説明

経路案内システム

【課題】 特定の時間帯で通行止めになるなどの規制条件を考慮して、最適な経路を探索する。
【解決手段】 経路探索に用いるデータとして、地図DB250、時刻表DB252、ユーザDB254を設ける。地図DB250は、通路をノード、リンクで表すネットワークデータを格納している。時刻表DB252は、交通機関の発車時間、特定の時間帯での通行止めなど、リンクを通行するための規制条件を格納している。ユーザDB254は、各ユーザが採りうる移動速度を格納している。サーバ200は、ユーザが採りうる移動速度を多段階に変化させ、それぞれの移動速度に対して経路を探索する。こうすることで、速歩で移動することで規制条件による制約を回避するという状況も含め、複数種類の探索結果を得ることができ、ユーザは速歩で移動する負荷やその効果などを評価した最適な経路を選択することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間によって通行可否や通行の方向が異なる規制箇所が存在する場合における経路探索、案内技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両または歩行者用に、指定された出発地から目的地に至る最適な経路を探索、案内する経路案内装置が提案されている。経路案内装置は、通路をノード、リンクで表したネットワークデータを参照し、各リンクに付された評価値、即ちコストの総和が最小となる経路を探索する。歩行者用の経路探索装置では、電車やフェリーなどの公共交通機関を通路に含めて経路探索を行う技術も提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
公共交通機関を含む場合には、所要時間に基づいてコストを設定することにより、所要時間が最短となる経路の探索が行われる。公共交通機関は、出発時刻が予め定められているため、公共交通機関を利用する際には、この出発時刻との関係で無駄な待ち時間が生じる場合もある。特許文献1〜3は、公共交通機関の時刻表をデータベースとして備えることにより、各公共交通機関の待ち時間も考慮して最短時間の到達経路を探索する技術を開示している。
【0004】
【特許文献1】特開平8−166248号公報
【特許文献2】特開2001−165683号公報
【特許文献3】特開2001−280992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、公共交通機関を含む経路探索では、交通機関の利用開始地点、例えば駅やバスの停留所などへの到達時間によって、待ち時間、ひいては目的地までの所要時間が大きく影響を受ける。しかし、従来技術では、予め設定された移動速度で各リンクを移動するものとして、この到達時刻を求めていた。従って、駅等への到達時刻が出発時刻にわずかに遅れることによって、多大な待ち時間が生じてしまい、他の代替経路が選択されるという結果が得られることがあった。駅等への経路をわずかに急ぐことにより出発時刻に間に合う可能性があることを考えると、かかる経路は必ずしも最適のものとは言えない。
【0006】
かかる課題は、交通機関を利用する場合に限られるものではない。例えば、時間によって通行禁止となる道路、一方通行の規制方向が変わる道路、及び右左折禁止などの規制が解除される交差点などについても同様に、規制が切り替わる直前に規制箇所に到達するか否かによって探索結果が大きく影響を受ける可能性がある。本発明は、こうした課題に鑑み、ユーザが採りうる移動速度の範囲その他の移動条件の範囲も考慮に入れて、より好ましい経路を探索可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、出発地、出発時刻および目的地の指定を受け付けて両者間の経路を探索する経路探索装置として構成することができる。車両および歩行者のいずれを対象とするものであってもよい。経路探索には、通路をノードおよびリンクで表したネットワークデータを用いる。ネットワークデータに含まれるノードおよびリンクの少なくとも一部には、規制条件が付されており、ノードやリンクを通行する際に採りうる通行態様が時刻に応じて規制される。規制条件としては、例えば、交通機関のように所定の出発時刻にならないと利用できないという規制や、時間に応じて変化する通行禁止、一方通行、右左折禁止などの通行規制等が挙げられる。
【0008】
本発明では、上述のネットワークデータを用いて経路探索をする際の条件として、少なくとも一部のリンクの通行所要時間に影響を与える移動条件が異なる複数種類の探索条件を設定し、それぞれの探索条件にそれぞれ対応した経路を探索する。通行所要時間に影響を与える移動条件としては、例えば、リンクを通行する際の移動速度や、公共交通機関を表すリンクにおける交通機関の出発遅れ時間、到着遅れ時間などが挙げられる。本発明では、一つのネットワークデータを用いて経路探索を行う場合でも、これらの条件を複数通りに変化させて経路探索を行うことにより、上述の規制条件を回避できる場合やできない場合など多様な結果を得ることができる。従って、ユーザは、これら多様な結果を比較することによって、画一的な移動速度等を用いる場合よりも適切な経路を知ることができる。もっとも、本発明は、単一のネットワークデータを用いる場合に限定される訳ではなく、例えば、歩行者用のネットワークデータ、自転車用のネットワークデータ、車両用のネットワークデータなど複数種類のネットワークデータを用いて経路探索を行うようにしてもよい。この場合、使用される各ネットワークデータについて複数種類の探索条件を設定する必要はなく、少なくとも1種類のネットワークデータについて複数種類の探索条件を設定すれば良い。
【0009】
上述の探索条件は任意に設定可能であるが、少なくとも一部のリンクの通行所要時間が最短となる条件を含めることが好ましい。この探索条件での探索結果は、移動速度最速での探索や交通機関に全く遅れが無い状態での探索、即ちベストエフォートでの結果となり、規制条件を回避できる可能性が最も高く、最適な経路が得られる可能性が高いからである。また、本発明では、移動速度が遅い探索条件など、ベストエフォートとは異なる探索条件で経路探索を行うことにより、ベストエフォートの効果および必要性を評価することが可能となる。例えば、移動速度が速い場合と遅い場合とで経路探索を行った結果、交通機関の待ち時間に差違が生じるだけであり、実質の所要時間には差違がないという結果が得られれば、速い移動速度で移動する必要性はないと判断することが可能となるのである。
【0010】
通行所要時間に影響する移動条件には、ユーザの意思によって調整可能な随意条件と、ユーザの意思によって調整不能な不随意条件とが含まれ得る。例えば、リンクの移動速度は前者に当たり、交通機関の遅れなどは後者に当たる。このような場合には、随意条件と不随意条件とを独立に変化させて探索条件を設定することが好ましい。例えば、随意条件として2種類、不随意条件として2種類の値を想定している場合には、両者を独立に変化させることによって4種類の探索条件が設定されることになる。もっとも、随意条件と不随意条件とを連動させ、例えば、両者共に通行所要時間が最短となる条件同士、最長となる条件同士という2種類の探索条件を設定するようにしても構わない。
【0011】
経路探索はダイクストラ法など、各リンクの距離または通行所要時間に応じて設定されたコストを用いて、コストの総和が最小となる経路を探索する方法を用いることができる。経路探索装置は、指定された時刻に出発地を出発したことを前提として、各ノードに到達する予測時刻を求め、規制条件に基づいて各リンクを通行するために要求される待ち時間をコストに反映させてもよい。こうすることで、待ち時間を考慮した経路探索を実現することが可能となる。待ち時間に応じたコストは、規制条件が付されているリンクに反映させることが好ましい。各リンクのコストとして通行所要時間を用いている場合には、待ち時間を加えることでコストに反映させることができる。この加算時に、待ち時間に所定の重み値を乗じるようにしても良い。
【0012】
本発明は、種々の規制条件に適用することができる。先に例示した交通機関の利用時間や時間によって変化する通行規制は、所定の時刻に至るとそのリンクの通行が許可される条件の例である。規制条件には、逆に、所定の時間帯における通行禁止規制を含めることもできる。例えば、駅の構内や、ビル内の通路のように、夜間の所定時間は閉鎖され通行できなくなるという規制が、この通行禁止規制に該当する。通行禁止規制が含まれている場合、本発明によれば、種々の移動速度で経路探索を行うことによって、通行禁止になる前に規制箇所を通過できる経路を探索することが可能となる。逆に、通行禁止規制が解除される時刻に間もない時点では、通行規制の解除を待った上で、規制箇所を通過するという経路を得ることも可能である。
【0013】
本発明は、各リンクに付されるコストを距離に基づいて設定することで、距離優先の経路探索、即ち最短距離の経路を探索するようにしてもよい。本発明の経路探索装置は、距離優先で経路探索を行う場合でも、所定の規則に基づいて待ち時間を距離に換算し、コストに反映する。距離優先の経路探索とはいえ、経路の途中の規制箇所で極端に長い待ち時間が生じるような経路は、必ずしも適切とは言えないからである。上述のように待ち時間を距離に換算してコストに反映することによって、かかる弊害を回避することができる。待ち時間から距離への換算式は、任意に設定可能であるが、例えば、待ち時間と移動速度との積とすることができる。この積に、更に、重み値を乗じても良い。
【0014】
