説明

結合共振器のアレイ、バンドパスフィルタおよび発振器

【課題】共振中心周波数、帯域幅の調整が容易な結合共振器アレイ及びそれを使用したフィルタ並びに発振器を提供する。
【解決手段】結合共振器16のアレイ10は、入力電気信号Veを供給するための手段12と、この入力電気信号を使用してアレイのN個の結合共振器16を電気的に励起するための手段14とを備える。電気励起手段14は、これらN個の結合共振器16のそれぞれに関して、入力電気信号に従ってこの結合共振器を作動させるために入力電気信号供給手段12に接続された作動手段18と、この結合共振器16を作動させるための結合共振器固有の可変利得入力増幅手段20とを備える。さらに、それらは、入力増幅手段20のそれぞれの可変利得の特定の設定を制御するための手段22を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力電気信号を供給するための手段と、この入力電気信号を使用してアレイのN個の結合共振器を電気的に励起させるための手段とを備えた結合共振器のアレイに関する。これはまた、例えばRF(無線周波数)フィルタ、およびこのような結合共振器のアレイを備える発振器として使用することができるバンドパスフィルタに関する。
それは、選択的フィルタの設計として電気通信分野に、あるいはより一般的には、計算ユニットのペースを調整するまたは信号復調に対応するタイムベースを形成する発振器の設計として電子機器分野に顕著に適用される。
【背景技術】
【0002】
電気信号によって励起することが可能な共振器は、実際は、主に共振周波数f、および共振器のエネルギーロスに関連するその品質係数Qによって定義される電気または電気機械デバイスである。共振周波数および品質係数は、電気機械共振器の場合、幾何学的パラメータおよび使用される材料の性質に左右され、または電気共振器の場合、そのR、LまたはCタイプ構成要素の値に左右される。このような共振器はしたがって、その共振周波数に対してバンドパスフィルタリングを行うために開ループモードで使用することができ、その帯域幅は品質係数が増大すると、それだけ狭くなる。それはまた、共振器から供給された信号からその共振周波数fで共振器を励起させることが可能な信号を生成することによってその発振に対応する電子フィードバック回路を使用して、閉ループモードで使用することも可能である。
【0003】
結合共振器のアレイは、機械的に(電気機械共振器の場合)または電気的に(電気共振器の場合)一緒に結合された複数の共振器で作製され、その結果、それらのうちの1つの励起が、このアレイ内で少なくとも自由度1を有する全ての結合共振器の機械的振動または電気的発振を引き起こす。これらの結合共振器のアレイにより、単に一つの共振器が使用される場合より、より多くのパワーおよびより優れた性能を提供する信号処理機能を想定することが可能である。例えば、フィルタを形成するのに使用される際、それらによって拡張帯域幅を実現することが可能になる。
【0004】
電気信号によって励起することが可能な様々なタイプの共振器が知られており、このようなアレイを形成するのに使用することができる。例えば、表面弾性波(SAW)、バルク音波(BAW)および水晶共振器は、電気機械共振器であるが、その主たる欠点は、相対的に大きなそのサイズ、およびスプリアス値およびノイズを発生させ、共振器を大きくて扱いにくいものにする接続となるオフチップ実装である。
【0005】
これらの大きさおよび集積化の問題を解決するために、NEMS(ナノ電気機械システム)またはMEMS(微小電気機械システム)タイプの電気機械共振器、あるいは超小型電子技術により共振器のアレイを一括して作製することを可能にするR、L、Cタイプの電気共振器を使用することが好ましい。NEMS/MEMS共振器は特に、大きさを縮小させ、低消費をもたらす。それらはまた、高い共振周波数および極めて高い品質係数の実現を可能にする。最後に、それらは、製作しやすく、同一のチップまたは電子回路カード上の電子データ処理要素と組み合わせることが可能である。
【0006】
物理的に、2つのNEMS/MEMS共振器間の機械結合は、ある程度の剛性の機械ブリッジを使用して形成され、2つの電気R、L、C共振器間の電気結合は、キャパシタまたは相互インダクタンスを使用して形成することができる。
【0007】
S.LeeおよびC.Nguyenによる文献、タイトル「Mechanically-Coupled Micromechanical Resonator Arrays for Improved Phase Noise」、2004年 IEEE 国際超音波、強誘電体および周波数制御合同50周年会議は、MEMS技法で機械結合された共振器のアレイを記載する。
【0008】
このアレイは、その出力信号がゲインステージに接続される機械結合されたプレートタイプの電気機械共振器で構成される。このゲインステージからの出力信号は、発振器を形成するために、環状になるように全ての共振器に共通の作動システムに戻される。この特定のアレイ機構により、できる限り低い運動抵抗によって全体的にノイズ影響されにくい発振器を実現することが可能になる。
【0009】
S.Li,Y.Lin,Z.RenおよびC.Nguyenによる文献、タイトル「An MSI Micromechanical Differential Disk-array Filter」、Dig.Of Tech.Papers,第14回ソリッド−ステートおよびアクチュエータ国際会議( トランスデューサ’07)、フランス、リヨン、2007年6月11〜14日、ページ307〜311は、MSI技法 (中規模集積化)で機械的に結合された共振器の別のアレイを記載する。
【0010】
このアレイは、マトリクスに配置され、その長さが、共振波長の一部分に表されるブリッジによって機械的に結合されたディスクタイプの電気機械共振器で構成される。先のように、この機構により、低運動抵抗を実現することが可能である。また、これによりアレイからの何らかの望ましくない共振モードを排除することが可能になる。
【0011】
しかしながら、これらの機構は、共振器全体の中心周波数または帯域幅を調整することは不可能であり、共振器作動周波数は、モードの少なくとも1つを強調するように作動装置を配置することによってあらかじめ固定される。しかしながら、これは、単に強力に減衰された他のモードを完全に排除することなく行われる。したがって、各共振器の共振周波数に大きなばらつきがあるタイムベース用途において、上記の機構によってこれらのばらつきを効果的に修正することは不可能である。
結合共振器のアレイを使用してフィルタの帯域幅を調整することを可能にする機構が、H.ChandrahalimおよびS.Bhaveによる文献、タイトル「Digitally-tunable MEMS filter using Mechanically-Coupled Resonator Array」、第21回 微小電気機械システムに関するIEEE 国際会議、米国アリゾナ州トゥーソン、2008年1月13〜17日に記載される。
