説明

結合剤組成物

【課題】セメント結合剤組成物及び構造製品における結合剤組成物の使用を提供する。
【解決手段】セメント結合剤組成物は、硬化時にCO2を吸収するMgOに基づく。本発明の結合剤組成物は、また、式xMgCO3-yMg(OH)2-zH2O (式中、xは少なくとも1であり、y又はzの少なくとも1つは0より大きい)を有する(水和された又は水和されていない)少なくとも1つの炭酸マグネシウムを含む。結合剤組成物は、必要により、吸湿性材料、例えばNaClを含んでいてもよい。MgOを炭酸マグネシウムの存在下に水と混合した場合、ロゼット状形態(図示した)を有する水酸化マグネシウムが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント結合剤組成物、即ち、固体に硬化可能な組成物、及び構造製品における結合剤組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
‘温室効果ガス’の放出、主に二酸化炭素(CO2)は、地球の大気温度と地表温度の上昇 - 地球温暖化と一般にいわれる現象に関与すると考えられる。このような温度の上昇は、深刻な環境への影響をもたらすと予想される。人為的に排出されるCO2のこの増加の主な一因は、石炭や石油のような化石燃料の燃焼である。
ポルトランドセメントは、現時点で一般使用のセメントの中で最も一般的なタイプである。これは、コンクリート、モルタル及び特殊でないグラウトの本質的要素である。ポルトランドセメントは、90%を超えるポルトランドセメントクリンカ、5%までの石膏及び5%までの他の少量の成分からなる。ポルトランドセメントクリンカは、主にケイ酸二カルシウム(2CaO.SiO2)、ケイ酸三カルシウム(3CaO.SiO2)、アルミン酸三カルシウム(3CaO.Al2O3)及びカルシウムアルミノフェライト(4CaO.Al2O3 Fe2O3)の相からなる水硬性材料である。酸化マグネシウム(MgO)もポルトランドセメントに存在し得るが、遅延水和がコンクリートの不安定さを生じると考えられるのでその量は5質量%を超えてはならない。硬化時間を制御するためにポルトランドセメントクリンカに石膏(CaSO4.2H2O)が添加され、この混合物が粉砕されて微粉が得られる。水と反応する際に、セメントの成分が水和し、固体錯体ケイ酸カルシウム水和物ゲルと他の相が形成される。
ポルトランドセメント(PC)の製造は、高容積の原材料を約1450℃に加熱することを必要とする高度にエネルギー集約型のプロセスである。これらの温度に到達するために化石燃料を燃焼することから生成されるCO2に加えて、ポルトランドセメントを製造するのに用いられる基本的な原材料は、炭酸カルシウム(石灰石、CaCO3)であり、これが処理の間にCaOに分解し、追加の地中貯留CO2が放出される。結果として、ポルトランドセメントの製造は、生産されるセメント1トン毎に約1トンのCO2を放出し、すべての人為的CO2排出の約5%の原因となる。
【0003】
酸化カルシウムとケイ酸塩以外の系に基づく結合剤も既知である。例えば、ソーレルセメント(オキシ塩化マグネシウムセメント或いはマグネシアセメント)は、砂又は砕石のような充填剤材料と共に酸化マグネシウム(焼成マグネシア、MgO)と塩化マグネシウムの混合物である水硬セメントである。これが非常に硬質の研磨剤耐性材料に硬化するので、タイル、人工石(人造石)及び注型フロアに用いられ、これらの用途においては高耐摩耗性を有する。しかしながら、主要な欠点は耐水性が不充分なことであり、それが外部構造用途に適さない。
他のマグネシウムベースのセメントにはオキシ硫酸マグネシウムセメントやリン酸マグネシウムセメントも含まれるが、これらはいずれも欠点をもち、前者は耐水性が不充分であり、後者は非常に急速に硬化するので加工するのが難しい。
GB-1160029には、酸化マグネシウム(MgO)、塩化ナトリウム(NaCl)又は硝酸ナトリウム(NaNO3)及び炭酸カルシウム(CaCO3)を混合することに基づくセメントが開示されている。CaCO3は、“減速物質”として用いられ、その他のソーレルセメントのものと同様である、塩とMgOが硬化に必要な化学反応を行うことを可能にする。これらのセメントは、一般的にはマグネサイト(MgCO3)の高温処理(〜1000oC)によって生成され、マグネサイトを焼成することからだけでなく化石燃料の燃焼からもCO2の排出を引き起こす、硬質焼成MgOの使用を必要とする。
US-5897703には、MgOと硬化剤、炭酸プロピレンとの混合に基づく結合剤組成物が開示される。用いられる酸化マグネシウムは、軟質焼成MgOと硬質焼成MgOの混合物であり得る。水の存在下、炭酸プロピレンは二酸化炭素とプロピレングリコールに分解するので、炭酸プロピレンの添加が酸化マグネシウムに炭酸塩へのCO2源を与えることが知られている。
【0004】
US-6200381には、ドロマイト(炭酸マグネシウム・炭酸カルシウム鉱物; MgCO3・CaCO3)から誘導される乾燥粉末セメント組成物が開示されている。ドロマイトを加熱して、MgCO3が脱炭酸されるので、組成物は、CaCO3及び部分的に脱炭酸されたMgCO3、即ち、MgCO3とMgOの混合物を含有する。ある種の添加剤(例えば、硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)、クエン酸、硫酸(H2SO4)、NaCl等)が組成物中に含まれてもよく、これらは水の添加時に組成物の硬化を援助する; 水は、汚染水、例えば海水であってもよい。セメント組成物のCaCO3成分は、用いられる指定された添加剤のいくつかと反応する。例えば、H2SO4を添加すると、CaCO3と反応し、水和されたCaSO4(例えばCaSO4.2H2O)とCO2が得られる。放出されるCO2は、MgO及びMg(OH)2の炭酸化を援助する。MgCO3の脱炭酸温度を低下させるためにドロマイトの熱処理の前に、また、おそらくMgOとの反応(ソーレルセメントタイプ反応)による組成物に早期の強度を達成するのに援助すると思われる、添加剤として結合剤組成物中に、NaClが添加されてもよい。CaCO3は、“減速物質”としてNaClとMgOが必要な化学反応を行うことを可能にする(上記GB1160029を参照のこと)。
US-1867180には、1%未満のMgO及びNaClを含有する消石灰(Ca(OH)2)に基づくセメント組成物が記載されている。
