説明

絞り加工缶用上塗り外面塗料組成物及び外面被覆有底円筒状金属

【課題】本発明の目的は、飲料缶の上塗り外面塗装材料として必要な塗膜の無色透明性に優れ、かつ、良好な開栓性と高度な絞り加工性を有する塗膜を形成し得る、絞り加工缶用上塗り外面塗料組成物を提供することにある。
【解決手段】多価アルコール成分の合計100モル%中、水素化ビスフェノールAを5〜40モル%含む多価アルコール成分と、多価カルボン酸ないしはそのエステルとから得られ、数平均分子量が2000〜6000、酸価が15mgKOH/g以下、ガラス転移温度が20〜70℃であるポリエステル樹脂(A)、アミノ樹脂(B)及びエポキシ樹脂(C)を含有することを特徴とする絞り加工缶用上塗り外面塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶外面塗料に関し、詳しくは、無色透明で高度な絞り加工にも耐え得る塗膜を形成できる、飲料缶用の外面塗料に関する。より詳しくは、良好な開栓性と高度な絞り加工性を有する塗膜が形成可能であり、かつ、最外面塗装材料として重要な無色透明性を要求される絞り加工缶に好適な絞り加工缶用上塗り外面塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属缶は、従来、飲料、食品類等の包装容器の一種として広く用いられてきている。これらの缶の外面は、美装、防錆、内容物表示等の目的で印刷及び塗装がなされている。缶胴部の外面は、高度の絞り加工を施さない缶の場合は、金属 + インキ + 上塗り塗料で構成されているが、高度の絞り加工を施す缶の場合には、以下に示すような構成で印刷・塗装されることが多い。
(1)金属 + サイズコーティング + インキ + 上塗り塗料
(2)金属 + ホワイトコーティング + インキ + 上塗り塗料
(3)金属 + サイズコーティング + ホワイトコーティング + インキ + 上塗り塗料
【0003】
サイズコーティングは、金属の表面に薄く有機皮膜を設けることにより、金属とインキもしくは金属と上塗り塗料との間に強固な密着性を付与して、後工程での絞り加工性を向上させる役割を持つ透明な塗料である。なお本発明においては、サイズコーティングにより形成される層を「下塗り層」と称す。
【0004】
ホワイトコーティングは、酸化チタン等の顔料を配合した塗料で、下地の金属表面を覆い、下地を白色や淡赤色、淡黄色に着色する。この上に設けられるインキ層や上塗り層は、金属上に直接設けられる場合よりも密着性は良好で、加工性が向上する。
ホワイトコーティングだけでは加工性が不十分な場合には、(3)に示すような方法も執られる場合がある。なお本発明においては、ホワイトコーティングにより形成される層を「中塗り層」と称す。
【0005】
インキは主にポリエステル樹脂をビヒクルの主成分とする油性インキが用いられ、凸版、平版等の印刷方法により図柄や文字などが印刷される。
【0006】
上塗り塗料は上記インキ層の上に塗工される透明な塗料であり、光沢を付与したり、インキ層の傷付きを防止したりする、表面保護の役割を担う。上塗り塗料には通常シリコーン系やワックス系の潤滑剤が添加される。上塗り塗料の焼付けによる塗膜の硬化に伴い、これら潤滑剤が塗膜の表面ににじみ出て潤滑作用を発現し、塗膜の傷付きを防止する。
上記インキは、工程合理化の観点から、印刷された後、未硬化の状態で上塗り塗料が塗工され、上塗り塗料と同時に焼付け硬化される。従って、上塗り塗料の硬化が不十分であると、下のインキ層の硬化も不十分となり、傷付きの原因となりやすい。
また、上塗り塗料の硬化が不十分であると、上塗り塗料を焼付けた後、焼付けオーブンから出て缶を搬送する際に、缶同士がくっつき合う、所謂「ブロッキング現象」を生じたりする。
【0007】
金属包装容器のうち、底部と円筒状部材とが一体化し一方の端が開口している有底円筒状部材(缶胴部部材)と、蓋状部材とを具備してなる容器(以下、「2ピース缶」ともいう)の場合、缶胴部部材の外面に上記したような印刷層、上塗り層等を設けた後、蓋状部材を取り付けるため、缶胴部の開口端の直径を、底部の直径よりも小さくすることが一般的である。この工程を「絞り加工」と称する。
従来は、缶胴部の開口端の直径を、底部の直径の80〜90%程度位までしか小さくできなかった。例えば、従来は底部の直径が60mm程度の有底筒状部材の開口部の直径を、底部直径よりも10mm程度小さくし、直径50mm程度にまで細く絞る加工が標準的であった。
【0008】
最近は、缶胴部の開口端の直径を、底部の直径の40〜70%程度にまで小さくする加工が、下地金属の適切な選択やそれを成型する加工技術の面から確立しつつある。例えば、底部の直径が65mm程度の有底筒状部材の開口部の直径を30mm程度小さくし、直径35mm程度にまで細く絞る加工が採用されつつある。さらには、35mm程度まで絞った部分にネジ切り加工を施し、キャップを被せる所謂「リシール缶」等も採用されつつある。この様な絞り加工部分にネジ切り加工を施す場合には、ネジ切り部分だけは、各層のうち最も耐加工性の劣るインキ層を省き
(4)金属 + サイズコーティング + 上塗り塗料
の様な構成を用いる場合もある。