【0012】
より具体的には、このフィルタは、4つの直列結合された共振器のアレイで構成され、その第1共振器のみが励振電極に接続され、その最後の共振器のみが検出電極に接続される。さらに、アレイの1つまたは複数の結合共振器を所定のバイアス電圧に切り替えることによって、3つの可能なモード、すなわち広帯域モード、低帯域モードおよび高帯域モードからフィルタの特定の作動モードを選択することが可能になる。この調整は、しかしながら、かなり基本的なものであり柔軟性がない。
【0013】
したがって恐らく、上記の問題および制約を克服することが可能な結合共振器のアレイを提供することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の主題は、したがって、入力電気信号を供給するための手段と、この入力電気信号を使用してアレイのN個の結合共振器を電気的に励起させる手段とを備えた結合共振器のアレイである。この結合共振器のアレイにおいて、電気励起手段は、
−これらのN個の結合共振器のそれぞれに関して、
・入力電気信号に従ってこの結合共振器を作動させるために入力電気信号供給手段に接続された作動手段、および
・この結合共振器固有の結合共振器を作動させるための可変利得入力増幅手段と、
−入力増幅手段のそれぞれの可変利得の特定の設定を制御するための手段とを備える。
【0015】
したがって、アレイの異なる共振器の励起を異なるように重み付けをすることによって、共振器のアレイの共振中心周波数および帯域幅を選択することが可能になる。また、制御された可変利得増幅手段を使用してこの重み付けを動的に設定する手段を有することによって、動的に設定することが可能な共振中心周波数および帯域幅を有する共振器のアレイが実現される。この簡素な設定のおかげで、次いで、強力な調節可能な帯域幅フィルタリングまたは調節可能な共振発振用途を想定することができる。
【0016】
任意選択で各共振器は、屈曲に関して振動するビームタイプ素子振動と、体積に関して振動するディスク、プレートまたはビームタイプ素子と、少なくとも1つのナノワイヤとで構成される要素のセットのうちの1つから選択された少なくとも1つの振動素子を有する。
【0017】
また任意選択で、結合共振器は、NEMSまたはMEMSタイプの電気機械共振器であり、該N個の結合共振器のそれぞれの作動手段および可変利得入力増幅手段は、静電励振電極を備え、そのバイアス電圧は、制御手段によって設定することができる。
【0018】
さらに任意選択で、この共振器のアレイが、Nの異なるモード周波数でNの異なる共振モードを生成することから、入力電気信号を使用する励起に応答して該N結合共振器によって供給されたN電気信号から生じた任意のベクトル信号を、N共振モードのうちの1つで該N個の結合共振器の応答をそれぞれ表すN所定のモードベクトルの線形結合として表すことができることから、制御手段は、Nモードベクトルのうちの1つの成分に従って、すなわちこれらの成分に顕著に比例して、入力増幅手段のN可変利得の値を選択的に設定するように設計される。
【0019】
さらに任意選択で、本発明による結合共振器のアレイはまた
−これらのN個の結合共振器のそれぞれに関して、
入力電気信号によるN個の結合共振器の電気励起に応答してこの結合共振器の反応を検出し、この反応を中間電気信号に変換するための手段と、
−出力電気信号を形成するために中間電気信号を一緒にまとめるための手段とを備え、
これらのN個の結合共振器それぞれの検出および変換手段は、この結合共振器に固有の、それらが供給する中間信号に関する可変利得出力増幅手段に結合され、この可変利得は具体的には、制御手段によって設定することができる。
【0020】
また任意選択で、該N個の結合共振器それぞれの検出および変換手段、ならびに可変利得出力増幅手段は、容量検出電極を備え、その検出電圧は、制御手段によって設定することができる。
【0021】
また任意選択で、制御手段は、入力増幅手段の可変利得の値を設定するために、選択されたモードベクトルの成分に従って、すなわちこれらの成分に顕著に比例して出力増幅手段の可変利得の値を設定するように設計される。
【0022】
また任意選択で、本発明による結合共振器のアレイはまた、これらのまとめる手段によって伝達される電流を受信するようにまとめる手段に接続され、その末端の電圧が出力電気信号を表すように設定された容量負荷を有することができる。
【0023】
本発明の別の主題は、共振器のアレイの入力電気信号としてフィルタ処理された信号を受信するように設計された先に定義した結合共振器のアレイを備える、調節可能な中心周波数を有するバンドパスフィルタである。
【0024】
本発明の別の主題は、先に定義した結合共振器のアレイと、共振器のアレイの出力電気信号に従って入力電気信号を供給するフィードバック回路とを備える調節可能な発振周波数を有する発振器である。
【0025】
単に例示の目的で与えられた以下の記載から、また添付の図面を鑑みて、本発明はよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による第1の実施形態による、結合共振器の一次元アレイの一般的構造を表す線図である。
【図2】図1の結合共振器のアレイと等価な機械モデルを表す図である。
【図3a】図1の結合共振器のアレイの制御手段によって付与され得るゲイン値を表すグラフである。
【図3b】図1の結合共振器のアレイの制御手段によって付与され得るゲイン値を表すグラフである。
【図3c】図1の結合共振器のアレイの制御手段によって付与され得るゲイン値を表すグラフである。
【図4a】図1の結合共振器のアレイの多様な可能な周波数応答を表すグラフである。
【図4b】図1の結合共振器のアレイの多様な可能な周波数応答を表すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態による発振器の一般的構造を表す線図である。
【図6】図5の発振器によって供給される出力信号を読み出す回路に相当する回路を表す線図である。
【図7】本発明の第二の実施形態による結合共振器の二次元アレイの一般的構造を表す線図である。
【図8】図7の結合共振器のアレイと等価な機械モデルを表す図である。
【図9】図7の結合共振器のアレイの多様な可能な周波数応答を表す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に表される結合共振器のアレイ10は、入力電気信号Veを供給するための手段12と、この入力電気信号Veを使用してN個の結合共振器16,…,16i−1,16,16i+1,…,16を電気的に励起させるための手段14とを備える。
【0028】
