説明

経血管的神経刺激装置および方法

経血管的神経刺激用の電極構造物は、電極を電気絶縁性バッキング層と組合せる。バッキング層は、血管の管腔内の血液を通る電気経路の電気インピーダンスを増加させ、その結果、周囲組織を通る電流の流れを増加させる。電極構造物は、横隔神経、迷走神経、三叉神経、閉鎖神経または他の神経などの神経を刺激するために適用されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経生理学に関し、特に、血管壁を通して神経を刺激する装置および方法に関する。本発明の態様は、血管の近くを通る神経を刺激するために、血管内に展開されることができる電極構造物、神経刺激システムおよび神経刺激のための方法を提供する。本発明の態様は、呼吸を回復するため、慢性疼痛などの症状を処置するためおよび神経刺激を含む他の使用のために適用することができる。本発明の態様は、急性または慢性症状の処置に適用することもできる。
【0002】
本出願は、2007年1月29日に出願された、「MINIMALLY INVASIVE NERVE STIMULATION METHOD AND APPARATUS」という名称の米国特許出願第60/887031号からの優先権を主張する。米国のために、本出願は、参照により本明細書に組込まれる、2007年1月29日に出願された、「MINIMALLY INVASIVE NERVE STIMULATION METHOD AND APPARATUS」という名称の米国特許出願第60/887031の、米国特許法第119条の下での利益を主張する。
【背景技術】
【0003】
神経刺激は、ある範囲の症状の処置において適用することができる。神経刺激は、筋肉活動を制御するか、または、感覚信号を生成するために適用してもよい。神経は、神経内か、神経の周りかまたは神経の近くに電極を外科的に埋め込み、埋め込み式のまたは外部の電気源から電極を駆動することによって刺激されてもよい。
【0004】
横隔神経は、通常、呼吸に必要である横隔膜の収縮を引き起こす。種々の症状は、適切な信号が横隔神経に送出されることを妨げる可能性がある。これらの症状は、
・脊髄または脳幹に対する慢性または急性損傷、
・筋萎縮性側索硬化症(ALS)、
・脊髄または脳幹に影響を及ぼす疾患、および、
・日中または夜間の換気刺激換気刺激の減少(たとえば、中枢性睡眠時無呼吸、オンデイーヌの呪い)
を含む。これらの症状は、かなりの数の人々に影響を及ぼす。
【0005】
患者の呼吸を助けるために機械的換気が使用されてもよい。一部の患者は、長期継続的な機械的換気を必要とする。機械的換気は、救命的であるが、ある範囲の重大な問題を有する可能性がある。機械的換気は、
・肺の不十分なガス抜きをもたらす傾向がある。これは、肺内への流体の蓄積および感染に対する感受性をもたらす可能性がある。
・容易に持ち運びできない装置を必要とする。換気時の患者は換気装置につながれる。これは、筋肉(呼吸筋肉を含む)の萎縮および健康状態の全体的な低下をもたらす可能性がある。
・肺が加圧されるため、静脈還流に悪い影響を与える可能性がある。
・摂食および会話を妨げる。
・費用のかかる保守および使い捨て用品を必要とする。
【0006】
横隔神経ペーシングは、横隔神経を直接刺激するために、胸部内に埋め込まれる電極を使用する。ニューヨーク州コマック(Commack, New York)所在のAvery Biomedical Devicesから入手可能なMarkIV呼吸ペースメーカシステム(Breathing Pacemaker System)は、横隔膜神経または横隔神経刺激器であり、外科的に埋め込まれた受信機および埋め込み式受信機を覆って装着されたアンテナによって外部送信機に嵌合した電極からなる。横隔神経ペーシング用の埋め込み用電極および他の埋め込み型コンポーネントは、大がかりな手術を必要とする。手術は、横隔神経が小さく(ほぼ直径2mm)もろいことによって複雑になる。手術はかなりのコストを必要とする。
【0007】
Case Western Reserve Universityの医用生体工学者および医師研究者によって開発されている腹腔鏡下横隔膜ペーシングは、呼吸を制御するための別の技法である。腹腔鏡下横隔膜ペーシングで使用するためのデバイスは、Synapse Biomedical, Inc.によって開発されている。腹腔鏡下横隔膜ペーシングは、横隔膜の運動点に電極を設置することを含む。運動点を探索するために、腹腔鏡および特別に設計されたマッピング手技が使用される。
【0008】
神経刺激分野の参考文献は、
・Moffitt他「TRANSVASCULAR NEURAL STIMULATION DEVICE」という名称のWO06/110338A1、
・Caparso他「SYSTEM FOR SELECTIVE ACTIVATION OF A NERVE TRUNK USING A TRANSVASCULAR RESHAPING LEAD」という名称のUS2006/0259107、
・Dahl他「STENT−TYPE DEFIBRILLATION ELECTRODE STRUCTURES」という名称のWO94/07564、
・Scherlag他「METHOD AND APPARATUS FOR TRANSVASCULAR TREATMENT OF TACHYCARDIA AND FIBRILLATION」という名称のWO99/65561、
・Bulker他「BIOLOGICAL TISSUE STIMULATOR WITH FLEXIBLE ELECTRODE CARRIER」という名称のUS20070288076A1、
・Weinberg他「IMPLANTABLE LEAD AND METHOD FOR STIMULATING THE VAGUS NERVE」という名称のEP 1304135 A2、
・Moffitt他「SYSTEM FOR SELECTIVE ACTIVATION OF A NERVE TRUNK USING A TRANSVASCULAR RESHAPING LEAD」という名称のUS20060259107、
・Denker他「IMPLANTABLE DEFIBRILLATOR WITH WIRELESS VASCULAR STENT ELECTRODES」という名称のUS6907285、
・Chavan他「IMPLANTABLE AND RECHARGEABLE NEURAL STIMULATOR」という名称のUS20070093875、
・Rezai「ELECTRICAL STIMULATION OF THE SYMPATHETIC NERVE CHAIN」という名称のUS6885888、
・Mehra「IMPLANTABLE ELECTRODE FOR LOCATION WITHIN A BLOOD VASSEL」という名称のUS5170802、
・Mahchek他「IMPLANTABLE ENDOCARDIAL LEAD ASSEMBLY HAVING A STENT」という名称のUS5954761、
・Webster Jr.他「METHOD AND APPARATUS FOR TRANSVASCULAR TREATMENT OF TACHYCARDIA AND FIBRILLATION」という名称のUS6292695、
・StokesUS4643201、
・Elia Medical SA,EP 0993840A、US6385492、
・WO9407564は、患者の脈管構造物を通して挿入されることができるステントタイプの電極を記載する。
・WO9964105A1は、頻脈の経血管的処置を記載する。
・WO9965561A1は、頻脈および細動の経血管的処置のための方法および装置を記載する。
・「VASCULAR SLEEVE FOR INTRAVASCULAR NERVE STIMULATION AND LIQUID INFUSION」という名称のWO02058785A1は、神経を刺激する電極を含むスリーブを記載する。
・WO06115877A1は、血管埋め込み式デバイスを使用した迷走神経刺激を記載する。
・「INTRAVASCULAR ELECTRONICS CARRIER AND ELECTRODE FOR A TRANSVASCULAR TISSUE STIMULATION SYSTEM」という名称のWO07053508A1およびUS20070106357A1は、リード線の導体が、キャリアメッシュ内に編み込まれた血管内メッシュタイプ電極キャリアを記載する。
・US5224491は、血管内で使用するための埋め込み型電極を記載する。
・US5954761は、冠状静脈洞内に挿入されることができるステントを保持する埋め込み型リード線を記載する。
・US6006134は、開胸手術中の神経の経静脈刺激を記載する。
・US6136021は、冠状静脈リード線用の拡張可能電極を記載する(電極は心臓の脈管構造物内に設置されるか、または、保持されることができる)。
・Spreigl他「APPARATUS AND METHOD FOR FIXING ELECTRODES IN A BLOOD VESSEL」という名称のUS6161029は、血管における固定用電極を記載する。
・US6438427は、冠状静脈洞内に挿入するための電極を記載する。