缶胴部の開口端に施されたネジ切り部は、別途ネジ切り加工を施されたキャップを被せられて、リシール缶となる。このネジ部分はリシール缶においては非常に重要な部分であり、ネジの締め方が緩過ぎると内容物が漏れたりする。一方、ネジの締め方が強過ぎると、消費者がキャップを手で開けるときに開け難いという問題が生じる。以下、リシール缶のキャップの開け易さを「開栓性」と称する。レトルト殺菌処理され、その後加温状態で販売される飲料の場合、加温によって上塗り塗料の塗膜とキャップ側の内面塗膜とがブロッキングし易くなるので、開栓性は、特に重要である。
開栓性を満足させる方法としては、上塗り塗料の塗膜のガラス転移温度を上げてキャップ側の内面塗膜とのブロッキング現象を低下させる方法があるが、従来の技術では、上塗り塗料の塗膜のガラス転移温度を上げると、絞り加工性が低下するという難点があった。
【0009】
このような高度な絞り加工に対応する塗料に関する発明が幾つかの特許文献に提案されている。
特許文献1:特開2004−175845号公報には、前記(1)〜(3)の構成の缶に好適に用いられる塗料組成物が開示されている。即ち、数平均分子量が1000〜3000のポリエステル樹脂、数平均分子量が3000〜6000のポリエステル樹脂、特定のアクリル樹脂、アミノ樹脂及びエポキシ樹脂を含有する塗料組成物は、高速塗装性に優れ、サイズコーティングやホワイトコーティング等を施した場合において、加工性に優れる塗膜を形成し得る旨、記載されている。
【0010】
しかし、特許文献1に示される様な塗料組成物では、前記したリシール缶における開栓性を満足させることは出来なかった。塗膜のガラス転移点を上げる場合、ポリエステル樹脂のガラス転移温度を上げることが一般的に行われる。しかしながら、ポリエステル樹脂のガラス転移温度を上げると塗膜の加工性が低下してしまい、絞り加工性と開栓性の両方を満足することが出来なかった。また、ポリエステル樹脂のガラス転移温度のみを規定し、その種類までは規定していないため、一般的にガラス転移温度を高く設定する際には芳香族系のモノマーを多用し、このため合成時における樹脂の着色が防げず、缶の最外面を被覆する塗膜としてはインキ層やホワイトコーティング層の美観を損なうという欠点があった。
【0011】
また、特許文献2:特開2003−82076号公報、特許文献3:特開2002−348362号公報、特許文献4:特開2002−97410号公報、特許文献5:特開2001−131470号公報には、多価アルコール成分として2級の水酸基を有するジオールを含むポリエステル樹脂を用いて加工性と、耐低温衝撃性、耐レトルト性、耐水性、等を満足する組成物が開示されているが、いずれもリシール缶という形態から来る高度な絞り加工性と塗膜硬度、開栓性等といった独自の要求には応えられない。
【特許文献1】特開2004−175845号公報
【特許文献2】特開2003−82076号公報
【特許文献3】特開2002−348362号公報
【特許文献4】特開2002−97410号公報
【特許文献5】特開2001−131470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記現状を踏まえてなされたものであり、その目的とするところは、下地金属およびインキ層などの美観を損なうことのない優れた無色透明性を有する塗膜が形成可能で、従来よりも高度の加工性、例えばネジ切り加工性に優れ、かつ、開栓性にも優れる塗膜を形成し得る絞り加工缶用上塗り外面塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、塗膜形成成分として、水素化ビスフェノールAを含有する多価アルコール成分を用いてなり、特定の分子量を有するポリエステル樹脂(A)とアミノ樹脂(B)、エポキシ樹脂(C)を必須成分とする塗料組成物が、高度の絞り加工性と良好な開栓性を有し、かつ、缶の下地金属およびインキ層などの美観を損なうことのない優れた無色透明性を兼ね備える塗膜を形成し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
即ち、第1の発明は、多価アルコール成分の合計100モル%中、水素化ビスフェノールAを5〜40モル%含む多価アルコール成分と、多価カルボン酸ないしはそのエステルとから得られ、数平均分子量が2000〜6000、酸価が15mgKOH/g以下、ガラス転移温度が20〜70℃であるポリエステル樹脂(A)、アミノ樹脂(B)及びエポキシ樹脂(C)を含有することを特徴とする絞り加工缶用上塗り外面塗料組成物である。
【0015】
第2の発明は、多価アルコール成分が3官能以上のアルコールを含まず、かつ、ポリエステル樹脂(A)の溶解溶剤としてシクロヘキサノンを用いてなることを特徴とする第1の発明の絞り加工缶用上塗り外面塗料組成物である。
【0016】
第3の発明は、一方の端が開口している有底円筒状金属の円筒部外面に下塗り層が設けられ、該下塗り層上に、第1又は第2の発明の絞り加工缶用上塗り外面塗料組成物から形成される上塗り層が設けられていることを特徴とする外面被覆有底円筒状金属である。
【0017】
第4の発明は、下塗り層と上塗り層との間に、中塗り層及びインキ層が設けられているか、又はインキ層が設けられていることを特徴とする第3の発明の外面被覆有底円筒状金属である。
【発明の効果】
【0018】
