結合分子
本発明は、高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体であって、顕著な特徴であるラクダ科動物関連アミノ酸置換が欠如し、重鎖および軽鎖を含む抗体においては見いだされないFR2置換を有し、CDR1内で正味疎水性の増加およびCDR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加をし、FR1内の正味疎水性の増加およびFR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加をもたらすフレームワークβ−プリーツシート内に1つ以上のアミノ酸置換を含む抗体を提供する。さらに、同一特性を有するVHドメイン、それらを作製するための遺伝子セグメント、それらを作製するための方法、トランスジェニック動物および療法におけるVHドメインの抗体の使用も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスジェニック非ヒト哺乳動物から多様なレパートリーの機能的で可溶性の重鎖のみの抗体ならびにそれらに由来する可溶性VHドメインであって重鎖および軽鎖を含む抗体に由来するVHドメインとは構造的に別個である可溶性VHドメインを単離するための改良された方法に関する。好ましくは、重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインは、長寿命形質細胞または記憶B細胞に由来する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体もしくはそれらの変異体は、21世紀に販売が開始された新規な薬剤の内の高い比率を占めている。モノクローナル抗体療法は、既に関節リウマチやクローン病に対する治療のための好ましい経路として受け入れられていて、癌の治療では目覚ましい進歩を遂げている。心血管疾患や感染性疾患の治療のためにも、抗体をベースとする製剤は開発過程にある。大多数の市販のモノクローナル抗体製剤は、標的リガンド上の単独の明確に規定されたエピトープ(例、TNFα)を認識して結合する。
【0003】
抗体の構造は、当技術分野において周知である。大多数の天然抗体はテトラマー(四量体)であり、2本の重鎖および2本の軽鎖を含んでいる。重鎖は、各重鎖に沿ってほぼ半分にわたって所在するヒンジドメイン間でジスルフィド結合によって相互に結合されている。軽鎖は、ヒンジドメインのN末端側で各重鎖と結び付いている。各軽鎖は、通常はヒンジドメインに近いジスルフィド結合によって各々の重鎖と結合している。
【0004】
抗体分子が正確に折り畳まれている場合は、各鎖は、より線状のポリペプチド配列によって結合された多数の別個の球状ドメインに折り畳まれる。例えば、軽鎖は可変(VL)および定常(CL)ドメインに折り畳まれる。重鎖は軽鎖の可変ドメイン(VL)に隣接する単一可変ドメイン(VH)、第1定常ドメイン(CH1)、ヒンジドメインおよび2つもしくは3つのまた別の定常ドメインを有する。重鎖(VH)および軽鎖(VL)可変ドメインの相互作用は、結果として抗原結合領域(Fv)の形成を生じる。
【0005】
重鎖と軽鎖との間の相互作用は、重鎖の第1定常ドメイン(CH1)および軽鎖の定常ドメイン(CL)によって媒介される。しかし、重鎖と軽鎖との間の相互作用に含まれる、重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)との間の界面もまた存在する。
【0006】
可変ドメインは可変アミノ酸配列を有するので、これらのドメイン内のアミノ酸残基を番号付けするためのシステムが考案されてきた。この番号付けシステムは、Kabat et al.((1991)US Public Health Services,NIH publication 91−3242)によって記載されていて、本明細書において使用される。重鎖可変ドメインでは、フレームワーク1(FR1)は残基1〜30を包含し、フレームワーク2(FR2)は残基36〜49を包含し、フレームワーク3(FR3)は残基66〜94を包含し、フレームワーク4(FR4)は残基103〜113を含んでなる。さらに重鎖可変ドメインでは、相補性決定領域(CDR)が、残基30〜35(CDR1)、残基50〜65(CDR2)および95〜102(CDR3)を含んでなる。
【0007】
正常ヒトB細胞は、重鎖をコードする遺伝子がそこから再配列によって生成される14番染色体上に単一重鎖遺伝子座を含有する。マウスでは、重鎖遺伝子座は12番染色体上に所在する。正常重鎖遺伝子座は、複数のV遺伝子セグメント、多数のD遺伝子セグメントおよび多数のJ遺伝子セグメントを含んでいる。VHドメインの大多数はV遺伝子セグメントによってコードされるが、各VHドメインのC末端はD遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントによってコードされる。B細胞内でのVDJ再配列、その後の親和性成熟は、各VHドメインにその抗原結合特異性を提供する。正常テトラマー抗体の配列分析は、多様性が主としてVDJ再配列および体細胞超変異の組み合わせの結果として生じることを証明している(Xu and Davies,(2000)Immunity,13,37−45)。ヒトゲノム内には50個を超えるヒトV遺伝子セグメントが存在するが、機能的であるのはそのうちの39個に過ぎない。正常二倍体抗体産生B細胞では、各細胞は、単一セットの重鎖および軽鎖抗体遺伝子座からテトラマー抗体を産生する。その他の遺伝子座セットも使用されるが、対立遺伝子排除と呼ばれるプロセスの結果として再現性ではない(Singth et al.,(2003)J.Exp.Med.,197,743−750およびImmunology 5th editon,R.Goldsby,T.Kindt,B.Osborne,J.Kuby(2003)W.H.Freeman and Company NY,NY、ならびにその中の参考文献を参照されたい)。
【0008】
病原体との遭遇を「記憶する」能力は、高等脊椎動物における免疫系の決定的な特徴である。「記憶」へのB細胞の寄与は、2つの別個のB細胞集団である長寿命形質細胞および記憶B細胞の機能であると思われる(概説については、Tangye and Tarlinton(2009)Eur.J.Immunol.,(2009)39,2065−2075を参照されたい)。これらは、ナイーブB細胞の初期一次免疫応答(抗原チャレンジ)の結果として生成される。1つの集団は、抗原が除去された後に長期間(数カ月間)にわたって明確に高レベルの中和抗体を分泌することに寄与するB細胞である長寿命形質細胞に代表される。形質細胞は、最終的には分化し、高親和性の抗原特異的抗体をコードする再配列された親和性成熟免疫グロブリン遺伝子座を含んでいる。これらは、数日間という寿命を備える、抗原特異的抗体の大量産生によって誘発されるストレスの結果として死滅する短寿命形質細胞とは対照的である(Radbruch et al.(2006)Nature Reviews Immunologyを参照されたい)。対照的に、抗原特異的記憶B細胞の第2集団は、高親和性の抗原特異的抗体をコードする再配列された親和性成熟免疫グロブリン遺伝子座を同様に含むが、高レベルでは抗体を分泌しないB細胞集団を表している。記憶B細胞は、初期免疫抗原への反復曝露後には迅速に分割して抗体分泌形質細胞に分化する能力を有する。これは、所定の抗原チャレンジに応答するために利用できる抗原特異的免疫グロブリンのプールの迅速な濃縮を生じさせる。種痘に関する研究は、免疫された個体における50年間にわたる記憶B細胞応答を証明している(Crotty et al.(2003)J.Immunology,171,4969−4973)。
【0009】
ヒトでは、記憶B細胞は二次リンパ器官中で生残し、再配列されて体細胞変異した免疫グロブリン遺伝子を含み、再チャレンジへの二次免疫応答を媒介する(Bernascoti et al.(2002)science,298,2199−2202を参照されたい)。特にヒト脾臓は、記憶細胞にとっての主要部位であると思われる(概説についてはTangye and Tarlinton(2009)Eur.J.Immunol.,(2009)39,2065−2075を参照されたい)。
【0010】
長寿命抗体分泌形質細胞は、二次リンパ器官および骨髄中では数カ月間にわたり生残する。例えば、抗原選択された免疫グロブリン分泌細胞は、ヒト脾臓および骨髄中で存続する(Ellyard et al.(2004)Blood,103,3805−3812)。
【0011】
他の動物、例えばマウスでは、一次長期抗体応答は、長寿命形質細胞の機能であると思われる。そこでマウスでは、骨髄および脾臓中に存在する最終分化した長寿命形質細胞は、1年を超える長期間にわたって生残して抗体を分泌し続ける(Slifka et al.(1998)Immunity,8,367−372;Maruyama et al.(2000)Nature,407,636−641を参照されたい)。様々な哺乳動物における記憶細胞と最終分化した長寿命形質細胞との正確な関係は未だ確実には確立されていないが、哺乳動物には、各々が高親和性の抗原特異的抗体をコードする再配列された親和性成熟免疫グロブリン遺伝子座を含む長寿命B細胞の2つのプールが存在する。1つのプールは、迅速に分割する能力を有する。もう1つのプールは分割はしないが、長期間にわたって抗体を分泌する能力を保持する。
【0012】
患者によって生成された抗原特異的ヒトテトラマー抗体は、臨床的および商業的に重要な抗原特異的抗体の潜在的入手源を提供する。これらはさらにまたEBV(エプスタイン・バー・ウイルス)−形質転換ヒトB細胞から、好ましくは任意選択的にポリクローナルB細胞活性化因子の存在下で形質転換されたEBV形質転換ヒト記憶B細胞から引き出すこともできる(PCT/IB04/01071)。
【0013】
これまで、記憶細胞および長寿命形質細胞は、トランス遺伝子にコードされた高親和性抗体、特にヒトVHおよびVLドメインを含むヒト抗体またはハイブリッド抗体の起源としては利用されてこなかった。
【0014】
VHドメイン遺伝子工学および重鎖のみの抗体
軽鎖が欠けている重鎖のみの抗体が抗原に結合する能力は、1960年代に確定された(非特許文献12を参照されたい)。軽鎖から物理的に分離された重鎖免疫グロブリンは、テトラマー抗体に比して80%の抗原結合活性を保持した。さらに、結合活性は、重鎖のアミノ末端フラグメント(Fd)と関連していた。これらの実験は明確に特徴付けられた抗原特異的ウサギポリクローナル抗体を使用したが、ウサギポリクローナル抗体はヒトを含む哺乳動物起源のテトラマー抗体を含む任意のポリクローナル集団の代表的なものである。重鎖ダイマーは、CH1軽鎖結合ドメインを保持した。
【0015】
1980年代には、多数の刊行物が新規な抗体を構築するための重鎖遺伝子のインビトロ(生体外)操作について報告した。これらの研究の多くは、明確に特徴付けられた抗原に対して立てられた抗体をコードする再配列マウス抗体μ遺伝子(IgM)に基づいていた。この抗体の特徴は、不適切な軽鎖を伴う組立ておよび分泌が抗原結合の保持を示したために、抗原結合特異性がVHドメイン内に存在することが公知であることであった(Neuberger and Williams(1986)Phil.Trans.R.Soc.Lond.,A317,425−432を参照されたい)。この系を使用すると、マウス抗原特異的VH結合ドメインを使用して、マウス抗原特異的VH結合ドメインに融合したヒトε定常領域を含む新規な抗体を引き出せることが証明された。結果として生じたキメラIgEは抗原特異性を保持し、IgEに予想されたエフェクター活性を示した(Neuberger et al.(1985)Nature,314,268−270を参照されたい)。
【0016】
その他の重鎖遺伝子工学に関する文献の例は、ヒトIgAまたはIgG定常領域に融合したマウスVHを含むキメラマウス−ヒト抗体の産生を包含している(Morrison et al.(1984)PNAS,81,6851−6855;Sun et al.(1987)PNAS,84,214−218;およびHeinrich et al.(1989)J.Immunol.,143,3589−97を参照されたい)。そこで、1980年代末までには、重鎖遺伝子工学の概念が明確に確立された。任意の特徴付けられたVH結合ドメインは任意の抗体定常領域と融合させることができ、抗原特異的結合活性の保持を生じさせる。エフェクター機能は、選択された重鎖定常領域(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgEなど)によって決定された。全ての場合における最終発現キメラ抗体は、テトラマー抗体を含んでいた。
【0017】
完全ヒト重鎖を遺伝子工学により作製するためには、規定結合特異性を備えるヒトVHドメインの供給源を必要とする。この問題は、一部にはヒトリンパ球を起源とするテトラマー抗体に由来するナイーブ生殖細胞系ヒトV、DおよびJセグメントまたは親和性成熟VHドメインの組み合わせを用いて引き出されるヒトVHドメイン・アレイライブラリーの開発によって解決された。20nM〜100nMの範囲内の結合親和性を備える抗原特異的VHドメインは、次にヒト抗体産生末梢血B細胞(Ward et al.(1989)Nature,341,544−546を参照されたい)またはナイーブヒト生殖細胞系DNAに由来するランダムVDJアレイ(EP−A−0 368 684を参照されたい)に由来するVH結合ドメイン提示ライブラリーから単離することができた。これらの手法は、抗原特異的哺乳動物VHドメインおよび特別にはヒトVHドメインの起源を提供した。
【0018】
そこで、下記が提案された。
「単離可変(VH)ドメインは、モノクローナル抗体の代替物を提供し、高親和性のヒト抗体を構築するための起源として機能することができる」
「軽鎖もしくは適切な重鎖定常ドメインに可変ドメインを付着させ、哺乳動物細胞において組み立てられた遺伝子を発現させることによって、完全抗体を作製することができ、完全抗体は例えば「相補体溶解」などの自然エフェクター機能を有するはずである」
「この手法は、治療的価値を備えるヒト抗体を構築するために貴重であることを証明できた」(Ward et al.(1989)Nature,341,544−546およびEP−A−0 368 684を参照されたい)。
【0019】
また別の手法を使用して、Sitia et al.((1990)Cell,60,781−790)は、再配列されたマウスμ遺伝子由来のCH1ドメインの除去が培養中の哺乳動物細胞によって軽鎖が欠けている重鎖のみの抗体の合成および分泌を生じさせることを証明した。この場合には、分泌された重鎖は、VH結合ドメイン、そして重鎖ダイマー化およびエフェクター機能を提供する柔軟性ヒンジドメインならびにIgM CH2、CH3およびCH4定常ドメインからなる定常領域を含んでいた。
【0020】
そこで1990年代までには、規定のVH結合特異性を備えるヒト重鎖のみの抗体ホモダイマー(時にはDabs−Fcと記載される)のインビトロ遺伝子工学およびCH1が欠けている重鎖エフェクター領域の選択のための基本的ツールを利用できるようになった。
【0021】
この手法に関する問題は2つの要素からなるものであった。
アレイ手法から選択されるVHドメインは、相当に低い(20〜100nM)抗原結合親和性を備えていた。
軽鎖の非存在下でのVHドメインは、「付着性」、不溶性であり、さらに凝集する傾向があるので、このため製薬用途には適合しない。
【0022】
単離VHドメインが凝集する傾向は、軽鎖が非存在である結果である。軽鎖が非存在である場合、通常は重鎖/軽鎖界面内に埋もれている所定の疎水性側鎖が露出する。さらに、VHドメインの安定性は軽鎖界面での接触に依存するので、熱力学的安定性が損傷させられる(Worn and Pluckthun(1999)Biochemistry,38,8739−8750を参照されたい)。
【0023】
正常ラクダ科動物(camelid)テトラマー抗体に加えて、ラクダ科動物において循環する軽鎖が欠けている天然型IgGホモダイマー重鎖のみの抗体についてのHamers−Castermanによる記載(Hamers−Casterman et al.(1993)Nature,363,446−448を参照されたい)は、可溶性問題に関する識見を提供した。Sitia et al.((1990)Cell,60,781−790)によって遺伝子工学により作製された分子と一致して、CH1ドメインの機能性は、プロセッシングされた抗体重鎖mRNAからCH1を排除した選択的スプライス部位に起因してラクダ科動物重鎖のみの抗体中には存在しなかった。
【0024】
抗原チャレンジによって引き出されたラクダ科動物重鎖のみの抗体のVHドメイン(以下では、一般的使用にしたがって、VHHドメインと呼ぶ)は、インビボのB細胞内で親和性成熟していて、低ナノモル範囲内で結合親和性を有し、可溶性であり、凝集する傾向を示さない(Ewert et al.(2002)Biochemistry,41,3628−3636を参照されたい)。ラクダ科動物VHHドメインは、さらに一般には提示手法によって単離された生殖細胞系由来VHドメインに比較して熱安定性の増加を示し、一部は例えば洗剤および漂白剤などの変性剤の存在下、および熱処理後において結合活性を保持する(Dumoulin et al.(2002)Protein Science,11,500−511およびDolk et al.(2005)Applied Environmental Microbiology,71,442−450を参照されたい)。
【0025】
抗原特異的な重鎖のみの抗体は、標準クローニング技術またはファージもしくは他の提示法によってラクダ科動物B細胞mRNAから回収できる(Riechmann and Muyldermans(1999)J.Immunol.Methods,231,25−38を参照されたい)。ラクダ科動物由来の重鎖のみの抗体は、高親和性を備える。重鎖のみの抗体をコードするmRNAの配列分析は、さらに正常テトラマー抗体の産生においても観察されるように、多様性が主としてVHHDJ再配列および体細胞超変異の組み合わせの結果として生じることを証明している。しかし、ラクダ科動物による重鎖のみの抗体の産生がテトラマー抗体とは対照的に正常B細胞によるのかどうかは依然として確証されていない。実際に、ラクダ科動物におけるプレB細胞発生についてはほとんど公知でない(WO2004/049794およびZou et al.(2005)J.Immunology,175,3769−3779を参照されたい)。さらに、ラクダ科動物重鎖のみの抗体が、重鎖および軽鎖を含む免疫グロブリンテトラマーと同様に、記憶細胞または長寿命形質細胞による長期抗体応答に関与するのかどうかについては未だ確証されていない。
【0026】
ラクダ科動物重鎖のみの抗体の特定の特徴は、正常VHドメイン内のVLドメインと相互作用する一部のアミノ酸残基がVHHドメイン内で突然変異していることである。そこで、ヒトおよびマウスVH配列の98%において位置45で見いだされたロイシンは突然変異していた。生殖細胞系内で保存されているこれらのラクダ科動物突然変異は、軽鎖の非存在下でVHH可溶性を維持することに一致すると提案されてきた。ラクダ科動物VHHドメインにおける他の顕著な特徴であるアミノ酸突然変異についても正常VHドメインと比較して記載されてきた。これらの内で最も一般的で重要な変化は、二次フレームワーク領域内の4つの位置(VHH四分子)で発生し、以前の軽鎖界面の疎水性を減少させるように機能する。一般に、Glu−44およびArg−45は正常VHドメイン内の低親水性Gly−44およびLeu−45の場所で見いだされるが、位置47での親水性はTrpとより小さな残基との置換によって増加する。第4の変化には、Val−37とPheまたはTyrとの置換を必要とする。構造分析は、これが典型的にはVHHドメインCDR3ループ内に存在するTyr−91、Trp−103、Arg−45および疎水性残基を含む小さな疎水性コアの核をなすことを解明する。これらの変化は、より親水性側鎖との直接的置換またはCDR3とフレームワーク残基との間の相互作用による溶媒からの疎水性側鎖の隔離によって以前の軽鎖界面の親水性を増加させる(Bond et al.(2003)J.Mol.Biol.,332,643−655を参照されたい)。
【0027】
VHHドメイン内では、CDR3ループはラクダ科動物テトラマー抗体上およびその他のヒトおよびマウス由来の明確に特徴付けられたテトラマー抗体上に存在するCDR3ループに比較して拡大している(Riechmann and Muyldermans(1999)J.Immunol.Methods,231,25−38を参照されたい)。VHH CDRループ内、例えばラマVHHドメイン内に存在する重要な疎水性残基の役割は、VHHドメインの安定性および可溶性においてCDR3が果たす構造的役割を証明している(Bond et al.(2003)J.Mol.Biol.,332,643−655を参照されたい)。これらをまとめると、VHHドメインに関する構造的研究は、これらのドメインの安定性および可溶性がフレームワーク残基に加えてCDR3に依存すること、および重要な疎水性残基に対する要件は、VHドメインに比較してVHHドメインの好ましい生物物理学的特徴と適合するCDR3ループのタイプへ大きく制約することを証明している(Barthelemy et al.(2008)J.Biol.Chem.,283,3639−3654を参照されたい)。
【0028】
しかし、ラクダ科動物とヒトとの間の高度の配列保存にもかかわらず、ラクダ科動物VHHドメインはラクダ科動物起源のままであり、そこでヒトにおいては潜在的に抗原性である。インビトロでのヒト化はこの危険性を低下させることができるが、含まれるインビトロ遺伝子工学の結果として、親和性および可溶性が低下する犠牲が生じる可能性がある。
【0029】
ヒトVHドメインおよび可溶性の問題
生殖細胞系配列またはラクダ科動物VHHドメインに比較した正常テトラマー抗体に由来するヒトおよびその他の哺乳動物VHドメインの不良な生物物理学的特徴、特に凝集する傾向は現在、試薬、診断薬および医薬品としてのそれらの実用性を制限している(Rosenberg(2006)The AAPS Journal,8(3),Article 59 E501−E507およびFahner et al.(2001)Biotechnol.Gen.Eng.Rev.,18,301−327を参照されたい)。
【0030】
可溶性の問題を解決するための初期の試みは、VH/VL界面での選択したヒトVH結合領域内へのラクダ化アミノ酸配列の導入に依存していた。この手法は、安定性および可溶性をVH/VL界面での位置45での「ラクダ化」単独によって対処できないので期待はずれであることが証明された(EP−B−0 656 946とは反対に、Domantis submissions dated 18th May 2007 and 5th June 2007を参照されたい)。実際に、標的化「ラクダ化」突然変異の導入は、単離ヒトVHドメイン内の「付着性」の問題を解決するには不十分である(Riechmann and Muyldermans(1999)J.Immunol.Methods,231,25−38を参照されたい)。ラクダ化突然変異の導入は、これらの実験の転帰として観察されたタンパク質安定性の低下の原因である可能性が高いフレームワークβ−プリーツシートにおける変形をもたらす(Riechmann(1996)J.Mol.Biol.,259,957−969を参照されたい)。さらに、重要な疎水性残基を含むCDR3が軽鎖の非存在下でのVHHドメインの構造的安定性および可溶性を保持することにおいて果たす役割は、複雑さを付け加え、ラクダ科動物フレームワークと適合するものへCDR3配列の多様性を制限する可能性がある(Barthelemy et al.(2008)J.Biol.Chem.,283,3639−3654を参照されたい)。
【0031】
そこで、ヒト由来のものを含む、親和性成熟天然テトラマー抗体由来または生殖細胞系VDJセグメントのナイーブ配列由来の哺乳動物VHドメインは、軽鎖の非存在下では、相当に不溶性であり、凝集する傾向を示す。そのようなVHドメインは、医薬品として使用するために適する可溶性VHドメインの不可欠な生物物理学的特徴に欠ける。
【0032】
遺伝子組み換えによってインビボで生成された重鎖のみの抗体および可溶性ヒトVHドメイン
製薬用途のためには、可溶性VH結合ドメインは、好ましくは、生理学的条件下で凝集を発生せずに例えば高抗原結合親和性および可溶性などの特徴を備えるヒト起源である。そのような可溶性VHドメインは、さらにまた診断薬および試薬としても使用することができ、工業および農業において広汎な用途を有する。
【0033】
抗原特異的重鎖のみの抗体を生成するためのまた別の手法は、CH1機能性に欠ける重鎖遺伝子座を含むトランスジェニックマウスを使用する方法である(Janssens et al.(2006)PNAS,103:15130−5およびWO02/085944を参照されたい)。
【0034】
最初は、正常マウスB細胞が抗原チャレンジの結果として活性化されて重鎖のみの抗体を分泌するかどうか、またはそのような抗体が可溶性であることが証明されるかどうかは未知であった。さらに、IgMが必要とされるかどうか、またはラクダ科動物におけるように、発現が抗体のIgγ2およびIgγ3クラスに限定されるかどうか、または潜在的不溶性VHドメインが正常マウスB細胞によって分泌され得るかどうかも未知であった。
【0035】
Janssens et al.(2006)PNASは、全部にCH1機能性が欠けている2個のラマVHH遺伝子セグメント、全D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントならびにヒトCμおよびCγ2およびCγ3定常領域を含むキメラ重鎖遺伝子座について記載している。ラマVHH遺伝子セグメントの選択は、VH/VL界面でラクダ科動物によって保持された生殖細胞系フレームワーク突然変異が、結果として生じる「ラクダ化」VHドメインがラクダVHHによって示される可溶性および安定性の特性を保持し、その結果ラクダに由来するCDR3ループの非存在下でさえ抗原チャレンジへ機能的に応答する可能性を増加させる可能性を増強できるように発現したラクダ化ヒト遺伝子座においても存在することを保証した。
【0036】
この転帰は、重鎖のみの抗体がB細胞特異的方法で発現すること、B細胞増殖が発生すること、およびCH1機能性の非存在下では、任意の機能的軽鎖遺伝子の存在が重要ではないことを証明した。重鎖のみの抗体トランス遺伝子は、抗原チャレンジに応答してVDJ再配列を受け、その後にB細胞活性化および親和性成熟を受ける。重鎖のみのIgMとIgGとの間のクラススイッチングもまた、Cγアイソタイプスイッチングと同様に発生する。遺伝子座にCμが非存在下である場合は、Cγが同等に良好に使用される。抗体の特異性は、VDJ(CDR3)再配列によって大きく決定されるが、他方体細胞変異の分析は、これらがVH領域全体で発生し、発現したラマVHH遺伝子セグメントのCDR1およびCDR2領域について優先性が見られることを証明している。特徴付けられた限定数のラクダ化ヒト重鎖のみの抗体の内で、VHドメインのファージディスプレイによって脾臓B細胞に由来するものかハイブリドーマ選択によるものかとは無関係に、完全にヒト配列に由来したCDR3ループはラクダ科動物VHHドメイン内で見いだされる配列より短いという事実にもかかわらず、全部が可溶性であることが証明された。
【0037】
この限定されたシリーズの最良ハイブリッドラマ/ヒト重鎖のみの抗体は、1〜3nM範囲内の親和性を有した。マウスはさらに、トランス遺伝子をそのB細胞増殖においてまた別の重鎖遺伝子座としてプロセッシングし、脾臓構築は軽鎖再配列の非存在下でさえ本質的に正常である(Janssens et al.(2006)PNASを参照されたい)。さらに、対立遺伝子排除機序は、CH1機能性が欠けている内因性マウス重鎖遺伝子座または重鎖トランス遺伝子が再現性で発現するかどうかを決定する(WO2007/09677を参照されたい)。
【0038】
Janssens et al.の観察(Janssens et al.(2006)PNAS)は、驚くべきことに、安定性および可溶性のラクダ化重鎖のみの抗体がラクダ配列を含むCDR3ループの非存在下でさえラクダ科動物フレームワークを用いて引き出せることを証明している。
【0039】
これらの実験の延長として(WO2006/008548を参照されたい)、完全ヒト重鎖のみの抗体を含む、およびそこでラクダ科動物VHHフレームワークをコードする配列が欠如し、さらに非ラクダ科動物配列に由来するCDR3ループを含む追加のトランス遺伝子マウス系が構築されてきた。
【0040】
この手法では、4個の天然ヒト生殖細胞系VH遺伝子セグメント(V4天然遺伝子座)が、結果として生じる可溶性ヒトVHドメインの抗原特異性および構造的安定性を生成するための親和性成熟を通した自然選択に完全に依存して導入されてきた。どちらの遺伝子座も全ヒトD遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメント、各々にCH1が欠けているヒトCγ2およびCγ3定常領域遺伝子セグメント、ヒト免疫グロブリンエンハンサー調節エレメント、ならびに好ましくは、抗体重鎖LCRを含んでいる。
【0041】
ヒトV4遺伝子座は機能性であり、ヒト重鎖のみの抗体は抗原チャレンジされていない動物の血漿中で循環する。抗原チャレンジ後、抗原特異的ヒト抗体は、ルーチンのElisaアッセイを使用して検出される。遺伝子工学で作製されたV遺伝子セグメントを含むヒト遺伝子座(V17遺伝子座)(WO2008/035216を参照されたい)もまた機能性である(さらにThe Antibody Engineering and Antibody Therapeutics Meeting.F.Grosveld presentation,San Diego Antibody Meeting,December 3−4,2007を参照されたい)。
【0042】
さらに、驚くべきことに、V4遺伝子座を含むトランス遺伝子マウスの抗原チャレンジは、生殖細胞系からのラクダ科動物の顕著な特徴であるフレームワーク突然変異およびラクダ科動物VHHドメインに典型的なラクダ様CDR3ループの非存在下で可溶性の抗原特異的な高親和性ヒトVHドメインの単離および特性解析を可能にする。さらに抗原特異的ヒト重鎖のみの抗体由来のVHドメインは、可溶性である(WO2006/008548を参照されたい)。抗原チャレンジ、VDJ再配列およびその後のB細胞増殖後には、ヒトV4遺伝子座を含むマウスにおける脾臓構築は、抗原チャレンジへの野生型マウス免疫グロブリン応答に本質的に類似する。光線顕微鏡は、白色パルプの外側境界に存在する小胞および境界域を含有するB細胞富裕領域に取り囲まれた動脈周囲リンパ球シート(PALS)内でのT細胞集合化の隔離を証明している。さらにまたT細胞依存性抗体応答中には野生型マウスに匹敵する二次リンパ球組織のB細胞小胞内には胚中心に類似する構造もまた存在する。
【0043】
天然ラクダVHHドメイン配列の予測分析に依存しない合成ヒトVHドメインの同定および遺伝子工学による作製のためのまた別の提示手法は、さらに、天然フレームワークの範囲を越える構造特性を備える自律VHドメインがラクダ科動物において見いだされたものとは相違する非天然突然変異を使用して引き出せることを証明している(Barthelemy et al.(2008)J.Biol.Chem.,283,3639−3654およびUS patent application number 11/102,502を参照されたい)。しかし、これらのデータは、そのようなVHドメインが低ナノモル範囲内での結合親和性と組み合わせた凝集の非存在下での生理学的条件下で可溶性の生物物理学的特徴を保持するかどうかは証明していない。
【0044】
合成ヒトVHドメインの提示による同定および遺伝子工学による作製のための手法は、洗練されてはいるが、大きな労働力を必要とし、ヒトVHドメインおよびラクダ科動物VHH三次元構造情報に利用可能性の範囲が限定されている。極めてわずかな差は使用されるVDJの組み合わせに依存して明白になるので、これは高親和性抗原結合を保持する構造的需要によって拘束されないCDR3多様性を備える合成アレイに基づくVHライブラリーの開発を制限することになる。これらの転帰は、ラクダ科動物VHHドメインとは対照的に、ヒトVHドメインの可溶性安定性構造がCDR3ループとラクダ科動物の顕著な特徴であるアミノ酸置換との間の下の軽鎖界面での相互作用に依存しないことを証明してはいるが、これらのデータは生物物理学的特徴に限定される。例えば、これらの変化の状況における高親和性抗原結合の維持については考察されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0045】
本発明は、正常テトラマー抗体または生殖細胞系アレイに由来するVHドメインとは構造的に別個の、そこで医薬品として使用するために適合している新規な高親和性の可溶性重鎖のみの抗体および可溶性VHドメイン、ならびに抗原チャレンジ後にトランスジェニック動物から当該の新規な重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインを単離するための好ましい経路について記載する。
【課題を解決するための手段】
【0046】
したがって、本発明の第1態様は、新規な高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体であって、
顕著な特徴であるラクダ科動物関連にアミノ酸置換が欠如し、正常テトラマー抗体においては見いだされないFR2置換を有し、
CDR1内で正味の疎水性(net hydrophobicity)の増加およびCDR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加を示し、
FR1内の正味疎水性の増加およびFR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加をもたらすフレームワークβ−プリーツシート内に1つ以上のアミノ酸置換を含む抗体を提供する。
【0047】
重鎖のみの抗体は、好ましくはヒト抗体である。ヒト重鎖のみの抗体は、顕著な特徴であるラクダ科動物関連にアミノ酸置換が欠如し、正常ヒトテトラマー抗体においては見いだされないFR2置換を有する。
【0048】
重鎖のみの抗体は、好ましくは10nM以上の結合親和性を有し、生理学的緩衝条件下ではゲル濾過上の可溶性モノマーとして機能する。
【0049】
本発明はさらに、高親和性の抗原特異的な可溶性VHドメインであって、
顕著な特徴であるラクダ科動物関連アミノ酸の置換が欠如し、正常テトラマー抗体においては見いだされないFR2置換を有し、
CDR1内で正味疎水性の増加およびCDR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加を示し、
FR1内の正味疎水性の増加およびFR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加をもたらすフレームワークβ−プリーツシート内に1つ以上のアミノ酸置換を含む可溶性VHドメインを提供する。
【0050】
可溶性VHドメインは、好ましくはヒト起源である。可溶性ヒトVHドメインは、顕著な特徴であるラクダ科動物関連にアミノ酸置換が欠如し、正常ヒトテトラマー抗体においては見いだされないFR2置換を有する。
【0051】
可溶性VHドメインは、好ましくは10nM以上の結合親和性を有し、生理学的緩衝条件下ではゲル濾過上の可溶性モノマーとして機能する。
【0052】
本発明は、V遺伝子セグメントであって、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントを用いて組み換えられ、引き続いて親和性成熟を経験すると、本発明による可溶性VHドメインをコードするV遺伝子セグメントをさらに提供する。
【0053】
任意選択的に、V遺伝子セグメントの配列は、V遺伝子セグメントが、宿主動物の生殖細胞系配列とは相違する、および顕著な特徴であるラクダ科動物関連にアミノ酸置換ではない、そして正常テトラマー抗体においては一般に見いだされないFR2置換であってよいアミノ酸残基もしくはアミノ酸配列をコードするコドンを含んでなるように、V遺伝子セグメントの天然生殖細胞系配列に比較して少なくとも1つの置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせによって遺伝子組み換えすることができる。そのような変化は、生殖細胞系配列に比較して抗原結合のために利用できるアミノ酸の多様性を増強できるように、V遺伝子セグメントのCDR1および/またはCDR2領域内の置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせを包含することができる。
