説明

結晶性デキスロキシグルミドの製造法

本発明は、イソプロピルエーテルからの結晶化によるデキスロキシグルミドの新規な精製法を提供し、該方法は、たとえば経口医薬剤形の工業規模の調製での使用に好都合な形態学的特性および粒度特性を持つ生成物を再現可能に製造するのを可能ならしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、イソプロピルエーテルからの結晶化による、(R)−4−[(3,4−ジクロロベンゾイル)アミノ]−5−[(3−メトキシプロピル)ペンチルアミノ]−5−オキソ−ペンタン酸[dexloxiglumide(デキスロキシグルミド)、CR2017;分子式:C2130Cl;CAS登録番号:119818−90−2]の新規な製造法である。
【背景技術】
【0002】
本発明の対象である化合物のデキスロキシグルミドは、1型コレシストキニン(CCK)レセプタに対し拮抗活性を有することが認められている。従って、デキスロキシグルミドは、胃腸管のいくつかの病的状態などのヒトの各種疾患、たとえば過敏性結腸症候群、非潰瘍性消化不良、胆石仙痛および胆道ジスキネジー、胃食道逆流、膵臓炎、またはより一般的には胃腸運動性障害の処置に有利に使用できる。
【0003】
この化合物の製法およびいくつかの薬理学的活性は既に、たとえば米国特許US5602179に記載されている。
生成物の最終精製は、HO/アルコール(2:1比,v/v)混合物からの結晶化によって行なわれた。この精製は、化学的に純粋な、すなわち、99.5%以上の化学的純度と光学的純度を持つ化合物が得られるのを可能ならしめた。
【0004】
しかしながら、このようにして得られる生成物の流動学的特性において、結晶の流動性特性が乏しいことから全く不満足な場合、たとえば錠剤などの経口医薬剤形の調製に対するその有利な使用を妨げる。
さらに、水性/アルコール性混合物の2成分の相対比を変える試みを行ったが、原料物質(未処理物質)の特性を改良できず、それどころか、なお多形混合を有した。
【発明の開示】
【0005】
本発明の第1目的は、多形形態がなく、かつ結晶性形態と、経口用途用の医薬剤形の工業規模の調製に適する所望の物理的性質を有する粒度分布とを有する結晶性生成物の製造を可能ならしめる方法を提供することである。
【0006】
本発明の特別な目的は、錠剤の配合に適する流動性特性を有する結晶性デキスロキシグルミドを製造できる方法を提供することである。
流動性はことによると、錠剤配合での使用が意図される粉末の物理的性質の中で最も重要と思われる。乏しい流動性は実際に、粉末がそれぞれの物質と接触している各種表面に粘着する傾向にあり、このため、計量やプレスの圧縮室への供給時に問題を引き起こし、その取扱いが困難となりうることを意味する。
【0007】
これはたびたび起こるが、それは、管理されていない結晶化法が、形状と大きさが非常に異なる結晶を生成して、形状が多少異なる小さな結晶が大きな結晶上に不均一に蓄積するときである。これらの場合の粒度分布は、概して多様相(polymodal)であって、このため、特異的で再現可能な粒度分布を有する生成物を得ることは困難である。
【0008】
従って、工業的方法の観点から、いったん最適な粒度分布および結晶形状が固定されれば、これらが不変かつ再現可能な状態のままでいる生成物を得ることが重要である。
本発明の他の目的は、粒度のガウスもしくは単様相分布が得られるのを、または量的に小さな分布に相当するピークが全体の10〜15重量%を越えない二様相分布でもが得られるのを可能ならしめる方法を提供することである。
【0009】
上述の目的に鑑み、本発明の対象は特許請求の範囲で規定される方法である。
また、結晶性粉末および該粉末から成る経口用途用の医薬組成物も、本発明の対象である。
【0010】
いったんえり抜きの結晶化溶剤を同定すれば(本発明での該溶剤は、高度の純度、高い結晶化収率、乾燥の容易さ、および多形形態のない純粋な結晶性形態を持つ粉末が得られるのを可能にするイソプロピルエーテルであるが)、できるならば、回転式プレスとの使用に適する流動性および圧縮性特性を付与するような形態と粒度を有する粉末の製造を可能にする理想の結晶化条件を同定するために、多数の実験を行った。
【0011】
また、この生成物が良好な流動性特性を有するためには、微粒子(<10μm)の量を制限すべきで、いずれにせよ、15%を越えてはならないことがわかった。
【0012】
