説明

経腸栄養組成物

【課題】低粘度で、素手や加圧装置などの特別な押し出し力を必要とすることなく自然落下で投与することができる経腸栄養組成物であって、しかも胃における滞留時間が長く、下痢や摂取後の急激な血糖上昇の抑制に対して有効な栄養組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】大豆由来たんぱく質を含有し、粘度が50〜500mPa・sである経腸栄養組成物を提供する。前記経腸栄養組成物のエネルギー100kcal当たり、大豆由来たんぱく質を1.2〜7.0g含有し、かつ前記経腸栄養組成物中の全たんぱく質に対する大豆由来たんぱく質の割合が40重量%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経腸栄養組成物に関する。より特定すれば、本発明は、特別な押し出し力を必要とすることなく投与することができ、しかも下痢や摂取後の急激な血糖値上昇の抑制に対して有効な経腸栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
消化器等の外科疾患に伴う手術後の低栄養状態にある患者、消化吸収機能低下状態にある患者、口腔内手術後の患者、寝たきりの老人、及び意識障害者等など自ら食餌による栄養摂取ができない患者に対する栄養補給として、経静脈栄養組成物又は経腸栄養組成物が使用されている。
【0003】
このうち、経腸栄養組成物は、消化管が使用できる場合の第一選択肢となり、たんぱく質、炭水化物、脂質、ミネラル、ビタミン、食物繊維、オリゴ糖など栄養成分が総合的に含まれ、1日当たり800〜2000kcalの摂取量にて長期摂取におよんでも個別の栄養成分が過不足のないよう設計されている。また、性状は、液状〜半固形状に調整されている。
【0004】
経腸栄養組成物を経管投与する場合、通常栄養チューブを通じて、経鼻、経胃ろう等に自然落下によりクランプで流速を調整して投与されるが、流速が速すぎると胃から腸へ経腸栄養組成物の移動が速まり、一般的に下痢を誘発しやすいことが広く知られている。そのため、医療施設等では、流動性の高い経腸栄養組成物といえども流速100〜400mL/hrに調整して経管投与せざるをえず、場合によっては経管投与に2時間以上を要し、投与される患者にとっても投与に関する家族や医療施設従事者にとっても大きな負担となっている。
【0005】
このような問題に対し、例えば、従来例1(特許文献1)は、管状材を通して消化管内に供給される栄養剤を、粘体状、より特定すれば1000ミリパスカル秒(mPa・s)以上〜60000mPa・s以下の粘度とすることで、一度に大量の栄養剤を投与しても、栄養剤が消化管内に貯留され、消化管内を緩やかに移動するため、ダンピング症候群(下痢や急激な血糖値上昇)を防ぐことができ、栄養剤を投与する時間を大幅に短くすることができることを開示する。
【0006】
また、従来例2(特許文献2)は、増粘材を含む溶液(ダンピング予防食品)を投与した後、通常摂取している流動食を別々に投与し、患者の胃内で流動食の粘度が上昇することで、ダンピング予防(下痢や急激な血糖値上昇を抑制)ができることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−138181号公報
【特許文献2】特許3140426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
経腸栄養組成物の多くは、5〜50mPa・sの液状や1000〜20000mPa・sの半固形状に調整されているが、粘度の高い経腸栄養組成物や半固形状の経腸栄養組成物は、短時間で投与しても胃内滞留率が高いことが見込まれ、下痢を誘発する頻度が低くなることが近年認識されてきた。その結果、投与時間の短縮による患者の負担軽減、QOL改善、リハビリ等の時間の確保等のメリットが得られるため徐々に普及してきた。
【0009】
しかしながら、粘度の高い経腸栄養組成物や半固形の経腸栄養組成物は、その高い粘度のために自然落下で投与できず、素手や加圧装置などの強い押し出し力が必要で、投与する家族や医療施設従事者にとって大きな投与負担となっている。
【0010】
例えば、上記従来例1の技術では粘性が高いため、多くの医療施設等で実施されている経管投与の条件である自然落下による投与(流速100〜400mL/hr、投与時間3時間以内、チューブ径8〜12Fr.)では、栄養剤を投与できない。
【0011】
また、上記従来例2の技術では、粘度による投与負担は発生しないため、上記の多くの医療施設等で実施されている経管投与の条件で流動食を投与できるが、流動食とは別に増粘材を含む溶液を投与する必要があり、1回当たり2袋投与になり家族や医療施設従事者にとって負担が大きい。また、増粘材を含む溶液と流動食の投与時間、投与間隔、患者の消化器官内環境などにより増粘調整が困難である。
【0012】
上記背景のもと、本発明が解決しようとする課題は、低粘度で特別な押し出し力を必要とせず自然落下で投与することができる経腸栄養組成物であって、しかも胃内滞留性が高く胃から腸への移動が緩やかであり、投与時間が短くても下痢や摂取後の急激な血糖値上昇の抑制に対して有効な経腸栄養組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、大豆由来たんぱく質を含有し、自然落下で投与できる程度の粘性の経腸栄養組成物であれば、特別な押し出し力を必要とすることなく投与することができ、しかも下痢や摂取後の急激な血糖値上昇の抑制に対して有効な経腸栄養組成物とすることができることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕大豆由来たんぱく質を含有し、粘度が50〜500mPa・sである経腸栄養組成物;
