説明

結晶軸配向性とファセット(結晶面)を制御した微結晶構造窒化物半導体光・電子素子

【課題】新規な半導体光素子を提供すること。
【解決手段】それぞれ異なる結晶面(ファセット)を有する結晶粒から成る多結晶もしくは微結晶窒化物半導体(以後単に多結晶窒化物半導体)を基体としており、各結晶粒のファセットがランダムになることを利用した、もしくはその構造を制御することを特徴とした半導体電子素子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶・微結晶構造からなる半導体電子素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体電子素子とは、pn接合またはpinなどダブルヘテロ接合を有する発光ダイオード(以下、「LED」という。)や太陽電池や光センサなどの受光素子、ディスプレイなどに用いる電子放出素子などの光や電子を放出・吸収する半導体素子をいう。
【0003】
近年、窒化物半導体を用いた紫外、青、緑色発光ダイオードや蛍光体を組み合わせた白色発光ダイオードは既に実用化されている。
【0004】
中でも白色発光ダイオードは、現在の蛍光灯に代わる第4の照明として着目されており、発光効率などの特性は近年蛍光灯と同等もしくはそれ以上(>150lm/W)という報告もあり目覚しい進展をみせている。
【0005】
白色発光ダイオードの市場は今後大きく発展し、2015年には6500億円にものぼると予想されている。これらのことを考慮した場合、現在の窒化物系発光ダイオードのコストダウンは非常に重要な課題である。またディプレイなどへの応用も考えるとより大きな基板上に作製することが重要である。現在の窒化物半導体発光ダイオードは、サファイア基板上に成長しており、この基板の価格は2インチサイズで約1万円前後であり、またサファイア基板の大面積化は難しく、これらの問題が価格や応用面での問題となっている。
【0006】
これらの問題を解決する手法の一つとして、より安価で大面積化が容易なガラス基板などのアモルファス基板や多結晶窒化物半導体基板の使用が考えられる。事実、下記の特許文献にはサファイア単結晶基板に代わる大面積・安価な基板として多結晶・アモルファス基板を用いた窒化物半導体光デバイスに関する技術が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000-133841号公報
【0008】
特許文献1の技術では、石英基板上に多結晶窒化ガリウム(以後GaN)発光ダイオードを作製している。しかし、この多結晶発光ダイオードの発光強度は単結晶発光ダイオードに比べて100倍弱いと報告されている。
【0009】
このような多結晶発光ダイオードにおける特性悪化の主要因は単結晶との結晶品質の違いにある。特許文献1では、低温GaN緩和層を堆積するなどの工夫をし、可能な限り単結晶発光ダイオードに近い構造や特性を得ることを試みている。しかし、通常、多結晶構造では単結晶に比べ結晶粒界が格段に多いため、この粒界に存在する転位などの欠陥が非発光センターとなり、発光効率が大幅に低減してしまう。
【0010】
またこのような理由から、従来の多結晶基板上の発光ダイオードではコストを抑えることができても効率が悪く、低コストで且つ高効率な多結晶発光ダイオードの実現は非常に困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
つまり、多結晶構造を基体とする高効率発光ダイオードなどの光素子を実現するには、結晶粒界で起きる非発光再結合を低減し、高効率化を実現しなければならない。そのためには、単にアモルファス基板や多結晶基板上に単結晶上の素子構造と類似した構造を作りこむのではなく、多結晶構造の特性を活かした新しい素子構造やその成長手法の開発が必要不可欠である。