【0054】
本発明は、D遺伝子セグメントであって、本発明によるV遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントを用いて組み換えられると、本発明によるVHドメインをコードするD遺伝子セグメントをさらに提供する。
【0055】
任意選択的に、D遺伝子セグメントの配列は、D遺伝子セグメントの天然生殖細胞系配列に比較した少なくとも1つの置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせによって遺伝子組み換えすることができる。そのような置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせは、D遺伝子セグメントがD遺伝子セグメントによってコードされる配列を含んでなる可溶性VHドメインの可溶性および安定性を維持することに寄与すると決定されているアミノ酸残基をコードするコドンを包含できるような置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせである、または生殖細胞系配列に比較して任意の結果として生じたCDR3ループ内のD遺伝子セグメントの多様性を増強することができる。
【0056】
本発明は、J遺伝子セグメントであって、本発明によるV遺伝子セグメントおよびD遺伝子セグメントを用いて組み換えられると、本発明による可溶性VHドメインをコードするJ遺伝子セグメントをさらに提供する。
【0057】
任意選択的に、J遺伝子セグメントの配列は、J遺伝子セグメントの天然生殖細胞系配列に比較した少なくとも1つの置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせによって遺伝子組み換えすることができる。そのような置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせは、J遺伝子セグメントがJ遺伝子セグメントによってコードされる配列を含んでなる可溶性VHドメインの可溶性および安定性を維持することに寄与すると決定されているアミノ酸残基をコードするコドンを包含できるような置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせである、または生殖細胞系配列に比較して任意の結果として生じたCDR3ループ内のJ遺伝子セグメントの多様性を増強することができる。
【0058】
本発明は、好ましくは本発明による1つ以上のV遺伝子セグメント、本発明による1つ以上のD遺伝子セグメント、本発明による1つ以上のJ遺伝子セグメント、およびその各々がCH1機能性の欠如する抗体定常エフェクター領域をコードする1つ以上の定常エフェクター領域遺伝子セグメントを含む異種重鎖のみの遺伝子座を提供するが、このとき遺伝子セグメントは、V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントならびに定常領域遺伝子セグメントが組み換えられて本発明による高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体をコードする再配列遺伝子を生成することができる。
【0059】
重鎖のみの遺伝子座は、好ましくは哺乳動物起源であり、より好ましくはヒト、マウス、ラットまたはラクダ科動物に由来する脊椎動物重鎖定常エフェクター領域を有する。
【0060】
好ましくは、重鎖遺伝子座は、可溶性ヒトVHドメインおよび哺乳動物起源の定常エフェクター領域を含む重鎖のみの抗体を産生するように配列される。
【0061】
本発明は、本発明による異種重鎖遺伝子座を含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物をさらに提供する。好ましくは、哺乳動物は、齧歯類、最も好ましくはマウスまたはラットである。好ましくは、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の内因性重鎖遺伝子座は、当技術分野において公知の任意の方法によって機能的に損傷させられている、または欠失によってサイレンシングされている(US5,591,669;US6,162,963;US5,877,397;Kitamura and Rajewsky(1992)Nature,Mar 12;356(6365):154−6を参照されたい)。または、トランス遺伝子とは反対に、内因性免疫グロブリン遺伝子を発現するB細胞が排除されてもよい。内因性κおよびλ軽鎖遺伝子は、機能性を維持することができる、または任意選択的に機能的にサイレンシングもしくは欠失させることができる(EP139959を参照されたい)。余り好ましくはないが、トランス遺伝子は、内因性重鎖もしくは軽鎖遺伝子機能性が欠けている宿主バックグラウンドにおいてCH1機能性を含む正常重鎖抗体遺伝子座であってよい(EP139959およびZou et al.J.Exp.Med.,204,3271−3283を参照されたい)。
【0062】
重鎖のみの免疫グロブリントランス遺伝子は、CH1機能性を排除するように遺伝子組み換えされている、および任意選択的にさらに1つ以上の内因性V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントを導入する、または好ましくはヒト起源の代替V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントと置換するように遺伝子組み換えされている内因性重鎖免疫グロブリン遺伝子座をさらに含むことができる。
【0063】
本発明は、また別の態様では、高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体を作製するための方法であって、本発明によるトランスジェニック非ヒト哺乳動物を1つの抗原でチャレンジする工程を含む方法を提供する。好ましくは、可溶性重鎖のみの抗体は、ヒトである。
【0064】
好ましくは、本方法は、哺乳動物由来の抗体産生細胞を不死化する工程を含んでなる。細胞は、骨髄腫細胞との融合によって不死化でき、またはウイルス、例えばEBVを用いた形質転換によって不死化できる。
【0065】
好ましくは、本方法は、所望の抗原特異性を備える重鎖のみの抗体を産生するB細胞または不死化細胞系から、可溶性VHドメインもしくは可溶性VHドメインをコードする核酸のいずれかを単離する工程をさらに含んでなる。
【0066】
または、本方法は、哺乳動物によって生成された重鎖のみの抗体を産生する細胞から、または哺乳動物によって生成された不死化重鎖のみの抗体を産生する細胞から、可溶性VHドメインまたは可溶性VHドメインをコードする核酸のいずれかを提示手法によって単離する工程をさらに含むことができる。
【0067】
本発明は、重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合の生成における本発明の方法によって得られた可溶性VHドメインまたは可溶性VHドメインをコードする核酸の使用をさらに提供する。
【0068】
本発明は、本発明による少なくとも1つの可溶性VHドメインを含んでなる重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合をさらに提供する。
【0069】
本発明は、治療に使用するための、本発明による少なくとも1つの可溶性VHドメインを含んでなる重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合をなおさらに提供する。
【0070】
本発明は、創傷治癒;悪性腫瘍、黒色腫、肺癌、結腸直腸癌、骨肉腫、直腸癌、卵巣癌、肉腫、頸癌、食道腫瘍、乳癌、膵臓癌、膀胱癌、頭頸部癌およびその他の充実性腫瘍を包含する細胞増殖性障害;例えば白血病、非ホジキンリンパ腫、白血球減少症、血小板減少症、血管新生障害、カポジ肉腫などの骨髄増殖性障害;アレルギー、炎症性腸疾患、関節炎、乾癬および気道炎症、喘息、免疫障害および臓器移植片拒絶反応を包含する自己免疫/炎症性障害;高血圧、浮腫、心筋症、アテローム硬化症、血栓症、敗血症、ショック状態、再潅流障害、および虚血を包含する心血管および血管障害;中枢神経系疾患、アルツハイマー病、脳損傷、筋萎縮性側索硬化症、および疼痛を包含する神経障害;発達障害;真性糖尿病、骨粗鬆症、および肥満症を包含する代謝障害;AIDSおよび腎疾患;ウイルス感染、細菌感染、真菌感染および寄生虫感染を包含する感染症;胎盤に関連する病理学的状態を包含するがそれらに限定されない疾患または障害の治療において、ならびに免疫療法において使用するための医薬品の調製における、本発明による少なくとも1つの可溶性VHドメインを包含する重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合の使用をさらに提供する。
【0071】
本発明はさらに、FR1、FR2およびFR3をコードする遺伝子配列を含む、本発明による可溶性VHドメインを作製するためのカセットであって、FR1、FR2およびFR3をコードする遺伝子配列は適切なCDR1−およびCDR2−コーディング配列の導入を可能にする、およびFR3をコードする配列の3’末端では、適切なCDR3−コーディング配列をコードする配列の導入を可能にする配列が存在するカセットをさらに提供する。
【0072】
本発明は、抗原チャレンジに応答して新規な高親和性の可溶性重鎖のみの抗体を作製するために、非ヒトトランスジェニック哺乳動物、好ましくはマウスまたはラットにおける天然哺乳動物B細胞機構を利用する。本発明の可溶性重鎖のみの抗体は、10nmol以上の結合親和性を有する。
【0073】
軽鎖が欠けている抗原特異的な高親和性のヒト重鎖のみの抗体由来の可溶性ヒトVH結合ドメインの配列分析は、驚くべきことに、ラクダ科動物VHHドメインに典型的な全アミノ酸の顕著な特徴であるコンセンサス配列が欠如することを解明した。実際に、自然選択は、親和性成熟の結果としてのラクダ科動物様に顕著な特徴である配列の選択によっては補償されない。そこで、ラクダ科動物に顕著な特徴である配列が生殖細胞系に非存在である場合は、ヒトVHドメインの構造的安定性および可溶性を維持できるように軽鎖の非存在を補償する相違する機構がインビボで機能する。
【0074】
最も驚くべき特徴は、軽鎖が欠けている抗原特異的な高親和性のヒト重鎖のみの抗体が可溶性であるだけではなく、抗原結合領域(CDR)は抗原結合に加えて構造的安定性および可溶性に重要な役割を果たさなければならないこと、そして以前の軽鎖界面での軽鎖の非存在を補償する顕著な特徴であるラクダ科動物VHH生殖細胞系をコードするフレームワーク・コンセンサスアミノ酸置換がトランスジェニック重鎖のみの遺伝子座中に非存在であるだけではなく、自然選択プロセス中の可溶性を補償するための親和性成熟の結果として挿入されないことである。トランス遺伝子コード化可溶性ヒトVHドメイン中では、また別のアミノ酸置換が親和性成熟に続く全3つの領域内で発生する可能性がある。フレームワーク突然変異は、圧倒的に、しかし排他的ではなく、以前の軽鎖界面でβ−プリーツシート内に存在するので、そこで軽鎖の非存在を補償する。
【0075】
軽鎖の存在下および非存在下で引き出されたヒト抗原結合VHドメインのフレームワークおよびCDR領域の正味荷電(net charge)および正味疎水性についての比較分析は、軽鎖の非存在下での有意な変化を解明する。軽鎖の非存在下では、CDR1内に存在するアミノ酸の正味疎水性の増加およびCDR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加が生じる。フレームワークβ−プリーツシート内のアミノ酸置換は、総合的疎水性の減少およびフレームワーク3内に存在する荷電アミノ酸の増加を引き起こす。フレームワーク1内では荷電アミノ酸の数
および疎水性の増加ならびにフレームワーク2内の疎水性のわずかな減少が生じる。これは比較分析が軽鎖の非存在下でヒトVHドメインと共通するが、さらに相違も伴う特徴を解明している例えばラマなどのラクダ科動物のVHHドメインとある程度対照的である。例えばラマなどのラクダ科動物では、以前の軽鎖界面での顕著な特徴であるアミノ酸置換によって導入された増加した親水性と一致してフレームワーク2を伴う正味疎水性の有意な減少、およびCDR3内の増加した正味荷電が生じる。
【0076】
そこで、抗原チャレンジ後には、B細胞は、例えばラマおよび関連種などのラクダ科動物において見いだされるように、必須アミノ酸置換が生殖細胞系に非存在である場合でさえ、軽鎖の非存在を補償する。
【0077】
軽鎖の非存在を補償する生殖細胞系配列の非存在下では、軽鎖の非存在下で全部が高親和性で安定性の可溶性重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインの生成をもたらす様々な溶液がインビボで見いだされる。
【0078】
これらの観察所見は、抗原結合に加えてVHドメインの安定化における抗原結合領域(CDR)のための主要な役割と一致する。これは、フレームワーク内、特別には以前の軽鎖界面でのβ−プリーツシート内でのその後の希な、または新規のアミノ酸置換によって補完される。遺伝子組み換えによってインビボで引き出された非ラクダ科動物起源の可溶性VHドメインでは、VHH可溶性および安定性の中核となる顕著な特徴であるラクダ科動物アミノ酸置換は非存在である。
【0079】
これらの特徴を含む非ラクダ科動物抗原特異的重鎖のみの抗体は可溶性であり、正常生理学的条件下では凝集しない。さらに、これらの抗体から単離された可溶性VHドメインは、VHドメイン安定性および可溶性の好都合の特徴を保持する。これらの重鎖のみの抗体およびそれらに由来する可溶性VHドメインは、抗原チャレンジ後のB細胞特異的方法で自然選択機構によって進化する。同一VDJ再配列に由来する高親和性抗体(10nm以上)は、一般には低親和性の重鎖のみの抗体において観察されたものより多くのフレームワーク置換を含んでいる。
【0080】
そこで、抗原結合ドメイン(CDR)およびβ−プリーツフレームワークは、軽鎖が欠けているこれらの重鎖のみの抗体またはそれらから引き出された可溶性VHドメインの全体的安定性、可溶性および結合親和性に寄与する。
【0081】
安定性で高親和性の抗原特異的な可溶性VH結合ドメインの配列分析は、
抗原結合領域(CDR)内の選択および親和性成熟は、抗原結合および構造的安定性の特異性および親和性をもたらす、全体的な増加した疎水性および荷電と一致している。
以前の軽鎖界面の周囲でのフレームワーク2および3内に存在する突然変異は、改良されたVHドメインの可溶性および安定化ならびに結果として改良された抗原結合親和性と一致し、
フレームワーク1およびフレームワーク3内の突然変異は、VHドメインの総合安定性を増強する補償的構造的突然変異と一致している、ことを同定する。
【0082】
そこで抗体軽鎖の非存在下では、哺乳動物B細胞は、抗原結合親和性を維持しながら、重鎖VH結合ドメインの固有の不安定性および不溶性を親和性成熟および選択によって補償することができる。
【0083】
本発明者らの分析は、自然機構が使用されたV遺伝子セグメントとは無関係に作用すると思われることを示している。そこで、軽鎖の非存在下でヒトV4トランスジェニックマウス脾臓内で生成されたヒトVHドメインの質量シーケンシングは、変異頻度の比較分析を可能にする。最大の突然変異荷重は、CDR1およびCDR2内で観察される。しかし、突然変異荷重のホットスポットは、フレームワーク1、フレームワーク2内および広くフレームワーク3の全域で識別することができる。出現する全パターンは、使用される特異的V遺伝子セグメントにとって特有であるとは思われないが、それはこの実験シリーズでは、V3−23、V3−11およびV1−46を使用して高親和性抗体が突然変異荷重出現の類似パターンを用いて得られてきたからである。同様に、CDR3では、J4が優勢であるが、排他的には使用されない。
【0084】
B細胞親和性成熟機構は、軽鎖の非存在下で可溶性VHドメインのプロセッシングおよび分泌において複数の役割を有すると思われる。CDR内の超変異は、主として抗原結合親和性を反映するが、さらにまた構造的安定性においても重要な役割を果たすと思われる。フレームワーク領域内の超変異は軽鎖の非存在を補償するが、さらにVHドメインの安定性および可溶性を増強すると思われ、そしてこれを通してさらに抗原結合親和性を最大化する。本発明者らの分析は、軽鎖が欠ける重鎖のみの抗体の可溶性および安定性は、細胞表面への効率的な細胞内トラフィッキング、提示およびその後のB細胞増殖のための要件であると推定する。
【0085】
好都合なフレームワーク変異は、さらにまた各々が好ましいアミノ酸置換を含む遺伝子工学により作製されたヒトVセグメントを含む新規な生殖細胞系重鎖のみの抗体遺伝子座内に構築することもできる。
【0086】
同様に、好ましいアミノ酸置換は、VDJ再配列後のVHドメインの可溶性および安定性をさらに増強するためにJ遺伝子セグメントおよびD遺伝子セグメント内に遺伝子組み換えすることができる。
【0087】
そこで、正常テトラマーヒト抗体において見いだされるVHドメインと比較して、顕著な特徴であるラクダ科動物関連アミノ酸置換が欠ける、ならびにCDR1内の増加した疎水性およびCDR3内の増加した荷電アミノ酸を示す高親和性の可溶性ヒト重鎖のみの抗体が提供される。高親和性の可溶性ヒト重鎖のみの抗体は、正常テトラマーヒト抗体と比較して、フレームワーク1内の増加した総合的疎水性、フレームワーク3内の低下した疎水性およびフレームワーク3内に存在する荷電アミノ酸の増加をもたらす、フレームワークβ−プリーツシート内に1つ以上のアミノ酸置換をさらに含んでいる。
【0088】
本手法は、新規な重鎖のみの抗体の自然選択を許容する。当該の抗体由来の可溶性VHドメインは、VH可溶性が免疫グロブリンκまたはλ軽鎖のVLドメインとの相互作用に依存する自然テトラマー抗体内で観察されるものには希である、または非存在である突然変異を含んでいる。軽鎖の非存在下では、観察されたアミノ酸置換は、結果としての抗原特異的重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインへの好ましい生物物理学的特質を付与する。詳細には、この方法によって引き出された重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインには、生殖細胞系アレイに由来する自然VHドメインまたは自然テトラマー抗体の「付着性である」、相当に不溶性および凝集しがちになるという傾向が欠けている。本発明のこれらの重鎖のみの抗体または可溶性VHドメインは、高親和性であり(10nM以上)、凝集の非存在下で可溶性であり、そして医薬品として使用するために特に適合する。
【0089】
高親和性のヒト可溶性VH抗原結合ドメイン内で見いだされたアミノ酸置換を正常テトラマー抗体内に存在するヒトVHドメインの公知の3D構造に重ね合わせると、規定アミノ酸置換の位値および機能的作用に関する洞察が得られる。例えば、
フレームワーク1置換は、アミノ酸13〜15から、優勢には位置13で観察され、疎水性の全体的増加をもたらした。位置13での変化は、局所的に増加した親水性をもたらす小ループ内に所在し、
フレームワーク2置換は、位置35および50の周囲に集中して、以前の軽鎖界面でβ−プリーツシート内で発生する可能性がある。
フレームワーク3置換は、フレームワーク/CDR界面で、例えばCDR2の末端(位置56および57)ならびにCDR3の起始部(位置93)で優勢であると思われる。
【0090】
本発明は、凝集の非存在下での可溶性を包含する好ましい生物物理学的特性を備える高親和性の重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインを引き出すための最適化されたトランスジェニック重鎖のみの抗体遺伝子座において使用するために自然V遺伝子セグメント内に遺伝子工学により作製された好ましい新規なフレームワークアミノ酸挿入または置換を任意選択的に提供する。
【0091】
そこで、凝集の非存在下での可溶性などの好ましい生物物理学的特性を備える選択された可溶性ヒトVHドメインが提供される。これらは、1つ以上のCDRと結合された場合に、新規な抗原結合タンパク質の起源であるVH結合タンパク質のライブラリーのさらなる生成を提供する、自然重鎖フレームワーク領域の起源を提供する(米国特許出願番号第11/102,502、および第11/745,644を参照されたい)。
【0092】
本発明者らは、さらにまた驚くべきことに、トランス遺伝子コード化重鎖のみの抗体が、マウス長寿命形質細胞または重鎖のみの遺伝子座を含む抗原チャレンジされたトランスジェニック動物の二次リンパ腺、骨髄および脾臓から生成された記憶B細胞によっても発現することを証明した。さらに、抗原特異的重鎖のみの抗体または可溶性VHドメインを回収するためにハイブリドーマまたは古典的提示手法の必要をなくす、より高度に効率的な方法が開発されている。
【0093】
有益にも抗原チャレンジされたトランスジェニック動物の精製形質細胞または記憶細胞集団に由来する重鎖のみの抗体または可溶性VHドメインをコードするクローニングcDNAは、細胞表面上でVHドメイン融合タンパク質または重鎖のみの抗体を発現する、蓄積する、分泌する、または提示することのできる任意の最適な細胞系内で発現させることができる。好ましい選択は、臨床等級の材料の製造に適した微生物細胞系または哺乳動物細胞系である。
【0094】
そこで本発明の第2態様によると、本発明の第1態様の重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインは、宿主記憶B細胞または長寿命形質細胞から引き出される。
【0095】
本発明の第2態様は、抗原に特異的に結合する重鎖のみの抗体を作製する方法であって、
(a)非ヒトトランスジェニック哺乳動物を抗原で免疫する工程であって、哺乳動物は、転写およびプロセッシングされた重鎖mRNA内でCH1機能性が欠ける重鎖のみの抗体を発現する工程と、
(b)長寿命形質細胞または記憶B細胞を免疫された哺乳動物から単離する工程と、
(c)mRNA集団を工程(b)から引き出された細胞から単離する工程と、
(d1)工程(c)において単離されたmRNAに由来するcDNA集団を発現ベクター内にクローニングして最適細胞系内で発現させる工程と、
(e1)抗原に特異的に結合する重鎖のみの抗体を産生する少なくとも1つの細胞系を選択する工程、
または
(d2)工程(c)において単離されたmRNAから引き出されたVHドメインを含むcDNA集団を、重鎖エフェクター領域を含む可能性があるVH融合タンパク質が最適細胞系内で発現するように、最適発現ベクター内にクローニングする工程と、
(e2)抗原に特異的に結合するVH融合タンパク質を産生する少なくとも1つの細胞系を選択する工程とを含む方法を提供する。
【0096】
最適な細胞系は、好ましくは哺乳動物起源であるが、重鎖のみの抗体および可溶性VHドメイン融合タンパク質を蓄積もしくは分泌することのできる、または細胞表面上で前記重鎖のみの抗体および可溶性VHドメイン融合タンパク質を提示することのできる酵母または任意の有機体から引き出されてもよい。
【0097】
本方法は、例えばラマなどの宿主生物において自然に産生するのか、または非ヒト宿主生物において発現したトランスジェニック遺伝子座の結果として産生されるのかにかかわらず、重鎖のみの抗体を単離するために適している。
【0098】
好ましくは、最適な哺乳動物細胞系は、臨床等級の材料、例えばCHO細胞を生成するために適している。
【0099】
本方法は、重鎖のみの抗体が複合テトラマーではなくホモダイマーであるので、単純であり、高度に効率的、および自動化に極めて適している。記憶細胞および形質細胞集団から抗原特異的テトラマー抗体を引き出す複雑さに大きく加えられる問題である同種軽鎖について探索する必要がない(Meijer et al.(2009)Therapeutic Antibodies:Methods and Protocols,525,261−277を参照されたい)。
【0100】
長寿命形質細胞または記憶B細胞内で豊富なB細胞集団は、当技術分野において明確に確立された多数の技術によって宿主生物から単離することができる。好ましい宿主生物は、マウスである。マウスでは、B細胞集団は明確に特徴付けられていて、細胞表面マーカーを使用すると様々なサブ集団を識別することができる。例えば、マウス形質細胞は、細胞表面上でCD138(Syndecan−1)を発現する。B細胞系統の細胞上でのCD138発現は、発達段階、所在位値および接着性と相関する(Sanderson et al.(1989)Cell Regulation,1,27−35;Kim et al.(1994)Mol.Biol.Cell.,5,797−805を参照されたい)。CD138+形質細胞は、主として脾臓、リンパ節および骨髄中で見いだされる。形質細胞は、マウスナイーブB細胞、記憶B細胞および非B細胞集団から、それらがCD138+、CD45R(B220)低/陰性およびCD19低/陰性であるという点で識別することができる。
【0101】
細胞表面マーカーを認識する抗体を入手できることは、蛍光活性化セルソーティング法、または例えば磁気、カラムもしくは遠心分離方法に基づく、他の細胞集団からの1つの細胞集団の結合を許容する固体基板にコンジュゲートされた抗体を使用するキットで広汎に利用できる明確に確立された細胞分離技術により形質細胞を他のB細胞集団から分離することを可能にする。そこで、例えば抗CD45R(時にはB220として公知である)を含む磁気ビーズは混合B細胞集団から大多数の非形質細胞を排除する。その後の抗CD138を含む磁気ビーズとのインキュベーションは、高度に豊富な形質細胞集団を捕捉できる(Miltenyi Biotec社製のマウスCD138+形質細胞単離のための磁気ソーティングキットを参照されたい)。その他の細胞表面マーカーもまた、これらの細胞を単離するために使用できる(例えば、Anderson et al.(2007)J.Exp.Med.,204,2103−14を参照されたい)。さらに、開始時細胞集団は、リンパ節および/またはパイエル板から引き出すこともできよう。
【0102】
所定の宿主B細胞系統間を識別する抗体のカクテルを利用できない場合は、骨髄およびリンパ節からのB細胞単離、およびその後の汎B細胞表面マーカーに対する抗体を使用したB細胞精製の組み合わせもまた、高度に豊富な形質細胞集団を提供することができる。
【0103】
これは、例えばCD138などの細胞表面マーカーを入手できない例えばウシ、ウサギ、ヒツジなどの動物種およびヒトにさえ特に重要である。マーカーは、他の種の特定B細胞集団を選択するために利用できる(例えば、http://www.miltenyibiotec.com/en/PG_91_625_CD138_Plasma_Cell_Isolation_Kit.aspx;Klein et al.,Human immunoglobulin(Ig)M+IgD+ peripheral blood B−cells expressing the CD27 cell surface antigen carry somatically mutated variable region genes:CD27 as a general marker for somatically mutated(memory)B cells,(1998)J.Exp.Med.,188,(9),1679−89;Denham et al.,Monoclonal antibodies putatively identifying porcine B cells,(1998)Vet Immunol Immunopathol. 30;60(3−4):317−28;Boersma et al.,Summary of workshop findings for porcine B−cell markers,(2001)Vet.Immunol Immunopathol.,80,(1−2),63−78;Naessens,Surface Ig on B lymphocytes from cattle and sheep,(1991)Int.Immunol.,9,(3),349−54;Sehgal et al.,Distinct clonal Ig diversification patterns in young appendix compared to antigen−specific splenic clones,(2002)J.Immunol.,168,(11),5424−33を参照されたい)。
【0104】
単離された形質もしくは記憶細胞集団からのmRNA単離に続いて、cDNA(HCAbもしくはVHドメイン単独のいずれかを表す)が最適発現ベクター内にクローニングされ、ベクターは重鎖のみの抗体またはVH融合タンパク質を発現させるために標的細胞集団内にトランスフェクトされる。抗原特異的重鎖のみの抗体を発現する細胞は、例えば、細胞系を引き出すための96ウエルフォーマットもしくはマイクロアレイフォーマットの標準Elisaによって、または蛍光活性化セルソーティング(FACS)を使用して選択することができる。
【0105】
好ましくは、プロセスの効率を最大化するために、発現ベクターは最初に細菌内にトランスフェクトされ、発現ベクター内にクローニングcDNAを含有するコロニーが96ウエル(またはその他の自動化可能なハイスループット)フォーマットに採取され、96ウエルフォーマット内で増殖させられ、DNAが同一フォーマット内で単離される。プラスミドDNAは、引き続いて同一フォーマットで発現細胞(例、HEK細胞もしくは酵母など)内にトランスフェクトされ、トランスフォーマントは同一96ウエルフォーマット内で増殖させられる。細胞の上清は引き続いて抗原結合について同一フォーマット(または別の、例えばより少量の抗原を使用するマイクロアレイなどの好ましくはより高密度の)内で試験される。抗原陽性HCAb発現細胞は、次にさらに増殖させられ、陽性cDNAはより詳細な特性解析、例えば配列分析のためにその中でDNAが調製されるオリジナルの96ウエルフォーマットから入手することができる、または関連VHドメインは異なる主鎖上、例えば同一種もしくは異なる種からの相違する定常領域上に直ちにクローニングすることができる。DNAは、さらにまた他の細胞系を確立するために他の細胞タイプ内に直ちにトランスフェクトすることもできる。
【0106】
高親和性抗体を発現する細胞系は、次に増殖させ、細胞バンクを確定し、研究目的または将来の実現性に向けた前臨床試験もしくは臨床試験のための標的重鎖のみの抗体の起源として使用できる。そこで、本方法は、標的抗原に特異的に結合する重鎖のみの抗体またはVH融合タンパク質を産生する選択された細胞系を維持する工程をさらに含む。
【0107】
この直接クローニング法は、1ウエルに付き単一CD138+細胞が使用される正常トランス遺伝子由来テトラマー抗体のためにさらに有益な可能性がある。重鎖および軽鎖のための(豊富な)mRNAコード化は、鎖特異的プライマーを使用して別個にPCR増幅され、各々は次に発現ベクター内にクローニングされる。これら2つのコトランスフェクションは、重鎖のみの抗体について記載した方法と同一方法で同定できるテトラマー抗体の発現を生じさせる。
【0108】
当業者であれば最適な発現ベクターについて習熟していて、最適細胞タイプにおいて効率的な重鎖のみの抗体またはVH融合タンパク質発現を引き出すように設計される。分泌が意図される場合は、ベクターはアミノ末端で単一ペプチドを取り込むことになる。細胞表面発現が意図される場合は、カルボキシル末端では疎水性ペプチド配列もまた存在し得る。好ましくは、しかし必須ではないが、当該のアミノおよびカルボキシルペプチドは、哺乳動物重鎖免疫グロブリンから引き出すことができる。ベクターは、抗原特異的重鎖のみの抗体からクローニングされた可溶性VHドメインを融合タンパク質として生成できるようにカセットフォーマットで設計される。結果として生じる融合タンパク質は重鎖のみの抗体であってよく、可溶性VHドメインおよび最適な重鎖エフェクタードメインを含むことになる。可溶性VHドメインおよび選択されたエフェクタードメインがヒト起源である場合は、結果として生じる融合タンパク質は、エフェクター領域(例、IgM、IgG、IgA、IgEまたはIgD)の選択によって規定されたクラス(およびサブタイプ)のヒト重鎖のみの抗体である。任意の重鎖のみの抗体では、可溶性VHドメインおよび定常エフェクター領域は、ヒンジ領域によって結合される。好ましくは、しかし必須ではないが、これは適切なクラスもしくはサブタイプから引き出された天然重鎖免疫グロブリンヒンジ領域である。
【0109】
例えば脾臓全体から引き出された材料を使用するファージディスプレイ法またはハイブリドーマなどの他の方法に比較した上記の方法の利点は、本方法が現時点では未知のインビボ選択プロセス後に形質もしくは記憶細胞内で生成された高親和性重鎖のみの抗体(10nmol以上)を選択する。当該のB細胞集団は、可溶性であり、細胞内区画(当該の蓄積はさもなければアポトーシスを引き起こす)内で蓄積しない重鎖のみの抗体(HCAb)を産生する。当該のHCAbは、例えば特にHEKまたはCHOなどの株化哺乳動物細胞系内の標準発現系を使用して効率的に発現させることができる。トランスフェクト細胞は、次に確立された技術、典型的には自動化できるマイクロウエルフォーマット(例、96ウエル)を使用して配列することができる。高親和性HCAb抗原結合剤、または規定範囲の親和性で抗原に結合するHCAbを発現するそれらの細胞を次にその後の分析のために選択することができる。または、高親和性結合剤は、FACS分析によって選択できる。HCAb mRNAの起源として抗原特異的HCAbを発現する、1つ以上の抗原チャレンジされたトランスジェニック非ヒト動物、例えばマウス由来の記憶細胞もしくは形質細胞の使用は、HCAb選択のための極めて効率的な経路を提供し、その後の分析のための潜在的に数百万個のHCAb産生細胞の選択を許容する。高親和性HCAb抗原結合剤を発現する選択された細胞は、次に培養内で増殖させることができ、追加のクローニング工程の非存在下でHCAb産生細胞の起源を提供する。
【0110】
任意選択的に、単離された長寿命形質細胞または記憶B細胞は、抗原特異的重鎖のみの抗体またはVHドメインのmRNA単離およびクローニングの前に不死化することができる。
【0111】
本発明は、優性選択的マーカー遺伝子を包含するトランスジェニック重鎖遺伝子座または重鎖のみの遺伝子座(CH1機能性が欠けている)を有するトランスジェニック非ヒト哺乳動物もまた提供する。2つ以上の選択的マーカーの包含もまた意図されていて、各マーカーは相違する遺伝子座もしくは遺伝子座群に結合し、重鎖のみの抗体を発現することのできるまた別の遺伝子座もしくは遺伝子座群とは対照的に1つを発現するハイブリドーマの優先的選択を許容する。
【0112】
相違する遺伝子座上の複数の選択的マーカーの使用は、トランスジェニック非ヒト哺乳動物が多数の重鎖のみの遺伝子座を有する場合は、これらの遺伝子座が対立遺伝子排除を受けるという発見に基づいている(PCT/IB2007/001491を参照されたい)。このため、抗原チャレンジ後には、1つの遺伝子座だけが確率的に選択され、うまく組み換えられ、重鎖のみの抗体の産生が生じる。このため、同一トランスジェニック非ヒト哺乳動物において多数のVH重鎖のみの遺伝子座を使用すると、哺乳動物から得ることのできる抗体レパートリーおよび多様性を最大化することができる。抗原を用いてチャレンジした場合は、トランスジェニック非ヒト哺乳動物は遺伝子座において、任意の所定の遺伝子座は好まないが、組み換えの1つが「再現性」となるまで、すなわち抗体の生成を生じるまで次々にランダム組み換えを実施する。その後の組み換えは停止させられ、それにより他の対立遺伝子(遺伝子座)を「除外」する。高親和性抗体を産生する細胞が優先的に増殖させられる。
【0113】
典型的には、優性選択的マーカー遺伝子は原核細胞起源であり、例えばピューロマイシン、ハイグロマイシンおよびG418などの毒性薬物に対する耐性を付与する、または例えばインドールからトリプトファンへの転換もしくはヒスチジノールからヒスチジンへの転換のようにそれらの発現が毒性物質を必須アミノ酸に転換させるような、所定の栄養要件を取り除く遺伝子を含むいずれかである群から選択できる。必要な要件は、優性選択的マーカーが使用された場合は、優性選択的マーカーが所望の重鎖のみの免疫グロブリン対立遺伝子と共発現され、そこでトランスジェニック遺伝子座のB細胞発現および統合部位非依存性発現を保証することである。または、薬物耐性遺伝子は、ES細胞もしくは核移植手法と組み合わせた同種組み換えを使用して内因性または外因性(トランスジェニック)免疫グロブリン遺伝子座内に挿入することができる。
