説明

結膜上皮細胞株

【課題】結膜の生理学的・生化学的研究や結膜炎などの眼疾患の予防および治療薬の開発のための研究手段として有用であり、また、結膜再生のため、生体中への移植が可能な結膜上皮細胞株を提供すること。
【解決手段】本発明は外因性不死化遺伝子を発現し得る結膜上皮細胞株、及びその製造方法を提供する。本発明の結膜上皮細胞株は、十分な細胞数を得ることができ、また一定の継続した増殖能を有することから、結膜炎等の眼疾患の病因解明、該眼疾患の予防または/および治療薬の開発に有利に利用できる。さらに、該細胞株は結膜の生化学的・生理学的研究、さらに細胞の分化機構の研究に非常に有用なばかりでなく、人工結膜の生体材料として利用できる可能性がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結膜上皮細胞株およびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
結膜は、角膜表面を涙液で湿潤に保つための粘膜組織であり、部位的には瞼結膜、球結膜および円蓋部結膜に分けられる。瞼結膜は眼瞼の後面を、球結膜は眼球の表面を覆い、円蓋部結膜は上下の瞼結膜と球結膜の間に存在する。瞼結膜と球結膜は扁平上皮、円蓋部結膜は円柱上皮が覆う。組織学的には上皮層、基底膜および固有層からなる。
【0003】
結膜上皮細胞は結膜に含まれる細胞であり、物理的・生物学的バリアーとして、外界からの異物や細菌などの侵入を防ぎ、眼球を保護する重要な役割を担っている。結膜上皮細胞をインビトロで培養し、その機能を解析することは、種々の眼疾患の病態を解明し、該疾患の治療薬の開発を進める上で重要である。
【0004】
しかしながら、結膜上皮細胞は、培養系においては増殖能が急速に低下し、実質的に長期的な継代培養が不可能であるか、できたとしてもその安定した培養は極めて困難である。また、新生仔から得られる結膜上皮細胞は、比較的培養が容易ではあるが、それでも増殖能には制限があり、また、長期継代では、細胞の巨大化や変性が起こる可能性もある。そこで、結膜上皮細胞としての本来の機能を維持したまま、分子細胞生物学的研究に供することが可能な長期の継代が可能な結膜上皮細胞株の開発が望まれる。
【0005】
一方、不死化遺伝子として知られるシミアン・ウイルス40(SV40)の大型T抗原遺伝子をヒト水晶体上皮細胞に導入することにより、ヒト水晶体上皮細胞株が作製された[特開平10−52272:特許文献1、Andley U.P. ら, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 35: 3094-3102 (1994):非特許文献1]。また、パピローマウイルスのE6及びE7遺伝子を導入することにより不死化ヒト包皮細胞株を作製したことが報告されている[J. Virol., vol.65, p.473-478 (1991):非特許文献2]。
【0006】
また、WO 2007/094301[特許文献2]及びWO 2007/094302[特許文献3]には、それぞれ、SV40大型T抗原遺伝子を導入することにより硝子体細胞株を作製したこと、並びにパピローマウイルスのE6及びE7遺伝子を導入することにより強膜細胞株を作製したことが報告されている。
【0007】
また、結膜上皮細胞については、SV40大型T抗原遺伝子をラット結膜上皮細胞に導入することにより不死化したラット結膜上皮細胞株を作製したことが報告されている[Exp. Eye Res., 84(2), p323-331 (2007):非特許文献3]。しかしながら、外因性不死化遺伝子を導入することによりヒト由来の結膜上皮細胞株を作製したという報告はなされていない。
【0008】
【特許文献1】特開平10−52272号公報
【特許文献2】WO 2007/094301号公報
【特許文献3】WO 2007/094302号公報
【非特許文献1】Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 35: 3094-3102 (1994)
【非特許文献2】J. Virol., vol.65, p.473-478 (1991)
