説明

経鼻製剤

N型カルシウムチャンネル阻害作用を有し、疼痛(神経因性疼痛、癌性疼痛、難治性疼痛、術後痛等)、網膜虚血に基づく疾患等の治療に有用な(2R)−N−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミド(本化合物)またはその塩を有効成分として用いる経鼻製剤。本化合物を経鼻投与することにより、経口投与に比較して生物学的利用能を改善することができ、医薬品として好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は医薬品として有用な(2R)−N−[1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミドまたはその塩の生物学的利用能(Bioavailability、以下BAと略記することがある。)を向上させるための経鼻製剤に関する。
【背景技術】
難治性疼痛に対して改善作用を示すN型カルシウムチャンネル阻害薬が、医療の領域で注目されている。
その中で、以下の式

で示される(2R)−N−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミド(CAS登録番号:253306−39−7;以下、本化合物という。)がN型カルシウムチャネル阻害作用を有し、脳梗塞、一過性脳虚血発作、心臓手術後の脳脊髄障害、脊髄血管障害、ストレス性高血圧、神経症、てんかん、喘息、頻尿、疼痛の予防および/または治療薬として有効であることが知られている(例えば、WO00/00470号明細書の実施例2参照)。
また、本化合物は網膜虚血に基づく疾患(緑内障、糖尿病性網膜症、黄斑変性症、または網膜血管閉塞症など)の予防および/または治療薬としても有効である(例えば、WO02/51431号参照)。
これまでに種々の薬物が開発され、医療現場で広く用いられているが、これらの多くは経口剤または注射剤として使用されているのが現状である。薬物が消化管内で不安定である、消化管膜透過性が低い、初回通過効果を受ける等の理由により経口吸収性が悪い場合、薬物に消化管組織傷害性がある場合、または薬効において速効性が必要な場合等は、経口剤ではなく注射剤が使用される。しかし、注射剤による投与は患者に与える苦痛が大きく、また自己投与ができないことも患者には大きな負担であり、特に投与が長期間に及ぶ場合は問題である。その中で、薬物を簡便に投与する非注射型の投与方法の一つとして経鼻投与が注目されている。経鼻投与は、自己投与が可能であること、水が不要であること、薬物が全身循環血液中に直接入るため肝臓での代謝(初回通過効果)を受けにくいこと等の利点があり、また経鼻投与した薬物の吸収は一般的に速いため薬効において即効性も期待できる。また適当な製剤化を施すことによって持続性も期待できる。
従って、本発明の課題は、本化合物を経鼻製剤として投与することによって、そのBAをさらに向上させ、優れた効果を発揮し、かつ医薬として十分に満足できる経鼻製剤を提供することにある。
【発明の開示】
本発明者らは、上記予防治療薬を求めて経鼻製剤について鋭意研究した結果、本化合物が鼻粘膜からの優れた生体内吸収性とともに優れた薬理効果を示し、かつ医薬として十分に満足できる性質を有していることをはじめて見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、(2R)−N−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミドまたはその塩の経鼻製剤に関する。
さらに詳しく言えば、本発明は
1.(2R)−N−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミドまたはその塩を含有する経鼻製剤、
2.固形剤である前記1記載の経鼻製剤、
3.固形剤が混合末剤または造粒粉末剤である前記2記載の経鼻製剤、
4.賦形剤、結合剤、増粘剤および懸濁化剤から選択される1種以上を含有する前記2記載の経鼻製剤、
5.液剤である前記1記載の経鼻製剤、
6.液剤が溶液剤、懸濁液剤または乳液剤である前記5記載の経鼻製剤、
7.溶剤、溶解補助剤、増粘剤、懸濁化剤および乳化剤から選択される1種以上を含有する前記5記載の経鼻製剤、
8.生物学的利用能が経口投与に比較して8倍以上である前記1記載の経鼻製剤、
9.疼痛の治療および/または予防剤である前記1記載の経鼻製剤、
10.疼痛が、神経因性疼痛、癌性疼痛、難治性疼痛、または術後痛である前記9記載の経鼻製剤、
11.網膜虚血に基づく疾患の治療および/または予防剤である前記1記載の経鼻製剤、
12.(2R)−N−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミドまたはその塩およびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する疼痛の治療および/または予防用の経鼻製剤であって、生物学的利用能が経口投与に比較して8倍以上となることを特徴とする経鼻製剤、
