説明

結晶性ガラス組成物およびそれを用いた接着材料

【課題】熱処理後に高い熱膨張係数を示すとともに、流動性に優れ、また、長期間に亘って高温に晒されても、接着箇所の気密性や接着性の低下や、ガラス成分の揮発が発生しにくい結晶性ガラス組成物を提供する。
【解決手段】熱処理によって、主結晶としてMgO系結晶を析出する結晶性ガラス組成物であって、ガラス組成としてモル%で、La+Nb+Y+Ta+Yb 0.1〜30%を含有し、かつ、RO(RはLi、NaまたはKを示す)およびPを実質的に含有しないことを特徴とする結晶性ガラス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性ガラス組成物に関し、より具体的にはSUSやFeといった金属や、フェライトやジルコニアといった高膨張なセラミックスの接着に好適な結晶性ガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(Fuel Cell)は、エネルギー効率が高く、しかもCOの排出を大きく削減できる有力な技術として近年注目されてきている。燃料電池のタイプは、使用する電解質の種類によって異なり、例えば工業用途で用いられるものとしては、リン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)、固体酸化物型(SOFC)および固体高分子型(PEFC)の4種類がある。中でもSOFCは、電池の内部抵抗が小さいため、燃料電池の中では最も発電効率が高いことで知られている。また、触媒に貴金属を使用する必要がないため、製造コストが抑えられるといった利点もある。よって、SOFCは、家庭用などの小規模用途から発電所などの大規模用途まで幅広く適用可能なシステムであり、その将来性に期待が高まってきている。
【0003】
図1に一般的な平板型SOFCの構造を示す。図1に示すように、一般的な平板型SOFCは、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)等のセラミックスからなる電解質1、Ni/YSZ等からなるアノード2および(La、Ca)CrO等からなるカソード3が積層一体化されたセルを有している。さらに、アノードと接する第一の支持体基板4と、カソードと接する第二の支持体基板5とがセルの上下に固着されている。支持体基板4および5はSUS等の金属で構成されている。ここで、第一の支持体基板4には、燃料ガスの通り道である燃料チャネル4aが形成され、第二の支持体基板5には、空気の通り道である空気チャネル5aが形成されている。なお、燃料チャネル4aと空気チャネル5aは互いに直交するように形成されている。
【0004】
上記構造を有する平板型SOFCを用いて発電する際には、第一の支持体基板4における燃料チャネル4aには、水素、都市ガス、天然ガス、バイオガスまたは液体燃料等の燃料ガスを流し、同時に第二の支持体基板5における空気チャネル5aには、空気(または酸素)を流す。このときカソードでは、1/2O+2e→O2−の反応が生じ、一方、アノードでは、H+O2−→HO+2eの反応が起こる。当該反応により、化学エネルギーが直接電気エネルギーに変換されて発電を行うことができる。なお、高出力電流を得るために、実際の平板型SOFCは、図1のユニットを何層も積層した構造を有している。
【0005】
上記平板型SOFCを作製するに当たっては、アノード側とカソード側に流すガスが交じり合わないように、各構成部材を気密シールする必要がある。具体的には、支持体基板同士の気密シールや、固体電解質と支持体基板の接着、あるいは、固体電解質同士の気密シールが必要になる。その目的で、マイカ、バーミキュライトまたはアルミナといった無機物質からなるシート形状のガスケットを、各構成部材間に挟み込んで気密シールする方法が提案されている。しかしながら、当該方法では、単に各構成部材間にガスケットを物理的に挟み込んでいるにすぎず、接着が行われていないことから、微量のガスリークが発生し、燃料使用効率に劣るという問題があった。そのため、各構成部材間をガラス材料を用いて融解接着する方法が検討されている。
【0006】
SOFCに使用される各構成部材には、一般的に、高膨張な金属やセラミックスが使用されていることから、これらの部材をガラス材料を用いて接着する場合、熱膨張係数を適合させる必要がある。また、SOFCは電気化学反応が生じる温度域(作動温度域)がおよそ600〜800℃と高く、当該温度域で長期間に亘って運転されるため、ガラス材料には、長期間高温に晒されても、接着箇所の融解による気密性や接着性の低下や、ガラス成分の揮発に起因する発電特性の劣化が起こらないように高い耐熱性が求められる。
【0007】
