説明

結合分子3

本発明は、一価、二価および多価のポリペプチド結合複合体、同様に単一、二重または多重特異性ポリペプチド結合複合体の製造ならびにその使用に関する。本発明はまた、ファージディスプレイライブラリー、トランスジェニック動物または天然の供給源に由来する抗原特異的VH結合ドメインの多様なレパートリーの製造および使用に関する。VH結合ドメインおよび二量体形成ドメインはヒト配列を含むことが好ましい。ポリペプチド結合複合体は、ホモまたはヘテロ二量体形成ドメインを、好ましくは天然のヒンジまたはリンカーペプチドを用いて二量体形成ドメインのアミノ末端およびカルボキシル末端で融合した4つの抗原結合VHドメインとともに含む。ポリペプチド結合複合体がCH2−CH3エフェクター機能を欠く場合、それらは120kDa未満のサイズであることが好ましい。製造経路は本明細書に記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二量体形成ドメインのアミノ末端およびカルボキシル末端の両末端と結合したVH結合ドメイン(本明細書に定義される通り)を含むポリペプチド結合複合体の生成に関する。本発明の方法を用いて生成されたVH結合ドメインおよび二量体形成ドメインは、先行技術に記載されるscFv由来ポリペプチド結合複合体と比較して固有の構造上および機能上の安定性を示し、そのため産物の製造および産物の安定性に利点をもたらす。その使用も記載される。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体またはその変異体は、21世紀に着手される新しい医薬品の高い割合を占めるだろう。モノクローナル抗体療法は、関節リウマチおよびクローン病の治療のための好ましい経路として既に容認されており、癌の治療において見事な進展がある。また、抗体に基づく産物は、心血管疾患および感染症の治療のために開発中でもある。販売されている大部分のモノクローナル抗体産物は、標的リガンド(例えばTNFα)上の単一の明確なエピトープを認識し、結合する。2本の重鎖と2本の軽鎖からなる複合体(H複合体)の会合およびその後の翻訳後グリコシル化プロセスは、哺乳類産生系の使用を必要とする。哺乳類細胞培養による抗体製造のための生産コストおよび資本コストは高く、受け入れることのできる代替療法がない場合は抗体に基づく治療法の可能性を制限する恐れがある。様々なトランスジェニック生物は、機能的抗体を完全に発現することが可能である。これらには、植物、昆虫、ニワトリ、ヤギおよびウシが挙げられる。機能的抗体フラグメントは大腸菌で製造することができるが、この産物は製造工程中にペグ化しない限り一般に血清安定性が低い。
【0003】
二重特異性抗体複合体は、同一または異なる抗原上の2つの異なるエピトープと結合可能な、操作されたIgに基づく分子である。抗体を単独またはその他の結合剤と組み合わせて組み込んでいる二重特異性結合タンパク質は、捕獲されたヒト免疫機能が治療効果を引き出す治療法、例えば、病原体の排除(Van Spriel et al.,(1999)J.Infect.Diseases,179,661−669;Tacken et al.,(2004)J.Immunol,172,4934−4940;米国特許5,487,890号)、癌の治療(Glennie and van der Winkel,(2003)Drug Discovery Today,8,503−5100);および免疫療法(Van Spriel et al.,(2000)Immunol.Today,21,391−397;Segal et al.,(2001)J.Immunol Methods,248,1−6;Lyden et al.,(2001)Nat.Med.,7,1194−1201)に有望である。
【0004】
製造上の問題点は、二重特異性抗体産物が2以上のH複合体に基づいている場合に悪化する。例えば、2以上の組の重および軽鎖遺伝子の同時発現は、10までの異なる組合せの形成をもたらし得、そのうちの1つだけが所望のヘテロ二量体である(Suresh et al.,(1986)Methods Enzymol,121,210−228)。
【0005】
この問題に対処するため、哺乳類細胞における重鎖エフェクター機能を保持する全長二重特異性IgG型(BsIgG)の産生のためのいくつかの戦略が開発されている。BsIgGは、ヘテロ二量体形成を妨げ、同一のL鎖を用いてL鎖の不対合を回避するために、操作された「ノブおよびホール」重鎖を必要とする(Carter,(2001)J.Immunol.Methods,248,7−15)。代わりとなる化学的架橋戦略も、各々が異なる抗原を認識する抗体フラグメントからの複合体の産生(Ferguson et al.,(1995)Arthritis and Rheumatism,38,190−200)または他の結合タンパク質、例えばコレクチンと抗体フラグメントとの架橋(Tacken et al.,(2004)J.Immunol,172,4934−4940)について記載されている。
【0006】
一般に重鎖エフェクター機能を欠くダイアボディーまたはミニ抗体(BsAb)の開発も、ヘテロ二量体の冗長性を克服する。これらはVおよびV結合部位を組み込んだ最小の単鎖抗体(scFv)を含み、それはその後折り畳まれ、二量体化されて、それらの標的抗原の各々に対しては一価の、二価の二重特異性抗体を形成する(Holliger et al.,(1993)PNAS,90,6444−6448;Muller et al.,(1998)FEBS Lett.,422,259−264)。ある場合においては、C1およびL定常ドメインは、二重特異性ミニ抗体形成のためのヘテロ二量体形成ドメインとして用いられている(Muller et al.,(1998)FEBS Lett.,259−264)。大腸菌発現系に基づく様々な組換え方法がBsAbの作成のために開発されている(Hudson,(1999)Curr.Opin.Immunol,11,548−557)が、臨床等級の多価抗体材料の生産コストおよび規模は、依然として臨床開発に対する主な障害のままであると思われる(Segal et al.,(2001)J.Immunol.Methods,248,1−6)。
【0007】
近年、BsAbの概念は拡大されて、ジ−ダイアボディー(di−diabodies)、つまり、各HおよびL鎖上のVおよびVドメインが操作されたscFv結合ドメイン対で置換されている四価の二重特異性抗体が包含されるようになった。そのような構築物は操作が困難ではあるが、ヘテロ二量体の冗長性がない場合に哺乳類細胞において構築することができる(Lu et al.,(2003)J.Immunol.Methods,279,219−232)。
【0008】
免疫グロブリンの構造は当分野で周知である。大部分の天然免疫グロブリンは2本の重鎖と2本の軽鎖を含む。重鎖は、各重鎖に沿ってそのほぼ中央に位置するヒンジドメイン間のジスルフィド結合を介して相互に連結されている。軽鎖は、ヒンジドメインのN末端側の各重鎖と会合している。各軽鎖は、通常、そのそれぞれの重鎖とヒンジドメインに近いジスルフィド結合により結合している。
【0009】
Ig分子が正確に折り畳まれると、それぞれの鎖は、一層線状のポリペプチド配列により連結された、いくつかの別個の球状のドメインに折り畳まれる。例えば、軽鎖は、可変(V)および定常(C)ドメインに折り畳まれる。重鎖は、軽鎖の可変ドメインに隣接する単一の可変ドメインV、第1の定常ドメイン、ヒンジドメインおよび2または3個のさらなる定常ドメインを有する。重(V)および軽(V)鎖可変ドメインの相互作用は、抗原結合領域(Fv)の形成をもたらす。一般に、VおよびVの両方は最適な抗原結合に必要とされるが、重鎖二量体およびアミノ末端断片は軽鎖の不在下で活性を保持されることが示されている(Jaton et al.,(1968)Biochemistry,7,4185−4195)。
【0010】
新しい分子生物学の技術の出現によって、重鎖のみの抗体(軽鎖を欠く)の存在が、ヒトにおけるB細胞増殖性障害において(重鎖疾患)、さらにネズミモデル系において確認された。重鎖疾患の分子レベルでの分析により、ゲノムレベルでの突然変異および欠失が重鎖C1ドメインの不適切な発現をもたらし得、軽鎖と結合する能力を欠く重鎖のみの抗体の発現を引き起こし得ることが示された(Hendershot et al.,(1987)J.Cell Biol,104,761−767;Brandt et al.,(1984)Mol.Cell.Biol,4,1270−1277参照)。
【0011】
ファージライブラリーから誘導された、単離されたヒトVドメインについての別の研究(Ward et al.,(1989)Nature,341,544−546)は、Vドメインの抗原特異的結合を実証したが、これらのVドメインは、一般に、だが常にそうとは限らないが、溶解度が比較的低いことが証明された(Jespers et al.(2004)J.Mol.Biol.337,893−903参照)。
【0012】
その他の脊椎動物種を用いる研究により、ラクダ科動物(camelid)が、自然遺伝子突然変異の結果として、C1軽鎖結合領域が存在しないために軽鎖と結合することのできない機能性IgG2およびIgG3重鎖のみの二量体を生成すること(Hamers−Casterman et al.,(1993)Nature,363,446−448)、およびサメなどの種が、おそらく哺乳類T細胞受容体または免疫グロブリン軽鎖に類縁である、重鎖のみ様結合タンパク質ファミリーを産生すること(Stanfield et al.,(2004)Science,305,1770−1773)が示されている。
【0013】
ラクダ科動物重鎖のみの抗体の特性を決定する特徴は、天然のヒトVドメインと比較して改良された溶解度および安定性をもたらすラクダ科動物Vドメインである。ヒトVドメインは、改良された溶解度特性のために操作されてもよく(Davies and Riechmann,(1996)Protein Eng.,9(6),531−537;Lutz and Muyldermans,(1999)J.Immuno.Methods,231,25−38参照)、またはインビボで自然選択により溶解度を得てもよい(Tanha et al.,(2001)J.Biol.Chem.,276,24774−24780;Jespers L,Schon O,James LC,Veprintsev D,Winter G.,J Mol Biol.2004 Apr 2;337(4):893−903参照)。しかし、V結合ドメインがファージライブラリーから誘導されている場合、例えば親和性ホットスポットのランダム化を含む親和性改善策の適用にもかかわらず、抗原に対する固有の親和性は低マイクロモルから高ナノモルの範囲のままである(Yau et al.,(2005)J.Immunol.Methods,297,213−224)。
