説明

結晶化ガラス

【課題】製造時におけるガラス溶融の熱履歴が変動した場合であっても可視光透過特性のばらつきが小さく、かつ、長期にわたる使用によっても色合いが変化しにくい結晶化ガラスを提供する。
【解決手段】ガラス組成として、質量%で、SiO 55〜73%、Al 17〜25%、LiO 2〜5%、TiO 2.5〜5.5%、ZrO 0〜2.3%、SnO 0.2〜0.9%、V 0.005〜0.09%を含有し、AsおよびSbを実質的に含有しないことを特徴とする結晶化ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はIH(電磁加熱装置)、ハロゲンヒータ等を熱源とする調理器のトッププレートに使用される結晶化ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
IH、ハロゲンヒータ等を熱源とする調理器に用いられるトッププレートには、破損しにくい(機械的強度および耐熱衝撃性が高い)こと、外観が美しいこと、腐食しにくい(化学的耐久性が高い)こと、熱線である赤外線の透過率が高いことなどが要求される。このような特性を満たす材料として、β−石英固溶体(LiO−Al−nSiO(n≧2))を主結晶とする低膨張透明結晶化ガラスが挙げられ、調理器用トッププレートとして用いられている。
【0003】
低膨張透明結晶化ガラスは、各種ガラス原料を所定割合で混合する調合工程、1600〜1900℃の高温でガラス原料を溶融して均質化された流体とする溶融工程、各種方法により種々の形状に成形する成形工程、歪みを除去するアニール工程、微細な結晶を析出させる結晶化工程を経ることにより製造される。結晶化工程には、結晶の核となる微結晶を析出させる核形成の工程と、結晶を成長させる結晶成長工程が含まれる。
【0004】
このようにして製造された低膨張透明結晶化ガラスは、概して可視光に対して透明であるため、そのままトッププレートとして使用すると、当該トッププレート下方に配置されている調理器内部構造が直接見えてしまい、外観性に劣る。そのため、Vなどの着色剤によって結晶化ガラス自体を着色したり(例えば、特許文献1参照)、結晶化ガラス表面に遮光膜を形成したり(例えば、特許文献2参照)して、可視光を十分遮蔽した状態で使用される。
【0005】
ところで、Vなどの着色剤によるガラスの着色は、清澄剤として使用されるAsやSbとの相互作用により生じる(強められる)と考えられている。ところが、AsやSbは環境負荷が大きいとして、近年、その使用が制限されつつある。従来のガラス組成から単純にAsやSbを除外すると、着色剤による発色効率が低下する傾向がある。着色剤の量を増やすことで可視光遮蔽効果を向上させることも可能であるが、当該方法によると赤外線透過率が低下するという問題がある。赤外線透過率が低下すると、調理性能が低下するのはもちろんのこと、所望の加熱特性を得るためには、熱源の熱エネルギーを大きくする必要があるため、省エネルギーの観点からも好ましくない。
【0006】
一方、着色剤の発色効率を高める成分として、AsやSbに替えて、例えばSnO等を添加することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。当該方法によれば、環境負荷が少なく、赤外線透過性および可視光遮蔽性に優れたトッププレートを得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平3−9056号公報
【特許文献2】特開2003−68435号公報
【特許文献3】特表2004−523446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3に記載の結晶化ガラスは、製造時におけるガラス溶融の熱履歴の変化に応じて、可視光透過特性のばらつきが大きいという問題がある。また、長期にわたって使用すると、色合いが変化するという問題がある。
【0009】
したがって、本発明は、製造時におけるガラス溶融の熱履歴が変動した場合であっても可視光透過特性のばらつきが小さく、かつ、長期にわたる使用によっても色合いが変化しにくい結晶化ガラスを提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ガラス組成として、質量%で、SiO 55〜73%、Al 17〜25%、LiO 2〜5%、TiO 2.5〜5.5%、ZrO 0〜2.3%、SnO 0.2〜0.9%、V 0.005〜0.09%を含有し、AsおよびSbを実質的に含有しないことを特徴とする結晶化ガラスに関する。
【0011】
