説明

結晶性セルロースの溶解方法及び多孔性セルロースの製造方法

【課題】従来の方法に比べて、工程数が少なく又は安価な方法であって、安全且つ環境負荷が少ない方法で結晶性セルロースを溶解することができる方法を提供する。
【解決手段】10〜15℃で水酸化ナトリウム−尿素系又は水酸化ナトリウム−チオ尿素系の混合水溶液に結晶性セルロースを溶解させ、溶解した結晶性セルロースを再生させて多孔性セルロース粒子を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースの安価な溶解法、及びそれを利用した多孔性セルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球上に最も多く存在するバイオマス資源であるセルロースの有効かつ安価な利用法の研究が行われている。また、生体適合性に優れたセルロースを基材とする多孔材料はふるい効果による分離剤の分野において従来から利用されているが、近年、精密多孔制御技術の進展に伴い医療や電子材料への用途の展開が積極的になされている。
【0003】
このようにセルロースを原料とする高機能物質の進展が期待されているが、セルロースを加工するためにはセルロースを一旦溶解させる工程が必要とされる。即ち、安価で環境に負荷をかけない工程でセルロース加工を意図する当業者にとって、セルロースの溶解法の改善は非常に重要な技術となる。
【0004】
セルロースを溶解するための方法は様々ある。中でも、レーヨン繊維の製造等に利用されているキサントゲン酸塩法は工業的に重要な方法である。しかし、この方法は有毒な硫化水素の発生を伴うため、有害性を取り除くための新たな工程が必要となる等、実用上の大きな問題を抱えている。また、銅アンモニア法による溶解法も知られているが、この方法も重金属等の環境負荷物質を軽減する対応をとる等の必要がある。
【0005】
安価で環境負荷の付加の少ない溶剤によるセルロース溶解法の研究も活発に行われている。このような方法としては、ある条件の前処理を行った後、安価で環境負荷の付加の少ない水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液にセルロースが溶解する方法、例えば、平均重合度が約530に調整されたセルロースを従来のシュバイツアー試薬に一旦溶解させ、再生セルロースとして取得することでアルカリ溶液に可溶化させる方法、が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この方法は、前処理の条件としてセルロース溶解処理を伴うアルカリ溶液へのセルロースの可溶化法であるが、第一段階の溶解の工程では前述の問題を解決できておらず、さらにコスト的にも不利である。
【0006】
また、セルロースを爆砕処理や微小繊維化処理等の機械的な処理によりアルカリ溶液に可溶化させる方法が知られている(例えば、特許文献2〜4参照。)。これらの方法は前処理の方法として高温、高圧処理や特殊な粉砕機が必要となり、必ずしも工業的に有利な方法とは言えない。また特許文献4の方法は特殊な機械を必要とするが、工業的な製造の観点からは高温、高圧処理を必要としない安全な方法である。しかし、少量の不均一成分が残存する等の工程通過性、即ち実用生産の安定性の点で懸念が残る方法である。一般的に、このような機械的な前処理によるセルロースのアルカリ溶液への可溶化は溶解性が不十分と言われている。
【0007】
また、アルカリ溶液による完全なセルロースの溶解法も提案されている(例えば、特許文献5参照。)。この方法は前述のような特殊な前処理は必要としないが、−20℃の低温装置を必要とし、また、平均重合度として300以下のセルロースにしか適用しにくい等の制約がある。
【0008】
尚、本明細書に記載のセルロースの重合度は、グルコースを1重合ユニットとして得られる値を意味する。
【0009】
一方、アルカリ溶液と尿素やチオ尿素類を併用することで、セルロースの溶解性が向上することが知られている(例えば、特許文献6参照。)。また、前述の特許文献4の改良法として、アルカリ−尿素溶液を用いる方法により、例えばアルカリ溶液単独に対し70%台のセルロース溶解性が95%以上となることが知られている(例えば、特許文献7参照。)。しかし、これらの方法ではセルロースに対し前述の特殊な粉砕機による前処理を必要とすることや、数%のセルロース未溶解物が残存する等、スケールを上げた工業的な製造の観点からは解決すべき課題が残っている。
【0010】
近年、セルロース溶解への水酸化ナトリウム溶液における尿素の添加効果が提案されている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。それ以来、アルカリ−尿素、又はアルカリ−チオ尿素系によるセルロース溶解法の検討が鋭意行われている。特に、後者の報告においては、6〜8重量%水酸化ナトリウム溶液、2〜4重量%尿素溶液系で0℃、12時間のセルロースI型の顕著な溶解性が報告されている。
【0011】
また、5〜12重量%水酸化ナトリウム−8〜20重量%尿素の溶液を−15℃〜−8℃(第一温度)に一旦予冷し、その温度にてセルロースを加え、ついで混合溶液を0〜20℃(第二温度)に保ち、攪拌下でセルロースを溶解することによる、水酸化ナトリウム−尿素溶液における重合度300〜440のセルロースパルプの溶解例が知られている(例えば、特許文献8参照。)。同様に、予冷のための前記第一温度が−10℃〜−5℃であり、第二温度が0〜25℃とする、水酸化ナトリウム−チオ尿素溶液におけるセルロースの溶解例が知られている(例えば、特許文献9参照。)。
【0012】