・US6584362は、冠状静脈内から心臓をペーシングし、かつ/または、検知するリード線を記載する。
・US6778854は、迷走神経の刺激のために、頚静脈内での電極の使用を記載する。
・US6934583は、血管内の電極による迷走静脈の刺激を記載する。
・US7072720は、カテーテルおよび管電極デバイスであって、血管の内壁または電極デバイスが埋め込まれる解剖学的構造物に接触することを意図された拡張用電極を組込む、カテーテルおよび管状電極デバイス、ならびに、迷走神経の刺激を含む方法を記載する。
・US7184829は、迷走神経の経血管的刺激を開示する。
・US7225019は、頚静脈で使用されてもよい血管内神経刺激電極を開示する。
・US7231260は、血管内電極を記載する。
・Schauerte他「ELECTRODE FOR INTRAVASCULAR STIMULATION, CARDIOVERSION AND/OR DEFIBRILLATION」という名称のUS2002/0026228、
・Jonkman他、US6006134、
・Bonner他、US6201994、
・Brownlee他、US6157862、
・Scheiner他、US6584362、
・Psukas、WO01/00273、
・FR2801509、US2002065544、
・Morgan、US6295475、
・Bulkes他、US6445953、
・Rasor他「INTRA−CARDIAC STIMULATOR」という名称のUS3835864、
・Denker他、US20050187584、
・Denker他「INTRAVASCULAR STIMULATION SYSTEM WITH WIRELESS POWER SUPPLY」という名称のUS20060074449A1、
・Denker他「INTRAVASCULAR ELECTRORONICS CARRIER ELECTRODE FOR A TRANSVASCULAR TISSUE STIMULATION SYSTEM」という名称のUS20070106357A1、
・Boveja他、US20050143787、
・「Transvenous Parassympathetic cardiac nerve stimulation;an approach for stable sinus rate control」Journal of Cardiovascular Electrophysiology 10(11)pp.1517−1524 Nov. 1999、
・「Transvenous Parassympathetic nerve stimulation in the inferior vena cava and atrioventricular conduction」Journal of Cardiovascular Electrophysiology 11(1)pp.64−69 Jan. 2000、
・Planas等「Diaphragmatic pressures:tranvenous vs. direct phrenic nerve stimulation」J.Appl.Physiol.59(1):269−273,1985、
・Yelena Nabutovsky, M.S.等「Lead Design and Initial Application of a New Lead for Long−Term Endovascular Vagal Stimulation」PACE vol.30,Supplement 1、January 2007 p.S215
を含む。
【0009】
関心のある他の参考文献は、
・Amundson、US5779732
を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
神経刺激のための、外科的に簡単で、費用効果的で、実用的な装置および方法についての必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ある範囲の態様を有する。本発明の一態様は、神経の経血管的刺激のための電極を提供する。複数の実施形態では、電極構造物は、電気絶縁性バッキングシート上に支持される少なくとも1つの電極と、バッキングシートを血管の内壁に当たるよう保持する構造物であって、電極は血管の内壁に接触する、保持する構造物とを備える。一部の実施形態では、バッキングシートは、血管の管腔の周縁の周りにピッタリ合うために、血管の管腔内部で広がるように設計される。こうした実施形態では、バッキングシートは、バッキングシートを血管の内壁に当たるよう保持する構造物を備えることができる。他の実施形態では、拡張可能ステントまたは管が、バッキングシートおよび電極を血管壁に当たるよう保持するために設けられる。
【0012】
本発明の別の態様は、刺激信号発生器ならびに第1および第2電極構造物を備える神経刺激システムを備える。第1電極構造物は、第1の複数の電極を備え、かつ、左横隔神経に近接する人の左腕頭静脈の管腔に沿う位置に埋め込み可能である大きさに作られる。第2電極構造物は、第2の複数の電極を備え、かつ、右横隔神経に近接する人の上大静脈の管腔に沿う位置に埋め込み可能である大きさに作られる。システムは、信号発生器から第1および第2の複数の電極に信号を送信するために、電気リード線、無線システムなどのような手段とを備える。
【0013】
本発明の別の態様は、人の呼吸を調節する方法を提供する。方法は、左横隔神経に近接する左腕頭静脈の管腔に沿う位置の第1電極構造物および右横隔神経に近接する上大静脈の管腔に沿う位置の第2電極構造物の少なくとも一方を埋め込むこと、および、その後、刺激信号を第1および第2の電極構造物の電極に印加することによって、左および右の横隔神経を刺激することを含む。
【0014】
本発明のさらなる態様および本発明の特定の例示的な実施形態の特徴が以下で記載される。
添付図面は、本発明の非制限的な例示的な実施形態を示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】血管に隣接するいくつかの神経を示す図である。
【図2】例示的な実施形態による経血管的神経刺激装置の略図である。
【図3】血管の内壁の周りに離間した複数の電極または電極列を有する電極構造物を通した断面図である。
【図4A】血管内に拡張可能ステントを含む例示的な実施形態による電極構造物の埋め込み時のステージを示す部分断面図である。
【図4B】血管内に拡張可能ステントを含む例示的な実施形態による電極構造物の埋め込み時のステージを示す部分断面図である。
【図4C】血管内に拡張可能ステントを含む例示的な実施形態による電極構造物の埋め込み時のステージを示す部分断面図である。
【図5A】血管の内壁に当たるよう拡張した電極構造物を保持する係合構造物を有する、ある実施形態による電極構造物を示す部分断面図である。
【図5B】血管の内壁に当たるよう拡張した電極構造物を保持する係合構造物を有する、ある実施形態による電極構造物を示す部分断面図である。
【図5C】血管の内壁に当たるよう拡張した電極構造物を保持する係合構造物を有する、ある実施形態による電極構造物を示す部分断面図である。
【図6】電極が保持管によって血管の内壁に当たるよう保持される別の実施形態による電極構造物を示す斜視図である。
【図6A】電極が保持管によって血管の内壁に当たるよう保持される別の実施形態による電極構造物を示す断面図である。
【図7A】平面構成で4つの電極を有する電極構造物を示す斜視図である。
【図7B】電極が半径方向外側に向いた状態の、巻回構成において4つの電極を有する電極構造物を示す斜視図である。
【図7C】(他の電極構成の中でもとりわけ)2極対で使用されることができる電極を有する非巻回式電極構造物の平面図である。
【図7D】図7Cの電極構造物の電極を対にする例示的な方法を示す図である。
【図7E】図7Cの電極構造物の電極を対にする例示的な方法を示す図である
【図7F】(他の電極構成の中で)2極対で使用されることができる電極を有する非巻回式電極構造物の平面図である。
【図7G】開口された挿入管内で電極構造物が巻かれる巻回構成において4つの電極列を有する電極構造物を示す斜視図である。
【図7H】別の実施形態による電極構造物が設置された血管を通した断面図である。
【図8A】血管を横切って延びる神経を刺激するための2極電極を備える構造物の使用の略図である。
【図8B】血管を横切って延びる神経を刺激するための2極電極を備える構造物の使用の略図である。
【図8C】全体が血管に平行に延びる神経を刺激するための2極電極を備える構造物の使用の略図である。
【図9】患者の頚部の切り取り図である。
【図9A】電極構造物が頚部または上側胸部領域の人の内頚静脈内に配設される実施形態による、人内に設置された最小侵襲経血管的神経刺激システムを示す切り取り図である。
【図10A】人の頚部および上側胴体における選択された神経および血管の解剖学的構造物を示す図である。
【図10B】人の頚部および上側胴体における選択された神経および血管の解剖学的構造物を示す図である。
【図11】電極構造物が、人の上大静脈および左腕頭静脈の一方または両方に配設される実施形態による、人内に設置された最小侵襲経血管的神経刺激システムを示す切り取り図である。
