説明

結晶性ポリマー微孔性膜及びその製造方法、並びに濾過用フィルタ

【課題】耐水性、及びイオン吸着能に優れ、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れた結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタの提供。
【解決手段】フィブリルからなる結晶性ポリマー微孔性膜であって、前記フィブリルの長軸長さが2μm以上であり、前記結晶性ポリマー性微孔膜の露出表面の少なくとも一部が、ラジカル重合性モノマーを含む組成物を重合させてなるラジカル重合体で被覆され、前記ラジカル重合体の少なくとも一部に、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを含む官能性化合物が付加反応してなり、前記ラジカル重合性モノマーが、アクリレート類、アクリルアミド類、アクリル酸類及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種である結晶性ポリマー微孔性膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体、液体等の精密濾過に使用される濾過効率の高い結晶性ポリマー微孔性膜及び結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
微孔性膜は古くから知られており、濾過用フィルタ等に広く利用されている。このような微孔性膜としては、例えば、セルロースエステルを原料として製造されるもの(特許文献1等参照)、脂肪族ポリアミドを原料として製造されるもの(特許文献2等参照)、ポリフルオロカーボンを原料として製造されるもの(特許文献3等参照)、ポリプロピレンを原料とするもの(特許文献4等参照)などが挙げられる。
これらの微孔性膜は、電子工業用洗浄水、半導体製造薬液、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられ、近年、その用途及び使用量が拡大しており、粒子捕捉の点から信頼性の高い微孔性膜が注目されている。これらの中でも、結晶性ポリマーによる微孔性膜は耐薬品性に優れており、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を原料とした微孔性膜は、耐熱性及び耐薬品性に優れているため、その需要の伸びが著しい。
【0003】
一般に、微孔性膜の単位面積当たりの濾過可能量は少ない(即ち濾過寿命が短い)。このため、工業的に使用する際には、膜面積を増すため、多くの濾過ユニットを並列して使用することを余儀無くされており、濾過工程のコストダウンの観点から、濾過寿命を上げることが必要とされている。
例えば、結晶性ポリマー微孔性膜の親水化処理方法として、カチオン重合性モノマーと、カチオン重合開始剤とを含み、該カチオン重合性モノマーを重合させて、多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性する方法が提案され、さらに随意に、第4級アンモニウム塩等を含有する官能性モノマーを含むことが提案されている(特許文献5参照)。
しかし、この提案には、微孔質膜の濾過流量及び濾過寿命を十分満足できるレベルまで向上させることができないという問題がある。
【0004】
また、近年、半導体の製造においては、それに使用できる純度が極めて高い超々純水等を得るために、微粒子捕捉と同時にppm未満の濃度で微少に存在する金属イオンをも同時に捕捉できるフィルタの出現が望まれている。金属イオン捕捉能力も有し、酸、アルカリ及び酸化剤といった薬液に対する耐性が強く溶出物の少ない精密ろ過フィルタが特に求められるようになっている。従来このような目的に対して、微孔性膜自身にイオン交換機能乃至イオン吸着機能を持たせる試みが為されてきた。
イオン吸着機能を付与した結晶性ポリマー微孔性膜として、例えば、膜からの活性化された極性基と反応性である官能基を含有し、特定イオンに対する親和性を有する任意のリガンドを付与した多孔質膜が提案されている(特許文献6参照)。
しかし、この提案では、長軸長さが2μm以上のフィブリルからなる結晶性ポリマー微孔性膜については何ら開示されておらず、提案されている多孔質膜を機能化する場合、濾過流量が大幅に向上する訳ではなく、かつ、濾過寿命も向上しないという問題がある。
【0005】
一方、エアフィルタとして、ポリテトラフルオロエチレン微粉末と液状潤滑剤を含む混合物から形成されたシート状成形体を、該ポリテトラフルオロエチレン融点以上の温度で所定方向に40倍〜250倍に延伸した後に、前記所定方向と直交する幅方向に3倍〜40倍に延伸して得た、高通気性のポリテトラフルオロエチレン微孔質膜が提案されている(特許文献7参照)。
しかし、この提案では、表面修飾がなされておらず、液体の濾過フィルタとして用いた場合に、十分な濾過流量、及びイオン捕捉能共に満足しないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第1,421,341号明細書
【特許文献2】米国特許第2,783,894号明細書
【特許文献3】米国特許第4,196,070号明細書
【特許文献4】西独特許第3,003,400号明細書
【特許文献5】特開2007−503862号公報
【特許文献6】特表平9−511948号公報
【特許文献7】特開2009−297702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、耐水性、及びイオン吸着能に優れ、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れた結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> フィブリルからなる結晶性ポリマー微孔性膜であって、前記フィブリルの平均長軸長さが2μm以上であり、
前記結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面の少なくとも一部が、ラジカル重合性モノマーを含む組成物を重合させてなるラジカル重合体で被覆され、前記ラジカル重合体の少なくとも一部に、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを含む官能性化合物が付加反応してなり、前記ラジカル重合性モノマーが、アクリレート類、アクリルアミド類、アクリル酸類及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜である。
<2> ラジカル重合性モノマーが、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アクリルアミド基、イソシアネート基、及び酸クロライド基の少なくともいずれかを有する前記<1>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<3> 官能性化合物が、ラジカル重合体との反応性基を有する化合物である前記<1>から<2>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<4> フィブリルの平均長軸長さが、2μm〜1×10μmである前記<1>から<3>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<5> 結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリエーテルニトリルから選択される少なくとも1種である前記<1>から<4>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<6> 結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである前記<1>から<4>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<7> フィブリルからなる結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面に、ラジカル重合性モノマーを含む組成物を付与し、該ラジカル重合性モノマーを重合させる親水化処理工程と、
前記ラジカル重合体の一部に、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを含む官能性化合物を付加反応させる付加反応処理工程とを含み、
