説明

経肺経路を介するタンパク質送達のための組成物

【課題】経肺経路を介して患者に正確な量の薬剤化合物を効率的かつ着実に送達する装置および/または確実な方法および調合物を提供する。
【解決手段】治療薬、表面張力調節剤、および湿潤剤と粘度調節剤との両方を含む成分を含む、熱による小滴吐出装置に使用するための新規の調合物を開示する。この調合物は、経肺送達を介する治療薬の制御された、かつ確実な投薬を維持するために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸入を介して薬剤化合物を送達するための組成物および調合物に関し、詳細には、タンパク質および治療薬を送達するための調合物に関する。
【背景技術】
【0002】
本願は、2001年5月21日に出願され、その全体を本願明細書に援用する米国仮出願第60/292,783号の優先権の特典を主張する。
本発明の背景についての以下の説明は、本発明の理解を助けるために提供されるものであり、本発明の従来技術と認めるものではない。
【0003】
経肺薬物送達は、痛みを伴う可能性のある静脈内(IV)注射に代わる、魅力的で非侵襲的な代替法である。経肺薬物送達は、経口送達が選択できない場合(腸内の酵素および酸加水分解によって容易に分解されるタンパク質やペプチドの場合がしばしばこれに当てはまる)に、特に有用である。物質が吸入されると、肺内で肺胞を介して血流に素早く直接的に入る可能性が高いが、実際には、経肺薬物送達の効率は、少なくとも2つの要因、すなわち装置およびその使用者によって変わる。
【0004】
現在市販されている多くの治療用タンパク質は、今のところ注射によって送達されている。例えば、インシュリンおよびインシュリン誘導体、エリスロポエチン(EPO)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、ならびにヒト成長ホルモン(hGH)はすべて、基本的にタンパク質であり、現在、注射を介して投与されている。一般に、どんな薬剤化合物も(特に現在、反復注射によって投与されているものは)、経肺経路を介する送達の潜在的候補であり、本発明で開示される利点から利益を受ける可能性がある。
【0005】
現在、肺への薬剤の送達に使用されている3つの主要なタイプの装置が存在するが、各タイプのこうした吸入装置は、特に正確な投与に関して、ある種の明白な問題を有している。
【0006】
装置の1つのタイプは、定量噴霧式吸入器(metered dose inhaler)(「MDI」)である。MDIは、吸入の際に患者の口に化合物または薬剤の噴出物を送達するために、加圧ガスまたは噴射剤を使用する。MDIは、操作すると一定体積のエアロゾルを放出するバルブを備えた加圧エアロゾル容器内に、噴射剤と共に入れられた薬物を含む。こうした装置は、小さく、携帯できるが、噴射剤の蒸気圧が変化すると、望ましくないことに、その送達される用量について、量、送達速度、および小滴(droplet)のサイズ分布が変化する可能性がある。
【0007】
第2のタイプの装置は、ドライパウダー吸入器(「DPI」)である。DPIは、ある用量のパウダーを気管支内に挿入するために、急速な吸気を使用する。吸入の力が人によって異なるので、投与される用量は人によって異なる。
【0008】
第3の装置タイプは、ネブライザである。ネブライザは、圧縮ガスから液体を微粒化することによってエアロゾルを発生する。すなわちネブライザは、薬剤化合物を含有するエアロゾル雲(aerosol cloud)を送達する。ネブライザを用いて、MDI装置と同様、定量を送達するバルブによって投与量を調節することが可能である。機械式バルブ作動装置を、患者の吸入により作動させることが可能である。しかし、こうした装置によって提供される用量は、容器に残っているエアロゾルの蒸気圧や、バルブ作動の持続時間に伴って変化する。
【0009】
一般に、上述の装置の精度が不十分であることから、広い投与量に忍容性をもつ薬剤化合物に対するこれらの装置の使用は制限される。