高膨張特性を有するガラス材料としては、例えば特許文献1で示されるように、熱処理によりCaO−MgO−SiO系結晶が析出して高膨張係数を示すSiO−CaO−MgO系結晶性ガラス組成物が提案されている。また、特許文献2には、シール後の緻密性が良好であり、安定したガスシール特性が得られるSiO−B−SrO系非晶質ガラス組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第09/017173号パンフレット
【特許文献2】特開2006−56769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されている結晶性ガラス組成物は、高温粘性が高く流動性に劣るため、安定したシール特性が得られにくいという問題がある。
【0010】
特許文献2に開示されている非晶質ガラス組成物は、熱処理をしても結晶が析出せず、また、ガラス転移点が600℃付近であるため、600〜800℃の作業環境下では、接着箇所が融解し、気密性や接着性が低下しやすいという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、熱処理後に高い熱膨張係数を示すとともに、結晶化前の流動性に優れ、また、長期間に亘って高温に晒されても、接着箇所の気密性や接着性の低下が発生しにくい結晶性ガラス組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、熱処理によって、主結晶としてMgO系結晶を析出する結晶性ガラス組成物であって、ガラス組成としてモル%で、La+Nb+Y+Ta+Yb 0.1〜30%を含有することを特徴とする結晶性ガラス組成物に関する。
【0013】
本発明の結晶性ガラスは、熱処理によって、主結晶として比較的融点の高いMgO系結晶を析出するため、接着箇所が融解しにくくなり、接着箇所の気密性や接着性の低下を抑制することができる。また、高い熱膨張係数を示すため、被接着部材である金属やセラミックスの熱膨張係数との整合を図ることができる。
【0014】
また、接着材料として使用するためには、結晶化する前に十分に軟化流動する必要がある。そこで、本発明者は種々の実験を行った結果、La、Nb、Y、TaおよびYbのいずれかを含有させることで、結晶化が生じる前に、部材接着に適した流動性を付与できることを見出した。
【0015】
以上のように、本発明の結晶性ガラス組成物は、結晶化前の流動性に優れ、かつ、結晶性ガラス組成物がある程度流動した段階でMgO系結晶が析出するという性質を有しているため、接着時の作業性および接着後の耐熱性の両方において優れる。
【0016】
なお、本発明において、「結晶性ガラス組成物」とは、熱処理するとガラスマトリックス中から結晶を析出する性質を有するガラス組成物を意味する。
【0017】
「熱処理」とは、結晶化温度以上で結晶化を充分に進行させることを意味し、少なくとも800℃以上かつ10分間以上の条件での熱処理を意味する。
【0018】
「主結晶としてMgO系結晶を析出する」とは、析出結晶のうち、MgO系結晶が最も多いことを意味する。
【0019】
「実質的に含有しない」とは、積極的に原料として使用しないことを意味し、不可避的不純物として混入するレベルを排除するものではない。客観的には、含有量が0.1モル%未満であることを意味する。
【0020】
第二に、本発明の結晶性ガラス組成物は、Laを0.1〜30%を含有することが好ましい。
【0021】
Laは特に流動性を向上させる効果が大きい。よって、Laを積極的に含有させることにより、高い流動性を示す結晶性ガラス組成物中が得られやすくなる。
【0022】
第三に、本発明の結晶性ガラス組成物は、組成としてモル%で、RO(RはLi、NaまたはKを示す)が5%以下、かつ、Pが5%以下であることが好ましい。
【0023】
結晶性ガラス組成物において、アルカリ金属酸化物およびPは流動性を向上させる効果を有するが、長期間高温に晒されると揮発しやすいという問題がある。よって、これらの成分の含有量を上記の通り規制することにより、ガラス成分の揮発に起因する発電特性の劣化を抑制することができる。
【0024】
第四に、本発明の結晶性ガラス組成物は、MgO系結晶が、2MgO・SiO、BaO・2MgO・2SiOまたは2MgO・Bであることが好ましい。
【0025】
第五に、本発明の結晶性ガラス組成物は、ガラス組成としてモル%で、SiO 30%〜50%、MgO 10〜45%、BaO 5〜40%およびB 0〜15%を含有することが好ましい。
【0026】
上記組成を有することにより、MgO系結晶を容易に析出させることができる。
【0027】
第六に、本発明の結晶性ガラス組成物は、さらに、ガラス組成としてモル%で、CaO 0〜20%、SrO 0〜10%、ZnO 0〜15%、Al 0〜6%、ZrO 0〜3%およびSnO 0〜3%を含有することが好ましい。
【0028】
第七に、本発明の結晶性ガラス組成物は、30〜700℃における熱膨張係数が95×10−7/℃以上であることが好ましい。