前記フィブリルの平均長軸長さが2μm以上であり、前記ラジカル重合性モノマーが、アクリレート類、アクリルアミド類、アクリル酸類及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<8> 結晶性ポリマーからなるフィルムを面積延伸倍率で少なくとも10倍以上延伸してフィブリルからなる結晶性ポリマー微孔性膜を形成する延伸工程を更に含む前記<7>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<9> 面積延伸倍率が、10倍〜2.0×10倍である前記<8>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<10> 結晶性ポリマーからなるフィルムの長手方向の延伸倍率が、1.5倍〜5.0×10倍であり、かつ幅方向の延伸倍率が、1.5倍〜1.0×10倍である前記<8>から<9>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<11> ラジカル重合性モノマーが、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アクリルアミド基、イソシアネート基、及び酸クロライド基の少なくともいずれかを含むことを特徴とする前記<7>から<10>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<12> 官能性化合物が、ラジカル重合体との反応性基を有する化合物である前記<7>から<11>のいずれかのいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<13> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を有することを特徴とする濾過用フィルタである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、耐水性、及びイオン吸着能に優れ、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れた結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、フィブリル−結節構造の一例の模式図である。
【図2】図2は、フィブリル−結節構造の一例の模式図である。
【図3】図3は、フィブリル−結節構造の一例の模式図である。
【図4】図4は、フィブリル−結節構造の一例の模式図である。
【図5】図5は、フィブリル−結節構造の一例の模式図である。
【図6】図6は、フィブリル−結節構造の一例の模式図である。
【図7】図7は、フィブリル−分岐構造の一例の模式図である。
【図8】図8は、フィブリル−分岐構造の一例の模式図である。
【図9】図9は、ハウジングに組込む前の一般的なプリーツフィルターエレメントの構造を表す図である。
【図10】図10は、カプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込む前の一般的なフィルターエレメントの構造を表す図である。
【図11】図11は、ハウジングと一体化された一般的なカプセル式のフィルターカートリッジの構造を表す図である。
【図12】図12は、実施例1の結晶性ポリマー微孔質膜を5,000倍で撮影した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(結晶性ポリマー微孔性膜)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、フィブリルからなる結晶性ポリマー微孔性膜であって、前記フィブリルの平均長軸長さが2μm以上であり、前記結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面の少なくとも一部が、ラジカル重合性モノマーを含む組成物を重合させてなるラジカル重合体で被覆され、前記ラジカル重合体の少なくとも一部に、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを含む官能性化合物が付加反応してなる。
以下、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜について詳細に説明する。
【0012】
前記「フィブリルからなる結晶性ポリマー微孔性膜」とは、平均長軸長さが2μm以上のフィブリルと、該フィブリルの分岐とからなり、実質的に結節(ノード)を含まない結晶性ポリマー微孔性膜を意味する。
前記フィブリルとは、融着した2つの結晶性ポリマー粒子同士に機械的な力を加えたときに、粒子間又は粒子内に紡ぎ出される繊維を指し、具体的には、直鎖状の分子束を意味する。
前記フィブリルの平均長軸長さとしては、2μm以上であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。前記平均長軸長さが2μm未満であると、十分な流量が得られないことがある。
前記フィブリルの平均短軸長さ(平均直径)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.001μm〜0.5μmが好ましく、0.001μm〜0.25μmがより好ましい。前記平均短軸長さが、0.001μm未満であると、膜の強度が劣化することがあり、0.5μmを超えると、十分な流量が得られないことがある。一方、前記平均短軸長さが、前記より好ましい範囲であると、膜の高強度及び高流量が両立する点で有利である。
【0013】
前記結節(ノード)とは、次のいずれかを満足するものをいう。図1〜図6は、フィブリル−結節構造の一例を示す模式図であり、図7及び8は、フィブリル−分岐構造の一例を示す模式図である。前記「フィブリルからなる結晶性ポリマー微孔性膜」とは、図7及び8で示される態様に該当する。
(1)複数のフィブリル21がつながっている結晶性ポリマーのかたまり(図1:点で埋められた部分)
(2)結晶性ポリマーのかたまりがフィブリルの平均短軸長さ(平均直径)より太い(図2及び図3:斜線部)
(3)結晶性ポリマーの一次粒子又は結晶性ポリマーの一次粒子同士が凝集した二次粒子が存在し、そこからフィブリル21が放射線状に伸びている(図4、図5及び図6:斜線部)
図7及び8は、結節とは見なさない例である。すなわち、フィブリルが枝分かれしているが、フィブリル21と分岐23の径が同じである場合、該分岐23は結節22とは見なさない。
また、前記「一次粒子」とは、結晶性ポリマーのパウダー合成時にできる粒子をいい、「二次粒子」とは、該一次粒子が凝集した粒子をいう。
「実質的に結節(ノード)を含まない」とは、前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向の断面を、走査型電子顕微鏡で撮影し、このSEM写真の10μm×10μmの範囲内に結節が3個以下であることを指す。ここで、1つの結節とは、図1〜図6中、結節22で示される、ひとかたまりの部分を指す。
【0014】
前記結晶性ポリマー微孔性膜が、「平均長軸長さが2μm以上のフィブリルからなること」、フィブリルの平均長軸長さ及び平均短軸長さについては、次に示す方法で測定することができる。
前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向の断面を、走査型電子顕微鏡で撮影する(SEM写真、倍率1,000倍〜100,000倍)。この断面SEM写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込み、この像からランダムに100個選出し、演算処理することにより、フィブリルの平均長軸長さを測定する。
【0015】
−結晶性ポリマー−
前記「結晶性ポリマー」としては、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶領域が混在したポリマーであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。このようなポリマーは物理的な処理により、結晶性が発現する。例えば、ポリエチレンフィルムを外力により延伸すると、始めは透明なフィルムが白濁する現象が認められる。これは外力によりポリマー内の分子配列が一つの方向に揃えられることによって、結晶性が発現したことに由来する。
【0016】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアルキレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、液晶性ポリマーなどが挙げられる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、フッ素樹脂、ポリエーテルニトリルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、耐薬品性と扱い性の観点から、ポリアルキレン(例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン)が好ましく、ポリアルキレンにおけるアルキレン基の水素原子がフッ素原子によって一部又は全部が置換されたフッ素系ポリアルキレンがより好ましく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が特に好ましい。
前記ポリエチレンは、その分岐度により密度が変化し、分岐度が多く、結晶化度が低いものが低密度ポリエチレン(LDPE)、分岐度が少なく、結晶化度の高いものが高密度ポリエチレン(HDPE)と分類され、いずれも用いることができる。これらの中でも、結晶性コントロールの点から、HDPEが特に好ましい。
【0017】
前記結晶性ポリマーの重量平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1,000〜100,000,000が好ましい。
前記結晶性ポリマーの数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、500〜50,000,000が好ましく、1,000〜10,000,000がより好ましい。