さらに、7重量%水酸化ナトリウム−12重量%尿素溶液におけるセルロースの溶解特性に関する事例が知られている(例えば、非特許文献3参照。)。この事例では、セルロースの溶解特性は溶解温度とセルロース分子量に依存するとされており、粘度−平均分子量(Mη)において10万以下のセルロースを溶解するには−12.6℃の温度に制御する必要があるとされている。
【0013】
以上で述べたようにアルカリ−尿素系によるセルロース溶解の方法は、安価で環境負荷が少ない点で優れた方法ではあるが、0℃以下での温度制御が必要である等の課題がある。これまで、アルカリ−尿素系、特に水酸化ナトリウム−尿素系におけるセルロース溶解の方法で、工業生産に有利な10℃以上の制御温度で溶解させた事例はない。さらに、このような溶解法で溶解せしめたセルロースを再生化することで得られる多孔性セルロースに関してもこれまで報告は無い。
【0014】
一方、一旦溶解したセルロースを多孔性のセルロース粒子としての再生化する方法として、例えばビスコース溶液を再生液中にノズル噴出することでセルロース粒子を製造する方法が知られている(例えば、特許文献10参照。)。さらには、ビスコース溶液とポリエチレングリコール等の水溶性高分子化合物とを混合し、ビスコースの分散液を生成させ、酸によりセルロース微粒子を凝固により生成せしめる方法が知られている(例えば、特許文献11参照。)。この方法では、ポリエチレングリコールの濃度や分子量によりセルロース粒子の多孔性を特徴化することができる。
【0015】
さらには、セルロース粉末を直接ロダンカルシウム溶液に溶解させ、該溶液をジクロロベンゼン等の高沸点溶媒に分散させることで水/油(W/O)タイプの水性液滴をつくり、これにメタノール等のアルコールを加えセルロース粒子として再生する方法も知られている(例えば、特許文献12参照。)。この方法で得られるセルロース粒子は非常に多孔性で硬度が高く、真球様の形状を示すのでクロマトグラフィー用充填剤への利用に適しており、チッソ株式会社から市販されているセルファイン(商品名)の基材として利用もされている。
【0016】
セルロースの粒子化の方法としては、例えば上述の方法等が知られている。しかし、このような安全で環境負荷が少なく、工業プロセスの簡便化も期待がもてる溶解法を利用して得られた多孔性セルロース粒子に関する報告例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭60−42401号公報
【特許文献2】特開昭62−116601号公報
【特許文献3】特開昭62−236802号公報
【特許文献4】特開平9−124702号公報
【特許文献5】米国特許第5410034号明細書
【特許文献6】特開昭63−35602号公報
【特許文献7】特開平9−291101号公報
【特許文献8】特表2008−542560号公報
【特許文献9】特表2009−508015号公報
【特許文献10】特開昭48−60753号公報
【特許文献11】特公平4−1768号公報
【特許文献12】特公昭63−62252号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Carbohydr.Res.、Vol.327、431、(2000)
【非特許文献2】Polymer Journal、Vol.32、866−870、(2000)
【非特許文献3】Cellulose、Vol.15、779−787、(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、前記の従来の方法に比べて、工程数が少なく又は安価な方法であって、安全且つ環境負荷が少ない方法で結晶性セルロースを溶解する方法を少なくとも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記従来技術の課題について鋭意研究を重ねた。即ち、100〜800程度の重合度を有す木材パルプ由来の高純度セルロースが水酸化ナトリウム−尿素溶液において、従来報告されている温度域より高温の10℃〜15℃の温度域にて容易に溶解できることを見出した。しかも、実施例2と比較例4の事例に示した通り、従来からセルロースの溶解液として利用されているチオシアン酸カルシウム溶液による溶解法より、より高重合度のセルロースを溶解することができた。さらに、実施例1と比較例1の事例に示した通り、従来報告されている方法によるセルロース粒子と本発明によるセルロース粒子は同様の多孔特性を示すことを見出した。さらには、このようにして得られたセルロース粒子は分離用基材として利用できる事も見出した。そして、本発明を完成するに至った。
【0021】
すなわち、本発明は、以下に示す通り、水酸化ナトリウム−尿素又はチオ尿素溶解系において新規な方法で結晶性セルロースを溶解し、得られた溶解液から結晶性セルロースを再生して多孔性セルロースを得る方法を提供するものである。
【0022】
[1] 5〜12重量%の水酸化ナトリウムと、9〜20重量%尿素又は3〜8重量%チオ尿素との混合水溶液にセルロースを溶解させる方法であって、前記セルロースに結晶性セルロースを用い、10〜15℃で前記混合水溶液に前記セルロースを溶解させることを特徴とするセルロースの溶解方法。
【0023】
[2] 結晶性セルロースの平均重合度が100〜900であることを特徴とする[1]に記載のセルロースの溶解方法。
【0024】
[3] 結晶性セルロースが木材パルプ由来のセルロースであることを特徴とする[1]又は[2]に記載のセルロースの溶解方法。
【0025】
[4] 前記混合水溶液における結晶性セルロースの溶解濃度が1〜10重量%であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースの溶解方法。
【0026】
[5] [1]〜[4]のいずれか一項に記載の方法で溶解した結晶性セルロースを再生させて多孔性セルロースを製造することを特徴とする多孔性セルロースの製造方法。