複数種類の探索条件での経路探索は、無条件で行うようにしてもよいし、一定条件下で行うようにしてもよい。後者の例として、例えば、出発地から目的地までの総所要時間の要求値を用いることができる。この態様では、まず探索条件を通常探索条件とその他の探索条件に分けて設定する。通常探索条件とは、移動条件が予め通常値として規定された探索条件であり、任意に設定可能である。一例として、ユーザが最も負担なく移動できる移動条件を用いることができる。経路探索装置は、通常探索条件で、経路探索を行う。そして、探索の結果得られる総所要時間が上述の要求値を超える場合に、通常探索条件とは異なる探索条件による経路の探索を実行する。総所要時間が要求値に収まる場合には、他の探索条件での経路探索を省略する。通常探索条件は、ユーザにとって最も利用しやすい探索条件であるから、通常探索条件で要求値を満たす経路が得られるのであれば、他の探索条件での経路探索結果は有効活用されない可能性が高い。上述の態様は、この点に着目したものであり、かかる態様を採ることにより、無用な経路探索を省略しつつ、効率的にユーザの要求に応じた経路を得ることができる利点がある。
【0015】
上述の態様において、要求値は総所要時間を直接指定するようにしてもよいし、出発時刻と目標到着時刻を指定するようにしてもよい。通常探索条件による結果が、この要求値を満足するか否かの判断も種々の方法を採ることができる。例えば、総所要時間と直接に要求値との大小関係で判断するようにしてもよいし、指定された出発時刻を基準として得られる到着予測時刻と要求値として設定された目標到着時刻との先後で判断するようにしてもよい。逆に、目標到着時刻に目的地に到着するための出発時刻を逆算し、この時刻と現在時刻との先後で判断する方法を採ることもできる。
【0016】
本発明は、上述した経路探索の結果をユーザに提供し、地図上に指定された目的地までの経路を表示する経路案内装置として構成することもできる。上述の経路探索結果としての経路には、少なくとも一部のノードへの到達時刻に対する制約が含まれていることになる。経路案内装置は、経路を表示する際、この到達時刻に対する制約に基づいて各リンクに要求される移動速度に応じて経路の表示態様を変化させる。移動速度と実質的に同義のパラメータ、例えば、到達時刻までの残時間などによって表示態様を変化させてもよい。こうすることによって、ユーザは要求される移動速度を知ることができるため、経路探索時の想定通りに規制条件による支障を回避することが可能となる。例えば、急ぎ足で歩行することが要求される箇所をユーザに明示することによって、ユーザの移動速度が遅すぎて電車の発車時刻に遅れてしまうというような弊害を、回避することが可能となるのである。
【0017】
上述した表示態様の変化は、例えば、経路探索時に想定された移動速度などの探索条件に基づいて行うようにしてもよい。また、経路探索結果から、各ノードに到達すべき限界の時刻を求め、この時刻に到達するために要求される移動速度の下限値を求めた上で、この移動速度に応じて表示態様を変化させるようにしてもよい。この態様によれば、移動時の負荷を抑制しつつ、最適な経路を案内することができる。
【0018】
本発明では、経路は複数種類の探索条件にそれぞれ対応して得られている。経路案内装置は、これらの全経路を一覧表示する機能を持たせることもできるが、案内時にはいずれかの経路を選択して表示することが好ましい。この選択は、所要時間最短など所定の選択条件に基づいて経路案内装置が自動的に行うものとしてもよいし、ユーザが選択可能としてもよい。後者の場合には、経路を選択する際の目安として、複数種類の探索条件に対応した各経路に対して予測される目的地への到着時刻をユーザに提示することが好ましい。併せて、探索条件や移動にかかる負荷、例えば最大の移動速度での移動が要求される距離などを提示してもよい。
【0019】
表示態様の変化は、種々の方法を採ることができる。例えば、移動速度に応じて地図の背景色を変化させてもよい。また、移動速度を示唆する文字、数値、マーク、グラフなどを画面の一部に表示させるようにしてもよい。また、表示制御部は、経路上のリンクごとに変化させることが好ましい。こうすることで、ユーザはそれぞれの箇所における移動速度に対する要求を、視覚的に容易に把握することができる。
【0020】
経路案内装置は、併せて規制条件の内容を表示可能としてもよい。案内表示画面の一部に予め、電車の時刻表などの規制条件を表示しておくようにしてもよいし、ユーザが駅をクリックするなど、所定の操作を行った場合に規制条件を表示するようにしてもよい。このように規制条件を表示することにより、ユーザは、経路案内装置から要求されている移動速度の意味を知ることができる。
【0021】
本発明は、複数の探索条件の併用を経路案内時に行う態様として、次の態様の経路案内装置として構成してもよい。この構成では、経路案内装置は、上述のネットワークデータを用いて得られた経路探索結果を入力する。この経路探索結果は、規制条件を考慮していないものであってもよい。つまり、規制条件を無視して常時、通行可能との前提で得られた経路探索結果であってもよい。経路案内装置は、更に、経路を移動する際に、ユーザが採りうる移動速度の範囲を入力する。そして、現在位置および時刻を基準として、指定された範囲内で移動速度を変化させて経路を移動した場合に、規制条件が付されたノードまたはリンクの少なくとも一カ所において通行態様の相違が生じるか否かを判断する。通行態様の相違とは、規制によって通行可否が変化すること、および電車等の交通機関については利用する列車等の発車時刻が異なることを意味する。この判断は、経路探索結果およびネットワークデータの少なくとも一方を参照することで行うことができる。規制条件を考慮して得られた経路探索結果を用いる場合には、規制を回避等するために規制ノード等に到達すべき目標時刻が含まれることになるから、移動速度を変化させることで目標時刻に間に合うか否かを判断すればよい。規制条件を考慮せずに得られた経路探索結果を用いる場合には、ネットワークデータに含まれる規制条件を参照し、移動速度を変化させることで上述の通行態様の変化が生じるか否かを判断すればよい。この判断の結果、通行態様の相違が生じる場合には、経路案内装置は、その旨をユーザに報知する。
【0022】
こうすることによって、ユーザは、探索された経路を移動する際に、通行態様に対して移動速度がどの程度影響を与えるかを容易に知ることが可能となる。移動速度に応じて通行態様に相違が生じる場合には、ユーザは自己の要望に応じて、移動速度を速めるなどの対応を採ればよい。逆に、通行態様に相違が生じないことがわかっている場合には、ユーザは焦ることなく、最も無理のない移動速度を採ることができる。
【0023】
通行態様の変化が生じるか否かを判断する態様では、上述の報知を、例えば、次に示すような条件下で行うようにしてもよい。まず、指定された範囲内の複数の移動速度について、目的地までの距離と移動速度から得られる所要時間と、規制条件を考慮して得られる予測所要時間とを求める。そして、経路案内装置は、後者の予測所要時間の変化が前者の所要時間、即ち規制条件を考慮しない場合の所要時間の変化を超える時に、上述の報知を行うのである。例えば、規制が複数箇所に付されている場合には、いずれかの箇所で移動速度によって規制を回避できるか否かが相違したとしても、他の規制によって、結局、目的地に到達する時刻に差違が生じなくなる可能性もある。上記態様は、こうした事態を考慮し、目的地までの所要時間が、単に移動速度の差違から生じる所要時間の変化を超える場合にのみ報知するため、ユーザは、移動速度の変化が規制条件との関係で有用と言えるか否かを容易に判断することが可能となる。
【0024】
本発明は、上述の特徴を必ずしも全て備えている必要はない。上述の特徴は、適宜、一部を省略したり、組み合わせたりすることが可能である。また、本発明は、上述した経路探索装置、経路案内装置としての構成の他、コンピュータによって経路探索を行う経路探索方法や、経路案内を行う経路案内方法の態様を採ることもできる。本発明は、更に、これらの機能を実現するためのコンピュータプログラム、かかるコンピュータプログラムを記録した記録媒体の態様を採ることもできる。記録媒体としては、フレキシブルディスクやCD−ROM、光磁気ディスク、ICカード、ROMカートリッジ、パンチカード、バーコードなどの符号が印刷された印刷物、コンピュータの内部記憶装置(RAMやROMなどのメモリ)および外部記憶装置等、コンピュータが読取り可能な種々の媒体を利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施例について以下の順序で説明する。
A.システム構成:
B.データ構造:
C.経路探索:
C1.経路探索処理例(1):
C2.経路探索処理例(2):
C3.経路探索処理例(3):
C4.経路探索処理:
C5.変形例:
D.経路案内処理:
E.第2実施例:
【0026】
A.システム構成:
図1は実施例としての経路案内システムの構成を示す説明図である。本実施例では、歩行者用の経路案内システムとしての構成例を示すが、車両用の経路案内システムとして構成することもできる。経路案内システムは、携帯電話を利用した端末100とサーバ200とをネットワークINTで接続して構成されている。ネットワークINTは無線通信を利用したネットワークであるが、LANやイントラネットのように限定的なものであってもよいし、インターネットのように広域的なものであってもよい。端末100は、携帯電話の他、いわゆる車両用のナビゲーション装置やPDA、ネットワーク通信機能を有するパーソナルコンピュータなどを利用することができる。歩行者用の経路案内システムとして構成する場合、車両用のナビゲーション装置は、車両から取り外して携帯可能としておくことが望ましい。