本発明の結晶化ガラスは、上記組成範囲を満たすことにより、製造時におけるガラス溶融の熱履歴が変動しても可視光透過特性のばらつきが小さく、また、長期にわたる使用によっても色合いが変化しにくいという効果を奏することができる。その機構を以下に説明する。
【0012】
ガラス中において、Vイオンは主に3〜5価の状態で存在するが、結晶化ガラスの着色は、マトリックスガラス相に存在する4価のVイオンに起因して生じると推測される。さらに、4価のVイオンがマトリックスガラス相に存在するTiOと結合すると、着色の程度がさらに強まる(可視光透過率が低下する)ことがわかっている。このように、結晶化ガラスの着色は、マトリックスガラス相における4価のVイオンとTiOの量に大きく影響される。
【0013】
一方で、Vイオンの価数は、Snの存在(特に、Snイオンの酸化還元作用)により変化することがわかっている。即ち、VとSnOの混合割合が着色の程度に影響を与えると考えられる。本発明では、VとSnOの混合割合を上記範囲のようにVイオンに対してSnイオンの数を過剰にすることにより、溶融時の熱履歴によって一部のSnイオンの酸化状態が変化したとしても、酸化状態が変化しないSnイオンがVイオンに対して過剰量存在するため、4価のVイオンの量が変化しにくい。よって、溶融条件が変化しても、可視光透過特性が変化しにくくなる。
【0014】
また、本発明の結晶化ガラスを、例えば調理器用トッププレート等の加熱を伴う用途に長期にわたって使用した場合、結晶化がさらに進行する。結晶化が進行すると、マトリックスガラス組成が変化し、マトリックスガラス相において、結晶組成に寄与しない4価のVイオンおよびTiOの濃度が相対的に高まる。その結果、4価のVイオンとTiOの結合状態が変化し、可視領域における透過率が変化することになる。本発明の結晶化ガラスでは、4価のVイオンに対してTiOが過剰に存在しているため、長期使用によるマトリックスガラス組成の変化に対しても、4価のVイオンとTiOの結合状態が変化しにくく、可視光透過率が変化しにくいという特徴も有する。
【0015】
なお、AsおよびSbは環境負荷が大きく、近年、その使用が制限されつつある。本発明の結晶化ガラスは、これらの成分を実質的に含有しないため、廃棄時における環境負荷を低減できる。本発明において、「AsおよびSbを実質的に含有しない」とは、不可避の不純物を除き、これらの成分を意図して添加しないことを意味し、具体的には各成分の含有量が0.1%未満(特に、0.01%未満)であることを意味する。
【0016】
第二に、本発明の結晶化ガラスにおいて、TiO+SnOが2.7〜6%であることが好ましい。
【0017】
第三に、本発明の結晶化ガラスは、さらに、MgO 0〜2%、ZnO 0〜2%を含有することが好ましい。
【0018】
第四に、本発明の結晶化ガラスにおいて、LiO+MgO+ZnOが3〜6%であることが好ましい。
【0019】
第五に、本発明の結晶化ガラスは、調理器用トッププレートに用いられることが好ましい。
【0020】
第六に、本発明は、ガラス組成として、質量%で、SiO 55〜73%、Al 17〜25%、LiO 2〜5%、TiO 2.5〜5.5%、ZrO 0〜2.3%、SnO 0.2〜0.9%、V 0.005〜0.09%を含有し、AsおよびSbを実質的に含有しないことを特徴とする結晶性ガラスに関する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の結晶化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 55〜73%、Al 17〜25%、LiO 2〜5%、TiO 2.5〜5.5%、ZrO 0〜2.3%、SnO 0.2〜0.9%、V 0.005〜0.09%を含有し、AsおよびSbを実質的に含有しないことを特徴とする。
【0022】
このように組成を限定した理由を以下に説明する。なお、以下の成分含有量の説明において、「%」は特に断りのない限り「質量%」を示す。
【0023】
SiOはガラスの骨格を形成するとともに、β−石英固溶体結晶を構成する成分である。SiOの含有量は55〜73%、60〜71%、特に63〜70%であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、熱膨張係数が高くなる傾向にあり、耐熱衝撃性に優れた結晶化ガラスが得られにくくなる。また、化学的耐久性が低下する傾向にある。一方、SiOの含有量が多すぎると、ガラスの溶融性が低下したり、ガラス融液の粘度が高くなったりして、ガラスの成形が困難になる傾向がある。
【0024】