こうした問題に対処するために、抵抗式作動装置(resistive actuator)技術を利用する新しいタイプの吸入器が開発されている。この装置は、米国特許第5,894,841号に記載されており、その全体を本願明細書に援用する。こうした吸入装置は、吸入者の気道に正確な量の薬剤化合物または調合物などの活性な物質を吐出して、使用者の吸気の流れにのせることが可能である。こうした作動装置は電子式であるので、マイクロコントローラまたはマイクロプロセッサによって制御可能である。これにより、吸入器の性能を大いに高める多くの高度な機能の実現が可能になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、経肺経路を介して患者に正確な量の薬剤化合物を効率的かつ着実に送達する装置および/または確実な方法および調合物が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態は、治療薬、表面張力調節剤、ならびに湿潤剤および粘度調節剤を含む成分からなる液体薬剤組成物を含む。
本発明の別の実施形態は、患者に治療用タンパク質を経肺送達するための装置であって、治療用タンパク質、表面張力調節剤、および湿潤剤からなる液体薬剤組成物を含有する供給容器に流体が流れるように連通(流体連通)したコンピュータ制御の電子式エアロゾル発生システムを備えた装置を含む。
【0012】
本発明の別の実施形態は、患者に治療用タンパク質を経肺送達するための装置を作製する方法であって、治療用タンパク質、表面張力調節剤、および湿潤剤からなる液体薬剤組成物を含有する供給容器に、コンピュータ制御の電子式エアロゾル発生装置を流体連通することからなる方法を含む。
【0013】
本明細書で述べる本発明の実施形態では、治療薬として、タンパク質であるインシュリン、卵胞刺激ホルモン(FSH)、およびヒト成長ホルモン(hGH)を使用する。他の適切なタンパク質性の成長ホルモンには、ヒト顆粒球コロニー刺激因子(G‐CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM‐CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M‐CSF)、コロニー刺激因子(CSF)、および黄体形成ホルモン(LH)が含まれる。
【0014】
本発明の実施形態に従って使用される他の適切な治療用タンパク質には、造血成長因子、インターロイキン、インターフェロン、細胞接着タンパク質、血管形成タンパク質、血液凝固タンパク質、血栓溶解性タンパク質、骨形成タンパク質、グルカゴンおよびグルカゴン様タンパク質、ホルモン、受容体、抗体、ならびに酵素が含まれる。
【0015】
本発明の一実施形態は、(1)コゲーション(kogation)および痂皮化(crusting)、(2)流体の流れ、小滴サイズ、および小滴形成、ならびに(3)調合物のエアロゾル化前、中、後における治療関連のタンパク質濃度の維持およびタンパク質の完全性の維持、を最適化することによって、加熱式小滴吐出装置の性能を向上させる。
【0016】
好都合なことに、本発明の一実施形態は、小滴吐出装置で使用される小滴の均一なサイズおよび組成を提供する。
本発明、および本発明の様々な実施形態の実施のさらなる特徴および利点を、添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態による、エアロゾル化の前後におけるヒト成長ホルモン調合物のバイオアッセイの比較の図。
【図2】本発明の一実施形態による、最初のエアロゾル化の前(上のグラフ)、後(中間のグラフ)、および繰り返しエアロゾル化した後(下のグラフ)のインシュリンの逆相HPLC分析の図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を、その詳細な実施形態を用いて説明し、図面を参考として援用する。
以後の説明に便宜を図るために、以下の用語の説明を採用する。しかし、これらの説明は、例示的なものに過ぎない。これらは、本明細書全体にわたって記述または言及される用語を限定するものではない。むしろ、これらの説明には、本明細書および特許請求の範囲に記述される用語の任意の追加の態様および/または例を含めることを意図する。
【0019】
用語「薬剤化合物」または「治療薬」は、治療的、予防的、または診断的効果を提供する任意の分子または分子の混合物を意味すると解釈するものとする。
