説明

結晶軸傾斜膜の製造方法

【課題】基板の位置をターゲットに正対する位置から基板表面に平行な方向にずらした位置とした斜め入射スパッタ法を用いた従来の結晶軸傾斜膜の製造方法と比較して、製造時間を短縮し、膜厚の均一性を向上させる。
【解決手段】ターゲット10に正対する位置から基板表面20に平行な方向にずらした位置に基板20を配置した斜め入射スパッタ法により、基板表面20a上に結晶軸傾斜膜のシード層21を形成するシード層形成工程と、形成したシード層21の表面を平坦化する平坦化工程と、ターゲット10に正対する位置に基板20を配置した垂直入射スパッタ法により、平坦化されたシード層21の表面上に、シード層21と同じ材料にてエピタキシャル成長させた成長層23を形成する成長層形成工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶軸傾斜膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜を用いて横波型弾性表面波(SH波)を励振する方法の1つとして、基板表面の法線方向に対して結晶軸を傾斜配向させた圧電薄膜、例えば、六方晶系のc軸を傾斜配向させた圧電薄膜を用いる方法がある。
【0003】
また、磁気記録媒体として、基板表面の法線方向に対して結晶軸が傾斜している結晶軸傾斜膜を有するものがある(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0004】
そして、このような結晶軸傾斜膜は、斜め入射スパッタ法により製造される(例えば、特許文献1〜4参照)。斜め入射スパッタ法は、一般的に、結晶軸傾斜膜を成長させる基板を、ターゲットに正対する位置から基板表面に平行な方向にずらした位置に配置することで、ターゲットからの被スパッタ粒子を、基板表面の法線方向に対して所定の入射角度をもって基板表面に衝突させる方法である。
【0005】
結晶軸の傾斜角度は、被スパッタ粒子の基板への入射角度によって決まり、被スパッタ粒子の基板への入射角度は、ターゲットと基板の位置関係によって決まる。このため、結晶軸の傾斜角度を大きくするためには、基板の位置を、ターゲットに正対する位置から基板表面に平行な方向へ遠ざけることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−116124号公報
【特許文献2】特開2002−203312号公報
【特許文献3】特開2002−260218号公報
【特許文献4】特開平5−143988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一般的に、スパッタ法では、スパッタ粒子はターゲット表面に垂直に入射し、ターゲットから飛び出す被スパッタ粒子もターゲット表面の法線方向に飛び出していくものが最も多く、ターゲット表面の法線方向に対して傾斜した方向に飛び出すものは、それよりも少なくなる。
【0008】
このため、基板の位置をターゲットに正対する位置から基板表面に平行な方向にずらした位置とした斜め入射スパッタ法を用いた従来の結晶軸傾斜膜の製造方法は、結晶軸傾斜膜の製造に時間がかかってしまう。
【0009】
また、上述の斜め入射スパッタ法では、基板表面に入射する被スパッタ粒子の入射量が基板面内で均一ではないため、膜厚が均一な結晶軸傾斜膜が得られない。
【0010】
なお、被スパッタ粒子の基板への入射角度を大きくするにつれて、基板表面に入射する被スパッタ粒子の入射量が少なくなるとともに、基板面内でより不均一となることから、このような問題は結晶軸の傾斜角度を大きくした場合に顕著となる。
【0011】
本発明は上記点に鑑みて、基板の位置をターゲットに正対する位置から基板表面に平行な方向にずらした位置とした斜め入射スパッタ法を用いた従来の結晶軸傾斜膜の製造方法と比較して、製造時間の短縮と、膜厚の均一性の向上が可能な結晶軸傾斜膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、
ターゲット(10)に正対する位置から基板表面(20a)に平行な方向にずらした位置に基板(20)を配置した斜め入射スパッタ法により、基板表面(20a)上に結晶軸傾斜膜のシード層(21)を形成するシード層形成工程と、
シード層(21)の表面を平坦化する平坦化工程と、
ターゲット(10)に正対する位置に基板(20)を配置した垂直入射スパッタ法により、平坦化されたシード層(21)の表面上に、シード層(21)と同じ材料にてエピタキシャル成長させた成長層(23)を形成する成長層形成工程とを有することを特徴としている。
【0013】