【0014】
scFvは、産生され宿主細胞から回収される場合、または還元性の細胞内環境で細胞内抗体として産生される場合に、固有の不安定性および折り畳みの非能率による制限を有する(der Maur et al.,(2002)J.Biol.Chem 277,45075−45085参照)。その一方、ラクダ科動物VHHに代表されるVドメインは、従来の抗体フラグメントと比較して高い熱力学的安定性を示し(Dumoulin et al.,(2002)Protein Science,11,500−515)、非イオン性および陰イオン性界面活性剤ならびに尿素などの厳しい変性条件の存在下でさえも機能的安定性を保持し(Dolk et al.,(2005)Applied and Environmental Microbiology,71,442−450)、機能性抗体複合体を厳しい製造環境から高い収量で回収するために重要な特徴を保有し、かつ、インビボとインビトロの両面での産物の構造上および機能上の統合性を維持し続ける。VHHおよびラクダ科動物化された(ラクダ科動物化)または操作されたV抗体ドメインも、大型の従来型抗体フラグメントよりも大きな感染病原体の標的浸透に対する可能性を示し(Stijlemans et al.,(2004)J.Biol.Chem.279,1256−1261)、「細胞内抗体」として使用された場合に細胞内構造および機能的安定性を保持し、培養しているPK15細胞によってブタレトロウイルスの産生を阻害する(Dekker et al.,(2003)J.Virol.77,12132−12139)。また、ラクダ科動物V抗体は、修飾されたCDR3ループが特徴である。このCDR3ループは、平均して、非ラクダ科動物抗体において見られるものよりも長く、全体的な抗原親和性および特異性に大きな影響を及ぼすと考えられる特徴であり、ラクダ科動物の重鎖のみの抗体種にVドメインが存在しないことを補っているように思われる(Desmyter et al.,(1996)Nat.Struct.Biol,3,803−811,Riechmann and Muyldermans,(1999)J.Immunol.Methods,23,25−28)。
【0015】
近年、トランスジェニック哺乳類における重鎖のみの抗体の産生のための方法が開発された(WO02/085945号およびWO02/085944号参照)。潜在的に任意のクラス(IgM、IgG、IgD、IgAまたはIgE)の、任意の哺乳類(ヒトを含む)に由来する機能性重鎖のみの抗体は、抗原曝露の結果としてトランスジェニック哺乳類(好ましくはマウス)から産生させることができる。
【0016】
重鎖のみのモノクローナル抗体は、標準的なクローニング技術により脾臓のB細胞から回収するか、またはファージディスプレイ技術によりB細胞mRNAから回収することができる(Ward et al.,(1989)Nature,341,544−546)。ラクダ科動物またはトランスジェニック動物に由来する重鎖のみの抗体は高親和性である。抗原曝露の結果としてトランスジェニックマウスに産生された抗体に基づく構造研究は、ラクダ科動物化ヒトV抗体の多様性が、VDJ組換え事象および体細胞突然変異に依存して、主としてインビボ成熟過程により促進されていることを示す。しかし、ラクダ科動物VHHとは違って、CDR3領域がヒトDおよびJ領域に由来しているラクダ科動物化ヒトVHにCDR3ループは存在しない(Janssen et al.,(2006)PNAS 103(41):15130−5.Epub 2006 Oct 2*およびPCT/GB2005/002892号参照)。
【0017】
重鎖のみの抗体、例えばラクダ科動物VHH重鎖のみの抗体およびラクダ科動物化ヒトV重鎖のみの抗体に見出されるVドメインの重要かつ一般的な特徴は、最適な溶解度および結合親和性のためにV領域との二量体形成に依存せずに、各領域が単量体として結合することである。これらの特徴はブロッキング剤および組織浸透剤の作成に特に適していると思われる(概説には、Holliger,P.& Hudson,P.J.(2005)Nature Biotechnology 23,1126−1136参照)。
【0018】
しかしながら、自然抗体のヒンジ領域によって繋留された2つのVドメインは、二重特異性または二価の構築物内で結合特性を保持することが示されている(Conrath et al.,(2001)J.Biol.Chem.276,7346−7352)ものの、重鎖のみの抗体に見出されるVドメインの利点は、多量体タンパク質の試薬、治療薬および診断薬としての設計においてまだ有利に使用されていない。
【0019】
複数の結合ドメインを二量体形成ドメインと組み合わせて組み込むことは、付随する特異性および結合活性の喪失の可能性、リンカーペプチドの存在に起因する抗原性のリスクの増加、およびV結合ドメインと比較して固有の安定性の欠如を伴って、VおよびVドメインから操作されなければならないscFvを用いる平行のアプローチよりも明らかに利点がある。T細胞受容体などの抗体関連遺伝子ファミリーまたはサメ免疫グロブリンファミリーに由来するV結合ドメインも、二重もしくは多重特異性結合分子の生成のためのscFvの代替物をもたらす。
【0020】
重鎖C2−C3定常ドメインが存在することにより、自然抗体に見られるような安定な二量体形成の基盤がもたらされ、重鎖エフェクター機能に加えて翻訳後グリコシル化の認識部位がもたらされる。C2−C3二量体形成ドメインは、そのアミノ末端およびカルボキシル末端にscFv結合ドメインを有する四量体の単一特異性ホモ二量体または二価の二重特異性ホモ二量体の設計(Jendreyko et al.(2003)J.Biol.Chem.278,47812−47819参照)またはscFv結合ドメインと受容体結合タンパク質の組合せの設計に用いられている(Biburger et al.(2005)J.Mol.Biol.346,1299−1311)。C2−C3ドメインはまた、重鎖のみの抗体に見出されたラクダ科動物化VおよびラマVHHドメインを用いて、二価の二重特異性ホモ二量体を構築するためにも使用されている(PCT/GB2005/002892号)。
【0021】
当分野において、利用可能なscFv結合技術を改良し、抗原特異的で可溶性であり、かつ構造上安定な、一価、二価もしくは多価のポリペプチド結合複合体を提供する必要性が依然としてある。二量体形成ドメインは、天然もしくは操作された、重鎖エフェクター機能を欠く免疫グロブリンC2−C3二量体形成ドメイン、例えばIgG4から誘導されるC2−C3を含み得る(Bruggemann,M.et al.J.Ex.Med.(1987)166,1351−1361参照)。C2−C3以外の二量体形成ドメインを組み込むことが好ましい。得られるポリペプチド結合複合体は、インビボで投与された場合に組織浸透を最大化するために、分子量120kDa未満であることが好ましい。
【発明の開示】
【0022】
本発明は、VH結合ドメイン(本明細書に定義される通り)単独でまたは他の結合ドメイン(scFVを除く)と組み合わせて用いてポリペプチド結合複合体を作成する方法を提供する。
【0023】
本発明によれば、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドからなる二量体を含むポリペプチド結合複合体が提供され、各ポリペプチドは、アミノ末端VH結合ドメイン(本明細書に定義される通り)とカルボキシ末端VH結合ドメイン(本明細書に定義される通り)とを含み、かつ好ましくはC2−C3二量体形成機能を欠く二量体形成ドメインを含む。
【0024】
本明細書で使用される用語「VH結合ドメイン」には、天然のVH結合ドメイン、例えば、単一のV、DおよびJ遺伝子セグメント間の組換えとその後に続く体細胞突然変異の結果として重鎖遺伝子座単独によって発現されるものが含まれる。用語「VH結合ドメイン」は、サメ、ラクダ科動物およびヒトを含む脊椎動物に由来するいずれの天然に存在する抗原結合ドメインも包含する。VH結合ドメインがラクダ科動物またはその他の天然の重鎖のみの抗体から得られる場合、それはVHHドメインと称される。VHドメインが重鎖のみの抗体以外の抗体に由来する場合、それはVドメインと称される。「VH結合ドメイン」には、選択または組換えによって変更されてその特性が変化しているVまたはVHHドメインが含まれる。例えば、特定の条件下での安定性または溶解度を変更することができる。VHドメインはまた、選択または組換えによって別の種由来のVまたはVHHドメインにより一層似ているように変更することもできる。例えば、ヒトVドメインのV領域をラクダ科動物VHHドメインに見られるV領域に一層似ているように変更することもできる。また、用語「VH結合ドメイン」には、VHドメインとして機能することの可能な相同体、誘導体またはタンパク質断片、例えばVL結合ドメインも含まれる。そのような実施形態はすべて本発明に含まれる。
【0025】
あるいは、ポリペプチド結合複合体は第1のポリペプチドと第2のポリペプチドからなる二量体を含んでもよく、各重鎖は、縦1列の、ヒンジドメインによって隔てられた1以上のさらなるアミノ末端VH結合ドメイン、および縦1列の、ヒンジドメインによって隔てられた1以上のさらなるカルボキシ末端VH結合ドメインを含む。
【0026】
治療用途には、二量体形成ドメインは、ヒト起源であることが好ましく、用途に応じて、血漿安定性を促進するために、天然のまたは操作されたグリコシル化部位を含んでもよく、あるいは、血漿クリアランスを促進するために翻訳後修飾部位を欠いてもよく、または標的認識および結合を促進できるようにマスキングを減らしてもよい。インビボでの性能基準、例えば組織浸透または血漿クリアランスが必要な場合は、ポリペプチド結合複合体全体のサイズは、好ましくは、120kDa以下であるべきである。
【0027】
VH結合ドメインを含むポリペプチド結合複合体を細胞内抗体として使用する場合(Dekker et al.(2003)J.Virol.77,12132−12139参照)、追加の細胞内シグナル伝達特性を組み込んで、例えば、核内または膜局在性を判定してよい(例えば、Jendreyo et al.,(2003)J.Biol.Chem.278,47812−47819参照)。製造目的には、選択される産生細胞(例、酵母、昆虫または哺乳類細胞)に由来する、会合したポリペプチド複合体の合成および分泌を促進するために、シグナルペプチドをポリペプチド結合複合体のアミノ末端でベクターに組み込んでもよい。二量体形成ドメインはホモ二量体またはヘテロ二量体を含んでよい。
【0028】
一実施形態では、ポリペプチド結合複合体が異なるポリペプチドを含むヘテロ二量体であるように、第1のポリペプチドの二量体形成ドメインは第2のポリペプチドのそれと異なっている。