【0114】
したがって、モノクローナル抗体を生成するための方法であって、好ましくは非ヒトトランスジェニック哺乳動物中に存在する多数の重鎖のみの遺伝子座の1つを含む規定免疫グロブリン重鎖のみの遺伝子座を発現する記憶または形質細胞に由来するハイブリドーマまたは形質転換B細胞系の選択を必要とし、前記遺伝子座は前記遺伝子座内に挿入された共発現した優性選択的マーカー遺伝子を含む方法が提供される。
【0115】
好ましくは、遺伝子座は、優性選択的マーカー遺伝子を含む重鎖のみの遺伝子座であり、遺伝子座は重鎖のみの抗体を発現する。好ましくは、重鎖のみの抗体は、CH1機能性が欠けるように遺伝子工学により作製された内因性重鎖のみの遺伝子座から、任意選択的に免疫グロブリン軽鎖遺伝子発現の非存在下で生成される。前記遺伝子座は、軽鎖遺伝子座の非存在下で優性選択的マーカーおよび重鎖遺伝子座をさらに含むことができ、前記重鎖遺伝子は、発現すると、自然にCH1機能性が欠けるmRNA転写体を生じさせ、結果としてB細胞依存性方法で重鎖のみの抗体発現を生じさせる。
【0116】
本発明の第3態様によると、ハイブリドーマもしくはB細胞形質転換手法が形質もしくは記憶細胞の不死化のために意図される場合は、各重鎖遺伝子座内の機能的優性選択的マーカー遺伝子の包含は、関心遺伝子座を発現しないハイブリドーマ細胞もしくは形質転換B細胞全部を消失しながら、抗原チャレンジ後の当該の遺伝子座を発現するハイブリドーマまたは形質転換B細胞系の引き続いての選択および安定性維持を許容する。本発明のためには、任意の優性選択的マーカー遺伝子は、遺伝子の発現が選択的、例えば毒性チャレンジの存在下でハイブリドーマに選択的利益を付与することを前提に使用できる(Vara et al.(1986)NAR,14,4617−4624;Santerre et al.(1984)Gene,30,147−156;Colbere−Garapin et al.(1981)150,1−14;Hartmann and Mulligan(1988)PNAS,85,8047−8051を参照されたい)。
【0117】
異種重鎖のみの遺伝子座
本発明の状況では、用語「異種」は、その中にそれが所在する哺乳動物にとって内因性ではない本明細書に記載したヌクレオチド配列もしくは遺伝子座、または内因性配列の置換もしくは除去によって修飾されている内因性遺伝子座を意味する。
【0118】
本発明の状況における「重鎖のみの遺伝子座」は、任意選択的に1つ以上の重鎖エフェクター領域(各々がCH1ドメイン機能性に欠ける)に機能的に結合した、1つ以上のV遺伝子セグメント、1つ以上のD遺伝子セグメントおよび1つ以上のJ遺伝子セグメントを含むVHドメインをコードする遺伝子座に関する。
【0119】
V遺伝子セグメントの複雑性は、遺伝子座内に存在するV遺伝子セグメントの数を増加させる、または各々が相違するV遺伝子セグメントを含む、相違する遺伝子座を使用することによって増加させることができる。
【0120】
好ましくは、重鎖のみの遺伝子座は、任意の脊椎動物種由来の5〜20個の相違するV遺伝子セグメントを含んでいる。
【0121】
好ましくは、V遺伝子セグメントは、ヒト起源であり、改良された可溶性のために任意選択的に選択または遺伝子工学により作製される。
【0122】
好ましくは、重鎖のみの遺伝子座は、2〜40(2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、30または40)個以上のD遺伝子セグメントを含んでいる。D遺伝子セグメントは、任意の脊椎動物種由来であってよいが、最も好ましくは、D遺伝子セグメントは、ヒトD遺伝子セグメント(通常は25個の機能的D遺伝子セグメント)である。
【0123】
好ましくは、重鎖のみの遺伝子座は、2〜20(2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18または20)個以上のJ遺伝子セグメントを含んでいる。J遺伝子セグメントは、任意の脊椎動物種由来であってよいが、最も好ましくは、J遺伝子セグメントは、ヒトJ遺伝子セグメント(通常は6個のJ遺伝子セグメント)である。
【0124】
好ましくは、重鎖のみの遺伝子座は、2個以上のV遺伝子セグメント、25個の機能的ヒトD遺伝子セグメントおよび6個のヒトJ遺伝子セグメントを含んでいる。
【0125】
用語「V遺伝子セグメント」は、例えば可溶性などの改良された特性のために任意選択的に選択され、突然変異または遺伝子組み換えされている、ラクダ科動物およびヒトを包含する脊椎動物に由来する天然型V遺伝子セグメントを包含する。V遺伝子セグメントは、例えばサメなどの他の脊椎動物種(Kokubu et al.(1988)EMBO J.,7,3413−3422を参照されたい)においても見いだされる、または例えば抗体軽鎖VLレパートリーもしくはT細胞受容体VHレパートリーの進化において例証される結合タンパク質の様々なVH様ファミリーを提供するように進化してきた。
【0126】
V遺伝子セグメントは、核酸が発現させられるときに重鎖のみの抗体を生成するために、本発明によってD遺伝子セグメント、J遺伝子セグメントおよび重鎖定常(エフェクター)領域(数個のエクソンを含むことができるが、CH1エクソンは除外する)を用いて組み換えることができなければならない。
【0127】
本発明によるV遺伝子セグメントは、本明細書に規定した重鎖のみの抗体を生成するために、本発明によるD遺伝子セグメント、J遺伝子セグメントおよび重鎖定常エフェクター領域(1つ以上のエクソンを含むが機能的CH1エクソンを含まない)を用いて組み換えることのできるホモログ、誘導体もしくはタンパク質フラグメントをコードする任意の遺伝子配列をその範囲内にさらに包含する。重鎖定常エフェクター領域は、免疫グロブリン重鎖遺伝子座が免疫グロブリン軽鎖遺伝子発現の欠ける宿主動物バックグラウンドで発現する状況下でCH1ドメインを含むことができる。
【0128】
そこで、VHコーディング配列は天然型起源から引き出すことができる、またはVHコーディング配列は当業者であれば習熟している方法を使用して遺伝子組み換えまたは合成することができる。
【0129】
本発明の状況における「可溶性VHドメイン」は、上記に規定したD遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントを用いて組み換えた場合のV遺伝子セグメントの発現産物を意味する。親HCAbの自然選択および親和性成熟後には、増殖および単離後に本明細書で使用したような可溶性VHドメインは凝集の非存在下で溶液中に残留し、可溶性を維持するための任意の他の因子の必要を伴わずに生理学的媒体中で活性である。可溶性VHドメイン単独は、さらにまた標的化治療および診断目的のための融合タンパク質を産生するための様々なタンパク質ドメインを用いて、例えば毒素、酵素およびイメージング剤を用いて、またはインビボでの可溶性VHドメインの薬物動態および組織分布を操作するためのアルブミンなどの血中タンパク質を用いて遺伝子工学により作製することもできる(US5,843,440およびSmith et al.(2001)Bioconjugate Chem.,12,750−756を参照されたい)。
【0130】
本発明の状況では、用語「D遺伝子セグメント」および「J遺伝子セグメント」は、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントの自然型配列を包含する。好ましくは、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、それにV遺伝子セグメントが由来する同一脊椎動物に由来する。例えば、V遺伝子セグメントがヒトに由来する場合は、その後に溶解または遺伝子組み換えされ、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、好ましくは同様にヒトに由来する。または、V遺伝子セグメントは、例えばラットまたはマウスに由来してよく、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、ラクダまたはヒトに由来してよい。
【0131】
用語「D遺伝子セグメント」および「J遺伝子セグメント」は、さらにそれらの範囲内に結果として生じるセグメントが、本明細書に記載した重鎖のみの抗体を生成するために本明細書に記載した重鎖抗体遺伝子座の残りの成分を用いて組み換えることのできるその誘導体、ホモログおよびフラグメントも包含する。D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは天然型起源に由来してよい、またはD遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、当業者であれば習熟していて本明細書に記載した方法を使用して合成することができる。D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、CDR3多様性を増加させる目的で既定の追加のアミノ酸残基または既定のアミノ酸置換もしくは欠失を組み込むことができる。
【0132】
V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、組み換えできる、および好ましくは体細胞変異を受ける。
【0133】
V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、好ましくは単一脊椎動物種に由来する。これは任意の脊椎動物種であってよいが、好ましくはヒトである。
【0134】
顕著な特徴である配列は、ラクダ科動物VHHドメイン内には存在するが可溶性VHドメイン内には存在しない4つの明確に規定された生殖細胞系コード化アミノ酸配列置換(VHH四分子)である。これらは全部が、二次フレームワーク領域内に存在し、以前の軽鎖界面の疎水性を減少させるために機能する。Glu−44およびArg−45は正常VHドメイン内の低親水性Gly−44およびLeu−45の場所で見いだされるが、位置47での親水性はTrpとより小さな残基との置換によって増加する。第4の変化には、Val−37とPheまたはTyrとの置換を必要とする。
【0135】
重鎖定常領域
操作上、重鎖定常領域は、B細胞内でV遺伝子セグメント、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントを用いて組み換えることのできる天然型または遺伝子工学により作製された遺伝子セグメントによってコードされる。好ましくは、重鎖定常領域は、1つの抗体遺伝子座に由来する。
【0136】
各重鎖定常領域は、本質的に、重鎖のみの抗体の生成が発生させられるように機能的CH1ドメインを用いずに発現する、少なくとも1個の重鎖定常領域遺伝子を含んでいる。内因性免疫グロブリン軽鎖遺伝子発現の非存在下では、その後は重鎖定常領域は、重鎖遺伝子発現中に低頻度で自然に欠失する可能性があるCH1機能性を含む場合がある。各重鎖定常領域は、Cδ、Cγ1−4、Cμ、CεおよびCα1〜2からなる群から選択される1つ以上の追加の重鎖定常領域エクソンをさらに含むことができる。重鎖定常領域遺伝子セグメントは、好ましいクラスまたは必要とされる抗体クラスの混合物に依存して選択される。任意選択的に、異種重鎖遺伝子座は、Cμ−およびCδ−欠損性である。
【0137】
例えば、CH1が欠けている異種重鎖Cγ遺伝子座の全部もしくは一部は、異種IgG遺伝子座内に存在するIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4イソタイプに依存して、任意選択的に一部または全部のIgGイソタイプを産生する。
【0138】
または、抗体の選択された混合物を得ることができる。例えば、IgAおよびIgMは、重鎖定常領域がCαおよびCμ遺伝子を含む場合に得ることができる。
【0139】
トランスジェニック遺伝子座内に存在する重鎖定常領域はヒト起源であってよいが、インビボでの抗原応答を最大化できるように宿主動物の重鎖定常領域と同一、または密接に関連していてよい。そこで、ヒトにおける治療用途に使用すべき重鎖のみの抗体または可溶性VHドメインを引き出すためには、遺伝子座内に存在するVDJ遺伝子は、任意選択的に修飾されたヒト生殖細胞系配列に由来する、および定常領域は、宿主動物が齧歯類、例えばマウスである場合は、齧歯類起源であってよい。可溶性ヒトVH結合ドメインおよび齧歯類定常エフェクター領域を含む選択された重鎖のみの抗体は、次にクローニングし、齧歯類エフェクター領域を最適なヒト定常領域、または代替VH融合タンパク質、VHドメイン抗体複合体などを引き出すために使用される可溶性VHドメインによって置換することができる。
【0140】
重鎖のみの抗体が獣医学もしくはまた別の目的に使用されなければならない場合は、V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、好ましくは所定の目的に最も適合する脊椎動物または哺乳動物から引き出される。例えば、V遺伝子セグメントならびにD遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、所定の使用、例えば獣医学、工業、農業、診断もしくは試薬用途に依存して、他の哺乳動物(例、マウス、ラット、ブタ、乳牛、ヤギ、ヒツジ、ラクダなど)に由来してよい。
【0141】
本明細書に規定した「重鎖定常領域エクソン」(「CHエクソン」)は、天然型脊椎動物、しかし特別には哺乳動物CHエクソンの配列を包含する。これは、クラス特異的方法で変動する。例えば、IgGおよびIgAは、自然にCH4ドメインが欠けている。用語「CHエクソン」は、CHエクソンが重鎖定常領域の構成成分である場合に本明細書に規定した機能的重鎖のみの抗体を形成することができる限り、その範囲内にCHエクソンの誘導体、ホモログおよびフラグメントも包含している。
【0142】
哺乳動物
本発明の方法において使用したトランスジェニック哺乳動物は、ヒトではない。トランスジェニック哺乳動物は、好ましくは、例えばウサギ、モルモット、ラットまたはマウスなどの齧歯類である。マウスおよびラットが特に好ましい。また別の哺乳動物、例えばヤギ、ブタ、蓄牛、ヒツジ、ネコ、イヌまたはその他の動物もまた使用できる。
【0143】
好ましくは、生殖細胞系に統合された異種重鎖のみの抗体を含むトランスジェニック動物は、確立された卵母細胞注入技術、および確立されていればES細胞技術、iPS細胞技術または核移植(クローニング)技術を使用して生成される。または、遺伝子座は上記の細胞内または受精卵中にジンクフィンガー・ヌクレアーゼ(Remy et al.(2009),2009 Sep 26.[Epub ahead of print],Kandavelou et al.(2009)Biochem.Biophys.Res.Commun.;388,(1),56−61)または組み換え酵素技術(例、Sakurai et al.(2010)Nucleic Acids Res.,Jan 13[Epub ahead of print]およびその中の参考文献など)、例えばcreなどを使用して直接的に導入することができる。
【0144】
ES細胞における標準同種組み換えは、CH1機能性を内因性重鎖遺伝子から排除するため、および内因性重鎖遺伝子座から重鎖のみの抗体の生成を結果として生じさせる、内因性V遺伝子セグメントもしくはD遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメント内のエレメントもしくは配列と置換するためにも使用できる。
【0145】
有益にも、異種重鎖のみの遺伝子座トランス遺伝子発現は、哺乳動物にとって内因性である抗体重鎖遺伝子座が欠失もしくはサイレンシングされる場合、または内因性抗体を生成するために低下した能力を有する場合に増強される。内因性宿主重鎖遺伝子座がCH1機能性を排除するために遺伝子組み換えされ、VDJおよび任意選択的に定常エフェクター領域が他の種、好ましくはヒト由来の配列によって置換されている場合は、それ以上のトランスジェニック重鎖遺伝子座の添加は不必要である。
【0146】
上述した重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインを生成するこの手法は、ヒトの治療使用のための凝集体を含まない可溶性抗体および抗体複合体の生成において特に有用な可能性がある。このため、また別の態様では、本発明は、抗原チャレンジに応答して本発明による異種重鎖遺伝子座を発現するトランスジェニック哺乳動物を提供する。
【0147】
抗体産生細胞は、本発明によるトランスジェニック動物に由来してよく、例えば、好ましい実施形態では、記憶細胞もしくは長寿命形質細胞の回収のためだけではなく、さらにハイブリドーマから、もしくは本明細書に規定したアレイ手法によって重鎖のみの抗体の生成のために使用できる。さらに、または、重鎖のみの抗体および/または可溶性VHドメインをコードする核酸配列は、抗原チャレンジ後の本発明によるトランスジェニック哺乳動物のB細胞、特別には記憶細胞もしくは長寿命形質細胞から単離し、可溶性VHドメイン重鎖のみの抗体、可溶性二重特異的/二重機能的VHドメイン複合体、または可溶性VHドメインポリタンパク質(WO99/23221)を生成するために当業者であれば習熟している組み換えDNA技術を用いて使用できる。
【0148】
または、もしくは加えて、ポリクローナル抗原特異的重鎖のみの抗体は、本発明によるトランスジェニック動物の免疫によって生成することができる。
【0149】
そこでまた別の態様では、本発明は、本発明によるトランスジェニック哺乳動物を1つの抗原で免疫する工程によって高親和性重鎖のみの抗体を生成するための方法を提供する。
【0150】
本発明のこの態様の好ましい実施形態では、哺乳動物は、齧歯類、好ましくはマウスまたはラットである。
【0151】
重鎖のみの抗体および可溶性VHドメイン融合タンパク質の生成
重鎖のみの抗体および可溶性VHドメイン融合タンパク質のための生成系には、大量飼育技術に適合した培養中の哺乳動物細胞(例、CHO細胞)、植物(例、トウモロコシ)、トランスジェニックヤギ、ウサギ、蓄牛、ヒツジ、ニワトリおよび昆虫の幼虫が包含される。ウイルス感染症(例、昆虫の幼虫および細胞系におけるバキュロウイルス)を包含するその他の生成系は、細胞培養および生殖細胞系手法の代替物である。当業者であれば、その他の生成法にも習熟していると思われる。重鎖のみのIgAまたはIgM組立体に対する要件がある場合は、「J鎖」の共発現は有益な場合がある。重鎖のみの抗体もしくは可溶性VH結合ドメイン単独、またはVH結合ドメイン複合体を生成するための適切な方法は、当技術分野において公知である。例えば、VH結合ドメインおよびVH結合ドメイン複合体は細菌系中で生成され、重鎖のみのホモダイマーはハイブリドーマおよびトランスフェクト哺乳動物細胞内で生成されてきた(Reichmann and Muyldermans,(1999)J.Immunol.Methods,231,25−38を参照されたい)。
【0152】
ファージディスプレイ法を使用して誘導された、遺伝子工学により作製されたヒトVH結合ドメインを発現させるための方法もまた明確に確立されている(Tanha et al.(2001)J.Biol.Chem.,276,24774−24789およびその中の参考文献を参照されたい)。
【0153】
本発明は、異種重鎖遺伝子座、本発明の重鎖のみの抗体をコードする単離されたポリヌクレオチドおよび異種重鎖遺伝子座を含むベクター、もしくはそのフラグメント、または本発明による重鎖のみの抗体をコードする単離されたポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチド配列をさらに提供する。本発明は、可溶性VHドメインおよびVHドメイン融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列ならびに当該配列を含むベクターをさらに提供する。
【0154】
本発明は、異種重鎖のみの遺伝子座、もしくはそのフラグメント、または本発明による重鎖のみの抗体、可溶性VHドメイン、もしくはVHドメイン融合タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドを用いて形質転換された宿主細胞をさらに提供する。
【0155】
本発明の重鎖のみの抗体、可溶性VHドメイン、VHドメインポリペプチド複合体およびポリタンパク質の使用
本発明の高親和性の可溶性重鎖のみの抗体、VHドメイン融合タンパク質、VHドメインポリペプチド複合体および可溶性VHドメインは、腸管外および非腸管外両方の薬物として使用するために特に適合する。本発明の状況内では、好ましくはこれらは完全にヒト起源であるが、任意選択的に、そして余り優先的ではないが他の動物種からのV、DまたはJ遺伝子セグメントを含むこともできる。
【0156】
本発明の可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメインおよび可溶性VHドメイン結合複合体およびポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体の増強された可溶性は、療法に加えて試薬および診断薬として使用するために特に適合する。
【0157】
全部がヒトにおける製薬学的用途のために適合するので、そこで本発明は、可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメインおよび可溶性VHドメイン結合複合体または可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体を含む医薬組成物を提供する。本発明は、疾患を予防および/または治療するための医薬品の調製における本発明の可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメインおよび可溶性VHドメイン結合複合体または可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体の使用をさらに提供する。
【0158】
医薬組成物および医薬品は、典型的には患者に投与する前に調製される。
【0159】
例えば、可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメインおよび可溶性VHドメイン結合複合体または可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体は、特にそれらが凍結乾燥されなければならない場合は、安定剤と混合することができる。糖類(例、マンニトール、スクロースもしくはトレハロース)の添加は、典型的には凍結乾燥中の安定性をもたらし、好ましい安定剤は、マンニトールである。ヒト血清アルブミン(好ましくは組換体)もまた安定剤として添加することができる。糖類の混合物、例えばスクロースとマンニトールとの混合物、トレハロースとマンニトールとの混合物もまた使用することができる。
【0160】
組成物には、例えばTrisバッファー、ヒスチジンバッファー、グリシンバッファー、または好ましくは、リン酸バッファー(例、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウム)などのバッファーを添加できる。7.2〜7.8のpH、および特に約7.5のpHをもたらすバッファーの添加が好ましい。
【0161】
凍結乾燥後の再構成のためには、注射用無菌水を使用できる。ヒト血清アルブミン(好ましくは組換体)を含む水性組成物を用いて凍結乾燥ケーキを再構成することもまた可能である。
【0162】
一般に、可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメイン、可溶性VHドメイン結合複合体または可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体は、薬学的に適切な担体と一緒に精製形で利用される。
【0163】
そこで本発明は、患者を治療するための方法であって、本発明の医薬組成物を患者に投与する工程を含む方法を提供する。患者は好ましくはヒトであり、小児(例、幼児または乳児)、ティーンエージャーもしくは成人であってよいが、一般には成人である。
【0164】
本発明は、医薬品として使用するための本発明の可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメイン、可溶性VHドメイン結合複合体および可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体をさらに提供する。
【0165】
本発明は、患者を治療するための医薬品の製造における本発明の可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメイン、可溶性VHドメイン結合複合体および可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体の使用をさらに提供する。
【0166】
これらの使用、方法および医薬品は、好ましくは、創傷治癒;悪性腫瘍、黒色腫、肺癌、結腸直腸癌、骨肉腫、直腸癌、卵巣癌、肉腫、頸癌、食道腫瘍、乳癌、膵臓癌、膀胱癌、頭頸部癌およびその他の充実性腫瘍を包含する細胞増殖性障害;例えば白血病、非ホジキンリンパ腫、白血球減少症、血小板減少症、血管新生障害、カポジ肉腫などの骨髄増殖性障害;アレルギー、炎症性腸疾患、関節炎、乾癬および気道炎症、喘息、免疫障害および臓器移植片拒絶反応を包含する自己免疫/炎症性障害;高血圧、浮腫、心筋症、アテローム硬化症、血栓症、敗血症、ショック状態、再潅流障害、および虚血を包含する心血管および血管障害;中枢神経系疾患、アルツハイマー病、脳損傷、筋萎縮性側索硬化症、および疼痛を包含する神経障害;発達障害;真性糖尿病、骨粗鬆症、および肥満症を包含する代謝障害;AIDSおよび腎疾患;ウイルス感染、細菌感染、真菌感染および寄生虫感染を包含する感染症;胎盤に関連する病理学的状態およびその他の病理学的状態を包含するがそれらに限定されない疾患または障害の治療のため、ならびに免疫療法において使用するためである。
【0167】
さらにまた別の態様では、本発明は、診断用、予後用、もしくは治療用イメージング剤単独、または適切なエフェクター剤と組み合わせた、本発明の可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメイン、可溶性VHドメイン結合複合体または可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体の使用を提供する。
【0168】
本発明は、本明細書で細胞内結合試薬、または抗体酵素として記載した可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメイン、可溶性VHドメイン結合複合体または可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体の使用を提供する。好ましいのは、抗原特異的な可溶性VH結合ドメイン、可溶性VHドメイン結合複合体および可溶性VHドメインポリタンパク質である。
【0169】
本発明は、酵素阻害剤または受容体ブロッカーとしての本発明による抗原特異的重鎖のみの抗体または可溶性VH結合ドメインの使用をさらに提供する。好ましい重鎖のみの抗体フラグメントは、抗原特異的な可溶性VH結合ドメインである。
【0170】
本発明は、治療薬、イメージング剤、診断薬、抗体酵素または試薬として使用するためのエフェクター分子に融合した1つ以上の可溶性VHドメインの使用をさらに提供する。
【0171】
以下では本発明を例示するためだけに、添付の図面に関して以下で詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】1つは4個のVH遺伝子セグメントを有し、もう1つは18個のVH遺伝子セグメントを有する2つのヒト重鎖のみの免疫グロブリン遺伝子座を示す図である。18個のVH遺伝子セグメントを含む遺伝子座は、正常ヒト四価抗体におけるVH遺伝子セグメント使用の90%超に及ぶマウス定常エフェクター領域(−CH1)を含んでいる。
【図2】ファージディスプレイ法によるヒトVHドメインまたは標準ハイブリドーマ法によるヒト重鎖のみの抗体についての免疫および単離プロトコールを示す図である。
【図3】Luk−sPVタンパク質のゲル電気泳動法、それのブロッティングおよびファージディスプレイスクリーンからの様々な陽性クローンを用いた検出を使用した、Luk−sPV免疫血清(野生型正常マウスと比較したV4)のElisa(上方)およびウエスタンブロット(下方)ならびに個別に単離されたVHドメインのウエスタンブロットを示す図である。
【図4】Luks−PVを用いた免疫後の2つのVHドメイン配列の実施例であり、これはIgG2およびIgG3の両方が生成されること(クラススイッチ)および同一VDJ再配列が相違する突然変異を生じさせることを証明する図である。
【図5】ヒトCR1を用いて免疫した後にV3−23遺伝子セグメントを使用して引き出されたVHドメイン配列であって、IgG2およびIgG3がどちらも生成されること(クラススイッチ)および同一VDJ再配列が、上に示したV3−23セグメントの生殖細胞系配列と比較した場合に相違する突然変異を生じさせることを示す図である。配列の一部は、ハイブリドーマ法によって得られ、残りは提示ライブラリー法によって得られた。
【図6】ヒトCR1を用いて免疫した後にV3−11遺伝子セグメントを使用して引き出されたVHドメイン配列であって、IgG2およびIgG3がどちらも生成されること(クラススイッチ)および同一VDJ再配列が、上に示したV3−11セグメントの生殖細胞系配列と比較した場合に相違する突然変異を生じさせることを示す図である。配列の一部は、ハイブリドーマ法(矢印)によって得られ、残りは提示ライブラリー法によって得られた。
【図7】SUMOハイブリッドタンパク質系(InVitrogen社)における精製および発現後のVHドメイン(αCR1)のゲル電気泳動法(左)の実施例を示す図である。この実施例は、正しい分子量の3個の相違する長さのVHドメインを示している。マーカーレーンは左側である。中央のパネルは、Sephadex 75 Smartシステム上のVHドメインの溶出プロファイルを示している。右側のパネルは、同一であるがSephadex 200上の完全重鎖のみのIgGについてである。下のパネルは、>4mg/mLに濃縮させた2つの他のVHドメインの溶出プロファイルを示している。
【図8】A.光散乱プロットおよびB.VHドメインの熱安定性を示す図である。
【図9】多数のαCR1重鎖のみの抗体の親和性測定(左)ならびに結合親和性を得るためのOctet系上の抗体の1つの結合および解離プロファイルを示す図である。
【図10】多数の抗CR1 VHドメインの可溶性を示す図である。
【図11】好ましい突然変異を決定するための超並列シーケンシングを示す図である。
【図12】正常テトラマー重鎖/軽鎖抗体由来のラクダ、ラマおよびヒト重鎖由来の同一領域に比較したヒト重鎖のみの抗体(HCAb)のフレームワーク1(FR1)およびCDR1領域のボックス・プロット分析を示す図である。正味荷電はpH=7.4でHenderson−Hasselbach方程式によって決定され、正味疎水性は、pH=7.5でCowan−Whittaker指数によって決定された。様々な抗体の下の数字は、固有入力配列の数である。
【図13】正常テトラマー重鎖/軽鎖抗体由来のラクダ、ラマおよびヒト重鎖由来の同一領域に比較したヒト重鎖のみの抗体(HCAb)のフレームワーク2(FR2)およびCDR2領域のボックス・プロット分析を示す図である。正味荷電はpH=7.4でHenderson−Hasselbach方程式によって決定された、正味疎水性は、pH=7.5でCowan−Whittaker指数によって決定された。様々な抗体の下の数字は、固有入力配列の数である。
【図14】正常テトラマー重鎖/軽鎖抗体由来のラクダ、ラマおよびヒト重鎖由来の同一領域に比較したヒト重鎖のみの抗体(HCAb)のフレームワーク3(FR3)およびCDR3領域のボックス・プロット分析を示す図である。正味荷電はpH=7.4でHenderson−Hasselbach方程式によって決定され、正味疎水性は、pH=7.5でCowan−Whittaker指数によって決定された。様々な抗体の下の数字は、固有入力配列の数である。
【図15】ヒトCR1またはstaph.A(黄色ブドウ球菌)Luk−sPVのいずれかに結合するVHドメインの3D構造を示す図である。抗原結合部位は右上位置にあり、以前のVL相互作用ドメインはリーダーに面している。アミノ酸変化は、3D構造においてカラー表示されている。
【図16】重鎖のみの抗体、特別にはVHドメインのN末端においてより疎水性に向かうシフトを示している、VHドメインの各位置(CDR3を除く)での平均疎水性における相違を示す図である。疎水性の相違に関する多数のホットスポットは、平均ヒトテトラマーVHと比較して位置49、62および72で明白である。
【図17】CD138陽性細胞のソーティングによるヒトHCAbの免疫および単離プロトコールならびにHEK細胞内への直接発現クローニングを示す図である。
【図18】HCAbの哺乳動物細胞発現のためのベクターを示す図である。ベクターは、アンピシリン耐性遺伝子および哺乳動物耐性遺伝子(ハイグロマイシン)を備える標準pUC主鎖(図示していない)を有する。関連部分は、その後にKozakリボソーム結合部位、さらにVH3−23のシグナル配列が続く標準CMVエンハンサーおよびニワトリβ−アクチンプロモーター(InVitrogen社)を含有する。カセットの後部は、ヒンジおよびCH2ドメインから始まるIgG2またはIgG3いずれかの定常領域からなる。VH cDNAは、増幅後に矢印によって示されたプライマーを用いてこれら2つの領域間にクローニングされる。
【図19】HEK細胞内へのHCAbの直接発現クローニングの実施例および概要を示す図である。左上のパネルは、免疫されたマウスの内のどのマウスがHA抗原免疫に陽性に応答したのかを決定するための標準ELISAを示している(赤色で示したマウスはHEK細胞発現クローニングのために使用された)。右上のパネルは、96ウエルフォーマット内のトランスフェクトHEK細胞上で実施されたELISAの2つの実施例を示している。
【図20】3−11 VH生殖細胞系配列由来のELISA−陽性HCAbの配列分析を示す図である。
【図21】3−23 VH生殖細胞系配列由来のELISA−陽性HCAbの配列分析を示す図である。
【図22】Sephadex 200 Smartカラム上の完全重鎖のみのIgGの溶出プロファイルを示す図である。
【図23】Octet上の2個の抗HA HCAbについての親和性測定を示す図である。
【図24】ヒト抗CR1 HCAb(上記参照)、ヒトテトラマーおよびラマHCAbにおいて見いだされたものに比較した、抗HA HCAbのVH領域全体のアミノ酸を示す図である。
【図25】単一細胞ソーティング後のヒトHCAbの免疫および単離プロトコールならびにHEK細胞内への直接発現クローニングを示す図である。
【図26】単一細胞ソーティング後の正常テトラマーヒト重鎖および軽鎖抗体の免疫および単離プロトコールならびにHEK細胞内への直接発現クローニングを示す図である。
【実施例1】
【0173】
抗Luks−PV抗体の生成
Staph A由来のLuks−PVタンパク質を用いた免疫は、WO2006/008548に記載されたように、完全ヒト重鎖抗体遺伝子座を含有するトランスジェニックマウスにおいて実施する。これらのマウスは、ヒト重鎖D領域の全部、ヒトJH領域の全部ならびにヒトCγ2およびCγ3領域である4個のヒトVHセグメントを有する(図1)。
【0174】
CH1ドメインは、(Janssens et al.(2006)PNAS,103,15130−15135)に記載されたように、ヒト重鎖のみの抗体の産生を許容するためにヒトCγ定常領域から欠失させられている。マウスは、図2に略図で示したように標準プロトコールを使用して免疫し、抗体を単離する。
【0175】
マウスは、標準プロトコールによって4回免疫し、血清を標準ELISAによって陽性応答についてチェックする(図3)。
【0176】