電気励起手段14は、これらのN個の結合共振器16,…,16i−1,16,16i+1,…,16それぞれに関して、入力電気信号に従ってこの結合共振器を作動させるために入力電気信号供給手段12に接続された作動手段18,…,18i−1,18,18i+1,…,18と、それぞれの可変利得入力増幅手段20,…,20i−1,20,20i+1…,20とを備える。これら可変利得入力増幅手段20はそれぞれ、結合共振器16に固有であり、この結合共振器の作動を増幅するように設計される。
【0029】
さらに、電気励起手段14は、入力増幅手段20それぞれの可変利得GEiの特定の設定を制御するための手段22を備える。これらの利得制御手段は、従来式であり、したがって詳細には記載しない。それらは、プログラム可能タイプである。
【0030】
図1に示されるように、各入力増幅手段20は、例えば、対応する各作動手段18がこれを介して入力信号供給手段12に接続される可変利得入力増幅器である。例えば図5を参照して詳細に記載される別の実施形態において、増幅手段は、作動手段の中に組み込むことができる。
【0031】
したがって、異なるゲイン値GEiで作用することによって、作動は、アレイ10のN個の結合共振器16,…,16i−1,16,16i+1,…,16を別々に励起するように異なって重み付けされる。このようにして、共振器のアレイの共振中心周波数および帯域幅に動的に影響を与えることが可能になる。
【0032】
電気的に励起された各共振器16は、例えば、屈曲に関して振動するビームタイプ素子振動、体積に関して振動するディスク、プレートまたはビームタイプ素子、および少なくとも1つのナノワイヤなど少なくとも1つの振動素子を有する電気機械共振器である。
【0033】
純粋に例示の目的で提供され非制限的な例ではない図1に示される特定の実施例では、共振器は、縮尺通りであり、振動ディスクを備えたNEMSまたはMEMSタイプの電気機械共振器である。次いで、各共振器の静電作動手段は、増幅器を介して入力電気信号Ve供給手段12に接続された励振電極を備える。
【0034】
またこの特定の例において、アレイ10の共振器の結合は機械的であり、N個の電極18,…,18i-1,18,18i+1,…,18によって励起されるN個の結合共振器の行を形成するように、共振器が段階式に結合される限り一次元式である。換言すると、各共振器16は、機械構造体24を使用して一方でアレイ10内のその2つの隣接する共振器である共振器16i−1に、他方で同様の隣接する共振器である共振器16i+1に機械的に結合され、機械結合構造体24は、例えばナノ/ミクロビーム、ばねなどである。RLCタイプの電気共振器のアレイの場合、結合は電気的であり、キャパシタまたは相互インダクタンスなどの構成要素によって行われる。
【0035】
アレイ10の端部では、クランプ留め同士、クランプ留めと自由端、自由端同士、循環式および他のタイプのアレイを提供するものなど様々な状況を想定することができる。中でも共振器16は、固定され電極によって励起されない共振器16に機械的に結合することができる。同様に、共振器16は、固定され電極によって励起されない共振器16N+1に機械的に結合することができる。構成はそれ以降、クランプ留め同士のアレイ構成である。
最後に、数Nは、2つの共振器から数千の共振器まで変化することが可能であり、これは、NEMS共振器の場合に顕著である。
【0036】
アレイ10はまた、これらのN個の結合共振器16,…,16i−1,16,16i+1,…,16それぞれに関して、入力電気信号VeによるN個の結合共振器16,…,16i−1,16,16i+1,…,16の電気励起に応答する各結合共振器からの反応を検出し、この反応を中間電気信号へ変換させるための手段26,…,26i−1,26,26i+1,…,26を備える。図1に示される特定の例において、検出および変換手段は、容量検出電極を備える。各電極26はしたがって、共振器の機械振動の後に電極とこの共振器の間に形成される静電容量の変動を検出するために、対応する共振器16に面して配置される。これは、出力として上記の中間電気信号を供給する。
【0037】
容量検出電極26,…,26i−1,26,26i+1,…,26はまた、出力電気信号Vsを形成するために、出力でN中間電気信号をまとめる手段に全て接続される。まとめる手段は、例えば各電極26が、結合共振器16に固有の可変利得出力増幅器28を介して接続される簡易加算器30を備える。
【0038】
入力増幅器20,…,20i−1,20,20i+1,…,20,のように、出力増幅器28,…,28i−1,28,28i+1,…,28は、それらの各ゲインGSiの特定の設定を可能にするために制御手段22に接続されてよい。
【0039】
同様に、例えば図5を参照して詳細に記載される別の実施形態において、出力増幅器は、検出および変換手段内に組み込まれた増幅手段で置き換えることができる。この共振器のアレイ10の第1の可能な用途は、アレイの入力電気信号Veとして供給される信号のバンドパスフィルタリングに関連する。その後、出力で、Vsはフィルタ処理された信号を表す。
【0040】
この共振器のアレイ10の第2の可能な用途は、発振器としてアレイを使用することによるタイムベースの提供に関連する。このために、フィードバック回路32が、入力電気信号供給手段12で信号Veの代わりに加算器30の出力をアレイの入力に接続し、その結果、共振器のアレイ10からの出力電気信号Vsによる入力電気信号を供給し、これにより、アレイ共振をほぼ固有の周波数にする。
【0041】
図2は、図1の結合共振器のアレイと等価な機械モデルを表す。実際には、同一であり、したがって同一の共振周波数を呈示するように先天的に設計され寸法を決められた、2つの固定された端部共振器16および16N+1に追加されたN個の共振器16,…,16i−1,16,16i+1,…,16の動的挙動は、自由度1のマス(m)、ばね(剛性Kの)減衰(係数bの)タイプの共振器のものに例えることができる。このモデルにおいて、隣接する共振器間の結合は、剛性kによって表される。
【0042】
本発明によって、周波数ωで振動する同一の入力信号Veを使用することにより、ゲイン値GEiを設定することによって、N個の共振器16,…,16i−1,16,16i+1,…,16のそれぞれに特定の振幅の励起を個別に与えることが可能になる。
【0043】
図2の機械モデルにおいて、これは、周波数ωで振動する作動ベクトル力Fに反映されており、その各成分fは、他から独立して共振器16に加えられる。これは結果として、N個の共振器16,…,16i−1,16,16i+1,…,16のそれぞれに関する、周波数ωおよび振幅uで振動する機械的変位となる。これらのN変位は、その成分が、自由度1のN個の共振器それぞれの変位であるアレイのベクトル変位Uとして定義することができる。それらは、以下の行列式によって与えられる。
【0044】
【数1】

