説明

結晶性ポリエステル樹脂およびこれを用いた接着剤組成物

【課題】接着性、耐熱性に優れ、汎用溶媒に優れた溶解性を示し、かつ溶解物が良好な保存安定性を持つ結晶性ポリエステル樹脂、および特に錫メッキ銅や電解銅箔に対する接着性と優れた耐熱性を有する接着剤組成物を得る。
【解決手段】酸成分としてテレフタル酸を60モル%以上含有し、かつグリコール成分として1,4−ブタンジオ−ルを80〜30モル%、トリエチレングリコールまたは/およびジエチレングリコールを20〜70モル%含有し、融点が80〜160℃、ガラス転移温度が−20〜30℃であることを特徴とする結晶性ポリエステル樹脂、および前記結晶性ポリエステル樹脂を溶媒に溶解し添加剤等を適宜配合した接着剤組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種プラスチックフィルム、木材、紙、皮革、金属等に対する接着性に優れており、特に、電気、電子機器の配線等に使用されるフレキシブルフラットケーブル用途において、ポリエステルフィルムや錫メッキ銅および電解銅箔に対して優れた接着性、耐熱性を有すると共に、汎用溶媒に優れた溶解性を示し、且つ良好な保存安定性を持つ結晶性ポリエステル樹脂およびこれを用いた接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル樹脂は、各種材料の接着剤として使用されており、用途別、使用装置別に無溶剤型のホットメルト接着剤と溶剤型の溶剤系接着剤が使い分けられているのが現状である。近年は、環境問題等の関係から無溶剤型のホットメルト接着剤が多用される傾向にあるが、溶剤系接着剤の特徴である薄膜コーティング、作業の簡便さ等により依然として需要は多いため、ホットメルト接着剤と同等の性能を持ち、溶剤に可溶でかつ保存安定性に優れている結晶性ポリエステル接着剤が求められている。
【0003】
非結晶性のポリエステル樹脂は、溶剤に易溶であるが一般に耐熱性に乏しく、凝集力が小さいため接着性も低い。一方、一般的にホットメルト接着剤として多く用いられる結晶性のポリエステル樹脂は、凝集力に優れ、接着性は良好であるものの一般に溶剤に難溶で
あり、両者を満足できる溶剤系のポリエステル樹脂系接着剤を得ることは、非常に難しい。
【0004】
この問題に対して、特許文献1に示されるように結晶性ポリエステル樹脂に溶剤に可溶な非結晶性ポリエステル樹脂を溶融混合する方法においては、溶融混合工程が必要となるため大掛かりな装置を導入しなければならないという問題が生じた。
【特許文献1】特開平4−164957号公報
【0005】
これまでに種々の用途で使用されてきた飽和ポリエステル系ホットメルト樹脂は、例えば、高い耐熱性が要求性能として挙げられてきたにもかかわらず、接着(ラミネート)時の生産効率を重視するために、樹脂の融点を低くして、低温ラミネート化を実現してきた。融点が低い場合、用途、使用環境によっては、樹脂が軟化して流動するために作業性が低下し、また凝集力が減少して接着強度が低下するなど樹脂の特性が損なわれていくことがある。そこで、樹脂の融点を高くすると溶剤溶解性が非常に悪くなる傾向にあるため、これらの特性のバランスを取ることが非常に重要となる。
【0006】
例えば、特許文献2には、溶剤溶解性と保存安定性を向上させた結晶性ポリエステル樹脂が提案されている。これら樹脂について検討したところ、溶解性、安定性には優れているが、融点が低いために、耐熱性が不足気味で、高温環境下での使用には耐えない。また、実際に樹脂を使用する場合、生産性、コスト等の観点を考慮すると、ワニスに対する樹脂の固形分濃度を高めておくことが必要となるが、実用上問題が生じないレベルでの溶液安定性を可能にすることは、非常に難しい。
【特許文献2】特開平6−184515号公報
【0007】
特に、電気、電子機器の配線等の接着剤として用いる場合は、接着層の耐熱性、耐ブロッキング性、接着性の要求性能を満たす必要があり、これらの性能とともに、製造設備上の問題から溶剤に可溶で、しかも、保存安定性に優れた接着剤組成物が求められている。
【0008】
電気、電子機器の回路基板同士の配線に多用される多芯平型のフレキシブルフラットケーブル(以下FFCと略することがある)は、導電体である錫メッキ銅を、接着剤を介して絶縁フィルムと貼り合わせる構造、すなわち絶縁フィルム/接着剤/金属導線/接着剤/絶縁フィルムの構造を有している。絶縁フィルムとしては、機械特性、電気特性の優れた二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム層が用いられていることが多い。
【0009】