免疫後、標準方法によって、脾臓細胞を収集し、mRNAを逆転写し、VHドメイン特異的プライマーを用いてcDNA内に増幅させる(例えば、Janssens et al.(2006)PNAS,103,15130−15135を参照されたい)。結果として生じたVHフラグメントをファージディスプレイベクター内にクローニングする。標準提示プロトコールによる3ラウンドのスクリーニングおよびパンニング後に、VHドメイン(VH−D−J)を細菌発現ベクター内にクローニングする。陽性クローンをウェスタンブロッティングによって確証し、クローニングDNAを引き続いて標準方法によってシーケンシングすると、図4に示したVHドメイン領域のアミノ酸配列定義が生じる。
【0177】
または、抗体は標準ハイブリドーマ法によって得ることができる。ファージディスプレイ法によって得られたVHドメインは、定常領域(例、CγではなくCα)に関して最適な完全重鎖のみの抗体を生成するために、標準クローニング法によって最適な重鎖定常エフェクター領域(CH1機能性が欠けている)上に遺伝子組み換えし戻すことができる。同様に、ハイブリドーマ法によって得られた重鎖のみの抗体は、標準cDNAおよびPCR技術によってクローニングアウトすることができる。これは、VHドメイン単独の単離を可能にする。
【0178】
そこで、どちらの手法も抗原特異的VHドメインまたは抗原特異的重鎖のみの抗体を引き出すために使用できる。
【実施例2】
【0179】
抗ヒトCR1抗体の生成
実施例2は、ヒト赤血球の表面上で通常発現するタンパク質である抗原としてCR1を用いて免疫を実施することを除いて、実施例1と極めて類似する。免疫は、さらにまたそれらの細胞表面上でヒトCR1を発現するマウス赤血球の注射によって実施した。相違する免疫の結果は、極めて類似する。免疫は、WO2006/008548に記載されたように、完全ヒト重鎖抗体遺伝子座を含有するトランスジェニックマウスにおいて実施する。これらのマウスは、ヒト重鎖D領域の全部、JH領域の全部ならびにヒトCγ2およびCγ3領域である4個のヒトVHセグメントを有する(図1)。
【0180】
CH1領域は、(Janssens et al.(2006)PNAS,103,15130−15135)に記載されたように、ヒト重鎖のみの抗体の産生を許容するためにヒトCγ定常領域から欠失させられている。マウスは、図2に略図で示したように標準プロトコールを使用して免疫し、抗体を単離する。
【0181】
免疫後、標準方法によって、脾臓細胞を収集し、mRNAを逆転写し、VHドメイン特異的プライマーを用いてcDNA内に増幅させる(例、Janssens et al.(2006)PNAS,103:15130−15135を参照されたい)。結果として生じたVHフラグメントをファージディスプレイベクター内にクローニングする。標準提示プロトコールによる3ラウンドのスクリーニングおよびパンニング後に、VHドメイン(VH−D−J)を細菌発現ベクター内にクローニングする。クローン化配列を引き続いて標準方法によってシーケンシングすると、結果として図5および6に示したVHドメイン領域が生じる。または、抗体は標準ハイブリドーマ法によって得ることができる(図5および6)。ファージディスプレイ法によって得られたVHドメインは、完全重鎖のみの抗体(例、CγではなくCα)を生成するために、標準クローニング法によって最適な定常エフェクター領域(CH1機能性が欠けている)上に遺伝子組み換えし戻すことができる。同様に、ハイブリドーマ法によって得られた重鎖のみの抗体は、そのVHドメイン単独の単離を可能にする標準cDNAおよびPCR技術によってクローニングアウトすることができる。そこで、どちらの手法も抗原特異的VHドメインまたは抗原特異的重鎖のみの抗体を引き出すために使用できる。
【実施例3】
【0182】
VHドメインおよび重鎖のみの抗体の発現、親和性および可溶性
実施例1および2のVHドメインは、大量の精製されたVHドメインを得るために細菌発現系内で発現させることができる。例えば、VHドメインは、SUMOハイブリッド発現系(InVitrogen社)を使用して細菌内のハイブリッドタンパク質として発現させることができる。精製されると、これらは変性ゲル電気泳動法ゲル上で単一フラグメントとして実行する(図7)。非変性条件下のSmart Sephadexクロマトグラフィーシステム上で実行させると、これらのVHドメインは主として正確な分子量を備える単一主要ピークとして実行し(図7)、可溶性凝集体の証拠はほとんど得られない。
【0183】
ハイブリドーマ上清由来の重鎖のみの抗体もまた主として単一主要ピークとして実行し、ピークの先端では小さなパーセンテージの抗体ダイマーの証拠が見られる。
【0184】
VHドメインの単一ピークはそれらが可溶性モノマーであることを示唆していて、これはスキャッタープロットを実行することによって確証されたが(図8A)、これは光散乱のピークが実行中のタンパク質吸収のピークと一致するためである。最後に、加熱された場合に、VHドメインは、標準円二色性分析によって測定すると55℃まで安定性である(図8B)。
【0185】
最後に、可溶性VHドメインおよびHCAbは、BiaCore(登録商標)およびOctetシステムを使用してそれらの結合親和性について試験した。得られた親和性は、低ナノモル範囲以上にあった(図9)。
【0186】
HCAb由来の多数のVHドメインは、さらにまた真空遠心分離によって収縮し、コロイド状物質を高速遠心分離によって除去した。これは最小推定値である溶解度数を生じさせたが、それは少量のサンプルがそれ以上の濃縮を妨害したためである。試験した全VHドメインは、4mg/mLを超える可溶性を示した(図10)。
【実施例4】
【0187】
突然変異パターンを決定するための大量シーケンシング
抗体結合Luk−sPV、CR1およびその他の抗原から収集した全配列の検査から、マウスB細胞において発現したHCAbトランス遺伝子に由来する可溶性ヒトVHドメインのVDJ組み換えおよび成熟(超変異)は、正常テトラマーヒト重鎖および軽鎖抗体由来のラクダおよびラマVHHドメイン、またはヒトVHドメインにおいて観察されたものとは極めて相違することが明白になった。このため、組み換えから超変異に至るプロセスを追跡するために、超並列シーケンシング(Roche 454シーケンシング)を実施した。このプロセスが実際に相違することを検証するため、そして抗体のどのパラメータおよび部分が特定VDJ組み換えの最初の選択後の高親和性の可溶性ヒト重鎖のみの抗体を生成するために重要であることを理解するために、これを使用した。結果は、このプロセスがどのように行われるのかについての概観を提供する(図11)。
【0188】
この分析は、マウスが、発現したトランス遺伝子のVHドメイン全体にわたって多種多様なアミノ酸置換を導入できることを示している。バルクは、CDR1およびCDR2の位置にある。しかし、置換は、FR1およびFR2内でも明白であり、FR3全体に分布している。CDR/FR界面領域は、置換にとってのホットスポットであると思われた。この分析から、突然変異プロセスが、位置およびアミノ酸置換に関して、ラクダVHHドメインおよび正常テトラマーヒト抗体内に存在するVHドメインにおいて見られるものとは極めて相違することが明白である。
【実施例5】
【0189】
テトラマー抗体に由来する可溶性VHドメイン、VHHドメインおよびVHドメイン中に存在する個別フレームワークおよびCDR領域の比較分析
可溶性ヒト抗原結合VHドメインの全突然変異を一覧表示し、相違する領域(FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3)をラクダ重鎖のみの抗体、ラマ重鎖のみの抗体および正常テトラマーヒト抗体から得られたヒトVHドメイン由来のVHHドメインと比較して分析した。
【0190】
この比較は、全部が文献および公衆抗体データベースから得られた、10の公知ラクダVHHドメイン配列、58の公知ラマVHHドメイン配列および正常テトラマー抗体に由来する4,000を超える公知のヒトVHドメイン配列を含んでいた。
【0191】
可溶性ヒトVHドメインのFR1領域(図12)は、ラクダおよびラマと比較した場合の正味荷電における増加ならびにラクダ、ラマおよび正常ヒトテトラマー抗体に由来するVHドメインと比較した疎水性の増加を示しているが、他方では荷電アミノ酸の数が増加している。
【0192】
CDR1領域(図12)は、ヒトテトラマー抗体、ラマおよびラクダVHHドメイン由来の等価のVHドメインと比較して、正味荷電における極めて小さな変化(ラマと比較してある程度の低下)および疎水性の増加を有する。荷電アミノ酸の数は、ほとんど有意ではない相違を示す。
【0193】
可溶性VHドメインのFR2領域(図13)は、ラクダおよびラマVHHドメインと比較した場合に正味荷電における相違がないこと、ならびにラクダおよびラマVHHドメインと比較した場合に疎水性の実質的増加を示すが、他方荷電アミノ酸の数はラクダおよびラマVHHドメインと比較して減少した。どちらの態様においても、テトラマー抗体に由来するヒトVHドメインとは類似である。CDR2領域(図13)は、ラクダおよびヒトテトラマー抗体より高いラマに類似する正味荷電、および他と極めて類似する疎水性を有するが、荷電アミノ酸の数はテトラマー抗体に由来するヒトVHドメインと類似するが、その他よりはある程度低い。
【0194】
可溶性VHドメインのFR3領域(図14)は、テトラマー抗体に由来するヒトVHドメインに比較した場合の正味荷電の増加およびテトラマー抗体に由来するヒトVHドメインに比較した場合の疎水性の低下を示すが、荷電アミノ酸の数はテトラマー抗体に由来するヒトVHドメインに比較して増加した。全部の態様で、ラクダおよびラマVHHドメインと類似である。可溶性VHドメインのCDR3領域(図14)は、ラマおよびラクダVHHドメインならびにテトラマー抗体に由来するヒトVHドメインと比較して減少した正味荷電を有するが、荷電アミノ酸の数はその他全部と比較して増加する。可溶性VHドメインのCDR3領域はラマVHHと極めて類似するが、正常ヒトテトラマー抗体および正常ラクダ四価抗体内に存在するVHドメインにおいて観察されるよりは低い疎水性を有する。
【0195】
この結果は、初期VDJ組み換えの内で、ヒトテトラマー(CDR3)抗体に比較した場合により高い数の荷電アミノ酸を備える組み換え事象の選択が存在することを示している。これにはCDR1およびCDR2領域内および全3個のフレーム領域(FR1、FR2、FR3)内の親和性成熟が続く。これは、ヒトテトラマー抗体に由来するヒトVHドメインと比較した場合に、FR1における疎水性の増加、しかしFR3における減少を有する可溶性VHドメインを備えるヒト重鎖のみの抗体を生じさせる。FR2またはCDR1およびCDR2領域においては極めて小さな相違がある。このため全パターンは、疎水性が、低可溶性で凝集する傾向があるテトラマー抗体に由来するVHドメインに比較して可溶性VHドメイン(FR1に向かって、FR3およびCDR3から離れるように移動する)全体にわたって様々に広がっていることを示している。この分析は、特定突然変異がVHドメインの特定位置もしくは領域内で作製されるかどうかについては示さないが(実施例6を参照されたい)、ラマおよびラクダVHHドメインならびにテトラマー抗体に由来するヒトVHドメインからそれらを識別する可溶性ヒトVHドメイン全体にわたる荷電分布および疎水性に関連する特徴があることを示している。
【実施例6】
【0196】
3D構造
実施例4の分析は、初期VDJ再配列後の可溶性ヒトVHドメインのフレーム領域(FR1、FR2、FR3)内の変化は、テトラマー抗体に由来するヒトVHドメインの三次元構造上に配置された場合に特定位置に主として焦点が合わされることを示した(図15)。
【0197】
可溶性ヒトVHドメイン内では、FR1突然変異は、アミノ酸13〜18に見られ、位置13での変化が優勢であり、これは正味荷電ではなく荷電アミノ酸の数が増加した場合でさえ、増加した疎水性を生じさせる。重要なことに、位置13の周囲での変化は、疎水性が増加する小ループ内に所在し、おそらくは可溶性を増加させる。
【0198】
可溶性ヒトVHドメインのFR2内には、ヒトテトラマー抗体に由来するVHドメインと比較した場合に、疎水性における全体的変化を伴わずに位置35の周囲の明白な焦点および位置50の周囲の明白な焦点がある。
【0199】
ヒトテトラマー抗体に由来するVHドメインに比較した可溶性VHドメインのFR3における変化は、CDR2領域の末端およびFR3の一番末端の周囲の(CDR3に直接隣接する)領域と一致する。
【0200】
HCAb由来の可溶性VHドメインにおいて観察されたこれらの変化をVHドメインの3D構造上に重ね合わせると、FR2突然変異が通常はテトラマー抗体におけるVHの表面とVLドメインとの相互作用を作り上げるβ−プリーツシート内で発生することが直ちに明白になる。FR1では、これらの変化は、さらにより疎水性のドメインも生じさせる。これらの結果は、VHドメインのN末端の半分がVHドメインの安定性/可溶性を増加させて軽鎖の非存在を補償するための増加した疎水性を有することを示唆している。これとは対照的に、C末端の半分は、低疎水性である。最も重要な変化は、疎水性パターンの「再分布」(N末端は高疎水性、C末端は低疎水性、図6)および以前の軽鎖界面に影響をおよぼすフレームワーク突然片を示したものである。
【0201】
マウス免疫系によって実施された特異的モチーフ内での疎水性の総合的シフトおよび変化は、高親和性の可溶性重鎖のみの抗体およびヒトテトラマー抗体に由来する凝集する可能性があるVHドメインからそれらを識別する可溶性重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインの生成を可能にする。
【実施例7】
【0202】
ヒト抗HA抗体の生成および発現クローニング
実施例7で使用された免疫方法は、免疫を抗原としてインフルエンザHA(H3N2)を用いて実施することを除いて、実施例1および2に記載された通りである。免疫は、Janssens et al.(2006)PNAS,103,15130−15135に記載されたように、完全ヒト重鎖抗体遺伝子座を含むトランスジェニックマウス内へのタンパク質の注入によって実施する。これらのマウスは、ヒト重鎖D領域の全部、JH領域の全部ならびにヒトCγ2およびCγ3領域である4個のヒトVHセグメントを有する(図1)。
【0203】
CH1領域は、(Janssens et al.(2006)PNAS,103,15130−15135)に記載されたように、ヒト重鎖のみの抗体の産生を許容するためにヒトCγ定常領域から欠失させられている。マウスは、図17に略図で示したように標準プロトコールを使用して免疫し、抗体を単離する。
【0204】
免疫後、形質細胞を収集し、CD138抗原の存在および系統マーカーの非存在について標準方法によってソーティング(FACS)する(Sanderson et al.(1989)Cell Regulation 1,27−35;Kim et al.(1994)Mol.Biol.Cell,5,797−805を参照し、さらにMiltenyi Biotec社製のマウスCD138+形質細胞単離用磁気ソーティングキットを参照されたい)。標準方法によって、細胞を収集し、mRNAを逆転写し、VHドメイン特異的プライマーを用いてcDNA内に増幅させる(例、Janssens et al.(2006)PNAS,103:15130−15135を参照されたい)。使用したプライマーは5’末端上にあり、クローニングの目的でPvuII部位に導入するように設計されている(図18)。3’末端でのプライマーはIgG2またはIgG3 CH2ヒンジ領域からであり、BstEII部位を有するように設計されている。これが不可能である場合は、IgG3のためのプライマーはクローニング目的のSacI部位を含有している(図18)。結果として生じるVHフラグメントは、VHセグメントに特有のそのPvuII部位で終了するVH3−23のKozakおよびシグナル配列が続くCMVエンハンサーおよびニワトリβ−アクチンプロモーターを含有する2つの哺乳動物発現ベクター内にクローニングする。第1ベクターでは(図18)、これにCH2、CH3、終止コドンおよびポリA配列を伴うヒンジ領域(BstEII部位から)のヒンジ領域で始まるヒトIgG2が続く。第2ベクター内では、IgG2配列の全部が同等ヒトIgG3配列によって置換される。後者は、SacI部位を代替物として使用してBstEII部位を含有しないHCAbのクローニングを可能にする。プラスミドの残りは、pUCをベースとするプラスミド内の例えばハイグロマイシン耐性カセットなどの標準哺乳動物細胞選択可能マーカーを有している。明らかに、ヒトIgG2または3は、ヒトまたは任意の他の種由来の任意の他のCH1欠損性定常領域によって置換することができた。同等に明白に、ベクターのVH部分についても同一のことが当てはまる。cDNAは次にPvuIIおよびBstEII(またはPvuIIおよびSacI)部位の間にクローニングされ、ベクターは標準技術によって大腸菌(E.coli)内にトランスフェクトされる。コロニーは、細菌増殖培地を含有する96(または384)ウエル・マイクロタイタープレート内に取り上げる。プレート(典型的には>10)は、細菌が増殖することを可能にするためにインキュベートし、各ウエル内でDNAを調製する。各ウエル、すなわち各完全プレートからのDNAを引き続き、標準トランスフェクション試薬および方法によって形質転換のために哺乳動物HEK細胞(または発現目的のための他の細胞)を含有する新規な96ウエルプレートに添加する。形質転換細胞は、発現プラスミド(ハイグロマイシン)上に存在する選択マーカーに基づく選択下で増殖させる。発現した抗体を含有する培地は、引き続いて標準ELISAアッセイによって抗原特異的HCAbの存在について分析する。これは同一96ウエルフォーマットにおいて実施できるが、さらにまた、使用すべき抗原量を節約するために、例えばマイクロアレイによって他のフォーマットにおいて実施することもできる。陽性ウエルは、抗原特異的HCAbをコードするヒトHCAbを含有するプラスミドを直ちに同定する。図19は、免疫されたマウス由来の血清のELISAおよび96ウエルフォーマット内のトランスフェクトHEK細胞のELISAの実施例を示している。図1はさらにまた、100万分の1未満のcDNAが全部で960ウエルを使用した実験に使用されたHAクローニング実験を要約している。これは、2つのVH領域であるVH3−11(図21)およびVH3−23(図22)に由来する配列分析によって13群に分類される28種の抗原特異的抗体を産生した。IgG2(SSERKCCVE)およびIgG3(SSELKTPLG)の両方が使用され、VH領域は超変異を受けていて、そしてヒトに類似して、J4領域が最も頻回に使用されるが、その他もまた使用される。分泌されたHCAbは、標準SMARTカラム上での溶出プロファイルによって決定されたように、可溶性であり、モノマーである(図23)。抗体の親和性は、Octet(図24)またはBiaCore(登録商標)分析上での標準結合および解離プロファイルによって決定された、ナノモルからサブナノモル親和性の範囲に及ぶ。突然変異の分析および他の免疫グロブリン配列との比較(図25)は、図11〜13に示したように、既定領域の同一特性を生じさせる。
【0205】
上述したように、可溶性VHドメインは、形質細胞に由来する可溶性HACbから単離することができる。
【実施例8】
【0206】
単一細胞からのヒト抗HCAbの生成および発現クローニング
HEK細胞内への直接的なクローニングによる上述したスキームの変形は、CD138+系統陰性細胞をソーティングすることができ、そしてHEKまたはその他の哺乳動物細胞内に直接的にクローニングできた単一細胞から引き出すことができる(図26)。これらは、上述した方法に極めて類似する方法によって分析されよう。
【実施例9】
【0207】
単一細胞由来の正常重鎖および軽鎖(テトラマー)抗体の生成および発現クローニング
実施例8に示した方法の変形を使用すると、HEKまたは他の哺乳動物細胞内への発現クローニングによってトランス遺伝子発現正常テトラマー抗体を直接的にクローニングすることができる。この変形では、単一細胞は、同様にソーティングによって単離する。RNAは単一細胞から単離し、VHおよびVLドメインはどちらもPCR増幅によって、上述したものに類似する重鎖および軽鎖発現ベクター内にクローニングする。クローニングされた重鎖および軽鎖発現プラスミドの個別組み合わせは、HEKまたはその他の哺乳動物細胞内に一緒にトランスフェクトする。フォーマット、スクリーニングおよび分析は、HCAb96ウエルフォーマットについて上に記載したもの(実施例8および実施例9)と全体的に類似する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスジェニック非ヒト哺乳動物から多様なレパートリーの機能的で可溶性の重鎖のみの抗体ならびにそれらに由来する可溶性VHドメインであって重鎖および軽鎖を含む抗体に由来するVHドメインとは構造的に別個である可溶性VHドメインを単離するための改良された方法に関する。好ましくは、重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインは、長寿命形質細胞または記憶B細胞に由来する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体もしくはそれらの変異体は、21世紀に販売が開始された新規な薬剤の内の高い比率を占めている。モノクローナル抗体療法は、既に関節リウマチやクローン病に対する治療のための好ましい経路として受け入れられていて、癌の治療では目覚ましい進歩を遂げている。心血管疾患や感染性疾患の治療のためにも、抗体をベースとする製剤は開発過程にある。大多数の市販のモノクローナル抗体製剤は、標的リガンド上の単独の明確に規定されたエピトープ(例、TNFα)を認識して結合する。
【0003】
抗体の構造は、当技術分野において周知である。大多数の天然抗体はテトラマー(四量体)であり、2本の重鎖および2本の軽鎖を含んでいる。重鎖は、各重鎖に沿ってほぼ半分にわたって所在するヒンジドメイン間でジスルフィド結合によって相互に結合されている。軽鎖は、ヒンジドメインのN末端側で各重鎖と結び付いている。各軽鎖は、通常はヒンジドメインに近いジスルフィド結合によって各々の重鎖と結合している。
【0004】
抗体分子が正確に折り畳まれている場合は、各鎖は、より線状のポリペプチド配列によって結合された多数の別個の球状ドメインに折り畳まれる。例えば、軽鎖は可変(VL)および定常(CL)ドメインに折り畳まれる。重鎖は軽鎖の可変ドメイン(VL)に隣接する単一可変ドメイン(VH)、第1定常ドメイン(CH1)、ヒンジドメインおよび2つもしくは3つのまた別の定常ドメインを有する。重鎖(VH)および軽鎖(VL)可変ドメインの相互作用は、結果として抗原結合領域(Fv)の形成を生じる。
【0005】
重鎖と軽鎖との間の相互作用は、重鎖の第1定常ドメイン(CH1)および軽鎖の定常ドメイン(CL)によって媒介される。しかし、重鎖と軽鎖との間の相互作用に含まれる、重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)との間の界面もまた存在する。
【0006】
可変ドメインは可変アミノ酸配列を有するので、これらのドメイン内のアミノ酸残基を番号付けするためのシステムが考案されてきた。この番号付けシステムは、Kabat et al.((1991)US Public Health Services,NIH publication 91−3242)によって記載されていて、本明細書において使用される。重鎖可変ドメインでは、フレームワーク1(FR1)は残基1〜30を包含し、フレームワーク2(FR2)は残基36〜49を包含し、フレームワーク3(FR3)は残基66〜94を包含し、フレームワーク4(FR4)は残基103〜113を含んでなる。さらに重鎖可変ドメインでは、相補性決定領域(CDR)が、残基30〜35(CDR1)、残基50〜65(CDR2)および95〜102(CDR3)を含んでなる。
【0007】
正常ヒトB細胞は、重鎖をコードする遺伝子がそこから再配列によって生成される14番染色体上に単一重鎖遺伝子座を含有する。マウスでは、重鎖遺伝子座は12番染色体上に所在する。正常重鎖遺伝子座は、複数のV遺伝子セグメント、多数のD遺伝子セグメントおよび多数のJ遺伝子セグメントを含んでいる。VHドメインの大多数はV遺伝子セグメントによってコードされるが、各VHドメインのC末端はD遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントによってコードされる。B細胞内でのVDJ再配列、その後の親和性成熟は、各VHドメインにその抗原結合特異性を提供する。正常テトラマー抗体の配列分析は、多様性が主としてVDJ再配列および体細胞超変異の組み合わせの結果として生じることを証明している(Xu and Davies,(2000)Immunity,13,37−45)。ヒトゲノム内には50個を超えるヒトV遺伝子セグメントが存在するが、機能的であるのはそのうちの39個に過ぎない。正常二倍体抗体産生B細胞では、各細胞は、単一セットの重鎖および軽鎖抗体遺伝子座からテトラマー抗体を産生する。その他の遺伝子座セットも使用されるが、対立遺伝子排除と呼ばれるプロセスの結果として再現性ではない(Singth et al.,(2003)J.Exp.Med.,197,743−750およびImmunology 5th editon,R.Goldsby,T.Kindt,B.Osborne,J.Kuby(2003)W.H.Freeman and Company NY,NY、ならびにその中の参考文献を参照されたい)。
【0008】
病原体との遭遇を「記憶する」能力は、高等脊椎動物における免疫系の決定的な特徴である。「記憶」へのB細胞の寄与は、2つの別個のB細胞集団である長寿命形質細胞および記憶B細胞の機能であると思われる(概説については、Tangye and Tarlinton(2009)Eur.J.Immunol.,(2009)39,2065−2075を参照されたい)。これらは、ナイーブB細胞の初期一次免疫応答(抗原チャレンジ)の結果として生成される。1つの集団は、抗原が除去された後に長期間(数カ月間)にわたって明確に高レベルの中和抗体を分泌することに寄与するB細胞である長寿命形質細胞に代表される。形質細胞は、最終的には分化し、高親和性の抗原特異的抗体をコードする再配列された親和性成熟免疫グロブリン遺伝子座を含んでいる。これらは、数日間という寿命を備える、抗原特異的抗体の大量産生によって誘発されるストレスの結果として死滅する短寿命形質細胞とは対照的である(Radbruch et al.(2006)Nature Reviews Immunologyを参照されたい)。対照的に、抗原特異的記憶B細胞の第2集団は、高親和性の抗原特異的抗体をコードする再配列された親和性成熟免疫グロブリン遺伝子座を同様に含むが、高レベルでは抗体を分泌しないB細胞集団を表している。記憶B細胞は、初期免疫抗原への反復曝露後には迅速に分割して抗体分泌形質細胞に分化する能力を有する。これは、所定の抗原チャレンジに応答するために利用できる抗原特異的免疫グロブリンのプールの迅速な濃縮を生じさせる。種痘に関する研究は、免疫された個体における50年間にわたる記憶B細胞応答を証明している(Crotty et al.(2003)J.Immunology,171,4969−4973)。
【0009】
ヒトでは、記憶B細胞は二次リンパ器官中で生残し、再配列されて体細胞変異した免疫グロブリン遺伝子を含み、再チャレンジへの二次免疫応答を媒介する(Bernascoti et al.(2002)science,298,2199−2202を参照されたい)。特にヒト脾臓は、記憶細胞にとっての主要部位であると思われる(概説についてはTangye and Tarlinton(2009)Eur.J.Immunol.,(2009)39,2065−2075を参照されたい)。
【0010】
長寿命抗体分泌形質細胞は、二次リンパ器官および骨髄中では数カ月間にわたり生残する。例えば、抗原選択された免疫グロブリン分泌細胞は、ヒト脾臓および骨髄中で存続する(Ellyard et al.(2004)Blood,103,3805−3812)。
【0011】
他の動物、例えばマウスでは、一次長期抗体応答は、長寿命形質細胞の機能であると思われる。そこでマウスでは、骨髄および脾臓中に存在する最終分化した長寿命形質細胞は、1年を超える長期間にわたって生残して抗体を分泌し続ける(Slifka et al.(1998)Immunity,8,367−372;Maruyama et al.(2000)Nature,407,636−641を参照されたい)。様々な哺乳動物における記憶細胞と最終分化した長寿命形質細胞との正確な関係は未だ確実には確立されていないが、哺乳動物には、各々が高親和性の抗原特異的抗体をコードする再配列された親和性成熟免疫グロブリン遺伝子座を含む長寿命B細胞の2つのプールが存在する。1つのプールは、迅速に分割する能力を有する。もう1つのプールは分割はしないが、長期間にわたって抗体を分泌する能力を保持する。
【0012】
患者によって生成された抗原特異的ヒトテトラマー抗体は、臨床的および商業的に重要な抗原特異的抗体の潜在的入手源を提供する。これらはさらにまたEBV(エプスタイン・バー・ウイルス)−形質転換ヒトB細胞から、好ましくは任意選択的にポリクローナルB細胞活性化因子の存在下で形質転換されたEBV形質転換ヒト記憶B細胞から引き出すこともできる(PCT/IB04/01071)。
【0013】
これまで、記憶細胞および長寿命形質細胞は、トランス遺伝子にコードされた高親和性抗体、特にヒトVHおよびVLドメインを含むヒト抗体またはハイブリッド抗体の起源としては利用されてこなかった。
【0014】
VHドメイン遺伝子工学および重鎖のみの抗体
軽鎖が欠けている重鎖のみの抗体が抗原に結合する能力は、1960年代に確定された(非特許文献12を参照されたい)。軽鎖から物理的に分離された重鎖免疫グロブリンは、テトラマー抗体に比して80%の抗原結合活性を保持した。さらに、結合活性は、重鎖のアミノ末端フラグメント(Fd)と関連していた。これらの実験は明確に特徴付けられた抗原特異的ウサギポリクローナル抗体を使用したが、ウサギポリクローナル抗体はヒトを含む哺乳動物起源のテトラマー抗体を含む任意のポリクローナル集団の代表的なものである。重鎖ダイマーは、CH1軽鎖結合ドメインを保持した。
【0015】
1980年代には、多数の刊行物が新規な抗体を構築するための重鎖遺伝子のインビトロ(生体外)操作について報告した。これらの研究の多くは、明確に特徴付けられた抗原に対して立てられた抗体をコードする再配列マウス抗体μ遺伝子(IgM)に基づいていた。この抗体の特徴は、不適切な軽鎖を伴う組立ておよび分泌が抗原結合の保持を示したために、抗原結合特異性がVHドメイン内に存在することが公知であることであった(Neuberger and Williams(1986)Phil.Trans.R.Soc.Lond.,A317,425−432を参照されたい)。この系を使用すると、マウス抗原特異的VH結合ドメインを使用して、マウス抗原特異的VH結合ドメインに融合したヒトε定常領域を含む新規な抗体を引き出せることが証明された。結果として生じたキメラIgEは抗原特異性を保持し、IgEに予想されたエフェクター活性を示した(Neuberger et al.(1985)Nature,314,268−270を参照されたい)。
【0016】
その他の重鎖遺伝子工学に関する文献の例は、ヒトIgAまたはIgG定常領域に融合したマウスVHを含むキメラマウス−ヒト抗体の産生を包含している(Morrison et al.(1984)PNAS,81,6851−6855;Sun et al.(1987)PNAS,84,214−218;およびHeinrich et al.(1989)J.Immunol.,143,3589−97を参照されたい)。そこで、1980年代末までには、重鎖遺伝子工学の概念が明確に確立された。任意の特徴付けられたVH結合ドメインは任意の抗体定常領域と融合させることができ、抗原特異的結合活性の保持を生じさせる。エフェクター機能は、選択された重鎖定常領域(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgEなど)によって決定された。全ての場合における最終発現キメラ抗体は、テトラマー抗体を含んでいた。
【0017】
完全ヒト重鎖を遺伝子工学により作製するためには、規定結合特異性を備えるヒトVHドメインの供給源を必要とする。この問題は、一部にはヒトリンパ球を起源とするテトラマー抗体に由来するナイーブ生殖細胞系ヒトV、DおよびJセグメントまたは親和性成熟VHドメインの組み合わせを用いて引き出されるヒトVHドメイン・アレイライブラリーの開発によって解決された。20nM〜100nMの範囲内の結合親和性を備える抗原特異的VHドメインは、次にヒト抗体産生末梢血B細胞(Ward et al.(1989)Nature,341,544−546を参照されたい)またはナイーブヒト生殖細胞系DNAに由来するランダムVDJアレイ(EP−A−0 368 684を参照されたい)に由来するVH結合ドメイン提示ライブラリーから単離することができた。これらの手法は、抗原特異的哺乳動物VHドメインおよび特別にはヒトVHドメインの起源を提供した。
【0018】
そこで、下記が提案された。
「単離可変(VH)ドメインは、モノクローナル抗体の代替物を提供し、高親和性のヒト抗体を構築するための起源として機能することができる」
「軽鎖もしくは適切な重鎖定常ドメインに可変ドメインを付着させ、哺乳動物細胞において組み立てられた遺伝子を発現させることによって、完全抗体を作製することができ、完全抗体は例えば「相補体溶解」などの自然エフェクター機能を有するはずである」
「この手法は、治療的価値を備えるヒト抗体を構築するために貴重であることを証明できた」(Ward et al.(1989)Nature,341,544−546およびEP−A−0 368 684を参照されたい)。
【0019】
また別の手法を使用して、Sitia et al.((1990)Cell,60,781−790)は、再配列されたマウスμ遺伝子由来のCH1ドメインの除去が培養中の哺乳動物細胞によって軽鎖が欠けている重鎖のみの抗体の合成および分泌を生じさせることを証明した。この場合には、分泌された重鎖は、VH結合ドメイン、そして重鎖ダイマー化およびエフェクター機能を提供する柔軟性ヒンジドメインならびにIgM CH2、CH3およびCH4定常ドメインからなる定常領域を含んでいた。
【0020】
そこで1990年代までには、規定のVH結合特異性を備えるヒト重鎖のみの抗体ホモダイマー(時にはDabs−Fcと記載される)のインビトロ遺伝子工学およびCH1が欠けている重鎖エフェクター領域の選択のための基本的ツールを利用できるようになった。
【0021】
この手法に関する問題は2つの要素からなるものであった。
アレイ手法から選択されるVHドメインは、相当に低い(20〜100nM)抗原結合親和性を備えていた。
軽鎖の非存在下でのVHドメインは、「付着性」、不溶性であり、さらに凝集する傾向があるので、このため製薬用途には適合しない。
【0022】
単離VHドメインが凝集する傾向は、軽鎖が非存在である結果である。軽鎖が非存在である場合、通常は重鎖/軽鎖界面内に埋もれている所定の疎水性側鎖が露出する。さらに、VHドメインの安定性は軽鎖界面での接触に依存するので、熱力学的安定性が損傷させられる(Worn and Pluckthun(1999)Biochemistry,38,8739−8750を参照されたい)。
【0023】
正常ラクダ科動物(camelid)テトラマー抗体に加えて、ラクダ科動物において循環する軽鎖が欠けている天然型IgGホモダイマー重鎖のみの抗体についてのHamers−Castermanによる記載(Hamers−Casterman et al.(1993)Nature,363,446−448を参照されたい)は、可溶性問題に関する識見を提供した。Sitia et al.((1990)Cell,60,781−790)によって遺伝子工学により作製された分子と一致して、CH1ドメインの機能性は、プロセッシングされた抗体重鎖mRNAからCH1を排除した選択的スプライス部位に起因してラクダ科動物重鎖のみの抗体中には存在しなかった。
【0024】
抗原チャレンジによって引き出されたラクダ科動物重鎖のみの抗体のVHドメイン(以下では、一般的使用にしたがって、VHHドメインと呼ぶ)は、インビボのB細胞内で親和性成熟していて、低ナノモル範囲内で結合親和性を有し、可溶性であり、凝集する傾向を示さない(Ewert et al.(2002)Biochemistry,41,3628−3636を参照されたい)。ラクダ科動物VHHドメインは、さらに一般には提示手法によって単離された生殖細胞系由来VHドメインに比較して熱安定性の増加を示し、一部は例えば洗剤および漂白剤などの変性剤の存在下、および熱処理後において結合活性を保持する(Dumoulin et al.(2002)Protein Science,11,500−511およびDolk et al.(2005)Applied Environmental Microbiology,71,442−450を参照されたい)。
