結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法
【課題】チタン酸バリウムを効率よく合成することができ、その合成する過程における結晶粒子形状の破壊を防ぐことができる結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法を提供する。
【解決手段】チタン酸水和物からチタン酸バリウムを製造する方法であって、前記チタン酸水和物とバリウム源原料と水系媒体とを混合してチタン酸バリウム原料混合物を形成し、該原料混合物に対してマイクロ波を照射することを特徴とする。チタン酸水和物からチタン酸バリウムを合成する時間を短くできるので、チタン酸バリウムを合成する効率を向上させることができる。しかも、短時間でチタン酸バリウムが合成されるので、合成過程におけるチタン酸水和物の溶解析出反応による結晶粒子形状の破壊を防ぐことができる。よって、チタン酸水和物の結晶粒子形状を維持したチタン酸バリウムを合成することができる。
【解決手段】チタン酸水和物からチタン酸バリウムを製造する方法であって、前記チタン酸水和物とバリウム源原料と水系媒体とを混合してチタン酸バリウム原料混合物を形成し、該原料混合物に対してマイクロ波を照射することを特徴とする。チタン酸水和物からチタン酸バリウムを合成する時間を短くできるので、チタン酸バリウムを合成する効率を向上させることができる。しかも、短時間でチタン酸バリウムが合成されるので、合成過程におけるチタン酸水和物の溶解析出反応による結晶粒子形状の破壊を防ぐことができる。よって、チタン酸水和物の結晶粒子形状を維持したチタン酸バリウムを合成することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法に関する。さらに詳しくは、従来法よりも高速かつ安定してチタン酸バリウムを製造できる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料は、電気エネルギーと機械エネルギーとを変換するアクチュエーターとして各種のナノテク分野で利用の広がりを見せている。現在使用されている圧電材料の多くは鉛を含むPZT系物質(PbTiO3とPbZrO3との混晶)であるが、EU加盟国等では電気・電子機器に含まれる特定有毒物質の使用規制が実施されており、かかる使用規制の実施に呼応して、PZTに替わる非鉛系の圧電材料を開発しようとする動きが国内外で活発化している。
【0003】
PZTに替わる圧電材料の有力候補として、毒性が低く化学的安定性の高いチタン酸バリウムが注目されている。
しかし、通常のチタン酸バリウムは圧電係数がPZT系のそれと比較して非常に低く、そのままでは優れた圧電材料になり得ない。
そこで、チタン酸バリウムの圧電係数を改善するために、種々の工夫が試みられており、特許文献1には、チタン酸バリウムの結晶粒子形状を制御した結晶軸配向性板状粒子を製造する技術が開発されている。
【0004】
特許文献1の水熱ソフト化学製法は、先ず板状粒子を形成し易い層状チタン酸化合物(チタン酸カリウムリチウム)を合成し、次いでイオン交換反応を利用してこれを層状チタン酸水和物に転換した後、この層状チタン酸水和物の板状粒子形状を破壊しないように慎重に水酸化バリウム溶液と反応させ、層状結晶構造をチタン酸バリウム結晶構造に変換し、板状粒子形状を有したチタン酸バリウムを獲得しようとするものである。
具体的には、特許文献1には、酸化チタン、水酸化カリウム、水酸化リチウムを混合し撹拌しながら水熱条件下で反応させて層状チタン酸カリウムリチウムの板状粒子を合成し、この板状粒子を硝酸水溶液中において室温で処理して板状の層状チタン酸水和物に転換し、この板状の層状チタン酸水和物を水酸化バリウム溶液中で水熱条件下で反応させることによって、チタン酸バリウムの板状粒子を合成する方法が開示されている。
【0005】
そして、非特許文献1には、上記特許文献1の水熱ソフト化学反応で合成したチタン酸バリウム板状粒子を利用して結晶軸配向性セラミックスを作製することによって、圧電材料の圧電特性を向上させる技術が開発されている。具体的には、チタン酸バリウムの板状粒子を配向成形し、焼結により作製した結晶軸配向性セラミックスを使用することによって、結晶軸配向方向に大きな圧電係数を得ることができるのである。
【0006】
しかるに、特許文献1の技術で製造されたチタン酸バリウム板状粒子は圧電特性を向上するための配向性セラミックス製造に利用できる、という点では優れているものの、特許文献1に記載されている製造方法では、チタン酸バリウム板状粒子を合成する効率が悪いという欠点を有している。つまり、特許文献1の製造方法は反応の進行が非常に緩慢であり、前駆体となる層状チタン酸カリウムリチウムの合成あるいは層状チタン酸水和物からのチタン酸バリウムの合成共に24時間前後の反応時間が必要であり、チタン酸バリウムを合成する効率が悪いという欠点を有している。
しかも、特許文献1の製造方法では、層状チタン酸水和物からチタン酸バリウムを合成する過程において、層状チタン酸水和物を長い時間水溶液中に浸漬した状態となるので、合成過程で層状チタン酸水和物の溶解析出反応による板状粒子形状の破壊が生じ易く、これを抑止することは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−22857号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S. Wada, K. Takeda, T. Muraishi, H. Kakemoto, T. Tsurumi, T. Kimura, Jpn. J. Appl. Phys., 46, 7039-7043 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、チタン酸バリウムを効率よく合成することができ、その合成する過程における結晶粒子形状の破壊を防ぐことができる形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法は、チタン酸水和物からチタン酸バリウムを製造する方法であって、前記チタン酸水和物とバリウム源原料と水系媒体とを混合してチタン酸バリウム原料混合物を形成し、該チタン酸バリウム原料混合物に対してマイクロ波を照射することを特徴とする。
第2発明の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法は、第1発明において、前記チタン酸水和物が、チタン、カリウムおよびリチウム源原料と水系媒体とを混合してチタン酸カリウムリチウム原料混合物を形成し、該チタン酸カリウムリチウム原料混合物にマイクロ波を照射することによって得られたチタン酸カリウムリチウムを、酸性溶液中において水和物に転換したものであることを特徴とする。
第3発明の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法は、第1または第2発明において、マイクロ波が照射される、水系媒体からなるチタン酸バリウム生成反応域に対して、前記チタン酸バリウム原料混合物を連続的に供給し、前記チタン酸バリウム生成反応域からチタン酸バリウムを含む水系媒体を連続的に排出することを特徴とする。
第4発明の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法は、第3発明において、マイクロ波が照射される、水系媒体からなるチタン酸カリウムリチウム合成反応域に対して、前記チタン酸カリウムリチウム原料混合物を連続的に供給し、前記チタン酸カリウムリチウム合成反応域からチタン酸カリウムリチウムを含む反応物含有水系媒体を連続的に排出し、排出された該反応物含有水系媒体を、酸性溶液からなる水和物転換反応域に連続的に供給し、該水和物転換反応域からチタン酸水和物を含有する酸性溶液を排出して、前記チタン酸バリウム生成反応域に連続的に供給することを特徴とする。
第5発明の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法は、第1、第2、第3または第4発明において、前記チタン酸水和物が、板状または針状の結晶粒子形状を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、チタン酸水和物からチタン酸バリウムを合成する時間を短くできるので、チタン酸バリウムを合成する効率を向上させることができる。しかも、短時間でチタン酸バリウムが合成されるので、合成過程におけるチタン酸水和物の溶解析出反応による結晶粒子形状の破壊を防ぐことができ、チタン酸水和物の結晶粒子形状を維持したチタン酸バリウムを合成することができる。