Alはガラスの骨格を形成するとともに、β−石英固溶体結晶を構成する成分である。Alの含有量は17〜25%、17.5〜24%、特に18〜22%であることが好ましい。Alの含有量が少なすぎると、熱膨張係数が高くなる傾向にあり、耐熱衝撃性に優れた結晶化ガラスが得られにくくなる。また、化学的耐久性が低下する傾向にある。一方、Alの含有量が多すぎると、ガラスの溶融性が低下したり、ガラス融液の粘度が高くなったりして、ガラスの成形が困難になる傾向がある。また、ムライト結晶の析出によりガラスが失透する傾向があり、失透部位からガラスにクラックが発生しやすくなるため、成形が困難になる傾向がある。
【0025】
LiOはβ−石英固溶体を構成する成分であり、結晶性に大きな影響を与えるとともに、ガラスの粘性を低下させて、溶融性および成形性を向上させる成分である。LiOの含有量は2〜5%、2.3〜4.7%、特に2.5〜4.5%であることが好ましい。LiOの含有量が少なすぎると、ムライト結晶の析出によってガラスが失透する傾向があり、失透部位からガラスにクラックが発生しやすくなるため、成形が困難になる傾向がある。また、ガラスを結晶化させる際に、β−石英固溶体結晶が析出しにくくなり、耐熱衝撃性に優れた結晶化ガラスが得られにくくなる。さらに、ガラスの溶融性が低下したり、ガラス融液の粘度が高くなったりする傾向にあり、ガラスの成形が困難になる傾向がある。一方、LiOの含有量が多すぎると、結晶性が強くなりすぎて結晶化工程において粗大結晶が析出しやすくなる。その結果、白濁して透明な結晶化ガラスが得られなくなったり、破損しやすくなって成形が困難になる傾向がある。
【0026】
TiOは結晶化工程で結晶を析出させるための結晶核を構成する成分であるとともに、4価のVイオンの発色を強める作用を有する。TiOの含有量は2.5〜5.5%、2.6〜5.2%、2.8〜5.0%、特に3〜4.8%であることが好ましい。TiOの含有量が少なすぎると、マトリックスガラス相に残留するTiO量が少なくなるため、4価のVイオンと結びつきにくく、発色効率が低下する傾向がある。一方、TiOの含有量が多すぎると、溶融工程から成形工程においてガラスが失透して破損しやすくなるため、成形が困難になる傾向がある。
【0027】
ZrOは、TiOと同様に結晶化工程で結晶を析出させるための結晶核を構成する成分である。ZrOの含有量は0〜2.3%、0〜2.1%、特に0.1〜1.8%であることが好ましい。ZrOの含有量が多すぎると、溶融工程から成形工程においてガラスが失透して破損しやすくなるため、成形が困難になる傾向がある。
【0028】
なお、TiOとZrOの合量は3.8〜6.5%、特に4.2〜6%であることが好ましい。これらの成分の合量が多すぎると、溶融工程から成形工程においてガラスが失透して破損しやすくなるため、成形が困難になる傾向がある。一方、これらの成分の合量が少なすぎると、結晶核が十分に形成されないため、結晶が粗大化しやすく、結果として、白濁して透明な結晶化ガラスが得られにくくなる。
【0029】
SnOは着色成分である4価のVイオンを増加させて発色を強める成分であるとともに清澄作用を有する。SnOの含有量は0.2〜0.9%、0.2〜0.85%、0.25〜0.8%、特に0.28〜0.7%であることが好ましい。SnOの含有量が少なすぎると、4価のVイオンが効率よく生成しないため発色効果が強まりにくい。また、溶融条件が変化した場合に、可視光透過特性が変化しやすくなる。SnOの含有量が多すぎると、溶融工程から成形工程においてガラスが失透して破損しやすくなるため、成形が困難になる傾向がある。
【0030】
なお、TiOとSnOは合量で2.7〜6%、特に3〜5.5%であることが好ましい。これらの成分の合量が少なすぎると、Vイオンの発色効果が強まりにくい。一方、これらの成分の合量が多すぎると、溶融工程から成形工程においてガラスが失透して破損しやすくなるため、成形が困難になる傾向がある。
【0031】
は着色成分である。Vの含有量は0.005〜0.09%、0.015〜0.08%、0.025〜0.07%、特に0.028〜0.06%であることが好ましい。Vの含有量が少なすぎると、着色が不十分となり可視光を十分に遮蔽できなくなる。一方、Vの含有量が多すぎると、赤外線透過率が低下する傾向がある。また、β−石英固溶体からβ−スポジュメン固溶体に結晶転移しやすくなり、白濁の原因となるおそれがある。
【0032】
なお、SnOとVの含有量が上記範囲を満たし、かつ、SnO+10Vの値が0.55%以上、特に0.6%以上であれば、着色が十分となり、可視光遮蔽性に優れたものになりやすい。
【0033】