【0025】
抗原特異的な重鎖のみの抗体は、標準クローニング技術またはファージもしくは他の提示法によってラクダ科動物B細胞mRNAから回収できる(Riechmann and Muyldermans(1999)J.Immunol.Methods,231,25−38を参照されたい)。ラクダ科動物由来の重鎖のみの抗体は、高親和性を備える。重鎖のみの抗体をコードするmRNAの配列分析は、さらに正常テトラマー抗体の産生においても観察されるように、多様性が主としてVHHDJ再配列および体細胞超変異の組み合わせの結果として生じることを証明している。しかし、ラクダ科動物による重鎖のみの抗体の産生がテトラマー抗体とは対照的に正常B細胞によるのかどうかは依然として確証されていない。実際に、ラクダ科動物におけるプレB細胞発生についてはほとんど公知でない(WO2004/049794およびZou et al.(2005)J.Immunology,175,3769−3779を参照されたい)。さらに、ラクダ科動物重鎖のみの抗体が、重鎖および軽鎖を含む免疫グロブリンテトラマーと同様に、記憶細胞または長寿命形質細胞による長期抗体応答に関与するのかどうかについては未だ確証されていない。
【0026】
ラクダ科動物重鎖のみの抗体の特定の特徴は、正常VHドメイン内のVLドメインと相互作用する一部のアミノ酸残基がVHHドメイン内で突然変異していることである。そこで、ヒトおよびマウスVH配列の98%において位置45で見いだされたロイシンは突然変異していた。生殖細胞系内で保存されているこれらのラクダ科動物突然変異は、軽鎖の非存在下でVHH可溶性を維持することに一致すると提案されてきた。ラクダ科動物VHHドメインにおける他の顕著な特徴であるアミノ酸突然変異についても正常VHドメインと比較して記載されてきた。これらの内で最も一般的で重要な変化は、二次フレームワーク領域内の4つの位置(VHH四分子)で発生し、以前の軽鎖界面の疎水性を減少させるように機能する。一般に、Glu−44およびArg−45は正常VHドメイン内の低親水性Gly−44およびLeu−45の場所で見いだされるが、位置47での親水性はTrpとより小さな残基との置換によって増加する。第4の変化には、Val−37とPheまたはTyrとの置換を必要とする。構造分析は、これが典型的にはVHHドメインCDR3ループ内に存在するTyr−91、Trp−103、Arg−45および疎水性残基を含む小さな疎水性コアの核をなすことを解明する。これらの変化は、より親水性側鎖との直接的置換またはCDR3とフレームワーク残基との間の相互作用による溶媒からの疎水性側鎖の隔離によって以前の軽鎖界面の親水性を増加させる(Bond et al.(2003)J.Mol.Biol.,332,643−655を参照されたい)。
【0027】
VHHドメイン内では、CDR3ループはラクダ科動物テトラマー抗体上およびその他のヒトおよびマウス由来の明確に特徴付けられたテトラマー抗体上に存在するCDR3ループに比較して拡大している(Riechmann and Muyldermans(1999)J.Immunol.Methods,231,25−38を参照されたい)。VHH CDRループ内、例えばラマVHHドメイン内に存在する重要な疎水性残基の役割は、VHHドメインの安定性および可溶性においてCDR3が果たす構造的役割を証明している(Bond et al.(2003)J.Mol.Biol.,332,643−655を参照されたい)。これらをまとめると、VHHドメインに関する構造的研究は、これらのドメインの安定性および可溶性がフレームワーク残基に加えてCDR3に依存すること、および重要な疎水性残基に対する要件は、VHドメインに比較してVHHドメインの好ましい生物物理学的特徴と適合するCDR3ループのタイプへ大きく制約することを証明している(Barthelemy et al.(2008)J.Biol.Chem.,283,3639−3654を参照されたい)。
【0028】
しかし、ラクダ科動物とヒトとの間の高度の配列保存にもかかわらず、ラクダ科動物VHHドメインはラクダ科動物起源のままであり、そこでヒトにおいては潜在的に抗原性である。インビトロでのヒト化はこの危険性を低下させることができるが、含まれるインビトロ遺伝子工学の結果として、親和性および可溶性が低下する犠牲が生じる可能性がある。
【0029】
ヒトVHドメインおよび可溶性の問題
生殖細胞系配列またはラクダ科動物VHHドメインに比較した正常テトラマー抗体に由来するヒトおよびその他の哺乳動物VHドメインの不良な生物物理学的特徴、特に凝集する傾向は現在、試薬、診断薬および医薬品としてのそれらの実用性を制限している(Rosenberg(2006)The AAPS Journal,8(3),Article 59 E501−E507およびFahner et al.(2001)Biotechnol.Gen.Eng.Rev.,18,301−327を参照されたい)。
【0030】
可溶性の問題を解決するための初期の試みは、VH/VL界面での選択したヒトVH結合領域内へのラクダ化アミノ酸配列の導入に依存していた。この手法は、安定性および可溶性をVH/VL界面での位置45での「ラクダ化」単独によって対処できないので期待はずれであることが証明された(EP−B−0 656 946とは反対に、Domantis submissions dated 18th May 2007 and 5th June 2007を参照されたい)。実際に、標的化「ラクダ化」突然変異の導入は、単離ヒトVHドメイン内の「付着性」の問題を解決するには不十分である(Riechmann and Muyldermans(1999)J.Immunol.Methods,231,25−38を参照されたい)。ラクダ化突然変異の導入は、これらの実験の転帰として観察されたタンパク質安定性の低下の原因である可能性が高いフレームワークβ−プリーツシートにおける変形をもたらす(Riechmann(1996)J.Mol.Biol.,259,957−969を参照されたい)。さらに、重要な疎水性残基を含むCDR3が軽鎖の非存在下でのVHHドメインの構造的安定性および可溶性を保持することにおいて果たす役割は、複雑さを付け加え、ラクダ科動物フレームワークと適合するものへCDR3配列の多様性を制限する可能性がある(Barthelemy et al.(2008)J.Biol.Chem.,283,3639−3654を参照されたい)。
【0031】
そこで、ヒト由来のものを含む、親和性成熟天然テトラマー抗体由来または生殖細胞系VDJセグメントのナイーブ配列由来の哺乳動物VHドメインは、軽鎖の非存在下では、相当に不溶性であり、凝集する傾向を示す。そのようなVHドメインは、医薬品として使用するために適する可溶性VHドメインの不可欠な生物物理学的特徴に欠ける。
【0032】
遺伝子組み換えによってインビボで生成された重鎖のみの抗体および可溶性ヒトVHドメイン
製薬用途のためには、可溶性VH結合ドメインは、好ましくは、生理学的条件下で凝集を発生せずに例えば高抗原結合親和性および可溶性などの特徴を備えるヒト起源である。そのような可溶性VHドメインは、さらにまた診断薬および試薬としても使用することができ、工業および農業において広汎な用途を有する。
【0033】
抗原特異的重鎖のみの抗体を生成するためのまた別の手法は、CH1機能性に欠ける重鎖遺伝子座を含むトランスジェニックマウスを使用する方法である(Janssens et al.(2006)PNAS,103:15130−5およびWO02/085944を参照されたい)。
【0034】
最初は、正常マウスB細胞が抗原チャレンジの結果として活性化されて重鎖のみの抗体を分泌するかどうか、またはそのような抗体が可溶性であることが証明されるかどうかは未知であった。さらに、IgMが必要とされるかどうか、またはラクダ科動物におけるように、発現が抗体のIgγ2およびIgγ3クラスに限定されるかどうか、または潜在的不溶性VHドメインが正常マウスB細胞によって分泌され得るかどうかも未知であった。
【0035】
Janssens et al.(2006)PNASは、全部にCH1機能性が欠けている2個のラマVHH遺伝子セグメント、全D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントならびにヒトCμおよびCγ2およびCγ3定常領域を含むキメラ重鎖遺伝子座について記載している。ラマVHH遺伝子セグメントの選択は、VH/VL界面でラクダ科動物によって保持された生殖細胞系フレームワーク突然変異が、結果として生じる「ラクダ化」VHドメインがラクダVHHによって示される可溶性および安定性の特性を保持し、その結果ラクダに由来するCDR3ループの非存在下でさえ抗原チャレンジへ機能的に応答する可能性を増加させる可能性を増強できるように発現したラクダ化ヒト遺伝子座においても存在することを保証した。
【0036】
この転帰は、重鎖のみの抗体がB細胞特異的方法で発現すること、B細胞増殖が発生すること、およびCH1機能性の非存在下では、任意の機能的軽鎖遺伝子の存在が重要ではないことを証明した。重鎖のみの抗体トランス遺伝子は、抗原チャレンジに応答してVDJ再配列を受け、その後にB細胞活性化および親和性成熟を受ける。重鎖のみのIgMとIgGとの間のクラススイッチングもまた、Cγアイソタイプスイッチングと同様に発生する。遺伝子座にCμが非存在下である場合は、Cγが同等に良好に使用される。抗体の特異性は、VDJ(CDR3)再配列によって大きく決定されるが、他方体細胞変異の分析は、これらがVH領域全体で発生し、発現したラマVHH遺伝子セグメントのCDR1およびCDR2領域について優先性が見られることを証明している。特徴付けられた限定数のラクダ化ヒト重鎖のみの抗体の内で、VHドメインのファージディスプレイによって脾臓B細胞に由来するものかハイブリドーマ選択によるものかとは無関係に、完全にヒト配列に由来したCDR3ループはラクダ科動物VHHドメイン内で見いだされる配列より短いという事実にもかかわらず、全部が可溶性であることが証明された。
【0037】
この限定されたシリーズの最良ハイブリッドラマ/ヒト重鎖のみの抗体は、1〜3nM範囲内の親和性を有した。マウスはさらに、トランス遺伝子をそのB細胞増殖においてまた別の重鎖遺伝子座としてプロセッシングし、脾臓構築は軽鎖再配列の非存在下でさえ本質的に正常である(Janssens et al.(2006)PNASを参照されたい)。さらに、対立遺伝子排除機序は、CH1機能性が欠けている内因性マウス重鎖遺伝子座または重鎖トランス遺伝子が再現性で発現するかどうかを決定する(WO2007/09677を参照されたい)。
【0038】
Janssens et al.の観察(Janssens et al.(2006)PNAS)は、驚くべきことに、安定性および可溶性のラクダ化重鎖のみの抗体がラクダ配列を含むCDR3ループの非存在下でさえラクダ科動物フレームワークを用いて引き出せることを証明している。
【0039】
これらの実験の延長として(WO2006/008548を参照されたい)、完全ヒト重鎖のみの抗体を含む、およびそこでラクダ科動物VHHフレームワークをコードする配列が欠如し、さらに非ラクダ科動物配列に由来するCDR3ループを含む追加のトランス遺伝子マウス系が構築されてきた。
【0040】
この手法では、4個の天然ヒト生殖細胞系VH遺伝子セグメント(V4天然遺伝子座)が、結果として生じる可溶性ヒトVHドメインの抗原特異性および構造的安定性を生成するための親和性成熟を通した自然選択に完全に依存して導入されてきた。どちらの遺伝子座も全ヒトD遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメント、各々にCH1が欠けているヒトCγ2およびCγ3定常領域遺伝子セグメント、ヒト免疫グロブリンエンハンサー調節エレメント、ならびに好ましくは、抗体重鎖LCRを含んでいる。
【0041】
ヒトV4遺伝子座は機能性であり、ヒト重鎖のみの抗体は抗原チャレンジされていない動物の血漿中で循環する。抗原チャレンジ後、抗原特異的ヒト抗体は、ルーチンのElisaアッセイを使用して検出される。遺伝子工学で作製されたV遺伝子セグメントを含むヒト遺伝子座(V17遺伝子座)(WO2008/035216を参照されたい)もまた機能性である(さらにThe Antibody Engineering and Antibody Therapeutics Meeting.F.Grosveld presentation,San Diego Antibody Meeting,December 3−4,2007を参照されたい)。
【0042】
さらに、驚くべきことに、V4遺伝子座を含むトランス遺伝子マウスの抗原チャレンジは、生殖細胞系からのラクダ科動物の顕著な特徴であるフレームワーク突然変異およびラクダ科動物VHHドメインに典型的なラクダ様CDR3ループの非存在下で可溶性の抗原特異的な高親和性ヒトVHドメインの単離および特性解析を可能にする。さらに抗原特異的ヒト重鎖のみの抗体由来のVHドメインは、可溶性である(WO2006/008548を参照されたい)。抗原チャレンジ、VDJ再配列およびその後のB細胞増殖後には、ヒトV4遺伝子座を含むマウスにおける脾臓構築は、抗原チャレンジへの野生型マウス免疫グロブリン応答に本質的に類似する。光線顕微鏡は、白色パルプの外側境界に存在する小胞および境界域を含有するB細胞富裕領域に取り囲まれた動脈周囲リンパ球シート(PALS)内でのT細胞集合化の隔離を証明している。さらにまたT細胞依存性抗体応答中には野生型マウスに匹敵する二次リンパ球組織のB細胞小胞内には胚中心に類似する構造もまた存在する。
【0043】
天然ラクダVHHドメイン配列の予測分析に依存しない合成ヒトVHドメインの同定および遺伝子工学による作製のためのまた別の提示手法は、さらに、天然フレームワークの範囲を越える構造特性を備える自律VHドメインがラクダ科動物において見いだされたものとは相違する非天然突然変異を使用して引き出せることを証明している(Barthelemy et al.(2008)J.Biol.Chem.,283,3639−3654およびUS patent application number 11/102,502を参照されたい)。しかし、これらのデータは、そのようなVHドメインが低ナノモル範囲内での結合親和性と組み合わせた凝集の非存在下での生理学的条件下で可溶性の生物物理学的特徴を保持するかどうかは証明していない。
【0044】
合成ヒトVHドメインの提示による同定および遺伝子工学による作製のための手法は、洗練されてはいるが、大きな労働力を必要とし、ヒトVHドメインおよびラクダ科動物VHH三次元構造情報に利用可能性の範囲が限定されている。極めてわずかな差は使用されるVDJの組み合わせに依存して明白になるので、これは高親和性抗原結合を保持する構造的需要によって拘束されないCDR3多様性を備える合成アレイに基づくVHライブラリーの開発を制限することになる。これらの転帰は、ラクダ科動物VHHドメインとは対照的に、ヒトVHドメインの可溶性安定性構造がCDR3ループとラクダ科動物の顕著な特徴であるアミノ酸置換との間の下の軽鎖界面での相互作用に依存しないことを証明してはいるが、これらのデータは生物物理学的特徴に限定される。例えば、これらの変化の状況における高親和性抗原結合の維持については考察されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0045】
本発明は、正常テトラマー抗体または生殖細胞系アレイに由来するVHドメインとは構造的に別個の、そこで医薬品として使用するために適合している新規な高親和性の可溶性重鎖のみの抗体および可溶性VHドメイン、ならびに抗原チャレンジ後にトランスジェニック動物から当該の新規な重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインを単離するための好ましい経路について記載する。
【課題を解決するための手段】
【0046】
したがって、本発明の第1態様は、新規な高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体であって、
顕著な特徴であるラクダ科動物関連にアミノ酸置換が欠如し、正常テトラマー抗体においては見いだされないFR2置換を有し、
CDR1内で正味の疎水性(net hydrophobicity)の増加およびCDR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加を示し、
FR1内の正味疎水性の増加およびFR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加をもたらすフレームワークβ−プリーツシート内に1つ以上のアミノ酸置換を含む抗体を提供する。
【0047】
重鎖のみの抗体は、好ましくはヒト抗体である。ヒト重鎖のみの抗体は、顕著な特徴であるラクダ科動物関連にアミノ酸置換が欠如し、正常ヒトテトラマー抗体においては見いだされないFR2置換を有する。
【0048】
重鎖のみの抗体は、好ましくは10nM以上の結合親和性を有し、生理学的緩衝条件下ではゲル濾過上の可溶性モノマーとして機能する。
【0049】
本発明はさらに、高親和性の抗原特異的な可溶性VHドメインであって、
顕著な特徴であるラクダ科動物関連アミノ酸の置換が欠如し、正常テトラマー抗体においては見いだされないFR2置換を有し、
CDR1内で正味疎水性の増加およびCDR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加を示し、
FR1内の正味疎水性の増加およびFR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加をもたらすフレームワークβ−プリーツシート内に1つ以上のアミノ酸置換を含む可溶性VHドメインを提供する。
【0050】
可溶性VHドメインは、好ましくはヒト起源である。可溶性ヒトVHドメインは、顕著な特徴であるラクダ科動物関連にアミノ酸置換が欠如し、正常ヒトテトラマー抗体においては見いだされないFR2置換を有する。
【0051】
可溶性VHドメインは、好ましくは10nM以上の結合親和性を有し、生理学的緩衝条件下ではゲル濾過上の可溶性モノマーとして機能する。
【0052】
本発明は、V遺伝子セグメントであって、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントを用いて組み換えられ、引き続いて親和性成熟を経験すると、本発明による可溶性VHドメインをコードするV遺伝子セグメントをさらに提供する。
【0053】
任意選択的に、V遺伝子セグメントの配列は、V遺伝子セグメントが、宿主動物の生殖細胞系配列とは相違する、および顕著な特徴であるラクダ科動物関連にアミノ酸置換ではない、そして正常テトラマー抗体においては一般に見いだされないFR2置換であってよいアミノ酸残基もしくはアミノ酸配列をコードするコドンを含んでなるように、V遺伝子セグメントの天然生殖細胞系配列に比較して少なくとも1つの置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせによって遺伝子組み換えすることができる。そのような変化は、生殖細胞系配列に比較して抗原結合のために利用できるアミノ酸の多様性を増強できるように、V遺伝子セグメントのCDR1および/またはCDR2領域内の置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせを包含することができる。
【0054】
本発明は、D遺伝子セグメントであって、本発明によるV遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントを用いて組み換えられると、本発明によるVHドメインをコードするD遺伝子セグメントをさらに提供する。
【0055】
任意選択的に、D遺伝子セグメントの配列は、D遺伝子セグメントの天然生殖細胞系配列に比較した少なくとも1つの置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせによって遺伝子組み換えすることができる。そのような置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせは、D遺伝子セグメントがD遺伝子セグメントによってコードされる配列を含んでなる可溶性VHドメインの可溶性および安定性を維持することに寄与すると決定されているアミノ酸残基をコードするコドンを包含できるような置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせである、または生殖細胞系配列に比較して任意の結果として生じたCDR3ループ内のD遺伝子セグメントの多様性を増強することができる。
【0056】
本発明は、J遺伝子セグメントであって、本発明によるV遺伝子セグメントおよびD遺伝子セグメントを用いて組み換えられると、本発明による可溶性VHドメインをコードするJ遺伝子セグメントをさらに提供する。
【0057】
任意選択的に、J遺伝子セグメントの配列は、J遺伝子セグメントの天然生殖細胞系配列に比較した少なくとも1つの置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせによって遺伝子組み換えすることができる。そのような置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせは、J遺伝子セグメントがJ遺伝子セグメントによってコードされる配列を含んでなる可溶性VHドメインの可溶性および安定性を維持することに寄与すると決定されているアミノ酸残基をコードするコドンを包含できるような置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせである、または生殖細胞系配列に比較して任意の結果として生じたCDR3ループ内のJ遺伝子セグメントの多様性を増強することができる。
【0058】
本発明は、好ましくは本発明による1つ以上のV遺伝子セグメント、本発明による1つ以上のD遺伝子セグメント、本発明による1つ以上のJ遺伝子セグメント、およびその各々がCH1機能性の欠如する抗体定常エフェクター領域をコードする1つ以上の定常エフェクター領域遺伝子セグメントを含む異種重鎖のみの遺伝子座を提供するが、このとき遺伝子セグメントは、V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントならびに定常領域遺伝子セグメントが組み換えられて本発明による高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体をコードする再配列遺伝子を生成することができる。
【0059】
重鎖のみの遺伝子座は、好ましくは哺乳動物起源であり、より好ましくはヒト、マウス、ラットまたはラクダ科動物に由来する脊椎動物重鎖定常エフェクター領域を有する。
【0060】
好ましくは、重鎖遺伝子座は、可溶性ヒトVHドメインおよび哺乳動物起源の定常エフェクター領域を含む重鎖のみの抗体を産生するように配列される。
【0061】
本発明は、本発明による異種重鎖遺伝子座を含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物をさらに提供する。好ましくは、哺乳動物は、齧歯類、最も好ましくはマウスまたはラットである。好ましくは、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の内因性重鎖遺伝子座は、当技術分野において公知の任意の方法によって機能的に損傷させられている、または欠失によってサイレンシングされている(US5,591,669;US6,162,963;US5,877,397;Kitamura and Rajewsky(1992)Nature,Mar 12;356(6365):154−6を参照されたい)。または、トランス遺伝子とは反対に、内因性免疫グロブリン遺伝子を発現するB細胞が排除されてもよい。内因性κおよびλ軽鎖遺伝子は、機能性を維持することができる、または任意選択的に機能的にサイレンシングもしくは欠失させることができる(EP139959を参照されたい)。余り好ましくはないが、トランス遺伝子は、内因性重鎖もしくは軽鎖遺伝子機能性が欠けている宿主バックグラウンドにおいてCH1機能性を含む正常重鎖抗体遺伝子座であってよい(EP139959およびZou et al.J.Exp.Med.,204,3271−3283を参照されたい)。
【0062】
重鎖のみの免疫グロブリントランス遺伝子は、CH1機能性を排除するように遺伝子組み換えされている、および任意選択的にさらに1つ以上の内因性V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントを導入する、または好ましくはヒト起源の代替V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントと置換するように遺伝子組み換えされている内因性重鎖免疫グロブリン遺伝子座をさらに含むことができる。
【0063】
本発明は、また別の態様では、高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体を作製するための方法であって、本発明によるトランスジェニック非ヒト哺乳動物を1つの抗原でチャレンジする工程を含む方法を提供する。好ましくは、可溶性重鎖のみの抗体は、ヒトである。
【0064】
好ましくは、本方法は、哺乳動物由来の抗体産生細胞を不死化する工程を含んでなる。細胞は、骨髄腫細胞との融合によって不死化でき、またはウイルス、例えばEBVを用いた形質転換によって不死化できる。
【0065】
好ましくは、本方法は、所望の抗原特異性を備える重鎖のみの抗体を産生するB細胞または不死化細胞系から、可溶性VHドメインもしくは可溶性VHドメインをコードする核酸のいずれかを単離する工程をさらに含んでなる。
【0066】
または、本方法は、哺乳動物によって生成された重鎖のみの抗体を産生する細胞から、または哺乳動物によって生成された不死化重鎖のみの抗体を産生する細胞から、可溶性VHドメインまたは可溶性VHドメインをコードする核酸のいずれかを提示手法によって単離する工程をさらに含むことができる。
【0067】
本発明は、重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合の生成における本発明の方法によって得られた可溶性VHドメインまたは可溶性VHドメインをコードする核酸の使用をさらに提供する。
【0068】
本発明は、本発明による少なくとも1つの可溶性VHドメインを含んでなる重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合をさらに提供する。
【0069】
本発明は、治療に使用するための、本発明による少なくとも1つの可溶性VHドメインを含んでなる重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合をなおさらに提供する。
【0070】
本発明は、創傷治癒;悪性腫瘍、黒色腫、肺癌、結腸直腸癌、骨肉腫、直腸癌、卵巣癌、肉腫、頸癌、食道腫瘍、乳癌、膵臓癌、膀胱癌、頭頸部癌およびその他の充実性腫瘍を包含する細胞増殖性障害;例えば白血病、非ホジキンリンパ腫、白血球減少症、血小板減少症、血管新生障害、カポジ肉腫などの骨髄増殖性障害;アレルギー、炎症性腸疾患、関節炎、乾癬および気道炎症、喘息、免疫障害および臓器移植片拒絶反応を包含する自己免疫/炎症性障害;高血圧、浮腫、心筋症、アテローム硬化症、血栓症、敗血症、ショック状態、再潅流障害、および虚血を包含する心血管および血管障害;中枢神経系疾患、アルツハイマー病、脳損傷、筋萎縮性側索硬化症、および疼痛を包含する神経障害;発達障害;真性糖尿病、骨粗鬆症、および肥満症を包含する代謝障害;AIDSおよび腎疾患;ウイルス感染、細菌感染、真菌感染および寄生虫感染を包含する感染症;胎盤に関連する病理学的状態を包含するがそれらに限定されない疾患または障害の治療において、ならびに免疫療法において使用するための医薬品の調製における、本発明による少なくとも1つの可溶性VHドメインを包含する重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合の使用をさらに提供する。
【0071】
本発明はさらに、FR1、FR2およびFR3をコードする遺伝子配列を含む、本発明による可溶性VHドメインを作製するためのカセットであって、FR1、FR2およびFR3をコードする遺伝子配列は適切なCDR1−およびCDR2−コーディング配列の導入を可能にする、およびFR3をコードする配列の3’末端では、適切なCDR3−コーディング配列をコードする配列の導入を可能にする配列が存在するカセットをさらに提供する。
【0072】
本発明は、抗原チャレンジに応答して新規な高親和性の可溶性重鎖のみの抗体を作製するために、非ヒトトランスジェニック哺乳動物、好ましくはマウスまたはラットにおける天然哺乳動物B細胞機構を利用する。本発明の可溶性重鎖のみの抗体は、10nmol以上の結合親和性を有する。
【0073】
軽鎖が欠けている抗原特異的な高親和性のヒト重鎖のみの抗体由来の可溶性ヒトVH結合ドメインの配列分析は、驚くべきことに、ラクダ科動物VHHドメインに典型的な全アミノ酸の顕著な特徴であるコンセンサス配列が欠如することを解明した。実際に、自然選択は、親和性成熟の結果としてのラクダ科動物様に顕著な特徴である配列の選択によっては補償されない。そこで、ラクダ科動物に顕著な特徴である配列が生殖細胞系に非存在である場合は、ヒトVHドメインの構造的安定性および可溶性を維持できるように軽鎖の非存在を補償する相違する機構がインビボで機能する。
【0074】
最も驚くべき特徴は、軽鎖が欠けている抗原特異的な高親和性のヒト重鎖のみの抗体が可溶性であるだけではなく、抗原結合領域(CDR)は抗原結合に加えて構造的安定性および可溶性に重要な役割を果たさなければならないこと、そして以前の軽鎖界面での軽鎖の非存在を補償する顕著な特徴であるラクダ科動物VHH生殖細胞系をコードするフレームワーク・コンセンサスアミノ酸置換がトランスジェニック重鎖のみの遺伝子座中に非存在であるだけではなく、自然選択プロセス中の可溶性を補償するための親和性成熟の結果として挿入されないことである。トランス遺伝子コード化可溶性ヒトVHドメイン中では、また別のアミノ酸置換が親和性成熟に続く全3つの領域内で発生する可能性がある。フレームワーク突然変異は、圧倒的に、しかし排他的ではなく、以前の軽鎖界面でβ−プリーツシート内に存在するので、そこで軽鎖の非存在を補償する。
【0075】
軽鎖の存在下および非存在下で引き出されたヒト抗原結合VHドメインのフレームワークおよびCDR領域の正味荷電(net charge)および正味疎水性についての比較分析は、軽鎖の非存在下での有意な変化を解明する。軽鎖の非存在下では、CDR1内に存在するアミノ酸の正味疎水性の増加およびCDR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加が生じる。フレームワークβ−プリーツシート内のアミノ酸置換は、総合的疎水性の減少およびフレームワーク3内に存在する荷電アミノ酸の増加を引き起こす。フレームワーク1内では荷電アミノ酸の数
および疎水性の増加ならびにフレームワーク2内の疎水性のわずかな減少が生じる。これは比較分析が軽鎖の非存在下でヒトVHドメインと共通するが、さらに相違も伴う特徴を解明している例えばラマなどのラクダ科動物のVHHドメインとある程度対照的である。例えばラマなどのラクダ科動物では、以前の軽鎖界面での顕著な特徴であるアミノ酸置換によって導入された増加した親水性と一致してフレームワーク2を伴う正味疎水性の有意な減少、およびCDR3内の増加した正味荷電が生じる。
【0076】
そこで、抗原チャレンジ後には、B細胞は、例えばラマおよび関連種などのラクダ科動物において見いだされるように、必須アミノ酸置換が生殖細胞系に非存在である場合でさえ、軽鎖の非存在を補償する。
【0077】
軽鎖の非存在を補償する生殖細胞系配列の非存在下では、軽鎖の非存在下で全部が高親和性で安定性の可溶性重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインの生成をもたらす様々な溶液がインビボで見いだされる。
【0078】
これらの観察所見は、抗原結合に加えてVHドメインの安定化における抗原結合領域(CDR)のための主要な役割と一致する。これは、フレームワーク内、特別には以前の軽鎖界面でのβ−プリーツシート内でのその後の希な、または新規のアミノ酸置換によって補完される。遺伝子組み換えによってインビボで引き出された非ラクダ科動物起源の可溶性VHドメインでは、VHH可溶性および安定性の中核となる顕著な特徴であるラクダ科動物アミノ酸置換は非存在である。
【0079】
これらの特徴を含む非ラクダ科動物抗原特異的重鎖のみの抗体は可溶性であり、正常生理学的条件下では凝集しない。さらに、これらの抗体から単離された可溶性VHドメインは、VHドメイン安定性および可溶性の好都合の特徴を保持する。これらの重鎖のみの抗体およびそれらに由来する可溶性VHドメインは、抗原チャレンジ後のB細胞特異的方法で自然選択機構によって進化する。同一VDJ再配列に由来する高親和性抗体(10nm以上)は、一般には低親和性の重鎖のみの抗体において観察されたものより多くのフレームワーク置換を含んでいる。
【0080】
そこで、抗原結合ドメイン(CDR)およびβ−プリーツフレームワークは、軽鎖が欠けているこれらの重鎖のみの抗体またはそれらから引き出された可溶性VHドメインの全体的安定性、可溶性および結合親和性に寄与する。
【0081】
安定性で高親和性の抗原特異的な可溶性VH結合ドメインの配列分析は、
抗原結合領域(CDR)内の選択および親和性成熟は、抗原結合および構造的安定性の特異性および親和性をもたらす、全体的な増加した疎水性および荷電と一致している。
以前の軽鎖界面の周囲でのフレームワーク2および3内に存在する突然変異は、改良されたVHドメインの可溶性および安定化ならびに結果として改良された抗原結合親和性と一致し、
フレームワーク1およびフレームワーク3内の突然変異は、VHドメインの総合安定性を増強する補償的構造的突然変異と一致している、ことを同定する。
【0082】
そこで抗体軽鎖の非存在下では、哺乳動物B細胞は、抗原結合親和性を維持しながら、重鎖VH結合ドメインの固有の不安定性および不溶性を親和性成熟および選択によって補償することができる。
【0083】
本発明者らの分析は、自然機構が使用されたV遺伝子セグメントとは無関係に作用すると思われることを示している。そこで、軽鎖の非存在下でヒトV4トランスジェニックマウス脾臓内で生成されたヒトVHドメインの質量シーケンシングは、変異頻度の比較分析を可能にする。最大の突然変異荷重は、CDR1およびCDR2内で観察される。しかし、突然変異荷重のホットスポットは、フレームワーク1、フレームワーク2内および広くフレームワーク3の全域で識別することができる。出現する全パターンは、使用される特異的V遺伝子セグメントにとって特有であるとは思われないが、それはこの実験シリーズでは、V3−23、V3−11およびV1−46を使用して高親和性抗体が突然変異荷重出現の類似パターンを用いて得られてきたからである。同様に、CDR3では、J4が優勢であるが、排他的には使用されない。
【0084】
B細胞親和性成熟機構は、軽鎖の非存在下で可溶性VHドメインのプロセッシングおよび分泌において複数の役割を有すると思われる。CDR内の超変異は、主として抗原結合親和性を反映するが、さらにまた構造的安定性においても重要な役割を果たすと思われる。フレームワーク領域内の超変異は軽鎖の非存在を補償するが、さらにVHドメインの安定性および可溶性を増強すると思われ、そしてこれを通してさらに抗原結合親和性を最大化する。本発明者らの分析は、軽鎖が欠ける重鎖のみの抗体の可溶性および安定性は、細胞表面への効率的な細胞内トラフィッキング、提示およびその後のB細胞増殖のための要件であると推定する。
【0085】
好都合なフレームワーク変異は、さらにまた各々が好ましいアミノ酸置換を含む遺伝子工学により作製されたヒトVセグメントを含む新規な生殖細胞系重鎖のみの抗体遺伝子座内に構築することもできる。
【0086】
同様に、好ましいアミノ酸置換は、VDJ再配列後のVHドメインの可溶性および安定性をさらに増強するためにJ遺伝子セグメントおよびD遺伝子セグメント内に遺伝子組み換えすることができる。