【非特許文献3】Exp. Eye Res., 84(2), p323-331 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、結膜の生理学的・生化学的研究や結膜炎などの眼疾患の予防および治療薬の開発のための研究手段として有用であり、また、結膜再生のため、生体中への移植が可能な結膜上皮細胞株、とりわけヒト結膜上皮細胞株を提供することである。また、本発明の別の目的は、そのような結膜上皮細胞株を作製するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ヒトパピローマウイルスE6及びE7をコードする不死化遺伝子を機能的に組み込んだレトロウイルスベクターでヒト結膜上皮細胞を感染させることによって、結膜上皮細胞にインビトロでの無限増殖能を付与し、半永久的に継代培養可能なクローナルなヒト結膜上皮細胞株を樹立することに成功して本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]ヒトパピローマウイルスE6及びE7をコードする外因性不死化遺伝子を発現し得る結膜上皮細胞株。
[2]ヒト由来である、上記[1]記載の細胞株。
[3]下記(1)〜(3)の性質を有する、上記[1]記載の細胞株:
(1)増殖速度の低下がみられない;
(2)細胞の巨大化・変性が実質的にみられない;
(3)ケラチン13を発現している。
[4](1)〜(3)の性質が10継代以上維持される、上記[3]記載の細胞株。
[5]結膜上皮細胞に、ヒトパピローマウイルスE6及びE7をコードする外因性不死化遺伝子を機能的に担持する発現ベクターをトランスフェクトし、該細胞を培地中で継代培養することによって樹立される、上記[1]記載の細胞株。
[6]結膜上皮細胞に、ヒトパピローマウイルスE6及びE7をコードする外因性不死化遺伝子を機能的に担持する発現ベクターをトランスフェクトし、該細胞を培地中で継代培養することを含む、結膜上皮細胞株の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の結膜上皮細胞株は、十分な細胞数を得ることができ、また一定の継続した増殖能を有することから、結膜炎等の眼疾患の病因解明、該疾患の予防または/および治療薬の開発に有利に利用できる。さらに、該細胞株は結膜の生化学的・生理学的研究、さらに細胞の分化機構の研究に非常に有用なばかりでなく、人工結膜の生体材料として利用できる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の結膜上皮細胞株は、ヒトパピローマウイルスE6及びE7をコードする外因性不死化遺伝子を含有し、該不死化遺伝子の発現の結果として、インビトロでの無限増殖能を獲得した細胞群である。
【0014】
本発明の結膜上皮細胞株は、哺乳動物由来である。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の偶蹄類、ウマ等の奇蹄類、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来る。本発明の結膜上皮細胞株は、好ましくは、ヒト由来である。
【0015】
ここで「不死化遺伝子」とは、細胞を不死化し、無限増殖能を獲得させる遺伝子を意味する。また、本発明において「外因性不死化遺伝子」とは、本発明の結膜上皮細胞株の起源となる結膜上皮細胞が生来有していない、細胞外から新たに導入される不死化遺伝子を意味する。本発明の外因性不死化遺伝子として、好ましくは、ヒトパピローマウイルスのE6及びE7遺伝子が用いられる。ヒトパピローマウイルスのE6及びE7遺伝子を用いることにより、SV40大型T抗原遺伝子等を用いたときと比較して高い効率で結膜上皮細胞を不死化することが出来る。
【0016】
本発明の結膜上皮細胞株は、好ましくは、組織より分離された結膜上皮細胞に、上記の外因性不死化遺伝子を機能的に担持する、すなわち標的細胞内で発現可能な形態で担持する発現ベクターをトランスフェクトし、該細胞を適当な培地中で継代培養することによって樹立することができる。
【0017】
結膜上皮細胞は、例えば、摘出された眼組織から結膜組織を単離し、単離した結膜組織から結膜上皮細胞をさらに分離し、はさみ等で細かく(約1mm角に)切断し、得られた結膜上皮断片を、IV型コラゲナーゼで消化することにより得ることが出来る。結膜上皮細胞は、ウシ胎児血清や仔ウシ血清10〜20%を含む適当な液体培地、例えばイーグルMEM培地、ダルベッコの改良イーグルMEM培地、ハム培地F12、勝田培地DM−160等に懸濁し、CO2 インキュベーター中で2日間程度培養され、トランスフェクションに供される。
【0018】
本発明で使用される発現ベクターとしては、プラスミドベクターやウイルスベクターが例示される。ウイルスゲノムをベクターとして使用する場合は、該ベクターが導入された細胞内で、少なくとも完全なウイルス粒子が産生されないように遺伝子の一部を欠失または変異させておくことがより好ましい。
【0019】
