説明

結合組織成長因子抗体

【課題】本発明はCTGFに結合する抗体に関する。
【解決手段】本発明の抗体は、線維化に伴う生物活性に関与するCTGFの領域を特に指向する。本発明は更に、本発明の抗体を用いて、肺や肝臓、心臓、皮膚、腎臓の線維性障害等の限局性及び全身性線維性障害を含むCTGF関連障害を治療する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2003年6月4日出願の米国仮特許出願第60/475,598号の利益を主張するものであり、該出願の内容全てを本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0002】
本発明は結合組織成長因子(CTGF)に結合する抗体に関する。本発明の抗体は特に、各種障害に関連する生物活性に関与するCTGFの領域に対するものである。
【背景技術】
【0003】
結合組織成長因子(CTGF)
CTGFは、当初ヒト臍帯静脈内皮細胞の培地から単離された、36kDでシステインリッチなヘパリン結合性分泌糖タンパク質である(例えば、ブラッドハム(Bradham)ら(1991年)J Cell Biol 114:1285-1294;グロテンドースト(Grotendorst)及びブラッドハム(Bradham)、米国特許第5,408,040号参照)。CTGFはタンパク質(分泌糖タンパク質)のCCN(CTGFCyr61, Nov)ファミリーに属するが、このファミリーには血清誘発前初期遺伝子産物Cyr61や推定癌遺伝子Nov、ECM関連タンパク質FISP-12、src誘導性遺伝子CEF-10、Wnt誘導性分泌タンパク質WISP-3、抗増殖性タンパク質HICP/rCOPが含まれる(ブリッグストック(Brigstock)(1999年)Endocr Rev 20:189-206;オブライアン(O'BRIAn)ら(1990年)Mol Cell Biol 10:3569-3577;ジョリオット(Joliot)ら(1992年)Mol Cell Biol 12:10-21;ライセック(Ryseck)ら(1990年)Cell Growth and Diff 2:225-233;シモンズ(Simmons)ら(1989年)Proc Natl Acad Sci USA 86:1178-1182;ペニカ(Pennica)ら(1998年)Proc Natl Acad Sci USA、95:14717-14722;及びジャン(Zhang)ら(1998年)Mol Cell Biol 18:6131-6141)。CCNタンパク質は、全アミノ酸含量の10%超を構成する38個のシステイン残基が保存されていることを特徴とし、N末端ドメインとC末端ドメインを有するモジュール構造を生じる。CTGFのモジュール構造は、インスリン様成長因子結合タンパク質(IGF-BP)及びフォン・ヴィレブランド因子(VWC)の保存モチーフをN末端ドメインに含み、トロンボスポンジン(TSP1)及びシステインノットモチーフをC末端ドメインに含む。
【0004】
CTGFの発現は、TGFβ−1、−2及び−3や骨形成タンパク質(BMP)−2、アクチビン等のトランスフォーミング成長因子β(TGFβ)スーパーファミリーのメンバーや、デキサメタゾンやトロンビン、血管内皮増殖因子(VEGF)、アンギオテンシンII等の他の各種調節モジュレーター、更には高血糖や高血圧等の環境刺激によって誘導される(例えば、フランクリン(Franklin)(1997年)Int J Biochem Cell Biol 29:79-89;ヴンダーリッヒ(Wunderlich)(2000年)Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 238:910-915;デントン(Denton)及びアブラハム(Abraham)(2001年)Curr Opin Rheumatol 13:505-511;リーワルド(Riewald)(2001年)Blood 97:3109-3116;ライザー(Riser)ら(2000年)J Am Soc Nephrol 11:25-38;及び国際公開WO00/13706号参照)。CTGF発現におけるTGFβ刺激は迅速で持続的であり、永続的な適用を必要としない(イガラシら(1993年)Mol Biol Cell 4:637-645)。TGFβによるCTGF発現の増強は、CTGFプロモーターに存在するDNA調節要素(DNA regulatory elements)による転写活性化を伴う(グロテンドースト(Grotendorst)ら(1996年)Cell Growth Differ 7:469-480;グロテンドースト(Grotendorst)及びブラッドハム(Bradham)、米国特許第6,069,006号;ホームズ(Holmes)ら(2001年)J Biol Chem 276:10594-10601)。
【0005】
CTGFは、α1(I)コラーゲン、α5インテグリン及びフィブロネクチンのmRNAの定常状態での転写を増大させると共に、各種培養細胞の増殖や走化等の細胞過程を促進することが示されている(例えば、フラツィアー(Frazier)ら(1996年)J Invest Dermatol 107:406-411;シ−ウェン(Shi-Wen)ら(2000年)Exp Cell Res 259:213-224;クラグスバーン(Klagsburn)(1977年)Exp Cell Res 105:99-108;グプタ(Gupta)ら(2000年)Kidney Int 58:1389-1399;ワハブ(Wahab)ら(2001年)Biochem J 359(Pt 1):77-87;ウゼル(Uzel)ら(2001年)J Periodontol 72:921-931;及びライザー(Riser)及びコルテス(Cortes)(2001年)Ren Fail 23:459-470参照)。新生仔マウスにCTGFを皮下注射することによって肉芽組織の局所的沈着がもたらされる。同様に、TGFβの皮下注射によって、肉芽組織が形成され、局所線維芽細胞における高レベルのCTGFmRNAが誘導される。更に、TGFβとCTGFを用いた併用治療や逐次治療によって、より持続的な肉芽腫が発生する(モリら(1999年)J Cell Physiol 181:153-159)。このように、CTGFは、TGFβによって誘発される作用のサブセット、特に、細胞外マトリックス(ECM)の産生や沈着を仲介することは明らかである。また、CTGFに応答する能力、或いはCTGF応答の程度は、細胞の「コンピテンス」を可能にするTGFβ処理によってもたらされる初回刺激に依存し得る(国際公開WO96/08140号)。
【0006】
組織構築を調節する多くの相互作用因子が特徴付けられているが、現在、骨格の発達や創傷治癒、細胞外マトリックス(ECM)再構築、線維化、腫瘍形成、血管形成の制御におけるCTGFの役割についての合意が出ている。例えば、肝硬変や肺線維化、炎症性腸疾患、硬化性皮膚及びケロイド、線維形成、アテローム硬化性プラークにおいてCTGF発現の増加が見られる(アブラハム(Abraham)ら(2000年)J Biol Chem 275:15220-15225;ダンマイヤー(Dammeier)ら(1998年)Int J Biochem Cell Biol 30:909-922;ディモラ(diMola)ら(1999年)Ann Surg 230(1):63-71;イガラシら(1996年)J Invest Dermatol 106:729-733;イトウら(1998年)Kidney Int 53:853-861;ウィリアムズ(Williams)ら(2000年)J Hepatol 32:754-761;クラークソン(Clarkson)ら(1999年)Curr Opin Nephrol Hypertens 8:543-548;ヒントン(Hinton)ら(2002年)Eye 16:422-428;グプタ(Gupta)ら(2000年)Kidney Int 58:1389-1399;ライザー(Riser)ら(2000年)J Am Soc Nephrol 11:25-38)。
【0007】
また、CTGFは、糸球体腎炎やIgA腎症、巣状分節性糸球体硬化症、糖尿病性腎症においてもアップレギュレートされる(例えば、ライザー(Riser)ら(2000年)J Am Soc Nephrol 11:25-38参照)。CTGFを発現する細胞数の増加は慢性尿細管間質性損傷部位においても見られ、CTGFレベルは損傷の程度に相関する(イトウら(1998年)Kidney Int 53:853-861)。また、CTGF発現は、腎実質の瘢痕や硬化に伴う様々な腎疾患において糸球体や尿細管間で増加する。CTGFレベルの上昇は、肝線維症や心筋梗塞、肺線維症とも関連する。例えば、特発性肺線維症(IPF)の患者において、CTGFは生検試料や気管支肺胞洗浄液細胞内で顕著にアップレギュレートされる(ウジケら(2000年)Biochem Biophys Res Commun 277:448-454;アボウ−シャディ(Abou-Shady)ら(2000年)Liver 20:296-304;ウィリアムズ(Williams)ら(2000年)J Hepatol 32:754-761;オオニシら(1998年)J Mol Cell Cardiol 30:2411-22;ラスキー(Lasky)ら(1998年)Am J Physiol 275:L365-371;パン(Pan)ら(2001年)Eur Respir J 17:1220-1227;及びアレン(Allen)ら(1999年)Am J Respir Cell Mol Biol 21:693-700)。このように、CTGFは各種障害(例えば、上述の障害)における妥当な治療標的である。
【0008】
このような障害の様々な面にCTGFが関連することは立証済みであり、CTGFを調節することで障害を治療する方法は文献記載されている(例えば、グロテンドースト(Grotendorst)及びブラッドハム(Bradham)、米国特許第5,783,187号;国際公開WO00/13706号;及び国際公開WO03/049773号参照)。成長因子、サイトカイン及び細胞表面レセプターの調節はモノクローナル抗体を用いて行うことができ、数種類の治療用モノクローナル抗体が認可されているか、或いは開発中である(例えば、インフリキシマブ(レミケード;マイニ(Maini)ら(1998年)Arthritis Rheum 41:1552-1563;ターガン(Targan)ら(1997年)N Engl J Med 337:1029-1035);バシリキシマブ(シムレクト)及びダクリズマブ(ゼナパックス)(バンガードナー(Bumgardner)ら(2001年)Transplantation 72:839-845;コヴァリック(Kovarik)ら(1999年)Transplantation 68:1288-1294);及びトラスツズマブ(ハーセプチン;バセルガ(Baselga)(2001年)Ann Oncol 12 Suppl 1:S49-55)参照)。
【0009】
CTGFに対して抗体が産生され、この抗体はin vivoで、例えば血管形成の阻害に効果的であることが証明されている(例えば、グロテンドースト(Grotendorst)及びブラッドハム(Bradham)、米国特許第5,408,040号;国際公開WO99/07407号;及びシモ(Shimo)ら(2001年)Oncology 61:315-322参照)。また、CTGFのモジュール性によって、特定の生物活性に関与するドメインが識別されることが分かっている。例えば、CTGFのN末端側半分は細胞分化やECM産生を刺激することが示されており、C末端側半分は細胞増殖を刺激する(例えば、国際公開WO00/35936号及びWO00/35939号;及びブリグストック(Brigstock)及びハーディング(Harding)、米国特許第5,876,70号参照)。この知見から、CTGF分子の異なる領域に対する抗体は、CTGFの生物活性の調節に対して異なる作用を示すことが分かる(例えば、国際公開WO00/35936号及びWO00/35939号参照)。現在、ある所望の効果を生み出す抗CTGF抗体と多数の効果を生み出すか或いは非中和性である抗CTGF抗体との明確な区別はなされていない(例えば、国際公開WO99/33878号参照)。
【0010】
当該技術分野において、疾患におけるCTGFの活性を効果的に中和する剤が必要であることは明らかである。抗体、特にモノクローナル抗体は治療剤に適した特異性や薬物動態プロファイルを提供し、CTGFの特定の活性を標的にする中和抗体は、当該技術分野の必要性を満たすと共に、CTGF関連障害、例えば、特発性肺線維症(IPF)等の肺障害、糖尿病性腎症や糸球体硬化症等の腎障害、及び網膜症や黄斑変性等の眼の障害の治療的処置における用途を見出すであろう。
【特許文献1】米国特許第5,408,040号
【特許文献2】国際公開WO99/07407号
【特許文献3】国際公開WO00/35936号
【特許文献4】国際公開WO00/35939号
【特許文献5】米国特許第5,876,70号
【特許文献6】国際公開WO99/33878号
【非特許文献1】Shimo et al. (2001) Oncology 61:315-322
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、CTGFポリペプチドのN末端断片のある領域に特異的に結合する抗体、特にモノクローナル抗体、及びその一部を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一様相において、本発明の抗体は、ヒトCTGF(配列番号2)のアミノ酸103付近〜アミノ酸164(配列番号21)に記載の領域に特異的に、より特異的にはアミノ酸135付近〜アミノ酸157付近(配列番号22)に記載の領域に、更に特異的にはアミノ酸142付近〜アミノ酸154付近(配列番号25)に記載の領域に結合するか、或いは、他種由来CTGFのオーソロガス(orthologous)領域に特異的に結合する。特定の実施形態において、本発明の抗体は、ATCC受託番号 (2004年5月19日、ATCCに寄託)の細胞株によって産生される抗体と同じ特異性を有する。また或る具体的実施形態においては、本発明の抗体は後述のmAb1と実質的に同一である。より好ましくは、本発明の抗体は後述のCLN1と実質的に同様である。更に他の実施形態においては、本発明の抗体は、上述の抗体のいずれとも競合的にCTGFポリペプチドと結合する。
【0013】
一実施形態において、本発明は、配列番号14から成る免疫グロブリン重鎖配列、配列番号14の可変ドメインから成る免疫グロブリン重鎖配列、配列番号20から成る免疫グロブリン軽鎖配列、配列番号20の可変ドメインから成る免疫グロブリン軽鎖配列、及びそれらの保存変異体から成る群の少なくとも一種のメンバーを含むモノクローナル抗体或いはその一部を提供する。具体的な実施形態において、該抗体は、配列番号14のアミノ酸残基1〜アミノ酸残基167の免疫グロブリン重鎖可変ドメインを含む。他の具体的な実施形態において、該抗体は、配列番号20のアミノ酸残基1〜アミノ酸残基136の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインを含む。特定の実施形態において、該抗体は、配列番号14の免疫グロブリン重鎖配列と配列番号20の免疫グロブリン軽鎖配列とを含む。この実施形態において、本発明は、少なくともCLN1の抗原結合領域残基を含む、CLN1の抗体或いはその一部を具体的に提供する。
【0014】
ある様相において、本発明の抗体はポリクローナル抗体である。他の様相において、本発明の抗体はモノクローナル抗体である。ある実施形態において、本発明の抗体はヒト化モノクローナル抗体であり、より好ましくは、ヒトモノクローナル抗体である。上述の抗体のいずれにおいても、更に様々の程度のグリコシル化を有していてもよく、グリコシル化は該抗体を産生する細胞によって行われるか、或いは合成的な適用及び/又は修飾によってなされる。或いは、該抗体はグリコシル化されていなくてもよい。本発明の抗体は必要に応じぺグ化してもよく、及び/又は同様に修飾して血漿半減期等を増加させてもよい。様々な実施形態において、本発明は本発明の抗体の断片を提供するが、特に、該断片はFab、F(ab)2或いはFv断片である。
【0015】
ある様相においては、本発明の抗体或いはその一部はクローン化細胞株によって産生される。該細胞株は、モノクローナル抗体産生に用いられるいずれの動物モデルに由来のものでもよく、動物モデルとしてはマウスやヤギ、ニワトリ等が挙げられるが、これらに限定されない。特に、該細胞株はマウス由来のものであることができる。マウスは、抗体産生に用いられる標準マウス(例えば、BALB/Cマウス)であってもよく、特定のアイソタイプ、イディオタイプ或いは種特異的モノクローナル抗体産生のために最適化或いは開発された改変(例えば、トランスジェニック)マウス株であってもよい。一実施形態において、該細胞株は、mAb1を産生し分泌するハイブリドーマ細胞株である。他の実施形態において、該細胞株は、mAb1と実質的に等価な特性を有する抗体或いはその一部を産生し分泌する。更に他の実施形態において、該細胞株は、CLN1と実質的に等価な特性を有する抗体或いはその一部を産生し分泌する。特定の実施形態において、本発明は、ATCC受託番号 (2004年5月19日寄託)で同定される細胞株を提供する。
【0016】
他の様相において、本発明の抗体或いはその一部は、ヒト抗体を産生することが可能なトランスジェニック非ヒト動物、特にトランスジェニック非ヒト哺乳動物に由来する。該動物はいずれの種であってもよく、例えば、マウスやニワトリ、雌ウシ、ヤギ等が挙げられるが、これらに限定されない。特に、該動物はマウスであることができる。このような抗体は、トランスジェニック非ヒト哺乳動物をヒトCTGF断片(例えば、配列番号21、より具体的には配列番号22)或いは非ヒト種由来CTGF上のオーソロガス領域で免疫することによって得ることができる。ある実施形態において、本発明の抗体は、トランスジェニック非ヒト哺乳動物を配列番号23〜26から成る群から選択されるCTGF断片、或いは非ヒト種由来CTGF上のオーソロガス領域で免疫することによって得られる。具体的な実施形態において、本発明の抗体は、トランスジェニックマウスを上述のCTGF断片のいずれかで免疫することによって得られる。他の実施形態において、本発明の抗体は、トランスジェニックマウスを上述のCTGF断片のいずれかの機能的等価物(functional equivalents)で免疫することによって得られる。
【0017】
「CTGF上のある領域に特異的に結合する」とは、直鎖アミノ酸配列によって、或いはCTGFポリペプチドの一部の三次(即ち、三次元)構造によって定義され得る、CTGFの特定領域に対して本発明の抗体が結合特異性を有することを意味する。結合特異性とは、本発明の抗体のCTGFの一部に対するアフィニティーが、他の関連ポリペプチドに対するアフィニティーよりも実質的に高いことを意味する。「アフィニティーが実質的に高い」とは、CTGFの一部に対するアフィニティーが、他の関連ポリペプチドに対するアフィニティーに比べて相当に高いことを意味する。好ましくは、CTGFの特定部分に対するアフィニティーは、他のタンパク質に対するアフィニティーに比べて、少なくとも1.5培、2倍、5倍、10培、100倍、103倍、104倍、105倍、106倍或いはそれ以上である。好ましくは、結合特異性は、アフィニティークロマトグラフィー、免疫沈降法、ラジオイムノアッセイ(RIA)や酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)等のin vitro結合アッセイ、或いは蛍光標示式細胞分取(FACS)解析によって求める。より好ましくは、結合特異性は、後述するようにRIA或いはアフィニティークロマトグラフィーによって求める。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の抗体は、後述するように、例えば、ムンソン(Munson)及びポラード(Pollard)のスキャッチャード解析(1980年、Anal Biochem 107:220)によって決定される、mAb1のアフィニティーと同等かそれ以上のアフィニティーを有する。抗体のアフィニティーは、抗体上の単一抗原結合部位と抗原上の単一エピトープとの非共有相互作用全体の強度として定義される。アフィニティーは、次式によって会合定数(Ka)を測定することによって計算される:
【0019】
【数1】

【0020】
(式中、[Ab]は抗体上の遊離抗原結合部位の濃度、[Ag]は遊離抗原の濃度、[Ab・Ag]は抗原によって占有された抗体上の抗原結合部位の濃度、Kdは抗体−抗原複合体の解離定数である)。特に治療的用途の場合、好ましくは、本発明の抗体のCTGFに対するアフィニティーはKd=10-8よりも大きく、好ましくは10-9よりも大きく、好ましくは10-10よりも大きい。好ましくは、本発明に係る抗体は、mAb1のアフィニティーと同等かそれ以上のアフィニティーを有する(即ち、Kd≦10-9)。しかし、mAb1とエピトープ結合を共有しているが、mAb1よりアフィニティーが低い(即ち、Kdがより高い)抗体も本発明の範囲内のものとして具現化することができ、このような抗体は本明細書に記載の各種アッセイや診断用途における有用性を秘めている。このような抗体は、後述のように、特に抗原に対して高いアビディティーを有する場合、治療的用途においても有用となり得る。
【0021】
本発明に係る抗体は、一価でも二価でもよく、或いは多価でもよい。本発明のある実施形態においては、本発明の抗体が二価或いは多価であることが好ましい。本発明のいずれの抗体も、マニピュレーションによって、例えば、エピトープ結合部位を単一抗体構築物(例えば、トリボディ(tribody)等)に一体化することによって、アビディティーを改善することができる。本発明に係る抗体は一本鎖抗体であってもよい。
【0022】
本発明の抗体が他種由来のCTGFに対して適切なアフィニティーを示すことは、ある状況下では、例えば、これら他種が有する障害の治療及び予防の上で有用となり得る。例えば、イヌCTGFに対して適切なKdを示す本発明の抗体を用いて、イヌのCTGF関連障害を治療することも可能であろう。異種間アフィニティーを示す本発明の抗体(mAb1等)は、各種動物モデルのCTGF関連障害を研究する上でのリサーチツールとしても有用である。他の様相において、本発明の抗体或いはその一部は、ヒト由来の遺伝物質でコードされる。本発明の抗体は、例えば、ファージディスプレイ法を用いて培養細胞によって産生させることもでき、また、動物中、例えば、ヒト由来の免疫グロブリン遺伝子を含むトランスジェニック非ヒト動物中で産生させることもできる。
【0023】
更に、本発明は、上述の本発明の抗体のいずれかの一部と他のソース由来のタンパク質とを含む組換え構築物を提供する。具体的には、CTGFのN末端断片上の領域に特異的に結合するモノクローナル抗体由来の可変領域と他の源由来の定常領域とを含むキメラ抗体を包含する実施形態を意図する。前記可変領域は、本発明で定義されたいずれの抗体由来のものでもよく、ヒトCTGF(配列番号2)のアミノ酸97付近〜アミノ酸180付近の領域に特異的に、より特異的には配列番号2のアミノ酸103付近〜アミノ酸164付近の領域に、より特異的には配列番号2のアミノ酸134付近〜アミノ酸158付近の領域に、更に特異的には配列番号2のアミノ酸143付近〜アミノ酸154付近の領域に結合するか、或いは、他種由来CTGFのオーソロガス領域に特異的に結合する抗体を包含する。前記定常領域はいずれの源由来のものでもよい。ある実施形態において、前記定常領域はヒト免疫グロブリンの定常領域に由来する。
【0024】
また、本発明は、それ自身で或いは他の物質と共に検出可能シグナルを提供し得る標識剤を更に含む、上述の抗体のいずれかを提供する。このような標識剤は、酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジン及び放射性同位元素から成る群から選択され得るが、これらに限定されない。また、本発明は、細胞毒性剤或いは細胞毒性酵素を更に含む、上述の抗体のいずれかを提供する。
【0025】
他の実施形態において、本発明の抗体は更に、上述のように、CTGFに関連する少なくとも一種の活性を中和する。このようなCTGF関連活性としては、細胞遊走の刺激、in vivo或いはex vivoでの細胞による細胞外マトリックスの産生、及び/又は被験体における線維化の抑制等が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、このような生物活性は、細胞増殖、線維芽細胞及び/又は内皮細胞の分化、及び細胞外マトリックスの形成及び再構築に関与するタンパク質(例えば、コラーゲン(タイプI、II、III、IV等が挙げられるが、これらに限定されない)やフィブロネクチン)の発現の誘導から成る群から選択される。
【0026】