【0027】
[6] 溶解した結晶性セルロースを粒子状に再生させることを特徴とする[5]に記載の多孔性セルロースの製造方法。
【0028】
[7] 結晶性セルロースの溶液を水相とする水/油タイプのエマルジョンから結晶性セルロースを再生させることを特徴とする[6]に記載の多孔性セルロースの製造方法。
【0029】
[8] 多孔性セルロースの水酸基の少なくとも一部を反応性官能基で置換する工程をさらに含むことを特徴とする[5]〜[7]のいずれか一項に記載の多孔性セルロースの製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、前記の従来の方法に比べて、工程数が少なく又は安価な方法で結晶性セルロースを溶解することができ、また従来の方法と同様に、安全且つ環境負荷が少ない方法で結晶性セルロースを溶解することができる。さらに本発明は、このような溶液中の結晶性セルロースの再生によって多孔性セルロースを製造することができる。このように本発明によれば、結晶性セルロースの、工業的に優れた安価で安全な溶解法が得られ、該方法を利用して製造された多孔性セルロースは、例えば多孔性の特徴によって、タンパク質等のバイオ製剤の優れた分離剤に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の方法の一例を模式的に示す図である。
【図2】実施例1、2、4、及び比較例1で得られた球状セルロースゲルのKavをプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の結晶性セルロースの溶解方法、及びそれを利用した多孔性セルロースの製造方法ならびに得られる多孔性セルロースの用途等について詳細に説明する。
【0033】
本発明の結晶性セルロースの溶解方法は、5〜12重量%の水酸化ナトリウムと、9〜20重量%尿素又は3〜8重量%チオ尿素との混合水溶液にセルロースを溶解させる方法であって、前記セルロースに結晶性セルロースを用い、10〜15℃で前記混合水溶液に前記セルロースを溶解させる。
【0034】
本発明における結晶性セルロースは、樹木や綿実からとれたパルプの非結晶部分を除去して純粋な結晶部分を取り出して精製したセルロースである。結晶性セルロースは、その起源を問わないが、供給が安定している針葉樹や広葉樹等の木材のパルプに由来するものが好ましい。前記結晶性セルロースは、リグニンやヘミセルロース、さらには灰分等を化学的な処理により除去し、純度を上げたものも用いることができる。例えばこのような結晶性セルロースとしては、クラフトパルプ法と漂白処理によって得られた木材パルプの希酸加熱処理によりへミセルロースを除き純度を上げた高純度木材パルプが挙げられる。このような高純度木材パルプに対し、さらに、非結晶部分を取り除くための酸処理や、カッティングミルやボールミル等を用い機械的微細化処理をしてもかまわない。このような処理は、品質や溶解の操作性、効率性の向上の点でむしろ好適である。このような結晶性セルロースとして、例えば、日本薬局方に記載の結晶セルロースが挙げられる。
【0035】
前記結晶性セルロースの重合度は、粘度を指標にしながら、例えば酸等の化学的処理や酵素分解処理により所望のサイズに制御することが可能である。粘度を測定する方法は、TAPPI T230 om−82等米国TAPPI T230標準法等の従来技術において周知である。
【0036】
一般に、粘度は次の関係式から分子量を導き出すことができる。即ち、分子量は前述の粘度測定法に従って実験的に極限粘度[η]を求め、ここからマーク(Mark)−ホウィンク(Houwing)−桜田の式を用いてセルロースの平均分子量Mを求めことができる。K及びαは高分子の種類、溶媒の種類及び温度によって定まる定数である。
【数1】

【0037】
結晶性セルロースの平均重合度は、結晶性セルロースの平均分子量をセルロースの構成糖(グルコース)の分子量で割り算することで算出できる。本発明における結晶性セルロースの平均重合度は、第十三改正日本薬局方解説書 結晶セルロース確認試験(3)記載の銅エチレンジアミンを用いた粘度測定法によって求めることができる。
【0038】
前記結晶性セルロースの平均重合度は、本発明の溶解液によって結晶性セルロースが溶解することができ、且つその後の多孔性セルロースの用途に耐え得る強度を有していればその範囲は問わないが、平均重合度が高くなると溶解性が悪くなり、例えば多孔性セルロースの粒子の生成率が下がることがある。逆に結晶性セルロースの平均重合度が低くなると、生成する多孔性セルロース粒子の強度が弱くなり、例えば、クロマトグラフィー用の充填剤としての実用性が無くなることがある。多孔性セルロース粒子の実用的な強度や収量を考慮すれば、結晶性セルロースの平均重合度は50〜1,000であることが好ましく、100〜900であることがより好ましく、100〜800であることがさらに好ましい。
【0039】
前記結晶性セルロースには市販品を利用することができる。上述した条件を満たす結晶性セルロースとしては、例えば旭化成社製造のセオラスシリーズや日本製紙社製造のKCフロックシリーズを利用することができる。特に、旭化成社製造のセオラスシリーズで好ましいものはPH101であり、日本製紙社の製造のKCフロックシリーズではW400Gである。
【0040】
