説明

結露防止剤

【課題】多孔質粒子からなる材料を建材に固定する際に、多孔質粒子が元来有する断熱、吸音、結露防止効果を損なわないようにする。
【解決手段】多孔質材料11と樹脂水分散体と揮発性溶媒13とを混合して建材に塗工する。揮発性溶媒13が孔14に入り込み、樹脂による孔14の閉塞を防ぎ、塗工後に雫が孔14に入り込む道を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に建材に用いて、断熱、吸音、結露防止などの効果を得ることができる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建材の壁面に多孔質の材料を塗工することによって、断熱効果、吸音効果、結露防止効果を発揮させようとすることが行われている。多孔質材料が内部に有する空気の層により、断熱、吸音効果が発揮される。また、内部に有する空気の層により建材の内外温度差の緩衝剤ともなることで表面を結露しにくくすることができる。さらに、結露して表面に雫が生じる際に、その雫を表面の孔から内部に染みこませることで、表面に露が蓄積されることを防ぐことができ、二重の結露防止効果が発揮される。
【0003】
このような多孔質材料を塗工した例として、特許文献1に、バーミキュライトをセメントや珪酸カルシウム、スラグ石膏などと配合した建材組成物が記載されている。バーミキュライトとは、ヒル石を焼結膨張させた材料であり、膨張により多孔質の粒子からなる材料となっているものである。このようなバーミキュライトを塗工した建材は、内部に空気の層を含むことから一定の断熱効果、吸音効果を発揮する。また、バーミキュライトの比重が軽いために塗工後も重量の増加が少ないという利点も有する。例えば、現在の建築現場において安価な壁材として広く使われている石膏ボードに付加し、バーミキュライト含有建材としたものが用いられている。
【0004】
ただし、バーミキュライトをセメントの骨材として用いた建材組成物は、バーミキュライトによる断熱効果や吸音効果があるものの、バーミキュライトの周囲をセメントなどが覆っており、そのセメントが組成物の表面から建材へ熱や音を伝達してしまい、場合によっては断熱効果や吸音効果が不十分になる場合があった。
【0005】
これに対して、ポリ酢酸ビニルなどからなる樹脂接着剤を用いてバーミキュライトを固めた塗装用組成物が考案されている(特許文献2[0016])。このような組成物からなる層を建材の表面に形成させることで、セメントよりも熱や音が伝達しにくい、より空気含有率の高い層を有する建材とすることができる。また、バーミキュライト自体は鉱物であるので、接着剤の含有量が少なければ難燃材としても利用することができる。
【0006】
また、未膨張のバーミキュライトをポリ酢酸ビニルやポリウレタンなどの有機バインダーと混合した塗装用組成物(特許文献3)や、未焼成バーミキュライトを水ガラスで固めたものが開示されている。これらは建材に用いるものの、上記のものとは使用目的が異なり、耐火性を目的としたものである。未膨張であったバーミキュライトが、火事の際の高熱環境下において埋め込まれた建材内部で膨張することで、空気の層を作り、耐火性を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−106671号公報
【特許文献2】特開2004−307778号公報
【特許文献3】特開2002−285037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ポリ酢酸ビニルやポリウレタンなどの樹脂接着剤でバーミキュライトを固めると、個々の樹脂の粒が小さく、バーミキュライト1の表面の孔が樹脂2によって塞がってしまうために、発生した露を孔から吸収することができなかった。その概念図を図4に示す。このため、バーミキュライトが発揮すべき結露防止効果のうち、空気の層による温度緩衝効果しか見込めなかった。
【0009】
また、バーミキュライトはそれが有する孔により、高湿度下では湿気を吸収し、低湿度下では吸収した湿気を放出する湿度調整効果を有するが、樹脂によって孔が塞がるとこの効果も失われてしまった。
【0010】