最近、FFCは自動車用途の様々な部分に用いられる事が多くなり、これに伴い、使用環境温度が高くなり、耐熱性の要求が高くなっている。これまではFFC用の接着剤には非晶性のポリエステルが主に用いられていたが、80℃以上の雰囲気下では機械的強度が低下してしまい、接着不良や接着剤層の変形が起こり使用に耐えられない。つまり、高耐熱性、耐ブロッキング性、接着性に優れ、且つ汎用溶剤に対して溶解性が良好であり、高固形分濃度のワニスでも優れた安定性を保持する結晶性ポリエステル樹脂が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、各種プラスチックフィルム、木材、紙、皮革、金属等に対する接着性に優れており、特に、電気、電子機器の配線等に使用されるフレキシブルフラットケーブル用途において、ポリエステルフィルムや錫メッキ銅および電解銅箔に対して優れた接着性、耐熱性を有すると共に、汎用溶媒に優れた溶解性を示し、且つ溶解物が良好な保存安定性を持つ結晶性ポリエステル樹脂およびこれを用いた接着剤組成物に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、鋭意検討した結果、以下に示す手段により上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1) ポリエステル樹脂の全酸成分、全グリコール成分それぞれの合計量を100モル%としたとき、酸成分としてテレフタル酸を60モル%以上含有し、且つグリコール成分として1,4−ブタンジオ−ルを80〜30モル%、トリエチレングリコールまたは/およびジエチレングリコールを20〜70モル%含有し、融点が80〜160℃、ガラス転移温度が−20〜30℃であることを特徴とする結晶性ポリエステル樹脂。
(2) トリエチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸残基の質量の合計質量がポリエステル樹脂の15〜40質量%を占めることを特徴とする(1)に記載の結晶性ポリエステル樹脂。
(3) 1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を5〜30モル%含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の結晶性ポリエステル樹脂。
(4) 前記結晶性ポリエステル樹脂が、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチルの合計濃度が全混合溶剤中の20質量%以上である少なくとも一種の混合溶剤に固形分濃度5質量%で溶解可能であり、該溶解物を25℃で3日間保存した時点の25℃で測定するB型回転粘度計で測定される溶液粘度が溶解直後の2倍以下であることを特徴とする(1)に記載の結晶性ポリエステル樹脂。
(5) (1)に記載の結晶性ポリエステル樹脂を含有し、溶剤としてトルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチルから選ばれる溶媒の少なくとも1種以上を含み、前記5種の溶媒の合計が全溶媒の20質量%以上を占めることを特徴とする接着剤組成物。
(6) 難燃剤、顔料、ブロッキング防止剤のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする(5)に記載の接着剤組成物。
以下に、本発明の詳細を述べる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、各種プラスチックフィルム、木材、紙、皮革、金属等に対する接着性に優れており、特に、電気、電子機器の配線等に使用されるフレキシブルフラットケーブル用途において、ポリエステルフィルムや錫メッキ銅および電解銅箔に対して優れた接着性、耐熱性を有すると共に、汎用溶媒に優れた溶解性を示し、且つ溶解物が良好な保存安定性を持つ結晶性ポリエステル樹脂およびこれを用いた接着剤組成物が得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂を構成する酸成分としては、テレフタル酸60〜100モル%、好ましくは65〜95モル%、より好ましくは70〜90モル%、さらに好ましくは75〜85モル%である。60モル%未満であると樹脂の結晶性および機械的強度が不足し、接着性、耐熱性が低下してしまう傾向にある。
【0014】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂を構成する酸成分としては、テレフタル酸以外に、脂環族二塩基酸成分を含むことが望ましい。脂環族二塩基酸を含むことにより、ポリエステル樹脂は適度な結晶性を保持したまま溶媒に対する溶解性を高めることが出来る。脂環族二塩基酸としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等が挙げられる。これらの中でも、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい。全酸成分中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の含有率は5〜30モル%、好ましくは10〜20モル%である。30モル%より多いと、樹脂の機械的強度が不足し、接着性、耐熱性が低下してしまい、5モル%未満であると、溶媒への溶解性および保存安定性が低下してしまう傾向にある。
【0015】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂は、その他に、以下に示す二塩基酸成分を前述の範囲内で適宜共重合することができる。芳香族二塩基酸としては、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5−ナフタル酸、2,6−ナフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸等、脂肪族二塩基酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、オクタデカンジオン酸等が挙げられる。
