説明

結晶成長方法および半導体素子

【課題】転位およびクラックの発生、並びに、基板の反りを抑制することが可能な結晶成長方法を提供する。
【解決手段】このIII族窒化物半導体の結晶成長方法は、シリコン基板100を加熱する工程と、加熱されたシリコン基板100に対して、少なくともTMA(トリメチルアルミニウム)を含むガスを先出し供給することにより、基板表面に凹状構造105を形成する工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶成長方法および半導体素子に関し、特に、窒化物系化合物半導体の結晶成長方法およびその結晶成長方法を用いて形成された半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN、InGaN、AlGaNなどのGaN系化合物半導体は、青色発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザダイオード(LD:Laser Diode)などの材料として注目されている。また、GaN系化合物半導体は、耐熱性や耐環境性が良いという特徴を活かして、近年では、電子デバイスへの応用開発も行われている。
【0003】
その一方、GaN系化合物半導体は、バルク結晶成長が難しいため、実用に耐えるGaNの基板は非常に高価である。そのため、現在広く実用化されている窒化物半導体用の成長基板はサファイアであり、単結晶サファイア基板の上に有機金属気相成長法(MOVPE法)などでGaNをエピタキシャル成長させる方法が一般的に用いられている。
【0004】
ここで、サファイア基板は、GaNと格子定数が異なるため、一旦低温でAlNやGaNのバッファ層(低温成長バッファ層)をサファイア基板上に成長させ、この低温成長バッファ層で格子の歪みを緩和させた後に、その上にGaN層を成長させる方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。そして、この低温成長バッファ層の導入により、GaNの単結晶エピタキシャル成長が可能となり、紫外から緑色に渡る発光ダイオード(LED)が実用化されるに至った。
【0005】
しかしながら、このような方法を用いた場合でも、基板と結晶との格子のずれは如何ともし難く、成長させたGaN層は、無数の欠陥を有している。この欠陥は、GaN系LD(レーザダイオード)を作製する上で障害となることが予想される。
【0006】
また、近年では、サファイアとGaNとの格子定数差に起因して発生する欠陥の密度を低減する方法として、ELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)、FIELO(Facet−Initiated Epitaxial Lateral Overgrowth)、ペンデオエピタキシーといった結晶成長技術も報告されており、飛躍的に結晶性の高いGaNエピタキシャルウェハが得られるようになってきた。そして、ELOやFIELOなどの方法を用いることによって、欠陥密度の低い単結晶GaN層が実現し、このGaN層上、または、低温成長バッファ層を用いたサファイア基板のGaN層上に、LED構造を形成できるようになった。なお、ELOを用いた結晶成長技術は、たとえば、非特許文献1に記載されており、FIELOを用いた結晶成長技術は、たとえば、非特許文献2に記載されている。また、ペンデオエピタキシーを用いた結晶成長技術は、たとえば、非特許文献3に記載されている。
【0007】
さらに、従来、欠陥の密度を低減させて、高品質なエピタキシャル層を得るために、基板にアンチサーファクタント領域(Si残留部)を形成し、この領域上に空洞を形成しながらGaN系半導体を成長させるGaN系半導体結晶の成長方法も提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−188938号公報
【特許文献2】特開2000−277435号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Appl.71(18)2638(1997)
【非特許文献2】Japan.J.Appl.Phys.38,L184(1999)
【非特許文献3】MRS Internet J.Nitride Semicond.Res.4S1,G3.38(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、近年、殺菌・浄水、各種医療分野、公害物質の高速分解処理などに用いられる新しい光源として、窒化物半導体を用いた紫外発光素子が大いに期待されている。
【0011】
しかしながら、上記した従来の方法では、紫外発光素子の形成に求められる高Al組成混晶成長において、基板とエピタキシャル層との大きな格子定数差や熱膨張係数差に起因して、クラックが発生したり、基板が沿ったりするという問題が生じる。
【0012】
なお、クラックが存在すると、素子構造が分断されて満足な特性が得られなくなるとともに、1枚のウェハから得られる良品の数が低下するため、歩留まりが低下する。また、基板に反りが存在すると、取扱い時に基板が割れやすくなるばかりでなく、デバイスプロセスのフォトリソグラフィ工程などにおいて、基板にマスクパターンを形成する際に、焦点が基板面内に均一に合わせられず、素子作製時の歩留まりが低下する。
【0013】
このようなことから、窒化物系化合物半導体の応用、特に、広い発光波長域から期待される分野である、LEDなどの発光素子への適用において、クラックの低減や基板の反りの低減が望まれている。特に、紫外域の発光に必要となる高Al組成混晶のエピタキシャル成長においては、転位やクラックの低減、基板の反りの低減が非常に強く望まれている。
【0014】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、転位の低減、クラックの発生を抑制することが可能な結晶成長方法およびその方法を用いた半導体素子を提供することである。
【0015】
この発明のもう1つの目的は、基板の反りを抑制することが可能な結晶成長方法を提供することである。
【0016】
この発明のさらにもう1つの目的は、低コスト化を図ることが可能な結晶成長方法およびその方法を用いた半導体素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による結晶成長方法は、基板を加熱する工程と、基板と反応する原料を基板に対して供給することにより、基板表面に凹状構造を形成する工程とを備えている。
【0018】
この第1の局面による結晶成長方法では、上記のように、基板表面に凹状構造を形成することによって、基板の上面上に形成されるIII族窒化物半導体層の歪みを緩和することができる。これにより、クラックの発生および基板の反りを抑制することができる。また、上記第1の局面による結晶成長方法を用いることによって、高い歪み緩和効果を得ることができるので、紫外域の発光に必要となる高Al組成混晶のエピタキシャル成長においても、転位やクラックの発生、および、基板の反りを抑制することができる。
【0019】
また、第1の局面では、加熱された基板に対して原料を供給することにより、基板と原料との反応によって、基板表面に上記凹状構造を自然に形成することができる。このため、凹状構造を形成するために一般的に用いられるフォトリソグラフィ技術やエッチング技術などを用いずに上記凹状構造を形成することができる。そのため、凹状構造を形成するために、別途、フォトリソグラフィ工程およびエッチング工程などを経る必要がない。これにより、基板表面に凹状構造を形成した場合でも、製造工程が増加するのを抑制することができるので、その分、製造コストや製品コストを低減することができる。したがって、第1の局面による結晶成長方法を用いて半導体素子を形成すれば、素子の低コスト化を図ることができる。
【0020】
なお、上記のように構成することによって、転位の低減、クラック発生の抑制を実現することができるので、満足な特性を有する素子を容易に得ることができる。加えて、1枚のウェハから得られる良品の数を増やすことができるので、歩留まりを向上させることもできる。また、上記のように構成することによって、基板の反りを抑制することもできるので、これによっても、歩留まりを向上させることができる。そして、このような歩留まりの向上によっても、コストの低減を図ることができる。
【0021】
上記第1の局面による結晶成長方法において、基板には、シリコン基板を用いるのが好ましい。この場合、シリコン基板と反応させる原料には、アルミニウムを含む有機金属化合物を用いるのが好ましい。このように構成すれば、基板表面に、容易に、上記凹状構造を自然に形成することができるので、容易に、転位やクラックの発生、および、基板の反りを抑制することができる。また、シリコン基板は化学的処理により容易に除去することが可能であるため、基板にシリコン基板を用いることによって、容易に基板を除去することができる。これにより、大面積かつクラックや傷が低減された、素子構造のみを容易に得ることができる。さらに、基板にシリコン基板を用いることにより、基板にGaN基板やサファイア基板などを用いる場合に比べて、低コスト化を容易に図ることができる。