【0018】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における孔部の平均孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01μm〜10μmが好ましく、0.01μm〜5μmがより好ましい。前記平均孔径が、0.01μm未満であると十分な流量が得られないことがあり、10μmを超えると、十分なイオン捕捉量が得られないことがある。一方、前記平均孔径が、より好ましい範囲であると、高流量及び高イオン捕捉量が両立する点で有利である。
【0019】
前記平均孔径の測定方法としては、例えば、走査型電子顕微鏡(日立S−4000型、蒸着は日立E1030型、いずれも日立製作所製)で膜表面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜5,000倍)をとり、得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んで結晶性ポリマー繊維のみからなる像を得て、その像における孔径を所定数測定し、それを演算処理することにより、平均孔径を求めることができる。
【0020】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の膜厚としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm〜300μmが好ましく、5μm〜100μmがより好ましく、10μm〜80μmが特に好ましい。
【0021】
本発明においては、結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面の少なくとも一部が、ラジカル重合性モノマーを含む組成物を重合させてなるラジカル重合体で被覆され(親水化処理)、前記ラジカル重合体の少なくとも一部に、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを含む官能性化合物が付加されている(付加反応処理)。
ここで、前記露出表面には、結晶性ポリマー微孔性膜の露出している表面に加えて、孔部の周囲、孔部の内部も含まれる。
【0022】
前記ラジカル重合性モノマーを含む組成物は、アクリレート類、アクリルアミド類、アクリル酸類及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種のラジカル重合性モノマーを含んでなり、更に必要に応じて、他のラジカル重合性モノマー、溶媒、ラジカル重合開始剤、光増感剤、酸化防止剤などのその他の成分を含む。
【0023】
<ラジカル重合性モノマー>
前記ラジカル重合性モノマーとしては、アクリレート類、アクリルアミド類、アクリル酸類及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記アクリレート類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1−ヒドロキシ−2−プロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−1−プロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル等のグリシジル(メタ)アクリレート類;アミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等の第一アミン(メタ)アクリレート類;ウレタン(メタ)アクリレート類;アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライド等の(メタ)アクリル酸クロライド類などが挙げられる。
前記アクリルアミド類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、エタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられる。
前記アクリル酸類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、反応性化合物との反応性が良好である点で、グリシジル(メタ)アクリレート類、アクリル酸類が好ましい。
【0024】
前記ラジカル重合性モノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アクリルアミド基、イソシアネート基、及び酸クロライド基の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
前記カルボキシル基を含むラジカル重合性モノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレートなどが挙げられる。
前記アミノ基を含むラジカル重合性モノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートなどが挙げられる。
前記ヒドロキシル基を含むラジカル重合性モノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
前記エポキシ基を含むラジカル重合性モノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジルなどが挙げられる。
前記アクリルアミド基を含むラジカル重合性モノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられる。
前記イソシアネート基を含むラジカル重合性モノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イソシアネートエチル(メタ)アクリレートウレタン(メタ)アクリレート類などが挙げられる。
前記酸クロライド基を含むラジカル重合性モノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル酸クロライドなどが挙げられる。
前記ウレタン(メタ)アクリレート類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、市販品を用いることができる。該市販品としては、例えば、Desmodur HL(Bayer AG, Leverkusen製)、Roskydal UA VP LS 2265(Bayer AG, Leverkusen製)などが挙げられる。
【0025】
前記ラジカル重合性モノマーの前記組成物における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%〜30質量%が好ましく、0.2質量%〜25質量%がより好ましく、0.3質量%〜20質量%が特に好ましい。
前記含有量が、0.1質量%未満であると、前記結晶性ポリマーの微孔性膜全体を親水化することができない恐れがあり、30質量%を超えると、前記結晶性ポリマーの微孔性膜の孔部を塞いでしまい、透過流量を低下させる恐れがある。
【0026】
<<ラジカル重合開始剤>>
前記ラジカル重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤及び熱ラジカル重合開始剤のいずれも好適に用いることができる。
【0027】
−光ラジカル重合開始剤−
前記光ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えば、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819等)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えば、ダロキュアTPO、ダロキュア1173等)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、サートマー(Sartomer)社から市販されているエザキュア(Ezacure)シリーズ(例えば、エザキュアTZM、エザキュアTZT等)などが挙げられる。
【0028】
−熱ラジカル重合開始剤−
前記熱ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、三新化学社から市販されているSIシリーズ(例えば、SI−100等)などが挙げられる。
【0029】
前記ラジカル重合開始剤の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ラジカル重合性モノマー100質量部に対して、0.1質量部〜20質量部が好ましく、0.5質量部〜15質量部がより好ましく、1.0質量部〜10質量部が特に好ましい。前記添加量が、0.1質量部未満であると、重合反応が遅くなることがあり、20質量部を超えると、膜強度が脆くなることがある。
【0030】
<<溶媒>>
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0031】
<<光増感剤>>
前記組成物には、必要に応じて光増感剤を併用することができる。前記光増感剤を使用することにより、反応性が向上し、硬化物の機械強度や接着強度を向上させることができる。
