説明

結合型SAW共振子

【課題】使用温度範囲が広く、周波数温度特性が優れる高精度で小型の結合型SAW共振子を提供する。
【解決手段】結合型SAW共振子10は、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で表されるSHカットの水晶基板100の主面上に、特定の方位に主IDT電極121、副IDT電極122と反射器123,124とを配設した2ポート型の第1共振子120と、主IDT電極131、副IDT電極132と反射器133,134と、を配設した2ポート型の第2共振子130とを近接して設け、且つSH波の伝搬方向に平行に並設し、第1共振子120を縦方向のLS0モードで動作させ、第2共振子130を縦方向のLA0モードで動作させ、IDT電極の線幅L1,L2を異ならせてLS0モードとLA0モードの基本周波数を略一致させたうえで、LS0モードとLA0モードとを弾性結合状態で動作させる。このことにより、温度特性カーブを平坦化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合型SAW共振子に関し、2モード型SAW共振子を近接配設して弾性結合状態で動作する結合型SAW共振子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水晶基板の表面に電極としてアルミニウム,銅,チタン,タングステン等の金属を用いて、蒸着等の成膜形成手段により電極パターンを形成しSAW共振子を構成している。また、水晶基板の圧電基板方位としては、水晶結晶の基本軸において、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で、まず光軸であるZ軸まわりに反時計方向に0°±1°の範囲であり、次に電気軸であるX軸回りに反時計方向にθが29.2°〜40.7°の範囲であり、次に新たに生成したZ’軸まわりに圧電体平板内において、電気軸を起点として反時計方向に面内回転して、ψが90°±2°範囲である方向が弾性表面波の位相伝搬方位とするSHカットがある。
【0003】
前述のSHカット基板において、SAW共振子として利用する弾性表面波はSH波である。SH波は、従来からATカット水晶振動子に使用されているバルク振動モードと同一であり、電極の質量により表面波速度が低下して、水晶基板の表面付近に振動エネルギを集中させ基板の深さ方向に閉じ込めて利用するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、周波数零温度係数を有する水晶基板に二つのSAW共振子を構成し、外付けの集中素子を用いて二つのSAW共振子を結合して駆動し、平坦な周波数温度特性を実現する結合型SAW共振子というものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、水晶基板上に二つのSAW共振子を形成して、それぞれの表面波の伝搬方位を異なるように配設して二つのSAW共振子を結合して周波数温度特性を改善するというものも知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】国際公開番号WO2005/099089 A1
【特許文献2】米国特許第4193045号明細書
【非特許文献1】G.Martin, B. Wall:“Temperature Stable One-port SAW Resonators,”IEEE Ultrasonics 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような特許文献1において用いられるSHカット水晶基板は、従来から用いられるSTカット水晶基板を使用して製作したSAW共振子の周波数温度特性に対して2倍の周波数精度が得られるものであるが、最近の電子機器における精度要求に対しては不十分である。特に屋外使用において要求される使用温度範囲が−35℃〜+85℃範囲において、±25ppmの精度の実現が困難である。具体的には、特許文献1によるSAW共振子が有する周波数温度特性の二次温度係数は−1.6×10-8/℃2であって、仮にその頂点温度を使用温度範囲の中央に配置すると、温度変化による周波数変動量は約58ppmとなり、他の周波数変動量を加味すると±25ppmの精度は実現できないという課題がある。
【0008】
