説明

結晶性Trans−桂皮酸ジエステルとポリテルペン樹脂とを含有する転相インク

【課題】相転移性、接着性、耐引っかき性、着色剤との相溶性などが優れ、且つ、生物由来の資源または再生可能な資源から少なくとも部分的に誘導される材料を含有する転相インクを提供する。
【解決手段】インクキャリアを含み、このインクキャリアが、(a)結晶性trans−桂皮酸から誘導されるジエステル、及び、b)アモルファスポリテルペン樹脂とを含む転相インクである。Trans−桂皮酸は、シナモン油、またはバルサム(例えば、エゴノキ)またはシアバター中にみられる天然物質である。また、Trans−桂皮酸は、フェニルアラニンアンモニア−リアーゼという酵素を用い、天然のアミノ酸であるフェニルアラニンから誘導することもできる。式HO−R−OHの異なるジオールとtrans−桂皮酸とを反応させ、ジエステルを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、転相インク組成物が開示されている。さらに具体的には、本明細書には、結晶性trans−桂皮酸から誘導されるジエステルとアモルファスポリテルペン樹脂とを含有する転相インクが開示されている。
【背景技術】
【0002】
既知の転相インクは、一般的に、結晶性ワックスや、溶融した液体状態から固体状態へと鋭敏にすばやく相転移することが可能な他の材料のような構成要素を含有する。しかし、多くの既知の転相インクは、コーティングされた紙基材への接着性が悪く、その結果、耐引っかき性が悪く、画像の堅牢性が悪く、硬く脆い性質をもち、書類を折りたたんだときの「紙の折りたたみ」性能(例えば、画像の亀裂および折り目)が悪く、書類の裏移りが起こるといった欠点を示す。さらに、これらのインク構成要素が非極性であるため、市販の染料および顔料の相溶性に問題があることが多く、その結果、インクキャリア中で良好な溶解性または分散性を確保し、着色剤の分解または着色剤の移動を防ぐために長期間良好な熱安定性を確保するために、高価または個別に設計した着色剤が必要となる。さらに、多くの既知の転相インクは、ペンで書くことができないような印刷物を生成する。
【0003】
また、顧客には、生物由来の材料、または少なくとも部分的に再生可能な資源から誘導される材料の需要も生じている。エネルギーおよび環境の政策、原油価格の上昇および不安定化、地球規模で化石資源がみるみる枯渇しているという公的/政治的な認識から、生体材料から誘導される持続可能なモノマーを見出す必要性が生じてきている。生体再生可能な原料を用いることによって、製造業者は、二酸化炭素排出量を減らすことができ、ゼロカーボンへ、またはさらにカーボンニュートラルな二酸化炭素排出量へと移行することができる。また、生物由来のポリマーは、特定のエネルギーおよび排出量の節約という観点で非常に魅力的であろう。生物由来の原料を用いることで、新しい国内の農業収入源が得られることに役立ち、不安定な地域から輸入される石油に依存することに関連する経済的なリスクおよび不確実性を減らすことができる。
【0004】
したがって、これらの意図する目的に対し、既知の材料およびプロセスが適しているものの、改良された転相インクが必要である。それに加え、溶融した液体状態から固体状態へと鋭敏にすばやく相転移することを示す転相インクが必要である。さらに、コーティングされた紙基材に対し、良好な接着性を示す転相インクが必要である。さらに、良好な耐引っかき性を示す転相インクが必要である。また、良好な画像の堅牢性を示す転相インクが必要である。それに加え、良好な「紙の折りたたみ」性能を示し、書類が折りたたまれたとき、画像の亀裂および折り目が減る転相インクが必要である。さらに、良好な書類の裏移り性能を示す転相インクが必要である。さらに、市販の着色剤と良好な相溶性を示す転相インクが必要である。それに加え、生物由来の資源または再生可能な資源から少なくとも部分的に誘導されるある種の材料を少なくとも含有する転相インクが依然として必要である。さらに、望ましい程度に低コストで調製可能な転相インクが依然として必要である。さらに、ペンで書くことが許容される印刷物を生成する転相インクが依然として必要である。また、ある種の生分解性構成要素を含有する転相インクが必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書には、インクキャリアを含み、このインクキャリアが、(a)結晶性trans−桂皮酸ジエステルと、(b)アモルファスポリテルペン樹脂とを含む、転相インクが開示される。また、本明細書には、(1)(a)約50〜約95重量%の量の結晶性trans−桂皮酸ジエステルおよび(b)約5〜約50重量%の量のアモルファスポリテルペン樹脂を含むインクキャリアと;(2)着色剤とを含む転相インクが開示される。さらに、本明細書には、(1)(a)約50〜約95重量%の量の、以下の式を有する結晶性trans−桂皮酸ジエステル
【化1】