なお、本発明において、基板の位置が「ターゲットに正対する位置」とは、基板の中心軸とターゲットの中心軸とが一致する位置関係を意味し、基板の位置が「ターゲットに正対する位置から基板表面に平行な方向にずらした位置」とは、基板の中心軸とターゲットの中心軸とが一致せず、ずれている位置関係を意味する。
【0014】
このように、本発明では、まず、シード層形成工程を行うことで、結晶軸が基板表面の法線方向に対して傾斜したシード層を形成する。このとき、形成されたシード層は、膜厚が均一ではないので、平坦化工程を行うことで、シード層の表面を平坦化する。
【0015】
続いて、成長層形成工程を行うことで、平坦化されたシード層の表面上に、シード層と同じ材料にてエピタキシャル成長させた成長層を形成することで、結晶軸傾斜膜を製造する。このとき、成長層では結晶粒が基板表面に垂直な方向に成長するが、下地のシード層の結晶軸方向に倣って、結晶軸が基板表面の法線方向に対して傾斜した向きとなって、結晶粒が成長する。
【0016】
ここで、成長層形成工程で行う垂直入射スパッタ法の方が、上述の斜め入射スパッタ法よりも、基板表面に入射する被スパッタ粒子の入射量が多く、被スパッタ粒子の入射量の基板面内での均一性が高い。
【0017】
したがって、本発明によれば、斜め入射スパッタ法で成膜し続ける従来の結晶軸傾斜膜の製造方法と比較して、結晶軸傾斜膜の製造時間を短縮でき、膜厚の均一性を向上できる。
【0018】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、平坦化工程は、シード層(21)の表面にスパッタ現象を生じさせるものであることを特徴としている。
【0019】
これによれば、平坦化工程をスパッタ装置から基板を取り出すことなく行うことができ、シード層形成工程、平坦化工程および成長層形成工程を、同じスパッタ装置内で連続して行うことができる。
【0020】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の発明において、シード層形成工程は、ターゲット(10)と基板(20)の間に、スリット(31)を有する遮蔽部材(30)を配置するとともに、ターゲット(10)とスリット(31)との位置関係を一定に保ちながら、基板表面(20a)に平行な方向に、ターゲット(10)と基板(20)とを相対移動させながら、斜め入射スパッタ法によりシード層(21)を形成することを特徴としている。
【0021】
これによれば、スリットを通過した被スパッタ粒子のみを基板表面に到達させることができ、基板表面に到達する被スパッタ粒子の入射角度を限定できるので、スリットを有する遮蔽部材を用いない場合と比較して、シード層における結晶軸の傾斜角度の均一性を向上できる。
【0022】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の発明において、ターゲット(10)として、シード層形成工程と成長層形成工程とで、それぞれ、予め異なる位置に配置されたものを用いることを特徴としている。
【0023】
これによれば、シード層形成工程と成長層形成工程とを、同じスパッタ装置を用いて、基板やターゲットの位置を変更せずに行うことができる。
【0024】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の発明において、シード層形成工程では、表面の全部もしくは一部が、基板表面(20a)に平行な面に対して傾斜した傾斜面(10b)であるターゲット(10)を用い、傾斜面(10b)に対して垂直な仮想延長線上に基板(20)を配置することを特徴とする。
【0025】
これによれば、ターゲット表面全体が基板表面に平行な平坦面である場合と比較して、シード層の形成時間を短縮できる。
【0026】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の発明は、例えば、請求項6に記載のように、横波型弾性表面波の励振用の圧電薄膜を製造することができる。
【0027】
請求項7に記載のように、シード層形成工程では、ターゲット表面(10a)の中心と基板表面(20a)の中心とを結んだ直線と、基板表面(20a)の法線とのなす角度が20〜40度となる位置に、基板(20)を配置することが好ましい。これにより、電気機械結合係数k15が大きな圧電薄膜を製造できるからである。
【0028】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1実施形態におけるScAlN膜の製造方法を示す図である。
【図2】第2実施形態におけるScAlN膜の製造方法を示す図である。