本発明において、結晶性セルロースを溶解するための水酸化ナトリウム−尿素又はチオ尿素の混合水溶液の濃度は重要である。特に水酸化ナトリウムの濃度は薄いと溶解性が下がり、濃くすると低分子化が起こることが知られている。それ故、前記混合水溶液における水酸化ナトリウムの濃度は、5〜12重量%であることが好ましく、6〜9重量%であることがより好ましい。同様に、前記混合水溶液における尿素の濃度も、9〜20重量%であることが好ましく、10〜14重量%であることがより好ましい。前記混合水溶液におけるチオ尿素の濃度も、同様の観点から、3〜8重量%であることが好ましく、4〜6重量%であることがより好ましい。前記混合水溶液におけるこれらの濃度は、溶解しようとする結晶性セルロースの平均重合度等により最適化される余地を含んでいる。
【0041】
水酸化ナトリウム−尿素の混合水溶液において、水酸化ナトリウムに対する尿素の重量比は、セルロース溶解時の操作性等の観点から0.7〜4.0であることが好ましく、1.1〜2.3であることがより好ましい。また、水酸化ナトリウム−チオ尿素の混合水溶液において、水酸化ナトリウムに対するチオ尿素の重量比は、前述と同様の観点から0.2〜1.6であることが好ましく、0.3〜1.2であることがより好ましい。
【0042】
前記混合水溶液中の前記結晶性セルロースの溶液の濃度は、結晶性セルロースの平均重合度等により最適化される余地を含むが、結晶性セルロースを溶解させる観点から、1〜10重量%であることが好ましく、2〜8重量%であることがより好ましく、その後の粒子化における操作性の容易さやその後の粒子収量の観点をさらに加味すると、3〜5重量%であることがさらに好ましい。
【0043】
前記結晶性セルロースを溶解するときの前記混合水溶液の温度は10〜15℃が好ましく、さらには10〜13℃であることがより好ましい。前記混合水溶液を10〜15℃に予冷した後、混合水溶液に結晶性セルロースを投入し、該温度にて混合水溶液を攪拌し、結晶性セルロースを溶解させる方法が本発明における好ましい形態である。しかしながら、混合水溶液の前記の予冷をせずに例えば常温の混合水溶液に結晶性セルロースを投入した後、この混合水溶液を攪拌しながら10〜15℃に温度を維持して結晶性セルロースを溶解させてもかまわない。結晶性セルロースの溶解は、混合水溶液の外観が白濁から透明になることを目視で確認することによって確認することができる。
【0044】
本発明における前記の結晶性セルロースの溶解方法は、例えば、後述の実施例2と比較例4との比較で示されるように、特許文献12に開示されている110〜130℃でのチオシアン酸カルシウム溶液による溶解法よりも平均重合度の大きい結晶性セルロースを低温にて溶解することができる。このことから、結晶性セルロースの加工に対し材料選択の幅が広がるため、材料特性を活かした粒子設計が可能となる。例えば、平均重合度の違いは細孔サイズの違いや強度を多孔性セルロース粒子にもたらすことができる。さらに、本発明における前記の方法によれば、これまでに報告されたマイナス帯の温度域よりはるかに高い10℃台の温度域での溶解操作が可能となることから、プロセス的に簡便で安価な結晶性セルロースの加工方法を提供することができる。
【0045】
本発明では、溶液中の結晶性セルロースを再生させることによって多孔性セルロースを得ることができる。得られる多孔性セルロースの形態は特に限定されない。このような多孔性セルロースの形態としては、例えばフィルムや球状粒子等が挙げられる。多孔性セルロースの生成は、セルロースの水性溶液から様々な形態を形成する、従来より知られている方法を利用して、様々な形態を形成することができる。
【0046】
本発明では、結晶性セルロースが用いられることから、機械的強度に優れていることが望ましい形態に好ましく適用することができ、このような好ましい形態としては、粒子の形態が挙げられる。即ち、本発明では、多孔性セルロースを生成する工程が、多孔性セルロースを粒子状に再生させる工程であることが好ましい。
【0047】
本発明で生成される多孔性セルロースの粒子(多孔性セルロース粒子)は多孔性を有しており、細孔サイズの違いにより種々の分離特性を発揮させることができる。それ故に、特に、クロマトグラフィー用の基材として利用価値が高いと考えられる。細孔サイズ特性を示す指標として、ゲル分配係数が挙げられる。ゲル分配係数Kavは、分子量の標準物質の溶出体積及びカラム体積の関係から次式により求めることができる。
Kav=(Ve−V0)/(Vt−V0
[式中、Veはサンプルの保持容量(mL)、Vtは空カラム体積(mL)、V0はデキストランT2000保持容量(mL)を表す。]
【0048】
ゲル分配係数Kavの測定方法は、例えば、L.Fischer著生物化学実験法2「ゲルクロマトグラフィー」第1版(東京化学同人)等に記載されている。具体的な測定方法は、実施例にて示したとおりである。本発明の多孔性セルロース粒子のゲル分配係数Kavは、例えば、後述の実施例に記した多孔性セルロース粒子の製造時の結晶性セルロースの溶解濃度の制御により調整できる。本発明において、混合水溶液中の結晶性セルロースの濃度は一般的には1〜10重量%であるが、例えば、実施例のセオラスPH101を使用した場合、その濃度を好ましくは4〜6重量%に調整することで多孔性セルロース粒子に好適なゲル分配係数Kavを得ることができる。
【0049】
さらに、多孔性セルロース粒子のゲル分配係数Kavは、例えば、多孔性セルロース粒子におけるセルロースの架橋方法・架橋条件の制御によっても制御可能である。当然ながら、本発明において、多孔性セルロース粒子におけるゲル分配係数の調整には、多孔性セルロース粒子製造時の結晶性セルロース溶解濃度の制御と多孔性セルロース粒子の架橋方法・架橋条件の制御とを組み合わせた方法を利用してもかまわない。
【0050】
前記混合水溶液による結晶性セルロースの溶液を用いて多孔性セルロース粒子を生成する方法は、セルロースの水性溶液から多孔性セルロース粒子を生成する方法が種々提案されていて、本発明ではこれらの通常の方法を利用して多孔性セルロース粒子を生成することができることから、特に制限されない。このような多孔性セルロース粒子の生成方法としては、例えば、特公昭55−39565号公報、特開昭55−44312号公報、特開昭51−5361号公報、及び特許文献12に開示されている方法や、特開昭62−191033号公報に記載の装置を利用する方法が挙げられる。