SnOとVの含有量の比(SnO/V:質量比)は、5.8以上、特に6.5以上であることが好ましい。SnO/Vが小さすぎると、溶融条件を変化させた際に可視光透過特性が変動しやすくなる。
【0034】
なお、AsおよびSbは環境負荷物質であるため、本発明の結晶化ガラスは、これらの成分は実質的に含有しない。
【0035】
本発明の結晶化ガラスには、上記以外にも、要求される特性を損なわない範囲で以下の成分を添加することができる。
【0036】
MgOは、LiOの替わりにβ−石英固溶体結晶に固溶する成分である。MgOはLiOよりも熱膨張係数を大きくする効果が大きいため、MgOを積極的に添加することにより、結晶化ガラスの熱膨張係数を調整することが可能となる。また、MgOがβ−石英固溶体結晶に固溶すると、β−石英固溶体結晶がβ−スポジュメン結晶に転移することを抑制できる。これにより、β−スポジュメン結晶の析出に起因する局所的な熱膨張係数の増大によって、結晶化ガラスが破損することを抑制できる。MgOの含有量は0〜2%、0〜1.7%、特に0.1〜1.5%であることが好ましい。MgOの含有量が多くなると、結晶性が強くなりすぎて失透する傾向にあり、その結果、ガラスが破損しやすくなって成形が困難になる。
【0037】
ZnOは、MgOと同様にβ−石英固溶体結晶に固溶する成分である。MgOと同様に、ZnOを添加することにより、結晶化ガラスの熱膨張係数を調整することが可能となる。また、β−石英固溶体結晶がβ−スポジュメン結晶に転移することを抑制できるため、β−スポジュメン結晶の析出に起因する局所的な熱膨張係数の増大によって、結晶化ガラスが破損することを抑制できる。ZnOの含有量は0〜2%、0〜1.7%、特に0.1〜1.5%であることが好ましい。ZnOの含有量が多くなると、結晶性が強くなりすぎる傾向がある。そのため、緩やかに冷却しながら成形すると、ガラスが失透して破損しやすくなるため、例えばフロート法での成形に不向きとなる。
【0038】
なお、LiO、MgO、ZnOは合量で3〜6%、特に3.5〜5.5%であることが好ましい。これらの成分の合量が少なすぎると、ムライト結晶の析出によってガラスが失透する傾向があり、失透部位からガラスにクラックが発生しやすくなるため、成形が困難になる傾向がある。また、ガラスを結晶化させる際に、β−石英固溶体結晶が析出しにくくなり、耐熱衝撃性に優れた結晶化ガラスが得られにくくなる。さらに、ガラスの溶融性が低下したり、ガラス融液の粘度が高くなったりする傾向にあり、ガラスの成形が困難になる傾向がある。一方、これらの成分の合量が多すぎると、結晶性が強くなりすぎて結晶化工程において粗大結晶が析出しやすくなる。その結果、白濁して透明な結晶化ガラスが得られなくなったり、破損しやすくなって成形が困難になる傾向がある。
【0039】
はガラスの分相を促進する成分である。結晶核はガラスが分相する場所に生じやすいことから、Pは結晶核の形成を助ける働きをする。Pの含有量は0〜2%、特に0.1〜1%であることが好ましい。Pの含有量が多くなると、溶融工程において分相するため、所望の組成を有するガラスが得られにくくなるとともに、不透明となる傾向がある。
【0040】
NaOはガラスの粘性を低下させて、ガラス溶融性および成形性を向上させる成分である。NaOの含有量は0.5%以下、0.3%以下、特に0.2%以下であることが好ましい。NaOの含有量が多すぎると、β−石英固溶体からβ−スポジュメン固溶体への結晶転移が促進されるため、結晶の粗大化による白濁が発生しやすい。また、熱膨張係数が高くなる傾向にあり、耐熱衝撃性に優れた結晶化ガラスが得られにくくなる。
【0041】
ガラスの粘性を低下させて、溶融性および成形性を向上させるために、KO、CaO、SrOおよびBaOを合量で5%まで添加することが可能である。なお、CaO、SrOおよびBaOは、ガラスを溶融する際に、失透を引き起こす成分でもあるため、これら成分は合量で2%以下とすることが好ましい。また、CaOはβ−石英固溶体からβ−スポジュメン固溶体への結晶転移を促進する作用を有するためなるべく使用を控えたほうがよい。
【0042】
清澄剤として、SOやClを必要に応じて単独でまたは組み合わせて添加してもよい。これらの成分の合量は0.5%以下とすることが好ましい。特に、Clは清澄性に優れ、また、Vイオンの発色を強める効果も有する。
【0043】
Ti、Zr、V以外の有色遷移金属元素(例えばCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Cd等)は、赤外線を吸収したり、Snイオンの還元能が失われる(当該有色遷移金属元素がSnイオンと反応し、結果としてVイオンとSnイオンの反応が阻害される)おそれがあるとともに、Snイオンと結びついて各有色遷移金属イオンの発色を強める効果があるため、できる限り含有しないことが好ましい。具体的には、これらの成分は1000ppm以下、500ppm以下、特に300ppm以下に制限することが好ましい。