【図12】刺激信号が電極構造物に送出されるようにする制御信号が無線で送信される実施形態による、人内に設置された最小侵襲経血管的神経刺激システムを示す切り取り図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の説明全体を通して、本発明のより完全な理解を可能にするために、特定の詳細が記載される。しかし、本発明は、これらの詳細無しで実施されてもよい。他の例では、本発明を不必要に曖昧にすることを回避するために、よく知られている要素は、示されないか、または、詳細に記載されない。したがって、本明細書および図面は、制限的な意味ではなく、例証的な意味で考えられるべきである。
【0017】
本発明は、神経の経血管的刺激に関する。経血管的刺激では、1つまたは複数の電極の適した配置構成が、刺激される神経の近くを通る血管内に位置決めされる。電流は、神経を刺激するために、電極から血管の壁を通して流れる。
【0018】
図1は、管腔Lを画定する壁Wを有する血管Vの近くを通る3つの神経N1、N2およびN3を示す。図1は、例証的であり、任意特定の血管または神経を表すことを意図されない。図1は、神経が静脈または動脈の近くを通る身体の種々の場所のうちの任意の適した1つの場所を示す。神経N1およびN2は、血管Vにほぼ平行に延び、神経N3は、少なくとも図1に示す部分において、全体が血管Vを横切って延びる。神経N1は、神経N2に比べて血管Vに近い。
【0019】
図2は、神経N1を刺激するために、血管Vの管腔L内に挿入された電極構造物10の使用を概略的に示す。電極構造物10は、電極12、電気絶縁性バッキング層14および血管Vの内壁に当たるよう電極12およびバッキング層14を所定場所に保持する手段15を備える。電極12は、バッキング層14に取付けられてもよい。しかし、これは、強制ではない。電極12は、血管の壁Wに当たって、または、血管の壁Wに少なくとも非常に接近して保持されることができること、および、バッキング層14は、管腔Lに面する電極12の側面を覆うことで十分である。手段15として使用されてもよい種々の例示的な構造物は、以下で記載される。図2で全体が示されるように、電気絶縁性バリアを裏に施された電極を提供する電極構造物は、種々の方法で提供されてもよい。
【0020】
電極12は、適したリード線17で信号発生器18に接続される。信号発生器18は、リード線17によって電流を電極12に供給する。信号発生器18は、埋め込まれるか、または、身体の外部にあってもよい。信号発生器18は、たとえば、埋め込み型パルス発生器(IPG)を備えてもよい。
【0021】
一部の実施形態では、電極構造物10は、1つまたは複数の電極12に信号を印加するための回路(図示せず)、および、電池、無線で電力を受信するシステムまたは別の電力供給源を含む。こうした実施形態では、信号発生器18は、制御信号を送出してもよく、制御信号によって、適した無線リンク技術によって回路が刺激信号を電極12に印加する。無線リンクは、信号発生器18に関連する小型送信機と電極構造物10に関連する小型受信機との間で制御信号の通信を行うことができる。適度な小型回路要素によって、十分に大きな血管内で電極構造物10と同じ場所に配置される信号発生器18を設けることが可能である場合がある。信号発生器18は、たとえば、バッキングシート14内に埋め込まれた薄い電子回路を備えてもよい。
【0022】
電極12は、電流用の供給源としてまたはシンクの役をする。信号発生器18によって発生する電気信号の性質に応じて、電極12は、あるときは、電流源の役をし、別のときは、電流シンクの役をすることができる。患者に接触する別の電極または電極のグループ(図2では示さない)は、電気回路を完成するのに役立つ。他の電極または電極のグループは、電極構造物10内に組込まれてもよく(通常、好ましいことである)、または、別個であってよい。
【0023】
電気絶縁性バッキング層14は、電流の流れに対して高インピーダンスを呈し、したがって、血管V内の血液を通る電流量を減少させる。層14が、極端に高い電気抵抗を有することは強制的ではない。層14が、血管V内の血液によって提示される抵抗に比べてかなり大きい、層14を通る電気の流れに対する抵抗を有するのであれば十分である。血液は、通常、約120〜190Ωcmの抵抗率を有する。例示的な実施形態では、血管内の血液は、血管の管腔の寸法に逆比例する、密接した間隔の電気接触部間の電気抵抗を提供する可能性がある。大きな血管では、密接した間隔の適度の接触部間の長手方向電気抵抗は、たとえば、数十オームである可能性がある。層14は、層14の厚さを通る電流に対して、好ましくは、少なくとも数百オーム、好ましくは数キロオーム以上の電気抵抗を提供する。層14は、層14内に埋め込まれるリード線などのような導電性部材を有する、すなわち、層14の内面が導電性であるが、それでも、「電気絶縁性」であると考えられる。
【0024】
層4を、シリコーンゴムエラストマー、生体適合性プラスチックまたは別の生体適合性絶縁材料などの適した材料で作ることによって、電流の流れに対してバッキング層14が適した抵抗を有することを実現することが容易に可能である。図2は、バッキング層14の存在が、血管Vから外にどのように電界Eを向けるか(等電位線によって図2に概略的に示す)を示す。
【0025】
図2では、神経N1への電気刺激の送出は、
・神経N1に近いロケーションで、血管Vの内壁に当たるよう電極12を配置すること、
・血管Vの内壁との大きな接触面積を達成することができる比較的大きな接触面を有する電極12を設けること、
・血管Vの内面の曲率にほぼ一致するように、電極12の接触面を湾曲させること、
・電気絶縁性バッキングシート14を設けること
によって高められる。
【0026】
これらの特徴によって、ターゲット神経N1を刺激するために、管腔L内の血液に接触する管腔L内に配置されたワイヤ電極の場合にそうであるのに比べてかなり低い刺激強度が必要とされる。さらに、対象神経についての選択性が改善される。有利には、電極12は、約1/2mm〜約5mmの範囲の活性表面積を有する。一部の実施形態では、各電極は、2mm程度の活性表面積を有する。
【0027】
電極構造物10は、最小侵襲の安全な方法で血管V内に導入されてもよい。血管Vは、ターゲット神経N1の近傍を通る比較的大きな血管であってよい。一部の実施形態では、電極構造物10は、適した寸法の可撓性マルチコンタクト電極キャリアシート(ECS)を備える。シートは、血管V内へ挿入される前に、密に巻かれてもよい。血管V内に入ると、シートは、ほどけて、電極12が血管Vの壁Wに接触することを可能にすることができる。
【0028】
電極構造物は複数の電極を支持してもよい。図3は、電極22A、22B、22Cおよび22D(ひとまとめに電極22)を含むいくつかの電極を支持する例示的な電極構造物20を示す。図3の平面外の他の電極が存在してもよい。示す実施形態では、電極22A、22B、22Cおよび22Dは、血管Vの内壁の周囲にわたって円周上にほぼ等間隔に配置される。各電極22は、薄い可撓性絶縁シート24(24A、24B、24Cおよび24Dとして個々に識別される)によって血管Vの管腔から絶縁される。絶縁シート24はそれぞれ、血管Vの内壁に当たるようコンフォーマルに配設される。代替の実施形態では、2つ以上の電極が、共通絶縁シート上に配設される。絶縁シート24は、接合してもよく、または、連続シートの異なる部分であってよい。
【0029】
E1、E2、E3およびE4は、対応する電極の電流に関連する電界が神経を刺激するのに十分強い、電極24A〜24Dに対応するエリアを示す。電極における信号(たとえば、刺激パルス)の強度を増加させることによって、(より大きな点線領域で示すように)影響を受けるエリアが増加する。
【0030】
図3は、2つの神経N4およびN5を示す。電極22Aからの刺激信号が神経N4を刺激することができることが見てわかる。電極22Cからの刺激信号は神経N5を刺激することができる。血管Vならびに神経N4およびN5の配置は、人の頚部領域における内頚静脈ならびに横隔神経および迷走神経の配置と同じである。図3に示す配置によって、N4のロケーションのターゲット横隔神経は、電極22Aの近接性が高いため、また同様に、電極22Aによって影響を受けるエリアE1の形状のために、優先的に刺激される。ロケーションN5の迷走神経は、通常、電極22Aからほぼ正反対にあり、電極22Aにおいて通常レベルで送出される信号によって影響を受けない。しかし、迷走神経は、電極22Cにおいて送出される信号によって影響を受ける。
【0031】
成人ヒトの横隔神経および迷走神経は、それぞれ、径が約2mmである。成人ヒトの内頚静脈の管腔は、通常、径が約10mm〜20mmの範囲にある。横隔神経から内頚静脈までの距離および迷走神経から内頚静脈までの距離は、それぞれ通常、約2mm〜約10mmの範囲にある。一般に、横隔神経および迷走神経は、内頚静脈の対向する側にあるため、互いからほぼ15mm〜30mm離れている。この配置は、他の神経を刺激することなく、迷走神経だけの、または、横隔神経だけの経血管的刺激を実施することができることを容易にする。一部の実施形態によるシステムは、横隔神経または迷走神経だけを刺激する。他の実施形態によるシステムは、内頚静脈内に配置される電極構造物から、横隔神経および迷走神経のいずれかまたは両方を選択的に刺激する。
