説明

結晶性不飽和ポリエステル及び硬化性組成物

【課題】バイオマス由来の原料を用いることにより、化石資源の使用を減らし、二酸化炭素の増加を抑制する。
【解決手段】攪拌機、パーシャルコンデンサー付き流出管、パーシャルコンデンサー頂部温度計、冷却管、縮合水計量器、窒素ガス導入管、反応溶液温度計を備えた反応容器にバイオマス由来の原料を仕込み、加熱開始して、溶液の温度が60℃に達したら、フラスコ内部を窒素ガスにて置換する。次いで、約4時間かけて反応溶液温度230℃まで昇温し、60分間エステル化反応を進め、冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一部或いはすべてにバイオマス由来の原料を用いた結晶性不飽和ポリエステル及び硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和ポリエステルは、大きな成形圧力を要しないといった特徴から浴槽、人工大理石などの大型成形品、ポリエステル化粧合板などの積層板に用いられ、製造する際は、不飽和多塩基酸及び/又はその酸無水物と必要に応じて用いられるその他の飽和酸及び/又はその酸無水物とを含む酸成分と、多価アルコールとを原料にして、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下、140〜240℃程度で脱水縮合反応させることにより得られ、酸成分、アルコール成分共に化石資源由来の原料を用いている。
【0003】
近年、国際的な環境に対する意識が高まり、石油資源の枯渇、二酸化炭素の増大による地球温暖化が問題視される中、植物を原料として合成されるバイオマスプラスチックの研究が盛んに行われている。バイオマスプラスチックは石油に依存せず、「カーボンニュートラル」や「再生可能資源からの生産性」という観念から、環境にやさしいプラスチックとして注目を集めている。
【特許文献1】特開平5−1123号公報
【特許文献2】特開2007−277309号公報
【特許文献3】特開2003−183368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらこれまでの不飽和ポリエステルは化石資源由来の原料を用いており、地球の環境保護が叫ばれる昨今、化石資源の枯渇や、地上の二酸化炭素の増加に影響を与えるといった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はかかる状況に鑑み検討されたもので、一部或いはすべてにバイオマス由来の原料を用いた結晶性不飽和ポリエステルを要旨とする発明である
【発明の効果】
【0006】
バイオマス由来の原料を用いることにより、二酸化炭素の増加を抑制でき、ハロゲン元素を含まない。将来、化石由来原料は枯渇によって使用不可能となるが、バイオマス由来の原料は再生可能原料であることから将来にわたり使用可能である。また常温以上で融点を有するため、常温固体のまま、あるいは溶剤を含まない溶融液状で基材に含浸後常温に冷却する等の方法によりプリプレグ化が可能であり、製造工程において省エネルギー、脱溶剤化が可能となる。さらに熱硬化性樹脂であることから、高度の耐熱性、高度、耐溶剤性などの特性が発現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の結晶性不飽和ポリエステルは、有機酸及び/又はグリコール成分にバイオマス由来の原料を用いる。
【0008】
有機酸成分としては、不飽和二塩基酸及びその酸無水物、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸などが挙げられ、単独で用いても2種以上を併用しても良い。不飽和二塩基酸及びその酸無水物は、酸成分中20〜100mol%使用されることが好ましく、特に50〜100mol%使用されることが好ましい。バイオマス由来の原料としては糖類にRhizopus属の糸状菌を作用させて得られるフマル酸があげられる。
【0009】
必要に応じて、飽和酸及び/又はその酸無水物として用いることも可能で、例えば、無水フタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、コハク酸、セバシン酸などの飽和二塩基酸などが挙げられ、これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。飽和酸の配合量は、酸成分中0〜80mol%、好ましくは0〜50mol%の範囲とされる。バイオマス由来の原料として、ヒマシ油の苛性ソーダによる開裂反応で得られるセバシン酸が工業的に実用化されており使用可能である。また糖類より醗酵法により得られるコハク酸の工業化が検討されている。
【0010】
グリコール成分としては、多価アルコール、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2―エタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3―ブタンジオール、1,4―ブタンジオール、2,3―ブタンジオール、1,5―ペンタジオール、1,6―ヘキサンジオール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの三価アルコール、ペンタエリスリトールなどの四価アルコールなどが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を併用しても良い。配合量は通常、全酸成分100molに対して100molである。反応中、揮発留去する分を考慮して通常2〜15%余分に仕込む。1,3プロパンジオールはアクロレインを3―ヒドロキシプロリオンアルデヒドに水和し、かつ引き続き水素化して製造することは公知であるが、バイオマス由来の原料よりの製法として、グルコースにEscherichia coirを作用させて直接得られる1,3プロパンジオールが工業的に実用化されており使用可能である。
【0011】