【0029】
別の実施形態では、ポリペプチド結合複合体が2つの同一のポリペプチドを含むホモ二量体であるように、第1の重鎖の二量体形成ドメインは第2の重鎖のそれと同じである。
【0030】
本発明のVHドメインは、同じ特異性を示してもよく、それらは異なる特異性を示してもよい。ポリペプチド結合複合体が4つのVHドメインを含む場合、それらは四価の単一特異性、二価の二重特異性、三重特異性または四重特異性であり得る。VHドメインが4より多い場合、ポリペプチド結合複合体は、さらなるVHドメインの数に沿ってより大きな特異性レベルの増加を示すと予測されている。例えば、8つのVHドメインをもつポリペプチド複合体は、八重特異性(octaspecificity)を示し得る。
【0031】
急速なクリアランスまたは促進された組織浸透が必要である場合、ポリペプチド結合複合体のサイズは120kDa未満であることが好ましい。
【0032】
代わりとなる実施形態では、1以上であるがすべてでないVHドメインは、代わりとなるクラスのポリペプチド結合ドメインで置換され得る。好ましくは、代わりとなる結合ドメインは、サイトカイン、増殖因子、受容体アンタゴニストもしくはアゴニストまたはリガンドである。
【0033】
好ましくは、重鎖の一方または両方の二量体形成ドメインおよび/またはアミノもしくはカルボキシ末端結合ドメインは、柔軟なヒンジドメインによって隔てられている。
【0034】
本発明はまた、本発明の第1のポリペプチド、第2のポリペプチドまたは両方の重鎖をコードする単離された核酸を提供する。本発明はまた、単離された核酸を含むベクターを提供する。本発明はさらに、ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0035】
もう1つの実施形態では、本発明は、第1の重鎖、第2の重鎖または両方の重鎖をコードする核酸を含むベクターで形質転換された宿主細胞を培養する段階を含む、本発明のポリペプチド結合複合体の作成のための方法を提供する。
【0036】
本発明のVH結合ドメイン、二量体形成ドメインまたはリンカーポリペプチドは、合成経路、例えばペプチド化学または化学共役結合(conjugation)により作成され得る。
【0037】
ポリペプチド結合複合体は、インビボで安定性を高めるためにペグ化されていてよい。本発明はまた、本発明に従うポリペプチド結合複合体を含む医薬組成物を提供する。本発明はまた、本発明の医薬組成物またはベクターを患者へ投与することによる患者を治療する方法を提供する。
【0038】
本発明はまた、本発明に従うポリペプチド結合複合体の疾患の予防または治療のための薬剤の調製における使用を提供する。
【0039】
本発明はまた、本発明のポリペプチド結合複合体を診断薬、試薬、アブザイム、阻害剤、細胞化学試薬、造影剤または細胞内抗体として使用することを提供する。
【0040】
ポリペプチド結合複合体は、その分子のアミノ末端およびカルボキシル末端の両方にVH結合ドメインを配置した二量体形成ドメインを含む。任意で、二量体形成ドメインおよびVH結合ドメインは柔軟なポリペプチドリンカーによって隔てられている。好ましい配置は、四価の単一特異性ポリペプチドVH結合複合体および二価の二重特異性ポリペプチドVH結合複合体を含む(図1〜5参照)。
【0041】
VH結合ドメインは任意の脊椎動物から導いてよいが、ヒト起源のものが好ましい。そのようなVH結合ドメインは、恐らく、ラクダ科動物、トランスジェニック動物またはサメなどの天然供給源に由来するか、ファージまたは酵母VHディスプレイライブラリーなどの合成ライブラリーアレイから選択されてよい。VH結合ドメインは、恐らく、物理的特性、例えば溶解度および安定性を改良するために操作されるか、あるいは抗原性を回避または減少させるためにヒト化される。VHの定義は、免疫グロブリン重鎖、免疫グロブリン軽鎖、T細胞受容体または類似分子に由来する任意の天然のポリペプチド結合ドメインを包含するが、結合部位が四量体抗体(H)のVおよびVドメインから操作されている、操作されたscFv分子は除外される。
【0042】
二量体形成ドメインは、生理的条件下で安定な天然供給源、好ましくはヒトに由来するホモ二量体またはヘテロ二量体を含む。二量体形成ドメインは、追加のエフェクター機能を自然に組み込んでもよく、操作されて追加のエフェクター機能を組み込んでもよい。これらには、限定されるものではないが、翻訳後修飾(リン酸化およびグリコシル化)用の部位、ペグ化、酵素、細胞傷害性および画像形成用の部位、免疫促進および受容体結合機能が含まれる。
【0043】
本発明はまた、本発明のVHポリペプチド結合複合体と二量体形成ドメインをコードする核酸配列を含むベクターおよびそのようなベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0044】
また、本発明に従うポリペプチド結合複合体の薬剤の調製における使用も提供される。本発明のポリペプチド結合複合体は、また、造影剤、診断薬、試薬、アブザイムまたは阻害剤としても使用され得る。また、本発明に従うポリペプチド結合複合体、および薬理学的に適切な担体を含む医薬組成物も提供される。本発明のポリペプチド結合複合体は、また、標的細胞でのポリペプチド結合複合体の細胞内合成を指示する能力のあるベクターとして標的細胞に送達されるか、または標的細胞の中での細胞取り込みおよびその後の細胞内機能のためのタンパク質性複合体として送達される、細胞内抗体としても使用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明者らは、クラス特異的なVH重鎖のみの抗体、または、抗原曝露に応答して血漿またはB細胞により分泌される異なるクラスのVH重鎖のみの抗体の混合物を産生するトランスジェニック動物、特にマウスが、「マイクロ遺伝子座」を用いて作製することができることを既に示した(WO02/085945号、WO02/085944号およびPCT/GB2005/002892号参照)。これらは、次に、確立されたハイブリドーマ技術を用いて、クラス特異的な重鎖のみの抗体の信頼できる供給元(supply)を創出するために使用するか、または機能性ラクダ科動物VHH結合ドメインまたはVH重鎖のみの結合ドメイン、好ましくは、ヒト起源の可溶性V重鎖のみの結合ドメインの供給源として使用することができる。同様に、必要とされる特異性をもつVH結合ドメインは、ファージ、酵母または同様に構築されたディスプレイライブラリーから供給され得る。
【0046】
機能性VHドメインを細菌系にクローン化し発現させて、抗原結合性、特異性および親和性を保持したVH結合ドメインを生成させることができる。さらにVH結合ドメインは二量体形成ドメインのアミノ末端かまたはカルボキシル末端に存在する機能性を保持する。これらの特徴は、免疫グロブリン重鎖C2−C3二量体形成領域をホモ二量体形成ドメインとして用いる、二価の二重特異性ホモ二量体VH結合分子を構築するために用いられている(PCT/GB2005/002892号参照)。
【0047】
総合すると、これらの所見は、機能上安定な、可溶性VHドメインを使用することによる改良され簡略化された抗体の操作に対して重要な意味を有する。四価の単一特異性VH結合複合体、または二価の二重特異性VH結合複合体は、ホモもしくはヘテロ二量体形成ドメインを使用して会合させ、結合ドメイン(scFv)の広範な予備操作の必要なく、化学架橋の必要なく、またはミスマッチであった結合ドメインの異種混合物から産物を分離する必要なく、培養中の細胞(例えば、細菌、酵母、昆虫、植物または哺乳類細胞)を用いて、またはトランスジェニック生物(例えば、哺乳類、昆虫、植物など)により、発現させ会合させることができる。
【0048】
VHドメインは、scFv(28kDa)またはFab(55kDa)結合ドメインと比較して小型である(およそ15kDa)。サイズディファレンシャル(size differential)および重鎖エフェクター機能の存在またあるいは別のものは、インビボでのタンパク質複合体の薬物動態学および体内分布に著しい効果を有する。従って、急速な組織浸透および高い標的保持力を示し、エフェクター機能の一部または全部を欠き、血流から急速に排除される小型の可溶性ポリペプチド結合複合体は、一部の臨床状況において、組織浸透が弱く、関連するエフェクター機能をもち、血清半減期の長い大型のIgG分子よりも優れている(広範囲な概説には、Holliger,P.& Hudson,P.J.(2005)Nature Biotechnology,23,1126−1136参照)。最も天然のC2−C3二量体形成ドメインを使用することにより、重鎖エフェクター機能がVHポリペプチド結合複合体に加わる。IgG4に由来するC2−C3ドメインまたは代わりとなるホモもしくはヘテロ二量体形成ドメインを使用することにより、重鎖エフェクター機能がなくても制御された様式でサイズの制約を操作することが可能となり、必要に応じて追加の所望の機能的特徴を組み込むことも可能である。
【0049】
非共有結合相互作用を必要とする特有の種類のタンパク質−タンパク質インターフェースによる、二量体および高次オリゴマーを形成するためのタンパク質の自己会合は、多くの生物学的機能を促進する(Ofran,Y.& Rost,B.(2003)J.Mol.Biol.325,377−387)。特異的なタンパク質二量体形成は、生物学的機能、構造および制御に不可欠である。(Marianayagam et al.(2004)TIBS,29,618−625参照)。ロイシンジッパーは、ホモおよびヘテロ二量体を形成することのできる十分に特性決定された1つの構造モチーフを表す(Landschulz et al.,(1988)Science,240,1759−1764)。C1重鎖ドメインと軽鎖定常ドメインは安定なヘテロ二量体を形成する。特定の真核生物の転写タンパク質、例えばTATA結合タンパク質のカルボキシル末端は安定なホモ二量体を形成する(Coleman et al.,(1995)J.Biol.Chem.270,13842−13860)。多数のその他の二量体形成ドメインが同定され、特性決定されている(Brown,J.H.(2006)Protein Science 15,1−13参照)。一部(しかし全てではない)は、ポリペプチド結合複合体の発生に適している。好ましい二量体形成ドメインはヒト起源、好ましくは、多様なタンパク質産生系での製造の間、それらが同族の混入物として存在する可能性が低いように、特化された組織において産生されたものである。あるいは、天然のタンパク質に存在する場合、二量体形成ドメインは、内因性タンパク質が自然の細胞内膜結合プロセスを用いる分泌経路による分泌が予定されている二量体化されたポリペプチド結合タンパク質産物と分離され得るように、核内または細胞質内に局在するべきである。ポリペプチド二量体の会合/解離はリン酸化に依存しないことが好ましい。