〔2〕前記経腸栄養組成物のエネルギー100kcal当たり前記大豆由来たんぱく質を1.2〜7.0g含有し、かつ前記経腸栄養組成物中の全たんぱく質に対する前記大豆由来たんぱく質の割合が40重量%以上である、上記〔1〕に記載の経腸栄養組成物;
〔3〕経管経腸栄養組成物である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の経腸栄養組成物;
〔4〕pHが3.0〜5.0である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の経腸栄養組成物;
〔5〕前記経腸栄養組成物のエネルギー100kcal当たり不溶性食物繊維を1〜6g含有する、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の経腸栄養組成物;
〔6〕前記経腸栄養組成物のエネルギー100kcal当たり脂質を1.6〜4.4g及び炭水化物を8.1〜18.4g含有する、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の経腸栄養組成物;及び
〔7〕エネルギー濃度が1.2〜2.0kcal/mLである、上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の経腸栄養組成物。
〔7−2〕大豆由来たんぱく質が、10より多いアミノ酸からなる大豆由来たんぱく質である上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の経腸栄養組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低粘度で、素手や加圧装置などの特別な押し出し力を必要とすることなく自然落下で投与することができる経腸栄養組成物であって、しかも胃における滞留時間が長く、下痢や摂取後の急激な血糖値上昇の抑制に対して有効になり得る経腸栄養組成物を提供することできる。例えばチューブの一端を口腔や鼻腔から挿入し、先端を胃腸部に保留して経管で栄養補給する場合のように、長いチューブを介する際にも、本発明の経腸栄養組成物は自然落下により短時間で投与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
本実施の形態の経腸栄養組成物は、大豆由来たんぱく質を含有し、粘度が50〜500mPa・sである栄養組成物である。
【0018】
本実施の形態の経腸栄養組成物は、好ましくは、エネルギー100kcal当たり前記大豆由来たんぱく質を1.2〜7.0g含有し、かつ前記経腸栄養組成物中の全たんぱく質に対する前記大豆由来たんぱく質の割合が40重量%以上である。
【0019】
本実施の形態の経腸栄養組成物のエネルギー濃度は、効率よく栄養補給をするという観点から、上限としては1mL当たり2.0kcal以下が例示され、1.9kcal以下が好ましく、1.8kcal以下がより好ましく、1.7kcal以下がさらに好ましく、下限としては1mL当たり1.2kcal以上が例示され、1.3kcal以上が好ましく、1.4kcal以上がより好ましく、1.5kcal以上がさらに好ましい。
【0020】
上記のエネルギー濃度の経腸栄養組成物とするためには、栄養成分として、たんぱく質、脂質、及び炭水化物の三大栄養素を含有することが好ましく、その他ミネラル及びビタミン等身体機能の維持に必要な微量栄養成分をさらに含むことが好ましい。
【0021】
本実施の形態において、エネルギーは、kcalで表示し、経腸栄養組成物のエネルギーは、経腸栄養組成物中に含まれる各成分が有するエネルギーの和として算出することができる。
【0022】
本実施の形態において、経腸栄養組成物に含まれる大豆由来たんぱく質は、大豆を原料として得られるたんぱく質であって、一般に食用として利用されているものであれば特に限定されない。また、本実施の形態における大豆由来たんぱく質としては、大豆から得られるたんぱく質であればその原料、加工方法は特に限定されない。大豆由来たんぱく質としては、分離大豆たんぱく質、濃縮大豆たんぱく質、抽出大豆たんぱく質、又は脱脂大豆粉が例示され、分離大豆たんぱく質が好ましい。
【0023】
下痢や摂取後の急激な血糖値上昇の抑制に対してより有効な経腸栄養組成物を提供するという観点から、上記大豆由来たんぱく質は、一般にペプチドと呼ばれる2〜50個のアミノ酸からなる物質と区別できるものが好ましく、例えば、好ましくは10より多いアミノ酸からなり、より好ましくは20より多いアミノ酸からなり、さらに好ましくは50より多いアミノ酸からなる。
【0024】
本実施の形態における大豆由来たんぱく質としては、水溶性の大豆由来たんぱく質又は水不溶性の大豆由来たんぱく質が挙げられる。好ましい一態様において、大豆由来たんぱく質には、水に溶解させた場合に完全に溶解せず若干不溶性物質が含まれる大豆由来たんぱく質も含まれ、より好ましくは、酸性(例えばpH2〜7、好ましくはpH2〜5)で水溶性の大豆由来たんぱく質が挙げられ、例えば、pH2〜5で溶解率が80%以上の大豆由来たんぱく質が挙げられる。
【0025】