外因性不死化遺伝子を機能的に担持する発現ベクターの構築方法として、例えば、外因性不死化遺伝子にヒトパピローマウイルスのE6及びE7遺伝子を使用する場合には、以下の方法が例示される。ヒトパピローマウイルスのゲノミックDNAの初期領域に存在する不死化遺伝子(すなわち、E6及びE7遺伝子)を含むDNA断片を適当な制限酵素を用いて切り出し、結膜上皮細胞中で該遺伝子を発現可能なプロモーターを含有する発現ベクターに挿入する。プロモーターとしては、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、MuMLV LTR等が挙げられる。
【0020】
プラスミドベクターとしてはpBR322、pGEM等が挙げられる。また、さらに転写終結シグナル、外因性不死化遺伝子の発現をエンハンスする特異的な配列などを当該ベクターの適当な位置に配することもできる。このようにして構築された外因性不死化遺伝子発現ベクターは、適当な宿主中、例えば、大腸菌、酵母、枯草菌等で大量に合成させ、常法により回収精製した後、常用の遺伝子導入法、例えばリン酸カルシウム共沈法、マイクロインジェクション法、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法等により結膜上皮細胞に導入される。
【0021】
ウイルスベクターとしては、モロニーマウス白血病ウイルス、レンチウイルス等のレトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、アデノ随伴ウイルス、パルボウイルス、セムリキ森林ウイルス、ワクシニアウイルス、センダイウイルス等が挙げられる。レトロウイルスによる遺伝子導入は、遺伝子が染色体へ組み込まれるように導入されるので、好ましい。また、レンチウイルスは分裂及び非分裂細胞の両方に感染し、遺伝子を導入することができる。ウイルス粒子を含む培養液中で結膜上皮細胞を培養することにより、外因性不死化遺伝子が結膜上皮細胞内へ導入される。この際、遺伝子導入試薬としてレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることにより、導入効率を高めることが出来る。
【0022】
トランスフェクション後の細胞は、液体培地、例えばイーグルMEM培地、ダルベッコの改良イーグルMEM培地、ハム培地F12、勝田培地DM−160等で培養される。培養温度、培地pH、CO2 濃度等の条件は、動物細胞培養において通常使用される一般的な条件を適宜採用することができる。2〜3日ごとに新鮮な培地に交換し、細胞増殖が飽和点に達した時に継代する。一旦、細胞増殖が止まってからも培養を続け、再増殖を始めた細胞群を単クローンの細胞群として分別する。クローンの分離は以下のようにして行うことができる。トリプシンとEDTA溶液を浸染させた小径の濾紙を目的のクローン細胞群上に静置し、培養容器より細胞を剥離して濾紙に付着させる。濾紙小片に付着したクローン細胞群を、濾紙ごと別の培養容器に移す。また、コロニーをピックアップする方法、限界希釈法や、セルソーターを用いる方法によってもクローンを分離することが出来る。クローナルな細胞株は、個々の細胞の性質が均一であるため、従来不均一な結膜上皮細胞を用いて行われていた結膜の生理学的・生化学的研究、結膜炎等の眼疾患の病因解明および予防・治療薬の開発等のための有用なモデル細胞となり得る。
【0023】
上記のようにして得られた結膜上皮細胞株は一般的な動物細胞培養技術により継代培養することができる。細胞の増殖能の指標として、下式により算出される細胞集団倍加数(cell population doubling level;PDL)が用いられる。
PDL=log10(Ni /N0 )/log10
i =第i継代培養終了時の細胞数
0 =第1継代培養開始時の細胞数
本発明の細胞株のPDLは、通常1継代ごとに、通常約1.1〜2.0、好ましくは1.4〜1.5ずつ増加する。
【0024】
本発明の細胞株は、下記(1)〜(3)の性質を有し得る:
(1)増殖速度の低下がみられない;
(2)細胞の巨大化・変性が実質的にみられない;及び
(3)ケラチン13を発現している。
【0025】
ここで、「細胞の巨大化・変性が実質的にみられない」とは、細胞の顕微鏡観察により、一部に伸張した細胞がみられることはあっても、その大多数(例えば約95%以上)は本来の結膜上皮細胞の形態的特徴を示すことを意味する。「遺伝子の発現」とは、該遺伝子をコードするmRNA又は該遺伝子産物(タンパク質)の発現を意味する。ケラチン(サイトケラチン)13が発現していることは、本発明の細胞株が結膜上皮細胞としての特徴を有していることの指標である。ケラチン13は、上皮細胞の中間径フィラメントの構成成分の1種である。本発明の細胞株は、結膜上皮細胞が関与する種々の眼疾患について研究するための強力なツールとなる。