【0012】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、安価で大面積化が容易な多結晶窒化物半導体基板を用いて、新規高効率光素子構造とその作製手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、それぞれ異なる結晶面(ファセット)を有する結晶粒から成る多結晶もしくは微結晶窒化物半導体(以後単に多結晶窒化物半導体)を基体としており、各結晶粒のファセットがランダムになることを利用した、もしくはその構造を制御することを特徴とした半導体電子素子である。
【0014】
ここで述べる多結晶窒化物半導体は、半導体内に含まれる各結晶粒の平均直径が、GaN結晶における少数キャリアの拡散長(数十nm)よりも十分長い1mm以上であることを特徴とする。例えば、電子・光学顕微鏡の100mm2以上の像において、2つ以上の結晶方位の異なる結晶粒・微結晶から形成され、かつ各結晶粒・微結晶の面積の標準偏差が少なくても1mm2以上であることを特徴とする多結晶窒化物半導体を意味する。
【0015】
各微結晶もしくはその結晶粒の結晶軸配向、ファセットの形状、サイズ、混晶組成を制御し、異なった結晶面上での異なった結晶作製プロセスを同時進行させることにより、結晶面ごとの特性の違いを利用した白色を含む発光波長制御が可能な半導体光素子である。
【0016】
InGaNやAlGaN混晶を用いてこれらの多結晶・微結晶半導体を形成すれば、各結晶粒ごとの混晶成長過程の違いから層厚や混晶組成が不均一性を示すことを利用し、蛍光体などを必要としない新しい白色光源としての応用が可能な半導体光素子が形成可能であり、まったく新しい安価・簡易な手法で白色光デバイスの形成が可能となる。
【0017】
多結晶窒化物半導体は、X線回折測定の2θ/θスキャンにおいて2つ以上の異なる結晶面方位からの回折が見られることを特徴とする半導体電子素子である。
【0018】
多結晶窒化物半導体素子の基板材料としては紫外・可視・近赤外波長領域で透明な低コスト多結晶材料を好適とするが、単結晶基板やさらに安価な非晶質基板など、いかなる材料も利用可能であり、多結晶基板に限るものではない。
【0019】
本発明の一手段に係る多結晶窒化物半導体光素子は、上記の特徴を有する多結晶構造を基体とし、第1の量子井戸構造を含む活性層と、更に、この活性層を挟んで形成される第2のn型半導体クラッド層と、第3のp型クラッド層、それぞれに接続される一対のコンタクト層と、そのコンタクト層のそれぞれに接続される第一の電極及び第二の電極と、を有することも好ましい。
【0020】
また上記各手段において、第1多結晶半導体層はInxGa1-xN(0<x<1)、もしくはAlyGa1-z-yInzN(0<y<1、0<z<1)の式で表される多結晶窒化物半導体で形成される。
【0021】
第2のn型クラッド層は、多結晶活性層に電子キャリアを注入・閉じ込めるために形成される層であり、限定されるわけではないが例えばGaN、InGaN混晶又はAlGaN混晶多結晶にSi等を不純物として注入した層を好適に用いることができる。
【0022】
第3のp型クラッド層は、多結晶活性層に正孔キャリアを注入・閉じ込めるために形成される層であり、限定されるわけではないが例えばGaN、InGaN混晶又はAlGaN混晶多結晶にMg等を不純物として注入した層を好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上、本発明により、新規な多結晶半導体光素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明者らは、安価で大面積化が容易な多結晶半導体を用い、更にそれぞれ異なる結晶面を積極的に利用することで多結晶独自の特徴を活かした新しい光電子素子が開発できる点に想到し、本発明を完成するに至った。
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は多くの異なる実施の形態、実施例として表すことができ、本実施形態、実施例に狭く限定されることがないのはいうまでもない。