そこでこの発明は、建材に塗工する多孔質素材を含む組成物において、断熱吸音効果を維持しつつ、結露防止効果を十分に発揮できるように塗工することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、樹脂として樹脂水分散体を使用し、かつ、多孔質材料を、揮発性溶媒及び樹脂水分散体と混合して結露防止剤を調製することで、上記の課題を解決したのである。この結露防止剤を建材に塗工すると、樹脂が接着剤となって上記多孔質材料を建材に固定した後でも、上記多孔質材料は吸水、吸湿などの効果を失わないものとなった。
【0012】
その機構は完全に解明されていないが、以下のような仕組みが仮説として考えられる。まず、多孔質材料が揮発性溶媒と接触すると、揮発性溶媒は分子量が比較的小さく、浸透力が大きいため、多孔質材料の孔に速やかに侵入すると考えられる。その後、混合体である結露防止剤から水が蒸発していくに従って、樹脂水分散体からも水が抜け出ていき、樹脂は徐々に固まっていくことになる。これにより、上記多孔質材料の表面に樹脂の膜が出来ることになるが、水とともに多孔質材料の孔に入り込んでいた揮発性溶媒が揮発しながら樹脂が固まるため、樹脂膜には気体の揮発性溶媒が抜け出るための微孔が残り、結果として、樹脂層の表面から多孔質材料の孔まで通じる細孔を形成する。
【0013】
この細孔が樹脂表面に多数空いており、多孔質材料の孔から内部の空洞まで通じていることで、塗工した組成物の表面が結露しようとしたときに、その雫を多孔質材料の内部へ吸収することができる。この組成物を建材等に塗工して上記のような状態にすることで、十分に高い結露防止効果を発揮させることができると考えられる。
【発明の効果】
【0014】
この組成物からなる結露防止剤を建材に塗工して、樹脂水分散体を構成する水や、必要に応じて混合後に追加する水、とともに揮発性溶媒とを揮発させて、多孔質材料が樹脂を接着剤として建材上に固めることができる。この固められた材料は、多孔質材料が内部に有する孔が保持する空気の層による断熱効果、吸音効果が失われることなく発揮されるとともに、結露防止効果を十分に発揮させることができる。また、湿度調整効果を有する珪藻土などを多孔質材料に用いる場合、その効果も失われることなく発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明にかかる結露防止剤の準備段階の概念図
【図2】この発明にかかる結露防止剤の樹脂水分散体混合直後の概念図
【図3】この発明にかかる結露防止剤の揮発性溶媒揮散後の概念図
【図4】樹脂接着剤で表面の孔が塞がれたバーミキュライトの概念図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態について詳細に説明する。この発明は、建材などに塗工して、断熱効果及び吸音効果を有する結露防止剤として用いる組成物である。この結露防止剤を構成する組成物は少なくとも、揮発性溶媒と、樹脂水分散体と、多孔質材料とを有する混合体である。
【0017】
上記多孔質材料とは、内部に通じる多数の孔を表面に有し、内部に空洞を有する材料であり、細かい粒子状である材料である。具体的には、嵩比重が0.20kg/l以下であることが好ましく、0.15kg/l以下であるとより好ましい。粒子が小さかったり、内部の空洞が不足していたりして、嵩比重が大きすぎると、断熱吸音効果を十分に発揮できず、雫の吸収速度も不十分で結露防止効果も不十分になりやすい。なお、嵩比重は小さいほど好ましいが、0.01kg/l未満では粒子が形状を維持しづらくなるので、現実的には0.01kg/l以上である。
【0018】
上記多孔質材料の、個々の粒子の大きさは、10mm以下であると好ましい。10mmを超えると、樹脂水分散体及び揮発性溶媒との混合がしにくくなり、一般的な吹き付け装置では装置が詰まるおそれが出てくるため、塗工もしにくくなってしまう。塗工厚みは最大で6mm程度で十分に耐熱吸音効果等を発揮できるので、粒子の大きさは5mm以下であるとより好ましい。一方で、0.1mm未満では小さすぎて、粒子内部に有する空洞も小さくなって嵩比重が大きくなり、断熱吸音効果がほとんど発揮されなくなってしまう。このため、0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上であるとより好ましい。なお、ここで粒子の大きさとは、いびつな形をしている粒子の最大の幅となる径である。
【0019】
