説明

結晶成長方法及び結晶成長装置

【課題】 結晶成長方法及び結晶成長装置に関し、基板とエピタキシャル層との格子定数の差を、用いられる物質により一義的決定されることなく一定程度の範囲で任意に設定する。
【解決手段】 湾曲させた基板1上にエピタキシャル成長をさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶成長方法及び結晶成長装置に関するものであり、特に、量子ドット型赤外線検出器等の量子ドットデバイスを格子定数に差の少ない基板上に成長させるための構成に特徴のある結晶成長方法及び結晶成長装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Stranski−Krastanov(SK)モードと呼ばれる自己形成メカニズムにより形成された量子ドット結晶は、リソグラフィ技術と再成長による量子ドット形成など他の方法で形成した量子ドットに比べて、結晶欠陥が少ないことから、半導体デバイスに適用しうるレベルの品質を有する。
【0003】
この様な自己形成メカニズムによる量子ドットは、基板上に基板より格子定数の大きな半導体をエピタキシャル成長させた場合に、エピタキシャル層に生じる圧縮応力が臨界応力を越えることによって生じる。
この圧縮応力は、エピタキシャル層が本来有する格子定数と基板との格子定数の差が大きいほど、また、エピタキシャル層の厚さが厚いほど大きくなる。
【0004】
例えば、GaAs 基板上にInAs量子ドットを形成する場合、InAsの格子定数がGaAsの格子定数より約7%大きいため、InAsを約2原子層に相当する厚さに積んだところで臨界応力を越えて量子ドットの形成が観測されるが、この厚さを臨界膜厚と呼んでいる。
【0005】
現在、入射した光を吸収した場合に流れる電流を捕えることによって光を検知する光検知器において、垂直入射光を吸収できる量子ドットを用いた量子ドット型赤外線検出器(Quantum Dot Infrared Photodetector:QDIP)の研究が精力的に行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この量子ドット型赤外線検知器は、半導体結晶層(以下、中間層)の中に量子ドットを埋め込んだ層を2つの電極層の間に挟んだ構造を持ち、量子ドット内に閉じ込められた電子が赤外線を吸収し、量子ドットから脱出して電流、即ち、光電流となることで、赤外線を電気信号に変換して検知しているので、ここで、図10を参照して、従来のInAs/GaAs系QDIP素子を説明する。
【0007】
図10参照
図10は従来のInAs/GaAs系QDIP素子の断面図であり、まず、GaAs基板71上にGaAsバッファ層72を介してn型GaAsコンタクト層73及びGaAs中間層74を設けたのち、MBE法を用いてIn及びAsを供給する。
【0008】
この時、半導体層構造における格子歪を利用したストランスキー−クラスタノフ(Stranski−Krastanov)結晶成長モードによる自己形成現象により、まず、成長初期においてGaAs中間層74の結晶構造を引き継いだ形でInAs濡れ層75が成長する。
【0009】
さらに供給を続けると、上述のように下地材料との格子定数の違いによる歪のエネルギーを緩和するため、この面状の構造から再配列を起こして3次元的なInAs量子ドット76が形成される。
【0010】
次いで、InAsの供給を停止してGaAsを供給することによって、GaAs中間層77を成長させてInAs量子ドット76を埋め込む。
この様な積層工程を繰り返すことによって、中間層を介して多数の量子ドットを積み重ね、最後に、n型GaAsコンタクト層78を設けている。
なお、結晶成長方法は、MBE法に限られずMOVPE法でも実現可能である。
【0011】
図11参照