【0051】
特に、特開平5−200268や特許文献12等に記載されたる水/油(油中水)タイプのセルロースエマルジョンを利用して得られる多孔性セルロース粒子は、界面活性剤や分散剤(油成分)等の選択により、粒子形状や粒度分布を比較的制御し易い面があり、特に本発明で得られる多孔性セルロース粒子の一用途であるクロマトグラフィー用充填剤の製造に適している。
【0052】
本発明では、前記水/油タイプエマルジョンの水成分としては、前記混合水溶液に限定されるが、油成分としてはクロルベンゼン、トルエン、キシレン等の水不混和性有機溶媒が挙げられる。前記水/油タイプエマルジョンの温度は、用いる溶媒の沸点等の特性により選択する必要はあるが、例えば、実施例で用いたオルトジクロロベンゼンの場合では10〜60℃が適当である。さらに、前記水/油タイプエマルジョンには、水成分の分散効果を高めるため、少量の界面活性剤、例えば、ソルビタンモノオレエート等の脂肪酸エステル系界面活性剤を加えることが好ましい。
【0053】
前記水/油タイプエマルジョンからの多孔性セルロースの粒子化のためには、セルロース溶液(水成分)を効率よく分散させる必要があるが、水成分の分散状態は、攪拌装置の回転速度を適宜に設定することで調節可能である。さらには、得られた多孔性セルロース粒子はメタノール等の低級アルコール及び水にて洗浄することが好ましい。
【0054】
前記多孔性セルロース粒子では、粒径を調整する通常の操作、例えば、分級操作により所望の粒径を得ることができる。特に、クロマトグラフィー用充填剤に利用するための粒径は、光学顕微鏡写真における実測値として、例えば40〜130μmが好ましい。
【0055】
多孔性セルロース粒子の用途
本発明で得られる多孔性セルロースは、細孔を有していることから、細孔サイズに合わせ、タンパク質や低分子医薬、生理活性物質等の物質の分離やろ過用の基材に利用できる。形態としては、目的に応じて粒子や膜状であってもかまわない。
【0056】
特に、前記多孔性セルロース粒子はタンパク質製剤の分離・精製に利用できる特徴ある細孔特性を有していることから、クロマトグラフィー用充填剤の基材として好適に用いることができる。このような充填剤として適用できるクロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、キレートクロマトグラフィー、及び共有結合クロマトグラフィーが挙げられる。
【0057】
中でも、ポリエチレングリコールによる排除限界分子量が1,000,000以下の多孔性セルロース粒子のゲルは、タンパク質や核酸等の高分子物質の分離能が高く、しかも、それらとの非特異的吸着が少なく、安全性にも優れていることから、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、キレートクロマトグラフィー用充填材の基材として特に好適である。前記多孔性セルロースの排除限界分子量は、後述したゲル分配係数Kavの測定に記載した方法によって測定することができ、セルロース溶解時におけるセルロース濃度を調整することで調整できる。
【0058】
また、前記多孔性セルロースの排除限界分子量は、例えば、前記特許文献12に記載された方法で得られる細孔径の大きい(排除限界分子量の大きい)セルロース粒子に、エピクロロヒドリン等の多価架橋剤を介してデキストランやプルラン等の水溶性高分子を付加することにより細孔内をゲル状化させることによって調整することができる。本発明では、上記のような細孔内をゲル化させることによって排除限界分子量が調整された多孔性セルロース粒子も、使用することができる。
【0059】
特に前記多孔性セルロース粒子は、その細孔径がタンパク製剤等の分離精製にすぐれたサイズであることから、安価で、環境にやさしい工程にて製造されるクロマトグラフィー用充填剤の基材として好適に利用できる。
【0060】
これらのクロマトグラフィー用充填材として用いる場合では、本発明では、多孔性セルロース粒子の水酸基の少なくとも一部を反応性官能基で置換する工程をさらに含んでいてもよい。反応性官能基の置換度は、期待する反応性官能基による作用が多孔性セルロース粒子において十分に得られる範囲であれば特に限定されない。反応性官能基の置換度は、リガンドの種類や精製の目的によって最適化される余地を含んでいる。反応性官能基の所期の作用を得る観点から、例えば、本実施例に示したようなタンパク質をリガンドに採択した場合では、反応性官能基の置換度としては0.01nmol〜1μmol/ml−ゲルの範囲が挙げられる。
【0061】
反応性官能基は、その種類やその導入量に応じて決定できる。例えば、前記多孔性セルロース粒子が有する水酸基の少なくとも一部をスルホン化処理して、該多孔性セルロースゲルにスルホン基を導入することにより、免疫グロブリン、リゾチーム等のタンパク質の分離又は精製に好適な強カチオンイオン交換クロマトグラフィー用充填剤を提供することができる。また、例えば過沃素酸ナトリウム等を用いて、多孔性セルロース粒子のセルロースを酸化することでホルミル基を導入することも可能で、タンパク質等のリガンドカップリング用担体を提供することもできる。
【0062】
