように必ずニットループを形成する編組織をいう。破断強力と引裂き強力を向上させるためには、少なくとも1つの筬(以下、単に第1筬と記す)が鎖編か2針振り以下のトリコット編みでニットループを構成し、他の少なくとも1つの筬(以下、単に第2筬と記す)が2針以上10針以下の挿入編又は1針以上8針振り以下のトリコット編で構成されていることが好ましい。なお、本発明では1×1デンビ組織を1針振りトリコット編、1×2コード組織を2針振りトリコット編のように、1×n組織をn針振りトリコット編と表記する。
【0012】
破断強力と引裂き強力の抵抗力に加え、さらに編目の変形(組織変形)を抑え、伸長回復性の良好な編地とするために、第1筬は2針振り以内でニットループを構成することが好ましい。第1筬が3針振り以上または第2筬が1針以下か11針以上の挿入編又は9針以上の筬振りのトリコット編にすると製編性が劣り、製造が困難となる。また、これらの少なくとも2枚筬の地組織に後述する挿入糸を絡み合わせると、さらに十分な破断強力、引裂き強力および伸長回復性が得られるので好ましい。
【0013】
本発明の経編地は、上記2枚の筬から構成される地組織中に、低融点熱可塑性繊維を配して編成される事により、切れ糸が編始め方向に連続的に解れるラン発生が防止出来る。低融点熱可塑性繊維とは、地組織に配される他の繊維より融点が低ければ良く、融点が130℃以下であることが好ましい。この低融点熱可塑性繊維の編組織は特に限定されず、第1筬または第2筬にて編成されてもよく、別の筬で編成されても良い。第1筬の鎖編か2針振り以下のトリコット編と同組織であることが好ましく、より好ましくは2針振り以下のトリコット編成、更に好ましくは1針振りのトリコット編成である。地組織を編成する糸と低融点熱可塑性繊維を引き揃えて編成しても別筬にて編成しても良いが、第1筬の鎖編またはトリコット編と第2筬の挿入編またはトリコット編の間に、別筬にて編成する事が好ましい。これにより、切れ糸が編始め方向に連続的に解れるラン発生が効果的に防止出来る上に、低融点熱可塑性繊維が経編地の表面に現出し難くなるので好ましい。第1筬のニットループと第2筬の挿入編又はニットループの間に第3筬の低融点熱可塑性繊維が編成されることにより、低融点熱可塑性繊維は、第1筬と第2筬のニットループの中間に位置する様に編み込まれ且つ、第2筬のシンカーループを覆う編み込みとなる事により、第1筬の糸と第2筬の糸を強固に接合する事ができ、ニットループのランを効果的に抑制する事が出来る。
【0014】
すなわち、第1筬が前筬、第2筬が後ろ筬、第3筬が中間筬であることが好ましく、第1筬の鎖編かトリコット編と第2筬のトリコット編は伸び過ぎを抑え、伸長回復性を良好にする為異方向振りであることが好ましい。又、ランの発生を防止する性能を上げるために、更に別の筬(以下、単に第4筬と記す)で挿入糸を編み込むことが好ましい。このとき、第2筬のトリコット編と第4筬の挿入糸が同方向振りであるとランの抑止効果が向上するため好ましく、一方、タテ方向の伸び過ぎを抑えるためには異方向振りが好ましい。
【0015】
本発明の経編地を座席フレームに緊張状態または弛ませた状態で張設することにより、経編地が座席の座部や背部を形成する際の着座時の人体へのフィット感及び安定な座り心地を得る為には、編目の変形(組織変形)が少ない編組織とする必要があり、このためにタテ方向および/またはヨコ方向に挿入糸を編み込むことが好ましい。
【0016】
タテ方向に挿入糸を編み込む場合、トリコット編等の組織で編まれる地糸のニードルループとシンカーループの間に1コース当り3針振り以下の振り幅で挿入された状態、または経編地の長さ方向に連なる地糸のシンカーループの間を上下しながら挿入させた状態で、経編地の全長に渡り挿入糸を直線状かまたはジグザグに近い状態で挿入することが好ましい。ヨコ方向に挿入糸を編み込む場合は、トリコット編等の組織で編まれる地糸のニードルループとシンカーループの間に、経編地の全幅に渡るように挿入糸を直線に近い状態で挿入することが好ましい。
【0017】
