説明

絞り具と当該絞り具の装着装置および絞り方法

【課題】絞りの自動化を可能にした絞り具を提供する。
【解決手段】絞り具1の収容穴11は、押し込まれたニードルが貫通できる貫通孔となっており、ニードル3の先端側が挿入されて位置する収容穴11の第1開口111が、ニードルの基端側が挿入されて位置する収容穴11の第2開口112よりも小径に形成され、上記第1開口111および第2開口112の内周面が、ニードルによって押し込まれた布材の外周に圧接する圧接部となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絞り工程を自動化できる絞り具とこれを布材に装着するための装着装置、および絞り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絞りは、従来、布材の一部を糸で縛ったり、縫い締めたりする、いわゆる括り作業によって圧力をかけて布材を染めることによって、圧力のかかった部分に染料が浸入しないようにして布材に模様を形成するものである。上記括り作業は人手を要するものであるため、労賃の安い開発途上国との価格競争では不利である。また、近年、ポリエステル材に絞りによる変形を付与して、ゴム紐等を使用するよりも身体に優しい伸縮性のある衣類を実現する試みもなされており、このような日用品の分野で絞りの自動化が熱望されている。
【0003】
なお、特許文献1には、括り作業を形状記憶樹脂の線材で行なうことにより、線材の原形形状への復元性を利用して布材を強固に締め付けるようした絞り製品の製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−49779
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前述の要請に応えてなされたもので、絞りの自動化を容易にし、併せて斬新な模様形成を可能とした絞り具と当該絞り具の装着装置、および絞り方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本第1発明の絞り具は、布材(N)を押し込む棒体(3)を受け入れる収容穴(11)を備え、押し込まれた布材(N)の外周に圧接する圧接部(111,112)を収容穴の内周に形成したことを特徴とする。
【0007】
本第1発明の絞り具は、押し込まれた布材の外周に圧接部が圧接して布材を絞るとともにこれに装着される。したがって、本発明の絞り具を使用すれば従来の括り作業が不要になるから絞りの自動化が容易に実現できる。また、従来の、糸を使用した絞りでは得られない斬新な模様を形成することも可能である。
【0008】
本第2発明の絞り具では、収容穴(11)は、押し込まれた棒体(3)が貫通できる貫通孔となっており、棒体(3)の先端側(311)が挿入されて位置する収容穴(11)の第1開口(111)が、棒体(3)の基端側(312)が挿入されて位置する収容穴(11)の第2開口(112)よりも小径に形成され、上記第1開口(111)および第2開口(112)の内周面が、棒体(3)によって押し込まれた布材(N)の外周に圧接する圧接部となっている。本第2発明の絞り具は全体を弾性材で構成するのが好ましい。
【0009】
本第3発明の絞り具の装着装置は、本第1発明ないし本第2発明に記載の絞り具がその収容穴(11)の開口ないし第1開口(111)を底面に向けて挿置される凹所(211)と、当該凹所(211)に通じる真空排気路(22)とを備え、凹所(211)の開口上に布材(N)を通過させるようにしたことを特徴とする。本第3発明の装着装置を使用することによって、絞りの自動化がより容易となる。
【0010】
本第4発明は、本第1発明又は本第2発明に記載の絞り具を使用した絞り方法であって、布材(N)の複数の絞り部位を棒体(3)で複数の絞り具(1)の収容穴(11)内へそれぞれ押し込むことによって布材(N)の複数個所に絞り具を装着し、この状態で布材(N)を処理するようにしたことを特徴とする。本第4発明によれば、絞り工程を効率化できるとともに、その自動化も容易である。
【0011】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば絞りの自動化が容易となり、価格競争力のある安価な絞り製品を提供することができるとともに、斬新な模様形成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の位置実施形態を示す絞り具の全体縦断面図である。
【図2】絞り具の平面図である。
【図3】絞り具の装着装置の断面図である。
【図4】絞り具装着工程を示す断面図である。
【図5】絞り具装着工程を示す断面図である。
【図6】絞り具装着工程を示す断面図である。
