説明

結晶性ポリアルキレンオキサイド

【課題】 ナノインプリント用樹脂、摺動部材及びトナーバインダー用樹脂等の原料として使用できる耐熱性に優れた結晶性ポリアルキレンオキサイドを提供する。
【解決手段】 1分子中に平均1個以上の重合性二重結合を側鎖及び/又は末端に有する数平均分子量1,000〜1,000,000の結晶性ポリアルキレンオキサイドであって、1分子中に重合性二重結合及びオキシラン環を有する化合物(a)と炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(b)を開環共重合させて得られる、アイソタクティシティーが95〜100%の結晶性ポリアルキレンオキサイドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性二重結合を有する結晶性ポリアルキレンオキサイドに関する。さらに詳しくは、1分子中に重合性二重結合及びオキシラン環を有する化合物を原料の1種に用いた結晶性ポリアルキレンオキサイド、前記結晶性ポリアルキレンオキサイドの架橋物、前記結晶性ポリアルキレンオキサイドを原料とするポリウレタン樹脂及びポリエステル樹脂、並びにこれらの樹脂の架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキレンオキサイドを開環重合してアイソタクティシティーの高い結晶性ポリアルキレンオキサイドを得る方法としては、既に多くの種類の触媒を用いた方法が知られている。例えば、キラル体のアルキレンオキサイドを通常のアルキレンオキサイドの重合で使用される触媒で開環重合させる方法(例えば非特許文献1)や、ラセミ体のアルキレンオキサイドを立体的に嵩高い特殊な化学構造の錯体を触媒として用いて開環重合させる方法が知られている。更に、ランタノイド錯体と有機アルミニウムを接触させた化合物を触媒として用いる方法(例えば特許文献1)や、バイメタルμ−オキソアルコキサイドとヒドロキシル化合物をあらかじめ反応させる方法(例えば特許文献2)等が知られている。最近では、さらにアイソタクティシティーの高いポリアルキレンオキサイドを得る方法としてサレン錯体を触媒として用いる方法(例えば特許文献3及び非特許文献2)が知られている。上記結晶性ポリアルキレンオキサイドは、耐加水分解性、摺動性、耐摩耗性及びシャープメルト性に優れている。しかしながら、これらの結晶性ポリアルキレンオキサイドはナノインプリント用樹脂、摺動部材及びトナーバインダー等の耐熱性が要求される用途の樹脂の構成成分に用いた場合、これらの樹脂は耐熱性が十分ではないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−12353号公報
【特許文献2】特表2001−521957号公報
【特許文献3】特開2008−208348号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society、1956年、第78巻、第18号、p.4787−4792
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society、2005年、第127巻、第33号、p.11566−11567
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ナノインプリント用樹脂、摺動部材及びトナーバインダー用樹脂等の原料として使用できる耐熱性に優れた結晶性ポリアルキレンオキサイドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の問題点を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、1分子中に平均1個以上の重合性二重結合を有する数平均分子量1,000〜1,000,000の結晶性ポリアルキレンオキサイド;前記結晶性ポリアルキレンオキサイドを重合開始剤を用いて架橋して得られた結晶性ポリアルキレンオキサイド架橋物;前記結晶性ポリアルキレンオキサイドをポリオール成分の1種として使用し、ポリイソシアネートでウレタン化して得られるポリウレタン樹脂;前記ポリウレタン樹脂に、さらに重合開始剤を加えて架橋して得られる架橋ポリウレタン樹脂;前記結晶性ポリアルキレンオキサイドをポリオール成分の1種として使用し、多価カルボン酸でエステル化して得られるポリエステル樹脂;及び、前記ポリエステル樹脂に、さらに重合開始剤を加えて架橋して得られる架橋ポリエステル樹脂;である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドは、従来の結晶性ポリアルキレンオキサイドよりも良好な耐熱性を有する。本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイド架橋物は、従来の結晶性ポリアルキレンオキサイドよりも優れた耐熱性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドは1分子中に平均で1個以上の重合性二重結合を有する。重合性二重結合の1分子当たりの平均の数は、耐熱性の観点から下限は好ましくは2個であり、結晶性の観点から上限は好ましくは4,000個、さらに好ましくは1,000個、特に好ましくは200個である。平均で1個未満では耐熱性が不十分である。本発明における「重合性二重結合」とは、熱もしくは光等によるラジカル重合開始剤、光酸発生剤又は放射線等によって通常の条件でラジカル重合又はイオン重合を行う二重結合である。