挿入糸を編み込む方法は、タテ方向の挿入編組織であれば、編目の変形(組織変形)を抑えるために、地組織の多針振りトリコット編みのアンダーラップ方向に対して異方向に挿入することが好ましい。振り幅は、1コース当り3針以下とすることが好ましく、3針振りよりも2針振りまたは1針振りがより好ましい。またヨコ方向の挿入であれば、緯糸挿入装置を装備したラッセル編機を用いて緯糸挿入することができる。
【0018】
本発明の経編地は、張設状態で人の体重を支え、かつ、勢いよく膝をつく行為や、衝突時等の衝撃力が加わった際に十分抵抗できる強度を有することが好ましい。このためには、経編地のタテ方向、ヨコ方向ともに破断強力、引裂き強力が一定値以上であることが好ましい。具体的には、編地のタテ方向およびヨコ方向のいずれか小さいほうの破断強力が600N以上であり、引裂き強力が100N以上であることが好ましい。破断強力は、より好ましくは800N以上であり、さらに好ましくは1000N以上である。引裂き強力は、より好ましくは120N以上であり、さらに好ましくは150N以上である。
【0019】
地組織を構成する繊維の繊度は、破断強力と引裂き強力を向上させる点から、200〜1000dtexが好ましく、より好ましくは250〜700dtexである。地組織を構成する繊維の繊度が200dtex未満の場合は、破断強力および引裂き強力が低下する傾向であると共に、編目の変形(組織変形)が大きく、伸び過ぎて回復性が低下することがある。また、地組織が1枚筬以上のニットループ組織で構成されない場合も破断強力と引裂き強力が低下する。逆に、地組織を構成する繊維の繊度が2000dtexを超えると製編性に劣り、製造が困難となる。
【0020】
本発明の経編地の破断強力を600N以上、引裂き強力を100N以上とするには、好ましくは4cN/dtex以上、より好ましくは5cN/dtex、さらに好ましくは6cN/dtex以上の強度を有する繊維を少なくとも地組織の一部に用いて経編地を構成することが好ましい。
【0021】
経編地の地組織または挿入糸に用いられる繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエステル系エラストマー繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維、キュプラレーヨン、ビスコースレーヨン、リヨセル等の再生繊維その他、任意の繊維が挙げられる。繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定型なものでもよい。繊維の形態は、未加工糸、紡績糸、撚糸、仮撚加工糸、流体噴射加工糸等いずれのものを採用してもよい。但し、地組織の用いる糸については、出来るだけ編目を締めて編目の変形を抑える点から、原糸(未加工糸)を用いることが好ましく、さらに仕上げ加工時に出来るだけ編目を締める上で、160℃の乾熱収縮率が5〜20%であることが好ましく、より好ましくは、7〜16%である。前述したとおり、強度が4cN/dtex以上であることが好ましいため、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリアミド繊維が特に好ましい。
【0022】
なお、挿入糸に用いる繊維については、伸長回復性を向上させ、長期間、人が座った後の塑性を抑える上で、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、またはポリエーテルエステル系弾性糸等の弾性繊維を用いることが好ましい。さらに挿入糸は、人が座った際に局部的な落ち込みを防止し安定した着座感を得るための面剛性を付与する上で、300〜3000dtexのモノフィラメントが好ましい。なお、モノフィラメントが挿入糸として用いられる場合は、モノフィラメントがスリップして組織変形したり、着座後の塑性変形を防止するために、モノフィラメントが地組織に接着されていても良い。接着の方法は、モノフィラメント表面を低融点のポリマーで覆った鞘芯モノフィラメントを用い、編地を編成した後に、ヒートセット等で熱融着させる方法が好ましい。
【0023】