【0029】
第八に、本発明の結晶性ガラス組成物は、粉末状であることが好ましい。
【0030】
当該構成により、接着材料として使用しやすくなる。
【0031】
第九に、本発明は、前記いずれかの結晶性ガラス組成物を用いたことを特徴とする接着材料に関する。
【0032】
第十に、本発明の接着材料は、燃料電池の構成部材の接着に使用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明の結晶性ガラス組成物は、接着に適した流動性と、熱処理後に高い熱膨張係数を示す。また、耐熱性が高いため、長期間に亘って高温下に晒されてもガラス成分が揮発しにくい。よって、高膨張な金属やセラミックス等の接着や被覆、特にSOFC等の燃料電池における構成部材の接着材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】SOFCの基本構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の結晶性ガラス組成物は、熱処理によって、主結晶としてMgO系結晶を析出することを特徴とする。MgO系結晶としては特に限定されず、例えば2MgO・SiO、BaO・2MgO・2SiOまたは2MgO・Bが挙げられる。結晶化後のガラス組成物におけるMgO系結晶の含有量は50質量%以上、70質量%以上、特に90質量%以上であることが好ましい。結晶化後のガラス組成物におけるMgO系結晶の含有量が少なすぎると、高温下に長期間晒されることにより、接着箇所が融解して接着箇所の気密性や接着性が低下しやすくなる。また、熱膨張係数が低くなって、熱膨張係数の高い金属やセラミックス等からなる部材の接着に使用した場合に、クラック等の不具合が発生しやすくなる。
【0036】
本発明の結晶性ガラス組成物は、流動性を向上させるため、ガラス組成としてモル%で、La+Nb+Y+Ta+Ybを0.1〜30%含有する。これらの成分の含有量が少なすぎると、流動性を向上させる効果が得られにくく、一方、多すぎると、溶融中や部材接着時に失透しやすくなり、流動性が低下しやすくなる。また、結晶性が低下して結晶の析出が不十分になり、耐熱性が低下しやすくなる。La+Nb+Y+Ta+Ybの含有量の好ましい範囲は1〜27%、さらには3〜24%である。なお、La、Nb、Y、TaおよびYbの各成分の含有量の好ましい範囲は、それぞれ0.1〜30%、1〜27%、さらには3〜24%である。なかでも、Laは流動性を向上させる効果が大きいため、Laを積極的に含有させることにより、高い流動性を示す結晶性ガラス組成物中が得られやすくなる。
【0037】
本発明の結晶性ガラス組成物は、MgO系結晶の析出が容易となるように、ガラス組成としてモル%で、SiO 30〜50%、MgO 10〜45%、BaO 5〜40%およびB 0〜15%を含有することが好ましい。各成分をこのように限定した詳細な理由を以下に説明する。
【0038】
SiOはガラス化を容易にするとともに、耐水性や耐熱性を向上させる成分である。SiOの含有量は30〜50%、31〜49%、特に31〜45%であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、ガラス化しにくくなる。一方、SiOの含有量が多すぎると、熱処理しても結晶が析出しにくくなる。また、溶融温度が上昇して、溶融が困難になる傾向がある。
【0039】
MgOはMgO系結晶の必須構成成分である。MgOの含有量は10〜45%、10〜44%、特に15〜43%であることが好ましい。MgOの含有量が少なすぎると、熱処理しても、MgO系結晶が十分に析出せず、耐熱性が低下しやすくなる。また、熱膨張係数が低くなりやすい。一方、MgOの含有量が多すぎると、ガラス化範囲が狭くなる傾向にあり、均質なガラスが得られにくくなる。
【0040】
BaOはガラス化範囲を広げて、溶融中や接着時における失透を抑制し、かつ、接着に適した流動性を得るための成分である。BaOの含有量は5〜40%、6〜38%、特に8〜35%であることが好ましい。BaOの含有量が少なすぎると、溶融中や接着時に失透しやすくなり、接着に適した流動性が得られにくくなる。一方、BaOの含有量が多すぎると、結晶性が低下してMgO系結晶の析出が不十分となり、耐熱性が低下しやすくなる。また、熱膨張係数が低くなりやすい。
【0041】
は流動性を向上させるための成分であり、その含有量は0〜15%、0〜13%、特に0.1〜11%であることが好ましい。Bの含有量が多すぎると、結晶として析出しなかった余剰のB成分が起因となって、耐水性や耐熱性が低下したり、高温下でBが揮発しやすくなる。
【0042】
なお、Bを含有させる場合は、MgO/Bをモル比で2.0以上、2.1以上、特に2.3以上となるようにすることが好ましい。このようにすることで、2MgO・B結晶が析出しやすくなり、長期間に亘る高温下での使用においてもBの揮発が抑えられ、高い耐熱性が得られやすくなる。