【0026】
本発明の結膜上皮細胞株は、少なくとも10継代以上、好ましくは15継代以上、より好ましくは20継代以上にわたり上記性質が安定に維持されている。
【0027】
本発明の細胞株は結膜の生理学的・生化学的研究、結膜疾患の病因解明及び予防・治療薬の開発、並びに眼疾患用医薬品の安全性試験等のための有用なモデル細胞となり得る。且つ当該細胞は安定な供給が可能であるから、結膜再生を目的とした移植の有用な材料(例えば、結膜上皮細胞のシートなどの人工結膜の生体材料)となり得る。また、パピローマウイルス抗原遺伝子導入した細胞株は、細胞生物学実験にも供することができる。
【0028】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
(ヒト結膜上皮細胞の調製)
サンプルNo.53:内芽腫に罹患した13歳男性から、患部切除術時に結膜組織を単離した。
サンプルNo.63:結膜扁平上皮癌に罹患した66歳男性から、患部切除術時に結膜組織を単離した。
上記結膜組織から分離した結膜上皮組織をはさみで1mm角に切断した。得られた結膜上皮組織断片を0.05% IV型コラゲナーゼ/DMEM中で37℃にて16時間消化した。消化産物から回収された結膜上皮細胞をDMEM/F−12(Invitrogen)(15% FBS(ニチレイ))中に懸濁し、37℃、5% COにて培養した。本試験は、山形大学医学部倫理委員会により許可されたものである。上記患者より、試験前に許可書を得ている。
【0030】
(ヒトパピローマウイルスタイプ16 E6及びE7が組み込まれたパッケージング細胞PA317の調製及びウイルスストックの調製)
ヒトパピローマウイルスタイプ16 E6及びE7が挿入されたpLXSNベクターが導入されたPA317(マウスパッケージング細胞:ATCC CRL−2203)を、DMEM(10% FBS、高グルコース)中、37℃、5% COにて培養した。細胞を90% コンフルエントまで培養し、培養上清をウイルスストックとして回収し、使用時まで−80℃にて保存した。
【0031】
(レトロネクチンのコーティング)
1mg/mlのレトロネクチン(Wako #T100A)をPBS(pH7.2)にて25μg/mlに希釈し、35mm培養用ディッシュに2mlずつ添加した。該ディッシュをクリーンベンチ内で、室温にて2時間放置することにより、レトロネクチンコーティングを行った。その後、2% BSA/PBSを2ml添加することによりブロッキングを行い、2ml PBSにてブロッキング液を洗浄した後、PBSを除いた。
【0032】
(結膜上皮細胞へのレトロウイルスの感染)
レトロネクチンをコーティングした35mm培養用ディッシュに、上記ウイルスストック液を2.5ml添加し、37℃、5% COにて4〜6時間放置し、レトロネクチンとレトロウイルスベクターとの結合を行った。その後、ウイルスストック液を除去し、ディッシュをPBSにて洗浄し、結膜上皮細胞を0.5〜1.0×10個/2ml DMEM/F−12(15% FBS)/35mmディッシュの濃度で加え、37℃、5% COにて2日間培養した。
【0033】
(結膜上皮細胞株の単離)
レトロウイルスを感染させた結膜上皮細胞を、10mmディッシュに継代し、更に5日間継代した。形成されたコロニーをピックアップし、24穴プレートへ移し、該コロニーを培養することにより、モノクローナルなヒト結膜上皮細胞株を樹立した。サンプルNo.53及びNo.63の各々について樹立した細胞株(No.53-1,2及びNo.63-1,2)は、それぞれ単一のコロニーから培養した細胞株である。
【0034】
(細胞の継代)
単離されたコロニーを同様の条件で、サンプルNo.53については第17継代まで、サンプルNo.63については第20継代まで引続き培養した。No.53及びNo.63のダブリングタイムはそれぞれ、26時間及び44時間であった。培養を通じて、細胞は一定の比率(1:3)で継代し続けることが可能であり、細胞の増殖速度の低下は認められなかった。
顕微鏡下で細胞の形態を観察した。DMIRBE顕微鏡(Leica社製)に接続された冷却CCDカメラDP−70(オリンパス社製)で細胞の様相を撮影した。撮影条件は以下の通り:対物レンズ 5倍/接眼レンズ 10倍/光量 9.0V。細胞は単層からなり、繊維芽細胞様の形態を呈した(図1中、No.53-1,2については7継代、No.63-1,2については4継代での写真である)。細胞の巨大化や変性は認められなかった。
【0035】