具体的な材料の選別方法としては、例えば、メッシュ幅が1.2mmである14メッシュの篩に掛けて、篩を通る粒子の質量百分率が1%以上99%以下であるものを用いると、概ね上記の嵩比重、粒子の大きさの条件を満たすものとなる。
【0020】
厳密に粒子の大きさを調整する場合には、この発明にかかる結露防止剤の建材等への塗工厚みに応じて、用いる上記多孔質材料の粒径を調整してもよい。塗工厚みを厚くする場合には、比較的粒径が大きいものを用いることができ、塗工厚みを薄くする場合には、粒径が小さいものを用いることとなる。
【0021】
上記多孔質材料として使用可能な具体的な材料としては、ヒル石を加熱膨張させたバーミキュライトや、火山岩を焼成した発泡パーライト、珪藻土、シラス灰、ゼオライト、アロフェン、シリカゲルなどが挙げられる。建材に用いる際の耐熱性及び耐火性の点から、有機物より無機物であると好ましい。上記の中でも、バーミキュライトやパーライトなどの孔が比較的大きなものを用いると、吸水性、保水性に優れた結露防止剤となる。一方、吸湿放湿性が優れた結露防止剤にしたい場合は、珪藻土や、シラスの焼結体であるシラスバルーンなどの比較的孔の小さい材料が好ましい。
【0022】
次に、上記樹脂水分散体について説明する。上記樹脂水分散体は、水に樹脂を分散させたものであり、重合体自体の性質によったり、乳化剤などを用いたりして、乳化分散させたものが挙げられる。具体的には、エマルジョン又はディスパージョンと呼ばれる形態のものである。水中に樹脂は乳化剤に包まれた樹脂の粒子として浮かんでいる。この水分散体を形成させる際に乳化剤を用いる場合、その乳化剤の種類は、アニオン系、ノニオン系、又はアニオン・ノニオン系の界面活性剤であれば特に限定されない。ただし、カチオン系界面活性剤は好ましくない。
【0023】
乳化分散させる樹脂としては、上記多孔質材料を建材に固定する接着剤として利用できるものであれば、成分は特に限定されない。具体的には例えば、アクリル系重合体、酢酸ビニル系重合体、ウレタン系重合体、スチレン系重合体、エポキシ系重合体などが挙げられる。これらを単独で用いてもよいし、二種以上の樹脂を混合して用いてもよいし、一つの高分子中にそれらを複合させたものでもよい。また、別個に重合させた重合体をさらに結合させたものでもよい。
【0024】
アクリル系重合体とは、アクリル酸、メタクリル酸や、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどのアクリル基又はメタクリル基を有する単量体が重合単位の半分以上を占める重合体である。エステルの場合は、側鎖の炭素数はC1〜C4程度であるとよい。酢酸ビニル単位やスチレン単位が一部に含まれていてもよい。
【0025】
また、上記酢酸ビニル系重合体とは、酢酸ビニル単位が重合単位の50%以上を占める重合体である。エチレン−酢酸ビニル共重合体でもよいし、一部の酢酸ビニル単位がビニルアルコール単位にケン化された重合体であってもよい。
【0026】
上記ウレタン系重合体とは、90質量%以上が、ポリオールやポリイソシアネートなどのウレタン結合によって構成された重合体であるとよい。これの中には、いわゆるウレタンディスパージョンと呼ばれるものも含まれる。
【0027】
これらの中でも特に、アクリル系重合体を用いると分散しやすく、アクリル系重合体のエマルジョンは接着剤としても使いやすいので好ましい。一方、直接風雨に曝されるような環境で用いる場合には、耐水性を発揮するウレタン系重合体のディスパージョンを用いると好ましい場合がある。また、スチレンエマルジョン、エポキシエマルジョンは、接着剤としての強さが高いため、接着力を必要とする環境で用いると好ましい。
【0028】
上記樹脂の分子量は10万以上であると好ましい。小さすぎると揮発性溶媒と相溶してしまうおそれがある。一方、100万を超える分子量となることは現実的ではなく、ほとんどの場合100万以下となる。
【0029】
上記ウレタン系重合体の場合、乳化剤を用いなくてもアンモニアなどにより分散可能である。一方、アクリル系重合体や酢酸ビニル系重合体などを用いる場合には、乳化剤を用いて水分散体化するとよい。また、アクリル系重合体や酢酸ビニル系重合体に、ウレタン系重合体を結合させてもよい。
【0030】