本発明の経編地にて編成される低融点熱可塑性繊維は、地組織を構成する他の繊維よりも融点が低ければ使用可能であるが、布帛の柔軟性の維持や工程管理上から、熱処理温度は低い方が良い為、低融点熱可塑性繊維としては融点が130℃以下の低融点ポリエステル繊維、ポリオレフィン系繊維、ナイロン繊維、低融点成分を繊維の一部に用いた分割型あるいは芯鞘型の複合繊維等が好適に用いられる。これら低融点熱可塑性繊維の混用率は目的とする製品性能や用いる熱処理温度等を考慮して適宜選定することが出来るが、特別な付加工程を用いず仕上乾熱セット処理を利用する場合は、融点が130℃以下、より好ましくは120℃以下の低融点熱可塑性繊維を5〜30%の範囲で交編する事がラン発生を防止するのに効果的である。
【0024】
該地組織に配される低融点熱可塑性繊維の繊度は、ラン防止性の点から50〜500dtexが好ましく、より好ましくは100〜250dtexである。低融点熱可塑性繊維の繊度が50dtex未満の場合は、地組織を構成する糸のニットループを融着固定する力が弱くなり解れやすくなる。500dtexを超えると、融着固定による風合い変化が大きく又、伸長回復性が低下する。地組織のニットループを構成する繊維の繊度と低融点熱可塑性繊維の繊度比率(低融点熱可塑性繊維の繊度/地組織のニットループを形成する筬に供給される繊維(低融点熱可塑性繊維を除く)のトータル繊度)は、0.10〜0.50が好ましく、より好ましくは0.20〜0.40である。
【0025】
本発明の経編地は布バネ性能に優れるので、本発明の経編地が配された座席は着座時の人体へのフィット感及び安定な座り心地を得ることができる。具体的には、本発明の経編地をフレームに張設して座席の座部および/または背部を形成する部分として好適に用いることができる。経編地をフレームに張設する状態は限定されるものでなく、経編地の周囲または少なくとも2辺を背部または座部のフレームに緊張状態または弛ませた状態で張ることにより、経編地が座部や背部を形成すればよい。フレームへの経編地の固定方法は任意の方法を用いることができる。例えば、特開2002−219985号公報に記載のように、編地末端部に断面略U字状で溝部を有するプレート部材を固着し、該プレート部材の溝部を適宜のフレーム材に係合する方法、経編地の端末部を溶着、縫製、樹脂加工等により処理した後、端部を押さえ部材等で押さえてボルト止め等でフレームに固定する方法、端部を折り返して縫製した空洞の中に金属棒を通し、金属棒をフレームに固定する方法等、任意の方法を用いることができる。なお、本発明の経編地をコイルスプリング、トーションバー等の金属ばねを介しフレームに固定する方法等を用いることにより、よりストローク感のあるクッション性が付与できる。
【0026】
本発明の経編地はラッシェル編機を用いて編成することが好ましく、編機のゲージは9ゲージから28ゲージまでが好ましく用いられる。
経編地の目付は、目的に応じて任意に設定できるが、好ましくは200〜1200g/m2、より好ましくは250〜800g/m2である。
【0027】
本発明の経編地は立体編地であってもよい。具体的には、本発明の経編地構成を表裏面の少なくとも一方の地編地に適用し、これを連結糸で連結した立体編物とすることができる。ダブルラッセル編成による立体編物とすることが好ましく、厚み方向のクッション性の向上及び振動吸収性等に優れる。
【0028】
本発明の経編地の仕上加工方法としては、生機を精練、染色、ヒートセット等の工程を通して仕上げることができるが、精練や染色工程を省いて生機をヒートセットのみで仕上げることもできる。このヒートセット時に、低融点熱可塑性繊維は地組織と熱融着により一体化される。また仕上セット時には本発明の目的を損なわなければ、通常の繊維加工に用いられている樹脂加工、吸水加工、制電加工、抗菌加工、難燃加工などの仕上加工を適用できる。仕上セットで用いる熱処理機としては、ピンテンター、クリップテンター、ショートループドライヤー、シュリンクサーファアードライヤー、ドラムドライヤー、連続およびバッチ式タンブラー等がしようできる。仕上加工後の経編地は、融着、縫製、樹脂加工等の手段で端部を処理したり、熱成型等により所望の形状に加工して、張設タイプの座席等に用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本説明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、例中の各特性の測定および評価は下記の方法で行った。