本発明において、多孔性セルロースゲルにスルホン基を導入する方法、すなわち、スルホン化多孔性セルロース粒子を得る方法は、一般に多糖類のスルホン化に用いられる方法であれば特に限定されない。このような方法に用いられるスルホン化剤としては、例えば、3−クロロ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム及び3−ブロモプロパンスルホン酸ナトリウム等のハロアルカンスルホン酸、1,4−ブタンサルトン及び1,2−エポキシエタンスルホン酸等のエポキシドを有するスルホン酸、が挙げられる。多孔性セルロース粒子をスルホン化する方法としては、例えば、特開2001−032702号公報に開示されている方法を利用することができる。
【0063】
本発明において、多孔性セルロースゲルにホルミル基を導入する方法、すなわち、ホルミル化多孔性セルロース粒子を得る方法は、一般に多糖類のホルミル化に用いられる方法であれば特に限定されない。例えば、グルタルアルデヒド等のアルデヒド基を有する試薬をセルロースの水酸基に導入してもよいし、過沃素酸ナトリウム等の酸化剤でセルロースを酸化してもよい。
【0064】
また、本発明では、多孔性セルロース粒子をクロマトグラフィー用充填材の基材として利用する際は、粒子強度をあげるために、例えばエピクロロヒドリン等の架橋剤を用いて処理してもかまわない。多孔性セルロース粒子を架橋剤により強化する方法としては、例えば、特開2009−242770号公報に開示されている方法を利用することができる。
【0065】
本発明によれば、例えば図1に示すように、結晶性セルロースの溶解から多孔性セルロース、例えば多孔性セルロース粒子を得ることができる。本発明では、さらにセルロースへの官能基の誘導や架橋によって、多孔性セルロースの種々の特性を発現させ、又は改良して、種々の用途に適した多孔性セルロースを得ることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は何らこれらに制限されない。また、以下の実施例において「%」は、特段の説明が無い限り「重量%」を意味する。
【0067】
1.測定方法
実施例において使用する測定方法は以下の通りである。
<排除限界分子量>
ゲル分配係数Kavの測定
(1)使用機器及び試薬
カラム : エンプティカラム1/4×4.0mm I.D×300mm、10F(東ソー)
リザーバー : パッカ・3/8(東ソー)
ポンプ : POMP P−500 (Pharmacia)
圧力計 : AP−53A(KEYENCE)
【0068】
(2)カラム充填法
カラムとリザーバーを接続しカラム下部にエンドフィッティングを接続した。Kavを測定するセルロースゲルを減圧濾過した湿ゲルの状態で15g計りとり、50mLビーカーへ入れた。そこへ超純水20mL加え軽く攪拌した。セルロースゲルが超純水に分散した状態でリザーバーの壁を伝わらせるようにカラムへゆっくり加えた。ビーカーへ残ったセルロースゲルは少量の超純水ですすぎゆっくりとカラムへ加えた。その後リザーバーの上部ぎりぎりまで超純水を加えリザーバーの蓋をした。リザーバー上部へアダプターを接続しポンプで超純水を送液した。送液ラインの途中に圧力計を接続しておき圧力をモニターした。圧力が0.3MPaになるまで流速を上げ、その後30分間超純水を流しながら充填した。充填が終わったらポンプを止めアダプターとリザーバーの蓋を外した。次にリザーバーの中の超純水をピペットで吸いだした。リザーバーを外し、カラムからはみ出したセルロースゲルを除きエンドフィッティングを接続した。
【0069】
(3)Kav測定装置
システム : SCL−10APVP(SHIMAZU)
ワークステーション : CLASS−VP(SHIMAZU)
RI検出器 : RID−10A(SHIMAZU)
ポンプ : LC−10AT(SHIMAZU)
オートインジェクター : SIL−10ADVP(SHIMAZU)
【0070】
(4)Kav測定サンプル
1.デキストランT2000(Pharmacia)
2.SE−70(東ソー)分子量5.8×105
3.SE−30(東ソー)分子量3.0×105
4.SE−15(東ソー)分子量1.5×105
5.SE−8(東ソー)分子量1.01×105
6.SE−5(東ソー)分子量4.3×104
7.SE−2(東ソー)分子量2.77×104
8.PEG19000(SCIENTIFIC POLYMER PRODUCTS)分子量19,700
9.PEG8650(POLYMER LABORATORIES)分子量8,65010.PEG4120(POLYMER LABORATORIES)分子量4,120これらのKav測定サンプルは純水で溶解して用いた。
【0071】
(5)Kav導出式
Kav=(Ve−V0)/(Vt−V0
[式中、Veはサンプルの保持容量(mL)、Vtは空カラム体積(mL)、V0はデキストランT2000保持容量(mL)である。]
【0072】
本実施例で用いたセルロース材料について列挙する。何れも高純度木材パルプを酸加水分解して得られたセルロース粉末である。
・日本製紙ケミカル(株)製:KCフロック W−100、平均重合度700
・日本製紙ケミカル(株)製:KCフロック W−200、平均重合度540
・旭化成ケミカルズ(株)製:セオラス PH101、平均重合度240
【0073】
[実施例1]
7.0%の水酸化ナトリウムと12%の尿素が水に溶解した混合水溶液480gを氷浴にて15℃から10℃に冷却しておき、これに20gの結晶性セルロース(旭化成セオラスPH−101、平均重合度240)を加え、攪拌数500rpmにて60分間撹拌して結晶性セルロースを溶解し、結晶性セルロースの濃度が4%である透明な溶液を得た。該溶液を、ソルビタンモノオレート2.5g含む、室温のo−ジクロロベンゼン1.5Lに注ぎ、撹拌数500rpmにて10分間攪拌し、続いて、得られた懸濁液に1.0Lのメタノールを滴下して結晶性セルロースを前記溶液から粒子状に再生してなる粒子を造粒した。得られたセルロースゲルを大量のメタノール、次いで水で十分に洗浄し、球状セルロースゲルを得た。得られた球状セルロースゲルを53μm〜125μmで分級し、この粒子径の球状セルロースゲル1を得た。さらに、球状セルロースゲル1を光学顕微鏡で観察し、その粒子形が球状であることを確認した。