本発明による絞り加工缶用上塗り外面塗料組成物は、塗膜形成成分として、特定モル%の水素化ビスフェノールAを含む多価アルコール成分を用いてなり、特定の分子量と酸価を有するポリエステル樹脂(A)とアミノ樹脂(B)、エポキシ樹脂(C)を必須成分とすることにより、飲料缶の缶外面の美観を損なうことのない無色透明性に優れ、かつ、高度の絞り加工性と良好な開栓性を有する塗膜を形成することが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明で用いられるポリエステル樹脂(A)は、広く知られている多価カルボン酸ないしはそのエステルと多価アルコールとの重縮合反応(エステル化反応ないしエステル交換反応)により合成することができる。この反応は常圧下、減圧下の何れで行っても良く、又分子量の調節は多価カルボン酸ないしはそのエステルと多価アルコールとの仕込み比や酸価の調製、減圧脱グリコールの程度等によって行うことができる。
【0020】
本発明で用いられるポリエステル樹脂(A)の原料として、多価カルボン酸に特に制限はないが、ポリエステル樹脂(A)としては、ガラス転移温度が20〜70℃と比較的高いものが好ましいので、芳香族ジカルボン酸及び脂環族ジカルボン酸を多く用い、脂肪族ジカルボン酸は用いないか、脂肪族ジカルボン酸を用いる場合でも多価カルボン酸成分100モル%のうち、25モル%以下の割合で用いることが好ましい。
【0021】
本発明におけるポリエステル樹脂(A)の合成に用いる多価カルボン酸成分のうち、芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸等が挙げられる。脂環族ジカルボン酸としては、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、(無水)コハク酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ハイミック酸等が挙げられ、塗膜の硬度と可撓性を勘案してこれらのうちから適宜選択して使用することができる。
3官能以上の多価カルボン酸としては、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸等が挙げられる。
また、これら多価カルボン酸のエステル、好ましくはアルキルエステルも用いられる。
【0022】
本発明で用いられるポリエステル樹脂(A)の原料の1つ、多価アルコール成分は、その合計100モル%のうち、水素化ビスフェノールAを5〜40モル%の割合で含むことが必須である。そして、多価アルコール成分としては、3官能以上の成分は塗料塗膜硬化時における架橋密度が高くなりすぎ、絞り加工性の点からは好ましくないので、これを含まないことが好ましい。
【0023】
ポリエステル樹脂(A)の原料である水素化ビスフェノールA中に含まれる水酸基は2級の水酸基であり、1級の水酸基よりもエステル化反応が遅いので、ポリエステル樹脂(A)の末端に位置しやすいと考察される。このようなポリエステル樹脂(A)とアミノ樹脂(B)、エポキシ樹脂(C)を含有する塗料組成物を塗装し、焼き付ける際に、ポリエステル樹脂(A)の末端に位置する2級の水酸基は、1級の水酸基に比して、アミノ樹脂(B)、エポキシ樹脂(C)との架橋反応が比較的遅い。ポリエステル樹脂(A)中の2級の水酸基の反応性の遅さを逆に利用し、硬化・架橋を抑制することによって、硬化塗膜の高度な絞り加工性を確保することができ、また、ポリエステル樹脂の構成成分である水素化ビスフェノールAモノマー由来のガラス転移温度の高さにより塗膜の高い硬度との両立を実現することができる。
ここで、ポリエステル樹脂(A)としては樹脂のガラス転移温度が20〜70℃のものが好ましく、水素化ビスフェノールAを含有してなる、このような比較的高ガラス転移温度のポリエステル樹脂(A)を用いることによって、硬化塗膜の架橋を緩やかにしつつ、ネジ切り加工部の外面塗膜とキャップ部材の内面塗膜との加温状態におけるブロッキングを防止し、従来にない良好な開栓性を確保することができる。
【0024】
上記したように水素化ビスフェノールAは、ポリエステル樹脂(A)を構成する多価アルコール成分100モル%のうち、5〜40モル%であることが重要であり、10〜30モル%であることが好ましい。5モル%より少ないと塗料組成物の架橋反応を抑制する効果が小さく、ポリエステル樹脂(A)を高ガラス転移温度にした時に絞り加工性が低下する。また、40モル%より多いと、水素化ビスフェノールA由来の塗膜の硬さが大きくなりすぎ、これもまた加工性が低下する傾向にある。また、水素化ビスフェノールA成分が多すぎると、ポリエステル樹脂の合成反応においてもカルボン酸ないしはそのエステルと多価アルコールとの縮合反応が進みにくくなり、樹脂合成に大幅な時間を要する傾向にある。
【0025】
上記したようにポリエステル樹脂(A)を構成する多価アルコール成分としては、3官能以上のアルコールを含まないことが好ましいが、これは、3官能以上のアルコールは塗料組成物の架橋反応に大きく関与し、架橋度が高くなりすぎて絞り加工性の点において不利にはたらく傾向があるためである。
【0026】
本発明におけるポリエステル樹脂(A)の合成に用いる多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール(別名、1,2−プロピレングリコール)、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ビスフェノールAもしくはビスフェノールFにエチレンオキサイドを付加したもの、キシレングリコール、1,2−ブチレングリコール(別名、1,2−ブタンジオール)、1,3−ブチレングリコール(別名、1,3−ブタンジオール)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(別名、オクタンジオール)、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−ヒドロキシシクロヘキシル−メタノール、3−ヒドロキシシクロヘキシル−メタノール、4−ヒドロキシシクロヘキシル−メタノール等が挙げられ、塗膜の硬度と可撓性を勘案してこれらのうちから適宜選択して使用することができる。