図11は、量子ドット構造を示すバンドダイヤグラムであり、このInAs/GaAs系QDIP素子では、キャリアのエネルギーに対してGaAs中間層74及びGaAs中間層77がポテンシャル障壁、InAs量子ドット76がポテンシャル井戸として作用し、InAs量子ドット76内部に離散的に量子準位、即ち、基底準位79と第1励起準位80が形成される。
【0012】
形成された量子準位間のエネルギー差に相当する光が入射した場合、キャリアが励起され信号電流として検出される。
また、赤外線を吸収して電子を放出した量子ドットは、新たに電子を捕獲して量子ドット内に電子を閉じ込めた状態になるまで、赤外線を吸収しなくなるが、結晶中を流れている電子の一部が量子ドットに捕獲されることで再び赤外線を吸収するようになる。
【特許文献1】特開平10−256588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、このように、量子ドットを赤外線センサに適用する場合、感光波長・感度など所望のデバイス特性を得るために、InAs量子ドットに代えて、Inx Ga1-x As3元混晶量子ドットを得たいとの要請が強くある。
【0014】
この場合、In組成比xが小さい場合、その混晶の格子定数がGaAsの格子定数に近づくことから臨界膜厚は大きくなるので、その様子を図12を参照して説明する。
【0015】
図12参照
図12は、臨界膜厚のIn組成比x依存性の説明図であり、図に示すように、xが0.5より小さくなる付近から臨界膜厚が急激に増加し、現実には、所望の形状を有する量子ドットが形成できないという問題が生じる。
【0016】
即ち、デバイスの感光波長・感度などの特性がドットの形状に密接に関係しているため、Inx Ga1-x As3元混晶量子ドットのIn組成比xが0.5より小さくなる組成領域では、所望の形状ができないことから、赤外線センサの感光波長・感度の制御が困難となるという問題があった。
【0017】
基板とエピタキシャル層との格子定数の差は、基板とエピタキシャル層に用いる物質が決まれば一義的に決り、圧縮応力は格子定数の差によって一義的に決まるので、基板とエピタキシャル層に用いる物質が決まれば圧縮応力の不足により生じる問題は避けられなかった。
【0018】
したがって、本発明は、基板とエピタキシャル層との格子定数の差を、用いられる物質により一義的決定されることなく一定程度の範囲で任意に設定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
図1は本発明の原理的構成図であり、ここで図1を参照して本発明における課題を解決するための手段を説明する。
図1参照
上記課題を解決するために、本発明は、結晶成長方法であって、湾曲させた基板1上にエピタキシャル成長をさせることを特徴とする。
【0020】
このように、基板1を湾曲させることによって、基板1に外部から歪応力を加えエピタキシャル成長に供する基板1の面内方向の格子定数を減少させて、その格子定数と所望の物質のエピタキシャル層の格子定数との差を湾曲の程度に応じて任意の値に実効的に大きくすることができる。
【0021】
この場合、基板1を凹面状に湾曲させることが望ましく、それによって、基板1の表面の実効的格子定数を小さくすることができ、特に、湾曲させた基板1の凹面上に基板1との格子定数の差が少ない物質による量子ドットを成長させる場合に有効になる。
【0022】
このような、量子ドットとしては、多元混晶量子ドット、特に、InGaAs等の3元混晶量子ドットが典型的なものであり、それによって、InAsでは得られない感光波長及び感度を有する光デバイスを実現することができる。
【0023】
また、結晶成長装置としては、基板1を支持する基板支持部材2に、基板1を凹状に湾曲させる基板湾曲機構を設ければ良く、例えば、基板湾曲機構が形状記憶合金からなり、結晶成長温度において凹状に湾曲させるもの、或いは、基板湾曲機構がバイメタル構造からなり、結晶成長温度において必要とする応力が得られるように材料を選択したものを用いれば良い。
【0024】