第2発明によれば、チタン酸水和物の合成時間も短くできるので、チタン酸バリウムの合成をより一層短い時間で行うことができる。
第3発明によれば、通常の水熱反応と比べ、マイクロ波照射条件下ではチタン酸バリウムが生成しやすいので、チタン酸バリウム生成反応域における、水系媒体中のチタン酸バリウム原料混合物の濃度を低くできるから、チタン酸バリウム生成反応域における液体の流動性を高くできる。すると、チタン酸バリウム生成反応域からチタン酸バリウムを含む水系媒体を連続的に排出することが可能となる。よって、チタン酸バリウムの合成を、バッチ処理でなく、連続して行うことができるから、チタン酸バリウムの合成効率を向上させることができる。
第4発明によれば、通常の水熱反応と比べ、マイクロ波照射条件下ではチタン酸バリウムが生成しやすいので、チタン酸カリウムリチウム合成反応域における、水系媒体中のチタン酸カリウムリチウム原料混合物の濃度を低くできるから、チタン酸カリウムリチウム合成反応域における液体の流動性を高くできる。すると、チタン酸カリウムリチウム合成反応域からチタン酸カリウムリチウムを含む反応物含有水系媒体を連続的に排出することが可能となるから、チタン酸カリウムリチウムを連続合成することができる。また、チタン酸カリウムリチウムを含む反応物含有水系媒体を水和物転換反応域に供給すれば、チタン酸水和物を連続的に合成でき、合成されたチタン酸水和物を連続的に水和物転換反応域から排出して、連続的にチタン酸バリウム生成反応域に供給することができる。つまり、チタン酸水和物の合成からチタン酸バリウムの合成まで、バッチ処理でなく、連続して処理することができるので、チタン酸バリウムの合成効率をより一層向上させることができる。
第5発明によれば、チタン酸水和物が板状または針状の結晶粒子形状を有しているので、チタン酸バリウムも板状または針状の結晶粒子形状とすることができる。これらの粒子形状はセラミックスの配向成形に適している。よって、チタン酸バリウムの圧電特性を向上させることができるので、圧電素子として使用した場合に、優れた圧電特性を有する圧電材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のチタン酸バリウムの製造方法を採用した、Ti、KおよびLi源化合物からチタン酸バリウムを合成するまでの全工程のフローチャートである。
【図2】(A)は実施例1において生成したチタン酸カリウムリチウム板状粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、(B)は実施例1において生成したチタン酸カリウムリチウム板状粒子のXRDチャートである。
【図3】(A)は実施例1において生成したチタン酸水和物板状粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、(B)は実施例1において生成したチタン酸水和物板状粒子のXRDチャートである。
【図4】(A)は実施例1において生成したチタン酸バリウム板状粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、(B)は実施例1において生成したチタン酸バリウム板状粒子のXRDチャートである。
【図5】(A)は実施例1において使用した原料のチタン酸カリウム針状粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、(B)は実施例1において使用した原料のチタン酸カリウム針状粒子のXRDチャートである。
【図6】(A)は実施例1において生成したチタン酸水和物針状粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、(B)は実施例1において生成したチタン酸水和物針状粒子のXRDチャートである。
【図7】(A)は実施例1において生成したチタン酸バリウム針状粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、(B)は実施例1において生成したチタン酸バリウム針状粒子のXRDチャートである。
【図8】比較例の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図9】連続反応方式によってチタン酸バリウムを製造する設備の概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法(以下、単に本発明の方法という)は、チタン酸水和物からチタン酸バリウムを製造する方法であって、チタン酸水和物からチタン酸バリウムを合成する時間を短くでき、しかも、チタン酸バリウムがチタン酸水和物の結晶粒子形状を維持できるようにしたことに特徴を有している。
【0014】
本発明の方法によって製造されるチタン酸バリウム(以下、単に本発明のチタン酸バリウムという)は、その結晶粒子形状が板状または針状に形成されたものである。かかる形状とすれば、チタン酸バリウムの圧電特性を向上させることができるので、本発明のチタン酸バリウムを圧電素子として使用した場合に、優れた圧電特性を有する圧電材料を製造することができる。
【0015】
本発明のチタン酸バリウムは、板状または針状の結晶粒子形状を有するチタン酸水和物をバリウムイオンと反応させることによって生成する。具体的には、チタン酸水和物の構造にバリウムイオンを挿入し、結晶構造変換反応でチタン酸バリウムが製造される。つまり、本発明のチタン酸バリウムは、原料物質であるチタン酸水和物の板状または針状の結晶粒子形状を維持したものとなるのである。
【0016】
なお、後述するように、チタン酸水和物とバリウムイオンとの反応は、チタン酸水和物とバリウム源原料と水とを混合して加熱することによって行われるが、このとき使用するチタン酸水和物およびバリウム源原料はとくに限定されない。
例えば、バリウム源原料は、水酸化バリウムや塩化バリウム、硝酸バリウム等を使用できるが、これらに限定されるものではない。
また、チタン酸水和物も、板状または針状の結晶粒子形状を有するものであればとくに限定されない。
【0017】
(チタン酸バリウムの製造方法)
つぎに、本発明のチタン酸バリウムの製造方法について説明する。
以下では、チタン、カリウムおよびリチウム源原料からチタン酸カリウムリチウム原料混合物を合成し、このチタン酸カリウムリチウム原料混合物を水和物に転換して、このチタン酸水和物からチタン酸バリウムを製造するまでの一連の製造工程を順を追って説明する。
【0018】
なお、本発明のチタン酸バリウムは、チタン、カリウム源原料からチタン酸カリウム原料混合物を合成し、このチタン酸カリウム原料混合物を水和物に転換して、このチタン酸水和物からチタン酸バリウムを製造してもよい。この場合には、チタン酸カリウム原料混合物を水和物に転換する際に、チタン酸カリウム中のK+がH+で置換される。
【0019】
まず、Ti、KおよびLi源化合物を水に添加、混合して原料スラリーもしくは反応溶液が調製される。
Ti、KあるいはLi源化合物は特に限定されることはないが、例えばTi源としてはチタンの酸化物、塩あるいはアルコキシド等が、またKとLi源に関してはこれらの水酸化物や塩等は通常の方法で容易に入手可能であるので、特に好ましい。Ti、KおよびLi源化合物の混合比は本発明において限定されることはないが、化学量論比に対してK源化合物の添加量を多めにすることは反応速度の向上に効果的である。
【0020】
なお、上述した水が水系媒体に相当するが、例えば、アルコールやアンモニア、有機アミン等も使用することが可能であり、原料のKとLi成分を溶解するという性質を有するものであれば、とくに限定されない。ただし、媒体は、その使用量が少ないほど反応速度の増大あるいは原料を加熱するエネルギーを低減できるという効果を期待することができる。
【0021】
調製された原料スラリーもしくは反応溶液は、耐圧性の反応容器内にて加熱処理される。すると、原料スラリーもしくは反応溶液中のTi、KおよびLi源化合物が、水熱反応により、板状または針状の結晶粒子形状を有するチタン酸カリウムリチウムが合成される。
加熱処理における加熱条件は任意であるが、電気炉やガス加熱等の通常の加熱手段を用いた場合では反応温度200〜300℃、反応時間12〜30h程度が一般的である。