【0009】
本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドは、重合性二重結合を分子の側鎖及び/又は末端に含有する。本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドは、通常は、後述のように、1分子中に重合性二重結合及びオキシラン環を有する化合物(a)[以下において、単に化合物(a)と表記することがある]と炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(b)[以下において、単にアルキレンキサイド(b)と表記することがある]を開環共重合させて得られるが、開環共重合がランダム共重合の場合は、重合性二重結合は分子の側鎖及び末端に含有する。また、最初に前記アルキレンオキサイド(b)を重合し、次いで前記化合物(a)を、さらに前記アルキレンオキサイド(b)を重合するブロック共重合した場合は重合性二重結合は分子の側鎖のみに含有し、その他の場合は側鎖及び末端に含有する。
【0010】
本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドは、数平均分子量(Mn)が通常1,000〜1,000,000、成型時の溶融粘度の観点から、好ましくは3,000〜300,000である。Mnはポリエチレングリコールを標準とするGPCで測定できる。
また、重合性二重結合1個あたりのMnは、耐熱性の観点から、250〜2,500であることが好ましく、さらに好ましくは250〜1,000である。
【0011】
重合性二重結合の含有量は以下のように求めることができる。
測定試料約30mgを直径5mmの1H−NMR用試料管に秤量し、約0.5mlの重水素化溶剤を加え溶解させ、分析用試料とする。ここで重水素化溶剤は、例えば重水素化クロロホルム、重水素化トルエン、重水素化ジメチルスルホキシド、重水素化ジメチルホルムアミドであり、試料を溶解させることのできる溶剤を適宜選択する。
【0012】
例えば、前記化合物(a)が1,3−ブタジエンモノエポキサイドであって、前記アルキレンオキサイド(b)が1,2−プロピレンオキサイドの場合、1H−NMRの1,3−ブタジエンモノエポキサイドのオレフィン由来の信号が5〜6ppmに3H分、1,2−プロピレンオキサイドのメチル基由来の信号が1.15ppm付近に3H分観測される。この積分値から化合物(a)とアルキレンオキサイド(b)のモル比を算出し、その結果から重合性二重結合の含有量(mg当量/g)を算出することができる。
【0013】
重合性二重結合の1分子中の平均個数及び重合性二重結合1個当たりのMnは、前記GPC測定で得られたMnと1H−NMRから得られた重合性二重結合の含有量から計算できる。
【0014】
本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドのアイソタクティシティーは、結晶化の観点から、好ましくは95〜100%、さらに好ましくは98〜100%である。
【0015】
アイソタクティシティーは、Macromolecules,vol.35、No.6、2389−2392貢(2002年)に掲載の方法で算出することができ、以下のようにして求める。
【0016】
測定試料約30mgを直径5mmの13C−NMR用試料管に秤量し、約0.5mlの重水素化溶剤を加え溶解させ、分析用試料とする。ここで重水素化溶剤は、例えば重水素化クロロホルム、重水素化トルエン、重水素化ジメチルスルホキシド、重水素化ジメチルホルムアミドであり、試料を溶解させることのできる溶剤を適宜選択する。
【0017】
例えば、結晶性ポリプロピレンオキサイドの場合、13C−NMRの3種類のメチン基由来の信号は、それぞれシンジオタック値(S)75.1ppm付近とヘテロタクチック(H)75.3ppm付近とアイソタクチック(I)75.5ppm付近に観測される。アイソタクティシティーを次の計算式(1)により算出する。
アイソタクティシティー(%)=[(I)/(I+S+H)]×100 (1)
ただし、式中、Iはアイソタクチック信号の積分値、Sはシンジオタクチック信号の積分値、Hはヘテロタクチック信号の積分値である。