【0026】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る窒化物多結晶半導体の表面電子顕微鏡像(SEM:40×30mm2イメージ)である。同時に後方電子回折像(EBSP)により得た各結晶粒の結晶方位解析結果も示す。SEMとEBSPの結果を比較することにより、本実施形態に係る多結晶半導体が様々な結晶方位を持つ多結晶体であり、各結晶粒内では結晶方位が揃っており、結晶粒一つ一つの結晶品質は比較的高いと考えられる。この多結晶は比較的大きい結晶粒(この場合の平均結晶粒面積の標準偏差は40mm2)を持ち、GaN結晶における少数キャリアの拡散長(数十nm)よりもこの結晶粒面積が十分に大きいので結晶粒界の影響が小さく、それぞれランダムに配向した結晶粒から高効率発光が得られる可能性が高い。現在まで報告されている多結晶半導体研究のほとんどは、いかに単結晶半導体の結晶性に近づけるかという考えで研究が進められていたが、本発明では多結晶・微結晶構造のランダムな結晶配向性を積極的に利用するところに特徴がある。
【0027】
図2は本実施形態に係る多結晶発光ダイオード(LED)構造の概略図である。本実施形態に係るLEDは、基板1、低温緩和層2、n型コンタクト層3、n型クラッド層4、活性層5、p型クラッド層6、p型コンタクト層7を順に積層して構成されている。またn型コンタクト層3上には第一の電極8が、p型コンタクト層7上には第二の電極9が形成されており、第一と第二の電極の間に電圧を印加することで活性層5に正孔及び電子を注入し、発光させることが可能である。
【0028】
基板1は、この上部に形成されるGaN等の各多結晶層を成長させるために用いられるものであり、またGaN結晶における少数キャリアの拡散長(数十nm)よりも十分大きい結晶粒面積を持つ多結晶層を成長させるために用いられるものである。限定されるわけではないが例えばAlNやGaN多結晶窒化物半導体基板やサファイア基板やSiC基板、ガラスなどのアモルファス基板、金属基板を基板に用いることができる。ここで、十分に大きい結晶粒を持つ多結晶層とは、例えば電子顕微鏡、光学顕微鏡像(100mm2以上のサイズ)において、2つ以上の結晶方位の異なる結晶粒・微結晶から形成され、各結晶粒・微結晶の面積の標準偏差が少なくても1mm2以上であることを特徴とする。
【0029】
低温緩和層2は、基板1上に成長する多結晶層の被覆率や平坦性向上させるための層であり、また上記結晶粒径を持つ多結晶層を成長するための層であり、限定されるわけではないがGaN多結晶やAlGaN混晶、InGaN混晶低温緩和層を好適に用いることができる。
【0030】
また低温緩和層2は、膜の被覆とその後の結晶化・結晶粒の増大のために用いることもできる。例えば、本実施例において基板1として、ガラスなどのアモルファス基板も用いることができるが、この場合まず低温緩和層を堆積後、基板温度を適切な温度に上昇することによって結晶化させ、結晶粒を大きくし、面積1mm2以上の複数の結晶粒を持つ多結晶構造の成長が可能となる。
【0031】
n型コンタクト層3は、n型クラッド層4との導通を図るために形成される層であり、限定されるわけではないが例えばGaN多結晶、InGaN混晶又はAlGaN混晶多結晶にSi等を不純物として注入した層を好適に用いることができる。
【0032】
n型クラッド層4は、電子を活性層5に注入するためのものであって、限定されるわけではないが例えばGaN多結晶、AlGaN混晶やInGaN混晶多結晶にSi等を不純物として注入した層を好適に用いることができる。
【0033】
活性層5は、基板1、コンタクト層2、クラッド層3上に形成されるため、ランダムに配向した多結晶窒化物半導体構造から成る。今まで報告されている多結晶半導体素子では、この多結晶構造を可能な限り単結晶構造に近づける努力が主流であったが、本実施形態では、このランダムに配向した結晶粒を積極的に利用することで新しい機能の発現が可能であることを示す。例えば“K.