(1)張設圧縮引裂き量
厚み5mm、40cm角の金属板の土台の4隅に高さ15cmの等辺山形鋼の足を溶接し、さらに足の上に、厚み5mm、長さ40cm、幅5.5cmの2枚の金属板を、土台の向かい合う2辺と平行に溶接して、2辺の経編地固定部を持つ張設用フレームを作成する。この2辺の経編地固定部の上面に40番のサンドペーパーを両面テープで貼り付けて滑り止めを付与する。一方、厚み5mm、長さ40cm、幅5.5cmの2枚の金属板のそれぞれの下面に40番のサンドペーパーを両面テープで貼り付けて滑り止めを付与した経編地押さえ材を作製する。
【0030】
編地を40cm角にカットし、中央部にバイヤス(45度)方向に長さ25.4mmの傷を入れた試料を3枚準備する。
2辺の経編地固定部と押さえ材との間に、編地試料を弛まないように挟み、計6箇所を万力で固定して張設する。
【0031】
島津オートグラフAG−B型(島津製作所製)を用い、直径100mmの金属製の半球状圧縮冶具により、張設した編地試料の中央部(25.4mmの傷の部分)を50mm/分の速度で圧縮し、始めに900Nの荷重を掛け測定し、その後除重した後、編地試料を金属枠から取り外し傷の大きさの変化(最大裂けた長さまたは大きさの増加量)を測定する。測定は3回行い平均値を求めた。その後、2225Nの荷重で同じように測定する。
【0032】
(2)ラン発生の長さ
上記(1)の測定を行った後、傷の部分より編目方向(タテ、ヨコ、ナナメ方向)にランが走ったか否か観察した。ランが走った場合、最長方向の長さを測定する。
(3)破断強力の測定
島津社製オートグラフ引張試験機を使用し、長さ200mm、幅40mmの試料を、引張速度50mm/minで把持間隔100mmにて測定し、その時得られた最高の破断強力を測定値とする。
【0033】
(4)引裂き強力の測定
JIS L1096 8.15.1 A−1法(シングルタング法)に準じて測定した。
島津社製オートグラフ引張試験機を使用し、長さ250mm、幅50mmの試験片を用意し、短辺の中央に辺と直角に100mmの切れ目を入れた後、各舌片を上下のクランプと直角に挟む。試験片のつかみ間距離は100mmとする。引張速度200mm/minで試験片を引裂き、その時得られた最高の引裂き強力を測定値とする。
【0034】
(5)座席の性能評価
座部が幅520mm、奥行き470mm、高さ320mmの口型金属パイプ材からなる座席フレーム(背もたれなし)を作製する。幅500mm(緯方向)×長さ570mm(経方向)の編地の長さ方向の両端2辺の全幅にポリブチレンテレフタレート樹脂製の略U字型プレートを縫製で取り付ける。編地に取り付けた一方の略U字型プレートを、座席フレーム前縁下に取り付けた金属製略U字型のプレートとかみ合わせ、編地の幅全体に10kgの荷重をかけて張力を付与した状態で、座席フレームの前後に編地を張り、座席フレームの後縁下の金属製略U字型プレートと編地の樹脂製略U字状プレートとをかみ合わせて編地を張設する。10kgの荷重により金属製略U字プレートと樹脂製略U字プレートの位置がずれる場合は、金属製略U字型プレートと樹脂製略U字型プレートのボルト止めした位置をずらせて調節する。
【0035】
編地が張設された座席の上に、体重65kgの男性が、編地の長さ方向に膝の向きを合わせて10分間座った後、退席する。
着座時の座り心地の評価として、編地の柔軟性とフィット性を、以下の4段階で官能評価する。
◎;適度な柔軟性でフィット性に優れる。
○;柔軟性がやや高めか或いはやや硬めでフィット性に優れる。
△;柔軟性がかなり高いか、或いはかなり硬めでフィット性に劣る。
×;柔軟性すぎて、或いは硬すぎてフィット性に劣る。
【0036】
また着座時の違和感(尻の割れ目に編地が盛り上がって異物上に座ったような感覚)を以下の4段階で官能評価する。
◎;違和感が全くない。
○;違和感が殆どない。
△;違和感がややある。
×;違和感が激しい。
【0037】
また着座時の安定感を、以下の4段階で官能評価する。
◎;適度な面剛性で安定感に優れる。
○;面剛性がやや高めで安定感がある。
△;面剛性がやや低く安定感が劣る。