【0018】
本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドは、好ましくは、1分子中に重合性二重結合及びオキシラン環を有する化合物(a)と炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(b)を開環共重合させて得られる。化合物(a)としては、一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
式中、R1〜R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R7は炭素数1〜4のアルキレン基であって、エーテル酸素原子を介在していてもよく、aは0又は1である。R1〜R6 で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基及びプロピル基等が挙げられる。R1〜R6のうち好ましいのは水素原子である。R7で示されるアルキレン基としては、メチレン基、エチル基及びプロピル基等が挙げられ、エーテル酸素原子を介在したアルキレン基としては、−CH2−O−CH2−、−CH2CH2−O−CH2−及び−CH2CH2CH2−O−CH2−等が挙げられる。aのうち好ましいのは0である。一般式(1)で示される化合物としては、1,3−ブタジエンモノエポキシド、1,5−ヘキサジエンモノエポキシド及びアリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらのうち、結晶性ポリアルキレンオキサイドの製造における重合し易さの観点から、好ましいのは1,3−ブタジエンモノエポキシドである。
【0021】
前記アルキレンオキサイド(b)としては、エチレンオキサイド、1,2−プロピレンオキサイド、1,3−プロピレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド及び1,4−ブチレンオキサイド等が挙げられる。前記アルキレンオキサイド(b)のうち、好ましいのは、結晶性及びシャープメルト性の観点から1,2−プロピレンオキサイドである。
【0022】
化合物(a)及びアルキレンオキサイド(b)の開環重合には、通常は触媒を使用する。触媒としては、従来から結晶性ポリアルキレンオキサイドの製造に公知の触媒が使用できる。例えば、ランタノイド錯体と有機アルミニウムを接触させた化合物、バイメタルμ−オキソアルコキサイド、及びサレン錯体等が挙げられる。なお、キラル体の原料アルキレンオキサイドを使用する場合は、通常のアルカリ金属触媒であってもよい。これらの触媒のうち、アイソタクティシティーの観点から、好ましいのはサレン錯体である。
【0023】
触媒として好ましいサレン錯体としては、N,N’−ビス(3,5−ジターシャルブチルサリチルイジン−1,2−ベンゼンジアミン)コバルト酢酸錯体、N,N’−ビス(3,5−ジターシャルブチルサリチルイジン−1,2−ベンゼンジアミン)コバルトメトキシ錯体、及び特開2008−208348号公報記載のもの等が挙げられる。サレン錯体のうち、特にN,N’−ビス(3,5−ジターシャルブチルサリチルイジン−1,2−ベンゼンジアミン)コバルト酢酸錯体が好ましい。
【0024】
開環重合する際のサレン錯体のモル数に対する化合物(a)及びアルキレンオキサイド(b)の合計モル数の比は、200〜1,000であることが好ましい。200以下であるとコストアップにつながり、1,000以上であると重合反応が進行しないという観点から適さない。
【0025】
開環重合反応は、通常−30℃〜100℃で行うことができるが、アイソタクティシティー及び分子量制御の観点から、好ましくは−10℃〜90℃、さらに好ましくは−5℃〜70℃である。
【0026】
開環重合反応は、無溶剤中で反応することができる。また、必要により適当な不活性溶剤(例えばトルエン及びキシレン)中で反応することもでき、溶剤の使用量は、アイソタクティシティー及び目的とする分子量のものが得られるように適宜選択される。
【0027】
開環重合反応した後の精製方法としては、まず、未反応物を蒸発除去した後、トルエンなどの溶剤に溶解させ、塩酸などの酸を含む水によって加水分解処理し、分液することで触媒を除去することができる。適した酸としては、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、安息香酸及び酢酸が挙げられる。触媒を除去する処理をした後、必要により溶剤を除去し、適した沈殿溶剤(例えば、アセトン及びメチルエチルケトン)からの再結晶沈殿によってさらに精製することができる。
【0028】