用語「ペプチド」と「タンパク質」とは、互換性があり、本明細書で述べるものは、オリゴペプチド、タンパク質および組換えタンパク質ならびにそれらの複合体、特に治療または診断への使用可能性があると確認されたものを意味する。非タンパク質性の治療用化合物に結合した天然に存在しないタンパク質およびペプチドも、こうした用語の範囲内である。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、加熱式小滴吐出装置は、一連の流体チャンバに流体連通した物質供給容器からなり、各チャンバは抵抗器を備え、各抵抗器はノズルの後方に位置している。各ノズルは、対応する抵抗器が電気パルスによって通電されると、チャンバから1つまたは複数の小滴を吐出する。抵抗器に接触した液体は瞬く間に気化し、気泡を形成する。蒸気の気泡は、急速に大きくなり、気泡の上の液体に推進力を与え、この液体の一部が隣接するノズルから小滴として吐出される。吐出された液体の体積は、毛細管作用によって、または折り畳み式の袋(collapsible bladder)にかかる気圧によって、またはピストンなどによって、容器から流体チャンバ中に自動的に置き換わる。圧電装置は、この装置内で吐出手段として働く圧電セラミックスチャネルに電圧パルスを印加することによって生じる流体中の圧力波によって、小滴を発生させる。加熱式装置では、小滴はノズルを通して吐出される。流体は、1つまたは複数の小滴の形で吐出されるが、その速度は印加されたパルスが持つエネルギーに依存する。
【0021】
インクジェット式印刷装置などの最近の印刷方法では、抵抗器からの熱エネルギーを使用してタンクの底でインクの薄層を気化し、噴き出し口近くで膨張を続ける蒸気相の気泡を形成させることも可能である。この蒸気の気泡は、時としてドライバ(駆動力)と呼ばれ、インクをノズルに通過させ、紙に向かって吐出させる。加熱式インクジェットカートリッジは、10キロヘルツ超の周波数で小滴を発射するように設定されており、抵抗器、インクタンク、およびノズルの配置により、間隔の狭い複雑なパターンを何百回も繰り返すことが可能であり、より優れた印刷効率を提供することが可能である。
【0022】
小滴吐出装置とインクジェット式印刷装置は、いくつかの点で異なる。例えば、印刷装置内のノズル配置が、紙面に小滴を付着させるように設計されているのに対し、吸入装置は、患者の少なくとも片方の肺の奥に調合物を含有する小滴を沈着するように設計されている。一般に、吸入装置に使用するための小滴吐出装置は、印刷に使用されるものに比べてより小さく、かつ/またはより多数のノズル、抵抗器、および流体チャンバを備えることが可能である。さらに、ノズルを、その軸を平行にして矩形マトリクス状に配置(印刷
用のインクジェットの場合はしばしばそうなっている)する必要がない。小滴吐出ノズルは、例えば、円形に配置することが可能であり、かつ/または互いの軸に対して収束または発散する角度にすることが可能である。
【0023】
ある場合には、印刷用のインクジェットで有用であるよりもさらに小さな小滴を吐出することが望ましいので、必要とされる、より小さな小滴を生じるために、ノズル、抵抗器、およびチャンバの構造は、インクジェット式印刷に使用されるものと、サイズおよび構造が異なる可能性がある。さらに、装置から噴霧される活性物質の粒径を、小滴吐出に使用されるノズルを選択することによってプログラム的に(programmatically)調節可能なように、小滴吐出ノズルの直径が異なってもよく、粒径は時間間隔によって変えることができる。
【0024】
エアロゾルは、装置を通して使用者によって吸い込まれる空気などの気体媒体中の固体または液体の小滴の浮遊粒子である。薬物を、本発明の一実施形態に従って、インク噴き出し口から吐出されたエアロゾル化した溶液として提供することにより、吸入可能な小さな小滴の霧が生じ、その後、吸入された小滴が肺の肺胞に沈着される。したがって、小滴の組成のためには、供給容器中の溶液の組成を維持することが有用である。こうすることで、調合物成分、例えば溶媒が、複数回使用の間に、吐出された小滴と、装置中に残った溶液との間に不均一に分配されることが予防される。このような分配により、吐出された物質と、装置中に残った物質との間で、例えば実質的な溶質の濃縮(最終的には沈殿およびコゲーション)、あるいは1種または複数の薬物の枯渇が引き起こされる可能性がある。こうした望ましくない分配により、実際の用量が意図される用量から変化することによって、用量が影響を受ける可能性がある。