13.経鼻投与することを特徴とする(2R)−N−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミドまたはその塩の生物学的利用能の改善方法、
14.哺乳動物に対して(2R)−N−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミドまたはその塩を含有してなる経鼻製剤を有効量投与することを特徴とする疼痛の予防および/または治療方法、および
15.経鼻製剤を製造するための(2R)−N−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミドまたはその塩の使用に関する。
本化合物は、公知の方法、例えばWO00/00470号に記載された方法に従って、医薬組成物として種々の剤形にて用いることができる。しかしながら、本化合物の生物学的利用能(BA)は0.2%と非常に低く、経口剤として医薬品に使用することが困難である。そこで、経鼻製剤を検討した結果、本化合物のBA値を大幅に改善し、好ましい医薬品を得ることができることを見出した。
一般的に、経口剤とは消化管粘膜から吸収される薬剤のことをいう。経口投与ルート以外にも非注射型の薬物投与ルートとして、皮膚、口腔、舌下、鼻腔、肺、直腸等があるが、これらの投与ルートにより必ずしもBA値が向上するとは限らない。
本発明者らは、経口を含めた粘膜吸収剤について鋭意研究し、その結果とりわけ鼻腔粘膜吸収剤である経鼻製剤が生体内利用能に優れていることを見出し、本発明を完成した。
本発明においては、特に指示しない限り異性体はこれをすべて包含する。例えば、アルキル基、およびアルコキシ基には直鎖のものおよび分枝鎖のものが含まれる。さらに、二重結合、環、縮合環における異性体(E、Z、シス、トランス体)、不斉炭素の存在等による異性体(R、S体、α体、β体、エナンチオマー、ジアステレオマー)、旋光性を有する光学活性体(D、L、d、l体)、クロマトグラフ分離による極性体(高極性体、低極性体)、平衡化合物、これらの任意の割合の混合物、ラセミ混合物は、すべて本発明に含まれる。
本発明においては、特に断わらない限り、当業者にとって明らかなように

本化合物は、公知の方法で薬学的に許容される塩に変換される。
本明細書中、薬学的に許容される塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、酸付加塩等が挙げられる。
塩は毒性のない、水溶性のものが好ましい。適当な塩としては、アルカリ金属(カリウム、ナトリウム等)の塩、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)の塩、アンモニウム塩、薬学的に許容される有機アミン(テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、シクロペンチルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピペリジン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、リジン、アルギニン、N−メチル−D−グルカミン等)の塩が挙げられる。
酸付加塩は非毒性かつ水溶性であることが好ましい。適当な酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩のような無機酸塩、または酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、グルクロン酸塩、グルコン酸塩のような有機酸塩が挙げられる。
また、本化合物またはその塩には、公知の方法により得られる溶媒和物も含まれる。
溶媒和物は非毒性かつ水溶性であることが好ましい。適当な溶媒和物としては、例えば水、アルコール系の溶媒(例えば、エタノール等)のような溶媒和物が挙げられる。
本発明の経鼻製剤は、本化合物を有効成分として、それ自体公知の手段によって製剤化し、薬理学的に許容される基剤を適宜、適量混合することもできる。薬理学的に許容される基剤および/または添加物としては、製剤素材として慣用の各種有機または無機物質が挙げられる。例えば賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解補助剤、増粘剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、安定化剤等が挙げられる。また必要に応じて保存剤(防腐剤)、pH調整剤、清涼化剤、抗酸化剤、湿潤化剤、粘着剤等の添加物を用いることもできる。
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D−マンニトール、澱粉、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ等が挙げられる。
