説明

結晶化ガラスの製造方法および結晶化ガラス、ならびに調理器用トッププレート

【課題】結晶化条件を変更することで容易に色調を調整可能であり、尚且つ長時間使用しても可視光線や赤外線の透過特性が損なわれにくい結晶化ガラスの製造方法、および結晶化ガラス、ならびにこれを用いたトッププレートを提供する。
【解決手段】本発明に係る結晶化ガラスの製造方法は、質量%で、SiO 55〜73%、Al17〜25%、LiO 2〜5%、TiO 2.6〜5.5%、SnO 0〜0.9%、V0.01〜0.4%を含有し、AsおよびSbを実質的に含有しない組成となるように原料粉末を調合する調合工程と、原料粉末を溶融して前駆体ガラスを作製する前駆体作製工程と、前駆体ガラスを660〜700℃の温度域において10分〜10時間熱処理する結晶核形成工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐熱性を有する結晶化ガラスおよびその製造方法に関し、より具体的には、IH(電磁誘導加熱装置)、ハロゲンヒータ等を熱源とする調理器のトッププレート等に使用される結晶化ガラスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IH、ハロゲンヒータ等を熱源とする調理器に用いられるトッププレートには、破損しにくい(機械的強度および耐熱衝撃性が高い)こと、外観が美しいこと、腐食しにくい(化学的耐久性が高い)こと、熱線である赤外線の透過率が高いことなどが要求される。このような特性を満たす材料として、β−石英固溶体(LiO−Al−nSiO(n≧2))を主結晶とする低膨張透明結晶化ガラスが知られており、トッププレートとして用いられている。
【0003】
低膨張結晶化ガラスは、各種ガラス原料を所定割合で混合する調合工程、1600〜1900℃の高温でガラス原料を溶融して均質化された流体とする溶融工程、各種方法により種々の形状に成形する成形工程、歪みを除去するアニール工程、微細な結晶を析出させる結晶化工程を経ることにより製造される。結晶化工程には、結晶の核となる微結晶を析出させる核形成工程と、結晶を成長させる結晶成長工程を含む。
【0004】
このようにして製造された低膨張透明結晶化ガラスは、概して可視光に対して透明であるため、そのままトッププレートとして使用すると、当該トッププレート下方に配置されている調理器の内部構造が直接見えてしまい、外観性に劣る。そのため、Vなどの着色剤によって結晶化ガラス自体を着色したり(例えば、特許文献1参照)、結晶化ガラス表面に遮光膜を形成したり(例えば、特許文献2参照)して、可視光を充分遮蔽した状態で使用される。
【0005】
ところで、Vなどの着色剤によるガラスの着色は、清澄剤として使用されるAsやSbとの相互作用により強められると考えられている。ところが、AsやSbは環境負荷が大きいため、近年、その使用が制限されつつある。そして、従来のガラス組成から単純にAsやSbを除外すると、着色剤による発色効率が低下する傾向がある。着色剤の量を増やすことで可視光遮蔽効果を向上させることも可能であるが、当該方法によると着色剤の添加量の増加により原料コストが増加したり、赤外線透過率が低下したりするという問題がある。
【0006】
一方、着色剤の発色効率を高める成分として、AsやSbに替えて、例えばSnO等を添加することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。当該方法によれば、環境負荷が小さく、赤外線透過性および可視光遮蔽性に優れたトッププレートを得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平3−9056号公報
【特許文献2】特開2003−68435号公報