【0022】
なお、基板を除去することによって、たとえば、窒化物半導体のみからなる発光素子を形成することができるので、素子の表面側および裏面側に電極を形成することにより、縦方向に電流を注入することが可能となる。すなわち、いわゆる縦型構造の素子を容易に形成することができる。
【0023】
ここで、基板がサファイア基板から構成されている場合には、サファイア基板は絶縁性であるため、たとえば、発光ダイオード素子(LED)を構成した場合には、基板の同一面側にp側電極およびn側電極を配置せざるを得ず、素子に流す電流の経路が基板面に平行となる、いわゆる横型構造となる。横型構造では、活性層に平行に電流が流れるため発光面積が制限される。このため、いわゆるスケール則を適用して光出力を向上させる手段が使用できなくなるという不都合がある。また、横型構造は、電流経路の問題から電気抵抗が大きくなるという不都合もある。なお、サファイア基板を用いた場合でも、基板の除去は可能である一方、シリコン基板に比べて、基板の除去が困難であるという不都合もある。
【0024】
これに対し、基板にシリコン基板を用いることにより、基板にサファイア基板を用いた場合の上記不都合を、容易に解消することができる。
【0025】
上記第1の局面による結晶成長方法において、上記基板には、シリコン基板以外に、SiC、ZnO、AlxGa1-xN(Xは0〜1の間の数で0と1を含む)、あるいはGa23からなる基板を用いることもできる。この場合、これらの基板と反応させる反応ガスとして、水素、酸素、有機金属、Cl2、メタンおよびエタンの少なくとも1つを含む反応ガスを用いるのが好ましい。また、上記有機金属は、トリメチルガリウム,トリメチルアルミニウム,トリエチルアルミニウム、および、トリエチルガリウムの群から選択される少なくとも1つを含んでいるのが好ましい。
【0026】
また、上記シリコン基板を用いた構成において、アルミニウムを含む有機金属化合物は、トリメチルアルミニウムであるのが好ましい。また、凹状構造を形成する工程は、少なくともトリメチルアルミニウムを含むガスをシリコン基板に対して供給することにより、シリコン基板表面に凹状構造を形成する工程を含むように構成されているのが好ましい。このように構成すれば、基板上に窒化物半導体層を形成する際に用いる原料を用いて、基板表面に凹状構造を容易に形成することができるので、結晶成長プロセスの一環として、自然に上記凹状構造を形成することができる。
【0027】
この場合において、凹状構造を形成する工程は、トリメチルアルミニウムの分解により生成されたアルミニウムを、高温下のシリコン基板表面で共晶反応させることにより、シリコン基板表面に凹状構造を形成する工程を有しているのが好ましい。
【0028】
上記シリコン基板に対してトリメチルアルミニウムを供給する工程を備えた構成において、凹状構造を形成する工程は、トリメチルアルミニウムを、シリコン基板に対して5μmol/min以上の供給量で供給する工程を有しているのが好ましい。このように、シリコン基板に対して5μmol/min以上の供給量で、トリメチルアルミニウムを供給することにより、効果的に、上記凹状構造を基板表面に形成することができる。
【0029】
また、上記シリコン基板を用いた構成において、シリコン基板の主面は(111)面であるのが好ましい。このように構成すれば、立方晶ダイヤモンド構造のSi(111)面は、六方晶のIII族窒化物半導体(0001)面の原子配置と等価であるため、格子整合がよく、高い配向性が期待される。
【0030】
上記第1の局面による結晶成長方法において、基板における凹状構造上に、AlN層を形成する工程をさらに備えているのが好ましい。
【0031】
この場合において、AlN層を形成する工程は、AlN層中に空隙を含むように、AlN層を形成する工程を含んでいるのが好ましい。このように構成すれば、空隙を含むAlN層が歪みを緩和する歪み緩和層として機能するため、AlN層上にIII族窒化物半導体層を形成した場合に、このIII族窒化物半導体層のAl組成比が高い場合(たとえばAlN)でも、転位やクラックの発生を抑制することができる。
【0032】
また、AlN層中に空隙を含む場合、凹状構造の直上に上記空隙が位置するように、AlN層を形成することができる。
【0033】
上記AlN層を形成する工程を備えた構成において、水素ガスまたは水素含有化合物ガスを含む雰囲気中で、AlN層上に、窒化物半導体層を形成する工程をさらに備えていてもよい。
【0034】
上記AlN層を形成する工程を備えた構成において、AlN層を形成する工程は、AlN層を、900℃以上の成長温度で成長させる工程を有しているのが好ましい。このように、AlN層を900℃以上の成長温度で成長させることによって、効果的に、AlN層中に空隙を形成することができる。なお、上記AlN層の成長温度は、1000℃以上であればより好ましい。
【0035】
上記AlN層を形成する工程を備えた構成において、AlN層を形成する工程は、AlN層を、500nm以上2000nm以下の厚みに形成する工程を有しているのが好ましい。
【0036】
この発明の第2の局面による半導体素子は、空隙を有するAlN層と、AlN層上に形成された窒化物半導体層とを備えている。
【0037】
この第2の局面による半導体素子では、上記のように、空隙を有するAlN層を備えることによって、上記AlN層が、歪みを緩和する歪み緩和層として機能するため、転位並びにクラックの発生が抑制された半導体素子を得ることができる。また、空隙を有する上記AlN層は、上記第1の局面による結晶成長方法を用いて形成することができるので、上記方法を用いることにより、低コスト化を図ることができる。これにより、低コストの半導体素子を実現することができる。
【0038】
上記第2の局面による半導体素子において、AlN層の空隙は、くさび状形状を有しているのが好ましい。
【0039】
上記第2の局面による半導体素子において、好ましくは、窒化物半導体層は、量子井戸構造を有する発光層を含む。このように構成すれば、低コストで、転位並びにクラックの発生が抑制された半導体発光素子を実現することができる。
【0040】
この場合において、好ましくは、発光層は、AlGaNからなる井戸層を有する。このように構成すれば、低コストで、紫外領域で発光する半導体発光素子を実現することができる。
【0041】
上記第2の局面による半導体素子において、好ましくは、AlN層の上面側には、第1電極層が形成されており、AlN層の下面側には、第2電極層が形成されている。このように構成すれば、容易に、縦型構造の半導体素子(たとえば、発光ダイオード素子)を形成することができる。ここで、第2の局面による半導体素子を、縦型構造の発光ダイオード素子とした場合には、横型構造の発光ダイオード素子とした場合に比べて、容易に、素子面積を大きくすることができるので、発光ダイオード素子の高光出力化を図ることができる。また、縦型構造では、素子に流す電流の経路が基板面に対して略垂直となるため、スケール則を適用して光出力を向上させることもできる。
【0042】
上記第2の局面による半導体素子において、AlN層を成長させるためのシリコン基板をさらに備えていてもよい。この場合、シリコン基板は、基板表面に凹状構造を有しており、AlN層の空隙は、凹状構造の上方に位置しているのが好ましい。なお、上記シリコン基板は、化学的処理などによって、除去された状態であってもよい。
【0043】
上記第2の局面による半導体素子において、空隙を内包するAlN層は最終的に除去されてもよい。この場合、空隙を内包するAlN層は、RIE等のドライエッチングにより除去するのが好ましい。あるいは、熱燐酸,溶融KOH等の溶液により化学的に溶かし去ることで除去しても良い。空隙を内包するAlN層は、上記のごとく、基板上に素子構造を成長する際、歪みを緩和しクラックを抑制する効果を有するが、基板を除去し、素子化した場合には、駆動電圧上昇の原因となりうる。そこで、基板を除去するとともに、AlN層をも取り去ることで、素子の駆動電圧を低減させ、電力変換効率(素子への投入電力に対する光出力の比,この値が高い程、素子内部の損失が低く、エネルギー効率が高いことを意味し、素子の特性としてより好ましい)を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0044】
以上のように、本発明によれば、転位並びにクラックの発生を抑制することが可能な結晶成長方法および半導体素子を容易に得ることができる。
【0045】
また、本発明によれば、基板の反りを抑制することが可能な結晶成長方法を容易に得ることができる。
【0046】
さらに、本発明によれば、低コスト化を図ることが可能な結晶成長方法および半導体素子を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施形態による結晶成長方法を説明するための断面図(図8の断面写真をトレースした図)である。