【0027】
端末100は、ユーザの操作に応じて、経路探索および経路案内に必要な指示をサーバ200に送信するための機能を奏する。図中には、端末100の機能ブロックを併せて示した。端末100は、CPU、RAM、ROMを備えたマイクロコンピュータを制御装置として内蔵しており、このCPUはROMに記憶されたソフトウェアを実行することで、図示する各機能ブロックを構成する。これらの機能ブロックは、このようにソフトウェア的に構成する他、ハードウェア的に構成することも可能である。
【0028】
通信部120は、ネットワークINTを介してサーバ200と通信する機能を奏する。GPS140は、全地球測位システム(Global Positioning System)を利用して、端末100の現在位置の緯度、経度を検出する。コマンド入力部130は、スイッチ等に対するユーザ操作に基づいて、経路探索や経路案内に関するコマンドを入力する。コマンドとしては、図示した通り、経路探索の目的地の指定、案内経路の選択などが挙げられる。表示制御部150は、端末100のディスプレイに、これらのコマンド入力用のメニューを表示したり、サーバ200から受信した経路案内データに基づいて地図を表示させたりする。主制御部110は、上述した各機能ブロックを統括制御することで、端末100の全体機能を制御する。
【0029】
サーバ200は、端末100からのコマンドに基づいて、種々のデータベースを参照しながら、経路探索を行ったり、経路案内を行ったりする。図中には、これらの機能を実現するための機能ブロックおよびデータベースの例を示した。各機能ブロックは、サーバ200のCPUが実行するコンピュータプログラムによって、ソフトウェア的に構成されるが、ハードウェア的に構成することも可能である。
【0030】
サーバ200が利用するデータベースは地図DB250、時刻表DB252、ユーザDB254の3種類である。これらは、個別のデータベースとして用意してもよいし、少なくとも一部を更に細分化したり、相互に統合したりしてもよい。地図DB250は、通路をノード、リンクで表したネットワークデータ、および地図描画用のポリゴンや文字データからなる描画データを有している。本実施例では、ノードおよびリンクの少なくとも一部には、許容される通行態様が時刻によって変化するものが存在する。この規制条件としては、例えば、出発時刻が規定されている公共交通機関、所定時刻になると閉鎖される駅構内の通路などが挙げられる。時刻表DB252は、この規制条件を記録するデータベースである。地図DB250および時刻表DB252のデータ構造については後述する。
【0031】
ユーザDB254は、ユーザID、氏名などの書誌的な登録情報と共に、ユーザが歩行する際の移動速度に関する設定や、距離優先/時間優先などの経路探索に関する要望事項を格納している。図中にはユーザDB254の内容として移動速度に関する登録内容を例示した。本実施例では、移動速度は、移動可能な距離と組み合わせて登録されている。図中の例では、通常利用される移動速度(以下、「通常速度」と呼ぶこともある)は「4km/h」であり、移動可能な距離には制約がないことを表している。やや早足の「5km/h」では、3kmまで移動可能であり、駆け足の「10km/h」では0.5kmまで移動可能であることを表している。これらの情報は、ユーザが端末100を操作して登録、変更可能である。図中の例では、3通りの移動速度が登録されているが、更に多くの移動速度を登録可能としてもよい。また、上り坂/平坦/下り坂などのリンク属性に依存して、移動速度と移動可能な距離との関係を登録ないし補正してもよい。こうすることで、下り坂では駆け足で10分まで移動可能だが、上り坂では駆け足は2分が限界などの勾配による心肺負荷を反映することが可能となる。
さらに、これらの登録値を、雨天/晴天などの天候条件、運動靴/ハイヒール/洋服/和服などの服装条件、荷物の量などによって、切り替えるようにしてもよい。
【0032】
通信部220は、端末100とのネットワークINT経由での通信を制御する。経路探索部230は、上述の3種類のデータベースを参照して、ユーザから指定された出発地、目的地間の経路を探索する。経路探索部230は、ユーザからの指示に応じて、移動速度などの探索条件を複数種類に変化させ、それぞれの条件に対応する経路を探索することが可能である。また、時刻表DB252を参照することにより、上述の規制条件も考慮して経路探索を行う。経路探索方法については後述する。
【0033】
経路案内部240は、探索された経路を地図上に表示して案内するための経路案内データを生成し、端末100に送信する。上述の通り、経路探索は、種々の探索条件に基づいて行われ、規制条件も考慮して行われている。経路案内部240は、これらの条件を反映した案内表示を実現する。経路案内方法については後述する。
【0034】
B.データ構造:
図2は地図DB250および時刻表DB252のデータ構造を示す説明図である。地図DB250については、経路探索用のネットワークデータの構造のみを例示した。図の中央に例示するように、ネットワークデータは、ノードN1〜N8およびリンクL1〜L9等で構成される。リンクL1〜L9は歩行者が通行可能な通路を表しており、ノードN1〜N8はリンクL1〜L9の端点または接続点を表している。
【0035】
地図DB250は、上述のノード、リンクに関するデータを、それぞれノードデータ250N、リンクデータ250Lとして格納している。図中に示す通り、リンクデータ250Lには、リンクID、形状、時刻表、速度規制、距離などの情報が記録される。形状は、リンクが通過する地点の座標(緯度、経路)を表した点列データである。座標には、高さを表す情報を含めても良い。図中の例では、リンクL9について、ノードN2、N7を含む4点が格納されている。本実施例では、ノードについてはノードIDを格納し、その位置はノードデータ250Nを参照することで得られるようにしたが、ノードについても他の通過地点と同じく座標を格納するようにしてもよい。時刻表とは、時刻表DBに格納されている情報へのリンクを表している。図中の例L9では、時刻に応じて変化する規制条件が付されていないため、時刻表の項目には「無し」が登録されている。後述するように、リンクL3、L4、L6のように時刻に応じて変化する規制条件が付されている場合には、時刻表DB252に格納されているデータのインデックスである「時刻表ID」が格納されることになる。速度規制とは、そのリンクを通行する際の上限速度を表している。距離とは、そのリンクの区間距離である。
【0036】
リンクデータ250Lの内容は、任意に設定可能であり、これらの情報の一部を省略してもよいし、ここに例示していない種々の属性情報を格納するようにしてもよい。例えば、階段や坂道などの経路種別や、ガードレールや街灯などの設備の有無等を属性情報として格納することができる。かかる属性情報が用意されている場合には、「階段を避けたい」、「ガードレールが整備されている経路を優先したい」などの経路に対する要望事項を反映した経路探索を実行することが可能となる。例えば、「階段を避けたい」という要望が出されている場合には、「階段」という属性情報が記録されているリンクのコストを増加させることによって、階段が選択される可能性を抑制することが可能となり、要望に沿った経路を探索することが可能となる。
【0037】
ノードデータ250Nには、図示するようにノードID、位置、時刻表、通行規制などの情報が記録される。ノードの位置は、緯度、経度の座標で記録される。座標には、高さを表す情報を含めても良い。時刻表は、リンクデータ250Lと同様、時刻表DB252に格納されている情報へのリンクを表している。通行規制とは、右左折禁止など、時刻に応じて変化しない固定的な通行規制である。例えば、図中のノードN4について、N3方向から来てN6方向へ左折する通行が禁止される場合には、通行規制欄には、「N3→N4→N6」という形でデータを格納すればよい。通行規制情報の記録方法は、これに限らず、種々の形式を採用することができる。
【0038】
時刻表DB252には、時刻表ID、規制、時刻、開始遅れ、終了遅れなどの情報が格納されている。時刻表IDは、登録されているそれぞれの情報を一義的に示すための識別データである。規制は、時刻表IDが示す規制情報を表している。図中には、駅の入り口G1〜G3が午前0:30〜午前4:30の間で閉鎖され、駅構内のリンクL3,L4,L6が通行不能となる場合のデータを例示した。この場合、通行不能となるため、「規制」欄には、「通行止め」が格納され、時刻欄には、通行止めとなる時刻が格納される。複数の時間帯で通行止めとなる場合には、時刻欄に、複数の時間帯を格納することもできる。開始遅れは、この時間帯の開始時刻(図中の例では0:30)が遅れる可能性を示し、終了遅れは終了時刻が遅れる可能性を示している。駅構内の通行止めについては、規定通りに閉鎖されるため、開始遅れ、終了遅れは「無し」と設定されている。「時刻表ID=1」が付されたこのデータは、リンクL3、L4、L6に適用される。従って、リンクデータ250LのこれらのリンクIDに対応するデータの「時刻表」欄に「1」が格納されることになる。リンクデータの時刻表欄には、複数の時刻表IDを格納可能としてもよい。
【0039】