本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドは、従来の非結晶性ポリアルキレンオキサイドよりも耐加水分解性に優れ、摺動性に優れ、かつシャープメルト性に優れている。シャープメルト性に優れているので成形性に優れている。また、従来の結晶性ポリアルキレンオキサイドと同等の耐加水分解性、摺動性及びシャープメルト性を有し、かつ良好な耐熱性を有する。
【0029】
本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイド架橋物は、上記の結晶性ポリアルキレンオキサイドを重合開始剤を用いて架橋して得られた架橋物である。重合開始剤としては、熱もしくは光等によるラジカル重合開始剤及び光酸発生剤等が挙げられ、放射線等によって重合して得られた架橋物も本発明の架橋物の範囲に含まれる。重合開始剤の添加量は、結晶性ポリアルキレンオキサイド中の重合性二重結合の量に依り適宜決められるが、通常の重合反応で使用される量比の範囲であれば特に限定されない。結晶性ポリアルキレンオキサイド架橋物の製造方法としては、熱溶融させプレスし冷却する又はモールドに流し冷却する等、使用用途に適した形に成形し、その後放射線等によって架橋する方法が挙げられる。
【0030】
本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドは、架橋することによりさらに耐熱性が向上した樹脂となる。本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイド架橋物は、従来の結晶性ポリアルキレンオキサイドと同等の耐加水分解性及び摺動性を有し、かつ非常に優れた耐熱性を有する。
【0031】
本発明のポリウレタン樹脂は、前記結晶性ポリアルキレンオキサイドをポリオール成分の1種として使用し、ポリイソシアネートでウレタン化して得られるポリウレタン樹脂である。また、本発明の架橋ポリウレタン樹脂は、前記ポリウレタン樹脂に、さらに重合開始剤を加えて架橋して得られる架橋ポリウレタン樹脂である。
【0032】
本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドを原料として使用することで、シャープメルト性に優れたポリウレタン樹脂が得られ、架橋後に優れた耐熱性をもつ架橋ポリウレタン樹脂が得られる。
【0033】
本発明のポリウレタン樹脂は、ポリオール成分の1種として本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドを使うこと以外は、通常のポリウレタン樹脂の製造方法で行うことができる。ポリウレタン樹脂の製造例としては、あらかじめポリオール成分とポリイソシアネートを反応させウレタンプレポリマーを得た後、鎖延長剤を用いて高分子量化するプレポリマー法と、鎖延長剤を含むポリオール成分とポリイソシアネートを反応させるワンショット法などがある。いずれの方法も必要に応じて溶剤の使用下で実施してもよく、触媒としてアミン系触媒や金属化合物系触媒を使用してもよい。ポリウレタン樹脂の製造法の具体例としては、特開2008−208348号公報記載の方法などが挙げられる。
【0034】
本発明の架橋ポリウレタン樹脂に使用される重合開始剤としては、前述の重合開始剤と同様のものが挙げられる。重合開始剤の添加量は、ポリウレタン樹脂中の重合性二重結合の量に依り適宜決められるが、通常の重合反応で使用される量比の範囲であれば特に限定されない。架橋ポリウレタン樹脂の製造方法としては、熱溶融させプレスし冷却する又はモールドに流し冷却する等、使用用途に適した形に成形し、その後放射線等によって架橋する方法が挙げられる。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂は、前記結晶性ポリアルキレンオキサイドをポリオール成分の1種として使用し、多価カルボン酸でエステル化して得られるポリエステル樹脂である。また、本発明の架橋ポリエステル樹脂は、上記ポリエステル樹脂に、さらに重合開始剤を加えて架橋して得られる架橋ポリエステル樹脂である。
【0036】
本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドを原料として使用することで、シャープメルト性に優れたポリエステル樹脂が得られ、架橋後に優れた耐熱性をもつ架橋ポリエステル樹脂が得られる。
【0037】
本発明のポリエステル樹脂は、ポリオール成分の1種として本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドを使うこと以外は、通常のポリエステル樹脂の製造方法で行うことができる。ポリエステル樹脂の製造例としては、ポリオール成分とポリカルボン酸又はその無水物もしくは低級アルキルエステルを、触媒の存在下に加熱して重縮合させる方法が挙げられる。触媒としては、例えはスズ系化合物(ジブチルチンオキシド又はジオクチルスズジラウレートなど)、チタン系化合物(チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタントリエタノールアミネート又はチタンジイソプロポキシビストリエタノールアミネートなど)、アンチモン系化合物(3酸化アンチモンなど)が挙げられる。触媒のうち環境負荷の観点からチタン系化合物が好ましい。ポリエステル樹脂の製造法の具体例としては、特開2001−64382号公報記載の方法などが挙げられる。