【図2】本発明の第1実施形態による結晶成長方法を説明するための断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態による結晶成長方法を説明するための断面図である。
【図4】第1実施形態による結晶成長方法における空隙形成を説明するための模式的断面図である。
【図5】第1実施形態による結晶成長方法における空隙形成を説明するための模式的断面図である。
【図6】第1実施形態による結晶成長方法における空隙形成を説明するための模式的断面図である。
【図7】実施例による試料表面(サンプルB)を光学顕微鏡で観察した顕微鏡写真であり、(A)は、実施例による試料表面(サンプルB)の光学顕微鏡写真、(B)は、実施例による試料(サンプルB)の試料表面(AlGaN層表面)の光学顕微鏡写真、(C)は、実施例による試料(サンプルB)のAlNバッファ層表面の光学顕微鏡写真である。
【図8】実施例による試料(サンプルB)の断面をSEM観察した顕微鏡写真である。
【図9】(A)は、実施例による試料(サンプルB)の表面を光学顕微鏡で観察した顕微鏡写真で、(B)は、比較例1による試料(サンプルC)の表面を光学顕微鏡で観察した顕微鏡写真で、(C)は、比較例2による試料(サンプルD)の表面を光学顕微鏡で観察した顕微鏡写真である。
【図10】本発明の第2実施形態による発光ダイオード素子の断面図である。
【図11】第2実施形態の変形例による発光ダイオード素子の断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態による発光ダイオード素子の断面図である。
【図13】第3実施形態の変形例による発光ダイオード素子の断面図である。
【図14】本発明の第4実施形態による発光ダイオード素子の断面図である。
【図15】第4実施形態の変形例による発光ダイオード素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、第1実施形態では、III族窒化物半導体の結晶成長方法について説明する。また、第2および第3実施形態では、本発明の半導体素子の一例である発光ダイオード素子に本発明を適用した例について説明する。
【0049】
(第1実施形態)
上述したように、III族窒化物半導体の結晶成長においては、クラックや基板の反りが発生し易い。特に、紫外領域で発光する紫外発光素子の作製においては、高Al組成比の窒化物半導体層を比較的厚い厚みで形成する必要があるため、転位やクラック、基板の反りが非常に発生し易い。
【0050】
そこで、本願発明者らが、上記問題に着目して鋭意検討した結果、結晶成長前の基板に対して、基板と反応する原料を供給することにより、基板表面に凹状構造が自然形成されることを見出した。そして、このような凹状構造が形成された基板上に、窒化物半導体層を成長させることにより、高Al組成比の窒化物半導体層をクラックフリーで形成することが可能となることを見出した。
【0051】
また、上記基板として、シリコン基板を用いるとともに、基板と反応する原料に、窒化物半導体層を形成するためのAlの原料であるTMA(トリメチルアルミニウム)を用いることにより、基板表面に凹状構造を容易に形成できることも見出した。すなわち、シリコン(Si)とアルミニウム(Al)とは、温度等適切な条件の下で共晶化するため、本願発明者らは、この共晶反応を積極的に利用することにより、基板上に、クラックフリーのAlN層または高Al組成比のAlGaN層などを容易に成長させられることを見出した。
【0052】
また、上記クラックフリーかつ高Al組成の窒化物半導体層を含む多層構造からなる半導体発光素子を作製し、これを動作させる場合、結晶成長当初において必要であったAlN層は電気的に高い抵抗値を有するため、素子の駆動電圧を上昇させる要因となっていたが、本願発明者らは、基板の除去に引き続いてAlNバッファ層をもドライエッチングあるいは溶液によるエッチングで除去すれば、容易に駆動電圧を低減できることも見出した。この技術により、クラックフリーかつ高品質な高Al組成結晶の多層構造からなる素子構造を作製可能とし、さらに駆動電圧を低減することも可能となった。
【0053】
なお、TMAを含むガスの供給に引き続いて、NH3などのV族原料を供給すれば、その上に、III族窒化物半導体単結晶をエピタキシャル成長させることが可能となる。
【0054】
以下、図1〜図3を参照して、第1実施形態によるIII族窒化物半導体の結晶成長方法について詳説する。なお、図1〜図3は、本発明の第1実施形態による結晶成長方法を説明するための断面図である。また、第1実施形態では、基板上に、AlNバッファ層および窒化物半導体層(AlGaN層)を順に成長させるまでの工程について説明する。
【0055】
この第1実施形態では、図1および図2に示すように、基板にシリコン基板100を用いており、このシリコン基板100上に、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などのエピタキシャル成長法により、AlNバッファ層110およびAlGaN層10を順に成長させている。なお、シリコン基板100は、本発明の「基板」の一例であり、AlNバッファ層110は、本発明の「AlN層」の一例である。また、AlGaN層10は、本発明の「窒化物半導体層」の一例である。
【0056】
具体的には、まず、III族窒化物半導体の成長用基板として、シリコン基板100を準備し、このシリコン基板100を、通常のMOCVD装置の反応炉内にセットする。
【0057】
なお、上記シリコン基板100の主面は、(111)面であるのが好ましい。六方晶のIII族窒化物半導体(0001)面の原子配置は、立方晶ダイヤモンド構造のSi(111)面と等価であるため、格子整合がよく、高い配向性が期待される。配向性は、Si(111)面の最表面のダングリングボンドが全て表面に垂直な方向を向いているためであると考えられる。また、上記シリコン基板100には、たとえば、2インチ径の基板を用いることができる。
【0058】
次に、反応炉内にセットしたシリコン基板100を、約1000℃まで昇温する。
【0059】
ここで、第1実施形態では、窒化物半導体層を基板上に成長させる前に、シリコン基板100を加熱した状態で、Alの原料であるTMAを先出し供給する。具体的には、シリコン基板100を、設定温度である1000℃で安定するまで保持し、設定温度で安定した後に、150秒間、TMAを20μmol先出し供給する。この際、N(窒素)の原料であるNH3は供給しないようにする。これにより、図1および図3に示すように、シリコン(Si)とアルミニウム(Al)との共晶反応によって、シリコン基板100の表面に、基板表面に対して傾いた側壁を有する凹状構造105が形成される。なお、先出し供給するTMAの供給量は、5μmol/min以上であるのが好ましい。
【0060】
続いて、TMAを供給した状態で、アンモニア(NH3)の供給を開始することにより、凹状構造105が形成されたシリコン基板100の上面上に、バッファ層としてのAlN層(AlNバッファ層110)を、たとえば、約600nmの厚みに成長させる。この際、AlNバッファ層110の成長温度は、900℃以上であるのが好ましく、1000℃以上であればより好ましい。また、AlNバッファ層110の厚みは、500nm以上2000nm(2μm)以下であるのが好ましい。
【0061】
ここで、凹状構造105が形成されたシリコン基板100の上面上に、AlNバッファ層110を形成することにより、図1に示すように、このAlNバッファ層110中に、くさび状形状を有する空隙(ボイド)115が形成される。この空隙115は、凹状構造105の直上に形成される。
【0062】
その後、ガリウム(Ga)の原料であるTMG(トリメチルガリウム)を20μmol/minの供給量で追加供給することにより、AlNバッファ層110上に、Al組成比が40%程度のAlGaN層10を、たとえば、約800nmの厚みで成長させる。
【0063】
最後に、TMAおよびTMGの供給を停止し、アンモニアを含む雰囲気中で室温まで冷却する。冷却後、反応炉内から基板を取り出す。
【0064】
なお、第1実施形態では、AlNバッファ層110上にAlGaN層10を成長させた後に、基板を反応炉内から取り出したが、具体的な素子(たとえば、LEDなどの発光素子)を形成する場合には、AlGaN層10上に、引き続き窒化物半導体層を形成すればよい。
【0065】
図4〜図6は、第1実施形態による結晶成長方法における空隙形成を説明するための模式的断面図である。次に、図4〜図6を参照して、シリコン基板100上に形成されるAlNバッファ層110の空隙形成について説明する。
【0066】