また、特許文献2では二つのSAW共振子の結合方法として外付けの収中素子を用いる構成であり、実装部品数が増加し小型化が難しい他、コスト増となることが考えられる。
【0009】
また、非特許文献1によれば、それぞれの表面波の伝搬方位が異なるように二つのSAW共振子を配設して構成しているので、共振子の平面積が大きくなるという課題を有する。さらに、二つのSAW共振子の振動モード(共振周波数)が異なるため共振周波数及び周波数温度特性のばらつきが出やすいことが予測される。
【0010】
本発明の目的は、使用温度範囲が広く、周波数温度特性が優れる高精度で小型の結合型SAW共振子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の結合型SAW共振子は、水晶結晶の基本軸においてオイラー角表示(φ,θ,ψ)で表されるSHカットの水晶基板の主面上に、特定の方位に2個のIDT電極と前記IDT電極の前記特定の方位の両側に設けられる反射器と、を配設した2ポート型のSAW共振子を複数近接して設け、且つ前記特定の方位方向に平行に並設し、一方の前記SAW共振子を縦方向の対称基本波モードで動作させ、他方の前記SAW共振子を縦方向の斜対称基本波モードで動作させ、前記IDT電極の線幅を異ならせて前記対称基本波モードと前記斜対称基本波モードの基本周波数を略一致させたうえで、前記対称基本波モードと前記斜対称基本波モードを結合状態で動作させることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、二次温度係数が小さいSHカット水晶基板を用いて、結合振動子を構成していることから、広い使用温度範囲に対して平坦な周波数温度特性を実現する結合型SAW共振子を提供することができる。
【0013】
また、対称基本波モード(以降、LS0モードあるいはLS0と表すことがある)と、斜対称基本波モード(以降、LA0モードあるいはLA0と表すことがある)を使用していることから、結合状態においても低インピーダンスが実現でき、数100MHz帯発振回路の構成が容易にできる。
【0014】
また、LS0モードとLA0モードの基本周波数をIDT電極の線幅を変更、調整して略一致させている。線幅はフォトリソグラフィ技術等により高精度で形成できることから、ばらつきが小さく高精度な周波数設定が可能で、周波数温度特性(温度特性カーブ)のつくり込みが容易である。
【0015】
さらに、2ポート型のSAW共振子を複数近接して設け、且つ特定の方位方向に平行に並設していることから、前述した非特許文献1のように、表面波の伝搬方位を異ならせたものに比べ、平面サイズを小型化することができる。なお、特定の方位方向とは、SH波の伝搬方向である。
【0016】
また、本発明の結合型SAW共振子は、前記IDT電極の線幅を調整して、前記対称基本波モードと前記斜対称基本波モードとの頂点温度差を設けていることを要旨とする。
【0017】
このようにすれば、頂点温度差の大小によって、結合状態における周波数温度特性の平坦度を調整することができ、所望の温度特性カーブをつくり込み易いという効果がある。
【0018】
また、本発明では、前記対称基本波モードと前記斜対称基本波モードとの結合が、弾性結合であることを要旨とする。
【0019】
従って、特許文献2のように二つのSAW共振子の結合方法として外付けの集中素子を用いる構成に対して弾性結合であるために、外付けの集中素子が不要であり、実装部品数が少なく小型化、コスト低減が可能となる。
【0020】
また、前記複数のSAW共振子それぞれの前記対称基本波モードと前記斜対称基本波モードとの周波数差が略一致していることが望ましい。
【0021】
このようにすれば、複数のSAW共振子それぞれの温度特性カーブが、横軸である温度軸方向に平行移動した関係となり、結合状態における温度特性カーブを平坦にし易くなるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態に係る水晶基板の方位角図、図2〜図8は結合型SAW共振子の構成、駆動及び特性説明図を示している。
(実施形態)
【0023】
まず、図1を用いて水晶基板100について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る水晶基板が有する方位角を示す説明図である。図1に示すように、水晶基板100は、面内回転SHカット水晶基板でありSH型表面波(基板の主面に平行な成分を有する表面集中型すべり波)で動作するものである。