【0045】

N個の結合共振器のベクトル反応Uは、モードベクトルと呼ばれるNモードベクトル反応Uの線形結合として表すことができることが、モーダル法によって示され、その成分uは、共振器16のモード変位にそれぞれ対応し、以下のように定義される。
【0046】
【数2】

【0047】
しかるべく定義されたモードベクトルUは、以下のスカラー積に関して、直交基底を形成する。
【0048】
【数3】

【0049】
実際は、確実にするために、このスカラー積に従って検算が行われる。
【0050】
【数4】

【0051】
共振器16の変位成分uは、したがって、共振器16に対応するNモード成分の線形結合として書き表すことができる。
【0052】
【数5】

【0053】
また、各モードベクトルが、その固有のゲイン、その固有の帯域、およびその固有の共振周波数(または角速度)を有するアレイの応答モードに対応することが示される。これらのモードベクトルによって形成された基底に先に定義した行列式を投影することによって、各モードに対応する伝達関数G(ω)および共振角速度ωを見つけることが容易になる。
【0054】
【数6】

【0055】
および
【0056】
【数7】

【0057】
したがって、その2つの端部で、共振器16および16にそれぞれ結合された2つの固定共振器が追加される、自由度1のN個の結合共振器16,…,16i−1,16,16i+1,…,16の一次元アレイに関して、インターバル
【0058】
【数8】

【0059】
の中で、N個の別々の共振周波数が存在することが観察される。
【0060】
図2に表されるモデルによると、対応するモードベクトルに共振器のアレイの作動を投影することによって、アレイ10のNの応答モードのうちの1つのみが作動される。換言すると、モードベクトルUのうちの1つに共線的になるように分配されたベクトル力Fを加えることによって、対応するモードnに一致するアレイからの周波数応答が得られ、そのゲインおよび共振周波数(または角速度)は、式(6)および(7)から得られる。
類推により、本発明の一実施形態において、アレイ10のNモードベクトルのうちの1つに入力信号を投影することによって、すなわち、増幅器20,…,20i−1,20,20i+1,…,20のN可変利得GEiの値を、Nのモードベクトルのうちの1つの成分に従って、より具体的にはこれらの成分に比例して選択的に設定することによって、アレイ10のN周波数応答モードのうちの1つが作動される。この投影が、アレイ10を選択されたモードでバンドパスフィルタとして反応するようにさせる。その結果、いかなる励起周波数に関してもそれらのモード係数がゼロである仮定すると、他のモードは反応しないため、入力信号Veが投影されるモードベクトルに対応するモードのみが作動される。ゲインGEiの選択的な設定は、制御手段22によって行われる。
【0061】
より一般的には、本発明によると、共振器のアレイ10によって形成されるフィルタリングの中心周波数および帯域幅は、可変利得GEiの設定により作動される1つまたは複数のモードを選択することによって調節される。
【0062】
図3から図3cは10rad/sに等しい共振角速度を有するNEMSタイプのN=49の結合共振器の固定端部アレイに関するモードベクトルの例をグラフ式に図示する。図3aは、第1モード(n=1)のモードベクトルの49の成分を表し、図3bは、中心モード(n=25)のモードベクトルの49の成分を表し、図3cは、最終モード(n=49)のモードベクトルの49の成分を表している。
【0063】
これらのモードベクトルの成分はまた、所望のモードベクトルに作動Veを投影することによって、アレイ10を対応するモードで反応させるように制御手段22によって設定されるべき49のゲイン値GEiを表す。
【0064】
対応するモードベクトルの成分に従って入力ゲインGEiを設定することによって特定のモードが選択される際、アレイの単一の共振器の出力で共振器のアレイからの出力信号Vsを得ることができる。有利には、出力信号Vsの振幅を上げ、共振器のアレイのインピーダンスを削減する目的で、全ての共振器を有効に利用するために加算器30を使用してアレイ10の全ての共振器の出力を一緒にまとめることが好ましい。
しかしながら、検出電極26,…,26i−1,26,26i+1,…,26を加算器30に接続することによってこのまとめるステップが直接行われる場合、以下の式が得られる。
【0065】
【数9】

【0066】
偶数モードに関して出力信号Vsがゼロであり、奇数モードに関してはnに従って減少することから、このようなまとめるステップを使用することが不可能である。
【0067】
本発明の一実施形態によって、検出電極26,…,26i−1,26,26i+1,…,26は、そのゲインGsiが可変である出力増幅器28,…,28i−1,28,28i+1,…,28を介して加算器30に接続される。次いで制御手段22が、そのゲインGEiに従って、すなわち共振器のアレイの入力で選択されたモードベクトルの成分に従って、可変利得GSiの値を設定するように設計される。より具体的には、共振器16の出力増幅器28のゲインGsiは、この同一の共振器の入力増幅器20のゲインGEiと等しくなるように選択される。
先に定義されたスカラー積の直交特性(式4)を使用することによって、出力で以下が得られる。
【0068】
【数10】