前記光増感剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばカルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ及びジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられ、具体的には、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン等のベンゾイン誘導体;ベンゾフェノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体;2−クロロアントラキノン、2−メチルアントラキノン等のアントラキノン誘導体;N−メチルアクリドン、N−ブチルアクリドン等のアクリドン誘導体;その他、α,α−ジエトキシアセトフェノン、ベンジル、フルオレノン、キサントン、ウラニル化合物、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記光増感剤の市販品としては、例えば、Anthracure(登録商標)UVS−1331(川崎化成工業株式会社製)、カヤキュアDETX−S(日本化薬株式会社製)などが挙げられる。
【0032】
<<酸化防止剤>>
前記組成物には、本発明の効果を損なわない限り、酸化防止剤等のその他の添加剤などを含有することできる。
前記酸化防止剤の市販品としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、イルガノックス1010、イルガノックス1035FF、イルガノックス565などが挙げられる。
【0033】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜において、結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面の少なくとも一部が、ラジカル重合性モノマーを含む組成物を重合させてなるラジカル重合体で被覆されていることは、被覆前の膜と、被覆後の膜とをそれぞれ細かくして、前記結晶性ポリマー微孔性膜をメタノール、水、DMFなどの溶媒で抽出し、その抽出物の成分をNMR、IRなどを用いて測定及び解析することで確認することができる。
また、前記結晶性ポリマー微孔性膜を溶媒に抽出することができない場合には、膜ごと細かく切り刻み、KBrとまぶした状態で、IRにより測定及び解析を行うこと、及び超臨界メタノールを用いて、ポリマーを分解しつつ、そのコンポーネントをMASS、NMR、IRなどで測定及び解析することで確認することができる。
【0034】
また、前記ラジカル重合体に後述する官能性化合物が付加反応していることは、膜ごと細かく切り刻み、KBrをまぶした状態で、IRにより測定及び解析を行うこと、及び超臨界メタノールを用いて、ポリマーを分解しつつ、そのコンポーネントをMASS、NMR、IRなどで測定及び解析することで確認することができる。
【0035】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、前記結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面の少なくとも一部が、ラジカル重合性モノマーを含む組成物を重合させてなるラジカル重合体で被覆されているので、結晶性ポリマー微孔性膜の露出している表面に加えて、孔部の周囲、及び孔部の内部が均一に被覆され、よって、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れる。
一方、結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面の少なくとも一部が、予め重合されたラジカル重合体で被覆されていると、露出表面の被覆、特に孔部の周囲、及び孔部の内部の被覆が不均一となることがあり、よって、十分な親水性が得られず、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜に比べて、濾過寿命及び透過流量の向上を図ることができない。
前記ラジカル重合体の被覆の分布及び程度は、例えば、エネルギー分散型X線−走査型電子顕微鏡分光法(EDX−SEM)による元素分析で、露出表面における元素分布を調べることにより同定することができる。
【0036】
また、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、前記結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面の少なくとも一部が、ラジカル重合性モノマーを含む組成物を重合させてなるラジカル重合体で被覆されているので、親水性を付与できると共に、平均長軸長さが2μm以上のフィブリルからなることにより、泡透過能向上により目詰まりが抑止でき、よって濾過寿命の向上が図れる。
【0037】
前記ラジカル重合体の被覆率としては、前記結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面の少なくとも一部が被覆されていれば、特に制限はなく、前記結晶性ポリマー微孔性膜の表面積などに応じて適宜調整することができ、例えば、特開平8−283447号公報に記載の気孔率に基づいて適宜調整することができる。即ち、前記表面積は、前記結晶性ポリマー微孔性膜の気孔率と相関関係を有し、気孔率との関係で前記ラジカル重合体の被覆率の最適化を図ることができ、具体的には、下記式(1)及び下記式(2)を用いて算出することができる。
前記気孔率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60%以上が好ましく、60%〜95%がより好ましい。前記気孔率が、60%未満であると、親水性が低くなり、前記結晶性ポリマー微孔性膜において所望の透過流量を得ることができないことがあり、95%を超えると、前記結晶性ポリマー微孔性膜の強度が落ちることがある。
結晶性ポリマー微孔性膜の気孔率が低いほど、前記ラジカル重合体の被覆率が少なく、逆に、気孔率が高くなるほど、被覆率が多くなるが、その範囲は、下記式(1)及び下記式(2)で規定される範囲内にあればよい。
前記被覆率が、下記式(1)及び下記式(2)で規定される範囲より少ないと、親水性が高く、濾過寿命の長い結晶性ポリマー微孔性膜を得ることができないことがあり、前記範囲より大きいと、目詰まりを起こすことがある。
(C/5)−11.5≦D≦(C/5)−9.5 ・・・式(1)
D=(ラジカル重合性モノマーの塗布質量/結晶性ポリマー微孔性膜質量)×100 ・・・式(2)
(前記式(1)中、「C」は、結晶性ポリマー微孔性膜の気孔率(%)を表す。)
【0038】
<官能性化合物>
前記官能性化合物としては、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ラジカル重合体との反応性基、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0039】
−イオン交換基−
前記イオン交換基は、金属イオン等をイオン結合により捕捉する官能基である。
前記イオン交換基としては、金属イオン等とイオン結合する官能基である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基等のカチオン交換基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アミノ基、4級アンモニウム塩基等のアニオン交換基などが挙げられる。
【0040】
−キレート基−
前記キレート基は、金属イオン等をキレート(配位)結合により捕捉する官能基である。
前記キレート基としては、金属イオン等とキレート(配位)結合する官能基である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ニトリロトリ酢酸誘導体(NTA)基、イミノジ酢酸基、イミノジエタノール基、アミノポリカルボン酸、アミノポリホスホン酸、ポルフィリン骨格、フタロシアニン骨格、環状エーテル、環状アミン、フェノール及びリジン誘導体、フェナンスロリン基、テルピリジン基、ビピリジン基、トリエチレンテトラアミン基、ジエチレントリアミン基、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン基、ジエチレントリアミンペンタ酢酸基、ポリピラゾリルホウ酸基、1,4,7−トリアゾシクロノナン基、ジメチルグリオキシム基、ジフェニルグリオキシム基等の多座配位子などが挙げられる。
【0041】
−ラジカル重合体との反応性基−
前記ラジカル重合体との反応性基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基;これらの誘導体基などが挙げられる。これらの中でも、アミノ基、ヒドロキシル基が好ましい。
前記反応性基を有する官能性化合物の具体例としては、反応性基がアミノ基である、ペンタエチレンヘキサミン、アミノエタンスルホン酸、ホスホリルエタノールアミン等;反応性基がヒドロキシル基である、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、コリン、ヒドロキシプロパンスルホン酸、グリセロ燐酸二ナトリウム五水和物等;その他として、エチレンスルフィド、オキセタン系化合物等環状化合物などが挙げられる。
【0042】
−官能性化合物の膜固定−