形態および粒度の両方に関し、圧縮に適当である粉末を得る試みのために、多数のパラメーターについて評価し、最適化したところ、これらはたとえば、最適な溶質/溶剤比、すなわち、デキスロキシグルミド/イソプロピルエーテル比;種結晶表面積が全体素材(mass)に対して大きくなるように、種結晶が十分に微細な粒度を有すべきことを考慮して、種結晶の質と量;種結晶を粗生成物の過飽和溶液に加える温度;およびシステム(系)の冷却の速度曲線であった。
【0013】
前述のUS特許5602179の記載に準じて、すなわち、水性/アルコール性混合物を用いる最終精製によって得られる生成物は、好ましくない流動学的特性を有していた。
【0014】
一般に経口医薬剤形の調製に用いる粉末の主な流動学的特性を決定するのに使用される技法は、
a)式:
【数1】

[ここで、VおよびVはそれぞれ、所定の計量した粉末(一般に100g)を250mLメスシリンダーに入れ、次いで一定数の機械的ストローク(一般に2000ストローク)の前および後に占める容積の測定量である]
で表わされる粉末の圧縮性の測定(Carr指数、USP24/NF19,p.1914による)[この指数が小さければ小さい程、圧縮時の粉末の挙動は良好となり;たとえば5−15値の百分率は優秀とみなされるのに対し、33以上の値では非常に劣等とみなされる(J.I.Wells,Pharmaceutical Preformulation;Ellis H.Lim;J.Wiley and Sonds Ed. p.210参照)];
【0015】
b)粒度分布(PSD)の測定[PSDは、粉末の流動性に影響、故にその医薬用途に影響を及ぼすばかりでなく、活性成分の溶解速度において、故にその生物学的利用能において重要な役割を持ち、このため、活性成分の効き目にも重要な役割を持つことに注目すべきである]
である。
【0016】
PSDは、“レーザー光線散乱”技法、すなわち、光路で特定大きさの粒子に遭遇したときに、高エネルギーの単色光線(レーザー光線)が受ける散乱(回折)によって測定される。
【0017】
試験すべき粉末は、ドライおよびウェット両方の各種技法によって製造しうるが、後者の場合、分散剤の選択は、分析すべき原料物質の化学的/物理的性質を考慮に入れるべきである。いったん試料を分析すれば、結果は、それぞれ個々のカラムが一定幅のバンド(ミクロン単位)を表わすのに対し、高さがそのバンドに存在する試料の百分率を表わすヒストグラムで伝えることができる。
【0018】
この装置のソフトウェアで計算した主な統計分布値は、数ある中で、D50、すなわち試料の50%が小で50%が大であるミクロン単位の大きさである。別の重要な測定値は、分布幅の測定値である“スパン”である。
【0019】
この幅は、下記の比で計算される。
【数2】

ここで、D90およびD10は、D50のそれに類する意義を有する。この“スパン”指数が小さければ小さい程、調べられる試料の粒度分布の信頼が高くなる。
【0020】
O/エタノール(2:1,v/v)からの結晶化で得られるデキスロキシグルミドは、Carr指数>33を有し、このため予測される流動性が非常に劣等であった。さらに、その粒度分布はD50値23.6μmの二様相形状を有し、<10μm粒子の百分率は29.5%で、スパン指数4.668、すなわち、非常に広い分布曲線であった。
【0021】
予測の通り、これらの流動学的特性を持つ粉末は、医薬生成物の錠剤形状での調製に全く不適当であった。
水性/アルコール性成分の相対百分率を変える試みは、HOと混和できる他の溶剤の選択と同様、失敗であった。HOと混和しない有機溶剤の中で、イソプロピルエーテルと以下に詳記する特定の結晶化法の使用のみが、課題解決を可能にした。
【0022】
結晶化溶剤としてイソプロピルエーテルの使用は、採用する方法と合せて、以下に示す利点を付与した。
a)高い結晶収率
b)低い溶剤使用量(溶剤/溶質比が1.5:1〜3:1,v/w)
c)乾燥の容易さ
d)結晶化生成物中の多形形態の欠如
e)有利な流動学的特性
【0023】
製造法を最適化するため、イソプロピルエーテルを用いて実施した種々の結晶化試験の中で、具体例として粗生成物44kgの素材について行った方法を、以下に記載する。
図面において、図1Aおよび1Bはそれぞれ、従来技術(図1B)および本発明方法(図1A)に従って製造した1ロットのデキスロキシグルミドの粒度分布曲線;および