【0024】
水晶基板100は、水晶結晶の基本軸において、電気軸であるX軸と機械軸であるY軸の2軸が作る面を主面とするZ板をX軸回りに反時計方向にθ°(特に、零温度係数が得られるθ=29.2°〜40.7°が好ましい)回転した基板である。そして、この水晶基板100は、主面の垂線であるZ’軸回りにX軸を起点として面内の回転角ψが90±2°である方位をSH型弾性表面波の位相伝播方位軸としたものである。SAW共振子でよく使用されるオイラー角表示(φ,θ,ψ)では、φが0±1°範囲であり、θが29.2°以上40.7°以下の範囲であり、ψが90±2°の範囲である。このような水晶基板100をSHカット水晶基板と呼称する。
【0025】
次に、本実施形態に係る結合型SAW共振子について図面を参照して説明する。
図2は、本実施形態に係る結合型SAW共振子の一実施例を示す平面図である。図2において、結合型SAW共振子10は、上述したSHカット水晶基板100(以降、単に水晶基板100と表す)の主面に、SH波の伝搬方向に並列配設される第1共振子120、第2共振子130と、制御電極(ゲート電極と呼称することがある)140とから構成されている。
【0026】
第1共振子120は、Al等の金属からなる主IDT電極121と副IDT電極122と、主IDT電極121と副IDT電極122の間のゲート電極140と、主IDT電極121と副IDT電極122それぞれのSH波伝搬方向の両側に設けられる反射器123,124とから構成されている。
また、主IDT電極121と副IDT電極122は、複数のすだれ状の交差指電極とから構成されており、また、反射器123,124は、格子状の電極で構成されている。
【0027】
第2共振子130は、Al等の金属化からなる主IDT電極131と副IDT電極132と、主IDT電極131と副IDT電極132の間のゲート電極140と、主IDT電極131と副IDT電極132それぞれの両側に設けられる反射器133,134とから構成されている。
また、主IDT電極131と副IDT電極132は、複数のすだれ状の交差指電極とから構成されており、また、反射器133,134は、複数の格子状の電極(格子電極)で構成されている。
【0028】
ゲート電極140は、第1共振子120及び第2共振子130において共通に設けられている。図2に示すように、第1共振子120と第2共振子130は、Y’軸に平行な中心軸線Rに対して対称配列であり、第1共振子120と第2共振子130それぞれは、X’軸に平行な中心軸線Pに対して対称形である。なお、上述した各IDT電極及び各反射器を構成する交差指電極や格子電極の本数は図示の都合上減らして表している。同様に、ゲート電極140の電極構成数も図示の本数に限らない。
【0029】
ここで、各電極の本発明に係る主たる寸法について説明する。主IDT電極121,131、副IDT電極122,132それぞれの電極ピッチをPT、電極長さをWとし、ゲート電極140の電極ピッチをPGとし、反射器123,124,133,134それぞれの格子電極の電極ピッチをPRとする。
また、第1共振子120の各交差指電極の線幅L1、第2共振子130の各交差指電極の線幅L2とし、それぞれの線幅をL1>L2とする。
また、第1共振子120と第2共振子130とのX’軸方向の距離(交差指電極間距離)をギャップGで表す。
【0030】
次に、第1共振子120及び第2共振子130の接続配線について説明する。図2に示すような配線とし、GND端子とIN/OUT端子に励振信号を印加することにより、第1共振子120と第2共振子130との同時動作状態をつくる。なお、ゲート電極140は電気的に浮き電極である。
【0031】
このように構成される結合型SAW共振子10は2ポート型SAW共振子であって、縦2重モード(LS0モード、LA0モードが存在する)と横2重モード(TS0モード、TA0モードが存在する)の結合状態を構成する。従って、縦2重モードと横2重モードにおける基本共振周波数は一致する。また、LS0モードとLA0モードそれぞれの共振周波数を一致させるように、線幅を変え、且つ交差指電極の線幅比L2/L1を設定する。
【0032】