図4に示すように、凹状構造105が形成されたシリコン基板100上に、TMAとともに、NH3を供給すると、シリコン基板100の最表面100aおよび凹状構造105の底を起点としてAlN111の成長が始まる。続いて、図5に示すように、時間経過に伴ってファセット112が現れ、このファセット112が横方向に成長(ラテラル成長)する。そして、図6に示すように、隣り合う成長が会合することで、この会合した位置で、くさび状の空隙115が発生していると考えられる。
【0067】
第1実施形態による結晶成長方法では、上記のように、シリコン基板100を用いてIII族窒化物半導体層成長前の加熱を保持した状態で、TMAを含むガスを基板表面に先出し供給することにより、TMAから分離したAlとシリコン基板100のSiとを共晶反応させることができる。これにより、シリコン基板100の表面に、凹状構造105を自然形成させることができる。すなわち、シリコン基板100自体に何ら追加の加工工程を経ることなく、一連の結晶成長の中で基板表面に自然に凹状構造105を形成することができる。なお、TMAは、窒化物半導体層を成長させるためのAlの原料であるため、TMAの先出し供給は、MOCVD法による結晶成長プロセスの一環として行うことができる。
【0068】
また、凹状構造105が形成されたシリコン基板100上に、AlNバッファ層110を成長させることで、AlNバッファ層110中における凹状構造105の直上に位置する部分に、くさび状の空隙115を形成することができる。そして、この空隙115が歪み(応力)を緩和する効果を発揮するため、AlNバッファ層110上に引き続いて形成されるAlGaN層10をクラックフリーとして成長させることができる。
【0069】
また、上記空隙115を有するAlNバッファ層110が歪み緩和層として機能するため、シリコン基板100とAlNバッファ層110上に形成されるIII族窒化物半導体層(第1実施形態ではAlGaN層10)との格子定数差や熱膨張係数差に起因する歪みを緩和することができる。このため、高い歪み緩和効果を得ることができるので、AlNバッファ層110上に形成される窒化物半導体層のAl組成比が高い場合でも、転位やクラックの発生、および、基板の反りを抑制することができる。そのため、紫外域の発光に必要となる高Al組成混晶のエピタキシャル成長においても、転位やクラックの発生等を抑制しながら、結晶成長を行うことができる。これにより、容易に、紫外領域で発光する発光素子を作製することができる。
【0070】
なお、シリコン基板に凹状構造を形成する手段としては、様々な方法が考えられるが、フォトリソグラフィ技術とドライまたはウェットエッチング技術によるのが一般的である。しかしながら、第1実施形態による結晶成長方法によれば、結晶成長装置内に基板をセットした状態で成長プロセスの一環として自然に凹状構造105を形成することができる。そのため、凹状構造105を形成するために、別途、フォトリソグラフィ工程およびエッチング工程などを経る必要がない。これにより、基板表面に凹状構造105を形成する場合でも、製造工程が増加するのを抑制することができるので、その分、製造コストや製品コストを低減することができる。したがって、上記結晶成長方法を用いて半導体素子を形成すれば、素子の低コスト化を図ることができる。
【0071】
また、III族窒化物半導体層中に空隙を形成する手段も種々の方法を取り得るが、シリコン基板100上に凹状構造105を形成した後、ファセット形成し易いAlNバッファ層110を成長させることにより、層中に空隙115を容易に形成することができる。そのため、このような方法によれば、歪みを充分に緩和できる構造の空隙115を、安定的に制御性よく形成することができる。特に、シリコン基板100の表面に凹状構造105を形成する過程で、条件を適宜選択することにより、所望の空隙率を制御性よく実現することができる。
【0072】
また、第1実施形態では、シリコン基板100の表面に凹状構造105を自然形成し、その直上により微小な空隙115を密に均一形成するため、より顕著な歪み緩和効果が得られる。
【0073】
また、第1実施形態では、上記結晶成長方法により、転位やクラックの発生を抑制することができるので、満足な特性を有する素子を容易に得ることができる。加えて、1枚のウェハから得られる良品の数を増やすことができるので、歩留まりを向上させることもできる。また、上記のように構成することによって、基板の反りを抑制することもできるので、これによっても、歩留まりを向上させることができる。そして、このような歩留まりの向上によっても、コストの低減を図ることができる。
【0074】
また、第1実施形態では、基板にシリコン基板100を用いることによって、TMAのAlと反応させることができるので、基板表面に、容易に、上記凹状構造105を自然形成させることができる。これにより、容易に、転位やラックの発生および基板の反りを抑制することができる。
【0075】
また、第1実施形態では、シリコン基板100に対して5μmol/min以上の供給量で、TMAを先出し供給することにより、効果的に、上記凹状構造105を基板表面に形成することができる。
【0076】
また、シリコン基板100は化学的処理により容易に除去することが可能であるため、基板にシリコン基板100を用いることによって、容易に基板を除去することができる。詳説すると、基板をシリコン基板100とすることで、窒化物半導体との薬液に対する安定性の違いにより、容易に基板を除去することができる。これにより、基板上に素子構造を形成した後、基板を除去することによって、大面積かつクラックや傷が低減された、素子構造のみを容易に得ることができる。
【0077】
さらに、シリコン基板100には凹状構造105が形成されているため、たとえば、薬液によるエッチングを行う際に、薬液の浸透が促進されてシリコン基板100の除去がより容易になる。
【0078】
なお、基板にシリコン基板を用いることにより、基板にGaN基板やサファイア基板などを用いる場合に比べて、容易に低コスト化を図ることもできる。
【0079】
また、第1実施形態では、シリコン基板100の主面を(111)面とすることによって、立方晶ダイヤモンド構造のSi(111)面は、六方晶のIII族窒化物半導体(0001)面の原子配置と等価であるため、格子整合がよく、高い配向性が期待される。
【0080】
また、第1実施形態では、AlNバッファ層110を、900℃以上(たとえば約1000℃)の成長温度で成長させることによって、効果的に、AlNバッファ層110中に空隙115を形成することができる。
【0081】
なお、AlNバッファ層110の厚みは、シリコン基板100の凹状構造105を埋め込むことが可能な厚みであるとともに、AlGaN層10の成長直前に層表面が平坦となる厚みであるのが好ましい。具体的なAlNバッファ層110の厚みとしては、500nm以上2000nm以下であるのが好ましい。
【0082】
続いて、第1実施形態による結晶成長方法の効果を確認するために、上記結晶成長方法により作製した試料を用いて種々の観察および実験を行った。
【0083】
具体的には、まず、上記結晶成長方法を用いて作製した実施例による試料(サンプルB)の表面を、光学顕微鏡を用いて観察した。なお、シリコン基板には、2インチ径の基板を用いた。図7は、実施例による試料表面(サンプルB)を光学顕微鏡で観察した顕微鏡写真である。図7(A)は、実施例による試料表面(サンプルB)の光学顕微鏡写真であり、図7(B)は、実施例による試料(サンプルB)の試料表面(AlGaN層表面)の光学顕微鏡写真であり、図7(C)は、実施例による試料(サンプルB)のAlNバッファ層表面の光学顕微鏡写真である。
【0084】
図7(A)に示すように、上記結晶成長方法を用いて作製した実施例による試料では、2インチ径シリコン基板の全面に渡ってクラックのない表面が観察された。また、図7(A)に見られる模様は、透光性のAlGaN層を通してシリコン基板表面およびAlNバッファ層中の構造が見えているものであり、最表面のAlGaN層自体の表面は平坦であった。
【0085】
また、実施例による試料の光学顕微鏡像は、膜の奥行き方向(厚み方向)にフォーカスポイントが2点存在していた。この2点のフォーカスポイントは、図7(B)および図7(C)に示すように、AlNバッファ層の表面と最表面(AlGaN層の表面)とに対応する。
【0086】
なお、比較例として、TMAを先出し供給しない条件で、実施例(サンプルB)と同じ層構造を成長させたサンプルAの試料を作製し、実施例と同様、光学顕微鏡観察を行ったところ、この比較例による試料(サンプルA)では、その表面が無数のクラックで覆われていた。
【0087】
これより、TMAを先出し供給することによるクラック抑制効果が確認された。
【0088】
次に、実施例による試料(サンプルB)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察した。図8は、実施例による試料(サンプルB)の断面をSEM観察した顕微鏡写真である。
【0089】