【0016】
さらに、本発明の結晶性ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分としては、トリエチレングリコールまたは/およびジエチレングリコールを含むことを特徴とする。これらのグリコールを含有することにより、結晶性と溶媒溶解性のバランスを高度に制御することが出来る。本発明の結晶性ポリエステル樹脂の全グリコール成分中のトリエチレングリコールとジエチレングリコールの合計含有率は、20モル%以上70モル%以下である。25モル%以上であることが好ましく、より好ましくは30モル%以上である。また60モル%以下であることが好ましく、より好ましくは50モル%以下である。70モル%より多いと、樹脂の結晶性が低下し、接着性、耐熱性が低下してしまう傾向にあり、20モル%未満であると、樹脂の結晶性が高く、溶媒への溶解性および保存安定性が低下してしまう傾向にある。なお、本発明において、「全グリコール成分中のトリエチレングリコールまたは/およびジエチレングリコール含有率は20モル%以上70モル%以下である。」とは、トリエチレングリコールとジエチレングリコールの合計含有率が、全グリコール成分の20モル%以上70モル%以下であることを指し、トリエチレングリコールおよびジエチレングリコールのいずれか一方を含有しない場合には、他の一方のみの含有率が20モル%以上70モル%以下であることを指す。
【0017】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分として、1,4−ブタンジオールを含有することを特徴とする。1,4−ブタンジオールを含有することにより、結晶性および融点が上がり、耐熱性を向上させることができる。全グリコール成分中の1,4−ブタンジオール含有率は30〜80モル%、好ましくは40〜75モル%、より好ましくは50〜70モル%である。80モル%より多いと、樹脂の融点および結晶性が高く、溶媒への溶解性および保存安定性が低下してしまい、30モル%未満であると、樹脂の結晶性が低下し、接着性、耐熱性が低下してしまう傾向にある。
【0018】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分は、ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコールと、1,4−ブタンジオールからなることを基本とする。但し、本発明の結晶性ポリエステル樹脂の効果を阻害しない範囲において、他のグリコール成分を共重合することも可能である。共重合可能な他のグリコール成分として、エチレングリコール等の脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の芳香族グリコール等を挙げることができる。前記他のグリコール成分の含有量は、全グリコール成分に対して20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であれば更に好ましい。
【0019】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂の構成成分に関して、ジエチレングリコールまたは/およびトリエチレングリコール並びに1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の共重合量を増やすことは、ポリエステル樹脂の結晶性を低下させ凝集力を低下させる作用があり、溶解性を向上させる効果がある。ジエチレングリコールとトリエチレングリコールの合計量が少ない場合には1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を多くする必要があり、逆に1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の量が少ない場合にはジエチレングリコールとトリエチレングリコールの合計量を多くする必要がある。具体的には、前記結晶性ポリエステル樹脂に占めるジエチレングリコール残基とトリエチレングリコール残基と1,4−シクロヘキサンジカルボン酸残基の合計量は結晶性ポリエステル樹脂の10〜40質量%を占めることが好ましく、15〜35質量%であればより好ましい。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂の結晶性とは、示差走査熱量計測定(昇温速度20℃/min)により、融点ピークが観測されるものである。融点は80〜160℃、好ましくは90〜150℃、より好ましくは100〜140℃、さらに好ましくは110〜130℃である。樹脂の融点が80℃未満になると、溶媒に対する溶解性が非常に良好であるが、耐熱性が低下してしまう傾向にあり、樹脂の融点が160℃を超えると耐熱性は向上するが、溶媒への溶解性および保存安定性が大きく低下する傾向にある。ただし、溶媒への溶解性に関しては、同じ融点を持つ樹脂でも、結晶状態を融解するエネルギーの大小、つまり結晶化度の大小によって異なる。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度は−20℃〜30℃、好ましくは−15℃〜20℃、より好ましくは−10℃〜10℃である。ガラス転移温度が、−20℃未満になると高温下での弾性率が低下し、接着力が不足することがある。例えば、自動車用部品や家電製品の接着剤として用いる場合、夏場の高温環境下での接着強度の低下が起こり、部品と部品を十分に接着しておくことが難しくなる場合がある。さらには、樹脂のブロッキングが生じ易くなることもあり、接着剤を塗布した後、フィルム等の基材の取り扱いが難しくなることがある。また、ガラス転移温度が30℃を超えると、室温付近での弾性率が高くなり樹脂自体が堅すぎて被着体に対して接着性が発現しないことがある。