【0074】
得られた球状セルロースゲル1を前述のようにカラムに充填し、得られたカラムを前記のKav測定装置に装着し、Kav測定サンプルとしてデキストランT2000とPEG19000とを用いて、前記のKav導出式から球状セルロースゲル1のゲル分配係数を求めた。その結果、球状セルロースゲル1のゲル分配係数は、PEG19000に対するKavで0.61であった。同様に、前述の各測定サンプルを用いて球状セルロースゲル1のゲル分配係数を求めた。結果を図2に示す。移動相を純水とし標準ポリエチレングリコールを用いた時の球状セルロースゲル1の排除限界分子量は100万Da以下であった。
【0075】
[実施例2]
結晶性セルロースに平均重合度700の結晶性セルロース(日本製紙ケミカルKCフロックW−100)を使用した以外は実施例1に従い、球状セルロースゲル2を得た。球状セルロースゲル2を光学顕微鏡で観察した結果、その粒子形が球状であることを確認した。得られた球状セルロースゲル2のゲル分配係数を実施例1と同様に求めた。結果を図2に示す。球状セルロースゲル2のゲル分配係数は、PEG19000に対するKavで0.37であった。
【0076】
[実施例3]
結晶性セルロースに平均重合度540の結晶性セルロース(日本製紙ケミカルKCフロックW−200)を使用した以外は実施例1に従い、球状セルロースゲル3を得た。球状セルロースゲル3を光学顕微鏡で観察した結果、その粒子形が球状であることを確認した。得られた球状セルロースゲル3のゲル分配係数を実施例1と同様に求めた。球状セルロースゲル3のゲル分配係数は、PEG19000に対するKavで0.63であった。
【0077】
[実施例4]
結晶性セルロースの透明溶液の濃度を6%とした以外は実施例1に従い、球状セルロースゲル4を得た。球状セルロースゲル4を光学顕微鏡で観察した結果、その粒子形が球状であることを確認した。得られた球状セルロースゲル4のゲル分配係数を実施例1と同様に求めた。結果を図2に示す。球状セルロースゲル4のゲル分配係数は、PEG19000に対するKavで0.61であった。
【0078】
[実施例5]
混合水溶液における水酸化ナトリウムの濃度を10.0%とし、チオ尿素の濃度を4.0%とした以外は実施例1に従い、球状セルロースゲル5を得た。得られた球状セルロースゲル5を下記の方法に従い架橋した。
【0079】
(1)上記で得られた球状セルロースゲル5(含水率8.7%)の122gを、213gの純水に90.6gの硫酸ナトリウム(Na2SO4)を溶解した液に加え、撹拌した。混合物の温度を50℃にして2時間撹拌を継続した。
(2)次に、この混合物に48重量%の水酸化ナトリウム水溶液4.7gと水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)0.8gとを加え、撹拌した。初期アルカリ濃度[NaOH]は0.69%(w/w)であった。
(3)50℃で混合物の撹拌を継続しながら、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液60.3gと、エピクロロヒドリン72.0gとをそれぞれ24等分し、そのそれぞれを15分置きに前記混合物に添加し、およそ6時間かけて全量を添加した。
(4)添加終了後、この混合物を温度50℃で16時間反応させた。
(5)この混合物を温度30℃以下に冷却した後、酢酸2.6gを加え、中和した。
(6)反応混合物を濾過して回収し、純水で濾過洗浄し、目的の架橋セルロースゲル1を得た。
【0080】
得られた架橋セルロースゲルのゲル分配係数を実施例1と同様に求めた。架橋セルロースゲル1のゲル分配係数は、PEG19000に対するKavで0.51であった。
【0081】
本発明の多孔性セルロース粒子の好ましい使用形態の一つであるクロマトグラフィー用充填剤に関する実施例を以下に記す。本発明は何らこれらの実施例に制限されるものではない。
【0082】
[実施例6]
球状セルロースゲル1を用い、以下の試料1〜3のそれぞれの溶出時間(インジェクションから溶出ピークの最大値までの時間)を測定した。この測定は、移動相及び試料の溶剤に100mM硫酸ナトリウムを用いた以外は、前述のゲル分配係数Kavの測定と同様に行った。
試料1.チログロブリン、ウシ甲状腺由来(Fluka)分子量66×104
試料2.ウシ血清アルブミン、ウシ血清由来(シグマ)分子量6.6×104
試料3.リゾチーム、鶏卵白由来(生化学工業)分子量1.43×104
【0083】
それぞれの試料の溶出時間は、試料1が23.8分であり、試料2が29.6分であり、試料3が32.8分であった。この結果から、球状セルロースゲル1は異なる分子量を有するタンパク質を溶出時間の差により分離させることが可能であることが明らかになり、ゲルろ過剤としての球状セルロースゲル1の利用が示された。
【0084】
[実施例7]
プロテインAの固定化と抗体吸着量
(1)ホルミル基の修飾方法
架橋セルロースゲル1を、2.5mg/mL濃度の過沃素酸ナトリウム溶液10mLに縣濁して、2時間、30℃で反応させ、架橋セルロースゲルにホルミル基が形成された架橋セルロースゲル2を得た。得られた架橋セルロースゲル2を純水で十分に洗浄した。
【0085】
(2)プロテインAの固定化