ある実施形態において、本発明の抗体は、ex vivoアッセイにおいて細胞遊走を特異的に阻害する。好ましくは、本発明の抗体は、ボイデンチャンバー法における平滑筋細胞のCTGF刺激による走化性移動を阻害する。例えば、後述の細胞遊走アッセイにおいて、本発明の抗体は、CTGF誘導遊走を繰り返し再現性よく阻害する。様々な実施形態において、本発明の抗体は、動物モデルにおける線維化を特異的に抑制する。好ましくは、本発明の抗体は、肺及び腎線維症の動物モデルにおける線維化を阻害する。例えば、本発明の抗体は、後述する肺ヒドロキシプロリン(コラーゲン)蓄積の阻害及び/又は組織標本の組織学的検討によって求められるように、マウスにおけるブレオマイシン誘導肺線維化を60〜70%減弱する。更に、本発明の抗体は、後述するように、ラット残存腎臓(即ち、5/6腎摘出)モデル、及び片側尿管閉塞(UUO)後のマウスにおけるコラーゲンの蓄積を抑制する。
【0027】
他の実施形態において、本発明の抗体は、CTGFポリペプチドと細胞レセプターとの相互作用、及び/又はCTGFポリペプチドと分泌或いは膜関連補因子との相互作用を調節することによって、CTGFの生物活性を中和する。該補因子は、いずれのタンパク質、炭水化物、及び/又は脂質であってもよく、特定の実施形態において、該補因子は、成長因子のTGF−βファミリーのメンバー(例えば、TGF−βやBMP−4等)である。
【0028】
他の様相において、本発明の抗体は被験体における線維化を抑制する。様々な実施形態において、被験体は組織或いは器官である。他の実施形態において、被験体は動物であり、好ましくは哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。被験体が組織の場合、本発明は、内因性組織とex vivo組織の両方(例えば、移植組織や培養で成長した組織等)を具体的に意図している。様々な実施形態において、前記組織は、上皮組織、内皮組織及び結合組織から成る群から選択される。被験体が器官の場合、本発明は、腎臓、肺、肝臓、眼、心臓及び皮膚から成る群から選択される器官を具体的に意図している。好ましい実施形態において、被験体は動物であり、特に、ラット、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウス、ウマ及び霊長類種を含む哺乳類種の動物である。最も好ましい実施形態において、被験体はヒトである。
【0029】
具体的な実施形態において、本発明の抗体は、CTGF関連障害を有しているか、或いはその危険性がある被験体において、CTGF関連障害の治療或いは予防に用いられる。このような障害としては、急性リンパ芽球性白血病や皮膚線維腫、乳癌、乳癌腫(breast carcinoma)、神経膠腫及び神経膠芽腫、横紋菌肉腫及び線維肉腫、線維形成、血管脂肪腫、血管平滑筋腫、線維形成性癌、前立腺癌、卵巣癌、結腸直腸癌、膵臓癌、消化管癌及び肝臓癌等の各種癌や、他の腫瘍増殖及び転移が挙げられるが、これらに限定されない。CTGF関連障害としては、特発性肺線維症や腎線維症、糸球体硬化症、眼線維症、骨関節炎、強皮症、心線維症、肝線維症等の各種線維性障害も挙げられるが、これらに限定されない。線維化はいずれの器官や組織でも生じ得る。前記器官としては、腎臓、肺、肝臓、心臓及び皮膚から選択される器官が挙げられるが、これらに限定されず、また、前記組織としては、上皮組織、内皮組織及び結合組織から選択される組織が挙げられるが、これらに限定されない。他の実施形態において、CTGF関連障害はいずれの開始因子によっても引き起こされ得る。該因子としては、薬品や生物剤への曝露や、炎症反応、自己免疫反応、外傷、外科的処置等が挙げられるが、これらに限定されない。CTGF関連障害としては、高血糖や高血圧に起因する障害も挙げられるが、これらに限定されない。このような障害は、例えば、糖尿病や肥満等に起因して生じ得るが、その例としては、糖尿病性腎症や網膜症、心血管疾患が挙げられる。
【0030】
従って、様々な実施形態において、本発明は、被験体におけるCTGF関連障害の治療或いは予防に用いることができる抗体を提供する。また、本発明は、CTGF関連障害治療用薬剤の製造のためのこのような抗体の使用も提供する。
【0031】
他の様相において、本発明は、本発明の抗体とCTGFポリペプチドを接触させることによって、CTGFの生物活性(例えば、上述の生物活性)を中和することを含む、CTGFに関連する活性を中和する方法を提供する。前記生物活性は、CTGFのいずれの活性であってもよく、例えば、細胞遊走の刺激や細胞外マトリックスの産生が挙げられるが、これらに限定されない。様々な実施形態において、前記中和はin vitroで生じる。他の実施形態において、前記中和はin vivoで被験体内で生じる。
【0032】
更に他の様相において、本発明は、治療を必要としている患者のCTGF関連障害を治療するために上述の抗体を用いる方法であって、該抗体或いはその医薬製剤を該患者に投与することによって、該障害を治療することを含む方法を提供する。該患者は、CTGF関連障害(例えば、細胞外マトリックスの過剰産生を引き起こす障害)を有しているか、或いはその疑いがあると診断された患者であることができる。特定の様相において、CTGF関連障害は癌或いは線維性障害から選択される。癌としては、急性リンパ芽球性白血病や皮膚線維腫、乳癌、乳癌腫(breast carcinoma)、神経膠腫及び神経膠芽腫、横紋菌肉腫及び線維肉腫、線維形成、血管脂肪腫、血管平滑筋腫、線維形成性癌、前立腺癌、卵巣癌、結腸直腸癌、膵臓癌、消化管癌、肝臓癌等が挙げられるが、これらに限定されない。また、線維性障害としては、特発性肺線維症や腎線維症、糸球体硬化症、眼線維症、黄斑変性、骨関節炎、強皮症、慢性心不全、心線維症、肝線維症等が挙げられるが、これらに限定されない。他の実施形態において、CTGF関連障害はいずれの開始因子によっても引き起こされ得る。該因子としては、薬品や生物剤への曝露や、炎症反応、自己免疫反応、外傷、外科的処置等が挙げられるが、これらに限定されない。CTGF関連障害としては、高血糖や高血圧に起因する障害も挙げられるが、これらに限定されない。このような障害は、例えば、糖尿病や肥満等に起因して生じ得るが、その例としては、糖尿病性腎症や網膜症、心血管疾患が挙げられる。
【0033】
他の様相において、本発明は、上述の抗体と少なくとも一種の他成分とを含む組成物を提供する。成分としては、いずれの化合物や分子、剤をも挙げることができ、例えば、タンパク質や核酸、炭水化物、脂質等が挙げられる。更に、成分としては各種溶媒、塩、他の担体及び/又は賦形剤を挙げることができる。ある実施形態において、前記組成物は、上述の抗体と、溶媒、安定剤或いは賦形剤から選択される少なくとも一種の他成分とを含む医薬組成物である。特定の実施形態において、前記医薬組成物は、抗体を薬学的に許容し得る担体と混合して含む。前記医薬組成物は更に、第二の治療剤、例えば、アンギオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤や、糖化最終産物切断剤、糖化最終産物阻害剤等を含んでもよい。本発明は更に、上述の抗体を含む、CTGF関連障害を有する被験体を治療するための薬剤を提供する。このような障害としては、各種癌や線維性障害、心筋梗塞や関節炎、炎症等の病態から生じる障害、及び糖尿病や肥満等に起因する障害(例えば、糖尿病性腎症や網膜症、心血管疾患等が挙げられる)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
他の実施形態において、本発明は、配列番号14、配列番号14のアミノ酸1〜アミノ酸167、配列番号20、及び配列番号20のアミノ酸1〜アミノ酸136から成る群から選択されるポリペプチド配列を提供する。また、本発明は前記ポリペプチドの保存変異体をも包含する。他の実施形態において、本発明は、配列番号21〜26から成る群から選択されるヒトCTGFの特定の断片と、非ヒト種から得たオーソロガスCTGF断片とを提供する。
【0035】
上述のポリペプチドは、後述のように「改変された」(altered)ポリペプチドであってもよい。
【0036】
他の実施形態において、本発明は、本発明の抗体或いはその一部をコードするポリヌクレオチド配列を提供する。特定の実施形態において、前記ポリヌクレオチド配列は、配列番号14をコードするポリヌクレオチド配列、配列番号14のアミノ酸1〜アミノ酸167をコードするポリヌクレオチド配列、配列番号13のポリヌクレオチド配列、及び配列番号13のヌクレオチド1〜ヌクレオチド501を含むポリヌクレオチドから成る群から選択される。他の実施形態において、前記ポリヌクレオチド配列は、配列番号20をコードするポリヌクレオチド配列、配列番号20のアミノ酸1〜アミノ酸136をコードするポリヌクレオチド配列、配列番号19のポリヌクレオチド、及び配列番号19のヌクレオチド1〜ヌクレオチド408を含むポリヌクレオチドから成る群から選択される。
【0037】
上述のポリヌクレオチドは、後述のように「改変された」ポリヌクレオチドであってもよい。
【0038】
本発明は更に、複製配列及び転写制御配列を含むベクター配列に作動可能に結合された上述のポリヌクレオチド配列のいずれかを含む組換えポリヌクレオチドを提供する。一様相において、前記組換えポリヌクレオチドは、配列番号14のアミノ酸配列或いはその可変ドメインをコードする。他の様相において、前記組換えポリヌクレオチドは配列番号13を含む。更に他の様相において、前記組換えポリヌクレオチドは、配列番号20のアミノ酸配列あるいはその可変ドメインをコードする。更に他の様相において、前記組換えポリヌクレオチドは配列番号19を含む。
【0039】
また、本発明は、上述の組換えポリヌクレオチドの少なくとも一種をトランスフェクトした宿主細胞も提供する。宿主細胞としては、原核宿主細胞及び真核宿主細胞のいずれもが挙げられ、例えば、当業者に知られた培養法によって維持されたクローン化細胞株が挙げられる。また、宿主細胞としては、形質転換された細胞、例えば、幹細胞に由来するトランスジェニック植物及び動物も挙げられる。一実施形態において前記宿主細胞は、配列番号14をコードするポリヌクレオチドと配列番号20をコードするポリヌクレオチドとをコトランスフェクトした細胞を含み、mAb1と実質的に同じ特性を有する機能抗体を産生する。特定の実施形態において、該抗体はCLN1である。他の特定の実施形態において、前記宿主細胞はATCC受託番号 (2004年5月19日寄託)で同定される。
【0040】
本発明のこれらの及び他の実施形態は、本明細書の開示内容を鑑みて当業者には容易に想到されるであろうが、そのような実施形態は全て具体的に意図されたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明の組成物及び方法の説明を行う前に、本発明が、記載された特定の手順やプロトコル、細胞株、アッセイ、試薬に限定されないことは、これらが変更し得ることを考慮すれば理解されるであろう。また、本明細書で用いる用語が本発明の特定の実施形態を記載するためのものであって、決して添付クレームに記載された本発明の範囲を限定するためのものでないことも理解されるであろう。
【0042】
本明細書及び添付クレーム中で用いられる、単数形を表わす「a」、「an」及び「the」は、文脈で明確に指示されない限り、複数物への言及をも含むものと理解されたい。よって、例えば「断片」とあった場合、複数の断片をも含み、「抗体」とは一以上の抗体及び当業者に知られたそれらの等価物(equivalents)を意味する等である。
【0043】
特に断りのない限り、本明細書に用いられる全ての技術用語及び科学用語が持つ意味は、本発明の属する技術分野の当業者によって通常理解されるものと同じである。本明細書に記載のものと同様或いは等価な方法や材料のいずれも本発明の実施や試験に用いることができるが、ここに記載した方法や装置、材料は好ましいものである。本明細書に引用した全ての刊行物は、本発明に関連して用いられるであろう、該刊行物に記載の手順や試薬、ツールを説明し開示するために、その全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。本明細書の如何なる内容も、本発明が先行発明による開示を先行する資格がないという自認として解釈されるべきではない。
【0044】
本発明の実施に当たっては、特に断りのない限り、化学、生化学、分子生物学、細胞生物学、遺伝学、免疫学及び薬理学に関する従来法を当業者の技能の範囲内で利用することができる。このような技法については、文献に十分に記載されている。例えば、ゲナロ(Gennaro),A.R.編(1990年)Remington's Pharmaceutical Sciences、第18版、Mack Publishing社;コロウィック(Colowick),S.ら編、Methods In Enzymology、Academic Press社;Handbook of Experimental Immunology、Vol.I-IV(D.M.ウィア(Weir)及びC.C.ブラックウェル(Blackwell)編、1986年、Blackwell Scientific Publications);マニアティス(Maniatis),T.ら編(1989年)Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、Vol.I-III、Cold Spring Harbor Laboratory Press;アウスベル(Ausubel),F.M.ら編(1999年)Short Protocols in Molecular Biology、第4版、John Wiley & Sons;レアム(Ream)ら編(1998年)Molecular Biology Techniques: An Intensive Laboratory Course、Academic Press; PCR(Introduction to Biotechniques Series)、第2版(ニュートン(Newton)&グラハム(Graham)編、1997年、Springer Verlag)参照のこと。
【0045】
定義
「結合組織成長因子」或いは「CTGF」とは、いずれの種、特にラットやウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウス、ウマ、ヒト等の哺乳類種(好ましくはヒト種)由来、及びいずれの源由来の実質的に精製されたCTGFのアミノ酸配列を意味し、天然、合成、半合成或いは組換えについては問わない。
【0046】
CTGFの「N末端断片」とは、CTGFポリペプチドのアミノ末端部分由来の配列を含むいずれのポリペプチドをも意味し、また、そのいずれの変異体(vaRIAnt)や断片をも意味する。N末端断片は、図1A及び1Bに示す最初のメチオニン残基からシステインフリーの「ヒンジ」領域までのCTGFの全て或いは一部を含んでもよく、或いは全く含まなくてもよい。また、N末端断片は、図1Bに示すインスリン成長因子結合タンパク質モチーフ及び/又はフォン・ヴィレブランドCドメイン(配列番号21)の全て或いは一部を含んでもよく、或いは全く含まなくてもよい。また、CTGFのN末端断片は、システインフリー領域の全て或いは一部を含んでもよく、或いは全く含まなくてもよい。また、CTGFのN末端断片は、上述のN末端断片のいずれかに含まれるいずれの15以上連続するアミノ酸であってもよい。
【0047】
一様相において、CTGFの「N末端断片」とは、ヒトCTGFのアミノ末端部分由来のポリペプチド配列を意味する。このような断片は、配列番号2のアミノ酸残基1〜アミノ酸残基198付近の全領域、或いは配列番号2のアミノ酸23付近〜アミノ酸198付近の全領域を包含し得る。ヒンジ領域内のN末端断片の境界は、必要に応じ、配列番号2内に規定された数種のプロテアーゼ切断部位(例えば、残基179と180との間、残基182と183との間、及び残基188と189との間のキモトリプシン切断部位や、残基183と184との間及び残基196と197との間のプラスミン切断部位、残基169と170との間の骨形成タンパク質1切断部位の内の一種)によって規定することができる。更に、ヒトCTGFのN末端断片は、配列番号2のアミノ酸27〜アミノ酸97の領域、配列番号2のアミノ酸103〜アミノ酸166の領域、或いは配列番号2のアミノ酸167〜アミノ酸198の領域の全て或いは一部を含んでもよく、或いは全く含まなくてもよい。また、ヒトCTGFのN末端断片は、上述のN末端断片のいずれかに含まれるいずれの15以上連続するアミノ酸であってもよい。
【0048】
具体的な実施形態において、本発明のCTGFのN末端断片は、ヒトCTGF(配列番号2)及び異種(特に、ラットやウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウス、ウマ等の哺乳類種)由来CTGFのオーソロガス断片の次の領域、即ち、アミノ酸残基23〜アミノ酸残基96(エキソン2でコードされる)、アミノ酸残基27〜アミノ酸残基97(IGF-BPモチーフ)、アミノ酸残基97〜アミノ酸残基180(エキソン3でコードされる)、アミノ酸残基103〜アミノ酸残基166(VWCドメイン)、アミノ酸残基167〜アミノ酸残基198(システインフリーヒンジ)、アミノ酸残基23〜アミノ酸残基180(エキソン2及び3でコードされる)、アミノ酸残基27〜アミノ酸残基166(IGF-BP及びVWC)、及びアミノ酸残基23〜アミノ酸残基198(図1B参照)から選択される配列を含む。
【0049】
CTGFの「C末端断片」とは、CTGFアミノ酸ポリペプチド配列のカルボキシ末端部分由来の配列を含むいずれのポリペプチドをも意味し、また、そのいずれの変異体(vaRIAnt)や断片をも意味する。CTGFのC末端断片は、CTGFポリペプチドのシステインフリー領域(配列番号2のアミノ酸167〜アミノ酸198)の全て或いは一部を含んでもよく、或いは全く含まなくてもよい。
【0050】
C末端断片は、システインフリーヒンジ領域からCTGF末端までのCTGFの全て或いは一部を含んでもよく、或いは全く含まなくてもよい。また、C末端断片は、トロンボスポンジンモチーフ及び/又はシステインノットモチーフの全て或いは一部を含んでもよく、或いは全く含まなくてもよい。また、CTGFのC末端断片は、上述のC末端断片のいずれかに含まれるいずれの15以上連続するアミノ酸であってもよい。
【0051】
ある様相においては、C末端断片は、配列番号2のアミノ酸残基181〜アミノ酸残基349付近の全領域を包含し得る。ヒンジ領域内のC末端断片の境界は、必要に応じ、配列番号2内に規定された数種のプロテアーゼ切断部位(例えば、上述のキモトリプシン切断部位やプラスミン切断部位、骨形成タンパク質1切断部位の内の一種)によって規定することができる。更に、C末端断片は、ヒトCTGF(配列番号2)及び異種(特に、ラットやウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウス、ウマ等の哺乳類種)由来CTGFのオーソロガス断片の次の領域、即ち、配列番号2のアミノ酸201〜アミノ酸242、配列番号2のアミノ酸247〜アミノ酸349、配列番号2のアミノ酸248〜アミノ酸349、及び配列番号2のアミノ酸249〜アミノ酸346から選択される配列を含む。また、ヒトCTGFのC末端断片は、上述のC末端断片のいずれかに含まれるいずれの15以上連続するアミノ酸であってもよい。
【0052】
CTGFの「システインフリー領域」或いは「ヒンジ領域」とは、ヒトCTGF(配列番号2)のアミノ酸残基167付近〜アミノ酸残基198付近及び異種(特に、ラットやウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウス、ウマ等の哺乳類種)由来CTGFのオーソロガス断片に由来のいずれのポリペプチドをも意味する。
【0053】
本明細書に記載の「アミノ酸配列」或いは「ポリペプチド」とは、オリゴペプチド配列、ペプチド配列、ポリペプチド配列、タンパク質配列、それらの断片、及び天然或いは合成分子を意味する。ポリペプチド断片或いはアミノ酸断片としては、ポリペプチドの少なくとも一種の構造的及び/又は機能的特性を保持するポリペプチドのいずれの部分も挙げられる。CTGF断片としては、CTGFの少なくとも一種の構造的或いは機能的特性を保持するCTGFポリペプチド配列のいずれの部分も挙げられる。「アミノ酸配列」が天然タンパク質分子のポリペプチド配列を示す場合、「アミノ酸配列」及びその同類語によってアミノ酸配列が該タンパク質分子に関連する完全なネイティブ配列に限定されることにはならない。
【0054】
「免疫原性」は、ある物質が体内に導入された際に、該物質が免疫応答や抗体の産生を刺激する能力に関連する。免疫原性を示す剤は免疫原性を有するとされる。免疫原性を有する剤としては、例えば、タンパク質やリポタンパク質、多糖、核酸、細菌及び細菌成分、ウィルス及びウィルス成分等の各種高分子を挙げることができるが、これらに限定されない。免疫原性を有する剤は、分子量が10kDaを超えることが多い。抗原性断片とは、CTGFポリペプチド活性の少なくとも生物学的或いは免疫学的様相を保持するCTGFポリペプチド断片、好ましくは約5〜15アミノ酸長の断片を意味する。
【0055】
「抗体」とは、エピトープ決定基(epitopic determinant)に結合可能な無傷分子(intact molecules)及びその断片、例えば、FabやF(ab')2、Fv断片等を意味し、抗体としてはポリクローナル抗体やモノクローナル抗体が挙げられる。CTGFやCTGF断片に結合する抗体は、無傷ポリペプチドを用いて、或いは免疫抗原としての小ペプチドを含む断片を用いて調製することができる。動物(例えば、マウスやラット、ウサギ、ニワトリ、シチメンチョウ、ヤギ等)の免疫に用いるポリペプチドやオリゴペプチドは、RNAの翻訳に由来するものでもよく、或いは化学的に合成してもよく、また、必要に応じて担体タンパク質に結合させてもよい。ペプチドとの化学的結合に通常用いる担体としては、例えば、ウシ血清アルブミンやチログロブリン、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)が挙げられる。
【0056】
本明細書に記載の「モノクローナル抗体」とは、実質的に均質な(homogenous)抗体集団を意味し、即ち、該集団の個々の抗体は、天然に少量存在し得る突然変異(mutations)を別として、特異性及びアフィニティーが同一である。モノクローナル抗体組成物は二種以上のモノクローナル抗体を含み得ることに留意されたい。
【0057】
本発明の範囲に含まれるモノクローナル抗体としては、起源種或いは免疫グロブリンクラスやサブクラスの指定に関係なく、ハイブリッド抗体や組換え抗体(例えば「ヒト化」抗体)が挙げられ、更に、本明細書に記載の抗体に明確な特徴の少なくとも一以上を有する抗体断片(例えばFabやF(ab')2、Fv)が挙げられる。好ましい実施形態としては、モノクローナル抗体mAb1によって認識されるエピトープと実質的に同じものに結合することが可能な抗体、及び/又は該エピトープに対するアフィニティーがmAb1のアフィニティーと同等かそれ以上である抗体が挙げられる。
【0058】
「モノクローナル」とは、実質的に均質な抗体集団としての抗体の特性を示すものであり、ある特定の方法による抗体の産生が必要であるとは解釈されるべきではない。例えば、本発明のモノクローナル抗体は、コーラー(Kohler)及びミルスタイン(Milstein)によって最初に記載されたハイブリドーマ法(1975年、Nature 256:495-497)によって産生してもよく、組換えDNA法によって産生してもよい。例えば、Celltech Therapeutics社、欧州特許EP0120694号;キャビリー(Cabilly)ら、米国特許第4,816,567号;或いはメージ(MAGE)及びラモイ(Lamoyi)(1987年;In: Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications、マーセルデッカー社、ニューヨーク、p.79-97)を参照のこと。
【0059】
本明細書に記載の「中和抗体」とは、CTGFの生物活性を実質的に阻害或いは除去することが可能な抗体(好ましくはモノクローナル抗体)を意味する。通常、中和抗体は、CTGFの補因子(TGFβ等)への結合、標的細胞に関連するCTGF特異的レセプターへの結合、或いは他の生物標的への結合を阻害する。特定の実施形態において、中和抗体は、mAb1とほぼ同等かそれ以上の程度、CTGFの生物活性を阻害する。好ましくは、中和抗体は、CLN1とほぼ同等かそれ以上の程度、CTGFの生物活性を阻害する。
【0060】
本明細書に記載の「CTGF関連障害」とは、CTGF発現或いはCTGF活性における異常や改変に関連する病態や疾患を意味する。CTGF発現の異常は、細胞増殖性障害(例えば、内皮細胞増殖によって引き起こされる障害)や細胞遊走、腫瘍様増殖、全身組織瘢痕、細胞外マトリックスの不適当な沈着によって特徴付けられる各種疾患と関連付けられている。
【0061】
CTGF関連障害としては、増殖性硝子体網膜症等の病態において中心的役割を果たす血管形成や他のプロセスを伴う障害や、急性リンパ芽球性白血病や皮膚線維腫、乳癌、乳癌腫(breast carcinoma)、神経膠腫及び神経膠芽腫、横紋菌肉腫及び線維肉腫、線維形成、血管脂肪腫、血管平滑筋腫、線維形成性癌、前立腺癌、卵巣癌、結腸直腸癌、膵臓癌、消化管癌、肝臓癌等の癌、他の腫瘍増殖及び転移等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