或いは、基板湾曲機構が複数の真空吸着機構からなり、複数の真空吸着機構の内の中央部に設けた真空吸着機構を周辺部に設けた真空吸着機構に対して相対的に下降させる手段を有するようにしても良く、この場合には、湾曲の程度を成長温度とは無関係に設定することができる。
【0025】
また、形状記憶合金或いはバイメタルからなる基板湾曲機構を利用して結晶成長を行う場合には、基板支持部材2と基板1をInソルダで貼り付けて基板1を凹状に湾曲させるか、或いは、基板1を基板支持部材2に真空チャックで吸着させて基板1を凹状に湾曲させることが望ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、基板に外部から歪応力を加えエピタキシャル成長に供する基板の面内方向の格子定数を減少させているので、例えば、GaAs基板を用いた場合に、所望の量子ドット形状を形成できるIn組成領域の拡大により、InGaAs3元混晶ドット結晶を用いて従来より広い範囲で所望の波長に感度を有する光デバイスを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、形状記憶合金、バイメタル構造、或いは、複数の真空吸着機構からなる基板湾曲機構により基板に外部から歪応力を加え凹面状に湾曲させてエピタキシャル成長に供する基板の面内方向の格子定数を減少させた状態で、凹面上に基板に対して格子定数の差の少ない物質からなる量子ドット、典型的には、GaAs基板に対してInx Ga1-x As量子ドット(x<0.5)を形成し、従来より広い範囲で所望の波長に感度を有する光デバイスを形成するものである。
【実施例1】
【0028】
ここで、図2乃至図5を参照して、本発明の実施例1のQDIPの製造方法を説明する。
図2参照
図2は、本発明の実施例1に用いる基板ホルダーの概念的構成図であり、基板ホルダー11を形状記憶合金によって構成したものである。
この場合の形状記憶合金としては、例えば、TiNi化合物を用いる。
【0029】
次に、図3を参照して、本発明の実施例1のQDIPの基本的製造工程を説明する。
図3参照
まず、基板ホルダー11に、半絶縁性GaAs基板12をInソルダ13によって接着する。
【0030】
次いで、半絶縁性GaAs基板12を接着させた基板ホルダー11を結晶成長装置内に搬入して、結晶成長温度、例えば、470℃まで昇温する。
この時、基板ホルダー11は予め凹状に湾曲させた形状を記憶させた温度に達するので、予め記憶させたように湾曲し、それに伴って半絶縁性GaAs基板12も湾曲する。
【0031】
この時、例えば、基板ホルダー11の表面の曲率半径Rが50cmになるように湾曲させることによって、半絶縁性GaAs基板12の表面の格子定数を約1.0%減少させることができる。
【0032】
図4参照
図4は、臨界膜厚とIn組成比xの相関関係のGaAs格子定数依存性の説明図であり、GaAs基板に外部から歪応力を加えエピタキシャル成長に供する基板の面内方向の格子定数を減少させた場合の臨界膜厚とIn組成比xの相関関係をシミュレーションしたものである。
【0033】
従来のようにGaAs基板に歪応力を加えない場合には、In組成xが0.5付近から急激に臨界膜厚が増加しはじめ、x=0.4で臨界膜厚が約5原子層(5ML)を越えると、必要とされる形状の量子ドットが形成されにくくなる。
【0034】
GaAs基板に歪応力を加えて格子定数を小さくすることによって臨界膜厚が小さくなり、GaAs基板の格子定数を1%減少させた場合、同じ膜厚(5ML)で、x=0.25の量子ドット結晶が得られることが分る。
【0035】
再び、図3参照
以降は、従来例と同様な手順で、i型GaAsバッファ層14を介してn型GaAsコンタクト層15及びi型GaAs中間層16を設けたのち、MBE法を用いてIn、Ga及びAsをInx Ga1-x AsにおけるIn組成比xが例えば、0.30になるように供給する。
【0036】