【0025】
投薬量に影響する別の要因は、小滴のサイズである。小滴のサイズもまた、エアロゾル化された薬物の組成によって、また、これらの成分がインクジェット式気泡送達の条件下でどのような挙動を示すかによって影響を受ける。こうした調合物の組成は、本開示の論題である。
【0026】
小滴吐出装置は、物質を、ある種の物理的な力、例えば熱、剪断力、および表面張力にかける。これらの力は、調合物中の、より感受性の高い成分に影響を及ぼす可能性があるが、それは、例えば該成分が正確かつ制御された投与方法に影響する原因となることによる。タンパク質は、不安定であり、温度の上昇に伴って変形および変性する可能性がある。抵抗器によって発生した熱は、ある程度、液体および吐出される小滴に移動する。効率的に放散されない局所的な加熱は、全ての調合物中の感受性の高い成分に有害な影響を与える可能性がある。したがって、本発明の一実施形態で行われるように、こうした作用を考慮し、かつ最小限にすることが有用である。
【0027】
本発明の一実施形態で使用される通り、表面張力および粘性剤は、装置の流路を通過する液体を流れやすくする。表面張力および粘性は、吐出された液体ボーラスがノズルから放出された後に均一なサイズの小滴に融合するのを補助することによって、正確なサイズの小滴の確実な形成に影響を与える。正確な小滴サイズは、特に、あらかじめ定められた数の小滴を送達する吸入器について、正確かつ制御された投薬レベルに影響する。
【0028】
液体の表面の分子は、内部の分子の強い引力を受ける。その結果生じる力(その方向はある特定の点において表面に対して正接な平面にある)は、可能な限り小さな液体表面を作るように働く。この力の大きさは表面張力と呼ばれ、単位長さあたりの力の単位で表される(表面張力は、ダイン/センチメートルで表される)。本発明の一実施形態では、80μN(8ダイン)/cm〜750μN(75ダイン)/cmの範囲の表面張力が使用される。別例として、表面張力は100μN(10ダイン)/cm〜500μN(50ダイ
ン)/cmである。さらに別例として、表面張力は250μN(25ダイン)/cm〜500μN(50ダイン)/cmの間である。さらに別例として、表面張力は250μN(25ダイン)/cm〜350μN(35ダイン)/cmの間である。さらに別例として、調合物の表面張力は、必要とされるどんな値にも調整可能である。
【0029】
表面張力は、小滴のサイズに影響を与える要因であり、界面活性剤などの表面張力調節剤の導入によって調節することが可能である。本発明の一実施形態では、電荷をもつ界面活性剤または非イオン性の界面活性剤が使用される。特定の調合物に使用される界面活性剤の量は、界面活性剤の性質、特にその分子量によって変わる。本発明の一実施形態によれば、表面張力調節剤が組成物の0.01%〜3%w/vである液体組成物が使用される。別例として、表面張力調節剤は組成物の0.05%〜0.15%w/vである。別例として、表面張力調節剤は、必要とされる組成物のいかなるw/vにも調整可能である。
【0030】
粘度(粘性)は、ある種の内部摩擦であり、形状の変化に対する液体の耐性の尺度である。粘度の影響は、本発明における液体調合物が、動く時にその形を変える場合に(調合物が、ノズルを強制的に通過させられる場合などに)表れる。こうした粘度の影響は、ポリエチレングリコール、アルコールなどの薬剤によって調節することが可能である。粘度は、温度依存性であり、センチポアズ(cp)という単位で表すことが可能である。本発明の一実施形態では、粘度が25℃で1cp〜10cpの範囲である調合物が使用される。別例として、粘度調節剤の量は必要に応じて調整可能である。
【0031】