また、CTGF関連障害としては、局所或いは全身性線維化や、器官(例えば、腎臓、肺、肝臓、眼、心臓、皮膚等)の慢性或いは急性線維化、或いは組織(上皮組織、内皮組織及び結合組織から選択されるが、これらに限定されない)の慢性或いは急性線維化による過度の瘢痕等の線維性障害及び関連病態が挙げられる。線維化は眼や関節でも生じ得る。このようなCTGF関連障害としては、例えば、心筋梗塞或いは鬱血性心不全後の心臓リモデリングや心反応性線維症等の心線維症;間質性肺線維症等の肺障害;腹膜透析(例えば、持続的携帯型腹膜透析(CAPD))等の透析に伴う線維症;硬膜外線維症;腎線維症;肺線維症;間質性線維症;皮膚線維症;外科手術や化学療法、放射線治療、同種移植拒絶反応、慢性及び急性移植拒絶反応(例えば、腎臓や肝臓、その他の臓器)等の急性或いは反復性外傷による線維症;肺移植後等の閉塞性細気管支炎;及び疾患や傷害等に起因する炎症や感染症が挙げられる。
【0063】
更に、CTGF関連障害としては、全身性硬化症や強皮症、ケロイド、肥厚性瘢痕、その他の皮膚疾患や病態等の硬化性病態;アテローム硬化性プラークを伴う病態や、糖尿病や腹膜透析等に伴うアテローム硬化症等のアテローム硬化症;関節リウマチや骨関節炎、他の関節炎症性病態等の関節炎;間質性線維症等の間質性疾患;クローン病;炎症性大腸炎;増殖性硝子体網膜症や非増殖性糖尿病性網膜症、増殖性糖尿病性網膜症、黄斑変性(加齢性及び若年性(スタルガルト)病や色素上皮剥離等)等の網膜症;糖尿病性腎症やIgA関連腎症、毒性起因腎症、ループス腎疾患等の腎症;及び化学毒性細管破壊に伴う病態が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
また、CTGF関連障害としては、高血糖や高血圧、糖化最終産物(AGE)形成等に起因する障害も挙げられるが、これらに限定されない。このような障害は、糖尿病や肥満等に起因して生じ得るが、その例としては、糖尿病性腎症や、網膜症、心血管疾患が挙げられる。また、CTGF関連障害はいずれの開始因子によっても引き起こされ得る。該因子としては、薬品や生物剤への曝露や、炎症反応、自己免疫反応、外傷、外科的処置等が挙げられるが、これらに限定されない。ある実施形態においては、ある病態(心筋梗塞や関節炎、局所及び全身炎症が挙げられるが、これらに限定されない)に起因するCTGF関連障害に罹患しやすい患者の治療に本発明の方法を用いる。
【0065】
本明細書に記載の「増殖性」プロセス及び障害としては、組織内での細胞集団の異常増殖をもたらす細胞の連続的増殖によって特徴付けられる病態が挙げられる。この細胞集団は、必ずしも形質転換細胞や腫瘍形成細胞、悪性細胞でなくてもよく、正常細胞をも含み得る。例えば、CTGFは、動脈壁の内膜層で増殖性障害を誘導してアテローム硬化症を引き起こすか、或いは新血管形成を刺激することによって病理的に関与し得る。
【0066】
「癌」とは、制御不能な細胞の異常増殖等の組織の自律的増殖や、侵襲によって局所的に広がり、或いは転移によって全身に広がる無制限に増殖し得る悪性腫瘍を意味する。癌はまた、「〜癌」と呼ばれる異常な状態のいかなるものをも含む。
【0067】
「線維化」とは、線維組織の異常プロセシング、或いは類線維や線維の変性を意味する。線維化は様々な傷害や疾患によって生じ得るが、多くの場合、各種臓器の移植に関連する慢性移植拒絶反応によって生じ得る。線維化は通常、例えば、コラーゲンやフィブロネクチンの過剰産生や蓄積増加等の細胞外マトリックス成分の異常な産生や蓄積、沈着を伴う。本明細書に記載の「線維化」とは、広い意味において、細胞外マトリックスタンパク質の過剰な産生や沈着のいずれをも指す。線維化としては多くの例があるが、例えば、心臓のポンプ能力を低下させる、心臓発作後の瘢痕組織の形成が挙げられる。多くの場合、糖尿病は、腎機能の進行性喪失を招く腎臓における損傷/瘢痕や、失明の原因となる眼における損傷/瘢痕を引き起こす。外科手術後、瘢痕組織は内臓間に形成されることがあり、拘縮や痛み、場合によっては不妊を引き起こす。心臓や腎臓、肝臓、眼、皮膚等の主要器官は、通常他の疾患に伴う慢性瘢痕になりやすい。肥厚性瘢痕(良性バルク組織(tissue bulk))は火傷や他の外傷によって引き起こされる線維化の通常型である。また、他の線維増殖性障害も多数存在し、例えば、強皮症、ケロイド及びアテローム硬化症が挙げられるが、これらはそれぞれ、全身組織瘢痕、皮膚での腫瘍様増殖、及び血液運搬能力を低下させる血管の持続的瘢痕に伴うものである。
【0068】
「核酸」或いは「ポリヌクレオチド」とは、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド配列、ポリヌクレオチド、或いはそのいずれの断片をも意味し、更には、一本鎖であっても二本鎖であってもよく、センス鎖であってもアンチセンス鎖であってもよい天然起源或いは合成起源のDNAやRNAや、ペプチド核酸(PNA)、また、天然起源或いは合成起源のいずれのDNA様物質やRNA様物質をも意味する。ポリヌクレオチド断片としては、ポリヌクレオチドの少なくとも一種の構造的或いは機能的特性を保持するポリヌクレオチド配列のいずれの部分も挙げられる。ポリヌクレオチド断片の長さは変えることができ、例えば、60ヌクレオチド長を超えてもよく、少なくとも100ヌクレオチド長であってもよく、少なくとも1000ヌクレオチド長であってもよく、或いは少なくとも10000ヌクレオチド長であってもよい。
【0069】
「改変された(altered)」ポリヌクレオチドとしては、様々なヌクレオチドの欠失、挿入或いは置換によってもたらされた、同一の或いは機能的に等価な(functionally equivalent)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挙げられる。この定義の範囲に含まれるものとしては、特定のオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって、或いは、本発明のポリヌクレオチド配列の正常染色体座以外の遺伝子座を用いた対立遺伝子への不適当な或いは予想外のハイブリダイゼーションを削除することによって検出可能な(容易に検出可能であってもそうでなくてもよい)多型を示す配列が挙げられる。
【0070】
「改変された」ポリペプチドには、サイレント変化を生じさせ機能的に等価なポリペプチドをもたらす、アミノ酸残基の欠失、挿入或いは置換を含み得る。故意のアミノ酸置換は、コードされるポリペプチドの生物学的或いは免疫学的活性が保持される限り、アミノ酸残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性における類似性に基づいて行うことができる。例えば、負に帯電したアミノ酸としてはアスパラギン酸やグルタミン酸を挙げることができ、正に帯電したアミノ酸としてはリシンやアルギニンを挙げることができ、非荷電極性頭部基を有し同等の親水性値(hydrophilicity values)を有するアミノ酸としてはロイシンやイソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、フェニルアラニン、チロシンを挙げることができる。
【0071】
ポリペプチドやアミノ酸の「変異体(variant)」とは、特定のアミノ酸配列の一以上のアミノ酸によって改変されたアミノ酸配列である。ポリペプチド変異体(polypeptide variant)は保存的変化を有することができる。即ち、置換用アミノ酸の構造的或いは化学的特性は置換されるアミノ酸と同様(例えば、ロイシンのイソロイシンへの置換)であってもよい。また、変異体は、非保存的変異を有することもできる。即ち、置換用アミノ酸の物性が置換されるアミノ酸と異なっていてもよい(例えば、グリシンのトリプトファンへの置換)。類似のわずかな変異としては、アミノ酸の欠失或いは挿入、又はその両方を挙げることもできる。好ましくは、アミノ酸変異体は、特定のポリペプチドのある構造的或いは機能的特性を保持している。どのアミノ酸残基が置換、挿入或いは欠失し得るかを決定するガイダンスは、例えば、当該技術分野でよく知られたコンピュータプログラム(例えば、LASERGENEソフトウェア(DNASTAR社、ウィスコンシン州マディソン))を用いて見出すことができる。
【0072】
ポリヌクレオチド変異体とは、特定ポリヌクレオチド配列の変異体であって、この特定ポリヌクレオチド配列に対する類似性が好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%のポリヌクレオチド配列を有する変異体である。遺伝暗号の縮重の結果、特定のタンパク質をコードする多数の変異ポリヌクレオチド配列(その一部は、既に知られている天然遺伝子のポリヌクレオチド配列に対する相同性が最も低い)が産生し得ることは当業者には理解されるであろう。従って、本発明は、可能なコドン選択に基づく組合せを選択することによってなされる、ポリヌクレオチド配列のいずれの可能な変異をも意図する。これらの組合せは標準コドントリプレット遺伝暗号に応じてなされており、このような変異は全て、具体的に開示されているものと考慮すべきである。
【0073】
「欠失」とは、一以上のアミノ酸残基或いはヌクレオチドの欠如をもたらす、アミノ酸配列或いはヌクレオチド配列の変化である。
【0074】
「挿入」或いは「付加」とは、ポリペプチド配列或いはポリヌクレオチド配列の変化であって、天然分子に比べて、一以上のアミノ酸残基或いはヌクレオチドの付加がそれぞれもたらされる変化を意味する。
【0075】
本明細書に記載の「機能的等価物(functional equivalent)」とは、特定のポリペプチド或いはポリヌクレオチドの少なくとも一種の機能的及び/又は構造的特性を有するポリペプチド或いはポリヌクレオチドを意味する。機能的等価物には、特定の機能を実行可能な修飾を含み得る。「機能的等価物」は、ある分子の断片、突然変異体(mutants)、ハイブリッド、変異体(variants)、類似体或いは化学的誘導体を含むことを意図している。
【0076】
「マイクロアレイ」とは、基板上での核酸やアミノ酸、抗体等のいずれの配置をも意味する。基板としては、適切なものである限り如何なる支持体も用いることができ、例えば、ビーズやガラス、紙、ニトロセルロース、ナイロン、或いはいずれの適切な膜も挙げられる。基板としては、いずれの硬質支持体或いは半硬質支持体であってもよく、例えば、膜やフィルター、ウェハ、チップ、スライド、ファイバー、ビーズ(磁性ビーズや非磁性ビーズ等)、ゲル、チューブ、プレート、ポリマー、微粒子、毛細管等が挙げられるが、これらに限定されない。基板はコーティング用表面を有してもよく、及び/又は核酸やアミノ酸等が結合し得る各種表面形状、例えば、ウェルやピン、溝、チャネル、細孔等を有してもよい。
【0077】
本明細書に記載の「試料」は広い意味で用いられる。試料はいずれの源由来のものであってもよく、例えば、体液や分泌物、組織、細胞、培養細胞(唾液、血液、尿、血清、血漿、硝子体、滑液、脳脊髄液、羊水、器官組織(例えば、生検組織)等が挙げられるが、これらに限定されない)由来の試料;細胞から単離された染色体、細胞小器官、或いは他の膜由来の試料;ゲノムDNA、cDNA、RNA、mRNA等由来の試料;及び明細胞や組織、或いは該細胞や組織からのブロットやインプリント由来の試料が挙げられる。試料はいずれの源由来のものであってもよく、例えば、ヒト被験者や非ヒト哺乳類被験体等由来のものであってもよい。また、いずれの疾患動物モデル由来の試料も意図される。試料は溶液に保存されていてもよく、又は、例えば、基板に固定或いは結合されていてもよい。試料とは、CTGF或いはCTGF断片の存在を試験する上で適切なものであるか、また、CTGF或いはその断片に結合する分子をスクリーニングする上で適切なものである限り、如何なる物質をも意味し得る。このような試料を得る方法については、当業者の技能レベルの範囲内である。
【0078】
「ハイブリダイゼーション」とは、塩基対形成によって核酸配列が相補的配列に結合するプロセスを意味する。ハイブリダイゼーション条件は、例えば、プレハイブリダイゼーション溶液やハイブリダイゼーション溶液中の塩やホルムアミドの濃度、或いはハイブリダイゼーション温度によって決まり得るが、これらについては、当該技術分野ではよく知られている。ハイブリダイゼーションは様々なストリンジェントな条件下で行うことができる。
【0079】
特に、ストリンジェンシーは、塩濃度を低下させるか、ホルムアミド濃度を上昇させるか、或いはハイブリダイゼーション温度を上昇させることによって高めることができる。例えば、本発明の目的のためには、約50%ホルムアミド、約37℃〜42℃の高ストリンジェント条件下や、約35%〜25%ホルムアミド、約30℃〜35℃の低ストリンジェント条件下でハイブリダイゼーションを行ってもよい。特に、ハイブリダイゼーションは通常、42℃、50%ホルムアミド、5×SSPE、0.3%SDS、及び200μg/mLのせん断及び変性済サケ精子DNAの最高ストリンジェントな条件下で行う。
【0080】
特定のストリンジェントなレベルに対応する温度範囲は、当該技術分野で知られた方法、例えば、対象核酸のプリン/ピリミジン比を計算し、それに応じて温度を調整することによって更に狭めることができる。非特異的シグナルを除去するため、例えば、0.1×SSC及び0.5%SDSまで高めたストリンジェントな条件下、室温或いは60℃を含めた温度まででブロットを逐次的に洗浄することができる。上述の範囲及び条件の変更については、当該技術分野ではよく知られている。
【0081】
発明
本発明は結合組織成長因子(CTGF)に特異的に結合する抗体を提供する。本発明の抗体は、ポリクローナル抗体或いはモノクローナル抗体であり、好ましくはモノクローナル抗体であり、より好ましくはヒトモノクローナル抗体である。本発明の抗体は、図1に示すCTGFのN末端断片に対して結合する。より具体的には、本発明の抗体は、配列番号2の残基97付近〜残基180付近のCTGF断片に対して結合する。特定の実施形態において、本発明の抗体は、配列番号2の残基103付近〜残基164付近のCTGF断片、より詳細には、残基134付近〜残基158付近の断片に対して結合する。より具体的には、本発明の抗体は、配列番号2の残基143付近〜残基154付近のCTGF断片に対して結合する。
【0082】
特定の実施形態において、本発明の抗体はCTGFの生物活性を中和する。CTGFの生物活性としては、細胞増殖や、分化、遺伝子発現等が挙げられる。特定の実施形態において、前記生物活性は、各種前駆細胞からの細胞分化(例えば、線維芽細胞や筋線維芽細胞、内皮細胞等の分化或いは分化転換);細胞外マトリックスの形成及び再構築に関与するタンパク質(例えば、タイプIコラーゲンやフィブロネクチン等)の発現の誘導;各種因子(TGF−β、IGFVEGF、アンギオテンシンII、エンドセリン等が挙げられるが、これらに限定されない)に関連するシグナル伝達系の協調的誘導;及び各種環境刺激(グルコースの上昇(高血糖)や機械的ストレスの増加(高血圧)等が挙げられるが、これらに限定されない)に対する細胞応答から成る群から選択される。
【0083】
本発明は、本発明の抗体がCTGF活性を中和する機序によって限定されるべきではないが、該抗体はCTGFに結合して、CTGFが特定の細胞レセプターと相互作用することを防止することができる。該レセプターはCTGFに対する結合アフィニティーが高い場合があり、その際には、CTGFに結合することによって、増殖、分化、遺伝子発現の誘導及び/又は細胞の形態や機能の変化を招く細胞内シグナルを刺激する。CTGFに対するある細胞の特定の生物学的応答は、その細胞自身及び周囲環境の現況に依存する。また、該レセプターはCTGFに対する結合アフィニティーが低い場合があり、その際には、CTGFに結合することによって、例えば、CTGFを高アフィニティーレセプターに対して配置させ、CTGFの認識及びCTGFに対する応答を促進することがある。或いは、本発明の抗体は、組織或いは器官内でCTGFと結合し、体外へのCTGFの排出或いはタイトレーション(titration)を促進することができる。
【0084】
上述の機序とは別に、或いはその機序と共に、本発明の抗体はCTGFに結合して、CTGFが分泌補因子或いは膜結合補因子と相互作用することを防止することができる。このような補因子の具体例としては、TGFβスーパーファミリーのメンバー、例えば、TGFβ−1、−2及び−3;アクチビン−A、−B、−C、及び−E;BMP−2、−3、−4、−5、−6、−7、−8a、−8b、−9、−10、−11、及び−15;及びGDF−3、−5、−6、−7、−9、及び−10が挙げられる。例えば、CTGFは、TGFβ−1及びBMP−4に結合し、これらの活性を調節することが示されている(アブルー(Abreu)ら(2002年)Nat Cell Biol 4:599-604)。本発明は、TGFβに結合するCTGFの領域はエキソン3でコードされ(図1B;配列番号1のヌクレオチド418〜ヌクレオチド669)、この領域内に結合する抗体はCTGFとTGFβとの相互作用を防止する(後述の実施例12)という証拠を提供する。更に、このCTGF領域内に結合する抗体は、動物モデルにおける特定のCTGF関連プロセスを中和することが示されている。例えば、このCTGF領域内に結合する抗体は、ex vivoアッセイにおいて細胞遊走を特異的に阻害し、また、動物モデルにおいて線維化を抑制することが示されている。本発明の典型的な抗体はmAb1及びCLN1であり、抗体CLN1は、ATCC受託番号 で同定される細胞株(2004年5月19日、アメリカ基準株保存機関(バージニア州マナッサス)に寄託)によって産生される。
【0085】
作用機序に関係なく、本発明は、本発明の抗体を用いてCTGFに関連する各種疾患や障害を治療する方法を提供する。CTGFに関連する疾患や障害としては、腎症や肺線維症、網膜症、強皮症、肝線維症、心不全、関節炎、アテローム硬化症が挙げられるが、これらに限定されない。また、CTGFに関連する障害は各種因子(高血糖や高血圧、糖尿病、肥満等が挙げられるが、これらに限定されない)に起因して生じ、その例としては、糖尿病性腎症や網膜症、心血管疾患等が挙げられる。上述の疾患を含む様々な疾患においてはCTGFが過剰発現するため、本発明は、CTGF関連障害を有する患者をCTGF抗体を用いて治療し、病状の改善や安定化、器官機能の保持や回復、生活の質の向上、及び生存期間の延長を意図する。
【0086】
例えば、本発明の抗体は特に、各種障害(例えば、間質性肺線維症や糖尿病性腎症、網膜症、黄斑変性等)の線維性及び非線維性側面に伴う生物活性に関与するCTGFの領域に向けられたものである。また、本発明は、本発明の抗体を用いて、CTGFに関連する障害(例えば、肺や肝臓、心臓、皮膚、腎臓等の線維性障害等の局所及び全身性線維性障害や、外傷や外科的処置等に起因する局所的瘢痕形成等)を治療する方法にも関する。
【0087】
本発明の抗体は、CTGFへの結合を伴ういずれの方法においても用いることができる。このような方法としては、例えば、アフィニティークロマトグラフィーによるCTGF或いはCTGF断片の精製や、例えば、ELISAや免疫組織化学的技法を用いた試料中のCTGF或いはCTGF断片の検出、CTGFを検出して患者試料中のCTGFレベルを測定し、該試料中のCTGFレベルを標準品と比較する方法を用いることによるCTGF関連障害の診断が挙げられる。
【0088】
CTGFを指向する抗体
例えば、モノクローナル抗体を用いて分泌細胞因子の量及び/又は活性を調節することは示されており、数種類の治療用抗体が認可されているか、或いは開発中である(例えば、アブシキシマブ(レオプロ;セントコア社、ペンシルバニア州マルバーン);インフリキシマブ(レミケード;マイニ(Maini)ら(1998年)Arthritis Rheum 41:1552-1563;ターガン(Targan)ら(1997年)N Engl J Med 337:1029-1035);バシリキシマブ(シムレクト)及びダクリズマブ(ゼナパックス)(バンガードナー(Bumgardner)ら(2001年)Transplantation 72:839-845;コヴァリック(Kovarik)ら(1999年)Transplantation 68:1288-1294);及びトラスツズマブ(ハーセプチン;バセルガ(Baselga)(2001年)Ann Oncol 12 Suppl 1:S49-55)参照)。抗体を産生する多数の方法、例えば、動物、植物、菌類及び細菌内での産生や、合成による構築、ex vivo培養等については、当業者には知られており、利用可能である。
【0089】
本発明の抗体は、抗体分子の産生を行うためのいずれの技法を用いても調製することができる。モノクローナル抗体或いはポリクローナル抗体をin vivo及びin vitroで産生する技法については、当該技術分野では周知である(例えば、パウンド(Pound)(1998年)Immunochemical Protocols、Humana Press、ニュージャージー州トトワ;ハーロー(Harlow)及びレーン(Lane)(1988年)Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、ニューヨーク;ゴーディング(Goding)(1986年)Monoclonal Antibodies: Principles and Practice、第2版、Academic Press;シュック(Schook)(1987年)Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications、マーセルデッカー社参照)。一本鎖抗体の産生と同様、キメラ抗体の産生も当該技術分野では周知である(例えば、モリソン(Morrison)ら(1984年)Proc Natl Acad Sci USA 81:6851-6855;ノイバーガー(Neuberger)ら(1984年)Nature 312:604-608;タケダら(1985年)Nature 314:452-454参照)。関連特異性を有しながら、明確なイディオタイプ組成を有する抗体については、入手可能な様々な手段、例えば、ランダムコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリーのチェーンシャフリング法(chain shuffling)(例えば、バートン(Burton)(1991年)Proc Natl Acad Sci USA 88:11120-11123参照)を用いて産生することができる。
【0090】
抗体は、リンパ球集団内でin vivo産生を誘導することによって、或いは免疫グロブリンライブラリーや高特異性結合試薬のパネルをスクリーニングすることによっても産生することができる(例えば、オーランディ(Orlandi)ら(1989年)Proc Natl Acad Sci USA 86:3833-3837;ウィンター(Winter)及びミルスタイン(Milstein)(1991年)Nature 349:293-299参照)。標的ポリペプチドに対する特異的結合部位を含む抗体断片を産生することもできる。このような抗体断片としては、抗体分子のペプシン消化によって産生し得るF(ab')2断片や、F(ab')2断片のジスルフィド架橋を還元することによって産生し得るFab断片が挙げられるが、これらに限定されない。或いは、Fab発現ライブラリーを構築して、所望の特異性を有するモノクローナルFab断片を迅速且つ容易に同定することもできる(例えば、フセら(1989年)Science 254:1275-1281参照)。
【0091】
本発明のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法(例えば、コーラー(Kohler)及びミルスタイン(Milstein)(1975年)Nature 256:495-497参照)を用いて調製することもでき、或いは組換えDNA法(例えば、Celltech Therapeutics社、欧州特許EP0120694号;キャビリー(Cabilly)ら、米国特許第4,816,567号;及びメージ(MAGE)及びラモイ(Lamoyi)(1987年)In: Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications、マーセルデッカー社、ニューヨーク、p.79〜97参照)によって調製することもできる。
【0092】
ハイブリドーマ法においては、マウス或いは他の適切な宿主動物を皮下、腹腔内或いは筋肉内経路によってCTGF或いはその断片で免疫し、免疫に用いるポリペプチドに特異的に結合する抗体を産生するか産生可能なリンパ球を誘発する。或いは、該宿主動物は、ヒト免疫グロブリン遺伝子をコードする導入遺伝子と不活化内因性免疫グロブリン座とを有するトランスジェニック哺乳動物であってもよい。このようなトランスジェニック哺乳動物は、ヒト抗体を産生することによって免疫原に応答する(例えば、ロンバーグ(Lonberg)ら、WO93/12227号(1993年)、米国特許第5,877,397号、及びNature 148:1547-1553(1994年);及びクチャーラパティ(Kucherlapati)ら(1991年)WO91/10741号参照)。或いは、リンパ球をin vitroで免疫した後、適切な融合剤(ポリエチレングリコール等)を用いて骨髄腫細胞と融合し、ハイブリドーマ細胞を形成することができる(例えば、ゴーディング(Goding)(1986年)Monoclonal Antibodies:Principles and Practice、第2版、Academic Press、p.59-103参照)。また、抗体を産生可能なヒト体細胞(具体的にはBリンパ球)が骨髄腫細胞株との融合には適切である。個体の生検脾臓、扁桃腺或いはリンパ節から得たBリンパ球を用いることもできるが、より容易に入手できる末梢血Bリンパ球が好ましい。また、ヒトB細胞は、エプスタイン・バーウィルスによって直接不死化することができる(例えば、コール(Cole)ら(1995年)Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss社、p.77-96参照)。