【0050】
VHポリペプチド結合複合体、特にヒト起源のものは、医薬品、造影剤、診断薬、アブザイムおよび試薬として、農業、環境および産業上の利用に平行して、ヘルスケアの分野において広範囲の用途を有する。
【0051】
(重鎖のみの抗体およびその断片)
本発明の抗原特異的VH結合ドメインは、上に記載されるように、例えば、免疫化されたトランスジェニック動物の抗体産生細胞から単離されたmRNAからクローン化されてよい。クローン化されたVH結合ドメイン配列も、ファージアレイ(Ward et al.,(1989)Nature,341,544−546)または類似のアレイライブラリーから、例えば酵素に基づく系を用いて(Boder and Wittrup,(1997)Nat.Biotechnol.,15,553−7)単離することができる。次に、抗原特異的VH結合ドメインを、測定可能な細菌、酵母または代替発現系において単独でまたは融合タンパク質として製造することができる。VH結合ドメインをコードする配列も、免疫化されたトランスジェニックマウスから古典的な手順により導かれた、特徴付けられたハイブリドーマからクローン化することができる。次に、これらを抗原特異的VH結合ドメインおよびその誘導体の作成に用いることができる。
【0052】
あるいは、酵素または化学による切断技術およびその後のその他の切断産物からのVHドメイン含有断片の分離を用いて、トランスジェニック動物または天然の供給源(サメおよびラクダ科動物)に由来する単離された免疫グロブリン重鎖、重鎖のみの抗体からVHドメイン含有断片を生成することができる(Jaton et al.,(1968)Biochemistry,7,4185−4195)。
【0053】
VH結合ドメインが特徴付けられたハイブリドーマから単離されている場合、mRNAに由来するVH結合ドメイン配列は、選択されたVH結合ドメインの親和性を特徴付け最適化するためのファージおよびその他のディスプレイ系を使用する必要なさらなる選択段階によらずに発現ベクターに直接クローン化されることができる。
【0054】
重鎖二量体形成領域およびエフェクター領域を組み込むVH結合ドメインのための産生系としては、大量飼育技術に適した、培養中の哺乳類細胞(例えばB細胞ハイブリドーマ、CHO細胞)、植物(例えばトウモロコシ)、トランスジェニックヤギ、ウサギ、ウシ、ヒツジおよびニワトリならびに昆虫の幼虫が挙げられる。ウイルス感染(例えば昆虫の幼虫および細胞系統におけるバキュロウイルス)を含む、その他の産生系は、細胞培養および生殖細胞系列アプローチの代替系である。その他の産生方法もまた当業者のよく知るところである。ラクダ科動物重鎖のみの抗体またはVH結合ドメイン単独の作成に適した方法は当分野で公知である。例えば、ラクダ科動物VH結合ドメインは細菌系で産生され、ラクダ科動物重鎖のみのホモ二量体はハイブリドーマで産生され、哺乳類細胞にトランスフェクトされている(Reichmann and Muyldermans,(1999)J.Immunol.Methods,231,25−38参照)。
【0055】
ファージディスプレイ技術を用いて誘導された、操作されたヒトV結合ドメインの発現のための方法も十分に確立されている(Tanha et al.,(2001)J.Biol.Chem.,276,24774−24780およびその参照文献)。
【0056】
トランスジェニックハエ系統の昆虫の幼虫は、哺乳類細胞により産生された同じ抗体と区別のつかない特徴をもつ機能性重鎖のみの抗体フラグメントを産生することが示された(PCT/GB2003/0003319号)。
【0057】
本発明はまた、本発明に従うVH結合ドメインおよび二量体形成ドメインをコードするポリペプチド結合タンパク質、またはその断片を含むベクターを提供する。
【0058】
本発明はまた、本発明に従うベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0059】
第1の態様において、本発明は、C2−C3重鎖エフェクター機能を欠く二量体形成ドメインのカルボキシル末端およびアミノ末端で融合された抗原特異的VH結合ドメインを含むポリペプチド結合複合体を提供する。これらのポリペプチド結合複合体は、二量体形成ドメインに自然に存在するかまたは二量体形成ドメイン中に操作された追加のターゲッティング機能またはエフェクター機能と組み合わせて、抗原特異的VH結合ドメインにより付与された生理学的機能を保持する。そのようなポリペプチド結合複合体は、機能性単一特異性四量体結合複合体、二価の二重特異性結合複合体、または四重特異性結合複合体の形態であってよい。VH結合ドメインは、結合分子のアミノおよびカルボキシ末端に存在する(例えば図1参照)。二量体形成ドメインは、最終的な機能性ポリペプチド結合複合体に求められる設計に応じて、ホモ二量体であってもヘテロ二量体であってもよい。
【0060】
この配置の利点は複数回の折り畳みである。協同的な様式で働く2以上の同一のVHドメインが存在することにより、単一のVHだけよりも大きな親和性および結合活性をもつ結合分子がもたらされる。四量体のVH産物(例えば医薬品)が、単量体または二量体のVH型よりも大きな潜在的可能性を有するのはもちろん、タンパク質ホモ二量体として会合した四価の単一特異性ポリペプチド結合複合体は、ミスマッチした混入結合配列を含まない単一の産物として単一のクローン化遺伝子配列から作成することができる。二価の二重特異性ポリペプチド結合複合体は、異なる標的の架橋を促進すると同時に2つのVH結合ドメインの各抗原に対する有益な協同効果を保持することができる。例えば、二重特異性ポリペプチド複合体は、細胞−細胞相互作用または細胞/病原体相互作用を促進するために利用することができる。この実施形態では、本発明のポリペプチド複合体は、例えば、赤血球と病原体などの2種類の細胞種間を架橋するために利用することができる(Taylor et al.,(1991)PNAS 88,3305−3309参照)。二官能性は、酵素経路の2つの成分を同時に阻害するために使用することができる(Jendreyko et al(2003)J.Biol.Chem.278,47812−47819)。
【0061】
二官能性は、エフェクター部分を標的細胞のすぐ近傍に運ぶために用いることができる。好ましくは、各ドメインのアミノ末端のVH結合ドメインは同一であり、カルボキシル末端のそれも同一であり(しかし、アミノ末端でそれに対して異なる抗原またはエピトープを認識する)、VH結合ドメイン対の協同的な結合を促進する。
【0062】
本明細書で使用される用語「エフェクター部分」には、細胞への所望の生物学的効果を媒介する任意の部分が含まれる。エフェクター部分は、可溶性であることが好ましく、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質であるか、あるいは非ペプチド構造体であってよい。例えば、エフェクター部分は、酵素、ホルモン、サイトカイン、薬物、プロドラッグ、毒素、特にタンパク質毒素、キレート化構造中の放射性核種、造影剤、アルブミンまたは阻害剤であってよい。エフェクター部分は、細胞、例えばT細胞、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質であるか、あるいは非ペプチド構造体であってよい。VH結合ドメインと会合しているエフェクター部分は、所望の効果に応じて、本来、細胞性、タンパク質性、有機または無機であってよい。
【0063】
アルブミン、免疫グロブリンまたはその他の血清タンパク質は、抗原特異的VH結合ドメインの安定性または薬物動態および/または薬力学的特性を増大させるためにエフェクター部分として利用することができる(Sung et al.(2003)J.Interferon Cytokine Res.,23(1):25−36:Harmsen et al(2005 Vaccine,23(41)4926−4934)。あるいは、エフェクター部分は、薬力学的特性を改善するために、ペグ化構造であるか、自然にグリコシル化された構造であってよい。
【0064】
(ポリペプチド二量体形成ドメイン)
また、本発明者らは、任意のポリペプチド結合複合体の特性が最終的なポリペプチド結合複合体に組み込まれたVH結合ドメインにただ依存するのではないということを認識した。複合体全体のサイズは、インビボで複合体の薬物動態および製造の容易さに有意な影響を及ぼす。さらに、二量体形成ドメインは、ポリペプチド結合複合体の設計によって、さらなるエフェクター活性を含み得る。そのため、本発明の第2の態様において、ポリペプチド複合体は、組織浸透に利益となるように、サイズの制限されている二量体形成ドメインを含む。本発明の第2の態様は、二量体形成ドメインを提供し、二量体形成ドメインはホモ二量体を含んでもよく、またはヘテロ二量体を含んでもよい。二量体形成は非共有結合相互作用によることが好ましい。
【0065】
二量体形成ドメインは、二量体形成ドメインのアミノ末端およびカルボキシル末端でVH結合ドメインと共有結合している。
【0066】
任意で、ポリペプチド結合複合体には、VH結合ドメインと二量体形成ドメインを結び付けている天然のまたは操作された柔軟なヒンジ様ドメインが含まれる。ヒンジ領域が存在することにより、得られるポリペプチド結合複合体のVH結合ドメインの独立した機能が促進される。
【0067】
任意で、二量体形成ドメインはその他の有用な機能を含んでもよく、または操作されてさらなる特徴、例えばグリコシル化、ペグ化、細胞表面受容体結合のための認識配列、あるいは抗体または結合タンパク質認識のためのタグを組み込んでもよい。二量体形成ドメインは、恐らく、例えばさらなるシステイン残基の導入または排除による会合を最適化するために操作され得る。
【0068】
ロイシンジッパーなどの小型の二量体形成ドメインは、単量体として存在してもよく、縦一列の対として存在して安定性を促進してよい。さらなるVHドメインは、恐らく縦一列の二量体形成ドメインを結合するために使用される。
【0069】
好ましくは、二量体形成ドメインのサイズは60kDa以下であり、ポリペプチド結合複合体のサイズは、組織浸透を促進できるように、およそ120kDaである。
【0070】
好ましい二量体形成ドメインは、天然(ヒト)タンパク質由来の小型ドメインを含む。これらには、多くの遺伝子調節タンパク質に存在する小型の30個のアミノ酸のロイシンジッパーモチーフが挙げられる(Landschulz et al.(1988)Science,240,1759−1764)。このアプローチは、二重特異性F(ab’)ヘテロ二量体の産生に既に使用されている(Kostelny et al.,(1992)J.Immunology 148,1547−1553)。ジッパーは、所与のヘテロ二量体形成事象の特異性を増大させるために操作されてよい(Loriaux et al,.(1993)PNAS 90,9046−9050)。