×;面剛性が低く安定感に劣る。
【0038】
さらに、退席後の編地の回復状態を目視評価し、以下の4段階で官能評価する。
◎;完全に元通りに回復している。
○;ほぼ元通りに回復している。
△;ややくぼみ(変形)が残る。
×;大きくくぼみが残る。
【0039】
[実施例1]
4枚筬を装備した14ゲージのシングルラッセル編機を用い、地組織を形成する筬(L1、L3)から560dtex/96フィラメント、乾熱収縮率12.9%のポリエチレンテレフタレート繊維の原糸をオールインの糸配列で供給し、地組織を形成する筬(L1とL3)の間の筬(L2)から190dtex/20フィラメントのポリプロピレン繊維の原糸(融点130℃)をオールインの糸配列で供給し、挿入糸用の筬(L4)から660dtexのポリエチレンテレフタレート繊維のモノフィラメントをオールインの糸配列で供給した。
以下に示す編組織で、機上コース13.98c/2.54cmの密度で生機を編成した。得られた生機を有り幅で180℃×3分で乾熱ヒートセットし、経編地を得た。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
(編組織)
L1:10/01//(オールイン)
L2:10/12//(オールイン)
L3:10/56//(オールイン)
L4:22/00//(オールイン)
L1が本発明の第1筬による鎖編、L3が第2筬による5針振りトリコット編(1×5サテン編成)、L2が第3筬による低融点熱可塑性繊維による編成(第1、第2筬と同方向振りの1針振りトリコット編(1×1デンビ編成))、L4が第4筬による挿入編成(第1、第2、第3筬と異方向振り)に相当する。
本例における、地組織のニットループを構成する繊維の繊度と低融点熱可塑性繊維の繊度比率(低融点熱可塑性繊維の繊度/地組織のニットループを形成する筬に供給される繊維(低融点熱可塑性繊維を除く)のトータル繊度)は190/(560×2)=0.17となる。
得られた経編地は、強い破断強力と切れ糸がランし難い高い引裂き強力を有し、適度な柔軟性でフィット感に優れ、臀部の違和感が全く無く、安定感に優れた座り心地が得られるものであった。また、退席後完全に元通りに回復する回復性を示した。
【0040】
[実施例2]
実施例1において、地組織を編成するL3の編組織を下記の如く変更した以外は、実施例1と同様にして経編地を得た。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
得られた経編地は、強い破断強力と切れ糸がランし難い高い引裂き強力を有し、適度な柔軟性でフィット感に優れ、臀部の違和感が全く無く、安定感のある座り心地が得られるものであった。また、退席後ほぼ元通りに回復する回復性を示した。
(編組織)
L3:77/00//(オールイン)
【0041】
[実施例3]
実施例1と同様のシングルラッセル編機を用い、地組織を編成する筬(L1、L3)から280dtex/48フィラメント、乾熱収縮率10.9%のポリエチレンテレフタレート繊維の原糸をオールインの糸配列で供給し、地組織を形成する筬(L1とL3)の間の筬(L2)から190dtex/20フィラメントのポリプロピレン繊維の原糸(融点130℃)をオールインの糸配列で供給し、挿入糸用の筬(L4)から330dtexのポリエチレンテレフタレート繊維のモノフィラメントをオールインの糸配列で供給した。
以下に示す編組織で、機上コース14.98c/2.54cmの密度で生機を編成した。得られた生機を有り幅で180℃×3分で乾熱ヒートセットし、経編地を得た。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
(編組織)
L1:10/23//(オールイン)
L2:10/12//(オールイン)
L3:10/56//(オールイン)
L4:22/00//(オールイン)
得られた経編地は、強い破断強力と切れ糸がランし難い高い引裂き強力を有し、適度な柔軟性でフィット感に優れ、臀部の違和感が全く無く、安定感にある座り心地が得られるものであった。また、退席後ほぼ元通りに回復する回復性を示した。
【0042】
[実施例4]