US1561473には、凝集体と酸化マグネシウムの湿潤混合物がガス状CO2或いは溶存CO2で処理される場合に、引張強さが改善されることが開示されている。組成物は湿潤時にCO2にさらされなければならず、この特許には、湿潤混合物を湿ったCO2の特殊な雰囲気にさらすことが開示されている。
【0005】
WO 01/55049には、MgO、水硬セメント、例えば、ポルトランドセメント、ソーレルセメント又はアルミン酸カルシウムセメントを含有し、更に必要によりポゾラン材料を含有していてもよい乾燥粉末セメント組成物が開示されている。セメント組成物は、また、種々の添加剤、例えば、硫酸第一鉄(FeSO4)、ケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウム又はアルミン酸ナトリウム又はアルミン酸カリウム、リン酸(HPO3)又はリン酸塩、硫酸銅(CuSO4)、及び種々の他の有機ポリマーや樹脂、例えば、ポリ酢酸ビニル(PVA)、酢酸ビニル-エチレン、スチレン-ブチルアクリレート、ブチルアクリレート-メチルアクリレート、スチレンブタジエンを含有することができる。酸化マグネシウムは、低温か焼によって得られる。
GB-529128には、断熱材料として炭酸マグネシウムの使用が開示されている; これは、マグネシウム塩を含有する濃縮海水からアルカリ金属炭酸塩で塩を沈殿させることによって製造され、硬化し得る針状晶を形成する。型の中でゆっくり硬化される場合、このような結晶のスラリーは硬化して、断熱材として有効なスラブ或いはブロックが得られる。アルカリ金属炭酸塩中に重炭酸イオンがある場合には、上記反応において重炭酸マグネシウムが形成し、これが硬化反応を減速させる。これを相殺するために、1-5%の酸化マグネシウムが添加されてもよく、これが重炭酸塩を炭酸マグネシウムとして沈殿させる。
US-1819893及びUS-1971909には、水酸化マグネシウム又は水酸化マグネシウムと炭酸カルシウムの混合物の断熱材料としての使用が、このような水酸化マグネシウムが軽量で且つ高度に凝集されるので開示されている。
US-5927288には、ハイドロマグネサイトと水酸化マグネシウムの混合物がシガレットペーパーに組み込まれる場合、間接喫煙を減少させることが開示されている。ハイドロマグネサイト/水酸化マグネシウム組成物は、ロゼット形態を有し、ハイドロマグネサイト/水酸化マグネシウム混合物は、重炭酸マグネシウム及び他の可能な可溶性マグネシウム塩の溶液から強塩基、例えば水酸化カリウムを添加することによって沈殿する。
【0006】
EP-0393813及びWO 01/51554は、プラスチック用難燃剤に関する。EP-0393813には、炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムの二重塩(例えばドロマイト)、ハイドロマグネサイト、及び水酸化マグネシウムの混合物が、熱可塑性樹脂、例えば電線被覆に難燃性を与えることができることが開示されている。WO01/51554には、ハイドロマグネサイトや水酸化マグネシウムを含む種々のマグネシウム塩のポリマーへの添加が教示されている。
US2009/0020044には、水硬セメントに使用し得る、海水によって二酸化炭素が捕捉されて炭酸塩が沈澱することが開示されている; 酸化マグネシウム又は水酸化マグネシウムを含む、10%までのpH調節材料をセメントに添加して、pHを調節することができる。
JP2006 076825は、発電所や鉄鋼業によって排出されるCO2の量を低下させることに関する。水酸化アンモニウムとの反応によってCO2を捕捉して、炭酸アンモニウムを形成することが提唱されている:
2NH4OH + CO2→(NH4)2CO3 +H2O
一方、酸化マグネシウムと塩酸を反応させることによって塩化マグネシウムが生成される
MgO + 2HCl→MgCl2 + H2O
塩化マグネシウムを炭酸アンモニウムと反応させ、炭酸マグネシウムを沈殿させて、溶存塩化アンモニウム含有液が残る:
(NH4)2CO3 + MgCl2→2(NH4)Cl + MgCO3
沈殿した炭酸マグネシウムをろ別し、セメント成分として用い、塩化アンモニウム液は水酸化アンモニウムと塩酸を再生させるために処理される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CO2の排出を減少させるという本質的な利点とは別に、環境被害を減少させる試みにおいてセメント業界によるCO2の排出が調節されると思われる。それ故、最小限の或いは負さえのCO2の排出と関連する新規な範囲のセメント系結合剤を開発することが現実に求められている。このような結合剤は、製造プロセスにおいて水和後の硬化段階でCO2を吸収することによってCO2の放出を相殺するか又はバランスをとることができる場合には、‘カーボンニュートラル’; 或いは製造で放出されたより多くのCO2を吸収し且つ保存することができる場合には、‘カーボンネガティブ’であり得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、特許請求の範囲において述べられている。
本発明は、MgOと特殊な炭酸マグネシウム(下記式Iを参照のこと)に基づくセメント結合剤組成物を提供する。用いられる酸化マグネシウムは、軟質焼成MgO、硬質焼成MgO、又は軟質焼成MgOと硬質焼成MgOの混合物であり得る。セメント組成物の鍵となる成分は、下記式の(水和された又は水和されていない)特殊な炭酸マグネシウムである
x MgCO3・y Mg(OH)2・z H2O 式I
(式中、xは、1より大きい数であり、y又はzの少なくとも1つは、0より大きい数である)
この炭酸塩は、非化学量論的であり得る。x、y及びzは、整数であり得る(が必要としない)。本組成物は、また、吸湿性材料、例えばNaClを含んでもよい。
上記式Iは、主な炭酸マグネシウム源として、マグネサイト(MgCO3)及びドロマイト(MgCO3・CaCO3)の使用を除外する。しかしながら、本組成物は、少量のこれらの鉱物、例えば、組成物の合計炭酸マグネシウム含量の25%までを含有することができる。組成物の実質的にすべての炭酸マグネシウム含量が式Iであることが好ましい。一実施態様において、一般式Iの炭酸塩は、一般式4MgCO3・Mg(OH)2.4H2Oを有するハイドロマグネサイトであるが、ある程度の非化学量論が許容され得る。例えば、上記式Iにおけるxは、3.5 - 4.5であってもよく、yは、0.5 - 1.5であってもよく、zは、3.5.-5.5であってもよい。更に、x、y及びzは、すべて0より大きくてもよい。