また、第1共振子120と第2共振子130との共振子間の良好な結合状態をつくるために、ギャップGは表面波の1波長〜5波長とし、交差指電極の電極長さWは10波長〜20波長の範囲に設定する。
【0033】
続いて、本発明に利用する振動モードについて図面を参照して説明する。
図3は、本発明に利用する振動モードの1例について模式的に図示した説明図である。下方のグラフ表示は矢印U(X)方向から視認した状態を表し、横軸は結合型SAW共振子10の振動領域、縦軸には変位振幅を示している。また右方向のグラフ表示は矢印V(Y)方向から視認した状態を表し、横軸に変位振幅、縦軸に振動領域を示している。
【0034】
図中のLS0(縦方向の対称基本モード)は第1共振子120における共振モード振幅の包絡線変位状態を図示したものである。一方、LA0(縦方向の斜対称基本波モード)は第2共振子130における、共振モード振幅の包絡線変位状態について図示したものである。なお、第1共振子120及び第2共振子130それぞれにLS0、LA0が存在するが、第1共振子120がLS0のとき第2共振子130はLA0となり、第1共振子120がLA0のとき第2共振子130はLS0となるように、励振信号の極性に対応して交互に繰り返す。なお、領域BはSH波の基本励振領域、領域Aは、反射波領域である。
【0035】
図示した変位振幅の状態からいずれも電気的な駆動電圧により励振可能であることもわかる。従って、LS0、LA0両モードが結合動作した場合にも全体の共振子のインピーダンスは低く実現できる。なお、IDT電極の電極ピッチPTと反射器の電極ピッチPRとの比をPT/PR=0.995に設定した。両モードの周波数調整については、ゲート電極140の電極ピッチPGの設定と導体対数により行うことができる。
【0036】
次に、第1共振子120と第2共振子130の結合について図面を参照して説明する。
図4は、本実施形態における結合モードと周波数温度特性の関係について表す説明図である。図4において、励振信号の入力による第1共振子120及び第2共振子130の共振状態において、LS0及びLA0の2個の共振が同時に存在している。各々の共振は、その周波数温度特性が異なる。具体的には頂点温度が異なって出現する。
この状態において、第1共振子120と第2共振子130の間で弱い結合が存在すれば、図4に示すような結合状態の周波数温度特性となり、温度特性カーブは平坦に近くなり周波数温度特性は著しく改善される。
【0037】
第1共振子120と第2共振子130との結合は、両共振子間のギャップG(図2、参照)領域に生じるひずみエネルギによる弾性結合である。
図5は、弾性結合について模式的に表す等価回路図である。図5において、等価回路は、第1共振子120と第2共振子130とコンデンサ150とが並列接続されて構成されており、コンデンサ150が結合部を示している。
【0038】
また、図4にて示す第1共振子120の頂点温度は、交差指電極の線幅L1と線幅L2とがL1>L2に設定されているため低温側に出現し、第2共振子130の頂点温度は高温側に出現する。この際、結合状態における周波数温度特性は、第1共振子120と第2共振子130間の頂点温度差によって影響される。つまり、頂点温度差が大きい場合には、結合部の落ち込みが大きくなり平坦度が悪くなり、頂点温度差が小さい場合には、使用温度範囲が狭まることになる。
【0039】
次に、頂点温度差の設定方法について図面を参照して説明する。
図6は、本実施形態における第1共振子と第2共振子の周波数配置を示す説明図である。図6における例示は、第1共振子120の交差指電極の質量が第2共振子130の交差指電極の質量よりも相対的に大きく設定されている。つまり、第1共振子120の線幅L1と第2共振子130の線幅L2との関係をL1>L2となるように設定する。従って、第1共振子120の方が共振周波数が低めに出現し、基本波モードがLS0であり共振周波数をf10、LA0モードの共振周波数をf11とする。
【0040】
一方、第2共振子130は共振周波数が高めに出現し、LA0モードの共振周波数をf21、LS0モードの共振周波数をf20とする。
【0041】
なお、交差指電極の質量調整には電極膜厚を調整することも可能であるが、電極パターンをフォトリソグラフィ技術等で形成する場合には、線幅調整の方がばらつきを抑制しやすい。
【0042】