【0032】
多くの場合、神経は複数の束を備える。たとえば、図3に示す例では、横隔神経N4は、3つの横隔束PF1、PF2およびPF3からなる。これらの横隔束は、電極22Aにおける刺激電流の漸増レベルによって選択的に回復される。低い刺激レベルでは、PF1だけが回復される。より高いレベルでは、PF1およびPF2が共に回復される。さらに高いレベルでは、PF1、PF2およびPF3が全て回復される。図3では、迷走神経N5は、2つの迷走束VF1およびVF2からなり、2つの迷走束VF1およびVF2は、電極22Cにおける刺激電流の漸増レベルによって選択的に回復される。低い刺激レベルでは、VF1だけが回復される。より高い刺激レベルでは、VF1およびVF2が共に回復される。
【0033】
電極構造物が、血管Vの管腔L内の血液の流れに対して最小の障害物を提供することが望ましい。したがって、電極構造物は、好ましくは、血管Vの内径と比較して薄い。一部の実施形態では、電極および絶縁性バッキングシートを支持する構造物は、電極および絶縁性バッキングシートを管腔L内で半径方向外側に付勢して、血流が電極構造物を通るための開口通路を残す。血管内での血流の途絶または妨害を防止するために、血管内電極構造物の断面積は、血管の管腔の断面積のある割合を超えるべきでない。10mmの内径を有する丸い血管は、約75mmの断面積を有する。血管内で拡張したときの電極構造物の円周は、好ましくは、10×πmm(約30mm)より大きくなるべきではない。電極構造物の厚さが、約0.3mmと0.5mmとの間である場合、電極構造物の断面積は、約10mm〜15mmであることになり、血管の管腔の20%未満を示す。
【0034】
図4A、4Bおよび4Cは、例示的な実施形態による電極構造物30を示す。電極構造物30は、可撓性がある電気絶縁性シート34上に配設された複数の電極32を備える。イントロディーサ管36内部で拡張可能ステント35の周りに密に巻かれた電極構造物が、最初に、血管V内に導入される。ステント35は、たとえば、拡張可能ワイヤステントを備えてもよい。種々の適した拡張可能ワイヤステントは、医療デバイス製造業者から入手可能である。
【0035】
電極構造物30は、イントロディーサ管36内で、血管Vの所望ロケーションに誘導される。所望ロケーションにおいて、イントロディーサ管36は、引込められて、電気絶縁性シート34が、図4Bに示すように広がり始めることが可能になる。ステント35は、その後、拡張して、電気絶縁性シート34をさらに広げ、また、図4Cに示すように、電気絶縁性シート34および電気絶縁性シート34上に保持される電極32を、血管Vの内壁に当たるよう付勢する。
【0036】
図の実施形態では、ステント35は、点、点列または線37でシート34に取付けられる。ステント35は、電極32およびシート34を保持するために、所定場所に残される。
【0037】
ステント35は、任意の適したタイプの拡張可能ステントを備えてもよい。広い範囲のこうしたステントが知られている。ステント35は、ステントにとって適切な方法で拡張する。たとえば、一部の実施形態では、バルーンがステントの内部に設置され、バルーンを膨張させることによってステントが拡張する。バルーンは、ステントが拡張した後に引抜かれてもよい。
【0038】
図5A、5Bおよび5Cは、可撓性シート44上に支持される電極42、および、血管Vの管腔L内で可撓性シート44が開放すると、可撓性シート44の対向するエッジ部分44Aおよび44Bがかみ合うことを可能にする係合機構47を有することを除いて、電極構造物30と同じである電極構造物40を示す。エッジ部分44Aおよび44Bのかみ合いは、電極42が壁Wの内面に接触した状態で可撓性シート44を拡張形状に保持する。電極構造物40は、(ステントは、任意選択で、シート44のためのさらなる支持を提供するために追加されることができるが)可撓性シート44の内部にステントを持たない。ステント44は、図5Aまたは5Bのいずれかに示すのに比べて密に巻かれていない構成に向かって広がる傾向があるように作られてもよい。この傾向は、挿入管46から取外されると、シート44を図5Bの構成に開放するよう付勢し、シート44を、血管V内の所定場所に保持するのを助けることになる。
【0039】
図の実施形態では、機構47は、エッジ部分44Aおよび44Bに沿ってそれぞれ長手方向に延びる嵌合用隆起セット47Aおよび47Bを備える。隆起47Aおよび47Bは、シート44の対向する主面上にあるため、シート44が完全に広がると、互いに接触することができる。図5Bに示すように、隆起47Aおよび47Bは、シート44が、血管Vの寸法が許容する限り一杯に広がるとインターロックする。こうして、機構47は、シート44および電極42を、壁Wの内部にピッタリ当たって保持し、また、シート44が、内側に巻くか、または、壁Wから離れて移動することを防止するのに役立つ。
【0040】
好ましい実施形態では、機構47は、ある範囲のオーバラップの程度でエッジ部分44Aおよび44Bの係合を可能にする。そのため、シート44が、異なるサイズの所与の範囲内のサイズを有する血管の内壁に当たるよう拡張したときに、機構47は、エッジ部分44Aおよび44Bの係合を可能にする。
【0041】
代替の係合機構47が可能である。たとえば、一部の実施形態では、生体適合性接着剤が、エッジ部分44Aと44Bとの間に導入される。他の実施形態では、隆起または他のインターロック機構および生体適合性接着剤が共に使用される。
【0042】
電極構造物を導入し、血管に沿って所望ロケーションまで摺動させることによって、所望ロケーションにおいて、管46から出るよう電極構造物を摺動させることによって、電極構造物40が部分的にまたは完全に自分でほどける場合、電極構造物40がほどけることを可能にすることによって、必要である場合、バルーン49を膨張させて、電極構造物40を完全に拡張させる、かつ/または、係合機構47を係合させることによって、電極構造物40が所望ロケーションに設置されてもよい。電極構造物を導入することは、血管をカニュレーションすること、および、電極構造物をカニュレーション部位に導入することを含んでもよい。
【0043】
図5Cは、電極構造物40を取除く、または、再配置する方法を示す。電極構造物40は、シート44の内側エッジの近くかまたは内側エッジにおいてシート44に取付けられ、管腔L内から把持可能なタブ48または他の突出部を備える。ツール50は、管腔L内に挿入され、タブ48を把持するよう動作するあご部51を有する。位置50Aにおいて、ツール50のあご部51は、タブ48を受取るために開放する。位置50Bにおいて、あご部51は、タブ48を把持するよう動作した。位置50Cにおいて、ツール50は、管腔Lの中心に向かって移動させられ、それにより、ツール50は、シート44の内部エッジを壁Wから剥がした。ツール50は、その軸を中心に回転して、電極構造物40を小さな構成になるよう巻くことができる。電極構造物40は、その後、血管44に沿って新しい位置まで移動してもよく、または、血管Vからの安全な取外しのために挿入管内に引込まれてもよい。
【0044】
図6および6Aは、電極72を保持する、巻かれた可撓性のある電気絶縁性シート74を含む電極構造物70を示す。シート74は、血管V内で部分的に広がることによって開放してもよい。管状保持器73が、その後挿入されて、シート74および電極72を、血管の壁に当たるよう所定場所に保持してもよい。血管の管腔より小さい切開を通して、電極構造物70が血管内に挿入される場合、管状保持器73は、開口を通して導入されるように拡張可能であり、次に、シート74および電極72を保持するのに適したサイズまで拡張する。
【0045】
保持器73は、シート74の内部に設置されると、必要とされるだけ長い期間、シート74および電極72を血管の内壁に密接に並置して保持するように選択された径を有する。保持器73の外径は、血管Vの内径からシート74の厚さの2倍を引いた値によく合致するように選択される。たとえば、10mmの内径を有する血管および1/2mmのシート厚を有する電極構造物70の場合、保持器73の外径は、約10mm−2×1/2mm=9mmであるべきである。外科医が最良のサイズを選択し挿入することを可能にするために、ある範囲の径の保持器73が設けられてもよい。10mm以上の内径を有する典型的な血管では、保持器73が血管内で傾斜しないことを確実にするために、保持器73の長さは、保持器73の径の少なくとも約2倍であるべきである。保持器73の壁厚は、かなり小さく、たとえば、最大約0.3mm程度であってよい。保持器73は、生体適合性材料(たとえば、ステンレス鋼またはチタン)または高強度生体適合性ポリマーなどの適した材料でできていてもよい。
【0046】
ワイヤ75は、信号発生器から電極72まで信号を伝播する。代替の実施形態では、信号発生器は、電極構造物70と一体化される。こうした信号発生器は、適した無線リンクによって供給される制御信号に応じて刺激パルスを発するように制御されてもよい。
【0047】