【図3】図2中の破線で囲まれた領域の上面図である。
【図4】膜厚およびc軸傾斜角度が不均一になった場合のシード層を示す図である。
【図5】第3実施形態におけるScAlN膜の製造方法を示す図である。
【図6】第4実施形態におけるScAlN膜の製造方法を示す図である。
【図7】(a)〜(c)は、それぞれ、第4実施形態で用いるターゲットの表面形状の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0031】
(第1実施形態)
図1(a)〜(c)に、本実施形態におけるScAlN膜の製造方法を示す。本実施形態は、スパッタ装置を用いて、SH波の励振用の圧電薄膜であって、六方晶系のScAlN膜を製造するものである。
【0032】
まず、図1(a)に示すように、ScAlN膜のシード層形成工程を行う。
【0033】
この工程では、スパッタ装置内において、ターゲット10に正対する位置に基板20を配置するのではなく、ターゲット10に正対する位置から基板表面20aに平行な方向にずらした位置に、基板20を配置する。具体的には、図1(a)に示すように、ターゲット10の真上の位置から水平方向にずらした位置に、基板20を配置する。
【0034】
このとき用いるスパッタ装置は、RF(高周波)マグネトロンスパッタ装置であり、ターゲット10は、マグネット12を有する陰極13の上に設置される。スパッタ装置としては、基板位置を、図1(a)に示す位置とターゲット10に正対する位置とに変更可能なものであれば、一般的なスパッタ装置を採用できる。なお、ターゲット10はScAlN膜の原料からなるものである。
【0035】
そして、このように基板20を配置した斜め入射スパッタ法を行う。すなわち、ターゲット10に高周波電圧をかけて、ターゲット10にスパッタ現象(スパッタリング現象)を生じさせ、ターゲット10の被スパッタ粒子11を基板表面20aの法線に対して所定の入射角度θ1を持たせて基板20に入射させる。これにより、基板表面20a上にc軸が基板表面20aの法線方向に対して傾斜したシード層21を形成する。
【0036】
このとき、被スパッタ粒子11が基板表面20aに対して斜めに入射するので、シード層21では、柱状の結晶粒22が基板表面20aに対して斜めの方向に成長し、基板20の影響を受けなければ、c軸は柱状の結晶粒22の成長方向と平行、すなわち、基板表面20aに対して斜めの方向に成長する。したがって、c軸の向きに影響を及ぼさない基板20を用いことが望ましく、このような基板20としては、例えば、石英等を採用できる。
【0037】
本実施形態では、SH波の励振用の圧電薄膜を形成するために、基板面内において、シード層21におけるc軸の向きがすべて揃うように、シード層21を形成する。また、シード層21の厚さは、良好な結晶配向性のc軸の傾斜膜が得られる厚さであれば良く、後述の成長層23よりも薄いことが好ましい。
【0038】
また、シード層21は、被スパッタ粒子11が所定の入射角θ1を持って衝突することにより形成されていることから、シード層21の表面は平坦ではない。
【0039】
そこで、膜厚が均一なScAlN膜を得るために、図1(b)に示すように、シード層21の表面を平坦化する平坦化工程を行う。
【0040】
ところで、平坦化しない場合、シード層21の最表面には、c軸が並んだ面22aと、それとは異なる面22bとの両方が存在する。c軸が並んだ面22aとはc軸の向きに垂直な結晶格子面のことである。
【0041】
これに対して、シード層21の最表面を平坦化することにより、シード層21の最表面には、c軸が並んだ面22aのみを出すことができるので、平坦化しない場合に比べ、配向性を向上できる。
【0042】
平坦化方法としては、ターゲット10ではなく基板20側のシード層21の表面にスパッタ現象を生じさせる方法を採用することができる。例えば、シード層形成工程で用いたスパッタ装置内で、高周波電圧を印加する対象を基板20側に切り替えることにより、基板20側に対して高周波電圧をかけて、シード層21に対して逆スパッタを行う。
【0043】
これによれば、シード層形成工程で用いたスパッタ装置から基板20を取り出すことなく平坦化工程を行うことができ、シード層形成工程、平坦化工程および次の成長層形成工程を、同じスパッタ装置内で連続して行うことができる。
【0044】
その後、図1(c)に示すように、成長層形成工程を行う。
【0045】
この工程では、シード層形成工程および平坦化工程に用いたスパッタ装置において、基板20の位置をターゲット10に正対する位置に変更する。
【0046】