また、第1共振子120と第2共振子130とが、図2においてY’軸に平行な中心軸線Rに対して対称形(配置と線幅L1を含む形状が対称)の場合には、f11=f21、f10=f20となり、頂点温度差は出現しない。
従って、線幅L2と線幅L1の比L2/L1を調整して、第2共振子のLA0モードの共振周波数f21を第1共振子のLS0モードの共振周波数f10に一致させる。図6では、f10=f21=F00(基準周波数)と表している。なお、第1共振子120のLS0とLA0の周波数差Dは、第2共振子130のLS0とLA0の周波数差Dは略等しくなるように設定されている。
【0043】
続いて、IDT電極の線幅と頂点温度と周波数変化との関係について説明する。
図7は、本実施形態における結合型SAW共振子のIDT電極の線幅と頂点温度と周波数変化量の関係を表す説明図である。図7において、結合型SAW共振子10は、カット角子θ=33°のSHカット水晶、表面波の速度Vs=3150m/sec、共振周波数f=152MHz、L00=5.1μmとしたときの計算結果を表している。横軸には線幅を規格化した線幅比L1/L00、左縦軸には共振周波数変化量F(ppm)、右縦軸には頂点温度変化量Θを表し、図中実線表示は周波数変化、破線は頂点温度を表す。
【0044】
なお、L00とは、規格化の基準となる線幅であって、L00(μm)=Vs(表面波速度(m/sec)/(使用周波数f(MHz)/4)で与えられる。
【0045】
図7において、共振周波数は、線幅比L1/L00=1をF00(基準周波数)としたときに、線幅比L1/L00=0.85でF00+2000(ppm)、線幅比L1/L00=1.15でF00−2000(ppm)となる。つまり、線幅比|L1/L00|≦0.15の範囲で±2000ppm変化することを示している。
【0046】
また、頂点温度は、線幅比L1/L00=1のときを頂点温度Θを中心頂点温度(Θ=0)としたときに、線幅比L1/L00=0.85で頂点温度Θ=+25℃、線幅比L1/L00=1.15で頂点温度Θ=−25℃となる。つまり、線幅比L|1/L00|≦0.15の範囲で50℃の頂点温度差ができることを示している。
【0047】
次に、本実施形態のLS0モードとLA0モードの周波数配置について図面を参照して説明する。IDT電極の電極ピッチPT、ゲート電極の電極ピッチPGとを規格化したPG/PTをPTGと表し説明する。
図8は、本実施形態のPGTとLS0モード及びLA0モードとの共振周波数差の関係について示す説明図である。横軸にPGT、縦軸に周波数差δ(df/f)とする。
なお、ここではSHカット水晶においてf=152MHz、IDT電極を140対、ゲート電極を導体対数MG=20(対)として計算した。
【0048】
周波数差δに対応するL1/L00を選択すれば第1共振子120と第2共振子130の共振周波数を一致させて結合状態を実現できる。
例えば、周波数変化率δ=df/f=400(ppm)である条件PTG=1.05と選択した場合は、第1共振子120と第2共振子130について、周波数差δの1/2の200ppmに対して線幅比は1/10の±1.5%となる。線幅比をL2/L1=(1−0.015)/(1+0.015)=0.970と設定すれば第1共振子120のLS0と、第2共振子130のLA0の共振周波数を一致させることができる。つまり、第1共振子120のLS0モードの周波数を降下させ、第2共振子130のLA0モードの周波数を上昇させることで、第1共振子120のLS0(f10)に第2共振子130のLA0(f21)を一致させることができる。
また、このとき、両方の共振子の頂点温度差は5℃程度となる(図7、参照)。
【0049】
さらに、頂点温度差を広げる場合には、両共振子のIDT電極の対数を少なくするか、ゲート電極(制御領域)の導体対数MGを少なくする条件を選択すれば、2倍〜4倍(δ=1600ppmの場合)の頂点温度差を確保することが可能となる。
【0050】
従って、20℃程度の頂点温度差が確保できて、使用温度−35℃〜+85℃の範囲において、1.6×10-8×{(85+35−20)/2}2=40ppm、すなわち±20ppm程度の精度を実現できる。頂点温度差50℃(周波数差δ=4000ppmの場合)であれば、同様な計算から±10ppm程度の精度を実現できる。
【0051】