Nisizuka et. al., Appl. Phys. Lett., 85, 3122(2004)”ではInGaN混晶を活性層に用いた量子井戸構造において、そのIn組成やInGaN井戸層厚が下地層の結晶方位によって大きくことなり、360-450nm付近から異なる発光波長の光が検出されている。これらの発光は(0001)、(11-22)、(11-20)面からの発光であり、結晶方位ごとにInの組成やInGaN混晶の組成が異なるためだと考えられる。つまり様々な結晶方位を作りだし、InGaN混晶を成長すればIn組成もランダムに制御できる可能性がある。 これらの手法を利用すれば、現在の紫外LEDに蛍光体を用いて作製される白色LEDとは根本的に異なる手法で、まったく新しい白色LEDの実現が可能となる。
【0034】
しかし、上記文献記載の技術では、単結晶サファイア上に成長を行っており、LED構造自体も単結晶であるため、特殊な加工を施さない限り、多様な結晶方位をもつ単結晶構造を実現するのは困難であり、従来の蛍光体+紫外LEDを基体とした白色LEDよりもコストの面で大幅に上回ってしまう。本実施形態では、元々多結晶半導体を基体としているため、ランダムな結晶方位を有する活性層の形成が容易である。またサファイアなどの高価な基板を用いずに作製ができるため、コストの面で従来の白色LEDよりも断然に優れている。
【0035】
本実施形態に係る活性層5は、例えばInGaN混晶多結晶からなり、ランダムに配向した結晶粒ごとにIn組成の取り込み過程やInGaN混晶の成長速度が異なるため、結晶粒ごとに異なる発光波長を持つと考えられる。これらの配向性や各InGaN多結晶粒のIn組成のランダム性を積極的に利用、制御することで蛍光体を用いないまったく新しい白色LED構造の実現が期待できる。
【0036】
p型クラッド層6は、正孔を多結晶活性層5に注入するために用いられるものであり、この層としては、限定されるわけではないが例えばGaN多結晶又はAlGaN混晶、InGaN混晶多結晶にMg等を不純物として注入した層を好適に用いることができる。
【0037】
p型コンタクト層7は、正孔を活性層5に注入するために用いられるものであって、限定されるわけではないが例えばGaN多結晶やInGaN混晶、AlGaN混晶多結晶にMg等を不純物として注入した層を好適に用いることができる。
【0038】
第一の電極8は、活性層5に電子を注入させるために用いられるものであって、導電性を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えばアルミニウム(Al)やチタン(Ti)、金(Au)等により構成される電極層を好適に用いることができる。
【0039】
第二の電極9は、活性層5に正孔を注入するために用いられるものであって、導電性を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えばパラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、金(Au)等により構成される電極層を好適に用いることができる。
【0040】
以上、本実施形態に係る多結晶LEDは、第一の電極及び第二の電極の間に電圧が印加され、活性層5に電子及び正孔が注入されることで発光する。
【0041】
本発明に係る多結晶半導体を基体とした光素子は、現在の白色LEDの大幅なコストの低下や大面積化において産業上重要な素子と成り得る。また更に、可視光域に広い発光および受光波長を有することができるため、安価で高効率な太陽電池などへの利用が可能である。
【0042】
ここで、本実施形態に係る多結晶LEDの製造方法について説明する。本実施形態に係るLEDの製造方法は、基板1に低温緩和層2を形成する工程、n型コンタクト層3を形成する工程、n型クラッド層4を形成する工程、活性層5を形成する工程、p型クラッド層6を形成する工程、p型コンタクト層7を形成する工程、第一の電極8を形成する工程、第二の電極9を形成する工程、を有している。
【0043】
多結晶LED構造は、限定されるわけではないが例えば有機金属気相成長法、MBE法又はパルスレーザー堆積法を用いることができる。
【0044】
基板1は、この上部に形成されるGaN等の各多結晶層を成長させるために用いられるものであり、またGaN結晶における少数キャリアの拡散長(数十nm)よりも十分大きい結晶粒面積を持つ多結晶層を成長させるために用いられるものである。限定されるわけではないが、例えばGaNやAlN多結晶窒化物半導体基板やサファイア基板やSiC基板、ガラスなどのアモルファス基板、金属基板を基板に用いることができる。ここで、十分に大きい結晶粒を持つ多結晶層とは、例えば電子顕微鏡像や光学顕微鏡像(100mm2以上のイメージサイズ)において、2つ以上の結晶方位の異なる結晶粒・微結晶から形成され、各結晶粒・微結晶の面積の標準偏差が1mm2以上であることを特徴とする。
【0045】
基板1によっては多結晶半導体の被覆率や平坦性が異なるため、低温緩和層2を用いて被覆率や平坦性を向上させることができる。低温緩和層は限定されるわけではないが多結晶AlNやGaN、InNやその混晶で形成される。成長温度は例えば550℃程度の低温で成長する。
【0046】
基板1にn型コンタクト層2を形成する工程は、基板1として導電性を有する多結晶半導体基板や金属基板、アモルファス基板、単結晶基板を用いる場合、本工程は省略可能である。
【0047】
n型クラッド層3を形成する際の基板温度は、形成する層の材料によって異なるため適宜調整が可能であるが、SiドープGaN多結晶層を形成する場合は800℃以上1100℃以下が好ましい範囲である。厚みは約数μmである。
【0048】
活性層5は、例えばInGaN混晶多結晶からなり、ランダムに配向した結晶粒ごとにIn組成の取り込み過程やInGaN混晶の成長速度が異なるため、結晶粒ごとに異なる発光波長を持つと考えられる。成長温度は例えば600℃から800℃の範囲であり、InGaN多結晶活性層の厚さは10〜100nmであるか、それ以下である。InGaN混晶は、下地の各結晶粒の情報をひきついで成長し、結晶粒ごとに結晶方位が異なるため、成長速度とIn原料の取り込まれ率が異なる。結果として、ランダムに形成された結晶粒により、XIn=0〜0.5の異なるIn組成を持つInGaN結晶粒が容易に形成可能であり、こららのInGaN多結晶粒のIn組成のランダム性を積極的に利用、制御することで蛍光体を用いないまったく新しい白色LED構造の実現が期待できる。
【0049】
p型クラッド層6、p型コンタクト層7を形成する工程は、上記n型クラッド層4を形成する工程と材料が異なる以外ほぼ同様の工程を採用することができる。
【0050】
第一の電極8を形成する工程は、限定されるわけではないが、真空蒸着により形成することができる。第一の電極9はn型コンタクト層2の上に形成されるため、例えばフォトリソグラフィとドライエッチングを用いてn型コンタクト層2を露出させた後、第一の電極9を形成させる態様が好ましい。なおフォトリソグラフィを採用する場合、フォトリソグラフィに先立ち、SiO等の保護膜をプラズマCVD法等で全面に製膜することも好ましい態様である。なお第一の電極8は、形成した後、窒素雰囲気下でアニールすることでオーミック電極とすることが好ましい。
【0051】
第二の電極9を形成する工程は、限定されるわけではないが、真空蒸着により形成することができる。本工程は限定されるわけではないが、例えばSiO等の保護膜をプラズマCVD法等で全面に製膜し、p型コンタクト層8上に電流注入窓をパターニングにより形成し、その部分に第二電極9を形成することが好ましい形態である。また第二の電極9も、第一の電極と同様、窒素雰囲気下でアニールすることオーミック電極とすることが好ましい。なお、上記アニール、保護膜の製膜は第一の電極8の形成工程のものと同時に行うことができる。
【0052】
以上の工程により、本実施形態に係る多結晶LEDを製造することができる。
【0053】
本実施形態の一つとして太陽電池への応用も可能である。太陽電池の構造は本実施形態に係るLEDと類似しており、各層厚は異なるものの基板1、低温緩和層2、n型コンタクト層3、n型クラッド層4、多結晶活性層5、p型クラッド層6、p型コンタクト層7、を順に積層して構成されており、n型コンタクト層2上には第一の電極8が、p型コンタクト層7上には第二の電極9がそれぞれ積層されている。本実施形態における上記各層、各電極は、機能においてほぼ実施形態1と同様であり、その説明については省略する。
【実施例】
【0054】
以上の実施形態に係る多結晶半導体素子の効果を確認すべく、実際に多結晶AlN基板上GaN、InGaN多結晶構造を作成し、評価した。以下説明する。
【0055】
(多結晶AlN基板上GaN多結晶構造の製造方法)
基板には多結晶AlN基板を用いた。成長には有機金属気相(MOCVD)成長法を用いてGaN多結晶低温緩和層を成長後、GaN多結晶層を2〜7μm成長させた。
【0056】
(多結晶AlN基板上GaN多結晶成長における低温緩和層の効果)
成長工程は、まず多結晶AlN基板をMOCVD装置内で30分間1100℃で熱処理した後、550℃の低温でGaN緩和層を形成し、その後基板温度を1080℃に昇温し、多結晶GaN層を成長した。
GaN低温緩和層の有無によりGaN多結晶層の表面被覆率が変化する。図3に多結晶GaNの低温緩和層の有無による表面モフォロジーの変化を示した。ここで、成長圧力は200Torr一定とした。表面の電子顕微鏡像を比較すればわかるように、GaN低温緩和層を用いた場合、表面の被覆率が向上していることがわかる。つまり、GaN低温緩和層が多結晶GaN層の被覆率の増加において効果的であることがわかる。低温緩和層を用いて成長した多結晶GaNの被覆率は81%であるが、用いない場合は66%まで下がっている。
【0057】
(多結晶AlN基板上GaN多結晶成長における成長圧力の効果1)
低温緩和層の効果が確認できたので、すべての成長工程に上記のGaN低温緩和層を挿入し、今度は成長圧力を変えて多結晶GaN層を成長した。成長温度は1080℃一定とし、成長圧力を30、76、200、300Torrと変化させて1時間成長を行った。図4に表面および断面の電子顕微鏡像を示す。成長圧力が低下するに従い、表面の多結晶GaNの被覆率が100%に近づくことがわかる。
また断面電子顕微鏡像から、多結晶GaNの各結晶粒は、基板である多結晶AlNの結晶粒に沿って成長していることがわかり、各結晶粒の特性自体は単結晶そのものと同等であると考えられる。
また成長圧力を低くすると、表面の平坦性が向上していることがわかる。このことから成長圧力を適宜選ぶことにより、表面被覆率と表面平坦性を制御可能であることがわかる。
【0058】
(多結晶AlN基板上GaN多結晶成長における成長圧力の効果2)
図5に成長圧力を変化させて成長した多結晶GaNサンプルのX線回折測定結果を示す。比較のためGaNを成長していない多結晶AlN基板の結果も示す。多結晶構造の形成を示す複数の結晶方位からの回折ピークが観測されている。多結晶GaNサンプルでは明らかに多結晶AlNからとは異なるピークが観測されており、GaN多結晶が成長していることが確認できる。これらの回折ピークも成長圧力により変化し、成長圧力が30Torrと低い場合、(0002)面の回折ピークが強くなっており多結晶膜の配向性が向上していることがわかる。
つまり、低成長圧力30Torrにおいて表面被覆率、平坦性、配向性が改善されている。
【0059】
(多結晶AlN基板上GaN多結晶成長における成長圧力の効果3)
図6に成長圧力を変化させて成長した多結晶GaNサンプルの室温フォトルミネッセンススペクトルを示す。ここでは比較のため市販されている単結晶バルクGaN基板のフォトルミネッセンス測定結果も同時に示す。多結晶GaNからの発光強度は成長圧力が高いほど高く、30Torrと低い圧力ではバルクGaNに比べ発光ピーク強度が約1/10まで減少した。しかし、300Torrで成長したサンプルでも、発光強度はバルクGaNサンプルと同等であったが、GaNの禁制帯幅(360nm)以外の低エネルギー側の発光が支配的であった。
【0060】
(多結晶AlN基板上GaN多結晶成長における成長温度依存性1)
次に多結晶GaNの成長温度依存性を調べた。成長圧力は比較的良好な光学特性を示した300Torrを採用し、多結晶GaNの成長温度を550、700、800、900、1080℃と変化させた。図7に多結晶GaNの表面電子顕微鏡像を示す。成長温度1080℃では被覆されていない領域も見られるが、成長圧力の制御と同様に成長温度を下げることによっても被覆率が向上し、900℃以下ではほぼ100%の被覆率を達成することができた。また表面の粗さ(RMS値で表示)は成長温度が低くなるほど小さくなり、550℃でもっとも低い0.09mmという値が得られた。以上の結果は成長温度を適宜選択することにより、被覆率や表面平坦性を制御することが可能であることを示している。
【0061】
(多結晶AlN基板上GaN多結晶成長における成長温度依存性2)