【0071】
本発明の第1および第2の態様に従う二量体形成ドメインは、ホモもしくはヘテロ二量体のタンパク質−タンパク質相互作用、例えば、免疫グロブリン重鎖定常領域のC2−C3領域間、免疫グロブリン重鎖のC1ドメインと免疫グロブリン軽鎖の定常領域との間、またはTATA結合タンパク質の180個のアミノ酸のカルボキシル末端ドメインのホモ二量体形成(Colemen et al.,(1995)J.Biol.Chem.270,13842−13849)など;VCAMとVLA−4との間;インテグリンと細胞外基質タンパク質との間;インテグリンと、CD54またはCD102などの細胞表面分子との間;ALCAM間;ロイシンジッパーヘテロ二量体形成ドメイン間;グルタチオントランスフェラーゼ間;に見出されるものを形成できる任意のタンパク質、ペプチド断片またはコンセンサス配列であってよく、SRCRドメインが代替例をもたらす。
【0072】
本発明の第1および第2の態様に従う例示的なポリペプチド結合複合体は、細胞化学ラベリング、ターゲッティング方法または治療に有用である。例えば、
1.アミノ末端抗原特異的VH結合ドメインが癌細胞表面マーカーを標的とする場合、カルボキシル末端VHはプロドラッグ変換酵素を含むエフェクター部分と結合し得る。アミノ末端抗原特異的VH結合ドメインは標的と結合し、カルボキシル末端VHは、エフェクター部分がプロドラッグ(例えば、ニトロレダクターゼまたはCB1954を含むDTジアフォラーゼ)の存在下で標的に生物学的効果を発揮できるように、エフェクター部分を標的の近傍に運ぶ;
2.アミノおよびカルボキシル末端VH結合ドメインがサイトカイン(例えばTNFα)を標的とする場合、協同的に作用する4つの結合ドメインは全て、VH単量体または二量体単独よりも大きな結合活性および親和性で作用する。その代わりに、アミノ末端VH結合ドメインはサイトカインと結合し、カルボキシルドメインは活性複合体の血清半減期を強化するために血清アルブミンと結合し得る。
【0073】
本発明の上記態様の全てに関して本明細書で使用される用語「結合ドメイン」には、生理的媒体中でエフェクター活性を有する任意のポリペプチド結合ドメインが含まれる。また、そのようなポリペプチド結合ドメインは生理的条件下で標的と結合する能力を有していなければならない。
【0074】
VH結合ドメインは、ラクダ科動物VHドメインを含んでよく、または非ラクダ科動物から得たVHドメインを含んでもよい。好ましくは、VH結合ドメインはヒトVH結合ドメインである。VH結合ドメインは、合成ファージライブラリーに由来するVHドメインとは対照的に、トランスジェニック動物またはラクダ科動物(上に記載)に由来するB細胞起源であることが好ましい。それはB細胞起源のVH結合ドメインが、VDJ再配列および体細胞突然変異を介して、インビボでの抗原曝露に応答するそれらの産生が原因で高い親和性を有するためである。
【0075】
本発明の第3の態様によれば、VH結合ドメインの一部または全部は代替タンパク質結合ドメインで置換されていてもよい。好ましくは、置換はアミノ末端かまたはカルボキシル末端のいずれかで生じるが、両方では生じない。
【0076】
そのような結合ドメインには、細胞表面との結合または付着を媒介することのできるドメインが含まれる。本発明のポリペプチド複合体で使用され得る適したドメインは、哺乳類、原核生物およびウイルス細胞接着分子、サイトカイン、増殖因子、受容体アンタゴニストもしくはアゴニスト、リガンド、細胞表面受容体、調節因子、構造タンパク質およびペプチド、血清タンパク質、分泌タンパク質、原形質膜会合タンパク質、ウイルス抗原、細菌抗原、原生動物抗原、寄生虫抗原、リポタンパク質、糖タンパク質、ホルモン、神経伝達物質、凝固因子などであるが、操作された単鎖Fvは除外される。
【0077】
(ポリヌクレオチド配列、ベクターおよび宿主細胞)
本発明はまた、本発明のポリペプチド結合複合体のいずれか1つをコードするポリヌクレオチド配列、前記のポリヌクレオチド配列の1以上を含むベクターおよび本発明のポリペプチド結合複合体をコードするベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。ポリヌクレオチドには、発現したポリペプチド結合複合体をホモまたはヘテロ二量体のいずれかとして宿主細胞を培養している培地へ分泌させることを可能にする配列を含むことが好ましい。宿主細胞としては、限定されるものではないが、細菌および酵母、昆虫、植物および哺乳類宿主細胞が挙げられ得る。
【0078】
さらに、本発明は、少なくとも1つの本発明のホモまたはヘテロ二量体ポリペプチド結合複合体を発現しているトランスジェニック生物を提供する。トランスジェニック生物は、非ヒト脊椎動物または哺乳類、植物または昆虫であってよい。
【0079】
ヘルスケア用途のためのポリペプチド結合複合体の作成は、大規模製造系(その例は上に詳細に考察されている)を必要とする。そのような系としては、植物(例えばトウモロコシ)、トランスジェニックウシおよびヒツジ、ならびにニワトリが挙げられ、昆虫の幼虫も大量飼育技術に適している。細胞培養および生殖細胞系列アプローチに代わるものとしてウイルス感染(例えば、昆虫の幼虫および細胞系統におけるバキュロウイルス)を含む、その他の産生系も、当業者のよく知るところである。
【0080】
これらの方法、および当分野で公知のその他の適した方法は、本発明のポリペプチド結合複合体の作成に使用することができる。ホモ二量体の作成および/またはヘテロ二量体の作成はこれらの方法を用いて達成することができる。
【0081】
(本発明のポリペプチド結合複合体の使用)
本発明のポリペプチド結合複合体には多数の用途がある。例えば、本発明のポリペプチド結合複合体は、単一特異性、二重特異性および多重特異性ポリペプチド複合体を包含する。これらの複合体は、例えば疾患の治療、予防および診断のための治療薬として特に有利である。本発明のポリペプチド結合複合体は、細胞化学的ラベリング、ターゲッティング法、治療法および診断に有用である。
【0082】
単一の抗体療法において、例えば単一の結合部位の欠失をもたらす突然変異に起因する病原体のエスケープは、抗体の治療効果を消滅させる。同じ病原体上で異なる抗原を認識する二価の二重特異性ポリペプチド結合複合体の産生により、この問題を克服することができる。本発明のポリペプチド結合複合体中の、異なる特異性を有する2つのVH結合ドメインの使用も、細胞−細胞相互作用と細胞/病原体相互作用の両方を促進するために利用され得る。
【0083】
この実施形態では、本発明のポリペプチド複合体は、例えば、病原体とマクロファージ、または腫瘍細胞とT細胞などの2つの細胞種間にポリペプチド複合体を架橋するために利用され得る。あるいは、ポリペプチド複合体は、二量体形成ドメインとヒンジ配列の中の、またはそれらの間に挿入された受容体認識ドメインによってエフェクター機能がもたらされている同じ病原体上の2以上のエピトープを認識し得る。
【0084】
あるいは、二重特異性ポリペプチド結合複合体をインビボで用いて細胞および組織を標的化し、その後循環しているエフェクター分子または造影剤を捕獲してもよい。例えば、二重特異性腫瘍標的化薬剤は、プロドラッグ変換複合体を捕獲し、その後のプロドラッグの反応薬剤への局在化された変換のために使用することができる。また、二重特異性および多重特異性結合複合体を、エフェクター剤と組み合わせて用いて結合ドメインの選択に応じて1以上の病原体と結合および破壊してもよい。あるいは、同じ病原体上の異なる抗原を認識する2以上の結合ドメインが存在することにより、臨床上の利点が得られ、病原体の中での突然変異の結果としての病原体のエスケープおよび薬剤の過剰が起こる可能性が低下する。
【0085】
本発明の第1の態様は、VH結合ドメインもしくはその断片および一部または全ての重鎖エフェクター機能を欠く天然のまたは操作されたC2−C3二量体形成ドメインを含む二量体形成ドメインを提供する。本発明の第2の態様によれば、ポリペプチド結合複合体は、ポリペプチド結合複合体の組織浸透を促進するためにサイズが120kDa以下である。本発明の第3の態様によれば、アミノまたはカルボキシル末端VH結合ドメインは、scFvを除く代替結合ドメインで置換されてよい。圧倒的にヒト配列を含むポリペプチド結合複合体はヒトにおける製薬使用に適しており、そのため本発明は、アミノ末端およびカルボキシル末端の任意選択のヒンジ領域を通じて二量体形成ドメインと連結されているVH結合ドメインを含む、ポリペプチド結合複合体の医薬組成物を提供する。本発明はまた、疾患の予防および/または治療のための薬剤の調製における、本発明のポリペプチド結合複合体の使用を提供する。適当なポリペプチド結合複合体およびエフェクター部分は、別々に、または一緒に処方されてよい。
【0086】
医薬組成物および薬剤は、一般に患者に投与する前に処方される。
【0087】
例えば、ポリペプチド結合複合体は、特にそれらが凍結乾燥される予定の場合には、安定剤と混合され得る。糖類(例えば、マンニトール、スクロース、またはトレハロース)の添加が、凍結乾燥中の安定性を与えるために典型的であり、好ましい安定剤はマンニトールである。ヒト血清アルブミン(好ましくは組換え型)も安定剤として添加することができる。糖類の混合物、例えば、スクロースおよびマンニトール、トレハロースおよびマンニトールなども使用することができる。
【0088】
バッファー、例えば、Trisバッファー、ヒスチジンバッファー、グリシンバッファーまたは、好ましくはリン酸塩バッファー(例えば、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムを含む)を組成物に添加してもよい。pHが7.2〜7.8、特にpHが約7.5となるバッファーの添加が好ましい。
【0089】
凍結乾燥後の再構成のためには、注射用滅菌水が使用され得る。凍結乾燥したケーキを、ヒト血清アルブミン(好ましくは組換え型)を含む水性組成物で再構成することも可能である。
【0090】
通常、ポリペプチド結合複合体精製された形態で薬理学的に適切な担体とともに利用される。
【0091】
従って、本発明は、本発明の医薬組成物を患者に投与することを含む、患者を治療するための方法を提供する。患者は好ましくはヒトであり、小児(例えば幼児または乳児)、ティーンエイジャーまたは成人であってよいが、通常成人である。
【0092】
本発明はまた、薬剤として使用するための本発明のポリペプチド結合複合体を提供する。
【0093】
本発明はまた、患者を治療するための薬剤の製造における本発明のポリペプチド結合複合体の使用を提供する。