なお、上記樹脂水分散体には、樹脂に対して5質量%以下程度の有機溶剤が含まれていてもよい。樹脂の重合の際に同伴する溶剤を全て除去するのが困難な場合があるからである。この有機溶剤は、後述する揮発性溶媒と同種のものであると、それと同様に扱うことができるので好ましい。
【0031】
上記樹脂水分散体中の固形分と上記多孔質材料との質量混合比は、500:100〜5:100であると好ましい。500:100よりも上記樹脂水分散体の固形分が多いと、樹脂の成分が多すぎて塗工しても樹脂層としての性質が強く現れてしまい、断熱効果、吸音効果、結露防止効果が十分に発揮されなくなってしまう。好ましくは、30:100よりも上記多孔質材料が多い混合比である。一方で、5:100よりも上記多孔質材料が多いと、粒径が比較的大きな上記多孔質材料を用いたとしても、塗工後の組成物を上記樹脂が保持しきれずに、剥落を起こしやすくなってしまう。
【0032】
次に、上記揮発性溶媒について説明する。上記揮発性溶媒は、揮発性を有するものである必要がある。上記多孔質材料の孔に浸透して樹脂が孔を塞ぐことを防ぎ、塗工後は樹脂が固まりつつある際に揮発して抜け出ていくことで、樹脂に細孔を空けるためである。常温揮発性でない高分子量の溶媒であると、上記多孔質材料の孔に十分に入りこむことができなくなり、また、塗工後も抜け出ていかないのでその孔による露や湿度の吸収効果が失われてしまう。
【0033】
このような揮発性であるものとは、沸点が50℃〜150℃程度の有機物が好適に用いられ、120℃以下だと揮発させやすくより好ましい。具体的には、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、酢酸エチルなどの疎水性溶媒であると好ましい。アルコール類などの親水性溶媒の場合、樹脂水分散体を破壊してしまわないよう注意する必要がある。また、上記樹脂水分散体としてウレタン系樹脂水分散体を用いる場合、製造工程で沸点が200℃を超えるような高沸点溶媒が混入することがあるが、本願で用いる上記揮発性溶媒としては、このような高沸点溶媒は不適格である。
【0034】
上記揮発性溶媒の含有量は、上記樹脂水分散体が含有する樹脂に対して、0.1質量%以上であると好ましい。0.1質量%未満では少なすぎて、上記多孔質材料の孔に侵入する効果や樹脂の膜に細孔を空ける効果が不十分になり、結果として結露防止効果が不十分になってしまう。一方で、上記揮発性溶媒が大量にあったとしても、細孔を空ける効果は十分に発揮されるのでこの発明の実施は可能であり、含有量に理論上の上限はない。ただし、100質量%を超えると、塗工時に揮発させきるまでに時間がかかりすぎてしまい、運用上問題となる場合が生じやすくなるので、100質量%以下が好ましく、50質量以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0035】
上記揮発性溶媒と、上記樹脂水分散体に含まれる水と、元の上記樹脂水分散体以外に必要に応じて足してもよい水とを合わせた液体成分の量は、上記多孔質材料に対して質量比で3倍以上、10倍以下であると好ましい。液体分が少なすぎると十分に流動せず、必要な混合が行いきれない場合がある。一方で、液体分が多すぎると粘度が低下し、建材上に塗工することが困難になってしまう。なお、液固質量比を上記の範囲に調整するため、上記揮発性溶媒と上記水分散体とを混合した後に水を追加してもよいし、後述する他の調整方法でも、必要に応じて水を追加してもよい。
【0036】
この発明にかかる結露防止剤は、上記多孔質材料と、上記樹脂水分散体と、上記揮発性溶媒を混合した組成物とする。予め混合して密封しておいてもよいが、これらの材料を別個にまとめた材料として用意しておき、建材への塗工の直前に混合するものでもよい。上記多孔質材料の孔に樹脂が入る可能性を徹底して抑制するには、塗工直前に混合する形態としておくと好ましい。予め混合しておくと、保存中に樹脂水分散体の樹脂が上記多孔質材料の孔に入り込んで凝集してしまう可能性があるからである。
【0037】
この発明にかかる結露防止剤を調整するにあたり、混合の順序により多少の特性の変化が生じるが、上記樹脂水分散体と上記揮発性溶媒とを混合した後に上記多孔質材料と混合してもよいし、上記多孔質材料と上記揮発性溶媒とを混合した後に上記樹脂水分散体と混合してもよい。ただし、上記樹脂水分散体と上記多孔質材料とを先に混合した場合、上記揮発性溶媒との混合までの間に時間がかかりすぎると、多孔質材料の表面に樹脂膜が形成されてしまうおそれがある。