緯糸挿入機を装備した14ゲージのシングルラッセル編機を用い、地組織を形成する筬(L1、L3)から560dtex/96フィラメント、乾熱収縮率10.6%のポリエチレンテレフタレート繊維の原糸をオールインの糸配列で供給し、地組織を形成する筬の間の筬(L2)から190dtex/20フィラメントのポリプロピレン繊維の原糸(融点130℃)をオールインの糸配列で供給し、ポリエーテル系エステルを芯成分ポリマーとし、その芯成分ポリマーよりも低融点の熱融着性ポリマーを鞘成分ポリマーとする熱融着性芯鞘複合ポリエーテル系エステル弾性糸条(繊度1060dtex、東洋紡績株式会社製品名:ダイヤフローラ)を毎コースに緯糸挿入し、以下に示す編組織で、機上コース13.2c/2.54cmの密度で生機を編成した。得られた生機を有り幅で170℃×3分で乾熱ヒートセットし、経編地を得た。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
【0043】
(編組織)
L1:10/01//(オールイン)
L2:10/12//(オールイン)
L3:10/56//(オールイン)
得られた経編地は、強い破断強力と切れ糸がランし難い高い引裂き強力を有し、適度な柔軟性でフィット感に優れ、臀部の違和感が殆ど無く、安定感に優れた座り心地が得られるものであった。また、退席後ほぼ元通りに回復する回復性を示した。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
得られた経編地は、強い破断強力と高い引裂き強力を有し、適度な柔軟性でフィット感に優れ、臀部の違和感が全く無く、安定感に優れた座り心地が得られるものであった。また、完全に元通りに回復する回復性を示した。
【0044】
[実施例5]
ダブルラッセル編機を用いて、表面の地編地を構成する筬(L1、L2)及び連結糸の筬(L3)に167dtex/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸を供給し、裏面の地編地を構成する筬(L4〜L7)は実施例1と同等の編成方法にて立体編地を得た。経編地の諸物性を表1に示す。
(編組織)
L1:0111/2111//(オールイン)
L2:1211/1011//(オールイン)
L3:3410/4367//(オールイン)
L4:1110/0001//(オールイン)
L5:2210/0012//(オールイン)
L6:6610/0056//(オールイン)
L7:2222/0000//(オールイン)
裏面の地組織については、L4が本発明の第1筬による鎖編、L6が第2筬による5針振りトリコット編(1×5サテン編成)、L5が第3筬による低融点熱可塑性繊維による編成(第1、第2筬と同方向振りの1針振りトリコット編(1×1デンビ編成))、L7が第4筬による挿入編成(第1、第2、第3筬と異方向振り)に相当する。
得られた経編地は、強い破断強力と切れ糸がランし難い高い引裂き強力を有し、適度な柔軟性でフィット感に優れ、臀部の違和感が全く無く、安定感に優れた座り心地が得られるものであった。また、退席後完全に元通りに回復する回復性を示した。
【0045】
[実施例6]
実施例1と同様のシングルラッセル編機を用い、地組織を編成する筬(L1、L3)から280dtex/48フィラメント、乾熱収縮率10.9%のポリエチレンテレフタレート繊維の原糸をオールインの糸配列で供給し、地組織を形成する筬(L1とL3)の間の筬(L2)から340dtex/45フィラメントのポリプロピレン繊維の原糸(融点130℃)をオールインの糸配列で供給し、挿入糸用の筬(L4)から330dtexのポリエチレンテレフタレート繊維のモノフィラメントをオールインの糸配列で供給した。
以下に示す編組織で、機上コース14.98c/2.54cmの密度で生機を編成した。得られた生機を有り幅で180℃×3分で乾熱ヒートセットし、経編地を得た。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
(編組織)
L1:10/01//(オールイン)
L2:10/12//(オールイン)
L3:10/56//(オールイン)
L4:22/00//(オールイン)