動粘性率は、流体の粘度をその密度で割ったものとして定義される、粘度の代替表現である。本発明の液体調合物の密度は、0.7g/mL〜2.2g/mLの範囲である。別例として、密度は0.5g/mL〜3.0g/mLの範囲である。さらに別例として、密度は必要に応じて変更可能である。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、すべての認識可能な態様において、装置から発せられるエアロゾルの組成が装置内に満たされた調合物と同一であることを確実にすることが有用である。例えば、成分の濃度および/または生理活性の変化を調節可能な方式で起こすことを確実にすることが有用である。
【0033】
エアロゾルが吐出されるタンクは小さいので、調合物の総体積も小さい。ドライバを気化する作用により、時間の経過につれて、抵抗器の表面に堆積物の蓄積(すなわちコゲーションとして知られる作用)が残る可能性がある。コゲーションはまた、噴き出し口を詰まらせる傾向があり、時には噴き出し口の機能を失わせ、時には抵抗器の表面からエアロゾルへと追い出された粒子が噴き出し口から不均一に送達される原因となる。湿潤剤(親水性の薬剤)の添加により、コゲーションの影響は弱まる。
【0034】
本発明の一実施形態では、ポリエチレングリコール(PEG)およびシクロデキストリンなどの湿潤剤が使用される。より高分子量のPEGを使用する調合物ほど粘度が高いので、別の実施形態では、湿潤剤は粘度調節剤も含む。600〜8000ダルトンの範囲の分子量のPEGを使用することが可能である。別例として、他の市販のPEGまたは関連分子が、湿潤剤として使用される。
【0035】
良好な添加物は、薬剤成分に対してほとんど不活性である、例えば、タンパク質の三次構造を変化させうる共有結合を形成せずにタンパク質と非特異的に相互作用するだけである。一方、タンパク質の三次構造の安定性は、水素結合の数、および電荷をもつ基の間のイオン性の相互作用と相関することが知られている。したがって、このような理由で、塩として湿潤剤を添加すると、タンパク質の安定性の低下を招く可能性がある。非イオン性の湿潤剤は、イオン性の湿潤剤とは異なる効果を及ぼす。有機溶媒の添加は水素結合を促
進し、したがってタンパク質の三次構造を安定化すると考えられるが、こうした溶媒はタンパク質の不溶性をもたらす可能性があり、したがって、均一に調合物を送達するという目的が達成されない。
【0036】
したがって、タンパク質性の薬物の送達または加熱式小滴吐出による薬物投与に適した調合物の開発にとって、以下の問題点のうち1つまたは複数を解決する本発明の一実施形態は有益である:(1)コゲーションおよび痂皮化、(2)流体の流れ、および小滴形成、ならびに(3)上記に記載のタンパク質の保護。さらに、この実施形態は、特定のタンパク質または薬剤に適合した調合物を提供する。
【0037】
したがって、本発明の一実施形態は、治療薬、表面張力調節剤、ならびに湿潤剤と粘度調節剤とを含む成分からなる液体薬剤組成物を含む。
【実施例】
【0038】
本発明の実施形態の例は、以下の実施例で例示される。これらの実施例は、単に例示目的のために過ぎず、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。
溶液の表面張力は、ひずみゲージ張力計(strain gauge tensiometer)を用いて、純水を基準として推定した。TWEEN(登録商標)20(アイシーアイアメリカズインコーポレイテッド社(ICI Americas Inc.))(モノラウリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン)、TWEEN(登録商標)80(モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン)、セトリミド(アルキルトリメチルアンモニウムブロミド)、およびBRIJ(登録商標)35(アイシーアイアメリカズインコーポレイテッド社(ICI Americas Inc.))(ポリオキソエチレン(23)ラウリルエーテル)などの市販の界面活性剤を使用した。試験されたものと同類の他の界面活性剤も、界面活性剤の候補である。
【0039】