【0094】
これらの使用、方法および薬剤は、以下の疾患または障害:創傷治癒、細胞増殖性疾患(新生物、黒色腫、肺、結腸直腸、骨肉腫、直腸、卵巣、肉腫、頸部、食道、乳房、膵臓、膀胱、頭部および頸部ならびにその他の固形腫瘍を含む);骨髄増殖性疾患、例えば白血病、非ホジキンリンパ腫、白血球減少症、血小板減少症、脈管形成障害、カポジ肉腫など;自己免疫/炎症性疾患(アレルギー、炎症性腸疾患、関節炎、乾癬および気道炎症、喘息、免疫障害(immunodisorders)および臓器移植拒絶を含む);心血管および脈管障害(高血圧症、浮腫、狭心症、アテローム性動脈硬化症、血栓症、敗血症、ショック、再潅流障害、および虚血を含む);神経疾患(中枢神経系疾患、アルツハイマー病、脳障害、筋萎縮性側索硬化症、および疼痛を含む);発達障害;代謝障害(真性糖尿病、骨粗しょう症、および肥満症を含む)、AIDSおよび腎疾患;感染(ウイルス感染、細菌感染、真菌感染および寄生虫感染を含む)、胎盤に関連する病理学的状態およびその他の病理学的状態の1つの治療のためのもの、ならびに免疫療法で使用するためのものであることが好ましい。
【0095】
なおさらなる態様において、本発明は、本発明のポリペプチド結合複合体の診断薬、予後治療薬、または治療用造影剤としての使用を提供する。
【0096】
本発明は、本明細書に記載される重鎖のみの抗体またはそのフラグメントの細胞内結合試薬、またはアブザイムとしての使用を提供する。好ましい重鎖のみの抗体フラグメントは、可溶性の抗原特異的VH結合ドメインである。
【0097】
本発明はまた、本発明に従うVHポリペプチド結合複合体の酵素阻害剤または受容体遮断薬としての使用を提供する。
【0098】
本発明はまた、治療薬、造影剤、診断薬、アブザイムまたは試薬として用いるためのVHポリペプチド結合複合体の使用を提供する。
【0099】
本発明はまた、細胞内結合剤(細胞内抗体)として用いるためのVHポリペプチド結合複合体を提供し、VHポリペプチド結合複合体を含む細胞内抗体の細胞内発現のために標的細胞で機能するベクターを提供する。
【0100】
(一般的技術)
別に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技法および生化学分野の当業者)に一般に理解されるものと同じ意味を有する。分子、遺伝学および生化学の方法に(通常、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.and Ausubel et al.,Short Protocols in Molecular Biology(1999)4th Ed.,John Wiley & Sons,Inc.参照)さらに化学的方法に標準的な技法が用いられる。それに加えて、Harlow & Lane,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,N.Y,が標準的な免疫学的技法として参照される。
【0101】
任意の適した組換えDNA技術が、本発明の二価および多価ポリペプチド複合体、単一重鎖抗体、およびその断片の作成に使用され得る。典型的な発現ベクター、例えばプラスミドは、ポリペプチド複合体または抗体の鎖の各々をコードするDNA配列を含んで構築されている。免疫グロブリンの酵素および化学による断片化ならびに得られる断片の分離に適した任意の確立された技術を使用してよい。ファージディスプレイライブラリーならびにラクダ科動物およびトランスジェニックマウスに由来するハイブリドーマからの抗原特異的VHポリペプチド結合ドメインの特定、単離および特性決定は十分確立された方法を使用する。
【0102】
本発明はまた、本発明のポリペプチド結合複合体の構築および発現のための構築物を含むベクターを提供する。
【0103】
ポリペプチド鎖以上のものをコードするDNA配列を含む単一のベクターが構築され得ることは当然理解される。例えば、付随するVH結合ドメインを含むヘテロ二量体の2つの異なるポリペプチド鎖をコードするDNA配列は、同じプラスミド上の異なる位置に挿入され得る。
【0104】
あるいは、各ポリペプチド鎖をコードするDNA配列を、1つのプラスミドに個別に挿入し、従って各々が特定のポリペプチド鎖をコードする多数の構築されたプラスミド作成してもよい。好ましくは、該配列が挿入されているプラスミドは適合性である。
【0105】
次に、各プラスミドを用いて、ポリペプチド結合複合体中のポリペプチド鎖の各々をコードするDNA配列を含むように宿主細胞を形質転換する。
【0106】
細菌系でのクローニングに使用され得る、適した発現ベクターとしては、プラスミド、例えばCol E1、pcR1、pBR322、pACYC 184およびRP4、ファージDNAまたはこれらのうちのいずれかの誘導体が挙げられる。
【0107】
酵母系でのクローニングでの使用に適した発現ベクターとしては、2ミクロンの起点に基づくプラスミドが挙げられる。
【0108】
適切な哺乳類遺伝子プロモーター配列を含有する任意のプラスミドは、哺乳類系でのクローニングに使用され得る。昆虫またはバキュロウイルスプロモーター配列は、昆虫細胞遺伝子発現に使用され得る。そのようなベクターとしては、例えば、pBR322、ウシパピローマウイルス、レトロウイルス、DNAウイルスおよびワクシニアウイルスから誘導されたプラスミドが挙げられる。
【0109】
ポリペプチド複合体または抗体の発現に使用され得る、適した宿主細胞としては、細菌、酵母および真核細胞、例えば昆虫または哺乳類細胞系統、トランスジェニック植物、昆虫、哺乳類およびその他の無脊椎動物または脊椎動物発現系が挙げられる。
【0110】
(本発明のポリペプチド結合複合体)
用語「ポリペプチド結合複合体」に、任意の供給源から得た相同ポリペプチドおよび核酸配列、例えば類縁の細胞相同体、その他の種由来の相同体およびその変異体もしくは誘導体が含まれることは当然理解される。
【0111】
従って、本発明は、本明細書に記載されるポリペプチド結合複合体の変異体、相同体または誘導体、VH結合ドメインおよび二量体形成ドメインを包含する。
【0112】
本発明の文脈において、相同配列は、少なくとも30個、好ましくは、50、70、90または100個のアミノ酸を超えるアミノ酸レベルで少なくとも80、85、90、95、96、97、98、99、99.5、99.6、99.7、99.8、99.9%同一である、好ましくは、少なくとも98または99%同一であるアミノ酸配列を含むと考えられる。相同性は類似性(すなわち、類似の化学特性/機能を有するアミノ酸残基)に関して考えられることもできるが、本発明の文脈において、相同性を配列同一性に関して表すことが好ましい。
【0113】
本発明には、本発明のポリペプチド結合複合体、二量体形成ドメインおよびVH結合ドメインを作成する際に用いるための構築された発現ベクターおよび形質転換宿主細胞も含まれる。
【0114】
個々の鎖が同じ宿主細胞において発現された後、それらは完全なポリペプチド結合複合体またはVHを活性形態で提供するために回収され得る。
【0115】
本発明の好ましい形態では、個々のポリペプチド結合複合体は、宿主細胞によりプロセシングされて、その細胞から有利に分泌される二量体化されたポリペプチド結合複合体を形成すると考えられる。
【0116】
組換え型抗体ポリペプチド結合複合体の調製のための技術は、上記の参照文献、ならびに、例えば、EP−A−0623679号;EP−A−0368684号およびEP−A−0436597号に記載されている。
【0117】
(本発明のポリペプチド結合複合体の使用)
本発明のポリペプチド結合複合体(その断片を含む)は、インビボでの治療および予防用途、インビトロおよびインビボでの診断用途、インビトロでのアッセイおよび試薬用途、などに用いることができる。
【0118】
本発明のポリペプチド結合複合体の治療的および予防的使用には、レシピエントの哺乳類、例えばヒトへの上記の投与が含まれる。
【0119】
その断片を少なくとも90〜95%の均一性で含む実質的に純粋なポリペプチド結合複合体は、哺乳類への投与に好ましく、98〜99%以上の均一性のものは、特にその哺乳類がヒトである場合、製薬用途に最も好ましい。一たび要望に応じて部分的にまたは均質に精製されると、本明細書に記載されるポリペプチド結合複合体は、診断的にまたは治療的に使用される(体外での使用を含む)か、または当業者に公知の方法を用いるアッセイ手順の開発および実施に使用され得る。
【0120】
通常、本発明のポリペプチド結合複合体は精製された形態で薬理学的に適切な担体と一緒に利用される。一般に、これらの担体には水溶液もしくはアルコール/水溶液、乳濁液または懸濁液が含まれ、それらは生理食塩水および/または緩衝媒体を含み得る。非経口媒体としては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウムならびに乳酸リンゲルが挙げられる。
【0121】
ポリペプチド複合体を懸濁液中に保持する必要がある場合、適した生理学的に許容されるアジュバントは、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチンおよびアルギン酸塩などの増粘剤から選択され得る。
【0122】
静脈内用媒体としては、流体および栄養素補給物ならびに電解質補給物、例えばリンゲルデキストロースに基づくものなどが挙げられる。防腐剤およびその他の添加剤、例えば抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガスも存在し得る(Mack(1982)Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th Edition)。
【0123】
本発明のポリペプチド複合体および抗体(その断片を含む)は、別々に投与される組成物として、またはその他の薬剤と併せて投与される組成物として使用することができる。これらには、様々な免疫療法薬、例えばシクロスポリン、メトトレキサート、アドリアマイシン、シスプラチンまたは免疫毒素が挙げられる。あるいは、ポリペプチド結合複合体は、プロドラッグの変換のための酵素とともにそれらの作用部位で使用することができる。
【0124】
医薬組成物には、選択された本発明のポリペプチド結合複合体と併せて、またはさらに選択された本発明のポリペプチド結合複合体と組み合わせて、様々な細胞傷害性薬物またはその他の薬剤の「カクテル」を含むことができる。
【0125】
本発明の医薬組成物の投与経路は、当業者に一般に公知である経路のいずれかであってよい。治療(免疫療法を制限なく含む)のためには、本発明のポリペプチド結合複合体は標準的技法に従って任意の患者に投与され得る。投与は任意の適切な様式によってよく、それには非経口的、静脈内、筋肉内、腹膜内、経皮、肺の経路を介して、または同様に、適切にカテーテルを用いる直接注入によるものが含まれる。投薬量および投与頻度は、患者の年齢、性別および状態、その他の薬剤の同時投与、反対の適応症および臨床医が考慮するその他のパラメータによって異なる。