そして、このように基板20を配置した垂直入射スパッタ法を行う。すなわち、ターゲット10にスパッタ現象を生じさせ、ターゲット10の被スパッタ粒子11を基板表面20aに対して垂直に入射させる。これにより、平坦化されたシード層21の表面上に、シード層21と同じ材料にてエピタキシャル成長させた成長層23を形成する。
【0047】
このとき、被スパッタ粒子11が基板表面20aに対して垂直に入射するので、成長層23では、柱状の結晶粒24が基板表面20aに垂直な方向に成長するが、下地のシード層21の表面上にエピタキシャル成長することで、シード層21のc軸方向に倣って、c軸は基板表面20aに対して傾斜した向きとなる。
【0048】
このようにして、シード層21と成長層23とを形成することで、c軸が基板表面20aの法線方向に対して傾斜したScAlN膜を製造することができる。
【0049】
なお、製造されるScAlN膜のc軸の傾斜角度については、シード層形成工程における被スパッタ粒子11の入射角度θ1によって調整でき、すなわち、ターゲット10と基板20との位置関係によって調整できる。
【0050】
特に、SH波の励振効率に関係する電気機械結合係数k15を大きくするためには、シード層形成工程において、ターゲット表面10aの中心と基板表面20aの中心とを結んだ直線と基板表面20の法線とのなす角度を20〜40度程度とすることが好ましい。
【0051】
また、高傾斜角度のc軸傾斜ScAlN膜を製造するためには、シード層形成工程において、ターゲット表面10aと基板表面20aの間隔L1を20mm程度まで近づけたり、基板20の位置を、基板表面20aの法線方向に基板20を投影したときに、ターゲット10と重複しない位置としたりすることが望ましい。
【0052】
以上の説明の通り、本実施形態では、ScAlN膜の成膜工程を、シード層形成工程と、成長層形成工程とに分けている。
【0053】
ここで、成長層形成工程で行う垂直入射スパッタ法の方が、シード層形成工程で行う斜め入射スパッタ法よりも、基板表面に入射する被スパッタ粒子の入射量が多く、被スパッタ粒子の入射量の基板面内での均一性が高い。
【0054】
さらに、本実施形態では、シード層形成工程で形成されたシード層21は、膜厚が均一ではないので、成長層形成工程前に、シード層表面の平坦化工程を行うようにしている。
【0055】
したがって、本実施形態によれば、斜め入射スパッタ法で成膜し続ける従来の結晶軸傾斜膜の製造方法と比較して、c軸傾斜ScAlN膜の製造時間を短縮でき、膜厚の均一性を向上できる。
【0056】
なお、本実施形態では、成長層形成工程を行う前に、基板20の位置を変更したが、基板20の位置を変更する代わりに、ターゲット10の位置を変更しても良い。要するに、本実施形態のように、1つのターゲット10を用いて、シード層形成工程と成長層形成工程の両方を行う場合は、成長層形成工程を行う前に、ターゲット10と基板20とを相対的に移動させれば良い。
【0057】
(第2実施形態)
図2に、本実施形態におけるScAlN膜の製造方法を示す。また、図3に、図2中の破線で囲まれた領域の上面図を示す。本実施形態は、第1実施形態に対して、シード層形成工程を変更したものであり、平坦化工程および成長層形成工程は、第1実施形態と同様である。以下では、この変更点について説明する。
【0058】
本実施形態では、図2に示すように、ターゲット10と基板20との間に、スリット31を有する遮蔽部材30を配置する。この遮蔽部材30は、特定の入射角度θ1をなす方向に向かう被スパッタ粒子11のみを、スリット31を介して、基板20に到達させ、それ以外の被スパッタ粒子11を遮蔽するものである。スリット31は、基板表面20aの全域よりも小さく、図3に示すように、例えば、細長い形状である。なお、遮蔽部材30は、被スパッタ粒子11の軌道が変わらないよう絶縁体であることが望ましい。
【0059】
そして、基板20をターゲット10に対し、基板表面20aに平行な方向に、一定の速度で移動させながら、第1実施形態と同様に斜め入射スパッタ法によりシード層21を形成する。
【0060】
ここで、第1実施形態のシード層形成工程では、基板20に入射する被スパッタ粒子11の入射角度θ1および入射量が基板面内で均一ではないため、図4に示すように、基板表面20a上に形成されるシード層21は、基板面内において、結晶粒22の成長方向が不均一になりやすく、膜厚およびc軸傾斜角度が不均一になりやすい。
【0061】