【0087】
そこで、正常テトラマーヒト抗体において見いだされるVHドメインと比較して、顕著な特徴であるラクダ科動物関連アミノ酸置換が欠ける、ならびにCDR1内の増加した疎水性およびCDR3内の増加した荷電アミノ酸を示す高親和性の可溶性ヒト重鎖のみの抗体が提供される。高親和性の可溶性ヒト重鎖のみの抗体は、正常テトラマーヒト抗体と比較して、フレームワーク1内の増加した総合的疎水性、フレームワーク3内の低下した疎水性およびフレームワーク3内に存在する荷電アミノ酸の増加をもたらす、フレームワークβ−プリーツシート内に1つ以上のアミノ酸置換をさらに含んでいる。
【0088】
本手法は、新規な重鎖のみの抗体の自然選択を許容する。当該の抗体由来の可溶性VHドメインは、VH可溶性が免疫グロブリンκまたはλ軽鎖のVLドメインとの相互作用に依存する自然テトラマー抗体内で観察されるものには希である、または非存在である突然変異を含んでいる。軽鎖の非存在下では、観察されたアミノ酸置換は、結果としての抗原特異的重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインへの好ましい生物物理学的特質を付与する。詳細には、この方法によって引き出された重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインには、生殖細胞系アレイに由来する自然VHドメインまたは自然テトラマー抗体の「付着性である」、相当に不溶性および凝集しがちになるという傾向が欠けている。本発明のこれらの重鎖のみの抗体または可溶性VHドメインは、高親和性であり(10nM以上)、凝集の非存在下で可溶性であり、そして医薬品として使用するために特に適合する。
【0089】
高親和性のヒト可溶性VH抗原結合ドメイン内で見いだされたアミノ酸置換を正常テトラマー抗体内に存在するヒトVHドメインの公知の3D構造に重ね合わせると、規定アミノ酸置換の位値および機能的作用に関する洞察が得られる。例えば、
フレームワーク1置換は、アミノ酸13〜15から、優勢には位置13で観察され、疎水性の全体的増加をもたらした。位置13での変化は、局所的に増加した親水性をもたらす小ループ内に所在し、
フレームワーク2置換は、位置35および50の周囲に集中して、以前の軽鎖界面でβ−プリーツシート内で発生する可能性がある。
フレームワーク3置換は、フレームワーク/CDR界面で、例えばCDR2の末端(位置56および57)ならびにCDR3の起始部(位置93)で優勢であると思われる。
【0090】
本発明は、凝集の非存在下での可溶性を包含する好ましい生物物理学的特性を備える高親和性の重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインを引き出すための最適化されたトランスジェニック重鎖のみの抗体遺伝子座において使用するために自然V遺伝子セグメント内に遺伝子工学により作製された好ましい新規なフレームワークアミノ酸挿入または置換を任意選択的に提供する。
【0091】
そこで、凝集の非存在下での可溶性などの好ましい生物物理学的特性を備える選択された可溶性ヒトVHドメインが提供される。これらは、1つ以上のCDRと結合された場合に、新規な抗原結合タンパク質の起源であるVH結合タンパク質のライブラリーのさらなる生成を提供する、自然重鎖フレームワーク領域の起源を提供する(米国特許出願番号第11/102,502、および第11/745,644を参照されたい)。
【0092】
本発明者らは、さらにまた驚くべきことに、トランス遺伝子コード化重鎖のみの抗体が、マウス長寿命形質細胞または重鎖のみの遺伝子座を含む抗原チャレンジされたトランスジェニック動物の二次リンパ腺、骨髄および脾臓から生成された記憶B細胞によっても発現することを証明した。さらに、抗原特異的重鎖のみの抗体または可溶性VHドメインを回収するためにハイブリドーマまたは古典的提示手法の必要をなくす、より高度に効率的な方法が開発されている。
【0093】
有益にも抗原チャレンジされたトランスジェニック動物の精製形質細胞または記憶細胞集団に由来する重鎖のみの抗体または可溶性VHドメインをコードするクローニングcDNAは、細胞表面上でVHドメイン融合タンパク質または重鎖のみの抗体を発現する、蓄積する、分泌する、または提示することのできる任意の最適な細胞系内で発現させることができる。好ましい選択は、臨床等級の材料の製造に適した微生物細胞系または哺乳動物細胞系である。
【0094】
そこで本発明の第2態様によると、本発明の第1態様の重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインは、宿主記憶B細胞または長寿命形質細胞から引き出される。
【0095】
本発明の第2態様は、抗原に特異的に結合する重鎖のみの抗体を作製する方法であって、
(a)非ヒトトランスジェニック哺乳動物を抗原で免疫する工程であって、哺乳動物は、転写およびプロセッシングされた重鎖mRNA内でCH1機能性が欠ける重鎖のみの抗体を発現する工程と、
(b)長寿命形質細胞または記憶B細胞を免疫された哺乳動物から単離する工程と、
(c)mRNA集団を工程(b)から引き出された細胞から単離する工程と、
(d1)工程(c)において単離されたmRNAに由来するcDNA集団を発現ベクター内にクローニングして最適細胞系内で発現させる工程と、
(e1)抗原に特異的に結合する重鎖のみの抗体を産生する少なくとも1つの細胞系を選択する工程、
または
(d2)工程(c)において単離されたmRNAから引き出されたVHドメインを含むcDNA集団を、重鎖エフェクター領域を含む可能性があるVH融合タンパク質が最適細胞系内で発現するように、最適発現ベクター内にクローニングする工程と、
(e2)抗原に特異的に結合するVH融合タンパク質を産生する少なくとも1つの細胞系を選択する工程とを含む方法を提供する。
【0096】
最適な細胞系は、好ましくは哺乳動物起源であるが、重鎖のみの抗体および可溶性VHドメイン融合タンパク質を蓄積もしくは分泌することのできる、または細胞表面上で前記重鎖のみの抗体および可溶性VHドメイン融合タンパク質を提示することのできる酵母または任意の有機体から引き出されてもよい。
【0097】
本方法は、例えばラマなどの宿主生物において自然に産生するのか、または非ヒト宿主生物において発現したトランスジェニック遺伝子座の結果として産生されるのかにかかわらず、重鎖のみの抗体を単離するために適している。
【0098】
好ましくは、最適な哺乳動物細胞系は、臨床等級の材料、例えばCHO細胞を生成するために適している。
【0099】
本方法は、重鎖のみの抗体が複合テトラマーではなくホモダイマーであるので、単純であり、高度に効率的、および自動化に極めて適している。記憶細胞および形質細胞集団から抗原特異的テトラマー抗体を引き出す複雑さに大きく加えられる問題である同種軽鎖について探索する必要がない(Meijer et al.(2009)Therapeutic Antibodies:Methods and Protocols,525,261−277を参照されたい)。
【0100】
長寿命形質細胞または記憶B細胞内で豊富なB細胞集団は、当技術分野において明確に確立された多数の技術によって宿主生物から単離することができる。好ましい宿主生物は、マウスである。マウスでは、B細胞集団は明確に特徴付けられていて、細胞表面マーカーを使用すると様々なサブ集団を識別することができる。例えば、マウス形質細胞は、細胞表面上でCD138(Syndecan−1)を発現する。B細胞系統の細胞上でのCD138発現は、発達段階、所在位値および接着性と相関する(Sanderson et al.(1989)Cell Regulation,1,27−35;Kim et al.(1994)Mol.Biol.Cell.,5,797−805を参照されたい)。CD138+形質細胞は、主として脾臓、リンパ節および骨髄中で見いだされる。形質細胞は、マウスナイーブB細胞、記憶B細胞および非B細胞集団から、それらがCD138+、CD45R(B220)低/陰性およびCD19低/陰性であるという点で識別することができる。
【0101】
細胞表面マーカーを認識する抗体を入手できることは、蛍光活性化セルソーティング法、または例えば磁気、カラムもしくは遠心分離方法に基づく、他の細胞集団からの1つの細胞集団の結合を許容する固体基板にコンジュゲートされた抗体を使用するキットで広汎に利用できる明確に確立された細胞分離技術により形質細胞を他のB細胞集団から分離することを可能にする。そこで、例えば抗CD45R(時にはB220として公知である)を含む磁気ビーズは混合B細胞集団から大多数の非形質細胞を排除する。その後の抗CD138を含む磁気ビーズとのインキュベーションは、高度に豊富な形質細胞集団を捕捉できる(Miltenyi Biotec社製のマウスCD138+形質細胞単離のための磁気ソーティングキットを参照されたい)。その他の細胞表面マーカーもまた、これらの細胞を単離するために使用できる(例えば、Anderson et al.(2007)J.Exp.Med.,204,2103−14を参照されたい)。さらに、開始時細胞集団は、リンパ節および/またはパイエル板から引き出すこともできよう。
【0102】
所定の宿主B細胞系統間を識別する抗体のカクテルを利用できない場合は、骨髄およびリンパ節からのB細胞単離、およびその後の汎B細胞表面マーカーに対する抗体を使用したB細胞精製の組み合わせもまた、高度に豊富な形質細胞集団を提供することができる。
【0103】
これは、例えばCD138などの細胞表面マーカーを入手できない例えばウシ、ウサギ、ヒツジなどの動物種およびヒトにさえ特に重要である。マーカーは、他の種の特定B細胞集団を選択するために利用できる(例えば、http://www.miltenyibiotec.com/en/PG_91_625_CD138_Plasma_Cell_Isolation_Kit.aspx;Klein et al.,Human immunoglobulin(Ig)M+IgD+ peripheral blood B−cells expressing the CD27 cell surface antigen carry somatically mutated variable region genes:CD27 as a general marker for somatically mutated(memory)B cells,(1998)J.Exp.Med.,188,(9),1679−89;Denham et al.,Monoclonal antibodies putatively identifying porcine B cells,(1998)Vet Immunol Immunopathol. 30;60(3−4):317−28;Boersma et al.,Summary of workshop findings for porcine B−cell markers,(2001)Vet.Immunol Immunopathol.,80,(1−2),63−78;Naessens,Surface Ig on B lymphocytes from cattle and sheep,(1991)Int.Immunol.,9,(3),349−54;Sehgal et al.,Distinct clonal Ig diversification patterns in young appendix compared to antigen−specific splenic clones,(2002)J.Immunol.,168,(11),5424−33を参照されたい)。
【0104】
単離された形質もしくは記憶細胞集団からのmRNA単離に続いて、cDNA(HCAbもしくはVHドメイン単独のいずれかを表す)が最適発現ベクター内にクローニングされ、ベクターは重鎖のみの抗体またはVH融合タンパク質を発現させるために標的細胞集団内にトランスフェクトされる。抗原特異的重鎖のみの抗体を発現する細胞は、例えば、細胞系を引き出すための96ウエルフォーマットもしくはマイクロアレイフォーマットの標準Elisaによって、または蛍光活性化セルソーティング(FACS)を使用して選択することができる。
【0105】
好ましくは、プロセスの効率を最大化するために、発現ベクターは最初に細菌内にトランスフェクトされ、発現ベクター内にクローニングcDNAを含有するコロニーが96ウエル(またはその他の自動化可能なハイスループット)フォーマットに採取され、96ウエルフォーマット内で増殖させられ、DNAが同一フォーマット内で単離される。プラスミドDNAは、引き続いて同一フォーマットで発現細胞(例、HEK細胞もしくは酵母など)内にトランスフェクトされ、トランスフォーマントは同一96ウエルフォーマット内で増殖させられる。細胞の上清は引き続いて抗原結合について同一フォーマット(または別の、例えばより少量の抗原を使用するマイクロアレイなどの好ましくはより高密度の)内で試験される。抗原陽性HCAb発現細胞は、次にさらに増殖させられ、陽性cDNAはより詳細な特性解析、例えば配列分析のためにその中でDNAが調製されるオリジナルの96ウエルフォーマットから入手することができる、または関連VHドメインは異なる主鎖上、例えば同一種もしくは異なる種からの相違する定常領域上に直ちにクローニングすることができる。DNAは、さらにまた他の細胞系を確立するために他の細胞タイプ内に直ちにトランスフェクトすることもできる。
【0106】
高親和性抗体を発現する細胞系は、次に増殖させ、細胞バンクを確定し、研究目的または将来の実現性に向けた前臨床試験もしくは臨床試験のための標的重鎖のみの抗体の起源として使用できる。そこで、本方法は、標的抗原に特異的に結合する重鎖のみの抗体またはVH融合タンパク質を産生する選択された細胞系を維持する工程をさらに含む。
【0107】
この直接クローニング法は、1ウエルに付き単一CD138+細胞が使用される正常トランス遺伝子由来テトラマー抗体のためにさらに有益な可能性がある。重鎖および軽鎖のための(豊富な)mRNAコード化は、鎖特異的プライマーを使用して別個にPCR増幅され、各々は次に発現ベクター内にクローニングされる。これら2つのコトランスフェクションは、重鎖のみの抗体について記載した方法と同一方法で同定できるテトラマー抗体の発現を生じさせる。
【0108】
当業者であれば最適な発現ベクターについて習熟していて、最適細胞タイプにおいて効率的な重鎖のみの抗体またはVH融合タンパク質発現を引き出すように設計される。分泌が意図される場合は、ベクターはアミノ末端で単一ペプチドを取り込むことになる。細胞表面発現が意図される場合は、カルボキシル末端では疎水性ペプチド配列もまた存在し得る。好ましくは、しかし必須ではないが、当該のアミノおよびカルボキシルペプチドは、哺乳動物重鎖免疫グロブリンから引き出すことができる。ベクターは、抗原特異的重鎖のみの抗体からクローニングされた可溶性VHドメインを融合タンパク質として生成できるようにカセットフォーマットで設計される。結果として生じる融合タンパク質は重鎖のみの抗体であってよく、可溶性VHドメインおよび最適な重鎖エフェクタードメインを含むことになる。可溶性VHドメインおよび選択されたエフェクタードメインがヒト起源である場合は、結果として生じる融合タンパク質は、エフェクター領域(例、IgM、IgG、IgA、IgEまたはIgD)の選択によって規定されたクラス(およびサブタイプ)のヒト重鎖のみの抗体である。任意の重鎖のみの抗体では、可溶性VHドメインおよび定常エフェクター領域は、ヒンジ領域によって結合される。好ましくは、しかし必須ではないが、これは適切なクラスもしくはサブタイプから引き出された天然重鎖免疫グロブリンヒンジ領域である。
【0109】
例えば脾臓全体から引き出された材料を使用するファージディスプレイ法またはハイブリドーマなどの他の方法に比較した上記の方法の利点は、本方法が現時点では未知のインビボ選択プロセス後に形質もしくは記憶細胞内で生成された高親和性重鎖のみの抗体(10nmol以上)を選択する。当該のB細胞集団は、可溶性であり、細胞内区画(当該の蓄積はさもなければアポトーシスを引き起こす)内で蓄積しない重鎖のみの抗体(HCAb)を産生する。当該のHCAbは、例えば特にHEKまたはCHOなどの株化哺乳動物細胞系内の標準発現系を使用して効率的に発現させることができる。トランスフェクト細胞は、次に確立された技術、典型的には自動化できるマイクロウエルフォーマット(例、96ウエル)を使用して配列することができる。高親和性HCAb抗原結合剤、または規定範囲の親和性で抗原に結合するHCAbを発現するそれらの細胞を次にその後の分析のために選択することができる。または、高親和性結合剤は、FACS分析によって選択できる。HCAb mRNAの起源として抗原特異的HCAbを発現する、1つ以上の抗原チャレンジされたトランスジェニック非ヒト動物、例えばマウス由来の記憶細胞もしくは形質細胞の使用は、HCAb選択のための極めて効率的な経路を提供し、その後の分析のための潜在的に数百万個のHCAb産生細胞の選択を許容する。高親和性HCAb抗原結合剤を発現する選択された細胞は、次に培養内で増殖させることができ、追加のクローニング工程の非存在下でHCAb産生細胞の起源を提供する。
【0110】
任意選択的に、単離された長寿命形質細胞または記憶B細胞は、抗原特異的重鎖のみの抗体またはVHドメインのmRNA単離およびクローニングの前に不死化することができる。
【0111】
本発明は、優性選択的マーカー遺伝子を包含するトランスジェニック重鎖遺伝子座または重鎖のみの遺伝子座(CH1機能性が欠けている)を有するトランスジェニック非ヒト哺乳動物もまた提供する。2つ以上の選択的マーカーの包含もまた意図されていて、各マーカーは相違する遺伝子座もしくは遺伝子座群に結合し、重鎖のみの抗体を発現することのできるまた別の遺伝子座もしくは遺伝子座群とは対照的に1つを発現するハイブリドーマの優先的選択を許容する。
【0112】
相違する遺伝子座上の複数の選択的マーカーの使用は、トランスジェニック非ヒト哺乳動物が多数の重鎖のみの遺伝子座を有する場合は、これらの遺伝子座が対立遺伝子排除を受けるという発見に基づいている(PCT/IB2007/001491を参照されたい)。このため、抗原チャレンジ後には、1つの遺伝子座だけが確率的に選択され、うまく組み換えられ、重鎖のみの抗体の産生が生じる。このため、同一トランスジェニック非ヒト哺乳動物において多数のVH重鎖のみの遺伝子座を使用すると、哺乳動物から得ることのできる抗体レパートリーおよび多様性を最大化することができる。抗原を用いてチャレンジした場合は、トランスジェニック非ヒト哺乳動物は遺伝子座において、任意の所定の遺伝子座は好まないが、組み換えの1つが「再現性」となるまで、すなわち抗体の生成を生じるまで次々にランダム組み換えを実施する。その後の組み換えは停止させられ、それにより他の対立遺伝子(遺伝子座)を「除外」する。高親和性抗体を産生する細胞が優先的に増殖させられる。
【0113】
典型的には、優性選択的マーカー遺伝子は原核細胞起源であり、例えばピューロマイシン、ハイグロマイシンおよびG418などの毒性薬物に対する耐性を付与する、または例えばインドールからトリプトファンへの転換もしくはヒスチジノールからヒスチジンへの転換のようにそれらの発現が毒性物質を必須アミノ酸に転換させるような、所定の栄養要件を取り除く遺伝子を含むいずれかである群から選択できる。必要な要件は、優性選択的マーカーが使用された場合は、優性選択的マーカーが所望の重鎖のみの免疫グロブリン対立遺伝子と共発現され、そこでトランスジェニック遺伝子座のB細胞発現および統合部位非依存性発現を保証することである。または、薬物耐性遺伝子は、ES細胞もしくは核移植手法と組み合わせた同種組み換えを使用して内因性または外因性(トランスジェニック)免疫グロブリン遺伝子座内に挿入することができる。
【0114】
したがって、モノクローナル抗体を生成するための方法であって、好ましくは非ヒトトランスジェニック哺乳動物中に存在する多数の重鎖のみの遺伝子座の1つを含む規定免疫グロブリン重鎖のみの遺伝子座を発現する記憶または形質細胞に由来するハイブリドーマまたは形質転換B細胞系の選択を必要とし、前記遺伝子座は前記遺伝子座内に挿入された共発現した優性選択的マーカー遺伝子を含む方法が提供される。
【0115】
好ましくは、遺伝子座は、優性選択的マーカー遺伝子を含む重鎖のみの遺伝子座であり、遺伝子座は重鎖のみの抗体を発現する。好ましくは、重鎖のみの抗体は、CH1機能性が欠けるように遺伝子工学により作製された内因性重鎖のみの遺伝子座から、任意選択的に免疫グロブリン軽鎖遺伝子発現の非存在下で生成される。前記遺伝子座は、軽鎖遺伝子座の非存在下で優性選択的マーカーおよび重鎖遺伝子座をさらに含むことができ、前記重鎖遺伝子は、発現すると、自然にCH1機能性が欠けるmRNA転写体を生じさせ、結果としてB細胞依存性方法で重鎖のみの抗体発現を生じさせる。
【0116】
本発明の第3態様によると、ハイブリドーマもしくはB細胞形質転換手法が形質もしくは記憶細胞の不死化のために意図される場合は、各重鎖遺伝子座内の機能的優性選択的マーカー遺伝子の包含は、関心遺伝子座を発現しないハイブリドーマ細胞もしくは形質転換B細胞全部を消失しながら、抗原チャレンジ後の当該の遺伝子座を発現するハイブリドーマまたは形質転換B細胞系の引き続いての選択および安定性維持を許容する。本発明のためには、任意の優性選択的マーカー遺伝子は、遺伝子の発現が選択的、例えば毒性チャレンジの存在下でハイブリドーマに選択的利益を付与することを前提に使用できる(Vara et al.(1986)NAR,14,4617−4624;Santerre et al.(1984)Gene,30,147−156;Colbere−Garapin et al.(1981)150,1−14;Hartmann and Mulligan(1988)PNAS,85,8047−8051を参照されたい)。
【0117】
異種重鎖のみの遺伝子座
本発明の状況では、用語「異種」は、その中にそれが所在する哺乳動物にとって内因性ではない本明細書に記載したヌクレオチド配列もしくは遺伝子座、または内因性配列の置換もしくは除去によって修飾されている内因性遺伝子座を意味する。
【0118】
本発明の状況における「重鎖のみの遺伝子座」は、任意選択的に1つ以上の重鎖エフェクター領域(各々がCH1ドメイン機能性に欠ける)に機能的に結合した、1つ以上のV遺伝子セグメント、1つ以上のD遺伝子セグメントおよび1つ以上のJ遺伝子セグメントを含むVHドメインをコードする遺伝子座に関する。
【0119】
V遺伝子セグメントの複雑性は、遺伝子座内に存在するV遺伝子セグメントの数を増加させる、または各々が相違するV遺伝子セグメントを含む、相違する遺伝子座を使用することによって増加させることができる。
【0120】
好ましくは、重鎖のみの遺伝子座は、任意の脊椎動物種由来の5〜20個の相違するV遺伝子セグメントを含んでいる。
【0121】
好ましくは、V遺伝子セグメントは、ヒト起源であり、改良された可溶性のために任意選択的に選択または遺伝子工学により作製される。
【0122】
好ましくは、重鎖のみの遺伝子座は、2〜40(2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、30または40)個以上のD遺伝子セグメントを含んでいる。D遺伝子セグメントは、任意の脊椎動物種由来であってよいが、最も好ましくは、D遺伝子セグメントは、ヒトD遺伝子セグメント(通常は25個の機能的D遺伝子セグメント)である。
【0123】
好ましくは、重鎖のみの遺伝子座は、2〜20(2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18または20)個以上のJ遺伝子セグメントを含んでいる。J遺伝子セグメントは、任意の脊椎動物種由来であってよいが、最も好ましくは、J遺伝子セグメントは、ヒトJ遺伝子セグメント(通常は6個のJ遺伝子セグメント)である。
【0124】
好ましくは、重鎖のみの遺伝子座は、2個以上のV遺伝子セグメント、25個の機能的ヒトD遺伝子セグメントおよび6個のヒトJ遺伝子セグメントを含んでいる。
【0125】
用語「V遺伝子セグメント」は、例えば可溶性などの改良された特性のために任意選択的に選択され、突然変異または遺伝子組み換えされている、ラクダ科動物およびヒトを包含する脊椎動物に由来する天然型V遺伝子セグメントを包含する。V遺伝子セグメントは、例えばサメなどの他の脊椎動物種(Kokubu et al.(1988)EMBO J.,7,3413−3422を参照されたい)においても見いだされる、または例えば抗体軽鎖VLレパートリーもしくはT細胞受容体VHレパートリーの進化において例証される結合タンパク質の様々なVH様ファミリーを提供するように進化してきた。
【0126】
V遺伝子セグメントは、核酸が発現させられるときに重鎖のみの抗体を生成するために、本発明によってD遺伝子セグメント、J遺伝子セグメントおよび重鎖定常(エフェクター)領域(数個のエクソンを含むことができるが、CH1エクソンは除外する)を用いて組み換えることができなければならない。
【0127】
本発明によるV遺伝子セグメントは、本明細書に規定した重鎖のみの抗体を生成するために、本発明によるD遺伝子セグメント、J遺伝子セグメントおよび重鎖定常エフェクター領域(1つ以上のエクソンを含むが機能的CH1エクソンを含まない)を用いて組み換えることのできるホモログ、誘導体もしくはタンパク質フラグメントをコードする任意の遺伝子配列をその範囲内にさらに包含する。重鎖定常エフェクター領域は、免疫グロブリン重鎖遺伝子座が免疫グロブリン軽鎖遺伝子発現の欠ける宿主動物バックグラウンドで発現する状況下でCH1ドメインを含むことができる。
【0128】
そこで、VHコーディング配列は天然型起源から引き出すことができる、またはVHコーディング配列は当業者であれば習熟している方法を使用して遺伝子組み換えまたは合成することができる。
【0129】
本発明の状況における「可溶性VHドメイン」は、上記に規定したD遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントを用いて組み換えた場合のV遺伝子セグメントの発現産物を意味する。親HCAbの自然選択および親和性成熟後には、増殖および単離後に本明細書で使用したような可溶性VHドメインは凝集の非存在下で溶液中に残留し、可溶性を維持するための任意の他の因子の必要を伴わずに生理学的媒体中で活性である。可溶性VHドメイン単独は、さらにまた標的化治療および診断目的のための融合タンパク質を産生するための様々なタンパク質ドメインを用いて、例えば毒素、酵素およびイメージング剤を用いて、またはインビボでの可溶性VHドメインの薬物動態および組織分布を操作するためのアルブミンなどの血中タンパク質を用いて遺伝子工学により作製することもできる(US5,843,440およびSmith et al.(2001)Bioconjugate Chem.,12,750−756を参照されたい)。
【0130】
本発明の状況では、用語「D遺伝子セグメント」および「J遺伝子セグメント」は、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントの自然型配列を包含する。好ましくは、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、それにV遺伝子セグメントが由来する同一脊椎動物に由来する。例えば、V遺伝子セグメントがヒトに由来する場合は、その後に溶解または遺伝子組み換えされ、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、好ましくは同様にヒトに由来する。または、V遺伝子セグメントは、例えばラットまたはマウスに由来してよく、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、ラクダまたはヒトに由来してよい。
【0131】
用語「D遺伝子セグメント」および「J遺伝子セグメント」は、さらにそれらの範囲内に結果として生じるセグメントが、本明細書に記載した重鎖のみの抗体を生成するために本明細書に記載した重鎖抗体遺伝子座の残りの成分を用いて組み換えることのできるその誘導体、ホモログおよびフラグメントも包含する。D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは天然型起源に由来してよい、またはD遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、当業者であれば習熟していて本明細書に記載した方法を使用して合成することができる。D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、CDR3多様性を増加させる目的で既定の追加のアミノ酸残基または既定のアミノ酸置換もしくは欠失を組み込むことができる。
【0132】
V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、組み換えできる、および好ましくは体細胞変異を受ける。
【0133】
V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、好ましくは単一脊椎動物種に由来する。これは任意の脊椎動物種であってよいが、好ましくはヒトである。
【0134】
顕著な特徴である配列は、ラクダ科動物VHHドメイン内には存在するが可溶性VHドメイン内には存在しない4つの明確に規定された生殖細胞系コード化アミノ酸配列置換(VHH四分子)である。これらは全部が、二次フレームワーク領域内に存在し、以前の軽鎖界面の疎水性を減少させるために機能する。Glu−44およびArg−45は正常VHドメイン内の低親水性Gly−44およびLeu−45の場所で見いだされるが、位置47での親水性はTrpとより小さな残基との置換によって増加する。第4の変化には、Val−37とPheまたはTyrとの置換を必要とする。
【0135】
重鎖定常領域
操作上、重鎖定常領域は、B細胞内でV遺伝子セグメント、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントを用いて組み換えることのできる天然型または遺伝子工学により作製された遺伝子セグメントによってコードされる。好ましくは、重鎖定常領域は、1つの抗体遺伝子座に由来する。
【0136】
各重鎖定常領域は、本質的に、重鎖のみの抗体の生成が発生させられるように機能的CH1ドメインを用いずに発現する、少なくとも1個の重鎖定常領域遺伝子を含んでいる。内因性免疫グロブリン軽鎖遺伝子発現の非存在下では、その後は重鎖定常領域は、重鎖遺伝子発現中に低頻度で自然に欠失する可能性があるCH1機能性を含む場合がある。各重鎖定常領域は、Cδ、Cγ1−4、Cμ、CεおよびCα1〜2からなる群から選択される1つ以上の追加の重鎖定常領域エクソンをさらに含むことができる。重鎖定常領域遺伝子セグメントは、好ましいクラスまたは必要とされる抗体クラスの混合物に依存して選択される。任意選択的に、異種重鎖遺伝子座は、Cμ−およびCδ−欠損性である。
【0137】
例えば、CH1が欠けている異種重鎖Cγ遺伝子座の全部もしくは一部は、異種IgG遺伝子座内に存在するIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4イソタイプに依存して、任意選択的に一部または全部のIgGイソタイプを産生する。
【0138】
または、抗体の選択された混合物を得ることができる。例えば、IgAおよびIgMは、重鎖定常領域がCαおよびCμ遺伝子を含む場合に得ることができる。
【0139】
トランスジェニック遺伝子座内に存在する重鎖定常領域はヒト起源であってよいが、インビボでの抗原応答を最大化できるように宿主動物の重鎖定常領域と同一、または密接に関連していてよい。そこで、ヒトにおける治療用途に使用すべき重鎖のみの抗体または可溶性VHドメインを引き出すためには、遺伝子座内に存在するVDJ遺伝子は、任意選択的に修飾されたヒト生殖細胞系配列に由来する、および定常領域は、宿主動物が齧歯類、例えばマウスである場合は、齧歯類起源であってよい。可溶性ヒトVH結合ドメインおよび齧歯類定常エフェクター領域を含む選択された重鎖のみの抗体は、次にクローニングし、齧歯類エフェクター領域を最適なヒト定常領域、または代替VH融合タンパク質、VHドメイン抗体複合体などを引き出すために使用される可溶性VHドメインによって置換することができる。
【0140】
重鎖のみの抗体が獣医学もしくはまた別の目的に使用されなければならない場合は、V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、好ましくは所定の目的に最も適合する脊椎動物または哺乳動物から引き出される。例えば、V遺伝子セグメントならびにD遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントは、所定の使用、例えば獣医学、工業、農業、診断もしくは試薬用途に依存して、他の哺乳動物(例、マウス、ラット、ブタ、乳牛、ヤギ、ヒツジ、ラクダなど)に由来してよい。
【0141】
本明細書に規定した「重鎖定常領域エクソン」(「CHエクソン」)は、天然型脊椎動物、しかし特別には哺乳動物CHエクソンの配列を包含する。これは、クラス特異的方法で変動する。例えば、IgGおよびIgAは、自然にCH4ドメインが欠けている。用語「CHエクソン」は、CHエクソンが重鎖定常領域の構成成分である場合に本明細書に規定した機能的重鎖のみの抗体を形成することができる限り、その範囲内にCHエクソンの誘導体、ホモログおよびフラグメントも包含している。
【0142】
哺乳動物
本発明の方法において使用したトランスジェニック哺乳動物は、ヒトではない。トランスジェニック哺乳動物は、好ましくは、例えばウサギ、モルモット、ラットまたはマウスなどの齧歯類である。マウスおよびラットが特に好ましい。また別の哺乳動物、例えばヤギ、ブタ、蓄牛、ヒツジ、ネコ、イヌまたはその他の動物もまた使用できる。
【0143】
好ましくは、生殖細胞系に統合された異種重鎖のみの抗体を含むトランスジェニック動物は、確立された卵母細胞注入技術、および確立されていればES細胞技術、iPS細胞技術または核移植(クローニング)技術を使用して生成される。または、遺伝子座は上記の細胞内または受精卵中にジンクフィンガー・ヌクレアーゼ(Remy et al.(2009),2009 Sep 26.[Epub ahead of print],Kandavelou et al.(2009)Biochem.Biophys.Res.Commun.;388,(1),56−61)または組み換え酵素技術(例、Sakurai et al.(2010)Nucleic Acids Res.,Jan 13[Epub ahead of print]およびその中の参考文献など)、例えばcreなどを使用して直接的に導入することができる。
【0144】
ES細胞における標準同種組み換えは、CH1機能性を内因性重鎖遺伝子から排除するため、および内因性重鎖遺伝子座から重鎖のみの抗体の生成を結果として生じさせる、内因性V遺伝子セグメントもしくはD遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメント内のエレメントもしくは配列と置換するためにも使用できる。
【0145】
有益にも、異種重鎖のみの遺伝子座トランス遺伝子発現は、哺乳動物にとって内因性である抗体重鎖遺伝子座が欠失もしくはサイレンシングされる場合、または内因性抗体を生成するために低下した能力を有する場合に増強される。内因性宿主重鎖遺伝子座がCH1機能性を排除するために遺伝子組み換えされ、VDJおよび任意選択的に定常エフェクター領域が他の種、好ましくはヒト由来の配列によって置換されている場合は、それ以上のトランスジェニック重鎖遺伝子座の添加は不必要である。
【0146】
上述した重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインを生成するこの手法は、ヒトの治療使用のための凝集体を含まない可溶性抗体および抗体複合体の生成において特に有用な可能性がある。このため、また別の態様では、本発明は、抗原チャレンジに応答して本発明による異種重鎖遺伝子座を発現するトランスジェニック哺乳動物を提供する。
【0147】
抗体産生細胞は、本発明によるトランスジェニック動物に由来してよく、例えば、好ましい実施形態では、記憶細胞もしくは長寿命形質細胞の回収のためだけではなく、さらにハイブリドーマから、もしくは本明細書に規定したアレイ手法によって重鎖のみの抗体の生成のために使用できる。さらに、または、重鎖のみの抗体および/または可溶性VHドメインをコードする核酸配列は、抗原チャレンジ後の本発明によるトランスジェニック哺乳動物のB細胞、特別には記憶細胞もしくは長寿命形質細胞から単離し、可溶性VHドメイン重鎖のみの抗体、可溶性二重特異的/二重機能的VHドメイン複合体、または可溶性VHドメインポリタンパク質(WO99/23221)を生成するために当業者であれば習熟している組み換えDNA技術を用いて使用できる。