【0009】
本組成物は、好ましくは、水と混合され得る乾燥粉末の形態であり、必要により、硬化する種々の粘稠度のスラリーを形成する、他の成分、例えば、砂、砂利又は他の充填剤(例えばフライアッシュ)と共にあってもよい。即ち、本発明の組成物は、水硬結合剤/セメントである。湿潤組成物は、可塑性樹脂の添加によって可塑性且つ加工可能であり得る。
【0010】
実施態様によれば、更に、本組成物は、MgOの一部又は全部の代わりにMg(OH)2が含まれてもよい。用いられるMg(OH)2は、好ましくは、低結晶化度、高表面積及び以下に記載されるロゼット状形態を有していなければならない。このようなMg(OH)2は、一般式Iの特殊な炭酸マグネシウムの存在下にMgOを前水和させることによって製造させることができる。しかしながら、組成物中の少量のMg(OH)2、例えば、50%未満の合計Mg(OH)2含量は、図2に示されるプレートレット形態を有することができる。本発明に従って形成されたMg(OH)2形態は、プレートレット形態を有するMg(OH)2より単位質量当たりの表面積が大きい; 後者の表面積は、45m2/g未満であるが、前者の表面積は、少なくとも45m2/gであり、一般的には70m2/gより大きい(表面積値は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法に従って測定した)。
MgOの代わりに結合剤組成物中にMg(OH)2が存在すると、本発明の結合剤のほとんどの強度がMgO水和から生じることから水和された結合剤の生強度と硬化強度が低下するが、これは、ある種の用途、例えば、モルタル又はプラスターには許容され得る; 壁の構成においてブロックやレンガを一緒に結合するための過度に強いモルタルは、収縮から或いは建物の小さい動きから細い亀裂の発生を引き起こし得る。このようなMg(OH)2の使用は、また、モルタルが硬化する前の時間を延長させ、これはプラスターやモルタルに有用である。
本発明の組成物が水と混合した場合に硬化し且つ硬質になり、このことは、2段階で起こると考えられる:
【0011】
第1に、本組成物と水と最初に混合される場合、MgOが特殊な炭酸マグネシウムの存在下に水和され、ほとんど結晶性でなく、表面積が大きく、且つセメント試料の生強度を増加させるロゼット状形態を有するMg(OH)2結晶が形成される。用語‘生強度’は、6時間にわたるセメント試料の最初の強度を意味する。式Iの特殊な炭酸マグネシウムをMgOに添加すると、水和機序が変化し、上記のように異なる物理的特性と微細構造特性を有するMg(OH)2結晶の形成につながる。MgO水和に対する式Iの特殊な炭酸マグネシウムの作用は、後に更に詳細に記載される。Mg(OH)2結晶のロゼット形態は、相互に接続されるが、相互に角度がつけられるMg(OH)2プレートを有し、それによって、プレート間に空間が形成される。しかしながら、もともと含まれるハイドロマグネサイト結晶のロゼットの折り目の中や折り目の外縁に製造されたMg(OH)2の一部が含有することが可能である。
【0012】
第2に、水和された材料は、経時、大気からCO2を吸収して、1つ以上の炭酸マグネシウム相、例えば、ハイドロマグネサイト(4MgCO3. Mg(OH)2.4H2O)、ダイピンガイト(4MgCO3.Mg(OH)2.5H2O)、ネスケホナイト(MgCO3.3H2O)、ランスフォルダイト(MgCO3.5H2O)を形成し、更に試料強度を増加させる。式Iの特殊な炭酸マグネシウムをMgOに添加すると、MgO水和の間に得られたMg(OH)2結晶の炭酸化速度が著しく増加する。このことは、後に更に詳細に説明する。
【0013】
吸湿性材料、例えば、NaCl又は他の塩化物を添加すると、更に、炭酸化反応に必要な湿気を与えることによってMg(OH)2結晶の炭酸化速度が増加する。それ故、このMgOベースの結合剤組成物は、硬質になる場合に組成物中に含まれる1トン毎のMgOに対して1.09トンまでのCO2を吸収する可能性を有する。塩化物の量は、(a)酸化マグネシウム、(b)一般式Iの炭酸マグネシウム及び(c)塩化物の合わせた質量に基づき、10%まで、例えば5%まで、例えば3%まであり得る。塩化物は、選択的であるが、存在する場合、(a)〜(c)の合わせた質量の少なくとも1%、例えば少なくとも2%、例えば少なくとも3%を形成してもよい。
成分はその場で混合することができるので、本発明は、(a)酸化マグネシウムの量、(b)一般式Iの炭酸マグネシウムの量及び必要により(c)塩化物の量の組み合わせを与える。組み合わせには、また、成分調合済み組成物に関連して本明細書に述べられる量で成分を組み合わせる説明書が含まれることがあり得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】水和された(a) 100% MgO、(b) 80% MgO - 20% MgCO3及び(c) 80% MgO - 20% ハイドロマグネサイトの試料のX線回折スペクトルを示す図である。
【図2】水和された100% MgO試料の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図3】水和された80% MgO - 20% ハイドロマグネサイト試料の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】(a) 100% MgO、(b) 80% MgO - 20% MgCO3及び(c) 80% MgO - 20% ハイドロマグネサイトの試料の伝導熱量測定からの発熱率プロファイルを比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
下記の説明において、ハイドロマグネサイト(4MgCO3.Mg(OH)2.4H2O)、人工炭酸マグネシウムが本発明を記載する一例として用いられている。しかしながら、下記式Iを有する材料:
x MgCO3・y Mg(OH)2・z H2O、
(式中、xは、少なくとも1であり、y又はzの少なくとも1つが0より大きい)