(式中、Rは、(i)置換および非置換のアルキレン基を含み、アルキレン基にヘテロ原子が存在していてもよく、存在していなくてもよい、アルキレン基;(ii)置換および非置換のアリーレン基を含み、アリーレン基にヘテロ原子が存在していてもよく、存在していなくてもよい、アリーレン基;(iii)置換および非置換のアリールアルキレン基を含み、アリールアルキレン基のアルキル部分およびアリール部分のいずれか、または両方にヘテロ原子が存在していてもよく、存在していなくてもよい、アリールアルキレン基;または(iv)置換および非置換のアルキルアリーレン基を含み、アルキルアリーレン基のアルキル部分およびアリール部分のいずれか、または両方にヘテロ原子が存在していてもよく、存在していなくてもよい、アルキルアリーレン基であり、2個以上の置換基が一緒に接続して環を形成していてもよい);および(b)約5〜約50重量%の量の、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、ノルボルネン、ミルセン、フェランドレン、カルボン、カンフェン、2−カレン、3−カレン、ペリリルアルコール、ペリリルアルデヒド、ペリル酸、ペリリルアルコールのアルキルエステル、ペリリルアルコールのアリールエステル、ペリリルアルコールのアリールアルキルエステル、ペリリルアルコールのアルキルアリールエステル、α−イオノン、β−イオノン、γ−テルピネン、β−シトロネレン、β−シトロネロール、シトロネラール、シトロネル酸、β−シトロネロールのアルキルエステル、β−シトロネロールのアリールエステル、β−シトロネロールのアリールアルキルエステル、β−シトロネロールのアルキルアリールエステル、ゲラニオール、ゲラニアール、ゲラニオールのアルキルエステル、ゲラニオールのアリールエステル、ゲラニオールのアリールアルキルエステル、ゲラニオールのアルキルアリールエステル、リナロール、リナロールのアルキルエステル、リナロールのアリールエステル、リナロールのアリールアルキルエステル、リナロールのアルキルアリールエステル、ネロリドール、ネロリドールのアルキルエステル、ネロリドールのアリールエステル、ネロリドールのアリールアルキルエステル、ネロリドールのアルキルアリールエステル、ベルベノール、ベルベノン、ベルベノールのアルキルエステル、ベルベノールのアリールエステル、ベルベノールのアリールアルキルエステル、ベルベノールのアルキルアリールエステル、およびこれらの混合物から選択されるモノマーを含有するアモルファスポリテルペン樹脂を含むインクキャリアと;(2)着色剤とを含む、転相インクが開示される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、作業例で調製したインクについて、複素粘度対温度をプロットしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書に開示するインクは、結晶性trans−桂皮酸から誘導されるジエステルを含有する。Trans−桂皮酸は、シナモン油、またはバルサム(例えば、エゴノキ)またはシアバター中にみられる天然物質である。また、Trans−桂皮酸は、フェニルアラニンアンモニア−リアーゼという酵素を用い、天然のアミノ酸であるフェニルアラニンから誘導することもできる。式HO−R−OHの異なるジオールとtrans−桂皮酸とを反応させ、ジエステルを得ることができる。
【0008】
適切なtrans−桂皮酸ジエステルの例としては、(限定されないが)以下の式を有するものが挙げられ、
【化2】

式中、Rは、(1)直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和、環状、置換および非置換のアルキレン基を含み、アルキレン基にヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素など)が存在してもよく、存在しなくてもよい、アルキレン基、一実施形態では、少なくとも2個の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、少なくとも3個の炭素原子を含むもの、さらに別の実施形態では、少なくとも4個の炭素原子を含むもの、一実施形態では、20個以下の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、10個以下の炭素原子を含むもの、さらに別の実施形態では、8個以下の炭素原子を含むもの、(2)置換および非置換のアリーレン基を含み、アリーレン基にヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素など)が存在してもよく、存在しなくてもよい、アリーレン基、一実施形態では、少なくとも6個の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、少なくとも7個の炭素原子を含むもの、さらに別の実施形態では、少なくとも8個の炭素原子を含むもの、一実施形態では、20個以下の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、18個以下の炭素原子を含むもの、さらに別の実施形態では、16個以下の炭素原子を含むもの、例えば、フェニレンなど、(3)置換および非置換のアリールアルキレン基を含み、アリールアルキレン基のアルキル部分は、直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和、および/または環状であってもよく、アリールアルキレン基のアルキル部分およびアリール部分のいずれか、または両方にヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素など)が存在していてもよく、存在していなくてもよい、アリールアルキレン基、一実施形態では、少なくとも7個の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、少なくとも8個の炭素原子を含むもの、さらに別の実施形態では、少なくとも9個の炭素原子を含むもの、一実施形態では、20個以下の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、18個以下の炭素原子を含むもの、さらに別の実施形態では、16個以下の炭素原子を含むもの、例えば、ベンジレンなど、または(4)置換および非置換のアルキルアリーレン基を含み、アルキルアリーレン基のアルキル部分が、直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和、および/または環状であってもよく、アルキルアリーレン基のアルキル部分およびアリール部分のいずれか、または両方にヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素など)が存在していてもよく、存在していなくてもよい、アルキルアリーレン基、一実施形態では、少なくとも7個の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、少なくとも8個の炭素原子を含むもの、さらに別の実施形態では、少なくとも9個の炭素原子を含むもの、一実施形態では、20個以下の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、18個以下の炭素原子を含むもの、さらに別の実施形態では、16個以下の炭素原子を含むもの、例えば、トリレンなどであり、置換アルキレン基、置換アリーレン基、置換アリールアルキレン基、置換アルキルアリーレン基の上にある置換基の置換基は、(限定されないが)ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アンモニウム基、ピリジン基、ピリジニウム基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、アミド基、カルボニル基、チオカルボニル基、サルフェート基、スルホネート基、スルホン酸基、スルフィド基、スルホキシド基、ホスフィン基、ホスホニウム基、ホスフェート基、ニトリル基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホン基、アシル基、酸無水物基、アジド基、イソチオシアネート基、カルボキシレート基、カルボン酸基、ウレタン基、尿素基、これらの混合物などであってもよく、2個以上の置換基が一緒に接続して環を形成していてもよい。
【0009】
適切なtrans−桂皮酸から誘導されるジエステルの具体的な例としては、(限定されないが)、以下の式を有するプロパン−1,3−trans−シンナメート
【化3】