以上説明したように、本発明の第1の重要ポイントは、第1共振子120のLS0モードの共振周波数と、第2共振子130のLA0モードの共振周波数を一致させた場合の周波数差δのばらつきが重要になる。また、第2の重要ポイントは、共振周波数差f21−f10=0とするために、IDT電極の線幅比L2/L1を使用することである。また、第1共振子120と第2共振子130間に結合状態を形成しているために、もし線幅が一致するL1=L2の条件下であれば、両者の周波数は一致する。つまり、共振周波数f10=f20(LS0)、f11=f21(LA0)となる。
【0052】
線幅L1,L2を変化させると、第1共振子120と第2共振子130の周波数配置は相互にシフトする。また、周波数差df=f10−f11あるいは周波数差df=f20−f21を変化させる要因は電極膜厚Hと線幅Lである。この周波数差dfは、両共振子が電極幅以外の条件を同一とすれば(IDT電極の対数が同一)、1本の交差指電極の質量mに依存すると考えられる。すなわち、電極による反射係数rは質量mの関数であり、反射係数rの大小により前述の周波数差dfが決定される。
【0053】
また、第1共振子の交差指電極の線幅L1と、第2共振子の交差指電極L2の設定が重要であり、これら設定条件の考え方を数式により説明する。周波数変化量をdf、aを周波数の特性定数とする。
従って、第1共振子において、LS0とLA0の周波数差df1は、
df1(m1)=a11+a212+・・・≒a1・m1 (1)
またLS0モードの周波数f10は、
f10=b11 (2)
ただし、b1は図7の周波数特性の傾斜である。
第2共振子において、LS0とLA0の周波数差df2は、
df2(m2)=a12+a222+・・・≒a1・m2 (3)
これらの周波数変化量df1とdf2は、小さければ図7に示すように直線で近似できる。
第2共振子のLA0モードの周波数f21は、
f21=f20+df2
=b1・m2+df2=b1・m2+a1・m2 (4)
ここで、第1の共振子と第2共振子の周波数を等しくおくと、
f10=f21 (5)
であるから、式(2)と式(4)を式(5)に代入して、
11=b1・m2+a1・m2
1/m2=1+a1/b1 (6)
で表すことができる。
ここで、電極指の質量m1=ρHL1、m2=ρHL2(ρは電極の密度、Hは電極膜厚で共通)となり、電極膜厚Hの第1共振子120と第2共振子130がギャップGで近接しているため同一と考えることができる。式(6)に代入すると、
1/m2=ρHL1/ρHL2=L1/L2
従って、
L1/L2=1+a1/b1>1(なおb1<0、a1<0) (7)
このようにして線幅比L2/L1を決定することができ、L1>L2と設定すればよい。
【0054】
従って、線幅比L2/L1のみが周波数変化要因とみなせる。周波数が近接していれば第1共振子120と第2共振子130とは結合状態となって、図7に示すような1個のみの共振周波数を有する。
【0055】
従って、前述した実施形態によれば、二次温度係数が小さいSHカット水晶基板を用いて、結合振動子を構成していることから、広い使用温度範囲に対して略平坦な周波数温度特性を実現する結合型SAW共振子を提供することができる。
【0056】
また、振動モードとしてLS0モードと、LA0モードを使用していることから、結合状態においても低インピーダンスが実現でき、数100MHz帯発振回路の構成が容易にできる。
【0057】
また、第1共振子120のIDT電極の線幅L1と第2共振子130のIDT電極の線幅L2とを変更、調整してLS0モードとLA0モードの基本周波数を略一致させている。線幅はフォトリソグラフィ技術等により高精度で形成できることから、ばらつきが小さく高精度な周波数設定が可能で、温度特性カーブのつくり込みが容易である。
【0058】
さらに、2ポート型のSAW共振子を2個近接して設け、且つ、SH波の伝搬方向に平行に並設していることから、前述した非特許文献1のように、表面波の伝搬方位を異ならせたものに比べ、平面サイズを小型化することができる。
【0059】
また、本発明の結合型SAW共振子10は、第1共振子120と第2共振子130それぞれのIDT電極の線幅L1,L2を調整して、LS0モードとLA0モードとの頂点温度差を設けている。頂点温度差の大小を調整することによって、結合状態における周波数温度特性の平坦度を調整することができ、所望の温度特性カーブをつくり込み易いという効果がある。
【0060】