がハイドロマグネサイトの代わりに又はそれに加えて用いられてもよい。例えば、xは、1、2、3、4、又は5であってもよく、y及びzは、例えば、各々独立して0、1、2、3、4、又は5であってもよいが、y又はzの少なくとも1つは、0より大きい、例えばダイピンガイト(4MgCO3.Mg(OH)2.5H2O)、ネスケホナイト(MgCO3.3H2O)、ランスフォルダイト(MgCO3.5H2O)である。式Iの炭酸塩の多くは、準安定であり、経時ハイドロマグネサイトに変換する。
【0016】
一般式Iの材料は既知であるが、天然に存在しない。これらの化合物を製造する方法は周知であるが、一般的には、マグネシウム化合物、例えば、MgO又はMg(OH)2(又はその混合物)をCO2に種々の条件下にさらすことによって製造することができる。
MgOの通常の水和機序が以下のように進行すると考えられる
段階1: 水がMgO表面で吸着し、多孔性MgO粒子内部で拡散する;
段階2: MgO溶解が粒子内で生じ、時間と共に粒子多孔性が変化する;
段階3: 過飽和が生じ、酸化物表面で核形成が発生するとともにMg(OH)2が成長する。
MgO水和の速度は、MgO溶解の程度によって制御されると考えられる。MgO水和の間に得られるMg(OH)2は、MgO粒子の孔内に付着し、水和プロセスに対する抵抗性の増加を与えるMg(OH)2膜が生成される。
【0017】
式Iの炭酸マグネシウム、例えばハイドロマグネサイトがMgOに添加される場合、上記水和機序が変わる。理論によって縛られることを望まないが、例えばハイドロマグネサイトを添加すると、MgO面上のMg(OH)2膜の形成が減少するので、MgO水和が妨げられずに進行し得ると考えられる。式Iの特殊な炭酸マグネシウムをMgOに添加するために達成される異なるMgO水和機序は、上記のように物理的特性と微細構造特性が異なるMg(OH)2結晶の形成につながる。
図1は、(a) 水和された100% MgO試料、(b) 水和された80% MgO - 20% MgCO3試料及び(c) 水和された80% MgO - 20% ハイドロマグネサイト試料のX線回折スペクトルを示す図である。試料(a) 100% MgO、及び(b) 80% MgO - 20% MgCO3(即ち、本発明でない)のMg(OH)2回折ピークは、高強度で狭く、高結晶化度が示される。対照的に、80% MgO - 20% ハイドロマグネサイト試料のMg(OH)2回折ピークは、低強度で著しく広いので、半結晶性結晶の存在が示される。
図2は、水和された100% MgO試料の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。Mg(OH)2は、‘プレートレットタイプ’の凝集体を形成する。プレートレットが相互の最上部にあり、上のプレートレットはより下のプレートレットを塞いでいる。対照的に、図3は、MgOがハイドロマグネサイトの存在下に水和される場合に形成される‘ロゼットタイプ’の結晶構造を示す写真である。
【0018】
図4は、(a) 100% MgO試料、(b) 80% MgO - 20% MgCO3試料及び(c) 80% MgO - 20% ハイドロマグネサイトの試料の水和の際の発熱率プロファイルを示す図である。MgOの一部をマグネサイト(MgCO3)(試料b)で置き換えると、同様の最大発熱率と最大発熱率までの時間によって示されるように、MgO(試料a)の水和反応が変化しない。しかしながら、ハイドロマグネサイト(4MgCO3. Mg(OH)2.4H2O)がMgO(試料c)に添加される場合には著しくMgO水和を加速し、最大発熱率を〜150%だけ増加させ且つ最大発熱率までの時間を〜70%だけ短縮させる。天然に存在するマグネサイト(MgCO3)は、上記のようにMgO水和を変化させず、主な炭酸マグネシウム源として用いてはならない。
【0019】
式Iの炭酸マグネシウム(x MgCO3・y Mg(OH)2・z H2O、ここで、xは、少なくとも1であり、y又はzの1つは、0より大きい、例えばハイドロマグネサイト)が組成物中に含まれる場合は、Mg(OH)2の炭酸化速度を著しく加速させるが、これは以下の理由によると考えられる:
1. 特殊な炭酸マグネシウム、例えばハイドロマグネサイトを添加すると、加速された炭酸塩形成のための核形成部位が得られる。
2. ロゼット状形態を有するMg(OH)2結晶の形成により、炭酸化にさらされる表面積が増加し且つ形成される炭酸塩のための空間が得られる。
これらの要因は、炭酸化反応の速度を上げ且つ結合剤組成物がより急速に最終強度に達することを可能にする。水和された100% MgO及び80% MgO - 20% ハイドロマグネサイト粉末試料の自然炭酸化で、以下の結果が達成される:
・100% MgO試料の50日を超えるのに対して9日未満で80% MgO - 20% ハイドロマグネサイト試料が90%炭酸化する(条件: 98%相対湿度/0.03% CO2レベル)
・100% MgO試料の45日を超えるのに対して28日未満で80% MgO - 20% ハイドロマグネサイト試料が70%炭酸化する(条件: 65%相対湿度/0.03% CO2レベル)
【0020】
組成物に吸湿性材料、例えば、NaCl又は他の塩化物を選択的に添加することは、環境から水分の吸収を援助するために低湿度条件において有用であり得る。しかしながら、腐食のリスクのために、これらの塩は、コンクリート構造における鉄筋のような金属と接触しない組成物にのみ含まれなければならない。
MgOの高CO2吸収能(1.09トンまでのCO2/1トンのMgO)は、“カーボンネガティブ”コンクリート及びコンクリート製品、即ち、全体的に(生産と使用を考慮する)炭素を吸収し且つ結合剤の主な成分である1トンのMgOに対して0.59トン程度のCO2の正味の吸収を有することになる製品を開発するユニークな可能性を与える。結合剤の正確な正味の吸収は、用いられるMgOを製造するために用いられる方法に左右されることは当然のことである。対照的に、ポルトランドセメントの製造は、1トンのCO2/1トンのセメントを放出し、結合剤としてのポルトランドセメントは、0.12-0.51トンのCO2/1トンの結合剤を吸収することができるだけであり、1トンの結合剤に対して0.49〜0.88トンのCO2の正味の排出が生じる。CO2生成に対するこれらの数字には、製造工程の化石燃料の燃焼による放出が含まれる。
【0021】
以下の実施態様は、本発明の結合剤の組成物例を示すものである; これらのすべての組成物において、塩化物の添加は選択的であり、添加される実質的な割合のMg(OH)2は上述したロゼット形態、高表面積及び低結晶化度を有する。