【0038】
また、いずれの順番による場合も、三成分を混合してから一日以上放置しておくと、先に上記揮発性溶媒が孔に入っていたとしても、ゆっくりと樹脂水分散体が孔に入ってしまうおそれがある。このため、この結露防止剤は塗工する現場で最後の混合を行って調製することが好ましい。
【0039】
いずれの順序であっても、調整された結露防止剤を用いることによって、多孔質材料の表面に孔を開けつつ樹脂で建材上に上記多孔質材料を固めることができる仕組みは、完全に解明されているわけではないが、得られる結果から、次のような仮説が考えられる。
【0040】
上記揮発性溶媒と上記多孔質材料とを先に混合した場合の仮説を図1〜3により説明する。まず、揮発性溶媒13が多孔質材料11と接触すると、多孔質材料11の表面の孔14に揮発性溶媒13が入り込み、孔14を埋める(図1)。次に、水16と樹脂の粒17とからなる樹脂水分散体と混合すると、揮発性溶媒13に邪魔をされて、樹脂水分散体は孔14に入り込むことが困難になっている(図2)。この状態で建材等に塗工した後、水16を蒸発させると、樹脂の粒17が樹脂膜18を形成するが、このときに、揮発性溶媒13により樹脂膜18の一部が溶解されて、樹脂膜18に細孔19が空く(図3)。この揮発性溶媒13はその後揮発するので、樹脂の表面に空いたこの細孔19から孔14への通路が残り、ここから雫や湿気を吸収できるので、塗工した建材に結露防止効果を付与することができる。
【0041】
上記揮発性溶媒と上記樹脂水分散体とを先に混合し、それから上記多孔質材料とを混合する場合も、上記揮発性溶媒は一旦エマルジョンになるものの不安定なため、上記揮発性溶媒のままで単独で液中に存在し、上記多孔質材料の表面の孔に選択吸収されて、上記の場合と同様の現象が起き、同様の効果が得られる。
【0042】
また、この発明にかかる結露防止剤は、これらの必須材料の他に、この発明にかかる結露防止剤の効果を失わない範囲で、他の添加剤を含んでいてもよい。濡れ剤や流動化剤、消泡剤などを、塗工方法や塗工機械などの条件に合わせて適宜含有していてもよい。例えば、吹き付けにより塗工する際にはこれらの成分が必須となる。特に、濡れ剤や流動化剤を含有していると、施工後における吸水速度が著しく向上し、結露防止効果が高まる。
【0043】
この発明にかかる結露防止剤を建材の表面に塗工することで断熱、吸音、そして結露防止効果を発揮する多機能板材を得ることができる。塗工する対象となる建材としては、木材板、石膏ボード、コンクリート壁面、アルミ板、スチール板など、特に限定されることなく用いることができる。
【0044】
また、多層壁の内面など、ほぼ密閉された区域に塗工した建材を配した場合には、その区域内の湿度調整効果も発揮できる。区域内の湿度が高いときは多孔質材料が水分を吸収して湿度を抑制し、湿度が低くなると吸収されていた水分が多孔質材料から放出されて湿気を補うことができる。
【0045】
この発明にかかる結露防止剤を建材に塗工する方法は、特に限定されるものではなく、混合した組成物を壁面に固定することができればよい。ただし、できるだけ均一に塗工することが望ましい。具体的には、孔径が2〜6mm程度のエアガンを用いて噴射する方法や、刷毛による塗布、組成物中への建材の浸漬など、いずれの方法も用いることができる。ただし、建材の建築現場では噴射が有効な手法であり、予め結露防止剤を塗工した建材を工場で製造する場合には、噴射又は浸漬が有効な手法となる。
【0046】
この、上記結露防止剤の塗工厚みは、2mm以上であると好ましく、3mm以上であるとより好ましい。2mm未満では断熱、吸音効果がほとんど発揮されなくなってしまう。一方で、10mm以下であると好ましく、さらに6mm以下であるとより好ましい。10mmを超えると、塗工後に乾くまでに時間が掛かりすぎてしまう。
【実施例】
【0047】
以下、この発明について具体的な実施例を挙げる。まず、試料の作成方法について説明し、次に試験方法について説明する。
【0048】
(実施例1)
揮発性溶媒であるトルエン5gと、アクリル系樹脂エマルジョン(セメダイン(株)製:セメダイン630)45gとを混合し、さらに、水500gを加えて十分に添加した。なお、アクリル系樹脂エマルジョンには、1質量%の市販の濡れ剤を含有させたものを使用した。これに、多孔質材料としてバーミキュライト(ヒルイシ化学工業(株)製:S−2、カサ比重0.08〜0.10kg/l)100gを投下して混合し、塗工可能な結露防止剤を得た。この結露防止剤を、幅100mm×高さ100mm×厚さ2mmの鉄板上に5mmの厚さとなるように塗布した試料を作製した。