【特許文献3】特表2004−523446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や特許文献2に記載のガラスは、AsやSbを原料として添加しているため、結晶化条件を変更することで色調を容易に調整することが可能であるものの、調理器のトッププレートとして長期間使用した場合、色調が変化しやすいという問題がある。長期間使用しても高い赤外線透過率を維持可能であることは、調理性能の面からはもちろんのこと、省エネルギーの観点からも重要である。また、長期の使用によって加熱部分の可視光線透過性も低下する場合があり、調理性能には直接的に影響しなくても、加熱部分だけが変色して、外観が損なわれるという問題もある。
【0009】
一方、特許文献3のようにAsやSbを添加せずにSnOを添加した場合、一般的な結晶化条件である720〜780℃の核形成温度や800〜950℃の結晶成長温度において保持温度や保持時間を調整しても、結晶化ガラスの色調が変化しにくく、色調の調整が困難となる問題がある。
【0010】
したがって、本発明は、結晶化条件を変更することで容易に色調を調整可能であり、尚且つ長時間使用しても可視光線や赤外線の透過特性が損なわれにくい結晶化ガラスおよびその製造方法、ならびにこれを用いたトッププレートを提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討した結果、結晶核を形成する際、特定の温度範囲で熱処理の時間を変動させることによって、結晶化ガラスの色調を容易に制御できることを見出した。さらに、長期間の使用による可視光線や赤外線の透過性能の低下は、使用時の加熱によって結晶化が再度進行し、マトリックスガラス相の組成が変化することや、結晶の転移による白濁が原因であると突き止めた。そして、これらの知見に基づき本発明を提案するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、第一に、質量%で、SiO 55〜73%、Al 17〜25%、LiO 2〜5%、TiO 2.6〜5.5%、SnO 0〜0.9%、V0.01〜0.4%を含有し、AsおよびSbを実質的に含有しない組成となるように原料粉末を調合する調合工程と、原料粉末を溶融して前駆体ガラスを作製する前駆体作製工程と、前駆体ガラスを660〜700℃の温度域において10分〜10時間熱処理する結晶核形成工程とを含むことを特徴とする結晶化ガラスの製造方法である。
【0013】
本発明によれば、結晶化ガラスの色調を容易に調整可能であり、尚且つ長時間使用しても可視光線や赤外線の透過特性が損なわれにくい結晶化ガラスを得ることができる。以下、詳細に説明する。
【0014】
先ず、本発明により結晶化ガラスの色調を容易に調整可能となる理由について説明する。
【0015】
本発明の製造方法により得られる結晶化ガラスの着色メカニズムは以下の通りである。一般的に、ガラス中においてVイオンは主に3〜5価の状態で存在するが、結晶化ガラスの着色は、マトリックスガラス相に存在する4価のVイオンに起因して生じると推定される。そして、4価のVイオンがマトリックスガラス相に存在するTiOと結合すると、着色の程度がさらに強まる(可視光透過率が低下する)と考えられている。
【0016】
ここで、結晶核としてTiOが多く析出するほど、マトリックスガラス相中のTiO濃度は低くなると考えられる。したがって、結晶化ガラスの色調は、結晶核としてのTiOの析出量を制御することによって制御することができる。本発明では、上記組成を有する前駆体ガラスを結晶化させる際に、660〜700℃の温度域における熱処理の時間を適宜変更することによって、結晶核としてのTiOの析出量を容易に制御可能である。すなわち、本発明によれば結晶化条件を変更することによって、結晶化ガラスの色調を容易に調整できる。
【0017】
なお、上述したVイオンの価数は、Snの存在(特に、Snイオンの酸化還元作用)により変化するが、本発明では、VおよびSnOの含有量を適切に制限することにより、4価のVイオンの量を調整してVの発色効果を最大限に引き出すことが可能である。
【0018】
次いで、本発明により長時間使用しても可視光線や赤外線の透過特性が損なわれにくい結晶化ガラスを得ることが可能となる理由について説明する。
【0019】