本発明の結晶性不飽和ポリエステルは、上記の酸、グリコール成分の中からバイオマス由来の原料を少なくとも1種採用し、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下、140〜240℃で常法に従い脱水縮合反応させればよく、得られる結晶性不飽和ポリエステルの酸価は5〜50が好ましい。
【0012】
ここで、炭素原子のほとんどは質量数が12であるが、地球上に含まれる炭素のうち1兆個にひとつは質量数が14の14C炭素原子である.14Cは14N(ナイトロジェン14)が宇宙放射の衝撃の影響で変化し、上層大気圏で生み出されたもので、半減期が5730年の放射壊変によってゆっくりと窒素原子に戻る。従って、化石資源由来の炭素には14Cが含まれておらず。逆に14Cが含まれていればバイオマス由来となる。14C量の分析は、液体シンチレーションカウンター、加速器質量分析(AMS)などにより求めることができる。物質中に含まれる14C/12C比を測定し、そこからバイオマスの含有量割合、すなわちバイオマス度を求める測定規格としてASTM D6866規格がある。
【0013】
重合性単量体および/または重合性オリゴマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ブロモスチレン、ジビニルベンゼン、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、アクリルニトリル、トリメチロールプロパンアリルエーテル、ペンタエリスリトールアリルエーテル、グリセリンアリルエーテル、ソルビトールアリルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレングリコールアリルエーテル、アルコール鎖中1−18炭素原子を有するアクリル酸およびメタクリル酸のエステル、ヘキサメチレンジイソシアネートとアリルアルコールを反応せしめた結晶性アリルウレタン、ジアリルフタレートプレポリマーなどをあげることができる。結晶性不飽和ポリエステルと重合性単量体との混合割合は、性能上および製造上好ましい割合を選定する。結晶性不飽和ポリエステル:重合性単量体=100〜20重量部:0〜80重量部であり、この範囲であれば、注型品、化粧板用途に適している。結晶性不飽和ポリエステル単体でも使用可能である。
【0014】
硬化触媒は、通常公知のものが使用でき、例えばケトンパーオキサイド系、パーオキシケタール系、ジアルキルパーオキサイド系、ジアシルパーオキサイド系、パーオキシエステル系、パーオキシジカーボネート系などの有機過酸化物ならびにアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ベンジルメチルケタール等のUV硬化剤が挙げられる。
【実施例1】
【0015】
不飽和ポリエステルの合成
攪拌機、パーシャルコンデンサー付き流出管、パーシャルコンデンサー頂部温度計、冷却管、縮合水計量器、窒素ガス導入管、反応溶液温度計を備えた反応容器に表1に示すモル比で原料を仕込み、加熱開始して、攪拌機に負担がかからぬようスラリー状の溶液を低速で攪拌し、温度上昇に伴い溶液粘度が低下したら攪拌速度を上げる。溶液の温度が60℃に達したら、フラスコ内部を窒素ガスにて置換する。溶液温度が140〜160℃で縮合水が流出する。このとき、パーシャルコンデンサー頂部温度が110℃以下となるようにフラスコの加熱度合いをコントロールする。約4時間かけて反応溶液温度230℃まで昇温する。30分間230℃にて放置し、その後、パーシャルコンデンサーをはずし、窒素ガスを反応溶液に噴きつけ、230℃にて60分間エステル化反応を進め、冷却する。150℃となったら反応溶液を冷却バットに移し結晶化固化させ結晶性不飽和ポリエステルを得る。得られた結晶性不飽和ポリエステルの融点は、DTA分析にて計測した。(昇温速度10℃/分、とし、吸熱ピーク先端温度を融点とした。)
【実施例2】
【0016】
表1に示す原料、モル比で実施例1と同様に反応し、融点を計測した。
【実施例3】
【0017】
表1に示す原料、モル比で実施例1と同様に反応し、融点を計測した。
【実施例4】
【0018】
表1に示す原料、モル比で実施例1と同様に反応し、融点を計測した。
【実施例5】
【0019】
表1に示す原料、モル比で実施例1と同様に反応し、融点を計測した。
【実施例6】
【0020】
表1に示す原料、モル比で実施例1と同様に反応し、融点を計測した。
【実施例7】
【0021】
表1に示す原料、モル比で実施例1と同様に反応し、融点を計測した。
【0022】
比較例1
表1に示す原料、モル比で実施例1と同様に反応し、融点を計測した。
【0023】
比較例2
表1に示す原料、モル比で実施例1と同様に反応し、融点を計測した。
【0024】
比較例3
表1に示す原料、モル比で実施例1と同様にて反応した。
得られた不飽和ポリエステルの酸価は30であった。
【0025】
以下に得られたバイオマス由来の原料を用いた結晶性不飽和ポリエステルを使用した成形例を示した。
【実施例8】
【0026】
配合例1(硬化性組成物(A))
実施例6の不飽和ポリエステル 850部
ジアリルオルソフタレート(常温液体) 150部
ペンタエリスリトールテトラキス
[3−(3,5−ジ−tert−ブチルー4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](安定剤) 0.5部
不飽和ポリエステルを溶融液状とし、上記の物質を添加し溶解させた後、冷却し結晶化固化させ、硬化性組成物(A)を得た。
【0027】
成形例1
硬化性組成物(A)を溶融し液状とし、化粧紙(酸化チタン含有、灰分30%、150g/m)に含浸後冷却し、350g/mの表面べたつきのない含浸紙を得た。含浸紙表面に重合開始剤として、1,6ビス(tert−ブチルパーオキシカルボニロキシヘキサン)(10時間半減期97℃、常温液体)を2g/mなるよう塗布し、プリプレグシートを得た。
プリプレグシートを5枚積層し、ステンレス板で挟み、2MPa、145℃条件にて20分成形し、厚さ1mmの白色化粧板を得た。
以下に得られた化粧板の物性を白色メラミン化粧板(厚さ1mm、基材層はフェノール樹脂含浸紙)と比較して表2に示した。
【0028】
【表1】