これに対して、本実施形態では、斜め入射スパッタ法を行う際に、ターゲット10と基板20との間にスリット31を有する遮蔽部材30を配置するので、スリット31を通過した被スパッタ粒子11のみを基板表面20aに到達させることができ、基板20に到達する被スパッタ粒子11の入射角度θ1をある程度限定できる。この結果、本実施形態によれば、基板表面20a上に形成されるシード層21のc軸傾斜角度の均一性を向上することができる。また、基板20を一定の速度で移動させることで、シード層21の膜厚の均一性を向上することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、基板20を移動させながら、斜め入射スパッタ法を行ったが、基板20を移動させる代わりに、ターゲット10および遮蔽部材30を移動させても良い。要するに、本実施形態では、基板20に到達する被スパッタ粒子11の入射角度θ1を限定するように、ターゲット10とスリット31との位置関係を一定に保ちながら、基板表面20aに平行な方向に、ターゲット10と基板20とを相対移動させれば良い。
【0063】
(第3実施形態)
図5に、本実施形態におけるScAlN膜の製造方法を示す。本実施形態は、第1実施形態に対して、シード層形成工程と成長層形成工程とで、ターゲットを使い分けるように変更したものであり、以下では、この変更点について説明する。
【0064】
本実施形態では、スパッタ装置として、図5に示すように、2つのターゲットを予め異なる位置に配置できるものを使用する。
【0065】
そして、シード層形成工程用のターゲット10および陰極13(第1のターゲットおよび第1の陰極)を、基板20に正対する位置から基板表面20aに平行な方向にずらした位置に配置し、成長層形成工程用のターゲット10および陰極13(第2のターゲットおよび第2の陰極13)を、基板20に正対する位置に予め配置しておく。
【0066】
シード層形成工程では、シード層形成工程用のターゲット10を用いて、第1実施形態と同様に、斜め入射スパッタ法により、シード層21を形成する。一方、成長層形成工程では、成長層形成工程用のターゲット10を用いて、第1実施形態と同様に、垂直入射スパッタ法により、成長層23を形成する。
【0067】
第1実施形態では、成長層形成工程を行う前に、基板20とターゲット10とを相対移動させたが、本実施形態のように、シード層形成工程と成長層形成工程とで、それぞれ、予め異なる位置に配置されたターゲットを用いることで、シード層形成工程から成長層形成工程までを、基板20やターゲット10の位置を変更せずに連続で行うことができる。
【0068】
(第4実施形態)
図6に、本実施形態におけるScAlN膜の製造方法を示す。本実施形態は、第3実施形態に対して、シード層形成工程用のターゲットの形状を変更したものであり、以下では、この変更点について説明する。
【0069】
第1〜第3実施形態で用いたターゲット10は、図1、2、5に示すように、表面10aの全体が基板表面20aに平行な平坦面であった。このため、RFマグネトロンスパッタ法によるシード層21の形成時では、ターゲット10の表面10aに対しスパッタ粒子は垂直に入射し、被スパッタ粒子11も垂直方向に飛び出していくものが最も多く、ターゲット表面10aの法線に対する傾斜が大きくなるほど(基板表面20aの法線に対する被スパッタ粒子11の入射角度θ1が大きくなるほど)、被スパッタ粒子11は少なくなる。このため、斜め入射スパッタ法では、基板20まで到達する被スパッタ粒子11の量が少なく、スパッタレートが小さいことから、シード層21の形成に時間がかかる。
【0070】
そこで、本実施形態では、使用するスパッタ装置において、シード層形成工程用のターゲット10として、図6に示すように、表面に複数の山部を有する鋸形状のターゲット10を用い、山部の傾斜面10bに対して垂直な仮想延長線上に基板20を配置する。
【0071】
これによれば、ターゲット表面全体が基板表面に平行な平坦面である場合と比較して、基板20に到達する被スパッタ粒子11の量を増やすことができ、すなわち、スパッタレートを上げることができ、シード層21の形成時間を短縮できる。
【0072】
なお、図6に示すターゲット10は、鋸形状であったが、ターゲット10として他の表面形状を有するものを用いても良い。図7(a)〜(c)に、ターゲット10の断面図を示す。
【0073】
ターゲット10として、例えば、図7(a)に示すように、表面に複数の山部を有し、各山部が傾斜面10bを有するものや、図7(b)に示すように、表面全部が傾斜面10bであるものを用いることができる。このように、ターゲット表面の全部もしくは一部が、基板表面20aに平行な面に対して傾斜した傾斜面10bを有するターゲット10を用いることができる。
【0074】
また、ターゲット10として、例えば、図7(c)に示すように、表面に複数の凸部を有し、凸部の断面形状が半円形状であることにより、表面に曲面10cを有するターゲットを用いることもできる。このようにしても、ターゲット表面全体が基板表面に平行な平坦面である場合と比較して、スパッタレートを上げることができ、シード層21の形成時間を短縮できる。