従来の調理器用トッププレートでは、長期にわたって使用した場合、使用時の加熱により結晶化がさらに進行する場合があった。結晶化が進行すると、マトリックスガラス組成が変化し、マトリックスガラス相における4価のVイオンおよびTiOの濃度が相対的に高まる。その結果、4価のVイオンとTiOの結合しやすくなり、可視領域および赤外領域における透過率が低下するおそれがあった。
【0020】
一方、本発明では、上記組成を有する前駆体ガラスを結晶化させる際に、660〜700℃の温度域で10分〜10時間熱処理を行うことにより、TiOを結晶核として多数析出させることができる。単位体積当たりの結晶核数が多くなると、結晶核間の距離が小さくなり、個々の結晶の成長する余地が小さくなる。よって、上記のように結晶核を多数析出させると結晶成長させた際に結晶粒径を小さくできるとともに、短時間で結晶化を充分に進行させることができる。したがって、本発明の製造方法により作製された結晶化ガラスは結晶化がほぼ完了しており、長時間の加熱使用に供されても結晶化がほとんど進行しない。すなわち、本発明の結晶化ガラスでは、長時間、加熱使用してもマトリックスガラス相におけるVイオンとTiOの結合状態が変化しにくい。故に、本発明の製造方法によれば、可視領域および赤外領域における透過特性が損なわれにくく、従来品に比べ高い耐用性を有する結晶化ガラスを得ることができる。
【0021】
一般的なβ−石英固溶体を主結晶として含有する結晶化ガラスは、長期間にわたる加熱により、β−石英固溶体からβ−スポジュメン固溶体(LiO−Al−nSiO(n≧4))へ結晶転移が起こり、白濁を生じる性質を有している。結晶化ガラスにおいて白濁が生じると、外観が変化するとともに、散乱により赤外線透過率が低下する。そして、AsおよびSbは、このような結晶転移を促進する作用が大きい成分である。
【0022】
その点、本発明の製造方法により得られる結晶化ガラスは、AsおよびSbを実質的に含有しないため、結晶転移しにくく、長期使用による可視領域および赤外領域の透過率が変化しにくい。
【0023】
また、本発明の製造方法により得られる結晶化ガラスは、環境負荷が大きいとされるAsやSbを実質的に含有しないため、廃棄時における環境負荷を低減できる。なお、本発明における「実質的に含有しない」とは、意図してこれらの成分を原料として添加せず、各種ガラス原料に含まれる不純物として混入するレベルをいい、具体的には、含有量が0.01%以下であることを意味する。
【0024】
第二に、本発明の結晶化ガラスの製造方法は、さらに、結晶核が形成された前駆体ガラスを800〜930℃の温度域で少なくとも10分間熱処理する結晶成長工程を含むことを特徴とする。
【0025】
当該構成によれば、結晶化がさらに進行しやすくなり、可視領域および赤外領域における透過特性の経時変化をより一層低減することができる。
【0026】
第三に、本発明の結晶化ガラスの製造方法は、SnOの含有量が0.01〜0.7%であることを特徴とする。
【0027】
当該構成によれば、SnOの含有量を適切に規制することによって、高い発色性を得つつ、失透を防止できる。
【0028】
第4に、本発明は、前記いずれかの製造方法により作製されたことを特徴とする結晶化ガラスに関する。
【0029】
第5に、本発明の結晶化ガラスは、900℃で50時間熱処理した後の波長700nmにおける吸光度変化率が20%以下であることを特徴とする。
【0030】
第6に、本発明の結晶化ガラスは、質量%で、SiO 55〜73%、Al 17〜25%、LiO 2〜5%、TiO 2.6〜5.5%、SnO 0〜0.9%、V0.01〜0.4%を含有し、AsおよびSbを実質的に含有しない組成を有し、900℃で50時間熱処理した後の波長700nmにおける吸光度変化率が20%以下であることを特徴とする。
【0031】
第7に、本発明は、前記いずれかの結晶化ガラスを用いてなる調理器用トッププレートに関する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の製造方法において、まず質量%で、SiO 55〜73%、Al17〜25%、LiO 2〜5%、TiO 2.6〜5.5%、SnO 0.01〜1%、V0.01〜0.4%を含有し、AsおよびSbを実質的に含有しない組成となるように原料粉末を調合する。このように組成を限定した理由を以下に説明する。