結晶性ポリマー微孔性膜(結晶性ポリマーからなるフィルム)の孔壁面にラジカル重合性モノマーを被覆させ、重合させることで固定化するため、前記官能性化合物がラジカル重合体の側鎖に存在する反応基に付加反応することにより、非共有結合状態で、結晶性ポリマー微孔性膜に固定される。
また、官能性化合物が結晶性ポリマー微孔性膜に固定されたことは、例えば、特開2005−131482号公報に記載の逆滴定法などにより、確認することができる。
【0043】
前記官能性化合物を膜固定することにより、高流量化を図ることができる。
流量は、一般的には、下記式にあるように、孔径(D)、圧損(△P)、孔数(n)、膜厚(L)、液粘度(η)で決定される。官能性化合物を膜に固定することで、孔径は下がり流量は下がることが予想されていたが、実際には、高流量化が図れている。この理由として、親水性が向上したからだと推定している。
【数1】

【0044】
(結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、親水化処理工程、付加反応処理工程、を少なくとも含み、結晶性ポリマーフィルム作製工程、加熱工程、延伸工程、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
前記親水化処理、及び前記付加反応処理を併せて、機能化処理と称する。
【0045】
<<結晶性ポリマーフィルム作製工程>>
結晶性ポリマーからなる未焼成の結晶性フィルムを製造する際に用いる結晶性ポリマー原料の種類としては、特に制限はなく、上述した結晶性ポリマーを好ましく用いることができる。これらの中でも、ポリエチレン、又はその水素原子がフッ素原子に置換された結晶性ポリマーが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)がより好ましい。前記ポリテトラフルオロエチレンとしては、通常、乳化重合法により製造されたポリテトラフルオロエチレンを用いることができ、好ましくは乳化重合により得られた水性分散体を凝析することにより取得した微粉末状のポリテトラフルオロエチレンを使用することができる。
原料として使用する結晶性ポリマーの数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、500〜50,000,000が好ましく、1,000〜10,000,000がより好ましい。
原料として使用するポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、250万〜1000万が好ましく、300万〜800万がより好ましい。
前記ポリテトラフルオロエチレン原料としては、特に制限はなく、市場で販売されているポリテトラフルオロエチレン原料を適宜選択して使用してもよい。例えば、ダイキン工業株式会社製「ポリフロン・ファインパウダーF104U」などが好適に挙げられる。
【0046】
前記ポリテトラフルオロエチレン原料を押出助剤と混合した混合物を作製し、これをペースト押出して圧延することによりフィルムを調製することが好ましい。押出助剤としては、液状潤滑剤を用いることが好ましく、具体的にはソルベントナフサ、ホワイトオイルなどを例示することができる。前記押出助剤としては、市場で販売されているエッソ石油株式会社製「アイソパー」などの炭化水素油を用いることができる。前記押出助剤の添加量は、結晶性ポリマー100質量部に対して、20質量部〜30質量部が好ましい。
【0047】
ペースト押出しは、通常50℃〜80℃にて行うことが好ましい。押出し形状については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常は棒状にするのが好ましい。押出物は次いで圧延することによりフィルム状にする。圧延は、例えば、カレンダーロールにより50m/分の速度でカレンダー掛けすることにより行うことができる。圧延温度は、通常50℃〜70℃に設定することができる。その後、フィルムを加熱することにより押出助剤を除去して結晶性ポリマー未焼成フィルムとすることが好ましい。このときの加熱温度は用いる結晶性ポリマーの種類に応じて適宜定めることができるが、40℃〜400℃が好ましく、60℃〜350℃がより好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレンを用いる場合には、150℃〜280℃が好ましく、200℃〜255℃がより好ましい。加熱は、フィルムを熱風乾燥炉に通すなどの方法で行うことができる。このようにして製造される結晶性ポリマー未焼成フィルムの厚みは、最終的に製造しようとする結晶性ポリマー微孔性膜の厚みに応じて適宜調整することができ、後の工程で延伸を行う場合には、延伸による厚みの減少も考慮して調整することが好ましい。
なお、結晶性ポリマー未焼成フィルムの製造に際しては、「ポリフロンハンドブック」(ダイキン工業株式会社発行、1983年改訂版)に記載されている事項を適宜採用することができる。
【0048】
<<加熱工程>>
前記加熱工程は、得られた結晶性ポリマー未焼成フィルムを対称加熱して全焼成フィルムを形成する工程であり、必要に応じて採用することができる。
前記加熱工程を行う場合、前記対称加熱は、前記結晶性ポリマー未焼成フィルムの一の面及び他の面について、面内及び表裏の差なく全体を満遍なく均等に加熱できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えばソルトバス、熱風加熱機、炉、ロール加熱、IR加熱などが挙げられる。これらの中でも、結晶性ポリマー未焼成フィルム全体を加熱する際の、加熱ばらつきを抑えることができるという観点で、ソルトバスが特に好ましい。
前記対称加熱の温度としては、前記結晶性ポリマー未焼成フィルムの融点+15℃以下の温度が好ましく、該融点〜該融点+12℃の温度がより好ましい。前記温度が前記融点+15℃の温度を超えると、フィブリルが生じなくなる恐れがある。
【0049】
<<延伸工程>>
前記延伸工程は、前記全焼成フィルムを面積延伸倍率で少なくとも10倍以上延伸して平均長軸長さ2μm以上のフィブリルからなる結晶性ポリマー微孔性膜を形成する工程である。
前記延伸としては、前記全焼成フィルムの長手方向と幅方向の両方について行うことが好ましい。この際、長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行ってもよいし、同時に二軸延伸を行ってもよい。
長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行う場合には、まず、長手方向の延伸を行ってから幅方向の延伸を行うことが好ましい。
前記長手方向の延伸倍率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.5倍〜5.0×10倍が好ましく、3.0倍〜2.5×10倍がより好ましく、5.0倍〜1.0×10倍が更に好ましい。長手方向の延伸温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100℃〜380℃が好ましく、125℃〜370℃がより好ましく、150℃〜360℃が特に好ましい。
前記幅方向の延伸倍率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.5倍〜1.0×10倍が好ましく、3.0倍〜7.5×10倍がより好ましく、5.0倍〜5.0×10倍が特に好ましい。幅方向の延伸温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100℃〜380℃が好ましく、125℃〜370℃がより好ましく、150℃〜360℃が特に好ましい。
前記面積延伸倍率としては、10倍以上であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10倍〜2.0×10倍が好ましく、20倍〜1.0×10倍がより好ましく、30倍〜5.0×10倍が特に好ましい。
延伸を行う際には、予め延伸温度以下の温度にフィルムを予備加熱しておいてもよい。
【0050】
なお、前記延伸後に、必要に応じて熱固定を行うことができる。該熱固定の温度としては、通常、延伸温度以上で結晶性ポリマーの融点未満で行うことが好ましい。
【0051】
<親水化処理工程>
前記親水化処理工程は、フィルム(結晶性ポリマー微孔性膜、延伸フィルム)の露出表面に、少なくともラジカル重合性モノマーを含む組成物を付与し、該ラジカル重合性モノマーを重合させる工程である。
【0052】
前記親水化処理工程における少なくともラジカル重合性モノマーを含む組成物の付与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記フィルムを前記組成物に浸漬する方法、前記フィルムに前記組成物を塗布する方法などが挙げられる。
【0053】
次に、前記組成物を付与(浸漬乃至塗布)後のフィルムを紫外線照射処理又は加熱処理(アニール)することにより、前記組成物に含まれるラジカル重合性モノマーを重合させる。
前記少なくともラジカル重合性モノマーを含む組成物が、光ラジカル重合開始剤を含有する場合には、紫外線照射処理により、前記ラジカル重合性モノマーをラジカル重合させて、フィルムの露出表面にポリマーが被覆される。
前記紫外線照射処理の照度条件としては、1.0×10mJ/cm〜1.0×10mJ/cmが好ましく、5.0×10mJ/cm〜5.0×10mJ/cmがより好ましい。