【0043】
本発明の結晶性ガラス組成物は、上記成分以外にも、ガラス組成としてモル%で、CaO 0〜20%、SrO 0〜10%、ZnO 0〜15%、Al 0〜6%、ZrO 0〜3%およびSnO 0〜3%を含有することが好ましい。このようにガラス組成を限定した理由を以下に説明する。
【0044】
CaOは熱膨張係数を高めるための成分であり、その含有量は0〜20%、0〜18%、特に0.1〜16%であることが好ましい。CaOの含有量が多すぎると、MgO系結晶の析出量が少なくなり、耐熱性が低下する傾向がある。
【0045】
SrOは熱膨張係数を高めるための成分であり、その含有量は0〜10%、0〜5%、特に0.1〜4%であることが好ましい。SrOの含有量が多すぎると、熱膨張係数が低いSrO・SiO結晶が析出しやすくなり、高膨張特性を有する結晶性ガラスが得られにくくなる。
【0046】
ZnOはガラス化を容易にするとともに、軟化点を低下させて低温接着を可能にするための成分である。ZnOの含有量は0〜15%、0〜13%、特に0.1〜11%であることが好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、耐熱性が低下しやすくなる。
【0047】
Alは粘性を調整するための成分であり、その含有量は0〜6%、0〜5.5%、特に0.1〜5%であることが好ましい。Alの含有量が多すぎると、熱膨張係数が低い5SiO・2Al・2MgO結晶が析出しやすくなり、高膨張特性を有する結晶性ガラスが得られにくくなる。
【0048】
ZrOは耐水性を向上させるための成分であり、その含有量は0〜3%、0〜2.5%、特に0〜2%であることが好ましい。ZrOの含有量が多すぎると、溶融中や接着時に失透しやすくなり、接着に適した流動性が得られにくくなる。
【0049】
SnOは耐水性を向上させるための成分であり、その含有量は0〜3%、0〜2.5%、特に0.1〜2%であることが好ましい。SnOの含有量が多すぎると、溶融中や接着時に失透しやすくなり、接着に適した流動性が得られにくくなる。
【0050】
なお、RO(RはLi、NaまたはKを示す)およびPは高温下で揮発しやすく、また、電気絶縁性を低下させやすい。したがって、燃料電池の構成部材の接着に使用した際に、発電特性が低下するおそれがある。したがって、ROおよびPの含有量はそれぞれ5%以下、3%以下、特に1%以下であることが好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。なお、「実質的に含有しない」とは、これらの成分を意図的にガラス中に添加しないという意味であり、不可避的不純物まで完全に排除することを意味するものではない。客観的には、不純物を含めたこれらの成分の含有量が各々0.1%未満であることを意味する。
【0051】
本発明の結晶性ガラス組成物の30〜700℃における熱膨張係数は95×10−7/℃以上、100×10−7/℃以上、特に110×10−7/℃以上であることが好ましい。熱膨張係数が小さすぎると、被接着部材である金属やセラミックス等との熱膨張係数差が大きくなって、クラック等の不具合が発生しやすくなる。一方、熱膨張係数の上限は特に限定されないが、現実的には160×10−7/℃以下である。
【0052】
本発明の結晶性ガラス組成物の形態は特に限定されないが、粉末状であれば、接着材料として使用しやすくなる。この場合、粉末状の結晶性ガラス組成物(以下、「結晶性ガラス粉末」という)の粒径(d50)は2〜20μm程度であることが好ましい。結晶性ガラス粉末の粒径が小さすぎると、取り扱いが困難になる。一方、結晶性ガラス粉末の粒径が大きすぎると、焼成後に接着層に気孔が残存して接着強度に劣る傾向がある。
【0053】
結晶性ガラス粉末には、流動性や熱膨張係数の調整のために、リン酸マグネシウム(3MgO・P)、マグネシア(MgO)、亜鉛華(ZnO)、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)またはアルミナ(Al)等のフィラー粉末を添加してもよい。接着材料におけるフィラー粉末の含有量は、結晶性ガラス粉末100質量部に対して、0.1〜10質量部、特に1〜8質量部であることが好ましい。フィラー粉末の含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、フィラー粉末の含有量が多すぎると、流動性の低下が大きくなりすぎる傾向がある。なお、フィラー粉末の粒径(d50)は0.2〜20μm程度のものを使用することが好ましい。フィラー粉末の粒径が小さすぎる場合は、焼成時に結晶性ガラス粉末にフィラー粉末が溶け込み、熱膨張係数を調整する効果が得られにくくなる。一方、フィラー粉末の粒径が大きすぎる場合は、流動性の低下が大きくなりすぎる傾向がある。