結合剤としては、例えば、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、澱粉、ショ糖、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、澱粉、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、L−ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
溶剤としては、例えば、注射用水、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油等が挙げられる。
溶解補助剤としては、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。
増粘剤としては、例えば、グリセリン、マクロゴール等の多価アルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子、アルギン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸、シクロデキストリン、d−α−トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
懸濁化剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート等の界面活性剤、グリセリン、マクロゴール等の多価アルコール、ソルビトール、マンニトール、ショ糖等の糖類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子、コンドロイチン硫酸等が挙げられる。
等張化剤としては、例えば、ブドウ糖、D−ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール、塩化カリウム、濃グリセリン、プロピレングリコール、ショ糖等が挙げられる。
緩衝剤としては、例えば、リン酸塩(リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等)、ホウ酸、ホウ砂、酢酸塩(酢酸ナトリウム等)、炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム等)、クエン酸、L−グルタミン酸ナトリウム等が挙げられる。
無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコール、クロロブタノール、プロピレングリコール、アミノ安息香酸エチル、リドカイン等が挙げられる。
安定化剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、チオグリセロール、チオグリコール酸、チオ乳酸、システイン、グルタチオン、チオ酢酸、メチオニン、チオソルビトール、チオグルコース、チオ尿素等の硫黄化合物、ホウ酸、ホウ砂、リン酸、メタリン酸、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機酸およびその塩類、ギ酸、シュウ酸、酒石酸、クエン酸、エデト酸等の有機酸およびその塩類(エデト酸ナトリウム等)、アセトアミド、ジエチルアセトアミド、ニコチン酸アミド、尿素、バルビタール等の酸アミド、尿素誘導体、グリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ブドウ糖、アスコルビン酸等の多価アルコール、糖類、フェノール、チモール、キノン、クマロン、イソクマロン等のフェノール類、ジブチルヒドロキシトルエン、グリシン、グルタミン酸、リジン、フェニルアラニン、カゼイン、エデスチン等のアミノ酸、タンパク質等が挙げられる。
乳化剤としては、例えば、グリセリンエステル(モノオレイン酸グリセリン)、サポニン(エンジュサポニン、キラヤ抽出物、ダイズサポニン等)、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン(植物レシチン、卵黄レシチン、大豆レシチン等)、多価アルコール(オレイルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール等)、脂肪エステル(ミリスチン酸オクチルドデシル等)、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、各種界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩型乳化剤、塩化ベンザルコニウム、セスキオレイン酸ソルビタン、ドデシルベンゼンスルホン酸等)、トリエタノールアミン等が挙げられる。