この時、i型GaAs中間層16の表面の格子定数も湾曲によって加えられる歪応力によって約1.0%減少しているので、In組成比xを0.30としても、上述の図4から予測されるように、4.1原子層(ML)分のIn、Ga及びAsを供給するだけで、ストランスキー−クラスタノフ(Stranski−Krastanov)結晶成長モードによる自己形成現象によりInGaAs量子ドット18が形成される。
【0037】
この時、成長初期において、まず、InGaAs濡れ層17が成長し、次いで、下地材料との格子定数の違いによる歪のエネルギーを緩和するため、この面状の構造から再配列を起こして3次元的なInGaAs量子ドット18が形成されることになる。
【0038】
図5参照
次いで、Inの供給を停止することによって、i型GaAs中間層19を成長させてInGaAs量子ドット18を埋め込む。
この様な積層工程を繰り返すことによって、中間層を介して多数の量子ドットを積み重ね、最後に、n型GaAsコンタクト層20を設ける。
【0039】
次いで、例えば、ドライエッチングを用いて下部電極層となるn型GaAsコンタクト層15に達するまでメサエッチングを行ったのち、例えば、金属蒸着法を用いて例えば、AuGe/Ni/Au構造の下部電極21及び上部電極22を形成することによって、本発明の実施例1のQDIPの基本構成が完成する。
【0040】
このように、本発明の実施例1においては、基板ホルダー11を形状記憶合金を用いて形成することによって、基板ホルダー11に基板湾曲機能を持たせているので、形状記憶させる段階で所定の曲率半径を持つように湾曲させることによって、GaAs基板上にS−KモードによるInGaAs3元混晶量子ドットを形成することが可能になる。
【実施例2】
【0041】
次に、図6を参照して、本発明の実施例2のQDIPの製造方法を説明するが、基本的な製造工程は上記の実施例1と全く同様であるので、基板ホルダーの構造及び湾曲状態を説明する。
図6参照
図6は、本発明の実施例2に用いる基板ホルダーの概念的構成図であり、基板ホルダー31は、例えば、形状記憶合金であるTiNi化合物から構成されるとともに、真空チャック機構と連結されている。
【0042】
この真空チャック機構は、基板ホルダー31に設けられた5か所の吸気口32,33と、周辺部に設けた4つの吸気口32に接続されたフレキパイプ34、及び、中央部に設けた吸気口33に接続されたフレキパイプ35、及び、フレキパイプ34及びフレキパイプ35を連結する真空排気パイプ36からなり、真空排気パイプ36を介して真空排気ポンプ(図示は省略)に接続されている。
【0043】
まず、室温において、基板ホルダー31上に半絶縁性GaAs基板12を載置したのち、真空チャック機構を吸引固定したのち、結晶成長装置内へ搬入する。
【0044】
次いで結晶成長装置内において、結晶成長温度、例えば、470℃まで昇温する。
この時、基板ホルダー31は予め凹状に湾曲させた形状を記憶させた温度に達するので、予め記憶させたように湾曲し、それに伴って半絶縁性GaAs基板12も湾曲する。
【0045】
この場合、中央部の吸気口33をフレキパイプ35で接続しているので、基板ホルダー31は真空吸着状態を保ったまま湾曲することになる。
以降は、上記の実施例1と全く同様に結晶成長工程を行うことによって、実施例1と同様のQDIPが得られる。
【0046】
この場合、GaAs基板の固定を真空チャック機構によって行っているので、上記の実施例1の場合のように加熱状態におけるInソルダの塑性変形による歪応力の緩和が少なく、より効果的に歪応力をGaAs基板に加えることができる。
【実施例3】
【0047】
次に、図7を参照して、本発明の実施例3のQDIPの製造方法を説明するが、基本的な製造工程は上記の実施例1と全く同様であるので、基板ホルダーの構造及び湾曲状態を説明する。
図7参照
図7は、本発明の実施例3に用いる基板ホルダーの概念的構成図であり、基板ホルダー41は、例えば、鉄ニッケル合金を用いたバイメタル構造で構成する。 なお、このバイメタル構造は下側の鉄ニッケル合金42と組成の異なる上側の鉄ニッケル合金43を貼り合わせて構成する。
まず、基板ホルダー41に、半絶縁性GaAs基板12をInソルダ13によって接着する。