【0126】
本発明のポリペプチド結合複合体および抗体は保存用に凍結乾燥して、使用の前に適した担体中に再構成することができる。公知の凍結乾燥および再構成技術を使用してよい。結乾燥および再構成が様々な程度の機能活性損失をもたらし得ること、および補うために使用レベルを調節する必要があることは当然当業者に理解される。
【0127】
細胞内抗体として使用する場合、ポリペプチド結合複合体を非ウイルスもしくはウイルス系ベクターを用いて送達するか、またはリポソームもしくは代替処方物として送達し、その結果必要とされる標的細胞での取り込みをもたらしてよい。
【0128】
それに加えて、本発明のポリペプチド結合複合体は診断目的に使用されてよい。例えば、本明細書に記載されるVH結合ドメインは、疾患状態の間に特異的に発現されるか、または所定の疾患状態の間にそのレベルが変化する抗原に対して生成または産生され得る。診断または試薬目的のためには、ポリペプチド結合複合体は、同じ抗原上の1以上のエピトープと結合しているVHドメインを含むことができ、代わりに、1以上の結合ドメインは、ポリペプチド複合体と定義された基質に結合するか、または、読み出されるアッセイの定性的または定量的な態様に必要とされるアッセイ成分と結合して捕獲ドメインとして働くことができる。
【0129】
特定の目的、例えば診断または追跡目的のために、標識を追加してもよい。適した標識としては、限定されるものではないが、次のうちのいずれか:放射性標識、NMRスピン標識および蛍光標識が挙げられる。標識の検出手段は当業者のよく知るところである。
【0130】
本発明のポリペプチド結合複合体を含有する組成物またはそのカクテルは、予防的処置および/または治療的処置のために投与することができる。
【0131】
1以上の本発明のポリペプチド結合複合体を含有する組成物は、哺乳類において選択標的細胞集団の変更、不活性化、死滅化または除去を助ける予防的および治療的設定で利用され得る。さらに、本明細書に記載のポリペプチド結合複合体の選択されたレパートリーを体外で、またはインビトロで用いて不均一な細胞の集合体から標的細胞集団を選択的に死滅させ、枯渇させ、またあるいは効果的に除去することができる。
【実施例】
【0132】
(実施例1)
四価の単一特異性抗aTNFポリペプチド結合タンパク質。
【0133】
aTNFで曝露したトランスジェニックマウスにおいて重鎖のみのIgMを産生する既に特性決定されたモノクローナル抗体から構築物を導出した。VHドメインには、ラクダ科動物VセグメントとヒトDJ定常領域が含まれた。
【0134】
抗体のCH2CH3骨格を欠失させ、CH1免疫グロブリン重鎖ドメインおよび免疫グロブリン軽鎖定常領域で置き換えた。次に、VHドメインを複製し、修飾されたヒンジ領域を用いて各構築物のカルボキシル末端にクローン化した。このヒンジは既存のIgG2ヒンジ配列に類似していたが、抗体二量体中のシステインの架橋を妨げるためにシステインをプロリンに置換すること、および、空間的に拘束されている(そうでなければその機能が阻害され得る)第2の抗体を阻止するためにプロリンを介して余分な柔軟性をもたらすことにより変更された。
【0135】
このようにして、通常はヒトIgG2ヒンジに存在するスルフィド橋の形成は、システイン(波線の下線)をプロリン(直線の下線)で置換することにより妨げられた。プロリンはヒンジに余分な柔軟性をもたらし、ヒンジを介して二量体形成ドメインのCOOH末端と接続される第2の抗体ドメインが適切に機能することを可能にする。
【0136】
【化1】

標準的な組換えDNA技術により、ニワトリアクチンプロモーターおよびCMVエンハンサー配列を含むbluescript(Pbluescript11 sk+)発現プラスミド(図22、発現プラスミド)に最終構築物を連結した。
【0137】
ダイアボディー発現プラスミドを増殖させて、標準的な方法(Superfect)により、プラスミドpGK−hygro(トランスフェクトした細胞の選択を可能にするため)とともにCHO細胞にコトランスフェクトした。ハイグロマイシン含有培地中で陽性クローンを選択し、CHO細胞により分泌されたダイアボディーを含有する増殖培地の標準的なaTNF ELISAを行って、ダイアボディーを発現していると明確に確認した。プラスミドから発現されたタンパク質が単量体に対して二量体であったことを示すために、これらのELISAで選択されたクローンのウエスタンブロットを非還元条件および還元条件下で行った。従って、ELISAおよびウエスタンブロットはともにダイアボディーがトランスフェクトCHO細胞により二量体として発現され培地に分泌されること、およびこの抗体がaTNFと結合することができることを示す。aTNF VH単量体、二量体および四量体の結合親和性の比較は、四量体への最大の結合親和性を示した。
【0138】
(実施例2)
IgG4に由来する、VH結合ドメインおよび重鎖エフェクター機能を欠くCH2CH3二量体形成ドメインを含む二重特異性二価ポリペプチド結合複合体。
【0139】
この実験は、大腸菌HSP70タンパク質に対して産生されたラクダ科動物化ヒトVHドメインを二量体形成ドメインのアミノ末端で、およびPERV gag抗原に対して産生されたラマVHHドメイン(Dekker et al.,(2003)J.Virol.77,(22)12132−9)をカルボキシル末端で用いて行った。実験の詳細は、IgG2 CH2−CH3二量体形成ドメインがヒトIgG4 CH2−CH3二量体形成ドメインで置換されていることを除いてPCT/GB2005/002892号の実施例2、図22、23および24に記載のとおりである(Bruggemann,M.et al.(1987)J.Ex.Med.,166,1351−1361)。
【0140】
ポリペプチド結合複合体を含むベクターをCHO細胞に発現させた、分泌されたポリペプチド結合複合体はウエスタンブロッティングによりHSP70およびgag抗原の両方と結合することが示された。
【0141】
(実施例3〜5)
免疫グロブリン定常領域を用いる代わりに、他の二量体形成ドメインを用いて、例えば、junおよびfos遺伝子のロイシンジッパードメインを異なる(ヒト)VHドメインと組み合わせて、多価の多重特異性結合分子を生成することができる。junジッパードメインは、fosジッパードメインとヘテロ二量体化することができるが、ホモ二量体化することもできる。次の2つの実施例は、これらのジッパードメインを用いるヘテロおよびホモ二量体形成を説明する。最後の実施例はその他のドメインの使用を説明する。
【0142】
(実施例3.fosおよびjunジッパードメインを用いてヘテロ二量体化した二重特異性二価結合分子)
そのような分子の作製のための基本スキームは図6に図解され、次の段階からなる。
【0143】
1.rTTAに対して生じたVH(Janssens et al.,2006)を、5’側がEcoRI部位を有し(プライマー1)、リーダー配列と相同であり、3’側がヒンジ領域と相同+jun配列の5’末端と相同な配列(それぞれプライマー2および3)であるプライマーを用いてPCRで増幅する。標準的なPCR増幅により、600塩基対のfos(図6実線)またはfos(図7破線)の断片Aがもたらされた。
プライマー1:CTGGAATTCTCACCATGGAGCTGGGGCTGAGC(配列番号4)
プライマー2:CGCTTGGAGTGTATCAGTCAGTGGGCACCTTGGGCACGGGGG(配列番号5)
プライマー3:CAGCCGGGCGATTCTCTCCAGTGGGCACCTTGGGCACGGGGG(配列番号6)
2.fosおよびjunロイシンジッパー領域をfosまたはjunをコードするヒトcDNAから増幅する。プライマーの5’末端にはrTTAVHのヒンジ領域の3’末端と相同な配列が含まれた(それぞれプライマー4および5)。プライマーの3’末端はジッパー領域の3’末端と相同であり(プライマー6および7)、3’末端に、A5 VHの5’末端に存在するヒンジ領域の5’末端と相同な配列(PCT/GB2005/002892号)を含む(Janssens et al.,2006)。fosおよびjun配列の増幅により、それぞれ各200bpの断片B(図6実線)およびC(図6破線)がもたらされた。
プライマー4:CCCCCGTGCCCAAGGTGCCCACTGACTGATACACTCCAAGCG(配列番号7)
プライマー5:CCCCCGTGCCCAAGGTGCCCACTGGAGAGAATCGCCCGGCTG(配列番号8)
プライマー6:TGGTGGTTTGCGCTCAGAAGCCAGGATGAACTCTAGTTTTTC(配列番号9)
プライマー7:TGGTGGTTTGCGCTCAGAAGCAACGTGGTTCATGACTTTCTG(配列番号10)
3.システインを全く含まないヒンジ配列を、まずA5 VH領域にクローン化する(PCT/GB2005/002892号中で特定、ERKPPVEPPPPP)(Dekker et al.,2003;Janssens et al.,2006)。ヒンジおよびA5 VHを、その後にヒンジ領域の5’末端と相同なプライマーおよび停止コドンを含むA5 VH領域の3’末端と相同なプライマー(プライマー)を用いて増幅して、400塩基対のfos(図6実線)またはjun(図6破線)の断片Dがもたらされる。
プライマー8:GAAAAACTAGAGTTCATCCTGGCTTCTGAGCGCAAACCACCA(配列番号11)
プライマー9:CAGAAAGTCATGAACCACGTTGCTTCTGAGCGCAAACCACCA(配列番号12)
プライマー10:GTCGAATTCTCATTCCGAGGAGACGGTGACCTGGGTC(配列番号13)
4.断片A(図6実線)、BおよびD(図6実線)を等モル量で混合し、断片A(図6破線)、CおよびD(図6破線)を等モル量で混合し、変性させ、プライマー1および10を用いてPCR増幅させて、1200塩基対の断片がもたらされる(図7参照、下のrTTA−fos−A5、特徴的なXhoI部位をA5配列の5’に含む)。
【0144】
5.rTTA−foszip−A5およびrTTA−junzip−A5を標準法により酵母(Pichia,Invitrogen)または標準的なCHO(CAGプロモーターとポリA部位間)発現ベクターにクローン化する。これらの構築物がそれぞれ酵母およびCHO細胞に導入される。
【0145】
6.培地および細胞を収集しELISAで分析して、それらがなおrTTAおよびA5と結合していることを示し、ネイティブ(native)ウエスタンブロットでそれらが二量体化していることを示す。