【0022】
本発明の接着剤組成物において用いられる溶媒は、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチルから選ばれる溶媒を少なくとも1種類以上含んでいることが好ましく、おり、前記5種の溶媒が全溶媒中の20質量%以上であることが更に好ましい。前記5種の溶媒は、沸点が70〜140℃の工業的な汎用溶媒であり、コスト、作業性が優れている。必要に応じて、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、ジオキソラン、フェノール、ベンジルアルコール、アセテート系有機溶剤、及びセロソルブ系有機溶剤の溶媒(左記シクロヘキサノン以下セルソルブ系有機溶剤までを、以下、シクロヘキサノン等の溶媒と記す)を併用することができる。シクロヘキサノン等の溶媒を併用すると、前記5種の溶媒のみを使用したときに比べ、接着剤組成物の溶解保存安定性を向上することができるが、溶媒の価格が高い、溶媒の沸点が高く塗膜に残存しやすい、溶媒の有害性が高い、のいずれかまたは複数の問題点があり、工業的にあまり使用は好まれていない。ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロメタン、トリクロロエタン等の塩素系溶媒も溶解安定性を大きく向上させる点については効果があり、単独で、あるいは前述の5種の溶媒と併用して使用できるが、近年の環境問題より、実際に使用することが困難な場合がある。
【0023】
本発明において、結晶性ポリエステルは、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチルの合計濃度が全混合溶剤中の20質量%以上である少なくとも一種の混合溶剤に固形分濃度5質量%で溶解可能であり、該溶解物を25℃で3日間保存したときにB型粘度計で測定した溶液粘度(25℃測定)が溶解直後の2倍以下であることが好ましい。
【0024】
本発明の結晶性ポリエステルは、溶媒可溶性である。本発明において溶剤可溶性とは、全溶媒の質量を100質量%としたとき、トルエンを20質量%、ジクロロメタンを80質量%の混合溶媒に25℃で5質量%溶解し、なおかつ、該溶解液を25℃で3日間保存した時点の25℃で測定するB型回転粘度計で測定される溶液粘度が、溶解直後の2倍以下であることを指す。実用上は前述の溶媒に5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、特に好ましくは20質量%以上、最も好ましくは25質量%溶解することが望まれる。
【0025】
ここで、本発明の接着剤組成物において、ポリエステル樹脂と溶媒の配合割合は、5/95〜40/60質量%であり、好ましくは10/90〜35/65質量%、より好ましくは15/85〜30/70質量%である。ポリエステル樹脂の濃度が40質量%より大きいと、接着剤の溶解安定性が不良となり、5質量%未満であると、接着層の厚みを高める際には接着剤の塗布回数を増やすといった操作が必要となり、作業効率が悪く生産性が低下する。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂の還元粘度(単位dl/g)は、0.60〜0.95であり、好ましくは0.70〜0.90、より好ましくは0.75〜0.85である。還元粘度が0.60未満であると、ポリエステル樹脂の凝集力が低く接着力が低下してしまうおそれがあり、0.95より大きいと、溶媒に難溶となってしまうことがある。
【0027】
このようにして得られた本発明のポリエステル樹脂は前述の溶媒に各種の添加剤を混合し、接着剤組成物に用いることができる。添加剤としては、難燃剤、顔料、ブロッキング防止剤を配合して使用することが好ましい。