説明

結晶基板の検査方法

【課題】本発明は、結晶基板の検査方法に関するもので、結晶の検査工程に要する時間を短縮することを目的とするものである。
【解決手段】準備工程として、結晶基板に樹脂溶液を塗布する第1の工程と、検査工程として、前記樹脂溶液を塗布した結晶基板を検査装置に固定し、検査を行い、その後、結晶基板を検査装置から取り外す第2の工程と、検査後工程として、検査装置から取り外された結晶基板を樹脂除去溶媒に浸漬し、結晶基板表面の樹脂を除去する第3の工程と、を備えた結晶基板の検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶基板の検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、結晶基板は、以下の様にして検査されていた。
【0003】
すなわち、検査工程として、結晶基板を検査装置に固定し、検査装置で結晶基板を検査し、結晶基板を検査装置より取り外す第2の工程と、取り外した結晶基板を研磨する第3の工程と、を備えた検査方法となっていた。
【0004】
基板の検査方法についての先行文献としては、導電性の基板を検査装置に固定する際に、基板に対して必要以上の応力がかからないように基板の導電状態をモニターしながら固定する方法もあった(例えば、これに類似する技術は下記特許文献1に記載されている)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−106606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来例における課題は、検査に時間がかかってしまうことであった。
【0007】
すなわち、従来例においては、検査装置に固定する際に、結晶基板の表面を傷つけてしまうことが多く、検査装置から取り外した後工程として、結晶基板の表面を研磨する等の必要があった。この工程には、長時間かかってしまう。例えば、窒化物結晶基板においては、1日を要してしまうため、検査後の研磨工程を行うことによって時間がかかってしまうのであった。
【0008】
そこで本発明は、検査時間を短縮することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、この目的を達成するために本発明は、準備工程として、結晶基板に樹脂溶液を塗布する第1の工程と、検査工程として、前記樹脂溶液を塗布した結晶基板を検査装置に固定し、検査を行い、その後、結晶基板を検査装置から取り外す第2の工程と、検査後工程として、検査装置から取り外された結晶基板を樹脂除去溶媒に浸漬し、結晶基板表面の樹脂を除去する第3の工程と、を備えたことにより、所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明は、準備工程として、結晶基板に樹脂溶液を塗布する第1の工程と、検査工程として、前記樹脂溶液を塗布した結晶基板を検査装置に固定し、検査を行い、その後、結晶基板を検査装置から取り外す第2の工程と、検査後工程として、検査装置から取り外された結晶基板を樹脂除去溶媒に浸漬し、結晶基板表面の樹脂を除去する第3の工程と、を備えたので、結晶基板の検査時間を短縮することができる。
【0011】
すなわち、本発明においては、検査装置に固定する前に、結晶基板の表面に樹脂溶液を塗布して、保護膜を形成しておくことで、検査装置に固定する際の損傷を防止し、検査後にこの保護膜を除去する工程となっているので、検査後に、結晶基板の傷を取るための研磨工程が必要でなくなるので、検査時間を大幅に短縮することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】X線単結晶方位測定装置のホルダー部に単結晶基板を固定した図
【図2】スピンコーターによる樹脂塗布の図
【図3】スピンコーター回転速度と保護膜の膜厚の関係を示す図
【図4】X線単結晶方位測定装置の図
【図5】X線単結晶方位測定装置のホルダー部を示す図
【図6】単結晶基板の方位評価部位を示す図
【図7】単結晶基板の方位測定結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態をIII族窒化物結晶の一例としてIII族窒化物結晶基板の検査方法として適用したものを、添付図面を用いて説明する。
【0014】
最初に、結晶基板に樹脂溶液を塗布する第1の工程について説明する。
【0015】
結晶基板1として、窒化ガリウム単結晶基板を用い、これを図2に示すようにスピンコーター3へ真空吸着によって固定する。固定された当該単結晶基板1に樹脂溶液2を滴下し、所定の回転速度で回転させ、スピンコート法により樹脂溶液2を塗布する。さらに、加熱したホットプレートに当該基板を静置し、塗布した樹脂溶液を乾燥定着させた。