一方、電子レンジとして一般家庭にも広く普及しているマイクロ波を加熱手段に用いることも可能である。このマイクロ波は、X線、紫外線や可視光線と同様に電磁波の一種であり、通常は波長が1mmから1mの範囲のものを指し、赤外線と同様に物質を加熱する能力を有している。かかるマイクロ波を加熱源として使用すると、通常加熱に比較して反応条件が飛躍的に改善されるので、チタン酸カリウムリチウムの合成時間を短くできるという利点が得られる。例えば、マイクロ波を加熱源とした場合、反応温度150〜250℃、反応時間0.5〜3h程度で所望の板状または針状の結晶構造を有するチタン酸カリウムリチウムの合成反応を完了させることができる。
【0022】
合成された板状または針状の結晶粒子形状を有するチタン酸カリウムリチウムは、次いで酸処理されて、板状または針状の結晶粒子形状を有するチタン酸水和物に転換される。酸処理条件は適宜選択すれば良く、例えば0.1〜1M程度の濃度の塩酸あるいは硝酸等の酸性溶液を使用し、常温下0.5〜10h程度攪拌処理することによって、チタン酸カリウムリチウム中のK+とLi+がH+で置換され、板状または針状の結晶粒子形状を有するチタン酸水和物に転換される。
【0023】
このようにして得られた板状または針状の結晶粒子形状を有するチタン酸水和物は、次にバリウム源原料と共に水に添加、混合され、スラリー状もしくは液状のチタン酸バリウム原料混合物に調製される。
そして、調製されたチタン酸バリウム原料混合物は、耐圧性の反応容器内にて加熱処理される。このとき、本発明の方法では、チタン酸バリウム原料混合物に対して、マイクロ波を照射することによって加熱処理される。すると、チタン酸水和物とバリウムイオンと反応し、チタン酸水和物の板状または針状の結晶粒子形状を維持したチタン酸バリウムが合成される。例えば、チタン酸水和物に対してマイクロ波を照射することによって加熱処理した場合、温度60〜200℃、時間0.1〜1h程度でチタン酸バリウムを合成することができる。
【0024】
以上のごとく、本発明の方法では、チタン酸バリウム原料混合物の加熱処理において、マイクロ波を照射して加熱するので、チタン酸水和物からチタン酸バリウムを合成する時間を短くでき、チタン酸バリウムを合成する効率を向上させることができる。
しかも、短時間でチタン酸バリウムが合成されるので、合成過程におけるチタン酸水和物の溶解析出反応による結晶粒子形状の破壊を防ぐことができ、チタン酸水和物の結晶粒子形状を維持したチタン酸バリウムを合成することができる。
【0025】
さらに、上述したチタン酸カリウムリチウムの合成の際にも、マイクロ波照射による加熱処理を行えば、Ti、KおよびLi源化合物からチタン酸カリウムリチウムを合成する時間も短くできる。すると、Ti、KおよびLi源化合物からチタン酸バリウムを合成するまでの時間を大幅に短くできるので、チタン酸バリウムを合成する効率をより一層向上させることができる。
【0026】
なお、チタン酸バリウム原料混合物を調製する際に使用した水が、特許請求の範囲にいう水系媒体に相当するが、例えば、アルコールやアンモニア、有機アミン等も使用することが可能であり、原料のバリウム成分を溶解するという性質を有するものであれば、とくに限定されない。ただし、媒体は、その使用量が少ないほど反応速度の増大あるいは原料を加熱するエネルギーを低減できるという効果を期待することができる。
【0027】
(連続反応方式)
また、本発明の方法によってチタン酸バリウムを合成する場合には、各反応を回分反応によって行う場合でも十分な効果(合成時間の短縮等)を得ることができるが、チタン酸バリウムを合成する際に、通常の水熱反応と比べ、マイクロ波照射条件下ではチタン酸バリウムが生成しやすい。このため、水系媒体中のチタン酸バリウム原料混合物の濃度を低くできるから、チタン酸バリウムを含む液体の流動性を高くできる。すると、チタン酸バリウム原料混合物を水系媒体に連続的に供給しながら、合成されたチタン酸バリウムを水系媒体とともに排出することが可能となる。
同様に、チタン酸カリウムリチウムを合成する際に、マイクロ波による加熱を行う場合には、通常の水熱反応と比べ、マイクロ波照射条件下ではチタン酸バリウムが生成しやすい。このため、水系媒体中のチタン酸カリウムリチウム原料混合物の濃度を低くできるから、チタン酸カリウムリチウムを含む液体の流動性を高くできる。すると、チタン酸カリウムリチウム原料混合物を水系媒体に連続的に供給しながら、合成されたチタン酸カリウムリチウムを水系媒体とともに排出することが可能となる。
すると、チタン酸バリウムの合成およびチタン酸カリウムリチウムの合成を、バッチ処理でなく、連続して行うことができる。よって、Ti、KおよびLi源化合物からチタン酸バリウムを合成するまでの全工程を連続反応方式で行うようにすれば、更にチタン酸バリウムの合成効率を向上させることができるので、望ましい。
【0028】
かかる連続反応方式は、種々の装置によって実現できるが、例えば、図9に示すような設備を採用することも可能である。
図9において、符号SE1は、チタン酸カリウムリチウムの合成を行う装置(第一合成装置)を示している。この第一合成装置SE1は、水系媒体を収容できるタンク等の収容部T1と、この収容部T1に対して、チタン酸カリウムリチウム原料混合物を供給する供給部F1とを備えている。また、収容部T1の周囲には、収容部T1内の水系媒体に対してマイクロ波を照射し得るマイクロ波照射手段M1が設けられている。つまり、第一合成装置SE1は、収容部T1において、収容部T1内に収容されている水系媒体をマイクロ波によって加熱して、チタン酸カリウムリチウム原料混合物からチタン酸カリウムリチウムを合成できるようになっているのである。
そして、収容部T1には、収容部T1内から、チタン酸カリウムリチウムを含有する水系媒体を排出する配管P1の一端が連結されている。
なお、供給部F1から収容部T1に対して供給する物質は、スラリーや液体状に調整されたチタン酸カリウムリチウム原料混合物でもよいし、スラリーや液体状に調整される前の原料でもよい。
【0029】
この配管P1の他端は、チタン酸カリウムリチウムを水和物に転換する装置(水和物転換装置CE)における水系媒体を収容できる収容部T2に連通されており、収容部T1内から排出された水系媒体を収容部T2に供給できるように構成されている。また、水和物転換装置CEは、収容部T2内の水系媒体に対して、硝酸等の酸性溶液を供給する供給部F2が設けられている。つまり、水和物転換装置CEでは、第一合成装置SE1から供給される水系媒体を所望の酸性溶液に調整できるように、供給部F2から供給される酸性溶液の量が調整されている。言い換えれば、水系媒体に含有されているチタン酸カリウムリチウムをチタン酸水和物に転換し得る状態となるように、酸性溶液の供給量が調整されているのである。
そして、収容部T2には、収容部T2内から、チタン酸水和物を含有する水系媒体を排出する配管P2の一端が連結されている。
【0030】
この配管P2の他端は、チタン酸バリウムの合成を行う装置(第二合成装置SE2)における水系媒体を収容できる収容部T3に連通されている。この配管P2には、水置換部Eが介装されている。この水置換部Eは、収容部T2内から排出された水系媒体を水に置換する、例えば、静置型の沈降槽あるいは遠心分離機等である。つまり、収容部T2内から排出されたチタン酸水和物を含有する酸性の水系媒体が、チタン酸水和物を含有する水に置換されて収容部T3に供給されるように構成されているのである。
また、第二合成装置SE2は、収容部T3内の水系媒体に対して、バリウム源原料を供給する供給部F3が設けられている。また、収容部T3の周囲には、収容部T3内の水系媒体に対してマイクロ波を照射し得るマイクロ波照射手段M2が設けられている。つまり、第二合成装置SE2は、収容部T3において、収容部T3内に収容されている水系媒体をマイクロ波によって加熱して、バリウム源原料とチタン酸水和物からチタン酸バリウムを合成できるようになっているのである。
そして、収容部T3には、収容部T3内から水系媒体を排出する配管P3の一端が連結されており、合成されたチタン酸バリウムを、水系媒体とともに回収することができるようになっている。
【0031】
上記のごとき連続反応方式設備によりチタン酸バリウムを合成する作業を以下に説明する。
【0032】