試験タンパク質に特異的な細胞に導入された受容体を有する遺伝子導入細胞のバイオアッセイを用いてタンパク質を試験した。こうしたバイオアッセイは、タンパク質の機能的有効性を示すのに適当であった。この分子の一次構造または三次構造を示すために、分子の分析を実施した。使用された分析法には、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、質量分析法、等電点電気泳動、およびイムノアッセイがあった。
【0040】
調合物は、コゲーションを起こさず、タンパク質の生理活性および分子構造は、調合物のエアロゾル化および凝縮されたエアロゾルの回収のプロセスによって影響を受けないことが明らかになった。各タンパク質を、エアロゾルの霧が必要量の治療薬を含有するように、臨床的意義をもつべく算出された濃度で配合した。インクジェットカートリッジに満たされ、このカートリッジから発射されるタンパク質調合物に、湿潤剤を加えた。
【0041】
湿潤剤および界面活性剤の濃度は、装置から吐出される用量が、繰り返し発射しても減少せず、吐出されるエアロゾル雲が不変であるように選択した。
走査電子顕微鏡(Scanning Electon Microscopy)によって抵抗器表面およびノズルを検査し、表面の清潔度に続いて湿潤剤および界面活性剤の有効性を確かめた。湿潤剤および界面活性剤の濃度が適切であった場合、装置からエアロゾルを収集し、分析し、エアロゾル化前の溶液と比較した。
【0042】
試験を通して、装置から発せられるエアロゾルの組成が、すべての認識可能な態様において、装置に満たされた調合物と同じであることを確実にすることが有用であった。例えば、成分の濃度および/または生理活性の変化を調節可能な方式で起こすことを確実にすることが有用であった。
(実施例1)
ヒト成長ホルモン(hGH)を、6%w/w PEG 8000と0.1%w/v TWEEN(登録商標)20と共に、2mg/mLに配合した。この調合物は、緩衝せず、追加の塩を加えなかった。この調合物を、加熱式インクジェットを使用してエアロゾル化し、該エアロゾルを凝縮してバイオアッセイおよびHPLCによる分析のために回収した。マルバーン(Malvern)レーザーで測定すると、この調合物エアロゾルの平均小滴サイズは8μmであった。本発明の一実施形態による回収されたエアロゾルについてのバイオアッセイ結果の例を、図1に示す。ここに示したこれらの分析結果によると、2つの溶液の間に測定可能な差はなく、このタンパク質(従ってこの調合物)は、投薬中または投薬後に物質的に影響を受けないことが確かめられた。
【0043】
インシュリンを、6%w/v PEG 8000と0.1%w/v TWEEN(登録商標)80と共に、10mg/mLに配合し、加熱式インクジェットを使用してエアロゾル化した。このエアロゾルを回収し、細胞のバイオアッセイおよび逆相HPLCを用いて最初の調合物と比較した。図2は、本発明の一実施形態による、エアロゾル化前(上のグラフ)、エアロゾル化後に回収されたもの(真中のグラフ)、および繰り返しエアロゾル化した後(下のグラフ)のインシュリンの代表的なHPLCのトレース図である。3つの溶液すべてについて保持時間およびピーク形が同じであるので、これらの溶液の間に測定可能な差がないことが示され、投薬中および投薬後のタンパク質(従って調合物)の完全性が確かめられた。
(実施例2)
150ng/mLに配合した卵胞刺激ホルモン(FSH)について同様の試験を実施した。回収されたエアロゾルと最初の調合物について実施された質量分析、HPLC、等電点電気泳動およびイムノアッセイの各試験では、投薬中と投薬後の溶液の間に差がないことが示された。
(実施例3)
他の非タンパク質性の治療薬、すなわちニコチン、クロモリンナトリウム、およびネドクロミルを、タンパク質調合物に使用した手順と同様の手順を用いて配合し、エアロゾル化した。ニコチンを、0.1%w/v TWEEN(登録商標)20と共に、水中に最高50%の濃度で配合し、上記の手順を用いてエアロゾル化した。これらの試験によれば、投薬中と投薬後の溶液の間に測定可能な差はなかった。
【0044】
他の添加物および溶質を、この技術とともに使用することも可能である。こうした添加物には、調合物の粘度や薬物の溶解度を好都合に高めるかまたは調節しうるアルコール、炭化水素、およびフルオロカーボンが含まれる。さらに、薬物は、溶液である必要はなく、乳濁液または懸濁液としても存在可能であることが判明している。