【0033】
SiOはガラスの骨格を形成するとともに、β−石英固溶体を構成する成分である。SiOの含有量は55〜73%、好ましくは60〜71%、より好ましくは63〜70%である。SiOの含有量が少なくなると、熱膨張係数が高くなる傾向にあり、耐熱衝撃性に優れた結晶化ガラスが得られにくくなる。また、化学的耐久性が低下する傾向にある。一方、SiOの含有量が多くなると、ガラスの溶融性が低下したり、ガラス融液の粘度が大きくなったりして、ガラスの成形が困難になる傾向がある。
【0034】
Alはガラスの骨格を形成するとともに、β−石英固溶体を構成する成分である。Alの含有量は17〜25%、好ましくは17.5〜24%、より好ましくは18〜22%である。Alの含有量が少なくなると、熱膨張係数が高くなる傾向にあり、耐熱衝撃性に優れた結晶化ガラスが得られにくくなる。また、化学的耐久性が低下する傾向にある。一方、Alの含有量が多くなると、ガラスの溶融性が低下したり、ガラス融液の粘度が大きくなったりして、ガラスの成形が困難になる傾向がある。また、ムライト結晶の析出によりガラスが失透する傾向があり、失透部位からガラスにクラックが発生しやすくなるため、成形が困難になる。
【0035】
LiOはβ−石英固溶体を構成する成分であり、結晶性に大きな影響を与えるとともに、ガラスの粘性を低下させて、溶融性および成形性を向上させる成分である。LiOの含有量は2〜5%、好ましくは2.3〜4.7%、より好ましくは2.5〜4.5%である。LiOの含有量が少なくなると、ムライト結晶によってガラスが失透する傾向があり、失透部位からガラスにクラックが発生しやすくなるため、成形が困難になる。また、ガラスを結晶化させる際に、β−石英固溶体結晶が析出し難しくなり、耐熱衝撃性に優れた結晶化ガラスが得られにくくなる。さらに、ガラスの溶融性が低下したり、ガラス融液の粘度が高くなったりする傾向にあり、ガラスの成形が困難になる。一方、LiOの含有量が多くなると、結晶性が強くなりすぎて結晶化工程において粗大結晶が析出しやすく、その結果、白濁して透明な結晶化ガラスが得られなくなったり、破損しやすくなって成形が困難になる。
【0036】
TiOは結晶化工程で結晶を析出させるための結晶核を構成する成分であるとともに、4価のVイオンの発色を強める作用を有する。TiOの含有量は2.6〜5.5%、好ましくは2.6〜5%、より好ましくは2.8〜4.8%、さらに好ましくは3〜4.5%である。TiOの含有量が少なくなると、結晶化工程で660℃〜700℃で熱処理しても結晶核として析出しにくいため、色調を変化させることが難しくなる。また、TiOの含有量が少なくなると、結晶核として使用されずにマトリックスガラス相に残留する量が少なくなるため、4価のVイオンと結びつきにくく、発色効率が低くなる傾向がある。また、長期間の加熱によって結晶化が進行すると、既述のように、ガラスマトリックス中における4価のVイオンとTiOの濃度が高まり、両者の結合状態が変化するため、着色の程度が不当に変化する(特に、色が濃くなる)傾向がある。さらに、充分な数の結晶核が形成されないため、個々の結晶核から成長する結晶の粒径が大きくなって(粗大結晶)、白濁して透明な結晶化ガラスが得られにくい。一方、TiOの含有量が多くなると、溶融工程から成形工程においてガラスが失透する傾向にあり、破損しやすくなるため成形が困難になる。
【0037】
SnOは着色成分である4価のVイオンを増加させて発色を強める成分である。SnOの含有量は0〜0.9%、0.03〜0.7%、0.03〜0.6%、0.03〜0.3%、0.03〜0.25%、特に0.05〜0.23%であることが好ましい。SnOの含有量が少なくなると、4価のVイオンが効率よく生成しないため発色効果が強まりにくい。SnOの含有量が多くなると、ガラスを溶融、成形する際に失透する傾向にあり、成形が困難になる。また、同じ組成であっても溶融条件や結晶化条件のわずかな違いによって、色調が変化しやすくなる傾向がある。