【0048】
次いで、半絶縁性GaAs基板12を接着させた基板ホルダー11を結晶成長装置内に搬入して、結晶成長温度、例えば、470℃まで昇温する。
この時、基板ホルダー41を構成するバイメタル構造は、結晶成長温度において半絶縁性GaAs基板12の表面の曲率径が50cmになるように材料を選択しているので、半絶縁性GaAs基板12の表面の格子定数を約1.0%減少させることができる。
以降は、上記の実施例1と全く同様に結晶成長工程を行うことによって、実施例1と同様のQDIPが得られる。
【0049】
このように、本発明の実施例3においては、基板湾曲機構としてバイメタル構造を用いているので、実施例1の場合に比較して、基板ホルダーを構成する材料の選択肢の範囲が拡がる。
【実施例4】
【0050】
次に、図8を参照して、本発明の実施例4のQDIPの製造方法を説明するが、基本的な製造工程は上記の実施例3と全く同様であるので、基板ホルダーの構造及び湾曲状態を説明する。
図8参照
図8は、本発明の実施例4に用いる基板ホルダーの概念的構成図であり、基板ホルダー51は、例えば、下側の鉄ニッケル合金52と組成の異なる上側の鉄ニッケル合金53を貼り合わせたバイメタル構造から構成されるとともに、真空チャック機構と連結されている。
【0051】
この真空チャック機構は、上記の実施例2と同様に基板ホルダー51に設けられた5か所の吸気口54,55と、周辺部に設けた4つの吸気口54に接続されたフレキパイプ34、及び、中央部に設けた吸気口55に接続されたフレキパイプ35、及び、フレキパイプ34及びフレキパイプ35を連結する真空排気パイプ36からなり、真空排気パイプ36を介して真空排気ポンプ(図示は省略)に接続されている。
【0052】
まず、室温において、基板ホルダー51上に半絶縁性GaAs基板12を載置したのち、真空チャック機構を吸引固定したのち、結晶成長装置内へ搬入する。
【0053】
この時、基板ホルダー51を構成するバイメタル構造は、結晶成長温度において半絶縁性GaAs基板12の表面の曲率径が50cmになるように材料を選択しているので、半絶縁性GaAs基板12の表面の格子定数を約1.0%減少させることができる。
【0054】
この場合、実施例2と同様に、中央部の吸気口55をフレキパイプ35で接続しているので、基板ホルダー51は真空吸着状態を保ったまま湾曲することになる。
以降は、上記の実施例1と全く同様に結晶成長工程を行うことによって、実施例1と同様のQDIPが得られる。
【0055】
この場合、GaAs基板の固定を真空チャック機構によって行っているので、上記の実施例3の場合のように加熱状態におけるInの塑性変形による歪応力の緩和が少なく、より効果的に歪応力をGaAs基板に加えることができる。
【実施例5】
【0056】
次に、図9を参照して、本発明の実施例5のQDIPの製造方法を説明するが、基本的な製造工程は上記の実施例1と全く同様であるので、基板ホルダーの構造及び湾曲状態を説明する。
図9参照
図9は、本発明の実施例5に用いる基板ホルダーの概念的構成図であり、基板ホルダー60は、周辺部に設けた4つのサブホルダー61と中央に設けた1つのサブホルダー62とから構成され、各サブホルダー61,62にはそれぞれ吸気口63,64が設けられており、この吸気口63,64に対してそれぞれ吸引パイプ65,66が接続されている。
【0057】
また、周辺部に設けた吸引パイプ65は真空排気パイプ67に連結されており、一方、中央に設けた吸引パイプ66は真空排気パイプ68を介して真空排気ポンプ(図示は省略)に接続されている。
【0058】
また、中央の吸引パイプ66には上下動機構(図示を省略)が設けられており、中央の吸引パイプ66を周辺部の吸引パイプ65に対して相対的に下降させることによって、基板ホルダー60に真空吸着した基板を所定の曲率を有するように湾曲させることが可能である。
【0059】