図7A〜7Gは、電極構造物の例を示す。図7Aの電極構造物80は、可撓性絶縁シート84の主面81上に支持された4つの電極82(個々には、82A〜82D)を有する。絶縁式リード線85は、電極82を信号発生器(図7Aには示さず)に接続する。シート84は、たとえば、シリコーンの可撓性層を備えてもよい。電極82および電極リード線85は、任意の適した形状および材料でできてよく、たとえば、テフロン(商標)コーティングされたワイヤリード線を有するステンレス鋼またはプラチナイリジウムマルチストランデッドワイヤ電極であってよい。
【0048】
電極構造物80は、たとえば、適した電極をコーティングされたワイヤリード線に接続し、次に、電極が、他の主面上ではなく、シリコーン層の一方の主面上で露出するようにシリコーン層内に電極およびリード線を埋め込むことによって作製されてもよい。
【0049】
電極構造物80は、電極82が外側を向いた状態で、電極構造物80を血管内に挿入し、任意の1つの電極を、遠隔参照電極に関して、標準定電流(好ましくは)または定電圧神経刺激器(カソード刺激)の負出力に接続することによって、神経を刺激するために使用されてもよい。あるいは、任意の2つの電極82が、アノードおよびカソードとして選択されることができる。
【0050】
電極構造物80は、「中から外へ」であるが、神経カフと類似である。各電極は、血管Vから外に放射し、かつ、ある制限された角度に及ぶ組織のセクターを優先的に刺激する。たとえば、血管の円周の周りにほぼ90°ごとに配設された4つの電極を有する電極構造物では、各電極によって影響を受ける組織の容積は、ほぼ90°に及んでもよい(たとえば、図3を参照されたい)。
【0051】
角度選択性のさらなる改善は、電極構造物80の外側主面上に長手方向隆起を設けることによって得られてもよい。隆起は、円周上に隣接する電極82間の電気的分離を強化する。隆起は、参照により本明細書に組込まれる、Hoffer他「NERVE CUFF HAVING ONE OR MORE ISOLATED CHAMBERS」という名称のUS5,824,027に記載される隆起に類似してもよい。隆起86は、図7Aに概略的に示される。
【0052】
任意選択で、シート84は、結合性組織付着のためのよりよい基材を提供し、そのため、血管内部における構造物80の長期の機械的安定性および不動性を増すために、穴または隆起などの幾何学的複雑さを含んでもよい。
【0053】
図7Bは、電極が血管内への挿入に備えて外を向いた状態で、密な螺旋体に巻かれた電極構造物80に似た電極構造物を示す。
図7Cは、別の実施形態による電極構造物90を示す。電極構造物90は、4つの対の電極92を支持する可撓性シート94を備える。シート94は、たとえば、薄い可撓性シリコーンシートを含んでもよい。電気リード線93は、対応する電極92を信号源に接続するために設けられる。電極および電気リード線は、任意の適した形状および材料でできてよく、たとえば、テフロン(商標)コーティングされたリード線を有するステンレス鋼またはプラチナイリジウムマルチストランデッドワイヤであってよい。図の実施形態では、電極接触面は、リード線の絶縁体がそこに存在しない電極窓を通して露出される。電極92Aおよび92E、92Bおよび92F、92Cおよび92Gならびに92Dおよび92Hは、たとえば、図7Dに示すように、対形成されてもよい。別の例として、電極92Aおよび92B、92Cおよび92D、92Eおよび92Fならびに92Gおよび92Hは、たとえば、図7Eに示すように、対形成されてもよい。
【0054】
電極構造物90は、電極構造物90を、電極92が外に向いた状態で血管内に挿入し、任意の2つの電極92を、標準定電流または定電圧神経刺激器の負出力および正出力に接続することによって1つまたは複数の神経を刺激するために適用されてもよい。効果的な刺激モードは、刺激中に最大電位差が、ターゲット神経内の神経軸索に沿って発生することになるように、ターゲット神経に全体が平行である線に沿って整列する電極対を選択することである。ターゲット神経およびターゲット血管は、互いに厳密に平行でなくてもよいため、ターゲット神経について最大の刺激選択性を提供する電極対が、そこから試行錯誤によって識別されることができる電極構造物内の複数の電極を有することが有用である。
【0055】
図7Fは、電極92のグループ間に延びる電気絶縁性材料の隆起91を含むことを除いて、電極構造物90を同じである電極構造物90Aを示す。
図7Gは、血管内への挿入に備えた電極構造物90に似た電極構造物を示す。電極構造物90は、螺旋体に巻かれ、外側保持器95によって保持される。外側保持器95は、比較的薄い壁を有する。たとえば、壁厚は、一部の実施形態では、約1/2mm以下であってよい。開口96は、外側保持器95の壁を貫通し、電流の流れを可能にする。開口96は、任意選択で、導電性プラグで充填されることができる。
【0056】
電極構造物90の少なくとも1つの電極92は、開口96を通して周囲物に電気的に露出される。電極構造物が、血管内ターゲットロケーション(ターゲットロケーションは、患者ごとに撮像調査研究によって前もって確定され、ECSインプラント手技中にx線透視によって監視されてもよい)に向かって進められつつあるときに、電極92が駆動される。少なくも一部の電極92が開口96によって露出するため、電極構造物90がターゲット神経に十分に近いときに、ターゲット神経が刺激されることになる。ターゲット神経の刺激効果が観察されて、電極構造物が、いつターゲット神経の近傍に達したかを判定することができる。反応が監視されて、血管内での電極構造物90の位置が微調整されてもよい。外側保持器95は、電極構造物90がターゲットロケーションにあるときに取外されてもよい。外側保持器95は、構造物90の展開後に復帰するようにテザー97によってテザーリングされる。
【0057】
図7Hは、血管V内の意図されたロケーションにおける構造物90を示す。外側保持器95は取外され、構造物90は、ほどけ、血管Vの内壁に当たるよう展開することが許容されている。構造物90の幅(円周寸法)は、ターゲットロケーションにおいて血管Vの内部周囲長にピッタリ一致するように選択される。血管Vの内部寸法は、超音波撮像、バルーンカテーテル、磁気共鳴撮像、あるいは、他の無侵襲または最小侵襲撮像技法から前もって確定されていてもよい。
【0058】
電極構造物90が、ターゲット神経の最適刺激についての所望位置にあるとき、外側保持器95は、ゆっくりと取外され、患者の身体から引抜かれ、一方、構造物90は、必要である場合、構造物90を安定にするため、また、外側保持器95が引抜かれる間に、構造物90が移動することを防止するために、一時的に使用される半剛性ロッド状ツール(図示せず)によって所定場所に保たれる。外側保持器95が引抜かれるときに、構造物90は、自然にかつ急速にほどけて、好ましい拡大円柱(または、一部の実施形態では、ほぼ平面)構成になり、電極92が血管壁にピッタリ接触して外向きに配設された状態で、血管の内壁に当たるよう伸張することになる。
【0059】
先に記載したように、ターゲット神経を刺激するために使用する電極の選択は、電極構造物がそこで展開される血管に対するターゲット神経の向きに依存する可能性がある。ターゲット神経が、血管に対してほぼ直角に通る場合、血管の壁にわたって円周上に離間した2つの電極間に電流を流すことによって、ターゲット神経を刺激することが最も効率的である可能性がある。こうした場合、血管に対して全体が平行に(たとえば、電極構造物の曲率の軸に対して全体が平行に)延びる細長い電極を設けることが望ましい場合がある。こうした細長い電極は、電気接続された小型電極の列によってエミュレートされてもよい。
【0060】
図8Aおよび8Bは、血管Vを横切って延びる神経Nを示す。示す実施形態では、神経は、血管に対して全体が直角に延びる。第1および第2電極55Aおよび55B(ひとまとめに電極55)を備える電極構造物54は、血管Vの管腔L内に配置される。電極55はそれぞれ、血管Vの壁Wの内面の近くにある、または、内面に押付けられる。電極構造物54は、さらなる電極、ならびに、電極54を所定場所に保持する構造物などの他の機構を有してもよい。しかし、明確にするために、これらは図8Aまたは8Bには示されない。電極55Aおよび55Bは、血管Vの周縁の周りで円周方向に互いから離間する。電極55は、理想的には、神経Nがそこに存在し、かつ、血管Vに垂直に交差する平面内に配設される。こうした構成における電極の精密な設置は強制的ではない。電極55は、全体が神経Nの軸に沿う方向に離間する。
【0061】
各電極55は、絶縁性バッキング部材56によって血管Vの管腔L内の血液との電気接触から保護される。示す実施形態では、バッキング部材56は、たとえば中空半球の形態を有してもよい中空絶縁性キャップを備える。各絶縁性キャップのエッジは、対応する電極55の周縁の周りで血管Vの壁Wに接触する。
【0062】
この実施形態では、電極55は、1つの電極が電流源として働き、他の電極が電流シンクとして働くように、2極配置で接続される。電極55の極性が常に同じままであることは強制的ではない。たとえば、一部の刺激モードでは、極性は切換えられることができる。示す実施形態では、電極55Aは、信号源に対してカソード(負)電極として接続され、一方、電極55Bはアノード(正)電極として接続される(図8Aまたは8Bには示されず)。刺激信号が、電極55間に印加されると、電界が生じる。電界によって、小電流が、周囲組織によって電極55間に流れる。
【0063】