【0054】
前記少なくともラジカル重合性モノマーを含む組成物が、熱ラジカル重合開始剤を含有する場合には、加熱処理により、前記ラジカル重合性モノマーをラジカル重合させて、フィルムの露出表面にポリマーが被覆される。
前記加熱処理における温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50℃〜200℃が好ましく、60℃〜180℃がより好ましく、70℃〜160℃が特に好ましい。
前記加熱処理における時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1分間〜120分間が好ましく、1分間〜100分間がより好ましく、1分間〜80分間が特に好ましい。
前記アニール処理の温度が50℃未満乃至時間が1分間未満であると、親水化処理が促進しない、重合反応が進まないなど、耐水性、親水性などが失われることがあり、前記アニール処理の温度が200℃超え乃至時間が80分間を超えると、ラジカル重合性モノマーが分解することがある。
【0055】
<付加反応処理工程>
前記付加反応工程は、前記ラジカル重合体の少なくとも一部に、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを含む官能性化合物を付加反応させる工程である。
【0056】
前記付加反応処理工程において、前記ラジカル重合体の少なくとも一部に官能性化合物を付加反応させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(i)フィルム(多孔質膜)を、少なくともラジカル重合性モノマー及び官能性化合物を含む混合溶液に含浸させ、加熱処理(熱アニール)して、ラジカル重合性モノマーを重合させて被覆させる反応(親水化処理)と、ラジカル重合体の少なくとも一部と官能性化合物との付加反応を同時に引き起こす方法、(ii)フィルム(多孔質膜)を少なくともラジカル重合性モノマー及び官能性化合物を含む混合溶液に含浸させ、紫外線照射処理して、ラジカル重合性モノマーを重合させて被覆させ、続いて、加熱処理(熱アニール)して、前記ラジカル重合体の少なくとも一部と官能性化合物とを付加反応させる方法(親水化処理と付加反応との逐次反応)、(iii)フィルム(多孔質膜)を少なくともラジカル重合性モノマーを含む組成物に含浸させ、紫外線照射処理乃至加熱処理(熱アニール)して、ラジカル重合性モノマーを重合させて被覆させ、続いて、官能性化合物を含む溶液に含浸させ、加熱処理(熱アニール)して、前記ラジカル重合体の少なくとも一部と官能性化合物とを付加反応させる方法(親水化処理と付加反応との逐次反応)、などが挙げられる。
前記紫外線照射処理の照度条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.0×10mJ/cm〜1.0×10mJ/cmが好ましく、5.0×10mJ/cm〜5.0×10mJ/cmがより好ましい。
前記加熱処理(熱アニール)における温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50℃〜200℃が好ましく、50℃〜180℃がより好ましく、50℃〜160℃が特に好ましい。
前記加熱処理における時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5分間〜300分間が好ましく、0.75分間〜200分間がより好ましく、1分間〜100分間が特に好ましい。
【0057】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜としては、特に制限はなく、様々な用途に用いることができるが、以下に説明する濾過用フィルタとして好適に用いることができる。
【0058】
(濾過用フィルタ)
本発明の濾過用フィルタは、本発明の前記結晶性ポリマー微孔性膜を有することを特徴とする。
また、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、比表面積が大きいため、その表面から導入された微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着乃至付着によって除かれる。したがって、目詰まりを起こしにくく、長期間にわたって高い濾過効率を維持することができる。
【0059】
本発明の濾過用フィルタは、差圧0.1kg/cmとして濾過を行った時に、少なくとも5ml/cm・min以上の濾過が可能なものとすることができる。
本発明の濾過用フィルタの形状としては、ろ過膜をひだ折りするプリーツ型、ろ過膜をのり巻き状にするスパイラル型、円板状のろ過膜を積層させるフレーム・アンド・プレート型、ろ過膜を管状にするチューブ型などがある。これらの中でも、カートリッジあたりのフィルタのろ過に使用する有効表面積を増大させることができる点から、プリーツ型が特に好ましい。
また、劣化したろ過膜を取り換える際にフィルターエレメントのみを取り換えるエレメント交換式フィルターカートリッジと、フィルターエレメントをろ過ハウジングと一体に加工しハウジングごと使い捨てのタイプにしたカプセル式のフィルターカートリッジとに分類され、本発明の濾過用フィルタは、いずれとしても好適に用いることができる。
【0060】
ここで、図9は、エレメント交換式のプリーツフィルターカートリッジエレメントの構造を示す展開図である。精密ろ過膜103は2枚の膜サポート102、104によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するコアー105の廻りに巻き付けられている。その外側には外周カバー101があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端にはエンドプレート106a、106bにより、精密ろ過膜がシールされている。エンドプレートはガスケット107を介してフィルターハウジング(不図示)のシール部と接する。ろ過された液体はコアーの集液口から集められ、液体出口108から排出される。
【0061】
カプセル式のプリーツフィルターカートリッジを図10及び図11に示す。
図10はカプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込まれる前の精密ろ過膜フィルターエレメントの全体構造を示す展開図である。精密ろ過膜2は2枚のサポート1、3によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するフィルターエレメントコア7の廻りに巻き付けられている。その外側にはフィルターエレメントカバー6があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端には上部エンドプレート4、下部エンドプレート5により、精密ろ過膜がシールされている。
図11は、フィルターエレメントがハウジングに組込まれて一体化されたカプセル式のプリーツフィルターカートリッジの構造を示す。フィルターエレメント10はハウジングベース12とハウジングカバー11よりなるハウジング内に組込まれている。下部エンドプレート5はOリング8を介してハウジングベース12中心部にある集水管(不図示)にシールされている。液体は液入口ノズル13からハウジング内に入り、フィルターメディア9を通過し、フィルターエレメントコア7の集液口から集められ、液出口ノズル14から排出される。ハウジングベース12とハウジングカバー11は通常溶着部17で液密に熱融着される。ハウジング上部にエアーベント15、ハウジング下部にドレン16を有する。
【0062】
図10及び図11は、下部エンドプレート5とハウジングベース12とのシールをOリング8を介して行う例を示しているが、下部エンドプレート5とハウジングベース12とのシールは熱融着や接着剤によって行われることもある。又はハウジングベース12とハウジングカバー11とのシールも熱融着の他に、接着剤を用いる方法も可能である。図9〜図11は、精密ろ過フィルターカートリッジの具体例であり、本発明はこれらの図に限定されるわけではない。
【0063】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタは、このように濾過機能が高くて長寿命であるという特徴を有することから、濾過装置をコンパクトにまとめることができる。従来の濾過装置では、多数の濾過ユニットを並列的に使用して濾過寿命の短さに対処していたが、本発明の濾過用フィルタを用いれば並列的に使用する濾過ユニットの数を大幅に減らすことができる。また、濾過用フィルタの交換期間も大幅に延ばすことができるため、メンテナンスにかかる費用や時間を節減できる。
【0064】
本発明の濾過用フィルタは、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられる。特に、本発明の濾過用フィルタはイオン吸着能に優れているため、イオン交換膜乃至イオン吸着膜として、例えば、超純水の作製にも効果的に用いられる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
<結晶性ポリマー微孔性膜(1)の製造>
−超延伸フィルムの作製−