【0027】
上記多価カルボン酸成分と上記多価アルコール成分とを適宜選択して、ガラス転移温度が20〜70℃のポリエステル樹脂(A)を得ることが好ましい。
このようにして得られるポリエステル樹脂(A)の数平均分子量は、2000〜6000であることが重要であり、2000〜5000であることが好ましい。数平均分子量が2000未満の場合には、硬度や加工性、耐水性等の塗膜性能が著しく劣る。一方、数平均分子量が6000を超えると、塗料組成物の粘度が高くなりすぎ、高速塗装においてミストの発生量が多くなりやすくなる。
尚、本発明でいう数平均分子量とは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)における標準ポリスチレン換算の値であり、GPC排出曲線上に現出するピークのスタートから分子量300までの部分の数平均分子量である。
【0028】
本発明の塗料組成物に用いるポリエステル樹脂(A)の酸価は、15mgKOH/g以下であることが重要であり、10mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が15よりも大きくなると、絞り加工性や耐レトルト性、塗料組成物の安定性等が低下する傾向にある。
【0029】
本発明の塗料組成物に用いるポリエステル樹脂(A)の製造方法は特に限定はされないが、以下に示す様な公知の重合方法により得ることが出来る。
使用する多価アルコール成分及び多価カルボン酸ないしはそのエステルを反応釜に仕込み、加熱昇温することにより、エステル化反応またはエステル交換反応を行い、この反応で生じた水またはアルコールを留去しながら所定の酸価になるまで反応を続ける。反応は常圧で行っても良いし、50mmHg以下の減圧下で行っても良い。必要に応じて、テトラブチルチタネート、ジブチルスズオキサイド、酢酸マンガン、酢酸亜鉛、酢酸スズなどの重合触媒を用いることが出来る。
【0030】
前記した様な数平均分子量と酸価を有するポリエステル樹脂(A)を製造する場合、例えば、多価カルボン酸のカルボキシル基ないしはそのエステルのエステル基に対する多価アルコール成分の水酸基の仕込みモル比〔OH/(COOH+COOR);Rはアルキル基等の置換基を示す。〕を1.10〜1.35とすることが好ましく、1.13〜1.20とすることがより好ましい。水酸基をこのような範囲で過剰にし、酸価が15mgKOH/g以下になるまで反応すると、前記したような数平均分子量のポリエステル樹脂(A)を好適に得ることができる。
また、触媒は、多価アルコール成分及び多価カルボン酸ないしはそのエステルの合計100重量部に対して0.001部〜0.1部であることが好ましく、0.002部〜0.05部であることがより好ましい。
【0031】
さらに、本発明におけるポリエステル樹脂(A)は、任意の方法でカルボキシル基を導入することもできる。カルボキシル基を導入する目的としては、架橋剤との硬化促進、下地金属材料との密着性向上等が挙げられる。
カルボキシル基を導入する方法としては、重縮合後期に多価カルボン酸無水物を付加する方法、プレポリマー(オリゴマー)の段階でこれを高酸価とし、次いでこれを重縮合して酸価を有するポリエステル樹脂を得る方法等があるが、操作の容易さ、目標とする酸価の得られやすさ等から、前者の多価カルボン酸無水物を付加する方法が好ましい。
このような酸無水物を付加する方法での酸付加に用いられる多価カルボン酸無水物としては、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。好ましくは無水トリメリット酸である。
【0032】
上記重縮合反応で得られたポリエステル樹脂(A)は、溶剤に溶解した溶液の形で塗料調製に供されることが好ましい。ポリエステル樹脂(A)は高度な加工性と塗膜硬度を両立すべく水素化ビスフェノールAを構成成分としているため、一般的な芳香族炭化水素系溶剤のみでは充分に溶解することが困難であり、これを安定して溶解することができるシクロヘキサノンを必須とすることが好ましい。その他にポリエステル樹脂(A)の溶解性を損なわないものであればシクロヘキサノンと併用して特に制限なく使用できる。そのような溶剤の例としては、例えばトルエン、キシレン、ソルベッソ#100、ソルベッソ#150等の芳香族炭化水素系、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、ギ酸エチル、プロピオン酸ブチル、セロソルブアセテート等のエステル系、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、エチレングリコール等のアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系、ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール等のセロソルブ系の各種溶剤が挙げられる。