【0049】
(比較例1)
実施例1において、トルエン5gを投下せず、アクリル系樹脂水分散体の量を50gとしたこと以外は同様の条件で結露防止剤を得て、試料を作製した。
【0050】
<吸水保水量試験>
JIS A 690920037.23に準拠した防露性試験を行った。具体的には、装置内の温度は50℃、防露時間は6時間、試料面積は100cm、基準値は0.25g/cmである。それぞれの試料を乾燥した後の重量と、防露性試験後の質量を測定し、その差を吸水量として算出した。
【0051】
実施例1、比較例1について二つずつの試料を用意して上記の吸水量試験を行った。その結果を表1に示す。比較例に比べて、実施例は単位体積当たりの吸水量が約3倍であり、従来品よりも十分に高い吸水性を発揮することが確かめられた。これにより、トルエンが先にバーミキュライトの内部に入り込むことで、樹脂水分散体の樹脂が固まる際に揮発していき、吸水可能な穴とそこへの通路を確保していることが確認できた。
【0052】
【表1】

【0053】
<結露試験>
試料を二つの区画の境界に立てて設置し、結露防止剤を塗布した側を60℃90%RHとし、鉄板側の温度を25℃として、結露防止剤を塗布した側の真下に、落下する水滴を回収する結露水回収容器を設置した。この結露水回収容器には予め水を張っておく。一方で、結露防止剤側の区画内に、対照とするブランク容器(結露水回収容器と同じ大きさ)を設置してこれにも同じ量の水を張っておく。実験開始から所定時間経過後における結露水回収容器の水量から、ブランク容器の水量を引いた差を、落下した結露水量として算出した。これは、60℃90%RHの環境で常時蒸発が起こるため、蒸発量を補正する必要があるためである。
【0054】
実施例、比較例について、1時間ごとの落下した結露水量の算出値を表2に示す。比較例では多量の水が落下することが確認されたが、実施例ではその十分の一以下の結露水量に留まり、結露するはずの水を十分に壁面に吸収していることが確かめられた。なお、比較例で落下する結露水量を、面積1mの一般的な扉に換算すると、6時間で900gの水が落下することになる。
【0055】
【表2】

【符号の説明】
【0056】
1 バーミキュライト
2 樹脂
11 多孔質材料
13 揮発性溶媒
14 孔
16 水
17 樹脂の粒
18 樹脂膜
19 細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性溶媒と、樹脂水分散体と、多孔質材料とを有する、断熱効果を有する結露防止剤。
【請求項2】
上記樹脂水分散体の樹脂100質量部に対して、上記揮発性溶媒が0.1質量部以上である請求項1に記載の結露防止剤。
【請求項3】
上記樹脂水分散体が、アクリル系重合体のエマルジョン、酢酸ビニル系重合体のエマルジョン、ウレタン系重合体のディスパージョンのうちのいずれか一種又は二種以上の混合体である請求項1又は2に記載の結露防止剤。
【請求項4】
上記多孔質材料がバーミキュライトである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の結露防止剤。
【請求項5】
多孔質材料を、揮発性溶媒と混合した後、樹脂水分散体を混合する建材用結露防止剤の製造方法。
【請求項6】
揮発性溶媒と樹脂水分散体とを混合した後、多孔質材料を混合する建材用結露防止剤の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の製造方法で製造した建材用結露防止剤を、建材の壁面に塗工する、結露防止建材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−111809(P2012−111809A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260016(P2010−260016)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(509027825)
【Fターム(参考)】