以下の式を有するブタン−1,4−trans−シンナメート
【化4】

以下の式を有するヘキサン−1,6−trans−シンナメート
【化5】

以下の式を有するtrans−シクロヘキサン−1,4−ジメタノール−trans−シンナメート
【化6】

以下の式を有するパラ−フェニル−1,4−ジメタノール−trans−シンナメート
【化7】

以下の式を有するビス(ヒドロキシメチル)フラン−trans−シンナメート
【化8】

以下の式を有する2,5−ジヒドロキシメチル−テトラヒドロフラン−trans−シンナメート
【化9】

以下の式を有するtrans−桂皮酸−2,3−ブタンジオールジエステル
【化10】

など、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0010】
ある具体的な実施形態では、ジオールは、生物由来の資源または再生可能な資源から誘導されるように選択される。ジオールが石油由来であるか、再生可能な資源由来であるかについて、生成物を14C放射性炭素年代測定法によって調べることができる。石油由来の生成物は、再生可能な資源から誘導される生成物ではごく最近または現在の放射性炭素値をもつのに比べ、数百万年という実質的に高い14C放射性炭素年代測定値をもつだろう。適切な生物由来のジオールの例としては、限定されないが、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、2,3−ブタンジオールなど、およびこれらの混合物が挙げられ、これらは、糖類から得ることができる。この様式で、trans−桂皮酸ジエステル材料全体を、生物由来であるように選択することができる。
【0011】
trans−桂皮酸ジエステルは、インクキャリア中に任意の望ましい量または有効な量で、一実施形態では、少なくとも50重量%、別の実施形態では、少なくとも60重量%、さらに別の実施形態では、少なくとも70重量%、一実施形態では、95重量%以下、別の実施形態では、90重量%以下、さらに別の実施形態では、85重量%以下の量で存在する。
【0012】
また、本明細書に開示するインクは、アモルファスポリテルペン樹脂も含有する。ポリテルペン樹脂は、不飽和モノテルペン化合物(例えば、α−ピネン、β−ピネン、d−リモネンなど)およびこれらの混合物の重合から得られるものであり、これらは、すべて再生可能な資源から誘導される。
【0013】
モノテルペン化合物は、天然産物のテルペノイド族に属する炭素10個の化合物であり、5炭素ビルディングブロック化合物であるピロリン酸イソペンテニル(IPP)およびピロリン酸ジメチルアリル(DMAPP)の2種類から、植物源および動物源の中で自然に生合成される。モノテルペン化合物を製造する生合成経路(メバロン酸経路としても知られる)は、IPPとDMAPPとの「頭部−尾部」型のカチオン性付加を含み、この付加は、アデノシン三リン酸(ATP)等価物が関与し、酵素によって触媒される。IPPとDMAPPとの付加によって作られる生成物は、ピロリン酸ゲラニル(GPP)であり、これにさらにIPPおよびDMAPPといったビルディング単位を付加し、それによって、もっと大きなテルペノイド化合物(セスキテルペン(C15化合物)、ジテルペン(C20化合物、例えば、アビエチン酸誘導体のロジン群)、セステルテルペン(C25化合物)、およびよく知られているトリテルペン(C30化合物、スクアレン、コレステロール、プロゲステロン、および他のステロールおよびステロイド化合物を含む)を生成する。または、C10ビルディングブロックGPP(ピロリン酸ゲラニル)は、分子内環化を受け、一不飽和ピネン(α、β異性体)、リモネン、カンフェン、およびボルネンを含む機能的な芳香性のモノテルペン化合物を得ることができる。
【化11】