ポリエステル樹脂(A)溶液の固形分濃度は、通常20〜70重量%、好ましくは40〜60重量%である。70重量%を超える場合には高粘度で取り扱いが困難となり、20重量%に満たない場合には調製した塗料の粘度が低くなりすぎて、目標とする塗膜厚さが得られない。
【0033】
本発明の塗料組成物に用いるアミノ樹脂(B)としては、尿素、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等のアミノ成分と、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒド等のアルデヒド成分との反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂が挙げられる。このメチロール化アミノ樹脂のメチロール基を、炭素原子数1〜6のアルコールによってエーテル化したものも上記アミノ樹脂に含まれる。これらのアミノ樹脂は、単独或いは併用しても使用出来る。これらの内、メラミン、ベンゾグアナミンを使用したアミノ樹脂が好ましく、更に好ましくは加工性に優れるベンゾグアナミンを使用したアミノ樹脂である。また、メラミンとベンゾグアナミンを併用したメラミン・ベンゾグアナミン共縮合樹脂も好適に用いられる。
【0034】
ベンゾグアナミンを使用したアミノ樹脂としては、メチロール化ベンゾグアナミン樹脂のメチロール基の一部もしくは全部を、メチルアルコールによってエーテル化したメチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチルアルコールによってブチルエーテル化したブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、或いはメチルアルコールとブチルアルコールの両者によってエーテル化したメチルエーテル及びブチルエーテルの混合エーテル化ベンゾグアナミン樹脂が好ましい。上記ブチルアルコールとしては、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコールが好ましい。
【0035】
メラミンを使用したアミノ樹脂としては、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基の一部もしくは全部を、メチルアルコールによってエーテル化したメチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルアルコールによってエーテル化したブチルエーテル化メラミン樹脂、或いはメチルアルコールとブチルアルコールの両者によってエーテル化したメチルエーテル及びブチルエーテルの混合エーテル化メラミン樹脂が好ましい。
【0036】
本発明の塗料組成物は、さらにエポキシ樹脂(C)を含有する。本発明において用いられるエポキシ樹脂(C)は、数平均分子量が300〜1500の範囲にあることが好ましく、350〜1400の範囲にあることがより好ましい。また、エポキシ当量180〜1000の範囲にあることが好ましく、184〜600の範囲にあることがより好ましい。エポキシ樹脂(C)としては、ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート1001(数平均分子量:900、エポキシ当量:450〜500)等を挙げることができる。
【0037】
本発明の塗料組成物は、上記した(A)〜(C)の各成分を、(A)〜(C)の合計100重量%中に、
ポリエステル樹脂(A):25〜60重量%、
アミノ樹脂(B):25〜60重量%、
エポキシ樹脂(C):1〜20重量%を含有することが好ましい。
【0038】
ポリエステル樹脂(A)の含有量が60重量%を超えるとアミノ樹脂(B)等との相溶性が劣り、インキ層上の塗膜の光沢低下、下地金属との密着性不足、高速硬化性の低下を招致する。
一方、ポリエステル樹脂(A)の含有量が、25重量%未満となると、十分な加工性を得ることができずに、絞り加工において塗膜に剥離や亀裂が発生する。
【0039】
本発明において用いられるアミノ樹脂(B)の含有量が25重量%未満では、形成される塗膜の硬化性、硬度が低下し、耐傷付き性や耐レトルト性、開栓性等が低下する。一方、アミノ樹脂(B)の含有量が60重量%を超えると形成される塗膜の絞り加工性や密着性が低下する傾向にある。
【0040】
本発明において用いられるエポキシ樹脂(C)の含有量は、(A)〜(C)の合計100重量%中1〜20重量%であることが好ましく、5〜15重量%であることがより好ましい。1重量%未満では下地金属との密着性が劣り塗膜の絞り加工性が低下する。20重量%を超えると、相対的に低分子量成分が増えるので加工性、耐レトルト性が劣る。
【0041】
本発明の塗料組成物は、さらに潤滑性付与剤を含有することができる。
潤滑性付与剤としては主にワックス系とシリコーン系が用いられ、ワックス系単独、シリコーン系単独、ワックス系とシリコーン系の併用等種々の方法が用いられる。
ワックス系としては、天然ワックスまたは合成ワックスいずれでもよく、天然ワックスとしてはラノリン、ミツロウ、鯨ロウ等の動物系、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス等の植物系、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス等の鉱物系のいずれであっても良い。また、合成ワックスとしては、ポリオレフィン系、シリコーン系ワックス、フッ素系ワックスの他に、ポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物等も用いることができる。