【0093】
ハイブリドーマ産生融合手順に用いる好ましい骨髄腫細胞株とは、効率よく融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定した高レベル発現を支持し、所望のハイブリドーマの成長を支持するある選択培地においてそれ自身の成長を不可能にする酵素欠損症を有し、更に、それ自身が抗体を産生しないものである。本発明においてハイブリドーマの産生に用いることのできる骨髄腫細胞株の例としては、P3X63Ag8、P3X63Ag8-653、NS1/1.Ag4.1、Sp210-Agl4、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG1.7及びS194/5XX0Bull(これらは全てマウス由来);R210.RCY3、Y3-Ag1.2.3、IR983F及び4B210(これらは全てラット由来);及びU-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2及びUC729-6(これらは全てヒト由来)が挙げられる(例えば、ゴーディング(Goding)(1986年)Monoclonal Antibodies: Principles and Practice、第2版、Academic Press、p.65-66;及びキャンベル(Campbell)(1984年)In: Monoclonal Antibody Technology: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology、Vol.13(バーデン(Burden)及びフォン・クニッペンバーグ(Von Knippenberg)編)アムステルダム、Elseview、p.75-83参照)。
【0094】
ハイブリドーマ細胞は、適切な培地、好ましくは、非融合の親骨髄腫細胞の成長や生存を阻害する一以上の物質を含む培地内に播種し成長させる。例えば、親骨髄腫細胞がヒポキサンチングアニン・ホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT或いはHPRT)を欠損している場合、ハイブリドーマ用の培地には通常、HGPRT欠損細胞の成長を防止する、ヒポキサンチンやアミノプテリン、チミジン(HAT培地)等の物質を含める。
【0095】
ハイブリドーマ細胞が成長している培地をアッセイし、CTGF或いはCTGF断片に対するモノクローナル抗体の産生を確認する。好ましくは、結合特異性は、アフィニティークロマトグラフィー、免疫沈降法、ラジオイムノアッセイ(RIA)や酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)等のin vitro結合アッセイ、或いは蛍光標示式細胞分取(FACS)解析によって求める。後に例示するように、本発明のモノクローナル抗体はCTGFに結合するものであり、更には、CTGFの生物活性を中和するものである。
【0096】
例えば、後述のように産生する抗体に対して必要に応じスクリーニングを行い、実質的にCTGFのN末端断片に結合する抗体を検出する。一実施形態において、本発明の抗体は、配列番号1の残基24付近〜残基180付近のCTGF断片を指向する。他の実施形態において、本発明の抗体は、配列番号1の残基96付近〜残基180付近のCTGF断片を指向する。特定の実施形態においては、上述のスクリーニングによって、例えば、後述する種類の競合アッセイによって決定する、抗体mAb1によって認識されるエピトープと実質的に同一のエピトープに結合する抗体が検出される。他の特定の実施形態においては、上述のスクリーニングによって、例えば、後述する種類の競合アッセイによって決定する、抗体CLN1によって認識されるエピトープと実質的に同一のエピトープに結合する抗体が検出される。「同一のエピトープ」とは、例えば、アラニンスキャンされたCTGFの変異体を用いたエピトープマッピングによって決定し得る、まさに基準抗体(benchmark antibody)が結合するアミノ酸或いは炭水化物を意味するのではないことに留意すべきである。「同一のエピトープ」とは、無傷のネイティブ基準抗体のCTGFへの結合によって遮断されるCTGFドメインを意味する。当然ながら、「同一のエピトープ」には、mAb1やCLN1の基準相補性決定領域(CDR)に対して構造的に相互作用或いは結合するCTGFドメイン残基や炭水化物が含まれる。
【0097】
本発明の好ましい実施形態において、前記モノクローナル抗体は、例えば、ムンソン(Munson)及びポラード(Pollard)のスキャッチャード解析(1980年、Anal Biochem 107:220)によって決定される、mAb1のアフィニティーと同等かそれ以上のアフィニティーを有する。
【0098】
所望の特異性及びアフィニティーを有する中和抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定した後、得られたクローンを通常、限界希釈法によってサブクローニングし、標準法によって成長させる(ゴーディング(Goding)(1986年)Monoclonal Antibodies: Principles and Practice、第2版、Academic Press、p.59-104)。この目的のための好適な培地としては、例えば、ダルベッコ変法イーグル培地やRPMI-1640培地が挙げられる。また、上述のハイブリドーマ細胞は、動物内で腹水腫瘍としてin vivoで成長させることができる。
【0099】
サブクローンによって分泌されたモノクローナル抗体は、従来の免疫グロブリン精製手順(例えば、プロテインA−セファロースヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーや、ゲル電気泳動、透析、アフィニティークロマトグラフィー等)によって培地、腹水或いは血清から適切に分離する。
【0100】
本発明のモノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順によって(例えば、該抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを用いて)、容易に単離及び配列決定する。一旦単離されると、該DNAは発現ベクター或いはクローニングベクターに連結することができ、次いで、免疫グロブリンタンパク質を産生しない、サルCOS細胞やチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、骨髄腫細胞等の宿主細胞にトランスフェクトする。こうして形質転換した細胞を、モノクローナル抗体の合成に適した条件下、組換え宿主細胞培養液中で培養する。典型的な細胞株はATCC受託番号 (2004年5月19日ATCCに寄託)によって規定される。
【0101】
コードされる免疫グロブリンの特性を変えるため、前記DNAを必要に応じ変性する。免疫グロブリンの変異体については周知である。例えば、キメラ抗体は、ある種(例えば、マウス)由来の重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード配列を、他種(例えば、ヒト)由来の相同配列で置換することによって産生することができる(例えば、ボス(Boss)ら、国際公開WO84/03712号公報;キャビリー(Cabilly)ら、米国特許第4,816,567号公報;又はモリソン(Morrison)ら(1984年)Proc Nat Acad Sci 81:6851参照)。特定の実施形態において、ヒト化マウス抗体は、マウス抗体の相補性決定領域(CDR)(即ち、可変ドメイン)をヒト抗体のフレームワークドメイン(即ち、定常領域)に置換することによって産生することができる(例えば、国際公開WO92/22653号公報参照)。ある実施形態においては、選択されたマウスフレームワーク残基もヒトレシピエント免疫グロブリンに置換する。また、選択されるFcドメインは、IgA、IgD、IgE、IgG-1、IgG-2、IgG-3、IgG-4或いはIgMのいずれであってもよい。該Fcドメインは必要に応じ、補体結合等のエフェクター機能を備える。
【0102】
本発明の抗CTGF抗体は、検出や細胞毒性作用等の追加能力を提供する部分に融合することもできる。本発明の免疫グロブリンと細胞毒性部分との融合は、例えば、免疫グロブリンコード領域に細胞毒性非免疫グロブリンポリペプチドのコード領域の全体或いは一部を連結することによってなされる。このような非免疫グロブリンポリペプチドとしては、リシンやジフテリア毒素、緑膿菌外毒素等のポリペプチド毒素が挙げられる。このような抱合体はin vitro法によっても調製することができる。例えば、免疫毒素は、ジスルフィド交換反応によって、或いは、免疫グロブリンとポリペプチド毒素との間にチオエーテル結合を形成することによって構築することができる。この目的のための好適な試薬の例としては、イミノチオレートやメチル−4−メルカプトブチルイミデートが挙げられる。通常、このような非免疫グロブリン融合ポリペプチドは、本発明の抗体の定常領域に置換する。或いは、該ポリペプチドは、本発明の抗体の一抗原結合部位の可変ドメインに置換する。
【0103】
非CTGF抗原に対して特異性を有する抗体のFv或いはCDRの置換によって、CTGFに対して特異性を有する一抗原結合部位と、別の抗原に対して特異性を有する他の抗原結合部位とを含むキメラ抗体が産生する。このような実施形態において、軽鎖は除去され、重鎖のFvは所望のポリペプチドで置換される。これらの抗体は二価或いは多価と称されるが、これは用いるFcドメインが有する免疫グロブリンの「アーム」の数によって決まり、例えば、IgG類は二価であり、IgM類は多価である。上述の非免疫グロブリンとは別に、一を超える特異性を有する抗体の組換えによっても多価の抗体となる。例えば、ある実施形態における抗体は、本明細書の他所で記載のようにCTGFに結合可能であるが、第二の成長因子、例えば、TGFβやVEGF、FGF、他のCCNファミリーメンバー(CYR61等)、サイトカインに結合することもできる。このような因子に対する抗体の例についてはよく知られている。多特異的で多価の抗体は、二種の抗体の重鎖と軽鎖をコードするDNAで細胞を同時形質転換することによって産生され、所望の構造を有する発現抗体の一部は、イムノアフィニティークロマトグラフィー等によって回収される。或いは、このような抗体は、従来法によりin vitroで組換えた一価の抗体からも産生される。
【0104】
一価の抗体自身も従来の技法によって産生される。軽鎖及び変異した重鎖の組換え発現が好適である。該重鎖は通常、Fc領域のいずれかの位置で切断して重鎖架橋を防止する。或いは、関連するシステインを他の残基で置換するか、或いは除去して架橋を防止する。一価の抗体産生にはin vitro法も用いられ、例えば、Fab断片は無傷抗体の酵素的切断によって調製する。
【0105】
診断法
本発明の抗体を用いて試料中のCTGFを定量的及び定性的に検出することができる。試料はいずれの源由来のものであってもよく、例えば、培養増殖細胞由来の条件培地;組織試料(例えば、生検組織や移植臓器);及び体液(例えば、血液や尿、水疱液、膿脊髄液、硝子体、滑液等)等が挙げられる。一実施形態においては、CTGF検出を培養液中で成長する細胞の状態(例えば、分化やマトリックス産生等に関する)の診断に用いる。CTGFは、培養細胞に対して様々な自己分泌作用及び傍分泌作用を有し、細胞層に付随するCTGFや条件培地に存在するCTGFのレベルは、細胞の現在の状態の指標として、或いは細胞の将来の状態の予測に用いることができる(例えば、国際公開WO96/38168号参照)。他の実施形態においては、CTGF検出を組織や器官の状態の判断に用いる。例えば、CTGFレベルを測定することによって移植用器官を評価することができるが、その際、該器官内の細胞によって発現されるCTGFのレベルによって、該器官の相対的な健康状態や移植への適合性が分かる。また、CTGFレベルを生検組織内で測定して、器官の状態或いは癌の進行度や転移能を判断することもできる。
【0106】
好ましい実施形態においては、本発明の抗体を用いてCTGFに関連する疾患や障害を診断する(例えば、国際公開WO03/024308号公報参照)。本発明はその一様相において、試料を採取し、試料中のCTGFのレベルを検出、定量化し、試料中のCTGFのレベルを標準量のCTGFのレベルと比較してCTGF関連障害を診断するための抗体を提供するが、この際、試料中のCTGF量の増加或いは減少によってCTGF関連障害の存在が示される。CTGFレベルの異常(例えば、増加や減少)に関連する障害としては細胞外マトリックス関連タンパク質の発現変化や沈着に伴う障害が挙げられるが、これらに限定されない。このような障害としては、例えば、乳癌や膵臓癌、消化管癌等の癌、アテローム硬化症、関節炎、糖尿病性網膜症等の網膜症、糖尿病性腎症等の腎症、心線維症、肺線維症、肝線維症、腎線維症、及び慢性炎症及び/又は感染に関連する疾患が挙げられる。CTGF関連障害は、心筋梗塞や糖尿病、腹膜透析、慢性及び急性移植拒絶反応、化学療法、放射線治療、外科手術等の病態とも関連する。
【0107】
他の様相において、本発明は、個体がCTGF関連障害を発症する素因を有するか否かを確認するための抗体を提供する。先ず、被験体の高血糖、高血圧或いは肥満によって素因が示され得る。更に、例えば、該被験体の心筋梗塞や外科手術、整形外科的或いは麻痺性固定化、鬱血性心不全、妊娠、静脈瘤等のイベントによって素因の存在を疑うことができる。
【0108】
他の様相において、本発明は、CTGF関連障害の進行をモニターしたり、CTGF関連障害処置の治療効果をモニターするための抗体を提供する。例えば、この抗体を用いる方法は、被験体から試料を経時的に採取することと、各試料中のCTGFレベルを検出し定量化することと、後続試料中のCTGFレベルを先行試料中のCTGFレベルと比較することとを含み得る。試料間でのCTGFレベルの経時的な変化によって、CTGF関連障害の進行やCTGF関連障害処置の治療効果が示される。
【0109】
診断用途の場合、本発明の抗体は通常、検出可能成分で標識する。検出可能成分は、検出可能なシグナルを直接的或いは間接的に生じることが可能である限り、いかなる成分であってもよい。例えば、検出可能成分としては3Hや14C、32P、35S、125I等の放射性同位元素、フルオレセインやイソチオシアネート、ローダミン、ルシフェリン等の蛍光或いは化学発光化合物、或いはアルカリホスファターゼやβガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素を用いることができる。
【0110】
上述の検出可能成分に本発明の抗体を個別に接合させるために、当該技術分野で知られたいずれの方法をも用いることができる(例えば、ハンター(Hunter)ら(1962年)Nature 144:945;デービッド(David)ら(1974年)Biochemistry 13:1014;ペイン(Pain)ら(1981年)J Immunol Meth 40:219;及びニグレン(Nygren)(1982年)J Histochem Cytochem 30:407参照)。本発明の抗体は、競合結合アッセイや直接或いは間接サンドイッチアッセイ、免疫沈降アッセイ等、従来知られたアッセイ法のいずれにも用いることができる(ゾラ(Zola)(1987年)In: Monoclonal Antibodies: A Manual of Techniques、CRC Press社、p.147-158)。
【0111】
競合結合アッセイは、限られた量の抗体への結合に対する、標識標準品(CTGFであっても、或いはその免疫学的反応部分であってもよい)の試験試料アナライト(CTGF)に競合する能力に依存する。試験試料中のCTGF量は、抗体に結合する標準品の量に反比例する。結合する標準品量の測定を容易にするため、通常、競合の前或いは後に抗体を不溶化し、抗体に結合する標準品及びアナライトを、結合せずに残る標準品及びアナライトから簡便に分離できるようにする。
【0112】
サンドイッチアッセイには、各々が検出対象タンパク質の異なる免疫原性部分(エピトープ)に結合可能な二種類の抗体を用いる。サンドイッチアッセイにおいては、固体支持体上に固定した第一の抗体に試験試料アナライトを結合し、その後、第二の抗体を該アナライトに結合して、不溶性三部複合体を形成する(デービッド(David)及びグリーン(Greene)、米国特許第4,376,110号)。第二の抗体は、それ自身を検出可能成分で標識してもよく(直接サンドイッチアッセイ)、或いは、検出可能成分で標識した抗免疫グロブリン抗体を用いて測定してもよい(間接サンドイッチアッセイ)。例えば、ELISAアッセイもサンドイッチアッセイの一種であり、この場合、検出可能成分は酵素である。本発明の抗体を用いることのできる典型的なアッセイは、例えば、国際公開WO03/024308号に記載されている。
【0113】
本発明の抗体はin vivoイメージングにも有用であるが、この際、放射線不透性剤(radio-opaque agent)や放射性同位元素、蛍光成分(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP))等の検出可能成分で標識した抗体を宿主、好ましくは血流中に投与し、宿主内での標識抗体の存在及び位置をアッセイする。このイメージング技法は、線維性障害等のCTGF関連障害のステージングや治療に有用である。本発明の抗体は、核磁気共鳴、放射線学或いは当該技術分野で知られている他の検出手段によって宿主内で検出可能ないずれの成分でも標識することができる。
【0114】
治療剤(therapeutics)
本発明は、CTGFに関連する様々な疾患や障害の治療のための抗体を提供する。本発明の抗体は、以下に例示するように、数種の障害におけるCTGF産生或いはCTGF活性の悪影響を抑制することが見出されている。更に、本発明の抗体は、それ自身をCTGF関連障害治療のための優れた治療剤とせしめる好ましい薬物動態を示す。
【0115】
本発明の抗CTGF抗体は、例えば、肺線維症や腎線維症の動物モデルにおける線維化を阻害する。具体的には、該抗体は、肺ヒドロキシプロリン(コラーゲン)蓄積の阻害及び組織標本の組織学的検討によって求められるように、マウスにおけるブレオマイシン誘導肺線維化を60〜70%減弱する。更に、該抗体は、ラット残存腎臓(即ち、5/6腎摘出)モデル、及び片側尿管閉塞(UUO)後のマウスにおけるコラーゲンの蓄積を抑制する。また、該抗体は、新生マウスにCTGFとTGFβを合わせて皮下或いは腹腔内注射することによって誘導される線維化も抑制する。更に、該抗体は、臓器不全に伴う合併症を抑制し、例えば、慢性及び急性腎不全の各種モデルにおける腎機能を改善する。動物においては、この抗体についての毒性は認められていない。全身性及び限局性強皮症や骨関節炎、糖尿病性腎症、網膜症等の様々な線維性疾患においてはCTGFが過剰発現するため、本発明は、CTGF関連障害の患者をCTGF抗体を用いて治療し、病状の改善や安定化、器官機能の回復、生活の質の向上、及び生存期間の延長を意図する。
【0116】
従って、本発明の抗体は、被験体のCTGF関連障害を予防或いは治療するための治療用途において特に有用である。このような障害としてはアテローム硬化症や緑内障等の病態において中心的役割を果たす血管形成や他のプロセスや、急性リンパ芽球性白血病や皮膚線維腫、乳癌、乳癌腫(breast carcinoma)、神経膠腫及び神経膠芽腫、横紋菌肉腫及び線維肉腫、線維形成、血管脂肪腫、血管平滑筋腫、線維形成性癌、前立腺癌、卵巣癌、結腸直腸癌、膵臓癌、消化管癌、肝臓癌等の癌、他の腫瘍増殖及び転移等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
更に、本発明の抗体は、線維化を伴うCTGF関連障害を予防或いは治療するための治療用途において有用である。一様相においては、本発明の抗体を被験体に投与し、CTGF関連障害(細胞外マトリックス関連タンパク質の発現変化や沈着を示す障害、例えば、線維性障害が挙げられるが、これらに限定されない)を予防或いは治療する。各種様相において、線維化は、上皮組織や内皮組織、結合組織等の特定の組織、或いは、腎臓や肺、肝臓等の器官に限局し得る。線維化は眼や関節でも生じ得る。他の様相において、線維化は全身性であり、複数の器官系や組織系を伴うことがある。CTGF関連障害としては、例えば、アテローム硬化症、関節炎、糖尿病性網膜症等の網膜症、糖尿病性腎症等の腎症、心線維症、肺線維症、肝線維症、腎線維症、及び慢性炎症及び/又は感染に関連する疾患が挙げられる。
【0118】
他の様相において、本発明は、CTGF関連障害を発症する素因を有する被験体において該障害を予防するための抗体を提供する。素因としては、例えば、該被験体における高血糖や、高血圧、肥満を挙げることができる。このような障害は、例えば、糖尿病や肥満等に起因して生じることがあり、その例としては、糖尿病性腎症や網膜症、心血管疾患が挙げられる。更に、例えば、該被験体の心筋梗塞や外科手術、腹膜透析、慢性及び急性移植拒絶反応、化学療法、放射線治療、外傷、整形外科的或いは麻痺性固定化、鬱血性心不全、妊娠、静脈瘤等のイベントによって素因の存在を疑うことができる。
【0119】
特定の実施形態においては、本明細書に例示のように、本発明の抗体を被験体に投与して器官(例えば、肺や腎臓)の線維化を治療する。本明細書に記載の抗体は、肺線維症や腎線維症の各種モデルにおいて利益をもたらす(例えば、実施例7〜9参照)。他の特定の実施形態においては、本発明の抗体を被験体に投与して局所性或いは全身性硬化症を抑制する(例えば、実施例11及び12参照)。更なる実施形態においては、本発明の抗体を被験体に投与して増殖性硝子体網膜症や糖尿病性網膜症、黄斑変性等の眼の障害を治療或いは予防する。CTGFは様々な障害に関係しているため、本発明は更に、本発明の抗体を用いてCTGF関連障害を有する患者を治療し、病状や器官機能の改善や安定化、生活の質の向上、及び生存期間の延長を意図する。
【0120】
治療用途の場合、本発明の抗体を、薬学的に許容し得る剤形で哺乳動物(好ましくはヒト)に投与する。本発明の抗体は、ボーラスとして或いはある期間に亘る連続注射によって静脈内投与してもよく、及び/又は筋肉内経路や皮下経路、関節内経路、滑液嚢内経路、髄腔内経路、硝子体内経路、頭蓋内経路、経口経路、局所経路、吸入経路によって投与してもよい。本発明の抗体が好適な活性を有する場合、腫瘍内経路や腫瘍周辺経路、病巣内経路、病巣周辺経路によって投与を行い、局所及び全身で治療効果を発揮させることもできる。
【0121】
上述の剤形は、本質的に無毒で非治療的な薬学的に許容し得る担体を含む。このような担体の例としては、イオン交換体やアルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミン等の血清タンパク質、リン酸塩やグリシン等のバッファー、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩、硫酸プロタミンや塩化ナトリウム、金属塩、コロイダルシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースポリマー、ポリエチレングリコール等の電解質が挙げられる。抗体の局所剤形やゲルベース剤形用担体としては、カルボキシメチルセルロースナトリウムやメチルセルロース等の多糖類や、ポリビニルピロリドン、ポリアクリレート、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコール、ウッドワックスアルコール等が挙げられる。従来のデポー剤形としては、例えば、マイクロカプセルやナノカプセル、リポソーム、プラスター、舌下錠、ポリラクチド−ポリグリコリドコポリマー等のポリマーマトリックスが挙げられる。本発明の抗体が凍結乾燥状態ではなく水性剤形で存在する場合、該抗体を通常、約0.1mg/mL〜100mg/mLの濃度で処方するが、この範囲外で幅広く濃度変化させることができる。
【0122】
疾患の予防或いは治療の場合、抗体の適切な用量は、上述の治療対象疾患の種類や、該疾患の重症度や経過、抗体投与の目的(予防或いは治療)、先の治療の経過、患者の病歴や抗体に対する応答によって変わり、担当医の裁量事項である。本発明の抗体は、患者に対して一度で或いは一連の治療に亘って投与するのが好適である。
【0123】
疾患の種類や重症度によっても変わるが、患者への抗体の初期投与量は、例えば、一回以上の分割投与であっても連続注射であっても、約0.015〜15mg/kg患者重量となる。数日間以上に亘って繰り返し投与する場合、病態に応じて、病状が所定のレベルに抑制されるまで投与を繰り返す。しかし、他の投与計画も有効であり得るため、本発明はそれらを排除するものではない。
【0124】