【0038】
本発明の架橋ポリエステル樹脂に使用される重合開始剤としては、前述の重合開始剤と同様のものが挙げられる。重合開始剤の添加量は、ポリエステル樹脂中の重合性二重結合の量に依り適宜決められるが、通常の重合反応で使用される量比の範囲であれば特に限定されない。架橋ポリエステル樹脂の製造方法としては、熱溶融させプレスし冷却する又はモールドに流し冷却する等、使用用途に適した形に成形し、その後放射線等によって架橋する方法が挙げられる。
【0039】
本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドを原料として用いたポリウレタン樹脂もしくはポリエステル樹脂は、従来の結晶性ポリアルキレンオキサイドを原料としたポリウレタン樹脂もしくはポリエステル樹脂と同等の耐加水分解性、摺動性及びシャープメルト性を有し、かつ良好な耐熱性を有する。
【0040】
本発明の前記ポリウレタン樹脂もしくはポリエステル樹脂にさらに重合開始剤を加えて架橋して得られる樹脂架橋物は、従来の結晶性ポリアルキレンオキサイドを使用したポリウレタン樹脂もしくはポリエステル樹脂と同等の耐加水分解性及び摺動性を有し、かつ非常に優れた耐熱性を有する。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、部は重量部を示す。
【0042】
実施例1(二重結合を有する結晶性ポリアルキレンオキサイドの製造)
1,2−プロピレンオキサイド250部、1,3−ブタジエンモノエポキシド250部、及びN,N’−ビス(3,5−ジターシャルブチルサリチルイジン1,2−ベンゼンジアミン)コバルト酢酸錯体1部を耐圧容器に仕込んだ。その後、反応容器内を窒素置換し、0℃で3時間、攪拌を行った。反応後、未反応の1,2−プロピレンオキサイド及び1,3−ブタジエンモノエポキシドを蒸発除去し、残った固体をトルエン1,000部を用いて溶解させた。次いで、1規定の塩酸水で溶液を加水分解処理した後、下層を分液して除去し、上層の溶媒を除去し、アセトンを用いて再結晶することでポリアルキレンオキサイド105部を得た。GPCでポリアルキレンオキサイドの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を測定した結果、Mn=10,400、分子量分布(Mw/Mn)=3.76であった。1H−NMRにより1,2−プロピレンオキサイドと1,3−ブタジエンモノエポキシドとの重合モル比は、1,2−プロピレンオキサイド:1,3−ブタジエンモノエポキシド=91:9であり、計算の結果、1分子中の重合性二重結合は平均で15.8個であり、重合性二重結合1個当たりのMnは656であった。また、C13−NMRから計算されたアイソタクティシティーは99%であった。
【0043】
実施例2(二重結合を有する結晶性ポリアルキレンオキサイド架橋物の製造)
実施例1で得られた結晶性ポリアルキレンオキサイド90部及び光ラジカル重合開始剤としての2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「イルガキュア907」)10部を混合し、30mm×30mmの形状(厚さ0.5mm)に成形し、高圧水銀灯を用いて露光量100mJで一律に露光し、結晶性ポリアルキレンオキサイド架橋物を作製した。
【0044】
実施例3(二重結合を有する結晶性ポリアルキレンオキサイド架橋物の製造)
1,2−プロピレンオキサイドの仕込量を400部とし、1,3−ブタジエンモノエポキシドの仕込量を100部としたこと以外は実施例1と同様にして結晶性ポリアルキレンオキサイド185部を得た。GPCでMn及びMwを測定した結果、Mn=21,100、Mw/Mn=3.45であった。1H−NMRにより1,2−プロピレンオキサイドと1,3−ブタジエンモノエポキシドとの重合モル比は、1,2−プロピレンオキサイド:1,3−ブタジエンモノエポキシド=97:3であり、計算の結果、1分子中の重合性二重結合は平均で10.8個であり、重合性二重結合1個当たりのMnは1,945であった。また、C13−NMRから計算されたアイソタクティシティーは99%であった。この結晶性ポリアルキレンオキサイド90部及び光ラジカル重合開始剤としての2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン10部を混合し、30mm×30mmの形状(厚さ0.5mm)に成形し、高圧水銀灯を用いて露光量100mJで一律に露光し、結晶性ポリアルキレンオキサイド架橋物を作製した。