これらの不飽和化合物の酸化によって、よく知られた芳香性モノテルペン(例えば、メントール、ゲラニオール、ユーカリプトール、ペリーラアルコール、ショウノウ)が生じる。天然産物のテルペノイド類の生合成および性質に関する詳細は、例えば、P.M.Dewick、Medicinal Natural Products:A Biosynthetic Approach(2002、Wiley)に完全に記載されている。
【0014】
具体的な実施形態では、ポリテルペン樹脂は、不飽和モノテルペンのホモポリマーまたはコポリマーのいずれか、例えば、α−ピネン、β−ピネン、d−リモネン、α/β−ピネンの混合物など、およびこれらのブレンドした組み合わせであってもよい。他の具体的な実施形態では、ポリテルペン樹脂は、不飽和モノテルペン(例えば、α−ピネン、β−ピネン、d−リモネンなど)と他の石油由来の従来のエチレン系不飽和モノマー(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、ビニルアルカノエート、例えば、酢酸ビニル、ブタン酸ビニルなど、エチレン酢酸ビニル、スチレン−無水マレイン酸および同様のモノマー)
とのコポリマーであってもよい。
【0015】
適切なポリテルペン樹脂の例としては、(限定されないが)、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、ノルボルネン、ミルセン、フェランドレン、カルボン、カンフェン、2−カレン、3−カレン、ペリリルアルコール、ペリリルアルデヒド、ペリル酸、ペリリルアルコールまたはペリル酸のアルキルエステル、アリールエステル、アリールアルキルエステルおよびアルキルアリールエステル、α−イオノン、β−イオノン、γ−テルピネン、β−シトロネレン、β−シトロネロール、シトロネラール、シトロネル酸、β−シトロネロールまたはシトロネル酸のアルキルエステル、アリールエステル、アリールアルキルエステルおよびアルキルアリールエステル、ゲラニオール、ゲラニアール、ゲラニオールのアルキルエステル、アリールエステル、アリールアルキルエステルおよびアルキルアリールエステル、例えば、安息香酸ゲラニルなど、リナロール、リナロールのアルキルエステル、アリールエステル、アリールアルキルエステルおよびアルキルアリールエステル、ネロリドール、ネロリドールのアルキルエステル、アリールエステル、アリールアルキルエステルおよびアルキルアリールエステル、例えば、酢酸ネロリジルなど、ベルベノール、ベルベノン、ベルベノールのアルキルエステル、アリールエステル、アリールアルキルエステルおよびアルキルアリールエステルのホモポリマーまたはコポリマー、およびこのホモポリマーまたはコポリマーをブレンドした混合物が挙げられる。アルキルエステル、アリールエステル、アリールアルキルエステルおよびアルキルアリールエステルとしては、アルキルが、直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和、環状、置換および非置換のアルキル基を含み、アルキル基にヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素など)が存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも1個の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、少なくとも2個の炭素原子を含むもの、一実施形態では、20個以下の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、18個以下の炭素原子を含むもの;アリールが、置換および非置換のアリール基を含み、アリール基にヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素など)が存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも5個の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、少なくとも6個の炭素原子を含むもの、一実施形態では、24個以下の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、18個以下の炭素原子を含むもの、さらに別の実施形態では、14個以下の炭素原子を含むもの、例えば、フェニルなど;アリールアルキルが、置換および非置換のアリールアルキル基を含み、アリールアルキル基のアルキル部分は、直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和、および/または環状であってもよく、アリールアルキル基のアルキル部分およびアリール部分のいずれか、または両方にヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素など)が存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも6個の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、少なくとも7個の炭素原子を含むもの、一実施形態では、36個以下の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、24個以下の炭素原子を含むもの、さらに別の実施形態では、18個以下の炭素原子を含むもの、例えば、ベンジルなど;アルキルアリールが、置換および非置換のアルキルアリール基を含み、アルキルアリール基のアルキル部分は、直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和、および/または環状であってもよく、アルキルアリール基のアルキル部分およびアリール部分のいずれか、または両方にヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素など)が存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも6個の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、少なくとも7個の炭素原子を含むもの、一実施形態では、36個以下の炭素原子を含むもの、別の実施形態では、24個以下の炭素原子を含むもの、さらに別の実施形態では、18個以下の炭素原子を含むもの、例えば、トリルなどであるエステルが挙げられ、置換アルキル基、置換アリール基、置換アリールアルキル基、置換アルキルアリール基の上にある置換基は、(限定されないが)ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アミン基、イミン基、アンモニウム基、シアノ基、ピリジン基、ピリジニウム基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、エステル基、アミド基、カルボニル基、チオカルボニル基、サルフェート基、スルホネート基、スルホン酸基、スルフィド基、スルホキシド基、ホスフィン基、ホスホニウム基、ホスフェート基、ニトリル基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホン基、アシル基、酸無水物基、アジド基、シアネート基、イソシアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、カルボキシレート基、カルボン酸基、ウレタン基、尿素基、これらの混合物などであってもよく、2個以上の置換基が一緒に接続して環を形成していてもよい。適切なポリテルペン化合物の他の例としては、不飽和モノテルペンと従来の石油由来のエチレン系不飽和モノマー(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、アクリル酸アルキル(この章で定義したようなアルキルを含む)、メタクリル酸アルキル(この章で定義したようなアルキルを含む)、ビニルアルカノエート(この章で定義したようなアルキルを含む)、例えば、酢酸ビニル、ブタン酸ビニルなど、エチレン酢酸ビニル、スチレン−無水マレイン酸および同様のモノマー)とのコポリマーが挙げられる。
【0016】
本明細書に開示するインクのためのポリテルペン樹脂は、一般的にはランダムコポリマーであるが、ブロックコポリマー合成または化学的にグラフト接合する他のコポリマーセグメントに適した方法によって調製されるブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーを含んでいてもよい。具体的な実施形態では、ポリテルペン樹脂は、α−ピネン、β−ピネン、β−フェランドレン、他のエチレン系不飽和モノマー(例えば、ジペンテンまたはイソプレンまたはリモネン)の混合物から調製されるランダムコポリマーである。α−ピネンモノマーおよびβ−ピネンモノマーの混合物から調製される実施形態のポリテルペン樹脂では、β−ピネンモノマーに対するα−ピネンモノマーのモル比は、全ピネンモノマー混合物の5%〜80%であってもよい。さらなる実施形態では、ポリテルペン樹脂を調製するために使用されるα/β−ピネンモノマーの合計量は、使用する総モノマーの50モル%〜100モル%であってもよい。
【0017】
ポリテルペン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特定のインク配合物に有用な任意の適切な量であってもよい。具体的な実施形態では、その値は、高温で9〜12センチポアズ(cP)の良好な吐出粘度をもつインク組成物を与えるような値である。ある具体的な実施形態では、ポリテルペン樹脂のMw値は(ゲル浸透クロマトグラフィー方法によって決定され、ポリスチレン較正標準に対して測定される)、単位g/moleで、少なくとも2,000、別の実施形態では、少なくとも5,000、さらに別の実施形態では、少なくとも7,000、一実施形態では、50,000以下、別の実施形態では、30,000以下、さらに別の実施形態では、20,000以下である。
【0018】
本明細書に開示するインクに適したポリテルペン樹脂は、アモルファス材料である。具体的な実施形態では、ポリテルペン樹脂は、淡い色であり、有機溶媒の50wt%溶液として比色分析(ティントメーター装置)によって測定すると、ガードナースケールで5未満の値を有する。ポリテルペン樹脂は、ガラス転移開始温度(Tg)が、一実施形態では、少なくとも10℃、一実施形態では60℃以下であり、Tgの終点値は、一実施形態では、少なくとも20℃、一実施形態では、75℃以下である。さらに、ポリテルペン樹脂は、軟化点(環球法によって測定)が、一実施形態では、少なくとも30℃、別の実施形態では、少なくとも40℃、さらに別の実施形態では、少なくとも50℃、一実施形態では、130℃以下、別の実施形態では、125℃以下、さらに別の実施形態では、120℃以下である。
【0019】
ある具体的な実施形態では、ある種のポリテルペン樹脂は、以下の表に示すように、アモルファスポリマーのレオロジー特性を示すことができる。示されているPICCOLYTE(登録商標)ポリテルペン樹脂の例は、周期1Hz、130℃を超える温度で測定した複素粘度が、200cP〜20,000cPを示す。100℃より低い温度で、これらの樹脂について1Hzで測定した複素粘度は、顕著に高く、1×10cP〜5×10cPの範囲である。それに加え、ポリテルペン樹脂は、「ニュートン」レオロジー挙動を示し、130℃よりも高い温度で測定した複素粘度は、加えられるせん断周期が異なる状態(0.1Hz〜16Hzの範囲)でそれほど顕著に変化しなかった。これらの粘度特性は、結晶性転相剤または粘度調整要素と合わせると、転相インク配合物中でアモルファスバインダー樹脂として使用するのに適していることがわかった。
【0020】
3種類の適切な市販ポリテルペン樹脂のレオロジープロフィールを、Rheometrics RFS3歪み制御型レオメーターを用いて測定し、結果を以下の表に示す。140℃から75℃の動的な温度スイープにわたって、25mmの平板形状の器具を取り付けたRheometrics RFS3装置を用い、1Hzの一定周波数に設定し、一定の100%歪みを加えた条件で複素粘度を測定した。
【表1】