図8に示すように、シリコン基板100の表面に凹状構造105が観察された。また、この凹状構造105は、傾いた側壁を有していた。さらに、凹状構造105上に形成されたAlNバッファ層110中には、微細なくさび状形状の空隙115が形成されていることが確認された。なお、AlNバッファ層110上に成長させた高Al組成比のAlGaN層10は、上記したように、クラックフリーであった。
【0090】
また、実施例による試料(サンプルB)の断面の様々な位置を顕微鏡観察したところ、シリコン基板100の表面に形成された凹状構造105とAlNバッファ層110中の空隙115の形成位置との間に強い相関が認められ、ほぼ100%の確率で凹状構造105の直上に空隙115が存在することが判明した(図8中の丸印R内参照)。
【0091】
また、シリコン基板100表面の凹状構造105の幅とAlNバッファ層110中の空隙115の幅との間にも相関が認められた。すなわち、凹状構造105の幅が広いほど、空隙115の幅が広くなり、空隙115の高さ(シリコン基板100表面からの高さ)も高くなる傾向が認められた。このことは、基板表面に対して傾いた側壁を有する凹状構造105の存在によって、バッファ層であるAlN層が、特に成長初期において、ラテラル成長していることを示唆している。すなわち、図4〜図6で示したように、シリコン基板100の最表面100aおよび凹状構造105の底を起点としてAlN111の成長が始まり、時間経過に伴って現れたファセット112が横方向に成長して隣り合う成長が会合した位置で空隙115が発生していると考えられる。このことは、成長温度と空隙との関係からも裏付けられる。
【0092】
さらに、本願発明者らが種々の実験を行った結果、凹状構造を有する基板を用いてAlNバッファ層を成長させる場合、AlNバッファ層の成長温度を900℃以上とすることにより、AlNバッファ層中に効果的に空隙を形成することが可能となることが分かった。
【0093】
一方、AlNバッファ層中に空隙がない場合は、空隙が無くなることに対応してAlNバッファ層上に成長させたAlGaN層に無数のクラックが発生した。このように、900℃以上の成長温度でAlNバッファ層を成長させた場合に、効果的に空隙が形成されるのは、III族原料であるAlの基板表面あるいは成長層表面でのマイグレーション長、すなわち、ラテラル成長が空隙形成に関与していることを示している。
【0094】
なお、AlNバッファ層の成長温度が900℃以上であっても、基板表面に凹状構造が形成されていなければ、やはり、AlNバッファ層上のAlGaN層に転位やクラックが発生する。この結果は、クラック抑制のためには、AlNバッファ層中に空隙が形成されていることが重要であることを示している。また、空隙形成の条件として、基板表面に凹状構造が形成されていることと、AlNバッファ層のラテラル成長を制御することが重要であると言える。
【0095】
続いて、実施例よりもAlNバッファ層の成長温度を低くした比較例1による試料(サンプルC)と、実施例よりもTMAの先出し供給量を少なくした比較例2による試料(サンプルD)とを別途作製し、実施例による試料(サンプルB)との比較を行った。なお、比較例1による試料(サンプルC)では、AlNバッファ層の成長温度を850℃とした。また、比較例2による試料(サンプルD)では、TMAの先出し供給量を2μmol/minとした。クラックフリーであった実施例による試料(サンプルB)は、AlNバッファ層の成長温度は1000℃であり、TMAの先出し供給量は8μmol/minである。
【0096】
その結果を図9および表1に示す。なお、図9(A)は、実施例による試料(サンプルB)の表面を光学顕微鏡で観察した顕微鏡写真であり、図9(B)は、比較例1による試料(サンプルC)の表面を光学顕微鏡で観察した顕微鏡写真であり、図9(C)は、比較例2による試料(サンプルD)の表面を光学顕微鏡で観察した顕微鏡写真である。
【0097】
【表1】

【0098】
上記表1より、実施例(サンプルB)では、X線ロッキングカーブ(XRC:X−ray rocking curve)の半値幅(FWHM:full width at half maximum values)は、AlN(002)が1000arcsec、AlGaN(002)が、1000arcsec、AlN(102)が1970arcsecであった。一方、比較例1(サンプルC)では、X線ロッキングカーブの半値幅は、AlN(002)が1370arcsec、AlGaN(002)が、1280arcsec、AlN(102)が3020arcsecであり、比較例2(サンプルD)では、X線ロッキングカーブの半値幅は、AlN(002)が1550arcsec、AlGaN(002)が、1560arcsec、AlN(102)が4280arcsecであった。
【0099】
一般に、X線ロッキングカーブにおける対称面(002)反射の半値幅は螺旋転位密度に比例して増加し、非対称面(102)反射の半値幅は刀状転位密度に比例して増加することが知られており、これら反射の半値幅から螺旋転位及び刀状転位の増減を見積もる事ができる。この結果から、実施例1(サンプルB)は比較例1(サンプルC)及び比較例2(サンプルD)に比較して、結晶欠陥の一種である螺旋転位及び刀状転位共に減少しており、クラックの有無のみならず結晶品質も実施例1(サンプルB)はサンプルC,Dに比べ勝っていることがわかる。
【0100】
また、AlNバッファ層上に成長させたAlGaN層のAl組成比は、実施例では0.50、比較例1では0.46、比較例2では0.47であった。さらに、波長190nmのエキシマレーザパルス励起によるPL(フォトルミネッセンス)におけるピーク波長は、実施例、比較例1および比較例2で、275程度とほぼ同じ値であり、全ての試料でAl組成比がほぼ等しいことと対応している。しかし、ピーク波長は、実施例では、比較例1および比較例2に比べて、高い値が得られた。この結果は、実施例1(サンプルB),比較例1(サンプルC),比較例2(サンプルD)の順に非発光再結合中心密度が増加していることを示しており、X線ロッキングカーブにおける半値幅の増大と良く対応している。すなわち、PLにおける非発光再結合中心の密度は転位(螺旋転位及び刀状転位)の密度と相関があり、実施例1(サンプルB)の非発光中心密度が最も低く(=結晶性が良い)、比較例1(サンプルC),比較例2(サンプルD)の順に高密度になることを示している。この結果から、AlNバッファ層の成長温度及びTMAの先出し量と結晶品質が強い相関を持っていると結論される。
【0101】
また、図9に示すように、実施例(図9(A)参照)では、上述したように、試料表面にクラックの発生が認められなかったのに対して、比較例1(図9(B)参照)および比較例2(図9(C)参照)では、いずれも、クラックの発生が確認された。
【0102】
このように、AlNバッファ層の成長温度が低い場合や、TMAの先出し供給量が少ない場合には、クラック抑制効果が低減する傾向が見られた。
【0103】
本願発明者らが種々検討したところ、TMAの先出し供給量を5μmol/min以上とすれば、基板表面に凹状構造を効果的に形成することが可能となるため、好ましいことが分かった。なお、5μmol/minより少ないTMA供給量では、基板表面において、凹状構造を形成するのに充分な共晶反応が進行していない。そのため、比較例2では、クラック抑制効果が低減したものと考えられる。また、上述したように、AlNバッファ層の成長温度は、900℃以上が好ましい。したがって、クラックや基板の反りなどに対して顕著な抑制効果を得ようとした場合、AlNバッファ層の成長温度は、900℃以上が好ましく、また、TMAの先出し供給量は5μmol/min以上であるのが好ましいといえる。
【0104】
以上より、基板にシリコン基板を用いるとともに、TMAを先出し供給することにより、基板表面に凹状構造が自然形成され、その上に成長される、空隙を有するAlNバッファ層が、歪み緩和層として機能する。これにより、非常に高いクラック抑制効果が得られることが確認された。また、顕著なクラック抑制効果を得るためには、TMAの先出し供給量は、5μmol/min以上が好ましく、また、AlNバッファ層の成長温度は、900℃以上が好ましいことが確認された。このように、上記第1実施形態による結晶成長方法を用いれば、AlNバッファ層上に、高Al組成比のIII族窒化物半導体層(高Al組成比のAlGaN層やAlN層など)を、転位やクラックを生じさせることなく成長させることが可能であることが確認された。
【0105】
なお、凹状構造の大きさ、形成数などは、基板温度やTMAの供給量等を適宜調整することにより、制御することが可能であり、凹状構造の制御等により、AlNバッファ層中の空隙の大きさや密度などを制御することが可能である。
【0106】
(第2実施形態)
図10は、本発明の第2実施形態による発光ダイオード素子の断面図である。次に、図1および図10を参照して、本発明の第2実施形態による発光ダイオード素子(半導体素子)について説明する。
【0107】