架橋セルロースゲル2の1mLあたり8.2mgのプロテインA(Replegen社製)を加えて、0.5M塩化ナトリウムを含む0.2Mリン酸−水酸化ナトリウム(pH11.5)を用いて30℃、1時間反応させ、架橋セルロースゲル2にプロテインAを固定化してなる架橋セルロースゲル3を得た。次に架橋セルロースゲル3の1mLあたり9.2mgのジメチルアミンボランを加えて、30℃、1時間反応させ、プロテインAを共有結合させた架橋セルロースゲル4を得た。架橋セルロースゲル4を1M塩化ナトリウム溶液で十分に洗浄した後、ブロッキング試薬として0.2Mトリス塩酸緩衝液(pH7.0)を加えて、30℃、1時間反応させ、ホルミル基を不活性化させた架橋セルロースゲル5を得た。次に架橋セルロースゲル5の1mLあたり9.2mgジメチルアミンボラン溶液を加えて、30℃、1時間反応させ、ホルミル基とブロッキング試薬を共有結合させた架橋セルロースゲル6を得た。
【0086】
(3)抗体吸着量の測定
架橋セルロースゲル6を、0.15Mの塩化ナトリウムを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)で十分に洗浄した。一方で、血清由来のヒトγグロブリン100mg(和光純薬社製)を0.15Mの塩化ナトリウムを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)10mLに溶解し、抗体溶液を調製した。架橋セルロースゲル6の1mLあたり8.3mLの抗体溶液を加えて30℃、1時間反応させた。架橋セルロース6に吸着された抗体量を求めるために、反応溶液を回収して、波長278nmの吸光度測定を行い、未吸着の抗体量を求めた。反応させた抗体量から未吸着の抗体量を差し引くことで、架橋セルロースゲル6に吸着された抗体量を算出した。この結果、架橋セルロースゲル6に吸着された抗体は架橋セルロースゲル6の1mLあたり56mgであった。
【0087】
[比較例1]
混合水溶液に結晶性セルロースを溶解させる温度を−12℃とした以外は実施例1に従い、球状セルロースゲルC1を得た。球状セルロースゲルC1を光学顕微鏡で観察した結果、その粒子形が球状であることを確認した。得られた球状セルロースゲルC1のゲル分配係数を実施例1と同様に求めた。結果を図2に示す。球状セルロースゲルC1のゲル分配係数は、PEG19000に対するKavで0.61であった。
【0088】
[比較例2]
混合水溶液に結晶性セルロースを溶解させる温度を室温(22〜24℃)とした以外は実施例1に従い、結晶性セルロースの溶解を試みた。しかしながら、60分間以上攪拌したが液は白濁したままであり、透明な溶液とならず結晶性セルロースの溶解は認められなかった。
【0089】
[比較例3]
結晶性セルロースの溶剤に60%チオシアン酸カルシウム水溶液を使用し、これに20gの結晶性セルロース(日本製紙ケミカルKCフロックW−100、平均重合度700)を加えて結晶性セルロースの濃度を4%とし、結晶性セルロースの溶解を試みた。前記水溶液を加熱して110℃で1時間以上攪拌した。この条件では結晶性セルロースが十分に溶解しないことを確認した。
【0090】
以上より、実施例1における結晶性セルロースの溶解は、比較例1とは温度条件のみが異なるが、実施例1で得られた多孔性セルロース粒子は、比較例1で得られた多孔性セルロース粒子と同様の細孔特性を有していることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
セルロースは、樹木等の天然資源に由来しており、材料やその処理方法、存在する夾雑物によっては、得られるセルロースの物性が一概に同一にはならないことがある。本発明では、ファインケミカルに適用される結晶性セルロースを、10〜15℃という、氷点下の温度に比べて容易に実現することができる温度において溶解させることができることから、結晶性セルロースの溶解を容易にかつ安価に行うことができるので、結晶性セルロースを用いるファインケミカルの分野のさらなる発展や新たな発見が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5〜12重量%の水酸化ナトリウムと、9〜20重量%尿素又は3〜8重量%チオ尿素との混合水溶液にセルロースを溶解させる方法であって、
前記セルロースに結晶性セルロースを用い、10〜15℃で前記混合水溶液に前記セルロースを溶解させることを特徴とするセルロースの溶解方法。
【請求項2】
結晶性セルロースの平均重合度が100〜900であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースの溶解方法。
【請求項3】
結晶性セルロースが木材パルプ由来のセルロースであることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースの溶解方法。
【請求項4】
前記混合水溶液における結晶性セルロースの溶解濃度が1〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースの溶解方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法で溶解した結晶性セルロースを再生させて多孔性セルロースを製造することを特徴とする多孔性セルロースの製造方法。
【請求項6】
溶解した結晶性セルロースを粒子状に再生させることを特徴とする請求項5に記載の多孔性セルロースの製造方法。
【請求項7】
結晶性セルロースの溶液を水相とする水/油タイプのエマルジョンから結晶性セルロースを再生させることを特徴とする請求項6に記載の多孔性セルロースの製造方法。
【請求項8】
多孔性セルロースの水酸基の少なくとも一部を反応性官能基で置換する工程をさらに含むことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の多孔性セルロースの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate