説明

結核の免疫治療および診断のための化合物およびそれらの使用方法

【課題】結核に対する感染防御免疫を誘導するための化合物および方法の提供。
【解決手段】1つ以上のMycobacterium tuberculosisタンパク質の少なくとも1つの免疫原性部分を含むポリペプチド。このようなポリペプチドをコードするDNA分子。このような化合物は、M.tuberculosis感染に対する免疫のためのワクチンおよび/または薬学的組成物中に処方され得るか、あるいは結核の診断に使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般に、Mycobacterium tuberculosis感染の検出、処置、および予防に関する。本発明は、より詳細には、Mycobacterium tuberculosis抗原、またはその部分もしくは他の変異体を含むポリペプチド、およびMycobacterium tuberculosis感染に対する診断およびワクチン接種のためのこのようなポリペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
結核は、慢性の、感染性疾患であり、一般にMycobacterium tuberculosisの感染により生じる。結核は発展途上国で主要な疾患であり、そして世界中の先進地域で問題が増大しており、毎年約8百万人が新たに発病し、そして3百万人が死亡する。感染はかなりの期間無症候性であり得るが、この疾患は、最も一般的には、発熱および痰を伴わない咳を生じる肺の急性炎症として発現する。処置しないでおくと、代表的には、重篤な合併症および死をもたらす。
【0003】
結核は一般には広範な抗生物質治療を用いて制御され得るが、このような処置はこの疾患の蔓延を妨げるには十分でない。感染した個体は無症候性であり得るが、ある程度の間、伝染性である。さらに、処置レジメに従うことが重要であるが、患者の行動をモニターすることは困難である。何人かの患者は処置過程を完了せず、これは効果のない処置および薬物耐性体の発生につながり得る。
【0004】
結核の蔓延を阻害するためには、有効なワクチン接種および疾患の正確な初期診断が必要である。現在、生細菌を用いるワクチン接種は、感染防御免疫を誘導するために最も有効な方法である。この目的のために用いられる最も一般的なMycobacteriumは、Mycobacterium bovisの無発病性株である、Bacillus Calmette-Guerin(BCG)である。しかし、BCGの安全性および効力は論争の源であり、そしてアメリカ合衆国のようないくつかの国は、一般大衆にワクチン接種を行わない。診断は、一般に、皮膚テストを用いて達成される。皮膚テストは、ツベルクリンPPD(精製されたタンパク質の誘導体)に対する皮内曝露を含む。抗原特異的T細胞応答は、注射後48〜72時間で注射部位に測定可能な硬結を生じ、これはマイコバクテリア抗原への曝露を示す。しかし、このテストを用いての感受性および特異性については問題があり、そしてBCGでワクチン接種された個体は感染した個体と区別され得ない。
【0005】
マクロファージはM.tuberculosis免疫性の主要なエフェクターとして作用することが示されたとはいえ、T細胞はこのような免疫性の優勢なインデューサーである。M.tuberculosis感染に対する防御におけるT細胞の本質的な役割は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染に関連するCD4 T細胞の涸渇に起因する、AIDS患者におけるM.tuberculosisの頻繁な発生により説明される。マイクバクテリア反応性CD4 T細胞はγ-インターフェロン(IFN-γ)の強力な産生者であることが示されており、これは、次に、マウスにおいてマクロファージの抗マイコバクテリア効果を誘発することも示された。ヒトにおけるIFN-γの役割はさほど明らかでないが、研究により、1,25-ジヒドロキシ-ビタミンD3が、単独あるいはIFN-γまたは腫瘍壊死因子-αとの組み合わせのいずれかで、ヒトマクロファージを活性化してM.tuberculosis感染を阻害することが示された。さらに、IFN-γがヒトマクロファージを刺激して1,25-ジヒドロキシ-ビタミンD3を生じることが公知である。同様に、IL-12はM.tuberculosis感染に対する耐性を刺激するのに役割を果たすことが示された。M.tuberculosis感染の免疫学の総説については、非特許文献1を参照のこと。
【非特許文献1】ChanおよびKaufmann、Tuberculosis:Pathogenesis, Protection and Control, Bloom(編)、ASM Press、Washington, DC、1994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、当該分野において結核を予防、処置、および検出するための改善されたワクチンおよび方法についての必要性が存在する。本発明は、これらの必要性を満たし、そしてさらに他の関連する利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
簡潔に述べると、本発明は結核を予防および診断するための化合物および方法を提供する。1つの局面において、M.tuberculosis抗原の免疫原性部分またはそのような抗原の変異体(これは、保存的置換および/または改変においてのみ異なる)、配列番号:1、11、12、83、103-108、125、127、129-137、139および140に記載される配列から成る群から選択されるDNA配列、上記配列の相補物、ならびに中程度のストリンジェントな条件下で配列番号:1、11、12、83、103-108、125、127、129-137、139および140に記載される配列またはその相補物にハイブリダイズするDNA配列によってコードされるアミノ酸配列から成る抗原を包含するポリペプチドが提供される。第2の局面において、本発明は、 配列番号:16-33、109、126、138、141、142に提供される配列およびその変異体から成る群から選択されるアミノ酸配列を有する、M.tuberculosis抗原の免疫原性部分を含むポリペプチドを提供する。
【0008】
関連する局面では、上記のポリペプチドをコードするDNA配列、これらのDNA配列を含む発現ベクター、およびこのような発現ベクターで形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞もまた提供される。
【0009】
別の局面では、本発明は第1および第2の本発明のポリペプチド、またはあるいは、本発明のポリペプチドおよび公知のM.tuberculosis抗原を含む融合タンパク質を提供する。
【0010】
他の局面においては、本発明は、1つ以上の上記のポリペプチドまたはこのようなポリペプチドをコードするDNA分子、および生理学的に許容される担体を含有する薬学的組成物を提供する。本発明はまた、上記の1つ以上のポリペプチドおよび非特異的免疫応答エンハンサーを含有するワクチンを、このようなポリペプチドをコードする1つ以上のDNA配列および非特異的免疫応答エンハンサーを含有するワクチンとともに提供する。
【0011】
なお別の局面では、患者において感染防御免疫を誘導するための方法が提供される。この方法は、1つ以上の上記ポリペプチドの有効量を、患者に投与する工程を包含する。
【0012】
本発明のさらなる局面では、患者において結核を検出するための方法および診断キットが提供される。この方法は、患者の皮膚細胞と上記の1つ以上のポリペプチドとを接触させる工程、および患者の皮膚上の免疫応答を検出する工程を包含する。診断キットは、患者の皮膚細胞とポリペプチドを接触させるのに充分な器具と組み合わせた上記の1つ以上のポリペプチドを含む。
【0013】
なお別の局面においては、患者において結核を検出する方法を提供し、このような方法は、患者の皮膚細胞を、配列番号2〜20、102、128、上記配列の相補体、および配列番号2〜10、102、128に記載の配列にハイブリダイズするDNA配列からなる群から選択されるDNA配列によりコードされる1つ以上のポリペプチドと接触させる工程、ならびに患者の皮膚上で免疫応答を検出する工程を包含する。このような方法で使用するための診断キットもまた、提供される。
【0014】
より具体的には、本発明は以下の特徴を有する。
【0015】
(1)以下のアミノ酸配列:
(i) 配列番号138に記載のアミノ酸配列;
(ii) 保存的置換および/もしくは改変においてのみ異なる配列番号138の免疫原性変異体であって配列番号138に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;または
(iii) 配列番号138に記載のアミノ酸配列の免疫原性部分
を含む、単離されたポリペプチド。
【0016】
(2)(i)配列番号138に記載のアミノ酸配列、または(ii)保存的置換および/もしくは改変においてのみ異なる配列番号138の免疫原性変異体であって配列番号138に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、上記(1)に記載の単離されたポリペプチド。
【0017】
(3)前記変異体が配列番号138に対して少なくとも95%の同一性を有する、上記(2)に記載の単離されたポリペプチド。
【0018】
(4)(i)配列番号138に記載のアミノ酸配列、または(ii)保存的置換および/もしくは改変においてのみ異なる配列番号138の免疫原性変異体であって配列番号138に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる、上記(1)に記載の単離されたポリペプチド。
【0019】
(5)前記変異体が配列番号138に対して少なくとも95%の同一性を有する、上記(4)に記載の単離されたポリペプチド。
【0020】
(6)配列番号138に記載のアミノ酸配列、または配列番号138に記載のアミノ酸配列の免疫原性部分を含む、上記(1)に記載の単離されたポリペプチド。
【0021】
(7)配列番号138に記載のアミノ酸配列、または配列番号138に記載のアミノ酸配列の免疫原性部分からなる、上記(6)に記載の単離されたポリペプチド。
【0022】
(8)配列番号138に記載のアミノ酸配列を含む、上記(1)に記載の単離されたポリペプチド。
【0023】
(9)配列番号138に記載のアミノ酸配列からなる、上記(8)に記載の単離されたポリペプチド。
【0024】
(10)以下のアミノ酸配列:
(i) 配列番号138に記載のアミノ酸配列;
(ii) 保存的置換および/もしくは改変においてのみ異なる配列番号138の免疫原性変異体であって配列番号138に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;または
(iii) 配列番号138に記載のアミノ酸配列の免疫原性部分
を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、単離されたDNA分子。
【0025】
(11)(i)配列番号138に記載のアミノ酸配列、または(ii)保存的置換および/もしくは改変においてのみ異なる配列番号138の免疫原性変異体であって配列番号138に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、上記(10)に記載の単離されたDNA分子。
【0026】
(12)配列番号138に記載のアミノ酸配列、または配列番号138に記載のアミノ酸配列の免疫原性部分を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、上記(10)に記載の単離されたDNA分子。
【0027】
(13)配列番号138に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、上記(10)に記載の単離されたDNA分子。
【0028】
(14)配列番号137に記載のヌクレオチド配列を含む、上記(10)に記載の単離されたDNA分子。
【0029】
(15)(i)配列番号138に記載のアミノ酸配列、または(ii)保存的置換および/もしくは改変においてのみ異なる配列番号138の免疫原性変異体であって配列番号138に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、上記(11)に記載の単離されたDNA分子。
【0030】
(16)(i)配列番号138に記載のアミノ酸配列、または(ii)配列番号138に記載のアミノ酸配列の免疫原性部分からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、上記(12)に記載の単離されたDNA分子。
【0031】
(17)配列番号138に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、上記(13)に記載の単離されたDNA分子。
【0032】
(18)配列番号137に記載のヌクレオチド配列からなる、上記(14)に記載の単離されたDNA分子。
【0033】
(19)上記(10)〜(18)のいずれか1つに記載のDNA分子を含む、発現ベクター。
【0034】
(20)上記(19)に記載の発現ベクターで形質転換された、単離された宿主細胞。
【0035】
(21)前記宿主細胞が、E. coli、酵母および哺乳動物細胞から成る群から選択される、上記(20)に記載の宿主細胞。
【0036】
(22)上記(1)〜(9)のいずれか1つに記載の少なくとも1つのポリペプチドおよび生理学的に許容される担体を含む、M. tuberculosisに対する防御免疫を誘導するための、薬学的組成物。
【0037】
(23)上記(10)〜(18)のいずれか1つに記載の少なくとも1つのDNA分子および生理学的に許容される担体を含む、M. tuberculosisに対する防御免疫を誘導するための、薬学的組成物。
【0038】
(24)上記(1)〜(9)のいずれか1つに記載の少なくとも1つのポリペプチドおよび非特異的な免疫応答エンハンサーを含む、防御免疫を誘導するためのワクチン。
【0039】
(25)前記非特異的な免疫応答エンハンサーがアジュバントである、上記(24)に記載の防御免疫を誘導するためのワクチン。
【0040】
(26)上記(10)〜(18)のいずれか1つに記載の少なくとも1つのDNA分子および非特異的な免疫応答エンハンサーを含む、防御免疫を誘導するためのワクチン。
【0041】
(27)前記非特異的な免疫応答エンハンサーがアジュバントである、上記(26)に記載の防御免疫を誘導するためのワクチン。
【0042】
(28)上記(1)〜(9)のいずれか1つに記載のポリペプチドを含む、融合タンパク質。
【0043】
(29)上記(28)に記載の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、DNA分子。
【0044】
(30)上記(28)に記載の少なくとも1つの融合タンパク質および生理学的に許容される担体を含む、M. tuberculosisに対する防御免疫を誘導するための、薬学的組成物。
【0045】
(31)上記(29)に記載の少なくとも1つのDNA分子および生理学的に許容される担体を含む、M. tuberculosisに対する防御免疫を誘導するための、薬学的組成物。
【0046】
(32)上記(28)に記載の融合タンパク質および非特異的な免疫応答エンハンサーを含む、防御免疫を誘導するためのワクチン。
【0047】
(33)上記(29)に記載の少なくとも1つのDNA分子および非特異的な免疫応答エンハンサーを含む、防御免疫を誘導するためのワクチン。
【0048】
(34)前記非特異的な免疫応答エンハンサーがアジュバントである、上記(32)または(33)に記載の防御免疫を誘導するためのワクチン。
【0049】
(35)以下のもの:
(a) 上記(1)〜(9)のいずれか1つに記載のポリペプチド;および
(b) 患者の皮膚上で免疫応答を誘導するために、該ポリペプチドを患者の皮膚細胞と接触させるのに十分な器具
を含む、結核の検出のための診断キット。
【0050】
(36)免疫応答が硬結である、上記(35)に記載の診断キット。
【0051】
本発明のこれらおよび他の局面は、以下の詳細な説明および添付の図面を参照することにより明らかになる。本明細書中に開示されるすべての文献は、それぞれ個々に組み込まれたかのように、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0052】
図面の簡単な説明
図1Aおよび1Bは、組換えORF-2およびORF-2に対する合成ペプチドによる、第1のPPD-陽性ドナー(D7と呼ぶ)由来のT細胞における増殖刺激およびインターフェロン−γの産生を、それぞれ、図示する。
【0053】
図2Aおよび2Bは、組換えORF-2およびORF-2に対する合成ペプチドによる、第2のPPD-陽性ドナー(D160と呼ぶ)由来のT細胞における増殖刺激およびインターフェロン−γの産生を、それぞれ、図示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
発明の詳細な説明
上記のように、本発明は、一般に、結核を予防、処置、および診断するための組成物および方法に関する。本発明の組成物は、M.tuberculosis抗原または保存的置換および/または改変でのみ異なるような抗原の変異体の、少なくとも1つの免疫原性部分を含むポリペプチドを含む。本明細書で使用する用語「ポリペプチド」は、全長タンパク質(すなわち、抗原)を含む、任意の長さのアミノ酸鎖を包含し、ここで、アミノ酸残基は共有ペプチド結合によって連結されている。従って、上記の抗原の1つの免疫原性部分を含むポリペプチドは、全体が免疫原性部分からなり得るか、またはさらなる配列を含み得る。さらなる配列は、ネイティブなM.tuberculosis抗原に由来し得るか、または異種のものであり得、そしてこのような配列は、免疫原性であり得る(しかし免疫原性である必要はない)。
【0055】
本明細書で使用する「免疫原性」は、患者(例えばヒト)および/または生物学的サンプルにおいて免疫応答(例えば、細胞性)を誘発する能力をいう。特に、免疫原性である抗原(および免疫原性部分またはこのような抗原の他の変異体)は、T細胞、NK細胞、B細胞、およびマクロファージ(ここで、細胞はM.tuberculosis免疫個体由来である)からなる群より選択される1つ以上の細胞を含む生物学的サンプルにおいて、細胞増殖、インターロイキン12産生、および/またはインターフェロンγ産生を刺激し得る。1つ以上のM.tuberculosis抗原の少なくとも免疫原性部分を含むポリペプチドが、一般に、結核を検出するため、または患者において結核に対して感染防御免疫を誘導するために使用され得る。
【0056】
本発明の組成物および方法はまた、上記のポリペプチドの変異体を包含する。本明細書で使用するポリペプチド「変異体」は、保存的置換および/または改変のみが記載のポリペプチドと異なり、その結果、ポリペプチドの治療性、抗原性および/または免疫原性特性が保持されているポリペプチドである。ポリペプチド変異体は、同定されたポリペプチドに対して、好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約90%および最も好ましくは少なくとも95%の同一性を示す。免疫反応性特性を有するポリペプチドについては、あるいは、変異体は上記のポリペプチドの1つのアミノ酸配列を改変することにより、および改変されたポリペプチドの免疫反応性を評価することにより同定され得る。診断用結合剤の産生に有用なポリペプチドについては、変異体は抗体(この抗体は結核の存在または非存在を検出する)を生成する能力について、改変されたポリペプチドを評価することにより同定され得る。あるいは、通常、本発明の診断方法に使用され得る本願の抗原の変異体は、結核感染患者の血清中に存在する抗体を検出する能力について改変されたポリペプチドを評価することによって、同定され得る。このような改変された配列は、例えば、本明細書中に記載される代表的な手順を使用して、調製および試験され得る。
【0057】
「保存的置換」は、ペプチド化学の当業者がこのポリペプチドの2次構造およびヒドロパシー性質が実質的に変化していないと予測するように、アミノ酸を類似する特性を有する別のアミノ酸で置換する置換である。一般に、以下の群のアミノ酸は、保存的変化を示す:(1)ala、pro、gly、glu、asp、gln、asn、ser、thr;(2)cys、ser、tyr、thr;(3)val、ile、leu、met、ala、phe;(4)lys、arg、his;および(5)phe、tyr、trp、his。
【0058】
変異体はまた(またはあるいは)、例えば、ポリペプチドの抗原性特性、2次構造、およびヒドロパシー性質に最小の影響を有するアミノ酸の欠失または付加によって改変され得る。例えば、ポリペプチドはタンパク質のN末端でシグナル(またはリーダー)配列に結合され得る(これは翻訳と同時にまたは翻訳後にタンパク質の転移を導く)。このポリペプチドはまた、ポリペプチドの合成、精製、または同定を容易にするために(例えば、ポリ-His)、または固体支持体ヘのこのポリペプチドの結合を増強するために、リンカーまたは他の配列に結合され得る。例えば、ポリペプチドは、免疫グロブリンFc領域に結合され得る。
【0059】
一般に、M.tuberculosis抗原、およびこのような抗原をコードするDNA配列は、種々の手順のいずれかを使用して調製され得る。例えば、M.tuberculosis由来のゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーは、末梢血単核細胞(PBMC)またはT細胞株、あるいは1つ以上のM.tuberculosis免疫個体由来のクローンを使用して直接的にスクリーニングされ得る。直接的ライブラリースクリーニングは、一般に、発現された組換えタンパク質のプールを、 M.tuberculosis免疫個体由来のT−細胞において増殖および/またはインターフェロン−γ産生の誘導能力についてアッセイすることによって行われ得る。潜在的なT細胞抗原は、上記のように、第1に抗体反応性に基づいて選択され得る。
【0060】
あるいは、抗原をコードするDNA配列は、M.tuberculosisに感染した患者から得られた血清を用いて、適切なM.tuberculosisゲノムDNAまたはcDNA発現ライブラリーをスクリーニングすることによって、同定され得る。このようなスクリーニングは、一般的に、当業者に周知の技術(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載される技術)を使用して行われ得る。
【0061】
次いで、精製された抗原は、例えば、本明細書中に記載の代表的な方法を使用して適切な免疫応答(例えば、細胞性)を惹起させる能力について評価される。次いで、免疫原性抗原は、例えば伝統的なエドマン化学のような技術を使用して部分的に配列決定され得る。EdmanおよびBerg, Eur. J. Biochem. 80:116-132, 1967を参照のこと。免疫原性抗原はまた、この抗原をコードするDNA配列を使用して組換え的に産生され得る。このDNA配列は発現ベクターに挿入され、そして適切な宿主内で発現される。
【0062】
本発明の抗原をコードするDNA配列はまた、単離された抗原の部分的アミノ酸配列に由来する縮重オリゴヌクレオチドにハイブリダイズするDNA配列について、適切なM.tuberculosis cDNAまたはゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることによって得られ得る。このようなスクリーニングで使用するための縮重オリゴヌクレオチド配列が設計および合成され得、そしてスクリーニングは、(例えば)Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, Cold Spring Harbor, NY 1989(およびそこに引用される参考文献)に記載されるように行われ得る。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)もまた、当該分野で周知の方法において上記のオリゴヌクレオチドを使用して、cDNAまたはゲノムライブラリーから核酸プローブを単離するために用いられ得る。次いで、ライブラリースクリーニングを、単離されたプローブを使用して行い得る。
【0063】
調製の方法にかかわらず、本明細書中に記載の抗原(およびその免疫原性部分)は、免疫原性応答を誘導する能力を有する。より詳細には、抗原は、M.tuberculosis免疫個体に由来するT細胞、NK細胞、B細胞、および/またはマクロファージにおける増殖および/またはサイトカイン産生(すなわち、インターフェロンγおよび/またはインターロイキン-12産生)を誘導する能力を有する。抗原に対する免疫原性応答を評価する際に使用するための細胞型の選択は、もちろん、所望の応答に依存する。例えば、インターロイキン-12産生は、B細胞および/またはマクロファージを含有する調製物を用いて最も容易に評価される。M.tuberculosis免疫個体は、M.tuberculosisに対する有効なT細胞応答が惹起されたことにより、結核の発症に抵抗性である(すなわち、実質的に疾患の症状がない)と考えられる個体である。このような個体は、結核タンパク質(PPD)に対する強力に陽性な皮内皮膚試験応答(すなわち、直径約10mmより大きな硬結)および任意の結核疾患の徴候または症状が無いことに基づいて同定され得る。M.tuberculosis免疫個体に由来するT細胞、NK細胞、B細胞およびマクロファージは、当業者に公知の方法を用いて調製され得る。例えば、PBMC(例えば、末梢血単核細胞)の調製物は、構成細胞のさらなる調製を伴わずに使用され得る。PBMCは、一般に例えば、FicollTM(Winthrop Laboratories, NY)を介する密度勾配遠心分離を用いて調製され得る。
【0064】
本明細書中に記載されるアッセイにおける使用のためのT細胞はまた、PBMCから直接精製され得る。あるいは、マイコバクテリアタンパク質に対して反応性の富化T細胞株、または個々のマイコバクテリアタンパク質に対して反応性のT細胞クローンが用いられ得る。このようなT細胞クローンは、例えば、マイコバクテリアタンパク質を有する、M.tuberculosis免疫個体由来のPBMCを2〜4週間にわたって培養することにより作製され得る。これは、マイコバクテリアタンパク質特異的T細胞のみの増殖を可能にし、このような細胞のみからなる系統をもたらす。次いで、これらの細胞は、個々のT細胞特異性をより正確に規定するために、当業者に公知の方法を用いてクローン化および個々のタンパク質で試験され得る。一般に、M.tuberculosis免疫個体に由来するT細胞、NK細胞、B細胞、および/またはマクロファージを用いて行われた、増殖および/またはサイトカイン産生(すなわち、インターフェロン-γおよび/またはインターロイキン-12産生)についてのアッセイで陽性であると試験される抗原は、免疫原性であると考えられる。このようなアッセイは、例えば、下記の代表的な手順を用いて行われ得る。このような抗原の免疫原性部分は、同様のアッセイを用いて同定され得、そして本明細書中に記載のポリペプチド内に存在し得る。
【0065】
ポリペプチド(例えば、免疫原性抗原、またはその部分もしくは他の変異体)が細胞増殖を誘導する能力は、細胞(例えば、T細胞および/またはNK細胞)を、ポリペプチドと接触させ、そして細胞の増殖を測定することにより評価される。一般に、約10個の細胞を評価するために充分であるポリペプチドの量は、約10ng/mL〜約100μg/mLの範囲であり、そして好ましくは約10μg/mLである。ポリペプチドの細胞とのインキュベーションは、代表的には37℃で約6日間行われる。ポリペプチドとのインキュベーション後、細胞を増殖応答についてアッセイする。増殖応答は、当業者に公知の方法(例えば、放射標識したチミジンのパルスに細胞を曝露し、そして細胞DNAへの標識の取り込みを測定すること)により評価され得る。一般に、バックグラウンドを超えて少なくとも3倍の増殖増加(すなわち、ポリペプチドなしで培養した細胞について観察された増殖)をもたらすポリペプチドは、増殖を誘導し得ると考えられる。
【0066】
ポリペプチドが、細胞におけるインターフェロン-γおよび/またはインターフェロン-12の産生を刺激する能力は、細胞をポリペプチドと接触させ、そして細胞により産生されるインターフェロン-γまたはインターロイキン-12のレベルを測定することにより評価され得る。一般に、約10個の細胞の評価に充分であるポリペプチドの量は、約10ng/mL〜約100μg/mLの範囲であり、そして好ましくは約10μg/mLである。ポリペプチドは、必須ではないが、固体支持体(例えば、米国特許第4,897,268号および同第5,075,109号に記載されるような、ビーズまたは生分解性マイクロスフェア)上に固定化され得る。ポリペプチドの細胞とのインキュベーションは、代表的には37℃で約6日間行われる。ポリペプチドとのインキュベーションの後、細胞を、インターフェロン-γおよび/またはインターロイキン-12(またはそれらの1つ以上のサブユニット)についてアッセイする。インターフェロン-γおよび/またはインターロイキン-12(またはそれらの1つ以上のサブユニット)は、当業者に公知の方法(例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)またはIL-12 P70ヘテロニ量体の場合はT細胞の増殖を測定するアッセイのようなバイオアッセイ)により評価され得る。一般に、培養上清1mL(1mLあたり10〜10T細胞を含む)あたり少なくとも50pgのインターフェロン-γの産生をもたらすポリペプチドは、インターフェロン-γの産生を刺激し得ると考えられる。10個のマクロファージまたはB細胞あたり(または3×10PBMCあたり)、少なくとも10pg/mLのIL-12 P70サブユニット、および/または少なくとも100pg/mLのIL-12 P40サブユニットの産生を刺激するポリペプチドは、IL-12の産生を刺激し得ると考えられる。
【0067】
一般に、免疫原性抗原は、M.tuberculosis免疫個体の少なくとも約25%に由来するT細胞、NK細胞、B細胞、および/またはマクロファージにおける増殖および/またはサイトカイン産生(すなわち、インターフェロン-γおよび/またはインターロイキン-12産生)を刺激する抗原である。これらの免疫原性抗原の中でも、優れた治療的特性を有するポリペプチドは、上記のアッセイにおける応答の程度に基づいて、そして応答が観察された個体の%に基づいて区別され得る。さらに、優れた治療的特性を有する抗原は、M.tuberculosis免疫していない個体の約25%より多くから得た細胞におけるインビトロでの増殖および/またはサイトカイン産生を刺激しない。それによって、M.tuberculosis応答細胞に非特異的な応答を排除する。M.tuberculosis免疫個体に由来するT細胞、NK細胞、B細胞、および/またはマクロファージ調製物の高い%において応答を誘導する抗原(これは、他の個体からの細胞調製物における応答の低発生率を有する)は、優れた治療的特性を有する。
【0068】
優れた治療的特性を有する抗原はまた、ワクチンとして投与した場合に、実験動物におけるM.tuberculosis感染の重篤度を減少させる能力に基づいて同定され得る。実験動物における使用のために適切なワクチン調製物は、以下に詳細に記載される。有効性は、実験的感染後の細菌数の少なくとも約50%減少および/または死亡率の少なくとも約40%減少を提供する抗原の能力に基づいて決定され得る。適切な実験動物には、マウス、モルモット、および霊長類が挙げられる。
【0069】
優れた診断的特性を有する抗原は、一般に、進行中の結核を有する個体で行なった皮内皮膚試験における応答を惹起するが、M.tuberculosisに感染していない個体において行なった試験においては惹起しないという能力に基づいて同定され得る。皮膚試験は、一般に、陽性と考えられる少なくとも5mm硬結の応答で、以下に記載のように行われ得る。
【0070】
本明細書中に記載の抗原の免疫原性部分は、Paul, Fundamental Immunology, 第3版, Raven Press, 1993, 243-247頁およびその中に引用される文献において要約されるような周知の技術を用いて調製および同定され得る。このような技術は、免疫原性特性についてのネイティブな抗原のポリペプチド部分のスクリーニングを包含する。本明細書中に記載される代表的な増殖およびサイトカイン産生アッセイは、一般に、これらのスクリーニングに用いられ得る。ポリペプチドの免疫原性部分は、このような代表的なアッセイにおいて、完全長抗原により生じる免疫応答と実質的に同様である免疫応答(例えば、増殖、インターフェロン-γ産生および/またはインターロイキン-12産生)を生じる部分である。言い換えれば、抗原の免疫原性部分は、本明細書中に記載のモデル増殖アッセイにおいて完全長抗原により誘導される増殖の少なくとも約20%、そして好ましくは約100%を生じ得る。免疫原性部分はまた、あるいは、本明細書中に記載のモデルアッセイにおいて完全長抗原により誘導されるインターフェロン-γおよび/またはインターロイキン-12の少なくとも約20%、そして好ましくは約100%の産生を刺激し得る。
【0071】
M.tuberculosis抗原の部分および他の変異体は、合成手段または組換え手段により生成され得る。約100より少ないアミノ酸、および一般には約50より少ないアミノ酸を有する合成ポリペプチドが、当業者に周知の技術を用いて生成され得る。例えば、このようなポリペプチドは、伸長するアミノ酸鎖にアミノ酸が連続的に付加される、Merrifield固相合成法のような、任意の市販の固相技術を用いて合成され得る。Merrifield、J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2146、1963を参照のこと。ポリペプチドの自動合成のための装置は、Perkin Elmer/Applied BioSystems Division, Foster City, CAのような供給者から市販されており、そしてこれは製造者の説明書に従って操作され得る。ネイティブな抗原の変異体を、一般に、オリゴヌクレオチド指向部位特異的変異誘発のような、標準的な変異誘発技術を用いて調製し得る。DNA配列の断片もまた、縮重型ポリペプチドの調製を可能にする標準的な技術を用いて取り出され得る。
【0072】
ネイティブな抗原の部分および/または変異体を含む組換えポリペプチドは、当業者に周知の種々の技術を用いてポリペプチドをコードするDNA配列から容易に調製され得る。例えば、最初に、培養培地に組換えタンパク質を分泌する適切な宿主/ベクター系からの上清を、市販のフィルターを用いて濃縮し得る。濃縮の後、濃縮物は、アフィニティーマトリックスまたはイオン交換樹脂のような適切な精製マトリクスにアプライされ得る。最終的には、1つ以上の逆相HPLC工程を用いて組換えタンパク質はさらに精製され得る。
【0073】
当業者に公知の任意の種々の発現ベクターを用いて、本発明の組換えポリペプチドが発現され得る。発現は、組換えポリペプチドをコードするDNA分子を含む発現ベクターで形質転換またはトランスフェクトした任意の適切な宿主細胞で達成され得る。適切な宿主細胞は、原核生物、酵母および高等真核生物の細胞を含む。好ましくは、使用される宿主細胞は、E. coli、酵母もしくはCOSまたはCHOのような哺乳動物細胞株である。この様式で発現されるDNA配列は、天然に存在する抗原、天然に存在する抗原の部分、またはそれらの他の変異体をコードし得る。
【0074】
一般に、調製方法にかかわらず、本明細書中に開示されるポリペプチドは実質的に純粋な形態で調製される。好ましくは、ポリペプチドは少なくとも約80%純粋であり、より好ましくは少なくとも約90%純粋であり、そして最も好ましくは少なくとも約99%純粋である。以下に詳細に記載される特定の好ましい実施態様では、実質的に純粋なポリペプチドは、本明細書中に開示される1つ以上の方法での使用のために薬学的組成物またはワクチンに組み込まれる。
【0075】
1つの実施態様では、本発明は、(a)配列番号1〜12、83、102〜108、125、127〜137、139、および140のDNA配列;(b)このようなDNA配列の相補物、または(c)(a)もしくは(b)の配列に実質的に相同なDNA配列によりコードされる1つ以上のアミノ酸配列を含む、M.tuberculosis抗原(またはこのような抗原の変異体)の少なくとも免疫原性部分を含むポリペプチドを開示する。関連する実施態様において、本発明は、配列番号16〜33、109、126、138、141、142、およびそれらの変異体において提供される配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するM.tuberculosis抗原の少なくとも免疫原性部分を含むポリペプチドを提供する。
【0076】
本明細書中に提供されるM.tuberculosis抗原は、特に本明細書中に記載される1つ以上のDNA配列に実質的に相同なDNA配列によりコードされる変異体を含む。本明細書中で使用される「実質的な相同性」とは、中程度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA配列を言う。適切な中程度にストリンジェントな条件は、5×SSC、0.5%SDS、1.0 mM EDTA(pH 8.0)の溶液での予備洗浄;50℃〜65℃、5×SSCでの、一晩、または交差-種間相同性の場合、45℃、0.5×SSCでのハイブリダイゼーション;続いて0.1%SDSを含む2×、0.5×および0.2×SSCの各々を用いる65℃での20分間の2回の洗浄を含む。このようなハイブリダイズするDNA配列もまた本発明の範囲内であり、コードの縮重に起因して、ハイブリダイズするDNA配列によりコードされる免疫原性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列も同様である。
【0077】
関連する局面では、本発明は、第1および第2の本発明のポリペプチドを含む融合タンパク質または、あるいは、本発明のポリペプチドおよびAndersenおよびHansen,Infect.Immun. 57:2481-2488,1989において記載される38kDの抗原(GenBank登録番号第M30046号)または以前にM. bovis(登録番号第U34848号)およびM.tuberculosis(Sorensenら、Infect.Immun. 63:1710-1717,1995)において同定されたESAT-6のような公知のM.tuberculosis抗原とを含む融合タンパク質を提供する。このような融合タンパク質の変異体もまた提供される。本発明の融合タンパク質は、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとの間にリンカーペプチドを含み得る。
【0078】
本発明の融合タンパク質をコードするDNA配列を、公知の組換えDNA技術を用いて構築して、第1および第2のポリペプチドをコードする別々のDNA配列を、適切な発現ベクターに集める。第1のポリペプチドをコードするDNA配列の3'末端を、ペプチドリンカーを用いてまたは用いずに、第2のポリペプチドをコードするDNA配列の5'末端に連結し、その結果として、配列のリーディングフレームは、第1および第2のポリペプチドの両方の生物学的活性を保持する単独の融合タンパク質への2つのDNA配列のmRNA翻訳が可能になる同一相に存在する。
【0079】
ペプチドリンカー配列を用いて、各々のポリペプチドをその二次構造および三次構造に折り畳むことを確実にするように、十分な間隔を置いて第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとが分離され得る。このようなペプチドリンカー配列を、当該分野で周知の標準的な技術を用いて融合タンパク質に組み込む。適切なペプチドリンカー配列は以下の要因に基づいて選択され得る:(1)可撓性の伸長した立体構造を採用するそれらの能力;(2)第1および第2のポリペプチド上の機能的なエピトープと相互作用し得る二次構造を採用するそれらの能力がないこと;および(3)ポリペプチドの機能的なエピトープと反応し得る疎水性残基または荷電残基の欠失。好ましいペプチドリンカー配列は、Gly、AsnおよびSer残基を含む。ThrおよびAlaのような、他の中性に近いアミノ酸はまた、リンカー配列で用いられ得る。リンカーとして、通常、用いられ得るアミノ酸配列は、Marateaら、Gene 40:39-46、1985;Murphyら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:8258-8262、1986;米国特許第4,935,233号および米国特許第4,751,180号に開示されるものを含む。リンカー配列は、1〜約50アミノ酸長であり得る。ペプチド配列は、第1および第2のポリペプチドが、機能的ドメインを分離しかつ立体障害を妨げるために使用され得る、可欠N末端アミノ酸領域を有する場合には必要でない。
【0080】
連結されたDNA配列は、適切な転写または翻訳調節エレメントに作動可能に結合される。DNAの発現を担う調節エレメントは、第1のポリペプチドをコードするDNA配列の5'末端にのみ位置する。同様に、翻訳および転写終止シグナルを終止させるために必要とされる終止コドンは、第2のポリペプチドをコードするDNA配列の3'末端にのみ存在する。
【0081】
別の局面では、本発明は、1つ以上の上記ポリペプチドまたは融合タンパク質(あるいはこのようなポリペプチドをコードするDNA分子)を用いて患者において結核に対する防御免疫を誘導するための方法を提供する。本明細書中で使用されるように、「患者」とは、任意の温血動物、好ましくはヒトを意味する。患者は、疾患に罹患しているかもしれないし、または検出可能な疾患および/または感染に罹患していないかもしれない。換言すれば、防御免疫は、結核を予防または処置するために誘導され得る。
【0082】
この局面において、ポリペプチド、融合タンパク質、またはDNA分子は、一般に薬学的組成物および/またはワクチン中に存在する。薬学的組成物は、1つ以上のポリペプチド(これらのそれぞれは、1つ以上の上記配列(またはその変異体)を含有し得る)、および生理学的に許容される担体を含み得る。ワクチンは、1つ以上の上記ポリペプチド、およびアジュバントまたはリポソームのような非特異的免疫応答エンハンサー(これには、ポリペプチドが取り込まれている)を含み得る。このような薬学的組成物およびワクチンはまた、組み合わせポリペプチドに取り込まれているかまたは別のポリペプチド中に存在するかのいずれかの、他のM.tuberculosis抗原を含有し得る。
【0083】
あるいは、ワクチンは、1つ以上の上記ポリペプチドをコードするDNAを含有し得、これによって、ポリペプチドをインサイチュで生じさせる。このようなワクチンにおいて、DNAは、核酸発現系、細菌およびウイルスの発現系を含む、当業者に公知の種々の送達系のいずれかに存在し得る。適切な核酸発現系には、患者での発現に必要なDNA配列(例えば、適切なプロモーターおよび終結シグナル)が含まれる。細菌送達系には、ポリペプチドの免疫原性部分をその細胞表面上で発現する細菌(例えば、Bacillus-Calmette-Guerrin)の投与が含まれる。好ましい実施態様では、DNAは、ウイルス発現系(例えば、ワクシニアまたは他のポックスウイルス、レトロウイルス、あるいはアデノウイルス)を用いて導入され得、これには、非病原性の(欠損)複製コンピテントウイルスの使用が含まれ得る。このような発現系にDNAを取り込むための技術は、当業者に周知である。DNAはまた、例えば、Ulmerら, Science 259:1745-1749, 1993に記載され、かつCohen, Science 259:1691-1692, 1993によって総説されるように、「裸」であり得る。裸のDNAの取り込みは、生分解性のビーズ(これは、細胞に効率的に運搬される)上にDNAをコーティングすることにより増大され得る。
【0084】
関連する局面では、上記のDNAワクチンは、本発明のポリペプチドまたは公知のM.tuberculosis抗原(例えば、上記の38kD抗原)のいずれかと同時にまたは連続的に投与され得る。例えば、ワクチンの防御免疫効果を高めるために、本発明のポリペプチドをコードするDNA(「裸」または上記の送達系中でのいずれか)の投与に続き、抗原が投与され得る。
【0085】
投与の経路および頻度、ならびに用量は、個体によって変化し、そして現在BCGを用いる免疫化に使用されているものと並行し得る。一般に、薬学的組成物およびワクチンは、注射(例えば、皮内、筋肉内、静脈内または皮下)、鼻腔内(例えば、吸入により)、または経口によって投与され得る。1回と3回との間の用量は、1〜36週間にわたって投与され得る。好ましくは、3回の用量は3〜4月の間隔で投与され、そして追加ワクチン接種はその後周期的に行われ得る。別のプロトコルは、個々の患者に適切であり得る。適切な用量は、上記のように投与される場合、免疫された患者においてM.tuberculosis感染から患者を少なくとも1〜2年間防御するのに充分な免疫応答を生じ得るポリペプチドまたはDNAの量である。一般に、単回用量中に存在する(または単回用量中のDNAによってインサイチュで産生される)ポリペプチドの量は、宿主の1kgあたり約1pg〜約100mg、代表的には、約10pg〜約1mg、そして好ましくは約100pg〜約1μgの範囲である。適切な用量の容積は、患者の体積によって変化するが、代表的には、約0.1mL〜約5mLの範囲である。
【0086】
当業者に公知の任意の適切な担体が本発明の薬学的組成物に使用され得るが、担体のタイプは、投与の様式に依存して変化する。非経口投与(例えば、皮下注射)の場合、担体は、好ましくは、水、生理食塩水、アルコール、脂質、ワックスまたは緩衝液を含む。経口投与の場合、上記の担体のいずれかまたは固形担体(例えば、マンニトール、ラクトース、スターチ、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、スクロース、および炭酸マグネシウム)が使用され得る。生分解性のマイクロスフェア(例えば、ポリ乳酸ガラクチド(polylactic garactide))もまた、本発明の薬学的組成物の担体として使用され得る。適切な生分解性マイクロスフェアは、例えば、米国特許第4,897,268号および同第5,075,109号に開示される。
【0087】
任意の種々のアジュバントは、免疫応答を非特異的に高めるために本発明のワクチンにおいて使用され得る。ほとんどのアジュバントは、迅速な異化作用から抗原を保護するために設計された基質(例えば、水酸化アルミニウムまたは鉱油)、および非特異的な免疫応答の刺激剤(例えば、リピドA、Bortadella pertussisまたはMycobacterium tuberculosis)を含有する。適切なアジュバントが、例えば、フロイント不完全アジュバントおよびフロイント完全アジュバント(Difco Laboratories)、およびMerckアジュバント65(Merck and Company, Inc., Rahway, NJ)として市販されている。他の適切なアジュバントには、ミョウバン、生分解性のマイクロスフェア、モノホスホリルリピドAおよびキルA(quil A)が挙げられる。
【0088】
別の局面では、本発明は、1つ以上の上記ポリペプチドを用いて、皮膚試験を用いる、結核を診断するための方法を提供する。本明細書中で使用されるように、「皮膚試験」とは、1つ以上の上記ポリペプチドの皮内注射の後に遅延型過敏症(DTH)反応(例えば、腫脹、発赤または皮膚炎)が測定される、患者で直接行われる任意のアッセイである。このような注射は、ポリペプチドを患者の皮膚細胞と接触させるのに充分に適切な任意のデバイス(例えば、ツベルクリン注射器または1mL注射器)を用いて達成され得る。好ましくは、反応は、注射後少なくとも48時間、より好ましくは48〜72時間目に測定される。
【0089】
DTH反応は、細胞媒介性免疫応答であり、これは、予め試験抗原(すなわち、使用されたポリペプチドの免疫原性部分、またはその変異体)に曝された患者では、より大きい。応答は、定規を用いて視覚的に測定され得る。一般に、直径約0.5cm以上、好ましくは、直径約1.0cm以上の応答は、陽性応答であり、結核感染の指標である。これは、進行中の疾患として顕著であるかもしれないしそうではないかもしれない。
【0090】
本発明のポリペプチドは、好ましくは、上記のように、皮膚試験で使用するための、ポリペプチドおよび生理学的に許容される担体を含有する薬学的組成物として処方される。このような組成物は、代表的には、1つ以上の上記ポリペプチドを0.1mLの容積中に約1μg〜約100μg、好ましくは約10μg〜約50μgの範囲の量で含有する。好ましくは、このような薬学的組成物に使用される担体は、適切な保存剤(例えば、フェノールおよび/またはTween 80TM)を含む生理食塩水である。
【0091】
好ましい実施態様では、皮膚試験に使用されるポリペプチドは、これが反応期間中注射の部位に残存するような十分な大きさのものである。一般に、少なくとも9アミノ酸長であるポリペプチドは充分である。ポリペプチドはまた、好ましくは、注射の数時間内にマクロファージによって破壊されて、T細胞に提示される。このようなポリペプチドは、1つ以上の上記配列および/または他の免疫原性または非免疫原性配列の反複を含み得る。
【0092】
以下の実施例は、限定のためでなく、例示のために提供される。
【実施例】
【0093】
実施例1
ヒトPBMCから生成されたCD4+ T細胞株を用いたM.tuberculosisポリぺプチドの精製および特徴付け
本発明のM.tuberculosis抗原を、M.tuberculosis株H37RvおよびErdmanのcDNAライブラリーの発現クローニングによって、本質的にSandersonら(J.Exp.Med., 1995, 182:1751-1757)によって記載されるように単離し、そしてこれは免疫反応性T細胞株においてPBMC増殖およびIFN-γを誘導することが示された。
【0094】
2つのCD4+ T細胞株(DC-4およびDC-5と呼ばれる)を、M.tuberculosisで感染させた樹状細胞に対して生成した。詳細には、樹状細胞を、単一のドナー由来の接着性のPBMCから調製し、引き続き結核に感染させた。同一のドナーからのリンパ球を、感染させた樹状細胞を用いて限界希釈条件下で培養し、CD4+ T細胞株DC-4およびDC-5を生成した。これらの細胞株は、M.tuberculosis由来の粗可溶性タンパク質と反応するが、Tb38-1とは反応しないことが示された。限界希釈条件を使用して、第三のCD4+ T細胞株を得、これをDC-6と呼び、これは粗可溶性タンパク質およびTb38-1の両方と反応することが示された。
【0095】
ゲノムDNAを、M.tuberculosis株H37RvおよびErdmanから単離し、そしてλZAP発現系(Stratagene, La Jolla, CA)を使用して、ベクターpBSK(-)において発現ライブラリーを構築するために使用した。これらのライブラリーを、E.coli中に形質転換し、誘導したE.coli培養物のプールを樹状細胞とともにインキュベートし、そして得られるインキュベートした樹状細胞の、CD4+ T細胞株DC-6における細胞増殖およびIFN-γ産生を刺激する能力を、以下の実施例2に記載されるように試験した。ポジティブプールを分画し、そして純粋なM.tuberculosisクローンが得られるまで再び試験した。19のクローンを単離し、そのうちの9個が、以前に同定されたM.tuberculosis抗原TbH-9およびTb38-1(米国特許出願第08/533,634号に開示される)を含有していることが見出された。残りの10のクローン(本明細書中以下で、Tb224、Tb636、Tb424、Tb436、Tb398、Tb508、Tb441、Tb475、Tb488、およびTb465と呼ぶ)について決定されたcDNA配列を、それぞれ配列番号1〜10に提供する。Tb224およびTb636についての対応する推定のアミノ酸配列は、配列番号13および14にそれぞれ提供される。これら2つの抗原についてのオープンリーディングフレームは、上記のTbH-9に対していくらかの相同性を示すことが見出された。Tb224およびTb636は、重複するクローンであることも見出された。
【0096】
Tb424、Tb436、Tb398、Tb508、Tb441、Tb475、Tb488、およびTb465は、それぞれ2つの小さなオープンリーディングフレーム(ORF-1およびORF-2と呼ぶ)またはその短縮形態を、各クローンに見出されたORF-1およびORF-2におけるわずかなバリエーションを伴って含有することが見出された。Tb424、Tb436、Tb398、Tb508、Tb441、Tb475、Tb488、およびTb465のORF-1およびORF-2の推定アミノ酸配列は、配列番号16および17、18および19、20および21、22および23、24および25、26および27、28および29、ならびに30および31にそれぞれ提供される。さらに、クローンTb424およびTb436は、第三の見かけのオープンリーディングフレーム(ORF-Uと呼ぶ)を含有することが見出された。Tb424およびTb436についてのORF-Uの推定のアミノ酸配列は、配列番号32および33にそれぞれ提供される。Tb424およびTb436は、重複するクローンまたは最近複製/転移したコピーのいずれかであることが見出された。同様に、Tb398、Tb508、およびTb465は、 重複クローンまたは最近複製/転移されたコピーのいずれかであることが見出され、Tb475およびTb488も同様であった。
【0097】
これらの配列を、BLASTNシステムを使用して、ジーンバンクの公知の配列と比較した。抗原Tb224およびTb431に対する相同性は見出されなかった。Tb636は、M.tuberculosisにおいて以前に同定されたコスミドと100%同一であることが見出された。同様に、Tb508、Tb488、Tb398、Tb424、Tb436、Tb441、Tb465、およびTb475は、公知のM.tuberculosisコスミドに対して相同性を示すことが見出された。さらに、Tb488は、M.tuberculosisトポイソメラーゼIに対して100%の相同性を有することが見出された。
【0098】
オープンリーディングフレームORF-1に対する17の重複するペプチド(1-1〜1-17と呼ぶ;それぞれ配列番号34〜50)およびオープンリーディングフレームORF-2に対する30の重複するペプチド(2-1〜2-30と呼ぶ;配列番号51〜80)を、以下の実施例3に記載する手順を使用して合成した。
【0099】
合成ペプチド、ならびに組換えORF-1およびORF-2の、PPDポジティブドナー由来のPBMCにおいてT細胞増殖およびIFN-γ産生を誘導する能力を、以下の実施例2に記載するようにアッセイした。図1A〜Bおよび2A〜Bは、2人のドナー(それぞれ、D7およびD160と呼ぶ)についての組換えORF-2および合成ペプチド2-1〜2-16によるT細胞増殖ならびにIFN-γの刺激を例示する。組換えORF-2(MTIと呼ぶ)は、両方のドナー由来のPBMCにおけるT細胞増殖およびIFN-γ産生を刺激した。個々の合成ペプチドで観察されるPBMC刺激の量は、各ドナーについて様々であり、これは各ドナーがORF2上の異なるエピトープを認識することを示す。ORF-1、ORF-2、およびORF-Uによってコードされるタンパク質を、引き続いて、MTS、MTI、およびMSFとそれぞれ命名した。
【0100】
MSFの配列に対して18の重複するペプチド(それぞれ、MSF-1〜MSF-18と呼ぶ;配列番号84〜101)を合成し、そしてM.tuberculosis培養物ろ過物に対して生成されたCD4+ T細胞株においてT細胞増殖およびIFN-γ産生を刺激する能力を、以下に記載するように試験した。MSF-12およびMSF-13(それぞれ、配列番号95および96)と呼ばれるペプチドは、最高レベルの反応性を示すことが見出された。Tb224のオープンリーディングフレームに対する2つの重複するペプチド(配列番号81および82)を合成し、これはPPDポジティブドナー由来のPBMCにおいてT細胞増殖およびIFN-γ産生を誘導することが示された。
【0101】
異なるドナー由来の2つのCD4+ T細胞株を、上記の方法論を使用してM.tuberculosis感染樹状細胞に対して生成した。この細胞株を使用する上記のM.tuberculosis cDNA発現ライブラリーのスクリーニングにより、Tb867およびTb391と呼ばれる2つのクローンを単離した。Tb867についての決定されたcDNA配列(配列番号102)は、750アミノ酸M.tuberculosisタンパク質キナーゼをコードする候補反応性オープンリーディングフレームを有する、以前に単離されたM.tuberculosisコスミドSCY22G10と同一であることが見出された。Tb391についての決定されたcDNA配列(配列番号103)のジーンバンクにおける配列との比較により、公知の配列との有意な相同性はないことが明らかになった。
【0102】
さらなる研究において、CD4+ T細胞株を、本質的に上記に概説されるように、M.tuberculosis培養物ろ過物に対して生成し、そして上記のM.tuberculosisのErdman cDNA発現ライブラリーをスクリーニングするために使用した。5つの反応性のクローン(Tb431、Tb472、Tb470、Tb838、およびTb962と呼ぶ)を単離した。Tb431、Tb472、Tb470、およびTb838について決定されたcDNA配列は、配列番号11、12、104、および105にそれぞれ提供され、Tb962について決定されたcDNA配列は、配列番号106および配列番号107に提供される。Tb431についての対応する推定アミノ酸配列は、配列番号15に提供される。
【0103】
引き続く研究により、Tb472についての全長cDNA配列(配列番号108)が単離された。重複ペプチドを合成し、そして反応性のオープンリーディングフレームを同定するために使用した。Tb472によってコードされるタンパク質(MSLと呼ぶ)についての推定アミノ酸配列は、配列番号109に提供される。Tb472およびMSLについての配列の、ジーンバンクにおける配列との比較により、公知の配列に対する相同性はないことが明らかになった。MSLの配列に対する15の重複するペプチド(それぞれ、MSL1〜MSL15と呼ぶ;配列番号110〜124)を合成し、そしてM.tuberculosis培養物ろ過物に対して生成したCD4+ T細胞株においてT細胞増殖およびIFN-γ産生を刺激する能力を上記のように試験した。MSL-10(配列番号119)およびMSL-11(配列番号120)と呼ばれるペプチドは、最も高いレベルの反応性を示すことが見出された。
【0104】
Tb838についての決定されたcDNA配列のジーンバンクにおける配列との比較により、以前に単離されたM.tuberculosisコスミドSCY07H7との同一性が明らかになった。クローンTb962についての決定されたcDNA配列の、ジーンバンクにおける配列との比較により、以前に同定された2つのM.tuberculosisコスミド(1つはバクトフェリチンの一部をコードするもの)とのいくらかの相同性が明らかになった。しかし、組換えバクトフェリチンは、Tb962を単離するために使用したT細胞株と反応性であることが見出されなかった。
【0105】
上記のクローンTb470を使用して、TbH9との相同性を示した全長オープンリーディングフレーム(配列番号125)を回収し、そして40kDaの抗原(Mtb40と呼ばれる)をコードすることが見出された。Mtb40についての決定されたアミノ酸配列は、配列番号126に提供される。同様に、引き続く研究により、Tb431についての全長cDNA配列(配列番号83に提供される)が単離され、これはMtb40をコードするオープンリーディングフレームを含むことが決定された。Tb470およびTb431はまた、U-ORF様抗原をコードする潜在的なオープンリーディングフレームを含むことが見出された。
【0106】
M.tuberculosisのErdman cDNA発現ライブラリーの、M.tuberculosis培養物ろ過物に対して生成された多数のCD4+ T細胞株でのスクリーニングにより、Tb366、Tb433、およびTb439と呼ばれる3つのクローンが単離された。Tb366、Tb433、およびTb439について決定されたcDNA配列は、配列番号127、128、および129にそれぞれ提供される。これらの配列のジーンバンクにおける配列との比較により、Tb366との有意な相同性がないことが明らかになった。Tb433は、以前に同定されたM.tuberculosis抗原MPT83に対していくらかの相同性を示すことが見出された。Tb439は、以前に単離されたM.tuberculosisのコスミドSCY02B10に対して100%同一性を示すことが見出された。
【0107】
CD4+ T細胞株は、本質的に上記のように、M.tuberculosisのPPDに対して生成され、そして上記のM.tuberculosisのErdman cDNA発現ライブラリーをスクリーニングするために使用された。決定されたcDNA配列(配列番号130および131に提供される)を有する1つの反応性のクローン(Tb372と呼ばれる)を単離した。これらの配列のジーンバンクにおける配列との比較により、有意な相同性がないことが明らかになった。
【0108】
さらなる研究において、8日間結核に感染している樹状細胞に対して上記のように生成されたCD4+ T細胞株でのM.tuberculosis cDNA発現ライブラリーのスクリーニングにより、Tb390R5C6およびTb390R2C11と呼ばれる2つのクローンが単離された。Tb390R5C6についての決定されたcDNA配列は、配列番号132に提供され、Tb390R2C11についての決定されたcDNA配列は配列番号133および134に提供される。Tb390R5C6は、以前に同定されたM.tuberculosisコスミドに対して100%同一性を示すことが見出された。
【0109】
引き続く研究において、上記の方法論を使用して、以下のように調製したM.tuberculosisゲノムDNAライブラリーをスクリーニングした。M.tuberculosis Erdman株由来のゲノムDNAを、2kbの平均サイズにランダムに剪断し、そしてKlenowポリメラーゼで平滑末端化し、続いて、EcoRIアダプターを付加した。インサートを引き続いてScreenファージベクター(Novagen, Madison, WI)に連結し、PhageMaker抽出物(Novagen)を使用してインビトロでパッケージングした。ファージライブラリー(ErdλScreenライブラリーと呼ばれる)を増幅し、そして一部分を、E.coli株BM25.8(Novagen)を使用する自己サブクローニングメカニズムによってプラスミド発現ライブラリーに変換した。プラスミドDNAを、pSCREEN組換え体を含有するBM25.8培養物から精製し、そして発現宿主株BL21(DE3)pLysSのコンピテント細胞を形質転換するために使用した。形質転換した細胞を、各ウェルが約50コロニーのプールサイズを含有する96ウェルのマイクロタイタープレート中にアリコートした。96ウェルプラスミドライブラリーフォーマットの複製プレートをIPTGで誘導して、組換えタンパク質発現を可能にした。誘導に続いて、プレートを遠心分離して、上記のPPDポジティブドナー(ドナー160)から調製したCD4+ T細胞株のT細胞発現クローニングにおいて直接使用されたE.coliをペレット化した。E.coli発現M.tuberculosis T細胞抗原を含有するプールを、引き続いて個々のコロニーに分け、そして同様の様式で再びアッセイしてポジティブヒットを同定した。
【0110】
ドナー160由来のT細胞株の、ErdλScreenライブラリーの1つの96ウェルプレートでのスクリーニングは、合計で9個のポジティブヒットを提供した。上記のpBSKライブラリーの、ドナー160由来のT細胞でのスクリーニングに関する以前の実験は、ほとんどまたは全てのポジティブクローンが、TbH-9、Tb38-1、もしくはMTI(米国特許出願第08/533,634号に開示される)またはそれらの変異体であることを示唆した。しかし、サザン分析により、3つのウェルのみが、TbH-9、Tb38-1、およびMTIの混合されたプローブとハイブリダイズすることが明らかになった。残りの6つのポジティブクローンのうち、2つが同一であることが見出された。単離されたクローンのうちの2つ(Y1-26C1およびY1-86C11と呼ぶ)についての決定された5’cDNA配列は、配列番号135および136にそれぞれ提供される。単離されたクローン(hTcc#1と呼ぶ)についての全長cDNA配列は、配列番号137に提供され、対応する推定アミノ酸配列は、配列番号138に提供される。hTcc#1の配列の上記のジーンバンクにおける配列との比較により、以前に単離されたM.tuberculosisコスミドMTCY07H7B.06に対するいくらかの相同性が明らかになった。
【0111】
実施例2
M.tuberculosis抗原によるT細胞増殖およびインターフェロン-γ産生の誘導
組換えM.tuberculosis抗原のT細胞増殖およびインターフェロン-γ産生を誘導する能力は、以下のように決定され得る。
【0112】
タンパク質は、Skeikyら、J. Exp. Med., 1995, 181:1527-1537に記載されるようにIPTGによって誘導され、そしてゲル溶出によって精製され得る。次いで、精製ポリペプチドを、PBMC調製物においてT細胞増殖を誘導する能力についてスクリーニングする。PPD皮膚試験ポジティブであることが知られ、そしてそのT細胞がPPDに応答して増殖することが知られているドナー由来のPBMCを、10%プールヒト血清および50μg/mlゲンタマイシンを補充したRPMI 1640を含む培地で培養する。精製ポリペプチドを、0.5〜10μg/mLの濃度で2連で添加した。200μlの容量の96ウェル丸底プレート中で6日間培養した後、培地の50μlを、以下の記載のようにIFN-γレベルの決定のために各ウェルから取り出す。次いで、プレートを、さらに18時間トリチウム化チミジンの1μCi/ウェルでパルスし、採集し、そしてトリチウムの取り込みをガスシンチレーションカウンターを用いて決定する。両方のレプリカで、培地のみで培養された細胞において観察された増殖よりも3倍大きな増殖をもたらす画分を、ポジティブとみなす。
【0113】
IFN-γを、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いて測定する。ELISAプレートを、室温で4時間、PBS中のヒトIFN-γ(PharMingen,San Diego,CA)に対するマウスモノクローナル抗体でコートする。次いで、ウェルを、室温で1時間、5%(W/V)脱脂粉乳を含むPBSでブロックする。プレートを、PBS/0.2% TWEEN-20中で6回洗浄し、そしてELISAプレート中で培養培地で1:2に希釈したサンプルを、室温で一晩インキュベートする。プレートを再度洗浄し、そしてPBS/10%正常ヤギ血清で1:3000に希釈したポリクローナルウサギ抗ヒトIFN-γ血清を各ウェルに添加する。次いで、プレートを室温で2時間インキュベートし、洗浄し、そして西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgG(Sigma Chemical So.,St Louis,MO)を、PBS/5%脱脂粉乳中の1:2000希釈で添加する。さらに室温で2時間のインキュベーションの後、プレートを洗浄し、そしてTMB基質を添加する。反応を、1N硫酸で20分後に停止させる。光学密度を、参照波長として570nmを用いて450nmで測定する。両方のレプリカで、培地のみで培養した細胞からの平均ODよりも2倍大きなOD+3標準偏差を示す画分を、ポジティブとみなす。
【0114】
実施例3
マウスM.tuberculosisモデルから生成されたCD4+ T細胞株を使用するM.tuberculosisポリぺプチドの精製および特徴付け
C57BL/6マウスのM.tuberculosisでの感染は、約2〜3週間の進行的な疾患の発症を生じる。次いで、疾患の進行は、強力な防御T細胞媒介免疫応答の出現の結果として終結する。この感染モデルを使用して、防御M.tuberculosis抗原を認識し得るT細胞株を生成した。
【0115】
詳細には、脾臓細胞を、28日間M.tuberculosisに感染させたC57BL/6マウスから得、そして上記のように特異的な抗M.tuberculosis T細胞株を惹起するために使用した。得られるCD4+ T細胞株は、C57BL/6マウス由来の通常の抗原提示(脾臓)細胞と組み合わせて、上記のようにM.tuberculosis Erdλスクリーンライブラリーをスクリーニングするために使用した。T細胞の高度に刺激性であることが見出された反応性ライブラリープールの1つを選択し、そして対応する活性なクローン(Y288C10と呼ぶ)を単離した。
【0116】
クローンY288C10の配列決定により、それが2つの潜在的な遺伝子をタンデムに含有することが明らかになった。これらの2つの遺伝子についての決定されたcDNA配列(mTCC#1およびmTCC#2と呼ぶ)は、配列番号139および140にそれぞれ提供され、対応する推定アミノ酸配列は、配列番号141および142にそれぞれ提供される。これらの配列の、ジーンバンクにおける配列との比較により、M.tuberculosisコスミドMTY21C12において以前に見出された未知の配列に対する同一性が明らかになった。mTCC#1およびmTCC#2の推定アミノ酸配列は、上記のようにTbH9タンパク質ファミリーの以前に同定されたメンバーに対していくらかの相同性を示すことが見出された。
【0117】
実施例4
合成ポリペプチドの合成
ポリペプチドを、HPTU(O-ベンゾトリアゾール-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)活性化と共にFMOC化学を用いて、Millipore 9050ペプチド合成機で合成し得る。Gly-Cys-Gly配列をペプチドのアミノ末端に結合して、ペプチドの結合または標識化の方法を提供し得る。固体支持体からのペプチドの開裂を、以下の開裂混合物を用いて実施し得る:トリフルオロ酢酸:エタンジチオール:チオアニソール:水:フェノール(40:1:2:2:3)。2時間の開裂後、ペプチドを冷メチル-t-ブチル-エーテル中で沈殿させ得る。次いで、ペプチドペレットを、C18逆相HPLCによる精製の前に、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含有する水中に溶解し、そして凍結乾燥し得る。水(0.1%TFAを含有する)中の0〜60%アセトニトリル(0.1%TFAを含有する)のグラジエントを用いて、ペプチドを溶出し得る。純画分の凍結乾燥後、ペプチドをエレクトロスプレー質量分析法を用いて、およびアミノ酸分析により特徴付け得る。
【0118】
上記から、本発明の特定の実施態様が例示の目的で本明細書中に記載されたが、種々の改変が、本発明の精神および範囲から逸脱することなくなされ得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】図1Aおよび1Bは、組換えORF-2およびORF-2に対する合成ペプチドによる、第1のPPD-陽性ドナー(D7と呼ぶ)由来のT細胞における増殖刺激およびインターフェロン−γの産生を、それぞれ、図示する。
【図2】図2Aおよび2Bは、組換えORF-2およびORF-2に対する合成ペプチドによる、第2のPPD-陽性ドナー(D160と呼ぶ)由来のT細胞における増殖刺激およびインターフェロン−γの産生を、それぞれ、図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のアミノ酸配列:
(i) 配列番号138に記載のアミノ酸配列;
(ii) 保存的置換および/もしくは改変においてのみ異なる配列番号138の免疫原性変異体であって配列番号138に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;または
(iii) 配列番号138に記載のアミノ酸配列の免疫原性部分
を含む、単離されたポリペプチド。
【請求項2】
(i)配列番号138に記載のアミノ酸配列、または(ii)保存的置換および/もしくは改変においてのみ異なる配列番号138の免疫原性変異体であって配列番号138に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項3】
前記変異体が配列番号138に対して少なくとも95%の同一性を有する、請求項2に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項4】
(i)配列番号138に記載のアミノ酸配列、または(ii)保存的置換および/もしくは改変においてのみ異なる配列番号138の免疫原性変異体であって配列番号138に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項5】
前記変異体が配列番号138に対して少なくとも95%の同一性を有する、請求項4に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項6】
配列番号138に記載のアミノ酸配列、または配列番号138に記載のアミノ酸配列の免疫原性部分を含む、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項7】
配列番号138に記載のアミノ酸配列、または配列番号138に記載のアミノ酸配列の免疫原性部分からなる、請求項6に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項8】
配列番号138に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項9】
配列番号138に記載のアミノ酸配列からなる、請求項8に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項10】
以下のアミノ酸配列:
(i) 配列番号138に記載のアミノ酸配列;
(ii) 保存的置換および/もしくは改変においてのみ異なる配列番号138の免疫原性変異体であって配列番号138に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;または
(iii) 配列番号138に記載のアミノ酸配列の免疫原性部分
を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、単離されたDNA分子。
【請求項11】
(i)配列番号138に記載のアミノ酸配列、または(ii)保存的置換および/もしくは改変においてのみ異なる配列番号138の免疫原性変異体であって配列番号138に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項10に記載の単離されたDNA分子。
【請求項12】
配列番号138に記載のアミノ酸配列、または配列番号138に記載のアミノ酸配列の免疫原性部分を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項10に記載の単離されたDNA分子。
【請求項13】
配列番号138に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項10に記載の単離されたDNA分子。
【請求項14】
配列番号137に記載のヌクレオチド配列を含む、請求項10に記載の単離されたDNA分子。
【請求項15】
(i)配列番号138に記載のアミノ酸配列、または(ii)保存的置換および/もしくは改変においてのみ異なる配列番号138の免疫原性変異体であって配列番号138に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項11に記載の単離されたDNA分子。
【請求項16】
(i)配列番号138に記載のアミノ酸配列、または(ii)配列番号138に記載のアミノ酸配列の免疫原性部分からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項12に記載の単離されたDNA分子。
【請求項17】
配列番号138に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項13に記載の単離されたDNA分子。
【請求項18】
配列番号137に記載のヌクレオチド配列からなる、請求項14に記載の単離されたDNA分子。
【請求項19】
請求項10〜18のいずれか1項に記載のDNA分子を含む、発現ベクター。
【請求項20】
請求項19に記載の発現ベクターで形質転換された、単離された宿主細胞。
【請求項21】
前記宿主細胞が、E. coli、酵母および哺乳動物細胞から成る群から選択される、請求項20に記載の宿主細胞。
【請求項22】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の少なくとも1つのポリペプチドおよび生理学的に許容される担体を含む、M. tuberculosisに対する防御免疫を誘導するための、薬学的組成物。
【請求項23】
請求項10〜18のいずれか1項に記載の少なくとも1つのDNA分子および生理学的に許容される担体を含む、M. tuberculosisに対する防御免疫を誘導するための、薬学的組成物。
【請求項24】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の少なくとも1つのポリペプチドおよび非特異的な免疫応答エンハンサーを含む、防御免疫を誘導するためのワクチン。
【請求項25】
前記非特異的な免疫応答エンハンサーがアジュバントである、請求項24に記載の防御免疫を誘導するためのワクチン。
【請求項26】
請求項10〜18のいずれか1項に記載の少なくとも1つのDNA分子および非特異的な免疫応答エンハンサーを含む、防御免疫を誘導するためのワクチン。
【請求項27】
前記非特異的な免疫応答エンハンサーがアジュバントである、請求項26に記載の防御免疫を誘導するためのワクチン。
【請求項28】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリペプチドを含む、融合タンパク質。
【請求項29】
請求項28に記載の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、DNA分子。
【請求項30】
請求項28に記載の少なくとも1つの融合タンパク質および生理学的に許容される担体を含む、M. tuberculosisに対する防御免疫を誘導するための、薬学的組成物。
【請求項31】
請求項29に記載の少なくとも1つのDNA分子および生理学的に許容される担体を含む、M. tuberculosisに対する防御免疫を誘導するための、薬学的組成物。
【請求項32】
請求項28に記載の融合タンパク質および非特異的な免疫応答エンハンサーを含む、防御免疫を誘導するためのワクチン。
【請求項33】
請求項29に記載の少なくとも1つのDNA分子および非特異的な免疫応答エンハンサーを含む、防御免疫を誘導するためのワクチン。
【請求項34】
前記非特異的な免疫応答エンハンサーがアジュバントである、請求項32または33に記載の防御免疫を誘導するためのワクチン。
【請求項35】
以下のもの:
(a) 請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリペプチド;および
(b) 患者の皮膚上で免疫応答を誘導するために、該ポリペプチドを患者の皮膚細胞と接触させるのに十分な器具
を含む、結核の検出のための診断キット。
【請求項36】
免疫応答が硬結である、請求項35に記載の診断キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−245644(P2008−245644A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70073(P2008−70073)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【分割の表示】特願平10−550634の分割
【原出願日】平成10年5月20日(1998.5.20)
【出願人】(397069329)コリクサ コーポレイション (38)
【Fターム(参考)】