難燃剤としてはデカブロモジフェニルエーテル、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、テトラブロモビスフェノールA等の臭素系難燃剤やトリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、クレジルジフェニルフォスフェート、キシレニルジフェニルフォスフェート、クレジルビス(2,6−キシレニル)フォスフェート、2−エチルヘキシルフォスフェート、ジメチルエチルフォスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)フォスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)フォスフェート、ビスフェノールAビス(ジクレジル)フォスフェート、ジエチル−N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルフォスフェート、リン酸アミド、有機フォスフィンオキサイド、赤燐等のリン系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、シクロフォスファゼン、トリアジン、メラミンシアヌレート、サクシノグアナミン、エチレンジメラミン、トリグアナミン、シアヌル酸トリアジニル塩、メレム、メラム、トリス(β−シアノエチル)イソシアヌレート、アセトグアナミン、硫酸グアニルメラミン、硫酸メレム、硫酸メラム等の窒素系難燃剤、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、芳香族スルフォンイミド金属塩、ポリスチレンスルフォン酸アルカリ金属塩等の金属塩系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、水酸化バリウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化ジルコニウム、酸化スズ等の水和金属化合物系難燃剤、シリカ、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化タングステン、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、スズ酸亜鉛等無機系難燃剤、シリコーンパウダー等のシリコン系難燃剤である。このうち、特にビス(ペンタブロモフェニル)エタン等の臭素系難燃剤が好ましく使用される。また、これらの難燃剤を2種類以上組み合わせて使用することが可能であり、特に、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン等の臭素系難燃剤と酸化アンチモン等の無機系難燃剤の組み合わせが好ましい。顔料には酸化チタン、カーボンブラック等が用いられる。ブロッキング防止剤にはシリカ、炭酸カルシウム、タルク等が用いられ、接着性の面より、特にシリカが好ましい。
【0028】
本発明の接着剤組成物には必要に応じてシランカップリング剤、タッキファイヤー、結晶核剤、紫外線吸収剤、エポキシ化合物、イソシアネート化合物等を配合することができる。
【実施例】
【0029】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。実施例中単に部とあるのは質量部を示す。なお、実施例に記載された測定値は以下の方法によって測定したものである。
【0030】
樹脂組成:樹脂を重クロロホルムに溶解し、ヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)ジェミニ−200を用いて、H−NMR分析を行ってその積分比より決定した。
【0031】
融点、ガラス転移温度:示差走査熱量計を用い、測定試料10mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析計(DSC)DSC−220を用いて、20℃/minの昇温速度で測定することにより求めた。融解ピークの最大値を示す温度を融点とした。また、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0032】
数平均分子量:テトラヒドロフランを移動相としたウォーターズ社製ゲルろ過浸透クロマトグラフ(GPC)150cを用い、カラム温度30℃、流量1ml/分にてGPC測定を行った結果から計算して、ポリスチレン換算の測定値を得た。但し、カラムは昭和電工(株)shodex KF−802、804、806を用いた。
【0033】
酸価:ポリエステル0.2gを20mlのクロロホルムに溶解し、0.1Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、樹脂10gあたりの当量(eq/10g)を求めた。
【0034】
還元粘度:ポリエステル0.1gをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)混合溶媒25ccに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定することにより還元粘度ηsp/C(dl/g)を求めた。
【0035】
保存安定性:ポリエステル樹脂を固形分濃度5%となるように、必要により加熱混合を加え、トルエン/ジクロロメタン=20/80質量%の混合溶媒に溶解した。左記溶液を内容積200mLのマヨネーズ瓶に移し、25℃に温度調整した恒温槽に浸漬し、2時間密閉放置した。次いで、B型回転粘度計(東京計器(株)製,EM型)を用いて溶液粘度を測定し、これを溶解直後の粘度とした。左記溶液を25℃の暗所で3日間密閉保存し再度B型回転粘度計を用いて溶液粘度を測定し、溶解直後の粘度に対する比率を下記判定基準に従って判定し、保存安定性の評価とした。
3日後の溶液粘度が溶解直後の1.2倍未満:◎
3日後の溶液粘度が溶解直後の1.2倍以上2倍以下:○
3日後の溶液粘度が溶解直後の2倍より大きい:×