本発明の組成物は、以下を含む:
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 10質量%〜95質量%、例えば、10質量%〜85質量%、例えば、30質量%〜80質量%、例えば、40質量%〜70質量%の酸化マグネシウム(MgO)及び/又は水酸化マグネシウム(Mg(OH)2);
(b) 5質量%〜80質量%、例えば、10質量%〜60質量%、例えば、20質量%〜40質量%、例えば、20質量%〜30質量%の式Iの1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0質量%〜10質量%塩化物。
MgO及び/又はMg(OH)2の量は、10%を超えてもよく、例えば15%以上であってもよい。
【0022】
セメント組成物の典型的な下位範囲は、異なる用途に対するものである:
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 70質量%〜95質量%の酸化マグネシウム(MgO)及び/又は水酸化マグネシウム(Mg(OH)2);
(b) 5質量%〜20質量%の式Iの1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0質量%〜10質量%の塩化物
又は
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 30質量%〜80質量%の酸化マグネシウム(MgO)及び/又は水酸化マグネシウム(Mg(OH)2);
(b) 20質量%〜60質量%の式Iの1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0質量%〜10質量%の塩化物
又は
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 10質量%〜40質量%の酸化マグネシウム(MgO)及び/又は水酸化マグネシウム(Mg(OH)2);
(b) 60質量%〜80質量%の式Iの1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0質量%〜10質量%の塩化物
【0023】
又は
成分(a)〜(d)の全質量に基づき
(a) 40質量%〜85質量%の酸化マグネシウム(MgO);
(b) 5質量%〜30質量%の水酸化マグネシウム(Mg(OH)2);
(c) 10質量%〜20質量%の式Iの1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(d) 0質量%〜10質量%の塩化物
又は
成分(a)〜(d)の全質量に基づき
(a) 20質量%〜75質量%の酸化マグネシウム(MgO);
(b) 5質量%〜30質量%の水酸化マグネシウム(Mg(OH)2);
(c) 20質量%〜40質量%の式Iの1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(d) 0質量%〜10質量%の塩化物
又は
成分(a)〜(d)の全質量に基づき
(a) 10質量%〜60質量%の酸化マグネシウム(MgO);
(b) 30質量%〜50質量%の水酸化マグネシウム(Mg(OH)2);
(c) 10質量%〜30質量%の式Iの1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(d) 0質量%〜10質量%の塩化物
又は
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 30質量%〜50質量%の水酸化マグネシウム(Mg(OH)2);
(b) 10質量%〜60質量%の式Iの1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0質量%〜10質量%の塩化物
【0024】
又は
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 75質量%〜90質量%の酸化マグネシウム(MgO);
(b) 10質量%〜20質量%の式Iの1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0質量%〜10質量%の塩化物
又は
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 65質量%〜80質量%の酸化マグネシウム(MgO);
(b) 20質量%〜30質量%の式Iの1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0質量%〜5質量%の塩化物
又は
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 55質量%〜70質量%の酸化マグネシウム(MgO);
(b) 30質量%〜40質量%の式Iの1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0質量%〜5質量%の塩化物
【0025】
又は
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 45質量%〜60質量%の酸化マグネシウム(MgO);
(b) 40質量%〜50質量%の式Iの1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0質量%〜5質量%の塩化物
又は
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 35質量%〜50質量%の酸化マグネシウム(MgO);
(b) 50質量%〜60質量%の式Iの1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0質量%〜5質量%の塩化物
又は
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 25質量%〜40質量%の酸化マグネシウム(MgO);
(b) 60質量%〜70質量%の式Iの1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0質量%〜5質量%の塩化物。
【0026】
上記組成物において、すべてのMg(OH)2は、式Iの1つ以上の炭酸マグネシウムの存在下に、MgOを水和させることによって生成される。