【0054】
次に、本発明の結晶性ガラス組成物を接着材料として使用する方法の一例について説明する。
【0055】
まず、上記した組成を有するように調合したガラス原料を、例えば1400〜1500℃で0.5〜2時間溶融する。次いで、溶融ガラスをフィルム状等に成形した後、粉砕および分級して結晶性ガラス粉末を得る。
【0056】
必要に応じて上記結晶性ガラス粉末に各種フィラー粉末を添加し、有機溶剤、樹脂、可塑剤、分散剤等を添加して混練することによりペーストを得る。
【0057】
有機溶剤は結晶性ガラス粉末をペースト化するための材料であり、例えばターピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート、ジヒドロターピネオール等を単独または混合して使用することができる。有機溶剤の含有量は一般的に10〜40質量%程度である。
【0058】
樹脂は、乾燥後の膜強度を高め、また柔軟性を付与する成分であり、その含有量は、0.1〜20質量%程度が一般的である。樹脂は熱可塑性樹脂、具体的にはポリブチルメタアクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレート、エチルセルロース等が使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用することができる。
【0059】
可塑剤は、乾燥速度をコントロールするとともに、乾燥膜に柔軟性を与える成分であり、その含有量は0〜10質量%程度が一般的である。可塑剤としてはブチルベンジルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジカプリルフタレート、ジブチルフタレート等が使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用することができる。
【0060】
分散剤としては、イオン系またはノニオン系の分散剤が使用可能である。イオン系としてはカルボン酸またはジカルボン酸系等のポリカルボン酸系やアミン系等、ノニオン系としてはポリエステル縮合型や多価アルコールエーテル型が使用可能である。分散剤の含有量は0〜5質量%程度が一般的である。
【0061】
金属やセラミックスからなる第一の部材の接着箇所に上記ペーストを塗布し、乾燥させる。さらに、金属やセラミックスからなる第二の部材をペースト乾燥膜に接触させた状態で固定し、800〜900℃で熱処理する。この熱処理により、結晶性ガラス粉末が軟化流動して第一および第二の部材を固着させる。なおこの時、結晶の析出は結晶性ガラス粉末が流動した後に起こる。
【0062】
なお、本発明の結晶性ガラス組成物は、接着以外にも被覆または充填等の目的で使用できる。また、ペースト以外の形態、具体的には粉末、グリーンシートまたはタブレット(例えば、結晶性ガラス粉末のプレス成型体)等の形態で使用することもできる。例えば、金属やセラミックスからなる円筒内にリード線とともに本発明の結晶性ガラス粉末を充填して熱処理し、気密封止を行う方法が挙げられる。また、グリーンシートやタブレットを金属やセラミックスからなる部材上に載置し、熱処理して被覆することもできる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の結晶性ガラス組成物を実施例に基づいて説明する。
【0064】
表1および2は、本発明の実施例(試料No.1〜9)および比較例(試料No.10〜12)を示している。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
各試料は次のようにして調製した。
【0068】
表中の組成になるように調合したガラス原料を1400〜1500℃で約1時間溶融した後、溶融ガラスを一対の冷却ローラー間に投入してフィルム状に成形した。得られたフィルム状成形物をボールミルを用いて粉砕し、分級して粒径(d50)が約10μmの結晶性ガラス粉末を得た。
【0069】
次に、各試料について、成形時の耐失透性、熱膨張係数、ガラス転移点、軟化点、流動性、析出結晶種、結晶化温度および結晶融点を、下記の方法により測定または評価した。結果を表1に示す。
【0070】
耐失透性は、前記フィルム状成形物を顕微鏡(50倍)にて観察し、失透物が認められなかったものを「○」、認められたものを「×」として評価した。
【0071】
熱膨張係数は次のようにして測定した。まず、各試料をプレス成型し、結晶化温度+10℃の温度を目安に850〜1000℃で15分間熱処理した後、直径4mm、長さ20mmの円柱状に研削加工した。次に、得られた円柱状の試料を用いて、JIS R3102に基づき30〜700℃の温度範囲における熱膨張係数を測定した。
【0072】