まず、第一合成装置SE1における収容部T1に対して、供給部F1からチタン酸カリウムリチウム原料混合物を連続的に供給する。すると、収容部T1内の液体にはマイクロ波照射手段M1からマイクロ波が照射されているので、チタン酸カリウムリチウムが合成される。
合成されたチタン酸カリウムリチウムは、第一合成装置SE1の収容部T1から、配管P1によって水系媒体とともに連続的に排出され、水和物転換装置CEの収容部T2に対して供給される。
【0033】
水和物転換装置CEの収容部T2には、チタン酸カリウムリチウムを含む水系媒体に加えて、供給部F2から酸性溶液が供給されているから、収容部T2に収容されている水系媒体は所望の酸性度の酸性溶液に調整されているので、チタン酸カリウムリチウムはチタン酸水和物に転換される。
チタン酸水和物は、水和物転換装置CEの収容部T2から、配管P2によって水系媒体とともに連続的に排出され、第二合成装置SE2の収容部T3に対して供給される。
【0034】
第二合成装置SE2の収容部T3には、水置換部Eによって水に置換された後、チタン酸水和物を含む水系媒体に加えて、供給部F2からバリウム源原料も供給されており、しかも、収容部T3内の液体にはマイクロ波照射手段M2からマイクロ波が照射されているので、チタン酸バリウムが合成される。
そして、合成されたチタン酸バリウムは、第二合成装置SE2の収容部T3から、配管P3によって水系媒体とともに連続的に排出されるので、連続的にチタン酸バリウムを合成し回収することができるのである。
【0035】
上記の第一合成装置SE1における収容部T1が特許請求の範囲にいうチタン酸カリウムリチウム合成反応域に相当し、第二合成装置SE1における収容部T3が特許請求の範囲にいうバリウム挿入反応域に相当し、水和物転換装置CEにおける収容部T2が特許請求の範囲にいう水和物転換反応域に相当する。
【0036】
なお、連続反応方式を採用する場合、水系媒体中の反応物質は、少なくとも上述したような期間は各装置における容器の収容部に滞留している必要があるが、この滞留期間は、各装置における容器の収容部の容積や、設備を流れる反応物質を含有する水系媒体の流量を調整すれば、制御することができる。
また、連続反応方式は、全工程で採用する必要はなく、チタン酸バリウム原料混合物からチタン酸バリウムを合成する工程のみを連続反応方式としてもよいし、チタン酸カリウムリチウム原料混合物らチタン酸カリウムリチウムを合成する工程のみを連続反応方式としてもよい。
【実施例1】
【0037】
以下、本発明の方法によりチタン酸バリウムを合成した実施例を説明する。
チタン酸水和物からのチタン酸バリウム合成反応を、マイクロ波照射により加熱した場合(本実施例)と、ニクロム線によって加熱した場合(比較例)について、生成物を比較した。
なお、本実施例と比較例とは、加熱方法以外の条件は全て同じ条件とした。
【0038】
(本実施例)
Ti、KおよびLi源として二酸化チタン、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムを使用し、Ti:K:Liが原子比で1:1:0.3になると共に二酸化チタン1モル当たり水の使用量が0.3リットルになるように各原料を秤量、混合して原料スラリーを調製した。調製後の原料スラリーは、ニクロム線加熱方式のオートクレーブに充填し、温度250℃で24h反応させてチタン酸カリウムリチウム(K0.8Li0.27Ti1.73O4)を合成した。図2(B)に示すように、生成物のXRDチャートから、生成物がチタン酸カリウムリチウム(K0.8Li0.27Ti1.73O4)であることが確認できる。そして、合成した生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2(A)に示すが、綺麗な板状粒子形状を呈していることが分かる。
【0039】
生成したチタン酸カリウムリチウムは、これを0.5Mの塩酸中に添加して2h攪拌処理した。その後、塩酸を除去、純水で数回洗浄した後乾燥して固形物を回収した。この固形物は、X線解析の結果(図3(A))、チタン酸水和物(H1.07Ti1.73O4)で有ることが確認された。そして、固形物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3(A)に示すが、綺麗な板状粒子形状が維持されていることが分かる。
【0040】
次に、チタン酸水和物と水酸化バリウムを化学量論量で混合し、チタン酸水和物1モル当たり水の使用量が5リットルとなるようにスラリーを調製した。調製後の原料は、これを内容積90mlの耐圧式フッ素樹脂製反応器に充填した後、周波数2450MHz、最大出力1KW、自動温度制御機能付きのマイクロ波反応装置を用いて温度150℃で0.5hマイクロ波照射した。
【0041】
反応後のスラリーから、濾過、洗浄、乾燥によって粉体生成物を回収し、これのX線解析を行った。その結果を図4(B)に示すが、これより生成物がほぼ純粋なチタン酸バリウムから構成されていることが分かる。一方、図4(A)には粉体のSEM写真を示すが、チタン酸水和物の板状粒子形状が良好に維持されていることが分かる。即ち、本法により板状粒子形状を有するチタン酸バリウムが安定して製造出来ることが理解出来る。
【0042】
(比較例)
チタン酸水和物からのチタン酸バリウム合成反応を、マイクロ波照射によってでは無く、ニクロム線加熱方式のオートクレーブによって行った以外は実施例1と同様の原料、手法によってチタン酸バリウムの合成を試みた。その結果、最終生成物中に目的生成物であるチタン酸バリウムは殆ど認められず、反応が進行していないことが判明した。
そこで、ここでの反応時間を0.5hから12hに変更して合成を再度試みた。その結果、生成物は漸くチタン酸バリウムに転換された。しかしながら、この生成物をSEM観察したところ(図8)、チタン酸水和物の板状粒子形状のほとんどが破壊、微細化してしまっていることが判明した。
【実施例2】
【0043】
フラックス法で合成した針状チタン酸カリウム(K2Ti4O9・xH2O)(図5)を実施例1の本実施例と同様に酸処理してチタン酸水和物を獲得し(図6)、これに水酸化バリウムを添加して実施例1の本実施例と同様にマイクロ波反応装置および反応条件でチタン酸バリウムの合成を行った。
生成物のX線回折図およびSEM写真を図7に示すが、これより生成物は原料の針状粒子形状を維持したチタン酸バリウムであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法は、圧電材料や誘電体材料などに使用するチタン酸バリウムの製造に適している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法に関する。さらに詳しくは、従来法よりも高速かつ安定してチタン酸バリウムを製造できる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料は、電気エネルギーと機械エネルギーとを変換するアクチュエーターとして各種のナノテク分野で利用の広がりを見せている。現在使用されている圧電材料の多くは鉛を含むPZT系物質(PbTiO3とPbZrO3との混晶)であるが、EU加盟国等では電気・電子機器に含まれる特定有毒物質の使用規制が実施されており、かかる使用規制の実施に呼応して、PZTに替わる非鉛系の圧電材料を開発しようとする動きが国内外で活発化している。
【0003】
PZTに替わる圧電材料の有力候補として、毒性が低く化学的安定性の高いチタン酸バリウムが注目されている。
しかし、通常のチタン酸バリウムは圧電係数がPZT系のそれと比較して非常に低く、そのままでは優れた圧電材料になり得ない。
そこで、チタン酸バリウムの圧電係数を改善するために、種々の工夫が試みられており、特許文献1には、チタン酸バリウムの結晶粒子形状を制御した結晶軸配向性板状粒子を製造する技術が開発されている。
【0004】
特許文献1の水熱ソフト化学製法は、先ず板状粒子を形成し易い層状チタン酸化合物(チタン酸カリウムリチウム)を合成し、次いでイオン交換反応を利用してこれを層状チタン酸水和物に転換した後、この層状チタン酸水和物の板状粒子形状を破壊しないように慎重に水酸化バリウム溶液と反応させ、層状結晶構造をチタン酸バリウム結晶構造に変換し、板状粒子形状を有したチタン酸バリウムを獲得しようとするものである。