保存剤(防腐剤)としては、例えば、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル類、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルバラベン、ブチルパラベン等のパラベン類、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジウム等の逆性石鹸類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等のアルコール誘導体、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸ナトリウム等の有機酸およびその塩類、パラクロルメトキシフェノール、パラクロルメタクレゾール等のフェノール類等が挙げられる。
pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、塩酸、硝酸、クエン酸、ホウ酸、酢酸等が挙げられる。
清涼化剤としては、例えば、1−メントール、カンファー、ハッカ水等が挙げられる。
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸、クエン酸、エデト酸ナトリウム等が挙げられる。
湿潤化剤としては、プロピレングリコール、ポリソルベート、マクロゴール、グリセリン等が挙げられる。
粘着剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2208、カルボキシビニルポリマー、プロピレングリコール、ポリソルベート80等が挙げられる。
本発明の経鼻製剤は、液剤、固形剤のいずれも好ましい。
液剤の場合、用いる添加物として好ましくは、増粘剤または溶解補助剤であり、より好ましくはグリセリン、マクロゴール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸、シクロデキストリン、ポリオキシエチレンヒドロキシステアレート、d−α−トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸、ポリエチレングリコールであり、さらに好ましくはポリオキシエチレンヒドロキシステアレート、d−α−トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸、ポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
固形剤の場合、用いる添加剤として好ましくは結合剤であり、より好ましくは、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、澱粉、ショ糖、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムであり、さらに好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
液剤には、溶液剤、懸濁液剤、乳液剤等が含まれる。
溶液剤とは、医薬品を溶剤に溶解させ澄明としたものをいう。
懸濁液剤とは、固形医薬品に懸濁化剤または他の適当な添加剤と精製水または油を加えて懸濁し、全質を均等にした液剤をいい、固体粒子の分散層が存在する分散系である。
乳液剤とは、液状の医薬品に乳化剤と精製水を加えて乳化し、全質を均等にした液剤をいい、液体粒子の分散層が存在する分散系である。
液剤とする場合には、必要により溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等を加えて、本化合物を水、生理食塩水等に溶解、懸濁または乳化して一定量とすることにより製造することができる。この場合の本化合物の溶液中濃度は、例えば約0.2mg/mL〜約100mg/mL、好ましくは約1mg/mL〜約10mg/mLのものが用いられる。また、これにアルギン酸ソーダ、ヒアルロン酸ソーダ、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等を加えることにより、粘性を持たせ滞留時間を延長させることができる。
固形剤には、混合末剤、造粒粉末剤等が含まれる。
混合末剤とは、医薬品に適当な賦形剤等の添加剤を均等に混和した粉末剤である。
造粒粉末剤とは、医薬品をそのまままたは、医薬品に賦形剤、結合剤、崩壊剤またはその他の適当な添加剤を加えて均等に混和した後、適当な方法、例えば、押出し増粒法、混合撹拌造粒法、高速混合撹拌造粒法、流動層造粒法、転動撹拌流動層造粒法、転動造粒法、乾式(圧縮)造粒法、破砕造粒法、噴霧乾燥造粒法等によって得られる造粒物を必要に応じて乾燥によって粉末または微粒状とし、なるべく粒子を揃えたものである。