シリコーン系潤滑性付与剤としては、ジメチルポリシロキサン及びその変性物が好適に用いられる。ジメチルポリシロキサンの変性剤としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エポキシ、アミン等が用いられ、ジメチルポリシロキサンの分子量や、変性の割合等により様々な潤滑性を付与することが出来る。
潤滑性付与剤は、(A)〜(C)の合計100重量部に対して0.5〜5重量部配合することが好ましく、1〜3重量部配合することがより好ましい。
【0042】
本発明の塗料組成物には、必要に応じて、硬化を促進させる様な触媒として、例えばp−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、リン酸等の酸触媒、又は前記酸触媒をアミンブロックしたものを、(A)〜(C)の合計100重量部に対して0.1〜4.0重量部添加して使用することができる。
【0043】
本発明の塗料組成物は、各種基材、例えば金属、プラスチックフィルム、又は金属板にプラスチックフィルムを積層してなるもの等に、ロールコート、コイルコート、スプレー塗装、刷毛塗り等公知の手段により塗装することができる。
金属としては、電気メッキ錫鋼板、ティンフリースチール鋼板、アルミニウム板、ステンレス鋼板等が挙げられ、プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート等のプラスチックのフィルムが挙げられる。
【0044】
本発明の塗料組成物は、アルミニウム板から形成される、特に一方の端が開口している有底円筒状金属の円筒部外面に下塗り層を設けずにもしくは下塗り層を設けて、円筒部外面にインキ層を設け、未乾燥・未硬化状態の該インキ層上に塗装されることが好ましい。
乾燥膜厚は1〜10μm程度が好ましい。円筒部外面に薄く均一に塗装するためには、上記塗装方法のうちロールコート塗装方法が好適である。該ロールコートの塗装速度は、飲料缶の生産速度を考慮すると、200〜400m/min程度であると考察される。
【0045】
本発明の塗料組成物は、常温乾燥してもよいが、焼付けにより熱硬化させた方がより性能を発揮できる。焼付けの方法としては、電気オーブン、遠赤外線オーブン、ガスオーブン等が好適に用いられる。焼付けの条件としては、150℃〜240℃の温度雰囲気中で、20秒〜15分程度の焼付けが好適に用いられる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。例中、「部」とは重量部、「%」とは重量%をそれぞれ示す。
【0047】
合成例1(ポリエステル樹脂(A−1)溶液の調製)
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管及び還流脱水装置を備えたフラスコに、多塩基酸エステルとしてテレフタル酸ジメチル30部、グリコール成分として水素化ビスフェノールA15部、ネオペンチルグリコール18部、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール10部、エチレングリコール2部、及び触媒である酢酸亜鉛0.02部を仕込んだ。原料を加熱溶融して撹拌できるようになったら撹拌を開始して、留出するメタノールを常圧下に系外に除きながら170℃から220℃まで3時間かけて徐々に昇温し、220℃で2時間保持した。内温を一旦170℃まで冷却し、多塩基酸としてイソフタル酸20部、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸5部を加え、全体のカルボキシル基ないしはエステル基と水酸基とのモル比が1:1.15になるように仕込んだのち、ジ−n−ブチル錫オキサイド0.02部を加え、留出する水を常圧下に系外に除きながら240℃まで3時間かけて昇温し、さらに240℃で保持して、酸価が6mgKOH/gになるまで反応を続けた。次いで、内温を150℃まで冷却し、シクロヘキサノン/ソルベッソ#150=1/1(重量比)の混合溶剤を加えて均一に樹脂を溶解し、不揮発分60%のポリエステル樹脂(A−1)溶液を得た。その特性値を表1に示す。
【0048】
合成例2〜11(合成例5〜11は比較例用のポリエステル樹脂の合成例)
合成例1と同様にして表1に示す仕込みモル比に従って、ポリエステル樹脂(A−2)〜(A−11)溶液を得た。その特性値を表1に示す。
【0049】
<酸価の測定>
各ポリエステル樹脂をトルエン/イソプロピルアルコール=2/1(重量比)の混合溶剤に溶解して、JIS K 6901に準じて滴定法により求めた。
【0050】
<数平均分子量の測定>
合成例、比較合成例で合成したポリエステル樹脂を夫々0.3%の濃度でテトラヒドロフラン(THF)に溶解して、0.45μmのフィルターでろ過して試料とし、ゲル浸透型クロマトグラフィー(GPC)により測定を行った。測定装置には、東ソー(株)製HLC−8020を用い、カラムはTSKgel G−1000 + G−2000 + G−3000 + G−4000 の4本組を用いた。移動相には上記と同様のテトラヒドロフラン(THF)を用い、注入量100μl、カラム温度40℃、流速1.0ml/minの条件で測定を行った。
分子量の算出は、標準ポリスチレン換算で行った。ポリスチレン換算分子量300を終点として、数平均分子量(Mn)を求めた。