【0069】
このように、出力増幅器のゲインのこの特定の設定により、単一の共振器のゲインと比較して係数(N+1/2)だけ、共振器のアレイの出力で全体のゲインを増幅することが可能になる。この設定は、単一の共振器と比べて共振器のアレイの信号ノイズ比を改善させ、検出の感度を高める。
図4aは、10rad/sに等しい共振角速度を有するNEMSタイプのN=49の結合共振器の固定端部でのアレイ10の動作の可能なモードの例42、44および46をグラフ式に図示する。比較として、別の共振器に結合されない場合のこれらの共振器のうちのただ1つの周波数応答が、曲線40によって表され、その共振角速度は、10rad/s付近を中心とする。
【0070】
曲線42は、ゲインGEiおよびGSiが、制御手段22によって、図3aに表されるモードベクトルの成分の値に設定される際のその第1動作モードによるアレイ10の周波数応答を表す。この周波数応答の中心周波数の値は、n=1に関して、式(7)のものと同等の関係によって得られる。
【0071】
曲線44は、ゲインGEiおよびGSiが、制御手段22によって、図3bに表されるモードベクトルの成分の値に設定される際のその動作の中心モードによるアレイ10の周波数応答を表す。この周波数応答の中心周波数の値は、n=25に関して、式(7)のものと同等の関係によって得られる。
【0072】
最後に、曲線46は、ゲインGEiおよびGSiが、制御手段22によって、図3cに表されるモードベクトルの成分の値に設定される際のその動作の最終モードによるアレイ10の周波数応答を表す。この周波数応答の中心周波数の値は、n=49に関して、式(7)のものと同等の関係によって得られる。
【0073】
共振器のアレイ10の全体のゲインは、その動作モードのそれぞれにおいて、式(10)によって与えられるように、単一の共振器のものよりはるかに大きくなることに留意されたい。
図4bに示される共振器のアレイ10の別の可能な動作によると、入力信号Veによって第1の共振器16のみが励起される際、すべての共振器の間の結合を介してアレイの全ての動作モードが始動される。これらのモードは、正弦波変調関数
=sin(n.π/N+1)を使用して作動され、これは、上記のN動作モードの中心周波数の範囲(8)の全てをカバーする広帯域フィルタリングの実現を可能にする。このような広帯域フィルタリングは、曲線48によって図示される。
したがって、共振器のアレイ10により、簡単かつ精密なものが好ましい、その作動モードのいくつかまたは全てを設定する手段を設けることによって調整することが可能な中心周波数および帯域を有するフィルタまたは発振器を形成することが可能になる。
また、少なくとも自由度1のその結合共振器の数Nを増大させることによって、アレイの動作モードの数を増やすことも可能である。したがって、これにより、上記の範囲(8)内で共振器のこのアレイの中心周波数の可能な調節の精密度を上げることが可能になる。
【0074】
また共振器間の結合力(係数kc)を高めることによって、この範囲を広げることも可能である。結合が強まると、第1モードの中心周波数と、最終モードの中心周波数の間のインターバルが大きくなり、また隣接するモードの中心周波数間のインターバルが大きくなる。
【0075】
最後に、このようなN個の結合共振器のアレイが物理的に形成され、とりわけ、共振器がNEMSまたはMEMSなどの小型である場合、これらの共振器の特徴パラメータ(固有共振周波数および品質係数)のばらつきは、アレイの性能にマイナスに作用する場合がある。共振器間の結合の値に作用することによって、但し、とりわけ結合共振器の数を増やすことによって、アレイ上でのこのばらつきの影響が実質的に小さくなるという事実が示される。実際、より具体的には、N個の共振器16,…,16i−1,16,16i+1,…,16の固有共振周波数の標準偏差は、この数Nの平方根に反比例する。したがって、Nを大きくすることにより、共振器のアレイの中心周波数の可能な調節の精密度を向上させるのみならず、共振器の特徴パラメータのばらつきを補償することが可能になる。
先に示したように、上記に記載する共振器のアレイ10は、調節可能な中心周波数および帯域を有するバンドパスフィルタとして使用することができる。この用途において、フィルタの入力信号は、信号Veであり、Vsは、フィルタ処理された信号である。
【0076】
共振器のアレイ10はまた、調節可能中心周波数を有する発振器の要素として使用することも可能である。この例において、これは、出力信号を共振器のアレイの入力に送り返すことが可能であり、またアレイを発振させるのに必要な反応条件を満たすために特定の位相差を与えるフィードバック回路に結合される必要がある。本発明の一実施形態による共振器のアレイを組み込む発振器の例示の実施形態を、図5を参照して以下に詳細に記載する。
【0077】
図5に表される発振器は、例えば、先に記載したアレイと同一のNEMSまたはMEMSタイプの共振器のアレイを備える。次いでそれは、同一の参照番号10を有する。この構造によると、共振器は、電極を使用して静電作動によって励起され、その変位は、やはり電極を使用して容量検出機能によって測定される。実際は、励起の観点から、各共振器16は、その金属構造物と対応する励振電極18間の交流電位差の影響を受け、この電位差が、共振器を振動させる振動性の静電力を生成する。検出の観点から、共振器16のそれぞれの振動が、その金属構造体と対応する検出電極26間に静電容量の変動を生じさせる。
【0078】
共振器のアレイの入力12は、その変換ゲインが可変でありそのバイアス電圧Vに比例する励振電極18によって各共振器16に関して変調された正弦曲線電圧Veの影響を受ける。このバイアス電圧Vの値は、制御手段22によって設定することが可能であり、各共振器16に固有である。実際は、静電作動の観点から、さらに各共振器16が共通電位VDCに接続される場合、その金属構造体とその励振電極間の電位差は、(V−VDC)+Veに等しい。低振幅の変位を考慮すると、各共振器16に及ぼされる静電力は、以下の形態を採る。
【0079】
【数11】

【0080】
ここで、fは、連続する成分であり、Sは、励振電極18の表面、およびdは、励振電極18と共振器16間の距離である。
【0081】
電圧Vの値を外部から制御することによって、電圧Veに対して可変利得増幅(V−VDC)が生成されることを、この式(11)によって明確に理解することができる。したがって、それぞれの値(V−VDC)が、共振器のアレイ10のモードベクトルのうちの1つの対応する成分の値を再現するようにVの各値を設定し、その結果、その共振モードのうちの1つにアレイを設定することが可能になる。
【0082】
実際には、キャパシタCを介して、これもまた入力信号供給手段12に結合される励振電極18,…,18,…,18にバイアスをかけるために抵抗Rが使用される。
検出の観点から、検出電極26によって各共振器16の反応が検出および変調され、その変換ゲインは、可変であり、そのバイアス電圧Vに比例する。このバイアス電圧Vは、先に示したように共振器のアレイの出力を増幅させるために、制御手段22によって励振電極18のバイアス電圧と等しくなるように設定される。さらに、検出電極26によって供給された中間信号は、出力信号を支持する強度i(t)の電流を供給するために相互コンダクタンスgを有するトランジスタを備えるゲインステージ50を通過する。
【0083】
次いで、ゲインステージ50を単純に1つにまとめることによって加算器30が形成される。これは、電流