【0021】
適切なアモルファスポリテルペン樹脂の例としては、Pinova Solutions(USA)から市販のPICCOLYTE(登録商標)シリーズの樹脂、例えば、PICCOLYTE(登録商標)S25およびS85(β−ピネンから調製したβ−ピネン樹脂)、PICCOLYTE(登録商標)F90およびF105(α−ピネン/β−ピネンモノマー混合物から調製したα−ピネン/β−ピネンコポリマー樹脂)、PICCOLYTE(登録商標)C105(リモネンモノマーから調製したリモネン樹脂)が挙げられる。他の適切なポリテルペン樹脂としては、SYLVAGUM(商標) TR90およびTR105樹脂、およびSYLVARES(商標)TM ZT106樹脂(Arizona Chemical(USA)から入手可能)が挙げられる。
【0022】
ポリテルペンは、転相印刷インクに適した良好な熱安定性および弾性を有するため、また、生物由来の資源または再生可能な資源から得られるため、特に望ましいインクの構成要素である。
【0023】
アモルファスポリテルペン樹脂は、インクキャリア中に合計量で任意の望ましい量または有効な量で、一実施形態では、少なくとも5重量%、別の実施形態では、少なくとも10重量%、さらに別の実施形態では、少なくとも15重量%、さらに別の実施形態では、少なくとも20重量%、一実施形態では、50重量%以下、別の実施形態では、40重量%以下、さらに別の実施形態では、35重量%以下、さらに別の実施形態では、30重量%以下の量で存在する。
【0024】
また、インク組成物は、任意要素の着色剤を含有していてもよい。インク組成物に、染料、顔料、これらの混合物などを含め任意の望ましい着色剤または任意の有効な着色剤を使用してもよい。任意の染料または顔料を選択することができるが、但し、インクキャリアに分散または溶解することができ、他のインク要素と相溶性であるものに限る。インク組成物を、従来のインク着色材料と組み合わせて使用してもよい。ポリマー染料も使用することができる。
【0025】
ある実施形態では、溶媒染料を使用する。
【0026】
また、顔料は、本明細書に記載のインクに適した着色剤でもある。
【0027】
2種類以上の染料、2種類以上の顔料および1種類以上の染料と、1種類以上の顔料の混合物も使用することができる。
【0028】
また、インクは、1種類以上の分散剤および/または1種類以上の界面活性剤を、それらの既知の性質のため(例えば、インク組成物中の顔料の濡れ性を制御するため)に含有していてもよい。適切な添加剤の例としては、限定されないが、BYK−UV 3500、BYK−UV 3510(BYK−Chemie);Dow Corning 18、27、57、67 Additive;ZONYL FSO 100(DuPont);MODAFLOW 2100(Solutia);Foam Blast 20F、30、550(Lubrizol);EFKA−1101、−4046、−4047、−2025、−2035、−2040、−2021、−3600、−3232;SOLSPERSE 13000、13240、17000、19200、20000、34750、36000、39000、41000、54000が挙げられ、個々の分散剤または組み合わせを、場合により、SOLSPERSE 5000、12000、22000(Lubrizol);DISPERBYK−108、−163、−167、182(BYK−Chemie);K−SPERSE 132、XD−A503、XD−A505(King Industries)のような共力剤とともに使用してもよい。任意要素の添加剤が存在する場合、この添加剤は、それぞれまたは組み合わせた状態で、インク中に任意の望ましい量または有効な量で、一実施形態では、インクの少なくとも0.1重量%、別の実施形態では、少なくとも0.5重量%、一実施形態では、15重量%以下、別の実施形態では、12重量%以下の量で存在してもよい。
【0029】
着色剤は、望ましい色または色相を得るために、任意の望ましい量または有効な量で存在し、一実施形態では、インクの少なくとも0.5重量%、別の実施形態では、インクの少なくとも1重量%、さらに別の実施形態では、インクの少なくとも2重量%、一実施形態では、インクの30重量%以下、別の実施形態では、インクの20重量%以下、さらに別の実施形態では、インクの15重量%以下、さらに別の実施形態では、インクの12重量%以下、さらに別の実施形態では、インクの10重量%以下の量で存在する。
【0030】
例えば、粘度調整剤は、転相インクがインクジェット印刷のために低い粘度を有することができるような低い溶融粘度をもつ、適切には低融点であり、好ましくは結晶性の化合物であるさらなる任意要素がインク中に含有されていてもよい。結晶性粘度調整剤は、融点が、一実施形態では、少なくとも40℃、別の実施形態では、少なくとも50℃、さらに別の実施形態では、少なくとも55℃、一実施形態では、100℃以下、別の実施形態では、95℃以下、さらに別の実施形態では、90℃以下であってもよい。本明細書に開示するインク中で使用するのに適切な粘度調整剤の溶融粘度は、一実施形態では、少なくとも3cP、別の実施形態では、少なくとも4cP、さらに別の実施形態では、少なくとも5cP、一実施形態では、12cP以下、別の実施形態では、10cP以下、さらに別の実施形態では、9.5cP以下である。転相インクに適切な粘度調整剤の例としては、限定されないが、ペンタエリスリトールエステル(例えば、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエートなど)、ソルビトールエステル(ソルビタントリステアレートエステルなどを含む、例えば、Sigma−Aldrich Fine Chemicals Inc.から入手可能なSPAN 65、SPAN 60、SPAN 85、SPAN 40など)、ステアリル酸ステアリルアミド(Chemtura Corp.から入手可能なKEMAMIDE S180としても知られる)、エルカ酸アミド、ステアロン、ショ糖テトラステアレート、ショ糖テトラステアレートトリアセテート(SISTERNA A10E−Cとして市販)、直鎖アルキル桂皮酸エステル、以下の一般式のエステルが挙げられ、
【化12】