【図7】布材に装着された絞り具の側面図である
【図8】絞り模様の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1、図2には絞り具の一例の断面図と平面図をそれぞれ示す。絞り具1はシリコンゴム材を切削加工して得たもので、全体が円筒形となっている。円筒形の絞り具1内には収容穴11としての円形の貫通孔が軸方向へ形成されており、貫通孔はその内径が一端で段付きに小径となっている。これにより、絞り具の収容穴11は一端の第1開口111が他端の第2開口112よりも小径となっている。このような絞り具1の各部寸法の一例は、絞りの対象となる布材の厚みが0.2mmである場合に、全長L=8mm、外径D=6mm、第1開口111の内径d1=1.6mm、その長さ=2mm、第2開口112の内径d2=2.8mmに設定すると良い。なお、絞り具1の周壁の肉厚は1.2mm〜1.7mm程度とするのが好ましい。
【0015】
このような絞り具1を布材に装着するには図3に示す装着装置を使用する。図3において、絞り具の装着装置2はブロック体で、上方へ突出する突出部21を有し、この突出部21に上方へ開放する凹所211が形成されている。凹所211は円柱状に窪んで、その深さは絞り具1の全長L(図1)に等しく、凹所211の内径は、絞り具1の後述する弾性拡径変形を見込んでその外径Dよりもやや(例えば1mm程度)大きくしてある。
【0016】
上記凹所211内に図3に示すように絞り具1をその第1開口111が凹所211の底面に向くように挿置する。装着装置2のブロック体内には上記凹所211の底面中心部に開口する真空排気路22が形成されており、当該真空排気路22は凹所211内に挿置された絞り具1の第1開口111に連通している。
【0017】
上記真空排気路22は下方へ延びて途中で直角に水平方向へ屈曲し、装着装置2に連結された真空排気チューブ23に連通している。なお、真空排気チューブ23の途中には切替弁(図示略)が設けられて真空排気と圧空給気およびこれらの停止を適宜切り替えられるようになっている。また、装着装置2のブロック体内には真空排気路22の下端屈曲部に臨んで発光ダイオード(LED)24が設置されており、その出力光は、真空排気路22の垂直部を経て凹所211内に位置する絞り具1の第1開口111へ至り、収容穴11を経てその第2開口112から上方へ向かっている。
【0018】
装着装置2の凹所211に対向する上方には棒体としてのニードル3が位置しており、当該ニードル3は小径の針部31と大径の基部32よりなる。ニードル3はその中心線が凹所211の中心線と一致するように、ロボットハンド4によってその基部32が保持されている。ニードル3の背後にはロードセル5が設置されて、ニードル3による後述の布材Nの押し込み時に過大な負荷が生じた場合には押し込みを中止して、布材Nの破損を回避するようにしている。なお、ニードル3の針部31の外径の一例は1mmφである。
【0019】
ロボットハンド4の先端には板状の抑え部材6が設けてある。抑え部材6は本実施形態ではバネ材よりなる一定幅の長尺板材で、その両端がロボットハンド4の先端外周部に固定されており、全体は弧状に湾曲して下方の装着装置2へ向けて膨出している。そして、ニードル3の針部31の先端部311が、抑え部材6の下端頂部に形成された開口61を通って下方へ突出している。
【0020】
このような装着装置2で絞り具1を布材Nに装着する場合には、図3に示すように、装着装置2のブロック体突出部21とニードル3の間に布材Nを位置させる。そして、布材Nの絞り部位を、装着装置2の凹所211内に挿置された絞り具1の第2開口112の位置に合致させる。この際、第2開口112は下方からLED光で照らされているから、布材Nの絞り部位に付されたマークが第2開口112に合致したか否かを容易に判定することができる。上記マークが第2開口112に合致した時点で真空排気路22の真空排気を開始すると布材Nは第1開口111と連通している第2開口112に吸引されて位置決めされる(図4)。
【0021】
この状態でロボットハンド4を下降させて、抑え部材6の弾性変形で布材Nを突出部21の上面に押しつけつつニードル3の針部31で布材Nを絞り具1の収容穴11内へ押し込む(図5)。この際、シリコンゴム材で構成された絞り具1は針部31の先端側311が位置する第1開口111と針部31の基端側312が位置する第2開口112がそれぞれ弾性的に拡径変形して布材Nを受け入れる。ニードル針部31の先端は第1開口111を経て下方へ突出し、これに伴って布材Nも一部が第1開口111から絞り具1外へ露出する。
【0022】