【0084】
を供給する。
図5に表される発振器はまた、読出し回路52を備える。この読出し回路は、所定の電位Vddに接続された負荷抵抗Rsと、接地に接続された負荷キャパシタCsとを備え、その末端で出力電圧Vsが測定される。
したがって、検出の観点から、入力信号Veと等しい周波数で振動し、異なるようにバイアスがかけられた可変静電容量dCを有するキャパシタとして考えることができる各共振器16、この共振器16およびその検出電極26を負荷キャパシタCsに接続し、ゲインステージ50、加算器30および読出し回路52を構成する回路を、図6に表される等価回路によって設計することができる。
【0085】
等価回路によると、ゲインステージのトランジスタ50および加算器30は、接地に接続され、電圧Vgsを供給する第1入力容量負荷回路Cin、ならびに電圧Vgsおよびトランジスタ50の相互コンダクタンスgを基準に電流を生成する第2回路によって表される。各トランジスタ50に関して、共振器16の変位を表す、出力電圧Vsを可変キャパシタdCに接続する伝達関数Hは、以下の形態を採ることが示される。
【0086】
【数12】

【0087】
その結果、伝達関数Hは、出力電圧がゲイン(V−VDC)によって重み付けされた共振器16の可変容量dCに比例し、さらに、それが、積算(1/jω)にかけられることを示すため、発振器を発振させるのに必要な従来のバルクハウゼン条件が満たされる。
【0088】
全ての共振器を負荷回路52に接続することによって、またこの共通負荷回路をフィードバック回路32を使用して入力12に接続し、その結果、Ve=Vsとなることにより、図5に図示される組立体は、複数の動作モードにおいて調節することが可能な共振周波数を有する発振器の機能を満たす。この構成において、励振電極18,…,18,…,18と入力信号供給手段12との間にキャパシタCがあることにより、トランジスタ50,…,50,…,50の出力で、DC電圧から励振電極のバイアス電圧を切り離すことが可能になる。フィードバック回路32をなくすことによって、組立体は、調節可能な中心周波数を有するフィルタの機能を満たすのみとなる。
【0089】
上記のゲインステージは、CMOS、バイポーラまたはさらにbi−CMOS技法を使用して形成することができることに留意されたい。図5および図6の例において、これは、小型電界効果MOSトランジスタ信号モデルに接続される。しかしながら、これは、計算の原理は全く同一のままで、キャパシタを抵抗で置き換えることによって小型バイポーラトランジスタ信号モデルに接続することも可能である。
【0090】
共振器の結合が一次元である図1から図6を参照して先に記載した実施形態において、共振器のアレイの中心周波数は、特に、N所定のモードベクトルから、あるモードベクトルのその成分に対応する入力および出力ゲインの重み付けを選択するため、1つのモードを選択することによって調整される。しかしながら、曲線42から46を考えると、選択された動作モードでの共振器のアレイの帯域幅は狭い。この実施形態において、曲線48のようなより広い帯域幅を簡単に実現するには、例えば、全てのモードを作動させることが必要であり、この場合、中心周波数は調節されない。
曲線48によって図示されるような広い帯域幅を実現し、中心周波数の設定を可能にするために、図7に図示される実施形態によって1つの解決策が与えられる。
【0091】
この第2の実施形態において、共振器が、一方でN個の作動手段18i,1,…,18i,j,…,18i,N,によって励起されるN個の結合共振器16i,1,…,16i,j,…,16i,Nの行iを形成するために第1結合手段24によって段階式に結合され、他方で、M個の作動手段181,j,…,18i,j,…,18M,jによって励起されるM個の共振器161,j,…,16i,j,…,16M,jの列jを形成するために第2の結合手段24によって段階式に結合される限り、アレイ10の共振器の結合は二次元である。
同一の行iの共振器間の結合24は、例えば、中心周波数に近いモード(水平として条件付けられる)を生成するために脆弱であり、同一の列jの共振器間の結合(24)は、例えば、中心周波数から離れたモード(垂直として条件付けられる)を生成するために強力である。
結果として生じる共振器のアレイ10はしたがって、結合共振器16のM行とn列のMxNのマトリクスを備える。
【0092】
純粋に例示の目的で提供され、限定するものではない図7に示される特定の例において、これらの共振器は縮尺通りであり、振動ディスクを備えたNEMSまたはMEMSタイプの電気機械共振器である。したがって、各共振器16i,jの作動手段18i,jは、静電励振電極を備え、その変換ゲインGEi,jは、制御手段22(図示せず)を使用してそのバイアス電圧を設定することによって設定することができる。一変形形態として、作動手段18i,jの静電励振電極は、他のものと同一のバイアスを有し、可変利得入力増幅器GEi,j(図示せず)を介して入力電気信号供給手段12に接続することができる。さらに、各共振器16i,jの検出手段26i,jは、その振動により変動する電気パラメータ(すなわち、共振器と電極間の静電容量)を測定することによって、共振器16i,jの反応を検出する容量検出電極を備える。
【0093】
各検出手段26i,jは、出力電気信号Vsを形成するために加算器30の出力で結合される。その変換ゲインは、例えば、制御手段22(図示せず)を使用してそのバイアス電圧を設定することによって設定することができる。一変形形態として、検出電極26i,jは、他のものと同一のバイアスを有し、結合共振器16i,jに固有の可変利得出力増幅器28i,j(図示せず)を介して加算器30に接続することができる。この構成において、入力増幅器20i,jのように、出力増幅器28i,jは、それらの各ゲインGSi,jの特定の設定を可能にするために制御手段22に接続することができる。
【0094】
同様にこの特定の例において、アレイ10の共振器の二次元結合は、機械的である。換言すると、各共振器16i,jは、結合手段24を形成する機械構造体を使用して、一方で行i内のその2つの隣接共振器である16i,j-1に、他方で同じく隣接共振器である16i,j+1に機械的に結合され、各共振器16i,jは、結合手段24を形成する機械構造体を使用して、一方で列j内のその2つの隣接共振器である16i-1,jに、他方で同じく隣接共振器である16i+1,jに機械的に結合される。機械結合構造体24および24は、例えば、ナノ/ミクロビーム、ばねなどである。RLCタイプの電気共振器のアレイの場合、結合は、電気的であり、静電容量または相互インダクタンスなどの構成要素によって形成される。
【0095】
図8は、図7の結合共振器のアレイと同等の機械モデルを表す。このモデルにおいて、共振器は、自由度2のマス(μ)、ばね(剛性Kの)減衰(係数bの)タイプである。同一行の隣接する共振器間の結合は、剛性kc1によって表され、同一列の隣接する共振器間の結合は、剛性kc2によって表される。
本発明によると、周波数ωで振動する同一の入力信号Veを使用することで、ゲイン値GEi,jを設定することによって、M、N共振器161,1,…,16i,j,…,16M,Nのそれぞれに特定の振幅の励起を個々に適用することが可能になる。
【0096】
図8の機械モデルにおいて、これは、その各成分fi,jが他から独立して共振器16i,jに適用される、周波数ωで振動する作動マトリクス力Fに反映されている。これは結果として、M、N共振器161,1,…,16i,j,…,16M,Nのそれぞれに関して、周波数ωおよび振幅ui,jで振動する機械的変位となる。これらのM,N変位は、その成分がM、N共振器それぞれの変位であるアレイのマトリクス変位Uとして定義することができる。
【0097】
M、N結合共振器のマトリクス応答Uは、モードベクトルと呼ばれるM、Nモードマトリクス応答Umnの線形結合として表すことができることが、モーダル手法によって、また一次元アレイの状況でのように示され、その成分um、ni,jは、共振器16i,jのモード変位にそれぞれ対応し、その端部での特定の固定条件の下、以下のように定義される。
【0098】
【数13】

