説明

結晶観察装置

【課題】液滴と背景との輝度差が小さい場合であっても、液滴部分の画像の抽出を容易とし、また、液滴の拡大画像を効率的に取得し得る結晶観察装置を提供する。
【解決手段】この結晶観察装置は、結晶化プレート12のウェル13内の液滴の表面を照らす照明装置14と結晶化プレート12との間に遮光板20を配している。そして、この遮光板20は、液滴の表面に明るい部分およびそれよりも暗い部分をつくるように配置される。ここで、液滴は、その中央部が周縁部よりも厚い平凸のレンズをなしている。そのため、遮光板20によって、液滴表面の照度の低い部分に、液滴のレンズ効果で屈折してできた照度の高い部分を投影させ、これにより、液滴の輪郭を明瞭にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化プレート内の液滴中の、タンパク質などの高分子化合物の結晶を観察する結晶観察装置に係り、特に、例えばタンパク質の結晶を観察するに際し、観察者が容易にタンパク質の結晶化判定が行えるように液滴の拡大画像を効率的に取得する上で好適な結晶観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の結晶観察装置では、例えばモニタ画面のある顕微鏡などで液滴内のタンパク質等の高分子化合物の結晶を観察する場合、観察者はモニタ画面を見ながらレンズ倍率を上げ下げしたり、結晶化プレートを動かしたりしながら各ウェルの液滴内の結晶の観察を行っている。ここで、観察者がモニタ画面から目視によってタンパク質等の結晶化判定を行う際は、液滴部分は照明光が液滴内を十分に透過して暗部の少ないことが望ましい。しかし、このような暗部の少ない画像は、液滴と背景との輝度差が小さい。そのため、液滴部分の画像の抽出が困難である。したがって、このような観察作業を複数のウェルごとに行うのは非常に時間が掛かる。
【0003】
また、目視によるタンパク質の結晶化判定は、液滴内に形成した微小な結晶を観察するために拡大画像が必要となる。しかし、このような拡大画像を取得する場合、観察用のカメラの光軸が液滴中心から大きくずれていると、液滴全体が充分に拡大されないままそれ以上ズームインすると画面からはみ出してしまう状態に達することや、いくら倍率を上げても画像上に液滴が写らないといったことが起こる。
そこで、例えば特許文献1に記載の技術では、観察画像中の輝度変化情報を利用して微分処理などの画像処理によって液滴部を背景から抽出する手法が提案されている。
【特許文献1】特開2004−345867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、画像処理によって液滴部分を抽出するものなので、上記のように液滴と背景との輝度差がほとんどない画像の場合には、画像処理のみによって液滴部分を確実に抽出するのは難しく未だ改善の余地がある。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、液滴と背景との輝度差が小さい場合であっても、液滴部分の画像の抽出を容易とし、また、液滴の拡大画像を効率的に取得し得る結晶観察装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、液滴中の高分子化合物の結晶を観察する結晶観察装置であって、結晶化プレートのウェル内の液滴表面を照らすように対向配置された照明装置と、その照明装置と前記結晶化プレートとの間に配置されて前記液滴の輪郭を強調するためのフィルタとを備え、前記フィルタは、前記液滴表面に、明るい部分およびそれよりも暗い部分の二つの明るさの異なる部分をつくるように配置されていることを特徴としている。
【0006】
本発明に係る結晶観察装置によれば、照明装置と結晶化プレートとの間に、液滴の輪郭を強調するためのフィルタを備えており、このフィルタは、液滴表面に明るい部分およびそれよりも暗い部分をつくるように配置されているので、このフィルタによる暗い部分によって液滴と背景との輝度差をつくりだし、これにより、液滴の輪郭を明瞭にすることができる。つまり、液滴は、その中央部が周縁部よりも厚い平凸のレンズをなしている。そのため、フィルタによって液滴表面につくられた暗い部分には、照明装置の光が液滴のレンズ効果で屈折してできた照度の高い部分が生じる。そのため、液滴の輪郭を明瞭にすることが可能である。したがって、液滴部分の画像の抽出を容易とし、これにより、観察者の観察作業の効率を向上させることができる。
【0007】
ここで、本発明に係る結晶観察装置において、前記フィルタは、前記液滴に対しその径方向に相対的にスライド移動可能に設けられていることは好ましい。このような構成であれば、液滴の輪郭を強調するためのフィルタを、液滴の径方向に相対的にスライド移動させることができるので、液滴表面につくる明るい部分およびそれよりも暗い部分を異なる割合でつくることができる。そのため、液滴の輪郭を一層明瞭にし得て、液滴の輪郭を把握する上でより好適である。したがって、液滴中の高分子化合物の結晶を観察するに際し、観察者の観察作業の効率をより向上させることができる。
【0008】
そして、本発明に係る結晶観察装置において、前記フィルタを前記液滴に対しその径方向に相対的にスライド移動させるスライド移動手段と、そのスライド移動手段での所定の移動段階での画像データを取得する画像データ取得手段と、前記画像データ取得手段で取得した画像データに基づいて画像処理を行って液滴中心を特定する液滴中心特定手段と、その液滴中心特定手段で特定された液滴中心と観察用のカメラの光軸とを一致させるカメラ光軸移動手段とを有することは好ましい。このような構成であれば、液滴中心と観察用のカメラの光軸とを自動的に一致させることができるので、観察者の観察作業の効率を一層向上させることができる。
【0009】
また、本発明に係る結晶観察装置において、前記液滴中心特定手段は、前記画像データ取得手段で取得したいずれか一の画像データに基づいて、当該いずれか一の画像データのみから液滴中心を特定する第一の特定手段と、前記第一の特定手段で液滴中心が特定されないときに、前記複数の段階に分けて取得した画像データのうち、左右端部に位置する情報をもつ二つの画像データを選定し、当該選定した二つの画像データのもつ前記左右端部に位置する情報から液滴中心を特定する第二の特定手段とを有することは好ましい。
【0010】
このような構成であれば、液滴の輪郭領域が鮮明な場合には、第一の特定手段によって、一の画像データのみから液滴の中心を特定するので、迅速な特定がなされ、これにより、処理時間を短縮することができる。また、液滴の輪郭領域が不鮮明で一の画像データのみからの特定が難しい場合には、第二の特定手段によって、左右端部に位置する二つの画像データから液滴の中心を特定するので、その分の処理時間を要するものの、液滴の輪郭領域が不鮮明な場合であっても、確実に液滴の中心を特定することができる。
【発明の効果】
【0011】
上述のように、本発明によれば、液滴中の高分子化合物の結晶を観察するに際し、液滴と背景との輝度差が小さい場合であっても、液滴部分の画像の抽出を容易とし、また、液滴の拡大画像を効率的に取得し得る結晶観察装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明に係る結晶観察装置に使用する結晶化プレートについて説明する。図1は、本発明に係る結晶観察装置に使用する結晶化プレートを示す図であり、同図(a)はその平面図、同図(b)はその正面図である。
同図に示すように、この結晶化プレート12は、ハンギングドロップ法用の結晶化プレートであり、この結晶化プレート12の表面には複数のウェル13が格子状に整列している。この結晶化プレート12の使用方法は、ウェル13にリザーバ溶液を分注し、別に用意するカバーガラス13aの表面に蛋白質溶液とリザーバ溶液との混合ドロップを作製した後、カバーガラスを反転させ、ウェル13の開口部にかぶせる。なお、ウェルの開口面には、予めグリスなどのシール剤が塗布されており、カバーガラス13aを載せるだけで、ウェル13の開口部が密閉されるようになっている。このようにして、ハンギングドロップ法では、カバーガラス13aの表面に液滴を作製し、そのカバーガラス13aを反転して結晶化プレート12上のウェル13の開口部にかぶせる作業を行った結晶化プレート12を用いる。
【0013】
以下、本発明に係る結晶観察装置の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図2は、本発明に係る結晶観察装置の一実施形態を説明するための斜視図である。
同図に示すように、この結晶観察装置10は、矩形の平板からなるテーブル2を有し、そのテーブル2上には、スライド移動装置3が設置されている。このスライド移動装置3は、テーブル2にその左右(X)方向に沿って固定された案内レール部3aと、その案内レール部3aに沿ってスライド移動可能に設けられたスライド移動部3bと、そのスライド移動部3bを駆動する電動アクチュエータ部3cとを備えて構成されている。そして、この電動アクチュエータ部3cは、制御部30に接続されており、制御部30からの制御信号に応じてスライド移動部3bを左右(X)方向に所望の移動量だけスライド移動可能になっている。
【0014】
また、このスライド移動装置3には、そのスライド移動部3bの上方且つ左右(X)方向の両側に一対の結晶化プレート支持部材3dが配置されている。これら一対の結晶化プレート支持部材3dは、スライド移動装置3よりもテーブル2の前後(Y)方向手前の側に張り出した、オーバーハングした状態で設けられている。そして、上述した結晶化プレート12が、このオーバーハングした状態で一対の結晶化プレート支持部材3d上に載置され、着脱可能に支持される。
【0015】
また、オーバーハングした状態の結晶化プレート12の下方のテーブル2上には、照明装置14が配置されており、この照明装置14によって下方から結晶化プレート12のウェル13内の液滴表面を照らすようになっている。さらに、この照明装置14と結晶化プレート12との間には、液滴表面の照度を調整して液滴の輪郭を強調するためのフィルタとして遮光板20が配置されており、この遮光板20によって、液滴表面に、明るい部分およびそれよりも暗い部分の二つの明るさの異なる部分をつくることができるようになっている(後に詳述する)。
【0016】
上記照明装置14は、テーブル2上に固定されており、また遮光板20は図示しない駆動装置により駆動されて、照明装置14の上部をカメラ11と同期して左右(X)方向に移動するようになっている。
さらに、上記テーブル2上には、スライド移動装置3よりも奥側に支柱4が立設されており、この支柱4の上部には、XY駆動装置15を介して観察用のカメラ11が装備されている。このカメラ11は、上記一対の結晶化プレート支持部材3d上に載置された結晶化プレート12の上方に対向配置されており、結晶化プレート12の表面を、上記照明装置14によって下方から照らされた液滴の反対の側から撮像することができる。
【0017】
また、このカメラ11は、ズーム機能を有し、撮像対象を拡大および縮小して撮像可能になっており、撮像された画像データは、制御部30に入力され、また、制御部30は、ディスプレイ等の表示装置32に接続されており、撮像された画像等を表示装置32に表示するようになっている。そして、XY駆動装置15は制御部30に接続されており、制御部30からの制御信号に応じて駆動して、カメラ11を、上記左右(X)方向および前後(Y)方向のそれぞれに移動させ、これにより、結晶化プレート12上での必要な位置に位置させることが可能になっている。
【0018】
次に、この結晶観察装置10の制御部30についてより詳しく説明する。
制御部30は、以下いずれも図示しない、所定の制御プログラムに基づいて、演算およびこの結晶観察装置10のシステム全体を制御するCPUと、所定領域に予めCPUの制御プログラム等を格納しているROMと、ROM等から読み出したデータやCPUの演算過程で必要な演算結果を格納するためのRAMと、上記カメラ11、XY駆動装置15、スライド移動装置3の電動アクチュエータ部3c、表示装置32およびキーボード等の入力装置34を含めた外部装置に対してデータの入出力を媒介するI/F(インターフェイス)とを有して構成されている。これらは、データを転送するための信号線であるバスで相互にかつデータ授受可能に接続されている。そして、入力装置34からは、結晶観察装置10を作動させる所定の操作信号が、観察者によるスイッチ操作により入力されるようになっている。
【0019】
ここで、この制御部30は、観察者が入力装置34から所定の操作信号を入力すると、結晶化プレート12のウェル13内の液滴中心を特定する液滴中心特定処理を実行し、XY駆動装置15を駆動して、その液滴中心特定手段で特定された液滴中心と観察用のカメラ11の光軸とを一致させ、これにより、観察者が容易に結晶化の判断が行えるようになっている。
【0020】
以下、この制御部30での液滴中心特定処理について図3および図4を適宜参照しつつ説明する。なお、図3および図4は、制御部30で実行される液滴中心特定処理のフローチャートであり、図3は液滴中心特定処理全体を、また、図4は、図3での第一および第二特定処理のそれぞれを示している。
この結晶観察装置10では、観察者が入力装置34から所定の操作信号を入力すると、制御部30では、図3に示す液滴中心特定処理がCPUにおいて実行されて、まず、ステップS1に移行するようになっている。
【0021】
ステップS1では、遮光板20およびXY駆動装置15が同期して駆動されて、これにより、結晶化プレート12に対し、カメラ11および遮光板20を予め設定した距離ずつ左右(X)方向に移動し、液滴に対しその径方向に複数の段階(n)に分けて移動させたn枚の画像をカメラ11で撮影し、各段階(n)の画像それぞれを制御部30内の所定の記憶領域に記憶し、ステップS2に移行する。
ステップS2では、一連の第一の特定処理が実行されてステップS3に移行する。ここで、この第一の特定処理は、ステップS1で取得したいずれか一の画像データに基づいて、当該いずれか一の画像データのみから液滴中心を特定する処理である。なお、以下説明する第一ないし第二の特定処理において、画像データの二値化および領域分割等の画像処理は、通常なされる画像処理同様の処理なので、詳しい説明は省略する。
【0022】
この第一の特定処理では、図4(a)に示すように、まず、ステップS11に移行して、最初の一の画像データ(i)を呼び出して、ステップS12に移行し、ステップS12では、画像データ(i)を二値化してステップS13に移行し、ステップS13では、二値化した画像データ(i)を領域分割してステップS14に移行する。そして、ステップS14では、液滴として認識可能か否かが判断され、認識可能(液滴有り)と判断した場合(Yes)にはステップS15に移行し、そうでないときには(No)ステップS16に移行して画像データ(i)がn枚目の画像か否かを判定し、n枚目の画像であれば(Yes)処理を戻し、そうでなければ(No)ステップS17に移行して次の一の画像データ(i=i+1)を指定し、処理をステップS11に戻す。そして、ステップS15では、液滴として認識された一の画像データ(i)の液滴中心の座標を算出し、処理を戻す。そして、続くステップS3では、液滴中心の座標が特定されたか否かを判定し、特定されていれば(Yes)ステップS6に移行し、そうでなければ(No)ステップS4に移行する。
【0023】
ステップS4では、一連の第二の特定処理が実行されてステップS5に移行する。ここで、この第二の特定処理は、ステップS2での第一の特定手段で液滴中心が特定されないときに、前記複数の段階(n)に分けて取得した画像データのうち、左右端部に位置する情報をもつ二つの画像データを選定し、当該選定した二つの画像データのもつ左右端部に位置する情報から液滴中心を特定する処理である。
【0024】
詳しくは、図4(b)に示すように、この第二の特定処理では、まず、ステップS21に移行して、最初の一の画像データ(i)を呼び出して、ステップS22に移行し、ステップS22では、画像データ(i)を二値化してステップS23に移行し、ステップS23では、二値化した画像データ(i)を領域分割してステップS24に移行する。そして、ステップS24では、遮光領域の境界線を抽出する処理がなされてステップS25に移行する。ステップS25では、抽出された遮光領域の境界線が右に凸か否かが判断され、右に凸(Yes)と判断した場合にはステップS28に移行し、ステップS28では、最も右端部に位置する座標を最右端座標として記憶してステップS29に移行する。一方、右に凸でないと判断した場合には(No)ステップS26に移行し、ステップS26では、画像データ(i)がn枚目の画像か否かを判定し、n枚目の画像であれば(Yes)処理を戻し、そうでなければ(No)ステップS27に移行して次の一の画像データ(i=i+1)を指定し、処理をステップS21に戻す。
【0025】
そして、ステップS29では、抽出された遮光領域の境界線が左に凸か否かが判断され、左に凸(Yes)と判断した場合にはステップS30に移行し、ステップS30では、最も左端部に位置する座標を最左端座標として記憶してステップS31に移行する。そして、ステップS31では、最右端座標と最左端座標とから液滴中心の座標を算出し、処理を戻す。一方、左に凸でないと判断した場合には(No)ステップS26に移行する。そして、ステップS5では、液滴中心の座標が特定されたか否かを判定し、特定されていれば(Yes)ステップS6に移行し、そうでなければ(No)ステップS1に処理を戻す。
【0026】
そして、ステップS6では、特定された液滴中心の座標を記憶してステップS7に移行し、ステップS7では、上記特定された液滴中心の座標と観察用のカメラ11の光軸の座標とを一致させるように上記XY駆動装置15が駆動され相互の座標を一致して処理を終了する。
ここで、上述のスライド移動装置3が上記スライド移動手段に対応し、観察用のカメラであるカメラ11が上記画像データ取得手段を兼ねてこれに対応している。また、制御部30で実行される液滴中心特定処理でのステップS1〜ステップS6が上記液滴中心特定手段に対応し、そのうちのステップS2(ステップS11〜S16)が上記第一の特定手段に対応し、ステップS4(ステップS21〜S31)が上記第二の特定手段に対応している。また、上記XY駆動装置15および液滴中心特定処理でのステップS7が上記カメラ光軸移動手段に対応している。
【0027】
次に、この結晶観察装置10の作用・効果について図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図5は、液滴の輪郭を強調して画像を取得するイメージを示した図であり、遮光板をスライド移動することによって変遷する画像のイメージ((a)〜(f))を示している。また、図6〜図9は、液滴中心特定処理で液滴の輪郭を認識する際に、液滴の輪郭を強調して画像を取得するイメージを示した図であり、各図下側は結晶化プレート12のウェル13の縦断面を模式的に示し、また、各図上側は各図下側のときにカメラ11に撮像される画像のイメージを示している。
【0028】
この結晶観察装置10を使用して液滴中のタンパク質の結晶を観察するときは、観察者は、図2に示すように、ハンギングドロップ法用の結晶化プレート12を結晶観察装置10の一対の結晶化プレート支持部材3d上に載置する。次いで、観察するウェル13およびその下方に位置する照明装置14に対し、カメラ11、遮光板20を液滴が画像中の遮光領域内に収まるよう、所定位置に位置させる。その後、観察者は、入力装置34から所定の操作信号を入力する。これにより、制御部30では、液滴中心特定処理が実行されることになるが、まず、観察するウェル13の画像撮影が開始される(撮像工程)。この画像撮影では、カメラ11および遮光板20を、予め設定した距離ずつ、液滴に対しその径方向に複数の段階(n)に分けて移動させ、カメラ11でn枚の画像を撮影し、これを制御部30内の所定の記憶領域に記憶する(ステップS1)。
【0029】
ここで、この結晶観察装置10によれば、照明装置14と結晶化プレート12との間に、液滴の輪郭を強調するためのフィルタとして遮光板20を設置しているので、画像撮影の際、液滴表面に、明るい部分およびそれよりも暗い部分の二つの明るさの異なる部分をつくることができる。これにより、撮影された画像からの液滴Eの輪郭の抽出が容易になる。
すなわち、照明装置14と結晶化プレート12との間に遮光板20を配した状態で、液滴に対しその径方向に複数の段階(n)に分けて遮光板20を相対移動させて画像を撮影すると、撮影された画像は、図5(a)〜(d)に示すように変遷する。
【0030】
つまり、初期の図5(a)に示す画像においては、遮光板20の影(遮光領域S)の中にある液滴Eは、遮光板20の移動によって徐々に照明領域Hに現れてくる。ここで、図6にイメージを示すように、ハンギングドロップ法での液滴Eは、その中央部CLが周縁部よりも厚い平凸のレンズをなしている。そのため、遮光板20によって液滴Eの表面につくられた暗い部分には、照明装置14の照明光Lが液滴Eのレンズ効果で屈折してできた照度の高い部分Z1が生じるものと考えられる。そのため、照明領域Hに現れた液滴Eの輪郭Zは、図6に示すように、液滴Eのレンズ効果によって遮光板20を投影する。したがって、照明領域Hに現れた液滴Eの輪郭は、背景の照明領域Hよりも低輝度になり、これにより、液滴Eの輪郭Zの抽出が容易になるのである(図5(b)参照)。なお、各図での符号Gは、液滴Eのレンズの焦点である。また、符号Wはウェル13の輪郭である。
【0031】
同様にして所定距離毎に撮像される画像は、図7にイメージを示すように投影されて図5(c)に示すように撮像され、更に遮光板20の移動が進み、図8にイメージを示すように投影される。そのため、液滴Eの左端部が遮光領域Sの外にでる直前には、今度は液滴Eのレンズ効果によって照明光Lを投影するので、これにより、図5(d)に示すように、遮光領域Sに現れた液滴Eの輪郭Zは、背景の遮光領域Sよりも高輝度となり、やはり上記と同様にして、液滴Eの輪郭Zが明瞭となり、その抽出が容易になる。
【0032】
次に、制御部30は、上記の撮像工程で撮影されたn枚の画像から液滴中心特定処理によって液滴Eの中心座標を求める。ここで、この制御部30の液滴中心特定処理は、第一の特定処理(ステップS2)および第二の特定処理(ステップS4)の二つのステップで行われる。そして、図5(f)に示すように、背景との輝度差が大きい液滴Eの場合には、第一の特定処理の段階で中心座標を求めることができる。
【0033】
つまり、例えば図9にイメージを示すように、液滴Eの形状や厚み、さらにはウェル13の底部Dのレンズ効果等の条件によっては、液滴全体が完全に遮光領域Sの外に出た状態においても、液滴Eの輪郭Zと背景との輝度に差が生じる場合がある。そして、この場合において、図5(f)に示すように、一の画像のみから液滴Eの輪郭Zを十分に認識でき、液滴Eの輪郭Zの抽出が容易な場合もある。そこで、この制御部30の液滴中心特定処理では、液滴Eの輪郭Zが鮮明な場合には、第一の特定処理で、一の画像データのみから液滴Eの中心を特定するので、処理時間を短縮することができる(ステップS2〜S3)。
【0034】
また、先の第一の特定処理で液滴の抽出が成功しなかった場合には、次の第二の特定処理に移行し、この第二の特定処理では、図5(b)に示すように、遮光領域Sから照明領域H側に突出した部分ZRを液滴Eの右側の端部部分と推定し、この最も右側の端部部分ZRの座標である最右端座標を求め、これをその撮像位置での最右座標として記憶する。
そして、処理が進んでゆくと、液滴Eは、図5(d)に示すような状態で、こんどは左側の端部が照明領域Hから遮光領域S側に突出したような状態となるため、この突出した部分ZLを液滴Eの左側の端部部分と推定し、この最も左側の端部部分ZLの座標である最左端座標を求め、これをその撮像位置での最左座標として記憶する。そして、上記記憶した最右座標および最左座標との中間点を液滴Eの中心座標と推定し、その座標を求める。これにより、液滴Eの輪郭Zが不鮮明で一の画像データのみからの液滴Eの輪郭Zの特定が難しい場合であっても、左右端部に位置する二つの画像データから液滴の中心を特定することができるので、その分の処理時間を要するものの、確実に液滴の中心を特定可能である(ステップS4〜S5)。
【0035】
最後に、求めた液滴Eの中心座標から現在のカメラ11の光軸と液滴Eの中心との距離を算出し、カメラ11をXY駆動装置15で移動させて、液滴中心を画像中心と一致させる。そして、その状態からカメラ11をズームインさせれば、効果的に液滴Eの拡大画像が得られる(ステップS7)。なお、この遮光板20は駆動装置を備えていて、結晶化プレート12に対して相対的に可動式になっており、液滴Eの拡大画像を撮影する際には、待避位置まで移動することによって陰影の少ない画像を撮影することが可能である。
【0036】
以上説明したように、この結晶観察装置10によれば、照明装置14と結晶化プレート12との間に遮光板20を設置し、これによって照明光Lを遮って、液滴Eの表面に明るい部分およびそれよりも暗い部分の二つの明るさの異なる部分をつくり、低輝度の遮光領域Sが液滴Eに投影されるようにすることによって、液滴Eの輪郭Zと背景との輝度差を明瞭にして液滴Eの輪郭Zの分離抽出を容易にすることができる。したがって、液滴Eと背景との輝度差が小さい場合であっても、液滴部分の画像の抽出を容易とし、また、液滴の拡大画像を効率的に取得することができる。
【0037】
なお、本発明に係る結晶観察装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、遮光板をフィルタとして用いたが、これに限定されず、液滴表面に、明るい部分およびそれよりも暗い部分の二つの明るさの異なる部分をつくり、液滴の輪郭Zを強調することができるフィルタであれば、種々のフィルタを採用することができる。しかし、二つの明るさの異なる部分を液滴表面に簡単につくる上では、フィルタとして遮光板を用いることは好ましい。
【0038】