時刻表DB252には、上述のような「通行止め」の規制の他、種々の規制が格納可能である。例えば、本実施例では、電車などの交通機関の出発時刻も、その路線を通行可能な時間帯が限られているという意味で規制条件の一種とみなし、時刻表DB252で管理するものとした。この場合には、「規制」欄には、例えば、「電車発着」などと格納することで交通機関であることを示し、「時刻」欄に出発時刻および到着時刻からなる時刻表を格納することができる。出発時刻と途中の経過駅までの所要時間という形式で格納するようにしてもよい。交通機関の場合には、出発時間や到着時間が遅れる場合がある。出発時間の遅れは「開始遅れ」に記録し、到着時間の遅れは「終了遅れ」に記録することができる。これらの時間は、後述する通り、経路探索時に考慮される値であり、任意に設定可能であるが、一例として、過去所定期間内の平均遅れ時間や最大遅れ時間などに基づいて設定することができる。
【0040】
C.経路探索:
本実施例における経路探索処理について説明する。まず、いくつかの具体例に基づいて処理概要を説明した後、経路探索処理を実現するためのフローチャートを説明する。
【0041】
C1.経路探索処理例(1):
図3は経路探索処理例(1)を示す説明図である。図3(a)は経路探索の対象となるノード、リンクの構成を例示している。図2に示した経路を簡略化して示した。先に説明した通り、リンクL3,L6は、午前0:30〜4:30で通行止めとなる規制条件が付されている。図中には、併せて各リンクの距離を示した。かかるネットワークデータを用いて、出発地N1を午前0:22に出発し、目的地N8に向かう所要時間最短の経路を探索する場合を考える。経路探索は、所要時間をコストとするダイクストラ法によって行うものとする。
【0042】
本実施例では、経路探索は複数種類の移動速度で実行する。この移動速度は、ユーザDB254に登録されたものを対象として設定される。図3の例では、最大速度である5km/hと、通常速度である4km/hの2種類で実行した例を示した。3種類以上の移動速度で実行してもよい。ユーザDB254に登録された最大速度、通常速度の間を適宜、補間して中間的な移動速度を設定することもできる。ただし、これらの移動速度の中には、出発地と目的地との間の距離以上の距離を移動可能という条件下で、ユーザが採りうる最大の移動速度を含めることが好ましい。
【0043】
図3(b)は最大速度(5km/h)での経路探索結果SIM1を示している。ノードN1からN2に向かうリンクL1の距離は、0.3kmであるから所要時間は3.6分であり、到着時刻は0:25:36と予測される。その後、経路はノードN3に向かう経路と、リンクL9を通ってノードN7に向かう経路とに分かれる。ノードN2からN3に向かうリンクL2は0.3kmであるから、ノードN3までの累計の所要時間は7.2分となり、到着時刻は0:29:12と予測される。ノードN3から先は、0:30になると通行止めとなるが、このケースでは、この規制条件に該当しないため、そのまま通行することが可能である。従って、以下、同様の手順で各ノードまでの所要時間および到着時刻を求めると、ノードN7までの所要時間は18分、到着時刻は0:40:00と求まる。
【0044】
一方、ノードN2から分岐してリンクL9を通る経路については、規制条件は設定されていないため、そのまま通行可能である。リンクL9の距離は1.5kmであるから所要時間は21.6分であり、ノードN7への到着時刻は0:43:36と求まる。この結果、ノードN2からN7までの2つの経路のうち、所要時間が短い経路として「N2→N3→N4→N5→N7」という経路、即ち駅の構内を通り抜ける経路が選択される。この経路を採った場合、目的地N8までの所要時間は21.6分、到着時刻は0:43:36と求められる。
【0045】
図3(c)は通常速度での経路探索結果SIM2を示している。移動速度が4km/hであるため、各リンクを通過するのに要する時間は、最大速度での探索結果SIM1よりも長くなる。従って、探索結果SIM2に示す通り、ノードN2までの所要時間は4.5分、到着時刻は0:26:30と予測される。ここからは、探索結果SIM1と同様、2通りの経路に分岐する。ノードN3に向かう経路を採った場合には、ノードN3の到着時刻は0:31:00と予測される。この時点で、リンクL3,L6が通行止めとなる時刻0:30を過ぎている。従って、この経路は、その先に進むことはできなくなる。
【0046】
ノードN2で分岐してリンクL9を通る経路は、規制条件が付されていないため、通行可能である。従って、通常速度での探索結果としては、「ノードN1→N2→N7→N8」という経路が得られ、所要時間は31.5分、目的地N8への到着時刻は0:53:30と予測される。以上の結果から、最大速度で移動すれば、駅構内を無事に通り抜けることができ、通常速度で移動した場合よりも10分早く目的地に到着できることが分かる。
【0047】
C2.経路探索処理例(2):
図4は経路探索処理例(2)を示す説明図である。ここでは、公共交通機関を利用する場合の経路探索処理例を示す。図4(a)は経路探索の対象となるノード、リンクの構成を例示している。説明の便宜上、分岐は存在しない簡略な経路を例にとって説明する。この処理例では、ノードN12、N13間のリンクL12は、電車であり、発車時刻が規定されている。図中にリンクL12に対応する時刻表DBの内容を示した。この例では、図示する通り、10:00〜10:30の間に4本の電車が発車するものとする。ノードN12、N13間の所要時間はいずれの場合も20分であるものとする。
【0048】
まず、出発地N11を9:58分に出発した場合について考える。図4(b)の上段は最大速度、即ち5km/hの移動速度で移動した場合の経路探索結果を示している。この探索条件では、ノードN11からN12の所要時間は6.0分であり、ノードN12の到着時刻は10:04と予測される。時刻表DBによれば、電車の発車時刻は10:05であるから、待ち時間は1分となる(待ち時間は、図中に枠囲みで示した)。経路探索では、この待ち時間を、ノードN12〜N13間のリンクL12に対するコストとして追加する。従って、ノードN13までの所要時間は27.0分、到着時刻は10:25と求まり、目的地N14までの所要時間は33.0分、到着時刻は10:31と求まる。
【0049】
図4(b)の下段は通常速度、即ち4km/hの移動速度で移動した場合の経路探索結果を示している。この探索条件では、図示する通り、ノードN12への到着時刻は10:05:30と予測される。時刻表DBによれば、電車の発車時刻は10:10であるから、待ち時間は4.5分となる。この結果、目的地N14までの所要時間は39.5分、到着時刻は10:37:30と予測される。通常速度で移動した場合には、最大速度で移動した場合に比べて電車に一本乗り遅れるため、到着時刻に6.5分の差が生じる。
【0050】
図4(a)では分岐が存在しないが、例えば、N12からN13に至る分岐経路が存在する場合には、待ち時間によっては分岐経路の方が、所要時間が短くなる可能性もある。かかる場合には、分岐経路が所要時間最短の経路として選択されることになる。上述の例では、待ち時間を単純に所要時間に加算する処理例を示したが、経路探索に用いるコストは必ずしも現実の所要時間と一致している必要はないため、待ち時間に重み値を乗じて加算するものとしてもよい。こうすることによって、わずかの時間であっても、待ち時間が生じる経路を敬遠した経路探索結果を得ることが可能となる。
【0051】
上述のように、図4(a)に示す時刻表DBを用いる場合には、待ち時間を所要時間または経路探索のコストに反映させることになる。待ち時間は、電車の発車時刻によって変わるため、同じ移動速度で探索を行っても、出発地を出発する時刻によって探索結果は異なってくる。図4(b)に、出発地を10:03に出発した場合の探索結果を併せて示した。最大速度での移動時には、ノードN12への到着時刻が10:09となり待ち時間が1分となる。従って、探索結果は9:58分に出発した場合と同じく所要時間33.0分となり、到着時刻は10:36と予測される。一方、通常速度での移動時には、ノードN12への到着時刻が10:10:30と予測されるため、待ち時間が19.5分となる。この結果、目的地N14までの所要時間は54.5分となり、到着時刻は10:57:30と予測される。
【0052】
このように、9:58に出発した場合には、最大速度での移動時と通常速度での移動時とで、所要時間の差違は6.5分であったのに対し、10:03に出発した場合には、両者の差異は21.5分にまで拡大することになる。最大速度と通常速度の双方で経路探索を行い、その結果をユーザに提供するようにすれば、ユーザはノードN12に急ぐことの意義を自身で判断することが可能となる。例えば、出発時刻が9:58の場合には、6.5分程度の短縮という点を重視しないユーザであれば、敢えて早い電車に間に合うように急ぐ必要はなく、通常速度での探索結果を選ぶことができる。これに対し、出発時刻が10:03の場合には、21.5分もの差違が生じることが分かるため、ユーザは、最大速度での探索結果を選び、多少無理をしてでも早い電車に間に合うよう急いだ方が得であるという判断を行うことが可能となる。
【0053】
C3.経路探索処理例(3):