固形剤とする場合、製剤をさらにコーティング剤で被覆してもよい。コーティング剤としては、例えば、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、アミノアルキルメタクリレートコポリマー類、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、乾燥メタクリル酸コポリマーLD、酢酸フタル酸セルロース、ジメチルアミノエチルメタアクリレート・メチルメタアクリレートコポリマー、ステアリン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、部分アルファー化デンプン、プルラン、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリビニルアルコール、メタクリル酸コポリマー類、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる。
固形剤は、固形状の生理学的に許容される基剤に均一に分散もしくは付着結合させるか、または造粒により製造することができる。すなわち、乳鉢による混合のように圧力やせん断力を加えながら混合を行うこと、本化合物と基剤を溶剤に溶解または懸濁した液状またはペースト状のものをエバポレーターで濃縮することにより得られた生成物を粉末状にすることにより行なわれる。
本発明の経鼻製剤を粉末として製剤化するにあたり、本化合物の含有量は、例えば製剤質量あたり約0.01〜約80%、好ましくは約3〜約66%を配合するのが好ましい。
また本化合物を製剤化するにあたり、薬物由来の臭いを消すマスキング効果、または患者のコンプライアンスを高めるために薬物由来の臭いよりも強い香りでその臭いを覆う芳香効果を有する矯臭剤を加えてもよい。
マスキング効果を有する矯臭剤、すなわちマスキング剤としては、トレハロース、リンゴ酸、マルトース、グルコン酸カリウム、アニス精油、バニラ精油、カルダモン精油等が挙げられる。
芳香効果を有する矯臭剤、すなわち芳香剤としては、生薬成分(桂皮末、薄荷末、樟脳末、ウイキョウ末、ショウガ末、ローズマリー末、シソ葉末等)、天然アロマオイルまたは抽出物(ペパーミント油、スペアミント油、ハッカ油、ベルガモット油、タンジェリン油、イランイラン油、ローズ油、ゼラニウム油、オレンジエキス、テレビン油、チョウジ油、レモンパウダー、バニラエッセンス、ペパーミントエッセンス、ユーカリ油等)、各種芳香成分(バニリン、リモネン、ブタノール、イソブチルアルコール、ヘキサノール、ヘキサナール、トランス−2−ヘキセナール、シンナミックアルコール、フェニルプロピルアルコール、シス−3−ヘキセノール、酪酸エチル、酢酸ブチル、酪酸ブチル、イロン、ベンジルアルコール、リナロール、ゲラニオール、タゲトン、ジヒドロタゲトン、3−メチル−5−(2−メチルプロピル)−2−フランカルボアルデヒド、酢酸ベンジル、ρ−メチルアニソール、安息香酸メチル、安息香酸ベンジル、酢酸リナリル、ネロリドール、ネロール、インドール、β−イオノン、γ−デカラクトン、リナロールオキサイド、桂皮酸メチル、メチルアンスラニレート、シンナミックアルデヒド、ベンズアルデヒド、オイゲノール、フェニルエチルアルコール、サリチル酸ベンジル、シトロネロール、1−ヘキサデセン、アニスアルデヒド、パルミチルアルデヒド、アニシル酸、エナント酸、キャリオフィレン、ターピネオール、γ−ターピネン、ライラックアルコール、α−ピネン、オシメン、メチルベンジルエーテル、ヒドロキノンジメチルエーテル、アニスアルデヒド、フィトール、メチルジャスモネート、シスジャスモン、ローズオキサイド、ダマセノン等)が好適に用いられる。
本発明においては、マスキング剤(矯臭剤)で製剤品の表面を処理するのではなく、製剤前の粉体状または液状の芳香効果を有するエキス類そのものを練りこみ、経鼻剤に製剤化するものである。このような本発明のマスキング組成物ではエキス類そのものを混練してエキス類を分散しているため、マスキング効果は容易に失われず、不快感が生じなくなる。
本発明の製剤における本化合物の配合量は、活性および治療に必要な量に応じて選択すればよいが、単位投与組成物中の本化合物が通常は完全に吸収されるわけではないこと、すなわち化合物の生物学的利用能(BA)を考慮して、多めに配合することが好ましい。また、例えば液剤、エアロゾルまたは他の投与形態で同一容器から複数回の投与を行う場合には、1回あたりの投与量を通常の薬用量あるいはそれよりも多めの投与量とすることが好ましい。
本発明の経鼻製剤を固形剤として製剤化する場合には、固形剤を既存のカプセル(例えば、ゼラチンカプセル、ヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセル等)に1回投与分の所定量を充填し、既存の鼻腔内粉末噴霧器、例えばパブライザー(帝人)、インサフレーター(ファイソンズ)、ジェットライザー(ユニシアジェックス)、ビドース(ファイファー)等を用いて経鼻投与することが可能である。この場合の固形剤のヒトへの投与量としては、15〜150mg/人である。より好ましくは15〜90mg/人であり、さらに好ましくは15〜75mg/人である。