式中、R、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、インク組成物中に、一実施形態では、少なくとも0.5重量%、別の実施形態では、少なくとも1重量%、さらに別の実施形態では、少なくとも2重量%、一実施形態では、15重量%以下、別の実施形態では、12重量%以下、さらに別の実施形態では、10重量%以下の量の水素原子または飽和脂肪酸(例えば、パルミチン酸など)から誘導されるアルキル鎖、およびこれらの混合物である。
【0031】
ある実施形態では、インクは、場合により、画像が酸化するのを防ぎ、また、インク容器中で加熱した溶融物として存在している間にインク構成要素が酸化するのを防ぐために、酸化防止剤を含んでもよい。酸化防止剤は、存在する場合、インク中に任意の望ましい量または有効な量で、一実施形態では、インクの少なくとも0.25重量%、別の実施形態では、インクの少なくとも1重量%、一実施形態では、インクの10重量%以下、別の実施形態では、インクの5重量%以下の量で存在していてもよい。
【0032】
「インクキャリア」との用語は、本明細書で使用する場合、着色剤または着色剤混合物以外のインクの構成要素を指す。
【0033】
一実施形態では、インクキャリア(着色剤や、他の少量添加剤、例えば酸化防止剤など以外のインク部分であると定義される)は、BRCが、少なくとも10%、別の実施形態では、少なくとも12%、さらに別の実施形態では、少なくとも15%である。
【0034】
インク組成物を任意の望ましい方法または任意の適切な方法によって調製することができる。例えば、インクキャリアの各構成要素を一緒に混合した後、この混合物を少なくとも融点まで加熱することによって調製することができる。インク成分を加熱する前、またはインク成分を加熱した後に、着色剤を加えてもよい。場合により、インクキャリアに着色剤を有効に分散させるために、溶融した混合物をアトライタ、ボールミルまたはメディアミル装置内で粉砕するか、または高せん断状態で混合してもよい。次いで、加熱した混合物を撹拌して均一な溶融インクを得た後、インクを周囲温度まで冷却する。インクは、周囲温度で固体である。
【0035】
転相インク組成物の溶融温度および結晶化温度は、例えば、TA Instruments Q100装置を用いた示差走査熱量測定(DSC)によって決定することができ、10℃/分の加熱冷却温度勾配を用い、加熱冷却の第2の繰り返しサイクル(サンプルの熱履歴を除去するため)の後に、結晶化温度を測定することができる。転相インク組成物の溶融温度および結晶化温度は、1Hzの一定の周期的な周期で、歪み100%を加え、インクサンプルを初期の高温から冷却しつつ(例えば、140℃から40℃まで)、90秒ごとに5℃の温度勾配を用いた動的レオロジーによって決定することもできる(例えば、Rheometrics RFS3歪み制御型レオメーターを、25mmの平行板形状の器具とともに用いる)。
【0036】
インク組成物は、一実施形態では、ピーク融点が、DSC法によって測定される場合、60℃以上、別の実施形態では、70℃以上、さらに別の実施形態では、75℃以上、さらに別の実施形態では、80℃以上であり、融点は、一実施形態では、120℃以下、別の実施形態では、115℃以下、さらに別の実施形態では、110℃以下である。
【0037】
インク組成物は、一実施形態では、結晶化開始温度が、動的レオロジー法によって測定される場合、50℃以上、別の実施形態では、55℃以上、さらに別の実施形態では、60℃以上であり、結晶化開始温度が、一実施形態では、110℃以下、別の実施形態では、105℃以下、さらに別の実施形態では、100℃以下である。
【0038】
インク組成物は、一般的に、適切な吐出温度(一実施形態では、90℃以上、別の実施形態では、95℃以上、さらに別の実施形態では、100℃以上、一実施形態では、150℃以下、別の実施形態では、140℃以下)での溶融粘度が、一実施形態では、20センチポアズ以下、別の実施形態では、18センチポアズ以下、さらに別の実施形態では、15センチポアズ以下、一実施形態では、5センチポアズ以上、別の実施形態では、7センチポアズ以上、さらに別の実施形態では、9センチポアズ以上である。別の具体的な実施形態では、インクは、110℃、120℃および/または130℃の温度で粘度が7〜15センチポアズである。
【0039】
転相インク組成物は、一般的に、結晶化(固化)相転移の終点(一実施形態では、40℃以上、別の実施形態では、50℃以上、さらに別の実施形態では、60℃以上、一実施形態では、120℃以下、別の実施形態では、110℃以下)にピーク粘度をもち、一実施形態では、1×10センチポアズ以下、別の実施形態では、1×10センチポアズ以下、一実施形態では、1×10センチポアズ以下、別の実施形態では、1×10センチポアズ以下である。
【0040】
転相インクの硬度は、印刷した画像のインク堅牢性(例えば、摩耗、折りたたんだときのしわなどへの耐性)の指標として役立ち得る特徴である。インクの硬度は、針入度装置を用いて、例えば、標準負荷が1KgのModel 476 Standが備わったPTC(登録商標)Durometer Model PS 6400−0−29001(Pacific Transducer Corp.から入手可能)を用いて測定することができる。このDurometer装置では、格納できる部分に取り付けられた鋭い先端(または針)を、インクの成形サンプル表面に押し当てる。針の先端がインク表面に押されて下がるのを抵抗する程度を測定し、針の先端が取り付けられている部分に格納される距離と相関関係にある。測定値100は、完全に硬く、入り込まない表面であることを示しているだろう(例えば、ガラス)。
【0041】
本明細書に開示するインクは、硬度値が、25℃で、PTC(登録商標)Durometerを用いて測定される場合、一実施形態では、少なくとも60、別の実施形態では、少なくとも65、さらに別の実施形態では、少なくとも70、さらに別の実施形態では、少なくとも75、さらに別の実施形態では、少なくとも80である。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
【化13】