本実施の形態の経腸栄養組成物は、大豆由来たんぱく質の他、一般に食用として利用されているたんぱく質を含有することができる。そのようなたんぱく質としては、例えば、カゼイン、カゼイネート、ホエイたんぱく質、乳たんぱく濃縮物などの乳由来たんぱく質、畜産由来たんぱく質、水産由来たんぱく質などの動物性たんぱく質;小麦由来たんぱく質、えんどう由来たんぱく質、とうもろこし由来たんぱく質などの植物性たんぱく質:及びそれらの分解物などが挙げられ、経腸栄養組成物は、上記のたんぱく質からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。また、上記のたんぱく質は単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
大豆由来たんぱく質以外のたんぱく質を構成するアミノ酸数は特に限定されず、例えば一般にアミノ酸と呼ばれる物質や、一般にペプチドと呼ばれる2〜50個のアミノ酸からなる物質も、後述のケルダール法を用いて含有量を測定することが出来るものであれば、本明細書中におけるたんぱく質に含まれる。
【0027】
本実施の形態において、下痢や摂取後の急激な血糖値上昇の抑制に対してより有効な経腸栄養組成物を提供するという観点から、大豆由来たんぱく質の含有量は、経腸栄養組成物100kcal当たり、1.2〜7gであることが好ましく、1.5〜6.3gであることがより好ましい。
【0028】
経腸栄養組成物中の全たんぱく質の含有量は、三大栄養素をバランスよく補給するという観点から、経腸栄養組成物100kcal当たり、3〜7gであることが好ましく、3.7〜6.3gであることがより好ましい。また、非たんぱく質カロリー(kcal)/窒素(g)から算出されるC/Nバランスに優れた経腸栄養組成物を提供するという観点から、全たんぱく質の含有量は、たんぱく質エネルギーが経腸栄養組成物エネルギー中12〜28%を構成することが好ましく、15〜25%であることがより好ましい。
【0029】
経腸栄養組成物中の全たんぱく質に対する大豆由来たんぱく質の割合は、下痢や摂取後の急激な血糖値上昇の抑制に対して有効な経腸栄養組成物を提供するという観点から、40重量%以上であることが好ましく、45重量%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、60%以上であることが特に好ましく、70%以上であることが最も好ましい。
【0030】
全たんぱく質の含有量は、ケルダール法を用いて測定することができる(五訂 日本食品標準成分表分析マニュアルの解説(中央法規出版))。また、全たんぱく質に対する大豆由来たんぱく質の割合は、上記ケルダール法を用いて全たんぱく質の含有量に対する、経腸栄養組成物に配合した大豆由来たんぱく質量の割合として算出することができる。
【0031】
本実施の形態において、経腸栄養組成物に使用する脂質としては、一般に食用として利用されている脂質を使用することができる。そのような脂質としては、例えば、オリーブ油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、ともろこし油、なたね油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油、やし油及び落花生油などの植物性油脂、魚油などの動物性油脂、中鎖脂肪酸、並びに高度不飽和脂肪酸などが挙げられ、経腸栄養組成物は、上記の脂質からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。また、上記の脂質は単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0032】
経腸栄養組成物中の脂質の含有量は、三大栄養素をバランスよく補給するという観点から、経腸栄養組成物100kcal当たり、1.6〜4.4gであることが好ましく、2.2〜3.3gであることがより好ましい。また、脂質の含有量は、脂質エネルギーが経腸栄養組成物エネルギー中15〜40%を構成することが好ましく、20〜30%を構成することがより好ましい。
【0033】
脂質の含有量は、レーゼゴットリーブ法を用いて測定することができる(栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について 平成11年4月26日衛新第13号厚生省生活衛生局食品保健課新開発食品保健対策室長通知)。
【0034】
本実施の形態において、経腸栄養組成物に使用する炭水化物としては、一般に食用として利用されている炭水化物を使用することができる。そのような炭水化物としては、例えば、澱粉、デキストリン、オリゴ糖などの少糖類、ラクトース、スクロース、パラチノースなどの二糖類、グルコース、フルクトース、マルトース、グルコサミンなどの単糖類などが挙げられる。また、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、アルギン酸塩、ペクチン、グアーガム分解物、プルラン、グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、タマリンド種子ガム、トラガントガム、ジェランガム、ポリデキストロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、難消化性デキストリン、グルコマンナン及びカードランなどの水溶性食物繊維ならびに以下に詳述する不溶性食物繊維などが挙げられる。経腸栄養組成物は、上記の炭水化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。また、上記の炭水化物は単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0035】