本発明の他の実施形態によると、疾患の予防或いは治療における本発明の抗体の有効性は、該抗体を連続的に投与することによって、或いは同じ臨床目的に対して効果的な他の剤と併せて投与することによって向上させることができる。このような他の剤としては、本発明の抗体とは異なるエピトープに対する他の抗体や、所期の治療適応(例えば、細胞外マトリックスの過剰産生に伴う病態(線維化や硬化等)の予防或いは治療や、腫瘍細胞の増殖や転移の阻害、血管新生の阻害、炎症の抑制)に対して知られている一種以上の従来の治療剤が挙げられる。このような剤は、類似の作用機序(例えば、抗TGFβ抗体)によって、或いは異なる機序(例えば、インターフェロンγ)によって症状を改善し、良い結果をもたらすことができる。このような剤は更に、CTGF関連障害やCTGF関連障害発症素因に直接的或いは間接的に関与する症状を改善することができる(例えば、アンギオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤やアンギオテンシンレセプター阻害剤(Arb))。
【0125】
例えば、安定なプロスタサイクリンアゴニストであるイロプロストを高頻度で注射した強皮症患者においては、皮膚線維芽細胞による瘢痕組織形成の阻害作用と共に皮膚のつっぱり感の改善が報告されている。プロスタノイドはコラーゲン合成に対して阻害作用を発揮することが示されており、また、イロプロストが強皮症におけるCTGF誘導を阻害することが数種の証拠によって示されている(コーン(Korn)ら(1980年)J Clin Invest 65:543-554;ゴールドスタイン(Goldstein)及びポルガー(Polger)(1982年)J Biol Chem 257:8630-8633;及びストラットン(Stratton)ら(2001年)J Clin Invest 108:241-250)。強皮症患者の水疱液中のCTGFは、健常対照に比べて7倍に上昇するが、イロプロストを静脈内投与した患者の場合、水疱液中のCTGFは顕著に減少する(ストラットン(Stratton)ら(2001年)J Clin Invest 108:241-250)。総合すると、これらの結果から、強皮症におけるイロプロスト療法の利益の一部は、CTGFレベルの減少による抗線維化作用に由来する可能性が示唆される。強力な血管拡張性抗血小板プロスタサイクリン類似体を強皮症患者に対して慢性的に全身投与することについては懸念があるため、抗CTGF抗体のみを用いる療法或いは該抗体を低レベルのイロプロストと併用する療法によって、強皮症の安全で効果的な治療がもたらされるであろう。
【0126】
他の用途
本発明の抗体はアフィニティー精製剤としても有用である。このプロセスにおいては、当該技術分野で周知の方法によって、CTGFに対する抗体を好適な支持体(セファデックス樹脂や濾紙)に固定する。次に、固定化した抗体を精製対象CTGFを含む試料に接触させ、その後、固定化抗体に結合しているCTGFを除き試料中の実質的に全ての物質を除去する好適な溶媒で支持体を洗浄する。最後に、CTGFを抗体から遊離させる他の好適な溶媒(グリシンバッファー(pH5.0)等)で支持体を洗浄する。
【0127】
実施例
本発明は、以下の実施例を参照することにより一層理解が進むであろうが、これら実施例は単に本発明を例示するものに過ぎない。これらの実施例を掲げる目的は、請求に係る発明を例示的に説明するために過ぎない。本発明の範囲は、本発明の個々の様相の説明のみを意図した上述の実施形態によって限定されない。機能的に等価ないずれの方法も本発明の範囲内である。本明細書に記載のもの以外の本発明の様々な変更は、上述の説明及び添付図面から当業者には明らかとなるであろう。このような変更は添付の各請求項の範囲内にあるものとする。
【実施例1】
【0128】
実施例1.組換えヒトCTGFの産生
組換えヒトCTGFバキュロウィルス構築物は、セガリーニ(Segarini)ら((2001年)J Biol Chem 276:40659-40667)の記載に従って産生した。即ち、鋳型としてのDB60R32(ブラッドハム(Bradham)ら、1991年、J Cell Biol 114:1285-94))と、増幅産物末端にBamHI制限酵素部位を付加する次のプライマー、5’−gctccgcccgcagtgggatccATGaccgccgcc−3’及び5’−ggatccggatccTCAtgccatgtctccgta−3’とを用いたPCRによって、オープンリーディングフレームのみを含むCTGFcDNAを産生した。ネイティブな開始コドン及び終止コドンは大文字で示す。
【0129】
得られた増幅DNA断片は、BamHIで消化し、アガロースゲル上の電気泳動によって精製し、バキュロウィルスPFASTBAC1発現プラスミド(インビトロゲン社、カリフォルニア州カールズバッド)のBamHI部位に直接サブクローニングした。発現カセットの配列及び配向はDNA配列決定によって確認した。次いで、細菌内の部位特異的組換えによって、得られたCTGF発現カセットをバクミドDNAへ導入した。次いで、このバクミドを用い、インビトロゲン社提供のプロトコル(BAC-TO-BAC Expression System manual;インビトロゲン)に従って、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)SF9昆虫細胞に完全組換えCTGFバキュロウィルスを産生した。当該技術分野で知られた標準的な手順によって、Sf9昆虫細胞内で組換えバキュロウィルスの力価を増大させた。
【0130】
分離細胞の各継代での濃縮を伴う振盪フラスコ培養において、細胞の連続継代による浮遊増殖にHi5昆虫細胞を適応させた。振盪台上の2.8L使い捨てFernbach培養フラスコ(コーニング社、マサチューセッツ州アクトン)に入れた、20μg/mLのゲンタマイシン(メディアテック社、バージニア州ハーンドン)と1×脂質(インビトロゲン)とを添加した1LのSF900IISFM培地(インビトロゲン)内で浮遊Hi5細胞を培養した(110rpm、27℃)。生存度が95%を超え、細胞密度が1.0〜1.5×106細胞/mLに到達した時点で、細胞を感染多重度(MOI)10で組換えバキュロウィルスに感染させた。次いで、得られた培養物を更に27℃で40〜44時間インキュベートした。rhCTGFを含有する条件培地を回収し、氷上で冷却し、5000×gで遠沈した。次いで、得られた上清を0.45mmフィルターに通した。
【0131】
或いは、ラットCTGFをコードするクローン2−4−7(シュミット(Schmidt)ら、米国特許第6,348,329号)をpMK33発現ベクター(マイケル・ケーレ(Michael Koelle)により構築、スタンフォード大学Ph.D.論文、1992年)に挿入することによって組換えラットCTGFを産生した。得られたラットCTGF発現構築物を、CELLFECTIN試薬(インビトロゲン社、カリフォルニア州カールズバッド)を用いて、シュナイダー2細胞(アメリカ基準株保存機関、バージニア州マナッサス;シュナイダー(Schneider)(1972年)J Embryol Exp Morphol 27:353-365)にトランスフェクトした。細胞は、300μg/mLのハイグロマイシンBを含有する培地で6週間増殖させた後、選択せずに3日間増殖させた。CTGFの発現は500μM CuSO4及び100μM ZnSO4を添加して誘導し、4日後に培地を回収し、上述の遠沈及びろ過によって浄化した。
【0132】
上述の方法のいずれかによって産生したCTGFを次のように精製した。50mM Tris(pH7.5)及び150mM NaClで予備平衡させた5mLのHI-TRAPヘパリンカラム(アマシャム・バイオサイエンス社、ニュージャージー州ピスカタウェイ)に4Lの条件培地を添加した。10カラム体積の350mM NaCl及び50mM Tris(pH7.5)でカラムを洗浄した。NaCl塩勾配を増加させて、カラムからCTGFを溶出させた。溶出画分をSDS-PAGEによってスクリーニングし、CTGFを含むものをプールした。
【0133】
ヘパリン精製CTGFを、最終導電率が5.7mSとなるまで非発熱性再蒸留水で希釈し、pHを8.0に調整した。約7mLの樹脂を含有するカルボキシメチル(CM)POROSポリスチレンカラム(アプライド・バイオシステム)と縦並びで連結させた約23mLの樹脂を含有するQ-SEPHAROSE強アニオン交換カラム(アマシャム・バイオサイエンス)を用いて内毒素を除去し、精製rhCTGFを捕獲、溶出した。試料を添加する前に、上述の縦並びカラムを0.5M NaOHで洗浄し、続いて0.1M NaOHで洗浄し、最後は平衡バッファーで洗浄した。投入試料をこの縦並びカラムに通し、Q-SEPHAROSEカラムを除去し、NaCl勾配を350mMから1200mMに増加させて、CTGFをCM POROSカラム(アプライド・バイオシステム)から溶出させた。CTGFを含む溶出画分の純度は、最終試料プールを形成する前にSDS-PAGE解析によって評価した。
【実施例2】
【0134】
実施例2.CTGFのN末端断片及びC末端断片の産生
CTGFのN末端断片及びC末端断片は次のように調製した。上述のように調製、精製した組換えヒトCTGFを、キモトリプシンビーズ(シグマケミカル社、ミズーリ州セントルイス)を用いた処理(キモトリプシンの単位当り1.5mgのCTGF)によって室温で6時間消化した。得られた混合物を遠沈し、キモトリプシンビーズを廃棄し、酵素的に切断されたrhCTGFを含有する上清を50mM Tris(pH7.5)で1:5に希釈した。希釈した上清をHi-Trapヘパリンカラムに添加した。CTGFのN末端断片を含有する流出分(flow-through)を回収した。このヘパリンカラムを350mMのNaClで洗浄し、上述のように350mM〜1200mMのNaClの線形勾配をかけて、CTGFの結合C末端断片を溶出した。得られた画分をSDS-PAGEによって解析し、CTGFのC末端断片を含有する画分をプールした。
【0135】
CTGFのN末端断片を含有するヘパリンカラム流出分(flow-through)は、0.5M 硫酸アンモニウム/50mM Tris(pH7.5)に適応させた後、0.5M 硫酸アンモニウム/50mM Tris(pH7.5)で予備平衡させた15mLのフェニルセファロースHPカラム(アマシャム−ファルマシア)に添加した。このカラムを15カラム体積の0.5M 硫酸アンモニウム/50mM Tris(pH7.5)で洗浄し、0.5M-0M 硫酸アンモニウム/50mM Tris(pH7.5)の線形勾配をかけて(約15カラム体積超)、CTGFの結合N末端断片を溶出させた。画分をSDS-PAGEで解析し、CTGFのN末端断片を含有する画分をプールした。ULTRACEL AMICON YM10限外ろ過膜(ミリポア社、マサチューセッツ州ベッドフォード)を用いて、プールした溶液を濃縮し、バッファーを50mM Tris、400mM NaCl(pH7.2)と交換した。
【実施例3】
【0136】
実施例3.ヒト抗CTGFモノクローナル抗体の産生
ヒトCTGFに対する完全ヒトモノクローナル抗体は、HUMABマウス株、HCo7、HCo12及びHCo7+HCo12(メダレックス社、ニュージャージー州プリンストン)を用いて調製した。2〜4週間に亘り、完全フロイントアジュバント中の組換えヒトCTGF(25〜50mg)を最高で10回腹腔内(IP)或いは皮下(Sc)注射し、マウスを免疫した。免疫応答は、後眼窩出血(retroorbital bleeds)によってモニターした。血漿をELISA(後述する)でスクリーニングし、抗CTGF免疫グロブリンの十分な力価を有するマウスを融合に用いた。マウスを犠牲にして脾臓を取り出す3日前及び2日前に、マウスに対して抗原の追加免疫を静脈内で行った。
【0137】
免疫マウス由来の脾臓リンパ球の単細胞浮遊液を、50%PEG(シグマ、ミズーリ州セントルイス)を用いてP3X63-Ag8.653非分泌マウス骨髄腫細胞(アメリカ基準株保存機関(ATCC)、バージニア州マナッサス)の1/4に融合した。細胞は、平底マイクロタイタープレートに約1×105細胞/ウェルで平板培養し、L−グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、10%ウシ胎児血清、10%P388D1(ATCC)条件培地、3〜5%オリゲン(イゲン・インターナショナル、メリーランド州ゲーサーズバーグ)、5mM HEPES、0.055mM 2−メルカプトエタノール、50mg/mL ゲンタマイシン及び1×HAT(シグマ)を含有する高グルコースDMEM(メディアテック、バージニア州ハーンドン)内で約2週間インキュベートした。1〜2週間後、上述のHATをHTに置換した培地で細胞を培養した。次いで、個々のウェルをELISA(後述する)でスクリーニングした。抗体分泌ハイブリドーマを再度平板培養し、再度スクリーニングし、抗CTGF抗体に対してなお陽性である場合には、限界希釈によって少なくとも2回サブクローニングした。次いで、安定なサブクローンをin vitroで培養し、組織培地で少量の抗体を産生して特徴付けを行った。親細胞の反応性を保持する各ハイブリドーマ由来の一クローンを用いて、5〜10のバイアル細胞バンクを産生し、液体窒素に保存した。
【0138】
ELISAアッセイは、フィッシュウィルド(Fishwild)ら(1996年、Nature Biotech 14:845-851)に記載のように行った。即ち、マイクロタイタープレートを精製組換えCTGFのPBS溶液(1〜2μg/mL)でコートし(50μL/ウェル)、4℃で一晩インキュベートした後、5%ニワトリ血清のPBS/Tween溶液(0.05%)でブロックした(200μL/ウェル)。CTGF免疫マウス由来血漿の希釈物或いはハイブリドー培養上清を各ウェルに添加し、常温で1〜2時間インキュベートした。プレートをPBS/Tweenで洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で抱合したヤギ抗ヒトIgG Fcポリクローナル抗体と共に室温で1時間インキュベートした。洗浄後、プレートを0.22mg/mLのABTS基質(シグマ)で展開し、分光光度計によって415〜495nmで解析した。
【実施例4】
【0139】
実施例4:抗体の特徴付け
ヒトCTGFに対する抗体を産生するハイブリドーマは、実施例3に記載のように調製した。8mM L−グルタミン、1/2×非必須アミノ酸、及び10%ウシ胎児血清を含有するダルベッコ変法イーグル培地−高グルコース/RPMI1640(50:50)内でクローン化ハイブリドーマ細胞を増殖させた。抗体調製用に増殖させた細胞を、1.5%低IgGウシ胎児血清を含有する上述の培地において、37℃、6%CO2で4〜9日間増殖させた。得られた条件培地から細胞を除去し、接線流ろ過(tangential flow filtering)/濃縮システムを用いて濃縮した。濃縮物をプロテイン−Aカラムに通し、結合モノクローナル抗体を100mM グリシン(pH3)で溶出させた。溶出物を1M Tris(pH8.0)で中和し、PBSに対して透析した。
【0140】
4.1 エピトープマッピング
競合結合実験による抗体のエピトープマッピングについては、免疫学分野の当業者に周知である(例えば、ファン・デア・ゲルド(Van Der Geld)ら(1999年)Clinical and Experimental Immunology 118:487-96参照)。ユニークなクローン化ハイブリドーマ細胞から増殖した細胞より単離された各抗体集団を、結合・ブロッキング実験の標準法(例えば、Antibodies:A Laboratory Manual(1988年)ハーロー(Harlow)及びレーン(Lane)(編)、Cold Spring Harbor Laboratory Press; Tietz Textbook of Clinical Chemistry、第2版、(1994年)第10章(Immunochemical Techniques)、サンダース(Saunders);及びClinical Chemistry: Theory, Analysis, Correlation(1984年)第10章(Immunochemical Techniques)及び第11章(Competitive Binding Assays)、C.V.モスビー(Mosby)、セントルイス参照)を用いてマッピングし、ヒトCTGFの特定の結合ドメインに割り当てた。独立結合ドメインは、初めに、二種類の抗体をCTGF被覆プレート上で順次インキュベートする抗体競合実験によって規定した。第一の抗体の立体障害によって第二の抗体がCTGFに結合できない場合には、これら二種類の抗体を同一の結合ドメインに割り当てた。しかし、当然のことながら、二種類の抗体が異なるエピトープを有していても、互いに近接しているために同一結合ドメインのメンバーとして指定されることもある。
【0141】
ヒトCTGFの4種類のエキソン全てに広がる結合ドメインを同定した。これらの結合ドメインは全て高次構造的に規定されているため、ウェスタンブロットアッセイにおいて、上述の抗体は非還元条件下でCTGFに結合する。抗体の一部は、ウェスタンブロットアッセイにおいて還元条件下でもCTGFに結合したが、この結果は、これらの抗体の各々がCTGFタンパク質の直線状エピトープに結合したことを示唆する。また、上述の結合ドメインのサブセットを示す抗体は、ウェスタンブロット解析において、マウスCTGFに対して交差反応性を示す。CTGF全体に対して最も高いアフィニティーを有する各群の抗体を用いて、更なる特徴付け及び解析を行った。
【0142】
特定の組換え発現CTGF断片を用いたELISA解析によって、より正確なエピトープマッピングを実施した。例えば、CTGFのN末端ドメイン上のエピトープを認識する抗体は、CTGF遺伝子のエキソン2及び/又はエキソン3の組換え発現から得た固定化断片に対するELISA解析によって同定した。このように、CTGFのN末端ドメイン或いはN末端断片を特異的に認識する抗体を選択し、更なる特徴付けを行った。また、CTGFのC末端ドメイン或いはC末端断片を特異的に認識する抗体も選択し、更なる特徴付けを行った。
【0143】
mAb1によって規定されるエプトープ群は、エキソン3でコードされるCTGFのN末端断片上の直線状エピトープに結合する。エキソン3のポリヌクレオチドでコードされる領域をカバーする一連の切断型合成ペプチドを産生し、これらのペプチドを用いたELISA試験を実施してmAb1のエピトープを更に規定した。結果を表1にまとめる。表1において、「+」は該ペプチドとmAb1との結合を示すが、「−」はmAb1が該ペプチドに結合しないことを示す。太字イタリック体の「C」は、mAb1結合に必須の該ペプチドのシステイン残基を示す。また、下線付きの「」は、ネイティブCTGF配列の末端に付加されたシステイン残基(即ち、ネイティブCTGF配列の一部ではない)を示す。
【0144】
【表1】

【0145】
従って、mAb1は、CTGFのN末端領域に結合する抗体クラスのメンバーである。mAb1の結合に必要且つ十分なCTGF上の直線状エピトープは、ヒトCTGF(配列番号2)のアミノ酸残基L143-V154によって規定される。更に、このペプチドに対するmAb1結合特異性については、RIA及びアフィニティークロマトグラフィーによって確認した。このエピトープを部分的或いは全体的に共有する抗体は本発明に具体的に含まれる。また、CTGF或いはその断片への結合に対しmAb1と競合する抗体も本発明に具体的に含まれる。
【0146】
4.2 CTGFに対する抗体のアフィニティー
抗体のアフィニティーは、抗体上の単一抗原結合部位と抗原上の単一エピトープとの非共有相互作用全体の強度として定義される。アフィニティーは、次式によって会合定数(Ka)を測定することによって計算される:
【0147】
【数2】

【0148】
(式中、[Ab]は抗体上の遊離抗原結合部位の濃度、[Ag]は遊離抗原の濃度、[Ab・Ag]は抗原によって占有された抗体上の抗原結合部位の濃度、Kdは抗体−抗原複合体の解離定数である)。
【0149】
エピトープマッピングによって同定された各抗体集団のアフィニティーはRIAを用いて測定したが、その際、次のようにrhCTGF全体を放射性ヨウ素標識し、固定化モノクローナル抗体を含むウェルに添加した。クロラミン−T法(グリーンウッド(Greenwood)ら(1963年)Biochem J 89:114-123参照)を用いて組換えヒトCTGFを125Iで放射標識した。通常、少なくとも60%の125Iを組込み、標識CTGFの比活性は少なくとも1×105cpm/ngであったが、ラジオイムノアッセイに用いることができるのは、より比活性の低い標識CTGFである。ヤギ抗ヒトIgG,γFc特異的捕獲抗体(ジャクソン・イムノリサーチ)のCa2+Mg2+フリーDPBS(メディアテック、バージニア州ハーンドン)溶液をMAXISORP BREAKAPARTマイクロタイタープレート(ナルジェヌンク・インターナショナル、ニューヨーク州ロチェスター)の各ウェルに添加し、4℃で一晩結合させた。次いで、1%BSAのCa2+Mg2+フリーDPBS溶液で各ウェルをブロックした(4℃で少なくとも4時間)。このブロッキング溶液を除去し、試験抗体(2-50ng/mL)のCa2+Mg2+フリーDPBS溶液(100μL)を添加し、4℃で一晩結合させた。一定量の[125I]rhCTGFと非標識CTGFの連続希釈物との混合物をウェルに添加し、室温で4〜8時間インキュベートした。次いで、0.1%Tween20のCa2+Mg2+フリーPBS(メディアテック)溶液でウェルを4回洗浄した後、マイクロタイタープレートの各ウェルを分離し、ガンマカウンターでカウントした。
【0150】
アフィニティーは、スキャッチャードの方法(1948年、Ann NY Acad Sci 51:660-72)によって図式的に評価した。上述のプレートに添加した標識CTGFの総濃度は次式によって計算した:
【0151】
【数3】

【0152】
(式中、cpm_appliedはマイクロタイタープレートのウェルと並行してCTGF混合物を添加した対照バイアルから得たカウント、cpm/fmolは[125I]CTGFの比活性、[CTGF]cold_stockは各ウェルに添加した非標識CTGFの濃度、dilutionは非標識CTGFの希釈因子である)。
【0153】
抗体に結合したCTGFの濃度は、ウェルに結合したカウントとウェルに添加したCTGFの総濃度との比率から計算される。
【0154】
【数4】

【0155】
遊離(非結合)CTGFの濃度は、添加したCTGFの総濃度と結合CTGFの濃度の差である。
【0156】
【数5】

【0157】
本発明の抗体のアフィニティー決定のためのスキャッチャードプロットを図2に示す。図2Aは、非標識rhCTGFの濃度を上昇させた場合の本発明の抗体(mAb2)の[125I]rhCTGFに対する結合をプロットしたものである。図2Bは、非標識rhCTGFの濃度を上昇させた場合の本発明の典型的な抗体(mAb1)の[125I]rhCTGFに対する結合をプロットしたものである。重量の増加に伴い、結合CTGFと非結合CTGFとの比率が類似したポイントが得られるが、これは、このようなポイントにおいて結合カウントが実質的にブランクを超えているからである(従って、結合カウントの測定が良好である)。しかし、それでも結合カウントは添加したCTGFの総カウントを実質的に下回る(従って、遊離カウントの測定が良好である)。最大結合(Bmax)及びKdはそれぞれx切片及びy切片を示している。
【0158】
mAb1のCTGFに対するアフィニティー(Kd)は10-9M未満であるが、このアフィニティーは通常、商業的に成功している抗体治療において見出されている(例えば、マイニ(Maini)ら(1998年)Arthritis Rheum 41:1552-1563;ターガン(Targan)ら(1997年)N Engl J Med 337:1029-1035;バンガードナー(Bumgardner)ら(2001年)Transplantation 72:839-45;及びコヴァリック(Kovarik)ら(1999年)Transplantation 68:1288-94参照)。従って、mAb1は治療用途の好適な候補であり、上述のようにmAb1とエピトープ結合を共有し、CTGFに対するアフィニティーがmAb1と同等かそれ以上(即ち、Kd≦10-9)である抗体も同様に、治療用途の好適な候補である。mAb1とエピトープ結合を共有しているが、mAb1よりアフィニティーが低い(即ち、Kdがより高い)抗体も本発明の範囲で具現化され、このような抗体は本明細書に記載の各種アッセイや診断用途における有用性を秘めている。このような抗体は、後述のように、特に抗原に対して高いアビディティーを有する場合、治療用途においても有用となり得る。
【0159】
4.3 抗体のアビディティー
一を超える抗原結合部位(多価性)を有する抗体の場合、ある結合部位におけるアフィニティーが必ずしも抗体−抗原相互作用の真の強度を反映するとは限らない。多価抗体が複数の繰り返しエピトープを有する抗原と結合すると、該抗体のある結合部位における抗原相互作用によって、他の結合部位との抗原相互作用の機会が増える。アビディティーは、抗体とその抗原との機能的結合強度の尺度となるものであり、エピトープとパラトープの反応のアフィニティー、及び該抗体と抗原の価数に関連する。従って、アビディティーによって、抗体の解離傾向のより正確な指標が得られる。
【0160】