【0044】
本発明の結晶化ガラスの原料である結晶性ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 55〜73%、Al 17〜25%、LiO 2〜5%、TiO 2.5〜5.5%、ZrO 0〜2.3%、SnO 0.2〜0.9%、V 0.005〜0.09%を含有し、AsおよびSbを実質的に含有しないことを特徴とする。
【0045】
このように組成限定した理由および好ましい組成範囲、さらに含有可能な他の成分等については、結晶化ガラスについて説明した既述のものを適用することができる。
【0046】
本発明の結晶化ガラスは、以下のようにして製造することができる。
【0047】
まず、上記組成となるように各種ガラス原料を調合する。次に、調合したガラス原料を例えば1600〜1900℃の温度で溶融した後、成形し、結晶性ガラスを得る。なお、成形方法としては、ブロー法、プレス法、ロールアウト法、フロート法等の様々な成形方法を適用することが可能である。結晶性ガラスをアニールした後、例えば700〜800℃で結晶核を形成させ、続いて800〜900℃でβ−石英固溶体結晶を成長させて結晶化ガラスを得る。
【0048】
このようにして製造された結晶化ガラスには、切断、研磨、曲げ加工、リヒートプレス等の後加工を施してもよく、表面に絵付けや膜付け等を施してもよい。
【0049】
本発明の結晶化ガラスは、3mm厚において波長700nmにおける透過率が35%以下、特に30%以下であることが好ましい。それにより調理器の内部構造を十分に遮蔽することが可能となる。一方で、LED等の発光表示装置を結晶化ガラス板の下部に配置し、結晶化ガラス板を介して温度や火力などを表示する場合は、3mm厚において波長700nmにおける透過率が5%以上、10%以上、特に15%以上であることが好ましい。それにより、例えばIH等の調理器のトッププレートに用いた場合、発光表示装置による表示を、結晶化ガラス板を介して十分に視認することが可能となる。
【0050】
また、本発明の結晶化ガラスは、3mm厚において波長1150nmにおける透過率が85%以上、さらには86%以上であると熱線(赤外線)を効率的に透過できるため好ましい。
【0051】
なお、調理器用トッププレートのような加熱と伴う用途に長期間使用しても、可視光透過率が変化しにくいことが好ましい。具体的には、本発明の結晶化ガラスは、加速試験として900℃で50時間熱処理した後の波長700nmにおける吸光度の変化率が10%以下、8%以下、特に5%以下であることが好ましい。吸光度の変化率は以下のようにして算出される。
【0052】
吸光度=−log10(透過率(%)/100)
吸光度変化率=(熱処理後の吸光度−熱処理前の吸光度)/熱処理前の吸光度×100(%)
本発明の結晶化ガラスの30〜750℃の温度範囲での熱膨張係数は、−10〜30×10−7/℃、特に−10〜20×10−7/℃であることが好ましい。熱膨張係数が当該範囲にあると、耐熱衝撃性に優れたガラスとなる。なお、本発明において、熱膨張係数はディラトメーターにより測定した値をいう。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
表1〜4は、本発明の実施例(No.1〜11、16、17)と比較例(No.12〜15)を示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
まず、表1〜4に記載の組成となるようにガラス原料を調合した。調合したガラス原料を白金坩堝に投入し、以下の溶融条件1〜3で溶融を行った。
【0060】
溶融条件1:1600℃で24時間溶融
溶融条件2:1600℃で20時間、さらに1700℃で4時間溶融
溶融条件3:1500℃で20時間、さらに1600℃で4時間溶融
【0061】
カーボン板の上に5mm厚の2本のスペーサーを載置し、スペーサーの間に溶融ガラスを流し出すとともに、ローラーにて均一の厚みの板状に成形した。得られた板状試料を700℃に保持した電気炉に投入して30分保持し、その後10時間以上かけて炉内で室温まで冷却(アニール)した。
【0062】
次いで、冷却後の試料を電気炉内で加熱することにより結晶化ガラスを得た。加熱プロファイルは、核形成段階が770℃で3時間、結晶成長段階が880℃で1時間とした。
【0063】