経腸栄養組成物中の炭水化物の含有量は、三大栄養素をバランスよく補給するという観点から、経腸栄養組成物100kcal当たり、8.1〜18.4gであることが好ましく、11.4〜16.2gであることがより好ましい。また、炭水化物の含有量は、炭水化物エネルギーが、経腸栄養組成物エネルギー中32.4〜73.6%を構成することが好ましく、35〜70%を供することがより好ましい。
【0036】
炭水化物の含有量は、経腸栄養組成物の重量から、たんぱく質、脂質、灰分、及び水分の重量を除いて算出することができる。灰分の含有量は、直接灰化法で測定することができる。水分は、常圧加熱乾燥法で分析することができる。(栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について 平成11年4月26日衛新第13号厚生省生活衛生局食品保健課新開発食品保健対策室長通知)
【0037】
本実施の形態において、下痢や摂取後の急激な血糖値上昇の抑制に対して有効な経腸栄養組成物を提供するという観点から、上記炭水化物のうち不溶性食物繊維を、経腸栄養組成物100kcal当たり、1〜6g含有することが好ましく、1.5〜3g含有することがより好ましい。
【0038】
不溶性食物繊維は、水不溶性であり、ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体を意味し、後述のプロスキー変法で測定することができるものであれば特に限定されない。不溶性食物繊維としては、一般に食用として利用されている不溶性食物繊維を使用することができる。そのような不溶性食物繊維の代表例としては、例えば、種皮、アップルファイバー、コーンファイバー、ビートファイバー、大豆ファイバー、小麦ふすま、キチン、キトサン、リグニン、結晶セルロース、セルロース及びヘミセルロースなどが挙げられ、好ましくは結晶セルロースを用いることができる。これらを単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0039】
不溶性食物繊維の含有量は、プロスキー変法で測定することができる(五訂 日本食品標準成分表分析マニュアルの解説(中央法規出版))。
【0040】
本実施の形態の経腸栄養組成物は、入院患者、高齢者など、自ら食餌による栄養摂取ができず、栄養補給を必要とする人に対して、たんぱく質、脂質及び炭水化物に加え、ミネラル、ビタミンなどを効率的に補給できる栄養組成物であることが好ましい。
【0041】
したがって、本実施の形態の経腸栄養組成物は、ミネラルを含有することも好ましい。このようなミネラルとしては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、及び鉄などの無機塩や有機塩を単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。また、亜鉛、銅、マンガン、セレン、ヨウ素、クロム、又はモリブデンなどの微量元素を含む食品や食品添加物を単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。ミネラルは、厚生労働省策定日本人の食事摂取基準(2005年版)の一日当たりの推奨量又は目安量に基づいて、適宜の量を配合することができる。
【0042】
また、本実施の形態の経腸栄養組成物は、ビタミンを含有することも好ましい。このようなビタミンとしては、例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビオチン、及びコリンなどを単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。ビタミンは、厚生労働省策定日本人の食事摂取基準(2005年版)の一日当たりの推奨量又は目安量に基づいて、適宜の量を配合することができる。
【0043】
本実施の形態の経腸栄養組成物は、必要に応じて、エキス類、甘味料、香料、及び着色料などを単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0044】
本実施の形態の経腸栄養組成物の粘度は、胃における滞留時間が長く、下痢や摂取後の急激な血糖値上昇の抑制に対して有効な経腸栄養組成物を提供するという観点から、下限としては50mPa・s以上であることが好ましく、60mPa・s以上であることがより好ましく、70mPa・s以上であることがさらに好ましく、80mPa・s以上であることが特に好ましく、100mPa・s以上であることが最も好ましい。また、鼻腔から挿入可能なチューブを介して自然落下により投与可能な経腸栄養組成物を提供するという観点から、上限としては500mPa・s以下であることが好ましく、400mPa・s以下であることがより好ましく、300mPa・s以下であることがさらに好ましい。一態様において、好ましくは、本実施の形態の経腸栄養組成物の粘度は、60〜300mPa・sである。
【0045】
本実施の形態において、経腸栄養組成物の粘度は、例えば後述の実施例等を参照し、B型回転式粘度計を用いて測定することができる。
【0046】
上記粘度の経腸栄養組成物を調製するために、必要ならば、増粘剤及び/又はゲル化剤を上記粘度になるよう使用する。そのような増粘剤及び/又はゲル化剤としては、例えば、カラギーナン、アルギン酸塩、ペクチン、グアーガム分解物、プルラン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、タマリンド種子ガム、トラガントガム、ジェランガム、ガラクトマンナン、アラビアガム、タラガム、カラヤガム、寒天、ゼラチン、サイリウムシードガム、グルコマンナン及びデンプンなどが挙げられ、増粘剤及び/又はゲル化剤は単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0047】