第2実施形態による発光ダイオード素子は、紫外領域で発光する紫外発光素子であり、特に、200nm〜350nmの深紫外波長領域で発光する深紫外発光素子からなる。この発光ダイオード素子は、図10に示すように、シリコン基板100上にAlNバッファ層110が形成されたテンプレート基板200を備えており、このテンプレート基板200上に、複数の窒化物半導体層が積層された構造を有している。なお、第2実施形態による発光ダイオード素子では、テンプレート基板200のAlNバッファ層110上に、高Al組成比の窒化物半導体層が積層されている。
【0108】
テンプレート基板200は、上記第1実施形態による結晶成長方法を用いて形成されており、図1に示したように、シリコン基板100の表面には凹状構造105が形成されている。また、シリコン基板100上に形成されたAlNバッファ層110には、凹状構造105の直上に位置する部分に、くさび状形状を有する空隙115が形成されている。
【0109】
テンプレート基板200(AlNバッファ層110)上には、図10に示すように、約0.5μm〜約1.5μmの厚みを有するn型AlGaN層10が形成されている。このn型AlGaN層10のAl組成比は、たとえば、0.8〜0.9程度に設定されている。
【0110】
ここで、第2実施形態では、第1実施形態による結晶成長方法を用いて形成されたテンプレート基板200を用いることにより、空隙115(図1参照)を有するAlNバッファ層110が歪み緩和層として機能する。このため、AlNバッファ層110上に、クラックフリーで窒化物半導体層を形成することが可能となっている。そのため、非常に高いAl組成比で、かつ、比較的厚い厚みでn型AlGaN層10が形成されているにもかかわらず、転位やクラックの発生が抑制された状態で、AlNバッファ層110上に、上記n型AlGaN層10が形成されている。
【0111】
また、n型AlGaN層10上には、量子井戸構造を有する発光層(活性層)20が形成されている。この発光層20は、約2nm〜約10nmの厚みを有するAlGaNからなる障壁層21と、約2nm〜約10nmの厚みを有するAlGaNからなる井戸層22とが交互に積層された構成を有している。また、発光層20における井戸層22のAl組成比は、障壁層21のAl組成比よりも大きくなるように設定されている。具体的には、井戸層22のAl組成比は、たとえば、0.8〜0.9程度に設定されている。障壁層21のAl組成比は、井戸層22のAl組成比よりも小さい、たとえば、0.7〜0.78程度に設定されている。また、障壁層21と井戸層22との繰り返し周期は、任意に設定可能であるが、たとえば、1周期〜3周期程度とされているのが好ましい。なお、図10では、一例として、繰り返し周期を3周期とした場合について示している。
【0112】
発光層20の上面上には、約5nm〜約15nmの厚みを有するp型AlGaNからなるキャリアブロック層30が形成されている。このキャリアブロック層30のAl組成比は、たとえば、0.9〜1.0に設定されている。なお、Al組成比が1.0の場合は、キャリアブロック層30は、p型AlNとなる。
【0113】
キャリアブロック層30上には、約2nm〜約20nmの厚みを有するp型AlGaN層40が形成されている。このp型AlGaN層40のAl組成比は、たとえば、0.8〜0.9程度に設定されている。p型AlGaN層40上には、約30nm〜約60nmの厚みを有するp型GaNからなるp型コンタクト層50が形成されている。
【0114】
なお、n型の窒化物半導体には、n型ドーパントとして、たとえば、Siがドープされており、p型の窒化物半導体には、p型ドーパントとして、たとえば、Mgがドープされている。
【0115】
また、p型コンタクト層50上には、p側電極60が形成されている。このp側電極60は、たとえば、p型コンタクト層50側からNi層(図示せず)およびAu層(図示せず)が順に積層された多層構造のNi/Au電極からなる。
【0116】
また、第2実施形態では、上記テンプレート基板200は、導電性基板となっており、テンプレート基板200(シリコン基板100)の裏面上に、n側電極70が形成されている。このn側電極70は、たとえば、Al電極、または、基板側からAg層、Cu層が順次積層された多層構造のAg/Cu電極からなる。なお、p側電極60は、本発明の「第1電極層」の一例であり、n側電極70は、本発明の「第2電極層」の一例である。
【0117】
このように、第2実施形態による発光ダイオード素子は、テンプレート基板200(AlNバッファ層110)の上面側および下面側のそれぞれに、電極(p側電極60、n側電極70)が形成されており、いわゆる縦型構造となっている。
【0118】
また、第2実施形態による発光ダイオード素子は、MOCVD法などを用いて、シリコン基板100上に、AlNバッファ層110を成長させた後、引き続き、窒化物半導体層を順に成長させることにより形成することができる。また、AlNバッファ層110上に形成する窒化物半導体層の成長は、水素ガスまたは水素含有化合物ガスを含む雰囲気中で行うことができる。
【0119】
第2実施形態では、上記のように、空隙115を有するAlNバッファ層110を備えたテンプレート基板200上に、複数の窒化物半導体層を積層することによって、上記AlNバッファ層110が、歪みを緩和する歪み緩和層として機能するため、転位やクラックの発生が抑制された発光ダイオード素子を得ることができる。なお、AlNバッファ層110は、非常に高い歪み緩和効果を有するため、紫外領域の発光に必要となる高Al組成混晶のエピタキシャル成長においても、クラックの発生等を抑制しながら、結晶成長を行うことができる。このため、深紫外波長領域で発光する深紫外発光素子をクラックフリーで形成することができる。
【0120】
また、第2実施形態では、基板を導電性にすることにより、縦型構造に構成されているので、素子に流す電流の経路が基板面に対して略垂直となっている。このため、スケール則を適用して光出力を向上させることができる。加えて、電流集中などを抑制することができるので、電気抵抗を小さくすることもできる。さらに、発光層20(活性層)の発光面積を容易に大きくすることができるとともに、均一発光させることができる。また、大面積化を容易に図ることができる。このため、高光出力化を容易に図ることができる。
【0121】
また、n側電極およびp側電極が、基板の同じ面側に形成される横型構造では、一方の電極(n側電極)を形成するために、窒化物半導体層(積層構造)の一部をドライエッチングなどで除去する必要があるが、縦型構造では、このような加工を施す必要がない。そのため、加工コストの低減、および、工数(工程)の削減を図ることができる。
【0122】
なお、第2実施形態では、基板にシリコン基板100を用いることによって、GaN基板やサファイア基板などの基板を用いる場合に比べて、低コスト化を容易に図ることができる。また、基板にシリコン基板100を用いることによって、シリコン基板は絶縁性のサファイア基板に比べて放熱性が高いため、サファイア基板を用いる場合に比べて、放熱性を改善することができる。このため、これによっても、高光出力化を図ることができる。
【0123】
図11は、第2実施形態の変形例による発光ダイオード素子の断面図である。次に、図11を参照して、第2実施形態の変形例による発光ダイオード素子について説明する。なお、図11において、対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明は適宜省略する。
【0124】
第2実施形態の変形例では、図11に示すように、上記第2実施形態の構成において、発光ダイオード素子が横型構造に構成されている。具体的には、テンプレート基板200上に形成された窒化物半導体の積層構造の一部が、ドライエッチングなどによって、p型コンタクト層50からn型AlGaN層10の途中の深さまで掘り込まれている。そして、掘り込まれた部分の底面(n型AlGaN層10)に、n側電極70が形成されている。これにより、第2実施形態では、テンプレート基板200(AlNバッファ層110)の上面側に、p側電極60とn側電極70とが形成された状態となっている。
【0125】
なお、横型構造に構成するよりも、第2実施形態で示した縦型構造に構成する方が好ましいが、このような横型構造とした場合でも、高Al組成比の窒化物半導体層をクラックフリーで形成することができる。このため、横型構造を有する第2実施形態の変形例においても、クラックフリーの深紫外発光素子を、低コストで実現することができる。
【0126】
(第3実施形態)
図12は、本発明の第3実施形態による発光ダイオード素子の断面図である。次に、図12を参照して、本発明の第3実施形態による発光ダイオード素子(半導体素子)について説明する。なお、図10および図12において、対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明は適宜省略する。
【0127】