図8に成長温度を変化させた多結晶GaNサンプルの室温フォトルミネッセンススペクトルを示す。比較のため単結晶バルクGaNサンプルの結果も同時に示す。成長温度を900℃としたサンプルは、単結晶バルクGaNとほぼ同等の発光強度と半値幅を示すことがわかった。つまり、成長圧力や成長温度を最適化することにより、大きな結晶粒をもつ多結晶構造の被覆率や平坦性、そして光学特性の改善が可能であることがわかった。具体的には、優れた光学特性を持つ多結晶GaN構造の実現には(1)低温GaN緩和層の導入(2)高成長圧力(〜300Torr)(3)最適な成長温度(〜900℃)の選定が重要であることがわかった。
このような多結晶GaNサンプルにおける優れた光学特性は、GaNにおける少数キャリアの拡散長(数十nm)よりも十分大きい面積を持つランダム配向結晶粒を積極的に用いた結果である。つまり、安価で大面積化が容易な多結晶構造においても、各多結晶・微結晶粒のランダム制御により高効率発光が得られ、光デバイス応用が十分可能であることが実験的に示唆された。
【0062】
(実施例2)
(多結晶InGaN混晶の成長)
次に多結晶・微結晶粒のランダム制御による効果を調べるために、上述した多結晶GaN上に多結晶InGaN混晶を成長し、各結晶粒に成長したInGaN混晶の組成やその光学特性について調べた。
【0063】
多結晶InGaN混晶の成長は、上述した多結晶GaN膜上に成長温度700-800℃で成長を行った。成長圧力は200Torr一定とした。成長温度、インジウムとガリウムの原料供給比を変化させることで組成の異なるInGaN混晶の作製を行い評価した。
【0064】
図9に多結晶InGaNの表面・断面電子顕微鏡像(約70μm×100μm)を示す。多結晶InGaN混晶の結晶粒面積の標準偏差は約130mm2であり、GaN単結晶の少数キャリアの拡散長よりも十分に大きい結晶粒が形成されていることがわかる。また断面像から多結晶AlN基板上にInGaN/GaN多結晶構造が各下地結晶粒に沿って成長が起きていることがわかる。
【0065】
図10に多結晶InGaNサンプルの表面電子顕微鏡像とそのEBSP測定結果を示す。二つの像の比較から各結晶粒が異なる面方位を持つ多結晶構造を形成していることが確認でき、各結晶粒は単結晶に近い結晶性を有することがわかる。図9(b)のEBSPにおいて赤、青、緑の各結晶粒の結晶面は(0002)、(1−120)、(10−10)ファセットに対応している。
【0066】
図11に低温PLスペクトルを示す。この図では4つの多結晶InGaNサンプルの測定結果と同条件で成長した単結晶InGaNの結果も同時に示した。同条件で成長した単結晶InGaNのIn組成は(i)9%、(ii)16%、(iii)25%、(iv)40%であった。点線で示したInGaN単結晶のフォトルミネッセンススペクトルに比べ、ブロードな発光スペクトルが得られていることがわかる。またIn組成の増加に伴い、発光波長も長波長化し赤色域からの発光も得られていることがわかる。
【0067】
図12は図10で示したサンプル(In組成は(iii)25%)のカソードルミネッセンス測定結果である。分光器の波長を515nm、590nmと固定したときの発光イメージをそれぞれ示す。明らかに波長515nmと590nmで得たイメージは異なっており、結晶粒ごとに異なった発光波長を有していることがわかる。つまり、各ファセットを制御することによりさまざまなIn組成を有するInGaN結晶粒の成長が可能であり、可視光域でブロードな発光波長を得ることができる。この結果は蛍光体を用いない多結晶ランダムファセット制御により白色光デバイスの実現が可能であることを示している。
【0068】
図13は各結晶粒から得られたカソードルミネッセンススペクトルを示す。ここではIn組成(iv)40%の多結晶InGaNの結果を用いた。(0002)、(1−120)、(10−10)ファセットからの発光はそれぞれ異なっており、各結晶粒が異なるIn組成を持つことが改めて確認できた。また各結晶粒のIn組成は(10−10)、(1−120)、(0002)の結晶面順にIn組成が高くなっていることがわかった。これらの結果は、各結晶粒・ファセットの制御によりIn組成が制御可能であり、白色光の演色性も制御できることを示している。
【0069】
図13に多結晶GaN上多結晶InGaNサンプルそして図2に示した実施形態とほぼ同構造をもった多結晶InGaN/GaNダブルへテロ構造におけるフォトルミネッセンススペクトルを示す。比較のため通常の蛍光体を用いた窒化物半導体白色LED、蛍光灯のスペクトルも同時に示す。すでに実用化されている白色LEDや蛍光灯は可視光域において非常にブロードな発光スペクトルを持つが、本実施形態により作製した多結晶InGaN混晶やそのダブルへテロ構造においても青(400−450nm)から赤(600nm)までのブロードな発光が得られており、ランダムファセット制御による多結晶InGaN構造の新規白色光デバイスへの応用可能性が示唆された。
【0070】
以上の通り、上記実施例により、上記実施形態に係る多結晶半導体光機能素子の効果が達成できることを確認した。以上により新規な半導体光デバイスを実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る半導体光素子は、LEDや太陽電池として産業上利用可能である。また更に、受光素子や電子デバイス等広範な分野においても利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】多結晶AlN基板の表面SEM、EBSP像とカラーマップ
【図2】一実施形態に係る多結晶LEDの断面概略図である。。
【図3】多結晶GaN膜の低温緩和層の効果:(a)緩和層なし(b)緩和層有り
【図4】多結晶GaN膜の表面・断面SEM像の成長圧力依存性。図中の数値は被覆率を示す。
【図5】多結晶GaN膜のXRD測定結果の成長圧力依存性。一番下は多結晶AlN基板のXRD測定結果。
【図6】多結晶GaN膜の室温PLスペクトルの成長圧力依存性。
【図7】多結晶GaN膜の表面SEM像の成長温度依存性。数値は表面粗さを示す。
【図8】多結晶GaN膜の室温PLスペクトルの成長温度依存性。
【図9】多結晶InGaN膜の表面・断面SEM像。
【図10】多結晶InGaN膜の表面SEM像とEBSP像。
【図11】多結晶InGaN膜の低温PLスペクトル。図中の実線が多結晶InGaN、点線は同条件で成長した単結晶InGaNの測定結果。
【図12】図10で示したSEM像のCLによるパンクロマティック像。(a)波長515nm(b)590nmの発光イメージ。
【図13】多結晶InGaNサンプルのCL測定による各結晶方位からの発光スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶面が異なる複数の結晶粒からなる微結晶窒化物半導体電子素子。
【請求項2】
前記結晶面は、ランダムになっている請求項1記載の微結晶窒化物半導体電子素子。
【請求項3】
前記複数の結晶粒のうち90%以上が1mm2以上の結晶面の面積を有する請求項1記載の微結晶窒化物半導体電子素子。
【請求項4】
前記複数の結晶粒の面積が、GaN単結晶における少数キャリアの拡散長(数十nm,面積にすると0.03mm2程度)よりも十分大きいため、微結晶構造であるがその結晶粒の大きさにより単結晶と同等の高効率発光が得られることを特徴とする請求項1記載の微結晶窒化物半導体電子素子。
【請求項5】
前記結晶粒は、その構造内にInGaN混晶微結晶を含むことを特徴とする請求項1記載の微結晶窒化物半導体電子素子。
【請求項6】
各微結晶がランダムな結晶面を持つことを利用して、異なった結晶面上での異なる組成のInGaN混晶微結晶を形成させた請求項1記載の微結晶窒化物半導体電子素子。
【請求項7】
各微結晶がランダムな結晶面を持つことを利用して、異なった結晶面上での異なる膜厚を有するInGaN混晶微結晶を形成させた請求項1記載の微結晶窒化物半導体電子素子。
【請求項8】
InGaN混晶微結晶粒の組成、膜厚の不均一性を利用した白色を含む発光波長制御が可能な請求項6又は7記載の微結晶窒化物半導体電子素子。
【請求項9】
X線回折測定の2θ/θスキャンを行った場合に、2つ以上の異なる結晶面方位からの回折が観測される請求項1記載の微結晶窒化物半導体電子素子。
【請求項10】
走査型電子顕微鏡又は後方散乱電子回折像により結晶表面に2つ以上の異なる結晶面を持つ結晶粒・微結晶の存在が確認できる請求項1記載の微結晶窒化物半導体電子素子。





















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−216866(P2012−216866A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−152608(P2012−152608)
【出願日】平成24年7月6日(2012.7.6)
【分割の表示】特願2007−279078(P2007−279078)の分割
【原出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】