結晶採取キット及び結晶採取方法

【課題】化学反応により生成した結晶を、容易にかつ効率良く採取することができるキット及び方法の提供。
【解決手段】反応容器に挿脱自在な、かつ上部に磁石を備えた棒状磁性体と、当該棒状磁性体が挿通自在の貫通穴を備えた非磁性板状体と、当該貫通穴の径より大きな径を有し、かつ反応液中に投入される磁石とから成る結晶採取キット;反応液中に磁石を投入するステップと、当該磁石を取り出すことなく結晶化せしめるステップと、結晶が付着形成された磁石を反応容器から取り出すステップとを有する結晶採取方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学反応によって生成した結晶、特に粉末X線回折分析用結晶の採取に好適な結晶採取キット及び結晶採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物質の結晶構造を解析する方法として、ラマン分光分析や、X線回折分析等が用いられている。これらの結晶構造解析を行なう際には、解析対象となる物質の結晶を得る手段の1つとして、当該物質を溶解した溶液(以下、反応液と称す。)から析出させる方法が用いられている。反応液から結晶を析出させるためには、小容量の反応容器中で、反応液を冷却したり、溶媒を蒸発させる等の方法が知られているが(例えば、非特許文献1参照)、析出した結晶を粉末X線回折分析等に供するためには、得られた結晶を平面上に静置する必要がある。結晶を平面上に静置するために、反応容器から結晶を採取する方法としては、一般には当該反応容器から匙等で結晶を掻き出すことによって採取されていた。
【0003】
しかしながら、斯かる従来の方法では、生成した結晶が小容量の反応容器の内壁面に付着しているため取り出しにくく、自ずと効率の良い結晶の採取は甚だ困難なのが実状であった。
【0004】
また、従来は反応液のみの静置により結晶化を行なっていたため、結晶が生成するまでに時間がかかり易い、と云う問題もあった。
【非特許文献1】日本化学会 第4版 実験化学講座10 回折 丸善株式会社 52〜56頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような従来の実状と問題に鑑みてなされたもので、化学反応により生成した結晶を、より容易に、かつ効率良く採取することができるキット及び方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を解決するための種々検討を重ねた結果、磁石を結晶化の核として用いれば、結晶化が促進され、しかも小容量の反応容器から結晶が付着形成された磁石自体を取り出すことは極めて容易であることを見い出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、反応容器に挿脱自在な、かつ磁石を備えた棒状磁性体と、当該棒状磁性体が挿通自在の貫通穴を備えた非磁性板状体と、当該貫通穴の径より大きな径を有し、かつ反応液中に投入される磁石とから成ることを特徴とする結晶採取キットにより上記課題を解決したものである。
【0008】
また、本発明は、反応液中に磁石を投入するステップと、当該磁石を取り出すことなく結晶化せしめるステップと、結晶が付着形成された磁石を反応容器から取り出すステップとを有することを特徴とする結晶採取方法により上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、化学反応により生成した結晶を、極めて容易に、かつ効率良く採取することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明の実施の形態を図面と共に説明する。
【0011】
図1は、本発明結晶採取キットを用いた本発明結晶採取方法の概略断面工程説明図である。以下該図1を用いて本発明を説明する。
【0012】
Qは本発明結晶採取キットで、棒状磁性体50と、板状体60と、磁石70とから構成されている。
【0013】
棒状磁性体50は、鉄等の磁性体から成り、反応容器80に挿脱自在な径を有すると共に、その上部に磁石51を備えている。この磁石51は、棒状磁性体50の上部に固定的に結合せしめたものであっても良いが、磁力のみにより着脱自在に磁着せしめれば、後述するように磁石70をより容易に離脱せしめることができる。また、この磁石51は露出状態にしても良いが、反応容器80の開口部径より長寸の水平基体52中に埋設するのが、棒状磁性体50の昇降操作性に優れ、望ましい。
【0014】
非磁性板状体60には貫通穴61が形設されており、棒状磁性体50が挿通自在となっている。
【0015】
上記棒状磁性体50と非磁性板状体60は、それぞれ1個のみの独立した個体であっても良いが、図2に示すように、長尺の水平基体52に棒状磁性体50を、また非磁性板状体60に棒状磁性体50に対応する貫通穴61をそれぞれ複数並設したものを用いるのが、同時に複数の結晶を採取することができるので望ましい。
【0016】
また、この場合、図2に示すように、水平基体52を基盤部100に、スプリング91を巻回した支柱90で取り付けると共に、水平基体52と非磁性板状体60をスプリング92を介して連結せしめた構造体とするのが、スプリング91、92の圧縮時(図2(a)参照)に水平基体52、従ってまた棒状磁性体50が下降してその下端に磁石70を磁着せしめ、他方、スプリング91、92の圧縮解除時(図2(b)参照)に水平基体52、従ってまた棒状磁性体50が上昇し、非磁性板状体60との係止により磁石70を棒状磁性体50から離脱せしめることができるので、操作性に優れ、特に有利である。
【0017】