【0148】
または、もしくは加えて、ポリクローナル抗原特異的重鎖のみの抗体は、本発明によるトランスジェニック動物の免疫によって生成することができる。
【0149】
そこでまた別の態様では、本発明は、本発明によるトランスジェニック哺乳動物を1つの抗原で免疫する工程によって高親和性重鎖のみの抗体を生成するための方法を提供する。
【0150】
本発明のこの態様の好ましい実施形態では、哺乳動物は、齧歯類、好ましくはマウスまたはラットである。
【0151】
重鎖のみの抗体および可溶性VHドメイン融合タンパク質の生成
重鎖のみの抗体および可溶性VHドメイン融合タンパク質のための生成系には、大量飼育技術に適合した培養中の哺乳動物細胞(例、CHO細胞)、植物(例、トウモロコシ)、トランスジェニックヤギ、ウサギ、蓄牛、ヒツジ、ニワトリおよび昆虫の幼虫が包含される。ウイルス感染症(例、昆虫の幼虫および細胞系におけるバキュロウイルス)を包含するその他の生成系は、細胞培養および生殖細胞系手法の代替物である。当業者であれば、その他の生成法にも習熟していると思われる。重鎖のみのIgAまたはIgM組立体に対する要件がある場合は、「J鎖」の共発現は有益な場合がある。重鎖のみの抗体もしくは可溶性VH結合ドメイン単独、またはVH結合ドメイン複合体を生成するための適切な方法は、当技術分野において公知である。例えば、VH結合ドメインおよびVH結合ドメイン複合体は細菌系中で生成され、重鎖のみのホモダイマーはハイブリドーマおよびトランスフェクト哺乳動物細胞内で生成されてきた(Reichmann and Muyldermans,(1999)J.Immunol.Methods,231,25−38を参照されたい)。
【0152】
ファージディスプレイ法を使用して誘導された、遺伝子工学により作製されたヒトVH結合ドメインを発現させるための方法もまた明確に確立されている(Tanha et al.(2001)J.Biol.Chem.,276,24774−24789およびその中の参考文献を参照されたい)。
【0153】
本発明は、異種重鎖遺伝子座、本発明の重鎖のみの抗体をコードする単離されたポリヌクレオチドおよび異種重鎖遺伝子座を含むベクター、もしくはそのフラグメント、または本発明による重鎖のみの抗体をコードする単離されたポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチド配列をさらに提供する。本発明は、可溶性VHドメインおよびVHドメイン融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列ならびに当該配列を含むベクターをさらに提供する。
【0154】
本発明は、異種重鎖のみの遺伝子座、もしくはそのフラグメント、または本発明による重鎖のみの抗体、可溶性VHドメイン、もしくはVHドメイン融合タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドを用いて形質転換された宿主細胞をさらに提供する。
【0155】
本発明の重鎖のみの抗体、可溶性VHドメイン、VHドメインポリペプチド複合体およびポリタンパク質の使用
本発明の高親和性の可溶性重鎖のみの抗体、VHドメイン融合タンパク質、VHドメインポリペプチド複合体および可溶性VHドメインは、腸管外および非腸管外両方の薬物として使用するために特に適合する。本発明の状況内では、好ましくはこれらは完全にヒト起源であるが、任意選択的に、そして余り優先的ではないが他の動物種からのV、DまたはJ遺伝子セグメントを含むこともできる。
【0156】
本発明の可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメインおよび可溶性VHドメイン結合複合体およびポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体の増強された可溶性は、療法に加えて試薬および診断薬として使用するために特に適合する。
【0157】
全部がヒトにおける製薬学的用途のために適合するので、そこで本発明は、可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメインおよび可溶性VHドメイン結合複合体または可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体を含む医薬組成物を提供する。本発明は、疾患を予防および/または治療するための医薬品の調製における本発明の可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメインおよび可溶性VHドメイン結合複合体または可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体の使用をさらに提供する。
【0158】
医薬組成物および医薬品は、典型的には患者に投与する前に調製される。
【0159】
例えば、可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメインおよび可溶性VHドメイン結合複合体または可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体は、特にそれらが凍結乾燥されなければならない場合は、安定剤と混合することができる。糖類(例、マンニトール、スクロースもしくはトレハロース)の添加は、典型的には凍結乾燥中の安定性をもたらし、好ましい安定剤は、マンニトールである。ヒト血清アルブミン(好ましくは組換体)もまた安定剤として添加することができる。糖類の混合物、例えばスクロースとマンニトールとの混合物、トレハロースとマンニトールとの混合物もまた使用することができる。
【0160】
組成物には、例えばTrisバッファー、ヒスチジンバッファー、グリシンバッファー、または好ましくは、リン酸バッファー(例、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウム)などのバッファーを添加できる。7.2〜7.8のpH、および特に約7.5のpHをもたらすバッファーの添加が好ましい。
【0161】
凍結乾燥後の再構成のためには、注射用無菌水を使用できる。ヒト血清アルブミン(好ましくは組換体)を含む水性組成物を用いて凍結乾燥ケーキを再構成することもまた可能である。
【0162】
一般に、可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメイン、可溶性VHドメイン結合複合体または可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体は、薬学的に適切な担体と一緒に精製形で利用される。
【0163】
そこで本発明は、患者を治療するための方法であって、本発明の医薬組成物を患者に投与する工程を含む方法を提供する。患者は好ましくはヒトであり、小児(例、幼児または乳児)、ティーンエージャーもしくは成人であってよいが、一般には成人である。
【0164】
本発明は、医薬品として使用するための本発明の可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメイン、可溶性VHドメイン結合複合体および可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体をさらに提供する。
【0165】
本発明は、患者を治療するための医薬品の製造における本発明の可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメイン、可溶性VHドメイン結合複合体および可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体の使用をさらに提供する。
【0166】
これらの使用、方法および医薬品は、好ましくは、創傷治癒;悪性腫瘍、黒色腫、肺癌、結腸直腸癌、骨肉腫、直腸癌、卵巣癌、肉腫、頸癌、食道腫瘍、乳癌、膵臓癌、膀胱癌、頭頸部癌およびその他の充実性腫瘍を包含する細胞増殖性障害;例えば白血病、非ホジキンリンパ腫、白血球減少症、血小板減少症、血管新生障害、カポジ肉腫などの骨髄増殖性障害;アレルギー、炎症性腸疾患、関節炎、乾癬および気道炎症、喘息、免疫障害および臓器移植片拒絶反応を包含する自己免疫/炎症性障害;高血圧、浮腫、心筋症、アテローム硬化症、血栓症、敗血症、ショック状態、再潅流障害、および虚血を包含する心血管および血管障害;中枢神経系疾患、アルツハイマー病、脳損傷、筋萎縮性側索硬化症、および疼痛を包含する神経障害;発達障害;真性糖尿病、骨粗鬆症、および肥満症を包含する代謝障害;AIDSおよび腎疾患;ウイルス感染、細菌感染、真菌感染および寄生虫感染を包含する感染症;胎盤に関連する病理学的状態およびその他の病理学的状態を包含するがそれらに限定されない疾患または障害の治療のため、ならびに免疫療法において使用するためである。
【0167】
さらにまた別の態様では、本発明は、診断用、予後用、もしくは治療用イメージング剤単独、または適切なエフェクター剤と組み合わせた、本発明の可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメイン、可溶性VHドメイン結合複合体または可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体の使用を提供する。
【0168】
本発明は、本明細書で細胞内結合試薬、または抗体酵素として記載した可溶性VHドメイン、単離された可溶性VHドメイン、可溶性VHドメイン結合複合体または可溶性VHドメインポリタンパク質を含む重鎖のみの抗体の使用を提供する。好ましいのは、抗原特異的な可溶性VH結合ドメイン、可溶性VHドメイン結合複合体および可溶性VHドメインポリタンパク質である。
【0169】
本発明は、酵素阻害剤または受容体ブロッカーとしての本発明による抗原特異的重鎖のみの抗体または可溶性VH結合ドメインの使用をさらに提供する。好ましい重鎖のみの抗体フラグメントは、抗原特異的な可溶性VH結合ドメインである。
【0170】
本発明は、治療薬、イメージング剤、診断薬、抗体酵素または試薬として使用するためのエフェクター分子に融合した1つ以上の可溶性VHドメインの使用をさらに提供する。
【0171】
以下では本発明を例示するためだけに、添付の図面に関して以下で詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】1つは4個のVH遺伝子セグメントを有し、もう1つは18個のVH遺伝子セグメントを有する2つのヒト重鎖のみの免疫グロブリン遺伝子座を示す図である。18個のVH遺伝子セグメントを含む遺伝子座は、正常ヒト四価抗体におけるVH遺伝子セグメント使用の90%超に及ぶマウス定常エフェクター領域(−CH1)を含んでいる。
【図2】ファージディスプレイ法によるヒトVHドメインまたは標準ハイブリドーマ法によるヒト重鎖のみの抗体についての免疫および単離プロトコールを示す図である。
【図3】Luk−sPVタンパク質のゲル電気泳動法、それのブロッティングおよびファージディスプレイスクリーンからの様々な陽性クローンを用いた検出を使用した、Luk−sPV免疫血清(野生型正常マウスと比較したV4)のElisa(上方)およびウエスタンブロット(下方)ならびに個別に単離されたVHドメインのウエスタンブロットを示す図である。
【図4】Luks−PVを用いた免疫後の2つのVHドメイン配列の実施例であり、これはIgG2およびIgG3の両方が生成されること(クラススイッチ)および同一VDJ再配列が相違する突然変異を生じさせることを証明する図である。
【図5】ヒトCR1を用いて免疫した後にV3−23遺伝子セグメントを使用して引き出されたVHドメイン配列であって、IgG2およびIgG3がどちらも生成されること(クラススイッチ)および同一VDJ再配列が、上に示したV3−23セグメントの生殖細胞系配列と比較した場合に相違する突然変異を生じさせることを示す図である。配列の一部は、ハイブリドーマ法によって得られ、残りは提示ライブラリー法によって得られた。
【図6】ヒトCR1を用いて免疫した後にV3−11遺伝子セグメントを使用して引き出されたVHドメイン配列であって、IgG2およびIgG3がどちらも生成されること(クラススイッチ)および同一VDJ再配列が、上に示したV3−11セグメントの生殖細胞系配列と比較した場合に相違する突然変異を生じさせることを示す図である。配列の一部は、ハイブリドーマ法(矢印)によって得られ、残りは提示ライブラリー法によって得られた。
【図7】SUMOハイブリッドタンパク質系(InVitrogen社)における精製および発現後のVHドメイン(αCR1)のゲル電気泳動法(左)の実施例を示す図である。この実施例は、正しい分子量の3個の相違する長さのVHドメインを示している。マーカーレーンは左側である。中央のパネルは、Sephadex 75 Smartシステム上のVHドメインの溶出プロファイルを示している。右側のパネルは、同一であるがSephadex 200上の完全重鎖のみのIgGについてである。下のパネルは、>4mg/mLに濃縮させた2つの他のVHドメインの溶出プロファイルを示している。
【図8】A.光散乱プロットおよびB.VHドメインの熱安定性を示す図である。
【図9】多数のαCR1重鎖のみの抗体の親和性測定(左)ならびに結合親和性を得るためのOctet系上の抗体の1つの結合および解離プロファイルを示す図である。
【図10】多数の抗CR1 VHドメインの可溶性を示す図である。
【図11】好ましい突然変異を決定するための超並列シーケンシングを示す図である。
【図12】正常テトラマー重鎖/軽鎖抗体由来のラクダ、ラマおよびヒト重鎖由来の同一領域に比較したヒト重鎖のみの抗体(HCAb)のフレームワーク1(FR1)およびCDR1領域のボックス・プロット分析を示す図である。正味荷電はpH=7.4でHenderson−Hasselbach方程式によって決定され、正味疎水性は、pH=7.5でCowan−Whittaker指数によって決定された。様々な抗体の下の数字は、固有入力配列の数である。
【図13】正常テトラマー重鎖/軽鎖抗体由来のラクダ、ラマおよびヒト重鎖由来の同一領域に比較したヒト重鎖のみの抗体(HCAb)のフレームワーク2(FR2)およびCDR2領域のボックス・プロット分析を示す図である。正味荷電はpH=7.4でHenderson−Hasselbach方程式によって決定された、正味疎水性は、pH=7.5でCowan−Whittaker指数によって決定された。様々な抗体の下の数字は、固有入力配列の数である。
【図14】正常テトラマー重鎖/軽鎖抗体由来のラクダ、ラマおよびヒト重鎖由来の同一領域に比較したヒト重鎖のみの抗体(HCAb)のフレームワーク3(FR3)およびCDR3領域のボックス・プロット分析を示す図である。正味荷電はpH=7.4でHenderson−Hasselbach方程式によって決定され、正味疎水性は、pH=7.5でCowan−Whittaker指数によって決定された。様々な抗体の下の数字は、固有入力配列の数である。
【図15】ヒトCR1またはstaph.A(黄色ブドウ球菌)Luk−sPVのいずれかに結合するVHドメインの3D構造を示す図である。抗原結合部位は右上位置にあり、以前のVL相互作用ドメインはリーダーに面している。アミノ酸変化は、3D構造においてカラー表示されている。
【図16】重鎖のみの抗体、特別にはVHドメインのN末端においてより疎水性に向かうシフトを示している、VHドメインの各位置(CDR3を除く)での平均疎水性における相違を示す図である。疎水性の相違に関する多数のホットスポットは、平均ヒトテトラマーVHと比較して位置49、62および72で明白である。
【図17】CD138陽性細胞のソーティングによるヒトHCAbの免疫および単離プロトコールならびにHEK細胞内への直接発現クローニングを示す図である。
【図18】HCAbの哺乳動物細胞発現のためのベクターを示す図である。ベクターは、アンピシリン耐性遺伝子および哺乳動物耐性遺伝子(ハイグロマイシン)を備える標準pUC主鎖(図示していない)を有する。関連部分は、その後にKozakリボソーム結合部位、さらにVH3−23のシグナル配列が続く標準CMVエンハンサーおよびニワトリβ−アクチンプロモーター(InVitrogen社)を含有する。カセットの後部は、ヒンジおよびCH2ドメインから始まるIgG2またはIgG3いずれかの定常領域からなる。VH cDNAは、増幅後に矢印によって示されたプライマーを用いてこれら2つの領域間にクローニングされる。
【図19】HEK細胞内へのHCAbの直接発現クローニングの実施例および概要を示す図である。左上のパネルは、免疫されたマウスの内のどのマウスがHA抗原免疫に陽性に応答したのかを決定するための標準ELISAを示している(赤色で示したマウスはHEK細胞発現クローニングのために使用された)。右上のパネルは、96ウエルフォーマット内のトランスフェクトHEK細胞上で実施されたELISAの2つの実施例を示している。
【図20】3−11 VH生殖細胞系配列由来のELISA−陽性HCAbの配列分析を示す図である。
【図21】3−23 VH生殖細胞系配列由来のELISA−陽性HCAbの配列分析を示す図である。
【図22】Sephadex 200 Smartカラム上の完全重鎖のみのIgGの溶出プロファイルを示す図である。
【図23】Octet上の2個の抗HA HCAbについての親和性測定を示す図である。
【図24】ヒト抗CR1 HCAb(上記参照)、ヒトテトラマーおよびラマHCAbにおいて見いだされたものに比較した、抗HA HCAbのVH領域全体のアミノ酸を示す図である。
【図25】単一細胞ソーティング後のヒトHCAbの免疫および単離プロトコールならびにHEK細胞内への直接発現クローニングを示す図である。
【図26】単一細胞ソーティング後の正常テトラマーヒト重鎖および軽鎖抗体の免疫および単離プロトコールならびにHEK細胞内への直接発現クローニングを示す図である。
【実施例1】
【0173】
抗Luks−PV抗体の生成
Staph A由来のLuks−PVタンパク質を用いた免疫は、WO2006/008548に記載されたように、完全ヒト重鎖抗体遺伝子座を含有するトランスジェニックマウスにおいて実施する。これらのマウスは、ヒト重鎖D領域の全部、ヒトJH領域の全部ならびにヒトCγ2およびCγ3領域である4個のヒトVHセグメントを有する(図1)。
【0174】
CH1ドメインは、(Janssens et al.(2006)PNAS,103,15130−15135)に記載されたように、ヒト重鎖のみの抗体の産生を許容するためにヒトCγ定常領域から欠失させられている。マウスは、図2に略図で示したように標準プロトコールを使用して免疫し、抗体を単離する。
【0175】
マウスは、標準プロトコールによって4回免疫し、血清を標準ELISAによって陽性応答についてチェックする(図3)。
【0176】
免疫後、標準方法によって、脾臓細胞を収集し、mRNAを逆転写し、VHドメイン特異的プライマーを用いてcDNA内に増幅させる(例えば、Janssens et al.(2006)PNAS,103,15130−15135を参照されたい)。結果として生じたVHフラグメントをファージディスプレイベクター内にクローニングする。標準提示プロトコールによる3ラウンドのスクリーニングおよびパンニング後に、VHドメイン(VH−D−J)を細菌発現ベクター内にクローニングする。陽性クローンをウェスタンブロッティングによって確証し、クローニングDNAを引き続いて標準方法によってシーケンシングすると、図4に示したVHドメイン領域のアミノ酸配列定義が生じる。
【0177】
または、抗体は標準ハイブリドーマ法によって得ることができる。ファージディスプレイ法によって得られたVHドメインは、定常領域(例、CγではなくCα)に関して最適な完全重鎖のみの抗体を生成するために、標準クローニング法によって最適な重鎖定常エフェクター領域(CH1機能性が欠けている)上に遺伝子組み換えし戻すことができる。同様に、ハイブリドーマ法によって得られた重鎖のみの抗体は、標準cDNAおよびPCR技術によってクローニングアウトすることができる。これは、VHドメイン単独の単離を可能にする。
【0178】
そこで、どちらの手法も抗原特異的VHドメインまたは抗原特異的重鎖のみの抗体を引き出すために使用できる。
【実施例2】
【0179】
抗ヒトCR1抗体の生成
実施例2は、ヒト赤血球の表面上で通常発現するタンパク質である抗原としてCR1を用いて免疫を実施することを除いて、実施例1と極めて類似する。免疫は、さらにまたそれらの細胞表面上でヒトCR1を発現するマウス赤血球の注射によって実施した。相違する免疫の結果は、極めて類似する。免疫は、WO2006/008548に記載されたように、完全ヒト重鎖抗体遺伝子座を含有するトランスジェニックマウスにおいて実施する。これらのマウスは、ヒト重鎖D領域の全部、JH領域の全部ならびにヒトCγ2およびCγ3領域である4個のヒトVHセグメントを有する(図1)。
【0180】
CH1領域は、(Janssens et al.(2006)PNAS,103,15130−15135)に記載されたように、ヒト重鎖のみの抗体の産生を許容するためにヒトCγ定常領域から欠失させられている。マウスは、図2に略図で示したように標準プロトコールを使用して免疫し、抗体を単離する。
【0181】
免疫後、標準方法によって、脾臓細胞を収集し、mRNAを逆転写し、VHドメイン特異的プライマーを用いてcDNA内に増幅させる(例、Janssens et al.(2006)PNAS,103:15130−15135を参照されたい)。結果として生じたVHフラグメントをファージディスプレイベクター内にクローニングする。標準提示プロトコールによる3ラウンドのスクリーニングおよびパンニング後に、VHドメイン(VH−D−J)を細菌発現ベクター内にクローニングする。クローン化配列を引き続いて標準方法によってシーケンシングすると、結果として図5および6に示したVHドメイン領域が生じる。または、抗体は標準ハイブリドーマ法によって得ることができる(図5および6)。ファージディスプレイ法によって得られたVHドメインは、完全重鎖のみの抗体(例、CγではなくCα)を生成するために、標準クローニング法によって最適な定常エフェクター領域(CH1機能性が欠けている)上に遺伝子組み換えし戻すことができる。同様に、ハイブリドーマ法によって得られた重鎖のみの抗体は、そのVHドメイン単独の単離を可能にする標準cDNAおよびPCR技術によってクローニングアウトすることができる。そこで、どちらの手法も抗原特異的VHドメインまたは抗原特異的重鎖のみの抗体を引き出すために使用できる。
【実施例3】
【0182】
VHドメインおよび重鎖のみの抗体の発現、親和性および可溶性
実施例1および2のVHドメインは、大量の精製されたVHドメインを得るために細菌発現系内で発現させることができる。例えば、VHドメインは、SUMOハイブリッド発現系(InVitrogen社)を使用して細菌内のハイブリッドタンパク質として発現させることができる。精製されると、これらは変性ゲル電気泳動法ゲル上で単一フラグメントとして実行する(図7)。非変性条件下のSmart Sephadexクロマトグラフィーシステム上で実行させると、これらのVHドメインは主として正確な分子量を備える単一主要ピークとして実行し(図7)、可溶性凝集体の証拠はほとんど得られない。
【0183】
ハイブリドーマ上清由来の重鎖のみの抗体もまた主として単一主要ピークとして実行し、ピークの先端では小さなパーセンテージの抗体ダイマーの証拠が見られる。
【0184】
VHドメインの単一ピークはそれらが可溶性モノマーであることを示唆していて、これはスキャッタープロットを実行することによって確証されたが(図8A)、これは光散乱のピークが実行中のタンパク質吸収のピークと一致するためである。最後に、加熱された場合に、VHドメインは、標準円二色性分析によって測定すると55℃まで安定性である(図8B)。
【0185】
最後に、可溶性VHドメインおよびHCAbは、BiaCore(登録商標)およびOctetシステムを使用してそれらの結合親和性について試験した。得られた親和性は、低ナノモル範囲以上にあった(図9)。
【0186】
HCAb由来の多数のVHドメインは、さらにまた真空遠心分離によって収縮し、コロイド状物質を高速遠心分離によって除去した。これは最小推定値である溶解度数を生じさせたが、それは少量のサンプルがそれ以上の濃縮を妨害したためである。試験した全VHドメインは、4mg/mLを超える可溶性を示した(図10)。
【実施例4】
【0187】
突然変異パターンを決定するための大量シーケンシング
抗体結合Luk−sPV、CR1およびその他の抗原から収集した全配列の検査から、マウスB細胞において発現したHCAbトランス遺伝子に由来する可溶性ヒトVHドメインのVDJ組み換えおよび成熟(超変異)は、正常テトラマーヒト重鎖および軽鎖抗体由来のラクダおよびラマVHHドメイン、またはヒトVHドメインにおいて観察されたものとは極めて相違することが明白になった。このため、組み換えから超変異に至るプロセスを追跡するために、超並列シーケンシング(Roche 454シーケンシング)を実施した。このプロセスが実際に相違することを検証するため、そして抗体のどのパラメータおよび部分が特定VDJ組み換えの最初の選択後の高親和性の可溶性ヒト重鎖のみの抗体を生成するために重要であることを理解するために、これを使用した。結果は、このプロセスがどのように行われるのかについての概観を提供する(図11)。
【0188】
この分析は、マウスが、発現したトランス遺伝子のVHドメイン全体にわたって多種多様なアミノ酸置換を導入できることを示している。バルクは、CDR1およびCDR2の位置にある。しかし、置換は、FR1およびFR2内でも明白であり、FR3全体に分布している。CDR/FR界面領域は、置換にとってのホットスポットであると思われた。この分析から、突然変異プロセスが、位置およびアミノ酸置換に関して、ラクダVHHドメインおよび正常テトラマーヒト抗体内に存在するVHドメインにおいて見られるものとは極めて相違することが明白である。
【実施例5】
【0189】
テトラマー抗体に由来する可溶性VHドメイン、VHHドメインおよびVHドメイン中に存在する個別フレームワークおよびCDR領域の比較分析
可溶性ヒト抗原結合VHドメインの全突然変異を一覧表示し、相違する領域(FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3)をラクダ重鎖のみの抗体、ラマ重鎖のみの抗体および正常テトラマーヒト抗体から得られたヒトVHドメイン由来のVHHドメインと比較して分析した。
【0190】
この比較は、全部が文献および公衆抗体データベースから得られた、10の公知ラクダVHHドメイン配列、58の公知ラマVHHドメイン配列および正常テトラマー抗体に由来する4,000を超える公知のヒトVHドメイン配列を含んでいた。
【0191】
可溶性ヒトVHドメインのFR1領域(図12)は、ラクダおよびラマと比較した場合の正味荷電における増加ならびにラクダ、ラマおよび正常ヒトテトラマー抗体に由来するVHドメインと比較した疎水性の増加を示しているが、他方では荷電アミノ酸の数が増加している。
【0192】
CDR1領域(図12)は、ヒトテトラマー抗体、ラマおよびラクダVHHドメイン由来の等価のVHドメインと比較して、正味荷電における極めて小さな変化(ラマと比較してある程度の低下)および疎水性の増加を有する。荷電アミノ酸の数は、ほとんど有意ではない相違を示す。
【0193】
可溶性VHドメインのFR2領域(図13)は、ラクダおよびラマVHHドメインと比較した場合に正味荷電における相違がないこと、ならびにラクダおよびラマVHHドメインと比較した場合に疎水性の実質的増加を示すが、他方荷電アミノ酸の数はラクダおよびラマVHHドメインと比較して減少した。どちらの態様においても、テトラマー抗体に由来するヒトVHドメインとは類似である。CDR2領域(図13)は、ラクダおよびヒトテトラマー抗体より高いラマに類似する正味荷電、および他と極めて類似する疎水性を有するが、荷電アミノ酸の数はテトラマー抗体に由来するヒトVHドメインと類似するが、その他よりはある程度低い。
【0194】
可溶性VHドメインのFR3領域(図14)は、テトラマー抗体に由来するヒトVHドメインに比較した場合の正味荷電の増加およびテトラマー抗体に由来するヒトVHドメインに比較した場合の疎水性の低下を示すが、荷電アミノ酸の数はテトラマー抗体に由来するヒトVHドメインに比較して増加した。全部の態様で、ラクダおよびラマVHHドメインと類似である。可溶性VHドメインのCDR3領域(図14)は、ラマおよびラクダVHHドメインならびにテトラマー抗体に由来するヒトVHドメインと比較して減少した正味荷電を有するが、荷電アミノ酸の数はその他全部と比較して増加する。可溶性VHドメインのCDR3領域はラマVHHと極めて類似するが、正常ヒトテトラマー抗体および正常ラクダ四価抗体内に存在するVHドメインにおいて観察されるよりは低い疎水性を有する。
【0195】
この結果は、初期VDJ組み換えの内で、ヒトテトラマー(CDR3)抗体に比較した場合により高い数の荷電アミノ酸を備える組み換え事象の選択が存在することを示している。これにはCDR1およびCDR2領域内および全3個のフレーム領域(FR1、FR2、FR3)内の親和性成熟が続く。これは、ヒトテトラマー抗体に由来するヒトVHドメインと比較した場合に、FR1における疎水性の増加、しかしFR3における減少を有する可溶性VHドメインを備えるヒト重鎖のみの抗体を生じさせる。FR2またはCDR1およびCDR2領域においては極めて小さな相違がある。このため全パターンは、疎水性が、低可溶性で凝集する傾向があるテトラマー抗体に由来するVHドメインに比較して可溶性VHドメイン(FR1に向かって、FR3およびCDR3から離れるように移動する)全体にわたって様々に広がっていることを示している。この分析は、特定突然変異がVHドメインの特定位置もしくは領域内で作製されるかどうかについては示さないが(実施例6を参照されたい)、ラマおよびラクダVHHドメインならびにテトラマー抗体に由来するヒトVHドメインからそれらを識別する可溶性ヒトVHドメイン全体にわたる荷電分布および疎水性に関連する特徴があることを示している。
【実施例6】
【0196】
3D構造
実施例4の分析は、初期VDJ再配列後の可溶性ヒトVHドメインのフレーム領域(FR1、FR2、FR3)内の変化は、テトラマー抗体に由来するヒトVHドメインの三次元構造上に配置された場合に特定位置に主として焦点が合わされることを示した(図15)。
【0197】
可溶性ヒトVHドメイン内では、FR1突然変異は、アミノ酸13〜18に見られ、位置13での変化が優勢であり、これは正味荷電ではなく荷電アミノ酸の数が増加した場合でさえ、増加した疎水性を生じさせる。重要なことに、位置13の周囲での変化は、疎水性が増加する小ループ内に所在し、おそらくは可溶性を増加させる。
【0198】
可溶性ヒトVHドメインのFR2内には、ヒトテトラマー抗体に由来するVHドメインと比較した場合に、疎水性における全体的変化を伴わずに位置35の周囲の明白な焦点および位置50の周囲の明白な焦点がある。
【0199】
ヒトテトラマー抗体に由来するVHドメインに比較した可溶性VHドメインのFR3における変化は、CDR2領域の末端およびFR3の一番末端の周囲の(CDR3に直接隣接する)領域と一致する。
【0200】
HCAb由来の可溶性VHドメインにおいて観察されたこれらの変化をVHドメインの3D構造上に重ね合わせると、FR2突然変異が通常はテトラマー抗体におけるVHの表面とVLドメインとの相互作用を作り上げるβ−プリーツシート内で発生することが直ちに明白になる。FR1では、これらの変化は、さらにより疎水性のドメインも生じさせる。これらの結果は、VHドメインのN末端の半分がVHドメインの安定性/可溶性を増加させて軽鎖の非存在を補償するための増加した疎水性を有することを示唆している。これとは対照的に、C末端の半分は、低疎水性である。最も重要な変化は、疎水性パターンの「再分布」(N末端は高疎水性、C末端は低疎水性、図6)および以前の軽鎖界面に影響をおよぼすフレームワーク突然片を示したものである。
【0201】
マウス免疫系によって実施された特異的モチーフ内での疎水性の総合的シフトおよび変化は、高親和性の可溶性重鎖のみの抗体およびヒトテトラマー抗体に由来する凝集する可能性があるVHドメインからそれらを識別する可溶性重鎖のみの抗体および可溶性VHドメインの生成を可能にする。
【実施例7】
【0202】
ヒト抗HA抗体の生成および発現クローニング
実施例7で使用された免疫方法は、免疫を抗原としてインフルエンザHA(H3N2)を用いて実施することを除いて、実施例1および2に記載された通りである。免疫は、Janssens et al.(2006)PNAS,103,15130−15135に記載されたように、完全ヒト重鎖抗体遺伝子座を含むトランスジェニックマウス内へのタンパク質の注入によって実施する。これらのマウスは、ヒト重鎖D領域の全部、JH領域の全部ならびにヒトCγ2およびCγ3領域である4個のヒトVHセグメントを有する(図1)。
【0203】
CH1領域は、(Janssens et al.(2006)PNAS,103,15130−15135)に記載されたように、ヒト重鎖のみの抗体の産生を許容するためにヒトCγ定常領域から欠失させられている。マウスは、図17に略図で示したように標準プロトコールを使用して免疫し、抗体を単離する。
【0204】
免疫後、形質細胞を収集し、CD138抗原の存在および系統マーカーの非存在について標準方法によってソーティング(FACS)する(Sanderson et al.(1989)Cell Regulation 1,27−35;Kim et al.(1994)Mol.Biol.Cell,5,797−805を参照し、さらにMiltenyi Biotec社製のマウスCD138+形質細胞単離用磁気ソーティングキットを参照されたい)。標準方法によって、細胞を収集し、mRNAを逆転写し、VHドメイン特異的プライマーを用いてcDNA内に増幅させる(例、Janssens et al.(2006)PNAS,103:15130−15135を参照されたい)。使用したプライマーは5’末端上にあり、クローニングの目的でPvuII部位に導入するように設計されている(図18)。3’末端でのプライマーはIgG2またはIgG3 CH2ヒンジ領域からであり、BstEII部位を有するように設計されている。これが不可能である場合は、IgG3のためのプライマーはクローニング目的のSacI部位を含有している(図18)。結果として生じるVHフラグメントは、VHセグメントに特有のそのPvuII部位で終了するVH3−23のKozakおよびシグナル配列が続くCMVエンハンサーおよびニワトリβ−アクチンプロモーターを含有する2つの哺乳動物発現ベクター内にクローニングする。第1ベクターでは(図18)、これにCH2、CH3、終止コドンおよびポリA配列を伴うヒンジ領域(BstEII部位から)のヒンジ領域で始まるヒトIgG2が続く。第2ベクター内では、IgG2配列の全部が同等ヒトIgG3配列によって置換される。後者は、SacI部位を代替物として使用してBstEII部位を含有しないHCAbのクローニングを可能にする。プラスミドの残りは、pUCをベースとするプラスミド内の例えばハイグロマイシン耐性カセットなどの標準哺乳動物細胞選択可能マーカーを有している。明らかに、ヒトIgG2または3は、ヒトまたは任意の他の種由来の任意の他のCH1欠損性定常領域によって置換することができた。同等に明白に、ベクターのVH部分についても同一のことが当てはまる。cDNAは次にPvuIIおよびBstEII(またはPvuIIおよびSacI)部位の間にクローニングされ、ベクターは標準技術によって大腸菌(E.coli)内にトランスフェクトされる。コロニーは、細菌増殖培地を含有する96(または384)ウエル・マイクロタイタープレート内に取り上げる。プレート(典型的には>10)は、細菌が増殖することを可能にするためにインキュベートし、各ウエル内でDNAを調製する。各ウエル、すなわち各完全プレートからのDNAを引き続き、標準トランスフェクション試薬および方法によって形質転換のために哺乳動物HEK細胞(または発現目的のための他の細胞)を含有する新規な96ウエルプレートに添加する。形質転換細胞は、発現プラスミド(ハイグロマイシン)上に存在する選択マーカーに基づく選択下で増殖させる。発現した抗体を含有する培地は、引き続いて標準ELISAアッセイによって抗原特異的HCAbの存在について分析する。これは同一96ウエルフォーマットにおいて実施できるが、さらにまた、使用すべき抗原量を節約するために、例えばマイクロアレイによって他のフォーマットにおいて実施することもできる。陽性ウエルは、抗原特異的HCAbをコードするヒトHCAbを含有するプラスミドを直ちに同定する。図19は、免疫されたマウス由来の血清のELISAおよび96ウエルフォーマット内のトランスフェクトHEK細胞のELISAの実施例を示している。図1はさらにまた、100万分の1未満のcDNAが全部で960ウエルを使用した実験に使用されたHAクローニング実験を要約している。これは、2つのVH領域であるVH3−11(図21)およびVH3−23(図22)に由来する配列分析によって13群に分類される28種の抗原特異的抗体を産生した。IgG2(SSERKCCVE)およびIgG3(SSELKTPLG)の両方が使用され、VH領域は超変異を受けていて、そしてヒトに類似して、J4領域が最も頻回に使用されるが、その他もまた使用される。分泌されたHCAbは、標準SMARTカラム上での溶出プロファイルによって決定されたように、可溶性であり、モノマーである(図23)。抗体の親和性は、Octet(図24)またはBiaCore(登録商標)分析上での標準結合および解離プロファイルによって決定された、ナノモルからサブナノモル親和性の範囲に及ぶ。突然変異の分析および他の免疫グロブリン配列との比較(図25)は、図11〜13に示したように、既定領域の同一特性を生じさせる。