図5は経路探索処理例(3)を示す説明図である。ここでは、2種類の公共交通機関を選択して利用する場合を例にとって、公共交通機関の遅れ時間を考慮した経路探索処理例を示す。図5(a)は経路探索の対象となるノード、リンクの構成を例示している。電車を利用する経路、バスを利用する経路の2種類を示した。電車はリンクL23であり、バスはリンクL27である。電車の発車時刻は時刻表DB252[21]で与えられ、バスの発車時刻は時刻表DB252[22]で与えられる。図の煩雑化回避のため、発車時刻はここではそれぞれ1種類のみを図示した。電車については、開始遅れ、終了遅れともに「無し」であり、時刻表DB252[21]に示される通り、発車時刻10:00、到着時刻10:20で運行されるものとする。バスについては、開始遅れは「無し」であるが、終了遅れは「5」分と設定されている。従って、バスは時刻表DB252[22]に示される発車時刻9:55に発車するものの、到着時刻は規定の10:23となることもあれば、10:28程度まで遅れる可能性もあることになる。
【0054】
この例では、歩行者の移動速度を最大速度、通常速度の2種類に対し、バスの遅れを考慮しない場合、遅れを考慮する場合の2通りを考え、合計4種類の探索条件で経路探索を行う。探索条件は、任意に設定可能であり、例えば、「移動速度=最大速度、バスの遅れなし」という最善のケースと、「移動速度=通常速度、バスの遅れを考慮」という最悪のケースのみを探索条件として設定してもよい。ただし、バスの遅れはユーザの意思によって調整できるものではないため、図5に示すように、移動速度とバスの遅れとを独立に変化させて探索条件を設定した方が、より好ましい探索結果を得ることができる。
【0055】
図5(b)には、最大速度での探索結果を示した。ここでは、所要時間の表示は省略し、9:40に出発したものとして、到着時刻のみを示した。電車を利用する経路1では、電車の駅N23への到着時刻が9:56となる。従って、4分の待ち時間で電車に乗ることができ、目的地N26への到着時刻は10:36と求められる。バスを利用する経路2では、停留所N27への到着時刻が9:52と予測される。従って、3分の待ち時間でバスに乗ることができる。バスが遅れない場合には、停留所N28に10:23に到着し、目的地N26には10:35に到着することができる。バスが遅れる場合には、停留所N28に10:34に到着し、目的地N26には10:40に到着することができる。
【0056】
図5(c)には、通常速度での探索結果を示した。電車を利用する経路1では、電車の駅N23への到着時刻が9:59:57となる。従って、ほとんど待ち時間なくギリギリで電車に乗ることができ、目的地N26への到着時刻は10:39:57と求められる。バスを利用する経路2では、停留所N27への到着時刻が9:55と予測され、待ち時間なくバスに乗ることができる。バスが遅れない場合には、停留所N28に10:23に到着し、目的地N26には10:38に到着することができる。バスが遅れる場合には、停留所N28に10:28に到着し、目的地N26には10:43に到着することができる。
【0057】
以上の結果から、バスが遅れずに運行された場合には、最大速度の場合も通常速度の場合も、電車を利用するよりも1〜2分早く目的地に到着できることが分かる。これに対し、バスが遅れた場合には、最大速度の場合も通常速度の場合も、電車を利用するよりも3〜4分遅れて目的地に到着することが分かる。これらの結果をユーザに提供することにより、ユーザは、バスの運行が遅れる危険性を考慮に入れて、電車を利用する経路を採るか、バスを利用する経路を採るかを判断することができる。
【0058】
C4.経路探索処理:
図6は経路探索処理のフローチャートである。図3〜5で具体的に示した経路探索を実現するための処理例である。この処理は、サーバ200の経路探索部230(図1参照)が実行する処理であり、ハードウェア的にはサーバ200のCPUが実行する処理である。
【0059】
CPUは最初に、端末100からユーザID、出発地、目的地の指定を入力する(ステップS10)。この他、経路探索に関するユーザの要望事項を入力するようにしてもよい。例えば、図3〜5で示したように、移動速度などが異なる複数種類の探索条件で経路探索を行うか、いずれか単一の探索条件で経路探索を行うかをユーザが指定可能としてもよい。また、経路に対して、階段や坂道を回避するという移動負荷に関する要望や、ガードレールや街灯が整備されている通路を優先するというような安全性に関する要望を指定可能としてもよい。
【0060】
次に、探索条件として複数種類の移動速度を設定する(ステップS12)。先に図3を用いて説明した通り、移動速度はユーザDB254を参照して設定することができる。そして、こうして設定された移動速度のいずれかを用いて経路探索を実行する(ステップS20)。図中に経路探索の主要な処理内容を示した。ダイクストラ法での経路探索は、ノードから分岐する経路を探すステップと、各ノードに至るまでのコストを算出して、そのコストおよび従前の経路を記録したラベルを設定していくステップと、設定されたラベルに基づき複数の経路間のコストを比較し、最小コストとなる経路を順次選択していくステップとを繰り返し実行していくことになる。ダイクストラ法による具体的な処理方法は周知であるため、ここでは詳細な説明は省略する。図中では、本実施例に特有の処理のみを示した。従って、これらの処理は、図示した手順で必ずしも行う必要はなく、ダイクストラ法で処理を行う過程に適宜反映させていくことになる。
【0061】
まず、CPUは移動の所要時間に基づいて各リンクのコストを設定する(ステップS21)。図3〜5では、各リンクの距離を移動速度で割ることで所要時間を算出し、その所要時間をコストとして利用するという前提で経路探索方法を説明した。このように所要時間自体をコストとして用いてもよいし、所要時間を用いた所定の演算を行ってコストを算出するようにしてもよい。
【0062】
また、経路探索過程で、規制条件が付されているリンクが存在する場合には、時刻表DBを読み出し(ステップS22)、出発地側のノードでの待ち時間をコストに反映させる(ステップS23)。この処理は、通行止めの規制が解除される直前の時刻(図3参照)、交通機関の発車時刻(図4,図5)などを経路探索に反映する際に行われることになる。待ち時間は、図4,5で説明した通り、出発地側のノードへの到着予測時刻と、時刻表DBに記録された出発時刻等との差分として求めることができる。図4で説明した通り、待ち時間は、規制条件が付されているリンクに反映する。先に説明した通り、待ち時間に対して、固有の重み値などを乗じてコストを求めるようにしてもよい。
【0063】
また、時刻表DBに「終了遅れ」が設定されているリンクが存在する場合には、終了遅れを考慮する場合と、考慮しない場合の2つに探索条件を分けるとともに、それぞれの場合について所要時間を求め、この所要時間に基づいてコストを設定する(ステップS24)。CPUは以上で設定されたコストを用いて、コストが最小となる経路を探索する(ステップS25)。「終了遅れ」が設定されているリンクが存在する場合には、上述の2つの探索条件にそれぞれ対応した経路が得られることになる。これは、図5において、バスの運行が遅れる場合とそうでない場合とに分けて、所要時間および到着時刻が異なる2通りの結果を得た処理に相当する。
【0064】
CPUは以上の処理を、ステップS12で設定された全移動速度について完了するまで繰り返し実行し(ステップS30)、結果を出力して経路探索処理を終了する。以上の処理によって、図3〜5に示した多様な規制条件を反映させつつ、移動速度などリンク通行の所要時間が異なる複数種類の探索条件にそれぞれ応じた経路を求めることが可能となる。
【0065】
図6の例では、「終了遅れ」の取り扱いのみを示したが、開始遅れが存在する場合も終了遅れと同様にして扱うことができる。即ち、開始遅れを考慮しない場合と、開始遅れを考慮する場合の2種類に探索条件を分け、それぞれの場合に応じて、時刻表DBに記録された時刻情報を修正する。これによって、例えば、電車の発車時刻が遅れたり、通行止めになる時刻が遅れたりすることとなり、移動速度が遅い場合でも、電車の発車等に間に合う可能性が生じることになる。一方、開始遅れによって発車時刻等が遅れることにより、本来ならば生じないはずの待ち時間が生じることとなり、所要時間が長くなってしまうというデメリットも生じうる。開始遅れが存在する場合には、この待ち時間をコストに反映して経路探索を行えばよい。
【0066】
C5.変形例:
(1) 図6では、所要時間に基づいてコストを設定し、時間優先で経路探索する処理例を示した。本実施例は、距離優先の経路探索に適用することもできる。この場合には、図6のステップS21の処理に代えて、各リンクのコストを距離に基づいて設定する。また、ステップS23、S24では、所定の規則に基づいて待ち時間や終了遅れを距離に換算し、コストに反映する。待ち時間等から距離への換算式は、任意に設定可能であるが、例えば、待ち時間等と移動速度との積とすることができる。この積に、更に、重み値を乗じても良い。
【0067】
距離優先で経路探索を行う際には、CPUは、上述の手順で設定されたコストが最小となる経路を探索する(ステップS25)。こうすることによって、過大な待ち時間が生じる経路を回避しつつ、最短距離の経路を求めることができる。
【0068】