【0016】
図3はスピンコーターの回転速度と樹脂の膜厚の関係を示す。図3に示すようにスピンコート法は、当該基板に対し、樹脂薄膜を形成するのに優れた方法である。しかしながら、塗布方法はスピンコート法に限るものではなく、ディップコート法、スプレーコート法あるいは真空蒸着法等の気相法でもよい。このうち、ディップコート法、スプレーコート法は当該単結晶基板1のオリフラへの塗布に適した方法であり、スピンコート法同様、本発明の実施形態に適した手法である。
【0017】
また、使用する樹脂等の保護膜の硬度(Hp)は、当該単結晶基板(H)より低いものを使用する(Hp<H)。これは、保護膜剥離片等により、基板表面の損傷を防止するためである。また、当該保護膜は樹脂に限るものではなく、当該単結晶基板1の表面を保護できる材質であれば、低分子系、無機系のものでも適用できる。
【0018】
次に、検査工程として、前記樹脂溶液を塗布した結晶基板を検査装置に固定し、検査を行い、その後、結晶基板を検査装置から取り外す第2の工程について説明する。
【0019】
図4はX線単結晶方位測定装置である。本実施形態での装置は、単結晶基板1を保持するホルダー部7、単結晶基板1にX線を照射するX発生部4及び結晶から回折された回折X線を検出するX線検出部5を備えている。
【0020】
単結晶基板1は、円柱形状の窒化ガリウムインゴットにオリフラを形成したのち、所定の厚みにスライスされている。この基板をさらに、研削工程、機械研磨工程、CMP工程にかけ、洗浄した後、前述の樹脂塗布を行う。
【0021】
単結晶基板1を保持するホルダー部7は、単結晶の方位を正確に測定するため、図5に示すような盤面が平坦であり、ステンレス等の硬質金属でできている。また、この盤面には真空吸着機構が設けられており、図1に示すように単結晶基板1は本機構により固定され、さらには磁石等を単結晶基板の背面に当て、押圧することにより基板が固定される。
【0022】
このように構成されたX線単結晶方位測定装置を用いて、保護膜付き窒化ガリウム単結晶基板の平面方向(001)面における結晶方位のずれ、即ちオフ角を評価した。
【0023】
まず、当該単結晶基板1の(001)面を、単結晶基板を保持するホルダー部盤面7に真空吸着により固定する。さらに、当該単結晶基板の裏面から、磁石を当て、当該単結晶基板1をホルダー部に押圧し、強固に固定した。
【0024】
これにX線発生部4から照射されたX線6が当該単結晶基板1の(001)面に対して入射し、回折されたX線がX線検出部5で検出される。そして、ホルダー部7を回転させて、X線検出部5で検出される回折X線の強さがピークになる時の回転角度を探す。これを、当該単結晶基板の(001)面の複数の箇所にて行い、オフ角の面内分布を評価した。
【0025】
保護膜の測定値に対する影響を調べるために、単結晶基板1に保護膜を設けた場合(保護膜厚み5μm)、保護膜無しの場合のそれぞれのオフ角を評価した。図7に評価結果を示す。なお、図6は評価部位を示す図である。図7のように、測定点5箇所の内、(−15、0)及び(0、−15)の2箇所で角度は完全に一致し、他の3箇所についても測定値の差異は0〜0.04度と、有意な差は観察されず保護膜の測定値への影響は無いことが確認できた。
【0026】
従来、基板の表面を検査するX線検査において、表面は結晶材料が露出した状態でないと検査ができない、もしくは測定誤差がでるとの考え方から、結晶材料が露出した状態で、装置ホルダー部盤面と結晶表面を圧着させ測定評価を行っていた。その過程で基板表面に傷が発生した場合には、再研磨を行うことにより、発生した傷を除去していた。しかしながら、上記のように結晶表面に樹脂等で保護膜10を設け、それが存在する場合でも、保護膜材質、膜厚を制御することにより、X線検査が可能であることを見出し、傷の発生を防止しながら従前通りの正確なX線検査測定を可能にした。
【0027】
また、本方法は窒化ガリウム基板だけでなく、また、従来の方法(特開2005−106606)の様に基板の導電性も不要であるため、結晶基板全般に適用可能な汎用性の高い技術である。
【0028】
また、使用する保護膜は、下記式1を満たすことが求められる。これは、X線の吸収が保護膜の密度、厚みに依存するため、保護膜で吸収されて測定できなくなることを防ぐためであり、下記式1を満たすことにより、正確なX線評価が可能となる。
【0029】
0<Iexp(−μx/ρ) (式1)
(ここで、IはX線初期強度、μは線吸収係数、xは保護膜の厚み、ρは保護膜の密度を示す。)
また、本発明の実施形態では、前記(001)面のような平面方向だけでなく、オリフラのような縦断面についても同様に樹脂を塗布することにより適用できるものである。
【0030】
次に、検査後工程として、検査装置から取り外された結晶基板を樹脂除去溶媒に浸漬し、結晶基板表面の樹脂を除去する第3の工程について説明する。