電極55は血管Vの管腔から絶縁されるため、電流は、電流源電極55Aから出て壁Wおよび周囲組織を通って流れ、電流シンク電極55Bに戻る。刺激電流は、矢印Fで示す方向に神経Nを通って長手方向に流れる。十分な継続時間と強度の刺激パルスの場合、ターゲット神経の神経軸索Nは、神経N内の刺激された軸索に沿って伝導することになる活動電位を生成することになる。
【0064】
ターゲット神経が、血管に全体が平行に延びる場合、血管の壁に沿って長手方向に離間する2つの電極間に電流を流すことによってターゲット神経を刺激することが効率的である可能性がある。
【0065】
図8Cは、血管Vに平行に延びる神経Nを示す。第1および第2電極89Aおよび89B(ひとまとめに電極89)を有する電極構造物88は、血管V内部に配置され、電極89Aおよび89Bは、血管Vの壁Wの内面の近くにある、好ましくは、内面に押付けられる。電極構造物88は、さらなる電極、ならびに、電極89を所定場所に保持する構造物などの他の機構を有してもよい。しかし、明確にするために、これらは図8Cには示されない。電極89Aおよび89Bは、血管Vに沿って長手方向に互いから離間する。電極は、理想的には、血管の軸に平行に延びる線上に配設されるが、こうした構成における電極の精密な設置は強制的ではない。
【0066】
この実施形態では、電極89Aおよび89Bは、1つの電極が電流源として働き、他の電極が電流シンクとして働くように、2極配置で接続される。電極89Aおよび89Bの極性が常に同じままであることは強制的ではない。たとえば、一部の刺激モードでは、極性は切換えられることができる。
【0067】
図の実施形態では、電極89Aは、信号源に対してカソード(負)電極として接続され、一方、電極89Bはアノード(正)電極として接続される(図8Cには示されず)。各電極89は、絶縁性バッキング部材87によって血管Vの管腔L内の血液との電気接触から保護される。示す実施形態では、バッキング部材は、たとえば中空半球の形態を有してもよい中空絶縁性キャップを備える。各絶縁性キャップのエッジは、対応する電極89の周縁の周りで血管Vの壁に接触する。
【0068】
電極89は血管Vの管腔から電気的に絶縁されるため、電流は、電流源(たとえば、カソード89A)から出て壁Wを通って流れ、最終的に、電流シンク(たとえば、アノード電極89B)に戻る。これは、矢印Fで示す方向に神経Nを通って長手方向に流れる刺激電流をもたらす。十分な継続時間と強度の刺激パルスの場合、ターゲット神経の神経軸索は、神経N内の刺激された軸索に沿って伝導することになる活動電位を生成することになる。
【0069】
呼吸を調節するか、または、呼吸を引き起こすように横隔神経を刺激することは、本明細書に述べる電極構造物の例示的な例である。本発明は、四肢麻痺、中枢性肺胞低換気、日中または夜間の換気刺激減少(たとえば、中枢性睡眠時無呼吸、オンデイーヌの呪い)あるいは脳幹損傷または疾病を含む高い頚椎部脊髄損傷または疾病などの中枢神経病変のため横隔膜の制御を失った人の横隔膜の動きを制御し正常呼吸数を回復させるために横隔神経を刺激する必要性に対して、外科的に単純で低リスクの対応を提供する。横隔神経は、急性期ケアベースまたは長期継続ベースで刺激されてもよい。
【0070】
横隔神経は、横隔膜に対して主要な神経供給をもたらす。各横隔神経は、主に、運動繊維を片側横隔膜だけに寄与させる。胸郭を通して右および左横隔神経によってとられる通路は異なる。これは、主に、縦隔内での大血管の配置のためである。時折、横隔神経は、副横隔神経によって結合されてもよい。
【0071】
両側の横隔神経は、第3〜第5頚神経の腹側枝から生じる。横隔神経は、頚部の下へ前斜角筋の外側境界まで下方に通る。その後、横隔神経は、下内側に存在する内頚静脈に平行な前斜角筋の境界を横切って内側に通る。この地点で、横隔神経は、椎前葉、頚横動脈および肩甲下動脈に対して深部にある。
【0072】
前斜角筋の前方の下内側縁において、そのため右鎖骨下動脈の第2部分に対する浅部において、右横隔神経は、内側に通って、鎖骨下静脈に対して深部にある胸膜頂を横切る。より内側に、右横隔神経は、ほぼ第1肋軟骨結合部の高さで内胸動脈を横切る。
【0073】
胸郭内で、右横隔神経は、外側でまた内側で縦隔胸膜に接触し、引き続いて上から下へ、以下の静脈構造物、すなわち、右腕頭静脈、上大静脈、右心房の心膜、下大静脈に接触する。上大静脈の高さから、右横隔神経は、心膜横隔動脈によって結合され、両者は、肺根の前方で下方に走る。右横隔神経は、下大静脈孔のほんの僅かに外側の腱部分において横隔膜を貫入する。右横隔神経は、その後、横隔膜の下面上で3つの分枝(前方、側方および後方)を形成する。これらは、穿孔点から放射状に外に分岐して、筋肉の末梢を除く全てに供給される。
【0074】
前斜角筋の前下内側縁において、左横隔神経は、左鎖骨下動脈の第1部分を、次に、わずかに下方に位置する内胸動脈を横切る。内胸動脈が外側にある状態で下方に通ると、左横隔神経は、左腕頭静脈および左第1肋軟骨結合部に対して深部に存在する。左横隔神経は、内胸動脈の心膜横隔分枝を受け取り、遠位コースと共に留まる。
【0075】
胸郭内で、左横隔神経は、左上肋間静脈によって後右迷走神経から分離された、大動脈弓の前外側面上で、下方にかつわずかに外側に続く。その後、左横隔神経は、線維性心膜の内側胸膜と壁側胸膜の中間で、左肺根の前に外側に下がる。最後に、左横隔神経は、下方にかつ前方に湾曲して、横隔膜の表面に達し、左横隔神経は、腱中心の前方でかつ心膜の外側で横隔膜に貫入する。左横隔神経は、その後、横隔膜の下面上で3つの分枝(前方、外側および後方)を形成する。これらは、穿孔点から放射状に外に分岐して、筋肉の末梢を除く全てに供給される。
【0076】
両側の副横隔神経は、人々の約15〜25%で生じる。副横隔神経は、普通なら鎖骨下筋まで通ることになる第5頚神経の分枝として発生する。副横隔神経は、頚部の横隔神経の外側で始まり、下がるにつれて、前斜角筋の前面を斜めに横切る。副横隔神経は、頚部の根で横隔神経に結合して、横隔膜を下降する。
【0077】
図9は、頚部の解剖学的構造物、特に、横隔神経(PhN)、迷走神経(VN)および内頚静脈(IJV)の相対的なロケーションを示す。IJVはPhNとVNとの間に進路をとることに留意されたい。PhNは、IJVと合流し、3つの構造物は、鎖骨の高さで遠位に一緒に走る(円99で示す)。
【0078】
図9Aに示す1つの例示的な実施形態では、可撓性の血管内電極アレイ101、たとえば、上述した実施形態のうちの1つの実施形態の電極構造物を備える最小侵襲神経刺激システム(「MINS」)100は、ターゲット神経(この例では、左横隔神経PhN)に非常に接近したターゲット血管V(この例では、左内頚静脈IJV)内部に永久的に設置される。電極アレイの1つまたは複数の電極は、PhNの選択的な刺激のために配設される。他の電極は、任意選択で、第2のターゲット神経、この例では、左迷走神経VNの選択的な刺激のために配設される。
【0079】
電極アレイ101からの電極リード線104は、最初の静脈貫入部位CにおいてカニュレーションされたBVから出て、次に、標準的な皮下ポケット内に外科的に設置される埋め込み式パルス発生器102のヘッダに接続されるコネクタ105に皮下でつながる。ポケットは、たとえば、上側胸壁内にあってもよい。図9は、頚部の左側に1つの電極アレイ101だけを示す。
【0080】
この実施形態では、埋め込み式MINS100は、呼吸を補助するために左PhNを刺激して、横隔膜筋(図9には示さず)のリズミカルな吸気運動を引き起こす。さらに、別の電極アレイが、患者の身体の右側の血管内に埋め込まれてもよい。たとえば、別の電極アレイ101は、右PhN、任意選択で、所望される場合同様に右VNの選択的刺激のために、右内頚静脈内に埋め込まれてもよい。さらなる電極アレイが、内部パルス発生器102または第2内部パルス発生器(図9には示さず)に接続されてもよい。
【0081】
MINS100は、深部カテーテル、カニューレ、リード線または他の血管内デバイスの設置のために標準的な手技を使用して皮下に設置されてもよい。電極アレイが、内頚静脈内のターゲットロケーションの近くのロケーションに導入されると、電極アレイの位置は、電極アレイ101の1つまたは複数の電極に低電流刺激信号を印加し、患者の呼吸を観察することによって微調整されてもよい。
【0082】
図10Aおよび10Bは、頚部および胸部の解剖学的構造物、特に、左および右横隔神経(PhN)、迷走神経(VN)、内頚静脈(IJV)、腕頭静脈(BCV)および上大静脈(SVC)の相対的なロケーションを示す。PhNは、IJV/BCV結合部に近いエリア107Rおよび107Lにおいて、ほぼ、BCVに垂直でかつBCVに接近して走る。
【0083】
各PhNは、2つ以上の分枝を有してもよい。分枝は、IJV/BCV結合部の下で、頚部領域から胸部領域の範囲の可変ロケーションにおいて一緒に結合してもよい。後者の場合、身体の両側のPhNの分枝は、BCVの対応する側にコースをとってもよい。右PhNの2つの分枝は、図10BでPhN−1およびPh−2とラベル付けされる。右PhNは、SVCの両側にコースをとる分枝を含んでもよい。左および右PhNは、それぞれ、左および右片側横隔膜(HD)まで延びる。
【0084】