【0051】
<ガラス転移温度>
各ポリエステル樹脂のガラス転移温度を、セイコー電子工業社製示差走査熱量計SSC5200を用いて、10℃/分の昇温速度で測定した。
【0052】
(実施例1〜4及び比較例1〜7)
合成例1〜11で得られたポリエステル樹脂(A−1〜A−11)溶液、アミノ樹脂(B)、及びエポキシ樹脂(C)を表−2に示した重量部割合(固形分換算)で配合し、さらに傷付き防止のために潤滑性付与剤(動植物系ワックス溶剤分散体、合成ワックス溶剤分散体、シリコーン溶液)及び硬化触媒を表2に示す重量部割合(固形分換算)で配合し、これをシクロヘキサノン/ソルベッソ#150=1/1(重量比)の混合溶剤で希釈して不揮発分57%の上塗り塗料を調製した。ポリエステル樹脂A−1〜A−4を使用した塗料を実施例1〜4とし、ポリエステル樹脂A−5〜A−11を使用した塗料を比較例1〜7とした。
【0053】
得られた上塗り塗料を用いて以下に示す3種類の塗装板を作製し、以下に示す試験を行った。結果を表2に示す。
【0054】
<塗装板1>(金属+サイズコーティング+インキ+上塗り塗料)
厚さ0.28mmのアルミニウム板にポリエステル系のサイズコーティング(東洋インキ製造社製)を、乾燥後の膜厚が1μmとなるように塗装し、雰囲気温度220℃のガスオーブンで1分間加熱乾燥した。その上にポリエステル樹脂をビヒクルの主成分とするインキ(マツイカガク社製)を印刷し(膜厚2μm)、インキが未乾燥の状態で上記の上塗り塗料を乾燥後膜厚が8μmとなるように塗装し、雰囲気温度220℃のガスオーブンで1分間加熱乾燥した。さらに内面塗料の焼付けを想定して、雰囲気温度220℃のガスオーブンで3分間、追加で加熱乾燥を行い、塗装板1を得た。
【0055】
<塗装板2>(金属+サイズコーティング+上塗り塗料)
インキ層を設けなかった以外は、塗装板1と同様にして塗装板2を得た。
【0056】
<塗装板3>(金属+上塗り塗料)
厚さ0.28mmのアルミニウム板に、上記の上塗り塗料を乾燥後の膜厚が8μmとなるように塗装し、雰囲気温度220℃のガスオーブンで1分間加熱乾燥を行い塗装板3を得た(追加加熱乾燥なし)。
【0057】
<キャップ内面用塗装板>
厚さ0.28mmのアルミニウム板に、ポリエステル系のキャップ内面用塗料(東洋インキ製造社製)を、乾燥後の膜厚が4μmとなるように塗装し、雰囲気温度200℃のガスオーブンで10分間加熱乾燥を行い、キャップ内面用塗装板を得た。
【0058】
<ゲル分率の測定>
塗料の硬化性評価の試験として、硬化塗膜のゲル分率を測定した。塗装板3を15×15cmの大きさに切り出して、重量(W1)測定後、塗装板2cm当たり1mlのMEK(メチルエチルケトン)を用いて、沸点で1時間の抽出を行った。抽出後の塗装板を130℃、1時間の条件で乾燥し、抽出後の塗装板の重量(W2)を測定した。さらに塗膜を濃硫酸による分解法で剥離し、金属板の重量(W3)を測定した。塗膜のゲル分率は、以下の式で求められる。
ゲル分率(%)=(W2−W3)/(W1−W3)×100
【0059】
<キャップ成形性試験、ネジ切り加工性試験>
塗装板1、塗装板2をそれぞれ直径55mmの円形に打ち抜き、打ち抜いた円盤を硬化塗膜が外側になるように絞り加工して、直径25mm、深さ18mmのキャップを作製した。
塗装板2から作製したキャップについては、さらにネジ切り加工を施したサンプルも作製した。
さらに各々のキャップをレトルト処理(130℃−30分)し、塗膜の剥離と割れの程度を下記基準により目視で判定した。○△以上が実用レベル。
○ :剥離、割れが全くない。
○△:若干剥離、割れが認められる。
△ :剥離、割れがやや多い。
× :剥離、割れが著しい。
【0060】
<耐レトルト性試験>
塗装板1、塗装板2をレトルト処理(130℃−30分)した後、塗膜の白化程度を目視で評価した。○△以上が実用レベルである。
○ :白化が全くない。
○△:若干白化が認められる。
△ :白化がやや多い。
× :白化が著しい。
【0061】
<鉛筆硬度>
塗装板1、塗装板2を用いて、JIS K−5400に準じて鉛筆硬度を測定した。
【0062】
<湯中鉛筆硬度>
塗装板1、塗装板2をレトルト処理(130℃−30分)した後、80℃の湯中に浸漬し、30分後に湯中に漬けたまま、JIS K−5400に準じて鉛筆硬度を測定した。
【0063】
<耐ブロッキング試験>
開栓性の評価として、上塗り塗膜とキャップ内面用塗膜間の耐ブロッキング性試験を行った。
塗装板2、及びキャップ内面用塗装板をそれぞれレトルト処理(130℃−30分)した後、それぞれの塗装板を10cm×10cmの大きさに切り出し、塗装板2とキャップ内面用塗装板とを、塗装面同士が向き合う様に重ね合わせて、70℃のホットプレス上に載せ、5kg/cmの加重をかけて30分間静置した。その後、70℃に保ったままで、引っ張り試験機にて塗装板同士を引き剥がし、剥離抵抗値を測定した。
○ :剥離抵抗値が10g未満
○△:剥離抵抗値が10g〜30g
△ :剥離抵抗値が30gを超え、100g未満
× :剥離抵抗値が100g以上
【0064】
<ミスト飛散性試験>
(株)東洋精機製作所社製デジタルインコメーターにて、メタルロール(直径76.2mm)とバイブレーションロール(NBRゴム製、直径50.8mm)の間に実施例、比較例で調製した上塗り塗料を各1g載せて、メタルロールを1500rpm(周速度360m/min)及び2500rpm(周速度595m/min)の回転数で回転し、両ロールの下においたアルミニウム板に付着した塗料の重量を測定した。