数平均分子量が620万のポリテトラフルオロエチレンファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、「ポリフロン・ファインパウダーF104U」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、「アイソパー」)27質量部を加え、丸棒状にペースト押出しを行った。これを、70℃に加熱したカレンダーロールにより50m/分の速度でカレンダー掛けして、ポリテトラフルオロエチレンフィルムを作製した。このフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去し、平均厚み100μm、平均幅150mm、比重1.55のポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムを作製した。
【0067】
得られた未焼成フィルムを320℃にて長手方向に13倍にロール間延伸し、一旦巻き取りロールに巻き取った。その後、フィルムを305℃に予備加熱した後、両端をクリップで挟み、340℃で幅方向に30倍に延伸した。その後、380℃で熱固定を行った。得られた結晶性ポリマー微孔性膜の面積延伸倍率は、390倍であった。
【0068】
−機能化処理−
グリシジルアクリレート類として5質量%4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル(日本化成社製)と、キレート基を有する官能性化合物として5質量%N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(同仁化学社製)と、光ラジカル重合開始剤として0.1質量%Irgacure907(BASF社製)を含むメタノール・MEK混合溶液に、上記結晶性ポリマー微孔性膜を浸漬し、引き上げた結晶性ポリマー微孔性膜を、UV照射し、続いて、大気下で150℃、10分間アニール処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬して洗浄行い、乾燥させることで、機能化した結晶性ポリマー微孔性膜(1)を作製した。
得られた実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜(1)における厚み方向の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図12に示した。図12に代表されるSEM写真から、実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜(1)は、平均長軸長さが4.3μmのフィブリルからなることがわかった。
【0069】
(実施例2)
<結晶性ポリマー微孔性膜(2)の作製>
実施例1における機能化処理を、下記の機能化処理に代えた以外は、実施例1と同様にして、機能化した結晶性ポリマー微孔性膜(2)を作製した。
【0070】
−機能化処理−
5質量%アクリル酸(TCI社製)、光ラジカル重合開始剤として0.1質量%Irgacure907(BASF社製)の、メタノール・MEK混合溶液に、上記結晶性ポリマー微孔性膜を浸漬し、引き上げた結晶性ポリマー微孔性膜を、UV照射した。続いて、塩化チオニル処理後、5.0質量%ペンタエチレンヘキサミンのメタノール液に浸漬し、引き上げた結晶性ポリマー微孔性膜を、大気下で150℃、10分間アニール処理を行った。続いて、10質量%エチレンスルフィド(TCI社製)トルエン溶液に浸漬させ、引き上げた結晶性ポリマー微孔性膜を、大気下で100℃、10分間アニール処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬して洗浄行い、乾燥させることで、機能化した結晶性ポリマー微孔性膜(2)を作製した。
なお、前記エチレンスルフィドと前記ペンタエチレンヘキサミンとの反応化合物が、キレート基を有する官能性化合物として機能する。
得られた実施例2の結晶性ポリマー微孔性膜(2)における厚み方向の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を観察した結果から、実施例2の結晶性ポリマー微孔性膜(2)は、平均長軸長さが4.2μmのフィブリルからなることがわかった。
【0071】
(実施例3)
<結晶性ポリマー微孔性膜(3)の作製>
実施例1において、メタノール・MEK混合溶液に5質量%のN−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(同仁化学社製)を、キレート基を有する官能性化合物として添加したことに代えて、5質量%の3−ヒドロキシプロパンスルホン酸(TCI社製)を、反応性基がヒドロキシル基であるイオン交換基を有する官能性化合物として添加した以外は、実施例1と同様に結晶性ポリマー微孔性膜(3)を作製した。
得られた実施例3の結晶性ポリマー微孔性膜(3)における厚み方向の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を観察した結果から、実施例2の結晶性ポリマー微孔性膜(3)は、平均長軸長さが4.1μmのフィブリルからなることがわかった。
【0072】
(比較例1)
<結晶性ポリマー微孔性膜(4)の作製>
実施例1において、機能化処理を行わない以外は、実施例1と同様にして、ポリテトラフルオロエチレンの超延伸膜である前記結晶性ポリマー微孔性膜からなる、比較例1の結晶性ポリマー微孔性膜(4)を作製した。
得られた比較例1の結晶性ポリマー微孔性膜(4)における厚み方向の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を観察した結果から、比較例1の結晶性ポリマー微孔性膜(4)は、平均長軸長さが4.3μmのフィブリル及び結節からなることがわかった。
【0073】
(比較例2)
<結晶性ポリマー微孔性膜(5)の作製>
実施例2において、対称加熱フィルム(ソルトバス、341℃、50秒間)を長手方向3倍、幅方向を3倍にし、面積延伸倍率9倍にしたこと以外は、実施例2と同様にして、比較例2の結晶性ポリマー微孔性膜(5)を作製した。
得られた比較例2の結晶性ポリマー微孔性膜(5)における厚み方向の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を観察した結果から、比較例2の結晶性ポリマー微孔性膜(5)は、平均長軸長さが1.1μmのフィブリル及び結節を有することが分った。
【0074】
(比較例3)
<結晶性ポリマー微孔性膜(6)の作製>
実施例1における機能化処理を、下記の機能化処理に代えた以外は、実施例1と同様にして、比較例3の結晶性ポリマー微孔性膜(6)を作製した。すなわち、ラジカル重合性モノマーを含む組成物を重合させてなるラジカル重合体で被覆し、該ラジカル重合体の少なくとも一部に官能性化合物を付加反応する代わりに、予め重合させたラジカル重合体(ポリマー)で被覆し、該ラジカル重合体の少なくとも一部に官能性化合物を付加反応した。
得られた比較例3の結晶性ポリマー微孔性膜(6)における厚み方向の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を観察した結果から、比較例3の結晶性ポリマー微孔性膜(6)は、平均長軸長さが4.2μmのフィブリル及び結節からなることがわかった。
【0075】
−機能化処理−
5質量%4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルのラジカル重合体のMEK溶液に、結晶性ポリマー微孔性膜を浸漬し、乾燥させ、続いて、5質量%N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(同仁化学社製)のメタノール液に浸漬し、引き上げた結晶性ポリマー微孔性膜を、大気下で150℃、10分間アニール処理を行った。
これにより、機能化した結晶性ポリマー微孔性膜(6)を作製した。
【0076】
<評価>
作製した実施例1〜3及び比較例1〜3における各結晶性ポリマー微孔性膜について、以下のように評価した。
【0077】
<<親水性の評価>>
作製した実施例1〜3及び比較例1〜3の各結晶性ポリマー微孔性膜について、親水性を評価した。
各結晶性ポリマー微孔性膜の親水性は、特許第3075421号公報を参考にして評価した。具体的には、以下のようにして評価した。
初期親水性は、高さ5cmのところから水滴をサンプル表面に落とし、水滴が吸収されるかどうかについて、下記基準で評価した。結果を表1に示す。
〔評価基準〕
A:即時に吸収した
B:自然に吸収した
C:加圧してのみ吸収、又は吸収されないが接触角が減少した
D:吸収されない。即ち、水を撥ねる。このD評価は、多孔性フッ素樹脂材料に特有である
【0078】
<<濾過テスト>>
実施例1〜3及び比較例1〜3の各結晶性ポリマー微孔性膜について、濾過テストを行った。まず、ポリスチレンラテックス(平均粒子サイズ1.5μm)を0.01質量%含有する水溶液を、差圧10kPaとして、濾過し、目詰まるまでの透過量を表1に示す。
【0079】
<<流量テスト>>
実施例1〜3及び比較例1〜3の各結晶性ポリマー微孔性膜について、以下のようにして流量テストを行った。