この第3実施形態による発光ダイオード素子では、上記第2実施形態の構成において、薬液などを用いた化学的処理により、シリコン基板100(図10参照)が除去されている。そして、シリコン基板100の除去により露出されたAlNバッファ層110の裏面上に、n側電極70が形成されている。このn側電極70は、たとえば、AlNバッファ層110側からNi層(図示せず)およびAu層(図示せず)が順に積層された多層構造のNi/Au電極からなる。
【0128】
第3実施形態のその他の構成は、上記第2実施形態と同様である。
【0129】
第3実施形態では、上記のように、シリコン基板100を除去することによって、素子構造のみを容易に得ることができる。このため、露出したAlNバッファ層110の裏面にn側電極70を形成することにより、容易に縦型構造の素子を形成することができる。これにより、素子面積を広げることによるスケール則で高出力化を容易に図ることができる。
【0130】
なお、シリコン基板100は薬液などを用いた化学的処理により容易に剥離(除去)することができるため、基板にシリコン基板100を用いることによって、容易に、基板を剥離(除去)することができる
【0131】
また、シリコン基板100の表面に凹状構造105が形成されているため、たとえば、薬液によるエッチングを行う際に、薬液の浸透が促進されてシリコン基板100の除去がより容易になる。
【0132】
第3実施形態のその他の効果は、上記第2実施形態と同様である。
【0133】
図13は、第3実施形態の変形例による発光ダイオード素子の断面図である。次に、図13を参照して、第3実施形態の変形例による発光ダイオード素子について説明する。なお、図13において、対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明は適宜省略する。
【0134】
第3実施形態の変形例では、図13に示すように、上記第3実施形態の構成において、発光ダイオード素子が横型構造に構成されている。すなわち、この第3実施形態の変形例は、第2実施形態の変形例による素子構成において、シリコン基板100が剥離(除去)された構成となっている。
【0135】
なお、第3実施形態のその他の構成は、上記第3実施形態および第2実施形態の変形例と同様である。
【0136】
第3実施形態の変形例においても、高Al組成比の窒化物半導体層をクラックフリーで形成することができる。このため、クラックフリーの深紫外発光素子を、低コストで実現することができる。
【0137】
(第4実施形態)
図14は、本発明の第4実施形態による発光ダイオード素子の断面図である。次に、図12および図14を参照して、本発明の第4実施形態による発光ダイオード素子(半導体素子)について説明する。なお、図14において、対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明は適宜省略する。
【0138】
この第4実施形態による発光ダイオード素子では、上記第3実施形態の構成において、RIE等のドライエッチングあるいは、薬液などを用いた化学的処理により、AlNバッファ層110(図12参照)が除去されている。そして、AlN層110の除去により露出されたAlGaN層10の裏面上に、n側電極70が形成されている。このn側電極70は、たとえば、AlGaN層10側からNi層(図示せず)およびAu層(図示せず)が順に積層された多層構造のNi/Au電極からなる。
【0139】
上記のようにAlNバッファ層110は一般的なドライエッチングにより除去可能であることは言うまでもないが、溶液によって溶かし去ることもできる。通常、窒化物半導体は、構成元素の一つである窒素のイオン半径が非常に小さいことによる極めて強い原子間結合力に起因し、他のIII−V化合物半導体、たとえばGaAs,GaP,InP等およびこれらの化合物と異なり薬品に対する安定性が極めて高いが、本発明に示すAlNバッファ層110は、上層に積層する各層の歪みを低減するとともにクラックをも低減する作用を有するため、その層中に極めて高密度の転位を内包している。AlNバッファ層110に内包される転位は刃状転位と呼ばれ、その密度が109cm-2程度以上に達する。このように内部に存在する転位が極めて高密度である場合、本来であれば、窒素に起因する極めて高い化学的安定性が損なわれる。本願発明者らの実験と考察によれば、転位密度が極めて高い場合、転位が存在することで結晶に生じた特定のすべり面で化学的安定性が損なわれ、その程度は転位密度が高いほど顕著になる。これは、すべり面では窒素もしくはAlあるいはGaの結合手が全て結合しておらず未結合手が多数存在し、この未結合手が化学的反応性を高めていると考えられる。そして、本願で例示した構成では、すべり面が素子構造の端面に露出しており、結晶外部との化学的反応性を一層高めている。このような理由から、AlNバッファ層110が露出した状態で例えば燐酸と硫酸を任意の比率で混合した溶液や、水酸化カリウムの任意の濃度の水溶液あるいは水酸化カリウム溶融液に浸すことで、転位を介し、AlNバッファ層110のみを選択的に溶解し完全に溶かし去ることが可能となる。その際、例えば燐酸/硫酸混合液では、100℃から260℃程度の温度範囲で問題なくAlNバッファ層110のみを選択的に除去することができる。水酸化カリウム水溶液の場合には水の沸点である100℃までAlNバッファ層110を選択的に除去することができる。さらに水酸化カリウム水溶液を用いる場合には、キセノンランプや水銀ランプの光を照射することで溶解速度を向上させることもできる。これは、光を吸収したAlNバッファ層中に生じた電子―正孔対の内、正孔が水酸化カリウム溶液中のイオンと作用した結果と考えられる。
【0140】
第4実施形態のその他の構成は、上記第3実施形態と同様である。
【0141】
第4実施形態では、上記のように、AlN層110を除去することによって、素子構造のみを容易に得ることができる。このため、露出したAlGaN層10の裏面にn側電極70を形成することにより、容易に縦型構造の素子を形成することができる。これにより、素子面積を広げることによるスケール則で高出力化を容易に図ることができると共に、高抵抗であるAlNバッファ層110が除去されたことにより素子の駆動電圧を低減する新たな効果を得られる。
【0142】
第4実施形態のその他の効果は、上記第3実施形態と同様である。
【0143】
図15は、第4実施形態の変形例による発光ダイオード素子の断面図である。次に、図15を参照して、第4実施形態の変形例による発光ダイオード素子について説明する。なお、図15において、対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明は適宜省略する。
【0144】
第4実施形態の変形例では、図15に示すように、上記第3実施形態の構成において、発光ダイオード素子が横型構造に構成されている。すなわち、この第4実施形態の変形例は、第3実施形態の変形例による素子構成において、AlNバッファ層110が剥離(除去)された構成となっている。
【0145】
第4実施形態のその他の構成は、上記第3実施形態および第2実施形態の変形例と同様である。
【0146】
第4実施形態の変形例においても、高Al組成比の窒化物半導体層をクラックフリーで形成することができる。このため、クラックフリーの深紫外発光素子を、低コストで実現することができる。
【0147】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0148】
たとえば、上記第1〜第3実施形態では、MOCVD法を用いて、窒化物半導体各層を基板上に結晶成長させた例を示したが、本発明はこれに限らず、MOCVD法以外の他の結晶成長法を用いて、窒化物半導体各層を基板上に結晶成長させてもよい。たとえば、MBE法(Molecular Beam Epitaxy;分子線エピタキシ法)や、HDVPE法(Hydride Vapor Phase Epitaxy;ハイドライドVPE法)などを用いて、窒化物半導体各層を結晶成長させてもよい。
【0149】
また、上記第1〜第3実施形態では、(111)面を主面とするシリコン基板を用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、シリコン基板の主面は(111)面以外の面であってもよい。たとえば、シリコン基板の主面は、{100}面や{110}面などであってもよい。
【0150】
また、上記第1実施形態では、AlNバッファ層上に、高Al組成比のAlGaN層を成長させた例を示したが、本発明はこれに限らず、よりAl組成比の高い窒化物半導体層(たとえば、AlN層)を、AlNバッファ層上に成長させることもできる。このような非常にAl組成比の高い窒化物半導体層を成長させた場合でも、転位やクラックの発生および基板の反りを抑制することができる。もちろん、比較的Alの組成比の低い窒化物半導体層を、AlNバッファ層上に成長させることもできる。さらに、AlNバッファ層上には、AlGaN層、AlN層以外に、たとえば、GaN層やInGaN層などの窒化物半導体層を成長させることもできる。