この後、ロボットハンド4を上昇させると、抑え部材6で突出部21上面に押し付けられている布材Nを残してニードルピン3のみが収容穴11内から上方へ抜け出る(図6)。これにより、絞り具1の第1開口111および第2開口112が原形に復して縮径し、押し込まれた布材Nの外周に上記各開口111,112の内周面が圧接する。なお、図6では明らかではないが、第2開口112付近では絞られた布材Nの容積が大きくなっているから実際には第2開口112内には布材Nが充満しており、当該開口112の内周面は布材Nの外周に十分な圧接力で圧接する。このようにして布材Nの絞り部位に絞り具1が装着される。
【0023】
この後、圧空給気に切り替えて真空排気路22に圧縮空気を供給し、布材Nに装着された絞り具1を布材Nと共に装着装置2の凹所211内から押し出す。続いて、新たな絞り具1を凹所211内に挿置して布材Nの他の絞り部位について上述の工程を繰り返して、布材Nの複数の絞り部位にそれぞれ絞り具1を装着する(図7)。このように絞り具1を装着した布材Nを染料中に浸漬すると、絞り具1内には染料が浸入しないから、絞り具1を装着した部分は染料で染まらず白抜きとなった絞り模様が得られる(図8)。絞り具1を使用したことにより、従来の糸とは異なる斬新な絞り模様が形成されており、絞り具1の内周面形状を適宜変更することによってさらに多様な模様を形成することが可能である。
【0024】
染め工程が終わった後は布材Nに張力を与えるように引っ張れば、第1開口111と第2開口112で弾性的に布材Nに装着されていた絞り具1は容易に布材Nから離脱させられる。離脱させた絞り具1は再使用可能である。なお、布材Nとしてポリエステル材等を使用して、絞り具1を装着した布材Nに湿熱等の処理を施すことにより、絞りによる変形を付与した伸縮性のある衣類を得ることができ、この場合には布材を必ずしも染料に浸す必要は無い。
【0025】
このように、本発明の絞り具を使用すると、従来の糸等を使用した括り作業が不要となるから、絞り工程の自動化と工程全体の時間短縮が可能となり、価格競争力のある安価な絞り製品を提供することができる。
【0026】
なお、上記実施形態において、布材の移送は自動装置で行なうことができる。また、布材からのニードルの脱出が容易にできるようであれば、抑え部材は特に設ける必要は無い。抑え部材を設けなかった場合に、ニードルの上昇に伴ってこれと一体に絞り具が凹所外へ引き上げられるようであれば、真空排気路に圧縮空気を供給して絞り具を押し出すようにする必要は無い。また、絞り具は上記実施形態のように必ずしもシリコンゴムの如き全体を弾性のある材料で構成する必要はなく、収容穴の内周面に弾性圧接部を形成する等の構造でも良いが、全体を弾性のある材料で構成した方が構造簡易かつ安価に実現できる。また、ニードルはロボットハンドによることなく手で押し込むようにしても良い。
【符号の説明】
【0027】
1…絞り具、11…収容穴、111…第1開口、112…第2開口、2…装着装置、211…凹所、22…真空排気路、3…ニードル(棒体)、31…針部、311…先端側、312…基端側、N…布材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布材を押し込む棒体を受け入れる収容穴を備え、押し込まれた布材の外周に圧接する圧接部を収容穴の内周に形成したことを特徴とする絞り具。
【請求項2】
前記収容穴は、押し込まれた前記棒体が貫通できる貫通孔となっており、棒体の先端側が挿入されて位置する前記収容穴の第1開口が、棒体の基端側が挿入されて位置する前記収容穴の第2開口よりも小径に形成され、前記第1開口および第2開口の内周面が、前記棒体によって押し込まれた布材の外周に圧接する圧接部となっている請求項1に記載の絞り具。
【請求項3】
請求項1ないし請求項2に記載の絞り具がその収容穴の開口ないし前記第1開口を底面に向けて挿置される凹所と、当該凹所に通じる真空排気路とを備え、前記凹所の開口上に布材を通過させるようにしたことを特徴とする絞り具の装着装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の絞り具を使用した絞り方法であって、布材の複数の必要部を棒体で複数の絞り具の収容穴内へそれぞれ押し込むことによって布材の複数個所に絞り具を装着し、この状態で布材を処理するようにしたことを特徴とする絞り方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−190550(P2011−190550A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56202(P2010−56202)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(391002487)学校法人大同学園 (23)
【Fターム(参考)】