まず、室温において、基板ホルダー60に半絶縁性GaAs基板12を真空吸着させたのち、結晶成長装置内へ搬入し、所定の結晶成長温度まで昇温したのち、従来例と同様な手順で、i型GaAsバッファ層を介してn型GaAsコンタクト層及びi型GaAs中間層を設ける。
【0060】
次いで、中央の吸引パイプ66をサブホルダー62とともに下降させることによって、i型GaAs中間層の曲率が50cmになるように湾曲させたのち、In、Ga及びAsをInx Ga1-x AsにおけるIn組成比xが例えば、0.30になるように供給して、上述のように、S−K結晶成長モードによる自己形成現象によりInGaAs量子ドットが形成される。
以降は、上記の実施例1と全く同様に結晶成長工程を行うことによって、実施例1と同様のQDIPが得られる。
【0061】
この実施例5においては、上下動が可能なサブホルダーからなる基板ホルダーを用いているので、温度やバイメタル特性とは全く関係なく、任意の温度において任意の曲率を設定することができるので、結晶成長条件の自由度が大きくなり、感光波長・感度の制御が容易になる。
【0062】
以上、本発明の各実施例を説明してきたが、本発明は各実施例に記載された構成・条件等に限られるものではなく各種の変更が可能であり、例えば、上記の各実施例においてはInGaAs量子ドットとしているが、InGaAs量子ドットに限られるのではなく、InAlAs量子ドット、InAsSb量子ドット、GaAsSb量子ドット等の他の3元混晶量子ドットにも適用されるのである。
【0063】
さらには、3元混晶量子ドットに限られるものではなく、InAlGaAs量子ドット、InAlGaAsSb量子ドット等の3元以上の多元混晶量子ドットにも適用されるものである。
【0064】
また、上記の各実施例においては基板としてGaAsを用いているが、GaAsに限られるものではなく、InGaAs基板等の混晶基板或いはInP基板等の他の基板を用いても良いものである。
【0065】
また、上記の実施例2及び実施例4においては、吸気口を中央に1か所、周辺部に4か所としているが、個数及び配置は任意であり、基板ホルダーが湾曲しても基板の真空吸着を保持することができれば良いものである。
【0066】
また、上記の実施例5においては、サブホルダーを中央に1か所、周辺部に4か所としているが、個数及び配置はこのような個数及び配置に限られるものではなく、基板が等方的に湾曲するように点対象的な配置であれば個数は任意である。
【0067】
さらに、上記の各実施例においては非ナイトライド系のIII-V族化合物半導体デバイスとして説明しているが、GaN系のIII-V族化合物半導体にも適用されるものであり、その場合には、基板としてGaN、SiC、或いは、サファイア等を用いれば良い。
【0068】
ここで、再び図1を参照して、本発明の詳細な特徴を改めて説明する。
再び、図1参照
(付記1) 湾曲させた基板1上にエピタキシャル成長をさせることを特徴とする結晶成長方法。
(付記2) 上記湾曲させた基板1の凹面上にエピタキシャル成長をさせることを特徴とする付記1記載の結晶成長方法。
(付記3) 上記湾曲させた基板1の凹面上に量子ドットを成長させることを特徴とする付記2記載の結晶成長方法。
(付記4) 上記量子ドットが3元混晶量子ドットであることを特徴とする付記3記載の結晶成長方法。
(付記5) 上記量子ドットが多元混晶量子ドットであることを特徴とする付記3記載の結晶成長方法。
(付記6) 基板1を支持する基板支持部材2に、基板1を凹状に湾曲させる基板湾曲機構を設けたことを特徴とする結晶成長装置。
(付記7) 上記基板湾曲機構が形状記憶合金からなり、結晶成長温度において凹状に湾曲させることを特徴とする付記6記載の結晶成長装置。
(付記8) 上記基板湾曲機構がバイメタル構造からなり、結晶成長温度において必要とする曲率が得られるように材料を選択したことを特徴とする付記6記載の結晶成長装置。
(付記9) 上記基板湾曲機構が複数の真空吸着機構からなり、前記複数の真空吸着機構の内の中央部に設けた真空吸着機構を周辺部に設けた真空吸着機構に対して相対的に下降させる手段を有していることを特徴とする付記6記載の結晶成長装置。