【0038】
は着色成分である。Vの含有量は0.01〜0.4%、0.02〜0.2%、特に0.03〜0.15%であることが好ましい。Vの含有量が少なくなると、着色が薄くなって可視光を充分に遮蔽できなくなる。一方、Vの含有量が多くなると、赤外線の透過率が低下する傾向がある。また、β−石英固溶体からβ−スポジュメン固溶体に結晶転移しやすくなり、白濁の原因となるおそれがある。
【0039】
なお、AsとSbは既述の理由から実質的に含有しない。
【0040】
さらに、上記以外にも、要求される特性を損なわない範囲で種々の成分を添加することができる。
【0041】
MgOは、LiOの替わりにβ−石英固溶体結晶に固溶する成分である。MgOの含有量は0〜1.5%、好ましくは0〜1.4%、より好ましくは0.1〜1.2%である。MgOの含有量が多くなると、結晶性が強くなりすぎて失透する傾向にあり、その結果、ガラスが破損しやすくなって成形が困難になる。
【0042】
ZnOは、MgOと同様にβ−石英固溶体結晶に固溶する成分である。ZnOの含有量は0〜2.0%、好ましくは0〜1.5%、より好ましくは0.1〜1.2%である。ZnOの含有量が多くなると、結晶性が強くなりすぎる傾向がある。そのため、緩やかに冷却しながら成形すると、ガラスが失透して破損しやすくなるため、例えばフロート法での成形に不向きとなる。
【0043】
ZrOは、TiOと同様に結晶化工程で結晶を析出させるための結晶核を構成する成分である。ZrOの含有量は0〜2.3%、好ましくは0〜2.1%、より好ましくは0.1〜1.8%である。ZrOの含有量が多くなると、ガラスの溶融および成形工程において失透する傾向にあり、ガラスの成形が困難になる。
【0044】
なお、TiOとZrOの合量は3.8〜6.5%、好ましくは4.2〜6%である。これらの成分の合量が多くなると、ガラスの溶融および成形工程において失透する傾向にあり、ガラスの成形が困難になる。一方、これらの成分の合量が少なすぎる場合、結晶核が充分に形成されないため、結晶が粗大化しやすく、結果として、白濁して透明な結晶化ガラスが得られにくくなる。
【0045】
はガラスの分相を促進する成分である。結晶核はガラスが分相する場所に生じやすいことから、Pは結晶核の形成を助ける働きをする。Pの含有量は0〜2%、好ましくは0.1〜1%である。Pの含有量が多くなると、溶融工程において分相するため、所望の組成を有するガラスが得られにくくなるとともに、不透明となる傾向がある。
【0046】
NaOはガラスの粘性を低下させて、ガラス溶融性および成形性を向上させる成分である。NaOの含有量は0.8%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下である。NaOの含有量が多すぎると、β−石英固溶体からβ−スポジュメン固溶体への結晶転移が促進されるため、結晶の粗大化による白濁が発生しやすい。また、熱膨張係数が高くなる傾向にあり、耐熱衝撃性に優れた結晶化ガラスが得にくくなる。
【0047】
ガラスの粘性を低下させて、溶融性および成形性を向上させるために、KO、CaO、SrOおよびBaOを合量で5%まで添加することが可能である。なお、CaO、SrOおよびBaOは、ガラスを溶融する際に、失透を引き起こす成分でもあるため、これら成分は合量で2%以下とすることが望ましい。また、CaOはβ−石英固溶体からβ−スポジュメン固溶体への結晶転移を促進する作用を有するため、できる限り使用を控えたほうがよい。
【0048】
清澄剤として、SOやClを必要に応じて単独でまたは組み合わせて添加してもよい。これらの成分の合量は0.5%以下とすることが望ましい。なお、AsおよびSbも清澄剤成分であるが、環境負荷が大きいとされる成分であり、また、結晶転移を促進する成分であるため、実質的に含有しないことが重要である。
【0049】
上記しなかった有色遷移金属元素(例えばCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Cd等)を含有すると、赤外線を吸収したり、Snイオンの還元能が失われる(当該有色遷移金属元素がSnイオンと反応し、結果としてVイオンとSnイオンの反応が阻害される)おそれがあるため、できる限り含有しないことが好ましい。