本実施の形態において、経腸栄養組成物は、pH3.0〜7.0であることが好ましく、pH3.0〜5.0であることがより好ましい。
【0048】
上記pH範囲の経腸栄養組成物を調製するために、一般に食用として使用することが許容される酸味料を使用することができる。そのような酸味料としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、乳酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、又はフィチン酸などを単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0049】
本実施の形態において、経腸栄養組成物のpHは、例えば、pH測定器(東亜ディーケーケー(株)社製、型番HM−30G)を用いて測定することができる。
【0050】
本実施の形態において、経腸栄養組成物の製造方法は特に限定されるものではないが、均質化処理により油滴を細粒化し、凝集物やゲル化物を崩壊させ、内容物を均一化させることにより製造することができる。
【0051】
均質化処理の方法としては、例えば、乳化剤を添加し、乳化機などの装置を用いる方法が挙げられる。乳化機としては、例えば、回転羽を有する攪拌機、高速回転するディスクやローターと固定ディスクを有するコロイドミル、超音波式乳化機、一種の高圧ポンプである均質機(ホモジナイザー)などが挙げられる。均質化工程として、例えば20〜100MPa、好ましくは50〜100MPaの加圧下で行う方法が挙げられる。
【0052】
経腸栄養組成物は、上記の均質化処理の後、スパウト付きパウチ、ソフトバッグ、紙パック、レトルトパウチなどの保存容器に充填することが好ましく、本実施の形態においては、経腸栄養組成物には、保存容器に充填されているものも含まれる。また、経腸栄養組成物は、衛生面を考慮し、加熱滅菌又は殺菌されて充填されていることが好ましい。
【0053】
経腸栄養組成物を充填し、滅菌又は殺菌する方法としては、例えば、経腸栄養組成物をあらかじめ加熱滅菌した後に無菌的に容器に充填する方法(例えば、UHT滅菌法とアセプティック充填法を併用する方法)、経腸栄養組成物を容器に充填した後、容器とともに加熱滅菌する方法(例えば、レトルト殺菌、ホット充填)などが挙げられる。
【0054】
UHT滅菌においては間接加熱方式及び直接加熱方式のどちらでもよく、130〜150℃、2〜60秒程度の加熱処理が好適である。加熱滅菌する場合、レトルト殺菌においては105〜120℃、10〜30分程度の加熱処理が好適である。また、栄養組成物が酸性の場合、80〜95℃、10〜50分程度の加熱処理が好適である。
【0055】
経腸栄養組成物を充填する容器としては、プラスティックフィルム及びアルミ箔を積層としたフィルムを熱シールによって密封したレトルトパウチや口栓部とプラスティックフィルム及びアルミ箔を積層としたフィルムを熱シールによって密封したスパウト付きパウチが好適である。また、紙にアルミ箔、更に合成樹脂(例えば、ポリエチレン)をラミネートした素材により形成された容器なども使用することができる。
【0056】
本実施の形態において、「経腸栄養組成物」とは、腸から吸収される栄養組成物であることを意味し、経口投与される栄養組成物も含まれる。本実施の形態の経腸栄養組成物は、チューブを介して自然落下できる粘性を持つので、経管経腸栄養組成物として好適に用いることができる。
【0057】
本実施の形態の経腸栄養組成物の投与方法としては、例えば、流動食として投与する方法が挙げられる。また、特に経管経腸栄養組成物の場合、例えば、チューブの一端を口腔、鼻腔、増設した胃瘻、腸瘻、空腸瘻などより挿入し、先端を胃腸部に保留し、もう一端は経腸栄養組成物を含む包材又は栄養カーテルに接続して、胃腸部に保留した一端よりも高い位置に吊り下げて自然落下させて投与する方法などが挙げられる。また、素手、流動ポンプ及び治具などにより押し出して投与することも可能である。
【0058】
チューブを口腔又は鼻腔から挿入する場合、胃瘻、腸瘻又は空腸瘻から挿入する場合と比較してチューブの全長は長くなる。本実施の形態の経腸栄養組成物は、そのような長いチューブを介しても、自然落下により短時間で投与することができる粘度を有する。
【0059】
経管経腸栄養組成物の場合、用いるチューブのチューブ径は、経腸栄養組成物を問題なく投与することのできる太さであれば特に限定されない。チューブを鼻腔から挿入する場合、12Fr.以下が好ましく、10Fr.以下がさらに好ましく、8Fr.以下が特に好ましい。
【0060】
本実施の形態の経腸栄養組成物は、摂取後の急激な血糖上昇を抑制するという効果を有し得る。本実施の形態の経腸栄養組成物の血糖上昇抑制効果は、例えば後述の〔血糖値等経時変化確認試験〕に示すように、血糖値、血中インスリン値、血中C−ペプチド値等の血糖値上昇に関連する血中マーカーを、単独で又は複数組み合わせて、本実施の形態の経腸栄養組成物の投与前および投与後経時的に測定し、それらの値の変化を観察することで確認することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例及び比較例(本明細書中において、単に「実施例等」という場合もある)により、さらに詳細に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例等のみに限定されるものではない。以下の実施例等において使用した測定方法は以下のとおりである。