【0031】
検査装置から取り外した窒化ガリウム単結晶基板1を、ウエハートレーに装填し、これを有機溶剤が満たされた超音波洗浄機に入れ、10分間超音波洗浄を行った。有機溶剤を適宜交換しながら、超音波洗浄を数回行った後、ウエハートレーを取り出し、窒素ブローすることにより当該単結晶基板1を乾燥させた。
【0032】
なお、洗浄方法は、超音波洗浄に限るものではなく、溶媒に浸漬した状態で溶媒を撹拌させる撹拌洗浄、溶媒で湿潤させたウエス等で拭き取る方法もしくはドライエッチング等を用いることができる。また、溶媒は有機溶媒に限るものではなく、樹脂を除去できる良溶媒であれば、酸もしくはアルカリ溶媒等を用いることができる。
【0033】
次に、樹脂を除去した当該単結晶基板1について、目視検査及び金属顕微鏡による外観検査を20枚行った。目視検査については、2000ルクスの照度下で、金属顕微鏡検査については、観察倍率を100倍として検査を行った。樹脂が塗布された基板については、スクラッチ傷、チッピング等の基板の損傷は無かった。一方、比較として、樹脂を塗布していない基板20枚について同様の評価を行った結果、16枚について、スクラッチ傷もしくはチッピング等の損傷が観察された。
【0034】
また、損傷が観察された上記16枚について、再研磨を実施したところ、損傷が除去され初期の鏡面状態に戻るまで、最短で7時間、最長で30時間、全16枚の平均で17時間を要した。一方、本発明の方法によれば、樹脂溶液の塗布工程10分、乾燥工程5分、樹脂を除去する工程10分の合計25分で完了し、大幅な時間短縮が可能となる。さらに、本発明の実施形態での方法は、再研磨時のような処理時間のロット間バラツキが殆ど生じないため、工程管理が非常に容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上のように本発明は、準備工程として、結晶基板に樹脂溶液を塗布する第1の工程と、検査工程として、前記樹脂溶液を塗布した結晶基板を検査装置に固定し、検査を行い、その後、結晶基板を検査装置から取り外す第2の工程と、検査後工程として、検査装置から取り外された結晶基板を樹脂除去溶媒に浸漬し、結晶基板表面の樹脂を除去する第3の工程と、を備えたので、結晶基板の検査時間を短縮することができる。
【0036】
すなわち、本発明においては、検査装置に固定する前に、結晶基板の表面に樹脂溶液を塗布して、保護膜を形成しておくことで、検査装置に固定する際の傷つけることを防止し、検査後にこの保護膜を除去する工程となっているので、検査後に、結晶基板の傷を取るための研磨工程が必要でなくなるので、検査時間を短縮することができるのである。
【0037】
したがって、たとえば、窒化物結晶基板のみならず結晶基板の検査方法として広く活用が期待されるものである。
【符号の説明】
【0038】
1 単結晶基板
2 樹脂溶液
3 スピンコーター
4 X線発生部
5 X線検出部
6 X線
7 ホルダー部
8 X線通過用貫通孔
9 真空吸着用貫通孔
10 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
準備工程として、結晶基板に樹脂溶液を塗布する第1の工程と、
検査工程として、前記樹脂溶液を塗布した結晶基板を検査装置に固定し、検査を行い、その後、結晶基板を検査装置から取り外す第2の工程と、
検査後工程として、検査装置から取り外された結晶基板を樹脂除去溶媒に浸漬し、結晶基板表面の樹脂を除去する第3の工程と、を備えた結晶基板の検査方法。
【請求項2】
前記第1の工程と、第2の工程の間に、結晶基板上の樹脂溶液を乾燥固化させる工程を備えた請求項1に記載の結晶基板の検査方法。
【請求項3】
前記第1の工程の塗布方法は、スピンコート法である請求項1または2に記載の結晶基板の検査方法。
【請求項4】
前記第1の工程の塗布方法は、ディップ(浸漬)コート法である請求項1または2に記載の結晶基板の検査方法。
【請求項5】
前記第1の工程の塗布方法は、スプレーコート法である請求項1または2に記載の結晶基板の検査方法。
【請求項6】
前記第2の工程の検査装置は、X線検査装置である請求項1から5のいずれか一つに記載の結晶基板の検査方法。
【請求項7】
前記結晶基板は窒化物結晶基板である請求項1から6のいずれか一つに記載の結晶基板の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−179998(P2011−179998A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45157(P2010−45157)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】