【0029】
【表2】

【0030】
表2に示されるように、本発明の結晶性不飽和ポリエステルを用いることにより、従来のメラミン化粧板と比較し寸法安定性にすぐれ、切り口の着色がなく、ホルムアルデヒドの放散がない化粧板が得られた。得られた化粧板のバイオマス度は49%(バイオマス由来重量/総重量)である。また製造工程中に溶剤の使用、飛散がなく、環境にやさしい生産が可能である。
【実施例9】
【0031】
配合例2(硬化性組成物(B))
実施例4の不飽和ポリエステルの粉砕物 300部
ジクミルパーオキシド(重合開始剤、常温固体粉) 10部
水酸化アルミニウム
(ビニルシラン表面処理品、無機固体粉) 700部
カーボンブラック(固体粉) 10部
上記配合例を粉体混合した。
【0032】
成形例2
上記の粉体を凹凸状金型に入れ、7MPa、160℃にて15分間プレスを行ない厚さ3mmの成形板を得た。バイオマス度は11%(バイオマス由来重量/総重量)である。
成形品の難燃性試験をUL規格にもとづき行なった結果、V−0グレード合格であった。
【実施例10】
【0033】
配合例3(硬化性組成物(C))
実施例6の不飽和ポリエステル 700部
結晶性アリルウレタン* 300部
ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン
(常温液体カップリング剤) 20部
ペンタエリスリトールテトラキス
[3−(3,5−ジ−tert−ブチルー4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](安定剤) 0.5部
高白色水酸化アルミニウム 1000部
酸化チタン 10部
上記配合で混練し、スラリー状の硬化性組成物(C)を得た。
とした。
【0034】
*)結晶性アリルウレタンの合成
攪拌装置、温度計、留分凝縮冷却器、滴下装置を備えた2リットのセパラブルフラスコにアリルアルコール1160g(20モル)およびウレタン化触媒であるジn−ブチルスズジラウレート0.06gを加え攪拌し、70℃に昇温する。次にヘキサメチレンジイソシアネート1680g(10モル)を滴下する。このとき内温が90℃以下となるように滴下速度を調整する。滴下終了後、内温を80℃に保持し、反応液をサンプリングし、FTIRを用いて、イソシアネート(−N=C=O)に基づく2275cm−1の吸収ピークが消失したことを確認し、反応液を100℃に昇温する。留分凝縮冷却器を留分追い出し用冷却器にかえ、減圧(20mmHg)条件下にて未反応のアリルアルコールを留去する。冷却バットに反応液を移送し、結晶化固化させた。得られた結晶性アリルウレタンオリゴマーの融点は74℃(DTA分析、昇温速度10℃/分、吸熱ピーク先端温度)であった。
【0035】
成形例3
ガラス繊維不織布(かさ比重0.2、78g/m、アクリル樹脂バインダー)裏面にラジカル重合開始剤として1,6ビス(tert−ブチルパーオキシカルボニロキシヘキサン)を8g/mとなるように塗布した。次に表面より配合例3の樹脂スラリーを800g/m条件で含浸塗工後冷却結晶化させプリプレグシートを得た。
プリプレグシートを5枚積層し、ステンレスで挟み、3MPa、140℃条件にて20分成形し、厚さ3mmの大理石調板を得た。得られた化粧板のバイオマス度は12%(バイオマス由来重量/総重量)である。
大理石調板(厚さ3mm、30cm×30cm)を高さ1mの高さよりコンクリート床面に落下させたが、破壊しなかった。
比較として天然大理石板(厚さ6mm、30cm×30cm)を高さ1mの高さよりコンクリート床面に落下させたら破壊した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部或いはすべてにバイオマス由来の原料を用いた結晶性不飽和ポリエステル。
【請求項2】
前記バイオマス由来の原料は放射性炭素14Cが含まれていることを特徴とする請求項1記載の結晶性不飽和ポリエステル。
【請求項3】
請求項1又は2記載の結晶性不飽和ポリエステルを含む主成分とする硬化性樹脂組成物
【請求項4】
請求項3記載の硬化性樹脂組成物を用いた成形材。


【公開番号】特開2011−184583(P2011−184583A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51776(P2010−51776)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】