【0062】
<粘度>
B型回転式粘度計(芝浦システム社製、型番VDA)を用いて、回転数12rpm、検体温度20℃、計測時間120秒の条件で、栄養組成物の粘度を測定した。
<エネルギー濃度>
エネルギー濃度は、経腸栄養組成物単位体積あたりのエネルギー(kcal/mL)である。経腸栄養組成物単位重量あたりのエネルギーに経腸栄養組成物の密度を乗じることで求めた。経腸栄養組成物のエネルギーは、たんぱく質エネルギー、炭水化物エネルギー、及び脂質エネルギーの総和である。
<たんぱく質エネルギー>
たんぱく質エネルギーは、たんぱく質成分の重量にたんぱく質のAtwaterのエネルギー換算係数4kcal/gを乗じて求めた。
<炭水化物エネルギー>
炭水化物エネルギーは、炭水化物成分の重量に炭水化物のAtwaterのエネルギー換算係数4kcal/gを乗じて求めた。
<脂質エネルギー>
脂質エネルギーは、脂質成分の重量に脂質のAtwaterのエネルギー換算係数9kcal/gを乗じて求めた。
<密度>
密度比重計(DA−650、京都電子工業株式会社)を用いて測定した。
<100kcal当たりの各成分の重量>
たんぱく質、脂質、炭水化物、不溶性食物繊維及びその他の栄養成分の含有量は日本食品分析センターにて測定した。たんぱく質、脂質、灰分及び水分の含有量は、それぞれケルダール法、レーゼゴットリープ法、直接灰化法及び常圧加熱乾燥法を用いて測定した。炭水化物の含有量は、全体量から、たんぱく質、脂質、灰分、及び水分の含有量を除いて算出した。
<100kcal当たりの大豆由来たんぱく質の重量>
原料として用いた大豆たんぱく質の重量から算出した。
<pH>
ガラス電極法を用いて測定した。測定装置としてHM−30G(東亜ディーケーケー株式会社)用いた。
【0063】
〔実施例1〕
ホエイたんぱく質加水分解物310g、大豆由来たんぱく質(大豆原料より水でたんぱく質を抽出し、不溶画分を分離し、回収したたんぱく質溶解液を、さらにプロテアーゼ処理し、酸添加して酸性可溶処理をした後、殺菌、乾燥、粉末化して得られた、酸性可溶たんぱく質(pH2〜5で溶解率が80%以上))440g、デキストリン2042g、オリゴ糖43g、スクラロース5.7g、結晶セルロース265g、難消化性デキストリン65g、コーン油385g、有機酸モノグリセライド24g、グルコン酸ナトリウム70g、塩化ナトリウム23g、塩化カリウム31g、リン酸三カルシウム25g、硫酸マグネシウム53g、ピロリン酸鉄0.4g、各微量ミネラル含有酵母8g、各ビタミンミックス9.6g、香料10g、クエン酸97gを加温した水(60℃)5000gに加えホモミキサーで攪拌し、加温した水(60℃)で総量を10000gに調整した後、ホモジナイザー(50MPaの圧力)で均質化した。処理液をスパウト付きパウチに200g充填・密封し、ホット殺菌(90℃、30分)を行い、栄養組成物を得た。
【0064】
該栄養組成物は、エネルギー濃度1.7kcal/mL、たんぱく質エネルギー20%、脂質エネルギー25%、炭水化物エネルギー55%、pH4.0、粘度224mPa・sであった。また、栄養組成物100kcal当たり、全たんぱく質5.0g、大豆由来たんぱく質2.5g、脂質2.8g、炭水化物13.8g、不溶性食物繊維1.8gであった。
【0065】
〔実施例2〕
実施例1の原料からホエイたんぱく質加水分解物を未配合とし、大豆由来たんぱく質を増量した栄養組成物を得た。各原料は実施例1と同様である。
大豆由来たんぱく質750g、デキストリン2042g、オリゴ糖43g、スクラロース5.7g、結晶セルロース265g、難消化性デキストリン65g、コーン油385g、有機酸モノグリセライド24g、グルコン酸ナトリウム70g、塩化ナトリウム23g、塩化カリウム31g、リン酸三カルシウム25g、硫酸マグネシウム53g、ピロリン酸鉄0.4g、各微量ミネラル含有酵母8g、各ビタミンミックス9.6g、香料10g、クエン酸65gを加温した水(60℃)5000gに加えホモミキサーで攪拌し、加温した水(60℃)で総量を10000gに調整した。調整液をスパウト付きパウチに200g充填・密封し、ホット殺菌(90℃、30分)を行い、栄養組成物を得た。
【0066】
該栄養組成物は、エネルギー濃度1.7kcal/mL、たんぱく質エネルギー20%、脂質エネルギー25%、炭水化物エネルギー55%、pH4.0、粘度130mPa・sであった。また、栄養組成物100kcal当たり、全たんぱく質5.0g、大豆由来たんぱく質5.0g、脂質2.8g、炭水化物13.8g、不溶性食物繊維1.8gであった。
【0067】
〔実施例3〕
以下の手順で栄養組成物を得た。各原料は実施例1と同様である。
ホエイたんぱく質加水分解物310g、大豆由来たんぱく質440g、デキストリン2042g、オリゴ糖43g、スクラロース5.7g、難消化性デキストリン65g、コーン油385g、有機酸モノグリセライド24g、グルコン酸ナトリウム70g、塩化ナトリウム23g、塩化カリウム31g、リン酸三カルシウム25g、硫酸マグネシウム53g、ピロリン酸鉄0.4g、各微量ミネラル含有酵母8g、各ビタミンミックス9.6g、香料10g、クエン酸97gを加温した水(60℃)5000gに加えホモミキサーで攪拌し、加温した水(60℃)で総量を10000gに調整した後、ホモジナイザー50MPaの圧力で均質化した。処理液をスパウト付きパウチに200g充填・密封し、ホット殺菌(90℃、30分)を行い、栄養組成物を得た。
【0068】