図11は、それぞれ、左および右PhNに近い患者の左BCVおよびSVC血管内にそれぞれ配置された電極構造物111Lおよび111R(ひとまとめに111)を有するMINS110を示す。リード線112Lおよび112R(ひとまとめに112)は、それぞれ、左および右電極構造物111Lおよび111Rの電極を信号発生器に接続する。示す実施形態では、信号発生器は、埋め込み型パルス発生器(IPG)115を備える。あるいは上記したように、パルス発生器115の一部または全ての機能が、電極構造物111の一方または両方と同一場所に配置されるか、または、一方または両方と一体化される回路要素によって提供されてもよい。一部の実施形態では、パルス発生器115は、無線通信リンクによって送信される制御信号を発生して、電極構造物111に対してローカルな回路要素が、電極構造物111上の電極によって刺激パルスを印加するようにさせる。
【0085】
埋め込み型パルス発生器は、左および右片側横隔膜が、同期して呼吸運動を受けるようになるように、左および右電極構造物111の電極に電気パルスをほぼ同時に送出するよう構成されてもよい。IPG115は、たとえば、約12または13バースト/分のレートで、刺激パルスのバーストを印加してもよい。各バーストは、たとえば、20Hz程度のレートで送出される20〜40の電流パルスを含み、また、ほぼ1〜2秒持続してもよい。各バーストは、横隔神経内で、吸気を行うように横隔膜に運動させる信号を誘発する。呼気は、バースト間で発生する。
【0086】
MINS110は、図11に示すように容易に設置されることができる。電極構造物111Rおよび111Lは共に、左BCV内の同じ血管内挿入点C1を通して導入されてもよい。一部の実施形態では、電極構造物111Lは、最初に設置される。こうした実施形態では、電極構造物111Rは、電極構造物111Lを通る(たとえば、電極構造物111Lのボアを通る)左BVCを通って、SVC内のターゲットロケーションに到ることができる。可撓性の読み出しケーブル112Rは、電極構造物111Lを通る。両方の読み出しケーブル112は、BCVから出て、読み出しケーブルコネクタがIPG115に接続される上側胸部内の皮下ポケットエリアに皮下でつながる。
【0087】
SVC、心臓およびBCVが、利用可能な撮像技法を使用して容易に可視化されることができるため、電極構造物111について初期ターゲット位置を探索することが容易になる。横隔神経が、両側で心臓に密着して通ることがわかっている。したがって、横隔神経を刺激するための最適位置の±1〜2cm以内の血管内のターゲット位置は、上側胸部および下側頚部の画像から容易に確定されることができる。
【0088】
ターゲットPhNが、より変動性のある距離にあるがIJVに平行に走る(たとえば、図9を参照されたい)、IJV内のより近位ロケーションに同様な電極が埋め込まれる場合に比べて、これらのロケーションにおける電極構造物111からターゲット神経までの距離は、より短く、より均一で、より再現性があるという利点を、図11に示す配置構成が有する。
【0089】
MINS110は、電極構造物111の一方およびその関連ケーブル112を除外することによって変えられてもよい。こうした実施形態は、簡単で迅速なプロシジャを使用して呼吸補助を提供することが必要である急性期ケア環境で有用である可能性がある。こうした実施形態はまた、1つの片側横隔膜の刺激で十分である長期継続的状況で有用である可能性がある。1つの電極構造物111だけが埋め込まれる場合、電極構造物は、電極構造物111Rのロケーションかまたは電極構造物111Lのロケーションにあってもよい。
【0090】
図12は、図11のMINS110と同じであるが、埋め込み型パルス発生器と、電極に刺激信号を送出する回路との間に無線接続を提供する最小侵襲神経刺激システム120を示す。システム120は、血管内電極の2つのセット121Aおよび121Bを有する。一部の実施形態では、電極の各セットは、本明細書に述べる電極構造物を備える。電極の各セット121Aおよび121Bは、短い可撓性のリード線ワイヤ123によって関連するRF受信機ユニット124に接続される。RF受信機ユニットは、(示す実施形態では、埋め込み型パルス発生器126内に構築される)関連送信機を有する埋め込み式パルス発生器126から無線刺激コマンド125を受信する。
【0091】
各受信機ユニット124は、コマンド信号を復号し、対応する電極アレイ121の電極に刺激パルスを送出するためのアンテナおよび回路要素を収容する密封パッケージを備えてもよい。各受信機ユニットは、関連する電極アレイ121の近くでの血管内への安全で永久的でまた安定した設置のために、独自のステントに似た構造物に取付けられてもよい。受信機ユニットは、埋め込み型パルス発生器126から受信されるRF信号によって電力供給されてもよい。こうした場合、受信機ユニットは、内部電池を必要としない。
【0092】
埋め込み型パルス発生器126は、電池または別の電気エネルギー源、制御回路要素、ならびに、受信機ユニット124および治療専門家が埋め込み式システムをプログラムすることを可能にする外部プログラマ(図示せず)と通信する送信機アンテナを収容してもよい。
【0093】
一部の実施形態では、埋め込み型パルス発生器または他の信号源は、患者の皮膚を通して定期的に再充電されることができる主電池または充電式電池を有してもよい。いずれの場合も、電池または他の電力源は、少なくとも約3〜5年などの適度な期間の間、交換を必要としないような期待寿命を有することが望ましい。
【0094】
本明細書で記載する横隔神経を刺激する方法は、
・もろい横隔神経に電極が接触しない、
・横隔膜の運動を妨げる埋め込み式構造物が存在しない、
・ワイヤが全く皮膚を交差しないように、システムが、埋め込み式でかつ内蔵式であってよい、
・右と左の両方の横隔神経に対するアクセスが、単一入力点を通して行われることができる、
・埋め込み型パルス発生器などの制御システムが、電極構造物に適度に非常に接近して設置されて、電極構造物における刺激パルスの送出に対して、埋め込み型パルス発生器による制御を容易にする
という利点を有する可能性がある。
【0095】
本明細書で記載する装置および方法の用途は、横隔神経および迷走神経に限定されない。本明細書で記載する装置および方法は、いろいろな末梢神経または脳神経を刺激するための、外科的に簡単で低リスクの解決策を提供するために適用されてもよい。たとえば、方法および装置は、臀部/鼠径部エリアにおいて閉鎖神経を、頭部において三叉神経を刺激するために適用されてもよい。
【0096】
装置および方法は、末梢または頭蓋顔面起源の疼痛、感覚消失、中枢神経性起源の麻痺または不全麻痺、自律神経障害、ならびに、一般に、可撓性マルチチャネル電極アレイがその中で展開されることができる大きな血管に非常に接近した神経の電気刺激による神経調節を使用して処置されるか、または、緩和されることができる任意の医療症状などの、いろいろな傷害の処置に適用されてもよい。
【0097】
有利には、血管内への電極構造物の埋め込みは、可逆的であり、ターゲット神経に直接関わる外科的介入を必要としない。
一部の実施形態では、信号発生器115は、患者の症状を検知し、センサからの入力に基づいて横隔神経の刺激を調整するセンサを有する。センサは、
・患者が、話しているか、または、話す準備をしているか、
・患者が、寝ているか、座っているかまたは立っている、;
・患者が、起きているか、または、眠っている、
・血中酸素濃度、
・血中CO濃度
・など
のうちの1つまたは複数などのものを検出してもよい。
【0098】
センサ信号に応じて、信号発生器は、呼吸パターンまたは呼吸数を適応させてもよい。たとえば、
・患者が話しをしようとしていることを、センサ信号が指示するとき、呼吸は自動的に抑制されることができる。
・生理的活動が増加する期間中または血中酸素濃度が低い期間中、呼吸数は増加されることができる。
・リラクゼーションまたは睡眠の期間中、呼吸数は、減少されるか、または、調節されることができる。
・睡眠中の不規則な呼吸の発生の検出に応じて、オンデマンド呼吸刺激が提供されることができる。
【0099】
センサは、信号発生器内に構築されてもよい。たとえば、信号発生器は、
・加速度計、および、患者の動きが、患者が起きていることを指示するか、または、眠っていることを指示するかを、加速度計の出力から判定するよう構成されたプロセッサロジックと、
・傾斜計または加速度計、および、患者が寝ているか、または、直立しているかを、傾斜計または加速度計の1つまたは複数の出力から判定するよう構成されたプロセッサロジックと
を含んでもよい。
【0100】
他のセンサが埋め込まれてもよい。たとえば、一部の実施形態では、血中酸素センサおよび/または血中COセンサなどの血中化学物質センサが、患者内の適したロケーションに埋め込まれる。血中酸素モニタは、たとえば、電極構造物111上に搭載されてもよい。他のセンサは、患者の神経内の信号を検知してもよい。
【0101】
コンポーネント(たとえば、電極、信号発生器、リード線、ステント、アセンブリ、デバイス、アンテナ、回路など)が、上記で言及される場合、特に指示しない限り、そのコンポーネントに対する言及(「手段」に対する言及を含む)は、本発明に示す例示的な実施形態において機能を実施する開示された構造物と構造物的に等価でないコンポーネントを含む、記載するコンポーネントの機能を実施する(すなわち、機能的に等価である)任意のコンポーネントを、そのコンポーネントの等価物を含むものとして、解釈されるべきである。