(2) 図6では、ステップS12で設定された全移動速度について、無条件で経路探索を繰り返し実行する例を示した。これに対し、変形例として、一定条件下でのみこの繰り返しを行うようにしてもよい。図1で示した通り、本実施例においては、ユーザが採りうる移動速度として「通常速度」(図1では4km/h)およびその他の速度が登録されている。通常速度は、移動に際しての負荷が最も少ないという意味で、ユーザにとって利用しやすい移動速度である。経路探索では、この点を重視し、まず図6のステップS20の処理を通常速度で実行する。そして、ステップS30の判断に先立ち、通常速度で移動した場合の目的地への到達予測時刻を求め、この時刻が予めユーザから指定された目標時刻よりも遅れるか否かを判断する。目標時刻は、例えば、ステップS10の処理で出発地等と併せて入力すればよい。通常速度で移動した場合でも、目標時刻までに目的地に到達できると判断される場合には、ステップS30をスキップして、他の移動速度での経路探索を省略し、結果を出力する(ステップS32)。利用しやすい移動速度でユーザの要望を満たす結果が得られている場合には、他の移動速度での経路探索を行っても有効活用される可能性は低いからである。これに対し、通常速度では目標時刻に到達できないと判断される場合にのみ、ステップS30の判断に従って、他の移動速度での経路探索を実行する。変形例の処理によれば、移動速度を無用に変化させることを回避でき、効率的に経路探索を実行することができる利点がある。
【0069】
D.経路案内:
図7は経路案内処理のフローチャートである。図6で説明した経路探索処理の結果をユーザに提示するための案内データを生成し、端末100に送信する処理である。経路案内は、端末100の画面表示や音声出力などで行うことができる。経路案内処理は、サーバ200の経路案内部240が実行する処理であり、ハードウェア的にはサーバ200のCPUが実行する処理である。
【0070】
この処理では、CPUは、経路探索結果を読込み、その一覧をユーザに提示する(ステップS50)。図の右側に、端末100に表示される提示画面DISP1を例示した。図6で説明した通り、本実施例では複数の探索条件での検索結果として複数の経路が得られている。提示画面DISP1は、これらの複数の経路を一覧表示するものである。本実施例では、各経路の所要時間、利用する交通機関の種類、負荷指数などの情報を提示するものとした。負荷指数とは、全経路のうち、最大の移動速度で移動することが要求されている部分の割合である。割合は、所要時間に基づいて求めても良いし、距離に基づいて求めても良い。これらの情報は、複数の経路から案内対象となる経路をユーザが選択する際の判断材料として提示されるものである。提示画面DISP1は、一例に過ぎず、ここに挙げた以外の情報を更に提示するようにしてもよいし、この中の一部を省略しても差し支えない。複数の経路を、地図上に表示する方法を採ることもできる。この場合には、所要時間や負荷指数など、ユーザの判断材料となるべき情報に応じて、経路を色分けするなど表示態様を変えることが好ましい。
【0071】
提示画面DISP1において、案内対象とすべき経路をユーザが選択すると、CPUは選択された経路の案内データを読み込む(ステップS52)。図の例では、経路No.1が選択されているため、これに対応する経路データが読み込まれることになる。案内対象となる経路の選択方法は、任意に設定可能である。
【0072】
経路が選択されると、CPUはその経路の各箇所に対して移動速度の要求値を設定する(ステップS55)。図3〜5の経路探索例で示したように、経路の途中に時間帯によって通行止めになるなどの規制条件が付された箇所がある場合には、この規制条件による制約を回避して経路を通過するために、事前に速歩で移動しておくことが要求される場合がある。CPUは、このように移動速度に対する要求を反映した経路案内を行うために、ステップS55で各箇所に要求される移動速度を算出するのである。
【0073】
各箇所で要求される移動箇所は、種々の方法で設定可能である。例えば、経路探索時に用いられた探索条件をそのまま適用してもよい。また、規制条件による制約を回避して経路を通過するために必要となる、ノードごとの到着時刻を算出し、探索条件に関わらず、この到着時刻を実現するために要求される移動速度を再度求めるようにしてもよい。最大速度で移動した場合には、規制条件との関係で無用な待ち時間が生じる可能性があるが、要求される移動速度を再度求めることにより、このような待ち時間を低減することができる。この結果、移動負荷が低く、待ち時間も抑えた効率的な移動を実現することが可能となる。
【0074】
移動速度の要求値が設定されると、CPUは端末100から現在位置を入力し(ステップS54)、各箇所で要求される移動速度に応じて経路案内用の画面を表示する(ステップS56)。図中に案内画面DSIP2を例示した。図中の黒丸が現在位置PPである。案内画面では、図示するように現在位置PPを含む地図が表示され、そこに経路R1〜R3が表示される。本実施例では、上述の通り、各箇所で要求される移動速度等に応じて表示パターンを変化させるものとした。図中の経路R1は、クロスハッチにより、通常速度よりも早い速歩での移動が要求されていることを表している。経路R2は、時刻によって通行止めになるなどの規制条件が付されている箇所であることを表している。矢印で示した経路R3は、通常速度での移動で足り、規制条件も付されていないことを表している。これらの表示態様は、ここに例示したものに限られず、任意に設定可能である。
【0075】
ユーザの現在位置PPは、速歩での移動が要求される経路R1上にいることになる。図中の例では、領域Aは駅STAの構内であり、午前0:30〜4:30の時間帯で通行止めになるという規制条件が付されている。経路R1で速歩が要求されるのは、この規制条件による通行止めを回避して駅構内を通行するためである。本実施例では、現在位置PPが、通常速度よりも早い移動速度が要求される箇所にいる場合には、経路にハッチングを付す等の表示を行う他、ユーザに速歩での移動を促すためのサブウィンドウW1も表示するものとした。このサブウィンドウW1では、ハートマークを早く点滅させることによって、速歩が要求されていることを促している。要求される移動速度が速いほど、ハートマークの点滅を早めても良い。サブウィンドウW1では、更に、規制条件による制約を回避するために許される余裕時間も併せて表示するものとした。図の例では、4分20秒以内に領域Aに到達することが要求されていることになる。地図上の現在位置PPとサブウィンドウW1の表示によって、ユーザは自己の移動速度を適宜調整しながら、過度な負荷をかけずに移動することが可能となる。
【0076】
本実施例では、更に領域Aのように規制条件が付されている箇所をクリッカブルとし、薄いハッチングを付すなど、通常の建造物とは異なる表示態様で表示させるものとした。ユーザが領域Aをクリックすると、ポップアップウィンドウW2が表示され、図示するように規制条件が表示される。駅STAについても同様に、電車の時刻表を規制条件として表示可能としてもよい。
【0077】
経路R2は規制条件が付された箇所であることを表してはいるが、速歩が要求されている訳ではない。また、経路R3も通常速度での移動で足りる。従って、現在位置PPが経路R2、R3上にある時には、サブウィンドウW1は非表示となる。このように、速歩での移動が要求される時にのみサブウィンドウW1を表示することによって、速歩が必要な場合にユーザの注意をより確実に喚起することができる利点がある。CPUは以上の処理を、目的地に到着するまで繰り返し実行する(ステップS58)。
【0078】
以上で説明した本実施例の経路案内システムによれば、移動速度などが異なる複数の探索条件で経路探索を行うため、規制条件による制約を回避するために急ぐという状況も含めて、最適な経路を探索することが可能となる。また、最大の移動速度などの最も理想的な探索条件以外の探索条件でも経路探索を行うことにより、最大速度での移動の有用性を判断するための判断材料をユーザに提示することが可能となる。ユーザは、最大速度で移動することによる効果と、移動負荷の双方を評価した上で、自身にとって好ましい経路を選択することが可能となる。
【0079】
また、本実施例の経路案内システムでは、規制条件を考慮して、各経路に要求される移動速度を反映した経路案内を行う。従って、ユーザは経路探索時の想定に従って、規制条件による制約を回避しながら案内された経路を通行することが可能となる。また、経路探索時の探索条件とは別に、案内時に各箇所で要求される移動速度を再度求めることにより、無用な待ち時間、移動負荷の無用な増大を回避することが可能となる。
【0080】
E.第2実施例:
第1実施例では、経路探索を行う際に、移動速度などが異なる複数の探索条件を考慮する例を示した。第2実施例では、複数の探索条件を経路案内時に考慮する場合の処理例を示す。サーバ200の構成およびデータ構成は、第1実施例と同様である。
【0081】
図8は第2実施例における経路案内処理のフローチャートである。第1実施例と同様、サーバ200のCPUが実行する処理である。処理が開始されると、CPUは経路探索結果を読み込む(ステップS60)。経路探索結果は、第1実施例のように規制条件を考慮して得られた結果を利用することもできるが、ここでは規制条件を無視して得られた結果を利用する場合を例示する。つまり、サーバ200は、経路案内処理に先立つ経路探索処理では、ユーザから指定された出発地、目的地の間で、規制条件を考慮することなく経路を探索する。この経路は、例えば、ダイクストラ法を用いて、所要時間最小、距離最短など、任意の条件で行うことができる。
【0082】
CPUは次に、現在位置を入力するとともに、ユーザの移動速度の範囲を入力する(ステップS62)。移動速度の範囲は、ユーザDB254(図1参照)から読み込むことができる。以下の説明では、移動速度の下限値として通常速度(図1の例では4km/h)、上限値としてやや早足(図1の例では5km/h)が指定されている場合を例にとって説明する。移動速度の範囲は、端末100の操作によってユーザが指定した上限値および下限値を入力するようにしてもよい。
【0083】