高いアビディティーは低いアフィニティーを補うことがある。例えば、IgMの抗原結合部位は一般にIgGよりもアフィニティーが低いが、IgMの多価性によって、そのアビディティーが高くなり、抗原に対して効果的に結合することができる。
【0161】
本発明の抗体のアビディティーを求めるため、先ず、Fab断片を、これに対応する免疫グロブリンの従来のパパイン消化によって調製した。次いで、固定化したプロテインAを用いて、Fab断片をFc及び未消化抗体から分離した。
【0162】
0.5mLの固定化ゲル、250μgのパパイン及び3.5BAEEユニットを含有する約1mLの固定化パパインスラリーを消化バッファー(DB;20mM リン酸ナトリウム、10mM EDTA、20mM システイン、pH7.0)で洗浄した(3×1mL及び1×10mL)。次いで、該スラリーを0.3mLのDBで再懸濁し、1.1mLの抗体(約5mg、pH7)と混合し、37℃で一晩撹拌した。次いで、抗体消化産物を樹脂から分離し、プロテインAを用いたアフィニティークロマトグラフィーによって、Fab断片をFc断片及び未消化抗体から分離した。Fab断片の純度はSDS-PAGEによってモニターした(図3A)。
【0163】
チオシアネートの濃度を変えて抗原が結合した抗体を溶出させることによって、一価結合を二価結合と区別した。溶液中のカオトロピックイオン(チオシアネート)濃度を上昇させることによって、低アフィニティー結合(例えば、抗原に対するFabの一価結合)が最初に分裂するが、高アフィニティー結合(例えば、リガンドに対するIgGの二価結合)はそのまま残る。従って、チオシアネート濃度を上昇させることによって、二種類の結合を区別することができる。
【0164】
CTGF或いはCTGFペプチドの50mM 重炭酸バッファー(pH8.5)溶液(10μg/mL)でプレートをコートし(4℃、一晩)、ブロッカーカゼイン/TBSでブロックし(4℃、一晩)、次いで、抗体或いは対応するFabのブロッカーカゼイン/TBS溶液(100μg/mL)と共に撹拌しながら室温で一晩インキュベートした。次いで、プレートをチオシアネート(0-7.6M)の100mM リン酸バッファー(pH6.0)希釈液(1:1)と共に撹拌しながら室温で15分間インキュベートした後、アルカリホスファターゼ−マウス抗ヒト(Fab’)2抱合体(1:1000希釈)と共に室温で45分間インキュベートした。アルカリホスファターゼ基質の1M ジエタノールアミン、0.5mM MgCl2(pH9.8)溶液(1mg/mL;シグマ)を添加し、プレートを室温でインキュベートし、2分、10分、20分及び60分後に405nmでの吸光度を求めた。
【0165】
「アフィニティーインデックス」とは、初期吸光度の50%低下をもたらすカオトロピック剤(チオシアネート)の濃度である。本発明の典型的な抗体であるmAb1の場合、CTGFからのFabの解離についてのアフィニティーインデックスは0.46Mであり、CTGFからの無傷IgGの解離についてのアフィニティーインデックスは1.8Mであった(図3B)。このように、mAb1は抗原に対して主に二価的に結合し(アビディティー)、一価的に結合する抗体に比べてはるかにゆっくりと抗原から解離する。mAb1とエピトープ結合パラメータを共有する本発明の他の抗体は、同様に二価であってもよく、一価或いは多価であってもよい。本発明のいずれの抗体も、マニピュレーションによって、例えば、エピトープ結合部位を単一抗体構築物(例えば、トリボディ(tribody)等)に一体化することによって、アビディティーを改善することができる(例えば、シューンジャンズ(Schoonjans)ら(2000年)J Immunol 165:7050-7057参照)。
【0166】
4.4 交差反応性
非標識rhCTGFに代えて他の非標識競合体である、正常ラット腎臓(NRK)細胞由来のラットCTGFを用いた以外は、上述のラジオイムノアッセイ(実施例4.2)を用いて、本発明の抗体の交差反応性を求めた。NRK細胞をコンフルエントになるまで増殖させた後、培地を2ng/mLのTGF−β2、50μg/mLのヘパリン及び250μg/mLのBSAを含有する無血清培地に変更した。2日間の培養後、条件培地を回収し、遠沈して残骸を除去し、ヘパリン−セファロースビーズと共に(ビーズ懸濁液:培地、1/100(v/v))撹拌しながら4℃で2時間インキュベートした。次いで、得られた混合物を遠沈した。ビーズを回収し、PBSで洗浄した後、SDSバッファーに溶解した。
【0167】
非標識ラットCTGFの濃度を上昇させた場合の[125I]rhCTGFに対するmAb2の結合のスキャッチャードプロットを図4Aに示し、非標識ラットCTGFの濃度を上昇させた場合の[125I]rhCTGFに対するmAb1の結合のスキャッチャードプロットを図4Bに示す。図からも分かるように、mAb1はヒトCTGF及びラットCTGFの両方に結合する一方、mAb2はヒトCTGFには結合するがラットCTGFには結合しない。
【0168】
mAb1の場合、ラットCTGFとの競合についてのスキャッチャードプロット(図4B)においては、rhCTGFとの競合についてのプロット(図2B)と比べて勾配が小さく、見かけのアフィニティーが低く、また、見かけのBmaxが高い。従って、ラットCTGFは、mAb1への結合に対してヒトCTGFと競合し得るが、mAb1は、組換えラットCTGFよりも組換えヒトCTGFに対して高いアフィニティーを有する。mAb1はマウスCTGF及びサルCTGFとも交差反応する(データは図示せず)。他種由来のCTGFに対して好適なアフィニティーを示す抗体は、これらの種における障害の治療及び予防に用いることができる。例えば、イヌCTGFに対して好適なKdを示す本発明の抗体を用いて、イヌのCTGF関連障害を治療することも可能であろう。異種間アフィニティーを示す本発明の抗体(mAb1等)は、各種動物モデルのCTGF関連障害を研究する上でのリサーチツールとしても有用である。
【0169】
4.5 グリコシル化
上述のラジオイムノアッセイ(実施例4.2)を用いて、抗体グリコシル化の抗原結合アフィニティーへの影響を確認した。PBS、0.5M EDTA(pH8.0)において、N結合糖タンパク質からオリゴ糖を切断するペプチドN−グリコシダーゼF(PNGaseF)を用いて抗体mAb1を37℃で8日間処理した。インキュベーションの後、得られた反応溶液を直接用いるか、或いはプロテインA-SEPHAROSE FASTFLOWカラム(アマシャム・バイオサイエンス、ニュージャージー州ピスカタウェイ)上で分画し0.1M グリシン−HCl(pH2.5)で溶出させた。分画後の抗体回収率は約87%、内毒素レベルは0.30EU/mgであった。脱グリコシル化についてはSDS-PAGEで確認した。脱グリコシル化抗体のヒト組換えCTGFに対する結合活性は、実験誤差の範囲内でグリコシル化抗体の結合活性と同一であった。
【0170】
各種細胞は様々なグリコシル化パターンを形成するため、培養細胞或いは非相同種における組換えタンパク質(例えば、抗体)の産生によって非ネイティブのグリコシル化が生じ得る。活性に対して特定のグリコシル化を必要とするタンパク質もあり、グリコシル化の変化によって活性が低下する(例えば、抗体の場合、抗原に対するアフィニティーが低下する)。ある系(例えば、植物や鶏卵)におけるタンパク質産生の場合には、免疫原性であるグリコシル化パターンが形成され、このタンパク質をある用途に用いることができにくくなることもある。本発明の抗体は、グリコシル化体と非グリコシル化体とで同一の活性を示すことができるが、これにより、本発明がグリコシル化(特に、種特異的グリコシル化)の存在によって制限されないことが分かる。
【実施例5】
【0171】
実施例5.細胞遊走アッセイ
細胞遊走は、例えば、発達時や創傷治癒時の正常且つ重要な細胞イベントである。細胞遊走は、線維性病変の形成等の病態における因子でもあり、線維性病変から単離された細胞は、対応する正常細胞から得た細胞よりも走化性刺激物に対して敏感である。
【0172】
本発明の抗体をボイデンチャンバー法によって以下の通りに解析し、CTGF刺激による平滑筋細胞の走化性移動を阻害する能力について評価した。0.1%ウシ胎児血清(FCS)含有培地中のラット動脈平滑筋細胞(ASMC)をボイデンチャンバーの上部コンパートメントに添加し、300ng/mLのrhCTGF、10%FCS或いは0.1%FCSを含有する培地のみを下部コンパートメントに添加した。直径8μmの細孔を有するコラーゲン被覆フィルターによってチャンバーの上部と下部とを分割した。細胞を2〜3時間、フィルターに付着させ、また、フィルターを通過させた。その後、フィルターを除去し、フィルター上の細胞を固定、染色し、フィルターを通過した細胞をカウントした。300ng/mLのrhCTGFと共にインキュベートした場合、フィルターを通過した細胞の数は0.1%FCS対照の場合と比べて約5倍に増加した。CTGF刺激による遊走の増加は、複数の走化性因子を含む10%FCSで見られた走化性効果の約27%であった。
【0173】
本発明の抗体を上述のアッセイを用いて試験し、CTGF仲介による細胞遊走を阻害する能力について評価したが、その際、抗CTGF抗体(30或いは300mg/mL)或いはプールしたヒトIgGを更にチャンバー下部へ添加した。各アッセイの各試料において、3個の分割フィルターの各々から得た4領域(four fields)の細胞をカウントした。結果を表2に示す。
【0174】
【表2】

【0175】
表2から分かるように、mAb1によって規定されたエピトープ内でCTGFに結合する抗体は、CTGF仲介細胞遊走を用量依存的に阻害する。CTGF誘導遊走を繰り返し再現性よく阻害するこのエピトープ群の抗体は、試験した抗CTGF抗体のみであった。
【0176】
血管形成や軟骨形成、腫瘍形成等の各種プロセスには、細胞接着及び細胞遊走の変化が必要である。CTGFは細胞接着及び細胞遊走の両方に関連し、CTGFに対する抗体の、或る活性に対して他の活性とは差別的に影響を及ぼす能力によって、CTGF関連病態治療のための多様な治療剤が得られる。本発明によって提供される抗体は、CTGF活性の中和に関する差別的な活性を明示している。以下に例示するように、このような能力によって、この種の抗CTGF抗体の独特な治療可能性が得られる。
【実施例6】
【0177】
実施例6.肺障害
マウスへのブレオマイシン気管内(IT)注入は、肺線維化の研究や潜在的に望ましい抗線維化剤のスクリーニングにおいて広く用いられているモデル系である。本発明の抗体をワン(Wang)ら(2000年)Biochem Pharmacol 60:1949-1958に記載の方法を用いて以下の通りに試験し、ブレオマイシン誘導肺線維化をin vivoで抑制する能力について評価した。
【0178】
雄性C57BL/6マウスをランダムに二群に分割した。マウスをイソフルオランで麻酔した後、気管内注入によってブレオマイシンの0.9%生理食塩水溶液(0.1ユニット/50μL/マウス)或いは0.9%生理食塩水のみを単回投与した。直ちに各群を分割、処理した後、1日おきに1回、生理食塩水或いは抗体を腹腔内(IP)投与した(合計で7回投与)。IT注入14日後、マウスを麻酔下で下行腹部大動脈からの放血により安楽死させ、肺組織を回収した。
【0179】
内部標準として3,4−デヒドロプロリンの代わりにL−アゼチジン2−カルボン酸(アルドリッチ)を用いた以外は、パルメリーニ(Palmerini)ら(1985年;J Chromatogr 339:285-292)の方法によってヒドロキシプロリン及びプロリンのレベルを測定することにより肺コラーゲン含量を解析した。即ち、組織試料を6N HCl中105℃で22時間加水分解した。試料のプレカラム誘導体化をo−フタルアルデヒドに続いて4−クロロ−7−ニトロベンゾフラン(アルドリッチ)を用いて行い、プロリン及びヒドロキシプロリンの蛍光付加体を形成した。得られた蛍光付加体を逆相HPLCによって分離した後、蛍光検出を行った。
【0180】
図5は、ブレオマイシン処理後の肺線維化を抑制する能力について比較した、生理食塩水(SA)、本発明の典型的な抗体であるmAb1、及びCTGF特異的抗体のプール(AbsJ)の治療的投与の結果を示す。図5Aから分かるように、ブレオマイシン処理(BL+SA)を行うと、肺ヒドロキシプロリン含量が対照群(SA+SA;220±15μg/肺)を168%超えて有意に増加した。しかし、続けて行った、プールした本発明の抗体による処理(BL+AbsJ)の結果、ブレオマイシンのみによる処理と比べて肺ヒドロキシプロリンは60%減少した。同様に、続けて行ったmAb1による処理(BL+mAb1)の結果、ブレオマイシンのみによる処理と比べて肺ヒドロキシプロリンは70%減少した。
【0181】
マウス肺の組織学的検査によって対照群の正常な肺実質組織が示された(図示せず)。しかし、ブレオマイシン処理の肺においては、線維化領域の増加がはっきりと分かる(図5B;矢印)。ブレオマイシン処理後に本発明の抗体を治療的に投与した場合、まだ軽度の間質性線維化を示す葉もあったが、線維化が明らかに抑制されたことがわかる(図5C)。従って、本発明の抗体を特発性肺線維症(IPF)等の肺障害の危険性がある患者或いは罹患している患者に投与すると、治療的有用性が得られる。
【実施例7】
【0182】
実施例7.腎障害
7.1.腎不全
尿細管間質性線維化は、末期腎不全への進行を伴う数種の腎疾患の一主要素である(シャーマ(Sharma)ら(1993年)Kidney Int 44:774-788)。腎機能低下及び間質性線維化の増加によって特徴付けられる片側尿管閉塞(UUO)は、尿細管間質性損傷や尿細管間質性線維化を誘導する実験モデルとして用いられている(ファーン(Fern)ら(1999年)J Clin Invest 103:39-46)。
【0183】
マウスをイソフルオランで麻酔した後、モリヤマらによって記載された方法(1998年;Kidney Int 54:110-119)に従って左尿管の結さつを行った。術後直ちにマウスを処理した後、1日おきに1回、生理食塩水或いは抗体を腹腔内(IP)投与した(合計で7回投与)。UUO14日後、マウスを麻酔し、下行腹部大動脈から放血致死した。右腎及び左腎に対し別々に被膜剥離を施し、計量した。各腎臓の半分を組織像(三重染色)用に10%ホルマリンで固定し、もう半分は計量し、ヒドロキシプロリン測定用に−70℃で保存した。ヒドロキシプロリン及びプロリンは上述のように測定した。
【0184】
図6Aから分かるように、各マウスの非閉塞右腎に対する閉塞左腎のヒドロキシプロリン/プロリン比によって測定される腎コラーゲン含量は、UUOによって約4倍に増加した。本発明の抗体(mAb1)による処理によって、閉塞腎臓における線維化の統計的に有意な用量依存的抑制がもたられた(図6A)。しかし、CTGFのC末端エピトープに結合する抗体(mAb3)は有意な効果を示さなかった。UUO腎臓の三重染色によってコラーゲン蓄積が増加した領域が確認される(図6B、矢印)が、本発明の抗体で処理することによって、閉塞腎臓におけるコラーゲン染色が大幅に減少することがわかる(図6C)。
【0185】
或いは、腎線維化は、進行性腎不全のラット残存腎臓モデルで検討することができる。このモデルは、2/3片側腎摘出と反対側腎全摘出(5/6腎全摘)を伴い、残存腎臓の慢性腎不全に伴う変性実質性変化を誘導し、ラットは尿毒性になり、顕著なタンパク尿や糸球体腎炎、間質性線維化、尿細管萎縮を示す(例えば、フラツィアー(Frazier)ら(2000年)Vet Pathol 37:328-335;及びガンディー(Gandhi)ら(1998年)Kidney Int 54:1157-1165参照)。
【0186】
5/6腎摘出はフラツィアー(Frazier)ら(2000年、Vet Pathol 37:328-335)に従って行った。5週令の雄性Sprague-Dawleyラット(ハーラン、インディアナ州インディアナポリス)(平均120g)をケタミン及びキシラジンで麻酔し、左腎の頭側1/3と尾側1/3を切開した。ガーゼスポンジを簡単に当てて止血し、腹部を生理食塩水、0.2mLのブトルフェノールですすいだ後、ラットを縫合した。最初の手術から1週間後、反対側の腎臓を完全に摘出した。
【0187】
ラットを生理食塩水処理群と抗体処理群とに分け、5/6腎摘出から2週間後に処理を開始した。生理食塩水或いは抗体(用量:5mg/kg)のIP注射による投与(各0.5mL)は3日ごとに15日間行った(合計で5回注射)。血液試料及び尿試料を週に1回、任意の腎摘出ラットから採取して腎疾患の進行を追跡し、腎機能不全と組織学的変化とを関連付けた。処理開始の18日後及び28日後に腎線維化解析、尿検査及び血清化学アッセイの結果を各群間で比較した。
【0188】
腎線維化については、病理学者2名が独立して盲検的に評価した。各腎臓から得た3個の組織切片について、3種類の形態染色、即ち、ヘマトキシリン/エオシン、マッソントリクローム及びピクリン酸−シリウスレッドを用いて試験した。更に、凍結切片に対して免疫組織化学的解析(immunohistochemistry)を行い、腎臓の各位置におけるコラーゲン沈着のタイプを評価した。定量的コラーゲン評価(ヒドロキシプロリン/プロリン比)を行い、安楽死時に採取した試料の尿検査及び血清化学アッセイによって腎機能を評価した。
【0189】
組織学的には、未処理の残存腎臓と抗体処理した残存腎臓との間で線維化に中程度の差が認められた(図7)。処理の3日後に行った盲検的個人評価の結果、生理食塩水処理群では平均線維化スコアが12.6であったのに対し、抗体処理群では10.7であった(p<0.05)。抗体処理ラットと生理食塩水処理ラットとの間での組織学的線維化グレードの統計的に有意な差が処理の14日後でも維持されており、生理食塩水処理群では平均線維化スコアが16.9であったのに対し、抗体処理群では14.4であった(p<0.05)。コラーゲンの定量的ヒドロキシプロリン含量解析によっても、生理食塩水処理群に対し抗体処理群で線維化が減少する傾向が示されたが、その差は統計的に有意ではなかった。
【0190】
処理群間には定性的な差も認められた。抗体処理群におけるコラーゲン沈着の大部分は皮質延髄間質や骨髄間質に限定されたが、生理食塩水処理ラットにおける線維化は多発性であり、皮質や骨髄全体に亘って広く分布した。最も顕著な組織病理学的な差は糸球体線維化の量にあった。生理食塩水処理群の多くは、被膜周囲線維化や肥厚ボーマン膜、癒着、糸球体退化を伴う中度から重度の糸球体硬化症を有していた。このような変化は、抗体処理ラット腎臓を含む他の群においては最小度から軽度であった。コラーゲン蓄積は、マッソントリクローム染色及びピクリン酸−シリウスレッド染色によって可視化した。
【0191】
進行性腎不全の両方のモデルにおいて、本発明の抗体は組織の分解を抑制し、腎機能を改善した。従って、本発明の抗体を糸球体腎炎、IgA腎症、糸球体硬化症、及び毒素等に起因する腎不全や細管破壊等の腎障害の危険性がある患者或いは罹患している患者に投与すると、治療的有用性が得られる。
【0192】
7.2.糖尿病性腎症
糖尿病は複数の器官(腎臓や心臓、眼が挙げられるが、これらに限定されない)の不全を引き起こす。糖尿病性器官不全の病的進行の一主要素は線維化である。糖尿病性腎症の確立されたモデルとしては、レプチンレセプター(Ob-R;db遺伝子でコードされる)において機能喪失変異を有するマウスが挙げられる。db/dbマウスとヒト糖尿病性腎症との間に共通する重要な特徴としては、腎臓肥大や糸球体増大、タンパク尿、メサンギウム基質の増加が挙げられる。
【0193】
本発明の抗体について、糖尿病性腎症のdb/dbマウスモデルを用いて以下の通りに試験した。8週令のdb/dbマウス(ハーラン、インディアナ州インディアナポリス)及びそのヘテロ接合体db/+同腹子に対し、本発明の抗体(CLN1;後述参照)或いは対照ヒトIgG(cIgG)を腹腔内注射して処理した。全てのマウスにおいて、初回の抗体注射は300μgであり、その後、100μgの投与を週に3回60日間行った。血液試料の採取と体重測定については、処理期間の初めに行い、更に処理期間中で定期的に行った。摂食量についても記録した。
【0194】
11週までには、糖尿病性(db/db)マウスと非糖尿病性(db/+)マウスとの間に体重、血糖値及び摂食量に関して明確な差が現れた。本発明の抗体或いは対照抗体による処理の場合、これらのパラメータのいずれに対しても有意に影響を及ぼさなかった。しかし、腎機能に関する各種測定値には糖尿病性マウスと非糖尿病性マウスとの間で明確な差が示された。表3から分かるように、糖尿病性マウスの場合、非糖尿病性マウスに比べて、腎臓重量、クレアチニンクリアランス及びアルブミン排泄率(AER)が上昇した。しかし、本発明の抗体で処理した糖尿病性マウスにおいては、これらのパラメータは全て標準値であった。データは全て、平均±SEMで示す。各群のマウス数(n)は9〜15であった。
【0195】
【表3】

【0196】
CTGFは高グルコースによって誘導され、損傷による組織内でのECM産生等の各種活性(例えば、糖化最終産物(AGE)形成や蓄積等に起因する活性)を仲介するため、糖尿病に伴う病状(糖尿病性腎症等)は本発明の抗体を用いて予防することができる。
【実施例8】
【0197】
実施例8.眼の障害
CTGF発現の増加は、増殖性硝子体網膜症(PVR)や黄斑変性、糖尿病性網膜症等の各種眼障害と関連付けられている(例えば、ヒントン(Hinton)ら(2002年)Eye 16:422-428;ヘ(He)ら(2003年)Arch Ophthalmol 121:1283-1288;及びティケリス(Tikellis)ら(2004年)Endocrinology 145:860-866参照)。また、CTGFの役割や抗CTGF治療法の使用が提案されている(国際公開WO03/049773号参照)。本発明の抗体は、このような眼の障害に用いる抗CTGF治療のユニークで治療的に有効なクラスを形成する。本発明の抗体が眼の障害の合併症を改善する能力について、以下の通りに眼疾患モデルにて試験した。
【0198】
8.1.糖尿病性網膜症
糖尿病の動物モデル(例えば、db/dbマウス)については、上の実施例7.2に記載した。このようなモデルのいずれを用いても、本発明の抗体を用いた糖尿病性網膜症治療の有効性を実証することができる。インスリン分泌膵島細胞の従来知られた毒素であるストレプトゾトシン(STZ)を動物に注射した糖尿病性網膜症の特定モデルを次のように用意する。
【0199】
ストレプトゾトシン(STZ)をラット(例えば、Long-EvansラットやSprague-Dawleyラット等)に、例えば腹腔内注射して(例えば、約60〜85mg/kg体重)糖尿病を誘発する。生存期間を延ばすため、STZ注射後、10%砂糖水を24時間、及び/又は一日当り2〜4ユニットのインスリンをラットに与えてもよい。体重や尿中アルブミン排泄率、血糖、糖化ヘモグロビン、血圧等の各種因子を、例えば、4週間後、8週間後及び12週間後に測定する。バッファーのみを注射した対照ラットを並行して追跡する。STZ処理ラット及び対照ラットの半数を、本発明の抗体の注射(例えば、静脈内注射や腹腔内注射、眼内注射)によって更に処理する。試験中、ラットが食物や水を自由に摂取できるようにする。12週間でラットを屠殺し、眼を回収して組織学的変化を調べる。
【0200】
未処理対照ラットに対して抗体処理ラットで病理学的変化が抑制された場合には、糖尿病性網膜症での治療有効性が示される。CTGFは高グルコースによって誘導され、損傷による組織内でのECM産生等の各種活性(例えば、糖化最終産物(AGE)形成や蓄積等に起因する活性)を仲介するため、糖尿病に伴う病状(糖尿病性網膜症)は抗CTGF治療剤(therapeutics)を用いて予防することができる(例えば、国際公開WO03/049773号参照)。本発明の抗体は、眼の障害(例えば、糖尿病性網膜症)に用いる抗CTGF治療剤のユニークで治療的に有効なクラスを示す。
【0201】
8.2.PVR
ウサギ網膜色素上皮(RPE)細胞を成体ウサギ眼から単離し、10%ウシ胎児血清を添加したDMEM内で培養する。サブコンフルエントな培養物(通常、2〜3継代)を以降の注射全てに用いる。注射時には、培養RPE細胞を回収し、PBSに懸濁させて約2.5×106細胞/mLとする。25ゲージ針を用いて各レシピエントウサギ眼から約0.2mLの房水を除去した後、視神経円板直上の縁後方3mmの箇所に27ゲージ針を用いてRPE細胞を強膜経由で注射する。RPE細胞注射後、0.1mLのPDGF BB(50〜150ng)PBS溶液、CTGF(200〜400ng)PBS溶液、或いはPDGF及びCTGFのPBS溶液を同一の注射部位経由で注射する。各ウサギの非注射眼を対照とする。必要に応じ、最初の注射後7日目及び/又は14日目にCTGFを更に注射してもよい。ウサギの半数を、本発明の抗体の注射(例えば、静脈内注射や腹腔内注射、眼内注射)によって更に処理する。投与部位に応じて、抗体投与を毎日行ってもよく、或いは投与回数をより少なくしてもよい(例えば、7日目、10日目、14日目等に投与)。
【0202】
間接検眼鏡法によってウサギを検査し、ファステンバーグ(Fastenberg)により記載されたパラメータ(ファステンバーグ(Fastenberg)ら(1982年)Am J Ophthalmol 93:565-572)に従って分類されるPVRの進行と程度をモニターする。次いで、ウサギを犠牲にし、組織学的検査によって眼を解析し、膜形成の程度と線維化の両方について評価する。更に、網膜及び線維膜を回収してコラーゲン含有量を測定してもよい。
【0203】