具体的には、特許文献1には、酸化チタン、水酸化カリウム、水酸化リチウムを混合し撹拌しながら水熱条件下で反応させて層状チタン酸カリウムリチウムの板状粒子を合成し、この板状粒子を硝酸水溶液中において室温で処理して板状の層状チタン酸水和物に転換し、この板状の層状チタン酸水和物を水酸化バリウム溶液中で水熱条件下で反応させることによって、チタン酸バリウムの板状粒子を合成する方法が開示されている。
【0005】
そして、非特許文献1には、上記特許文献1の水熱ソフト化学反応で合成したチタン酸バリウム板状粒子を利用して結晶軸配向性セラミックスを作製することによって、圧電材料の圧電特性を向上させる技術が開発されている。具体的には、チタン酸バリウムの板状粒子を配向成形し、焼結により作製した結晶軸配向性セラミックスを使用することによって、結晶軸配向方向に大きな圧電係数を得ることができるのである。
【0006】
しかるに、特許文献1の技術で製造されたチタン酸バリウム板状粒子は圧電特性を向上するための配向性セラミックス製造に利用できる、という点では優れているものの、特許文献1に記載されている製造方法では、チタン酸バリウム板状粒子を合成する効率が悪いという欠点を有している。つまり、特許文献1の製造方法は反応の進行が非常に緩慢であり、前駆体となる層状チタン酸カリウムリチウムの合成あるいは層状チタン酸水和物からのチタン酸バリウムの合成共に24時間前後の反応時間が必要であり、チタン酸バリウムを合成する効率が悪いという欠点を有している。
しかも、特許文献1の製造方法では、層状チタン酸水和物からチタン酸バリウムを合成する過程において、層状チタン酸水和物を長い時間水溶液中に浸漬した状態となるので、合成過程で層状チタン酸水和物の溶解析出反応による板状粒子形状の破壊が生じ易く、これを抑止することは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−22857号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S. Wada, K. Takeda, T. Muraishi, H. Kakemoto, T. Tsurumi, T. Kimura, Jpn. J. Appl. Phys., 46, 7039-7043 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、チタン酸バリウムを効率よく合成することができ、その合成する過程における結晶粒子形状の破壊を防ぐことができる形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法は、チタン酸水和物からチタン酸バリウムを製造する方法であって、前記チタン酸水和物とバリウム源原料と水系媒体とを混合してチタン酸バリウム原料混合物を形成し、該チタン酸バリウム原料混合物に対してマイクロ波を照射することを特徴とする。
第2発明の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法は、第1発明において、前記チタン酸水和物が、チタン、カリウムおよびリチウム源原料と水系媒体とを混合してチタン酸カリウムリチウム原料混合物を形成し、該チタン酸カリウムリチウム原料混合物にマイクロ波を照射することによって得られたチタン酸カリウムリチウムを、酸性溶液中において水和物に転換したものであることを特徴とする。
第3発明の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法は、第1または第2発明において、マイクロ波が照射される、水系媒体からなるチタン酸バリウム生成反応域に対して、前記チタン酸バリウム原料混合物を連続的に供給し、前記チタン酸バリウム生成反応域からチタン酸バリウムを含む水系媒体を連続的に排出することを特徴とする。
第4発明の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法は、第3発明において、マイクロ波が照射される、水系媒体からなるチタン酸カリウムリチウム合成反応域に対して、前記チタン酸カリウムリチウム原料混合物を連続的に供給し、前記チタン酸カリウムリチウム合成反応域からチタン酸カリウムリチウムを含む反応物含有水系媒体を連続的に排出し、排出された該反応物含有水系媒体を、酸性溶液からなる水和物転換反応域に連続的に供給し、該水和物転換反応域からチタン酸水和物を含有する酸性溶液を排出して、前記チタン酸バリウム生成反応域に連続的に供給することを特徴とする。
第5発明の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法は、第1、第2、第3または第4発明において、前記チタン酸水和物が、板状または針状の結晶粒子形状を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、チタン酸水和物からチタン酸バリウムを合成する時間を短くできるので、チタン酸バリウムを合成する効率を向上させることができる。しかも、短時間でチタン酸バリウムが合成されるので、合成過程におけるチタン酸水和物の溶解析出反応による結晶粒子形状の破壊を防ぐことができ、チタン酸水和物の結晶粒子形状を維持したチタン酸バリウムを合成することができる。
第2発明によれば、チタン酸水和物の合成時間も短くできるので、チタン酸バリウムの合成をより一層短い時間で行うことができる。
第3発明によれば、通常の水熱反応と比べ、マイクロ波照射条件下ではチタン酸バリウムが生成しやすいので、チタン酸バリウム生成反応域における、水系媒体中のチタン酸バリウム原料混合物の濃度を低くできるから、チタン酸バリウム生成反応域における液体の流動性を高くできる。すると、チタン酸バリウム生成反応域からチタン酸バリウムを含む水系媒体を連続的に排出することが可能となる。よって、チタン酸バリウムの合成を、バッチ処理でなく、連続して行うことができるから、チタン酸バリウムの合成効率を向上させることができる。
第4発明によれば、通常の水熱反応と比べ、マイクロ波照射条件下ではチタン酸バリウムが生成しやすいので、チタン酸カリウムリチウム合成反応域における、水系媒体中のチタン酸カリウムリチウム原料混合物の濃度を低くできるから、チタン酸カリウムリチウム合成反応域における液体の流動性を高くできる。すると、チタン酸カリウムリチウム合成反応域からチタン酸カリウムリチウムを含む反応物含有水系媒体を連続的に排出することが可能となるから、チタン酸カリウムリチウムを連続合成することができる。また、チタン酸カリウムリチウムを含む反応物含有水系媒体を水和物転換反応域に供給すれば、チタン酸水和物を連続的に合成でき、合成されたチタン酸水和物を連続的に水和物転換反応域から排出して、連続的にチタン酸バリウム生成反応域に供給することができる。つまり、チタン酸水和物の合成からチタン酸バリウムの合成まで、バッチ処理でなく、連続して処理することができるので、チタン酸バリウムの合成効率をより一層向上させることができる。
第5発明によれば、チタン酸水和物が板状または針状の結晶粒子形状を有しているので、チタン酸バリウムも板状または針状の結晶粒子形状とすることができる。これらの粒子形状はセラミックスの配向成形に適している。よって、チタン酸バリウムの圧電特性を向上させることができるので、圧電素子として使用した場合に、優れた圧電特性を有する圧電材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のチタン酸バリウムの製造方法を採用した、Ti、KおよびLi源化合物からチタン酸バリウムを合成するまでの全工程のフローチャートである。
【図2】(A)は実施例1において生成したチタン酸カリウムリチウム板状粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、(B)は実施例1において生成したチタン酸カリウムリチウム板状粒子のXRDチャートである。
【図3】(A)は実施例1において生成したチタン酸水和物板状粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、(B)は実施例1において生成したチタン酸水和物板状粒子のXRDチャートである。
【図4】(A)は実施例1において生成したチタン酸バリウム板状粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、(B)は実施例1において生成したチタン酸バリウム板状粒子のXRDチャートである。