本発明の経鼻製剤を溶液として製剤化する場合は、本化合物を水、生理食塩水等に溶解したもの、または本化合物を含む製剤の真空乾燥物または凍結乾燥物を水または生理食塩水で溶解したものを噴霧器、任意の注入器で注入してもよい。この場合の溶液製剤のヒトへの投与量は、約1〜約200μL/人である。より好ましくは約10〜約100μL/人であり、さらに好ましくは約30〜80μL/人である。
本発明の経鼻製剤においては、鼻腔内の残存・滞留率を高めるため、高粘度の製剤が好ましい。
後述の実施例に示されるように、本発明の経鼻製剤は、経口投与との比較において、8倍以上のBAを有することが見出された。
本発明の製剤を経鼻投与することによって、BAが経口投与に比較して改善されることは実施例から明らかであり、本発明の製剤は医薬品として好適に用いることができる。本発明製剤のBAの改善度として好ましくは約8倍以上であり、より好ましくは約10〜約80倍である。なお、本発明において、BAの改善度とは経口投与のBAを1とした場合の経鼻投与のBAをいう。
[毒性]
本化合物の毒性は非常に低いものであり、医薬として使用するために十分安全であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
[医薬品への適用]
かくして得られる本発明の経鼻製剤は、BA改善により投与量を減らすことができ、医薬として安全に投与することができ、哺乳動物とりわけヒトに対して、優れたN型カルシウムチャンネル阻害作用を示し、疼痛(神経因性疼痛、癌性疼痛、難治性疼痛、術後痛等)、網膜虚血に基づく疾患(緑内障、糖尿病性網膜症、黄斑変性症、または網膜血管閉塞症等)等の予防および/または治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
図1は、脊髄神経結紮アカゲザルに本化合物の経鼻製剤を0.06mg/kgおよび0.6mg/kg投与したとき、並びに本化合物の経口製剤を3mg/kgの投与したときの疼痛反応潜時の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、本発明の(2R)−N−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミド(本化合物)またはその塩の経鼻製剤による効果を、実施例および製剤例を挙げて詳しく述べるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、また、本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
製剤例1:液剤の調製
本化合物(40mg)をd−α−トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸(2.5mL)とポリエチレングリコール(2.5mL)の混液に加温溶解し、蒸留水を3倍量加えて撹拌混合し、溶液剤(15mL)を得た。
製剤例2:液剤の調製
製剤例1で調製した液剤に8%ヒドロキシピプロピルメチルセルロース(HPMC)溶液を加えて粘性液剤を得た。
製剤例3:固形剤の調製
本化合物(320mg)をエタノール−水混合液(1.28mL)に溶解した。乳糖1813mgを添加し、混合撹拌した後にエバポレーターでエタノール−水混合液を留去して得られた粉末を乳鉢にて解砕し、粉末製剤(2026mg)を得た。
製剤例4:固形剤の調製
本化合物(320mg)とHPMC(32mg)をエタノール−水混合液(1.28mL)に溶解し、乳糖(1781mg)を添加し、混合撹拌後溶媒を留去して得られた粉末を乳鉢にて解砕し、粉末製剤(2026mg)を得た。
製剤例5:固形剤の調製
本化合物(80mg)とヒドロキシプロピルメチルセルロース(240mg)をエタノール−水混合液(1.28mL)に溶解し、乳糖(1813mg)を添加し、混合撹拌後溶媒を留去して得られた粉末を乳鉢にて解砕し、粉末製剤(2026mg)を得た。
製剤例6:液剤の調製
本化合物(600g)およびHPMC(30g)を精製水(6L)に溶解し、混合物をマイクロフルイダイザーで懸濁微粉砕し、懸濁微粉砕液(5967g)を得た。
製剤例7:液剤の調製
製剤例6で調製した液剤に8%HPMC溶液を加え、粘性懸濁液を得た。
製剤例8:固形剤の調製
製剤例6で調製した液剤(500mL)に乳糖(50g)を加え、撹拌混合した後にスプレードライヤーで噴霧乾燥し、粉末製剤(76g)を得た。
製剤例9:液剤の調製
本化合物(40mg)をポリオキシエチレンヒドロキシステアレート(ソルトール)(3.5mL)とプロピレングリコール(1.5mL)の混液に加温溶解し、蒸留水を3倍量加えて撹拌混合し、溶液剤(15mL)を得た。
実施例1:本化合物のBAの測定
[液剤の経鼻投与]
製剤例1で調製した製剤を3匹のアカゲザル(年齢3〜5)にゾンデをつけた注射筒を使って両鼻にそれぞれ0.1mLずつ、本化合物の投与量を0.06mg/kg、0.2mg/kg、及び0.6mg/kgとして注入した。
[粉末剤の経鼻投与]
製剤例5で調製した製剤を3匹のアカゲザル(年齢3〜5)に鼻腔内粉末噴霧器を使って両鼻にそれぞれカプセル充填した12.5mgずつ、本化合物の投与量を0.2mg/kgとして噴霧した。