CPUは、移動速度の下限値および上限値のそれぞれについて、経路を通過した場合に、規制条件が付されたノードまたはリンクの通行態様に変化が生じるか否かを判断し、その結果をユーザに報知する(ステップS64)。図の右側に、この通行態様判断の処理例を例示した。
【0084】
出発地から目的地に向かう経路上で、A駅からB駅の間で電車を利用する場合を考える。A駅とB駅の間では電車の発車時刻によって通行が規制されるリンク(以下、このように通行可能な時刻が制限される規制を「時刻規制」と呼ぶ)である。図中の例では、5本の電車Tr1〜Tr5の発車時刻をそれぞれの線分で示した。電車Tr1とTr2、およびTr3とTr4の間のハッチングは、ここでは無視してよい。
【0085】
この状態で、仮に出発地を時刻Td1に出発したとする。通常速度の4km/hで移動した場合には、実線で示す通り電車Tr1には間に合わず、電車Tr2を利用することになり、目的地には時刻Ta2に到着する。やや早足の5km/hで移動した場合には、破線で示す通り電車Tr1を利用することができ、目的地には時刻Ta1に到着する。このように、時刻Td1に出発した場合には、移動速度に応じて、時刻規制リンク、即ちA駅とB駅の間の利用する電車が異なる結果となる。この例では、移動速度に応じて時刻規制リンクを通行する時刻が変化するという意味で、通行態様が変化すると判断される。
【0086】
一方、時刻Td2に出発した場合を考える。この場合は、図示する通り、移動速度に関わらず電車Tr4を利用することになり、目的地には時刻Ta3に到着することになる。従って、移動速度に応じて時刻規制リンクを通行する時刻は変化しないため、通行態様は変化しないと判断される。
【0087】
上述の判断は、次の方法で行うことができる。まずCPUは出発地の出発時刻に基づき、それぞれの移動速度に応じて、各ノードへの到着予測時刻を求める。次に、この到着予測時刻と規制条件とを比較して、規制リンクの通行可否を判断し、それぞれの移動速度に対して規制リンクを通行可能となる時刻を求める。ステップS60において規制条件を考慮した探索結果を入力している場合には、第1実施例で説明したように、規制を回避して通行するための目標到達時刻が得られているから、上述の到着予測時刻と、この目標到達時刻とを比較して通行可否を判断すればよい。規制条件を考慮しない探索結果をステップS60で入力している場合には、上述の判断時に時刻表DB(図1および図2参照)を参照し、規制条件の有無および通行可否を判断すればよい。図8の例では、出発地を基準として通行態様の変化を判断する例を示したが、同様の処理により、現在位置および現在時刻を基準として通行態様の変化を判断することも可能である。
【0088】
同様の判断は、一定の時間帯のみ通行可能となるような「時間規制」に対しても行うことができる。例えば、図8の例において、A駅とB駅間の区間は電車ではなく、ハッチングを付した時間帯では通行不可となる規制箇所、例えば跳ね橋等であるとする。時刻Td1に出発した場合、5km/hで移動すれば通行不可となる前に規制箇所を通り抜けることが可能であるが、4km/hで移動した場合には、時間規制によってTr2の時刻まで待ってからしか通行できなくなるため、通行態様に変化が生じることになる。一方、時刻Td2に出発した場合には、移動速度に関わらず、Tr4の時刻まで待つ必要があるため、通行態様には変化は生じないことになる。このように通行態様の変化の有無は、時間規制に対しても同様に行うことが可能である。
【0089】
CPUは移動速度に応じて通行態様の変化が生じると判断された場合には、その旨をユーザに報知する。例えば、変化が生じる場合には、図7に示したサブウィンドウW1を表示させる方法を採ることができる。CPUは、また、この表示と併せて図7のDISP2で示した画面表示等を用いて経路案内表示を行う(ステップS66)。CPUは、以上の処理を目的地に到着するまで(ステップS68)、繰り返し実行する。
【0090】
第2実施例の経路案内処理によれば、移動速度の変化によって通行態様に変化が生じるか否かをユーザに報知することができる。通行態様に変化が生じる旨が報知されている場合には、急げば規制箇所を効率的に通行できることを意味しているから、ユーザは、自己の判断で移動速度を調整すればよい。報知されていない場合には、規制回避のために急ぐ必要はないことを意味しているから、ユーザは無用な焦りを感じることなく無理のない速度で移動することが可能となる。
【0091】
第2実施例では、経路案内時に移動速度を考慮するため、経路探索処理は比較的軽い負荷で行うことができる利点がある。また、出発時刻が未定または不定の場合であっても、ユーザが採りうる移動速度の範囲を考慮して、規制を効率的に回避可能な案内を実現することができる点で経路案内システムの実用性を向上させることができる。
【0092】
第2実施例では、現在位置を基準として通行態様の変化を判断する例を示した(図8参照)。この処理によれば、ユーザの移動に伴って時々刻々と通行態様の判断が行われることになる。現実の経路案内時には、例えば、図8において、出発地を時刻Td3に出発した場合のように、出発時点では、移動速度によって電車Tr5に間に合うか否かが異なる場合であっても、出発後しばらくの間、ユーザが駆け足(10km/h)で進んだとすると、途中からは、移動速度に関わらず電車Tr5に間に合うようになることが生じうる。この場合、現在位置を基準として通行態様の変化を判断するという第2実施例の処理によれば、出発当初は、通行態様の変化有りと判断されるが、途中からは変化無しと判断され、その結果がユーザに報知される。従って、ユーザは途中からは余裕を持って、無理のない通常速度で移動可能となり、実用的な経路案内を実現することができる。
【0093】
第2実施例では、通行態様に変化がある場合には無条件に報知する例を示した。これに対し、経路途中の通行態様に変化がある場合であっても、目的地への到着時刻への影響を考慮した上で、有意義な変化が生じた場合にのみ報知を行うようにしてもよい。かかる処理例について変形例として以下に示す。
【0094】
図9は変形例としての通行態様判断の処理例を示す説明図である。A駅とB駅との間、およびC駅とD駅との間でそれぞれ電車を利用する経路を案内する場合の例を示した。この経路では、2カ所に時刻規制リンクが存在することになる。
【0095】
出発地を時刻Td11に出発した場合を考える。図中に実線で示す通り4km/hで移動する場合には電車Tr2を利用することになるが、破線で示す通り5km/hで移動する場合には電車Tr1を利用することができる。なお、図9において、電車以外の区間では、統一的に実線が4km/hでの移動、破線が5km/hでの移動を表している。
【0096】
上述の通り、A駅とB駅との間で利用する電車が移動速度によって異なるから、この時刻規制リンクに関しては、時刻Td11に出発した場合には、通行態様に変化が生じることになる。しかし、その後、電車Tr1、Tr2のいずれを利用した場合であっても、C駅とD駅との間では電車Tr12を利用することになり、結果として目的地への到着時刻はTa11となることが分かる。つまり、出発地を時刻Td11に出発した場合には、移動速度を変化させても、目的地への到着時刻に変化は生じないことになる。この場合には、A駅とB駅間の通行態様の変化は、目的地への到着時刻への影響を考慮すると、有意義な変化とは言えないことになる。
【0097】
次に、時刻Td12に出発した場合を考える。この場合には、移動速度によってA駅で利用する電車がTr3、Tr4に分かれる。しかも、C駅で利用する電車もTr12、Tr13に分かれることとなり、目的地への到着時刻はTa11,Ta12と大きく異なることになる。従って、出発地を時刻Td12に出発した場合には、移動速度の変化は、目的地への到着時刻への影響を考慮すると、途中の規制箇所で、有意義な通行態様の変化をもたらすことになる。
【0098】
変形例では、図8のステップS64において、通行態様の変化が生じた場合に、更に、その変化が有意義なものか否かを判断し、有意義な変化が生じている場合にのみユーザに報知する処理を実行する。有意義か否かの判断には、例えば、目的地までの所要時間の変化が、移動速度の変化によって生じるべき差違を超えるか否かを判断基準として用いることができる。まず、出発地から目的地までの距離を、4km/h、5km/hおよび電車のそれぞれの移動速度で規制条件を考慮することなく移動した場合の所要時間の差違を求める。そして、規制条件を考慮した上で得られる到着時刻の変化が、この差違を超える場合には、通行態様の変化が有意義なものであると判断する。別の方法として、移動速度を変化させた場合に得られる目的地への到着予測時刻の差違が所定値を超える場合に、通行態様の変化が有意義なものであると判断する方法を採っても良い。
【0099】
ユーザにとって最終的に重要となるのは、目的地への到着時刻である。変形例の処理によれば、この点を考慮して、移動速度による影響をユーザに報知することが可能となり、実用性をより向上させることができる。
【0100】
以上、本発明の種々の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができることはいうまでもない。本実施例は、歩行者用の経路案内システムに限らず、車両用の経路案内システムに適用することも可能である。また、本実施例では、サーバ200と端末100からなるシステムを例示したが、サーバ200の機能を端末100に組み込み、スタンドアロンの装置として構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】実施例としての経路案内システムの構成を示す説明図である。