【0036】
<結晶性ポリエステル樹脂の合成例1>
撹拌器、温度計、流出用冷却器を装備した反応缶内に、テレフタル酸199.2部、イソフタル酸24.9部、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸25.8部、1,4−ブタンジオール135部、ジエチレングリコール159部、テトラブチルチタネート0.15部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に上昇し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を行った。エステル化反応終了後30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に温度を270℃まで昇温し、更に1mmHg以下で1.5時間後期重合を行った。このようにして結晶性ポリエステル樹脂合成例1を得た。合成例1のポリエステル樹脂は1H−NMR分析の結果、テレフタル酸80モル%、イソフタル酸10モル%、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸10モル%、1,4−ブタンジオール46モル%、ジエチレングリコール54モル%の組成を有しており、還元粘度0.75dl/g、ガラス転移温度14℃、融点127℃、酸価20当量/106gの白色結晶性樹脂であった。このようにして得られた結晶性ポリエステル樹脂の特性値を表1に示す。
【0037】
<合成例1のポリエステル樹脂の樹脂溶液の調整>
撹拌翼、温度計、還流冷却管を装備した反応缶内に、合成例1で得た結晶性ポリエステル樹脂を10部、トルエンを38部、ジクロロメタンを152部仕込み、50℃まで昇温を行い、3時間かけて完全に溶解し、ポリエステル樹脂溶液を得た。樹脂溶液の保存安定性を表1に示す。
【0038】
<結晶性ポリエステル樹脂の合成例2〜10、比較合成例1、非晶性ポリエステル樹脂の比較合成例2および3>
合成例1と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂の合成例2〜10、比較合成例1、非晶性ポリエステル樹脂の比較合成例2および3の合成を行った。このようにして得られた結晶性ポリエステル樹脂および非晶性ポリエステル樹脂の特性値を表1または表2に示す。なお、BPE−20Fは三洋化成工業(株)社製のビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を示す。
【0039】
<合成例2〜10および比較合成例1〜3のポリエステル樹脂の樹脂溶液の調整>
合成例1のポリエステル樹脂の場合と同様にして合成例2~5および比較合成例1〜3のポリエステル樹脂を溶媒に溶解し、ポリエステル樹脂溶液を得た。このようにして得られた結晶性ポリエステル樹脂溶液および非晶性ポリエステル樹脂溶液の保存安定性を表1および表2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
<接着剤組成物1>
直径2mmのガラスビーズを入れた100mlのガラス瓶に、<合成例1のポリエステル樹脂の樹脂溶液の調整>と同様にして、固形分濃度を30%に調整した結晶性ポリエステル樹脂の溶液を333部、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン(アルベマール社製SAYTEX8010)を50部、三酸化アンチモンを36部、酸化チタンを10部、シリカ(日本アエロジル(株)製アエロジルR972)を4部仕込み、シェーカーにて3時間分散を行い、目的とする接着剤組成物1を得た。
このようにして得られた接着剤組成物1の配合を表3に示す。
【0043】
<接着剤組成物2〜10、比較組成物1〜3>
接着剤組成物1と同様に結晶性ポリエステル樹脂の合成例2〜10、比較合成例1〜3で得られた樹脂を用いて、各種添加剤を配合し、目的とする接着剤組成物2〜10、比較組成物1〜3を得た。このようにして得られた接着剤組成物および比較組成物の配合を表3に示す。
【0044】
<実施例1>
接着剤組成物1で得られた接着剤を、以下に示す通りの評価項目に従い評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0045】
接着強度:接着剤組成物1で得られた接着剤組成物を25μmの二軸延伸PETフィルム上に乾燥後の厚みが30μmとなるように塗布し、120℃で10分乾燥したものを作成した。このようにして得られた接着剤組成物塗布PETフィルムを接着剤塗布面と電解銅箔の光沢面とをテスター産業社製ロールラミネータを用いて、ラミネート温度150℃、圧力0.3MPa、速度1m/minの条件にて貼り合わせた。このようにして得られた貼り合わせ品を1cm幅に切断し、東洋ボールドウイン社製RTM100を用いて、25℃雰囲気下で、50mm/minの引っ張り速度で引っ張り試験を行い、90°剥離接着力を測定した。
上記の電解銅箔は日本電解(株)製USLPSE−18μmを用いた。
(判定)◎:20N/cm以上
○:10N/cm以上20N/cm未満
△:5N/cm以上10N/cm未満
×:5N/cm未満
【0046】