得られた結晶化ガラスについて、可視および赤外領域における透過率、清澄性、失透性について評価した。
【0064】
透過率は、各結晶化ガラスを、両面を鏡面研磨した3mm厚の試料に加工し、分光光度計(日本分光株式会社製 V−760)を用いて700nmおよび1150nmについて測定した。測定条件は、測定範囲1500〜380nm、スキャンスピード200nm/分とした。また、900℃で50時間の熱処理(加速試験)を行なった試料についても同様に透過率を測定した。
【0065】
また、各試料の透過率から既述の計算式にしたがって吸光度を算出するとともに、溶融条件1〜3で得られた各結晶化ガラスについて波長700nmにおける吸光度ばらつきを求めた。さらに、溶融条件1で得られた結晶化ガラスについて、加速試験前後の波長700nmにおける吸光度変化率を求めた。なお、吸光度ばらつきは以下の計算式にしたがって求めた。
【0066】
吸光度ばらつき=(吸光度max−吸光度min)/吸光度min×100(%)
(ここで、溶融条件1〜3で得られた結晶化ガラスについて測定した波長700nmにおける吸光度のうち、最大値を「吸光度max」、最小値を「吸光度min」とする。)
【0067】
清澄性の評価は、試料100g当たりの泡数を算出し、試料100g当たりの泡数が0個のものを「A」、泡数が0個より多く2個未満のものを「B」、泡数が2〜5個未満のものを「C」、泡数が5〜10個未満のものを「D」、泡数が10個以上のものを「E」として評価した。なお、泡数が少ないほど、ガラス中に残存する泡が少なく、清澄性に優れていることを示している。
【0068】
耐失透性は、1350℃に設定した電気炉内にて、白金箔の上に各試料を載置した状態で24時間保持し、失透物が生じるか否かで評価した。失透物が確認されなければ「○」、失透物が確認された場合は「×」とした。
【0069】
表1〜4から明らかなように、実施例であるNo.1〜11、16、17の結晶化ガラスは、溶融条件を変化させても可視光透過率(吸光度)特性の変化が小さく、可視域の光を十分に遮蔽できるとともに高い赤外線透過率を有していることがわかる。また、長期間にわたる使用を想定した加速試験においても可視域における透過率変化が小さいことがわかる。
【0070】
一方、比較例であるNo.12は耐失透性に劣っていた。また、No.13、15の結晶化ガラスは、溶融条件の違いによる可視光透過特性の変化、および、加速試験前後における可視光透過率特性の変化のいずれも大きかった。No.14の結晶化ガラスは、着色剤であるVの含有量が少なすぎるため、700nmにおける透過率が83.5%と非常に大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の結晶化ガラスは、IH、ハロゲンヒーター、電熱線、ガス等の調理器のトッププレートとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO 55〜73%、Al 17〜25%、LiO 2〜5%、TiO 2.5〜5.5%、ZrO 0〜2.3%、SnO 0.2〜0.9%、V 0.005〜0.09%を含有し、AsおよびSbを実質的に含有しないことを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項2】
TiO+SnOが2.7〜6%であることを特徴とする請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
さらに、MgO 0〜2%、ZnO 0〜2%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の結晶化ガラス。
【請求項4】
LiO+MgO+ZnOが3〜6%であることを特徴とする請求項3に記載の結晶化ガラス。
【請求項5】
調理器用トッププレートに用いられることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項6】
ガラス組成として、質量%で、SiO 55〜73%、Al 17〜25%、LiO 2〜5%、TiO 2.5〜5.5%、ZrO 0〜2.3%、SnO 0.2〜0.85%、V 0.005〜0.09%を含有し、AsおよびSbを実質的に含有しないことを特徴とする結晶性ガラス。

【公開番号】特開2012−148958(P2012−148958A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259886(P2011−259886)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】