図2aおよび2bは、本発明方法に従って製造したデキスロキシグルミド試料(図2a)および従来技術に従って水性/アルコール性溶剤から結晶化した試料(図2b)の300×倍率で撮った写真である。
【実施例】
【0024】
実施例1
400リットル(L)のエナメル反応器の100Lのイソプロピルエーテルに、44kgの粗デキスロキシグルミドを懸濁し、撹拌しながら素材が約55℃になるまで加熱すると、透明な溶液が得られる。このようにして得られる溶液をなお撹拌しながら、約36〜38℃で準安定な過飽和ゾーンに達するまで冷却する。
【0025】
この時点で、800gの種結晶(D50約20μmの粉砕デキスロキシグルミド)を加え、素材の温度を35〜36℃で4h一定保持する。次いで冷却ランプ(ramp)を組入れ、反応素材を約8hにわたって6℃に設定する。こうして形成した沈殿物を濾別し、乾燥して43kgの生成物を収率96%で得る(種結晶も計算する)。
【0026】
このようにして得られる結晶性生成物(ロットPP9282/43851)は、約12のCarr指数を有し、このため良好な流動性が予測される。
PSDの測定に用いた装置は、Malvern Master Sizer 2000 で、採用した方法は、分散剤としてHO、界面活性剤として濃度0.5%の Tween 20を用いるウェット法である。
【0027】
測定は、60秒の超音波処理後デキスロキシグルミドの濃度約0.06〜0.08%で行い、結晶をこわさずに、蓄積がばらばらになるのを可能にする。
粒度分布は、Carr指数と調和する。分布は、ほとんど単様相であり;平均大きさ測定値(D50)は97.3μm、微粒子(10μm)の百分率は4.23%、およびスパン指数1.608であり、このため、まずまずの狭い粒度分布である。
【0028】
図1において、エタノール/HOからの結晶化で製造した1ロットのデキスロキシグルミド(ロットG3919−3B)の粒子分布曲線を、実施例1に記載の如くイソプロピルエーテルから結晶化したロットPP9282のそれと比較し、数ある中で、上記のパラメーターを図1に記載する。
【0029】
それぞれエタノール/HOおよびイソプロピルエーテルからの結晶化で得た結晶の顕微鏡分析で行った形態学的分析によっても、レーザー光線回折での粒度分布による場合に既にわかっていることが確認される。
【0030】
図2は、本発明方法に従って製造したデキスロキシグルミド(ロットPP9282/43851)の試料(図2a)と、従来の水性/アルコール性溶剤を用いて得た試料(図2b)を比較する、かかる試料の300×倍率で撮った写真を示す。
【0031】
図2の2つの影像の比較から、イソプロピルエーテルから結晶化した生成物は、平均径約70〜100μmの輪郭がはっきりした板状形状の結晶を有するのに対し、他のロットは、非常に多くの小さな凝結晶を持つ不定形の結晶を有することが認められる。
【0032】
本発明に従って製造したデキスロキシグルミド(ロットPP9282/43851)を使用し、賦形剤として、セルロース(希釈剤)、スターチ、グリコール酸ナトリウム(離解剤)、タルク、ステアリン酸マグネシウム、および二酸化珪素(潤滑剤)を用いて、全単位重量約440mgに対し200mgの活性成分を含有する錠剤を調製した。
【0033】
約200000個の錠剤を調製したが、流動性の問題もなく、すなわち、金属表面への粘着や錠剤内容物の一様性に問題なく、圧縮室へのむらのない供給を確保した。
USP,方法2(Paddle)に従い、分散剤として900mLのpH7.4(0.05M)のリン酸塩緩衝剤を37℃および50rpmで用いる溶解テストで実施したインビトロの生物学的利用能テストも肯定的であったが、それは85%以上の活性成分が30分以内で急速に溶解したからである。
【0034】
結論として、本発明に係るイソプロピルエーテルからの結晶化によるデキスロキシグルミドの新規製造法は、他の方法では工業規模での製造が不可能であったが、経口医薬剤形の錠剤形状への工業的調製に適した生成物の製造を可能にした。
【0035】
注:本明細書および特許請求の範囲の両方で規定される粒度は、絶対的数量ではなく、採用する測定法(本発明では、実施例1に記載の方法で、Malvern Master Sizer 2000 装置)に関係する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1A】本発明方法で製造したデキスロキシグルミドの粒度分布曲線を示す。
【図1B】従来法で製造したデキスロキシグルミドの粒度分布曲線を示す。