3ッ首500mL丸底フラスコにディーンスタークトラップと凝縮器、熱電対、アルゴン注入口を取り付け、これにtrans−桂皮酸(100g、674mmol、Sigma−Aldrichから得た)、1,4−ブタンジオール(30.4g、337mmol、Sigma−Aldrichから得た)、FASCAT 4201ジブチルスズオキシド触媒(0.12g、0.1wt%、Arkema Inc.から得た)を加えた。この混合物をアルゴン下、120℃までゆっくりと加熱し、この間に、trans−桂皮酸が溶融した。次いで、温度を180℃まで上げ、150℃付近で縮合が始まった。反応混合物を180℃で一晩(約20時間)撹拌した。その後、約20分間、減圧状態(1〜2mm−Hg)にした。合計5.3mLの水がディーンスタークトラップに集まった。反応混合物をアルゴン下、約100℃まで冷却し、アルミニウム皿に取り出し、室温まで冷却し、110gの生成物をオフホワイト色固体として得た。生成物を500mLのエレンマイヤーフラスコに移し、これに対し、約85℃に加熱した約125mLのイソプロピルアルコールを加え、この間に生成物が溶解した。次いで、フラスコを室温まで冷却し、この間に生成物が析出し、これを濾過し、60℃の減圧オーブンで一晩乾燥させ、90gの生成物をオフホワイト色固体として得た(収率79%)。生成物は、NMRによって純粋であることが示された。Tmelt(DSC)=95℃;Tcryst(DSC)=76℃;Tcryst(レオロジー)=87℃。
【0043】
(実施例2)
【化14】

実施例1のプロセスを繰り返したが、但し、1,4−プロパンジオールの代わりに1,3−プロパンジオールを使用した。Tmelt(DSC)=89.9℃;Tcryst(DSC)=72℃(DSCを用い、5℃/分で測定)。
【0044】
(実施例3)
30mLのガラス容器に、以下の順序で加えた。3.6gのブタン−1,4−trans−シンナメート(72wt%)、1.0gのPICOLYTE F90(20wt%)、0.25gのペンタエリスリトールテトラステアレート。この材料を130℃で1時間溶融させ、その後、この溶融混合物に、0.13gのOrasol Blue GN染料(3wt%、CIBA(現在BASF)から得た)を加えた。着色したインク混合物を、300rpmでさらに2.5時間撹拌しつつ、130℃まで加熱した。次いで、暗青色の溶融インクを型に注ぎ、室温まで冷却し、固化させ、インク1を作成した。
【0045】
以下の表に示す成分を用い、このプロセスを繰り返し、インク2、3および4を作成した。インクの硬度は、それぞれのインクを真鍮型に流しこみ、5gの厚み約5mmの円板状サンプルを調製することによって測定した。インクの硬度は、針の先端がインク円板に90°の入射角(インク円板表面に垂直)で衝突する針侵入試験(Durometer装置を用いる)によって測定され、ここで、100%の硬度は、入り込めない表面(硬質金属、ガラスなど)であることを示す。粘度値は、Rheometrics RFS3装置を用い、25mm平行板形状の器具を用い、一定の周期1Hzで、歪み200〜400%を温度範囲140℃から60℃でかけることによって測定された。
【表2】

【0046】
インク1〜4のレオロジープロフィール(複素粘度(単位センチポアズ)対温度(単位℃))を図1に示す。
【0047】
インク2を、低圧にセットした加圧ロールで操作されるK−プルーファーグラビア印刷板を用い、Xerox Digital Color Elite Glossコート紙(120gsmの束)に印刷した。グラビア板の温度コントローラを142℃に設定したが、実際の板の温度は約134℃であった。K−プルーファーによるインク印刷物の画像の堅牢性を、「コイン」引っかき試験を用いて評価した。この試験は、面取りをした縁をもつ「コイン型」の器具を表面に走らせた後、どれほど多くのインクがコーティングから外れたかを観察した。この試験では、特注の「コイン型」引っかき先端を備える、改良型Taber Industries Linear Abraser(Model 5700)を使用した。引っかき部分の接続部(「コイン」ホルダ、引っかき先端、取り付け部を合わせた質量)は、100gであり、試験サンプルの上に下げていき、次いで、25サイクル/分の周期で3サイクルまたは9サイクル引っかいた。印刷物にどんな損傷が生じるかをみるために、長さ2インチの引っかきを調べた。次いで、コート紙から外れた材料の量を、最初に、フラットベッドスキャナを用い、引っかき長さに沿って走査することによって測定した。市販の画像分析ソフトウエアは、ピクセル計測数を単位のない測定値CA(しわ面積)に変換した。引っかいた領域中の白い面積(すなわち、引っかき先端によって基材からインクが外れた面積)を計測した。ピクセル計測数が大きいことは、印刷物からより多くのインクが外れ、損傷が大きいことと対応している。まったく引っかかれていないインク印刷物は、外れる物質がないため、ピクセル計測数(およびCA)がきわめて低く、ゼロに近かった。
【0048】
以下の表のデータは、コインテスターによって作られた、K−プルーフインクによる印刷物の引っかかれた領域のCA値(ピクセル計測数と正比例する)を示す。インク2は、比較例の市販の転相インクと比べ、顕著に良好な耐引っかき性を示した。インク2は、この装置を用いて引っかいたとき、顕著な量のインクは外れなかったことが示された。
【表3】