【図5】(A)は実施例1において使用した原料のチタン酸カリウム針状粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、(B)は実施例1において使用した原料のチタン酸カリウム針状粒子のXRDチャートである。
【図6】(A)は実施例1において生成したチタン酸水和物針状粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、(B)は実施例1において生成したチタン酸水和物針状粒子のXRDチャートである。
【図7】(A)は実施例1において生成したチタン酸バリウム針状粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、(B)は実施例1において生成したチタン酸バリウム針状粒子のXRDチャートである。
【図8】比較例の生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図9】連続反応方式によってチタン酸バリウムを製造する設備の概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法(以下、単に本発明の方法という)は、チタン酸水和物からチタン酸バリウムを製造する方法であって、チタン酸水和物からチタン酸バリウムを合成する時間を短くでき、しかも、チタン酸バリウムがチタン酸水和物の結晶粒子形状を維持できるようにしたことに特徴を有している。
【0014】
本発明の方法によって製造されるチタン酸バリウム(以下、単に本発明のチタン酸バリウムという)は、その結晶粒子形状が板状または針状に形成されたものである。かかる形状とすれば、チタン酸バリウムの圧電特性を向上させることができるので、本発明のチタン酸バリウムを圧電素子として使用した場合に、優れた圧電特性を有する圧電材料を製造することができる。
【0015】
本発明のチタン酸バリウムは、板状または針状の結晶粒子形状を有するチタン酸水和物をバリウムイオンと反応させることによって生成する。具体的には、チタン酸水和物の構造にバリウムイオンを挿入し、結晶構造変換反応でチタン酸バリウムが製造される。つまり、本発明のチタン酸バリウムは、原料物質であるチタン酸水和物の板状または針状の結晶粒子形状を維持したものとなるのである。
【0016】
なお、後述するように、チタン酸水和物とバリウムイオンとの反応は、チタン酸水和物とバリウム源原料と水とを混合して加熱することによって行われるが、このとき使用するチタン酸水和物およびバリウム源原料はとくに限定されない。
例えば、バリウム源原料は、水酸化バリウムや塩化バリウム、硝酸バリウム等を使用できるが、これらに限定されるものではない。
また、チタン酸水和物も、板状または針状の結晶粒子形状を有するものであればとくに限定されない。
【0017】
(チタン酸バリウムの製造方法)
つぎに、本発明のチタン酸バリウムの製造方法について説明する。
以下では、チタン、カリウムおよびリチウム源原料からチタン酸カリウムリチウム原料混合物を合成し、このチタン酸カリウムリチウム原料混合物を水和物に転換して、このチタン酸水和物からチタン酸バリウムを製造するまでの一連の製造工程を順を追って説明する。
【0018】
なお、本発明のチタン酸バリウムは、チタン、カリウム源原料からチタン酸カリウム原料混合物を合成し、このチタン酸カリウム原料混合物を水和物に転換して、このチタン酸水和物からチタン酸バリウムを製造してもよい。この場合には、チタン酸カリウム原料混合物を水和物に転換する際に、チタン酸カリウム中のK+がH+で置換される。
【0019】
まず、Ti、KおよびLi源化合物を水に添加、混合して原料スラリーもしくは反応溶液が調製される。
Ti、KあるいはLi源化合物は特に限定されることはないが、例えばTi源としてはチタンの酸化物、塩あるいはアルコキシド等が、またKとLi源に関してはこれらの水酸化物や塩等は通常の方法で容易に入手可能であるので、特に好ましい。Ti、KおよびLi源化合物の混合比は本発明において限定されることはないが、化学量論比に対してK源化合物の添加量を多めにすることは反応速度の向上に効果的である。
【0020】
なお、上述した水が水系媒体に相当するが、例えば、アルコールやアンモニア、有機アミン等も使用することが可能であり、原料のKとLi成分を溶解するという性質を有するものであれば、とくに限定されない。ただし、媒体は、その使用量が少ないほど反応速度の増大あるいは原料を加熱するエネルギーを低減できるという効果を期待することができる。
【0021】
調製された原料スラリーもしくは反応溶液は、耐圧性の反応容器内にて加熱処理される。すると、原料スラリーもしくは反応溶液中のTi、KおよびLi源化合物が、水熱反応により、板状または針状の結晶粒子形状を有するチタン酸カリウムリチウムが合成される。
加熱処理における加熱条件は任意であるが、電気炉やガス加熱等の通常の加熱手段を用いた場合では反応温度200〜300℃、反応時間12〜30h程度が一般的である。
一方、電子レンジとして一般家庭にも広く普及しているマイクロ波を加熱手段に用いることも可能である。このマイクロ波は、X線、紫外線や可視光線と同様に電磁波の一種であり、通常は波長が1mmから1mの範囲のものを指し、赤外線と同様に物質を加熱する能力を有している。かかるマイクロ波を加熱源として使用すると、通常加熱に比較して反応条件が飛躍的に改善されるので、チタン酸カリウムリチウムの合成時間を短くできるという利点が得られる。例えば、マイクロ波を加熱源とした場合、反応温度150〜250℃、反応時間0.5〜3h程度で所望の板状または針状の結晶構造を有するチタン酸カリウムリチウムの合成反応を完了させることができる。
【0022】
合成された板状または針状の結晶粒子形状を有するチタン酸カリウムリチウムは、次いで酸処理されて、板状または針状の結晶粒子形状を有するチタン酸水和物に転換される。酸処理条件は適宜選択すれば良く、例えば0.1〜1M程度の濃度の塩酸あるいは硝酸等の酸性溶液を使用し、常温下0.5〜10h程度攪拌処理することによって、チタン酸カリウムリチウム中のK+とLi+がH+で置換され、板状または針状の結晶粒子形状を有するチタン酸水和物に転換される。
【0023】
このようにして得られた板状または針状の結晶粒子形状を有するチタン酸水和物は、次にバリウム源原料と共に水に添加、混合され、スラリー状もしくは液状のチタン酸バリウム原料混合物に調製される。
そして、調製されたチタン酸バリウム原料混合物は、耐圧性の反応容器内にて加熱処理される。このとき、本発明の方法では、チタン酸バリウム原料混合物に対して、マイクロ波を照射することによって加熱処理される。すると、チタン酸水和物とバリウムイオンと反応し、チタン酸水和物の板状または針状の結晶粒子形状を維持したチタン酸バリウムが合成される。例えば、チタン酸水和物に対してマイクロ波を照射することによって加熱処理した場合、温度60〜200℃、時間0.1〜1h程度でチタン酸バリウムを合成することができる。
【0024】
以上のごとく、本発明の方法では、チタン酸バリウム原料混合物の加熱処理において、マイクロ波を照射して加熱するので、チタン酸水和物からチタン酸バリウムを合成する時間を短くでき、チタン酸バリウムを合成する効率を向上させることができる。
しかも、短時間でチタン酸バリウムが合成されるので、合成過程におけるチタン酸水和物の溶解析出反応による結晶粒子形状の破壊を防ぐことができ、チタン酸水和物の結晶粒子形状を維持したチタン酸バリウムを合成することができる。
【0025】
さらに、上述したチタン酸カリウムリチウムの合成の際にも、マイクロ波照射による加熱処理を行えば、Ti、KおよびLi源化合物からチタン酸カリウムリチウムを合成する時間も短くできる。すると、Ti、KおよびLi源化合物からチタン酸バリウムを合成するまでの時間を大幅に短くできるので、チタン酸バリウムを合成する効率をより一層向上させることができる。
【0026】
なお、チタン酸バリウム原料混合物を調製する際に使用した水が、特許請求の範囲にいう水系媒体に相当するが、例えば、アルコールやアンモニア、有機アミン等も使用することが可能であり、原料のバリウム成分を溶解するという性質を有するものであれば、とくに限定されない。ただし、媒体は、その使用量が少ないほど反応速度の増大あるいは原料を加熱するエネルギーを低減できるという効果を期待することができる。
【0027】
(連続反応方式)