(ヒトパピローマウイルスタイプ16 E6及びE7の発現確認)
細胞から全RNAを単離し、cDNAを合成し、RT−PCR法により不死化遺伝子ヒトパピローマウイルスタイプ16 E6及びE7のmRNA発現を確認した。
【0036】
(結膜上皮細胞株の表現型の解析)
樹立された4つの結膜上皮細胞株(クローンNo.53-1,2及びNo.63-1,2)におけるケラチン13の発現を調べた。該発現はRT−PCRにて観察した。
即ち、結膜上皮細胞株が60−70%コンフルエントのときに、該細胞の培地をウシ血清を1%を含んだDMEMに交換し、24時間培養した。24時間培養後、細胞を回収し、全RNA抽出、cDNA合成を行い、ケラチン13に特異的なプライマーを用いてRT−PCRを行った(図2)。PCRは、Roche FastStart High Fidelity PCR Systemを用い、Gene Amp PCR System 9700 (Applied Biosystems)上で行った。PCRの条件は以下の通り:
95℃ 2分間 → (95℃ 30秒 → X℃ 30秒 → 72℃ 30秒)×Yサイクル → 72℃ 7分
X=55、Y=33・・・ケラチン13
X=60、Y=20・・・beta−Actin
【0037】
その結果、樹立された全ての細胞株においてケラチン13の発現が認められた。以上より、得られた結膜上皮細胞株は結膜上皮細胞としての特徴を保持していることが示された。
【0038】
(比較例)
(不死化遺伝子SV40大型T抗原の導入)
上記実施例で得られたサンプルNo.53の結膜上皮細胞に、SV40大型T抗原の配列が組み込まれたベクター(RIKEN Taq-LTR-pUC18 sense #4)をリン酸カルシウム法(BD calphos Mammalian Transfection Kit)を用いて導入した。
遺伝子導入5日後、細胞集団の単離を試みた。コロニーを形成している細胞を選択し、該細胞を0.25%トリプシン/EDTAで剥がし、コロニー毎に12穴プレート中で培養した。80%コンフルエント程度になったところで、6穴プレートに継代し培養した。しかし、その後細胞を1:3希釈で3回継代したところで、細胞分裂が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の結膜上皮細胞株は、十分な細胞数を得ることができ、また一定の継続した増殖能を有することから、結膜炎等の眼疾患の病因解明、該眼疾患の予防または/および治療薬の開発に有利に利用できる。さらに、該細胞株は結膜の生化学的・生理学的研究、さらに細胞の分化機構の研究に非常に有用なばかりでなく、人工結膜の生体材料として利用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】結膜上皮細胞株の形態を示す写真である(バー:200μm)。
【図2】結膜上皮細胞株におけるケラチン13の発現を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトパピローマウイルスE6及びE7をコードする外因性不死化遺伝子を発現し得る結膜上皮細胞株。
【請求項2】
ヒト由来である、請求項1記載の細胞株。
【請求項3】
下記(1)〜(3)の性質を有する、請求項1記載の細胞株:
(1)増殖速度の低下がみられない;
(2)細胞の巨大化・変性が実質的にみられない;
(3)ケラチン13を発現している。
【請求項4】
(1)〜(3)の性質が10継代以上維持される、請求項3記載の細胞株。
【請求項5】
結膜上皮細胞に、ヒトパピローマウイルスE6及びE7をコードする外因性不死化遺伝子を機能的に担持する発現ベクターをトランスフェクトし、該細胞を培地中で継代培養することによって樹立される、請求項1記載の細胞株。
【請求項6】
結膜上皮細胞に、ヒトパピローマウイルスE6及びE7をコードする外因性不死化遺伝子を機能的に担持する発現ベクターをトランスフェクトし、該細胞を培地中で継代培養することを含む、結膜上皮細胞株の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−291157(P2009−291157A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149917(P2008−149917)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(506051913)
【出願人】(000199175)千寿製薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】