【図2a】本発明方法で製造したデキスロキシグルミドの顕微鏡写真である。
【図2b】従来法で製造したデキスロキシグルミドの顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗生成物の溶剤からの結晶化による結晶性デキスロキシグルミドの製造法であって、溶剤としてイソプロピルエーテルを用いることを特徴とする製造法。
【請求項2】
粗生成物1重量部に対してイソプロピルエーテル溶剤を1.5〜3容量部の量割合で用いる請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
平均粒度(D5020μmを有する微結晶性デキスロキシグルミドの種結晶を、粗デキスロキシグルミドの過飽和溶液に加えることにより、結晶化を行なう請求項1または2に記載の製造法。
【請求項4】
35〜40℃の温度に保持した粗デキスロキシグルミドの過飽和溶液に、粗生成物40〜200部に対して種結晶1部の割合で種結晶を加える請求項3に記載の製造法。
【請求項5】
種結晶の添加後、反応素材を34〜38℃、好ましくは36℃の温度で2〜8h、好ましくは6hの時間撹拌し、次いで撹拌しながら反応素材の温度を6〜10h、好ましくは8hの時間にわたり10±5℃までゆっくりと下げ、結晶化した固体を濾過で回収する請求項3または4に記載の製造法。
【請求項6】
10μm以下の寸法を有する微粒子15%以下の容量百分率と、50〜130μmの平均粒度値(D50)を有する結晶性粒子形態のデキスロキシグルミド。
【請求項7】
80〜100μmの平均粒度値(D50)を有する結晶性粒子形態の請求項6に記載のデキスロキシグルミド。
【請求項8】
スパン指数2.5以下の粒度分布を有する請求項6または7に記載の結晶性粒子形態のデキスロキシグルミド。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれか1つに記載の結晶化による製造法によって得ることができる請求項6乃至8のいずれか1つに記載のデキスロキシグルミド。
【請求項10】
活性物質として請求項6乃至9のいずれか1つに記載のデキスロキシグルミドから成る経口用途用の医薬組成物。
【請求項11】
50〜500mg量のデキスロキシグルミドおよび任意の医薬的に許容しうるビヒクルから成る請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
不活性成分として、希釈剤、離解剤、潤滑剤、流れ促進剤、およびこれらの混合物から選ばれる医薬的に許容しうるビヒクルを含有する請求項11に記載の医薬組成物、
【請求項13】
ビヒクルとして、スターチ、微結晶性セルロース、グリコール酸ナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、二酸化珪素、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる物質を含有する請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
消化管の疾患、特に過敏性結腸症候群、非潰瘍性消化不良、胆石仙痛および胆道ジスキネジー、胃食道逆流、膵臓炎および胃腸運動性障害の処置に使用する、請求項10乃至12のいずれか1つに記載の経口用途用の医薬組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図2a】
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【図2b】
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【公表番号】特表2007−521253(P2007−521253A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516595(P2006−516595)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【国際出願番号】PCT/IB2004/002208
【国際公開番号】WO2004/113271
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(598105824)ロッタファルム・ソシエタ・ペル・アチオニ (18)
【氏名又は名称原語表記】ROTTAPHARM S.p.A.
【Fターム(参考)】