また、本発明の方法によってチタン酸バリウムを合成する場合には、各反応を回分反応によって行う場合でも十分な効果(合成時間の短縮等)を得ることができるが、チタン酸バリウムを合成する際に、通常の水熱反応と比べ、マイクロ波照射条件下ではチタン酸バリウムが生成しやすい。このため、水系媒体中のチタン酸バリウム原料混合物の濃度を低くできるから、チタン酸バリウムを含む液体の流動性を高くできる。すると、チタン酸バリウム原料混合物を水系媒体に連続的に供給しながら、合成されたチタン酸バリウムを水系媒体とともに排出することが可能となる。
同様に、チタン酸カリウムリチウムを合成する際に、マイクロ波による加熱を行う場合には、通常の水熱反応と比べ、マイクロ波照射条件下ではチタン酸バリウムが生成しやすい。このため、水系媒体中のチタン酸カリウムリチウム原料混合物の濃度を低くできるから、チタン酸カリウムリチウムを含む液体の流動性を高くできる。すると、チタン酸カリウムリチウム原料混合物を水系媒体に連続的に供給しながら、合成されたチタン酸カリウムリチウムを水系媒体とともに排出することが可能となる。
すると、チタン酸バリウムの合成およびチタン酸カリウムリチウムの合成を、バッチ処理でなく、連続して行うことができる。よって、Ti、KおよびLi源化合物からチタン酸バリウムを合成するまでの全工程を連続反応方式で行うようにすれば、更にチタン酸バリウムの合成効率を向上させることができるので、望ましい。
【0028】
かかる連続反応方式は、種々の装置によって実現できるが、例えば、図9に示すような設備を採用することも可能である。
図9において、符号SE1は、チタン酸カリウムリチウムの合成を行う装置(第一合成装置)を示している。この第一合成装置SE1は、水系媒体を収容できるタンク等の収容部T1と、この収容部T1に対して、チタン酸カリウムリチウム原料混合物を供給する供給部F1とを備えている。また、収容部T1の周囲には、収容部T1内の水系媒体に対してマイクロ波を照射し得るマイクロ波照射手段M1が設けられている。つまり、第一合成装置SE1は、収容部T1において、収容部T1内に収容されている水系媒体をマイクロ波によって加熱して、チタン酸カリウムリチウム原料混合物からチタン酸カリウムリチウムを合成できるようになっているのである。
そして、収容部T1には、収容部T1内から、チタン酸カリウムリチウムを含有する水系媒体を排出する配管P1の一端が連結されている。
なお、供給部F1から収容部T1に対して供給する物質は、スラリーや液体状に調整されたチタン酸カリウムリチウム原料混合物でもよいし、スラリーや液体状に調整される前の原料でもよい。
【0029】
この配管P1の他端は、チタン酸カリウムリチウムを水和物に転換する装置(水和物転換装置CE)における水系媒体を収容できる収容部T2に連通されており、収容部T1内から排出された水系媒体を収容部T2に供給できるように構成されている。また、水和物転換装置CEは、収容部T2内の水系媒体に対して、硝酸等の酸性溶液を供給する供給部F2が設けられている。つまり、水和物転換装置CEでは、第一合成装置SE1から供給される水系媒体を所望の酸性溶液に調整できるように、供給部F2から供給される酸性溶液の量が調整されている。言い換えれば、水系媒体に含有されているチタン酸カリウムリチウムをチタン酸水和物に転換し得る状態となるように、酸性溶液の供給量が調整されているのである。
そして、収容部T2には、収容部T2内から、チタン酸水和物を含有する水系媒体を排出する配管P2の一端が連結されている。
【0030】
この配管P2の他端は、チタン酸バリウムの合成を行う装置(第二合成装置SE2)における水系媒体を収容できる収容部T3に連通されている。この配管P2には、水置換部Eが介装されている。この水置換部Eは、収容部T2内から排出された水系媒体を水に置換する、例えば、静置型の沈降槽あるいは遠心分離機等である。つまり、収容部T2内から排出されたチタン酸水和物を含有する酸性の水系媒体が、チタン酸水和物を含有する水に置換されて収容部T3に供給されるように構成されているのである。
また、第二合成装置SE2は、収容部T3内の水系媒体に対して、バリウム源原料を供給する供給部F3が設けられている。また、収容部T3の周囲には、収容部T3内の水系媒体に対してマイクロ波を照射し得るマイクロ波照射手段M2が設けられている。つまり、第二合成装置SE2は、収容部T3において、収容部T3内に収容されている水系媒体をマイクロ波によって加熱して、バリウム源原料とチタン酸水和物からチタン酸バリウムを合成できるようになっているのである。
そして、収容部T3には、収容部T3内から水系媒体を排出する配管P3の一端が連結されており、合成されたチタン酸バリウムを、水系媒体とともに回収することができるようになっている。
【0031】
上記のごとき連続反応方式設備によりチタン酸バリウムを合成する作業を以下に説明する。
【0032】
まず、第一合成装置SE1における収容部T1に対して、供給部F1からチタン酸カリウムリチウム原料混合物を連続的に供給する。すると、収容部T1内の液体にはマイクロ波照射手段M1からマイクロ波が照射されているので、チタン酸カリウムリチウムが合成される。
合成されたチタン酸カリウムリチウムは、第一合成装置SE1の収容部T1から、配管P1によって水系媒体とともに連続的に排出され、水和物転換装置CEの収容部T2に対して供給される。
【0033】
水和物転換装置CEの収容部T2には、チタン酸カリウムリチウムを含む水系媒体に加えて、供給部F2から酸性溶液が供給されているから、収容部T2に収容されている水系媒体は所望の酸性度の酸性溶液に調整されているので、チタン酸カリウムリチウムはチタン酸水和物に転換される。
チタン酸水和物は、水和物転換装置CEの収容部T2から、配管P2によって水系媒体とともに連続的に排出され、第二合成装置SE2の収容部T3に対して供給される。
【0034】
第二合成装置SE2の収容部T3には、水置換部Eによって水に置換された後、チタン酸水和物を含む水系媒体に加えて、供給部F2からバリウム源原料も供給されており、しかも、収容部T3内の液体にはマイクロ波照射手段M2からマイクロ波が照射されているので、チタン酸バリウムが合成される。
そして、合成されたチタン酸バリウムは、第二合成装置SE2の収容部T3から、配管P3によって水系媒体とともに連続的に排出されるので、連続的にチタン酸バリウムを合成し回収することができるのである。
【0035】
上記の第一合成装置SE1における収容部T1が特許請求の範囲にいうチタン酸カリウムリチウム合成反応域に相当し、第二合成装置SE1における収容部T3が特許請求の範囲にいうバリウム挿入反応域に相当し、水和物転換装置CEにおける収容部T2が特許請求の範囲にいう水和物転換反応域に相当する。
【0036】
なお、連続反応方式を採用する場合、水系媒体中の反応物質は、少なくとも上述したような期間は各装置における容器の収容部に滞留している必要があるが、この滞留期間は、各装置における容器の収容部の容積や、設備を流れる反応物質を含有する水系媒体の流量を調整すれば、制御することができる。
また、連続反応方式は、全工程で採用する必要はなく、チタン酸バリウム原料混合物からチタン酸バリウムを合成する工程のみを連続反応方式としてもよいし、チタン酸カリウムリチウム原料混合物らチタン酸カリウムリチウムを合成する工程のみを連続反応方式としてもよい。
【実施例1】
【0037】
以下、本発明の方法によりチタン酸バリウムを合成した実施例を説明する。
チタン酸水和物からのチタン酸バリウム合成反応を、マイクロ波照射により加熱した場合(本実施例)と、ニクロム線によって加熱した場合(比較例)について、生成物を比較した。
なお、本実施例と比較例とは、加熱方法以外の条件は全て同じ条件とした。
【0038】
(本実施例)
Ti、KおよびLi源として二酸化チタン、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムを使用し、Ti:K:Liが原子比で1:1:0.3になると共に二酸化チタン1モル当たり水の使用量が0.3リットルになるように各原料を秤量、混合して原料スラリーを調製した。調製後の原料スラリーは、ニクロム線加熱方式のオートクレーブに充填し、温度250℃で24h反応させてチタン酸カリウムリチウム(K0.8Li0.27Ti1.73O4)を合成した。図2(B)に示すように、生成物のXRDチャートから、生成物がチタン酸カリウムリチウム(K0.8Li0.27Ti1.73O4)であることが確認できる。そして、合成した生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2(A)に示すが、綺麗な板状粒子形状を呈していることが分かる。