或いは、上述のモデルとフレンゼル(Frenzel)らによる方法(1998年、Invest Ophthamol Vis Sci 39:2157-2164)を用い、ディスパーゼの網膜下注射によってウサギの眼にPVRを誘発させる。50mL(0.05U)のディスパーゼ(シグマケミカル社)PBS溶液を用いて網膜下小疱を形成する。ウサギの半数を、本発明の抗体の注射(例えば、静脈内注射や腹腔内注射、眼内注射)によって更に処理する。網膜剥離の誘発については、手術1週間後には、本発明の抗体を投与していないディスパーゼ注射ウサギの約75%に見られ、手術2週間後にはこれらのウサギの約100%に見られる。また、網膜上膜を検査して線維化の程度を評価する。
【0204】
未処理対照ウサギに対して抗体処理ウサギで病理学的変化が抑制された場合には、PVRでの治療有効性が示される。CTGFはPVRモデルの組織損傷と関連付けられているため、抗CTGF剤は、このような障害に用いる治療剤(therapeutics)として提案されている(例えば、国際公開WO03/049773号参照)。本発明の抗体は、眼の障害(例えば、PVR)に用いる抗CTGF治療剤のユニークで治療的に有効なクラスを示す。
【実施例9】
【0205】
実施例9.硬化症
硬化症は一般に、皮膚におけるびまん性線維化や変性変化、血管異常(強皮症)、また、関節や内臓(特に食道、消化管、肺、心臓及び腎臓)におけるこのような病態によって特徴付けられる。
【0206】
9.1.限局性肉芽腫誘導
新生マウスにおいては、ヒト由来TGF−β2及びCTGFを組合せて連続7日間に亘り皮下注射によって投与すると、持続的な限局性線維症が発症する(モリら(1999年)J Cell Physiol 181:153-159;シノザキら(1997年)Biochem Biophys Res Commun 237:292-297)。
【0207】
出生1日後、マウスを3処理群に分割し、40μLの1%マウス血清アルブミン(MSA)、TGF−β2(800ng)含有PBS、CTGF(400ng)含有PBS、或いはTGF−β2とCTGFとを含有するPBSを連続7日間、皮下注射によって肩甲領域に投与した。TGF−β2とCTGFとの組合せ投与群を更に2群に分割し、その内の一方の群には更に本発明の抗体であるmAb1を40μg投与した。11日目にマウスを犠牲にし、注射部位切片を処理し、マッソントリクロームで染色して組織学的評価を行った。得られたスライドをランダム化し、科学者3名によって盲検的に定性評価を行った。線維化或いは結合組織拡大の程度に基づいて0(変化なし)〜4(組織線維化)の範囲で採点した(図8参照)。次いで、個々の評価者から得た各スライドについての累積スコアを計算し、ANOVA検定によって上述の群間で平均値を比較した。
【0208】
媒体対照、TGF−β2、及びTGF−β2とCTGFとの組合せについての群平均スコアはそれぞれ、0.75、6.83及び9.00であった(表4)。
【0209】
【表4】

【0210】
抗体処理の場合の群平均スコアは6.17であり、対応するTGF−β2とCTGFとの組合せの場合に比べて統計的に有意な低下が見られた(p<0.05)が、C末端指向性(C-terminally directed)非中和抗CTGF抗体であるmAb3による処理では線維化が抑制されなかった。このように、本発明の抗体は、組織への局所的硬化性損傷を抑制する上で特に効果的である。
【0211】
9.2.新生全身性線維化
新生マウスを複数の群に分割し、TGFβ(300μg/kg/日)、CTGF(300μg/kg/日)、TGFβとCTGFとの組合せ(各300μg/kg/日)、及びTGFβとCTGFとの組合せ(この成長因子処理の30分前に本発明の抗体mAb1(5mg/kg)のIP投与を実施)を腹腔内注射によって連続21日間、毎日投与を行った。処理期間中、子マウスは母親の下にとどまっていた。21日目にマウスを犠牲にし、主要器官を摘出し、総プロリン及びヒドロキシプロリンを上述のように測定した。
【0212】
TGFβを毎日注射することによって軽度の全身性線維化が誘導されたが、CTGFのみの場合には全く応答がなかった。TGFβとCTGFとの組合せの場合には、肝臓や肺、心臓、消化管、横隔膜及び腎臓等の数種の器官における過度のコラーゲン沈着に伴う全身線維化が誘導され(図10)、広汎性腸管癒着のが誘導され、死亡率が25%増加した。成長因子処理と共に本発明の抗体を投与することによって、器官の線維化の抑制、予防(図10)及び腸管癒着の抑制、予防が見られ、死亡が予防された。このように、本発明の抗体は、全身投与すると、各種組織や器官への硬化性損傷を抑制する上でも効果的である。実施例10.1及び10.2に示した結果から、本発明の抗体は、局所或いは全身投与すると、硬化性病態の処置に対して治療的に有効であることがはっきりと分かる。
【0213】
9.3.強皮症
本発明の抗体を用いて強皮症に関与する線維化を改善することができる。強皮症における皮膚疾患の程度や重症度を測定する方法については、当該技術分野内で知られている(例えば、ロッドナン(RoDNAn)ら(1979年)Arthritis Rheum 22:130-40;アガシ(Aghassi)ら(1995年)Arch Dermatol 131:1160-1166;ブレナン(Brennan)ら(1982年)Br J Rheumatol 31:457-460;カハレー(Kahaleh)ら(1986年)Clin Exp Rheumatol 4:367-369;ファランガ(Falanga)及びブカロ(Bucalo)(1993年)J Am Acad Derm 29:47-51;セイガー(Seyger)ら(1997年)J Am Acad Derm 37:793-796;セイガー(Seyger)ら(1998年)J Am Acad Dermatol 39:220-225;ブラック(Black)(1969年)Br J Dermatol 81:661-666;バロウ(Ballou)ら(1990年)J Rheumatol 17:790-794;及びエノモトら(1996年)J Am Acad Dermatol 35:381-387参照)。
【0214】
例えば、0.1単位解像度を有する標準化デュロメータユニット内のType OO Rex DD-3デジタルデュロメータ(レックスゲージ社、イリノイ州バッファローグローブ)を用いて、変法ロッドナン(RoDNAn)スキンスコアにより皮膚硬度を測定する。デュロメータ測定は、ロッドナンスキンスコアによって測定した同じ皮膚部位全てで行う。スキンスコアとデュロメータ読み取りについては、本発明の抗体投与前にはベースラインスクリーニングで行い、抗体投与及びフォローアップ期間中は3ヶ月毎に行う。各測定は4回繰り返し、級内相関係数の分散計算の構造化分析を用いて、部位に関連する反復バリアビリティーと患者のバリアビリティーとの間の関係を求める(フライス(Fleiss)(1971年)Psychol Bull 76:378-382)。また、相関技法を用い、全体スコアと部分群スコアの両方に関して、任意の時点におけるスキンスコアとデュロメータスコアとの一致についての評価も行う。また、遅延相関分析(例えば、初期のデュロメータスコアと抗体処理3ヶ月時t或いは抗体処理6ヶ月時tでのスキンスコアとを関連付ける)も行う。疾患活動性や機能状態情報(コラーゲン合成データ(PIIINP測定値)等)も採取することができる。上述の方法のいずれかを用いて測定される強皮症の症状及び/又は合併症の抑制によって、本発明の抗体の治療的有効性が分かる。
【実施例10】
【0215】
実施例10.骨関節炎
本発明の抗体を以下のモデルの一種において試験し、骨関節炎での治療有効性を実証する。以下の実施例の場合、用いる抗体の濃度は約0.015〜15mg抗体/kg被験体体重であり、例えば、用量は約5mg抗体/kg体重が適切であると考えられる。
【0216】
動物、例えば、12週令の雄性C57BL/6マウスを標準ケージに収容し、標準食餌と共に水道水を自由に摂取させる。
【0217】
10.1 マウス膝関節へのAdCTGFの関節内注射
ADEASYシステム(キューバイオジーン、カリフォルニア州カールズバッド)を該メーカー提供の手順に従って用い、CTGF含有アデノウィルス発現ベクター構築物(AdCTGF)を調製する。即ち、標準的な分子クローニング技法を用いて、全長ヒトCTGFをコードするポリヌクレオチドをPSHUTTLE-CMVプラスミド(キューバイオジーン)に挿入する。次いで、得られたpShuttle-CMV-CTGF構築物を直線化し、エレクトロポレーションによって、PADEASY-1プラスミド(キューバイオジーン)と共にコンピテント大腸菌BJ-5183細胞にコトランスフェクトする。AdCTGFの増幅及び精製は、キム(Kim)らによって記載された方法(2001年、J Biol Chem 276:38781-38786)を用いて行う。また、空のアデノウィルスベクターを対照として用いる。プラーク形成単位(1.0-2.1×1010/mL)及びウィルス粒子(0.9-1.5×1012/mL)はAdCTGFと対照ウィルスとでは同様であった。
【0218】
AdCTGF或いは対照アデノウィルス(1×107プラーク形成単位)を関節内注射し、本発明の抗体を関節内注射、静脈内注射、腹腔内注射或いは皮下注射によって投与する。抗体はアデノウィルス投与と同時に注射してもよく、或いはAdCTGFの注射前か注射後に治療を始めてもよい。対照アデノウィルスを投与したマウスに対しても同様に、抗CTGF抗体或いは対照抗体を注射する。非注射膝関節は抗体作用についての対照として用いる。
【0219】
AdCTGF注射後、様々な日数(例えば、1、3、7、14及び/又は28日)で膝関節を単離し、EDTA/ポリビニルピロリドンで14日間脱灰し、ストゥープ(Stoop)ら(2001年、Osteoarthritis Cartilage 9:308-315)に記載の方法を用いて−20℃で保存する。関節の組織像を解析し、滑膜の厚さ及びプロテオグリカンの枯渇を評価する。in situハイブリダイゼーション及び免疫組織化学的技法を行い、CTGF発現と共にコラーゲン(タイプI及び/又はIII)等の他の因子の発現を確認する。滑液を回収し、CTGFやメタロプロテイナーゼ等のレベルを測定する。抗CTGF抗体を用いた治療の有効性については、AdCTGFを注射し対照抗体で処理したマウスと比べて骨関節炎関連パラメータが減少していることによって確認する。
【0220】
10.2 マウス膝関節へのAdTGFβの関節内注射
或いは、バッカー(Bakker)ら(2001年、Osteoarthritis CartilAGE 9:128-136)に記載の骨関節炎の動物モデルにて抗体を試験することができる。例えば、1×107 pfuのTGFβ発現アデノウィルス構築物(AdTGFβ)の関節内注射と同時に、或いは注射後か注射前に本発明の抗体或いは対照抗体を注射することができる。非注射膝関節は抗体作用についての対照として用いる。様々な日(例えば、3日目や7日目、14日目等)に、各群のマウスを犠牲にし、組織を単離して処理する。関節の組織像を解析し、滑膜の厚さやプロテオグリカンの枯渇、骨棘形成等を評価する。in situハイブリダイゼーション及び免疫組織化学的技法を行い、CTGF発現と共にコラーゲン(タイプI及び/又はIII)等の他の因子の発現を確認する。滑液を回収し、TGFβやCTGF、メタロプロテイナーゼ等のレベルを測定する。本発明の抗体を用いた治療の有効性については、AdTGFβを注射し対照抗体で処理したマウスと比べて骨関節炎関連パラメータが減少していることによって確認する。
【0221】
10.3 マウス膝関節へのパパインの関節内注射
あるいは、ファン・デア・クラーン(van der Kraan)ら(1989年、Am J Pathol 135:1001-1014)に記載の方法を用いて抗体を試験することができる。パパインの関節内注射によって、骨棘形成、線維化及び,関節軟骨からのプロテオグリカンの枯渇が誘導される。パパインモデルは、1ユニットのパパイン溶液(シグマ、ミズーリ州セントルイス)をマウスの右膝関節に注射することによって開始した。各マウスの左膝関節は内部対照とする。パパイン(0.5%/膝)の関節内注射と同時に、或いは注射後か注射前に本発明の抗体を関節内注射、静脈内注射、腹腔内注射或いは皮下注射によって投与する。異なる日(例えば、3日目や7日目、14日目等)に、各群のマウスを犠牲にし、組織を単離して処理する。関節の組織像を解析し、滑膜の厚さやプロテオグリカンの枯渇、骨棘形成等を評価する。in situハイブリダイゼーション及び免疫組織化学的技法を行い、CTGF発現と共にコラーゲン(タイプI及び/又はIII)等の他の因子の発現を確認する。滑液を回収し、TGFβやCTGF、メタロプロテイナーゼ等のレベルを測定する。抗CTGF抗体を用いた治療の有効性については、パパインを注射し対照抗体で処理したマウスと比較して骨関節炎関連パラメータが減少していることによって確認する。
【実施例11】
【0222】
実施例11.クローニング及び発現
以下の実施例では本発明のある特定の抗体のクローニング及び発現について説明するが、この方法は一般に本明細書にて記載及び請求する抗体全てに適用できる。
【0223】
本発明の典型的な抗体であるmAb1は先ず、ハイブリドーマ細胞株(8C12-F10;実施例3に記載のように調製)によって分泌される複合ヒト抗体の一部として同定された。
【0224】
11.1 mAb1重鎖のクローニング及び配列決定
MICRO-FAST TRACKキット(インビトロゲン)を該メーカー提供のプロトコルに従って用い、8C12-F10細胞培養物からメッセンジャーRNAを単離した。次いで、cDNA細胞周期キット(インビトロゲン)を該メーカー提供のプロトコルに従って用いると共に、次の重鎖アンチセンスプライマー:AB90(TGCCAGGGGGAAGACCGATGG;配列番号3)及びm19 H1504R(GCTGGGCGCCCGGGAAGTATGTA;配列番号4)の一方を用いたセカンドストランド合成によって、2種類のcDNAプールを産生した。
【0225】
各コード領域の5’末端をコードする保存分泌シグナル配列と成熟免疫グロブリンの先頭をコードするフレームワーク領域1配列とに対応するプライマーを含む一連のV領域プライマーの一種とAB90プライマーとを用い、AB90刺激cDNAプールのPCR増幅によって重鎖可変領域配列をクローン化した。Pfu DNAポリメラーゼ(ストラタジーン)を該メーカー推奨プロトコルに従って用い、次のバリエーションを用いた。反応は通常、cDNA(1μL)、フォワードプライマー及びリバースプライマー(各0.75μM)、dNTP(各200μM)、及びPfuポリメラーゼ(1μL)(2.5単位/μL)を含有する全量50μLで行った。カウントダウンサーマルサイクラープログラムを用い、酵素添加前に94℃で2分間、初期インキュベーションを行った。引き続き、次のサイクルパラメータを用いた(94℃×45秒、65℃×45秒及び72℃×1分を10サイクル、94℃×45秒、55℃×45秒及び72℃×1分を30サイクル、72℃×10分を1サイクル)。
【0226】
VH3ファミリー重鎖V領域に結合する重鎖シグナル配列プライマーの一種であるAB87(ATGGAGTTTGGRCTGAGCTG;配列番号5)のみが重要な産物を産生した。453ヌクレオチドPCR産物をPCR BLUNT II-TOPOベクター(インビトロゲン)にクローン化し、クローンをスクリーニングして正確なインサートサイズを求め、PCR産物に対応する3個のクローンの配列決定を行った。3個のクローン全てに対し同一の配列が得られた。
【0227】
重鎖定常領域配列及びUTR領域配列をm19 H1504R刺激cDNAプールのPCR増幅によってクローン化した。センスプライマーVH3-33 29-51F(CGGCGGTGTTTCCATTCGGTGAT;配列番号6)と重鎖定常領域アンチセンスプライマーm19 H553R(GGGCGCCTGAGTTCCACGACAC;配列番号7)とを用いて重鎖セグメントの5’末端に対応する601ヌクレオチドPCR断片を増幅した。トポイソメラーゼ仲介クローニングを用い、PCR産物のPCR-BLUNT IIベクター(インビトロゲン)へのクローン化を該メーカーの指示通りに行った後、インサートの配列決定を行った。同様に、センスプライマーm19 H439F(GTCTTCCCCCTGGCACCCTCCTC;配列番号8)とアンチセンスプライマーm19 H943R(CCCGCGGCTTTGTCTTGGCATTAT;配列番号9)とを用いて505ヌクレオチドPCR断片を増幅し、更に、センスプライマーm19 H1002F(CTGGCTGAATGGCAAGGAGTA;配列番号10)とアンチセンスプライマーm19 H1504Rとを用いて503ヌクレオチドPCR断片を増幅した。これらの断片は別々にPCR-BLUNT IIベクター(インビトロゲン)にクローン化し、上述のように配列決定した。センスプライマーm19 H645F(GGGCACCCAGACCTACATC;配列番号11)とアンチセンスプライマーm19 H1230R(CTCCGGCTGCCCATTGCTCTCC;配列番号12)とを用いて4番目の重鎖586ヌクレオチドPCR断片を増幅し、直接配列決定した。
【0228】
図11Aは、mAb1重鎖(配列番号14)をコードする全長ヌクレオチド配列(配列番号13)を提供するクローン化PCR断片のアラインメントを示す図である。重鎖可変領域のアミノ酸配列は、VH3生殖細胞遺伝子DP-44と最も酷似している。どのDセグメントが用いられたか見分けることはできなかったが、mAb1の配列はDH4ファミリーに最も酷似している。JH領域は、生殖細胞系JH4及びJH5と最も密接にマッチする。mAb1の重鎖定常領域はGenBank受託番号BC016381と一致し、Glm(3)のアロタイプであることが示された。
【0229】
11.2 mAb1軽鎖のクローニング及び配列決定
MICRO-FAST TRACKキット(インビトロゲン)を該メーカー提供のプロトコルに従って用い、8C12-F10細胞培養物からメッセンジャーRNAを単離した。次いで、cDNA細胞周期キット(インビトロゲン)を該メーカー提供のプロトコルに従って用いると共に、次の軽鎖アンチセンスcDNAプライマー:AB16(CGGGAAGATGAAGACAGATG;配列番号15)及びCk-760R(AAGGATGGGAGGGGGTCAGG;配列番号16)の一方を用いたセカンドストランド合成によって、2種類のcDNAプールを産生した。
【0230】
各コード領域の5’末端をコードする保存分泌シグナル配列と成熟免疫グロブリンの先頭をコードするフレームワーク領域1配列とに対応するプライマーを含む一連のV領域プライマーの一種とAB16プライマーとを用い、AB16刺激cDNAプールのPCR増幅によって軽鎖可変領域配列をクローン化した。Pfu DNAポリメラーゼ(ストラタジーン)を該メーカー推奨プロトコルに従って用い、上述のバリエーション及びサイクルパラメータを用いた。
【0231】
VK1ファミリー重鎖V領域に結合する軽鎖シグナル配列プライマーの一種であるAB123(CCCGCTCAGCTCCTGGGGCTCCTG;配列番号17)のみが重要な産物を産生した。408ヌクレオチドPCR産物をPCR BLUNT II-TOPOベクター(インビトロゲン)にクローン化し、クローンをスクリーニングして正確なインサートサイズを求め、PCR産物に対応する3個のクローンの配列決定を行った。3個のクローン全てに対し同一の配列が得られた。
【0232】
軽鎖定常領域配列をCk-760R刺激cDNAプールのPCR増幅によってクローン化した。軽鎖センスプライマーL15 22m(TCAGWCYCAGTCAGGACACAGC;配列番号18)とCk-760Rとを用いて軽鎖の全コード配列及び5'UTR領域を増幅した。788ヌクレオチド断片をPCR BLUNT IIベクター(インビトロゲン)にクローン化し、配列決定を行った。得られたプラスミドを41m6と称した。
【0233】
図11Bは、mAb1軽鎖(配列番号20)をコードする全長ヌクレオチド配列(配列番号19)を提供するクローン化PCR断片のアラインメントを示す図である。軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、生殖細胞系VkL15及びJk2のヌクレオチド配列でコードされる領域と最も密接にマッチする。mAb1の軽鎖定常領域は、報告されているヒト生殖細胞系κ軽鎖免疫グロブリン遺伝子配列(ホワイトハースト(Whitehurst)ら(1992年)Nucleic Acids Res 20:4929-4930)と同一である。
【0234】
11.3 mAb1重鎖及び軽鎖発現構築物の産生
2段階のオーバーラップ伸長PCRによって、図11Aに示した上述の重鎖PCR産物から全長mAb1重鎖cDNAを産生した。2種類の5’PCR産物をPCRオーバーラップ伸長反応にて末端プライマーVH3-33 29-51F及びm19 H943Rと併用し、単一991ヌクレオチド断片を産生した。同様に、2種類の3’PCR産物をPCRオーバーラップ伸長反応にて末端プライマーVH3-33 29-51F及びm19 H943Rと併用し、860ヌクレオチド断片を産生した。次いで、これら2種類のPCR伸長反応産物をゲル精製し、末端プライマーVH3-33 29-51F及びm19 H1504Rを用いて共に増幅して、全長mAb1重鎖の1407ヌクレオチドcDNA(配列番号13の残基441〜1847)コード配列を産生した。
【0235】
次いで、重鎖cDNAをPCR-BLUNT II TOPOベクター(インビトロゲン)にクローン化し、プラスミド43a4を産生した。次いで、BamHI及びXbaI制限エンドヌクレアーゼでプラスミド43a4を消化してmAb1重鎖コード領域をサブクローン化した後、切除したインサートを、BamHI及びNhe制限エンドヌクレアーゼで前消化したPCDNA5-FRT発現ベクター(インビトロゲン)に連結した。得られた発現プラスミド44a1のインサートの配列を確認した後、同様にPBK-CMVベクター(クロンテック)に逆方向でサブクローン化してプラスミド47a4を産生すると共に、pCEP4ベクター(インビトロゲン)由来のベクターであるpCEP-Puベクター(E.コーフェルト(Kohfeldt)、Max-Planck-Institut fur Biochemie)にサブクローン化してプラスミド49a1を産生した。
【0236】
全長mAb1軽鎖をコードする708ヌクレオチドcDNA(配列番号19の残基415〜1122)をHindIII及びXhoI制限エンドヌクレアーゼによって上述のプラスミド41m6から切除し、HindIII及びXhoI制限エンドヌクレアーゼで前消化したPCDNA5-FRTベクター(インビトロゲン)に連結して哺乳類発現プラスミド42b2を産生した。プラスミド42b2のインサートの配列を確認した後、同様にPBK-CMVベクター(クロンテック)に逆方向でサブクローン化してプラスミド47b3を産生すると共に、pCEP-Puベクター(E.コーフェルト(Kohfeldt)、Max-Planck-Institut fur Biochemie)にサブクローン化してプラスミド49b1を産生した。
【0237】
11.4 抗体鎖構築物のトランスフェクション及び発現
標準的な手順によってプラスミド44a1(mAb1重鎖)とプラスミド42b2(mAb1軽鎖)を別々にCOS7細胞にトランスフェクトすると共に、これらのプラスミドのコトランスフェクションも行った。条件培地をアッセイして実施例4(上掲)で述べた抗体の存在について確認を行った。上述の手順を用いたELISAによって測定されるCTGF結合活性を有するヒト抗体は、44a1と42b2をコトランスフェクトした細胞由来の培地においてのみで発現された。コトランスフェクトCOS7細胞によって産生される抗体(本明細書ではCLN1と同定)は、CTGFのN末端側半分に0.8nMのアフィニティーで結合する。
【0238】
また、CLN1は遺伝子改変チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞においても発現されている。典型的な抗体CLN1を発現するCHO細胞株は、2004年5月19日、アメリカ基準株保存機関(バージニア州マナッサス)に寄託されたものであり、ATCC受託番号 によって同定される。細胞株の最適化及び抗体発現の増強については、当該技術分野で知られた様々な技法(例えば、ウィグラー(Wigler)ら(1980年;Proc Natl Acad Sci USA 77:3567-3570)によって記載された遺伝子増幅や、リンゴールド(Ringold)ら(1981年;J Mol Appl Genet 1:165-175)、ガッサー(Gasser)ら(1982年;Proc Natl Acad Sci USA 79:6522-6526)及びカウフマン(Kaufman)ら(1985年;Mol Cell Biol 5:1750-1759)によって記載された変法)によって行うことができる。
【実施例12】
【0239】
実施例12:CTGFとTGFβの相互作用