評価は、以下の5段階評価とした。
5:付着量5mg以下
4:付着量5mgを超え、10mg以下
3:付着量10mgを超え、20mg以下
2:付着量20mgを超え、50mg以下
1:付着量50mgを超える
【0065】
<インキ色相差試験>
[シングルコート(上塗り塗料1回塗装)の塗装板]
厚さ0.28mmのアルミニウム板にポリエステル樹脂をビヒクルの主成分とするインキを印刷し(膜厚2μm)、インキが未乾燥の状態で上記の上塗り塗料を乾燥後膜厚が6μmとなるように塗装し、雰囲気温度200℃のガスオーブンで1分間加熱乾燥し、シングルコートの塗装板を得た。
[ダブルコート(上塗り塗料2回塗装)の塗装板]
シングルコートの場合と同様にインキを印刷し、インキが未乾燥の状態で上塗り塗料を乾燥後の膜厚が9μm(シングルコートの1.5倍の膜厚)となるように、ウェットオンウェットで2回塗装し、雰囲気温度200℃のガスオーブンで1分間加熱乾燥し、ダブルコートの塗装板を得た。
シングルコートとダブルコートの塗装板でインキ層の色相差を目視評価した。
○ :色相差が全く認められない。
○△:色相差はあるが、少ない。
△ :色相差が明確にわかる。
× :色相差が著しい。
【0066】
合成例、比較合成例、実施例、比較例で用いた原料を以下に示した。
*多価カルボン酸
DMT:テレフタル酸ジメチル
IPA:イソフタル酸
1,4−CHDA:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
AdA:アジピン酸
*多価アルコール
R−HB:リカビノール HB(新日本理化社製、水素化ビスフェノ−ルA)
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
BEPG:2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール
BA−2:日本乳化剤社製、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物
*アミノ樹脂(B)
ブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂:メラン310XK−IB(日立化成社製;不揮発分72%)
*エポキシ樹脂(C)
エピコート1001(数平均分子量:900、エポキシ当量:450〜500、ジャパンエポキシレジン社製):不揮発分60%のブチルセロソルブ溶液として用いた。
*潤滑性付与剤
動植物系ワックス分散体;ハイディスパーBC−8PC((株)岐阜セラック製造所製)/合成系ワックス分散体;ハイフラットBC−10P2、ハイディスパー3050((株)岐阜セラック製造所製)/シリコーン樹脂溶液;BYK−370(ビックケミー(株)製)=50/35/15(重量比)の比率で混合したもの。
*硬化触媒
NACURE−4054(KINGインダストリーズ社製、リン酸系触媒)
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
表2に示すように、多価アルコール成分として、水素化ビスフェノールAを規定量含有するポリエステル樹脂(A)を含む塗料から形成される硬化塗膜(実施例1)は、同じガラス転移温度を有する、水素化ビスフェノールAを含有しないポリエステル樹脂を含む塗料から形成される硬化塗膜(比較例7)と比べ、ゲル分率が低くなり、良好な加工性を示す傾向がある。
すなわち、水素化ビスフェノールA含有ポリエステルを用いた塗料から形成される塗膜により良好な加工性(キャップ成型、ネジきり加工性)と高いガラス転移温度に由来する良好な開栓性(耐ブロッキング性)、鉛筆硬度の並立を実現した。また、塗膜の着色が少なく、インキ層などに対して色相変化などの影響を与えない上塗り塗料として最適な塗料組成物を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコール成分の合計100モル%中、水素化ビスフェノールAを5〜40モル%含む多価アルコール成分と、多価カルボン酸ないしはそのエステルとから得られ、数平均分子量が2000〜6000、酸価が15mgKOH/g以下、ガラス転移温度が20〜70℃であるポリエステル樹脂(A)、アミノ樹脂(B)及びエポキシ樹脂(C)を含有することを特徴とする絞り加工缶用上塗り外面塗料組成物。
【請求項2】
多価アルコール成分が3官能以上のアルコールを含まず、かつ、ポリエステル樹脂(A)の溶解溶剤としてシクロヘキサノンを用いてなることを特徴とする請求項1記載の絞り加工缶用上塗り外面塗料組成物。
【請求項3】
一方の端が開口している有底円筒状金属の円筒部外面に下塗り層が設けられ、該下塗り層上に、請求項1又は2記載の絞り加工缶用上塗り外面塗料組成物から形成される上塗り層が設けられていることを特徴とする外面被覆有底円筒状金属。
【請求項4】
下塗り層と上塗り層との間に、中塗り層及びインキ層が設けられているか、又はインキ層が設けられていることを特徴とする請求項3記載の外面被覆有底円筒状金属。

【公開番号】特開2008−255206(P2008−255206A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98077(P2007−98077)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】