【0050】
以上のようにして調合した原料粉末を溶融して結晶性の前駆体ガラスを得る。溶融温度は特に限定されないが、充分にガラス化を進行させるため、例えば1600〜1900℃であることが好ましい。なお、溶融ガラスの成形方法としては、ブロー法、プレス法、ロールアウト法、フロート法等の様々な成形方法を適用可能である。成形された前駆体ガラスは、必要に応じてアニールに供される。
【0051】
次に、前駆体ガラスに対し、660〜700℃の温度域で少なくとも10分〜10時間、より好ましくは15分〜7時間、さらに好ましくは20分〜4時間、熱処理を行う。当該熱処理工程で結晶核を析出させることができる。熱処理温度が660〜700℃の範囲を外れると十分な数の結晶核が形成されにくくなる。660〜700℃の温度域が最も結晶核としてTiOが析出しやすい範囲であり、結晶核を充分に形成することができる。ただし、熱処理時間が10分より短いと結晶化直後のガラスの色調が濃くなりやすい傾向にある。一方、熱処理時間が10時間より長くても、形成される結晶核の量は多くなりにくく、むしろ生産性やエネルギー面で不利である。なお、上記660〜700℃の温度域における熱処理時間の長さを10分〜10時間の範囲内で調整することによって、ガラスの色調を調整することができる。より詳細には、熱処理時間を長くするほど、より多くの結晶核を形成することができ、より濃い色調に調整することができる。
【0052】
次に、前駆体ガラスに対し、さらに以下の熱処理を施すことにより結晶を成長させ、所望の結晶化ガラスを得る。ここで、熱処理は、充分に結晶化を促進させるため、800〜930℃、好ましくは850〜920℃、より好ましくは870〜910℃で少なくとも10分〜2時間行うことが好ましい。熱処理時間が10分より短いと結晶化直後の色が薄く、白濁が生じやすい傾向にある。一方、熱処理時間が2時間より長くても、形成される結晶核の量は多くなりにくく、むしろ生産性やエネルギー面で不利である。
【0053】
本発明の製造方法により得られた結晶化ガラスは、3mm厚において波長700nmにおける透過率が35%以下、さらには30%以下であることが好ましい。このような特性によれば、調理器の内部構造を充分に遮蔽することが可能となる。一方で、LED等を用いて温度や火力などを表示する場合は、3mm厚において波長700nmにおける透過率が15%以上、さらには18%以上であることが望ましい。このような特性によれば、調理器のトッププレートに用いた場合、LED等による表示を結晶化ガラスを介して充分に認識することが可能となる。
【0054】
また、本発明の結晶化ガラスは、3mm厚において波長1150nmにおける透過率が85%以上、さらには86%以上であることが好ましい。このような特性によれば、熱線(赤外線)を効率的に透過できる。
【0055】
なお、調理器用トッププレートのような用途に長期間使用しても、高い赤外線透過能が損なわれず、さらには、可視光透過率も変化しにくいことが好ましい。具体的には、本発明の結晶化ガラスは3mm厚で、加速試験として900℃で50時間熱処理した後の波長1150nmにおける透過率の変化量が5%以下、3%以下、特に2%以下であることが好ましい。また、上記加速試験において、波長700nmにおける透過率の変化量が5%以下、3%以下、特に2%以下であることが好ましい。
【0056】
また、本発明の結晶化ガラスは、900℃で50時間熱処理した後の波長700nmにおける吸光度変化率が20%以下、特に10%以下であることが好ましい。なお、吸光度変化率は以下の計算式により算出される。
【0057】
吸光度=−log10(透過率(%)/100)
吸光度変化率=(熱処理後の吸光度−熱処理前の吸光度)/熱処理前の吸光度×100(%)
本発明の結晶化ガラスの30〜750℃の温度範囲での熱膨張係数は、好ましくは−10×10−7〜30×10−7/℃、より好ましくは−10×10−7〜20×10−7/℃である。熱膨張係数が当該範囲にあると、耐熱衝撃性に優れたガラスとなる。なお、本発明において、熱膨張係数はディラトメーターにより測定した値をいう。