磁石70は、非磁性板状体60の貫通穴61の径より大きな径を有するものであれば、特に種類の如何を問わないが、マグネットスターラーの攪拌用磁石を用いるのが、当該マグネットスターラーにより反応液を攪拌し得ると共に、当該攪拌用磁石をそのまま結晶化の核として利用できるので望ましい。
【0018】
また、反応容器80自体は従来と同様の小容量反応容器が用いられ、例えば図3に示す如き多数の反応容部40aが形成されたマイクロタイタープレートCが好適に使用される。
【0019】
上記の如き結晶採取キットQを用いて結晶を採取するには、まず反応容器80に反応液を入れ、次いで磁石70を投入する。この場合、磁石としてマグネットスターラーの攪拌用磁石70を用い、マグネットスターラーで反応液を攪拌するのが、攪拌操作と核としての利用により、結晶化反応を促進する上で望ましい。
【0020】
次いで、当該磁石70を取り出すことなく結晶化せしめる。次いで、結晶が付着形成された磁石70を反応容器80から取り出す。この場合、図1(a)に示したように、上部に磁石51を備えた棒状磁性体50を、非磁性板状体60の貫通穴61に挿通せしめつつ反応容器80に挿入し、その下端に結晶が付着形成された磁石70を磁着せしめて、図1(b)に示したように、反応容器80から取り出し、次いで図1(c)に示したように、当該非磁性板状体60を下降又は棒状磁性体50を上昇せしめることにより、結晶が付着形成された磁石70を棒状磁性体50から離脱せしめるのが、結晶をより容易かつ確実に採取する上で望ましい。また、前述の如く、磁石51を棒状磁性体50の上部に磁着せしめた場合には、当該磁石51を棒状磁性体50から離脱せしめる(図示省略)ことにより、更にスムースに結晶が付着形成された磁石70を棒状磁性体50から離脱せしめることができる。
【0021】
なお、斯かる方法により採取された結晶が付着形成された磁石は、試料としてそのまま粉末X線回折分析やラマン分光分析等の光学的な結晶構造分析に用いられる。
【実施例】
【0022】
次に、実施例を挙げて本発明結晶採取方法を更に説明する。
【0023】
実施例1
まず、図3に示されるマイクロタイタープレートCの各反応容部40aに、反応液としてスルファメラジン粉末2mgおよびメタノール200μLを入れた後、当該反応液中にマグネットスターラーの攪拌用磁石70を投入した。各反応容部40aをテフロン(登録商標)シートで密閉し、マグネットスターラーで攪拌した。次いで、当該磁石70を取り出すことなくそのまま静置して結晶化を行ない、各磁石30に結晶を付着形成せしめた。各反応容部40aのテフロン(登録商標)シートを外して残存するメタノールを除去し、次いで、図6に示される棒状磁性体50を、非磁性板状体60の貫通穴61に挿通せしめつつ反応容部40aに挿入し(図1(a)参照)、結晶が付着し形成された磁石70を棒状磁性体50の外底面に磁着せしめ、各反応容部40aから取り出した(図1(b)参照)。次いで、マイクロタイタープレートCを取り除き、次いで、非磁性板状体60を下降せしめつつ、磁石70を棒状磁性体50から離脱落下せしめて、結晶を採取した(図1(c)参照)。得られた結晶が付着形成された磁石を試料として粉末X線回折分析およびラマン分光分析を行ったところ、図4に記載のような粉末X線回析パターン、および図5に記載のようなラマンスペクトルが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明結晶採取キットを用いた本発明結晶採取方法の概略断面工程説明図。
【図2】棒状磁性体と貫通穴を複数並設した構造体例を示す概略正面説明図。
【図3】マイクロタイタープレートの斜視説明図。
【図4】マグネットスターラー上で結晶化した結晶の粉末X線回折パターン。
【図5】マグネットスターラー上で結晶化した結晶のラマンスペクトル。
【符号の説明】
【0025】
40a:反応容部
50:棒状磁性体
51:磁石
52:水平基体
60:非磁性板状体
61:貫通穴
70:磁石
80:反応容器
90:支柱
91:スプリング
Q:本発明結晶採取キット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器に挿脱自在な、かつ磁石を備えた棒状磁性体と、当該棒状磁性体が挿通自在の貫通穴を備えた非磁性板状体と、当該貫通穴の径より大きな径を有し、かつ反応液中に投入される磁石とから成ることを特徴とする結晶採取キット。
【請求項2】
前記棒状磁性体が水平基体に複数並設されていると共に、前記貫通穴が非磁性板状体に複数並設されていることを特徴とする請求項1記載の結晶採取キット。
【請求項3】
前記磁石が、マグネットスターラーの攪拌用磁石であることを特徴とする請求項1又は2記載の結晶採取キット。
【請求項4】
反応液中に磁石を投入するステップと、当該磁石を取り出すことなく結晶化せしめるステップと、結晶が付着形成された磁石を反応容器から取り出すステップとを有することを特徴とする結晶採取方法。
【請求項5】
結晶化ステップ前に、マグネットスターラーで反応液を攪拌するステップを有することを特徴とする請求項4記載の結晶採取方法。
【請求項6】
結晶が付着形成された磁石を、非磁性板状体の貫通穴に挿通された棒状磁性体の下端に磁着せしめて反応容器から取り出した後、当該非磁性板状体を下降又は棒状磁性体を上昇せしめることにより、結晶が付着形成された磁石を棒状磁性体から離脱せしめることを特徴とする請求項4又は5記載の結晶採取方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−134241(P2008−134241A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281047(P2007−281047)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【Fターム(参考)】