【0205】
上述したように、可溶性VHドメインは、形質細胞に由来する可溶性HACbから単離することができる。
【実施例8】
【0206】
単一細胞からのヒト抗HCAbの生成および発現クローニング
HEK細胞内への直接的なクローニングによる上述したスキームの変形は、CD138+系統陰性細胞をソーティングすることができ、そしてHEKまたはその他の哺乳動物細胞内に直接的にクローニングできた単一細胞から引き出すことができる(図26)。これらは、上述した方法に極めて類似する方法によって分析されよう。
【実施例9】
【0207】
単一細胞由来の正常重鎖および軽鎖(テトラマー)抗体の生成および発現クローニング
実施例8に示した方法の変形を使用すると、HEKまたは他の哺乳動物細胞内への発現クローニングによってトランス遺伝子発現正常テトラマー抗体を直接的にクローニングすることができる。この変形では、単一細胞は、同様にソーティングによって単離する。RNAは単一細胞から単離し、VHおよびVLドメインはどちらもPCR増幅によって、上述したものに類似する重鎖および軽鎖発現ベクター内にクローニングする。クローニングされた重鎖および軽鎖発現プラスミドの個別組み合わせは、HEKまたはその他の哺乳動物細胞内に一緒にトランスフェクトする。フォーマット、スクリーニングおよび分析は、HCAb96ウエルフォーマットについて上に記載したもの(実施例8および実施例9)と全体的に類似する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体であって、
顕著な特徴であるラクダ科動物関連アミノ酸置換が欠如し、重鎖および軽鎖を含む抗体においては見いだされないFR2置換を有し、
CDR1内で正味疎水性の増加およびCDR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加を示し、
FR1内の正味疎水性の増加およびFR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加をもたらすフレームワークβ−プリーツシート内に1つ以上のアミノ酸置換を含む重鎖のみの抗体。
【請求項2】
ヒト抗体である、請求項1に記載の重鎖のみの抗体。
【請求項3】
顕著な特徴であるラクダ科動物関連アミノ酸置換が欠如し、重鎖および軽鎖を含むヒト抗体においては見いだされないFR2置換を有する、請求項2に記載の重鎖のみの抗体。
【請求項4】
10nM以上の結合親和性を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の重鎖のみの抗体。
【請求項5】
高親和性の抗原特異的な可溶性VHドメインであって、
顕著な特徴であるラクダ科動物関連アミノ酸置換が欠如し、重鎖および軽鎖を含む抗体においては見いだされないFR2置換を有し、
CDR1内で正味疎水性の増加およびCDR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加を示し、
FR1内の正味疎水性の増加およびFR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加をもたらす該フレームワークβ−プリーツシート内に1つ以上のアミノ酸置換を含む抗体。
【請求項6】
可溶性ヒトVHドメインである、請求項5に記載のVHドメイン。
【請求項7】
顕著な特徴であるラクダ科動物関連アミノ酸置換が欠如し、重鎖および軽鎖を含むヒト抗体においては見いだされないFR2置換を有する、請求項6に記載の可溶性VHドメイン。
【請求項8】
10nM以上の結合親和性を有する、請求項5〜7のいずれか一項に記載の可溶性VHドメイン。
【請求項9】
D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントを用いて組み換えられると、および親和性成熟後には、請求項5〜8のいずれか一項に記載の可溶性VHドメインをコードするV遺伝子セグメント。
【請求項10】
前記V遺伝子セグメントの配列が、前記V遺伝子セグメントの自然生殖細胞系配列に比較して少なくとも1つの置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせによって、前記V遺伝子セグメントがVHドメインの可溶性および安定性に寄与することが証明されているアミノ酸残基もしくはアミノ酸配列をコードするコドンを包含するように遺伝子組み換えされている、請求項9に記載のV遺伝子セグメント。
【請求項11】
請求項9または10に記載のV遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントを用いて組み換えられると、および親和性成熟後には、請求項5〜8のいずれか一項に記載の可溶性VHドメインをコードするD遺伝子セグメント。
【請求項12】
前記D遺伝子セグメントの配列が、前記D遺伝子セグメントの自然生殖細胞系配列に比較して少なくとも1つの置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせによって、前記D遺伝子セグメントが前記D遺伝子セグメントによってコードされた配列を包含する可溶性VHドメインの可溶性および安定性を維持することに寄与することが決定されているアミノ酸残基をコードするコドンを包含するように遺伝子組み換えされている、請求項11に記載のD遺伝子セグメント。
【請求項13】
請求項9または10に記載のV遺伝子セグメントおよびD遺伝子セグメントを用いて組み換えられると、および親和性成熟後には、請求項5〜8のいずれか一項に記載の可溶性VHドメインをコードするJ遺伝子セグメント。
【請求項14】
前記J遺伝子セグメントの配列が、前記J遺伝子セグメントの自然生殖細胞系配列に比較して少なくとも1つの置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせによって、前記J遺伝子セグメントが前記J遺伝子セグメントによってコードされた配列を包含する可溶性VHドメインの可溶性および安定性を維持することに寄与することが決定されているアミノ酸残基をコードするコドンを包含するように遺伝子組み換えされている、請求項13に記載のJ遺伝子セグメント。
【請求項15】
請求項9または10に記載の1つ以上のV遺伝子セグメント、請求項11または12に記載の1つ以上のD遺伝子セグメント、請求項13または14に記載の1つ以上のJ遺伝子セグメント、およびその各々がCH1機能性の欠如する抗体定常エフェクター領域をコードする1つ以上の定常エフェクター領域遺伝子セグメントを含む異種重鎖のみの遺伝子座であって、このとき前記遺伝子セグメントが、V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントならびに定常領域遺伝子セグメントが請求項1〜4のいずれか一項に記載の高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体をコードする再配列された親和性成熟重鎖のみの遺伝子座を生成するため組み換えることができるように配列される異種重鎖のみの遺伝子座。
【請求項16】
ヒト重鎖のみの抗体または可溶性ヒトVHドメインおよびまた別の種由来の定常領域遺伝子セグメントを含むハイブリッド抗体を生成するために配列されている、請求項15に記載の重鎖のみの遺伝子座。
【請求項17】
前記定常領域遺伝子セグメントが、齧歯類起源、好ましくはマウス起源である、請求項15または16に記載の重鎖のみの遺伝子座。
【請求項18】
請求項15または17のいずれか一項に記載の異種重鎖のみの遺伝子座を含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項19】
任意の機能的免疫グロブリン軽鎖遺伝子を発現せず、請求項9または10に記載の1つ以上のV遺伝子セグメント、請求項11または12に記載の1つ以上のD遺伝子セグメント、請求項13または14に記載の1つ以上のJ遺伝子セグメント、およびその各々がCH1機能性の欠如する抗体定常エフェクター領域をコードする1つ以上の定常エフェクター領域遺伝子セグメントを含む異種重鎖のみの遺伝子座を含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物であって、このとき前記遺伝子セグメントが、V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントならびに定常領域遺伝子セグメントが請求項1〜4のいずれか一項に記載の高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体をコードする再配列された親和性成熟重鎖のみの遺伝子座を生成するため組み換えることができるように配列されるトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項20】
前記重鎖のみの遺伝子座が、ヒト重鎖のみの抗体または可溶性ヒトVHドメインおよびまた別の種由来の定常領域遺伝子セグメントを含むハイブリッド抗体を生成するために配列されている、請求項19に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項21】
前記定常領域遺伝子セグメントが、齧歯類起源、好ましくはマウス起源である、請求項19または20に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項22】
マウスである、請求項18〜21のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項23】
請求項18〜22のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を1つの抗原でチャレンジする工程を含む、高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体を作製するための方法。
【請求項24】
前記重鎖のみの抗体の可溶性VHドメインが、ヒトである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
重鎖のみの抗体鎖または可溶性VHドメインをコードする核酸を得るための方法であって、長寿命形質細胞または記憶B細胞を重鎖のみの遺伝子座を包含するトランスジェニック哺乳動物から得る工程であって、前記哺乳動物は1つの抗原を用いてチャレンジされている工程と、および前記長寿命形質細胞または記憶B細胞から前記抗原に対して特異的な重鎖のみの抗体鎖または可溶性VHドメインをコードする核酸を単離する工程とを含む方法。
【請求項26】
前記長寿命形質細胞または記憶B細胞が、前記抗原チャレンジされた非ヒトトランスジェニック哺乳動物の二次リンパ腺、骨髄または脾臓から精製される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記長寿命形質細胞または記憶B細胞が、前記細胞上の細胞表面マーカーを使用して精製される、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞表面マーカーが、CD138マーカーである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
mRNAの集団は前記細胞から単離され、重鎖のみの抗体または可溶性VHドメインをコードするcDNAの集団はmRNAの前記集団から生成される、請求項24〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
cDNAの前記集団が、発現ベクター内にクローニングされ、
前記cDNA発現ベクター内にクローニングされる配列が、任意選択的に選択された細菌内にトランスフェクトされ、増幅させられ、コロニーが採取され、組み換えベクターDNAが精製され、
前記発現ベクターによってコードされたタンパク質を発現する、蓄積する、分泌する、または提示することのできる細胞系が、前記発現ベクターを用いて形質転換され、
前記抗原を認識する重鎖のみの抗体を発現する、蓄積する、分泌する、または提示する細胞系が選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
mRNAの集団は前記細胞から単離され、前記細胞によって生成された任意の抗体のVHドメインをコードするcDNAの集団はmRNAの前記集団から生成される、請求項25〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞によって生成された任意の抗体の前記VHドメインをコードするcDNAの集団が、発現ベクター内にクローニングされ、
前記発現ベクターによってコードされたタンパク質を発現する、蓄積する、分泌する、または提示することのできる細胞系が、前記発現ベクターを用いて形質転換され、
前記抗原を認識するVHドメインを発現する、蓄積する、分泌する、または提示する細胞系が選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記細胞系が、微生物細胞系または哺乳動物細胞系である、請求項30または32に記載の方法。
【請求項34】
1つの抗原に特異的に結合する重鎖のみの抗体を作製する方法であって、
(a)非ヒトトランスジェニック哺乳動物を前記抗原で免疫する工程であって、前記哺乳動物が、転写およびプロセッシングされた重鎖mRNA内でCH1機能性が欠ける重鎖のみの抗体を発現する工程と、
(b)長寿命形質細胞または記憶B細胞を前記免疫された哺乳動物から単離する工程と、
(c)mRNA集団を工程(b)から引き出された細胞から単離する工程と、
(d1)工程(c)のmRNAに由来するcDNA集団を発現ベクター内にクローニングして細胞系内で発現させる工程と、
(e1)前記抗原に特異的に結合する重鎖のみの抗体を産生する少なくとも1つの細胞系を選択する工程、
または
(d2)工程(c)のmRNAから引き出されたVHドメインをコードするcDNAを含むcDNA集団を、重鎖エフェクター領域を含むVH融合タンパク質が前記細胞系内で発現するように発現ベクター内にクローニングする工程と、
(e2)前記抗原に特異的に結合するVH融合タンパク質を産生する少なくとも1つの細胞系を選択する工程
とを含む方法。
【請求項35】
前記単離された長寿命形質細胞または記憶B細胞が、mRNA単離前に不死化される、請求項25〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
任意の重鎖のみの抗体遺伝子座が、少なくとも1個の優性選択的マーカー遺伝子を含む、請求項25〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記哺乳動物由来の抗体産生細胞を不死化する工程を含む、請求項23または24に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞が、骨髄細胞との融合によって不死化される、請求項35または37に記載の方法。
【請求項39】
前記細胞が、ウイルス、例えばEBV(エプスタイン・バー・ウイルス)を用いた形質転換によって不死化される、請求項35または37に記載の方法。
【請求項40】
所望の抗原特異性を備える重鎖のみの抗体を作製するB細胞または不死化細胞系から、可溶性VHドメインもしくは前記可溶性VHドメインをコードする核酸のいずれかを単離する工程をさらに含む、請求項25〜39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記哺乳動物によって生成された重鎖のみの抗体を産生する細胞から、または前記哺乳動物によって生成された不死化重鎖のみの抗体を産生する細胞から、可溶性VHドメインまたは可溶性VHドメインをコードする核酸のいずれかを提示手法によって単離する工程をさらに含む、請求項23〜40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体(intrabody)、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合の生成において、可溶性VHドメインまたは請求項23〜40のいずれか一項に記載の方法によって得られた可溶性VHドメインをコードする核酸の使用。
【請求項43】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の少なくとも1つのVHドメインを含むんでなる重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合。
【請求項44】
療法において使用するための、請求項5〜8のいずれか一項に記載の少なくとも1つのVHドメインを含んでなる重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合。
【請求項45】
医薬品の調製における、請求項5〜8のいずれか一項に記載の少なくとも1つのVHドメインを含んでなる重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合の使用。
【請求項46】
FR1、FR2およびFR3をコードする遺伝子配列を含む、請求項5〜8のいずれか一項に記載のVHドメインを作製するためのカセットであって、FR1、FR2およびFR3をコードする前記遺伝子配列は適切なCDR1−およびCDR2−コーディング配列の導入を可能にする配列によって分離され、およびFR3をコードする配列の3’末端でが、前記CDR3−コーディング配列をコードする配列の導入を可能にする配列が存在するカセット。
【請求項1】
高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体であって、
顕著な特徴であるラクダ科動物関連アミノ酸置換が欠如し、重鎖および軽鎖を含む抗体においては見いだされないFR2置換を有し、
CDR1内で正味疎水性の増加およびCDR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加を示し、
FR1内の正味疎水性の増加およびFR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加をもたらすフレームワークβ−プリーツシート内に1つ以上のアミノ酸置換を含む重鎖のみの抗体。
【請求項2】
ヒト抗体である、請求項1に記載の重鎖のみの抗体。
【請求項3】
顕著な特徴であるラクダ科動物関連アミノ酸置換が欠如し、重鎖および軽鎖を含むヒト抗体においては見いだされないFR2置換を有する、請求項2に記載の重鎖のみの抗体。
【請求項4】
10nM以上の結合親和性を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の重鎖のみの抗体。
【請求項5】
高親和性の抗原特異的な可溶性VHドメインであって、
顕著な特徴であるラクダ科動物関連アミノ酸置換が欠如し、重鎖および軽鎖を含む抗体においては見いだされないFR2置換を有し、
CDR1内で正味疎水性の増加およびCDR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加を示し、
FR1内の正味疎水性の増加およびFR3内に存在する荷電アミノ酸の数の増加をもたらす該フレームワークβ−プリーツシート内に1つ以上のアミノ酸置換を含む抗体。
【請求項6】
可溶性ヒトVHドメインである、請求項5に記載のVHドメイン。
【請求項7】
顕著な特徴であるラクダ科動物関連アミノ酸置換が欠如し、重鎖および軽鎖を含むヒト抗体においては見いだされないFR2置換を有する、請求項6に記載の可溶性VHドメイン。
【請求項8】
10nM以上の結合親和性を有する、請求項5〜7のいずれか一項に記載の可溶性VHドメイン。
【請求項9】
D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントを用いて組み換えられると、および親和性成熟後には、請求項5〜8のいずれか一項に記載の可溶性VHドメインをコードするV遺伝子セグメント。
【請求項10】
前記V遺伝子セグメントの配列が、前記V遺伝子セグメントの自然生殖細胞系配列に比較して少なくとも1つの置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせによって、前記V遺伝子セグメントがVHドメインの可溶性および安定性に寄与することが証明されているアミノ酸残基もしくはアミノ酸配列をコードするコドンを包含するように遺伝子組み換えされている、請求項9に記載のV遺伝子セグメント。
【請求項11】
請求項9または10に記載のV遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントを用いて組み換えられると、および親和性成熟後には、請求項5〜8のいずれか一項に記載の可溶性VHドメインをコードするD遺伝子セグメント。
【請求項12】
前記D遺伝子セグメントの配列が、前記D遺伝子セグメントの自然生殖細胞系配列に比較して少なくとも1つの置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせによって、前記D遺伝子セグメントが前記D遺伝子セグメントによってコードされた配列を包含する可溶性VHドメインの可溶性および安定性を維持することに寄与することが決定されているアミノ酸残基をコードするコドンを包含するように遺伝子組み換えされている、請求項11に記載のD遺伝子セグメント。
【請求項13】
請求項9または10に記載のV遺伝子セグメントおよびD遺伝子セグメントを用いて組み換えられると、および親和性成熟後には、請求項5〜8のいずれか一項に記載の可溶性VHドメインをコードするJ遺伝子セグメント。
【請求項14】
前記J遺伝子セグメントの配列が、前記J遺伝子セグメントの自然生殖細胞系配列に比較して少なくとも1つの置換、挿入もしくは欠失、またはそれらの組み合わせによって、前記J遺伝子セグメントが前記J遺伝子セグメントによってコードされた配列を包含する可溶性VHドメインの可溶性および安定性を維持することに寄与することが決定されているアミノ酸残基をコードするコドンを包含するように遺伝子組み換えされている、請求項13に記載のJ遺伝子セグメント。
【請求項15】
請求項9または10に記載の1つ以上のV遺伝子セグメント、請求項11または12に記載の1つ以上のD遺伝子セグメント、請求項13または14に記載の1つ以上のJ遺伝子セグメント、およびその各々がCH1機能性の欠如する抗体定常エフェクター領域をコードする1つ以上の定常エフェクター領域遺伝子セグメントを含む異種重鎖のみの遺伝子座であって、このとき前記遺伝子セグメントが、V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントならびに定常領域遺伝子セグメントが請求項1〜4のいずれか一項に記載の高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体をコードする再配列された親和性成熟重鎖のみの遺伝子座を生成するため組み換えることができるように配列される異種重鎖のみの遺伝子座。
【請求項16】
ヒト重鎖のみの抗体または可溶性ヒトVHドメインおよびまた別の種由来の定常領域遺伝子セグメントを含むハイブリッド抗体を生成するために配列されている、請求項15に記載の重鎖のみの遺伝子座。
【請求項17】
前記定常領域遺伝子セグメントが、齧歯類起源、好ましくはマウス起源である、請求項15または16に記載の重鎖のみの遺伝子座。
【請求項18】
請求項15または17のいずれか一項に記載の異種重鎖のみの遺伝子座を含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項19】
任意の機能的免疫グロブリン軽鎖遺伝子を発現せず、請求項9または10に記載の1つ以上のV遺伝子セグメント、請求項11または12に記載の1つ以上のD遺伝子セグメント、請求項13または14に記載の1つ以上のJ遺伝子セグメント、およびその各々がCH1機能性の欠如する抗体定常エフェクター領域をコードする1つ以上の定常エフェクター領域遺伝子セグメントを含む異種重鎖のみの遺伝子座を含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物であって、このとき前記遺伝子セグメントが、V、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントならびに定常領域遺伝子セグメントが請求項1〜4のいずれか一項に記載の高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体をコードする再配列された親和性成熟重鎖のみの遺伝子座を生成するため組み換えることができるように配列されるトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項20】
前記重鎖のみの遺伝子座が、ヒト重鎖のみの抗体または可溶性ヒトVHドメインおよびまた別の種由来の定常領域遺伝子セグメントを含むハイブリッド抗体を生成するために配列されている、請求項19に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項21】
前記定常領域遺伝子セグメントが、齧歯類起源、好ましくはマウス起源である、請求項19または20に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項22】
マウスである、請求項18〜21のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項23】
請求項18〜22のいずれか一項に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を1つの抗原でチャレンジする工程を含む、高親和性の抗原特異的な可溶性重鎖のみの抗体を作製するための方法。
【請求項24】
前記重鎖のみの抗体の可溶性VHドメインが、ヒトである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
重鎖のみの抗体鎖または可溶性VHドメインをコードする核酸を得るための方法であって、長寿命形質細胞または記憶B細胞を重鎖のみの遺伝子座を包含するトランスジェニック哺乳動物から得る工程であって、前記哺乳動物は1つの抗原を用いてチャレンジされている工程と、および前記長寿命形質細胞または記憶B細胞から前記抗原に対して特異的な重鎖のみの抗体鎖または可溶性VHドメインをコードする核酸を単離する工程とを含む方法。
【請求項26】
前記長寿命形質細胞または記憶B細胞が、前記抗原チャレンジされた非ヒトトランスジェニック哺乳動物の二次リンパ腺、骨髄または脾臓から精製される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記長寿命形質細胞または記憶B細胞が、前記細胞上の細胞表面マーカーを使用して精製される、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞表面マーカーが、CD138マーカーである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
mRNAの集団は前記細胞から単離され、重鎖のみの抗体または可溶性VHドメインをコードするcDNAの集団はmRNAの前記集団から生成される、請求項24〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
cDNAの前記集団が、発現ベクター内にクローニングされ、
前記cDNA発現ベクター内にクローニングされる配列が、任意選択的に選択された細菌内にトランスフェクトされ、増幅させられ、コロニーが採取され、組み換えベクターDNAが精製され、
前記発現ベクターによってコードされたタンパク質を発現する、蓄積する、分泌する、または提示することのできる細胞系が、前記発現ベクターを用いて形質転換され、
前記抗原を認識する重鎖のみの抗体を発現する、蓄積する、分泌する、または提示する細胞系が選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
mRNAの集団は前記細胞から単離され、前記細胞によって生成された任意の抗体のVHドメインをコードするcDNAの集団はmRNAの前記集団から生成される、請求項25〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞によって生成された任意の抗体の前記VHドメインをコードするcDNAの集団が、発現ベクター内にクローニングされ、
前記発現ベクターによってコードされたタンパク質を発現する、蓄積する、分泌する、または提示することのできる細胞系が、前記発現ベクターを用いて形質転換され、
前記抗原を認識するVHドメインを発現する、蓄積する、分泌する、または提示する細胞系が選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記細胞系が、微生物細胞系または哺乳動物細胞系である、請求項30または32に記載の方法。
【請求項34】
1つの抗原に特異的に結合する重鎖のみの抗体を作製する方法であって、
(a)非ヒトトランスジェニック哺乳動物を前記抗原で免疫する工程であって、前記哺乳動物が、転写およびプロセッシングされた重鎖mRNA内でCH1機能性が欠ける重鎖のみの抗体を発現する工程と、
(b)長寿命形質細胞または記憶B細胞を前記免疫された哺乳動物から単離する工程と、
(c)mRNA集団を工程(b)から引き出された細胞から単離する工程と、
(d1)工程(c)のmRNAに由来するcDNA集団を発現ベクター内にクローニングして細胞系内で発現させる工程と、
(e1)前記抗原に特異的に結合する重鎖のみの抗体を産生する少なくとも1つの細胞系を選択する工程、
または
(d2)工程(c)のmRNAから引き出されたVHドメインをコードするcDNAを含むcDNA集団を、重鎖エフェクター領域を含むVH融合タンパク質が前記細胞系内で発現するように発現ベクター内にクローニングする工程と、
(e2)前記抗原に特異的に結合するVH融合タンパク質を産生する少なくとも1つの細胞系を選択する工程
とを含む方法。
【請求項35】
前記単離された長寿命形質細胞または記憶B細胞が、mRNA単離前に不死化される、請求項25〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
任意の重鎖のみの抗体遺伝子座が、少なくとも1個の優性選択的マーカー遺伝子を含む、請求項25〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記哺乳動物由来の抗体産生細胞を不死化する工程を含む、請求項23または24に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞が、骨髄細胞との融合によって不死化される、請求項35または37に記載の方法。
【請求項39】
前記細胞が、ウイルス、例えばEBV(エプスタイン・バー・ウイルス)を用いた形質転換によって不死化される、請求項35または37に記載の方法。
【請求項40】
所望の抗原特異性を備える重鎖のみの抗体を作製するB細胞または不死化細胞系から、可溶性VHドメインもしくは前記可溶性VHドメインをコードする核酸のいずれかを単離する工程をさらに含む、請求項25〜39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記哺乳動物によって生成された重鎖のみの抗体を産生する細胞から、または前記哺乳動物によって生成された不死化重鎖のみの抗体を産生する細胞から、可溶性VHドメインまたは可溶性VHドメインをコードする核酸のいずれかを提示手法によって単離する工程をさらに含む、請求項23〜40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体(intrabody)、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合の生成において、可溶性VHドメインまたは請求項23〜40のいずれか一項に記載の方法によって得られた可溶性VHドメインをコードする核酸の使用。
【請求項43】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の少なくとも1つのVHドメインを含むんでなる重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合。
【請求項44】
療法において使用するための、請求項5〜8のいずれか一項に記載の少なくとも1つのVHドメインを含んでなる重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合。
【請求項45】
医薬品の調製における、請求項5〜8のいずれか一項に記載の少なくとも1つのVHドメインを含んでなる重鎖のみの抗体、VH細胞内抗体、VHポリタンパク質、VHドメイン複合体またはVH融合の使用。
【請求項46】
FR1、FR2およびFR3をコードする遺伝子配列を含む、請求項5〜8のいずれか一項に記載のVHドメインを作製するためのカセットであって、FR1、FR2およびFR3をコードする前記遺伝子配列は適切なCDR1−およびCDR2−コーディング配列の導入を可能にする配列によって分離され、およびFR3をコードする配列の3’末端でが、前記CDR3−コーディング配列をコードする配列の導入を可能にする配列が存在するカセット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23a】
【図23b】
【図24a】
【図24b】
【図24c】
【図24d】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23a】
【図23b】
【図24a】
【図24b】
【図24c】
【図24d】
【図25】
【図26】
【公表番号】特表2012−521211(P2012−521211A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501368(P2012−501368)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000500
【国際公開番号】WO2010/109165
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(507021735)エラスムス・ユニヴァーシティ・メディカル・センター・ロッテルダム (6)
【出願人】(507021997)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000500
【国際公開番号】WO2010/109165
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(507021735)エラスムス・ユニヴァーシティ・メディカル・センター・ロッテルダム (6)
【出願人】(507021997)
【Fターム(参考)】
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