[経口投与]
製剤例1で調製した製剤をフィーディングチューブにより経口投与した(投与量3mg/kg)。
[生物学的利用能(BA)値の測定]
製剤投与後、所定の時間に大腿静脈より血液を採血し、本化合物の血漿中濃度を測定し、それをもとにして本化合物の経口および鼻腔内投与後のBA値を以下の式により計算した。その結果を表1に示す。
BA(%)={(AUCin/Din)/(AUCiv/Div)}×100
式中、AUCは血中濃度−時間曲線下面積(ng・hr/ml)、AUCinは経鼻投与後のAUC、Dinは経鼻投与時の投与量、AUCivは静脈内投与後のAUC、Divは静脈内投与時の投与量である。

本化合物を経鼻投与することで経口投与と比較して、経鼻投与のほうが速やかに体内に吸収され、優れたBA値を有することが明らかである。
実施例2:脊髄神経結紮アカゲザルの痛覚過敏抑制作用
アカゲザル3匹を試験に供し、適量のケタミンとペントバルビタールナトリウムで麻酔し、L7脊髄神経を絹糸で結紮した。アカゲザルに本化合物を0.06mg/kgもしくは0.6mg/kgの投与量またはビークルを経鼻投与し、また3mg/kgの投与量またはビークルを経口投与し、30分後にサルの後肢足裏に熱刺激を加え、そのとき引き起こされる逃避行動を疼痛反応の指標として、その反応潜時(秒)を測定した。投与前の反応潜時に対して投与後に上昇した反応潜時の割合を上昇率として示した。
なお、経鼻投与には製剤例9で調製した製剤を、経口投与には製剤例1で調製した製剤を用いた。
結果を図1に示す。図1の結果から、本化合物が経口投与だけでなく経鼻投与においても痛覚過敏を抑制し、医薬品として好適であることが明らかである。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(2R)−N−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミドまたはその塩を含有する経鼻製剤。
【請求項2】
固形剤である請求の範囲第1項記載の経鼻製剤。
【請求項3】
固形剤が混合末剤または造粒粉末剤である請求の範囲第2項記載の経鼻製剤。
【請求項4】
賦形剤、結合剤、増粘剤および懸濁化剤から選択される1種以上を含有する請求の範囲第2項記載の経鼻製剤。
【請求項5】
液剤である請求の範囲第1項記載の経鼻製剤。
【請求項6】
液剤が溶液剤、懸濁液剤または乳液剤である請求の範囲第5項記載の経鼻製剤。
【請求項7】
溶剤、溶解補助剤、増粘剤、懸濁化剤および乳化剤から選択される1種以上を含有する請求の範囲第5項記載の経鼻製剤。
【請求項8】
生物学的利用能が経口投与に比較して8倍以上である請求の範囲第1項記載の経鼻製剤。
【請求項9】
疼痛の治療および/または予防剤である請求の範囲第1項記載の経鼻製剤。
【請求項10】
疼痛が、神経因性疼痛、癌性疼痛、難治性疼痛、または術後痛である請求の範囲第9項記載の経鼻製剤。
【請求項11】
網膜虚血に基づく疾患の治療および/または予防剤である請求の範囲第1項記載の経鼻製剤。
【請求項12】
(2R)−N−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミドまたはその塩およびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する疼痛の治療および/または予防用の経鼻製剤であって、生物学的利用能が経口投与に比較して8倍以上となることを特徴とする経鼻製剤。
【請求項13】
経鼻投与することを特徴とする(2R)−N−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミドまたはその塩の生物学的利用能の改善方法。
【請求項14】
哺乳動物に対して(2R)−N−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミドまたはその塩を含有してなる経鼻製剤を有効量投与することを特徴とする疼痛の予防および/または治療方法。
【請求項15】
経鼻製剤を製造するための(2R)−N−(1−ベンジルピペリジン−4−イル)−3−シクロヘキシルメチルチオ−2−[(4R)−3−t−ブトキシカルボニルチアゾリジン−4−イルカルボニルアミノ]プロパンアミドまたはその塩の使用。

【国際公開番号】WO2004/113332
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【発行日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507287(P2005−507287)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008916
【国際出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】