本発明の抗体は、エキソン3(図1B;配列番号1のヌクレオチド418〜ヌクレオチド669)でコードされる残基によって規定されるCTGFの領域に特異的に結合する。この領域には、配列番号2のアミノ酸97〜アミノ酸180、フォン・ヴィレブランドCドメイン(配列番号2のアミノ酸103〜アミノ酸164)、及びmAb1のエピトープ(配列番号2のアミノ酸134〜アミノ酸158)が含まれる。アブルー(Abreu)ら(2002年、Nat Cell Biol 4:599-604)の報告によると、CTGFのVWCドメインに対応するドメインは、CTGFとTGFβ或いはBMP−4との相互作用において重要であり、前記相互作用によってTGFβやBMP−4の活性が調節される。以下の実験によって、エキソン3でコードされる領域がCTGFのTGFβへの結合に対して必要且つ十分であり、本発明の抗体がCTGFとTGFβとの相互作用を阻害できることを実証する。
【0240】
CTGFとTGFβとの相互作用については次の手順によってアッセイした。CTGFのPBS溶液、エキソン3でコードされるCTGF断片のPBS溶液、或いはエキソン5でコードされるCTGF断片のPBS溶液(10μg/mL)、或いはPBSのみで96ウェルMAXISORP ELISAプレート(ナルジェヌンク)の各ウェルをコートした(4℃、一晩)。次いで、全ウェルをBSAのPBS溶液(BSA:1%)でブロックした後、TGFβ(0、1、3.3、10、33、100、333、或いは1000ng/mL)及びMAB612或いはMAB1835マウス抗TGFβモノクローナル抗体(R&Dシステム、ミネソタ州ミネアポリス)(100、300、或いは1000ng/mL)を含有するPBS、0.05%Tween-20溶液(50μL)にて室温で1時間インキュベートした。MAB1835はウシ、マウス及びヒトTGF−β1及びβ2を認識し、TGFβのマウス胸腺細胞への結合を阻害する。MAB612はTGF−β2を認識するが、TGFβ活性を阻害しない。ウェルをPBS、0.05%Tween-20で洗浄した後、アルカリホスファターゼ結合ヤギ抗マウスIgG抗体含有PBS、0.05%Tween-20希釈溶液にて室温で1時間インキュベートした。プレートを再度洗浄し、p−ニトロフェニルリン酸(PNPP)の1M エタノールアミン、1mM MgSO4溶液(pH9.8)を添加し、反応の進行に適した時間ウェルをインキュベートした後、NaOHを添加して反応を終了させた。λ405nmにおける吸光度を分光光度計によって測定した。
【0241】
図12から分かるように、CTGF及びエキソン3でコードされるCTGF断片はTGFβに対して同程度に相互作用し得るが、エキソン5でコードされるCTGF断片はTGFβに対していかなる結合活性も示さなかった。興味深いことに、抗TGFβ抗体MAB612はCTGF結合TGFβを用量依存的に検出することができたが、中和抗体であるMAB1835は、試験したいずれの濃度においてもCTGF結合TGFβを検出することができなかった(データは図示せず)。この結果から、CTGFがTGFβへの結合に対してMAB1835と競合することが示唆される。
【0242】
抗CTGF抗体を試験し、CTGFとTGFβの結合を阻害する能力について評価した。図12に示すように、mAb4やmAb1等の本発明の抗体はCTGF及びエキソン3でコードされるCTGF断片のTGFβ結合を阻害したが、CTGFのC末端断片に対する抗CTGF抗体は結合を阻害しなかった。これらの結果は、本発明の抗体がCTGFとTGFβとの相互作用を特異的に阻害し、CTGFとTGFβスーパーファミリーの他のメンバーとの相互作用を潜在的に阻害する作用機序を支持するものである。
【0243】
本明細書に示され記載されたもの以外の本発明の様々な変更については、上述の説明から当業者には明らかになるであろう。このような変更は添付クレームの範囲内であるものとする。
【0244】
本明細書に引用した参考文献は全て、その全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【図面の簡単な説明】
【0245】
【図1A】図1Aは結合組織成長因子の構造及び配列保存を示す。図1Aは、インスリン様成長因子結合タンパク質(IGF-BP)及びフォン・ヴィレブランド因子(VWC)の保存モチーフをN末端断片に含み、トロンボスポンジン(TSP1)及びシステインノットモチーフ(CT)をC末端断片に含むCTGFのモジュールドメイン構造を示す。
【図1B】図1Bは結合組織成長因子の構造及び配列保存を示す。図1Bは、ヒト(hCTGF)、ウシ(bCTGF)、ブタ(pCTGF)、ラット(rCTGF)及びマウス(FISP12)CTGFオルソログのN末端断片間の多重配列アラインメントを示す。このアラインメントは、デフォルトパラメータを用いたCLUSTAL Wプログラム(v.1.74;トンプソン(Thompson)ら(1994年)Nucleic Acids Res 22:4673-4680)によって作成した。図1B中のアスタリスク(*)は、図示の種間でアミノ酸残基が完全に保存されていることを示す。
【図2】図2A及び2Bは、抗CTGF抗体mAb2及びmAb1それぞれに対する標識ヒトCTGFと非標識ヒトCTGFとの競合結合のスキャッチャードプロットを示す。mAb1は本発明の典型的な抗体である。
【図3】図3AはSDS-PAGEによって示されるFab抗体断片(Mr45kD)を示すが、これは対応するIgG抗体mAb1のパパイン消化後、プロテインA−セファロースアフィニティークロマトグラフィーによって得られたものである(レーン2)。図3Bは、カオトロピック剤(チオシアネート)濃度の上昇に伴うFab断片及び対応するIgGのCTGFへの結合を示す。
【図4】図4A及び4Bは、抗CTGF抗体mAb2及びmAb1それぞれに対する標識組換えヒトCTGFと非標識ラットCTGFとの競合結合のスキャッチャードプロットを示す。
【図5】図5A、5B及び5Cは、間質性肺線維症モデルにおける本発明の抗体の治療的有用性を示す。図5Aは、ブレオマイシン誘導によるマウス肺のヒドロキシプロリン含量増加に対する抗体処理の効果を示す。各群のマウス数は各棒下方の括弧内に示し、処理群についてはx軸に沿って示す。SA:生理食塩水、BL:ブレオマイシン、AbsJ:本発明の3種類のモノクローナル抗体のプール、mAb1:本発明の典型的な抗体。値は平均±SEで示す。図5B及び5Cはそれぞれ、気管内注入したブレオマイシンに曝露した後、生理食塩水及び本発明の抗体で処理したマウスから得た近位肺細葉のヘマトキシリン−エオシン染色パラフィン切片を示す。図5Bにおいては、薄い肺胞間中隔細葉が異常な外観を呈し、炎症細胞や線維化が見られる。図5Cにおいては、実質組織が概して正常であり、肺胞間中隔の中程度の肥厚のみが見られる。
【図6】図6A、6B及び6Cは、尿細管間質性腎線維症モデルにおける本発明の抗体の治療的有用性を示す。図6Aは、本発明の抗体(mAb1)及びCTGFのC末端に対する抗体(mAb3)で処理した後の片側尿管閉塞(UUO)起因性線維化の抑制を示す。線維化の程度は、反対側非閉塞腎臓との比較による閉塞腎臓におけるヒドロキシプロリン/プロリン比で表す(平均±SE)。図6B及び6Cはそれぞれ、生理食塩水投与及び抗体治療を行った閉塞腎臓のトリクローム染色パラフィン切片を示す。
【図7】図7A及び7Bは、腎糸球体線維症モデルにおける本発明の抗体の治療的有用性を示す。図7A及び7Bはそれぞれ、生理食塩水投与及び抗体治療を行った後のトリクローム染色残存腎組織の顕微鏡写真を示す。
【図8】図8A、8B、8C、8D、8E、8F及び8Gは、新生マウスにおける限局性皮下肉芽腫の誘導について示す。左側の図8A及び8Bはそれぞれ、TGFβのみを皮下注射した部位及びTGFβとCTGFとを皮下注射した部位における肉芽腫形成を示す。右側の図8C〜8Gは、抗体の治療的有用性の評価に用いる採点システム(0[正常]〜4[線維化])を表す組織学的パネルを示す。
【図9】図9は、抗CTGF抗体による処理を実施した場合と実施しなかった場合の限局性皮下肉芽腫モデルにおける線維化の程度を示す。mAb1は本発明の典型的な抗体であり、mAb3はC末端CTGFエピトープに特異的に結合する抗CTGF抗体である。
【図10】図10A、10B、10C及び10Dは、全身性硬化症モデルを用いた臓器線維症における本発明の抗体の治療的有用性を示す。各パネルにおいては、生理食塩水による処理(対照)後、TGFβとCTGFによる処理後、及びTGFβとCTGFによる処理と共に抗体治療を行った後の各臓器におけるコラーゲン蓄積の変化を示す。
【図11】図11A及び11Bは、本発明の典型的な抗体であるmAb1の免疫グロブリン重鎖及び軽鎖のクローニングを示す図である。図11Aは、mAb1重鎖コード配列(CDS)の決定に用いる重鎖PCR断片のアラインメントを示す。図11Bは、mAb1軽鎖コード配列(CDS)の決定に用いる軽鎖PCR断片のアラインメントを示す。
【図12】図12A及び12Bは、CTGFとTGFβとの結合についての検討を示す。図12Aは、抗CTGF抗体の存在下及び非存在下における、TGFβとCTGF、エキソン3でコードされるCTGF断片(エキソン3)、或いはエキソン5でコードされるCTGF断片(エキソン5)との結合の程度を示す。図12Bは抗CTGF抗体がTGFβとCTGFとの相互作用を阻害する程度を示す。図12Bに示す抗体には、本発明の典型的な抗体であるmAb1とmAb4、及びC末端CTGFエピトープに特異的に結合する抗体であるmAb3とが含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2のアミノ酸97〜180に記載のヒトCTGF上の領域の少なくとも一部を含むCTGFポリペプチドの一部、或いは他種由来CTGF上のオーソロガス領域に特異的に結合し、CTGFの生物活性を中和することができる単離抗体或いはその生物活性部分。
【請求項2】
CTGFポリペプチドのN末端部分の領域は、配列番号2のアミノ酸103〜164に記載されているか、或いは他種由来CTGF上のオーソロガス領域である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
CTGFポリペプチドのN末端部分の領域は、配列番号2のアミノ酸134〜158に記載されているか、或いは他種由来CTGF上のオーソロガス領域である、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
CTGFポリペプチドのN末端部分の領域は、配列番号2のアミノ酸143〜154に記載されているか、或いは他種由来CTGF上のオーソロガス領域である、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
前記生物活性は細胞による細胞外マトリックスの産生を含む、先の請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
細胞外マトリックスの産生はin vivoで生じる、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
細胞外マトリックスの産生はex vivoで生じる、請求項5に記載の抗体。
【請求項8】
前記CTGFポリペプチドと分泌補因子或いは膜補因子との相互作用を調節して前記生物活性を中和する、先の請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項9】
該補因子はTGF−βファミリーのメンバーである、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
該補因子はTGFβ−1である、請求項9に記載の抗体。
【請求項11】
該補因子はBMP−4である、請求項9に記載の抗体。
【請求項12】
前記生物活性は細胞遊走である、先の請求項のいずれかに記載の抗体。
【請求項13】
被験体における線維化を抑制する、先の請求項のいずれかに記載の抗体。
【請求項14】
前記線維化は、上皮組織、内皮組織及び結合組織から成る群から選択される組織内で生じる、請求項13に記載の抗体。
【請求項15】
前記線維化は、腎臓、肺、肝臓、心臓及び皮膚から成る群から選択される器官内で生じる、請求項13に記載の抗体。
【請求項16】
CTGFに対するアフィニティーが約10-9Mである、先の請求項のいずれかに記載の抗体。
【請求項17】
一本鎖抗体である、先の請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項18】
ヒト化抗体である、先の請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項19】
キメラ抗体である、先の請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項20】
多価抗体である、先の請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項21】
グリコシル化されている、先の請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項22】
グリコシル化されていない、先の請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項23】
細胞毒性剤或いは細胞毒性酵素と接合している、先の請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項24】
検出可能に標識されている、先の請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項25】
検出可能な標識は、酵素、蛍光成分(moiety)、化学発光成分(moiety)、ビオチン、アビジン或いは放射性同位元素である、請求項24に記載の抗体。
【請求項26】
モノクローナル抗体である、先の請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項27】
ATCC受託番号 (2004年5月19日寄託)で同定される細胞株によって産生される抗体と同じ特異性を有する、先の請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項28】
ATCC受託番号 (2004年5月19日寄託)で同定される細胞株によって産生される、先の請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項29】
生物活性断片はFab断片、F(ab)2断片或いはFv断片である、先の請求項のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項30】
ATCC受託番号 (2004年5月19日寄託)で同定される細胞株。
【請求項31】
(a)配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する免疫グロブリン;(b)配列番号20に記載のアミノ酸配列を有する免疫グロブリン;(c)(a)或いは(b)の可変ドメインを含む免疫グロブリン断片;及び(d)(a)、(b)或いは(c)の保存変異体からなる群から選択されるポリペプチドを含む単離抗体。
【請求項32】
前記可変ドメインは、配列番号14のアミノ酸1〜167に記載の免疫グロブリン重鎖可変ドメインを含む、請求項31に記載の抗体。
【請求項33】
前記可変ドメインは、配列番号20のアミノ酸1〜136に記載の免疫グロブリン軽鎖可変ドメインを含む、請求項31に記載の抗体。
【請求項34】
CTGFポリペプチドの生物活性を中和することができる、請求項31に記載の抗体。
【請求項35】
前記生物活性は細胞による細胞外マトリックスの産生を含む、請求項34に記載の抗体。
【請求項36】
前記生物活性は細胞遊走の刺激を含む、請求項34に記載の抗体。
【請求項37】
細胞外マトリックスの産生はin vivoで生じる、請求項35に記載の抗体。
【請求項38】
細胞外マトリックスの産生はex vivoで生じる、請求項35に記載の抗体。
【請求項39】
前記CTGFポリペプチドと細胞レセプターとの相互作用を調節して前記生物活性を中和する、請求項34に記載の抗体。
【請求項40】
前記CTGFポリペプチドと分泌補因子或いは膜補因子との相互作用を調節して前記生物活性を中和する、請求項34に記載の抗体。
【請求項41】
該補因子はTGF−βファミリーのメンバーである、請求項40に記載の抗体。
【請求項42】
該補因子はTGFβ−1である、請求項41に記載の抗体。
【請求項43】
該補因子はBMP−4である、請求項41に記載の抗体。
【請求項44】
グリコシル化されている、請求項31に記載の抗体。
【請求項45】
グリコシル化されていない、請求項31に記載の抗体。
【請求項46】
細胞毒性剤或いは細胞毒性酵素と接合している、請求項31に記載の抗体。
【請求項47】
検出可能に標識されている、請求項31に記載の抗体。
【請求項48】
検出可能な標識は、酵素、蛍光成分、化学発光成分、ビオチン、アビジン或いは放射性同位元素である、請求項47に記載の抗体。
【請求項49】
配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する免疫グロブリン重鎖と配列番号20に記載のアミノ酸配列を有する免疫グロブリン軽鎖とを含む単離抗体。
【請求項50】
ATCC受託番号 (2004年5月19日寄託)で同定される細胞株によって産生される抗体を含む単離抗体。
【請求項51】
有効量の先の請求項のいずれか一項に記載の抗体と、薬学的に許容し得る担体とを混合して含む医薬組成物。
【請求項52】
更に第二の治療剤を含む、請求項51に記載の医薬組成物。
【請求項53】
請求項1〜50のいずれか一項に記載の抗体を、該抗体とCTGFポリペプチドとを含む複合体の形成に適した条件下で試料と接触させて前記CTGFポリペプチドの生物活性を中和することを含む、CTGFの生物活性を中和する方法。
【請求項54】
前記生物活性は細胞外マトリックスの産生を含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
該抗体は前記CTGFポリペプチドと細胞レセプターとの相互作用を調節する、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
該抗体は前記CTGFポリペプチドと分泌補因子或いは膜補因子との相互作用を調節する、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
該補因子はTGF−βファミリーのメンバーである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
該補因子はTGFβ−1である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
該補因子はBMP−4である、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記中和はin vitroで生じる、請求項53に記載の方法。
【請求項61】
前記中和はin vivoで被験体内で生じる、請求項53に記載の方法。
【請求項62】
前記被験体は高血圧、高血糖、糖尿病、心筋梗塞、関節炎、及び局所或いは全身性炎症に罹患しやすいか或いはその診断を下されている、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記被験体は細胞増殖性障害に罹患しやすいか或いはその診断を下されている、請求項61に記載の方法。
【請求項64】
前記細胞増殖性障害は血管形成、アテローム硬化症、緑内障或いは癌である、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記癌は、急性リンパ芽球性白血病、皮膚線維腫、乳癌、乳癌線維形成(breast carcinoma desmoplasia)、血管脂肪腫、血管平滑筋腫、線維形成性癌、前立腺癌、卵巣癌、結腸直腸癌、膵臓癌、消化管癌或いは肝臓癌である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記被験体は線維性障害に罹患しやすいか或いはその診断を下されている、請求項61に記載の方法。
【請求項67】
前記線維性障害は特発性肺線維症、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、骨関節炎、強皮症、慢性心不全或いは肝硬変である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
CTGF関連障害を有しているか或いはその危険性がある被験体において該障害を治療或いは予防する方法であって、請求項1〜50のいずれか一項に記載の抗体を該被験体に投与することを含む、方法。
【請求項69】
該障害は高血圧、高血糖、糖尿病、心筋梗塞、関節炎、及び局所或いは全身性炎症である、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
該障害は細胞増殖性障害である、請求項68に記載の方法。
【請求項71】
前記細胞増殖性障害は血管形成、アテローム硬化症、緑内障或いは癌である、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記癌は、急性リンパ芽球性白血病、皮膚線維腫、乳癌、乳癌線維形成(breast carcinoma desmoplasia)、血管脂肪腫、血管平滑筋腫、線維形成性癌、前立腺癌、卵巣癌、結腸直腸癌、膵臓癌、消化管癌或いは肝臓癌を含む、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記被験体は線維性障害に罹患しやすいか或いはその診断を下されている、請求項68に記載の方法。
【請求項74】
前記線維性障害は特発性肺線維症、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、骨関節炎、強皮症、慢性心不全或いは肝硬変である、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
請求項1〜50のいずれか一項に記載の抗体であって、該抗体又はその一部は本来ヒトに由来する遺伝物質でコードされている、抗体。
【請求項76】
請求項1〜50のいずれか一項に記載の抗体の可変領域に由来する可変領域と、他の源に由来する定常領域とを含むキメラ抗体。
【請求項77】
前記定常領域はヒト免疫グロブリンの定常領域に由来する、請求項76に記載のキメラ抗体。
【請求項78】
特発性肺線維症、糖尿病性腎症、慢性心不全及び肝硬変から成る群から選択される障害を有する被験体を治療するための、請求項1〜50のいずれか一項に記載の抗体を含む薬剤。
【請求項79】
高血圧、糖尿病、心筋梗塞、関節炎、及び局所或いは全身性炎症から成る群から選択される病態に起因する障害に罹患しやすい被験体を治療するための、請求項1〜50のいずれか一項に記載の抗体を含む薬剤。
【請求項80】
(a)配列番号14をコードするポリヌクレオチド配列;(b)配列番号14のアミノ酸1-アミノ酸167をコードするポリヌクレオチド配列;(c)配列番号13;及び(d)配列番号13のヌクレオチド1-ヌクレオチド501から成る群から選択される配列を含むポリヌクレオチド配列。
【請求項81】
複製配列及び転写制御配列を含むベクター配列に作動可能に結合された請求項80に記載のポリヌクレオチド配列を含む組換えポリヌクレオチド。
【請求項82】
配列番号14のアミノ酸配列をコードする、請求項81に記載の組換えポリヌクレオチド。
【請求項83】
配列番号13を含む、請求項82に記載の組換えポリヌクレオチド。
【請求項84】
請求項81に記載の組換えポリヌクレオチドをトランスフェクトした宿主細胞。
【請求項85】
(a)配列番号20をコードするポリヌクレオチド配列;(b)配列番号20のアミノ酸1〜アミノ酸136をコードするポリヌクレオチド配列;(c)配列番号19;及び(d)配列番号19のヌクレオチド1〜ヌクレオチド408から成る群から選択される配列を含むポリヌクレオチド配列。
【請求項86】
複製配列及び転写制御配列を含むベクター配列に作動可能に結合された請求項85に記載のポリヌクレオチド配列を含む組換えポリヌクレオチド。
【請求項87】
配列番号20のアミノ酸配列をコードする、請求項86に記載の組換えポリヌクレオチド。
【請求項88】
配列番号19を含む、請求項87に記載の組換えポリヌクレオチド。
【請求項89】
請求項86に記載の組換えポリヌクレオチドをトランスフェクトした宿主細胞。
【請求項90】
配列番号14をコードするポリヌクレオチドと配列番号20をコードするポリヌクレオチドとをコトランスフェクトした細胞を含み、ATCC受託番号 (2004年5月19日寄託)で同定される細胞株によって産生される抗体と実質的に同じ特性を有する機能抗体を産生する宿主細胞。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−525194(P2007−525194A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515028(P2006−515028)
【出願日】平成16年6月2日(2004.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/017080
【国際公開番号】WO2004/108764
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(505445027)ファイブロジェン,インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】