【0039】
生成したチタン酸カリウムリチウムは、これを0.5Mの塩酸中に添加して2h攪拌処理した。その後、塩酸を除去、純水で数回洗浄した後乾燥して固形物を回収した。この固形物は、X線解析の結果(図3(A))、チタン酸水和物(H1.07Ti1.73O4)で有ることが確認された。そして、固形物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3(A)に示すが、綺麗な板状粒子形状が維持されていることが分かる。
【0040】
次に、チタン酸水和物と水酸化バリウムを化学量論量で混合し、チタン酸水和物1モル当たり水の使用量が5リットルとなるようにスラリーを調製した。調製後の原料は、これを内容積90mlの耐圧式フッ素樹脂製反応器に充填した後、周波数2450MHz、最大出力1KW、自動温度制御機能付きのマイクロ波反応装置を用いて温度150℃で0.5hマイクロ波照射した。
【0041】
反応後のスラリーから、濾過、洗浄、乾燥によって粉体生成物を回収し、これのX線解析を行った。その結果を図4(B)に示すが、これより生成物がほぼ純粋なチタン酸バリウムから構成されていることが分かる。一方、図4(A)には粉体のSEM写真を示すが、チタン酸水和物の板状粒子形状が良好に維持されていることが分かる。即ち、本法により板状粒子形状を有するチタン酸バリウムが安定して製造出来ることが理解出来る。
【0042】
(比較例)
チタン酸水和物からのチタン酸バリウム合成反応を、マイクロ波照射によってでは無く、ニクロム線加熱方式のオートクレーブによって行った以外は実施例1と同様の原料、手法によってチタン酸バリウムの合成を試みた。その結果、最終生成物中に目的生成物であるチタン酸バリウムは殆ど認められず、反応が進行していないことが判明した。
そこで、ここでの反応時間を0.5hから12hに変更して合成を再度試みた。その結果、生成物は漸くチタン酸バリウムに転換された。しかしながら、この生成物をSEM観察したところ(図8)、チタン酸水和物の板状粒子形状のほとんどが破壊、微細化してしまっていることが判明した。
【実施例2】
【0043】
フラックス法で合成した針状チタン酸カリウム(K2Ti4O9・xH2O)(図5)を実施例1の本実施例と同様に酸処理してチタン酸水和物を獲得し(図6)、これに水酸化バリウムを添加して実施例1の本実施例と同様にマイクロ波反応装置および反応条件でチタン酸バリウムの合成を行った。
生成物のX線回折図およびSEM写真を図7に示すが、これより生成物は原料の針状粒子形状を維持したチタン酸バリウムであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法は、圧電材料や誘電体材料などに使用するチタン酸バリウムの製造に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸水和物からチタン酸バリウムを製造する方法であって、
前記チタン酸水和物とバリウム源原料と水系媒体とを混合してチタン酸バリウム原料混合物を形成し、該チタン酸バリウム原料混合物に対してマイクロ波を照射する
ことを特徴とする結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項2】
前記チタン酸水和物が、
チタン、カリウムおよびリチウム源原料と水系媒体とを混合してチタン酸カリウムリチウム原料混合物を形成し、該チタン酸カリウムリチウム原料混合物にマイクロ波を照射することによって得られたチタン酸カリウムリチウムを、酸性溶液中において水和物に転換したものである
ことを特徴とする請求項1記載の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項3】
マイクロ波が照射される、水系媒体からなるチタン酸バリウム生成反応域に対して、前記チタン酸バリウム原料混合物を連続的に供給し、前記チタン酸バリウム生成反応域からチタン酸バリウムを含む水系媒体を連続的に排出する
ことを特徴とする請求項1または2記載の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項4】
マイクロ波が照射される、水系媒体からなるチタン酸カリウムリチウム合成反応域に対して、前記チタン酸カリウムリチウム原料混合物を連続的に供給し、前記チタン酸カリウムリチウム合成反応域からチタン酸カリウムリチウムを含む反応物含有水系媒体を連続的に排出し、
排出された該反応物含有水系媒体を、酸性溶液からなる水和物転換反応域に連続的に供給し、該水和物転換反応域からチタン酸水和物を含有する酸性溶液を排出して、前記チタン酸バリウム生成反応域に連続的に供給する
ことを特徴とする請求項3記載の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項5】
前記チタン酸水和物が、板状または針状の結晶粒子形状を有している
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項1】
チタン酸水和物からチタン酸バリウムを製造する方法であって、
前記チタン酸水和物とバリウム源原料と水系媒体とを混合してチタン酸バリウム原料混合物を形成し、該チタン酸バリウム原料混合物に対してマイクロ波を照射する
ことを特徴とする結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項2】
前記チタン酸水和物が、
チタン、カリウムおよびリチウム源原料と水系媒体とを混合してチタン酸カリウムリチウム原料混合物を形成し、該チタン酸カリウムリチウム原料混合物にマイクロ波を照射することによって得られたチタン酸カリウムリチウムを、酸性溶液中において水和物に転換したものである
ことを特徴とする請求項1記載の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項3】
マイクロ波が照射される、水系媒体からなるチタン酸バリウム生成反応域に対して、前記チタン酸バリウム原料混合物を連続的に供給し、前記チタン酸バリウム生成反応域からチタン酸バリウムを含む水系媒体を連続的に排出する
ことを特徴とする請求項1または2記載の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項4】
マイクロ波が照射される、水系媒体からなるチタン酸カリウムリチウム合成反応域に対して、前記チタン酸カリウムリチウム原料混合物を連続的に供給し、前記チタン酸カリウムリチウム合成反応域からチタン酸カリウムリチウムを含む反応物含有水系媒体を連続的に排出し、
排出された該反応物含有水系媒体を、酸性溶液からなる水和物転換反応域に連続的に供給し、該水和物転換反応域からチタン酸水和物を含有する酸性溶液を排出して、前記チタン酸バリウム生成反応域に連続的に供給する
ことを特徴とする請求項3記載の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項5】
前記チタン酸水和物が、板状または針状の結晶粒子形状を有している
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の結晶粒子形状を制御したチタン酸バリウムの製造方法。
【図1】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2011−121794(P2011−121794A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279177(P2009−279177)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(599073917)財団法人かがわ産業支援財団 (35)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(599073917)財団法人かがわ産業支援財団 (35)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】
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