得られた経編地は、強い破断強力と切れ糸がランし難い高い引裂き強力を有し、適度な柔軟性でフィット感に優れ、臀部の違和感が全く無く、安定感に優れた座り心地が得られるものであった。退席後の回復性が僅かに劣るが実用上問題ない。
【0046】
[実施例7]
実施例1において、地組織を形成する筬(L1とL3)の間の筬(L2)から60dtex/6フィラメントのポリプロピレン繊維の原糸(融点130℃)をオールインの糸配列で供給した以外は、実施例1と同様にした経編地を得た。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
得られた経編地は、張設圧縮引裂き量が僅かに増加し、ランが発生したが実用上問題なく、強い破断強力と高い引裂き強力を有し、適度な柔軟性でフィット感に優れ、臀部の違和感が全く無く、安定感に優れた座り心地が得られるものであった。また、退席後完全に元通りに回復する回復性を示した。
【0047】
[比較例1]
実施例1において、地組織を形成する筬(L1、L3)の編組織を下記の如く変更した以外は、実施例1と同様にした経編地を得ようとしたが、編み立て性が悪く、糸切れが多発して生地は得られなかった。
(編組織)
L1:10/34//(オールイン)
L3:10/56//(オールイン)
【0048】
[比較例2]
実施例1において、地組織を編成するL3の編組織を下記の如く変更した以外は、実施例1と同様にした経編地を得ようとしたが、編み立て性が悪く、糸切れが多発して生地は得られなかった。
(編組織)
L1:11 11/00//(オールイン)
【0049】
[比較例3]
実施例1において、地組織を編成する筬(L1、L3)から280dtex/48フィラメント、乾熱収縮率10.9%のポリエチレンテレフタレート繊維の原糸をオールインの糸配列で供給し、地組織を形成する筬(L1とL3)の間の筬(L2)にポリプロピレン繊維を使用しない以外は、実施例1と同様にした経編地を得た。得られた経編地の諸物性を表1に示す。
得られた経編地は、面剛性が無く安定感に劣るとともに、着座後の回復性の悪いものであった。編み終り方向からのランが発生した。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の経編地は布バネ性能を有し、特に車両用座席に用いた場合、強い破断強力と切れ糸がランし難く高い引裂き強力を示し、刃物等や、タバコの火等による損傷が少なく、安定感のある座り心地を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地組織が少なくとも2枚筬以上で構成され、少なくとも1つの筬(第一筬)が鎖編または2針振り以下のトリコット編で構成され、他の少なくとも1つの筬(第二筬)が2針以上10針以下の挿入編または1針以上8針振り以下のトリコット編で構成され、低融点熱可塑性繊維が第1筬又は第2筬又は別の筬にて編成され、該地組織に配された該低融点熱可塑性繊維が該地組織と熱融着により一体化されてなることを特徴とする経編地。
【請求項2】
第二筬が1針以上8針振り以下のトリコット編で構成され、該トリコット編に対して同方向または異方向に経糸が挿入されていることを特徴とする請求項1に記載の経編地。
【請求項3】
タテ方向及びヨコ方向のいずれか小さい方の破断強力が600N以上であり、引裂き強力が100N以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の経編地。
【請求項4】
表裏二層の編地と該二層の編地を連結する連結糸を有する立体編地であって、表裏のどちらかの面の地組織が請求項1〜3のいずれかに記載の経編地であることを特徴とする立体構造経編地。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の経編地が配されてなることを特徴とする座席。

【公開番号】特開2012−17539(P2012−17539A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156005(P2010−156005)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】