該栄養組成物は、エネルギー濃度1.7kcal/mL、たんぱく質エネルギー20%、脂質エネルギー25%、炭水化物エネルギー55%、pH4.0、粘度75mPa・sであった。また、栄養組成物100kcal当たり、全たんぱく質5.0g、大豆由来たんぱく質2.5g、脂質2.8g、炭水化物13.8g、不溶性食物繊維0gであった。
【0069】
〔比較例1〕
実施例1の原料に寒天21g、ペクチン32gを追加した。寒天21g、ペクチン32gを加温した水(80℃)1000gに加えホモミキサーで攪拌し、さらに加温した水(60℃)4000gを加え、実施例1の原料を加えホモミキサーで攪拌し、加温した水(60℃)で総量を10000gに調整した後、ホモジナイザー50MPaの圧力で均質化した。処理液をスパウト付きパウチに200g充填・密封し、ホット殺菌(90℃、30分)を行い、栄養組成物を得た。
【0070】
該栄養組成物は、エネルギー濃度1.7kcal/mL、たんぱく質エネルギー20%、脂質エネルギー25%、炭水化物エネルギー55%、pH4.0、粘度5280mPa・sであった。他の分析値に関しては、実施例1の栄養組成物と同様であった。
【0071】
〔比較例2〕
市販の栄養組成物(濃厚流動食)である、L−6PMプラス(旭化成ファーマ株式会社)を使用した。該栄養組成物は、たんぱく質原料として乳たんぱく質を配合し、大豆由来たんぱく質を配合していない。
【0072】
該栄養組成物は、エネルギー濃度1.0kcal/mL、たんぱく質エネルギー21%、脂質エネルギー22%、炭水化物エネルギー57%、pH6.6、粘度14mPa・sであった。また、栄養組成物100kcal当たり、全たんぱく質5.3g、大豆由来たんぱく質0g、脂質2.4g、炭水化物14.2g、不溶性食物繊維0.45gであった。
【0073】
〔比較例3〕
市販の栄養組成物(濃厚流動食)である、L−8(旭化成ファーマ株式会社)を使用した。該栄養組成物は、たんぱく質原料としては乳たんぱく質、コラーゲンペプチドを配合し、大豆由来たんぱく質を配合していない。
【0074】
該栄養組成物は、エネルギー濃度1.5kcal/mL、たんぱく質エネルギー16%、脂質エネルギー24%、炭水化物エネルギー60%、pH6.9、粘度25mPa・sであった。また、栄養組成物100kcal当たり、全たんぱく質4.0g、大豆由来たんぱく質0g、脂質2.7g、炭水化物15.7g、不溶性食物繊維0.5gであった。
【0075】
〔比較例4〕
市販の栄養組成物(濃厚流動食)である、アキュアEN2.0(旭化成ファーマ株式会社)を使用した。該栄養組成物は、たんぱく質原料として乳たんぱく質及びコラーゲンペプチドを配合し、大豆由来たんぱく質を配合していない。
該栄養組成物は、エネルギー濃度2.0kcal/mL、たんぱく質エネルギー15%、脂質エネルギー34%、炭水化物エネルギー51%、pH6.9、粘度48mPa・sであった。また、栄養組成物100kcal当たり、全たんぱく質3.8g、大豆由来たんぱく質0g、脂質3.78g、炭水化物14.2g、不溶性食物繊維0.3gであった。
【0076】
〔比較例5〕
実施例1の原料から大豆由来たんぱく質を未配合とし、ホエイたんぱく質加水分解物を増量した栄養組成物を得た。各原料は実施例1と同様である。
ホエイたんぱく質加水分解物750g、デキストリン2042g、オリゴ糖43g、スクラロース5.7g、結晶セルロース265g、難消化性デキストリン65g、コーン油385g、有機酸モノグリセライド24g、グルコン酸ナトリウム70g、塩化ナトリウム23g、塩化カリウム31g、リン酸三カルシウム25g、硫酸マグネシウム53g、ピロリン酸鉄0.4g、各微量ミネラル含有酵母8g、各ビタミンミックス9.6g、香料10g、クエン酸135gを加温した水(60℃)5000gに加えホモミキサーで攪拌し、総量を10000gに調整した後、ホモジナイザー50MPaの圧力で均質化した。処理液をスパウト付きパウチに200g充填・密封し、ホット殺菌(90℃、30分)を行い、栄養組成物を得た。
【0077】
該栄養組成物は、エネルギー濃度1.7kcal/mL、たんぱく質エネルギー20%、脂質エネルギー25%、炭水化物エネルギー55%、pH4.0、粘度130mPa・sであった。また、栄養組成物100kcal当たり、全たんぱく質5.0g、大豆由来たんぱく質0g、脂質2.8g、炭水化物13.8g、不溶性食物繊維1.8gであった。
【0078】
〔動物試験1〕
実施例1及び比較例1の栄養組成物を用いて、動物試験を実施した。9週令wistar系rat(1群5匹)を20時間絶食させた後、各栄養組成物約3g経口投与し、摂取後90分後の胃重量と胃のみの重量を計量秤で測定し、以下の式を用いて胃残存率を計算した。
胃残存率%=(摂取90分後の胃重量g−胃のみの重量g)/投与量(g)*100
【0079】
結果を表1に示す。実施例1の栄養組成物は224mPa・sという低粘度にもかかわらず、比較例1(粘度5280mPa・s)の栄養組成物と同等の胃残存率を示した。
【表1】

【0080】
〔動物試験2〕
実施例1、比較例2、比較例3及び比較例4の栄養組成物を用いて、動物試験を実施した。9週令wistar系rat(1群5匹)を20時間絶食させた後、各栄養組成物を1.5kcal/100g体重、経口投与し、摂取後90分後の胃重量と胃のみの重量を動物試験1と同様の手法を用いて測定し、胃残存率を計算した。
【0081】
結果を表2に示す。いずれもエネルギー濃度1〜2kcal/mLの栄養組成物について、大豆由来たんぱく質を配合しない比較例2〜4の栄養組成物より、大豆由来たんぱく質を配合した実施例1の栄養組成物の方が、胃残存率が高いことが示された。
【表2】

【0082】
〔動物試験3〕