【0045】
比較例1(二重結合を有しない結晶性ポリアルキレンオキサイドの製造)
1,2−プロピレンオキサイドの仕込量を500部とし、1,3−ブタジエンモノエポキシドを使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして結晶性ポリアルキレンオキサイド385部を得た。GPCでMn及びMwを測定した結果、Mn=41,100、Mw/Mn=1.70であった。
【0046】
実施例1〜3および比較例1で得られた生成物について以下の方法で耐熱性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
<耐熱性の評価方法>
40℃及び90℃における貯蔵弾性率を測定した。40℃と90℃に置ける貯蔵弾性率の変化が小さいほうが耐熱性が良好であることを示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の結果から、比較例1に比べて、実施例1は重合性二重結合を有することにより耐熱性が良好であり、実施例2と実施例3は架橋物であることにより更に耐熱性が大きく向上していることがわかる。また、実施例2は実施例3に比べて重合性二重結合1個当たりのMnが小さいので、より耐熱性が優れている。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドは、架橋剤で架橋してナノインプリント用樹脂として有用である。本発明の結晶性ポリアルキレンオキサイドを原料として用いたポリウレタン樹脂もしくはポリエステル樹脂、又はそれらに重合開始剤を加えて架橋して得られる架橋物は、ナノインプリント用樹脂、トナーバインダー又は摺動部材(ウレタンブレード、Vベルト、歯付ベルト、特殊ベルト、医療用ゴム製品等)に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に平均1個以上の重合性二重結合を側鎖及び/又は末端に有する数平均分子量1,000〜1,000,000の結晶性ポリアルキレンオキサイド。
【請求項2】
重合性二重結合1個当たりの数平均分子量が250〜2,500である請求項1記載の結晶性ポリアルキレンオキサイド。
【請求項3】
アイソタクティシティーが95〜100%である請求項1又は2記載の結晶性ポリアルキレンオキサイド。
【請求項4】
1分子中に重合性二重結合及びオキシラン環を有する化合物(a)と炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(b)を開環共重合させて得られる請求項1〜3のいずれかに記載の結晶性ポリアルキレンオキサイド。
【請求項5】
開環共重合の触媒がサレン錯体である請求項4記載の結晶性ポリアルキレンオキサイド。
【請求項6】
前記化合物(a)が一般式(1)で表される化合物である請求項4又は5記載の結晶性ポリアルキレンオキサイド。
【化2】

[式中、R1〜R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R7は炭素数1〜4のアルキレン基であってエーテル酸素原子を介在していてもよく、aは0又は1である。]
【請求項7】
前記炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(b)が1,2−プロピレンオキサイドである請求項4〜6のいずれか記載の結晶性ポリアルキレンオキサイド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載の結晶性ポリアルキレンオキサイドを重合開始剤を用いて架橋して得られた結晶性ポリアルキレンオキサイド架橋物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか記載の結晶性ポリアルキレンオキサイドをポリオール成分の1種として使用し、ポリイソシアネートでウレタン化して得られるポリウレタン樹脂。
【請求項10】
請求項9記載のポリウレタン樹脂に、さらに重合開始剤を加えて架橋して得られる架橋ポリウレタン樹脂。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか記載の結晶性ポリアルキレンオキサイドをポリオール成分の1種として使用し、多価カルボン酸でエステル化して得られるポリエステル樹脂。
【請求項12】
請求項11記載のポリエステル樹脂に、さらに重合開始剤を加えて架橋して得られる架橋ポリエステル樹脂。

【公開番号】特開2010−180340(P2010−180340A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25808(P2009−25808)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】