【0058】
本発明の製造方法により得られた結晶化ガラスは、切断、研磨、曲げ加工、リヒートプレス等の後加工を施してもよく、表面に絵付けや膜付け等を施してもよい。
【0059】
このように作製された結晶化ガラスは、IHヒータを備えたIH調理器、ハロゲンヒータを備えたハロゲンヒータ調理器、ガスバーナーを備えたガス調理器等のトッププレートとして使用可能である。
【実施例1】
【0060】
次に、本発明を実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、表1は、本実施例にて使用する試料ガラスの組成を示している。表2〜7に示す試料No.1〜14は実施例、試料No.11〜25は比較例を各々示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
【表6】

【0067】
【表7】

【0068】
先ず、表1に記載の組成A、B、C、D、E、およびFとなるようガラス原料を調合し、5種類のバッチを作製した。なお、組成A、B、C、D、Eの何れも、上述した本発明の範囲内の組成である。一方、組成Fは、Asを含み、本発明の範囲外の組成である。
【0069】
次いで、各バッチを、白金坩堝を用いて1600℃で20時間、さらに1700℃で4時間溶融した。その後、カーボン板の上に5mm厚の2本のスペーサーを載置し、スペーサーの間に溶融ガラスを流し出すとともにローラーにて均一の厚みの板状に成形した。次いで、得られた板状試料を700℃に保持した電気炉に投入し、30分保持してから電源を落として10時間以上かけて炉内で室温まで徐冷(アニール)して前駆体ガラスを作製した。
【0070】
次いで、冷却後の前駆体ガラスを電気炉で下記Stepの通り熱処理することによって結晶化し、結晶化ガラスを得た。なお、熱処理の条件は表2〜7に示す通り試料毎に変更した。
【0071】
Step1:電気炉に前駆体ガラスを投入する
Step2:常温からStep3の温度まで表中の速度で昇温する
Step3:表中の温度および時間条件で保持する(結晶核形成工程)
Step4:Step5の温度まで表中の速度で昇温する
Step5:表中の温度および時間条件で保持する(結晶成長工程)
Step6:表中の速度で常温まで降温する
Step7:電気炉から取り出す
上記のようにして得た各試料について、可視および赤外領域における透過率、Y値について評価した。
【0072】
700nmおよび1150nmの透過率は、各試料ガラスの両面を鏡面研磨して3mm厚に加工し、分光光度計(日本分光株式会社製 V−760)を用いて測定した。測定条件は、測定範囲1500〜380nm、スキャンスピード200nm/分とした。
【0073】
Y値は、色をxyY表色系で表した場合に当該色の明るさを示す値であり、明度とも呼ばれる。本実施例では、Y値を、可視光領域(波長380〜780nm)の透過率に基づいて、JIS Z 8701にしたがって算出した。
【0074】
さらに、上述の各試料ガラスを長期使用した場合を想定して900℃で50時間熱処理(加速試験)し、当該熱処理後の可視および赤外領域における透過率を評価した。より詳細には、900℃に設定した熱処理炉に各試料ガラスを投入し、50時間経過した後に取り出して透過率測定を行なった。
【0075】
以下、上記のように測定および演算した吸光度、透過率、Y値の評価結果について説明する。
【0076】
組成Aを用いた試料No.1〜5は、660〜700℃の温度域の通過時間に応じて色調(Y値や700nm透過率)が変化している。すなわち、結晶化のための熱処理を行う際、660〜700℃の温度域において、10分〜10時間の範囲内で保持時間を変更することにより色調を調整し得ることが示されている。一方、試料No15、16は、何れも660〜700℃の温度域の通過時間が2分程度である。そのため、その後780℃前後の温度域(結晶核形成工程)での保持時間を変更しても色調をほとんど変化させることができなかった。
【0077】