上記組成物において、より高い割合のMgO及びMg(OH)2(及びより低い割合の式Iの炭酸マグネシウム)を有する組成物は、圧縮下でより高い強度を有するがMgO及びMg(OH)2を生成するのにより大きいCO2出力を必要とする傾向があり、より低い割合のMgO及びMg(OH)2(及びより高い割合の式Iの炭酸マグネシウム)を有する組成物は、圧縮下でより低い強度を有するが生成するのにより少ないCO2出力を必要とする傾向がある。
炭酸マグネシウムの好ましい粒径は、良好な反応速度を達成するために、直径0.01-800μm、好ましくは直径0.01-600μmである。
MgO/Mg(OH)2の粒径は、良好な反応速度を達成するために、直径0.01-800μm、好ましくは直径0.01-100μmである。
【0027】
上述したように、Mg(OH)2を含む組成物、即ち、本発明のMgO組成物は、水とMgO、式Iの炭酸マグネシウム及び選択できるNaCl及び可塑剤とを混合することによって製造される。本組成物は、硬化させて乾燥固体塊を形成させることができる。或はまた、多量の水が添加される場合には、Mg(OH)2が沈殿し、沈澱物は炭酸マグネシウムと共に収集され得る。いずれの場合にも、Mg(OH)2を含有する組成物は、次に特定の粒径分布に粉砕され得る。これらの組成物は、次に所望により追加のMgO及び式Iの炭酸マグネシウムと更に混和することができる。
吸湿性材料、例えばNaCl、を結合剤組成物中に存在させることができるが、組成物を湿潤させるために用いられる水に添加させることもでき、従って、少なくとも部分的に、海水を用いて、本発明の組成物によって湿潤セメントを調製することも可能である。
【0028】
組成物に添加される水の量は、自由に選ぶことができ、必要とされる混合可塑性及び最後の使用目的に左右される。結合剤成分の全質量に基づき、水の量は、例えば、予想される使用によっては、5-120%、例えば、5-80%であり得る。
添加剤は、粉末で又はセメントスラリーの製造過程で本発明の結合剤と混合され得る。結合剤組成物は(組成物中の他の酸化物又は水酸化物の不純物による範囲内で変えることができるが)、pH約10.2を有する; これは、一般的にはポルトランドセメントより低い。この低pHは、破壊的反応、例えばアルカリシリカ反応の機会を最小にしつつ、廃棄物凝集体、例えばガラス凝集体を含む広範囲の凝集体、及び結合剤を用いて建設製品を製造する場合の他の充填剤を用いることを可能にする。他の充填剤又は増量剤、例えばシリカ質材料、例えばフライアッシュを使用し得る。適切な凝集体は、例えば、砂利、砂、ガラス、他の廃棄物である。廃棄物凝集体及び他の充填剤及び添加剤の量(w/w)は、予想される使用によっては、組成物の総乾燥重量の、例えば、0-99%であり得る。結合剤組成物中の凝集体及び充填剤の正確な量は、望ましい用途に左右される。一般に、コンクリート及びモルタル及び凝集体を含有する他の組成物において、結合剤成分(酸化マグネシウム/水酸化マグネシウム及び式Iの炭酸マグネシウム、及び必要により塩化物)の質量は、組成物の総乾燥質量、即ち、結合剤成分や凝集体/結合剤の合わせた質量の1 - 70%、例えば、5 - 60%、例えば、10 - 40%、例えば、15 - 30%である。
【0029】
本発明の結合剤組成物は、実質的に以下の成分からなってもよい:
(a) 10%〜95%のMgO; 及び
(b) 5%〜80%の上記式Iの炭酸マグネシウム;
(c) 0%〜10%の塩化物及び他の添加剤。
本発明の凝集体含有組成物(例えばコンクリートやモルタル)は、実質的に以下の成分からなってもよい:
99%の凝集体及び他の充填剤及び添加剤、残部は以下の成分である:
(a) 10%〜95%のMgO; 及び
(b) 5%〜80%の上記式Iの炭酸マグネシウム;
(c) 0%〜10%の塩化物。
【0030】
結合剤-水系の加工性は、超可塑剤、例えば、リグノスルホン酸塩、スルホン化ナフタレン、スルホン化メラミンホルムアルデヒド、ポリアクリレート、ポリカルボキシレートエーテルの添加によって改善され得る。超可塑剤は、より強い硬質の結合剤製品を得るために少量の水が組成物に添加される場合に特に有用である。水を少量添加すると、作業が難しい硬い組成物が生じる。しかしながら、超可塑剤の封入物は、水-結合剤系が良好な加工性を保持することを可能にし、その使用と設置を容易にする。結合剤組成物(MgO、Mg(OH)2及び式Iの炭酸マグネシウムの合わせた質量)の0〜5乾燥質量%、例えば、0.5〜2.5乾燥質量%の超可塑剤が添加されてもよい。結合剤、セメント、コンクリート、モルタル及びプラスターにおいて通常の他の添加剤は、結合剤組成物(MgO、Mg(OH)2及び式Iの炭酸マグネシウムの合わせた質量)の10乾燥重量%まで、例えば、0〜5%、例えば、0.5〜2.5%の量で添加されてもよい。
【0031】
本発明の結合剤組成物は、他の結合剤、例えばポルトランドセメント及び/又は石灰と混合されてもよいが、本発明の利点は、特に全体の二酸化炭素放出を低下させるには、このようにすることによって減少する。このため、本発明の組成物中の他の水硬結合剤は、好ましくは添加されてはならず、これらが添加される場合には、このような他の結合剤の量は少なく、例えば、本発明の成分(a)〜(c)の全体の質量より少なく、例えば、結合剤成分(a)〜(c)の全体の乾燥質量の50%未満(25%未満の量を含む)に保持されなければならない。
結合剤は、多くの異なるタイプの構造製品に使用し得るが、通常は、多孔質製品或いは半多孔質製品、例えば、高密度ブロック又は軽量ブロック、多孔質ブリーズブロックタイプ製品、レンガ、タイル、コンクリートかわら、モルタルに用いられる。しかしながら、結合剤は、ポルトランドセメントを用いて、例えば、スクリードフロアを形成する、広範囲の他の用途にも使用し得る。
【0032】
これらの構造製品の製造及び硬化で生じる反応はすべて可逆的である。例えば、部分的炭酸化構造製品は、粉砕され、炭酸マグネシウムを含有する回収された結合剤は、か焼(加熱)によってMgOに再生され得る。或はまた、部分的に炭酸化構造製品は、粉砕され、必要により更に炭酸化され、次に追加のMgOと混合されて、同様に高価値を有する、低価値製品に再生可能なだけであるポルトランドセメントと異なる新しい製品を製造することができる。本発明の製品が再生され、構造製品に再び製造される場合、相対的に少ない強度低下が認められる。