【0151】
また、上記第1実施形態では、シリコン基板上にAlNバッファ層を成長させた例を示したが、本発明はこれに限らず、シリコン基板上に、AlN以外のバッファ層を成長させてもよい。なお、シリコン基板上に成長させるバッファ層としては、上記したAlN層が好ましい。
【0152】
また、上記第1実施形態では、基板にシリコン基板を用いた例を示したが、原料の供給により基板表面に凹状構造を形成することが可能な基板であれば、シリコン基板以外の基板を用いてもよい。具体的には、たとえば、SiC、ZnO、AlxGa1-xN(0≦x≦1)、あるいはGa23などからなる基板を用いてもよい。この場合、基板と反応させる反応ガスとして、水素、酸素、有機金属(トリメチルGa、トリメチルAl、トリエチルAl、トリエチルGaなど)、Cl2、メタン、エタン等を用いるのが好ましい。なお、基板にシリコン基板を用いる場合、先出し供給する原料としては、Alを含む有機金属化合物であるのが好ましく、第1実施形態で示したように、TMAを用いればより好ましい。
【0153】
また、上記第2〜第4実施形態では、半導体素子の一例である発光ダイオード素子に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限らず、発光ダイオード素子以外の半導体発光素子(たとえば、半導体レーザ素子)に本発明を適用してもよい。また、半導体発光素子以外に、たとえば、電子デバイスなどの窒化物半導体を用いたデバイス(たとえば、パワートランジスタやIC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)など)全般に本発明を適用することもできる。なお、具体的な電子デバイスとしては、たとえば、HEMT(High Electron Mobility Transistor)などが考えられる。
【0154】
また、上記第2〜第4実施形態では、発光層の井戸層をAlGaN層から構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、上記井戸層を、Inが添加されたAlInGaN層から構成してもよい。
【0155】
さらに、上記第2〜第4実施形態では、発光ダイオード素子の一例として、深紫外波長領域で発光する発光ダイオード素子について説明したが、本発明はこれに限らず、深紫外以外の波長領域で発光する発光素子とすることもできる。
【0156】
なお、上記第2〜第4実施形態において、基板上に結晶成長される窒化物半導体層の各層については、その厚みや組成等は、所望の特性に合うものに適宜組み合わせたり、変更したりすることが可能である。たとえば、半導体層を追加または削除したり、半導体層の順序を一部入れ替えたりしてもよい。また、導電型を一部の半導体層について変更してもよい。すなわち、半導体素子としての基本特性が得られる限り自由に変更可能である。
【符号の説明】
【0157】
10 AlGaN層、n型AlGaN層(窒化物半導体層)
20 発光層(活性層)
21 障壁層
22 井戸層
30 キャリアブロック層
40 p型AlGaN層
50 p型コンタクト層
60 p側電極(第1電極層)
70 n側電極(第2電極層)
100 シリコン基板(基板)
100a 最表面
105 凹状構造
110 AlNバッファ層(AlN層)
112 ファセット
115 空隙
200 テンプレート基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を加熱する工程と、
前記基板と反応する原料を前記基板に対して供給することにより、前記基板表面に凹状構造を形成する工程とを備えることを特徴とする、結晶成長方法。
【請求項2】
前記基板には、シリコン基板を用い、
前記シリコン基板と反応させる前記原料には、アルミニウムを含む有機金属化合物を用いることを特徴とする、請求項1に記載の結晶成長方法。
【請求項3】
前記基板には、SiC、ZnO、AlxGa1-xN(Xは0〜1の間の数で0と1を含む)、あるいはGa23からなる基板を用い、
前記基板と反応させる反応ガスとして、水素、酸素、有機金属、Cl2、メタンおよびエタンの少なくとも1つを含む反応ガスを用いることを特徴とする、請求項1に記載の結晶成長方法。
【請求項4】
前記有機金属は、トリメチルガリウム,トリメチルアルミニウム,トリエチルアルミニウム、および、トリエチルガリウムの群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項3に記載の結晶成長方法。
【請求項5】
アルミニウムを含む前記有機金属化合物は、トリメチルアルミニウムからなり、
前記凹状構造を形成する工程は、
少なくとも前記トリメチルアルミニウムを含むガスを前記シリコン基板に対して供給することにより、前記シリコン基板表面に前記凹状構造を形成する工程を含むことを特徴とする、請求項2に記載の結晶成長方法。
【請求項6】
前記凹状構造を形成する工程は、
前記トリメチルアルミニウムの分解により生成されたアルミニウムを、高温下の前記シリコン基板表面で共晶反応させることにより、前記シリコン基板表面に前記凹状構造を形成する工程を有する、請求項5に記載の結晶成長方法。
【請求項7】
前記凹状構造を形成する工程は、
前記トリメチルアルミニウムを、前記シリコン基板に対して5μmol/min以上の供給量で供給する工程を有することを特徴とする、請求項5または6に記載の結晶成長方法。
【請求項8】
前記シリコン基板の主面が(111)面であることを特徴とする、請求項2および5〜7のいずれか1項に結晶成長方法。
【請求項9】
前記基板における前記凹状構造上に、AlN層を形成する工程をさらに備えることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の結晶成長方法。
【請求項10】
前記AlN層を形成する工程は、
前記AlN層中に空隙を含むように、前記AlN層を形成する工程を含むことを特徴とする、請求項9に記載の結晶成長方法。
【請求項11】
前記AlN層を形成する工程は、
前記凹状構造の直上に前記空隙が位置するように、前記AlN層を形成する工程を有することを特徴とする、請求項10に記載の結晶成長方法。
【請求項12】
水素ガスまたは水素含有化合物ガスを含む雰囲気中で、前記AlN層上に、窒化物半導体層を形成する工程をさらに備えることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか1項に記載の結晶成長方法。
【請求項13】
前記AlN層を形成する工程は、
前記AlN層を、900℃以上の成長温度で成長させる工程を有することを特徴とする、請求項9〜12のいずれか1項に記載の結晶成長方法。
【請求項14】
前記AlN層を形成する工程は、
前記AlN層を、500nm以上2000nm以下の厚みに形成する工程を有することを特徴とする、請求項9〜13のいずれか1項に記載の結晶成長方法。
【請求項15】
空隙を有するAlN層と、
前記AlN層上に形成された窒化物半導体層とを備えることを特徴とする、半導体素子。
【請求項16】
前記AlN層の前記空隙は、くさび状形状を有していることを特徴とする、請求項15に記載の半導体素子。
【請求項17】
前記窒化物半導体層は、量子井戸構造を有する発光層を含むことを特徴とする、請求項15または16に記載の半導体素子。
【請求項18】
前記発光層は、AlGaNからなる井戸層を有することを特徴とする、請求項17に記載の半導体素子。
【請求項19】
前記AlN層の上面側には、第1電極層が形成されており、
前記AlN層の下面側には、第2電極層が形成されていることを特徴とする、請求項15〜18のいずれか1項に記載の半導体素子。
【請求項20】
前記AlN層を成長させるためのシリコン基板をさらに備え、
前記シリコン基板は、基板表面に凹状構造を有しており、
前記AlN層の空隙は、前記凹状構造の上方に位置していることを特徴とする、請求項15〜19のいずれか1項に記載の半導体素子。
【請求項21】
前記AlN層を除去した後、素子構造上面に第1電極層が形成されており、
素子構造下面に第2電極層が形成されていることを特徴とする、請求項15〜20のいずれか1項に記載の半導体素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−31047(P2012−31047A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42479(P2011−42479)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 応用物理学会により平成22年3月3日に発行された2010年春季第57回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集(DVD−ROM)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】