(付記10) 付記7または8に記載の結晶成長装置を用いた結晶成長方法において、基板支持部材2と基板1をInソルダで貼り付けて前記基板1を凹状に湾曲させることを特徴とする結晶成長方法。
(付記11) 付記7または8に記載の結晶成長装置を用いた結晶成長方法において、基板1を基板支持部材2に真空チャックで吸着させて前記基板1を凹状に湾曲させることを特徴とする結晶成長方法。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の活用例としては、QDIPが典型的なものであるが、半導体レーザや発光ダイオード等の発光素子にも適用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の原理的構成の説明図である。
【図2】本発明の実施例1に用いる基板ホルダーの概念的構成図である。
【図3】本発明の実施例1のQDIPの基本的製造工程の説明図である。
【図4】臨界膜厚とIn組成比xの相関関係のGaAs格子定数依存性の説明図である。
【図5】本発明の実施例1のQDIPの基本構成図である。
【図6】本発明の実施例2に用いる基板ホルダーの概念的構成図である。
【図7】本発明の実施例3に用いる基板ホルダーの概念的構成図でありる。
【図8】本発明の実施例4に用いる基板ホルダーの概念的構成図である。
【図9】本発明の実施例5に用いる基板ホルダーの概念的構成図である。
【図10】従来のInAs/GaAs系QDIP素子の断面図である。
【図11】量子ドット構造を示すバンドダイヤグラムである。
【図12】臨界膜厚のIn組成比x依存性の説明図である。
【符号の説明】
【0071】
1 基板
2 基板支持部材
11 基板ホルダー
12 半絶縁性GaAs基板
13 Inソルダ
14 i型GaAsバッファ層
15 n型GaAsコンタクト層
16 i型GaAs中間層
17 InGaAs濡れ層
18 InGaAs量子ドット
19 i型GaAs中間層
20 n型GaAsコンタクト層
21 下部電極
22 上部電極
31 基板ホルダー
32 吸気口
33 吸気口
34 フレキパイプ
35 フレキパイプ
36 真空排気パイプ
41 基板ホルダー
42 鉄ニッケル合金
43 鉄ニッケル合金
51 基板ホルダー
52 鉄ニッケル合金
53 鉄ニッケル合金
54 吸気口
55 吸気口
60 基板ホルダー
61 サブホルダー
62 サブホルダー
63 吸気口
64 吸気口
65 吸引パイプ
66 吸引パイプ
67 真空排気パイプ
68 真空排気パイプ
71 GaAs基板
72 GaAsバッファ層
73 n型GaAsコンタクト層
74 GaAs中間層
75 InAs濡れ層
76 InAs量子ドット
77 GaAs中間層
78 n型GaAsコンタクト層
79 基底準位
80 第1励起準位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲させた基板上にエピタキシャル成長をさせることを特徴とする結晶成長方法。
【請求項2】
上記湾曲させた基板の凹面上にエピタキシャル成長をさせることを特徴とする請求項1記載の結晶成長方法。
【請求項3】
上記湾曲させた基板の凹面上に量子ドットを成長させることを特徴とする請求項2記載の結晶成長方法。
【請求項4】
上記量子ドットが3元混晶量子ドットであることを特徴とする請求項3記載の結晶成長方法。
【請求項5】
基板を支持する基板支持部材に、基板を凹状に湾曲させる基板湾曲機構を設けたことを特徴とする結晶成長装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2008−81829(P2008−81829A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266421(P2006−266421)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】