また、本発明では、LS0モードとLA0モードとの結合が、弾性結合であるため、前述した特許文献2のように二つのSAW共振子の結合方法として外付けの集中素子を用いる構成対して外付けの集中素子が不要であり、実装部品数が少なく小型化、コスト低減が可能となる。
【0061】
また、LS0モードとLA0モードの周波数差が略一致していることから、第1共振子120及び第2共振子130それぞれの温度特性カーブが、基準周波数F00に対して略対称形となり、結合状態における温度特性カーブを平坦にし易くするという効果がある。
【0062】
なお、本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前述した実施形態では、第1共振子120と第2共振子130の2個の共振子を用いる場合を例示して説明したが、共振子数はもっと多くてもよい。仮に、3個の共振子を用いて本発明の条件を適合し、第1共振子120と第2共振子130の間に第3共振子を設けることで、なお一層、温度特性カーブの平坦性を高めることができる。
【0063】
あるいは、第1共振子120または第2共振子130の外側に第3共振子を設ければ、使用温度範囲をさらに広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施形態に係る水晶基板が有する方位角を示す説明図。
【図2】本発明の実施形態に係る結合型SAW共振子の一実施例を示す平面図。
【図3】本発明に利用する振動モードの1例について模式的に図示した説明図。
【図4】本発明の実施形態における結合モードと周波数温度特性の関係について表す説明図。
【図5】本発明の実施形態における弾性結合について模式的に表す等価回路図。
【図6】本発明の実施形態における第1共振子と第2共振子の周波数配置を示す説明図。
【図7】本発明の実施形態における結合型SAW共振子のIDT電極の線幅と頂点温度と周波数変化量の関係を表す説明図。
【図8】本発明の実施形態のPGTとLS0モード及びLA0モードとの共振周波数差の関係について示す説明図。
【符号の説明】
【0065】
10…結合型SAW共振子、100…水晶基板、120…第1共振子、121,131…主IDT電極、122,132…副IDT電極、123,124,133,134…反射器、130…第2共振子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶結晶の基本軸においてオイラー角表示(φ,θ,ψ)で表されるSHカットの水晶基板の主面上に、特定の方位に2個のIDT電極と前記IDT電極の前記特定の方位の両側に設けられる反射器と、を配設した2ポート型のSAW共振子を複数近接して設け、且つ前記特定の方位方向に平行に並設し、
一方の前記SAW共振子を縦方向の対称基本波モードで動作させ、
他方の前記SAW共振子を縦方向の斜対称基本波モードで動作させ、
前記IDT電極の線幅を異ならせて前記対称基本波モードと前記斜対称基本波モードの基本周波数を略一致させたうえで、
前記対称基本波モードと前記斜対称基本波モードを結合状態で動作させることを特徴とする結合型SAW共振子。
【請求項2】
請求項1に記載の結合型SAW共振子において、
前記IDT電極の線幅を調整して、前記対称基本波モードと前記斜対称基本波モードとの頂点温度差を設けていることを特徴とする結合型SAW共振子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の結合型SAW共振子において、
前記対称基本波モードと前記斜対称基本波モードとの結合が、弾性結合であることを特徴とする結合型SAW共振子。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の結合型SAW共振子において、
前記複数のSAW共振子それぞれの前記対称基本波モードと前記斜対称基本波モードとの周波数差が略一致していることを特徴とする結合型SAW共振子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−228144(P2008−228144A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66344(P2007−66344)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】