ガラス転移点、軟化点、結晶化温度および結晶融点は、マクロ型示差熱分析計を用いて測定した。具体的には、各ガラス粉末試料につき1050℃まで測定したグラフにおいて、第一の変曲点の値をガラス転移点、第四の変曲点の値を軟化点、発熱ピークの値を結晶化温度、結晶化後に得られた吸熱ピークの値を結晶融点とした。なお、結晶融点が高いほど、または、結晶融点が確認されなければ、高温下においても結晶が安定に存在していることを意味し、耐熱性が高いと判断することができる。
【0073】
流動性は次のようにして評価した。比重分(1cm)のガラス粉末を直径20mmの金型に投入してプレス成型し、ボタン型の成型体を作製した。得られた成型体をSUS430板上で850〜1000℃で15分間保持することにより熱処理を行った。熱処理後の成型体の直径が17mm以上のものを「○」、17mm未満のものを「×」として評価した。
【0074】
析出結晶種は、XRD測定を行って得られた回折線チャートについて、JCPDSカードとの対比によって同定した。このとき同定された析出結晶種として、2MgO・2SiOを「A」、BaO・2MgO・2SiOを「B」、2MgO・Bを「C」として表中に示した。
【0075】
表から明らかなように、本発明の実施例であるNo.1〜9の試料は、成形時に失透物が認められず、また、流動性に優れていた。さらに、主結晶としてMgO系結晶が析出しており、114〜138×10−7/℃と高い熱膨張係数を有していた。
【0076】
一方、比較例である試料No.10は、失透しやすくガラス化が困難であり、流動性にも劣っていた。また、試料No.11は、熱処理を施しても結晶が析出せず、熱膨張係数が93×10−7/℃と低かった。試料No.12は流動性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の結晶性ガラス組成物は、SUSやFeといった金属、フェライトやジルコニアといった高膨張セラミックスの接着材料として好適である。また、SOFCを作製する際に使用される支持体基板、電解質または電極等を気密封止するための接着材料として好適である。
【符号の説明】
【0078】
1 電解質
2 アノード
3 カソード
4 第一の支持体基板
4a 燃料チャネル
5 第二の支持体基板
5a 空気チャネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理によって、主結晶としてMgO系結晶を析出する結晶性ガラス組成物であって、ガラス組成としてモル%で、La+Nb+Y+Ta+Yb 0.1〜30%を含有することを特徴とする結晶性ガラス組成物。
【請求項2】
Laを0.1〜30%を含有することを特徴とする請求項1に記載の結晶性ガラス組成物。
【請求項3】
組成としてモル%で、RO(RはLi、NaまたはKを示す)が5%以下、かつ、Pが5%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶性ガラス組成物。
【請求項4】
MgO系結晶が、2MgO・SiO、BaO・2MgO・2SiOまたは2MgO・Bであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の結晶性ガラス組成物。
【請求項5】
ガラス組成としてモル%で、SiO 30〜50%、MgO 10〜45%、BaO 5〜40%およびB 0〜15%を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の結晶性ガラス組成物。
【請求項6】
さらに、ガラス組成としてモル%で、CaO 0〜20%、SrO 0〜10%、ZnO 0〜15%、Al 0〜6%、ZrO 0〜3%およびSnO 0〜3%を含有することを特徴とする請求項5に記載の結晶性ガラス組成物。
【請求項7】
30〜700℃における熱膨張係数が95×10−7/℃以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の結晶性ガラス組成物。
【請求項8】
粉末状であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の結晶性ガラス組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の結晶性ガラス組成物を用いたことを特徴とする接着材料。
【請求項10】
燃料電池の構成部材の接着に使用されることを特徴とする請求項9に記載の接着材料。

【図1】
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【公開番号】特開2013−56795(P2013−56795A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195588(P2011−195588)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】