【図2】地図DB250および時刻表DB252のデータ構造を示す説明図である。
【図3】経路探索処理例(1)を示す説明図である。
【図4】経路探索処理例(2)を示す説明図である。
【図5】経路探索処理例(3)を示す説明図である。
【図6】経路探索処理のフローチャートである。
【図7】経路案内処理のフローチャートである。
【図8】第2実施例における経路案内処理のフローチャートである。
【図9】変形例としての通行態様判断の処理例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0102】
100…端末
110…主制御部
120…通信部
130…コマンド入力部
140…GPS
150…表示制御部
200…サーバ
220…通信部
230…経路探索部
240…経路案内部
250…地図DB
250L…リンクデータ
250N…ノードデータ
252…時刻表DB
254…ユーザDB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経路探索装置であって、
出発地、出発時刻および目的地の指定を受け付ける指定入力部と、
通路をノードおよびリンクで表すとともに、該ノードおよびリンクの少なくとも一部には採りうる通行態様を時刻に応じて規制する規制条件が付されたネットワークデータを参照するネットワークデータ参照部と、
前記ネットワークデータを用いて経路探索をする際の条件として、少なくとも一部のリンクの通行所要時間に影響を与える移動条件が異なる複数種類の探索条件を設定する探索条件設定部と、
前記ネットワークデータを用いて、前記出発地と目的地との間で、前記複数種類の探索条件にそれぞれ対応した経路を探索する経路探索部とを備える経路探索装置。
【請求項2】
請求項1記載の経路探索装置であって、
前記探索条件には、少なくとも一部のリンクの通行所要時間が最短となる条件が含まれる経路探索装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の経路探索装置であって、
前記移動条件には、ユーザの意思によって調整可能な随意条件と、ユーザの意思によって調整不能な不随意条件とが含まれ、
前記探索条件設定部は、前記随意条件と不随意条件とを独立に変化させて前記探索条件を設定する経路探索装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の経路探索装置であって、
前記各リンクには、該リンクの距離または通行所要時間に応じたコストが設定されており、
前記各ノードに到達する予測時刻を求める到達時刻予測部と、
前記規制条件に基づいて各リンクを通行するために、前記予測時刻に応じて要求される待ち時間を、前記コストに反映させる待ち時間反映部とを有し、
前記経路探索部は、前記反映後のコストの総和が最小となる経路を探索する経路探索装置。
【請求項5】
請求項4記載の経路探索装置であって、
前記規制条件には、所定の時間帯における通行禁止規制が含まれる経路探索装置。
【請求項6】
請求項4または5記載の経路探索装置であって、
前記コストは距離に基づいて設定されており、
前記待ち時間反映部は、所定の規則に基づいて前記待ち時間を距離に換算することによって前記反映を行う経路探索装置。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載の経路探索装置であって、
前記指定入力部は、更に、前記出発地から目的地までの総所要時間の要求値を入力し、
前記経路探索部は、前記探索条件の一つとして、前記移動条件が予め通常値として規定された通常探索条件で前記経路の探索を行い、該探索の結果得られる前記総所要時間が前記要求値を超える場合に、前記通常探索条件とは異なる探索条件による経路の探索を実行する経路探索装置。
【請求項8】
地図上に指定された目的地までの経路を表示する経路案内装置であって、
通路をノードおよびリンクで表すとともに、該ノードおよびリンクの少なくとも一部には採りうる通行態様を時刻に応じて規制する規制条件が付されたネットワークデータを用いることによって、少なくとも一部のノードへの到達時刻に対する制約を含む状態で得られている経路を入力する経路入力部と、
前記到達時刻に対する制約に基づいて各リンクに要求される移動速度に応じて前記経路の表示態様を変化させて表示を行う表示制御部とを備える経路案内装置。
【請求項9】
請求項8記載の経路案内装置であって、
前記経路は、少なくとも一部のリンクの通行所要時間に影響を与える移動条件が異なる複数種類の探索条件にそれぞれ対応して得られており、
前記複数種類の探索条件に対応した各経路に対して予測される目的地への到着時刻または目的地までの総所要時間の少なくとも一方をユーザに提示して、案内対象とすべき経路を選択させる選択受付部を有し、
前記表示制御部は、前記選択された経路に対して前記表示を行う経路案内装置。
【請求項10】
請求項8または9記載の経路案内装置であって、
前記表示制御部は、前記移動速度に応じて、前記経路上のリンクごとに表示態様を変化させる経路案内装置。
【請求項11】
請求項8〜10いずれか記載の経路案内装置であって、
前記表示制御部は、併せて前記規制条件の内容を表示可能である経路案内装置。
【請求項12】
地図上に指定された目的地までの経路を表示する経路案内装置であって、
通路をノードおよびリンクで表すとともに、該ノードおよびリンクの少なくとも一部には採りうる通行態様を時刻に応じて規制する規制条件が付されたネットワークデータを用いて得られた経路探索結果を入力する経路入力部と、
経路を移動する際に、ユーザが採りうる移動速度の範囲を入力する指定入力部と、
前記経路探索結果およびネットワークデータの少なくとも一方を参照して、現在位置および時刻を基準として、前記指定された範囲内で移動速度を変化させて前記経路を移動した場合に、前記規制条件が付されたノードまたはリンクの少なくとも一カ所において前記通行態様の相違が生じるか否かを判断する通行態様判断部と、
該通行態様の相違が生じる場合に、その旨をユーザに報知する報知部とを備える経路案内装置。
【請求項13】
請求項12記載の経路案内装置であって、
前記通行態様判断部は、更に、前記指定された範囲内の複数の移動速度について、前記目的地までの距離と該移動速度から得られる所要時間と、前記規制条件を考慮して得られる予測所要時間とを求め、前記移動速度の変化に伴う該予測所要時間の変化が前記所要時間の変化を超えるか否かを判断し、
前記報知部は、前記相違が生じる場合において、前記予測所要時間の変化が前記所要時間の変化を超える時に、前記報知を行う経路案内装置。
【請求項14】
コンピュータによって経路を探索するためのコンピュータプログラムであって、
出発地および目的地の指定を受け付ける指定入力サブプログラムと、
前記ネットワークデータを用いて経路探索をする際の条件として、通路をノードおよびリンクで表すとともに、該ノードおよびリンクの少なくとも一部には採りうる通行態様を時刻に応じて規制する規制条件が付されたネットワークデータを参照するネットワークデータ参照サブプログラムと、
少なくとも一部のリンクの通行所要時間に影響を与える移動条件が異なる複数種類の探索条件を設定する探索条件設定サブプログラムと、
前記ネットワークデータを用いて、前記出発地と目的地との間で、前記複数種類の探索条件にそれぞれ対応した経路を探索する経路探索サブプログラムとを備えるコンピュータプログラム。
【請求項15】
コンピュータによって地図上に指定された目的地までの経路を表示するためのコンピュータプログラムであって、
通路をノードおよびリンクで表すとともに、該ノードおよびリンクの少なくとも一部には採りうる通行態様を時刻に応じて規制する規制条件が付されたネットワークデータを用いることによって、少なくとも一部のノードへの到達時刻に対する制約を含む状態で得られている経路を入力する経路入力サブプログラムと、
前記到達時刻に対する制約に基づいて各リンクに要求される移動速度に応じて前記経路の表示態様を変化させて表示を行う表示制御サブプログラムとを備えるコンピュータプログラム。
【請求項16】
コンピュータによって地図上に指定された目的地までの経路を表示するためのコンピュータプログラムであって、
通路をノードおよびリンクで表すとともに、該ノードおよびリンクの少なくとも一部には採りうる通行態様を時刻に応じて規制する規制条件が付されたネットワークデータを用いて得られた経路探索結果を入力する経路入力サブプログラムと、
経路を移動する際に、ユーザが採りうる移動速度の範囲を入力する指定入力サブプログラムと、
前記経路探索結果およびネットワークデータの少なくとも一方を参照して、現在位置および時刻を基準として、前記指定された範囲内で移動速度を変化させて前記経路を移動した場合に、前記規制条件が付されたノードまたはリンクの少なくとも一カ所において前記通行態様の相違が生じるか否かを判断する通行態様判断サブプログラムと、
該通行態様の相違が生じる場合に、その旨をユーザに報知する報知サブプログラムとを備えるコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−93334(P2007−93334A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281587(P2005−281587)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(597151563)株式会社ゼンリン (155)
【Fターム(参考)】