【0075】
(他の実施形態)
(1)上述の各実施形態では、平坦化工程におけるシード層21の表面の平坦化方法として、シード層21の表面をスパッタする方法を採用したが、シード層21の表面を機械的に研磨する方法を採用しても良い。
【0076】
(2)上述の各実施形態では、ScAlN膜の製造方法に本発明を適用したが、AlN膜等の六方晶系や他の結晶系の圧電薄膜の製造方法や、圧電薄膜以外の膜の製造方法においても、本発明の適用が可能である。また、上述の各実施形態では、スパッタ装置として、RFマグネトロンスパッタ装置を用いたが、成膜可能であれば、他のスパッタ装置を用いても良い。
【0077】
(3)上述の各実施形態を実施可能な範囲で組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0078】
10 ターゲット
11 被スパッタ粒子
20 基板
20a 基板表面
21 シード層
22 シード層の結晶粒
23 成長層
24 成長層の結晶粒
30 遮蔽部材
31 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット(10)にスパッタ現象を生じさせ、ターゲット(10)の被スパッタ粒子を基板(20)の表面(20a)に衝突させるスパッタ法により、前記基板表面(20a)上に前記基板表面の法線方向に対して結晶軸が傾斜した結晶軸傾斜膜を製造する結晶軸傾斜膜の製造方法であって、
ターゲット(10)に正対する位置から前記基板表面(20a)に平行な方向にずらした位置に前記基板(20)を配置した斜め入射スパッタ法により、前記基板表面(20a)上に前記結晶軸傾斜膜のシード層(21)を形成するシード層形成工程と、
前記シード層(21)の表面を平坦化する平坦化工程と、
ターゲット(10)に正対する位置に前記基板(20)を配置した垂直入射スパッタ法により、平坦化された前記シード層(21)の表面上に、前記シード層(21)と同じ材料にてエピタキシャル成長させた成長層(23)を形成する成長層形成工程と、
を有することを特徴とする結晶軸傾斜膜の製造方法。
【請求項2】
前記平坦化工程は、前記シード層(21)の表面にスパッタ現象を生じさせるものであることを特徴とする請求項1に記載の結晶軸傾斜膜の製造方法。
【請求項3】
前記シード層形成工程では、前記ターゲット(10)と前記基板(20)の間に、スリット(31)を有する遮蔽部材(30)を配置するとともに、前記ターゲット(10)と前記スリット(31)との位置関係を一定に保ちながら、前記基板表面(20a)に平行な方向に、前記ターゲット(10)と前記基板(20)とを相対移動させながら、前記斜め入射スパッタ法により前記シード層(21)を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の結晶軸傾斜膜の製造方法。
【請求項4】
前記ターゲット(10)として、前記シード層形成工程と前記成長層形成工程とで、それぞれ、予め異なる位置に配置されたものを用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の結晶軸傾斜膜の製造方法。
【請求項5】
前記シード層形成工程では、表面の全部もしくは一部が、前記基板表面(20a)に平行な面に対して傾斜した傾斜面(10b)であるターゲット(10)を用い、前記傾斜面(10b)に対して垂直な仮想延長線上に前記基板(20)を配置することを特徴とする請求項4に記載の結晶軸傾斜膜の製造方法。
【請求項6】
前記結晶軸傾斜膜は、横波型弾性表面波の励振用の圧電薄膜であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の結晶軸傾斜膜の製造方法。
【請求項7】
前記シード層形成工程では、前記ターゲット表面(10a)の中心と前記基板表面(20a)の中心とを結んだ直線と、前記基板表面(20a)の法線とのなす角度が20〜40度となる位置に、前記基板(20)を配置することを特徴とする請求項6に記載の結晶軸傾斜膜の製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−14806(P2013−14806A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148274(P2011−148274)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】