【0045】
本明細書で述べたすべての特許および刊行物を、それぞれの特許または刊行物が、援用されることが具体的かつ個々に示されるのと同様に、本願明細書に援用する。
本明細書の方法において記述かつ/または使用したステップは、記述かつ/または提示した以外の異なる順序で実施可能である。これらのステップは、これらのステップを行うことが可能な順序の例に過ぎない。これらのステップは、主張する本発明の目的が果たされるのであれば、所望のどんな順序でも行うことが可能である。
【0046】
本明細書に例示的に記述した発明は、本明細書に具体的に開示していない任意の1つまたは複数の要素、1つまたは複数の制約無しで適切に実施することが可能である。したがって、例えば「からなる(comprising)」、「含まれる(including)」、「含有する(containing)」などの用語は、広く、かつ限定無しで解釈されるべきである。さらに、本明細書で使用される用語および表現は、限定のための用語ではなく説明のための用語として使用されており、こうした用語および表現の使用におい
て、表示および説明された見込みのいかなる同等物またはその一部も排除する意図はないが、主張した本発明の範囲内で、様々な変更が可能であることが理解される。したがって、本発明は、好ましい実施形態および任意選択の特徴によって具体的に開示されているが、本明細書で開示される、その中に組み込まれた本発明の変更および変形は、当分野の技術者によって行使することが可能であること、また、こうした変更および変形は、本明細書で開示する本発明の範囲内とみなされることを理解されたい。本明細書では本発明を、広く、かつ一般的に述べてきた。この一般的な開示に属するより狭い種類および亜属的分類群の各々も、こうした発明の一部を形成する。これには、削除された構成要素が、具体的に本明細書に存在する、しないにかかわらず、その部類(genus)から全ての対象を排除するという条件または否定的な限定付きで、各発明の一般的な説明が含まれる。さらに、発明の特徴または態様が、マーカッシュ(Markush)形式の群として記述される場合、それによって、該発明が、マーカッシュ形式の群の個々の全てのメンバーまたはメンバーの亜群に関しても記述されていることを、当分野の技術者であれば理解できるであろう。
【0047】
本発明の概念をその範囲から逸脱せずに実行するために、様々な同等物(equivalent)が使用可能であることは、本明細書の本発明の説明から明白である。さらに、本発明が、ある種の実施形態に関して具体的に述べている以上、当分野の技術者は、本発明の趣旨および範囲から逸脱せずに、形態および詳細を変更することが可能であることを理解されたい。記述した実施形態は、全ての点で、例示的であるが限定的ではないと考えるべきである。本発明は、本明細書で述べた特定の実施形態には限定されず、本発明の範囲から逸脱せずに、多くの同等形態、再構成された形態、変更形態、および置換形態が可能であることも理解されたい。
【0048】
したがって、追加の実施形態は、本発明の範囲内および特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療薬、表面張力調節剤、ならびに湿潤剤および粘度調節剤を含む成分からなる液体薬剤組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−42695(P2011−42695A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270734(P2010−270734)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【分割の表示】特願2002−591058(P2002−591058)の分割
【原出願日】平成14年5月21日(2002.5.21)
【出願人】(503336383)インジェット デジタル エアロソルズ リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】Injet Digital Aerosols Limited
【Fターム(参考)】