【0049】
インク1〜4を、改良型XEROX(登録商標)PHASER 8860プリンタに組み込むと、Digital Color Elite Gloss、120gsm(DCEG)およびXerox Business 4200(75gsm)紙の上に印刷物が作られ、基材から簡単には外れることができない堅牢性の高い画像が生成すると考えられる。
【0050】
(実施例4)
実施例3のプロセスを繰り返すが、但し、実施例1で調製したブタン−1,4−trans−シンナメートの代わりに、実施例2で調製したプロパン−1,3−trans−シンナメートを用いる。同様の結果が得られると考えられる。
【0051】
(実施例5)
実施例3のプロセスを繰り返すが、但し、実施例1で調製したブタン−1,4−trans−シンナメートの代わりに、実施例1および2と同様のプロセスによって調製したヘキサン−1,6−trans−シンナメートを用いる。同様の結果が得られると考えられる。
【0052】
(実施例6)
実施例3のプロセスを繰り返すが、但し、実施例1で調製したブタン−1,4−trans−シンナメートの代わりに、実施例1および2と同様のプロセスによって調製したtrans−シクロヘキサン−1,4−ジメタノール−trans−シンナメートを用いる。同様の結果が得られると考えられる。
【0053】
(実施例7)
実施例3のプロセスを繰り返すが、但し、実施例1で調製したブタン−1,4−trans−シンナメートの代わりに、実施例1および2と同様のプロセスによって調製したパラ−フェニル 1,4−ジメタノール−trans−シンナメートを用いる。同様の結果が得られると考えられる。
【0054】
(実施例8)
実施例3のプロセスを繰り返すが、但し、実施例1で調製したブタン−1,4−trans−シンナメートの代わりに、実施例1および2と同様のプロセスによって調製したビス(ヒドロキシメチル)フラン−trans−シンナメートを用いる。同様の結果が得られると考えられる。
【0055】
(実施例9)
実施例3のプロセスを繰り返すが、但し、実施例1で調製したブタン−1,4−trans−シンナメートの代わりに、実施例1および2と同様のプロセスによって調製した2,5−ジヒドロキシメチル−テトラヒドロフラン−trans−シンナメートを用いる。同様の結果が得られると考えられる。
【0056】
(実施例10)
実施例3のプロセスを繰り返すが、但し、実施例1で調製したブタン−1,4−trans−シンナメートの代わりに、実施例1および2と同様のプロセスによって調製したtrans−桂皮酸−2,3−ブタンジオールジエステルを用いる。同様の結果が得られると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクキャリアを含み、このインクキャリアが、
(a)結晶性trans−桂皮酸ジエステルと、
(b)アモルファスポリテルペン樹脂とを含む、転相インク。
【請求項2】
前記trans−桂皮酸ジエステルが、以下の式を有するものであり、
【化1】

式中、Rは、
(a)置換および非置換のアルキレン基を含み、アルキレン基にヘテロ原子が存在していてもよく、存在していなくてもよい、アルキレン基;
(b)置換および非置換のアリーレン基を含み、アリーレン基にヘテロ原子が存在していてもよく、存在していなくてもよい、アリーレン基;
(c)置換および非置換のアリールアルキレン基を含み、アリールアルキレン基のアルキル部分およびアリール部分のいずれか、または両方にヘテロ原子が存在していてもよく、存在していなくてもよい、アリールアルキレン基;または
(d)置換および非置換のアルキルアリーレン基を含み、アルキルアリーレン基のアルキル部分およびアリール部分のいずれか、または両方にヘテロ原子が存在していてもよく、存在していなくてもよい、アルキルアリーレン基であり、
2個以上の置換基が一緒に接続して環を形成していてもよい、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記trans−桂皮酸ジエステルが、プロパン−1,3−trans−シンナメート、ブタン−1,4−trans−シンナメート、ヘキサン−1,6−trans−シンナメート、trans−シクロヘキサン−1,4−ジメタノール−trans−シンナメート、パラ−フェニル−1,4−ジメタノール−trans−シンナメート、ビス(ヒドロキシメチル)フラン−trans−シンナメート、2,5−ジヒドロキシメチル−テトラヒドロフラン−trans−シンナメート、trans−桂皮酸−2,3−ブタンジオールジエステル、またはこれらの混合物である、請求項1に記載のインク。
【請求項4】
前記ポリテルペン樹脂が、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、ノルボルネン、ミルセン、フェランドレン、カルボン、カンフェン、2−カレン、3−カレン、ペリリルアルコール、ペリリルアルデヒド、ペリル酸、ペリリルアルコールのアルキルエステル、ペリリルアルコールのアリールエステル、ペリリルアルコールのアリールアルキルエステル、ペリリルアルコールのアルキルアリールエステル、α−イオノン、β−イオノン、γ−テルピネン、β−シトロネレン、β−シトロネロール、シトロネラール、シトロネル酸、β−シトロネロールのアルキルエステル、β−シトロネロールのアリールエステル、β−シトロネロールのアリールアルキルエステル、β−シトロネロールのアルキルアリールエステル、ゲラニオール、ゲラニアール、ゲラニオールのアルキルエステル、ゲラニオールのアリールエステル、ゲラニオールのアリールアルキルエステル、ゲラニオールのアルキルアリールエステル、リナロール、リナロールのアルキルエステル、リナロールのアリールエステル、リナロールのアリールアルキルエステル、リナロールのアルキルアリールエステル、ネロリドール、ネロリドールのアルキルエステル、ネロリドールのアリールエステル、ネロリドールのアリールアルキルエステル、ネロリドールのアルキルアリールエステル、ベルベノール、ベルベノン、ベルベノールのアルキルエステル、ベルベノールのアリールエステル、ベルベノールのアリールアルキルエステル、ベルベノールのアルキルアリールエステル、およびこれらの混合物から選択されるモノマーを含有する、請求項1に記載のインク。
【請求項5】
前記ポリテルペン樹脂が、α−ピネン/β−ピネンコポリマー、β−ピネンポリマー、リモネンポリマー、またはこれらの混合物である、請求項1に記載のインク。
【請求項6】
ソルビトールエステル、ペンタエリスリトールエステル、またはこれらの混合物である粘度調整剤をさらに含有する、請求項1に記載のインク。
【請求項7】
ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ソルビタントリステアレートエステル、ステアリル酸ステアリルアミド、エルカ酸アミド、ステアロン、ショ糖テトラステアレート、ショ糖テトラステアレートトリアセテート、直鎖アルキル桂皮酸エステル、以下の式のエステルである粘度調整剤をさらに含有し、
【化2】

式中、R、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、水素原子または飽和脂肪酸から誘導されるアルキル鎖、またはこれらの混合物である、請求項1に記載のインク。
【請求項8】
25℃で測定したときに硬度値が少なくとも70である、請求項1に記載のインク。
【請求項9】
ピーク融点が、DSCによって測定する場合、60〜120℃である、請求項1に記載のインク。
【請求項10】
結晶化温度が、示差走査熱量測定によって測定する場合、65〜150℃である、請求項1に記載のインク。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−108073(P2013−108073A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−237493(P2012−237493)
【出願日】平成24年10月29日(2012.10.29)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】