【0102】
先の開示に照らして当業者に明らかになるように、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の実施において、多くの変更および修正が可能である。たとえば、電極構造物上の電極は、単極、2極、3極または平衡3極電極配置あるいはその組合せを提供するよう配列されてもよい。本明細書で記載する例示的な実施形態は、バッキングシートを絶縁するための異なる幾何形状、電極の異なる配置、異なる制御機構および同様なものなどの種々の特徴を含む。これらの特徴は、本発明の他の実施形態において、結合され、適合させられ(すなわち、さらなる組合せに関して組合され)てもよい。したがって、本発明の範囲は、添付特許請求の範囲によって規定される内容に従って解釈されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経血管的神経刺激で使用するための電極構造物であって、
電気絶縁性バッキングシート上に支持される電極と、
前記電極を前記血管の内壁に接触させて、前記バッキングシートを血管の内壁に当たるよう保持する構造物と
を備える、電極構造物。
【請求項2】
前記保持する構造物は拡張可能ステントを備える、請求項1に記載の電極構造物。
【請求項3】
前記ステントは、拡張可能金属ワイヤステントを含む、請求項1に記載の電極構造物。
【請求項4】
前記ステントは、前記バッキングシートに固着する、請求項2または3に記載の電極構造物。
【請求項5】
前記ステントは、前記ステントの長手方向ボアに全体が平行に延びる線に沿って前記バッキングシートに固着する、請求項4に記載の電極構造物。
【請求項6】
前記バッキングシートは、前記ステントが拡張形状であるときに、前記ステントの外周の周りに延びる大きさに作られる、請求項4または5に記載の電極構造物。
【請求項7】
前記ステントは管状であり、前記構造物は、前記ステントのボア内に取外し可能に配設された膨張可能バルーンを含む、請求項2から6のいずれか1項に記載の電極構造物。
【請求項8】
前記バッキングシートは、巻回されてボアを形成し、前記保持する構造物は、前記ボア内に挿入可能な管状保持器を含む、請求項2に記載の電極構造物。
【請求項9】
前記保持構造物は、前記バッキングシートの第1主面上の第1エッジ部分を、前記バッキングシートの、前記第1主面に対向する第2主面上の対向する第2エッジ部分に係合させる手段を含む、請求項1に記載の電極構造物。
【請求項10】
前記係合させる手段は、前記第1エッジ部分に沿って延びる第1の複数の隆起と、前記第2エッジ部分に沿って延びる第2の複数の隆起とを備える、請求項9に記載の電極構造物。
【請求項11】
前記第2エッジ部分に隣接する前記第1主面上の前記バッキングシートの平面から突出するタブを含む、請求項10に記載の電極構造物。
【請求項12】
前記バッキングシートの幅全体に広がり、離間した複数の電極を含む、請求項1から11のいずれか1項に記載の電極構造物。
【請求項13】
挿入管内部で巻回され、前記挿入管は開口され、前記電極のうちの少なくとも1つの電極は、前記挿入管内の開口を通して露出する、請求項12に記載の電極構造物。
【請求項14】
前記電極のうちの2つの隣接する電極間に延びる隆起を含み、前記隆起は前記バッキングシートの主面から突出する、請求項12に記載の電極構造物。
【請求項15】
前記電極は、血管の内壁の曲率に全体が一致するよう湾曲する面を有する、請求項1から14のいずれか1項に記載の電極構造物。
【請求項16】
前記バッキングシートの第1主面上に2次元アレイ状に構成される複数の電極を備える、請求項1から15のいずれか1項に記載の電極構造物。
【請求項17】
前記バッキングシートは、前記第1主面が凸円柱状の曲率を有するような曲率を持つよう予備成形される、請求項16に記載の電極構造物。
【請求項18】
前記電極は、前記第1主面の曲率の軸に平行な軸の周りに湾曲した接触面を有する、請求項17に記載の電極構造物。
【請求項19】
血中化学物質センサを含む、請求項1から18のいずれか1項に記載の電極構造物。
【請求項20】
前記血中化学物質センサは血中酸素センサを含む、請求項19に記載の電極構造物。
【請求項21】
前記血中化学物質センサは血中COセンサを含む、請求項19および20のいずれか1項に記載の電極構造物。
【請求項22】
刺激信号発生器に接続された、請求項1から21のいずれか1項に記載の電極構造物を備える、神経刺激システム。
【請求項23】
前記刺激信号発生器は埋め込み型パルス発生器を含む、請求項22に記載の神経刺激システム。
【請求項24】
前記刺激信号発生器は、センサからの信号に応じて刺激信号の発生を調節するよう構成される、請求項22または23のいずれか1項に記載の電極構造物を含む、神経刺激システム。
【請求項25】
前記センサは加速度計を含む、請求項24に記載の神経刺激システム。
【請求項26】
前記センサは血中化学物質センサを含む、請求項24または25のいずれか1項に記載の神経刺激システム。
【請求項27】
前記血中化学物質センサは、前記電極構造物と同じ場所に配置される、請求項26に記載の神経刺激システム。
【請求項28】
前記電極構造物は、複数の電極構造物のうちの1つの電極構造物であり、前記刺激信号発生器は、前記複数の電極構造物のそれぞれの電極への刺激信号の送出を協調させるよう構成される、請求項22から27のいずれか1項に記載の神経刺激システム。
【請求項29】
前記刺激信号発生器は、前記複数の電極構造物のそれぞれの前記電極への刺激信号の同時送出をもたらすよう構成される、請求項25に記載の神経刺激システム。
【請求項30】
哺乳類の神経を刺激するための、請求項1から21のいずれか1項に記載の電極構造物の使用法。
【請求項31】
哺乳類の神経を経血管的に刺激するための、請求項22から29のいずれか1項に記載のシステムの使用法。
【請求項32】
哺乳類の横隔神経を経血管的に刺激するための、請求項1から21のいずれか1項に記載の電極構造物の使用法。
【請求項33】
哺乳類の三叉神経を経血管的に刺激するための、請求項1から21のいずれか1項に記載の電極構造物の使用法。
【請求項34】
哺乳類の臀部または鼠径部エリアの閉鎖神経を経血管的に刺激するための、請求項1から21のいずれか1項に記載の電極構造物の使用法。
【請求項35】
哺乳類の臀部または鼠径部エリアの迷走神経を経血管的に刺激するための、請求項1から21のいずれか1項に記載の電極構造物の使用法。
【請求項36】
神経刺激システムであって、
刺激信号発生器と、
第1の複数の電極を含み、かつ左横隔神経に近接する人の左腕頭静脈の管腔に沿う位置に埋め込み可能である大きさである、第1電極構造物と、
第2の複数の電極を含み、かつ右横隔神経に近接する人の上大静脈の管腔に沿う位置に埋め込み可能である大きさである、第2電極構造物と、
前記信号発生器から前記第1および第2の複数の電極に信号を送信する手段と
を備える神経刺激システム。
【請求項37】
前記信号発生器から前記第1および第2の複数の電極に信号を送信する前記手段は、複数の埋め込み型電気リード線を含む、請求項36に記載の神経刺激システム。
【請求項38】
前記信号発生器から前記第1および第2の複数の電極に信号を送信する前記手段は、無線制御信号送信システムを含む、請求項36に記載の神経刺激システム。
【請求項39】
人に対して呼吸の補助を提供するシステムであって、
左横隔神経に近接する人の左腕頭静脈の管腔に沿う位置に埋め込まれた第1電極構造物と、
右横隔神経に近接する人の上大静脈の管腔に沿う位置に埋め込まれた第2電極構造物と、
刺激信号を前記第1および第2の電極構造物の電極に印加するために接続された信号発生器と
の少なくとも1つを備えるシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図6A】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図7G】
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【図7H】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図9A】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−516353(P2010−516353A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546628(P2009−546628)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【国際出願番号】PCT/CA2008/000179
【国際公開番号】WO2008/092246
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(500065646)サイモン フレーザー ユニバーシティー (4)
【氏名又は名称原語表記】Simon Fraser University
【Fターム(参考)】