また、例えば、上記実施形態では、遮光板20は、結晶化プレート12の液滴に対しその径方向にスライド移動可能に設けられている例で説明したが、これに限定されず、例えば遮光板20は固定構造とし、その遮光板20に対して結晶化プレート12をスライド移動可能に設けてもよい。しかし、撮影された画像からの液滴Eの輪郭の抽出をより容易にする上では、遮光板を、液滴に対しその径方向に相対的にスライド移動可能に設け、例えば上記実施形態のようにその径方向に複数の段階に分けて相対的にスライド移動させて各段階それぞれの画像データを取得するように構成することは好ましい。
【0039】
また、例えば、上記実施形態では、制御部30での液滴中心特定処理は、第一の特定処理(ステップS2)および第二の特定処理(ステップS4)の二つのステップで行われる例で説明したが、これに限定されず、第二の特定処理のみによって液滴中心を特定するものであってもよい。しかし、液滴Eの輪郭の抽出をより確実なものとする上では、上記実施形態のように、二つのステップで液滴中心を特定することは好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ハンギングドロップ法に使用する結晶化プレートの一例を示す図であり、同図(a)はその平面図、同図(b)はその正面図である。
【図2】本発明に係る結晶観察装置の一実施形態を説明するための斜視図である。
【図3】制御部で実行される液滴中心特定処理のフローチャートである。
【図4】制御部で実行される液滴中心特定処理のフローチャートである。
【図5】液滴の輪郭を強調して画像を取得するイメージを示した図であり、遮光板をスライド移動することによって変遷する画像のイメージ((a)〜(f))を示している。
【図6】液滴の輪郭を強調して画像を取得するイメージを示した図である。
【図7】液滴の輪郭を強調して画像を取得するイメージを示した図である。
【図8】液滴の輪郭を強調して画像を取得するイメージを示した図である。
【図9】液滴の輪郭を強調して画像を取得するイメージを示した図である。
【符号の説明】
【0041】
2 テーブル
3 スライド移動装置(スライド移動手段)
4 支柱
10 結晶観察装置
11 カメラ
12 結晶化プレート
13 ウェル
14 照明装置
15 XY駆動装置(カメラ光軸移動手段)
20 遮光板(フィルタ)
30 制御部
32 表示装置
34 入力装置
CL 液滴の中央部
E 液滴
H 照明領域
L 照明光
S 遮光領域
W ウェルの輪郭
Z 液滴の輪郭
ZL 左側の端部部分
ZR 右側の端部部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴中の高分子化合物の結晶を観察する結晶観察装置であって、
結晶化プレートのウェル内の液滴表面を照らすように対向配置された照明装置と、その照明装置と前記結晶化プレートとの間に配置されて前記液滴の輪郭を強調するためのフィルタとを備え、前記フィルタは、前記液滴表面に、明るい部分およびそれよりも暗い部分の二つの明るさの異なる部分をつくるように配置されていることを特徴とする結晶観察装置。
【請求項2】
前記フィルタを前記液滴に対しその径方向に相対的にスライド移動させるスライド移動手段と、そのスライド移動手段での所定の移動段階での画像データを取得する画像データ取得手段と、前記画像データ取得手段で取得した画像データに基づいて画像処理を行って液滴中心を特定する液滴中心特定手段と、その液滴中心特定手段で特定された液滴中心と観察用のカメラの光軸とを一致させるカメラ光軸移動手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の結晶観察装置。
【請求項3】
前記液滴中心特定手段は、前記画像データ取得手段で取得したいずれか一の画像データに基づいて、当該いずれか一の画像データのみから液滴中心を特定する第一の特定手段と、前記第一の特定手段で液滴中心が特定されないときに、前記複数の段階に分けて取得した画像データのうち、左右端部に位置する情報をもつ二つの画像データを選定し、当該選定した二つの画像データのもつ前記左右端部に位置する情報から液滴中心を特定する第二の特定手段とを有することを特徴とする請求項2に記載の結晶観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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