なお、No.6〜8およびNo.17〜18は組成Bのガラスを結晶化したもの、試料No.9〜10および試料19は組成Cのガラスを結晶化したもの、試料No.11〜12および試料20〜21は試料Dのガラスを結晶化したもの、試料No.13〜14および試料22〜23は試料Eを結晶化したものである。これらの試料についても、660〜700℃の温度域を10分〜10時間かけて通過した試料は、当該通過時間に応じて色調を調整することができた。一方、660〜700℃の温度域を10分未満で通過した試料は、色調をほとんど変化させることができなかった。
【0078】
また、組成にAsを含まない試料No.1〜23については、加速試験後も色調(Y値や波長700nmの吸光度)や赤外線透過率(波長1150nm)を、試験前とほぼ同等に維持できた。すなわち、高い耐久性を有することが示された。一方、Asを含む組成Fの試料No.24〜26では、加速試験の前後でY値、吸光度、および赤外線透過率の値が変動してしまい、色調や可視および赤外光の透過特性を維持することができなかった。
【0079】
以上の通り、本発明の範囲内の組成および製造方法に基づいて作成された試料No.1〜14については、結晶化条件を変更することにより色調を容易に調整可能であり、尚且つ高い耐久性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の結晶化ガラスは、ガス、IH、ハロゲンヒータ等の調理器用トッププレートとして好適である。また、従来よりβ−石英固溶体を主結晶とする低膨張結晶化ガラスが使用されている高温炉内観察用のぞき窓、防火窓等にも使用可能である。また、本発明の結晶化ガラスの製造方法は上記用途の結晶化ガラスを容易に製造する方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、SiO 55〜73%、Al17〜25%、LiO 2〜5%、TiO 2.6〜5.5%、SnO 0〜0.9%、V0.01〜0.4%を含有し、AsおよびSbを実質的に含有しない組成となるように原料粉末を調合する調合工程と、
前記原料粉末を溶融して、前駆体ガラスを作製する前駆体ガラス作製工程と、
前記前駆体ガラスを660〜700℃の温度域で10分〜10時間熱処理する結晶核形成工程とを含むことを特徴とする結晶化ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記結晶核形成工程後に、結晶核が形成された前駆体ガラスを800〜930℃の温度域で10分〜2時間熱処理する結晶成長工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項3】
SnOの含有量が0.01〜0.7%であることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の製造方法により作製されたことを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項5】
900℃で50時間熱処理した後の波長700nmにおける吸光度変化率が20%以下であることを特徴とする請求項4に記載の結晶化ガラス。
【請求項6】
質量%で、SiO 55〜73%、Al17〜25%、LiO 2〜5%、TiO 2.6〜5.5%、SnO 0〜0.9%、V0.01〜0.4%を含有し、AsおよびSbを実質的に含有しない組成を有し、
900℃で50時間熱処理した後の波長700nmにおける吸光度変化率が20%以下であることを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項7】
請求項4から6の何れかに記載の結晶化ガラスを用いてなる調理器用トッププレート。

【公開番号】特開2013−103866(P2013−103866A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250257(P2011−250257)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】