流量測定は、JIS K3831に従い以下の条件で行った。試験方法の種類は「加圧濾過試験方法」を用い、サンプルは直径13mmの円形に切り出し、ステンレス製のホルダーにセットして測定を行った。試験液としてはイオン交換水を用い、圧力10kPaにおいて100mLの試験液を濾過するのに要した時間を測り、流量(L/min・m)を計算した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
表1の結果から、実施例1〜3及び比較例2は、親水性があり、比較例3では、やや劣るものの親水性があり、比較例1は、親水性が全くないことがわかる。
また、濾過テストにおいては、比較例1の結晶性ポリマー微孔性膜は、親水性がなく、測定不能であった。また、比較例2〜3は、200mL/cmを超えなかった。
これに対し、実施例1〜3の各結晶性ポリマー微孔性膜は、従来必要とされていたイソプロパノールによるプレ親水化処理が不要で、かつ200mL/cm以上まで濾過が可能であり、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いることにより濾過寿命が改善されることが分かった。
また、流量テストにおいても、比較例1の結晶性ポリマー微孔性膜は、親水性がなく、測定不可能であり、比較例2〜3は、300L/min・mを超えなかった。これに対し、実施例1〜3の各結晶性ポリマー微孔性膜は、300L/min・m以上で、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いることにより、大幅に流量が向上することが判った。
濾過寿命及び流量が改善される理由としては、泡透過能が向上して、泡による目詰まりが減少することによるものと考えられる。
【0082】
<<耐水性の評価>>
実施例1〜3及び比較例1〜3における各結晶性ポリマー微孔性膜に対し、200mLの水を100kPaの圧力条件下で通す過程を5回繰り返した。乾燥は、1回通すごとに行った。
耐水性の評価は、以上の過程を経た実施例1〜3及び比較例1〜3における各結晶性ポリマー微孔性膜に対し、前記親水性の評価における判断基準(A〜D)に基づき評価することで行った。結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

表2中、「測定不能」は、親水性に乏しいため、評価できなかったことを示す。
【0084】
<<イオン吸着性能の評価>>
イオン吸着性能の評価は、実施例1〜3及び比較例1〜3の各結晶性ポリマー微孔性膜について、特開平2−187136号公報を参考にした。具体的には、10ppmの各金属イオン(銀、ナトリウム)含有水溶液を1L調製し、実施例1〜3及び比較例1〜3における各結晶性ポリマー微孔性膜に、該水溶液10mLを透過させ、透過後の水溶液中に含まれる金属イオン濃度を測定することにより行った。結果を表3に示す。
【0085】
【表3】

表3中、「測定不能」は、親水性に乏しいため、評価できなかったことを示す。
【0086】
(実施例4)
−フィルターカートリッジ化−
ポリプロピレン不織布2枚の間に、実施例1で作製した結晶性ポリマー微孔性膜を挟んで、ひだ幅10.5mmにプリーツし、その138山分のひだをとって円筒状に丸め、その合わせ目をインパルスシーラーで溶着した。円筒の両端2mmずつを切り落とし、その切断面をポリプロピレン性のエンドプレートに熱溶着してエレメント交換式のフィルターカートリッジに仕上げた。
作製した本発明のフィルターカートリッジは、内蔵する結晶性ポリマー微孔性膜が親水性であるため、水系の処理において煩雑なプレ親水化処理が不要である。また、結晶性ポリマーを用いているため耐溶剤性に優れる。更に孔部が非対称構造を有するため、大流量かつ目詰まりを起こしにくく長寿命であった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜及びこれを用いた濾過用フィルタは、耐熱性及び耐薬品性に優れているため、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌、高温濾過などに幅広く用いることができる。
【符号の説明】
【0088】
1 一次側サポート
2 精密ろ過膜
3 二次側サポート
4 上部エンドプレート
5 下部エンドプレート
6 フィルターエレメントカバー
7 フィルターエレメントコア
8 Oリング
9 フィルターメディア
10 フィルターエレメント
11 ハウジングカバー
12 ハウジングベース
13 液入口ノズル
14 液出口ノズル
15 エアーベント
16 ドレン
17 溶着部
21 フィブリル
22 結節
23 分岐
101 外周カバー
102 膜サポート
103 精密ろ過膜
104 膜サポート
105 コアー
106a、106b エンドプレート
107 ガスケット
108 液体出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリルからなる結晶性ポリマー微孔性膜であって、前記フィブリルの平均長軸長さが2μm以上であり、
前記結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面の少なくとも一部が、ラジカル重合性モノマーを含む組成物を重合させてなるラジカル重合体で被覆され、前記ラジカル重合体の少なくとも一部に、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを含む官能性化合物が付加反応してなり、前記ラジカル重合性モノマーが、アクリレート類、アクリルアミド類、アクリル酸類及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項2】
ラジカル重合性モノマーが、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アクリルアミド基、イソシアネート基、及び酸クロライド基の少なくともいずれかを有する請求項1に記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項3】
官能性化合物が、ラジカル重合体との反応性基を有する化合物である請求項1から2のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項4】
フィブリルの平均長軸長さが、2μm〜1×10μmである請求項1から3のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項5】
結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1から4のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項6】
フィブリルからなる結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面に、ラジカル重合性モノマーを含む組成物を付与し、該ラジカル重合性モノマーを重合させる親水化処理工程と、
前記ラジカル重合体の一部に、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを含む官能性化合物を付加反応させる付加反応処理工程とを含み、
前記フィブリルの平均長軸長さが2μm以上であり、前記ラジカル重合性モノマーが、アクリレート類、アクリルアミド類、アクリル酸類及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項7】
結晶性ポリマーからなるフィルムを面積延伸倍率で少なくとも10倍以上延伸してフィブリルからなる結晶性ポリマー微孔性膜を形成する延伸工程を更に含む請求項6に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項8】
面積延伸倍率が、10倍〜2.0×10倍である請求項7に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項9】
結晶性ポリマーからなるフィルムの長手方向の延伸倍率が、1.5倍〜5.0×10倍であり、かつ幅方向の延伸倍率が、1.5倍〜1.0×10倍である請求項7から8のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項10】
ラジカル重合性モノマーが、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アクリルアミド基、イソシアネート基、及び酸クロライド基の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項11】
官能性化合物が、ラジカル重合体との反応性基を有する化合物である請求項6から10のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1から5のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を有することを特徴とする濾過用フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−206112(P2012−206112A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−24109(P2012−24109)
【出願日】平成24年2月7日(2012.2.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】