【0099】
このようにして定義されたモードベクトルUmnは、以下のスカラー積に関して直交基底を形成することに留意されたい。
【0100】
【数14】

【0101】
実際には、確実にするために、このスカラー積による検算が行われる。
【0102】
【数15】

共振器16i,jの変位成分ui,jは、したがって、共振器16i,jに対応するM、Nモード成分の線形結合として書き表すことができる。
【0103】
【数16】

【0104】
また各モードベクトルは、その固有ゲイン、固有の帯域幅、およびその固有の共振周波数(または角速度)を有するアレイの応答モードに対応することが示される。先に定義した数式をこれらのモードベクトルを構成する基底に投影することによって、各モードに対応する伝達関数Gm、n(ω)および共振器角速度ωm、nが見つけやすくなる。
【0105】
【数17】

【0106】
および
【0107】
【数18】

【0108】
このように、両端に固定共振器が追加された自由度2のM、N結合共振器161,1,…,16i,j,…,16M,Nの二次元アレイに関して、範囲
【0109】
【数19】

【0110】
内でM、Nの別個の共振周波数が存在することが観察される。
【0111】
図8に表されるモデルによって、共振器のアレイの作動を対応するモードベクトルに投影することによって、アレイ10のM、N応答モードのうちの1つのみを作動させることが可能になる。換言すると、モードベクトルUmnのうちの1つに対して共線的になるように分配されたベクトル力Fを加えることによって、対応するモード(m、n)に一致するアレイに関する周波数応答が得られ、そのゲインおよび共振器周波数(または角速度)は、数17および18によって与えられる。
【0112】
類推により、本発明の一実施形態において、アレイ10のM、Nモードベクトルのうちの1つに入力信号Veを投影することによって、すなわちM、Nモードベクトルのうちの1つの成分に従って、より具体的にはこれらの成分に比例して、増幅器201,1,…,20i,j,…,20M,NのM、N可変利得GEi,jの値を選択的に設定することによって、アレイ10のM、N周波数応答モードのうちの1つを作動させることが可能である。この投影により、アレイ10が選択されたモードに対してアバンドパスフィルタとして反応する。その結果、入力信号Veが投影されるモードベクトルに対応するモードのみが作動され、いかなる励起周波数に関しても、そのモード係数がゼロと仮定すると、他のモードは反応しない。ゲインGEi,jの選択的設定は、制御手段22によって行われる。
【0113】
図9に示される共振器のアレイ10の別の可能な動作によると、各行iの第1共振器16i,jのみが入力信号Veによって励起される際、行の全ての共振器間の結合kc1によってこの行iの全ての動作モード(i、n)が作動される。これらのモードは、正弦波変調関数fm、n(i)=sin(i.m.π/M+1).sin(n.π/N+1)を使用して作動され、これは、M可能な垂直動作モードのうちの1つで、行iのN動作モードの中心周波数の期間全てをカバーする広域バンドパスフィルタリングの実現を可能にする。
【0114】
図9はしたがって、10rad/sに等しい共振角速度を有する、端部が固定されたM=3XN=30のNEMSタイプの結合共振器を有するアレイ10に関する可能動作モードの例54、56および58をグラフ式に示す。比較として、それが、他に結合されない場合のこれらの共振器のうちのただ1つの共振器の周波数応答が、曲線40によって表され、この曲線は、共振角速度10rad/sを中心とする。
【0115】
曲線54は、その第1垂直動作モード(m=1)によるアレイ10の周波数応答を表し、ゲインGEi,1およびGSi,1は、制御手段22によって関数f1.n(i)の値に設定される。
曲線56は、その第2垂直動作モード(m=2)によるアレイ10の周波数応答を表し、ゲインGEi,2およびGSi,2は、制御手段22によって関数f2.n(i)値に設定される。
最後に、曲線58は、その最終垂直動作モード(m=3)によるアレイ10の周波数応答を表し、ゲインGEi、3およびGSi,3は、制御手段22によって関数のf3.n(i)値に設定される。
この二次元アレイのおかげで、広域バンドフィルタリング、およびMの異なる垂直モードに従って調節可能な中心周波数を有する共振器のアレイ、またはM、Nの異なるモードに従って調節することが可能な中心周波数を有する狭帯域共振器のアレイのいずれかの実現が可能になることを理解することができる。
例えば先に記載したもののうちの1つなどの共振器のアレイにより、簡単なゲイン設定によって、良好な精度で共振中心周波数を調節することが可能になることが明らかに分かる。
さらに、作動だけではなく検出も同一の動作モードに投影することによって、出力信号が共振器の数に比例することから、共振器のアレイからの出力信号の振幅を実質的に増大させることが可能である。
したがって、発振器としてアレイを使用する際、多数の共振器がアレイ内で使用される場合、出力信号は既に高度に増幅されているため、発振器を維持するために反応電極内で高いゲインを生成する必要はない。
選択的なフィルタリングタイプの用途において、質量、加速度、圧力または他のセンサを設計するために、先に記載したものなどのアレイをベースとした共振器センサを想定することが可能である。共振器の数に比例する因子によって大きくなる測定信号を有することによって、1つのみの共振器を有するセンサ内で使用される同様の原理を適用することができ、これにより、信号ノイズ比が改善され、故に極めて遅い変動の検出が容易になる。
さらに、各共振器固有のノイズが相関されない場合、共振器のアレイ内に生じた位相ノイズは、それが、共振器の数の平方根に反比例するという事実によって減少することが示される。
同様に、共振器の共振周波数のばらつきの標準偏差もまた、共振器の数の平方根に反比例するため、共振器のアレイは、このばらつきに対しても堅牢である。
【0116】
最後に、NEMSタイプの共振器など極めて小型の共振器の場合、共振器のアレイも、かなり小さなサイズを維持することが可能であり、既知のMEMSタイプの共振器より小さいサイズで顕著である。またこれは、共振器および電気構成要素を同時に作製することを可能にするコインテグレーション(co−integration)技法によって形成することができる。