【0146】
(実施例4)
これは実験のjunジッパー部分だけが行われるということを除いて、実施例3に示されるものと同じ方法によるホモ二量体形成を示すものである。rTTA−junzip−A5はPichiaまたはCHO細胞に発現され、実施例2と同じ方法によりrTTAおよびA5結合ホモ二量体を形成することが示される。
【0147】
(実施例5)
実施例3および4に記載されるものに類似の方法論は、その他のホモまたはヘテロ二量体形成ドメインに適用することができる。そのような場合、実施例2の段階2で用いたプライマーは恐らくそのような他の二量体形成ドメインと相同であり、段階1および3で用いたオリゴヌクレオチドは段階4を可能にするためにこれらのドメインと重複する末端を有する。
【0148】
全ての実施例において、その他のVHまたはVLドメイン、あるいは転写因子DNA結合ドメインまたはリガンド結合ドメインなどのその他の結合ドメインを使用することができた。
【0149】
上記の明細書中に言及される全ての刊行物は参照により本明細書に組み込まれる。
【0150】
本発明の記載される方法および系の様々な変更形態および変形形態が本発明の範囲および精神を逸脱することなく当業者に明らかとなる。本発明は具体的な好ましい実施形態に関連して記載されているが、特許請求される本発明はそのような具体的な実施形態に不当に限定されるべきでないことは当然理解される。実際に、生化学、分子生物学および生命工学分野または関連分野の当業者に明白な、本発明を実施するために記載される方法の様々な変形形態は以下の特許請求の範囲内にあることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】VHポリペプチド結合ドメイン、ヒンジまたはリンカー配列により連結されたホモ二量体形成ドメインを含む、ポリペプチド結合複合体を示す図である。VHポリペプチドドメインは二量体形成ドメインのアミノ末端およびカルボキシ末端に位置している。
【0152】
A.四価の単一特異性ポリペプチド結合ドメインを示す。
【0153】
B.二価の二重特異性ポリペプチド結合ドメインを示す。
【0154】
C.一価の四重特異性ポリペプチド結合ドメインを示す。
【図2】ヘテロ二量体形成結合ドメインの異なる構造を示す図である。
【図3】四価の単一特異性ポリペプチド結合複合体の生成のための方法を示す図である。
【図4】GAGおよびHSPに対する結合親和性をもつ二重特異性の二価ポリペプチド結合複合体の生成のための方法を示す図である。
【図5】1より多くのアミノおよびカルボキシ末端VHドメインを含む二重特異性の四価抗体の例を示す図である。
【図6】fosおよびjunジッパードメインを用いてヘテロ二量体化した二重特異性二価結合分子を生成するためのスキームを示す図である。
【図7】PCR結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のポリペプチド鎖と第2のポリペプチド鎖とからなる二量体を含むポリペプチド結合複合体であって、前記第1および第2のポリペプチド鎖が、それぞれアミノ末端VH結合ドメインとカルボキシ末端VH結合ドメインと二量体形成ドメインとを含み、前記二量体形成ドメインがC2−C3の機能を欠くポリペプチド結合複合体。
【請求項2】
前記二量体形成ドメインが、改変されたCH2−CH3ドメインまたは天然のCH2−CH3ドメインのどちらでもない請求項1に記載のポリペプチド結合複合体。
【請求項3】
前記第1のポリペプチド鎖の二量体形成ドメインが前記第2のポリペプチド鎖の二量体形成ドメインと異なり、前記ポリペプチド結合複合体がヘテロ二量体である請求項1または2に記載のポリペプチド結合複合体。
【請求項4】
前記第1のポリペプチド鎖の二量体形成ドメインと前記第2のポリペプチド鎖の二量体形成ドメインが同じであり、前記ポリペプチド結合複合体がホモ二量体である請求項1または2に記載のポリペプチド結合複合体。
【請求項5】
4つの前記VH結合ドメインが同じ特異性(四価の単一特異性)を示す請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体。
【請求項6】
2つの前記アミノ末端VH結合ドメインが同じ特異性を示し、2つの前記カルボキシ末端VH結合ドメインが同じ特異性を示し、前記アミノ末端VHドメインと前記カルボキシ末端VHドメインの結合特異性が異なる(二価の二重特異性)請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体。
【請求項7】
2つの前記アミノ末端VH結合ドメインが同じ特異性を示し、2つの前記カルボキシ末端VH結合ドメインが互いに異なる特異性を示し、かつ前記アミノ末端VHドメインともそれぞれ異なる特異性を示す(三重特異性)請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体。
【請求項8】
2つの前記カルボキシ末端VH結合ドメインが同じ特異性を示し、2つの前記アミノ末端VH結合ドメインが互いに異なる特異性を示し、かつ前記カルボキシ末端VHドメインともそれぞれ異なる特異性を示す(三重特異性)請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体。
【請求項9】
2つの前記アミノ末端VH結合ドメインが互いに異なる特異性を示し、2つの前記カルボキシ末端VH結合ドメインが互いに異なる特異性を示し、かつ、前記2つのアミノ末端VHドメインともそれぞれ異なる特異性を示す(四重特異性)請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体。
【請求項10】
サイズが120kDA以下である請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体。
【請求項11】
一つまたは複数の前記VH結合ドメインが、代替クラスのポリペプチド結合ドメインで置換されていてよい請求項1〜10のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体。
【請求項12】
前記第1のポリペプチド鎖または前記第2のポリペプチド鎖のいずれか、もしくは両方のポリペプチド鎖が、アミノ末端結合ドメインと二量体形成ドメインの間、カルボキシ末端結合ドメインと二量体形成ドメインの間、または両方の間に柔軟なヒンジドメインをさらに含む請求項1〜11のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体。
【請求項13】
前記代替結合ドメインが、サイトカイン、増殖因子、受容体アンタゴニストもしくはアゴニストまたはリガンドである請求項11に記載のポリペプチド結合複合体。
【請求項14】
前記第1および第2のポリペプチド鎖が、ヒンジドメインによって隔てられ、かつ縦1列に結合する1つまたは複数のさらなるアミノ末端VH結合ドメインと、ヒンジドメインによって隔てられ、かつ縦1列に結合する1つまたは複数のさらなるカルボキシ末端VH結合ドメインとをさらに含む請求項1〜13のいずれかに記載のポリペプチド結合複合体。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の前記第1のポリペプチド鎖、前記第2のポリペプチド鎖、または両方のポリペプチド鎖をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項15に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項17】
請求項16に記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項18】
請求項17に記載の宿主細胞を培養するステップと、前記ポリペプチド複合体を単離するステップとを含む請求項1〜17のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体を作製する方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体を作製する方法であって、請求項1〜14のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体をコードするベクターで宿主細胞を形質転換するステップと、前記ベクターのコード配列の発現を可能にする条件下で前記宿主細胞を培養するステップと、前記宿主細胞から前記ポリペプチド結合複合体を回収するステップとを含むポリペプチド結合複合体を作製する方法。
【請求項20】
前記VH結合ドメイン、前記二量体形成ドメインまたはリンカーポリペプチドが、ペプチド化学または共役結合のような合成経路により作製される請求項1〜14のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体を作製する方法。
【請求項21】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体を含む医薬組成物。
【請求項22】
疾患の予防または治療のための薬剤の調製における請求項1〜14のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体の使用。
【請求項23】
請求項22に記載の医薬組成物を、治療を必要とする患者に投与するステップを含む患者を治療する方法。
【請求項24】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体の、診断薬、試薬、アブザイム、阻害剤、細胞化学試薬または造影剤としての使用。
【請求項25】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のポリペプチド結合複合体の、細胞内抗体としての使用。
【請求項26】
請求項16に記載のベクターまたは請求項21に記載の医薬組成物を、治療を必要とする患者に投与するステップを含む患者を治療する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−524422(P2009−524422A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551872(P2008−551872)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000258
【国際公開番号】WO2007/085837
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(508226300)エラスムス・ユニヴァーシティ・メディカル・センター・ロッテルダム (2)
【Fターム(参考)】