耐熱性:接着剤組成物1で得られた接着剤組成物を25μmの二軸延伸PETフィルム上に乾燥後の厚みが30μmとなるように塗布し、120℃で10分乾燥したものを作成した。このようにして得られた接着剤組成物を塗布した積層体を、幅0.8mm、厚さ0.05mmの錫メッキ銅線を10本、銅線の線間が1.0mm幅となるように平行に揃え、その上に50μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを離型フィルムとして重ねた状態で、テスター産業社製ロールラミネータを用いて、ラミネート温度150℃、圧力0.3MPa、速度1m/minの条件にて貼り合わせた。この後、ポリプロピレンフィルムを取り外し、錫メッキ銅線を上向きにし、1N/cmとなるように重りを載せて、80℃にて72時間の熱処理を行った。このようにして熱処理を行ったサンプルの錫メッキ銅線の接着剤層への沈み込みの深さを測定した。
(判定)◎:2μm未満
○:2μm以上5μm未満
△:5μm以上10μm未満
×:10μm以上
【0047】
<実施例2〜10および比較実施例1〜3>
このようにして接着剤組成物1と同様に接着剤組成物2〜10、比較組成物1〜3について評価を行った結果を表3に示す。
【0048】
比較組成物1は優れた耐熱性を有するが、保存溶解性および保存安定性に劣る。比較組成物1に含まれる結晶性ポリエステル樹脂は、融点が198℃と高く、特許請求の範囲外である。
比較組成物2は接着性および保存安定性は良いが、耐熱性に劣る。比較組成物2に含まれるポリエステル樹脂は1,4−ブタンジオ−ルを用いておらず、非晶性であり、特許請求の範囲外である。
比較組成物3は接着性、耐熱性に劣る。比較組成物3に含まれるポリエステル樹脂は1,4−ブタンジオ−ル、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールを用いておらず、非晶性であり、ガラス転移温度が高く、特許請求の範囲外である。
【0049】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明で得られた結晶性ポリエステル樹脂および接着剤組成物は従来技術と比較して、優れた耐熱性、ポリエステルフィルムや錫メッキ銅および電解銅箔に対する優れた接着性を有すると共に、汎用溶媒に優れた溶解性を示し、且つ良好な保存安定性を持つ。このため、接着剤組成物として有用であり、特に、電気、電子機器の配線等に使用されるフレキシブルフラットケーブル用途において優れた性能を発揮するものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂の全酸成分、全グリコール成分それぞれの合計量を100モル%としたとき、酸成分としてテレフタル酸を60モル%以上含有し、且つグリコール成分として1,4−ブタンジオ−ルを80〜30モル%、トリエチレングリコールまたは/およびジエチレングリコールを20〜70モル%含有し、融点が80〜160℃、ガラス転移温度が−20〜30℃であることを特徴とする結晶性ポリエステル樹脂。
【請求項2】
トリエチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸残基の質量の合計質量がポリエステル樹脂の15〜40質量%を占めることを特徴とする請求項1に記載の結晶性ポリエステル樹脂。
【請求項3】
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を5〜30モル%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の結晶性ポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記結晶性ポリエステル樹脂が、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチルの合計濃度が全混合溶剤中の20質量%以上である少なくとも一種の混合溶剤に固形分濃度5質量%で溶解可能であり、該溶解物を25℃で3日間保存した時点の25℃で測定するB型回転粘度計で測定される溶液粘度が溶解直後の2倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の結晶性ポリエステル樹脂。
【請求項5】
請求項1記載の結晶性ポリエステル樹脂を含有し、溶剤としてトルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチルから選ばれる溶媒の少なくとも1種以上を含み、前記5種の溶媒の合計が全溶媒の20質量%以上を占めることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項6】
難燃剤、顔料、ブロッキング防止剤のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項5記載の接着剤組成物。

【公開番号】特開2009−84349(P2009−84349A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253820(P2007−253820)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】