また本発明は、先に記載した実施形態に限定されるものではないことに留意されたい。開示されてきた教義に照らして、当業者は上記に記載の実施形態に対して多様な修正形態を作成することができる。以下の特許請求の範囲において、使用される用語は、請求の範囲を本記載内で説明される実施形態に限定するものと解釈されるべきではなく、特許請求の範囲がそれらが考案された方法によって包含することを目的とする全ての等価を含むものと解釈されるべきであり、またその対応は、それらに対して開示されてきた教示の実施に対して彼らの一般的な知識を適用することにより当業者の範囲内にある。
特に、共振器は、必ずしもNEMS/MEMS技法を使用して形成される必要はない。それらは、水晶、NEMS/MEMS以外の電気機械共振器を基にして、または受動電気構成要素のRLC回路によって形成することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電気信号(Ve)を供給するための手段と、この入力電気信号を使用してアレイのN個の結合共振器を電気的に励起するための手段とを備える結合共振器のアレイであって、
−これらのN個の結合共振器のそれぞれに関して、
前記入力電気信号に従ってこの結合共振器を作動させるために前記入力電気信号供給手段(12)に接続された作動手段(18i、18i,j)、および
この結合共振器(16、16i,j)固有の結合共振器を作動させるための可変利得入力増幅手段(20、20i,j)と、
−前記入力増幅手段(20、20i,j)のそれぞれの可変利得の特定の設定を制御するための手段(22)とを備える結合共振器のアレイ。
【請求項2】
各共振器(16、16i,j)が、屈曲に関して振動するビームタイプ素子と、体積に関して振動するディスク、プレートまたはビームタイプ素子と、少なくとも1つのナノワイヤとで構成される要素のセットのうちの1つから選択された少なくとも1つの振動素子を有する、請求項1に記載の結合共振器(16、16i,j)のアレイ(10)。
【請求項3】
前記結合共振器(16、16i,j)が、NEMSまたはMEMSタイプの電気機械共振器であり、前記N個の結合共振器(16、16i,j)のそれぞれの前記作動手段(18i、18i,j)および前記可変利得入力増幅手段(20、20i,j)が、静電励振電極を備え、そのバイアス電圧が、前記制御手段(22)によって設定される、請求項1または2に記載の結合共振器(16、16i,j)のアレイ(10)。
【請求項4】
この共振器のアレイが、Nの異なるモード周波数でNの異なる共振モードを生成するため、入力電気信号(Ve)を使用する励起に応答して前記N個の結合共振器(16、16i,j)によって供給されたN電気信号から生じる任意のベクトル信号が、N共振モードのうちの1つで前記N個の結合共振器の応答をそれぞれ表すN所定のモードベクトルの線形結合として表すことができることから、前記制御手段(22)が、前記Nモードベクトルのうちの1つの成分に従って、すなわちこれらの成分に顕著に比例して前記入力増幅手段(20、20i,j)のN可変利得の値を選択的に設定するように設計される、請求項1から3のいずれか一項に記載の結合共振器(16、16i,j)のアレイ(10)。
【請求項5】
−これらのN個の結合共振器(16、16i,j)のそれぞれに関して、前記入力電気信号(Ve)による前記N個の結合共振器の電気励起に応答してこの結合共振器の反応を検出し、この反応を中間電気信号に変換するための手段(26、26i,j)と、
−出力電気信号(Vs)を形成するために前記中間電気信号を一緒にまとめるための手段(30)とを備え、
これらのN個の結合共振器(16、16i,j)のそれぞれの前記検出および変換手段(26、26i,j)が、この結合共振器固有の、それらが供給する前記中間信号の可変利得出力増幅手段(28、28i,j)に接続され、この可変利得を具体的には、前記制御手段に(22)よって設定することができる、請求項1から4のいずれか一項に記載の結合共振器(16、16i,j)のアレイ(10)。
【請求項6】
前記N個の結合共振器(16、16i,j)それぞれの前記検出および変換手段(26、26i,j)および前記可変利得出力増幅手段(28、28i,j)が、容量検出電極を備え、その検出電圧を前記制御手段(22)によって設定することができる、請求項3および5に記載の結合共振器(16、16i,j)のアレイ(10)。
【請求項7】
前記制御手段(22)が、前記入力増幅手段(20、20i,j)の可変利得の値を設定するために、選択されたモードベクトルの成分に従って、すなわちこれらの成分に顕著に比例して前記出力増幅手段(28、28i,j)の可変利得の値を設定するように設計される、請求項4および5に記載の結合共振器(16、16i,j)のアレイ(10)。
【請求項8】
また、これらのまとめる手段によって伝達される電流を受信するように前記まとめる手段(30)に接続され、その末端の電圧が出力電気信号(Vs)を表わすように設定された容量負荷(52)を有することができる、請求項5から7のいずれか一項に記載の結合共振器(16、16i,j)のアレイ(10)。
【請求項9】
前記共振器のアレイの入力電気信号として、フィルタ処理された信号を受信するように設計された、請求項1から8のいずれか一項に記載の結合共振器(16、16i,j)のアレイ(10)を備える調節可能な中心周波数を有するバンドパスフィルタ。
【請求項10】
請求項5から8のいずれか一項に記載の結合共振器(16、16i,j)のアレイ(10)と、前記共振器のアレイの出力電気信号(Vs)に従って前記入力電気信号を供給するフィードバック回路(32)とを備える調節可能な発振周波数を有する発振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図3c】
image rotate

【図4a】
image rotate

【図4b】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−141889(P2010−141889A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275852(P2009−275852)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(502124444)コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ (383)
【Fターム(参考)】