実施例1、実施例3及び比較例5の栄養組成物を用いて、動物試験を実施した。9週令wistar系rat(1群5匹)を20時間絶食させた後、フェノールレッドで着色した各栄養組成物を1.5kcal/100g体重、経口投与し、投与する栄養組成物と摂取後90分後の胃残留物の吸光度(560nm)を吸光度測定装置(JAS.CO V−530)で測定し、投与栄養組成物と胃残留物のフェノールレッド量を求め、その比率から以下の式を用いて胃残存率を計算した。
胃残存率=(胃残留物フェノールレッド量/投与栄養組成物フェノールレッド量*100)
なお、動物試験1及び2では、胃重量g−胃のみの重量gで算出される胃内重量物は、栄養組成物量+胃液となるため、おおよその胃残存率が計算可能である。一方、動物試験3では、吸光度測定により栄養組成物量だけを計測するため、より正確な胃残存率が計算可能である。
【0083】
以上の試験を3回実施し、胃残存率の平均値を表3に示す。大豆由来たんぱく質を配合しない比較例5の栄養組成物より、大豆由来たんぱく質を配合した実施例1及び実施例2の栄養組成物の方が、胃残存率が高いことが示された。
【表3】

【0084】
〔チューブ試験〕
実施例1の栄養組成物(粘度224mPa・s)を用いて、チューブ試験を実施した。スパウト付きパウチに実施例1の栄養組成物を267g(400kcal相当量、液温25℃)充填し、スパウト付きパウチとPG連結チューブ(テルモ株式会社)を接続し、さらに8Fr.、10Fr.又は12Fr.のニューエンテラルフィーディングチューブ(日本シャーウッド株式会社)をそれぞれ接続し、落差70cm又は100cmで栄養組成物を自然落下させ、全量の通過時間を計測した。また、実施例3の栄養組成物(粘度75mPa・s)を用いて同様の試験を実施した。
【0085】
結果を表4に示す。12Fr.チューブ径の場合1時間以内、10Fr.チューブ径の場合2時間以内、12Fr.チューブ径の場合3時間以内に、栄養組成物を全量投与することができた。
【表4】

【0086】
〔血糖値等経時変化確認試験〕
試験日前日の午後9時以降に絶食、絶飲酒としたヒトに対し、試験日の朝(8時頃)、上記実施例1〜3に準じて作成した、大豆由来たんぱく質を含む経腸栄養組成物(約300〜400kcal)を、経口投与、経管による経鼻投与、又は経管による胃瘻からの投与等、経腸栄養組成物を投与可能ないずれかの方法でヒトに投与する。経腸栄養組成物の投与開始30分前に採血を行い、血糖値、血中インスリン値、及び血中C−ペプチド値の各種の値を常法により測定しておく。
【0087】
経腸栄養組成物の投与開始30分、1時間、2時間、及び3時間後に採血を行い、血糖値、血中インスリン値、及び血中C−ペプチド値の各種の値を投与開始前と同様の方法により測定する。
経腸栄養組成物の投与開始30分前、投与開始30分、1時間、2時間、及び3時間後の上記各種の値から、経腸栄養組成物投与による血糖値、血中インスリン値、及び血中C−ペプチド値の経時変化を観察することにより、投与した経腸栄養組成物摂取後の急激な血糖上昇の抑制効果を確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の経腸栄養組成物は、低粘度で、素手や加圧装置などの特別な押し出し力を必要とすることなく自然落下で投与することができ、しかも胃における滞留時間が長く、下痢や栄養組成物摂取後の急激な血糖上昇の抑制に対して有効となりうる。例えばチューブの一端を口腔や鼻腔から挿入し、先端を胃腸部に保留して経管で栄養補給する場合のように、長いチューブを介する際にも、本発明の経腸栄養組成物は自然落下により短時間で投与することができる。よって、本発明の経腸栄養組成物は、医薬及び食品の分野において産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆由来たんぱく質を含有し、粘度が50〜500mPa・sである経腸栄養組成物。
【請求項2】
前記経腸栄養組成物のエネルギー100kcal当たり前記大豆由来たんぱく質を1.2〜7.0g含有し、かつ、前記経腸栄養組成物中の全たんぱく質に対する前記大豆由来たんぱく質の割合が40重量%以上である、請求項1に記載の経腸栄養組成物。
【請求項3】
経管経腸栄養組成物である、請求項1又は2に記載の経腸栄養組成物。
【請求項4】
pHが3.0〜5.0である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の経腸栄養組成物。
【請求項5】
前記経腸栄養組成物のエネルギー100kcal当たり不溶性食物繊維を1〜6g含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の経腸栄養組成物。
【請求項6】
前記経腸栄養組成物のエネルギー100kcal当たり脂質を1.6〜4.4g及び炭水化物を8.1〜18.4g含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の経腸栄養組成物。
【請求項7】
エネルギー濃度が1.2〜2.0kcal/mLである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の経腸栄養組成物。

【公開番号】特開2012−144531(P2012−144531A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−279607(P2011−279607)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【Fターム(参考)】