結合剤は白色を有し、これは材料が水和され且つ炭酸化されたとしても保持される。この特徴は、結合剤組成物を白色が必要とされる高級構造製品に用いることを可能にする。或はまた、着色した製品を形成するために色素が添加されてもよく、結合剤のホワイトベースカラーはグレーのポルトランドセメントより着色製品に良好なベースを生じる。
【実施例】
【0033】
ここで、以下の限定されない実施例によって本発明を記載する:
本発明の好ましい形を実施するのに、平均粒径が10μmの軟質焼成MgOを用いた。用いられる炭酸マグネシウムには、平均粒径16μmのハイドロマグネサイトと粒径17μmのMgCO3が含まれた。更に、平均粒径250μmの細砂も用いた。MgO及び炭酸マグネシウムを最初に乾燥混合して、ホモジナイズした。混合物に凝集体を添加したときには、最初にセメント結合剤と乾燥混合した後、水を添加した。混合水を有するセメント又はセメント-凝集体系にNaCl及び超可塑剤を添加した。
【0034】
実施例1.
20gの軟質焼成MgO及び5gのハイドロマグネサイトを229gのガラス砂と混合した。1.3gのNaClを31gの水に溶解し、この溶液を乾燥固形物と5分間混合した。最終塊を水圧プレスを用いて押圧して、50mmの立方体試料を形成した。試料を周囲条件(40%-60%の相対湿気)で保存し、28日後4.5MPaの圧縮強さを達成した。
【0035】
実施例2.
15gの軟質焼成MgO、5gのハイドロマグネサイト、及び5gのMgCO3を229gのガラス砂と混合した。0.6gのNaClを28gの水に溶解し、この溶液を乾燥固形物と5分間混合した。最終塊を水圧プレスを用いて押圧して、50mmの立方体試料を形成した。試料を周囲条件(40%-60%の相対湿気)で保存し、28日後4.2MPaの圧縮強さを達成した。
【0036】
実施例3.
80gの軟質焼成MgO及び20gのハイドロマグネサイトを400gのガラス砂と混合した。0.6gのNaClを120gの水に溶解し、この溶液を乾燥固形物と5分間混合した。最終塊を注入し、振動させて、50mmの立方体試料を形成した。試料を周囲条件(40%の相対湿気)で保存し、1日後2.6MPaの圧縮強さを達成した。
【0037】
実施例4.
80gの軟質焼成MgO及び20gのハイドロマグネサイトを120gの水と混合した。最終塊を注入し、振動させて、50mmの立方体試料を形成した。試料を5% CO2及び90%RHで保存し、5日後10MPaの圧縮強さを達成した。
【0038】
実施例5.
80gの軟質焼成MgO、20gのハイドロマグネサイト及び100gの細砂を90gの水と20mlのスルホン化ナフタレン可塑剤と5分間混合した。最終塊を注入し、振動させて、50mmの立方体試料を形成した。試料を周囲条件(40%の相対湿気、0.03%のCO2)で保存し、28日後25MPaの圧縮強さを達成した。
本発明の結合剤を用いて製造される複合材料の圧縮強さはポルトランドセメントを用いて製造される複合材料より小さい傾向があるが、大きい圧縮強さを必要としないポルトランドセメントが用いられる用途、例えば、モルタルやブリーズブロックにおける用途があり、本発明は、より低い正味のCO2出力(このような出力は、負でさえあり得る)を必要としつつ、このような適用に充分な強度を与える。
ソーレルセメントとは対照的に、本発明の結合剤は、水の存在下に安定である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 10%〜95%のMgO; 及び
(b) 5%〜80%の炭酸マグネシウム;
(c) 0%〜10%の塩化物
を含む結合剤組成物であって:
炭酸マグネシウムが下記式
x MgCO3・y Mg(OH)2・z H2O
(式中、xは、少なくとも1である数であり、
y又はzの少なくとも1つは、0より大きい数である)
である、前記結合剤組成物。
【請求項2】
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 10%〜95%のMg(OH)2及び必要によりMgO;
(b) 5%〜80%の炭酸マグネシウム;
(c) 0%〜10%塩化物
を含む硬化性結合剤組成物であって:
炭酸マグネシウムが下記式
x MgCO3・y Mg(OH)2・z H2O
(式中、xは、少なくとも1である数であり、
y又はzの少なくとも1つは、0より大きい数である)
であり、
水酸化マグネシウムが、上記式の炭酸マグネシウムの存在下にMgOを水和させることによって形成される水酸化マグネシウム; 表面積が(ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法に従って測定した)60m2/gより大きい水酸化マグネシウム; 及びロゼット状形態を有する水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる、
前記結合剤組成物。
【請求項3】
式x MgCO3・y Mg(OH)2・z H2Oにおいて、
xが3.5 - 4.5の数であり、
yが0.5 - 1.5の数であり、
zが3.5 - 5.5の数である、
請求項1又は請求項2に記載の結合剤組成物。
【請求項4】
式x MgCO3・y Mg(OH)2・z H2Oにおいて、
xが4であり、
yが1であり、
zが4又は5である、
請求項1又は請求項2に記載の結合剤組成物。
【請求項5】
炭酸マグネシウムが、下記式
x MgCO3・z H2O
(式中、xは少なくとも1であり、
zは、0より大きい)
である、請求項1又は請求項2に記載の結合剤組成物。
【請求項6】
式x MgCO3・y Mg(OH)2・z H2Oにおいて:
x、y、zがすべて0より大きい、
請求項1又は請求項2に記載の結合剤組成物。
【請求項7】
炭酸マグネシウムがハイドロマグネサイトである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の結合剤組成物。
【請求項8】
塩化物がNaClである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の結合剤組成物。
【請求項9】
MgO及び/又はMg(OH)2、炭酸マグネシウム及び必要により塩化物を以下の範囲の1つより選ばれる量で含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の結合剤組成物:
i)
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 70%〜95%の酸化マグネシウム(MgO);
(b) 5%〜20%の1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0%〜10%の塩化物;
ii)
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 30%〜80%の酸化マグネシウム(MgO);
(b) 20%〜60%の1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0%〜10%の塩化物;
iii)
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 10%〜40%の酸化マグネシウム(MgO)及び/又は水酸化マグネシウム(Mg(OH)2);
(b) 60%〜80%の1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0%〜10%の塩化物;
iv)
成分(a)〜(d)の全質量に基づき
(a) 40%〜85%の酸化マグネシウム(MgO);
(b) 5%〜30%水酸化マグネシウム(Mg(OH)2);
(c) 10%〜20%の1つ以上の炭酸マグネシウム;
(d) 0%〜10%の塩化物;
v)
成分(a)〜(d)の全質量に基づき
(a) 20%〜75%の酸化マグネシウム(MgO);
(b) 5%〜30%の水酸化マグネシウム(Mg(OH)2);
(c) 20%〜40%の1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(d) 0%〜10%の塩化物;
vi)
成分(a)〜(d)の全質量に基づき
(a) 10%〜60%の酸化マグネシウム(MgO);
(b) 30%〜50%の水酸化マグネシウム(Mg(OH)2);
(c) 10%〜30%の1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(d) 0%〜10%の塩化物;
vii)
成分(a)〜(c)の全質量に基づき
(a) 30%〜90%の水酸化マグネシウム(Mg(OH)2);
(b) 10%〜60%の1つ以上の炭酸マグネシウム; 及び
(c) 0%〜10%の塩化物。
【請求項10】
MgO/Mg(OH)2粒子の平均粒径が約0.01〜800μm、例えば、約0.01〜600μmであり; 更に/又は炭酸マグネシウム粒子の平均粒径が約0.01〜800μm、例えば、約0.01〜600μmである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の結合剤組成物。
【請求項11】
組成物中の水酸化マグネシウムの表面積が少なくとも60m2/gである、請求項2に記載の結合剤組成物。
【請求項12】
組成物中の水酸化マグネシウムの少なく50%がロゼット状形態を有する、請求項2又は請求項11に記載の結合剤組成物。
【請求項13】
組成物中の水酸化マグネシウムの実質的にすべてがロゼット形態を有する、請求項12に記載の結合剤組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の結合剤を乾燥粉末形態で含む組成物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の結合剤及び充填剤、例えば、シリカ質材料又は凝集体を含む組成物。
【請求項16】
コンクリート、モルタル、セメント又は他の建築構造製品における結合剤としての請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項17】
硬化した請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物を含む構造製品; 例えば、高密度建築用ブロック、軽量建築用ブロック、タイル、かわら、レンガ、又はモルタル。
【請求項18】
建設材料を形成する方法であって、
請求項1〜15のいずれか1項に記載の結合剤と:
(e) 水及び
(f) 必要により、添加剤又は充填剤、例えば、シリカ質材料又は凝集体
とを一緒に混合する工程; 及び
その混合物を硬化させる工程
を含む、前記方法。
【請求項19】
成分(e)〜(f)の量が、成分(a)〜(f)の全質量に基づき:
(e) 5-80質量%までの水; 及び
(f) 99質量%までの充填剤及び他の添加剤
である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項2、11又は12のいずれか1項に記載の組成物を製造する方法であって、Mg(OH)2が、一般式Iの炭酸マグネシウムの存在下にMgOを水和させ、組成物を乾燥させ、更に必要により組成物を粉砕することにより得られる、前記方法。
【請求項21】
(a) 酸化マグネシウムの量及び/又は式Iの炭酸マグネシウムの存在下にMgOを水和させることによって形成される水酸化マグネシウム; 表面積が(ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法に従って測定した)60m2/gより大きい水酸化マグネシウム; 及びロゼット状形態を有する水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる水酸化マグネシウムの量、
(b) 請求項1に記載の一般式Iの炭酸マグネシウムの量、及び
必要により(c) 塩化物の量
を請求項1、2又は9のいずれか1項に記載の量で成分を組み合わせる説明書と共に含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−525885(P2011−525885A)
【公表日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515595(P2011−515595)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001610
【国際公開番号】WO2009/156740
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(510296775)ノヴァセム リミテッド (1)
【Fターム(参考)】